(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022048204
(43)【公開日】2022-03-25
(54)【発明の名称】適応のための方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20220317BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20220317BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20220317BHJP
【FI】
C12N1/20 A
C12N1/00 T
C12Q1/02
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022005426
(22)【出願日】2022-01-18
(62)【分割の表示】P 2018541518の分割
【原出願日】2016-10-28
(31)【優先権主張番号】1519087.9
(32)【優先日】2015-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(71)【出願人】
【識別番号】518151560
【氏名又は名称】メタボゲン アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】カーン、ムハンマド - タンウィア
(72)【発明者】
【氏名】バークヘッド、フレドリク
(57)【要約】
【課題】本発明は、一般に、細菌の増殖に関する。より具体的には、本発明は、嫌気性微生物の酸化環境適応のための方法、及び新規プロバイオティクスの開発におけるそれらの使用に関する。
【解決手段】本発明は、嫌気性微生物の適応及び酸素耐性が高い嫌気性微生物の選択のための方法であって、当該方法は、印加電圧と酸素拡散による酸化ストレスの段階的な二元誘発を行い、酸化還元状態を調整するために酸化防止剤/酸化された対応物の濃度比を段階的に変化させつつ、前記微生物を培養する工程を含む、方法を提供する。新しい株も提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
嫌気性微生物の適応及び酸素耐性が高い嫌気性微生物の選択のための方法であって、当該方法は、印加電圧と酸素拡散による酸化ストレスの段階的な二元誘発を行い、酸化還元状態を調整するために酸化防止剤/酸化された対応物の濃度比を段階的に変化させつつ、前記微生物を培養する工程を含む、上記方法。
【請求項2】
酸化防止剤/酸化された対応物が、システイン/シスチン、グルタチオン/グルタチオンの酸化状態、アスコルビン酸/デヒドロアスコルベート、ジチオトレイトール/酸化ジチオトレイトール及び没食子酸/酸化没食子酸からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記方法が、酸化防止剤の濃度を段階的に減らすことと、酸化された対応物の濃度を段階的に増やすこと、印加電圧を段階的に増やすこと、及び酸素の流れを段階的に増やすこととを組み合わせて含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記方法の開始条件が、酸素の流れが低いか又はゼロである、印加電圧が低い、酸化防止剤の濃度が高い及び酸化された対応物の濃度が低いか又はゼロである、並びに酸素が除去された培地である、のうちの1つ以上又は全てから選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記開始条件が、システイン8mM、シスチン0mM、印加電圧0.1V、及び酸素の流れが低いか又はゼロのうちの1つ以上又は全てから選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記段階的な変化が、最小システイン濃度3mM、最大シスチン濃度5mM、最大印加電圧0.6V、及び高い酸素の流れのうちの1つ以上又は全てが達成されるまで続けられる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
印加電圧が0.6Vを超えず、及び/又はシステイン濃度が3mM以上であり、及び/又はシスチン濃度が5mM以下であり、培地中の溶存酸素濃度が亜致死濃度に維持される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
段階的な変化が終了したら、前記方法は、段階的な変化の後に達した、印加電圧、酸素拡散及び酸化防止剤/酸化された対応物の濃度比の最終的な条件下で前記微生物を培養する1つ以上のさらなる工程を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
さらなる段階的な変化が行われる工程をさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記方法又はさらなる工程が、嫌気性微生物を新しい培地に再接種することを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記再接種が、培養条件における前記段階的な変化を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記微生物が、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)である、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記方法が、代謝特性を維持した最良の適応株を選択するために、適応株が酸素耐性、酪酸産生、及び成長速度の評価についてスクリーニングされるさらなる工程を含む、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
嫌気性微生物の改善された生産のための方法であって、一定の酸化電位/印加電圧、酸素拡散、及び酸化防止剤/酸化された対応物の濃度比の組み合わせで微生物を培養し、それによって選択的な圧力が可能となり、その結果高収率で特定の微生物株が得られる、上記方法。
【請求項15】
前記培養条件が、3mMのシステイン、5mMのシスチン、0.6Vの印加電圧、及び0.2nmoles・ml-1min-1の酸素の流れを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記微生物が、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)である、請求項14又は請求項15に記載の方法。
【請求項17】
請求項1~13のいずれか一項に記載の方法によって得られる微生物株。
【請求項18】
前記微生物が、DSM 32380、DSM 32378及びDSM 32379からなる群から選択されるフィーカリバクテリウム・プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)株である、請求項17に記載の微生物。
【請求項19】
DSM 32380、DSM 32378及びDSM 32379からなる群から選択される、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)株。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、細菌の増殖に関する。より具体的には、本発明は、嫌気性微生物の酸化環境適応のための方法、及び新規プロバイオティクスの開発におけるそれらの使用に関する。本発明の方法によって得られた新規(適応)株も提供される。
【背景技術】
【0002】
成人の腸内細菌叢は、100兆個の微生物で構成されており、これは体細胞と生殖細胞の総数の10倍に相当する。我々の腸内微生物(マイクロバイオーム)の集合ゲノムは、我々自身のゲノムの150倍より多い遺伝子を含み、我々自身が進化させる必要がない生理学的能力を我々に与えることができる。しかし、これらの集合体は、ほとんど未研究のままであり、ヒトの発達、生理、免疫、栄養及び健康に対する影響はほとんど完全に知られていない。微生物の集合体は、宿主の生物学に影響を与える膨大な能力を有しており、ビタミン及びホルモンなどの産生源であるだけではなく、我々の免疫系の発達、その他の消化不可能な食物多糖類を処理する能力に不可欠である。大腸内の微生物群は、腸の健康及びいくつかの病気の病因の制御において重要な役割を果たす。
【0003】
伝統的な微生物学は、単離された単位としての個々の種の研究に焦点があてられてきた。しかし、ほとんどとは言わないまでも、多くは、分析のための生存可能な検体として首尾良く単離されたものはない。これはおそらく、その増殖が、実験的には再現されたことがない特殊な微小環境に依存しているためである。DNAシーケンシング技術の進歩によって、培養することができない生物で構成されるものであっても、微生物の集合体を包括的に試験することができる、メタゲノミクスと呼ばれる新しい研究分野が生まれた。実験室で増殖させた個々の細菌株のゲノムを調べるのではなく、メタゲノミクスアプローチによって、自然環境から収穫した完全な微生物の集合体に由来する遺伝物質の分析が可能になる。
【0004】
