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特開2022-48105樹脂基材の表面処理方法、導体被覆樹脂基材の製造方法、導波管の製造方法、及び回路基板又はアンテナの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022048105
(43)【公開日】2022-03-25
(54)【発明の名称】樹脂基材の表面処理方法、導体被覆樹脂基材の製造方法、導波管の製造方法、及び回路基板又はアンテナの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 3/38 20060101AFI20220317BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20220317BHJP
【FI】
H05K3/38 A
H05K1/03 610H
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021140363
(22)【出願日】2021-08-30
(31)【優先権主張番号】P 2020153401
(32)【優先日】2020-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】520206988
【氏名又は名称】豊光社テクノロジーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(71)【出願人】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(72)【発明者】
【氏名】倉光 宏
(72)【発明者】
【氏名】倉光 秀一
(72)【発明者】
【氏名】安 克彦
(72)【発明者】
【氏名】井上 敏憲
(72)【発明者】
【氏名】光田 和弘
(72)【発明者】
【氏名】中島 秀之
(72)【発明者】
【氏名】木下 正明
【テーマコード(参考)】
5E343
【Fターム(参考)】
5E343AA02
5E343AA19
5E343AA36
5E343AA39
5E343BB23
5E343BB24
5E343BB25
5E343BB44
5E343BB62
5E343BB67
5E343BB71
5E343BB72
5E343CC43
5E343DD02
5E343DD12
5E343DD23
5E343DD25
5E343DD33
5E343DD43
5E343DD62
5E343EE37
5E343ER35
5E343ER43
5E343GG04
(57)【要約】
【課題】フッ素系樹脂を含む樹脂基材の表面に導体被覆を形成するにあたり、樹脂基材と導体被覆との間の接着強度を高めることができる、樹脂基材の表面処理方法等を提供する。
【解決手段】フッ素系樹脂を含む樹脂基材をアルカリ金属溶液に浸漬して脱フッ素化処理を行う脱フッ素化処理工程と、前記脱フッ素化処理工程の後、前記樹脂基材に化合物αを含む溶液を塗布することにより、その表面に当該化合物αを担持させる処理を行う担持処理工程と、を有し、前記化合物αは、一分子内に、化学反応により、前記脱フッ素化処理が施された前記樹脂基材と化学結合することが可能な第1官能基と、化学反応により導体と化学結合することが可能な第2官能基と、を有する樹脂基材の表面処理方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素系樹脂を含む樹脂基材をアルカリ金属溶液に浸漬して脱フッ素化処理を行う脱フッ素化処理工程と、
前記脱フッ素化処理工程の後、前記樹脂基材に化合物αを含む溶液を塗布することにより、その表面に当該化合物αを担持させる処理を行う担持処理工程と、を有し、
前記化合物αは、一分子内に、
化学反応により、前記脱フッ素化処理が施された前記樹脂基材と化学結合することが可能な第1官能基と、
化学反応により導体と化学結合することが可能な第2官能基と、
を有する樹脂基材の表面処理方法。
【請求項2】
脱フッ素化処理が施されたフッ素系樹脂を含む樹脂基材に化合物αを含む溶液を塗布することにより、その表面に当該化合物αを担持させる処理を行う担持処理工程を有し、
前記化合物αは、一分子内に、
化学反応により、前記脱フッ素化処理が施された前記樹脂基材と化学結合することが可能な第1官能基と、
化学反応により導体と化学結合することが可能な第2官能基と、
を有する樹脂基材の表面処理方法。
【請求項3】
前記第1官能基は、アジド基、アジドスルホニル基又はジアゾメチル基であり、かつ、前記化合物αが担持された前記樹脂基材の表面に、紫外線を照射する処理を行う紫外線照射処理工程を有する請求項1又は2に記載の樹脂基材の表面処理方法。
【請求項4】
前記第1官能基は、アジド基、アジドスルホニル基又はジアゾメチル基であり、かつ、前記化合物αが担持された前記樹脂基材の表面を加熱する処理を行う加熱処理工程を有する請求項1~3のいずれかに記載の樹脂基材の表面処理方法。
【請求項5】
前記第2官能基は、シラノール基又はアルコキシシリル基である請求項3又は4に記載の樹脂基材の表面処理方法。
【請求項6】
前記化合物αは、一分子内に、更に芳香環を有し、前記アジド基、アジドスルホニル基又はジアゾメチル基は当該芳香環に直接結合している請求項3~5のいずれかに記載の樹脂基材の表面処理方法。
【請求項7】
前記芳香環は、ベンゼン環である請求項6に記載の樹脂基材の表面処理方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の樹脂基材の表面処理方法で前記樹脂基材の表面に表面処理を行う工程と、
無電解めっき、蒸着又はスパッタの手法により、前記表面に前記導体の被覆を形成する工程と、を有する導体被覆樹脂基材の製造方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれかに記載の樹脂基材の表面処理方法で前記樹脂基材の表面に表面処理を行う工程と、
前記表面に前記導体を含む材料を接触させて配置し、加圧及び加熱することにより前記表面に前記材料を接合して導体被覆を形成する工程と、を有する導体被覆樹脂基材の製造方法。
【請求項10】
請求項1~7のいずれかに記載の樹脂基材の表面処理方法で前記樹脂基材の表面に表面処理を行う工程と、
前記表面に前記導体の導電ペーストを塗布し、加熱することにより前記表面に導体被覆を形成する工程と、を有する導体被覆樹脂基材の製造方法。
【請求項11】
筒状又は柱状の樹脂基材の表面に導体被覆が形成されてなる導波管の製造方法であり、請求項8~10のいずれかに記載の導体被覆樹脂基材の製造方法を有する導波管の製造方法。
【請求項12】
樹脂基材の表面に導体被覆により回路パターンが形成されてなる、回路基板又はアンテナの製造方法であり、請求項8~10のいずれかに記載の導体被覆樹脂基材の製造方法を有する回路基板又はアンテナの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂基材の表面処理方法、導体被覆樹脂基材の製造方法、導波管の製造方法、及び回路基板又はアンテナの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素系樹脂は、低摩擦、高耐熱、低誘電率、低誘電損失等の優れた特性を有しており、エレクトロニクスやバイオ・医療等様々な分野での応用が期待されている。フッ素系樹脂は他の材料と複合化して用いることも多いが、表面エネルギーが低く、化学的に安定であるため、金属など他の材料との接着性が低い。フッ素系樹脂の性能を最大限に引き出すためには、使用目的に適した界面結合技術の開発が不可欠となる。
【0003】
従来、フッ素系樹脂に金属を接着した接着体の形成にあたっては、樹脂表面を、放電処理、紫外レーザ照射、プラズマ処理、または金属ナトリウムを用いた化学的エッチング処理等のハードエッチングの手法で粗面化して、アンカー効果により接着強度を確保する方法が採用されている。しかし、該接着体を、プリント配線基板や導波管等の電子回路部品に用いる場合には、界面が粗面化されると高周波領域における伝送損失が大きくなる欠点があり、また、回路配線の幅を界面の凹凸の波長(空間的周期)より狭くできないという難点もある。
【0004】
特許文献1には、フッ素系樹脂の一種であるPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製の樹脂基板を金属ナトリウム-ナフタレン錯体含有溶液に浸漬する脱フッ素化処理を行い、次いで、脱フッ素化処理された該樹脂基板の表面に酸素プラズマ処理を行い、更に、無電解めっき等の手法で該樹脂基板の表面に金属膜からなる配線を形成するプリント配線基板の製造方法が開示されている。この製造方法は、ナトリウム溶液を用いた化学的エッチングというソフトエッチングの手法を採用しているから、樹脂表面の粗面化の程度は少なく、したがって伝送損失への悪影響は小さいが、十分な接着強度が確保できない難点がある。
【0005】
特許文献2には、導体を被覆するフッ素系樹脂からなる絶縁樹脂層の外周に、金属めっき層をシールド層として配したシールド電線において、アルコキシ基とトリアジンジチオール基とを有する界面分子結合剤を、金属めっき層と絶縁樹脂層との間で両者に化学結合した接着層として介在させる技術が開示されており、該絶縁樹脂層の表面にOH基を生起させるために脱フッ素化処理の一種であるテトラエッチ処理を施し、該生起したOH基と界面分子結合剤のアルコキシ基とを反応させ、該反応後の界面分子結合剤のチオール基と無電解めっきのめっき触媒とをイオン結合させることが開示されている。しかし、この技術では、絶縁樹脂層から金属めっき層を引きはがす際のピール強度が0.3N/cmと小さく、設置時や使用時に外力による負荷が想定されるフレキシブルな伝送管に求められる十分な接着強度を確保できない。
【0006】
高周波エレクトロニクスへの応用においては、樹脂表面の粗面化の程度(エッチングの程度)が小さくても(理想的には樹脂層と金属層との界面が平坦面であっても)、両者の間に十分な接着強度が確保できる界面結合の技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003-201571号公報
【特許文献2】特開2009-170113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、フッ素系樹脂を含む樹脂基材の表面に導体被覆を形成するにあたり、樹脂基材と導体被覆との間の接着強度を高めることができる、樹脂基材の表面処理方法、並びにこのような樹脂基材の表面処理方法を用いた導体被覆樹脂基材、導波管及び回路基板又はアンテナの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その第1の形態は、フッ素系樹脂を含む樹脂基材をアルカリ金属溶液に浸漬して脱フッ素化処理を行う脱フッ素化処理工程と、前記脱フッ素化処理工程の後、前記樹脂基材に化合物αを含む溶液を塗布することにより、その表面に当該化合物αを担持させる処理を行う担持処理工程と、を有し、前記化合物αは、一分子内に、化学反応により、前記脱フッ素化処理が施された前記樹脂基材と化学結合することが可能な第1官能基と、化学反応により導体と化学結合することが可能な第2官能基と、を有する樹脂基材の表面処理方法である。
【0010】
本発明の第2の形態は、脱フッ素化処理が施されたフッ素系樹脂を含む樹脂基材に化合物αを含む溶液を塗布することにより、その表面に当該化合物αを担持させる処理を行う担持処理工程を有し、前記化合物αは一分子内に、化学反応により、前記脱フッ素化処理が施された前記樹脂基材と化学結合することが可能な第1官能基と、化学反応により導体と化学結合することが可能な第2官能基と、を有する樹脂基材の表面処理方法である。
