(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022048218
(43)【公開日】2022-03-25
(54)【発明の名称】塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 23/28 20060101AFI20220317BHJP
C08L 53/00 20060101ALI20220317BHJP
C08L 23/26 20060101ALI20220317BHJP
C08F 8/22 20060101ALI20220317BHJP
C08F 8/46 20060101ALI20220317BHJP
C09D 123/12 20060101ALI20220317BHJP
C09D 123/30 20060101ALI20220317BHJP
C09D 127/04 20060101ALI20220317BHJP
C09D 151/06 20060101ALI20220317BHJP
C09D 153/00 20060101ALI20220317BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20220317BHJP
C09J 123/10 20060101ALI20220317BHJP
C09J 123/30 20060101ALI20220317BHJP
C09J 127/04 20060101ALI20220317BHJP
C09J 151/06 20060101ALI20220317BHJP
C09J 153/00 20060101ALI20220317BHJP
C09D 11/106 20140101ALI20220317BHJP
【FI】
C08L23/28
C08L53/00
C08L23/26
C08F8/22
C08F8/46
C09D123/12
C09D123/30
C09D127/04
C09D151/06
C09D153/00
C09D5/00 D
C09J123/10
C09J123/30
C09J127/04
C09J151/06
C09J153/00
C09D11/106
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022006689
(22)【出願日】2022-01-19
(62)【分割の表示】P 2019505999の分割
【原出願日】2018-03-12
(31)【優先権主張番号】P 2017052179
(32)【優先日】2017-03-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神埜 勝
(72)【発明者】
【氏名】浅井 賢介
(72)【発明者】
【氏名】吉元 貴夫
(72)【発明者】
【氏名】竹中 天斗
(72)【発明者】
【氏名】矢田 実
(72)【発明者】
【氏名】高本 直輔
(57)【要約】
【課題】本発明は、付着性、溶液安定性に優れ、更に耐チッピング性に優れた塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、成分(A):示差走査型熱量計(DSC)により得られる融点(TmA)が90~160℃の範囲であるポリオレフィン系樹脂A、及び成分(B):示差走査型熱量計(DSC)により得られる融点(TmB)が50~130℃の範囲であるポリオレフィン系樹脂Bを含有し、成分(A)及び成分(B)の少なくともいずれか、又はそれらの共重合体が塩素化された塩素化ポリオレフィン系樹脂である塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物(但し、|TmA-TmB|≧5℃である)を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(A):示差走査型熱量計(DSC)により得られる融点(TmA)が90~160℃の範囲であるポリオレフィン系樹脂A、及び
成分(B):示差走査型熱量計(DSC)により得られる融点(TmB)が50~130℃の範囲であるポリオレフィン系樹脂Bを含有し、
前記成分(A)及び前記成分(B)の少なくともいずれか、又はそれらの共重合体が塩素化ポリオレフィン系樹脂である塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物(但し、|TmA-TmB|≧5℃である)。
【請求項2】
前記成分(A)及び前記成分(B)の少なくともいずれか、又はそれらの共重合体がα,β-不飽和カルボン酸又はその無水物のグラフト変性物である請求項1に記載の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項3】
前記成分(A)と前記成分(B)の含有比率(成分(A)/成分(B))が、90/10~10/90(但し、成分(A)+成分(B)=100とする)の範囲である請求項1又は2に記載の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項4】
前記成分(B)が、プロピレン成分及び他のα-オレフィン成分を含むプロピレン系ブロック共重合体であって、
前記プロピレン系ブロック共重合体が、プロピレンに由来する構成単位を60質量%以上有する請求項1~3のいずれか1項に記載の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項5】
前記成分(A)と前記成分(B)の共重合体が、塩素化ポリオレフィン系樹脂である請求項1~4のいずれか1項に記載の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項6】
塩素含有率が10~40質量%である請求項1~5のいずれか1項に記載の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項7】
重量平均分子量が10,000~200,000である請求項1~6のいずれか1項に記載の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物を含むプライマー。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物を含む接着剤。
【請求項10】
請求項1~7のいずれか1項に記載の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物を含む塗料用バインダー。
【請求項11】
請求項1~7のいずれか1項に記載の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物を含むインキ用バインダー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン等のポリオレフィン基材は、優れた性能を持ち安価であるため、プラスチック成型部品や、食品包装材の各種フィルム等に広く用いられている。その際、表面保護や美観の改善を目的として、ポリオレフィン基材の表面に印刷や塗装が施される。