ヒトの腸内マイクロバイオームは、有益な微生物源、潜在的なプロバイオティクス源として役立つ。腸内細菌叢の、炎症性腸疾患、心血管疾患、糖尿病及び自閉症スペクトル障害などの疾患を予防する役割と、促進する役割といった両方の役割にもかかわらず、いくつかのメタゲノミクス研究によって示されるような、新規プロバイオティクス又はいわゆる次世代プロバイオティクスを含む利用可能な治療は存在しない。たとえ首尾良く単離されたとしても、腸から単離された多くの微生物は、増殖のために厳格な嫌気性条件を必要とし、周囲の空気にさらされると、数分を超えて生き残ることができない。このことは、安定で丈夫なプロバイオティクス製剤を開発することを困難にする。従って、酸素耐性が高い嫌気性微生物が必要とされており、本発明は、嫌気性微生物の適応のための方法と共に、このような方法を用いて得られた新規微生物株を提供する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、嫌気性微生物の酸化環境適応のための方法を提供し、そのような微生物が周囲の空気にさらされたときに、比較的高い酸素耐性があることを可能にする。このことは、微生物の改良された培養及び貯蔵(例えば、より長期間の貯蔵)を可能にするというさらなる利点を有する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書には、印加電圧と酸素拡散による酸化ストレスの段階的な二元誘発と、酸化還元状態を調整するために酸化防止剤/酸化された対応物の濃度比の段階的な変化を行う模擬ヒト腸内酸化還元モデル(SHIRM)が提供される。
【0007】
酸素は嫌気性微生物にとって致命的であるため、酸化防止剤/酸化された対応物の対を使用して環境の酸化還元状態を調整しつつ、酸化ストレスに使用される溶存酸素(酸素濃度)は、増加するが亜致死濃度に維持される。酸化ストレスは、印加電圧によっても誘発される。酸化ストレスは、酸化環境に対する細菌の耐性を高め、比較的長時間、周囲の空気で微生物を生存したままにすることができる。
【0008】
適切な亜致死酸素濃度(存在する全ての細菌を死滅させない濃度、言い換えれば、全てではないが一部の細菌が殺される濃度)は容易に決定することができ、例えば、少なくとも一部の(しかし、一般的に全てではない)細菌を生き残らせて、その後、本方法の次の工程に進ませるように選択することができる。次いで、例えば、酸化ストレスの増加(例えば、溶存酸素濃度を上げることによる)により、生き残っている細菌を再び増殖させ、少なくとも一部の(しかし、一般的に全てではない)細菌は生き残らせて、その後、本方法の次の工程に進ませるように選択することができる。次いで、酸化ストレスを増加させるこの工程は、酸素耐性が高い微生物を得るために、必要な回数又は所望の回数繰り返すことができる。
【0009】
本発明は、嫌気性微生物の適応及び酸素耐性が高い嫌気性微生物の選択のための方法であって、当該方法は、印加電圧と酸素拡散による酸化ストレスの段階的な二元誘発を行い、酸化還元状態の段階的な変化を行いつつ、前記微生物を培養する工程を含み、好ましくは、酸化還元状態の段階的な変化は、酸化還元状態を調整するために酸化防止剤/酸化された対応物の濃度比の段階的な変化を用いて行う、上記方法を提供する。
【0010】
本発明は、嫌気性微生物の適応(又は訓練)及び酸素耐性が高い(例えば、酸素耐性が比較的高い)嫌気性微生物の選択のための方法であって、前記微生物が、印加電圧と酸素拡散による酸化ストレスの段階的な二元誘発と、酸化還元状態を調整するために酸化防止剤/酸化された対応物の濃度比を段階的に変化させることとの組み合わせにより培養される、上記方法を提供する。
【0011】
本発明は、さらに、嫌気性微生物の改善された生産のための方法であって、一定の酸化電位/印加電圧、酸素拡散、及び酸化防止剤/酸化された対応物の濃度比の組み合わせで微生物を培養することによって、選択的な圧力が可能となり、高収率で特定の微生物株が得られる、上記方法を提供する。前記培養は最適な設定であり、又は言い換えると、一定の酸化電位/印加電圧、酸素拡散、及び酸化防止剤/酸化された対応物の濃度比の組み合わせは、嫌気性微生物を生産するために最適化されている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】ヒト腸管内腔の酸化還元プールを示す。腸粘膜からの食物の摂取及び拡散による酸素の連続的な流入があるという事実にもかかわらず、腸の正味の酸化還元電位は、約-300mVと負のままである。
【
図2】酸化ストレス及び回復機構によって引き起こされる酸素感受性酵素の潜在的な損傷を示す。
【
図3】ヒトの腸内で腸内細菌叢によって使用される主要な発酵経路を示す。
【
図4a】特注の3チャンバ型模擬ヒト腸内酸化還元モデル(SHIRM)。
【
図4b】SHIRMにおける細菌細胞から電子受容体への電子の流れの概略図。酸化還元電位(還元電位と酸化電位)は、(E
o’)ボルトで測定した。
【
図4c】酸化還元電位を含む、細菌細胞から電子受容体への電子移動に関与する中間体のSHIRM模式図。
【
図6】約100mlの小さな床容積の酸素フィーダーに連結したSHIRMアノードチャンバの代表例。
【
図7】空気呼吸型SHIRM:側面のアームを介した空気からアノードチャンバへの直接的な酸素拡散。
【
図10】適応株の酸素耐性プロファイルを探索するための戦略。
【発明を実施するための形態】
【0013】
定義
「適応」は、動的な進化過程であり、例えば、自然な選択の結果、生物がその1つ以上の生息地でより良く生存することができるようになることである。微生物の適応(又は訓練)過程は、有利には、本発明の方法のような非天然/人工/in vitro環境で実施することもできる。
【0014】
「酸化防止剤」は、遊離ラジカルを捕捉することによって、又は損傷を受けた分子を修復するか、又は除去することによって、反応性酸素、窒素、ヒドロキシル及び脂質種の生成を防ぐ薬剤である。酸化防止剤は、多くは、還元剤として直接作用することができる。
【0015】
「還元剤」は、酸化還元化学反応において、他の薬剤に向かって電子を失う(又は「供与する」)物質、元素又は化合物である。還元剤は電子を失っているため、酸化されていると言われる。
【0016】
「酸化された対応物」は、別の種から電子を除去する化学物質である。酸化された対応物は、酸化された形態の酸化防止剤である。
【0017】
「酸化還元メディエーター」又は電子シャトルは、可逆的な酸化還元反応を受けることができ、細菌との間での電子の移動/やり取りを容易にする化合物である。
【0018】
「印加電圧」、「外部電圧」、「酸化電位」、「印加電気酸化電位」、「印加電極電位」、「電圧」及び「電位電圧」は、相互に置き換え可能に使用されてもよく、バイオリアクターのチャンバに印加される電圧を指す。
【0019】
「酸素拡散」は、酸素分子が高濃度側から低濃度側に移動することである。
【0020】
「酸素の流れ」は、単位時間あたりにチャンバ(例えば、微生物を含むアノードチャンバ)に送られる酸素の量である。
【0021】
腸内細菌叢は、食物の酸化還元活性化合物及び電子供与体(例えば、炭水化物及びタンパク質)と共に、腸内の還元環境の維持において、ある役割を果たす。このことは、腸内細菌叢が、腸管内腔の溶存酸素流入に対処するように適応していることを意味する(
図1)。高濃度の溶存酸素は、多数の腸内微生物にとって致命的な場合があり、還元環境は、酸化的損傷から回復するのに役立つ(
図2)。より詳細には、
図3は、ヒトの腸内で腸内細菌叢によって使用される主要な発酵経路を示す。嫌気性増殖の間の電子不均衡は、混合酸の発酵と気体の生成によって均衡が取れている。微生物の中には、硝酸塩、硫酸塩又は不溶性金属錯体などの細胞外電子受容体に電子を放出するものがいる。さらに、腸の微生物の一部は、少量の酸素を消費することができるので、酸素は、間接的な電子受容体として作用する場合がある。酸化還元活性化合物、例えば、没食子酸塩、ルチン、レスベラトロール、カフェイン及びフラビンは、一般的な食事に存在しており、おそらく消化管で酸化され、電子受容体としても作用することができる(
図1)。腸の酸化還元状態は、特定の薬物又は代謝産物のバイオアベイラビリティーに影響を及ぼす場合がある。腸粘膜からの食物の摂取及び拡散による酸素の連続的な流入があるという事実にもかかわらず、腸の正味の酸化還元電位は、約-300mVと負のままである。この酸素不足の還元環境は、腸管内腔での厳格な嫌気性微生物の増殖に有利である。
【0022】
酸素に対する高い感受性は、多くの腸内微生物の特徴であり、これらの微生物を培養して長期間貯蔵することを非常に困難にする。新たな潜在的なプロバイオティクスを開発するために腸内細菌叢の代表例を単離して培養する際の別の困難は、個々の適所及び生息地という観点での腸内環境の複雑さである。プロバイオティクス製剤は、数ヶ月間にわたって周囲の空気中で安定であるべきであるが、多くの微生物の酸素感受性に起因して、これは困難である。いくつかの腸内微生物は、他の微生物と相互に餌となっており、宿主からのある程度の成長因子も必要とする場合があり、これらの条件をin vitroで刺激するのは困難である。
【0023】
フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)は、様々な代謝性疾患において抗炎症特性を有する潜在的なプロバイオティクスの一例である。フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィは、ヒトの腸内細菌の5%より多くを占めており、腸内細菌叢の中で最も豊富に存在する細菌の1つになっている。フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィは、比較的大量の酪酸塩を産生し、この酪酸塩は、腸の生理に大きな役割を果たし、大腸内腔の主要な代謝産物である。酪酸塩は、細胞増殖も刺激し、結腸粘膜からの粘液分泌も促進する。フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィは、酸素感受性がきわめて高い細菌であり、周囲の大気にさらされると数分しか生存していない。
【0024】
驚くべきことに、本発明者らは、嫌気性微生物の酸素適応のための新しい方法を発見し、本明細書には、この酸素適応のための方法を開示し、これによって、このような生物の酸素耐性を比較的高くすることができ、これにより、プロバイオティクス株としての貯蔵及び使用にとって、また、哺乳棒物における介入のためのプロバイオティクス製剤又は組成物において、安定で丈夫なものとすることができる。この新しい方法によって、具体的には、工業的規模の生産に耐え、酸化ストレスが主要な特徴である腸障害の下でヒト腸環境に適応することができるように、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィを丈夫な特徴を有するプロバイオティクス株として開発し、使用することができるだろう。
【0025】
本発明は、嫌気性微生物の適応及び酸素耐性が比較的高い嫌気性微生物の選択のための方法であって、前記微生物が、印加電圧と酸素拡散による酸化ストレスの段階的な二元誘発と、酸化還元状態を調整するために酸化防止剤/酸化された対応物の濃度比を段階的に変化させることとの組み合わせ中で培養される、上記方法を提供する。従って、本発明の方法は、一般的にin vitroで実施される。
【0026】
酸化ストレスの二元誘発は、酸化環境に対する微生物の耐性を高め、これにより、(例えば、周囲の空気にさらされたときに)酸素耐性が高い、又は比較的高い微生物を可能にする。(例えば、周囲の空気にさらされたときに)酸素耐性が高い(又は比較的高い)微生物は、簡便には、本発明の適応方法に使用される出発株(又は親株)との比較を指す。
【0027】
酸素耐性の増加によって、周囲の空気中で比較的長い時間、微生物を生存させることを可能になり、これは明らかに有利である。
【0028】
印加電圧又は印加外部電圧は、一般に、例えばポテンシオスタットを介し、アノード(例えば、グラファイト、グラファイトフェルト又はカーボンフェルト又は炭素繊維アノード)に印加され、段階的に増やされる。微生物に印加される電圧について、簡便には、電圧が印加された適切なアノードチャンバ又は他の容器(例えば、バイオリアクター)内に微生物が与えられる。例えば、カソードチャンバをアノードチャンバに、例えばアノードチャンバの片側のアームを介して接続することによって、セル回路が完成し、好ましくは、カソードチャンバとアノードチャンバは、イオン交換膜(例えば、カチオン選択膜又はプロトン交換膜)で分離されている。印加電圧は、最大で0.6Vまで、より具体的には、Ag/AgClに対して0.6Vまで増やすことができる(好ましくは、段階的な増加によって)。
【0029】
簡便には、本方法は、例えば、酸素の流れを微生物に適用することによる酸素拡散の使用を伴う。酸素の流れ(例えば、アノードチャンバを通る酸素の流れ)は、所望な溶存酸素濃度(特に、微生物と接触する所望な溶存酸素濃度)が達成されるように、純粋な酸素気体又は空気を酸素フィーダーにパージすることによって維持されてもよい。溶存酸素は、酸素フィーダーを通ってアノードチャンバに拡散し、これによって、記載した方法の酸素拡散(又は酸素の流れ)が生じるだろう。酸素の流れ(又は拡散)は、例えば、任意の適切な手段によって、例えば、異なる酸素拡散定数を有する可変隔膜(例えば、半透膜などの可変膜)によって隔離された、例えば、酸素フィーダー又は他の酸素源をアノードチャンバ(例えば、アノードチャンバの別の側のアーム)に接続することによって、制御することができる。これに加えて、又はこれに代えて、酸素の流れは、酸素フィーダーの床容積を変えることによって制御されてもよい。例えば、100ml及び250mlの酸素フィーダーが図に示されている(
図6及び4a参照)。酸素フィーダーは、例えば
図7に示されるように、アノードチャンバに酸素を直接拡散させるために取り外すこともできる。アノードチャンバと酸素フィーダー(又は酸素源)との間の膜(例えば、隔膜)は、酸素フィーダーからアノードチャンバへの酸素拡散をより良く制御するために、ムチン寒天でさらにコーティングされていてもよい。
【0030】
さらに、媒体中に存在する還元剤又は酸化防止剤が、溶存酸素を捕捉し、それによって、酸素拡散速度に影響を与え、従って、酸素の流れに影響を与えるだろう。例えば、本発明の方法では、微生物培地中に存在する酸化防止剤(特に、酸化防止剤の量又はレベル)を使用して酸素を捕捉することができ、それによって、微生物培地中に存在する酸素(溶存酸素)のレベル又は量又は濃度を制御する手段として使用することができる。例えば、微生物培養物中の酸化防止剤のレベルが低い(又は比較して低い)ことは、一般的に、さらに多くの酸素が利用可能である(又は多くの酸化ストレスが存在する)ことを意味し、一方で、酸化防止剤のレベルが高い(又は比較して高い)ことは、一般的に、少ない酸素(又は低いレベルの酸素)が利用可能である(又は酸化ストレスが少ない)ことを意味する。
【0031】
微生物培地中の所望な量又は濃度の溶存酸素を達成し、従って、本発明の方法で酸化ストレスを誘発するために使用される酸素拡散、酸素の流れ又は溶存酸素濃度(又は溶存酸素の量又はレベル)の段階的な変化(好ましくは段階的な増加)を達成するために、酸素拡散又は酸素の流れを制御するためのこれらいずれかの方法、又はこれらの組み合わせを容易に使用することができる。
【0032】
従って、本発明の方法では、開始条件は、好ましくは、酸素の流れ(又は酸素拡散又は酸素濃度)が低い(又はゼロ)であり、本方法は、酸素の流れ(又は酸素拡散又は酸素濃度)の段階的な増加、例えば、高い酸素の流れ(又は酸素拡散又は酸素濃度)までの段階的な増加を含む。酸素の流れ(又は酸素拡散又は酸素濃度)がゼロであるとは、微生物培地(例えば、アノードチャンバ)中に存在する酸素が0モルであることを指す。例示的な低い酸素の流れ(又は酸素拡散又は酸素濃度)は、微生物培地(例えば、アノードチャンバ)中に存在する約10μMの溶存酸素を指し、例えば、1時間に(1時間あたりに)微生物培地/アノードチャンバに拡散する。例示的な高い酸素の流れ(又は酸素拡散又は酸素濃度)は、微生物培地(例えば、アノードチャンバ)中に存在する約50μM~約250μMの溶存酸素を指し、例えば、1時間に(1時間あたりに)微生物培地/アノードチャンバに拡散する。
【0033】
酸素の流れ(又は酸素拡散又は酸素濃度)によって生じる実際の酸化ストレスは、成長培地中の酸化防止剤の存在にも依存する。例えば、高濃度の酸化防止剤を含む場合、高い酸素の流れが引き起こす酸化ストレスは小さくなるだろう。培地中の酸化防止剤が非常に少ない場合、小さな酸素の流れが高い酸化ストレスを引き起こす可能性がある。ここでも、これらの条件の制御は、酸化ストレスの段階的な誘発を達成するための当業者の能力の範囲内である。
【0034】
溶存酸素の開始濃度を制御する(例えば、酸素の開始濃度を低い(又はゼロ)レベルに下げる)ために、成長培地は、例えば、酸素を含まない窒素をパージすることによって、酸素を脱気することができる。
【0035】
微生物を致死濃度の酸素から保護し、腸内の酸化還元環境を模擬的に再現するために、培地に酸化防止剤が含まれる。例えば、酸化防止剤は、システイン、グルタチオン、アスコルビン酸、ジチオトレイトール又は没食子酸であってもよい。酸化還元電位又は酸化還元状態に影響を与えるか、又は調整するために、酸化防止剤、例えば、システイン又は任意の他の適切な酸化防止剤が使用される。多くの細菌は、硫黄源としてシステインを必要とする。本発明のいくつかの方法のように、システインが減少すると、成長培地の総硫黄プールが減少するだろう。その減少を補うために、酸化された対応物、例えばシスチン(システインの場合)が添加される。他の酸化された対応物(例えば、上に列挙した酸化防止剤についての)は、適切な場合には、グルタチオンの酸化状態、デヒドロアスコルベート、酸化ジチオトレイトール又は酸化没食子酸であってもよい。さらに、適切な酸化還元メディエーターを培養培地に含めることもできる。
【0036】
成長環境の酸化還元状態を調整するために、酸化還元状態の段階的な変化、例えば、酸化防止剤/酸化された対応物の濃度比の段階的な変化が行われる。酸化還元電位は、ネルンスト方程式(a)に従って計算されてもよい。この式は、任意の適切な酸化防止剤及びその酸化された対応物に使用されてもよい。
【数1】
式中、
E
h=酸化還元電位=V
E
o=(還元剤/酸化防止剤)/酸化された対応物の対の標準酸化還元電位
R=一般的な気体定数=8.31451JK
-1mol
-1
F=ファラデー定数=96.485C/mol
T=絶対温度(K)
n=関与する電子の数
【0037】
従って、任意の酸化防止剤/酸化された対応物の濃度比の酸化還元電位は、当業者によって容易に計算することができる。例として、様々な濃度のシステイン/シスチン酸化還元対について計算された酸化還元電位(Eh)値を表1に示す。
【0038】
シスチン/システイン対のEo=pH7.4及びn=2で0.25V。
【0039】