【0011】
本発明の第3の形態は、前記第1官能基は、アジド基、アジドスルホニル基又はジアゾメチル基であり、かつ、前記化合物αが担持された前記樹脂基材の表面に、紫外線を照射する処理を行う紫外線照射処理工程を有する樹脂基材の表面処理方法である。
【0012】
本発明の第4の形態は、前記第1官能基は、アジド基、アジドスルホニル基又はジアゾメチル基であり、かつ、前記化合物αが担持された前記樹脂基材の表面を加熱する処理を行う加熱処理工程を有する樹脂基材の表面処理方法である。
【0013】
本発明の第5の形態は、前記第2官能基は、シラノール基又はアルコキシシリル基である樹脂基材の表面処理方法である。
【0014】
本発明の第6の形態は、前記化合物αは、一分子内に、更に芳香環を有し、前記アジド基、アジドスルホニル基又はジアゾメチル基は当該芳香環に直接結合している樹脂基材の表面処理方法である。
【0015】
本発明の第7の形態は、前記芳香環は、ベンゼン環である樹脂基材の表面処理方法である。
【0016】
本発明の第8の形態は、前記のいずれかの樹脂基材の表面処理方法により前記樹脂基材の表面に表面処理を行う工程と、無電解めっき、蒸着又はスパッタの手法により、前記表面に前記導体の被覆を形成する工程と、を有する導体被覆樹脂基材の製造方法である。
【0017】
本発明の第9の形態は、前記のいずれかの樹脂基材の表面処理方法により前記樹脂基材の表面に表面処理を行う工程と、前記表面に前記導体を含む材料を接触させて配置し、加圧及び加熱することにより前記表面に前記材料を接合して導体被覆を形成する工程と、を有する導体被覆樹脂基材の製造方法である。
【0018】
本発明の第10の形態は、前記のいずれかの樹脂基材の表面処理方法により前記樹脂基材の表面に表面処理を行う工程と、前記表面に前記導体の導電ペーストを塗布し、加熱することにより前記表面に導体被覆を形成する工程と、を有する導体被覆樹脂基材の製造方法である。
【0019】
本発明の第11の形態は、筒状又は柱状の樹脂基材の表面に導体被覆が形成されてなる導波管の製造方法であり、上述のいずれかの導体被覆樹脂基材の製造方法を有する導波管の製造方法である。
【0020】
本発明の第12の形態は、樹脂基材の表面に導体被覆により回路パターンが形成されてなる、回路基板又はアンテナの製造方法であり、上述のいずれかの導体被覆樹脂基材の製造方法を有する回路基板又はアンテナの製造方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の一形態によれば、フッ素系樹脂を含む樹脂基材の表面に導体被覆を形成するにあたり、樹脂基材と導体被覆との間の接着強度を高めることができる、樹脂基材の表面処理方法、並びにこのような樹脂基材の表面処理方法を用いた導体被覆樹脂基材、導波管及び回路基板又はアンテナの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、無電解めっき処理を用いる本発明の一実施形態に係る全体フロー図である。
図2図2は、図1における前処理工程の詳細フロー図である。
図3図3は、図1における後処理工程の詳細フロー図である。
図4図4は、図1における無電解めっき処理工程の詳細フロー図である。
図5】図(5A)及び図(5B)は、それぞれ、熱圧着処理及びペースト塗布処理を用いる本発明の一実施形態に係る全体フロー図である。
図6】図(6A)~図(6C)は、それぞれ本発明の実施形態により製造される導波管の断面図である。
図7】図(7A)~(7E)及び(7E’)は、本発明に係る回路基板の製造方法の一実施形態の説明図である。
図8】図(8A)~(8D)及び(8D’)は、本発明に係る回路基板の製造方法の別の実施形態の説明図である。
図9図9は、シート状の樹脂基材に導体被覆を形成して密着性を調べた試験結果を示す表図である。
図10図10は、チューブ状の樹脂基材に導体被覆を形成して密着性を調べた試験結果を示す表図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の第1の形態によれば、フッ素系樹脂を含む樹脂基材をアルカリ金属溶液に浸漬して脱フッ素化処理を行う脱フッ素化処理工程と、前記脱フッ素化処理工程の後、前記樹脂基材に化合物αを含む溶液を塗布することにより、その表面に当該化合物αを担持させる処理を行う担持処理工程と、を有し、前記化合物αは、一分子内に、化学反応により、前記脱フッ素化処理が施された前記樹脂基材と化学結合することが可能な第1官能基と、化学反応により導体と化学結合することが可能な第2官能基と、を有する樹脂基材の表面処理方法を提供できる。
【0024】
当該表面処理方法によれば、フッ素系樹脂を含む樹脂基材と導体被覆との間の接着強度を高めることができる。なお、同一条件で樹脂基材の表面に導体被覆を形成した場合においても、樹脂基材や導体被覆の材質等によって、これらの間の接着強度は異なる。従って、実質的に同一の樹脂基材及び導体被覆に対してこれらの間の接着強度を高めることを本発明の課題とする。
【0025】
樹脂基材は、フッ素系樹脂を含む。フッ素系樹脂は、フッ素原子を含む樹脂である。フッ素系樹脂としては、フッ素原子を含むオレフィンを重合して得られる樹脂が好ましい。フッ素系樹脂の例としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルコキシエチレン共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)、PCTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、ECTFE(クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体)などが挙げられる。樹脂基材におけるフッ素系樹脂の含有量は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上又は90質量%以上であってもよく、100質量%であってもよい。
【0026】
また、樹脂基材は、フッ素系樹脂に加えて、ガラスクロスを積層したりセラミックフィラーを含有させて得られる複合樹脂基材であってもよい。当該複合樹脂基材は、プリント配線基板などに好適に用いることができる。樹脂基材の形状は特に限定されず、板状、筒状、柱状等であってよい。
【0027】
アルカリ金属溶液は、アルカリ金属のイオン又はその錯体を含有する溶液である。アルカリ金属溶液の例としては、Na-ナフタレン錯体含有溶液、Na-液体アンモニア溶液、NaOH-水アルコール混合溶液などが挙げられる。Na-ナフタレン錯体含有溶液の例としては、沸点が高くかつ金属ナトリウムと反応しない溶媒にナフタレンと金属ナトリウムを溶解させて得られる溶液や、当該溶液にTHF(テトラヒドロフラン)を添加した溶液、潤工社製の「テトラエッチ(商品名)」等が挙げられる。沸点が高くかつ金属ナトリウムと反応しない溶媒としては、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)、ジメチルアセトアミド(DMA)、キシレン、トルエン等が挙げられる。
【0028】
脱フッ素化処理は、フッ素系樹脂を含む樹脂基材をアルカリ金属溶液に浸漬することにより、通常、樹脂基材の表面のC原子に結合していたF原子が離脱し、当該C原子が一時的に電子不足状態となる処理である。樹脂基材を浸漬浴から出し、空気に触れさせると、当該C原子と空気中の酸素や水蒸気が反応して、樹脂基材の表面に水酸基(-OH)、カルボニル基(>C=O)、カルボキシル基(-COOH)等が形成される。こうして脱フッ素化処理により、樹脂基材の表面は、電子不足状態のC原子や上記の官能基が存在する活性化状態になると考えられる。樹脂基材のアルカリ金属溶液への浸漬時間としては、例えば1秒以上10分以下が好ましく、5秒以上5分以下がより好ましい。脱フッ素化処理工程と担持処理工程との間には、樹脂基材の洗浄を行う洗浄工程、樹脂基材の乾燥を行う乾燥工程等を設けてもよい。
【0029】
化合物αを含む溶液の溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、セルソルブ、カルビトール等のアルコールや、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトンや、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素や、ヘキサン、オクタン、デカン、ドデカン、オクタデカン等の脂肪族炭化水素や、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、フタル酸メチル等のエステルや、テトラヒドロフラン、エチルブチルエーテル、アニソール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)等のエーテルや、水を利用することができる。当該溶液は、更に、界面活性剤等の分散媒及び化合物α以外の成分を含んでもよい。化合物αを含む溶液における化合物αの濃度としては、例えば0.05質量%以上5質量%以下が好ましい。
【0030】
樹脂基材に化合物αを含む溶液を「塗布する」とは、樹脂基材の表面に化合物αを含む溶液を「付着させる」又は「接触状態で存在させる」ことを言い、刷毛塗りだけでなく、滴下、スプレー、スピンコート、ロール、インクジェット等の印刷、浸漬等の方法により「付着させる」又は「接触状態で存在させる」ことを含む。なお、「塗布」の後に、化合物αが存在する樹脂基材の表面を乾燥させる工程を追加してもよい。
【0031】
担持処理工程において、化合物αを含む溶液が、前記脱フッ素化処理が施された前記樹脂基材に塗布されると、化合物αの第1官能基が化学反応により前記樹脂基材と強固に化学結合し、化合物αが前記樹脂基材の表面に化学結合した状態で配置される。ここで化学結合とは、共有結合、イオン結合、分子間力による結合等を意味し、好ましくは共有結合又はイオン結合を意味する。
【0032】
化学反応により、脱フッ素化処理が施された前記樹脂基材(通常、フッ素系樹脂)と化学結合することが可能な第1官能基の例としては、アミノ基、ヒドラジノ基、ヒドロキシ基、チオール基,エポキシ基、マレイン酸基、カルボキシ基、アジリジニル基、アジド基、アジドスルホニル基、ジアゾメチル基及びジアジリン基、並びに、加水分解により上記のいずれかの官能基を生成する官能基(例えば、-SNaなど)が挙げられる。なお、臭気など環境への影響を低減する観点からは、上記の官能基のうちチオール基以外の基が好ましい。
【0033】
化学反応により金属等の導体と化学結合することが可能な第2官能基の例としては、アミノ基、チオール基、シラノール基、カテコール基、カルボキシ基及びホスホン酸基、並びに、加水分解により上記のいずれかの官能基を生成する官能基(例えば、-Si(OCなど)が挙げられる。なお、導体には、銅、銀、金、ニッケル等の金属の他に、グラファイト、CNT(カーボンナノチューブ)、CNF(カーボンナノファイバー)等が含まれる。
【0034】
本表面処理方法により、化合物αが前記樹脂基材の表面に強固に化学結合した状態で担持され、かつ、化合物αは化学反応により金属等の導体と化学結合可能な第2官能基を有するから、前記樹脂基材の表面は、金属等の導体と強固な化学結合を形成するのに適した状態となる。
【0035】
本発明の第2の形態によれば、脱フッ素化処理が施されたフッ素系樹脂を含む樹脂基材に化合物αを含む溶液を塗布することにより、その表面に当該化合物αを担持させる処理を行う担持処理工程を有し、前記化合物αは、一分子内に、化学反応により、前記脱フッ素化処理が施された前記樹脂基材と化学結合することが可能な第1官能基と、化学反応により導体と化学結合することが可能な第2官能基と、を有する樹脂基材の表面処理方法を提供できる。
