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特開2022-48153CAR発現ベクター及びCAR発現T細胞
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022048153
(43)【公開日】2022-03-25
(54)【発明の名称】CAR発現ベクター及びCAR発現T細胞
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/63 20060101AFI20220317BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20220317BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220317BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220317BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20220317BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20220317BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20220317BHJP
   C12N 15/24 20060101ALN20220317BHJP
   C12N 15/62 20060101ALN20220317BHJP
【FI】
C12N15/63 Z ZNA
C12N5/0783
C12N5/10
A61P35/00
A61K35/17 Z
A61P35/02
C12N15/13
C12N15/24
C12N15/62 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021213604
(22)【出願日】2021-12-28
(62)【分割の表示】P 2020048623の分割
【原出願日】2015-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2014208200
(32)【優先日】2014-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100177714
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昌平
(72)【発明者】
【氏名】玉田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】佐古田 幸美
(72)【発明者】
【氏名】安達 圭志
(57)【要約】
【課題】T細胞においてキメラ抗原受容体(CAR)と共にT細胞の免疫機能促進因子を発現し、免疫誘導効果や抗腫瘍活性が高いCAR発現T細胞や、かかるCAR発現T細胞を作製するためのCAR発現ベクターを提供することを課題とする。
【解決手段】キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸及びT細胞の免疫機能促進因子をコードする核酸を含有するCAR発現ベクターであって、前記免疫機能促進因子をコードする核酸が、インターロイキン7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸、SHP-1に対するドミナントネガティブ変異体をコードする核酸、又はSHP-2に対するドミナントネガティブ変異体をコードする核酸であるCAR発現ベクターや、前記CAR発現ベクターを導入したCAR発現T細胞を作製する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CAR発現ベクターや、CAR発現ベクターを導入したCAR発現T細胞や、CAR発現T細胞を含有する抗がん剤に関する。
【背景技術】
【0002】
キメラ抗原受容体(Chimeric Antigen Receptor:以下、「CAR」ともいう)は、がん細胞の細胞表面抗原を認識する一本鎖抗体と、T細胞の活性化を誘導するシグナル伝達領域を融合させた人工的なキメラタンパク質である。図1に示すように、腫瘍反応性を有さない通常の末梢血T細胞(末梢血Tリンパ球)にCARをコードする遺伝子を導入することにより、CARを発現可能なCAR発現T細胞(以下、単に「CAR-T細胞」ともいう)を大量に作製することが可能となる。かかるCAR-T細胞は腫瘍反応性を有し、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)との相互作用に依存することなくがん細胞の傷害を導くことが可能となる。
【0003】
CAR-T細胞の投与によるがん免疫療法、より具体的には、患者からT細胞を採取し、かかるT細胞にCARをコードする遺伝子を導入して増幅し、再度患者に移入する療法(非特許文献1参照)は、現在世界中で臨床試験が進行しており、白血病やリンパ腫などの造血器悪性腫瘍などにおいて有効性を示す結果が得られている。
【0004】
近年、様々なCAR-T細胞の研究が進められてきた。例えば、CD19抗原結合領域と細胞膜貫通領域と4-1BB共刺激シグナル領域と、CD3ζシグナル領域からなるCARをコードする核酸を含む修飾された自己ヒトT細胞を含む医薬組成物(特許文献1参照)や、がん細胞に結合する1つ又は複数のタグ付きタンパク質の配合物と同時に又は別々に被験体に投与される、前記タグ付きタンパク質に結合し、がん細胞死を誘導する1つ又は複数の治療的に有効な抗タグキメラ抗原受容体(AT-CAR)発現T細胞集団(特許文献2参照)や、ヒト抗体139の抗原結合ドメイン、細胞外ヒンジドメイン、細胞膜貫通ドメイン、及び細胞内T細胞シグナル伝達ドメインを含む、キメラ抗原受容体をコードする核酸を含む細胞(特許文献3参照)や、キメラ抗原受容体をコードする核酸配列を含む細胞であって、該キメラ抗原受容体が抗原結合ドメイン、細胞膜貫通ドメイン、共刺激シグナル伝達領域、及び、SEQ ID NO:24のアミノ酸配列を含むCD3ζシグナル伝達ドメインを含む細胞(特許文献4参照)や、細胞表面膜上にCD19特異的キメラ受容体を発現及び保有し、該キメラ受容体が免疫細胞のエフェクター機能のための細胞内シグナリングドメイン、少なくとも1つの細胞膜貫通ドメイン及び少なくとも1つの細胞外ドメインからなり、細胞外ドメインがCD19特異的受容体を含む、遺伝子工学的に作製されたCD19特異的T細胞(特許文献5参照)や、細胞内ドメインとしてグルココルチロイド誘導腫瘍壊死因子受容体(GITR)の細胞内ドメインを含むキメラ抗原受容体をコードする核酸が導入されたキメラ抗原受容体発現細胞(特許文献6参照)が提案されている。
【0005】
しかしながら、CAR-T細胞の生体内での生存効率が低い、あるいはCAR-T細胞により誘導される内在性T細胞の活性化や腫瘍局所への集積が不十分という問題や、がん細胞が有する腫瘍免疫回避機構であるPD-L1/PD-1経路を介した免疫抑制シグナル及びがん微小環境において分泌されるTGF-βやIL-10などの免疫抑制因子によるCAR-T細胞の活性阻害という問題はこれまでの技術では解決されていない。そのため、十分な治療効果が認められないがん種や症例が存在しており、さらに効果的なCAR-T細胞、及びかかるCAR-T細胞を作製するための発現ベクターの作製が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2014/0106449号明細書
【特許文献2】特表2014-504294号公報
【特許文献3】特表2014-516510号公報
【特許文献4】特表2014-507118号公報
【特許文献5】特開2011-004749号公報
【特許文献6】国際公開第2013/051718号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】中沢洋三 信州医誌 61(4):197~203(2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のCAR-T細胞においては、CARのシグナル伝達領域にCD28、4-1BB、CD3ζなどを含有させることによってT細胞の活性化能を高める工夫がされていたが、CAR-T細胞による内在性T細胞の免疫誘導効果や腫瘍微小環境における免疫抑制機構に対する抵抗性については十分に増強されておらず、固形がんに対してはCAR-T細胞による治療効果は未だ達成されていない。そこで、本発明の課題は、T細胞においてCARと共にT細胞の免疫機能促進因子を発現し、免疫誘導効果や抗腫瘍活性が高いCAR-T細胞や、かかるCAR-T細胞を作製するためのCAR発現ベクターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、CAR-T細胞を利用したがん免疫療法において、より優れた免疫誘導効果や抗腫瘍活性を達成することを目的として、CAR-T細胞の改良を試みた。その過程で、T細胞の免疫機能を促進する因子であるサイトカイン、ケモカイン、シグナル制御タンパク質に着目し、CARと共に前記T細胞の免疫機能を促進する因子を発現するベクターを構築した。かかる発現ベクターをT細胞に導入したところ、従来のCAR-T細胞よりも優れた免疫誘導効果や抗腫瘍活性を有するCAR-T細胞を作製することができることを見いだし、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は以下に開示されるとおりのものである。
(1)キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸及びT細胞の免疫機能促進因子をコードする核酸を含有するCAR発現ベクターであって、前記免疫機能促進因子をコードする核酸が、インターロイキン7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸、SHP-1に対するドミナントネガティブ変異体をコードする核酸、又はSHP-2に対するドミナントネガティブ変異体をコードする核酸であることを特徴とするCAR発現ベクター。
(2)免疫機能促進因子をコードする核酸が、インターロイキン7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸であることを特徴とする上記(1)記載のCAR発現ベクター。
(3)CARをコードする核酸とT細胞の免疫機能促進因子とをコードする核酸が、自己切断型ペプチドをコードする配列を介して連結されていることを特徴とする上記(2)記載のCAR発現ベクター。
(4)インターロイキン7をコードする核酸とCCL19とをコードする核酸が、自己切断型ペプチドをコードする配列を介して連結されていることを特徴とする上記(2)又は(3)記載のCAR発現ベクター。
(5)CARをコードする核酸が、FITC又はCD20を認識する一本鎖抗体のポリペプチドをコードする核酸を含有することを特徴とする上記(1)~(4)のいずれか記載のCAR発現ベクター。
(6)CARをコードする核酸が、CD8の細胞膜貫通領域のポリペプチドをコードする核酸を含有することを特徴とする上記(1)~(5)のいずれか記載のCAR発現ベクター。
(7)CARをコードする核酸が、CD28の細胞内領域、4-1BBの細胞内領域、及びCD3ζの細胞内領域のポリペプチドをコードする核酸を含有することを特徴とする上記(1)~(6)のいずれか記載のCAR発現ベクター。
(8)以下の(a)又は(b)に示すベクターを導入したCAR発現T細胞。
(a)上記(1)~(7)のいずれか記載のCAR発現ベクター;