酸化防止剤/酸化された対応物の対としてシステイン/シスチンを使用する場合、システインの好ましい開始濃度は、反応式(b)に基づいて計算することができた。
4R-SH+O2→2R-SS-R+H2O (b)
【0040】
式(b)によれば、4モルのシステイン(R-SH)が1モルの酸素と反応し、2モルのシスチン(R-SS-R)を生成する。
【0041】
25℃での水中の溶存酸素濃度は約200μMであり、実験前に成長培地を窒素でパージしないと、約800μMのシステインが200μMの酸素と反応し、400μMのシスチンを生成する。
【0042】
従って、8mMのシステインを含む成長培地では、約-223mVの初期酸化還元電位が観察されるだろう。しかし、成長培地中の酸素を、酸素を含まない窒素で完全に脱気すると、約-283mVの酸化還元電位を与え、この電位は、腸管内の酸化還元電位(約-300mV)に近い。従って、システイン/シスチンが対として使用される場合、システイン(又は他の酸化防止剤と対応物の対)の好ましい開始濃度は、8mMである。これは、システイン/シスチンが対として使用される高濃度の酸化防止剤の一例であるが、同等の高濃度の酸化防止剤は、他の対についても容易に計算することができることが理解されるだろう。さらに、所望な開始酸化還元電位を達成するために、シスチン(又は他の酸化された対応物の対)の好ましい開始濃度は、0mMであるか、又はそうでなければ低濃度である。使用される成長培地は、酸素が完全に脱気されている(又は酸素が成長培地から完全に除去されている)ことも好ましい。言い換えると、好ましい条件は、本方法の開始時に、腸管内の酸化還元電位(-300mV)に可能な限り近くなるように選択される。本方法を実施する場合、酸化防止剤の濃度の段階的な減少と、酸化された対応物の濃度の段階的な増加とを組み合わせ、酸化還元電位を全体的に段階的に増加させることが好ましい。簡便には、システイン/シスチン(又は他の酸化防止剤/酸化された対応物の対)について、システインの濃度において1mMの段階的な減少と、シスチンの濃度において1mMの段階的な増加であってもよい。しかし、異なる段階的な増加/減少を用い、酸化還元状態の段階的な変化を行うこともできる。
【0043】
この推論は、任意の適切な酸化防止剤/酸化された対応物の対に適応させ得る。酸化防止剤の濃度を減少させる場合、同等の量の対応する酸化された対応物を用いて均衡が保たれる。
【0044】
本方法は、簡便には、適切なバイオリアクターで行うことができ、一般的には、細菌培養物の(例えば、新しい培地への)再接種のいくつかの工程を伴う。本発明のいくつかの好ましい実施形態では、本明細書に記載される段階的な変化又は誘発の各工程、例えば、印加電圧及び酸素の拡散による酸化ストレスの段階的な二元誘発、酸化還元状態を調整するための酸化防止剤/酸化された対応物の濃度比の段階的な変化、例えば、酸化防止剤の濃度の段階的な減少、酸化された対応物の濃度の段階的な増加、印加電圧の段階的な増加、酸素の流れ(又は酸素拡散又は酸素濃度)の段階的な増加を合わせた各工程は、再接種を伴っていてもよい。再接種は、本明細書では、継代培養工程又は培養工程とも呼ばれることがある。
【0045】
第1に、細菌の1個のコロニーを、当該技術分野で公知の適切な培地に接種し、培養が静止期に達するまで増殖させることができる。開始条件は、低い酸素の流れ(又は酸素拡散又は酸素濃度)、好ましくは、酸素の流れ(又は酸素拡散又は酸素濃度)がゼロ、低い印加電圧、好ましくは0.1V、より具体的にはAg/AgClに対して0.1V、高濃度の酸化防止剤(上のネルンスト式の計算を参照)、低濃度又はゼロ濃度の酸化された対応物(上のネルンスト式の計算を参照)のうち1つ以上、又は全てであってもよい。以下の再接種のために、酸化防止剤の濃度の段階的な減少、酸化された対応物の増加、印加電圧の増加、酸素の流れ(又は酸素拡散又は酸素濃度)の増加を行うことができる。
【0046】
微生物の増殖が有意に低下した場合、条件を、株を適応させるために到達した最適化された(又は最終的な)条件で一定に保つことができ、3mMのシステイン、5mMのシステイン、Ag/AgClに対して0.6V、0.2nmole・ml
-1min
-1をそれぞれ例示することができる(
図5及び
図8を参照)。言い換えると、段階的な変化によって微生物の増殖が有意に減少したら、これらの段階的な変化を止め、段階的な変化の終了時に到達した条件に対応する一定条件(又は最適化された条件又は最終的な条件)を用い、1つ以上の工程で微生物を培養する。これらの一定の工程によって、株を適応させることができる。一定条件で繰り返し接種した後、株が適応したら、いくつかの実施形態では、酸化防止剤の濃度のさらなる段階的な減少、酸化された対応物の濃度の増加、印加電圧の増加、酸素の流れ(又は酸素拡散又は酸素濃度)の増加のうち1つ以上(好ましくは全て)を用い、接種を続けてもよい(
図5を参照)。
【0047】
最良の適応株を選択するために、本方法の各工程から得られた全ての継代培養物を一度に分析してもよく、又は接種を続けるべきかどうかを決定するために、回収後に継代培養物を直接分析してもよい。継代培養物が適応していない場合には、接種を続けることが適切であろう。そうではなく、株が適応している場合には、その株を選択することができ、本方法を停止することができる(例えば、
図8を参照)。例えば、得られた継代培養物を酸素耐性について分析してもよく、これらの継代培養物が、所望のレベルの酸素耐性、例えば、関連するコントロール株(例えば、出発株又は親株)と比較して、酸素耐性のレベルの増加(好ましくは有意な増加)、又は酸素(例えば、周囲の空気)にさらされたとき、十分なレベルの安定性(例えば、貯蔵時間)を示す場合、その株は、適応しており、これを選択することができる。好気性の(例えば、周囲の空気にさらした)条件での微生物の増殖を評価することによって、酸素耐性の簡便な測定値を得ることができる。例えば、株を酸素にさらしたときに、CFU/mlの測定値の形態で、コロニー形成単位(CFU)の数の測定を行うことができる。例示的な適応(酸素耐性)株は、酸素(例えば、周囲の空気)にさらされたとき、少なくとも1×10
2又は1×10
3CFU/ml、好ましくは少なくとも1×10
4又は1×10
5CFU/mlであろう。適当な方法は、実施例に記載されている(例えば表3参照)。株が適応していない場合には、接種を継続することができる。
【0048】
従って、本発明の好ましい実施形態では、開始条件は、8mMのシステイン(又は同等の濃度の別の酸化防止剤)、0mMのシスチン(又は別の酸化された対応物)、0.1Vの印加電圧、ゼロ又は低い酸素の流れのうち1つ以上、又は全てから選択される。このような実施形態では、段階的な変化は、システインの最小濃度が3mM(又は同等の濃度の別の酸化防止剤)、シスチンの最大濃度が5mM(又は同等の濃度の別の酸化された対応物)、最大印加電圧が0.6V、高い酸素の流れのうち1つ以上、又は全てに達するまで続けることができる。
【0049】
従って、本発明の好ましい方法では、印加電圧は0.6Vを超えず、及び/又はシステイン濃度は3mM以上であり、及び/又はシスチン濃度は5mM以下であり、培地中の溶存酸素濃度が亜致死濃度に維持される。
【0050】
上の考察から明らかなように、本発明のいくつかの実施形態では、段階的な変化が終了したら、本方法は、段階的な変化の後に達した、印加電圧、酸素拡散(酸素の流れ又は酸素濃度)及び酸化防止剤/酸化された対応物の濃度比の最終的な(最適化されたか、又は一定の)条件下で前記微生物を培養(継代培養)する1つ以上のさらなる工程を含む(例えば、
図8を参照)。
【0051】
他の実施形態では、本方法は、さらなる段階的な変化を行うその後の工程をさらに含む(例えば、
図5を参照)。
【0052】
行われる段階的な変化の工程の数の決定は、適応を受けている間に、微生物の挙動を監視することによって、又は微生物をスクリーニングすることによって(例えば、本明細書の他の箇所に記載されているように)、当業者によって決定することができる。例えば、本方法の好ましい実施形態は、5工程又は6工程までの段階的な変化、例えば、3工程、4工程、5工程又は6工程の段階的な変化、又は少なくとも5工程の段階的な変化、例えば、10工程までの段階的な変化、例えば、7工程、8工程、9工程又は10工程を含んでいてもよい。
【0053】
嫌気性微生物の適応と、酸素耐性の高い嫌気性微生物の選択を達成するための、工程、例えば、培養工程(段階的な変化の工程、一定条件又は最適化された条件で行われる工程を含む)の合計数の決定は、適応を受けている間に、微生物の挙動を監視することによって、又は微生物をスクリーニングすることによって(例えば、本明細書の他の箇所に記載されているように)、当業者によって決定することができる。例えば、本方法の好ましい実施形態は、6、7、8、9、10又は12工程まで、又は15、20、25、30又は35工程までを含んでいてもよい。
【0054】
一定条件又は最適化された条件で行われる培養工程を含む方法では、行われる工程(例えば、培養工程)の数の決定は、適応を受けている間に、微生物の挙動を監視することによって、又は微生物をスクリーニングすることによって(例えば、本明細書の他の箇所に記載されているように)、当業者によって決定することができる。例えば、本方法の好ましい実施形態は、一定条件又は最適化された条件で行われる3、4、5、6、7、8、9、10又は12工程まで、又は15、20、25、30又は35工程までを含んでいてもよい。
【0055】