【0036】
本発明の第3の形態によれば、前記第1官能基は、アジド基、アジドスルホニル基又はジアゾメチル基(以下、「アジド基、アジドスルホニル基及びジアゾメチル基」を「アジド基等」とも称する。)であり、かつ、前記化合物αが担持された前記樹脂基材の表面に、紫外線を照射する処理を行う紫外線照射処理工程を有する樹脂基材の表面処理方法を提供できる。アジド基(-N)等は紫外線の作用により分解して窒素分子(N)が離脱し、残されたN原子等は活性化状態となり、脱フッ素化処理により活性化状態となった前記樹脂基材の表面のC原子等と、当該N原子等は、強固な化学結合を形成する。したがって、前記樹脂基材の表面に担持された化合物αと当該表面は、紫外線照射処理により光化学反応を起こして、化学結合を形成する。この紫外線照射は、例えば230nm以上350nm以下の波長領域を含む紫外線を照射することが好ましい。
【0037】
本発明の第4の形態によれば、前記第1官能基は、アジド基、アジドスルホニル基又はジアゾメチル基であり、かつ、前記化合物αが担持された前記樹脂基材の表面を加熱する処理を行う加熱処理工程を有する樹脂基材の表面処理方法を提供できる。アジド基(-N)等は加熱により分解して窒素分子(N)が離脱し、残されたN原子等は活性化状態となり、脱フッ素化処理により活性化状態となった前記樹脂基材の表面のC原子等と、当該N原子等は、強固な化学結合を形成する。したがって、前記樹脂基材の表面に担持された化合物αと当該表面は、加熱処理により化学反応を起こして、化学結合を形成する。加熱温度の下限としては、例えば80℃が好ましく、90℃がより好ましい。加熱温度の上限としては、250℃が好ましく、200℃がより好ましく、150℃がさらに好ましい。加熱時間の下限としては、3分が好ましく、5分がより好ましい。また、加熱時間の上限としては、60分が好ましく、30分がより好ましく、20分又は10分がさらに好ましい。なお、紫外線照射処理と加熱処理を併用してもよい。また、紫外線照射処理と加熱処理を、洗浄処理等の他の処理と組み合わせて、或いは、組み合わせることなく、反復適用してもよい。
【0038】
本発明の第5の形態によれば、前記第2官能基は、シラノール基又はアルコキシシリル基である樹脂基材の表面処理方法を提供できる。シラノール基は金属等の導体Mと、化学反応により(-Si-O-M)タイプの化学結合を形成することができる。アルコキシシリル基は加水分解によりシラノール基を生成し、生成したシラノール基は、金属等の導体Mと、化学反応により、上記のタイプの化学結合を形成することができる。アルコキシシリル基の例としては、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリベンジルオキシシリル基などが挙げられる。
【0039】
本発明の第6の形態によれば、前記化合物αは、一分子内に、更に芳香環を有し、前記アジド基、アジドスルホニル基又はジアゾメチル基は当該芳香環に直接結合している樹脂基材の表面処理方法を提供できる。アジド基等が芳香環に直接結合している場合、そうでない場合と比べて、紫外線照射処理又は加熱処理により、アジド基等から窒素分子(N)が脱離する反応の反応速度が大きくなる。芳香環の例としては、ベンゼン環、トリアジン環、ナフタレン環や、これらの環のH原子がハロゲン原子やアルキル基で置換された置換芳香環などが挙げられる。
【0040】
本発明の第7の形態によれば、前記芳香環は、ベンゼン環である樹脂基材の表面処理方法を提供できる。ベンゼン環に直接結合したアジド基等は、例えばトリアジン環に直接結合したアジド基と比べて、長波長の紫外線でも前記光分解反応の反応速度が大きいという特徴をもつ。すなわち、トリアジン環の場合には、前記反応速度は、短波長紫外線の特定の波長を中心とするある波長幅のピークを有するのに対して、ベンゼン環の場合には、前記反応速度は、より波長の長い短波長紫外線の特定の波長を中心とする同程度の波長幅のピークを有する。したがって、ベンゼン環にアジド基等が直接結合した化合物αを用いることで、フッ素系樹脂をあまり劣化させない長波長の紫外線を照射しても、効率的に表面処理を行うことが可能となる。
【0041】
本発明の第8の形態によれば、前記のいずれかの樹脂基材の表面処理方法により前記樹脂基材の表面に表面処理を行う工程と、無電解めっき、蒸着又はスパッタの手法により、前記表面に前記導体の被覆を形成する工程と、を有する導体被覆樹脂基材の製造方法を提供できる。
【0042】
本発明の第9の形態によれば、前記のいずれかの樹脂基材の表面処理方法により前記樹脂基材の表面に表面処理を行う工程と、前記表面に前記導体を含む材料を接触させて配置し、加圧及び加熱することにより前記表面に前記材料を接合して導体被覆を形成する工程と、を有する導体被覆樹脂基材の製造方法を提供できる。
【0043】
本発明の第10の形態によれば、前記のいずれかの樹脂基材の表面処理方法により前記樹脂基材の表面に表面処理を行う工程と、前記表面に前記導体の導電ペーストを塗布し、加熱することにより前記表面に導体被覆を形成する工程と、を有する導体被覆樹脂基材の製造方法を提供できる。
【0044】
本発明の第8、第9及び第10のいずれの形態によっても、樹脂基材と導体被覆の界面が平坦面又は粗度の小さい面であっても、両材料が化合物αの分子又はそれから誘導される分子を介して強固な化学結合により接合された、導体被覆を有する樹脂基材を製造することができる。
【0045】
本発明の第11の形態によれば、筒状又は柱状の樹脂基材の表面に導体被覆が形成されてなる導波管の製造方法であり、上述のいずれかの導体被覆樹脂基材の製造方法を有する導波管の製造方法を提供できる。筒状又は柱状は、その断面が円、楕円、三角形、四角形又は多角形の形状を有する筒体又は柱体であることが好ましい。本形態により、剥離強度が大きく、かつ、伝送損失の少ない導波管を製造することができる。
【0046】
本発明の第12の形態によれば、樹脂基材の表面に導体被覆により回路パターンが形成されてなる、回路基板又はアンテナの製造方法であり、上述のいずれかの導体被覆樹脂基材の製造方法を有する回路基板又はアンテナの製造方法を提供できる。ここで、回路基板とは、プリント配線板やプリント回路基板、表面に電気回路が形成された樹脂成型品(MID; Molded Interconnect Device)などを言う。本形態により、剥離強度が大きく、かつ、伝送損失の少ない回路基板やアンテナを製造することができる。
【0047】
化合物αは、例えば、次の式(0)で表される化合物が挙げられる。
X-J-Y ・・・(0)
ここで、Xは、化学反応により、脱フッ素化処理が施された前記樹脂基材と化学結合することが可能な第1官能基であり、Yは、化学反応により、金属等の導体と化学結合することが可能な第2官能基であり、Jは、任意の2価の有機基である。
【0048】
光化学反応又は熱化学反応を促進・制御する観点から、第1官能基Xは、アジド基、アジドスルホニル基又はジアゾメチル基であることが好ましく、二価の有機基Jは、芳香環を含む化合物からH原子を2個除いた有機基であることが好ましい。芳香環を含む化合物から除く2つのH原子のうちの1個は芳香環上のH原子であることが好ましい。また、金属等の導体との化学結合容易性の観点から、第2官能基Yは、アルコキシシリルアルキル基であることが好ましく、トリアルコキシシリルアルキル基であることがより好ましい。
【0049】
化合物αの好適な一形態としては、
下記式(1)又は(2)で表される化合物α1、及び
化合物α1を含む加水分解性シラン化合物を加水分解縮合して得られる化合物α2
が挙げられる。化合物αが、化合物α1及び化合物α2のうちの少なくとも一方である場合、比較的低温度及び短時間の加熱処理で且つ紫外線照射を行わなくても、良好な密着性が発現される。このためこれらの化合物を用いることで、効率的な処理が可能となる。
【0050】
(化合物α1)
化合物α1は、下記式(1)又は(2)で表される化合物である。すなわち、化合物α1は、第1官能基としてベンゼン環に直接結合したアジド基等を有し、第2官能基としてシラノール基又はアルコキシシリル基を有する化合物αの一例である。
【0051】
【化1】
【0052】
式(1)中、Rは、水素原子、炭素数1から12のアルキル基、フェニル基、炭素数1から12のアルコキシ基、又はヒドロキシ基である。複数のRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、又は1価の有機基である。Xは、アジド基、アジドスルホニル基、又はジアゾメチル基である。Yは、単結合、エステル基、エーテル基、チオエーテル基、アミド基、ウレタン基、ウレア基、-NHR-で表される基、又は下記式(3a)若しくは(3b)で表される基である。Rは、炭素数1から6のアルキル基である。Zは、単結合、メチレン基、炭素数2から12のアルキレン基、又は炭素数2から12のアルキレン基の末端若しくは炭素-炭素結合間に-NH-、-O-、-S-及び-S(O)-のうちの1つ以上の基を含む基である。mは、1から3の整数である。R、X、Y及びZが、それぞれ複数の場合、これらはそれぞれ独立して上記定義を満たす。但し、1又は複数のRの少なくとも1つは、炭素数1から12のアルコキシ基である。
【0053】
式(2)中、複数のR、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1から12のアルキル基、フェニル基、炭素数1から12のアルコキシ基、又はヒドロキシ基であり、複数のR、R及びRのうちの少なくとも1つは、炭素数1から12のアルコキシ基である。複数のRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、又は1価の有機基である。Xは、アジド基、アジドスルホニル基、又はジアゾメチル基である。複数のZは、それぞれ独立して、単結合、メチレン基、炭素数2から12のアルキレン基、又は炭素数2から12のアルキレン基の末端若しくは炭素-炭素結合間に-NH-、-O-、-S-及び-S(O)-のうちの1つ以上の基を含む基である。
【0054】
【化2】
【0055】
式(3a)中、Rは、水素原子又はメチル基である。
【0056】
、R、R及びRで表される炭素数1から12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、オクチル基等が挙げられる。
、R、R及びRで表される炭素数1から12のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、ベンジルオキシ基等が挙げられる。
及びRで表されるハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。
及びRで表される1価の有機基としては、1価の炭化水素基、アルコキシ基、-Y-Z-Si-R (Y、Z及びRは、式(1)中のY、Z及びRとそれぞれ同義である。)で表される基、-COO-N-(-Z-SiR(Z、R、R及びRは、式(2)中のZ、R、R及びRとそれぞれ同義である。)、後述する式(14)で表される基等が挙げられる。
で表される炭素数1から6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。
【0057】
式(1)で表される化合物の好適な形態は以下の通りである。
としては、炭素数1から12のアルコキシ基が好ましく、炭素数1から6のアルコキシ基がより好ましく、炭素数1から3のアルコキシ基がさらに好ましい。
としては、水素原子が好ましい。
としては、アジド基及びアジドスルホニル基が好ましい。Xは、Y等を含む基に対してパラ位又はメタ位に結合していることが好ましい。