(b)CARをコードする核酸及びインターロイキン7をコードする核酸を含有するCAR発現ベクターと、CARをコードする核酸及びCCL19をコードする核酸を含有するCAR発現ベクター;
(9)上記(8)記載のCAR発現T細胞と薬学的に許容される添加剤とを含有する抗がん剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明のCAR発現ベクターを用いれば、生存能力、リンパ球集積能力、腫瘍細胞傷害活性を併せ持つCAR-T細胞や、がん微細環境での免疫抑制に抵抗性を有するCAR-T細胞を作製することが可能となる。かかるCAR-T細胞を用いてがん患者への免疫療法を行えば、強力ながん治療効果が期待され、難治性・進行性のがんに対しても有効ながん免疫療法が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】CARの構造及びCAR-T細胞によるがん免疫療法の基本システムを示す図である。
図2】CAR、インターロイキン7(IL-7)及びCCL19を発現するベクターを表す図である。
図3】抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞におけるCARの発現レベルをフローサイトメトリーで確認した結果-1を示す図である。左がCAR無染色、右がCAR染色である。
図4】抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞におけるCARの発現レベルをフローサイトメトリーで確認した結果-2を示す図である。
図5】抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞におけるCARの発現レベルをフローサイトメトリーで確認した結果を示す図である。
図6】抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞の細胞上清中のIL-7及びCCL19の濃度について、ELISAにて測定した結果-1を示す図である。
図7】抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞の細胞上清中のIL-7及びCCL19の濃度について、ELISAにて測定した結果-2を示す図である。
図8】抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞の細胞上清中のIL-7及びCCL19の濃度について、ELISAにて測定した結果を示す図である。
図9】抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞を刺激し、3日間、5日間、7日間培養した場合の細胞数を示す図である。
図10】抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞を刺激し、3日間、5日間、7日間培養した場合の生存率を示す図である。
図11】抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞を刺激し、5日間培養した場合の細胞数を示す図である。
図12】抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞によるT細胞遊走試験の結果-1を示す図である。
図13】抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞によるT細胞遊走試験の結果-2を示す図である。
図14】抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞による樹状細胞遊走試験の結果を示す図である。
図15】抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞によるT細胞遊走試験の結果を示す図である。
図16】抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞におけるT細胞の増殖能力を調べた結果(刺激後5日目)を示す図である。
図17】抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞におけるT細胞の増殖能力を調べた結果(刺激後3日目、7日目)を示す図である。
図18】抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞におけるCD127の発現を調べた結果を示す図である。
図19】抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞におけるCCR7の発現を調べた結果を示す図である。
図20】抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞を担がんマウスに投与した場合の腫瘍体積の変化を調べた結果を示す図である。
図21】抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞を担がんマウスに投与した場合のマウス生存率を調べた結果を示す図である。
図22】P815-hCD20を皮下接種し、その後シクロホスファミドを投与したマウスに抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞を投与した場合のマウス生存率を調べた結果を示す図である。
図23】P815-hCD20を皮下接種し、その後シクロホスファミドを投与したマウスに抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞を投与した場合のマウスの腫瘍体積を調べた結果を示す図である。
図24図23におけるCPA+7×19のグラフの縦軸の数値を1/10とした図である。
図25】P815-hCD20を皮下接種したマウスに抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞を投与した場合の腫瘍組織をH&E染色して観察した結果を示す図である。
図26】P815-hCD20を皮下接種したマウスに抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞を投与した場合の腫瘍組織の免疫組織化学分析による結果を示す図である。
図27図26における蛍光染色によって標識されたポジティブ領域を定量した結果を示す図である。
図28】P815-hCD20を皮下接種したマウスに抗ヒトCD20 CAR-IL-7発現T細胞、抗ヒトCD20 CAR-CCL19発現T細胞、又は抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞を投与した場合の腫瘍体積を調べた結果を示す図である。
図29】(a)CARとSHP1(Src homology region2domain-containing phosphatase-1)のドミナントネガティブ変異体を発現するベクターを表す図である。(b)CARとSHP2(Src homology region 2 domain-containingphosphatase-2)のドミナントネガティブ変異体を発現するベクターを表す図である。
図30】(a)抗ヒトCD20 CAR-SHP1DN発現T細胞による細胞傷害活性試験の結果を示す図である。(b)抗ヒトCD20 CAR-SHP2DN発現T細胞による細胞傷害活性試験の結果を示す図である。
図31】P815-hCD20を抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞及びFITC結合リツキシマブ存在下で混合して腫瘍細胞傷害活性を調べた結果を示す図である。
図32】P815-hCD20を抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞と混合して腫瘍細胞傷害活性を調べた結果を示す図である。
図33】P815-hCD20を皮下接種したマウスに抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞を投与してフローサイトメトリーで白血球表面の表現型について、CD4、CD8、CD44、CD62Lを解析した結果を示す図である。
図34】脾臓の白血球をマイトマイシンCで処理したP815-hCD20と共に4日間培養して刺激し、T細胞の増殖をフローサイトメトリーで調べた結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のCAR発現ベクターは、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸及びT細胞の免疫機能促進因子をコードする核酸を含有するCAR発現ベクターであって、前記免疫機能促進因子をコードする核酸が、インターロイキン7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸、SHP-1に対するドミナントネガティブ変異体をコードする核酸、又はSHP-2に対するドミナントネガティブ変異体をコードする核酸であるCAR発現ベクターであれば特に制限されず、キメラ抗原受容体とは、がん細胞の細胞表面抗原を認識する一本鎖抗体とT細胞の活性化を誘導するシグナル伝達領域を、細胞膜貫通領域を介して融合させた人工的なキメラタンパク質を意味する。
【0014】
本発明において、CARをコードする核酸としては、CARを構成するポリペプチドをコードする核酸であれば特に制限されず、がん細胞の細胞表面抗原を認識する一本鎖抗体、細胞膜貫通領域、及びT細胞の活性化を誘導するシグナル伝達領域のポリペプチドをコードする核酸が含まれる。
【0015】
CARにおける一本鎖抗体としては、モノクローナル抗体の抗原結合部位に由来する軽鎖可変領域及び重鎖可変領域(scFv)からなり、軽鎖可変領域及び重鎖可変領域の間にリンカーペプチドが位置するオリゴ又はポリペプチドを挙げることができる。
【0016】
前記一本鎖抗体が認識するがん細胞の細胞表面抗原としては、がん細胞及びその前駆細胞に特異的に発現する生体分子、細胞のがん化によって新たに発現が認められるようになった生体分子、もしくはがん細胞において正常細胞に比べて発現レベルが増加している生体分子であればよく、CD20、EGFR、FITC、CD19、CD22、CD33、PSMA、GD2、EGFRvariant、ROR1、c-Met、HER2、CEA、メソテリン、GM2、CD7、CD10、CD30、CD34、CD38、CD41、CD44、CD74、CD123 CD133、CD171、MUC16、MUC1、CS1(CD319)、IL-13Ra2、BCMA、LewisY、IgGkappa chain、Folate receptor-alpha、PSCA、EpCAMを挙げることができる。
【0017】
T細胞活性化シグナル伝達領域は、前記一本鎖抗体ががん細胞の細胞表面抗原を認識した際に、細胞内にシグナル伝達することが可能な領域であり、CD28、4-1BB(CD137)、GITR、CD27、OX40、HVEM、CD3ζ、Fc Receptor-associated γchainの細胞内領域のポリペプチドから選択される少なくとも1種又は2種以上を含むことが好ましく、CD28、4-1BB、及びCD3ζの3種の細胞内領域のポリペプチド含むことがより好ましい。
【0018】
それぞれの細胞内領域のポリペプチドは、2~10アミノ酸からなるオリゴペプチドリンカー又はポリペプチドリンカーを介して連結されていてもよく、かかるリンカー配列として、グリシン-セリン連続配列を挙げることができる。
【0019】