いくつかの実施形態では、嫌気性微生物の適応と、酸素耐性の高い嫌気性微生物の選択は、一定条件又は最適化された条件で行われるこれらの工程の終了時に(又は、時には、実際に段階的な変化の工程の終了時に)達成することができる。従って、当業者は、例えば、有意な適応又は十分な適応又は最大の適応(酸素耐性)がいつ起こったかをモニタリングすることによって、行われるこれらの工程の数を容易に決定することができる。
【0056】
本方法は、(例えば、本方法によって選択された微生物の生産又は増殖のために)適応し、選択された株の生産にも使用することができる。このような方法では、培養条件は、最適な設定で、一定に、例えば、本発明の上述の方法を用いて達成された、最適化された(又は一定の)条件、例えば、3mMの酸化防止剤、5mMの酸化された対応物、0.6V及び0.2nmole・ml-1min-1に保たれる。これにより、選択された細菌株が高収率で得られる。
【0057】
本方法は、簡便には、模擬ヒト腸内酸化還元モデル(SHIRM)と呼ばれるバイオリアクターで行われる(
図4a、4b及び4c)。SHIRMでは、二元酸化ストレスは、外部電圧(印加電圧)及び酸素拡散(酸素の流れ)によって適用され、このシステムの酸化還元電位/酸化還元状態は、酸化防止剤/酸化された対応物の対によって制御される。酸素は、培養された生物にとって致命的であるため、環境の酸化還元状態を調整するために酸化防止剤/酸化された対応物の濃度の段階的な変化を使用しつつ、溶存酸素は、増加するが亜致死濃度に維持される(例えば、他の酸化防止剤/酸化された対応物の対に容易に適応することができる例示的なシステイン/シスチン濃度を示す
図5又は
図8を参照)。印加電圧及び酸素拡散による酸化ストレスは、酸化環境に対する細菌の耐性を高め、細胞は、新しい酸化条件に繰り返し挑戦させられる(例えば、
図5又は
図8)。適応株又は進化株は、酸素耐性についてスクリーニングされる。株は、最良の適応株を選択するために、代謝特性、例えば、脂肪酸プロファイル(例えば、フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィなどの酪酸産生細菌の場合には、酪酸産生)及び成長速度の評価についてスクリーニングすることもできる。従って、適応株又は進化株は、酸素を含有する環境に対して(例えば、関連する出発微生物又は親微生物よりも)より良い耐性をもつように適応され、又は周囲の空気にさらされること(酸化ストレス)又は例えば胆汁酸塩などのストレス条件に対するより良い耐性をもつように適応される。従って、例えば株がフィーカリバクテリウム・プラウスニッツィである場合、酪酸産生又は他の脂肪酸産生などの代謝特性が維持又は改善される株が選択されるが、株は、改善された酸素耐性を示す(例えば、関連する出発又は親のフィーカリバクテリウム・プラウスニッツィ株と比較して)。
【0058】
好ましい実施形態では、本発明は、嫌気性微生物の適応及び酸素耐性が比較的高い嫌気性微生物の選択のための方法であって、前記微生物が、印加電圧と酸素拡散による酸化ストレスの段階的な二元誘発と、酸化還元状態を調整するために酸化防止剤/酸化された対応物の濃度比を段階的に変化させることとの組み合わせ中で培養される、上記方法を提供する。
【0059】
さらに別の好ましい実施形態において、嫌気性微生物の酸素適応のための方法は、模擬ヒト腸内酸化還元モデル(SHIRM)と呼ばれるバイオリアクターを用いて行われ、限定されないが、以下の工程を含む。
a)細菌細胞を致死濃度の酸素から保護し、腸内の酸化還元環境を模擬的に再現するために、適切な酸化還元メディエーター及び還元剤を含む(当該技術分野で公知の)培地に細菌の1個のコロニーを接種する。
b)培養物が後期対数期に達したら、培養物の一部分を分析に使用することができ、別の部分を可能なSHIRMへの再接種のために使用することができる。
c)細菌株の一次単離及び通常の細菌株の栽培に使用されるのと同じ培地を含むSHIRMリアクター中での培養物の接種。ここで、成長培地は、
Shirm
Bed
Culture
Medium(SBCM)と呼ばれる。
I.還元剤/酸化防止剤(例えば、限定されないが、システイン、グルタチオン、アスコルビン酸、ジチオトレイトール及び没食子酸)の濃度は減り、同等の量の対応する「酸化された対応物」(例えば、限定されないが、シスチン、グルタチオン酸化状態、デヒドロアスコルベート、酸化ジチオトレイトール及び酸化没食子酸)を用いて均衡が保たれる。
II.印加電気酸化電位は、外部電圧によって、ポテンシオスタットを介し、例えば、グラファイト、グラファイトフェルト又はカーボンフェルト又は炭素繊維アノードで維持される。例えば、カソードチャンバを、プロトン交換膜によって分離されたアノードチャンバの片側のアームに接続することによって、セル回路が完成する。
III.酸素の流れは、異なる酸素拡散定数を有する可変隔膜を介して分離されたアノードチャンバの他の側のアームに酸素フィーダーを接続することによって制御される。瞬間的な酸素の流れは、例えば、ClarkのDO型プローブによって測定される(
図4Aを参照)。
IV.純酸素ガス又は空気で酸素フィーダーをパージすることによって酸素の流れを維持し、ヘンリーのガス溶解性の法則に従って所望の溶存酸素濃度を達成する。次いで、溶存酸素が酸素フィーダーを通ってアノードチャンバに拡散する。
V.さらに、酸素の流れは、酸素フィーダーの床容積を変えることによって制御される。酸素フィーダーは、アノードチャンバに酸素を直接拡散させるために取り外すこともできる。
VI.アノードチャンバと酸素フィーダーとの間の隔膜は、酸素フィーダーからアノードチャンバへの酸素拡散をより良く制御するために、ムチン寒天でさらにコーティングされていてもよい。
VII.SHIRMは、Shirm Bed Culture Media(SBCM)を含み、酸素を含まない窒素をパージし、溶存酸素を除去する。
VIII.SHIRMバイオリアクターは、培養物が静止期に達するまで実行される。
d)最初の継代培養物の一部をSHIRMリアクターに接種するために使用する。
e)SHIRMリアクターにおける再接種は、酸化防止剤の濃度の段階的な減少、酸化された対応物の濃度の増加及び増加した印加電圧(最大で0.6V)を有するように開始される。酸化防止剤が少ないほど、捕捉する酸素が少ないため、より多くの酸素が利用可能であり、細胞は、多くの酸化ストレスを経験する。酸素フィーダーは、酸素拡散の流れをさらに制御する。
この工程は、成長が減少するまで繰り返される。
f)全ての条件を一定に保ち、再接種を繰り返し、新しい継代培養物を、比較代謝特性、成長速度、安定性及び耐性について分析する。分析が満足のいく結果であれば、この継代培養物が選択され、そうでなければ工程(f)が繰り返される。
【0060】
このような方法では、その後の再接種の前に各継代培養物を分析することができ(又は各工程後に分析することができ)、株が酸素に対して適切に適応したときに、この方法を停止する。次いで、この株が選択される。このような方法では、約30継代培養まで、又は約10継代培養まで(又は本明細書の他の箇所に記載されている他の継代数の継代培養まで)を、本方法を停止する前に分析してもよい。
【0061】
上述の工程の1つ以上を、適切な場合に、本明細書に記載するいずれかの方法で使用してもよい。
【0062】
別の好ましい実施形態では、約30継代培養物が回収され(例えば、
図5を参照)、又は約10継代培養物が回収され(例えば、
図8を参照)、又は他の継代数の継代培養物が回収され(本明細書の他の箇所に記載されるように)、次いで、最も適した株を発見するために、全てが分析される。この様式で、例えば、酸素に対してどの継代培養物が最も適応しているか、又は最も耐性であるかを評価するために、各工程の後に継代培養物を分析する必要はなく、その代わりに、一度に全ての分析を行うことができる。嫌気性微生物の酸素適応のための方法は、模擬ヒト腸内酸化還元モデル(SHIRM)と呼ばれるバイオリアクターを用いて行われ、限定されないが、以下の工程を含む。
a)細菌細胞を致死濃度の酸素から保護し、腸内の酸化還元環境を模擬的に再現するために、適切な酸化還元メディエーター及び還元剤を含む当該技術分野で公知の通常の培地に細菌の1個のコロニーを接種する。
b)培養物が後期対数期に達したら、培養物の一部分をSHIRMリアクターへの接種のために使用し、別の部分を分析のために保存する。
c)細菌株の一次単離及び通常の細菌株の栽培に使用されるのと同じ培地を含むSHIRMリアクター中での培養物の接種。ここで、成長培地は、
Shirm
Bed
Culture
Medium(SBCM)と呼ばれる。
I.還元剤/酸化防止剤(例えば、限定されないが、システイン、グルタチオン、アスコルビン酸、ジチオトレイトール及び没食子酸)の濃度は減り、同等の量の対応する「酸化された対応物」(例えば、限定されないが、シスチン、グルタチオン酸化状態、デヒドロアスコルベート、酸化ジチオトレイトール及び酸化没食子酸)を用いて均衡が保たれる。
II.印加電気酸化電位は、外部電圧によって、ポテンシオスタットを介し、グラファイト、グラファイトフェルト又はカーボンフェルト又は炭素繊維アノードで維持される。カソードチャンバを、プロトン交換膜によって分離されたアノードチャンバの片側のアームに接続することによって、セル回路が完成する。
III.酸素の流れは、異なる酸素拡散定数を有する可変隔膜を介して分離されたアノードチャンバの他の側のアームに酸素フィーダーを接続することによって制御される。瞬間的な酸素の流れは、例えば、ClarkのDO型プローブによって測定される(
