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特開2022-48134胸部の円周方向圧縮と前後方向加圧を併用した機械的心肺蘇生
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022048134
(43)【公開日】2022-03-25
(54)【発明の名称】胸部の円周方向圧縮と前後方向加圧を併用した機械的心肺蘇生
(51)【国際特許分類】
   A61H 31/00 20060101AFI20220317BHJP
【FI】
A61H31/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021149008
(22)【出願日】2021-09-13
(31)【優先権主張番号】17/020,647
(32)【優先日】2020-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】521404004
【氏名又は名称】シーピーアール・セラピューティクス・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100119378
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】ヘンリー ハルペリン
(72)【発明者】
【氏名】ノーマン アラン パラディス
【テーマコード(参考)】
4C074
【Fターム(参考)】
4C074AA03
4C074AA04
4C074BB02
4C074CC13
4C074DD10
4C074EE05
4C074FF01
4C074GG11
4C074HH08
(57)【要約】      (修正有)
【課題】胸部心肺蘇生の円周方向圧縮および前後方向加圧減圧の併用による、心停止および他の低血流状態患者の血行動態および臨床転帰の改善された方法を提供する。
【解決手段】前後方向加圧減圧が、患者上方のガントリーに装着したピストン機序によって提供され、円周方向圧縮が、空気圧式ブラダーの膨張またはバンドの短縮によって提供され、有効性を改善するために、円周方向圧縮および前後方向加圧減圧のオン-オフ配列と相対的力を調節できる構成とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向圧縮CPR中に胸郭の積極的強制減圧を提供するよう設定されたCPR装置であって:
患者の胸郭周囲に適用される少なくとも部分的な円周方向のベスト、及び
ベストの強制膨張と強制収縮を提供するよう設定されたドライブユニット、
を備える上記CPR装置。
【請求項2】
さらに、周方向圧縮CPRベストの外側に胸甲構造を有する請求項1記載のCPR装置。
【請求項3】
胸甲構造は、さらに、膨張時に剛性となる空気圧式ブラダー胸甲を備える請求項2記載のCPR装置。
【請求項4】
胸甲構造は、さらに、積極的強制減圧を提供する固有の弾性復座ばね材料を備える請求項2記載のCPR装置。
【請求項5】
弾性胸甲構造は、さらに、患者の胸部中心から曲線を描いて離れた静止状態を有する請求項4記載のCPR装置。
【請求項6】
胸甲は、さらに、ベストの膨張時に剛性となる機械的構造を備える請求項5記載のCPR装置。
【請求項7】
さらに、円周方向の空気圧式ベストの患者接触面に接着部を有する請求項1記載のCPR装置。
【請求項8】
ベストは、さらに、患者頚部の左右いずれかの鎖骨上領域または肩領域を覆うように適用される空気圧式ブラダーまたはストラップを有する請求項1記載のCPR装置。
【請求項9】
さらに、前胸部の胸骨領域を覆う胸骨空気圧式ブラダーを備え、胸骨ブラダーは、ベストとは別個に膨張および収縮可能であり、かつ、胸骨ブラダーは、円周方向の圧縮ベストとは別個に積極的減圧コンポーネントを提供する胸骨ブラダー胸甲を有する、請求項1記載のCPR装置。
【請求項10】
さらに、胸骨空気圧式ブラダーの積極的膨張と円周方向の空気圧式ベストの積極的膨張および積極的収縮を同期するよう設定されたコントローラーを備え、前記同期は、同時または特定位相オフセットに設定可能である、請求項9記載のCPR装置。
【請求項11】
胸骨空気圧式ブラダーは、さらに、胸骨空気圧式ブラダーのベスト側に剛性の外部シェルを有する請求項9記載のCPR装置。
【請求項12】
さらに、複数のサブチャンバーで構成される円周方向の圧縮ブラダーを備え、空気圧式ドライブユニットによって、1つ以上のサブチャンバーを選択的に膨張および収縮させることが可能になっている、請求項1記載のCPR装置。
【請求項13】
ベストの強制収縮は腹部の積極的圧縮と同期され、前記同期は同時または特定位相オフセットに設定可能である、請求項1記載のCPR装置。
【請求項14】
さらに、インピーダンス閾値装置を備え、ベストの強制収縮はインピーダンス閾値装置と同期される、請求項1記載のCPR装置。
【請求項15】
さらに、ベストの患者接触面に1つ以上のセンサーを有し、ベストの収縮力はセンサーに起因する測定に基づいて調整され、センサーは1つ以上の心電図、加速度計、力変換器、ET-CO2、SPO2、インピーダンス測定器および/または音響マイクロフォンである、請求項1記載のCPR装置。
【請求項16】
胸甲構造は、さらに、バックボードと上部シェルで構成されるフレームを備え円周方向の空気圧式ベストはフレームに装着されている、請求項2記載のCPR装置。
【請求項17】
さらに、ベストの患者接触面に1つ以上のセンサーを有し、さらにコントローラーを有し、コントローラーは感知された生物学的フィードバックに基づいてベストの強制膨張パラメーターを適用するよう設定され、ベストの強制膨張パラメーターの適用は:力/速さの増加、圧縮距離の増加、圧縮頻度の増加、弛緩期の短縮、減圧期の延長及び減圧中の気道閉塞:のうちの少なくとも1つで構成される、請求項1記載のCPR装置。
【請求項18】
ベストの患者接触面に1つ以上のセンサーを有する。ベストの強制収縮は、感知された生物学的フィードバックに基づいて、減圧力の増加、減圧速の増加、減圧頻度の増加、加圧期と相対的な減圧期の延長、積極的減圧の減少、減圧力の減少、減圧速の減少、または減圧期の短縮に適用される請求項1記載のCPR装置。
【請求項19】
さらに、インピーダンス閾値装置を備え、換気パターンは胸郭の積極的減圧期に変化する、請求項1記載のCPR装置。
【請求項20】
ベストの強制膨張または収縮は、患者の体位または患者の頭部、頚部、胸部、腹部、上肢、下肢を含むリストから選択した身体部位の位相変化によってさらに増強される、請求項1記載のCPR装置。
【請求項21】
胸骨空気圧式ブラダーには、選択的に積極的膨張および/または収縮されるサブコンポーネントが含まれる、請求項1記載のCPR装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2019年6月13日に出願された同時係属中の米国特許出願番号第15/180,964号「胸部の円周方向圧縮と前後方向加圧を併用した機械的心肺蘇生」の一部継続出願である。これは、2015年6月12日に出願された同時係属中の米国仮出願番号第62/174,839号「胸部の円周方向圧縮と前後方向加圧を併用した機械的心肺蘇生」の利益を請求するものである。文献を援用して、各出願の全開示内容を本書に組み込む。
【0002】
発明の分野
本書で開示した発明は、一般に心停止またはショック患者の心肺蘇生(CPR)に使用される医療機器、特にCPR中に血行動態を提供または促進する装置の分野に関連するものである。
【背景技術】
【0003】
心停止中、胸郭に外力を適用することによって、順血流を誘導することが可能である(Kouwenhoven、JudeおよびKnickerbocker 1064-67)。これは胸骨領域の胸部正中に徒手的または機械的なピストン様機序による前後方向加圧を提供することによって達成するのが最も一般的である。
【0004】
外的胸部加圧により順血流を達成する具体的な機序は依然として不明である。2つの競合する理論である心ポンプ機序と胸郭ポンプ機序が提唱されている。一般に、胸骨の前後方向加圧により、原則として心ポンプ機序を通して順血流が達成され(Rudikoffら345-52)、円周方向圧縮CPRは胸郭ポンプを通して機能する(Niemannら141-46)と考えられている。
【0005】
これら2つの理論を区別できないことは、両機序が順血流に寄与している可能性を反映している可能性がある。個別患者の身体的性向と生理状態によって、心機序もしくは胸郭機序のいずれかが多かれ少なかれ優勢である可能性がある。
【0006】
古典的前後方向加圧に比べ、円周方向圧縮は胸郭内圧変化が高く、血流が多く、自発循環再開率が高い可能性があることが実証されている(Halperinら2214-20)。こうした圧縮は一般に、円周方向空気圧式ブラダーもしくは半円周方向バンドの膨張により達成される(Halperinら2214-20)。
【0007】