としては、アミド基が好ましく、*-CONH-(*は、ベンゼン環との結合部位を示す。)で表されるアミド基がより好ましい。
としては、炭素数2から12のアルキレン基が好ましく、炭素数2から6のアルキレン基がより好ましい。
mは、3が好ましい。
【0058】
式(2)で表される化合物の好適な形態は以下の通りである。
、R及びRとしては、炭素数1から12のアルコキシ基が好ましく、炭素数1から6のアルコキシ基がより好ましく、炭素数1から3のアルコキシ基がさらに好ましい。
としては、水素原子が好ましい。
としては、アジド基及びアジドスルホニル基が好ましい。Xは、-COO-N-(-Z-SiRで表される基に対してパラ位又はメタ位に結合していることが好ましい。
としては、炭素数2から12のアルキレン基が好ましく、炭素数2から6のアルキレン基がより好ましい。
【0059】
化合物α1は、下記式(11)、(12)又は(13)で表される化合物であってもよい。
【0060】
【化3】
【0061】
式(11)~(14)中、X10、X11及びX12は、それぞれ独立して、アジド基、アジドスルホニル基又はジアゾメチル基である。E11及びE12は、それぞれ独立して、カルボニル基、メチレン基又は炭素数2から12のアルキレン基である。Y11、Y12、Y13及びY14は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1から12のアルキル基、又は-J13-Si(OA103-k(R10で表される基である。J11、J12及びJ13は、それぞれ独立して、メチレン基、炭素数2から12のアルキレン基、又は炭素数2から12のアルキレン基の炭素-炭素結合間に酸素原子(-O-)を含む基である。Y15は、-R15又は-OA15で表される基である。Y16は、-R16又は-OA16で表される基である。A10、A15及びA16は、それぞれ独立して、炭素数1から4のアルキル基、ベンジル基又は水素原子である。R10、R15及びR16は、それぞれ独立して、炭素数1から4のアルキル基又はベンジル基である。kは、0から2の整数である。Q10は、水素原子又は式(4)で表される有機基である。式(11)及び(12)において、Y11とY12との少なくとも一方は、酸素原子を含む。式(13)において、Y15とY16との少なくとも一方は酸素原子を含む。式(13)において、ベンゼン環に結合している基X11及びX12は、それぞれ独立して、パラ位又はメタ位に結合している。
【0062】
化合物α1の例としては、N-(3-トリエトキシシリルプロピル)-4-アジドベンズアミド(以下、「IMB-4K」と呼ぶ)、N-(3-トリエトキシシリルプロピル)-3-アジドベンズアミド(以下、「IMB-3K」と呼ぶ)、N,N-ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)-4-アジドベンズアミド(以下、「IMB-4KB」と呼ぶ)、N,N-ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)-3-アジドベンズアミド(以下、「IMB-3KB」と呼ぶ)等が挙げられる。
【0063】
(化合物α1の合成方法)
化合物α1の合成方法は特に限定されないが、例えば、アルコキシシリル基と、アルコキシシリル基以外の反応性基aとを有するシランカップリング剤Aと、上記反応性基aと結合反応可能な反応性基bと、ベンゼン環と、アジド基、アジドスルホニル基及びジアゾメチル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基とを有する化合物Bとを公知の方法により反応させることにより得ることができる。反応性基aと反応性基bとの組み合わせとしては、イソシアネート基、エポキシ基、アミノ基等と、カルボキシ基との組み合わせなどが挙げられる。
【0064】
シランカップリング剤Aとしては、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)アミン、ビス(3-トリメトキシシリルプロピル)アミン、ビス(3-アミノプロピル)ジエトキシシラン、ビス(3-アミノプロピル)ジメトキシシラン等が挙げられる。
【0065】
化合物Bとしては、アジド安息香酸、アジドスルホニル安息香酸、ジアゾメチル安息香酸、3-(4-アジドフェニル)プロピオン酸、これらのカルボン酸の塩化物、アジドアニリン、アジドフェノール等が挙げられる。
【0066】
(化合物α2)
化合物α2においては、通常、未反応のアルコキシシリル基が残存している。すなわち、化合物α2も、第1官能基としてベンゼン環に直接結合したアジド基等を有し、第2官能基としてシラノール基又はアルコキシシリル基を有する化合物αの一例である。
【0067】
化合物α1を含む加水分解性シラン化合物を加水分解縮合して得られる化合物α2は、化合物α1に由来する構造単位Aを有する。化合物α2は、構造が化合物α1を含む加水分解性シラン化合物を加水分解縮合して得られる化合物と同一であれば、他の合成方法により得られたものであってもよい。化合物α2は、シルセスキオキサン化合物であることが好ましい。化合物α2は、アルコキシシリル基及びヒドロキシシリル基の少なくとも一方を有することが好ましく、ヒドロキシシリル基を有することがより好ましい。
【0068】
構造単位Aとしては、下記式(4)で表される構造単位が挙げられる。下記式(4)で表される構造単位は、mが3である式(1)で表される化合物α1に由来する構造単位である。
【0069】
【化4】
【0070】
式(4)中、R、R、X、Y及びZは、式(1)中のR、R、X、Y及びZとそれぞれ同義である。aは、0から2の整数である。
【0071】
式(4)中のR、R、X、Y及びZの具体例は、式(1)中のR、R、X、Y及びZの具体例と同様である。式(4)中のRは、反応性等の観点からはヒドロキシ基又はアルコキシ基であることが好ましく、ヒドロキシ基であることがより好ましい。aは、1が好ましい。
【0072】
化合物α2における全構造単位に対する構造単位Aの含有量の下限は、10モル%が好ましく、20モル%がより好ましく、30モル%がさらに好ましい。一方、この含有量の上限は、90モル%が好ましく、80モル%がより好ましく、70モル%がさらに好ましい。
【0073】
化合物α2は、アミノ基(-NH)を含む構造単位Bを有することが好ましい。化合物α2が構造単位Bを有する場合、化合物α2の水溶性が向上するなどの利点がある。構造単位Bを与える加水分解性シラン化合物としては、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0074】
化合物α2における全構造単位に対する構造単位Bの含有量の下限は、10モル%が好ましく、20モル%がより好ましく、30モル%がさらに好ましい。一方、この含有量の上限は、90モル%が好ましく、80モル%がより好ましく、70モル%がさらに好ましい。
【0075】
化合物α2は、構造単位A及び構造単位B以外の構造単位Cを有していてもよい。構造単位Cを与える加水分解性シラン化合物としては、下記式(C)で表される化合物が挙げられる。
【0076】
【化5】
【0077】
式(C)中、Rは、水素原子、炭素数1から10のアルキル基、炭素数2から10のアルケニル基、炭素数6から15のアリール基、又は反応性基を有する有機基であり、複数のRはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。Rは、水素原子、炭素数1から10のアルキル基、炭素数2から6のアシル基、又は炭素数6から15のアリール基であり、複数のRはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。xは0から3の整数を表す。また、これらのアルキル基、アルケニル基、アリール基はいずれも無置換体及び置換体のどちらでもよく、特性に応じて選択できる。
【0078】
及びRで表されるアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、n-ヘキシル基、n-デシル基、トリフルオロメチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、3-グリシドキシプロピル基、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基、〔(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ〕プロピル基、3-メルカプトプロピル基、3-イソシアネートプロピル基等が挙げられる。Rで表されるアルケニル基の具体例としては、ビニル基、3-アクリロキシプロピル基、3-メタクリロキシプロピル基等が挙げられる。R及びRで表されるアリール基の具体例としては、フェニル基、トリル基、p-ヒドロキシフェニル基、p-メトキシフェニル基、1-(p-ヒドロキシフェニル)エチル基、2-(p-ヒドロキシフェニル)エチル基、4-ヒドロキシ-5-(p-ヒドロキシフェニルカルボニルオキシ)ペンチル基、ナフチル基等が挙げられる。Rで表される反応性基を有する有機基としては、イソシアネート基、イソシアヌレート構造とアルコキシシリル基とを有する基等が挙げられる。Rで表される反応性基を有する有機基の炭素数としては、1以上40以下が好ましい。Rで表されるアシル基の具体例としては、アセチル基が挙げられる。
【0079】
式(C)において、x=0の場合は4官能性シラン、x=1の場合は3官能性シラン、x=2の場合は2官能性シラン、x=3の場合は1官能性シランである。
【0080】
式(C)で表される加水分解性シラン化合物の具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラアセトキシシラン、テトラフェノキシシランなどの4官能性シラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、メチルトリn-ブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリn-ブトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、n-ブチルトリメトキシシラン、n-ブチルトリエトキシシラン、n-ヘキシルトリメトキシシラン、n-ヘキシルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、p-ヒドロキシフェニルトリメトキシシラン、p-メトキシフェニルトリメトキシシラン、1-(p-ヒドロキシフェニル)エチルトリメトキシシラン、2-(p-ヒドロキシフェニル)エチルトリメトキシシラン、4-ヒドロキシ-5-(p-ヒドロキシフェニルカルボニルオキシ)ペンチルトリメトキシシラン、1-ナフチルトリメトキシシラン、2-ナフチルトリメトキシシラン、トリフルオロメチルトリメトキシシラン、トリフルオロメチルトリエトキシシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、〔(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ〕プロピルトリメトキシシラン、〔(3-エチル-3-オキセタニル)メトキシ〕プロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-トリメトキシシリルプロピルコハク酸などの3官能性シラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシラン、ジメチルジアセトキシシラン、ジn-ブチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、(3-グリシドキシプロピル)メチルジメトキシシラン、(3-グリシドキシプロピル)メチルジエトキシシランなどの2官能性シラン、トリメチルメトキシシラン、トリn-ブチルエトキシシラン、(3-グリシドキシプロピル)ジメチルメトキシシラン、(3-グリシドキシプロピル)ジメチルエトキシシランなどの1官能性シランが挙げられる。