図4Aを参照)。
IV.純酸素ガス又は空気で酸素フィーダーをパージすることによって酸素の流れを維持し、ヘンリーのガス溶解性の法則に従って所望の溶存酸素濃度を達成する。次いで、溶存酸素が酸素フィーダーを通ってアノードチャンバに拡散する。
V.さらに、酸素の流れは、酸素フィーダーの床容積を変えることによって制御される。酸素フィーダーは、アノードチャンバに酸素を直接拡散させるために取り外すこともできる。
VI.アノードチャンバと酸素フィーダーとの間の隔膜は、酸素フィーダーからアノードチャンバへの酸素拡散をより良く制御するために、ムチン寒天でさらにコーティングされていてもよい。
VII.SHIRMは、SBCMを含み、酸素を含まない窒素をパージし、溶存酸素を除去する。
VIII.次いで、最初の接種に使用したSBCMをSBCM X,Y/V
Zと命名することができ、ここで、Xは、酸化防止剤の濃度(mM)を指し、Yは、酸化された対応物の濃度(mM)を指し、「V
Z」は、Ag/AgClに対する印加電圧(V)を示す。SHIRMバイオリアクターは、培養物が静止期に達するまで実行される。
IX.最初のインキュベート後に回収された培養物を「集合P1」と命名することができる。
d)SHIRMリアクターにおける次の接種は、酸化防止剤の濃度の減少、酸化された対応物の濃度の増加及び増加した印加電圧を有するように開始される。酸化防止剤が少ないほど、捕捉する酸素が少ないため、より多くの酸素が利用可能であり、細胞は、多くの酸化ストレスを経験する。酸素フィーダーは、酸素拡散の流れをさらに制御する。
e)再接種は、約6継代培養まで継続される。
図5及び
図8を参照(酸化防止剤/酸化還元メディエーターの効果を合わせたとき、酸素の流れ及び電圧は、成長に著しく影響を及ぼす(低下する))。
f)過電圧のため、印加電圧は、一般的に、AgAgClに対して0.6Vを超えて上昇しないだろう。さらに高い電位は、電極の急速な汚れを引き起こし、さらに、例えばSHEに対して約+0.385Vの還元電位を有するシトクロムa3などの微生物シトクロムの致命的な酸化を引き起こす。
g)全ての条件を一定に保ち、約27継代培養まで(
図5を参照)又は約10継代培養まで(
図8を参照)まで、より正確には、株がその条件に適応するまでの(適応の可能性を上げるための)十分な継代数の継代培養までの繰り返し接種を行ったが、全ての継代培養で新鮮な培地を使用した。
h)第27継代培養の後、
図5に示すように接種は約第30継代培養まで続けられた。又は、
図8に示すように、第10継代培養の後、接種を停止した。
i)全ての継代培養物を回収するとき、最良の適応株を選択するために、これらの継代培養物を、比較メタゲノミクス、代謝特性決定、成長速度、安定性及び酸化ストレス耐性について分析する。
【0063】
上述の工程の1つ以上を、適切な場合に、本明細書に記載するいずれかの方法で使用してもよい。
【0064】
さらに別の実施形態において、嫌気性微生物の酸素適応のための方法は、模擬ヒト腸内酸化還元モデル(SHIRM)と呼ばれるバイオリアクターを用いて行われ、限定されないが、以下の工程を含む。
a)当技術分野で知られているように、通常の培地に細菌の1個のコロニーを接種する。システインは、成長培地の結腸酸化還元電位を模擬的に再現するために使用され、レサズリンを酸化還元指示薬として使用する。
b)培養物が後期対数期に達したら、培養物の一部分をSHIRMリアクターへの接種のために使用し、別の部分を分析のために保存する。
c)細菌株の一次単離及び通常の細菌株の栽培に使用されるのと同じ培地を含むSHIRMリアクター中での培養物の接種。ここで、成長培地は、Shirm Bed Culture Medium(SBCM)と呼ばれる。
I.還元剤/酸化防止剤(システイン)の濃度は減り、同等の量の対応する「酸化された対応物」(シスチン)を用いて均衡が保たれる。
II.印加電気酸化電位は、外部電圧によって、ポテンシオスタットを介し、グラファイト、グラファイトフェルト又はカーボンフェルト又は炭素繊維アノードで維持される。カソードチャンバを、プロトン交換膜によって分離されたアノードチャンバの片側のアームに接続することによって、セル回路が完成する。
III.酸素の流れは、異なる酸素拡散定数を有する可変隔膜を介して分離されたアノードチャンバの他の側のアームに酸素フィーダーを接続することによって制御される。瞬間的な酸素の流れは、例えば、ClarkのDO型プローブによって測定される(
図4Aを参照)。
IV.純酸素ガス又は空気で酸素フィーダーをパージすることによって酸素の流れを維持し、ヘンリーのガス溶解性の法則に従って所望の溶存酸素濃度を達成する。次いで、溶存酸素が酸素フィーダーを通ってアノードチャンバに拡散する。
V.さらに、酸素の流れは、酸素フィーダーの床容積を変えることによって制御される。酸素フィーダーは、アノードチャンバに酸素を直接拡散させるために取り外すこともできる。
VI.アノードチャンバと酸素フィーダーとの間の隔膜は、酸素フィーダーからアノードチャンバへの酸素拡散をより良く制御するために、ムチン寒天でさらにコーティングされていてもよい。
VII.SHIRMは、SBCMを含み、酸素を含まない窒素をパージし、溶存酸素を除去する。
VIII.次いで、最初の接種に使用したSBCMをSBCM 8,0/V
0.1と命名することができ、前者は、システインの濃度を指し、後者は、シスチンの濃度(mM)を指し、「V」は、Ag/AgClに対する印加電圧を示す。SHIRMバイオリアクターは、培養物が+100mVの酸化電位で静止期に達するまで動かす。
IX.最初のインキュベート後に回収された培養物を「集合P1」と命名してもよい。
d)SHIRMリアクターにおける次の接種は、システイン濃度の減少、シスチン濃度の増加及び増加した印加電圧を有するように開始される(
図5及び
図8を参照)。酸化防止剤が少ないほど、捕捉する酸素が少ないため、より多くの酸素が利用可能であり、細胞は、多くの酸化ストレスを経験する。酸素フィーダーは、酸素拡散の流れをさらに制御する。
e)再接種は、第6継代培養まで継続される。この段階で、酸化防止剤は3mMまで減少し、「酸化された対応物」は5mMまで増加し、一方、酸化電位は0.6V(AgAgClに対して)まで上昇する。過電圧のため、電位電圧は、AgAgClに対して0.6Vを超えて上昇しない。さらに高い電位は、電極の急速な汚れを引き起こし、さらに、例えばシトクロムa3などの微生物シトクロムは、SHEに対して約+0.385Vの還元電位を有する。
f)全ての条件を一定に保ち、第27継代培養まで(
図5)又は第10継代培養(
図8)まで繰り返し接種を行ったが、各継代培養では、新鮮な培地を使用した。
g)
図5に示すシナリオでは、第27継代培養の後、
図5に示すように接種は第30継代培養まで続けられた。又は、例えば
図8に示すように、第10継代培養の後、接種を停止した。
【0065】
上述の工程の1つ以上を、適切な場合に、本明細書に記載するいずれかの方法で使用してもよい。
【0066】
酸化還元状態を調整するための酸化防止剤/酸化された対応物の濃度比の段階的な変化は、ネルンスト式に従う。ここで、以下にシステイン/シスチン酸化還元対の一例を示す:
Eh=Eo+RT/2Fln([シスチン]/[システイン]2) (a)
式中:
Eh=酸化還元電位=V
Eo=シスチン/システイン対の標準酸化還元電位=pH7.4で0.25V
R=一般的な気体定数=8.31451JK-1mol-1
F=ファラデー定数=96,485C/mol
T=絶対温度(K)。
【0067】
様々な濃度のシステイン/シスチン酸化還元対について計算された酸化還元電位(Eh)値を表1に示す。
【0068】
【表1】
表1
4R-SH+O
2→2R-SS-R+H
2O (b)
【0069】
式(b)によれば、4モルのシステイン(R-SH)が1モルの酸素と反応し、2モルのシスチン(R-SS-R)を生成する。
【0070】
25℃での水中の溶存酸素濃度は約200μMであり、実験前に成長培地を窒素でパージしないと、約800μMのシステインが200μMの酸素と反応し、400μMのシスチンを生成する。従って、8mMのシステインを含む成長培地では、約-223mVの初期酸化還元電位が観察されるだろう。しかし、成長培地中の酸素を、酸素を含まない窒素で完全に脱気すると、約-283mVの酸化還元電位を与え、この電位は、腸管内の酸化還元電位(約-300mV)に近い。
【0071】
本発明は、さらに、本発明の方法によって調製された適応微生物の例を提供する。
【0072】
従って、本発明のなおさらなる態様は、本発明の方法によって得られ、得ることができ、調製され、生産され、同定され、又は選択される、微生物(適応微生物)、例えば、微生物株を提供する。このような株は、プロバイオティクス微生物又は細菌株であり得る。本明細書で使用される「プロバイオティックス」は、摂取されると健康上の利益をもたらす微生物を指す。例えば、国際連合食糧農業機関は、プロバイオティクスを、「十分な量で投与すると宿主に健康上の利益を与える生きた微生物」であると定義している。このような微生物又は株は、単離された株又は純粋培養物であってもよく、本発明の適応方法に供されているため、天然に存在する微生物又は株に対応しない。好ましい微生物又は株は、F.prausnitziiである。
【0073】