前後方向加圧の有効性は、ピストンのアップストローク中、強制減圧を追加することによって改善される可能性がある(Plaisance、LurieおよびPayen 989-94)。こうした積極的減圧には、胸部へのピストン装置の装着が必要である。これは一般に、ピストン末端に吸引カップ装置に使用することによって達成される。
【0008】
積極的減圧に関連した血行動態の改善は、CPR減圧期の胸郭内陰圧増加によって機械的に媒介された結果として、静脈灌流が促進している可能性がある。胸郭内陰圧と静脈灌流の追加的促進は 、減圧解除期の僅かな気道閉塞によって達成される可能性がある(Aufderheideら734-40; Plaisanceら990-94)。これは一般に、インピーダンス閾値装置と呼ばれるクラッキング弁機序の利用によって達成される。
【0009】
円周方向圧縮装置のほうが前後方向加圧装置よりも優位性が高いが、積極的減圧や気道インピーダンス閾値装置の最適化は不可能である。
【0010】
胸部の円周方向圧縮または前後方向加圧を改善する追加的介入には、昇圧薬による補助療法、腹部の積極的加圧または減圧術(Ralston、BabbsおよびNiebauer 645-51)、コンポーネントと残存心機能の同期術(Paradisら1287-91)などが含まれる。
【0011】
これが初めて説明されてから、心停止、特に突然死の治療としての外的胸部加圧が広く研究され、数々の改良が実施されてきた(心停止:蘇生医療の科学と実践)。こうした多大な努力にもかかわらず、突然死患者の大多数は、蘇生によって自立機能を回復して退院することができなかった。これは、院内で心停止が発生した直後に治療を受けた患者にも当てはまる。医学によって蘇生治療の有効性を改善できないことは、現代医学の大きな謎のひとつである(Paradis 97-99)。
【0012】
機械的CPRは、その着想時から、胸骨の前後方向加圧を提供する装置(Barkalow 509)と胸部全体または一部分で円周方向圧縮を利用する装置(Ongら2629-37)に二分されてきた。本開示以前は、胸骨の前後方向加圧と残りの胸部の円周方向圧縮を併用するというさらに効果的な方法が評価されてこなかった。こうした方法には、心ポンプと胸郭ポンプの両方による血行動態機序が関与する。これらの異なるアプローチの併用できないことが、心肺蘇生の有効性を改善できない背景にあると考えられる。
【0013】
前後方向加圧CPRを提供する装置はよく知られている(McDonald 292-95)(Barkalow 509)。これらは一般に、ガントリーのように動作する構造的アームまたはアーチによって患者前方にピストンを設置する装置である。
【0014】
円周方向および部分的円周方向圧縮CPRを提供する装置はよく知られている(Halperinら762-68)。これらは一般に、患者の前方及び側方に巻きつけるバンドもしくは圧縮する外周部分を有する空気圧式ブラダーを組み込んだものである。どちらの場合も、胸郭に円周方向または半円周方向の力が適用される。
【0015】
強制前後方向減圧を提供する装置はよく知られている(Cohenら2916-23)。胸郭内陰圧および静脈灌流を促進する装置はよく知られている(Plaisance、LurieおよびPayen 989-94)。
【0016】
円周方向または半円周方向に、患者前方にブラダーを組み込んだ装置が存在する(US20070010765 A1)。円周方向力の一部により前後方向加圧が発生する。しかし、この作用は受身的で、前後方向加圧ベクトルで他の半径円周方向圧縮ベクトルより大きな力を発揮する可能性は低い。
【0017】
本開示以前は、前後方向加圧と円周方向圧縮を併用する装置が血行動態と臨床的有効性を促進する可能性が評価されてこなかった。こうしたアプローチは、医学および知的財産の文献には存在しない。また、有効性を最適化する円周方向圧縮および前後方向加圧機序の具体的な関係性についても記述が認められない。
【0018】
加圧力が胸部周囲に適用される円周方向圧縮心肺蘇生(CPR)は、標準胸骨加圧より効果的に順血流を発生させる可能性がある。また、標準胸骨加圧CPRと円周方向圧縮CPRを併用できる可能性がある。様々な実施形態において、ベストCPRによって円周方向圧縮CPRを提供することが可能である。ブラダー含有ガーメント(大きな血圧カフに似たもの)を胸部周囲に装着し、空気圧式ドライブシステムによってベストを周期的に膨張させる。また、様々な実施形態において、ベルトCPRによって円周方向圧縮CPRを提供することが可能である。ベルトを胸郭周囲に装着し、ベルトの円周部分を周期的に縮小および弛緩させる。
【発明の概要】
【0019】
本開示では、心停止または他の低血流状態の患者のCPR血行動態と臨床転帰を胸部の円周方向圧縮および前後方向加圧の併用によって改善する方法について説明する。この方法の有効性は、減圧期における胸部の積極的減圧と完全または部分的気道閉塞によってさらに促進できる可能性がある。
【0020】
前胸部の前後方向加圧を提供するコンポーネントとして、患者上方のガントリーに装着した電動ピストン機序を使用することができる。
【0021】
胸部の円周方向圧縮は、空気圧式装置の膨張、一連の空気圧式チャンバーの膨張、バンド装置の短縮、空気圧式チャンバーと柔軟性のないバンドの併用を含むがこれに限定されない数々の方法によって達成できる可能性がある。
【0022】
胸部の円周方向圧縮および前後方向加圧 は、同時または同時ではない固定位相関係に設定することが可能である。こうしたシステムによって各オン-オフCPR周期内での各コンポーネントのタイミングおよび力を分散させることにより、血行動態の最適化が可能となる。
【0023】
胸部の前後方向加圧を実施するコンポーネントは、円周方向圧縮を提供するコンポーネントに装着できる可能性がある。このようにして、力を共有することができる。あるいは、2つのコンポーネントのいずれかに優先的に力を適用させることも可能である。特定の実施形態において、前後方向加圧機序によって胸骨構造に適用した力と動作が、円周方向圧縮機序によって胸部の他の部分に適用した力より大きくなる可能性がある。
【0024】
実施形態によっては、強制前後方向減圧を提供するために、患者の前胸部に前後方向加圧機序を加える。こうした機序には、ピストンの患者側に装着もしくはピストン自体に組み込ん吸引カップを使用することが可能である。
【0025】
一般に、胸部の円周方向圧縮および前後方向加圧用の機械的力または空気圧式力は、電気的、機械的または空気圧式サブシステム単独または併用によって提供可能であることが予想される。
【0026】
円周方向または半円周方向圧縮は、内周全体または一部分に膨張可能な空気圧式チャンバーを有するバンド単独、円周方向空気圧式ブラダーまたは一連のブラダー、空気圧式プラッターとベルトの併用、もしくは下記で説明するベルトを含む他の可能性によって提供可能である。
【0027】
本発明によって、他のものと比較して、胸部の一部に差動力を適用することが可能となる。これによって、差異のある部分を患者の胸部の中心方向に向かってさらに加圧および圧縮することができる。様々な実施形態において、1)円周方向圧縮機序および前後方向加圧機序の両方を同時に開始し、2)前後方向加圧機序による加圧が完了する前に円周方向圧縮機序による圧縮を完了し、3)大きな力で前後方向加圧を延長して、胸骨構造を胸部の他の部分よりも患者の胸部の中心方向に移動させることが可能である。
【0028】
CPR中の順血流が、静脈灌流の増加によって促進され、さらにCPR弛緩期中の胸郭内陰圧増加によって促進される可能性がある。胸郭内陰圧の促進は、胸部の強制外方減圧によって達成可能である可能性がある。円周方向圧縮CPRの既存の方法と装置は、胸部の積極的減圧を提供しない。
【0029】
CPRの有効性は、静脈灌流の改善によって高めることができ、より多くの血液が心拍出量に利用可能となる。積極的減圧によって心臓に血液を引き込むことにより、静脈灌流を改善することが可能である。圧縮の合間に患者の胸郭を外方に牽引することにより、積極的減圧を提供して静脈灌流を増加させることが可能である。空気圧式円周方向圧縮を含む機械的CPRの実施形態では、ベストの積極的収縮によって胸郭を外方へ牽引し、胸部の積極的減圧を達成することが可能である。様々な実施形態において、円周方向圧縮メンバーを構造的胸甲に固定して、減圧中に円周方向メンバーを患者の胸郭外方に牽引することが可能である。様々な実施形態において、膨張時に剛性となる、内圧を周期的に変化させない膨張可能なブラダーを通して構造的胸甲を達成することが可能である。こうした空気圧式ブラダー胸甲は、円周方向圧縮CPRベストを積極的に膨張および収縮させる同一の空気圧式ドライブシステムによって膨張させることが可能である。円周方向圧縮CPR空気圧式システムと空気圧式ブラダー胸甲の間に一方向弁を設置することにより、CPR開始時に空気圧式ブラダー胸甲を自動的に膨張させることができる。
【0030】