【0081】
また、式(C)で表される加水分解性シラン化合物には、1,3,5-トリス[3-(トリメトキシシリル)プロピル]イソシアヌレート等、ケイ素原子に結合したアルコキシ基を5個以上有する化合物も含まれる。
【0082】
加水分解性シラン化合物は、1種を単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0083】
化合物α2の重量平均分子量(Mw)は特に制限されないが、好ましくはGPC(ゲルパーミネーションクロマトグラフィ)で測定されるポリスチレン換算で1,000以上100,000以下、さらに好ましくは2,000以上50,000以下である。
【0084】
(化合物α2の合成方法)
化合物α2は、(i)化合物α1を含む加水分解性シラン化合物を加水分解縮合して得る方法、(ii)加水分解性シラン化合物の加水分解縮合物であって、構造単位Bを有する化合物に対して、「アミノ基と結合反応可能な反応性基と、ベンゼン環と、アジド基、アジドスルホニル基及びジアゾメチル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基とを有する化合物X」(アジド安息香酸、アジドスルホニル安息香酸、ジアゾメチル安息香酸等)を反応させて得る方法などが挙げられる。上記(ii)においては、構造単位B中のアミノ基が化合物Xと反応することにより、構造単位Aが形成される。
【0085】
化合物α2を得るための加水分解縮合には、一般的な方法を用いることができる。例えば、加水分解性シラン化合物に溶媒、水、必要に応じて触媒を添加し、30から150℃で0.5から100時間程度加熱撹拌する。なお、撹拌中、必要に応じて、蒸留によって加水分解副生物(メタノールなどのアルコール)及び縮合副生物(水)等の留去を行ってもよい。
【0086】
必要に応じて添加される触媒に特に制限はないが、酸触媒及び塩基触媒が好ましく用いられる。酸触媒の具体例としては塩酸、硝酸、硫酸、フッ酸、リン酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、ギ酸、多価カルボン酸又はその無水物、イオン交換樹脂等が挙げられる。塩基触媒の具体例としては、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリヘプチルアミン、トリオクチルアミン、ジエチルアミン、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アミノ基を有するアルコキシシラン、イオン交換樹脂等が挙げられる。触媒の添加量は、加水分解性シラン化合物100質量部に対して0.01から10質量部が好ましい。
【0087】
化合物α2を含む溶液の貯蔵安定性の観点から、加水分解縮合後の溶液には触媒が含まれないことが好ましく、必要に応じて触媒の除去を行うことができる。除去方法としては特に制限は無いが、好ましくは水洗浄又はイオン交換樹脂の処理が挙げられる。水洗浄とは、溶液を適当な疎水性溶剤で希釈した後、水で数回洗浄して得られた有機層をエバポレーターで濃縮する方法である。イオン交換樹脂での処理とは、溶液を適当なイオン交換樹脂に接触させる方法である。
【0088】
加水分解縮合の反応に用いる溶媒は特に制限はないが、好ましくはアルコール性水酸基を有する化合物が用いられる。アルコール性水酸基を有する化合物は特に制限されないが、好ましくは大気圧下の沸点が110から250℃である化合物である。
【0089】
アルコール性水酸基を有する化合物の具体例としては、アセトール、3-ヒドロキシ-3-メチル-2-ブタノン、4-ヒドロキシ-3-メチル-2-ブタノン、5-ヒドロキシ-2-ペンタノン、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン(ジアセトンアルコール)、乳酸エチル、乳酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノn-プロピルエーテル、プロピレングリコールモノn-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノt-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、3-メトキシ-1-ブタノール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールなどが挙げられる。なお、これらのアルコール性水酸基を有する化合物は、単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0090】
また、溶媒としては、アルコール性水酸基を有する化合物と共にその他の溶媒を用いてもよい。その他の溶媒としては、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3-メトキシ-1-ブチルアセテート、3-メチル-3-メトキシ-1-ブチルアセテート、アセト酢酸エチルなどのエステル類、メチルイソブチルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、アセチルアセトンなどのケトン類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジn-ブチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、などのエーテル類、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、炭酸プロピレン、N-メチルピロリドン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノンなどが挙げられる。
【0091】
化合物αの他の形態としては、
下記式(5)で表される化合物α3、及び
化合物α3を含む加水分解性シラン化合物を加水分解縮合して得られる化合物α4
が挙げられる。
【0092】
(化合物α3)
化合物α3は、下記式(5)で表される化合物である。
【0093】
【化6】
【0094】
式(5)中、X21は、第1官能基である。X22は、第1官能基又は-N(R21で表される基である。複数のR21は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1以上24以下の炭化水素基、又は-R22-Si(OR233-p(R24で表される基である。R22は、メチレン基又は炭素数2以上12以下のアルキレン基である。R23は、水素原子又は炭素数1以上4以下のアルキル基である。R24は、炭素数1以上4以下のアルキル基である。pは、0以上2以下の整数である。但し、式(5)で表される化合物が有する複数のR21のうちの少なくとも一つは、-R22-Si(OR233-p(R24で表される基である。
【0095】
21又はX22で表される第1官能基としては、アミノ基、チオール基、アジド基、アジドスルホニル基又はジアゾメチル基が好ましく、アジド基、アジドスルホニル基又はジアゾメチル基がより好ましく、アジド基がさらに好ましい。
【0096】
22は、第1官能基であることが好ましい。
【0097】
化合物α3としては、例えば(株)いおう化学研究所製のn-TES、P-TES、A-TES等を用いることができる。
【0098】
化合物α3の具体例としては、2,4-ジアジド-6-(3-トリエトキシシリルプロピル)アミノ-1,3,5-トリアジン(以下、「IMB-P」と呼ぶ)、2,4-ジアジド-6-(4-トリエトキシシリルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン、6-(3-トリエトキシシリルプロピル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジチオール、2,4-ジアミノ-6-(3-トリエトキシシリルプロピル)アミノ-1,3,5-トリアジン等が挙げられる。
【0099】
(化合物α4)
化合物α4は、化合物α3を含む加水分解性シラン化合物を加水分解縮合して得られる化合物である。化合物α4は、化合物α1に替えて化合物α3が用いられていること以外は化合物α2と同様の加水分解縮合物である。
【0100】
次に、本発明に係る樹脂基材の表面処理方法、及び、導体被覆樹脂基材等の製造方法の実施形態を図面に従って詳細に説明する。
【0101】
<1.無電解めっき処理を用いる実施形態の全体フロー>
図1は、本発明の一実施形態に係る導体被覆樹脂基材(導体被覆を有する樹脂基材)の製造方法の全体フロー図である。無電解めっき処理を用いて、フッ素系樹脂を含む樹脂基材に導体被覆を形成する本実施形態は、当該樹脂基材の表面に表面処理を施す表面処理工程Sstと、表面処理が施された当該樹脂基材の表面に導体被覆を形成する導体被覆形成工程Scと、から構成される。
【0102】
<1-1.表面処理工程Sst(無電解めっきを利用する場合)>
表面処理工程Sstは、脱脂洗浄工程S1と、前処理工程S2と、IMB担持処理工程(担持処理工程)S3と、後処理工程S4と、工程S3及びS4を再び繰り返すか否かを判断する工程S5と、IMB後熱処理工程S6と、から構成される。
【0103】
脱脂洗浄工程S1は、当該樹脂基材を溶剤を用いて洗浄する工程である。例えば、当該樹脂基材をアセトンやエタノール等の溶剤に浸漬して超音波洗浄し、乾燥させる。
【0104】
前処理工程S2は、当該樹脂基材に前処理を行う工程である。図2に示す如く、前処理工程S2は、当該樹脂基材をアルカリ金属溶液に浸漬して脱フッ素化処理を行う脱フッ素処理工程S21と、脱フッ素化処理が施された当該樹脂基材をシリコンクリーナや酸クリーナ等の洗浄溶剤に浸漬して超音波洗浄する前処理後洗浄工程S22と、から構成される。
【0105】
なお、本発明とは異なるが、後述する比較例においては、前処理工程S2は、脱フッ素処理工程S21に替えてプラズマ処理工程S24を有する。プラズマ処理工程S24は、当該樹脂基材を酸素プラズマ又は大気プラズマ等のプラズマで処理する工程である。
【0106】
IMB担持処理工程S3は、界面分子結合(IMB;Interface Molecular Bonding)のための処理を行う工程である。界面分子結合とは、一般に、2つの物質AとBの界面に化合物(化合物αとする)を介在させ、化学反応により、物質Aと化合物α、及び、物質Bと化合物αを化学結合させて、物質AとBを当該化合物αを介して化学結合により結合させる技術のことである。ここで化学結合は、共有結合又はイオン結合であることが好ましい。また、化合物αをIMB剤とも称する。
【0107】
具体的には、IMB担持処理工程S3は、前処理工程S2において処理された当該樹脂基材に化合物αを含む溶液を塗布することにより、その表面に当該化合物αを担持させる処理を行う工程である。例えば、当該樹脂基材を化合物αを含む溶液に浸漬して乾燥させることにより、当該樹脂基材の表面に化合物αが担持される。
【0108】
IMB担持処理工程S3を行う樹脂基材の表面は、プラズマ処理等の粗面化処理が施されていないことが好ましい。粗面化処理が施されていない場合、得られる導体被覆樹脂基材は、導波管、回路版、アンテナ等に好適に用いることができる。樹脂基材の表面の表面粗さ(Ra)の上限は3μmが好ましく、1μmがより好ましく、0.5μmがさらに好ましく、0.1μmがよりさらに好ましく、0.05μmがよりさらに好ましい。この表面の表面粗さ(Ra)の下限としては、例えば0.001μmであってよい。なお、本明細書において「表面粗さ(Ra)」とは、JIS-B0601:2001に準じ、カットオフ(λc)2.5mm、評価長さ(l)12.5mmで測定される値を意味する。