本発明における細胞膜貫通領域としては、CD8、T細胞受容体のα、β鎖、CD28、CD3ε、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD154、GITR由来の細胞膜貫通領域のポリペプチドを挙げることができ、ヒトCD8細胞膜貫通領域のポリペプチドを好適に挙げることができる。かかる細胞膜貫通領域によって、CARがT細胞の細胞膜に固定される。
【0020】
前記細胞膜貫通領域には、任意のオリゴペプチド又はポリペプチドからなり、長さが1~100アミノ酸、好ましくは10~70アミノ酸のヒンジ領域を含んでもよい。ヒンジ領域としては、ヒトCD8のヒンジ領域を挙げることができる。
【0021】
また、がん細胞の細胞表面抗原を認識する一本鎖抗体と細胞膜貫通領域、細胞膜貫通領域とT細胞活性化シグナル伝達領域との間には、任意のオリゴペプチド又はポリペプチドからなるスペーサー領域を設けてもよい。スペーサー領域の長さとしては、1~100アミノ酸、好ましくは10~50アミノ酸を挙げることができ、かかるスペーサー領域として、グリシン-セリン連続配列を挙げることができる。
【0022】
本発明において、T細胞の機能促進因子をコードする核酸としては、IL-7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸(以下、「本件核酸1」ともいう)、SHP-1に対するドミナントネガティブ変異体をコードする核酸(以下、「本件核酸2」ともいう)、又はSHP-2に対するドミナントネガティブ変異体をコードする核酸(以下、「本件核酸3」ともいう)であれば特に制限されず、前記本件核酸1~3のそれぞれの核酸を複数含んでいてもよく、具体的には、本件核酸1及び本件核酸2、本件核酸1及び本件核酸3、本件核酸2及び本件核酸3、本件核酸1及び本件核酸2及び本件核酸3を含んだ核酸であってもよい。
【0023】
なお、本件核酸1におけるIL-7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸としては、IL-7をコードする核酸とCCL19をコードする核酸を含んでいればよく、IL-7をコードする核酸に対してCCL19をコードする核酸が上流に配置していても、下流に配置していてもよい。
【0024】
SHP1に対するドミナントネガティブ変異体をコードする核酸としては、SHP1に対して優位に働き、SHP1の作用を阻害できるSHP1の変異体をコードする核酸であれば特に制限されず、SHP1のアミノ酸配列において少なくとも1個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換したアミノ酸配列からなり、SHP1の作用を阻害できる変異体をコードする核酸を挙げることができる。また、SHP2に対するドミナントネガティブ変異体をコードする核酸としては、SHP2に対して優位に働き、SHP2の作用を阻害できるSHP2の変異体をコードする核酸であれば特に制限されず、SHP2のアミノ酸配列において少なくとも1個のアミノ酸が他のアミノ酸に置換したアミノ酸配列からなり、SHP2の作用を阻害できる変異体をコードする核酸を挙げることができる。
【0025】
本発明のCAR発現ベクターにおいて、キメラ抗原受容体をコードする核酸とT細胞の免疫機能促進因子をコードする核酸の間や、本件核酸1、本件核酸2、本件核酸3を複数含む場合における各核酸の間や、本件核酸1におけるIL-7をコードする核酸とCCL19をコードする核酸の間には、それぞれの核酸を発現し得る限り、任意の核酸を含んでもよいが、自己切断型ペプチド(2Aペプチド)、又はIRES(internal ribozyme entry site)をコードする配列、好ましくは2Aペプチドをコードする配列を介して連結されていることが好ましい。かかる配列を用いて連結することにより、それぞれの核酸を効率よく発現させることが可能となる。
【0026】
2Aペプチドとは、ウイルス由来の自己切断型ペプチドであり、配列番号1で示されるアミノ酸配列中のG-P間(C末端から1残基の位置)が小胞体で切断される特徴を有する(Szymczak et al., Expert Opin. Biol. Ther.5(5):627-638(2005))。そのため、2Aペプチドを介してその前後に組み込まれた核酸は、細胞内で互いに独立して発現することとなる。
【0027】
前記2Aペプチドとしては、ピコルナウイルス、ロタウイルス、昆虫ウイルス、アフトウイルス又はトリパノソーマウイルス由来の2Aペプチドであることが好ましく、配列番号2に示すピコルナウイルス由来の2Aペプチド(F2A)であることがより好ましい。
【0028】
キメラ抗原受容体をコードする核酸は、がん細胞の細胞表面抗原に対する一本鎖抗体、細胞膜貫通領域、及びT細胞活性化シグナル伝達領域のポリペプチドをコードする塩基配列に基づき、化学合成する方法や、PCRによって増幅する方法などの公知の技術によって作製することができる。なお、アミノ酸をコードするための選択されるコドンは、目的の宿主細胞における核酸の発現を最適化するために改変されてもよい。
【0029】
がん細胞の細胞表面抗原に対する一本鎖抗体、細胞膜貫通領域、及びT細胞活性化シグナル伝達領域のポリペプチドをコードする塩基配列の情報は、公知の文献やNCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/guide/)などのデータベースを検索して適宜入手することができる。
【0030】
たとえば、T細胞活性化シグナル伝達領域におけるCD28、4-1BB、及びCD3ζの細胞膜貫通領域のポリペプチドをコードする塩基配列の情報は、NCBIなどのデータベースを検索して適宜入手することができ、ヒトCD28については、Genbank番号:NM_006139.2(更新日:2014年5月10日)、ヒト4-1BBについては、Genbank番号:NM_001561.5(更新日:2014年3月16日)、ヒトCD3ζについては、Genbank番号:NM_000734.3(更新日:2014年8月12日)として登録されたものを例示することができる。
【0031】
また、ヒトCD8の細胞膜貫通領域のポリペプチドをコードする塩基配列の情報は、NCBI等のデータベースを検索し適宜入手することができ、Genbank番号:NM_001768.6(更新日:2014年5月10日)として登録されたものを例示することができる。
【0032】
さらに、一本鎖抗体のポリペプチドをコードする塩基配列の情報については、標的とする細胞表面抗原を認識するモノクローナル抗体を作製し、かかるモノクローナル抗体のアミノ酸配列をエドマン法などの公知の方法で決定し、かかるアミノ酸配列に基づいて入手することもできる。モノクローナル抗体の作製方法としては、ハイブリドーマを用いて作製する方法や、遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで宿主を形質転換して作製する方法や、トランスジェニック動物を所望の抗原で免疫することで作製する方法を挙げることができる。
【0033】
T細胞の免疫機能促進因子をコードする核酸である、IL-7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸、SHP-1に対するドミナントネガティブ変異体をコードする核酸、又はSHP-2に対するドミナントネガティブ変異体をコードする核酸は、それぞれの塩基配列に基づき、化学合成する方法や、PCRによって増幅する方法などの公知の技術によって作製することができる。なお、アミノ酸をコードするための選択されるコドンは、目的の宿主細胞における核酸の発現を最適化するために改変されてもよい。
【0034】
IL-7をコードする核酸及びCCL19をコードする核酸、SHP-1に対するドミナントネガティブ変異体をコードする核酸、又はSHP-2に対するドミナントネガティブ変異体をコードする核酸の情報は、公知の文献やNCBI(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/guide/)などのデータベースを検索して適宜入手することができる。
【0035】
IL-7をコードする核酸としては、本発明のCAR発現ベクターを導入する細胞の種類に応じて適宜選択でき、たとえば、ヒトIL-7のアミノ酸配列(配列番号3)をコードする核酸を挙げることができ、IL-7における細胞増殖率の亢進作用を有する限り、配列番号3に示す塩基配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の同一性を有する塩基配列を用いてもよい。
【0036】
CCL19をコードする核酸としては、本発明のCAR発現ベクターを導入する細胞の種類に応じて適宜選択でき、たとえば、ヒトCCL19のアミノ酸配列(配列番号4)をコードする核酸を挙げることができ、CCL19におけるT細胞遊走作用を有する限り、配列番号4に示す塩基配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の同一性を有する塩基配列を用いてもよい。
【0037】
SHP-1に対するドミナントネガティブ変異体をコードする核酸としては、本発明のCAR発現ベクターを導入する細胞の種類に応じて適宜選択でき、たとえば、ヒトSHP-1に対するドミナントネガティブ変異体のアミノ酸配列(配列番号5)をコードする核酸を挙げることができ、SHP-1に対するドミナントネガティブ変異体におけるSHP-1の作用を阻害できる限り、配列番号5に示す塩基配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の同一性を有する塩基配列を用いてもよい。なお、配列番号5中、453番目のセリンが変異部位である。
【0038】
SHP-2に対するドミナントネガティブ変異体をコードする核酸としては、本発明のCAR発現ベクターを導入する細胞の種類に応じて適宜選択でき、たとえば、ヒトSHP-2に対するドミナントネガティブ変異体のアミノ酸配列(配列番号6)をコードする核酸を挙げることができ、SHP-2に対するドミナントネガティブ変異体におけるSHP-2の作用を阻害できる限り、配列番号6に示す塩基配列と80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の同一性を有する塩基配列を用いてもよい。なお、配列番号6中、459番目のセリンが変異部位である。
【0039】
本発明のCAR発現ベクターとしては直鎖状でも環状でもよく、プラスミドなどの非ウイルスベクターでも、ウイルスベクターでも、トランスポゾンによるベクターでもよい。また、かかるベクターには、プロモーターやターミネーターなどの制御配列や、薬剤耐性遺伝子、レポーター遺伝子など選択マーカー配列を含有していてもよい。プロモーター配列の下流に作動可能にCARをコードする核酸やT細胞の免疫機能促進因子をコードする核酸を配置することで、それぞれの核酸を効率よく転写することが可能となる。また、マーカー遺伝子を含有させることによって、キメラ抗原受容体をコードする核酸の発現を容易に確認することが可能となる。
【0040】
また、本発明のCAR発現ベクターには、自殺遺伝子をコードする核酸を含んでいてもよく、かかる自殺遺伝子の位置は特に制限されず、IL-7をコードする核酸、CCL19をコードする核酸、SHP-1に対するドミナントネガティブ変異体をコードする核酸、又はSHP-2に対するドミナントネガティブ変異体をコードする核酸を発現させるためのプロモーターの下流に2Aペプチド又はIRESをコードする配列を介して上記それぞれの核酸の上流又は下流に配置してもよく、他のプロモーターの下流に配置してもよい。本発明のCAR発現ベクターに自殺遺伝子をコードする核酸を含ませることによって、がんの治療経過に応じて、たとえば腫瘍が消失した場合に自殺遺伝子の機能を活性化する薬剤を投与し、生体内のCAR発現T細胞数を制御することが可能となる。