様々な実施形態において、円周方向圧縮CPR中に胸郭の強制減圧を提供する装置に、患者の胸郭周囲の円周方向空気圧式ブラダーベスト、ベストの強制膨張を提供する空気圧式ドライブユニット、強制収縮を提供する空気圧式ドライブユニット、構造的胸甲を含めることが可能である。
【0031】
本発明に関する下記の説明については、添付図面を参照されたい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】患者、ガントリー、前後方向加圧機序、マルチブラダー空気圧式円周方向圧縮機序、バックボードの横断像である。
【0033】
図2】患者、ガントリー、前後方向加圧機序、ベルト-バンド円周方向圧縮機序、ローラーモーター、バックボードの横断像である。
【0034】
図3】例示した実施形態に基づく円周方向圧縮CPRシステムの模式図である。
【0035】
図4A図3の患者と例示した実施形態に基づく円周方向圧縮CPRシステムの図3の横断線4A-4Aに沿った横断像である。
【0036】
図4B】胴体に例示した実施形態に基づく積極的減圧を適用した患者の横断像である。
【0037】
図4C】胴体に例示した実施形態に基づく円周方向圧縮ベストを装着した患者の側面像である。
【0038】
図5】例示した実施形態に基づく空気圧式胸甲を装着した患者の横断像である。
【0039】
図6A】例示した実施形態に基づくハードシェル胸甲を装着した患者の横断像である。
【0040】
図6B】例示した実施形態に基づく、機械的ピストンを内蔵したハードシェル胸甲を装着した患者の横断像である。
【0041】
図7】例示した実施形態に基づく、ハードシェル胸甲と複数の空気ブラダーを内蔵する円周方向圧縮システムを装着した患者の横断像である。
【0042】
図8】例示した実施形態に基づく自動化CPRの実施方法を示したフローチャートである。
【0043】
図9A】例示した実施形態に基づく、ローカライズした胸骨ブラダーを内蔵する円周方向圧縮CPRシステムを装着した患者を上から見た模式図である。
【0044】
図9B図9Aの例示した実施形態に基づくローカライズした胸骨ブラダーを内蔵する円周方向圧縮CPRシステムを装着した患者の横断線9B-9Bに沿った横断像である。
【0045】
図10】例示した実施形態に基づく、複数のサブコンパートメントを有する胸骨ブラダーを内蔵した円周方向圧縮CPRシステムを装着した患者を上から見た模式図である。
【0046】
図11】例示した実施形態に基づく、肩ブラダーを内蔵した円周方向圧縮CPRシステムを装着した患者を上から見た図である。
【0047】
図12】例示した実施形態に基づく、胸郭ベストと腹部ベストを内蔵した円周方向圧縮CPRシステムを装着した患者の遠近像である。
【0048】
図13】例示した実施形態に基づく、構造的フープ付きの円周方向圧縮CPRシステムを装着した患者の遠近像である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
本開示には、一般に心停止または他の低血流状態の患者の血行動態と臨床転帰の改善を意図したシステム、方法または装置が含まれる。これには、円周方向圧縮および前後方向加圧を併用したCPRの提供が含まれる可能性がある。これには、積極的減圧と血液の心臓への静脈灌流を改善するCPRの提供が含まれる可能性がある。
【0050】
本システムには複数のコンポーネントが含まれることが予想される。
【0051】
ひとつの実施形態では、本システムおよび方法の非限定的な例に、図1および2に示した下記の特徴が含まれる可能性がある。
【0052】
1. 他のコンポーネントに対して最適な配置で患者の胸部9を維持する種々のバックボード8。
【0053】
2. 患者の胸部の前後方向加圧を提供するピストン様装置1、2、3。
【0054】
3. 強制減圧3、4を提供するために、ピストン3を患者の胸部9に装着する機序。これは吸引カップや同様の装置でもよい。
【0055】
4. 患者の前方または上方でピストンを定位置に固定する構造的ガントリーまたはアーチ5。
【0056】
5.円周方向圧縮を提供するための円周方向または半円周方向バンド12または空気圧式ブラダー7、10。
【0057】
6.ピストン機序2と円周方向機序13の両方で、前後方向加圧および円周方向圧縮を提供するコンポーネントに力またはエネルギーを提供する方法。
【0058】
本発明のコンポーネントは、十分ではあるものの、本発明の文脈で互換性がある。本発明の性能を最適化するために、これらのコンポーネントの様々な実施形態を利用できる可能性がある。
【0059】
また、制限するためではなく説明する目的で、非限定的な例を通して、以下の様々な実施形態が考えられる。
【0060】
頭部、患者の胸部9、腹部、肢の幾何学的関係の変更が可能なヒンジ付きのバックボード8。
【0061】
円周方向空気圧式圧縮器の一部を患者の胸部後面10に接するバックボードの一部に適用できる可能性がある。
【0062】
患者の胸部に対する空気圧式圧縮器機能の適用と効果を最大化するために、ガントリーは形状に合わせて調節することが可能である。前後方向加圧機序の位置とベクトルが調節できるよう、患者上でガントリーの位置を調節することができる。
【0063】
患者の胸部の左右いずれかの調節可能な垂直側方支柱群。それぞれ、支柱と患者の胸部側面の間に円周方向空気圧式圧縮器の一部分が接している。これにより、患者の胸部に対する空気圧式圧縮器機能チャンバーの適用と効果を最大化するために、形状と位置に合わせた調節が可能となる。
【0064】
患者の前胸部および胸部側面に巻いて前後方向加圧および円周方向圧縮の両方に寄与可能なバンド装置12。有効性をさらに高めるために、円周方向空気圧式圧縮器システムの一部をバンドの一部に適用できる可能性がある。これは、患者の胸部に対する空気圧式圧縮器機能チャンバーの適用と効果を最大化するために、形状に合わせて調節可能である。バンド自体12は、モーター13または機械的装置に装着して、長さを強制短縮して胸部圧縮することが可能である。
【0065】
胸部の前後方向加圧が可能なピストンコンポーネント3。これは、患者の矢状遠心点(最も多いのは前胸部正中)でモーター2、機械的または空気圧式装置に装着可能である。ピストンのベクトル力を変更できるよう、ガントリー5およびガントリー自体への装着が調節可能である。ピストンが上方向の減圧力すなわち積極的減圧を適用できるよう、ピストンの患者側は患者の胸部に装着可能である。これは、吸引カップや接着性コンポーネント3、4によっても達成可能である。
【0066】
圧縮バンド12、13およびピストン1、3に力を伝達できる機械的システム。
【0067】
空気圧式円周方向圧縮システム7のチャンバーに膨張-収縮を伝達できる空気圧式システム。
【0068】
組織灌流と蘇生成功の確率を改善できるよう、組織灌流の指標と加圧および圧縮システムのパラメーター変更が利用可能なフィードバックコントロールコンポーネント。
【0069】
電気的除細動による自発循環再開の尤度が増加するよう、胸部加圧または圧縮の力またはタイミングの変更が可能なコントロールコンポーネント。
【0070】
胸部加圧または圧縮を停止することなく、胸部加圧または圧縮周期の特定時点で電気的除細動の提供が可能なコンポーネント。
【0071】
システムの有効性を改善するための、3面ガントリー付き空気圧式ブラダーのエンクロージャーの特定の改良。容量が著しい拡張性をもつよう、ブラダーにはアコーディオン様機序を組み込むことができる。ガントリーの側壁は、ガントリーと患者の胸部の間の空隙を最小限に抑えられるよう調節することができる。通常の技術を有する実務者でも、空気圧式ブラダーの容量と剛性を知ることができる。アコーディオン側の特性と、ブラダー側とガントリー5の調節可能な側の摩擦の度合いから、円周方向圧縮機序の力と速さを特定することができる。
【0072】
前後方向加圧-減圧ピスト3と円周方向圧縮機序のガントリー部分7を統合する特定の追加的改良。これは、ガントリー構造内出の統合となる可能性がある。
【0073】
積極的減圧機序の装着能の構築は、硬化した半球または鐘様構造3内の柔軟性のある隔膜4という手段による可能性がある。これにより、積極的減圧および円周方向圧縮機序の両方のコンポーネントとして機能的に寄与することが可能となる。隔膜上に陰圧を適用することにより、積極的減圧の装着-接着能が発揮される。隔膜上に陽圧ガスを適用することにより、前胸部正中を追加的に加圧し、前後方向加圧に寄与することが可能である。
【0074】
様々な実施形態において、以下を明らかにすべきである。
【0075】
1. 胸部の積極的減圧の有無を問わず、特定の実施形態で、胸部の円周方向圧縮および前後方向加圧を併用することができる。また、気道の完全または一部閉塞14によって、胸部加圧周期の固定期に本方法の有効性がさらに促進される。
【0076】
2. 実施形態によっては、胸部の前後方向加圧を実施するコンポーネントを円周方向圧縮を提供するコンポーネントに装着する。
【0077】