【0109】
後処理工程S4は、当該樹脂基材と化合物αを化学反応により化学結合させるために、当該樹脂基材に紫外線照射処理及び熱処理のうち少なくとも1つの処理を行う工程である。図3に示す如く、後処理工程S4は、紫外線照射処理を行うか否かを判断する工程S41と、当該処理を行う場合に、化合物αを担持した当該樹脂基材の表面に所定の時間、所定の波長分布と強度を有する紫外線を照射する紫外線照射処理工程S42と、熱処理を行うか否かを判断する工程S43と、当該処理を行う場合に、化合物αを担持した当該樹脂基材の表面を所定の時間、所定の温度に保持する熱処理工程S44と、洗浄を行うか否かを判断する工程S45と、当該洗浄を行う場合に、未反応の化合物αや副反応生成物を除去するために当該樹脂基材の表面をエタノールやアセトン等の溶剤で洗浄する洗浄工程S46と、から構成される。
【0110】
工程S5は、反復処理が必要か否かを判断する工程である。反復処理が必要な場合には、上記のIMB担持処理工程S3と後処理工程S4が繰り返される。反復処理が不要な場合には、IMB後熱処理工程S5が行われる。
【0111】
IMB後熱処理工程S5は、当該樹脂基材と化合物αを化学反応により化学結合させるための工程であり、予め定められた熱処理温度及び熱処理時間にて熱処理を施す工程である。熱処理温度は80~250℃が好ましく、熱処理時間は3~60分が好ましい。なお、直近に実行された後処理工程S4が、熱処理工程S44を含み、かつ、洗浄工程S46を含まない場合には、当該熱処理工程S44はIMB後熱処理工程S5であると見做される。
【0112】
<1-2.導体被覆形成工程Sc(無電解めっきを利用する場合)>
無電解めっきを利用して導体被覆を形成する本発明の実施形態においては、図1に示す如く、導体被覆形成工程Scは、無電解めっき処理工程S7と、オプションで電解めっき処理工程S8を含む。すなわち、めっき皮膜の膜厚が必要な場合には、無電解めっき処理工程S7の後で、電解めっき処理工程S8を行って厚膜化を図ってもよい。電解めっきされる金属は、例えば、Cu,Ni,Ag,Pd,Au,Pt,Zn,Cr,Sn,Biなどである。
【0113】
無電解めっき処理工程S7は、図4に示す如く、プレディップ工程S71と、触媒付与工程S72と、アクセラレータ工程S73と、無電解めっき工程S74と、アニール工程S75と、から構成される。
【0114】
プレディップ工程S71では、IMB後熱処理工程S5を経た当該樹脂基材をプレディップ液に浸漬する処理が行われる。続いて、触媒付与工程S72では、当該樹脂基材をキャタリスト液に浸漬してPd等の触媒を付与する。キャタリスト液は、例えば、キャタポジット44(ローム&ハース電子材料株式会社製)である。続いて、アクセラレータ工程S73では、当該樹脂基材をアクセラレータ液に浸漬するアクセラレータ処理を施してSnコロイドを除去し、触媒を活性化する。アクセラレータ液は、例えば定められた濃度の塩酸であり、その濃度は例えば0.1~10v/v%である。
【0115】
続いて、無電解めっき工程S74では、当該樹脂基材に無電解めっきを施す。めっきされる金属は、例えば、Cu、Niなどである。形成されるめっき皮膜は、当該基材の表面に担持された化合物αを介した界面分子結合により、当該樹脂基材と化学結合により結合している。
【0116】
続いて、アニール工程S75では、所定の温度で所定の時間、アニール処理を行う。所定の温度及び所定の時間は、例えば、90~130℃及び3~60分である。アニール処理により、めっき応力が低減され、剥離強度が向上する。
【0117】
なお、導体被覆形成工程Scにおいては、無電解めっきに替えて、蒸着又はスパッタの手法により導体被覆(金属被膜)を形成することもできる。このときの蒸着又はスパッタは従来公知の方法により行うことができる。
【0118】
<2.熱圧着処理を用いる実施形態の全体フロー>
図(5A)は、本発明の一実施形態に係る導体被覆樹脂基材の製造方法の全体フロー図である。熱圧着処理を用いて、フッ素系樹脂を含む樹脂基材に導体被覆を形成する本実施形態は、当該樹脂基材の表面に表面処理を施す表面処理工程Sstと、表面処理が施された当該樹脂基材の表面に導体被覆を形成する導体被覆形成工程Scと、から構成される。
【0119】
<2-1.表面処理工程Sst(熱圧着を利用する場合)>
本実施形態において当該樹脂基材に対して行われる表面処理工程Sstは、図1に示す実施形態におけるものと同様であるから、その記載を省略する。
【0120】
<2-2.導体被覆形成工程Sc(熱圧着を利用する場合)>
本実施形態においては、図(5A)に示す如く、導体被覆形成工程Scは、熱圧着処理工程S91から構成される。熱圧着処理工程S91においては、表面処理工程Sstにおいて表面処理が施された当該樹脂基材に、板状又はシート状の導体片(導体を含む材料)を接触させて、所定の時間の間、所定の温度のもとで所定の圧力を加えて、当該樹脂基材と導体片を接合する。加温により化合物αを介した界面分子結合に係る化学反応が進行して、当該樹脂基材と導体片が化学結合により強固に接合される。所定の時間、所定の温度及び所定の圧力は、例えば、3~30分、90~150℃及び0.1~10MPaである。導体片は、例えば、各種金属の電解薄板や圧延薄板、黒鉛シートなどであり、この導体片が、導体被覆を構成する。
【0121】
<3.ペースト塗布処理を用いる実施形態の全体フロー>
図(5B)は、本発明の一実施形態に係る導体被覆樹脂基材の製造方法の全体フロー図である。ペースト塗布処理を用いて、フッ素系樹脂を含む樹脂基材に導体被覆を形成する本実施形態は、当該樹脂基材の表面に表面処理を施す表面処理工程Sstと、表面処理が施された当該樹脂基材の表面に導体被覆を形成する導体被覆形成工程Scと、から構成される。
【0122】
<3-1.表面処理工程Sst(ペースト塗布を利用する場合)>
本実施形態において当該樹脂基材に対して行われる表面処理工程Sstは、図1に示す実施形態におけるものと同様であるから、その記載を省略する。
【0123】
<3-2.導体被覆形成工程Sc(ペースト塗布を利用する場合)>
本実施形態においては、図(5B)に示す如く、導体被覆形成工程Scは、ペースト塗布処理工程S96と、焼結硬化処理工程S97と、から構成される。ペースト塗布処理工程S96においては、表面処理工程Sstにおいて表面処理が施された当該樹脂基材に、導電ペーストを塗布する。ここで、樹脂基材に導電ペーストを「塗布する」とは、樹脂基材の表面に導電ペーストを「付着させる」又は「接触状態で存在させる」ことを言い、押出しだけでなく、刷毛塗り、滴下、スプレー、スピンコート、ロール、インクジェット等の印刷、浸漬等の方法により「付着させる」又は「接触状態で存在させる」ことを含む。「塗布」は、回路パターンやアンテナを形成する目的で、パターン状に行われてもよい。なお、「塗布」の後に、導電ペーストが付着した樹脂基材の表面を乾燥させる工程を追加してもよい。続いて、焼結硬化処理工程S97においては、大気雰囲気、窒素ガス雰囲気又は希ガス雰囲気のもとで、導電ペーストが付着した樹脂基材を所定の時間の間、所定の温度に保持して、導電ペーストを焼結硬化させて、当該樹脂基材の表面に導体被覆を形成する。所定の温度及び所定の温度は、例えば、120~250℃及び3~60分である。加温により化合物αを介した界面分子結合に係る化学反応が進行して、当該樹脂基材と形成される導体被覆が化学結合により強固に接合される。導電ペーストとしては、低温焼結タイプの銀ペーストや銀ナノペースト、銀ナノインクなどが利用できる。
【0124】
<4.導波管の製造方法>
図6は、本発明の種々の実施形態により製造される導波管の断面図を示す。図6では、円柱状又は円筒状の形状を有する導波管のみを記載しているが、四角柱状又は四角筒状、多角柱状又は多角筒状の形状、或いは、より一般に柱状又は筒状の形状を有する導波管も、本発明の実施形態により同様にして製造することができる。また、図示は省略しているが、本発明の種々の実施形態により製造された導波管を、その外周面を保護する目的で、PTFE等の樹脂チューブの中空部に内挿して用いたり、当該外周面に樹脂等からなる保護膜を成膜して用いてもよい。
【0125】
図(6A)に示す導波管は、柱状の、フッ素系樹脂を含む樹脂基材11aの外周面に、本発明の一実施形態に係る方法により、導体被覆16を形成して製造される。樹脂基材11aと導体被覆16とは、化合物αを介した界面分子結合に係る化学反応により、強固に化学結合している。導体被覆16は、無電解めっき、蒸着、スパッタ、熱圧着又はペースト塗布により形成される。このようにして形成された導体被覆をシード層として、更に電解めっきにより導体皮膜の厚膜化を行って導体被覆16を形成してもよい。導波管の軽量化や屈曲性維持の観点から、導体被覆16の膜厚は好ましくは100μm以下であり、より好ましくは50μm以下であり、更に好ましくは25μm以下である。また、伝送損失を低減する観点から、導体被覆16の膜厚は、下記の式(*)で与えられる表皮深さをδとして、好ましくはδ以上であり、より好ましくは2δ以上であり、更に好ましくは3δ以上である。例えば、導体被覆16が電気伝導率5.9×10S/mのCuで構成されている場合、搬送される電磁波の振動数がそれぞれ100MHz、10GHz、1THzの場合の表皮深さは順に7μm、0.7μm、0.07μmである。
δ=(πfμσ)-1/2 (*)
ここで、式(*)において、fは搬送される電磁波の振動数、μ及びσはそれぞれ導体被覆16を構成する物質の透磁率及び電気伝導度である、πは円周率である。なお、導体被覆16が異なる金属(例えばCuとAg)で構成されたシード層と電解めっき層からなる場合、シード層の膜厚をd、電解めっき層の膜厚をd、式(*)で計算されるシード層の表皮深さをδ、電解めっき層の表皮深さをδとして、(d/δ+d/δ)の値は、好ましくは1以上であり、より好ましくは2以上であり、更に好ましくは3以上である。
【0126】
図(6B)に示す導波管は、筒状の、フッ素系樹脂を含む樹脂基材11bの外周面に、本発明の一実施形態に係る方法により、導体被覆16を形成して製造される。樹脂基材11bと導体被覆16とは、化合物αを介した界面分子結合に係る化学反応により、強固に化学結合している。導体被覆16は、無電解めっき、蒸着、スパッタ、熱圧着又はペースト塗布により形成される。このようにして形成された導体被覆を更に電解めっきにより厚膜化して導体被覆16を形成してもよいこと、及び、導体被覆16の好適な膜厚については、図(6A)に示す導波管の場合と同様である。
【0127】
図(6C)に示す導波管は、筒状の、フッ素系樹脂を含む樹脂基材11bの内周面に、本発明の一実施形態に係る方法により、導体被覆17を形成して製造される。樹脂基材11bと導体被覆17とは、化合物αを介した界面分子結合に係る化学反応により、強固に化学結合している。導体被覆17は、無電解めっき、蒸着、スパッタ、熱圧着又はペースト塗布により形成される。このようにして形成された導体被覆を更に電解めっきにより厚膜化して導体被覆17を形成してもよいこと、及び、導体被覆17の好適な膜厚については、図(6A)に示す導波管の場合と同様である。
【0128】
<5.回路基板の製造方法(1)>
図7は、本発明の一実施形態に係る回路基板の製造方法の説明図である。フッ素系樹脂を含む樹脂基材1は、図(7A)に示す如く、平板形状に限らず、立体形状を有していてもよい。
(工程S101)
本製造方法においては、まず、樹脂基材1に対して上記の表面処理工程Sstが施される。その結果、樹脂基材1の表面に化合物αが担持された状態となる。