【0041】
自殺遺伝子としては、以下の文献に記載された単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼ(HSV-TK)や誘導性カスパーゼ9(inducible caspase 9)などを挙げることができ、かかる遺伝子の機能を活性化する薬剤としては、前者に対してはガンシクロビル、後者に対しては二量体誘導化合物(chemicalinduction of dimerization:CID)であるAP1903を挙げることができる(CooperLJ., et. al. Cytotherapy. 2006;8(2):105-17., Jensen M. C. et.al. Biol BloodMarrow Transplant. 2010 Sep;16(9):1245-56., Jones BS. FrontPharmacol. 2014 Nov27;5:254., Minagawa K., Pharmaceuticals (Basel). 2015 May8;8(2):230-49.,Bole-Richard E., Front Pharmacol. 2015 Aug 25;6:174)。
【0042】
前記ウイルスベクターとしては、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターを挙げることができ、レトロウイルスベクターを好適に挙げることができ、pMSGVベクター(Tamada k et al., Clin Cancer Res 18:6436-6445(2002))やpMSCVベクター(タカラバイオ社製)をより好適に挙げることができる。レトロウイルスベクターを用いれば、導入遺伝子はホスト細胞のゲノムへ取り込まれるため、長期間かつ安定に発現することが可能となる。
【0043】
本発明のCAR発現T細胞としては、(a)前記本発明のCAR発現ベクターを導入して得られたT細胞や、(b)CARをコードする核酸及びインターロイキン7をコードする核酸を含有するCAR発現ベクター(CAR-IL-7発現ベクター)と、CARをコードする核酸及びCCL19をコードする核酸を含有するCAR発現ベクター(CAR-CCL19発現ベクター)の少なくとも2つのベクターを導入して得られたT細胞であれば特に制限されず、本発明のCAR発現ベクターや、CAR-IL-7発現ベクターとCAR-CCL19発現ベクターをT細胞に導入する方法としては特に制限されないが、ウイルス感染法、カルシウムリン酸法、リポフェクション法、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法などの公知の方法により導入する方法を挙げることができ、ウイルス感染法を好適に挙げることができる。なお、上記CAR-IL-7発現ベクターは、CARをコードする核酸及びインターロイキン7をコードする核酸を含有していればよく、上記CAR-CCL19発現ベクターは、CARをコードする核酸及びCCL19をコードする核酸を含有していればよく、本発明のCAR発現ベクターと同様に、それぞれの核酸を発現し得る限り、2Aペプチド、IRES、又は自殺遺伝子をコードする核酸などの他の核酸を含んでもよい。
【0044】
ウイルス感染法としては、本発明のCAR発現ベクターとパッケージングプラスミドをGP2-293細胞(タカラバイオ社製)、Plat-GP細胞(コスモ・バイオ社製)、PG13細胞(ATCC CRL-10686)、PA317細胞(ATCC CRL-9078)などのパッケージング細胞にトランスフェクションして組換えウイルスを作製し、かかる組換えウイルスをT細胞に感染させる方法を挙げることができ、Retrovirus packagin Kit Eco(タカラ
バイオ社製)などの市販のキットを用いて行ってもよい。
【0045】
T細胞への本発明のCAR発現ベクターの導入の確認は、フローサイトメトリー、ノザンブロッティング、サザンブロッティング、RT-PCRなどのPCR、ELISA、ウェスタンブロッティングによってCARの発現を調べることや、ベクターに挿入されたマーカー遺伝子の発現を調べることによって確認することができる。
【0046】
T細胞としては、ヒト由来のT細胞や、イヌ、ネコ、ブタ、マウスなどの非ヒト哺乳動物由来のT細胞を挙げることができる。また、T細胞は、血液、骨髄液などの体液や、脾臓、胸腺、リンパ節などの組織、もしくは原発腫瘍、転移性腫瘍、がん性腹水などのがん組織に浸潤する免疫細胞から単離、精製して得ることができる。かかるT細胞としては、αβT細胞、γδT細胞、CD8T細胞、CD4T細胞、腫瘍浸潤T細胞、メモリーT細胞、ナイーブT細胞、NKT細胞を挙げることができる。
【0047】
本発明のCAR発現T細胞において、発現する一本鎖抗体は細胞外に位置し、かかる一本鎖抗体を備えることによって、CAR発現T細胞はがん細胞の表面上に発現される腫瘍関連抗原(TAA)を認識することが可能となる。
【0048】
また、本発明のCAR発現T細胞に、前記本発明のCAR発現ベクターと共に、自殺遺伝子をコードする核酸を含有するベクターを導入してもよい。
【0049】
本発明の抗がん剤は、本発明のCAR発現T細胞と薬学的に許容される添加剤とを含有していれば特に制限されず、前記添加剤としては、生理食塩水、緩衝生理食塩水、細胞培養培地、デキストロース、注射用水、グリセロール、エタノール及びこれらの組合せ、安定剤、可溶化剤及び界面活性剤、緩衝剤及び防腐剤、等張化剤、充填剤、並びに潤滑剤を挙げることができる。
【0050】
本発明の抗がん剤は、当業者に既知の方法を用いて、がんの治療を必要とする被験体に投与することができ、投与方法としては、静脈内、腫瘍内、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内、動脈内、髄内、心臓内、関節内、滑液嚢内、頭蓋内、髄腔内、及びくも膜下(髄液)への注射を挙げることができる。
【0051】
投与する抗がん剤に含まれる本発明のCAR発現T細胞の量は、がんの種類、位置、重症度、治療を受ける被験体の年齢、体重及び状態などに応じて適宜調整できるが、好ましくは、一回の投与において1×10~1×1010個、好ましくは1×10~1×10個、より好ましくは5×10~5×10個を挙げることができる。
【0052】
投与する抗がん剤は、1日4回、3回、2回又は1回、1日おき、2日おき、3日おき、4日おき、5日おき、週1回、7日おき、8日おき、9日おき、週2回、月1回又は月2回独立して投与することができる。
【0053】
本発明の抗がん剤や、後述するがんの治療方法におけるがんとしては、腺がん、扁平上皮がん、腺扁平上皮がん、未分化がん、大細胞がん、小細胞がん、皮膚がん、乳がん、前立腺がん、膀胱がん、膣がん、頸部がん、子宮がん、肝臓がん、腎臓がん、膵臓がん、脾臓がん、肺がん、気管がん、気管支がん、結腸がん、小腸がん、胃がん、食道がん、胆嚢がん、精巣がん、卵巣がんなどのがんや、骨組織、軟骨組織、脂肪組織、筋組織、血管組織及び造血組織のがんのほか、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、悪性血管内皮腫、悪性シュワン腫、骨肉腫、軟部組織肉腫などの肉腫や、肝芽腫、髄芽腫、腎芽腫、神経芽腫、膵芽腫、胸膜肺芽腫、網膜芽腫などの芽腫や、胚細胞腫瘍や、リンパ腫や、白血病を挙げることができる。
【0054】
本発明の抗がん剤は、他の抗がん剤と併用して用いることができる。他の抗がん剤としては、シクロホスファミド、ベンダムスチン、イオスファミド、ダカルバジンなどのアルキル化薬、ペントスタチン、フルダラビン、クラドリビン、メソトレキセート、5-フルオロウラシル、6-メルカプトプリン、エノシタビンなどの代謝拮抗薬、リツキシマブ、セツキシマブ、トラスツズマブなどの分子標的薬、イマチニブ、ゲフェチニブ、エルロチニブ、アファチニブ、ダサチニブ、スニチニブ、トラメチニブなどのキナーゼ阻害剤、ボルテゾミブなどのプロテアソーム阻害剤、シクロスポリン、タクロリムスなどのカルシニューリン阻害薬、イダルビジン、ドキソルビシンマイトマイシンCなどの抗がん性抗生物質、イリノテカン、エトポシドなどの植物アルカロイド、シスプラチン、オキサリプラチン、カルボプラチンなどのプラチナ製剤、タモキシフェン、ビカルダミドなどのホルモン療法薬、インターフェロン、ニボルマブ、ペンブロリズマブなどの免疫制御薬を挙げることができ、アルキル化薬又は代謝拮抗薬を好適に挙げることができ、シクロホスファミドを好適に挙げることができる。
【0055】
上記「本発明の抗がん剤と他の抗がん剤と併用して用いる」方法としては、他の抗がん剤を用いて処理し、その後本発明の抗がん剤を用いる方法や、本発明の抗がん剤と他の抗がん剤を同時に用いる方法や、本発明の抗がん剤を用いて処理し、その後他の抗がん剤を用いる方法を挙げることができ、他の抗がん剤を用いて処理し、その後本発明の抗がん剤を用いる方法を好適に挙げることができる。また、本発明の抗がん剤と他の抗がん剤と併用した場合には、がんの治療効果がより向上するとともに、それぞれの抗がん剤の投与回数又は投与量を減らすことで、それぞれの抗がん剤による副作用を低減させることが可能となる。また、本発明の抗がん剤に上記他の抗がん剤を含めてもよい。
【0056】
本発明の別の態様1として、1)本発明のCAR発現T細胞を、がんの治療を必要とする患者に投与することを特徴とするがんの治療方法や、2)抗がん剤として使用するための、本発明のCAR発現T細胞や、3)本発明のCAR発現T細胞の、抗がん剤の調製における使用を挙げることができる。
【0057】
さらに、本発明の別の態様2として、本発明のCAR発現ベクターを備えている、CAR発現T細胞を作製するためのキットを挙げることができ、かかるキットとしては、本発明のCAR発現ベクターを備えていれば特に制限されず、CAR発現T細胞を作製するための説明書や、本発明のCAR発現ベクターをT細胞に導入するために用いる試薬を含んでいてもよい。
【実施例0058】
[IL-7及びCCL19を発現するT細胞の作製]
(T細胞の免疫機能促進因子の選択)
T細胞の機能を制御できる分子は少なくとも生体内に数百種類も存在する。発明者らは、CAR-T細胞における更なる抗腫瘍効果を高めるための制御分子として、これまでの知見や経験に基づき、膨大な組み合わせの中からまずはIL-7とCCL19を選択し、かつ、それぞれ単独ではなく2つの組み合わせ、すなわちIL-7とCCL19との組み合わせを選択し、かかるT細胞の免疫機能促進因子とCARを共に発現するベクターを作製した。
【0059】
なお、前記IL-7はT細胞の生存に必須のサイトカインであり、骨髄、胸腺、リンパ器官・組織のストローマ細胞などの非造血細胞によって産生される。一方、T細胞自体の産生能力はほとんど認められない。
【0060】
また、前記CCL19は主にリンパ節の樹状細胞やマクロファージから産生され、その受容体であるCCR7を介してT細胞やB細胞、成熟した樹状細胞の遊走を惹起する機能を有する。
【0061】
(IL-7及びCCL19を発現する抗FITC CAR発現ベクターの作製)