3. 実施形態によっては、胸部に対して力を不均一に適用できるよう、円周方向圧縮バンドに力を提供する機序を変更及び調節する可能性がある。胸部で圧縮により血流への効果が強くなる部分で力と圧縮を強くする。これは、特定の実施形態では、バンドと患者の独立的な機序によって達成される。
【0078】
4. 実施形態によっては、胸部の円周方向圧縮と前後方向加圧が機械的または電気的残存心活動の指標と固定的位相関係にある。
【0079】
5. 実施形態によっては、追加的な有効性を改善するために、円周方向圧縮および前後方向加圧のオン-オフ配列を調節する可能性がある。ある実施形態では、前後方向加圧の前に円周方向圧縮が発生したり、その反対のことが発生したりする。
【0080】
6. 実施形態によっては、昇圧薬の投与によって、胸部の円周方向圧縮および前後方向加圧の有効性が増強される。
【0081】
7. 実施形態によっては、同時または位相腹部拘束または腹部加圧によって胸部の円周方向圧縮および前後方向加圧の有効性が増強される。
【0082】
8. 実施形態によっては、円周方向圧縮または胸部の前後方向加圧のための機械的力または空気圧式力を電気的、機械的または空気圧式サブシステム単独または併用で提供する可能性がある。
【0083】
9. 実施形態によっては、内周全体または一部分に膨張可能な空気圧式チャンバーを内蔵するバンドによって円周方向圧縮が提供される。
【0084】
10. 実施形態によっては、バックボードに円周方向圧縮機序の一部分が適用される。有効性を促進するために、バックボードと患者の間の空気圧式ブラダー部分が前後方向加圧ピストン機序と同時に膨張する。
【0085】
11. 実施形態によっては、患者の左右いずれかでバックボードに接続している調節可能な垂直側方柱16に接続された空気圧式チャンバーの膨張によって、円周方向圧縮の一部分が提供される。これらは、胸部を固定させるために、前後方向加圧が始まる前に膨張する可能性がある。
【0086】
12. また、実施形態によっては、胸部の前後方向加圧を提供するコンポーネントが円周方向バンドの前方部分に力を提供する。
【0087】
13. 実施形態によっては、システムに、その有効性の指標となるバイオマーカーを感知できるコンポーネントが含まれる。このバイオマーカーは、他の機序のオン-オフ配列を制御する可能性がある。
【0088】
14. 実施形態によっては、胸部の円周方向圧縮および前後方向加圧のタイミングと力を制御するフィードバック機序の使用によってシステムの有効性が増強する。
【0089】
15. 実施形態によっては、胸部の形状にさらに正確に合うよう、前後方向加圧または円周方向圧縮機序を形状または構成に合わせて調節する。
【0090】
16. 実施形態によっては、前後方向圧縮機序の位置またはベクトルを調節するフィードバック機序の使用により、システムの有効性が増強する。
【0091】
17. 実施形態によっては、前後方向加圧を提供する機序によって前胸部正中の加圧に適用される力と偏位が、円周方向圧縮機序により残りの胸部に適用される力と距離よりも大きい。
【0092】
18. 実施形態によっては、システムに胸部加圧または圧縮を停止することなく電気的除細動の提供が可能なコンポーネントが含まれる。このコンポーネントの正負のリードをピストンまたは円周方向圧縮バンドの患者側に適用する可能性がある。複数のリードにより、複数のベクトルで同時に除細動が可能となる。
【0093】
19. 実施形態によっては、システムに胸部加圧または圧縮周期の特定時点で電気的除細動の提供が可能なコンポーネントが含まれる。
【0094】
20. 実施形態によっては、電気的除細動による自発循環再開の尤度が増加できるよう、システムに胸部加圧または圧縮の力またはタイミングの変更が可能なコンポーネントが含まれる。
【0095】
21. 実施形態によっては、システムに、頭部、胸部、腹部、肢の幾何学的関係の変更が可能なヒンジ付きバックボードが含まれる。
【0096】
22. 実施形態によっては、システムの患者の胸部の左右いずれかに、調節可能な側方支柱群が含まれる。それぞれ、支柱と患者の胸部側面の間に円周方向空気圧式圧縮器の一部分が接している。これは、形状と位置に合わせた調節が可能である。
【0097】
23. 実施形態によっては、前後方向加圧を提供する機序が患者上のガントリーに付属している。このガントリーを開いて、患者をバックボード上に載せることができる。また、ガントリーを閉じると、機械的に円周方向圧縮機序が働く。
【0098】
24. 実施形態によっては、容量が著しく拡張して患者の胸部を加圧できるよう、中空の3面ガントリーとアコーディオン様機序に空気圧式ブラダーが内蔵される。ガントリーの側壁は、ガントリー末端と患者の胸部の間の空隙を最小化できるよう調節可能である。
【0099】
25. 実施形態によっては、前後方向加圧-減圧ピストンと円周方向圧縮機序のガントリー部分がガントリー内で統合されている。
【0100】
26. 実施形態によっては、前後方向加圧-減圧ピストンの患者側表面と円周方向圧縮機序に力センサーを適用される。これらのセンサーからの信号が、機序の力の調節に使用される。
【0101】
27. 実施形態によっては、積極的減圧機序の接着能が硬化した半球構造内の柔軟な隔膜という手段によって達成される。隔膜上で陰圧を適用することによって、積極的減圧の接着能を発揮することができる。隔膜上に陽圧ガスを適用することにより、前胸部正中を追加的に加圧することが可能である。
【0102】
28. 実施形態によっては、腹部を位相加圧15する追加的機序を有する。
【0103】
29. 実施形態によっては、力の位置とベクトルを変更できるよう、前後方向加圧機序を有する構造を患者の胸部に対して移動することができる。
【0104】
30. 実施形態によっては、追加的コンポーネントにより、胸部加圧または圧縮を停止することなく、胸部加圧圧縮周期の最適化された特定時点で電気的除細動が提供される。
【0105】
31. 実施形態によっては、前後方向加圧を提供する機序によって前胸部正中の加圧に適用される力と距離が、円周方向圧縮機序により残りの胸部周囲部分に適用される力と距離よりも大きい。
【0106】
32. 実施形態によっては、胸部の形状にさらに正確に合うよう、前後方向加圧または円周方向圧縮機序を形状と構成に合わせて調節可能である。
【0107】
33. 実施形態によっては、前後方向加圧-減圧ピストンと円周方向圧縮機序のガントリー部分が、ガントリー内で統合されている。
【0108】
34. 実施形態によっては、ベルトが円周方向圧縮機序となっている。このベルトは、前後方向加圧機序側面の1末端と患者の左右いずれかでモーターに接続されているもう一方の末端に接続されており、バックボード内で統合されている。
【0109】
自発循環と同様に、CPR中の動脈循環における順血流は、静脈血管系を介して中心循環に戻ってくる血液量に限定されている。CPR中の静脈灌流の促進は、心拍出量と全順血流を改善することができる。静脈灌流の促進は、全身から心臓に戻ってくる血液量が増加することを意味し、心臓に戻ってきた追加的血液量によって、心拍出量に利用できる血液量が増加し、CPR中の心拍出量が改善する。様々な実施形態において、機械的CPRには、心拍出量のための胸部加圧ピストンが含まれる可能性がある。様々な実施形態において、空気圧式ブラダーベストまたはベルトを使用した円周方向圧縮によって、機械的CPRを達成することが可能である。様々な実施形態において、胸骨加圧CPRと円周方向圧縮CPRを併用することが可能である。
【0110】
機械的胸骨加圧CPRの適用中、積極的胸骨減圧を提供することによって、静脈灌流と心拍出量を促進することが可能である。こうした積極的減圧には、ピストン装置の胸部への接着が含まれる可能性がある。様々な実施形態において、これは、ピストン末端の吸引カップまたは他の吸引装置の使用によって達成することも可能である。胸部に固定したピストンの引き戻しによって、胸部加圧の合間に胸部を上方に牽引することによって、胸部の積極的減圧が可能となる。
【0111】
円周方向圧縮CPRには、CPR中に患者の胸部の圧縮により適用される加圧力が含まれる可能性がある。この円周方向圧縮CPRは、標準胸骨加圧よりも効果的に順血流を発生させる可能性がある。様々な実施形態において、ベストCPRによって円周方向圧縮CPRを提供することが可能である。胸部周囲にブラダー内臓ガーメント(大きな血圧カフのようなもの)を設置し、空気圧式駆動システムによってベストを周期的に膨張させることが可能である。また、様々な実施形態において、ベストCPRによって円周方向圧縮CPRを提供することが可能である。ベルトを胸郭周囲に設置し、ベルト周囲部分を周期的に短縮および弛緩させる。また、胸部の積極的減圧により改善された静脈灌流が、円周方向圧縮CPRの有効性を促進する。しかし、現在のバージョンのベストおよび/またはベルトCPRは、積極的胸郭減圧適用による静脈灌流促進を提供しない。
【0112】