(工程S102)
続いて、図(7C)に示す如く、化合物αが担持された樹脂基材1の表面の、導体被覆により回路パターンを形成するべき面2以外の部分を、養生シート等の保護材3で覆う。
(工程S103)
続いて、その表面の一部が保護材3で覆われた樹脂基材1に対して、上記の無電解めっき処理工程S7を実施して、無電解めっきを行い、保護材3を除去する。その結果、図(7D)に示す如く、樹脂基材1の表面の、導体被覆により回路パターンを形成するべき面2に、無電解めっきにより金属膜4が形成される。金属膜4の厚みは、例えば0.1~0.2μmである。
(工程S104)
続いて、例えばセミアディティブ法により回路パターンを形成する。まず、回路パターンを形成するべき面の上に、液状レジストを塗布する。塗布されて硬化したレジストの上にフォトマスクを載せる。フォトマスクの上から紫外線を照射して、所定の処理を行うと、回路パターン以外の部分にレジストが残る。次いで、電解めっきを施して、図(7E)に示す如く、パターン化された金属膜4aの上に金属層5を形成する。金属層5の厚みは、例えば8~35μmである。ただし、金属層5を35μm以上の厚みとなるように形成し、より大きな電流を流せるようにすることも可能である。最後に、レジストを除去したのち、金属膜4aの、回路配線として不要な部分をエッチング等により除去する。その結果、金属膜4aと金属層5とから構成された回路パターン6が、樹脂基材1の上に形成される。
なお、セミアディティブ法に替えて、サブトラクティブ法により回路パターンを形成してもよい。
【0129】
また、無電解めっきに替えて、熱圧着により樹脂基材1の上に回路パターンを形成することもできる。すなわち、樹脂基材1に対して上記の表面処理工程Sstを施して、その結果、樹脂基材1の表面に化合物αが担持された状態となった後、回路パターンの形状に切り抜かれた金属箔を、上記の熱圧着処理工程S91に記載の方法で、樹脂基材1の回路パターンを形成するべき面2に熱圧着することにより、樹脂基材1の上に回路パターンを形成することができる。
或いは、樹脂基材1に対して上記の表面処理工程Sstを施して、その結果、樹脂基材1の表面に化合物αが担持された状態となった後、樹脂基材1の回路パターンを形成するべき面2に金属箔を、上記の熱圧着処理工程S91に記載の方法で熱圧着し、更に、上記金属箔の表面に液状レジストを塗布して、フォトマスクを介して紫外線を照射してから回路パターン以外の部分のレジストを除去し、続いてエッチングを行うことにより、樹脂基材1の上に回路パターンを形成することもできる。
【0130】
また、無電解めっきや熱圧着に替えて、ペースト塗布により樹脂基材1の上に回路パターンを形成することもできる。すなわち、樹脂基材1に対して上記の表面処理工程Sstを施して、その結果、樹脂基材1の表面に化合物αが担持された状態となった後、上記のペースト塗布処理工程S96に記載の方法により、導電性ペーストを、形成するべき回路パターンの形状に塗布(印刷)し、続いて、上記の焼結硬化処理工程S97に記載の方法により、樹脂基材1の表面に塗布された導電ペーストを焼結硬化させて、当該樹脂基材の表面に導体被覆を形成することができる。
【0131】
なお、樹脂基材1は、少なくとも回路パターンを形成するべき面2がフッ素系樹脂を含む樹脂基材であればよく、他の部分がアルミニウムやポリイミド等の他の材料からなる基材であってもよい。例えば、図(7E’)に示す如く、アルミニウム製の基材1bがフッ素系樹脂1aで被覆されてなる樹脂基材1’に対して、上記のいずれかの方法で、回路パターン6を形成することができる。
【0132】
また、同様の方法で、樹脂基材の表面にパターン状の導体被覆を形成することにより、アンテナを製造することができる。
【0133】
<6.回路基板の製造方法(2)>
図8は、本発明の別の実施形態に係る回路基板の製造方法の説明図である。フッ素系樹脂を含む樹脂基材1は、図(8A)に示す如く、平板形状に限らず、立体形状を有していてもよい。
(工程S201)
本製造方法においては、まず、樹脂基材1に対して上記の表面処理工程Sstが施される。その際には、図(8B)に示す如く、樹脂基材1の回路パターンを形成するべき面2に、パターン状に化合物αの溶液が塗布される。その結果、当該面2には、化合物αが担持された担持領域7と、化合物αが担持されていない非担持領域8とからなるパターンが形成される。担持領域7と非担持領域8とからなる上記パターンの形成には種々の方法があり得る。例えば、インクジェット印刷等の種々の印刷法により、化合物αの溶液(インク)を塗布して上記パターンを形成できる。また、例えば、フォトリソグラフィ等の手法により、当該面2にパターン状の保護層を形成してから、樹脂基材1を化合物αの溶液に浸漬して、保護層で被覆されていない部分にのみ化合物αを担持させてから、保護層を除去することにより、上記パターンを形成できる。
(工程S202)
続いて、前記面2に担持領域7と非担持領域8とからなるパターンが形成された樹脂基材1に対して、上記の無電解めっき処理工程S7を実施して、無電解めっきを行う。その結果、図(8C)に示す如く、前記面2の化合物αが担持された担持領域7にのみ無電解めっきにより金属膜4aが形成され、非担持領域8には金属膜が形成されないため、前記面2に金属膜4aにより回路パターン6が形成される。金属膜4aの厚みは、例えば0.1~2μmである。
(工程S203)
更なる厚膜化が必要な場合には、続いて電解めっきを施して、図(8D)に示す如く、パターン化された金属膜4aの上に金属層5を形成する。金属層5の厚みは、例えば8~35μmである。ただし、金属層5を35μm以上の厚みとなるように形成し、より大きな電流を流せるようにすることも可能である。こうして、金属膜4aと金属層5とから構成された回路パターン6が、樹脂基材1の上に形成される。
【0134】
なお、樹脂基材1は、少なくとも回路パターンを形成するべき面2がフッ素系樹脂を含む樹脂基材であればよく、他の部分がアルミニウムやポリイミド等の他の材料からなる基材であってもよい。例えば、図(8D’)に示す如く、アルミニウム製の基材1bがフッ素系樹脂1aで被覆されてなる樹脂基材1’に対して、上記の方法で、回路パターン6を形成することができる。
【0135】
また、同様の方法で、樹脂基材の表面にパターン状の導体被覆を形成することにより、アンテナを製造することができる。
【実施例0136】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0137】
[1.シート状の樹脂基材に形成しためっき皮膜についての密着性試験]
図9は、本発明の製造方法により、導体被覆(銅めっき皮膜)が形成されたシート状の樹脂基材を作製して、密着性を調べた試験結果を示す表図である。
【0138】
[1-1.使用した樹脂基材]
樹脂基材(試料#1~#10)に対して、図1の全体フロー図に示す本発明の製造方法にしたがって、導体被覆を形成した。各試料は、次のいずれかのフッ素系樹脂を含む樹脂基材である。
基材Y:PTFEフィルム(淀川ヒューテック株式会社製,厚み0.05mm,品番:4600)
基材C:PTFEシート(中興化成工業株式会社製,厚み:1.0mm,品番:MTF-100)
基材N:脱フッ素化PTFEフィルム(日東電工株式会社製,厚み0.18mm,品番:900UL)
基材R:フッ素系複合樹脂フィルム(米国ロジャース社製,厚み0.168mm,品番:RO4350B)
基材Nは、脱フッ素化処理が施されたPTFEフィルムである。基材Rは、PTFE樹脂にガラスクロスを積層させた複合フィルムであり、セラミックフィラーを含有している。
【0139】
[1-2.処理工程]
密着性試験のために、各試料に対して導体被覆(銅めっき皮膜)を形成する目的で行った処理を、図1図4のフロー図を参照しながら説明する。
【0140】
1.脱脂洗浄工程S1
まず、試料を溶剤に浸漬して3分間、超音波洗浄し、乾燥させた。溶剤にはエタノールを使用した。
【0141】
2.前処理工程S2
続いて、試料#7及び#10については脱フッ素化処理工程S21を、試料#8及び#9については酸素プラズマによるプラズマ処理工程S24を実施した。脱フッ素化処理S21においては、株式会社潤工社の「テトラエッチB(低粘度タイプ)」中に、試料を3分間浸漬した。プラズマ処理工程S24においては、酸素流量100mL/分,電力200Wで生成した酸素プラズマ中に試料を2分間留置した。なお、試料#2~#6は、脱フッ素化処理済の樹脂基材であるため、脱フッ素化処理工程S21は実施しなかった。また、脱フッ素化処理S21において、株式会社潤工社の「テトラエッチB(低粘度タイプ)」の代わりに「テトラエッチA(高粘度タイプ)」を用いても、後述する密着性試験の結果に大きな差異は見られなかった。
【0142】
3.前処理後洗浄工程S22
続いて、試料をシリコンクリーナに浸漬して超音波洗浄を行った。
【0143】
4.IMB担持処理工程S3
続いて、試料#3~#10については、試料を、常温の化合物α(IMB剤)のエタノール溶液に30秒間浸漬した後、乾燥させるIMB担持処理工程を実施した。試料#1及び#2については、IMB担持処理工程を実施しなかった。試料#3,#5,#6,#9及び#10については、化合物α(IMB剤)としてIMB-4K(N-(3-トリエトキシシリルプロピル)-4-アジドベンズアミド)を用いた。試料#4,#7及び#8については、化合物α(IMB剤)としてIMB-P(2,4-ジアジド-6-(3-トリエトキシシリルプロピル)アミノ-1,3,5-トリアジン)を用いた。
【0144】
5.後処理工程S4
続いて、試料#3及び#10については、試料を100℃の温度に3分間保持する熱処理工程S44を実施し、紫外線照射処理は行わなかった。試料#4及び#5については、試料を100℃の温度に10分間保持する熱処理工程S44を実施し、紫外線照射処理は行わなかった。試料#6~#9については、試料に、UV-LED照射器から被照射エネルギー200mJ/cmで紫外線を照射する紫外線照射工程S42を実施した。このうち、試料#7~#9については上記紫外線照射の後で、更に、試料を125℃の温度に10分間保持する熱処理工程S44を実施した。
試料#1及び#2については、熱処理工程S44も紫外線照射処理工程S42も実施しなかった。その他の試料については、紫外線照射処理工程S42及び/又は熱処理工程S44の実施後に、試料をエタノールで洗浄する洗浄工程S46を実施した。
【0145】
6.反復処理の判別工程S5
本密着性試験においては、いずれの試料についても反復処理は行わなかった。
【0146】
7.IMB後熱処理工程S6
試料#3,#4,#5及び#7~#10については、上記熱処理工程S44がIMB後熱処理工程S6と見做される。他の試料については、IMB後熱処理工程S6は実施しなかった。
【0147】
8.無電解めっき処理工程S7
続いて、試料に対して無電解めっき処理工程S7を実施して、試料の表面に約0.1μm厚の銅無電解めっき皮膜を形成した。無電解めっき処理工程S7においては、試料をプレディップ液に浸漬するプレディップ工程S71と、続いて、試料をキャタポジット44(ローム&ハース電子材料株式会社製)に浸漬する触媒付与工程S72と、続いて、試料を1v/v%濃度の塩酸に浸漬するアクセラレータ工程S73と、続いて、試料に無電解めっきを施す無電解めっき工程S74と、続いて、めっき応力を低減するために、試料を60分間110℃の温度に保つアニール工程S75と、が実施された。
【0148】
9.電解めっき処理工程S8
無電解めっき処理工程S7を経た試料の外観を観察した後に、試料に電解銅めっきを施す電解めっき処理工程S8が実施された。めっき皮膜の膜厚は20μmであった。
【0149】
[1-3.密着性試験の結果]