抗FITC scFv、マウスCD8膜貫通領域、マウスCD28-4-1BB-CD3ζ細胞内シグナルモチーフからなる抗FITC CARをコードする抗FITC CAR DNA断片(配列番号7)、配列番号1に示す2Aペプチド(F2A)と、該ペプチドに続く制限酵素サイト(MCS)をコードするF2A-MCS DNA断片(配列番号8)、マウスIL-7(ストップコドン無し)と、それに続くF2AとマウスCCL19をコードするIL-7-F2A-CCL19 DNA断片(配列番号9)を人工合成した。配列番号7において、1~819番目が抗FITC scFv、829~1074番目がマウスCD8膜貫通領域、1075~1197番目がマウスCD28の細胞内領域、1198~1332番目が4-1BBの細胞内領域、1333~1674番目がCD3ζの細胞内領域のポリペプチドをコードする配列である。また、配列番号9において、1~462番目がIL-7、463~537番目がF2A、538~864番目がCCL19をコードする配列である。
【0062】
CAR、IL-7及びCCL19を発現するCARベクターを作製するために、上記抗FITC CAR DNA断片と上記F2A-MCS DNA断片を連結して抗FITC CAR-F2A-MCSコンストラクトを作製した。次に、作製したコンストラクトをpMSGVレトロウイルス発現ベクター(Tamada k et al., Clin Cancer Res 18:6436-6445(2002))にクローニングして抗FITC CAR-F2A-MCSを含むpMSGVベクターを作製した。かかるpMSGVベクターのMCSに、上記IL-7-F2A-CCL19 DNA断片を、制限酵素(NsiI及びSalI)処理及びライゲーションにより挿入し、抗FITC CAR-F2A-IL-7-F2A-CCL19を含むpMSGVベクター(IL-7/CCL19発現-抗FITC CARベクター)を得た。得られたベクターの配置図を図2に示す。また、コントロールとして抗FITC CAR DNA断片をpMSGVレトロウイルス発現ベクターにクローニングし、抗FITC CARを含むpMSGVベクター(コントロール抗FITC CARベクター)を作製した。
【0063】
(IL-7/CCL19発現-抗FITC CARベクターを導入したレトロウイルスの作製)
マウスT細胞の形質導入のために、レトロウイルスを作製した。リポフェクタミン2000又は3000(ライフテクノロジー社製)を用い、上述のIL-7/CCL19発現-抗FITC CARベクター又はコントロール抗FITC CARベクターと、pCL-Ecoプラスミド(Imgenex社製)をGP2-293パッケージング細胞株(タカラバイオ社製)にトランスフェクションすることで、IL-7/CCL19発現-抗FITC CARベクター又はコントロール抗FITC CARベクターを導入したレトロウイルスを作製した。トランスフェクションから48時間後に前記レトロウイルスを含有する上清を回収した。
【0064】
前記GP2-293細胞の培養液としては、10%FCS、100U/mlのペニシリン、100mg/mlのストレプトマイシンを加えたDMEMを用いた。また、後述の実施例で用いるT細胞の培養液としては、10%FCS、100U/mlのペニシリン、100mg/mlのストレプトマイシン、50mMの2-メルカプトエタノール、2mMのL-グルタミンを加えたRPMI-1640を用いた。
【0065】
(マウスT細胞の形質導入)
マウスT細胞の形質導入のため、脾臓及びリンパ節由来の3×106個の精製したマウスT細胞を、固層化した抗CD3モノクローナル抗体(3μg/ml)、抗CD28モノクローナル抗体(1μg/ml)、IL-2(100IU/ml)で48時間活性化した。次に、上述で作製したIL-7/CCL19発現-抗FITC CARベクター又はコントロール抗FITC CARベクターを導入したレトロウイルスを含有する上清を、25μg/mlのレトロネクチン(登録商標:タカラバイオ社製)でコートしたプレートで活性化させた上述のマウスT細胞(1×106cells/ml)と混合し、1500rpmで2時間遠心後、IL-2(100IU/ml)の存在下で6時間培養した。培養液からレトロウイルスを除去するため、マウスT細胞を回収し、IL-2(100IU/ml)を含有する新しい増殖培養液(RPMI)に移し、さらに42時間培養し、IL-7/CCL19発現-抗FITC CARベクターを導入したマウスT細胞(抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞)又はコントロール抗FITC CARベクターを導入したマウスT細胞(抗FITC CAR発現T細胞)を得た。
【0066】
(IL-7及びCCL19を発現する抗CD20 CAR発現ベクターの作製)
上記におけるIL-7/CCL19発現-抗FITC CARベクターの作製において、配列番号7に示す配列に含まれる抗FITC scFv領域の配列を、リツキシマブの配列に基づきライフテクノロジー社が合成した抗ヒトCD20 scFv(配列番号10)の配列に置換した以外は同様の方法で、抗ヒトCD20 CAR-F2A-IL-7-F2A-CCL19を含むpMSGVベクター(IL-7/CCL19発現-抗ヒトCD20 CARベクター)を作製した。同様に、上記におけるにおけるコントロール抗FITC CARベクターの作製において、配列番号7に示す配列に含まれる抗FITC scFv領域の配列を、上記抗ヒトCD20 scFv(配列番号10)の配列に置換した以外は同様の方法で、抗ヒトCD20 CARを含むpMSGVベクター(コントロール抗ヒトCD20 CARベクター)を作製した。かかるIL-7/CCL19発現-抗ヒトCD20 CARベクター又はコントロール抗ヒトCD20 CARベクターを、上記と同様の方法でマウスT細胞へ導入して、抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞又は抗ヒトCD20 CAR発現T細胞を作製した。
【実施例0067】
[フローサイトメトリーによるCAR発現測定]
(フローサイトメトリー解析)
モデル抗原としてのFITCを認識するCARの発現レベルは2色フローサイトメトリー解析によって行った。作製した抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞をFITC結合デキストランとアロフィコシアニン(APC)結合抗CD8モノクローナル抗体(53-6.7Affymetrix社製)の存在下で培養した。フローサイトメトリーはEC800(ソニー社製)を用い、データ解析はFlowJo software(Tree Star社製)を用いた。
【0068】
また、ヒトCD20を認識するCARの発現レベルも2色フローサイトメトリー解析によって行った。作製した抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞をビオチン標識したプロテインL及びAPC結合ストレプトアビジンを用いて解析した。
【0069】
(結果)
結果を図3~5に示す。図3中、左はCAR無染色(FITC結合デキストラン不添加)の抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞、右はCAR染色(FITC結合デキストラン添加)の抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞の結果であり、図4中、「transduction (-)」は形質導入なしのT細胞、「Cont.」は抗FITC CAR発現T細胞、「7×19」は抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞であり、図5中、「transduction (-)」は形質導入なしのT細胞、「Cont.」は抗ヒトCD20 CAR発現T細胞、「7×19」は抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞の結果である。また、図中の数値はそれぞれのポピュレーションのパーセンテージを表す。図3~5に示すように抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞や抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞において、CARの発現が確認された。
【実施例0070】
[IL-7、CCL19の分泌]
(抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞における培養上清中のIL-7、CCL19濃度の測定-1)
作製した抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞又は抗FITC CAR発現T細胞を1μg/mlの固層化したFITC結合トラスツズマブで刺激して3日間培養し、上清を回収してIL-7及びCCL19の濃度を市販のELISAキット(R&
D systems社製)を用いて測定した。結果を図6に示す。
【0071】
(結果)
図6に示すように、培養上清中にIL-7については300pg/ml以上、CCL19については75pg/ml以上検出された。したがって、抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞はIL-7及びCCL19を発現し、かつ発現したIL-7及びCCL19が細胞外に分泌されることが確認された。なお、コントロールの抗FITC CAR発現T細胞においては、IL-7、CCL19のいずれも検出限界以下(Not detected)であった。
【0072】
(抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞における培養上清中のIL-7、CCL19濃度の測定-2)
固層化したFITC結合トラスツズマブ又は抗CD3モノクローナル抗体による刺激あり、無しにおける3、5、7日間培養後のIL-7及びCCL-19の濃度を、ELISAキットを用いて測定した。結果を図7に示す。図7中、白カラムが刺激無し、灰色カラムがFITC結合トラスツズマブによる刺激あり、黒カラムが抗CD3モノクローナル抗体による刺激ありを示す。また、「Cont.」は抗FITC CAR発現T細胞、「7×19」は抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞を示す。
【0073】
(結果)
図7から明らかなように、3日間だけでなく5日間、7日間培養しても抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞ではIL-7及びCCL-19が細胞外に分泌されることが明らかとなった。
【0074】
(抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞における培養上清中のIL-7、CCL19濃度の測定)
さらに、作製した抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞又は抗ヒトCD20 CAR発現T細胞について、同様にマイトマイシンCで処理したP815マストサイトーマ、ヒトCD20を発現するように遺伝子組換えを行ったP815マストサイトーマ(P815-hCD20)、又は固層化した抗CD3モノクローナル抗体による刺激あり、無しにおける3日間又は5日間培養後のIL-7及びCCL-19の濃度を、ELISAキットを用いて測定した。結果を図8に示す。図8中、白カラムが刺激無し、斜線カラムがマイトマイシンCで処理したP815による刺激あり、黒カラムがP815-hCD20による刺激あり、灰色カラムが固層化した抗CD3モノクローナル抗体による刺激ありを示す。また、「Cont.」は抗ヒトCD20 CAR発現T細胞、「7×19」は抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞を示す。
【0075】
(結果)