図3は、例示した実施形態に基づく円周方向圧縮CPRシステムの模式図である。円周方向圧縮CPRシステム100には、少なくとも1つの空気ブラダーを内蔵するベスト110が含まれる可能性がある。円周方向圧縮CPRシステム100は、空気などの流体でブラダーを強制膨張させる空気圧式駆動ユニット120を装備する可能性がある。本書で説明されている円周方向圧縮CPRシステム100は空気などのガスを空気圧式システム内の流体として使用するが、水や油、他の流体で操作される流体圧システムおよび希ガスといった他の流体も具体的に想定していることを明らかにすべきである。様々な実施形態において、本書で説明した空気圧式システムは流体圧システムであることが可能である。
【0113】
空気圧式駆動ユニット120は、チューブ112を介してベスト110に空気を強制的に出入りさせることで1つ以上のブラダーを急速に膨張および収縮させることが可能である。米国心臓協会が定めたCPRガイドラインに準拠して、もしくはCPRの種類に応じた代替速度あるいは閉ループ制御に適応した代替速度に基づいて機械的CPRを提供するために、ベストを膨張および収縮させる。米国心臓協会ガイドラインに準拠して、毎分約60~130周期の範囲でベストを膨張および収縮させることが可能である。具体的には、ベストを毎分約100周期で膨張および収縮させることが可能である。ベストを各圧縮周期で急速に強制膨張させ、各圧縮後に急速に強制収縮させる。CPRシステム100にはベスト110の膨張および収縮を切り替えられる膨張/収縮弁118が含まれる可能性がある。
【0114】
円周方向圧縮CPRシステム100には気道閉塞器116が含まれる可能性がある。ベストの積極的収縮中に、気道閉塞器116を制御して患者の気道を閉塞させ、胸郭内陰圧と静脈灌流をさらに促進することが可能である。胸郭内陰圧および静脈灌流の追加的促進は、標準胸骨加圧CPR時の減圧解除期に、僅かに気道閉塞することよって達成可能である。これは、インピーダンス閾値装置と呼ばれるクラッキング弁機序の閉塞器を利用することによって達成可能である。胸郭内陰圧の度合いと静脈灌流を増加させるために、患者の気道閉塞と胸部の積極的減圧を同期させることが可能である。
【0115】
円周方向圧縮CPRシステム100のベスト110内側患者面には、1つ以上のセンサー114が設置される可能性がある。センサー114には、心電図、加速度計、力変換器、ET-CO2センサー、SPO2センサー、インピーダンスセンサーおよび/または音響マイクロフォンが含まれる可能性がある。患者160周囲の様々な位置に、1つ以上のセンサー114が設置される可能性がある。また、感知されたデータは生物学的フィードバックと呼ばれ、CPRシステムのコントローラー130によって受信される。コントローラー130は、感知したデータに応じて、様々なパラメーター(圧縮力、圧縮速、圧縮距離/各周期中に移動する流体量、圧縮頻度、各周期における加圧期持続時間、積極的収縮力、各周期における減圧期持続時間、各周期における弛緩期持続時間および/または減圧中の気道閉塞)を自動調節することが可能である。コントローラー130は、駆動ユニット120の操作を制御することによって、パラメーターを調節することが可能である。コントローラーにはプロセッサー132が含まれ、プロセッサー132は力制御モジュール134、速さ制御モジュール136、流体量制御モジュール138、位相性頻度制御モジュール140、加圧期タイミングモジュール142、弛緩期タイミングモジュール144、減圧期タイミングモジュール146、気道閉塞制御モジュール148、膨張/収縮弁制御モジュール150および/または監視モジュール152を装備する可能性がある。監視モジュール150は、制御モジュールが感知されたデータに応じてパラメーターを自動調節できるよう、1つ以上のセンサーを監視することが可能である。コントローラー130は、キーボードおよび/またはタッチ画面を含むユーザーインターフェース170に操作的な接続が可能である。
【0116】
CPRシステム100のベスト110には、除細動電極156が含まれる可能性がある。除細動電極156はゲル除細動電極である可能性があり、ゲル除細動電極はベストの患者接着面に組み込むことが可能である。除細動のタイミングは、CPRの膨張および収縮周期と連携可能である。除細動は、除細動制御モジュール154によって制御可能である。
【0117】
図4Aは、図3の患者と例示した実施形態に基づく円周方向圧縮CPRシステムの、図3の横断線4A-4Aに沿った横断面である。ベスト110には、空気圧式駆動ユニットによって空気などの流体が充填されるブラダー202が少なくとも1つ含まれる。ブラダーの外周部分208は膨張不可能である。ブラダー202に流体を充填することにより、ベスト内面が患者160周囲を締め付け、心拍出量が発生する。ブラダー202に流体が充填されると、ベスト204の内面が矢印206に沿った力ベクトルによって患者160に押し付けられる。ベスト110には開閉可能な継ぎ目210があり、血圧カフのように患者周囲に固定することが可能である。継ぎ目210には、患者周囲に固定するための面ファスナーや他の手段が含まれる可能性がある。ベストの円周方向圧縮CPR機序では、空気圧式駆動ユニットが膨張のための陽圧ガスを提供する可能性がある。
【0118】
様々な実施形態において、ベスト110のような円周方向圧縮メンバーを胸甲などの構造的支持メンバー内面に固定することが可能である。胸甲は、ベストの積極的収縮によって患者に遠心牽引力がかけられるように、剛性の支持構造を提供することができる。ベスト外面を胸甲などの剛性構造に固定することにより、ベストに内蔵された1つ以上のブラダーが強制収縮した際、ベスト内面が患者を外方に牽引できるようになる。胸甲を使用することによって、胴体の前面または周囲に剛性構造を提供することによって、胸郭内陰圧増加を達成するために、強制収縮および減圧効果を増強することができる。様々な実施形態において、剛性の支持構造を形成するために、構造的胸甲には充填時に空気圧下で剛性となる膨張可能なブラダーが含まれる。こうした空気圧式ブラダー胸甲は、円周方向圧縮CPRベストを積極的に膨張および収縮させる同一の空気圧式駆動システムから膨張させることができる。円周方向圧縮CPR空気圧式システムと空気圧式ブラダー胸甲の間に一方向弁を設置することにより、CPR開始時に空気圧式ブラダー胸甲を自動膨張させることができる。
【0119】
図4Bは胴体を積極的に減圧した患者の横断図である例示した実施形態に基づく。ベスト110内側の患者面220は、患者160に直接接触可能である。様々な実施形態において、ベストの患者面220には、ベストを患者に接着させる接着部222が含まれる可能性がある。様々な実施形態において、ベスト内面は、内面220の患者160への接着を表面張力によって増加させるハイドロゲル224または他の流体の層を装備する可能性がある。様々な実施形態において、積極的収縮がベストと皮膚の間に真空を発生させ、これによって積極的胸郭減圧が促進される。
【0120】
円周方向圧縮CPRシステムには、空気圧式駆動ユニットによるブラダー202の急速収縮によって提供される積極的減圧が含まれる可能性がある。膨張-収縮チューブおよび弁は、1)実際のあるいは相対的な真空圧、2)ブラダーに対する大気圧より低い圧力、3)ブラダー内圧より低い圧力を適用することによって、ベストの積極的収縮を提供することが可能である。こうした相対的真空の適用によって、膨張に用いた陽圧ガスの受動的弛緩よりも急速にブラダーを収縮させることができる。空気圧式駆動ユニットによってブラダー202が急速収縮すると、ベスト外面の前方または周囲でベストの患者面220が外方の支持構造または胸甲240に向かって牽引され、力ベクトルの矢印230に沿って患者に外方力が働く。収縮したブラダーが患者面220を患者160から離れて胸甲240に向かって牽引できるよう、ブラダー202の外面は胸甲240によって固定された形状に維持される可能性がある。言い換えると、ブラダーが空気圧式駆動ユニットによって収縮する際、患者面220は患者を力ベクトル230に沿って外方に牽引することができる。患者を外方に牽引することによって、患者に積極的減圧が提供され、静脈灌流が増加する。患者面220は、ブラダー収縮時に患者面220と患者160の間に発生する1つ以上の接着性表面張力および/または部分真空によって提供される接着機能を介して、患者を外方に牽引することができる。
【0121】
様々な実施形態において、胸甲は、本質的な復元性および/または弾力性を持つ素材で製作することができる。胸甲は加圧により変形し、胸甲が元の形状に跳ね返る際に積極的減圧力を提供することができる。こうすると、復元性または弾力性のある胸甲が各積極的加圧後にエネルギーを還元するため、積極的減圧にかかるエネルギー費用が削減される。様々な実施形態において、胸甲の凸型内部の湾曲形状が、元の形状に跳ね返る際に、胸甲に追加的弾力性を与える。胸甲は、静止状態では、患者の胸部の中心から曲線を描いて離れた形状をとる.