本発明の適応方法によって得られるなどの適応株の例は、TCS1、OCS-1及びOCS-2として本明細書で示すF.prausnitzii株である。これらの株は、2016年10月12日にDSMZでのブダペスト条約(Leibniz Institute DSMZ-German Collection of Microorganisms and Cell Cultures、インホーフェンストリート.7B、D-38124 ブラウンシュヴァイク、ドイツ)に基づいて寄託され、それぞれ、寄託番号DSM 32380、DSM 32378及びDSM 32379が与えられている。
【0074】
本発明の方法によって得られるなどの微生物又は株(例えば、寄託された株の1つ以上)は、化合物(薬剤)又は組成物の形態をしていてもよい(例えば、医薬化合物又は組成物又は栄養化合物又は組成物)。
【0075】
従って、本発明は、以下を含む組成物又は製剤を提供する。
(i)本発明の方法によって得られ、得ることができ、調製され、生産され、同定され、又は選択される、微生物又は株、又は本明細書にそれ以外で定義される本発明の微生物又は株(例えば、寄託された1つ以上の株)及び
(ii)担体、希釈剤又は賦形剤(例えば、医薬的に許容される担体、希釈剤又は賦形剤)、食料又は食品補助物質、又はさらなる治療薬剤又は栄養剤からなる群から選択される少なくとも1つの追加成分。従って、前記組成物は、医薬組成物として、又は栄養組成物として(例えば、食品として)製剤化することができる。
【0076】
本明細書で定義される本発明の微生物、株、組成物及び製剤(例えば、1つ以上の寄託された菌株)の治療的な使用も提供される。
【0077】
微生物、株、組成物、製剤などの適切な投与及び配合方法は、疾患の部位に応じて選択される。好ましい投与様式は、経口又は直腸であるが、静脈内注射又は筋肉内注射も同様に適切な場合がある。
【0078】
本明細書で定義される本発明の微生物、株、組成物及び製剤の適切な用量は、治療される障害、投与様式及び関連する処方に応じて、当業者によって容易に選択又は決定され得る。例えば、被験体に投与される本発明の微生物、株、組成物又は製剤が治療的利益又は健康的利益をもたらし得るように、投薬量及び投与計画が選択される。例えば、細菌の総CFU数が104~1012、例えば105~1010、又は106~108、又は108~1010の微生物の1日分の用量を使用してもよい。
【0079】
従って、本発明の方法によって、又は本明細書で定義されるように得られた、酸素耐性が高い嫌気性微生物を含む製品又は組成物又は製剤又はキットが提供される。有利には、このような製品は、貯蔵寿命を長くし、又は貯蔵期間をさらに長くする。
【0080】
好ましい製品又は組成物は、凍結した、凍結して乾燥させた、凍結乾燥した、又は乾燥した細菌(実施例も参照)を含み、好ましくは単位投与量形式、例えば、カプセル又は錠剤又はゲルである。このような製品などで使用するのに適した用量(例えば、細菌又はCFUの数の形態で)は、本明細書の他の箇所及び実施例に記載されている。例えば保存料(例えばグリセロール)、安定剤、ゲル化剤及び/又は凍結保護剤などの他の成分が、このような製品などに含まれてもよい。いくつかの実施形態では、このような追加成分は、非天然の薬剤である。
【0081】
濃度、レベル又は増殖が減少(又は低下)すると本明細書で言及される場合、好ましくは、このような減少又は低下(実際に、本明細書の他の箇所で述べた他の低下又は減少又は負の影響)は、測定可能な減少であり、より好ましくは、有意な減少であり、好ましくは、統計学的に有意な減少であり、例えば、適切なコントロールレベル又はコントロール値と比較したときの確率値≦0.05である。
【0082】
濃度、レベル、電圧、耐性又は増殖などの増加(又は向上)、例えば、酸化ストレス、酸素の流れ(又は拡散又は濃度)、又は酸素耐性の段階的な増加が本明細書で言及される場合、好ましくは、このような増加(及び、実際には、本明細書の他の箇所で述べた他の増加又は正の影響)は、測定可能な増加であり、より好ましくは、有意な増加であり、好ましくは、統計学的に有意な増加であり、例えば、適切なコントロールレベル又はコントロール値と比較したときの確率値≦0.05である。
【0083】
実際に、本明細書において有意な変化が記載されている場合、そのような変化は、統計学的に有意な変化であることが好ましく、例えば、適切なコントロールレベル又はコントロール値と比較したときの確率値≦0.05である。
【0084】
以下は本発明のいくつかの実施例であり、本発明の使用を限定するものではなく、本発明の使用可能な方法の詳細な実施例を示すことを意味している。
【実施例0085】
(例1)
嫌気性微生物の酸化環境への適応
Coyチャンバで使用される厳密な嫌気性条件下(5%H
2、15%CO
2及び80%N
2)、微生物の純粋培養技術によって、健康なボランティアの糞便からフィーカリバクテリウム・プラウスニッツィ株を単離し、FBT-22(DSM 32186)と命名した。(FBT-22は、2015年10月20日にDSMZでのブダペスト条約(Leibniz Institute DSMZ-German Collection of Microorganisms and Cell Cultures、インホーフェンストリート.7B、D-38124 ブラウンシュヴァイク、ドイツ)に基づいて寄託され、寄託番号DSM 32186が与えられている)。単離に使用される通常の培養培地は、以下のものを含有する(g/L)。酵母抽出物:2.5;カシトン:10;グルコース:4.5;塩化ナトリウム:0.9;リン酸二カリウム:0.45;リン酸二水素カリウム:0.45;硫酸アンモニウム:1.32;重炭酸ナトリウム:4g;システイン:1、レサズリン:0.001;ヘミン:0.01。ビタミンミックスは、10μgのビオチン、10μgのコバラミン、30μgのp-アミノ安息香酸、50μgの葉酸及び150μgのピリドキサミンを含む。培地中の短鎖脂肪酸(SCFA)の最終濃度は、酢酸が33mM、プロピオン酸が9mM、イソ酪酸、イソ吉草酸及び吉草酸がそれぞれ1mMであった。チューブにCO
2を流しながら、全ての成分を無菌的に添加した。熱不安定性ビタミンを0.22μmのフィルターで濾過滅菌し、培地をオートクレーブにかけた後に添加し、最終濃度0.05μgチアミンml
-1及び0.05μgリボフラビンml
-1を得た。培地の最終pHを、1N NaOH又は1N HClを用い、7.2±0.2に調整した。培地を100kPa、121℃で15分間オートクレーブ処理した。システインは、成長培地の結腸酸化還元電位を模擬的に再現するために使用され、レサズリンを酸化還元指示薬として使用した。SHIRMバイオリアクターのための接種材料は、7mlの培地に1個のコロニーを接種することによって調製した。37℃で12時間~16時間インキュベートした後、培養物は、後期対数期(OD
600約0.7)に達した。約0.5mlのマスター培養物の2本のチューブを、-80℃で、20%グリセロール中に保存し、FFRと命名した。これらのFFRストックは、FFR-M1.1及びFFR-M1.2と命名される。FFRM1.1は、解凍せずに7mlの培地に直接接種した。接種材料を37℃で12時間~16時間嫌気的にインキュベートし、培養物が後期対数期(OD
600約0.7)に達したら、培養物2.5mlを250mlのSHIRMバイオリアクターに接種した。このマスター培養物の一部を(上述のように)2個ずつ保存し、FFR-M2.1及びFFR-M2.2と命名した。汚染又は不具合の場合、この実験は、対応するFRM培養物によって回収することができる。SHIRM床培地(SBCM)の組成は、FBT-22株(DSM 32186)の一次単離に使用したものと同じであるが、後にシステイン濃度が減少し、同等量のシスチンを用いて均衡が保たれる。印加電気酸化電位は、外部電圧によって、ポテンシオスタットを介し、グラファイトアノード(8.5cm×0.25cm×2.5cm)で維持された。カソードチャンバを、プロトン交換膜によって分離された片側のアームに接続することによって、セル回路が完成した。酸素の流れは、異なる酸素拡散定数を有する可変隔膜を介して分離されたアノードチャンバに酸素フィーダーを接続することによって制御された。瞬間的な酸素の流れは、ClarkのDO型プローブによって測定された。酸素の流れは、半透膜を介してアノードチャンバに拡散する純粋な酸素によって酸素フィーダーをパージすることによって制御される。膜上の酸素の拡散率(D
Om)及び物質移動定数(K
Om)は、それぞれ2.4x10
-6cm
2/s及び1.3x10
-4cm/sである。さらに、酸素の流れは、酸素フィーダーの床容積を、例えば、
図6に示すように250ml又は100mlに変えることによって制御された。
図7に示すように、酸素フィーダーは、アノードチャンバに酸素を直接拡散させるために取り外すこともできる。隔膜の寒天ムチンコーティングは、アノードチャンバへの酸素拡散をさらに制御する。寒天ムチンは、以下の成分(g/L)を溶解させ、オートクレーブにかけることによって調製された。寒天:2;NaCl:8;KCl:0.2;Na
2HPO
4:1.42;KH
2PO
4:0.24;ムチンII型:5。培地を100kPa、121℃で15分間オートクレーブ処理した。SHIRMは、SBCMを含み、酸素を含まない窒素を15分間パージし、溶存酸素を除去した。SHIRMリアクター中の最終細胞濃度をOD
600約0.005に調整した。
【0086】