図8から明らかなように、抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞においてもIL-7及びCCL-19が細胞外に分泌されることが明らかとなった。
【実施例0076】
[CAR発現T細胞の細胞数、生存率]
(抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞の細胞数、生存率)
抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞により産生されるIL-7やCCL19が生物的な機能を発揮し、免疫誘導効果を示すか否かについて検討した。作製した抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞又は抗FITC CAR発現T細胞を1μg/mlの固層化したFITC結合トラスツズマブで刺激して3日間、5日間、7日間培養し、細胞と上清を回収した。細胞数と生存率はトリパンブルーの染色によって解析した。結果を図9、10に示す。図9、10中、黒カラムは抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞、白カラムは抗FITC CAR発現T細胞を示し、横軸は培養日数を示す。また、統計学的有意差はStudent’s t-testにて検討した(*p<0.05, **p<0.01, ***p<0.005, †p<0.001)。
【0077】
(結果)
図9、10に示すように、抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞は細胞増殖、生存率が共に亢進しており、抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞により産生されるIL-7やCCL19が生物的な機能を発揮していることが明らかとなった。
【0078】
(抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞の細胞数)
抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞(4×10個)含有サンプルを、ラットIgG2aアイソタイプコントロール、抗CD127モノクローナル中和抗体、又は抗CCR7モノクローナル中和抗体の存在下でマイトマイシンCと共にP815-hCD20で刺激した。5日間培養し、トリパンブルーによって生細胞の絶対数を調べた。なお、CD127はIL-7の受容体であり、CCR7はCCL19の受容体である。結果を図11に示す。図11中、「Iso.Cntrl.」はラットIgG2aアイソタイプコントロール、「anti-CD127」は抗CD127モノクローナル中和抗体、「anti-CCR7」は抗CCR7モノクローナル中和抗体、のそれぞれ抗体の存在下でP815-hCD20で刺激した場合である。図11中、黒カラムは抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞、白カラムは抗ヒトCD20 CAR発現T細胞を示す。また、各データは3つのウェルの平均±標準偏差で示し、*: P < 0.05,†: P < 0.001を示す。
【0079】
(結果)
図11に示すように、抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞においても細胞数が増加しており、細胞増殖率が亢進すること、及びanti-CD127によって細胞増殖が抑制されていることから、細胞増殖率の亢進はIL-7の受容体であるCD127を介して作用していることが明らかとなった。
【実施例0080】
[T細胞遊走試験]
(抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞によるT細胞遊走試験)
トランスウェルを用いた細胞遊走試験により、CCL19の遊走惹起効果を検討した。応答側T細胞の遊走性は96ウェルのトランスウェル(登録商標)チャンバー(Cornig Costar社製)を用い、孔径5μmのポリカーボネートフィルターを通して遊走させることによって測定した。具体的には、チャンバーの下層で抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞又は抗FITC CAR発現T細胞を1μg/mlの固層化FITC結合トラスツズマブで3日間刺激した。応答側T細胞は、MACS(登録商標)(Miltenyi Biotec社製)のネガティブ選択によって、脾臓やリンパ節から調製した。応答側T細胞はCytoTell blue(AAT Bioquest社製)でラベルし、上層で3時間培養した。チャンバーの上層から下層への遊走はフローサイトメトリーで調べた。結果を図12に示す。図12中、黒カラムは抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞、白カラムは抗FITC CAR発現T細胞を示し、縦軸は下層のチャンバーに遊走した応答側T細胞の絶対数を示す(以下の図13、14においても同様)。また、統計学的有意差はStudent’s t-testにて検討した(*p<0.05)。
【0081】
(結果)
図12に示すように、抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞は、抗FITC CAR発現T細胞と比較してより多くのT細胞を下層に遊走させた。CAR発現T細胞などのリンパ球移入療法では、投与したT細胞によるがん細胞傷害はもちろん重要であるが、それに加えて、がん患者に元々存在する内在性T細胞(=宿主側免疫細胞)を活性化し、がん細胞を攻撃する細胞として動員することが重要である。このためには抗腫瘍活性を有するリンパ球を単に外部から移入するだけでなく、何らかの手法で、移入したT細胞と内在性T細胞の能動的な相互作用を惹起し、内在性T細胞をがん局所に集積するようにさせることが免疫治療効果を高める点で好ましい。図12の結果より、抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞は、内因性T細胞を集積させる能力を有することから、移入したT細胞と内在性T細胞の能動的な相互作用を誘導することが可能であることが明らかとなった。
【0082】
(抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細によるT細胞又は樹状細胞の遊走試験)
トランスウェルの下層チャンバー中で、抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞又は抗FITC CAR発現T細胞を含有するサンプル(5×10個)を固層化したFITC結合トラスツズマブ又は抗CD3モノクローナル抗体によって刺激した。3日目にCytoTell Blueで染色した4×10個のT細胞を上層におき、3時間又は5時間インキュベートした。同様に、それぞれのサンプルを固層化したFITC結合トラスツズマブで刺激し、3日目にCytoTell Blueで染色した4×10個の樹状細胞を上層におき、3時間インキュベートした。上層から下層に遊走したそれぞれの応答側細胞をフローサイトメトリーで分析した。結果を図13、14に示す。図13、14中、黒カラムは抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞、白カラムは抗FITC CAR発現T細胞を示す。なお、図13、14及び後述する図15において、各データは3つのウェルの平均±標準偏差で示し、*:P < 0.05, **: P < 0.01, †: P<0.001, ††: P < 0.00001, ‡: P< 5 × 10-5を示す。
【0083】
(結果)
図13、14の結果から、抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞は、内因性T細胞及び樹状細胞を集積させる能力が高いことが明らかとなった。
【0084】
(抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞によるT細胞遊走試験)
トランスウェルの下層チャンバー中で、抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞(1×10個)含有サンプルを、マイトマイシンCで処理したP815-hCD20と共培養した。3日目にCytoTell Blueで染色した4×10個のT細胞を上層におき、ラットIgG2aアイソタイプコントロール、抗CD127モノクローナル抗体、又は抗CCR7モノクローナル抗体の存在下で3時間インキュベートした。上層から下層に遊走したそれぞれの応答側T細胞をフローサイトメトリーで分析した。結果を図15に示す。図15中、「Iso.Cntrl.」はラットIgG2aアイソタイプコントロール、「anti-CD127」は抗CD127モノクローナル中和抗体、「anti-CCR7」は抗CCR7モノクローナル中和抗体の存在下でP815-hCD20で刺激した場合である。図15中、黒カラムは抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞、白カラムは抗ヒトCD20 CAR発現T細胞を示す。
【0085】
(結果)
図15の結果より、抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞においても内因性T細胞を集積させる能力が高いこと、及びanti-CCR7によって内因性T細胞の集積が抑制されていることから、内因性T細胞の集積はCCL19の受容体であるCCR7を介して作用していることが明らかとなった。
【0086】
また、図9~15の結果から抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞や抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞は、IL-7により効果的に増殖し、生存率も高く、かつCCL19によりT細胞や樹状細胞ががん局所に集積するという、免疫誘導に欠かせない重要な効果を備えており、優れた免疫誘導効果を有することが明らかとなった。すなわち、CAR発現T細胞において、「IL-7」と「CCL19」の2つの制御分子を発現させることで、かかるT細胞の増殖能力、生存率、免疫誘導効果を向上させることが可能であることが明らかとなった。
【実施例0087】
[T細胞の増殖能力]
抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞及びコントロールとして抗FITC CAR発現T細胞を含有するサンプル(5×10個)をCytoTell Blue(AAT Bioquest社製)で染色し、固定化したFITC結合トラスツズマブによって刺激後にフローサイトメトリーで分析した。刺激開始後5日目の結果を図16に、3日目、7日目の結果を図17に示す。図16中、ヒストグラムの数値は細胞分裂数を示し、図16、17中、円グラフの数値は白血球ポピュレーションにおけるそれぞれのゲーティングしたフラクション(0,1,2,3,4>の細胞分裂数)の割合を示す。
【0088】
(結果)
図16、17の結果より、抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞は抗FITC CAR発現T細胞と比較して増殖能力が増大していることが明らかとなった。
【実施例0089】
[T細胞、樹状細胞、及びCAR発現T細胞におけるCD127又はCCR7の発現]