【0122】
図4Cは、患者の胴体に例示した実施形態に基づく円周方向圧縮ベストを装着した側面像である。様々な実施形態において、患者とベストの患者面の空隙に気流が流入するのを制限するために、ベストの上下端にはカフ、圧縮あるいは他の密封または部分的密封が含まれる可能性がある。様々な実施形態において、ベストは患者周囲に巻き、おおよそ頭側胸骨切痕270から尾側剣状突起272までを覆う。ベスト110には、おおよそ頭側胸骨切痕の高さで患者160周囲を固定する上側密封250が装備されている可能性がある。上側密封250は、患者とベストの患者面の空隙に空気が流入するのを防ぐために患者に巻き付ける。上側密封には、膨張可能なカフ252および/または接着部254が含まれる可能性がある。ベストには、おおよそ側剣状突起272または肋骨下縁の高さで患者周囲でベストを固定する下側密封260が装備されている可能性がある。下側密封260は、患者とベストの患者面の空隙に空気が流入するのを防ぐために患者に巻き付ける。下側密封260には、膨張可能なカフ262および/または接着部264が含まれる可能性がある。上側密封と下側密封は、ベストの患者への固定の維持および/またはベスト収縮時の胸郭外陰圧の提供に役立ち、これによって積極的減圧中にベストが胸郭を外方に牽引する。積極的減圧中にベストが胸郭を外方に牽引すると、胸郭内陰圧が発生する。
【0123】
積極的減圧により胸郭内陰圧が増加して静脈灌流が改善し、血液を末梢静脈系から心臓または胸部に引き戻すのに役立つ。CPR減圧中に、胸郭を拡張するために胸部に適用される外方力によって積極的減圧を適用することで、静脈灌流が促進される。積極的強制減圧で胸郭領域が拡大すると、静脈灌流の促進も大きくなる。円周方向圧縮領域で積極的強制減圧を実施することにより、ピストンに基づく機械的CPRで患者の胸骨に接触するピストン領域に限局した積極的減圧よりも、良好な静脈灌流を提供することができる。円周方向圧縮メンバーによる圧縮の合間における患者の胴体の外方牽引により、積極的減圧が提供され、静脈灌流が増加する。幾つかの実施形態では、円周方向ベストの積極的収縮を介した胸部の積極的減圧により発生する胸郭内陰圧促進は、局所におけるピストン機序を介した積極的胸骨減圧により達成される胸郭内陰圧促進よりも大きい。
【0124】
これら両者の円周方向圧縮CPR、ベルトおよび/またはベストは、圧縮装置に外方力を提供させる構造的メンバーの恩恵を受ける。胸甲は、胴体周囲に構造を与える剛性形状である。様々な実施形態において、この胸甲の構造的能力は、構造的剛性を達成するのに十分な圧力を発揮する円周方向圧縮ベスト外部の空気圧式ブラダーの膨張によって発生する。様々な実施形態において、胸甲は、胸甲の前方が胴体の上方で固定されるよう患者の胴体に巻かれ、収縮するベストが胴体を外方牽引できるよう収縮するベストに固定点を提供する。様々な実施形態において、胸甲の一部分を収縮するベストの固定点として胴体上方に設置することができる。胸甲を固定するために、胸甲のこの部分を地面に静置した様々な支持で固定したり、バックボードや他の手段に固定したりすることができる。
【0125】
1つ以上のセンサーで収集されコントローラーに提供された灌流のバイオマーカーに基づく閉ループフィードバック機序の手段によって、加圧または減圧の力またはタイミングを適用することにより、CPRの有効性を促進することができる。1つ以上のセンサーで収集されコントローラーに提供された灌流のバイオマーカーに基づく閉ループフィードバック機序による加圧、減圧および/または換気の同期パターンの適用により、CPRの有効性が促進される可能性がある。胸郭の積極的減圧期に、換気パターンが変化する可能性がある。説明したバイオマーカーは、心電図(ECG)、呼気終末CO2(ET-CO2)、組織酸素の近赤外線分光法に基づく測定またはプレチスモグラフィー、インピーダンスなどに由来する可能性がある。CPRの性能を最適化するために、コントローラーは、灌流の1つ以上のバイオマーカーで測定されたバイオマーカーフィードバックに基づく加圧および/または減圧のパラメーターを適用することができる。自動化CPRの力は機械的もしくは空気圧式に発生し、コントローラーはCPRの性能を最適化するためにその力を適用することができる。
【0126】
図5は、患者と例示した実施形態に基づく空気圧式胸甲の横断像である。円周方向圧縮CPRシステムには、ブラダー202による患者の外方牽引を支持できるよう、様々な種類の胸甲が含まれる可能性がある。図5に示したように、胸甲は、胸甲340のベスト110を患者160周囲に巻いた後に膨張させると剛性形状となる、膨張可能な胸甲340である可能性がある。様々な実施形態において、円周方向圧縮CPRシステムは、ブラダー202用の空気圧式駆動システム120を含む可能性がある。また、円周方向圧縮CPRシステムは、膨張可能な胸甲340用の空気圧式駆動システム320を含む可能性がある。様々な実施形態において、空気圧式駆動システム120と空気圧式駆動システム320は異なるシステムである場合も同一システムである場合もある。膨張可能な胸甲340用の空気圧式駆動システム320は、膨張可能な胸甲340を完全に膨張させて、CPRの適用中、剛性構造を維持することができる。膨張可能な胸甲340が患者周囲で剛性を維持している間、円周方向圧縮および円周方向減圧CPRを提供するために、ブラダー202は急速に膨張および収縮することができる。
【0127】
図6Aは、患者と例示した実施形態に基づくハードシェル胸甲の横断像である。様々な実施形態において、胸甲はフレーム400を装備するハードシェル胸甲である可能性がある。フレーム400は、バックボード402と上部シェル404を含む可能性がある。ハードシェル胸甲は左右いずれかに開放部406があり、反対側にヒンジ408があるため、胸甲を患者周囲で閉じることができる。ブラダー202を膨張させて、ブラダー内側の患者面を患者に接触させることが可能である。ブラダー202には継ぎ目410があるため、患者を中に入れるためにブラダーを開くことができ、患者を入れた後にハードシェル胸甲を閉じることで、患者周囲でブラダーを閉じることができる。その後、空気圧式駆動ユニット120でブラダーを膨張および収縮させ、患者に強制圧縮および強制減圧を提供することができる。様々な実施形態において、空気圧式駆動ユニット120および/またはコントローラー130をハードシェル胸甲に統合したり、ホースやワイヤーなどの様々な接続部によってユニットに接続可能な取り外し可能なユニットの一部にしたりすることができる。
【0128】
図6Bは、患者と例示した実施形態に基づく機械的ピストン内臓ハードシェル胸甲の横断像である。様々な実施形態において、機械的ピストン420は患者に積極的加圧を提供することができる。様々な実施形態において、機械的ピストンは患者に積極的減圧を提供することができる。機械的ピストンは、円周方向ベストに追加して使用することができる。ベストの膨張および収縮とピストンの加圧および減圧は、コントローラーで同期することができ、CPR周期を通して同時または様々な位相性のタイミングで発生させることができる。機械的ピストンは、空気圧式、電気機械的または他の駆動の手段によるピストン駆動ユニット422によって駆動される。
【0129】
図7は、患者と、例示した実施形態に基づく、円周方向圧縮システム内に複数の空気ブラダーを内蔵したハードシェル胸甲の横断像である。様々な実施形態において、円周方向圧縮CPRシステムは、複数のブラダーコンパートメント502を内蔵したベストを装備している可能性がある。複数の空気ブラダー502は、単一の空気圧式駆動120または複数の空気圧式駆動によって膨張および収縮させることができる。様々な弁および制御機序を使用して、様々なブラダーの膨張および収縮を制御することができ、患者周囲の異なる位置で、膨張および収縮の容量および/または速さなどの様々なパラメーターを異なる値に設定することができる。胸部周囲の積極的加圧および/または積極的減圧のパターンを不均一にすることができる。
【0130】
図8は、例示した実施形態に基づく自動化CPRの実施方法/プロセス600を示したフローチャートである。CPR実施方法/プロセス600の手順610では、患者に円周方向圧縮を適用するために、ベスト内の少なくとも1つのブラダーを強制膨張させる可能性がある。CPR実施方法/プロセス600の手順620では、患者に円周方向圧縮を適用するために、ベスト内の少なくとも1つのブラダーを強制収縮させる可能性がある。方法/プロセスの手順630では、円周方向減圧中に患者の気道を閉塞させる可能性がある。方法/プロセス600の手順640では、ベスト内の1つ以上のセンサーで収集したバイオフィードバック情報をコントローラーで受信する可能性がある。方法/プロセス600の手順650では、CPRの有効性を改善するために、バイオフィードバックに基づいて、さらにCPRのパラメーターを適用する可能性がある。
【0131】