次いで、FFR-M2.1を用いた最初の接種に使用したSBCMをSBCM 8,0/V0.1と命名した。前者の数字(「8」)は、システインの濃度(mM)を指し、後者の数字(「0」)は、シスチンの濃度(mM)を指し、「V」は、Ag/AgClに対する印加電圧を示す。全ての実験は、酸素の流れゼロで開始し、酸素は、酸素フィーダーから所定の一定速度で拡散する。SHIRMバイオリアクターは、培養物が+100mVの酸化電位で静止期に達するまで、37℃で24時間動かした。
【0087】
最初のインキュベート後に回収された培養物を、「集合P1」と命名し、これは約5世代前である。このバッチからの凍結ストックは、FFR-P1.1及びFFR-P1.2と称された。2.5mlのFFR-P1.1を、SBCM 7,1/V
0.2を含む新しいSHIRMリアクターに接種した。再接種は、FFR-P6を生じる第6継代培養及び対応するFFR-Pが各中間継代培養において保存されるまで継続した。この段階で、システイン濃度は3mMまで減少し、シスチンは5mMまで増加し、酸化電位はAgAgClに対して600mVまで増加した。この段階で、全ての条件を一定に保ち、第27継代培養まで繰り返し接種を行ったが、各継代培養では、新鮮な培地を使用した。第27継代培養の後、
図5に示すように接種は第30継代培養まで続けられた。
(例2)
酸化環境に適応した進化株の選択
【0088】
酸化環境及び酸素に適応した株を選択するために、例1の様々なFFR-Pを分析する。選択した株は、さらなる生産に使用することができる。
【0089】
分析は、比較メタゲノミクス、代謝特性決定、成長速度、安定性及び耐性に基づく。
【0090】
比較代謝特性決定は、脂肪酸プロファイリング、より正確には、イヌリン及び耐性デンプンなどの様々なプレバイオティクスでの酪酸産生を介して行われる。
【0091】
バイオマスの収率及び成長速度を含む比較成長速度は、胆汁酸塩とプレバイオティクスを含むか、又は含まない通常の培地で行われる。
【0092】
比較安定性及び耐性は、酵素を含むか、又は含まない、模擬的に再現された胃液/模擬的に再現する腸液の存在下で、周囲の空気に30分間さらして行われる。
【0093】
模擬的に再現された胃液試験溶液(TS)は、米国薬局方(USP)のガイドラインに従って、2.0gの塩化ナトリウム、3.2gの精製ペプシン(ブタの胃粘膜から誘導され、活性が800~2500単位/タンパク質(mg))を7.0mLの塩酸に溶解し、水を加えて1000mLにすることによって調製される。この試験溶液は、pHが約1.2である。
【0094】
模擬的に再現された腸液試験溶液(TS)USPは、6.8gの一塩基性リン酸カリウムを250mLの水に溶解し、次いで、77mLの0.2N水酸化ナトリウムと500mLの水を添加することによって調製される。10.0gのパンクレアチンを添加し、得られた溶液を0.2N水酸化ナトリウム又は0.2N塩酸でpH6.8±0.1に調整し、最後に1000mLになるまで希釈する。
【0095】
微生物燃料電池及び5,5’-ジチオビス-2-ニトロベンゾエートを使用し、ニトロブルーテトラゾリウム塩によってジアフォラーゼを試験しつつ、細胞のFFR-M集合及びFFR-P集合におけるシトクロム発現を評価した。
【0096】
最良の適応株が選択される。
(例3)
嫌気性微生物の酸化環境への適応のさらなる例
【0097】
培養工程までの例1の全ての工程の後、第1の摂取後に回収したものを「集合P1」と命名し、これは約5世代前である。このバッチからの凍結ストックは、FFR-P1.1及びFFR-P1.2と称された。2.5mlのFFR-P1.1を、SBCM7.1/V0.2を含む新しいSHIRMリアクターに接種した。再接種は、FFR-P6を生じる第6継代培養及び対応するFFR-Pが各中間継代培養において保存されるまで継続した。この段階で、システイン濃度は3mMまで減少し、シスチンは5mMまで増加し、酸化電位はAgAgClに対して600mVまで増加した。
【0098】
しかし、この例3では、例1と比較して、全ての条件を一定に保ちつつ、この繰り返し接種を行う段階を合計で第10継代培養まで行ったが、各継代培養では、
図8に示すように新鮮な培地を使用した。
(例4)
例3からの進化株の選択
【0099】
酸化環境及び酸素に適応した株を選択するために、例3の様々なFFR-Pを分析する。選択したさらなる生産に使用することができる。
【0100】
適応株の選択は、以下の工程に基づく。
a.
図8に示される全ての工程で、100μlのアリコートを集めた。
b.
図9に示すように、「工程a」からのサンプルを空気飽和したリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で段階的に希釈し(10
3まで)、周囲温度で、気密バイアル中でインキュベートした。
c.このバイアルを嫌気性チャンバに持ち込み、50μlのアリコートをYCFAG培地に接種した(表4)。
d.プレートを嫌気的に24時間~72時間インキュベートした。
e.インキュベート後、生存数を視覚的に評価した。
f.コロニーの形態に基づき、訓練後に生じた変異体を選択し、古典的な純粋培養技術によって精製した。
g.適応株を、グラム染色によって純度を調べた。
h.工程fから選択された5種類の適応株をTCS1、LTCS、STCS、OCS-1及びOCS-2と命名した。
i.それぞれの単離条件及び工程を含む、単離された適応株の完全な詳細を表2に示す。
j.適応株の予備的な同定は、グラム染色、代謝表現型検査(短鎖脂肪酸プロファイル)及びF.prausnitziiに特異的なプライマーを用いた定量PCR(qPCR)に基づいていた。
k.16SrDNA配列決定法によって、株の同定を確認した。
l.
図10に示すように、適応株の酸素耐性の安定性を評価した。それぞれの適応株をYCFAG培地中で12~14時間、嫌気的に培養し、10
1、10
2、10
3、10
4及び/又は10
5に段階的に希釈した。100μl又は50μlの連続希釈した培養物のいずれかを、YCFAG培地プレートに2個ずつ接種した。1セットのプレートを嫌気性条件下でインキュベートしてコントロールとして使用し、一方、他のセットを好気的に20分間インキュベートする。周囲空気に20分間さらしている間に、酸素は寒天プレート内に完全に拡散し、その色がピンク色に変化する。還元状態で無色である酸化還元指示薬染料レサズリンは、酸化後にピンク色になる。これにより、培養プレート培地への完全な酸素拡散が保証される。
図10に示すそれぞれの処理を行った後、試験プレートとコントロールプレートを嫌気性条件下で48時間~72時間インキュベートし、生存数を目視で評価した。
m.16SrDNA配列決定法によって株を確認した後、F.prausnitziiの適応株TCS1、OCS-1及びOCS-2を、酸素耐性に基づいて選択し、DSMZでのブダペスト条約(Leibniz Institute DSMZ-German Collection of Microorganisms and Cell Cultures、インホーフェンストリート.7B、D-38124 ブラウンシュヴァイク、ドイツ)に基づいて寄託し、それぞれ、寄託番号DSM 32380、DSM 32378及びDSM 32379が与えられている。
n.F.prausnitzii型株、親株及び適応株の酸素耐性を表3に示す。
【0101】
【0102】
【表3】
表3:空気に暴露した後の適応株の安定性プロファイル
【0103】
【表4】
表4:フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィ(Faecalibacterium prausnitzii)のYCFAG培地
(例5)
進化株の遺伝的な特性決定
【0104】
例1の各継代培養の間に生成した進化株は、次世代配列決定法(NGS)により特性決定される。FFR-M及び全てのFFR-P培養物は、進化/適応したFFR-P子孫において起こり得るあらゆる可能な変異を解明するために、詳細なゲノム分析のためにNGSに供される。FFR-M株とFFR-P株との間の差異も、RNA-seqを介して転写レベルで研究されている。
(例6)
嫌気性微生物の生産性向上
【0105】
生産の設定は、例1から得られた最適化された条件を含む。例2からの微生物の培養設定は、例1と同じであるが、電圧、システイン/シスチン対及び酸素の流れを含む固定された酸化条件で、1工程のみを含む。
【0106】
最適化された発酵条件は、以下の通りである。酸素の物質移動係数(KOm)が1.3x10-4cm/sの隔膜、アノードチャンバへの酸素拡散速度が約0.2nmole・ml-1min-1であり、AgAgClに対する印加電圧が0.6Vであり、システインが3mM、シスチンが5mMであり、成長培地SBCMの初期酸化還元電位が約-188mVである。
【0107】
発酵工程は、3重チャンバ構成のフルオロポリマー系プラスチック材料から作られる電気絶縁された150リットル容器で行われる。
図4c。上述の例2のような調製物を用いて接種する。
【0108】
発酵からの細胞スラリーを、Alfa Laval製の連続遠心分離機で分離し、当該技術分野で知られているように、標準的な凍結保護剤と混合する。凍結乾燥工程における凍結点の低下を避けるために、洗浄工程が実施される。
【0109】
凍結乾燥の場所で、細胞スラリーを凍結乾燥機内の各プレート上に注ぐ。フィーカリバクテリウム・プラウスニッツィの細胞スラリーは乾燥物含有量が18%であり、4~5日間凍結乾燥する。
【0110】
その他、微生物の発酵及び凍結乾燥は、当技術分野で知られているように行われる。