非刺激の脾臓T細胞(ナイーブT細胞:naive T cells)、脾臓T細胞を抗CD3モノクローナル抗体、抗CD28モノクローナル抗体及びIL-2と共に2日間培養して刺激したもの(activatedT cells)、非刺激の脾臓中の樹状細胞(dendriticcells)、及び実施例1の「マウスT細胞の形質導入」と同様の方法で活性化して作製した抗FITC CAR発現T細胞(Cont.)と抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞(7×19)をフローサイトメトリーで解析し、CD127又はCDR7の発現を調べた。なおT細胞はCD3CD19のポピュレーション、抗FITC CAR発現T細胞、抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞はFITC結合デキストランビーズに対してポジティブなポピュレーション、樹状細胞はCD11cのポピュレーションとした。CD127発現を調べた結果を図18に、CCR7発現を調べた結果を図19に示す。図中、数値は陽性の%、「Cont.」は抗FITC CAR発現T細胞、「7×19」は抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞を示す。
【0090】
(結果)
図18に示すように、CD127の発現は、活性化T細胞においてはナイーブT細胞と比較して明らかに低下したが、抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞においては、活性化T細胞よりも多く、さらにナイーブT細胞以上に回復していることが明らかとなった。また、図19に示すように、CCR7の発現は抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞において活性化によって発現が低下するものの、ナイーブT細胞と比較しておよそ67%もの発現を維持していることが明らかとなった。従来、T細胞が活性化するとCD127又はCCR7の発現はおよそ1/2~1/3まで低下することが知られていた。そのため、IL-7やCCL19を発現するCAR発現T細胞を作製しても、CAR発現T細胞が活性化することでIL-7及びCCL19の作用が低下すると考えられる。したがって、CAR発現T細胞にIL-7及びCCL19を発現させることにより、CAR発現T細胞による免疫誘導効果や抗腫瘍活性を高めることは通常期待しづらいと考えられる。本試験においても、脾臓T細胞を活性化後2日目は、CD127又はCCR7の発現は一旦低下することが確認できた。ところが、抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞においては、4日目にCD127又はCCR7の発現が回復することが明らかとなった。このことから、CAR発現T細胞にIL-7及びCCL19を発現させることは免疫誘導効果や抗腫瘍活性の増強に有用であることが示された。
【実施例0091】
[マウス腫瘍モデルでの治療効果]
(マウスへの抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞の投与)
担がんマウス(DBA/2マウス)に、ヒトCD20を発現するように遺伝子組換えを行ったP815マストサイトーマ(P815-hCD20)5×10個を皮下に接種した。3日後、3×10個の抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞又は抗ヒトCD20 CAR発現T細胞を上記マウスに対して静脈内に投与した。コントロールとしては、前記P815マストサイトーマを接種後未処理(CAR発現T細胞投与なし)の非治療群を設定した。マウスの腫瘍体積や生存率を1週間に2回測定した。腫瘍体積分析において、標準偏差はそれぞれの実験グループにおいて算出した。3つのグループの統計的有意差は、腫瘍体積分析においてはStudent's t-tests、生存率の調査においてはlog-rank testによって検討した(*P<0.05,**P<0.01)。
【0092】
マウスの腫瘍体積の変化の結果を図20に、マウスの生存率の結果を図21に示す。図20、21中、○は抗ヒトCD20 CAR発現T細胞を投与した場合、●は抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞を投与した場合、◇は非治療群としてCAR発現T細胞を投与なしの場合を示す。また、図20の横軸は細胞をマウス静脈内に投与後の経過日数、縦軸は腫瘍体積(mm)を示し、図21の横軸は細胞をマウス静脈内に投与後の経過週、縦軸は生存率(%)を表す。
【0093】
(結果)
図20、21に示すように、抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞を投与した場合には、抗ヒトCD20 CAR発現T細胞を投与した場合やCAR発現T細胞投与なしの場合と比較して腫瘍体積の減少効果や、生存率の向上(生存期間の延長効果)が確認された。したがって、抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞は優れた抗腫瘍活性を有することが明らかとなった。
【0094】
(マウスへの抗がん剤及び抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞の接種)
マウスに5×10個のP815-hCD20を皮下接種した。接種後10日目に抗がん剤であるシクロホスファミド(CPA、100mg/kg)を腹腔内に投与し、14日目に1×106個の抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞又は抗ヒトCD20 CAR発現T細胞を静脈内に投与した。マウスの生存率の結果を図22に、腫瘍の体積の結果を図23、24に示す。図22~24中、横軸はP815-hCD20を皮下接種後の日数(マウスにP815-hCD20を皮下接種した日を0日とした)、縦軸は生存率(図22)、腫瘍体積(腫瘍の長軸×(腫瘍の短軸)/2(mm3))(図23、24)であり、「no treatment」は無処理、「CPA」はCPAのみ、「CPA+Cont.」はCPA投与後に抗ヒトCD20 CAR発現T細胞を投与、「CPA+7×19」はCPA投与後に抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞を投与したグループであり、†はマウスの死を示す。なお、図24図23におけるCPA+7×19のグラフの縦軸の数値を1/10とした図である。
【0095】
(結果)
図22に示すように、本発明の抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞と抗がん剤を併用することで、生存率が極めて高くなることが明らかとなった。また、図23、24に示すように本発明の抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞と抗がん剤とを併用することで、腫瘍が完全に消失することが明らかとなった。なお、図24に示すように、P815-hCD20を皮下接種後10日目に腫瘍体積が最大となっており、この時の短径は4.86mm~7.25mm、長径は5.92mm~8.39mmであり、腫瘍体積にすると、69.91mm3~220.50mm3、平均は140.02mm3であった。上記結果からも、一旦増殖した腫瘍が、抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞による治療により消失したことが示された。なお、他の抗がん剤と併用する場合には、上記方法のように、まずは他の抗がん剤によってリンパ球細胞数を低減させ、その後に抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞を投与することが、より本発明のCAR発現T細胞による抗腫瘍活性を高めるうえで好ましい。かかる方法によりCAR発現T細胞の生体内ホメオスタシスを増強させることができる。
【実施例0096】
[腫瘍組織への浸透効果]
マウスに5×10個のP815-hCD20を皮下接種した。接種後3日目に、1×10個の抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞を投与し、接種後21日目に腫瘍組織を切断した。それぞれの組織を2つに分けた。1つはヘマトキシリン・エオジン(H&E)染色を行い、他方は免疫組織化学分析に用いた。免疫組織化学分析において、1次抗体として抗CD4及び抗CD8のモノクローナル抗体の組み合わせ、又は、抗CD3及び抗DEC205のモノクローナル抗体の組み合わせで行った。また、2次抗体として、Alexa Fluor(商標登録)488結合抗ラットIgG2a(緑)及びAlexa Fluor(商標登録)647結合抗ラットIgG2b(赤)を用いた。細胞核はDAPI(青)で染色した。H&E染色サンプル及び免疫標識した断片の顕微鏡観察は×100又は×200の倍率で行った。なお、CD4及びCD8はT細胞のマーカー、DEC205は樹状細胞のマーカーである。H&E染色の結果を図25に、免疫組織化学分析の結果を図26(a)、(b)に示す。また、図26(a)、(b)のデータにおいてそれぞれの蛍光染色(CD4染色(赤)、CD8染色(緑)、CD3染色(赤)、DEC205染色(緑)、CD3及びDEC205の共存(黄))によって標識されたポジティブ領域をHybrid Cell Count program(KEYENCE社製)を用いて定量した結果をそれぞれ図27(a)、(b)に示す。図25~27中、「no treatment」又は「no treat.」は無処理、「Cont.」は抗ヒトCD20 CAR発現T細胞、7×19は抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞で処理したグループである。
【0097】
(結果)
図25の結果より、抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞で処理した場合には、ネクローシス(壊死)が進み(矢印で示した領域)、核が消失している領域が観察された。さらに、図26(a)、27(a)の結果より、抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞で処理することによって、がんの組織内にT細胞が浸透していること、及び図26(b)、27(b)の結果より、抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞で処理することによって、がんの組織内にT細胞と共に樹状細胞が浸透していることが明らかとなった。
【実施例0098】
[IL-7とCCL19の組み合わせによる腫瘍治療効果]
DBA/2マウスに5×10個のP815-hCD20を皮下接種した。接種後3日目に、抗ヒトCD20 CAR発現T細胞、免疫機能促進因子としてIL-7のみを発現する(CCL19を発現しない)抗ヒトCD20 CAR-IL-7発現T細胞、免疫機能促進因子としてCCL19のみを発現する(IL-7を発現しない)抗ヒトCD20 CAR-CCL19発現T細胞、又はIL-7及びCCL19を発現する抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞を1×10個静脈内に投与した。コントロールとして、IL-7及びCCL19を発現しないCAR発現T細胞の投与無しのマウス群を設けた。投与後10日目に腫瘍の長軸、短軸を測定し、腫瘍の体積(mm)を上記と同様の方法で算出した。結果を図28に示す。図28中、「No treat」はCAR発現T細胞の投与無し、「Control CAR」は抗ヒトCD20 CAR発現T細胞、「IL-7 CAR」は抗ヒトCD20 CAR-IL-7発現T細胞、「CCL19 CAR」は抗ヒトCD20 CAR-CCL19発現T細胞、「IL-7/CCL19 CAR」は抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞を投与した場合を示す。