図9Aは、患者と局所的胸骨ブラダーを装備する円周方向圧縮CPRシステムを上から見た模式図である。図9Bは、図9Aの患者と例示した実施形態に基づく局所的胸骨ブラダーを装備する円周方向圧縮CPRシステムの横断線9B-9Bに沿った横断像である。様々な実施形態において、円周方向圧縮CPRシステムには、患者の胸骨を中心として円周方向圧縮ベスト110と患者の前胸部160の間に設置された追加的空気圧式胸骨ブラダー700が含まれる可能性がある。様々な実施形態において、胸骨ブラダーはおおよそ頭側胸骨切痕から尾側剣状突起までを覆う。追加的胸骨ブラダーは、患者の前胸部正中領域で頭側胸骨切痕から尾側剣状突起までの上下と胸骨側縁間から左右正中乳頭線までの左右を覆う。分かりやすくするために、これらの図では胸甲が省略されているが、上述したあらゆる胸甲を使用して、図9Aおよび9Bに示した実施形態と本書で説明した他の実施形態に、構造を提供することが可能であることを明らかにすべきである。空気圧式胸骨ブラダー700は選択的に起動することができ、この胸骨空気圧式ブラダー700を積極的に膨張させることによって、胸骨の積極的な選択的加圧を達成することができる。これらの積極的な選択的胸骨加圧は、円周方向圧縮または減圧と同時にすることも、円周方向圧縮または減圧の前または後に同期することも可能である。この胸骨前方および円周方向ベスト110下の空気圧式胸骨ブラダー700によって、円周方向ベストの有効性を促進することが可能である。この空気圧式ブラダーは、円周方向空気圧式ベストと同時に膨張させることも、円周方向ベストの前後に順次膨張させることもできる。様々な実施形態において、選択的胸骨ブラダーそれぞれに胸甲が装備される可能性がある。胸骨ブラダー胸甲は、円周方向圧縮ベスト減圧とは別個に胸骨ブラダーに積極的減圧を提供できる構造を提供することができる。
【0132】
また、胸骨ブラダー700は、積極的収縮を前胸郭の積極的減圧機序として装備する可能性がある。この胸骨空気圧式ブラダーの積極的収縮は、さらに胸部の胸骨領域における選択的な積極的減圧を達成する可能性がある。この選択的胸骨減圧は、円周方向減圧と同時に同期することも、円周方向減圧の前または後に同期することも可能である。様々な実施形態において、胸骨ブラダー700の患者面710には、胸骨ブラダー700を患者に接着させる接着部712が含まれる可能性がある。様々な実施形態において、胸骨ブラダーの患者面は、患者の形状に密着できるように凸型に装備される可能性がある。円周方向圧縮に加えて組み込む選択的胸骨加圧および/または減圧は、閉ループ生物学的フィードバックに基づいて適応的に特定できる可能性がある。CPRシステムのコントローラーで生物学的フィードバックを受信することができる。コントローラーは、生物学的フィードバックに基づいて、パラメーター(胸骨ブラダーの力、深さおよび/または加圧速および/または減圧速など)を自動調節する。コントローラーは、胸骨ブラダーのパラメーターを自動調節することができ、生物学的フィードバックに基づいて、胸骨ブラダーの動作を円周方向圧縮ベスト110の動作に同期することが可能である。様々な実施形態において、胸骨ブラダーと円周方向圧縮ベストの同期は、同時または周期の特定位相オフセットに設定可能である。特定の実施形態では、円周方向圧縮が選択的胸骨ブラダー起動の50~200ミリ秒前に発生する可能性がある。これによって、選択的心加圧が達成できるよう、縦隔構造を安定化させることができる。
【0133】
図10は、患者と、例示した実施形態に基づく、複数のサブコンパートメントを内蔵する胸骨ブラダーを装備した円周方向圧縮CPRシステムを上から見た模式図である。選択的胸骨ブラダーのコンパートメントは単一であることも複数であることもある。胸骨空気圧式ブラダー700には、加圧および/または減圧対象となる選択的前胸部領域にさらに焦点を当てられるよう、選択的に積極的膨張および/または収縮できる複数のサブコンパートメント802、804、806、808、810が含まれる可能性がある。複数のコンパートメントにより、胸骨中央および/または周囲の4象限の1つ以上の選択的加圧が可能となる。また、これらの選択的象限コンパートメントは、積極的な局所的減圧を達成するために、積極的に収縮される。力および/またはタイミングの不均一パターンで胸骨領域の加圧を達成できるよう、胸骨ブラダーを分割して、空気圧式駆動ユニットとそのコントローラーが異なる分割パターンを積極的に膨張および収縮することが可能である。さらなる実施形態として、サブコンパートメントの組み合わせを積極的に膨張および/または収縮させることにより、胸部加圧および/または減圧の代替的解剖パターンを達成することができる。患者の胸骨の特定下位領域を加圧および減圧することにより、CPRの有効性を高めることが可能である。円周方向圧縮および/または円周方向減圧に組み込む選択的サブコンパートメント胸骨加圧および/または減圧は、バイオマーカー閉ループフィードバックに基づいて適応的に特定できる可能性がある。各CPR周期に組み込む特定サブコンパートメントは、生物学的フィードバックに応じてコントローラーで特定可能である。胸骨空気圧式ブラダーの最適な選択的コンパートメントは、バイオマーカーの測定に基づく適応的な「プレイ・ザ・ウィナー」発見法により特定できる可能性があり、蘇生中、経時的に変化する可能性がある。
【0134】
「プレイ・ザ・ウィナー」発見法とは、非限定的な例で説明すると、30秒間や1分間といった所定の長さの時間後、システムを30秒間などの所定の長さの時間、異なるコンパートメントまたは位置に切り替え、新しいコンパートメントが有効性を改善させるか低減させるかをフィードバック測定に基づいて特定し、最も有効な加圧/減圧位置をウィナー(すなわち最適な場所)とすることを意味する。システムは、ウィナーを30秒間や1分間といった所定の長さの時間、使用した後、30秒間などの所定の長さの時間、異なる場所に切り替え、フィードバック測定に基づいて「プレイ・ザ・ウィナー」システムを反復継続することが可能である。
【0135】
様々な実施形態において、コントローラーは異なるサブコンパートメントを積極的に膨張および収縮させることができ、異なるサブコンパートメントの性能を比較して最も効果的なサブコンパートメントを特定することが可能である。様々な実施形態において、コントローラーはCPRシステムの様々なパラメーターを調節することができ、異なるパラメーター下でCPRシステムの性能を比較して最も効果的なサブコンパートメントを特定することが可能である。調節されるパラメーターには、上述したパラメーターが含まれる(圧縮ベストの加圧および/または減圧パラメーター、および/または胸骨ブラダーの加圧および/または減圧パラメーターを含む)。CPRシステム全体の性能の評価には、様々なパラメーターセットが使用可能であり、各患者で使用されるパラメーターをコントローラーで改善することができる。非限定的な例で説明すると、様々なパラメーターセットの効果の特定に使用される生物学的フィードバックには、順血流と酸素灌流が含まれる可能性がある。「プレイ・ザ・ウィナー」発見法には、ウィナーとなるパラメーターセットを特定するために、2種類のパラメーターセットの比較が含まれる可能性がある。その後、第3のパラメーターセットを試行し、それを以前のウィナーと比較することにより、新しいウィナーを特定する。ウィナーを特定してウィナーとなるパラメーターを使用するプロセスと、新しいパラメーターの試行と、新パラメーターおよび旧ウィナーから新ウィナーを特定することの組み合わせは、各個別患者に合った方法でパラメーターを改善し続けるために、反復実施することができる。
【0136】
図11は、患者と例示した実施形態に基づく肩ブラダー910を装備した円周方向圧縮CPRシステムを上から見た図である。円周方向圧縮CPRベストの有効性は、鎖骨、鎖骨上、肩甲骨上の解剖学的領域も加圧する空気圧式肩ブラダー910を追加することによって促進される可能性がある。肩ブラダー910は、ベスト前部から患者の肩を回ってベスト後部に接続する。これらの肩ブラダー910は、積極的膨張および収縮によって胸郭内圧喪失を予防することにより、CPRの有効性を高めることが可能である。
【0137】
また、様々な実施形態において、ベスト110は、一連のリブ920を内蔵または外部に装着する可能性がある。ベストが患者を外方に牽引できるよう、リブ920は部分的または全体的にベストを包み込んで剛性を提供する。リブ920は胸甲に加えてあるいは胸甲に代わってベストに剛性を提供する。リブは膨張可能であるか、剛性の弾力性および/または復元性を備えた素材で作製される可能性がある。リブは、リブ内面が患者周囲で凸型になるよう、患者周囲で湾曲している可能性がある。静止状態では、リブは患者の胸部の中心から曲線を描くように離れている形状をしている可能性がある。このリブの曲線が、積極的減圧中のベストへの対向力の提供能力を増加させ、また、CPR周期の減圧期中に放出されるCPR周期の加圧期中のエネルギー保存能力を増加させ、減圧に寄与する。
【0138】
図12は、患者と、例示した実施形態に基づく、胸郭ベストおよび腹部ベストを装備する円周方向圧縮CPRシステムの遠近像である。胸郭および腹部両方の積極的圧縮および積極的減圧により、CPRの有効性が増加する。様々な実施形態において、CPRシステム100は胸郭CPRベスト1010および腹部CPRベスト1020を装備する可能性がある。それぞれのベストが別個に、圧縮のために膨張し、積極的減圧のために収縮する。様々な実施形態において、コントローラー130が胸郭CPRベスト1010の膨張および収縮と腹部CPRベスト1020の膨張および収縮を制御する可能性がある。様々な実施形態において、コントローラー130は、胸郭CPRベスト1010および腹部CPRベスト1020の膨張および収縮を駆動し、胸甲構造の膨張を駆動する単一空気圧式駆動ユニットを装備する可能性がある。様々な実施形態において、コントローラー130は、胸郭CPRベスト1010および腹部CRPベスト1020の膨張および収縮、胸甲構造の膨張を駆動する1つ、2つ、3つ、またはそれ以上の空気圧式駆動ユニットを装備する可能性がある。