電解めっき処理工程S8を経た試料の外観を観察した後に、銅めっき皮膜の剥離試験をJIS Z 0237:2009に基づいて実施した。縦型電動計測スタンドMX2-500N(株式会社イマダ製)にフォースゲージZTA-50Nを取り付け、90°剥離のピール強度試験機を構成した。剥離速度は50mm/分とした。各試料について3つのサンプルを作製して夫々計測を行い、ピール強度の最大値及び平均値を求めた。
【0150】
1.無電解めっき皮膜の外観
試料#1及び#2の外観は、銅無電解めっき皮膜の剥離や膨れがあり、不良であった。試料#3~#10の外観は、銅無電解めっき皮膜の剥離も膨れもなく、良好であった。
【0151】
2.電解めっきの良・不良
試料#1及び#9については、電解めっき皮膜が剥離するか、又は電解めっき皮膜が形成されず、不良であった。試料#2については、電解めっき皮膜は形成されるものの、部分的に電解めっき皮膜が剥離する部分があり、不良であった。
【0152】
3.ピール強度の試験結果
試料#1及び#9については、電解めっき不良のため、ピール強度試験ができなかった。他の試料については、図1の表図に記載したピール強度の試験結果が得られた。
【0153】
4.考察
#2に比べて#3~#6は、ピール強度が高まっている。また、#8、9に比べて#7は、ピール強度が高まっている。このように、脱フッ素化処理がされたフッ素系樹脂を含む樹脂基材に対して所定のIMB剤(化合物α)を塗布する本発明の表面処理方法によれば、フッ素系樹脂を含む樹脂基材と導体被覆との間の接着強度を高めることができることがわかる。
より具体的にこの密着性試験の結果から、次のことが分かる。
第1に、前処理工程もIMB担持処理工程も実施しない場合、試料#1が示すように、フッ素系樹脂基材には、めっき皮膜が形成されない。第2に、前処理工程において脱フッ素化処理を行い、かつ、IMB担持処理工程、及び、後処理工程としての熱処理工程又は紫外線照射処理工程を実施すると、フッ素系樹脂基材に密着性の高いめっき皮膜が形成される。第3に、前処理工程において脱フッ素化処理を行うと、IMB担持処理工程を実施しなくてもフッ素系樹脂基材にめっき皮膜が形成されるが、めっき不良が生じ、めっき外観も悪い。第4に、前処理工程において脱フッ素化処理の替わりに酸素プラズマによるプラズマ処理を行い、かつ、IMB担持処理工程、及び、後処理工程としての熱処理工程又は紫外線照射処理工程を実施しても、試料#8及び#9が示すように、フッ素系樹脂基材に密着性の高いめっき皮膜は形成できない。第5に、前処理工程において脱フッ素化処理を行い、かつ、IMB担持処理工程、及び、後処理工程としての熱処理工程を実施すると、試料#3が示すように、当該熱処理工程が100℃3分間という低温短時間の熱処理であっても、フッ素系樹脂基材に密着性の高いめっき皮膜が形成される。我々の予備的実験結果によれば、化合物αが、種々の芳香環に直接結合したアジド基を有する化合物である場合には、当該熱処理工程が90~110℃,2~15分という低温短時間の熱処理を行う工程であっても、密着性を確保することが可能である。
【0154】
本密着性試験の結果は、例えば、フッ素系樹脂を含む樹脂基材に導体被覆により回路パターンが形成されてなる回路基板やアンテナの製造方法に応用することができる。
【0155】
[2.チューブ状の樹脂基材に形成しためっき皮膜についての密着性試験]
図10は、本発明の製造方法により、導体被覆(銅めっき皮膜)が形成されたチューブ状の樹脂基材を作製して、密着性を調べた試験結果を示す表図である。
【0156】
[2-1.使用した樹脂基材]
樹脂基材(試料#21~#25)に対して、図1の全体フロー図に示す本発明の製造方法にしたがって、その外周面に導体被覆を形成した。各試料は、いずれもPTFEチューブ(淀川ヒューテック株式会社製,外径7.0mm,内径6.0mm,厚み0.5mm,品番:4000)からなる樹脂基材である。
【0157】
[2-2.処理工程]
密着性試験のために、各試料に対して導体被覆(銅めっき皮膜)を形成する目的で行った処理を、図1図4のフロー図を参照しながら説明する。
【0158】
1.脱脂洗浄工程S1
まず、試料を溶剤に浸漬して3分間、超音波洗浄し、乾燥させた。溶剤にはエタノールを使用した。
【0159】
2.前処理工程S2
続いて、試料#22については酸素プラズマによるプラズマ処理工程S24を、他の試料については脱フッ素化処理工程S21を実施した。その方法は、[1-2.処理工程]に記載したものと同様である。なお、脱フッ素化処理S21において、株式会社潤工社製の「テトラエッチB(低粘度タイプ)」の代わりに「テトラエッチA(高粘度タイプ)」を用いても、後述する密着試験の結果に大きな差異は見られなかった。
【0160】
3.前処理後洗浄工程S22
続いて、試料#22については、試料をシリコンクリーナに浸漬して1分間の超音波洗浄を行う前処理後洗浄工程S22を実施した。他の5つの試料については、試料をエタノールに浸漬して5分間の超音波洗浄を行う前処理後洗浄工程S22を実施した。
【0161】
4.IMB担持処理工程S3
続いて、試料を、常温の化合物α(IMB剤)のエタノール溶液に30秒間浸漬した後、乾燥させるIMB担持処理工程を実施した。試料#21については、化合物α(IMB剤)の溶液として、IMB-4K(N-(3-トリエトキシシリルプロピル)-4-アジドベンズアミド)の溶液を用いた。同様に、試料#22については、IMB-P(2,4-ジアジド-6-(3-トリエトキシシリルプロピル)アミノ-1,3,5-トリアジン)の溶液を用いた。試料#23については、IMB-3K(N-(3-トリエトキシシリルプロピル)-3-アジドベンズアミド)の溶液を用いた。試料#24については、IMB-4KB(N,N-ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)-4-アジドベンズアミド)の溶液を用いた。試料#25については、IMB-3KB(N,N-ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)-3-アジドベンズアミド)の溶液を用いた。
【0162】
5.後処理工程S4
続いて、試料に、UV-LED照射器から被照射エネルギー200mJ/cmで紫外線を照射する紫外線照射工程S42を実施した。続いて、試料#22については、後処理工程S4における熱処理工程S44を実施しなかった。また、他の5つの試料については、試料を100℃の温度に10分間保持する熱処理工程S44を実施した後に、試料を30秒間エタノールで洗浄する洗浄工程S46を実施した。
【0163】
6.反復処理の判別工程S5
本密着性試験においては、いずれの試料についても2回の反復処理を行った。すなわち、IMB担持処理工程S3と後処理工程S4は計2回、繰り返された。
【0164】
7.IMB後熱処理工程S6
続いて、試料#22については、試料を150℃の温度に15分間保持するIMB後熱処理工程S6を実施した。他の5つの試料については、2回目の後処理工程S4のおける上記熱処理工程S44がIMB後熱処理工程S6と見做される。
【0165】
8.無電解めっき処理工程S7
続いて、試料に対して無電解めっき処理工程S7を実施して、試料の表面に0.4~0.5μm厚の銅無電解めっき皮膜を形成した。その方法は、[1-2.処理工程]に記載したものと同様である。試料に無電解めっきを施す無電解めっき工程S74は、上記膜厚を実現するため、30℃の温度で15分間を要した。続いて、めっき応力を低減し、かつ、界面分子結合に係る化学反応を進行させるために、試料を60分間110℃の温度に保つアニール工程S75が実施された。
【0166】
9.電解めっき処理工程S8
本密着性試験においては、試料に電解銅めっきを施す電解めっき処理工程S8は実施しなかった。
【0167】
[2-3.密着性試験の結果]
無電解めっき処理工程S7を経た試料の外観を観察した後に、銅めっき皮膜のクロスカット試験をJIS K5600-5,6に準じて実施した。試料のチューブの外表面が曲面であるため、1mm幅,3×5マスで市販の接着テープを用いてクロスカット試験を行った。各試料について3つのサンプルを作製して夫々計測を行い、密着性を評価した。
【0168】
1.無電解めっき皮膜の外観
いずれの試料の外観も、銅無電解めっき皮膜の剥離や膨れがなく、良好であった。ただし、試料#22については、やや光沢性が劣っていた。
【0169】
2.クロスカット試験の結果
試料#21及び#23~#25については、どの格子の目にも剥離がなく、評価分類0の高い密着性が確認された。試料#22については、全面的に大きな剥離が生じており、評価分類4の低い密着性が確認された。
【0170】
3.考察
この密着性試験の結果から、次のことが分かる。
第1に、前処理工程において脱フッ素化処理を行い、かつ、IMB担持処理工程、及び、後処理工程としての熱処理工程並びに紫外線照射処理工程を実施すると、フッ素系樹脂基材に密着性の高いめっき皮膜が形成される。第2に、前処理工程において脱フッ素化処理の替わりに酸素プラズマによるプラズマ処理を行い、かつ、IMB担持処理工程、及び、後処理工程としての熱処理工程並びに紫外線照射処理工程を実施しても、試料#22が示すように、フッ素系樹脂基材に密着性の高いめっき皮膜は形成できない。第3に、フッ素系樹脂基材に密着性の高いめっき皮膜を形成するために、IMB担持処理工程において使用する化合物αとしては、本密着性試験の結果からわかるように、IMB-4K,IMB-3K,IMB-4KB,IMB-3KBなど、各種の化合物αを利用することが可能であり、また、シート状基材についての密着性試験の結果を合わせると、IMB-Pやその他の化合物αを利用することも可能である。
【0171】
本密着性試験の結果は、例えば、フッ素系樹脂を含む樹脂基材に導体被覆が形成されてなる導波管の製造方法に応用することができる。
【0172】
[3.シート状の樹脂基材に熱圧着した金属箔の密着性試験]
本発明の製造方法により、金属箔を熱圧着したPTFEシートを作製して、ピール強度を調べた。PTFEシートは、上記の基材N(脱フッ素化処理済,厚み0.18mm)を用いた。金属箔としては、18μm厚の圧延銅箔を用いた。熱圧着に先立って基材Nに適用した表面処理工程Sstにおいては、脱脂洗浄及び前処理後洗浄を行うことなく、化合物IMB-4K(N-(3-トリエトキシシリルプロピル)-4-アジドベンズアミド)の1質量%エタノール溶液をwet厚20μmで塗布し、被照射エネルギー100mJ/cmの紫外線照射を行った。加熱処理は行わなかった。次いで、導体被覆形成工程Scにおいては、プレス温度180℃、プレス圧8MPa、プレス時間10分で、基材Nの表面に金属箔を熱圧着した。自然冷却後、上記の方法で剥離強度試験を行い、8.0N/cmのピール強度を得た。
【0173】
金属箔として20μm厚の電解銅箔及び20μm厚のアルミニウム箔を用いて、夫々、上記と同様の方法で、金属箔を熱圧着したPTFEシートを作製して、剥離強度試験を行った。ピール強度は順に、8.2N/cm及び6.5N/cmであった。
【0174】
本発明は、上記の実施形態や実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲における種々の組合せ、変形例、設計変更などをその技術的範囲内に包含するものであることは云うまでもない。
【符号の説明】
【0175】
1 樹脂基材
1’ 樹脂基材
1a フッ素系樹脂
1b 基材
2 回路パターンを形成するべき面
3 保護材
4 金属膜(無電解めっき層)
4a 金属膜(無電解めっき層)
5 金属層(電解めっき層)
6 回路パターン
7 担持領域
8 非担持領域
11a 樹脂基材
11b 樹脂基材
16 導体被覆
17 導体被覆
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10