【0099】
なお、抗ヒトCD20 CAR-IL-7発現T細胞は抗ヒトCD20 CAR-F2A-IL-7を含むpMSGVベクター(IL-7発現-抗ヒトCD20 CARベクター)を作製し、実施例1の「マウスT細胞の形質導入」と同様の方法でマウスT細胞へ導入することで得た。同様に、抗ヒトCD20 CAR-CCL19発現T細胞は抗ヒトCD20 CAR-F2A-CCL19を含むpMSGVベクター(CCL19発現-抗ヒトCD20 CARベクター)を作製し、実施例1の「マウスT細胞の形質導入」と同様の方法でマウスT細胞へ導入することで得た。それぞれのベクターの作製は、実施例1の「IL-7及びCCL19を発現する抗FITC CAR発現ベクターの作製」や「IL-7及びCCL19を発現する抗CD20 CAR発現ベクターの作製」の方法に準じて行った。IL-7をコードする配列は、配列番号9における1~462番目とそれに続く終止コドン配列、CCL19をコードする配列は配列番号9における538~864番目の配列を用いた。結果を図28に示す。
【0100】
(結果)
図28に示すように、抗ヒトCD20 CAR-IL-7発現T細胞や抗ヒトCD20 CAR-CCL19発現T細胞を投与した場合には、Conotrolの抗ヒトCD20 CAR発現T細胞を投与した場合とほぼ同等又はやや低い腫瘍増殖抑制効果しかなかったが、抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞を投与すると腫瘍がほぼ消失していた。したがって、IL-7、CCL19それぞれ単独ではほとんど腫瘍増殖抑制効果が無いにもかかわらずIL-7とCCL19を組み合わせることで、極めて高い腫瘍増殖抑制効果が得られることが明らかとなった。
【実施例0101】
51Cr放出アッセイによる腫瘍細胞傷害活性-1]
(T細胞の免疫機能促進因子の選択)
がん組織の微小環境においては、免疫細胞へ抑制性シグナルが伝達され、抗腫瘍免疫反応が阻害されることで、免疫療法の効果が減弱する。免疫細胞への抑制シグナルは、SHP-1やSHP-2により伝達される。したがって、がんに対するT細胞療法において、T細胞自体にSHP-1やSHP-2の作用を阻害するドミナントネガティブ変異体を産生させることにより、抗腫瘍効果を増強させることが可能となる。そこで、SHP-1やSHP-2の作用を阻害するドミナントネガティブ変異体とCARを共に発現するベクターを作製し、腫瘍細胞傷害活性を調べた。
【0102】
(SHP1又はSHP2のドミナントネガティブ変異体を発現するCAR発現ベクターの作製)
453位における触媒システイン残基のセリンへの変異(C453S)を含有するマウスSHP1のドミナントネガティブ変異体(SHP1DN)をコードするDNA断片は、PCRによる部位特異的変異導入法によって作製し、459位における触媒システイン残基のセリンへの変異(C459S)を含有するマウスSHP2のドミナントネガティブ変異体(SHP2DN)をコードするDNA断片は、ライフテクノロジー社が合成したものを用いた。マウスSHP1DNをコードする塩基配列を配列番号11に、マウスSHP2DNをコードする塩基配列を配列番号12に示す。配列番号11中、1357~1359番目、及び配列番号12中、1375~1377番目の3塩基が変異部位である。SHP1DN又はSHP2DNをコードするDNA断片を、実施例2のIL-7/CCL19発現-抗ヒトCD20 CARベクター作製過程における抗ヒトCD20 scFv CAR-F2A-MCSを含むpMSGVベクターのMCSに挿入し、それぞれSHP1DN発現-抗ヒトCD20 CARベクター、SHP2DN発現-抗ヒトCD20 CARベクターを得た。得られたベクターの配置図を図29に示す。
【0103】
(マウスT細胞の形質導入)
前記SHP1DN発現-抗ヒトCD20 CARベクター、SHP2DN発現-抗ヒトCD20 CARベクターを実施例1と同様の方法でマウスT細胞へ導入して、それぞれ抗ヒトCD20 CAR-SHP1DN発現T細胞、抗ヒトCD20 CAR-SHP2DN発現T細胞を得た。コントロールとしては、実施例1で作製した抗ヒトCD20 CAR発現T細胞を用いた。
【0104】
51Cr放出アッセイによる腫瘍細胞傷害活性)
腫瘍に対するCAR発現T細胞の細胞傷害活性は、標準的な4時間51Cr放出アッセイによって測定した。ヒトCD20を発現するP815(P815-hCD20)をターゲット腫瘍細胞として用いた。前記腫瘍細胞を採取し、100μCi Na 51CrO存在下、37℃で1時間培養した後に3回洗浄した。その後、エフェクターT細胞として、抗ヒトCD20 CAR発現T細胞、抗ヒトCD20 CAR-SHP1DN発現T細胞、又は抗ヒトCD20 CAR-SHP2DN発現T細胞と共培養した。エフェクター/ターゲット比は、0.6、1.25、2.5、5、10となるようにした。ターゲット細胞の最大放出と自然放出は、前記細胞を10%Triton-X(シグマアルドリッチ社製)含有培養液又は培養液のみで培養することによって測定した。上清の51Cr放出はTopCountシンチレーションカウンター(PerkinElmer社製)で測定した。特異的傷害の割合は、式:特異的傷害(%)=[(試験放出-自然放出)/(最大放出-自然放出)]×100で算出した。結果を図30に示す。図30(a)において、○は抗ヒトCD20 CAR発現T細胞、●は抗ヒトCD20 CAR-SHP1DN発現T細胞であり、図30(b)において、○は抗ヒトCD20 CAR発現T細胞、●は抗ヒトCD20 CAR-SHP2DN発現T細胞である。また、横軸はエフェクター(T細胞)とターゲット(腫瘍細胞)の比をE/T ratioで表し、縦軸は特異的傷害(%)を示す。統計学的有意差はStudent’s t-testにて検討した(*p<0.05)。
【0105】
図30に示すように、抗ヒトCD20 CAR-SHP1DN発現T細胞や抗ヒトCD20 CAR-SHP2DN発現T細胞は、抗ヒトCD20 CAR発現T細胞と比較して有意に高い腫瘍細胞傷害活性を有することが明らかとなった。
【実施例0106】
51Cr放出アッセイによる腫瘍細胞傷害活性-2]
P815-hCD20(1×10個/ウェル)を未ラベル(Ab、白抜き)又はFITC結合(FITC-Ab、黒塗り)リツキシマブ存在下で、エフェクター/ターゲット(E/T)割合が0.15625、0.3125、0.625、2.5、5、10となるように抗FITC CAR発現T細胞(Cont,丸)又は抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞(7×19、四角)と共に混合し、上述と同様の方法で上清の51Cr放出を測定し、傷害活性の割合を算出した。結果を図31に示す。図31中、FITC結合リツキシマブ存在下で、抗FITC CAR発現T細胞と共に混合した場合を“●”、未ラベルリツキシマブ存在下で、抗FITC CAR発現T細胞と共に混合した場合を“○”、FITC結合リツキシマブ存在下で、抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞と共に混合した場合を“■”、未ラベルリツキシマブ存在下で、抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞と共に混合した場合を“□”で示す。
【0107】
また、815-hCD20(1×10個/ウェル)をエフェクター/ターゲット(E/T)割合が0.3125、0.625、2.5、5、10、20となるように抗ヒトCD20 CAR発現T細胞又は抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞と共に混合し、上記と同様の方法で上清の51Cr放出を測定し、傷害活性の割合を算出した。結果を図32に示す。図32中、抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞と共に混合した場合を“●”、抗ヒトCD20 CAR発現T細胞と共に混合した場合を“○”で示す。
【0108】
(結果)
図31、32に示すように、抗FITC CAR-IL-7/CCL19発現T細胞は1細胞あたりの腫瘍細胞傷害活性が抗FITC CAR発現T細胞と同等を維持しており、同様に抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞は1細胞あたりの腫瘍細胞傷害活性が抗ヒトCD20 CAR発現T細胞と同等レベルを維持していることが明らかとなった。
【実施例0109】
[生体内でのCAR発現T細胞の生存とメモリーT細胞への分化]
(フローサイトメトリー解析)
DBA/2マウスに5×10個のP815-hCD20を皮下接種した。接種後10日目に抗がん剤であるシクロホスファミド(CPA、100mg/kg)を腹腔内に投与し、14日目に1×10個の抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞又は抗ヒトCD20 CAR発現T細胞を静脈内に投与した。CAR発現T細胞投与後21日目に脾臓又は腫瘍所属リンパ節(腋下、上腕、鼠径)から白血球を単離した。フローサイトメトリーで白血球表面の表現型について、CD4、CD8、CD44、CD62Lを解析した結果を図33に示す。また、脾臓の白血球をマイトマイシンCで処理したP815-hCD20と共に4日間培養して刺激し、T細胞の増殖をフローサイトメトリーで調べた結果を図34に示す。CARの発現はビオチン標識したプロテインL及びAPC結合ストレプトアビジンを用いて確認した。図33中の数字はCD4T細胞、CD8T細胞のそれぞれのゲート領域(CD62LCD44はナイーブT細胞、CD62LCD44はセントラルメモリーT細胞、CD62LCD44はエフェクターメモリーT細胞)の割合を示し、図34中の数字はプロテインL陽性T細胞の割合を示す。また、図33、34において「Cont.」は抗ヒトCD20 CAR発現T細胞、「7×19」は抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞を示す。
【0110】
(結果)
図33、34に示すように、抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞を投与したマウスでは、脾臓及びリンパ節にてメモリーT細胞が増加していること、またマウス内に生存する抗ヒトCD20 CAR-IL-7/CCL19発現T細胞はヒトCD20を発現する腫瘍細胞と共培養すると強く増殖することが明らかとなった。図21、22の生存率の結果と合わせると、本発明のCAR発現T細胞は、投与された生体内において効率的に生存し、メモリーT細胞となることでがん細胞を消滅させて生存率を高める能力も有していると考えられ、がんの再発予防にも有効であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明のCAR発現ベクターを用いれば、生存能力及びリンパ球集積能力を併せ持つCAR-T細胞や、がん微細環境での免疫抑制に抵抗性を有するCAR-T細胞を作製することが可能となることから、がん免疫療法の分野において利用可能である。
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【配列表】
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