【0139】
制御ユニット130は、胸郭ベスト1010および腹部ベスト1020を動機することが可能である。両ベストは同時に膨張および収縮させることができ、ベストの膨張および/または収縮をCPR周期の異なる時点で位相性に発生させることもできる。各周期中、胸郭ベストおよび腹部ベストが膨張および収縮する特定時間は、生物学的フィードバックに基づいて、コントローラーで特定することが可能である。コントローラーは、CPR周期の各コンポーネントの最良のタイミングを特定するために、プレイ・ザ・ウィナーシステムを使用することができ、変化する生物学的フィードバックに応じて、CPR周期のコンポーネントのタイミングを適応させることができる。ひとつの実施形態では、最初に腹部ベストを膨張させた後に胸郭ベストを膨張させ、その後、腹部ベストを強制収縮させて、胸郭ベストを強制収縮させることができる。しかし、様々なタイミングが可能である。様々な実施形態において、患者の体位または患者の身体部位(頭部、頚部、胸部、腹部、上肢および/または下肢を含む)の静的または位相性変更によって機械的CPRの効果をさらに促進させることが可能である。例を挙げると、患者の上半身挙上により頭部からの静脈ドレナージが促進され、脳血流が改善する。1つ以上の体動ブラダー1030は、体動ブラダーの膨張および収縮によって患者の身体の位置を変更させられるよう、患者の身体の下方もしくは周囲に設置することが可能である。
【0140】
制御ユニット130は、生物学的フィードバックに基づいて、上方のベストとブラダーの膨張および収縮パラメーターを適応させられることを明らかにすべきである。制御ユニットによって調節可能なパラメーターには、本書で説明したあらゆるパラメーター(CPR周期内で膨張および収縮する一連のブラダーおよびベスト、各周期の膨張および収縮のタイミング、CPR周期内で膨張および収縮するベストおよびブラダーの膨張および収縮の力、深さ、速さ、および他のパラメーター)が含まれる可能性がある。
【0141】
様々な実施形態において、CPRシステムは、単一の円周方向ベスト、胸郭ベスト、腹部ベスト、胸骨ブラダー、サブコンパートメント付き胸骨ブラダーおよび/または肩ブラダー、あるいはこれらのコンポーネントの様々な組み合せを含む可能性がある。当技術分野における通常の技術を有する者であれば、エネルギーの消費によって圧差が達成される限り、これらのベストや他のブラダーの積極的収縮が真の真空または相対的真空によって達成可能であることが理解できるであろう。相対的真空とは、膨張ベスト圧または大気圧より低圧である。積極的相対的真空とは、エネルギー力または仕事の消費によってこの低圧を達成することである。積極的真空は、空気圧式駆動によって発生する仕事を通して創り出すことができる。
【0142】
図13は、患者と、例示した実施形態に基づく、構造的フープを装備した円周方向圧縮CPRシステム遠近像である。様々な実施形態において、フープ1102により胸甲1100を構造的に支持することが可能である。フープ1102は、胸甲に構造を提供することができ、これによって胸甲がCPRベスト1104に支持を提供できるようになり、積極的減圧中にベストが患者を外方に牽引できるようになる。様々な実施形態において、CPR周期の積極的収縮開始時にフープが僅かに湾曲してエネルギーを吸収し、CPR周期の収縮終了時に患者の胸郭を上方または外方に牽引して保存エネルギーを還元できるよう、フープを剛性素材で作製したり、復座ばねで復元性にしたりすることができる。様々な実施形態において、フープ1102は、胸甲機能が必要な時に膨張可能な空気圧式ブラダーを装備することができる。様々な実施形態において、患者の下方/後方で平たくなり、患者の上方および側方で拡張するよう、円周方向フープ1102に柔軟性を与えることができる。
【0143】
様々な実施形態において、フープ1102で全体的に患者を囲むことができる。様々な実施形態において、バックボードに患者を寝かせた後、フープを患者周囲に迅速に設置できるよう、フープで部分的に患者を囲み、フープの両端をバックボードに接続することができる。様々な実施形態において、フープ内の左右の距離が上下の距離よりも大きくなるよう、フープを楕円状にして、楕円の焦点間の軸が患者を左右に通過するよう設置することができる。様々な実施形態において、フープを正しい位置に容易に挿入できるよう、胸郭ベストにフープガイドを装備する可能性がある。単一動作で1つ以上のフープをベスト内に挿入できるよう、フープ自体は挿入用ガントリーに事前配置されている可能性がある。
【0144】
フープ1102は、患者の身長または長軸に直交するように設置され、胸骨切痕と剣状突起の間に配列される。フープ数とフープ間の距離は、胸郭の積極的減圧の提供に必要な支持によって様々である。様々な実施形態において、胸甲を構成するために、フープを胸甲内に統合させたり、および/または胸郭空気圧式圧縮ベストの外面に装着させたりすることが可能である。様々な実施形態において、CPRシステムを患者周囲に設置する前に、CPRシステム内にフープを設置することが可能である。様々な実施形態において、本システムを患者周囲に設置した後に、フープをCPRシステム内に挿入することができる。
【0145】
開示した本発明の有用性
【0146】
本書で開示した発明が心停止患者のCPR血行動態および臨床転帰の改善方法のためであることが理解および評価されれば、当技術分野における通常の技術を有する者の目に、有用性が顕在化する。
【0147】
非自明性
【0148】
本書で開示した発明の非自明性は、医学文献におけるその適用または考察の完全な欠如から明らかである。また、数々の大規模商業企業が機械的CPR装置を生産している。広範な研究と開発事業にもかかわらず、本書で開示したような方法またはシステムを開示または開発した企業は皆無である。
【0149】
改良
【0150】
発明の性質を説明するために本書で説明および図解した詳細、素材、手順、エレメントの配列における変更は、本発明の範囲から外れることなく、当技術分野の技術を有する者によって行われることが理解されるだろう。本発明で説明した実施形態の詳細についての多くの改良、バリエーション、変更が加えられる可能性があるため、前述の説明と添付図面で示された全ての事項は、例示であって、限定的な意味ではないと解釈されることを意図している。従って、発明の範囲は添付した請求項とその法定同等物によって定められるべきである。より一般的には、前述した内容は、例示した発明の実施形態の詳細な説明である。様々な改良および追加が、本発明の精神と範囲から外れることなく実施される可能性がある。新しい実施形態に関連して複数の特徴の組み合わせを提供するために、上述した様々な各実施形態の特徴を他の説明した実施形態の特徴と適宜組み合わせることが可能である。さらに、本発明の装置および方法について数々の別個の実施形態を上述したが、本書で説明したことは本発明の原則の適用を例示したものに過ぎない。例えば、非膨張性の剛性リブによる追加的支持を含む膨張可能な胸甲を含め、胸甲の様々な配列および組み合わせが可能である。また、本書で使用されているように、「プロセス」および/または「プロセッサー」という用語は、様々な電気的ハードウェアおよび/またはソフトウェアに基づく機能およびコンポーネントを含められるよう、広義に捉えるべきである(代替的に機能的「モジュール」または「エレメント」という用語を使用してもよい)。さらに、描写したプロセスまたはプロセッサーは、他のプロセスおよび/またはプロセッサーと組み合わせたり、様々なサブプロセスまたはサブプロセッサーに分割したりすることも可能である。こうしたサブプロセスおよび/またはサブプロセッサーは、本書の実施形態に応じて様々な組み合わせが可能である。同様に、本書のあらゆる機能、プロセスおよび/またはプロセッサーは、プログラム説明書の非一時的なコンピュータ読み取り可能媒体で構成される電気的ハードウェア、ソフトウェアを使用して、あるいはハードウェアとソフトウェアの組み合わせを使用して実施できることを明確に意図している。また、本書で使用した様々な方向性と性質を示す用語(「垂直」、「水平」、「上方」、「下方」、「下」、「上」、「側」、「前方」、「後方」、「左」、「右」など)は、相対的慣習としてのみ使用されており、重力の作用方向のような、固定された座標空間に対する絶対的方向/性質ではない。また、ある測定、値、特性に対して「著しく」や「おおよそ」と言った用語を採用する場合、望ましい結果を達成するための正常操作範囲内の量を指すものとする。しかし、内在的な不正確さと本システムの許容範囲内の誤差(例:1~5%)によって、幾分変動性を有する。従って、本説明は、あくまで例示を意図したものであり、本発明の範囲を制限するものではない。
【0151】
本出願に有用な背景情報として援用した他の参照出版物は以下のとおりである。
【0152】
参照リスト
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【0169】
請求内容は以下のとおり:
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13
【外国語明細書】