【0003】
しかしながら、ポリオレフィン基材は非極性基材であり、表面自由エネルギーが低く、更には結晶性を有するため、インキや塗料が付着し難いという問題がある。そのため、印刷・塗装等の際に、塩素化ポリオレフィン樹脂をインキや塗料に添加することで、ポリオレフィン基材への付着性を向上させる手法が広く用いられている。
【0004】
自動車外板部、家電製品等の部材としても、その様なポリオレフィン基材等のプラスチック成型品が多く使用されている。そして、上塗り塗膜と成型品との付着性を向上させるために、塩素化ポリオレフィン樹脂等を含有するプライマーを予め塗装して用いられている。
【0005】
近年、自動車外板部の塗装においては、プラスチック成型品を自動車外板部と一体化させた後に、塗装を行う方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この様な塗装方法では、塗装ラインを一元化できるため、コストや使用塗料の低減を期待することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された方法では、プライマー塗装がプラスチック成型品のみならず金属である自動車外板部にも塗装されるので、自動車外板部を一定の塗膜厚さに調整した場合、プライマー層の分だけ上塗り層が減少する。そのため、プライマー層のチッピング(跳ね石による塗膜剥がれ)性が劣り、塗装部分全体の耐チッピング性が低下するという問題があった。
本発明の課題は、付着性、溶液安定性に優れ、更に耐チッピング性に優れた塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、2種の異なる融点(但し、融点の差の絶対値が5℃以上)を有するポリオレフィン系樹脂を塩素化することにより、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明者らは、下記の〔1〕~〔11〕を提供する。
〔1〕成分(A):示差走査型熱量計(DSC)により得られる融点(TmA)が90~160℃の範囲であるポリオレフィン系樹脂A、及び成分(B):示差走査型熱量計(DSC)により得られる融点(TmB)が50~130℃の範囲であるポリオレフィン系樹脂Bを含有し、前記成分(A)及び前記成分(B)の少なくともいずれか、又はそれらの共重合体が塩素化ポリオレフィン系樹脂である塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物(但し、|TmA-TmB|≧5℃である)。
〔2〕前記成分(A)及び前記成分(B)の少なくともいずれか、又はそれらの共重合体がα,β-不飽和カルボン酸又はその無水物のグラフト変性物である上記〔1〕に記載の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物。
〔3〕前記成分(A)と前記成分(B)の含有比率(成分(A)/成分(B))が、90/10~10/90(但し、成分(A)+成分(B)=100とする)の範囲である上記〔1〕又は〔2〕に記載の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物。
〔4〕前記成分(B)が、プロピレン成分及び他のα-オレフィン成分を含むプロピレン系ブロック共重合体であって、前記プロピレン系ブロック共重合体が、プロピレンに由来する構成単位を60質量%以上有する上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物。
〔5〕前記成分(A)と前記成分(B)の共重合体が、塩素化ポリオレフィン系樹脂である上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物。
〔6〕塩素含有率が10~40質量%である上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物。
〔7〕重量平均分子量が10,000~200,000である上記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物。
〔8〕上記〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物を含むプライマー。
〔9〕上記〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物を含む接着剤。
〔10〕上記〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物を含む塗料用バインダー。
〔11〕上記〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物を含むインキ用バインダー。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、付着性、溶液安定性に優れ、更に耐チッピング性に優れた塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0011】
[1.塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物]
本発明の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物は、成分(A):示差走査型熱量計(以下、「DSC」ともいう)により得られる融点(以下、「TmA」ともいう)が90~160℃の範囲であるポリオレフィン系樹脂A、及び成分(B):DSCにより得られる融点(以下、「TmB」ともいう)が50~130℃の範囲であるポリオレフィン系樹脂Bを含有し、該成分(A)及び成分(B)の少なくともいずれか、又はそれらの共重合体が塩素化ポリオレフィン系樹脂である塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物である(但し、|TmA-TmB|≧5℃である)。
本発明の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物は、上記の異なる融点を持つ成分(A)及び成分(B)の、少なくとも2つの樹脂を含有する。このような塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物は、組成物の結晶性が一様とはならなくなるため、良好な付着性を維持しつつ、適度な弾性を持つ樹脂被膜を形成でき、さらには他の成分との相溶性にも優れるものとなる。従って、付着性、溶液安定性に優れ、更に耐チッピング性にも優れたものとなる。
【0012】
成分(A)と成分(B)の融点の差の絶対値(|TmA-TmB|)は、5℃以上であり、好ましくは10℃以上であり、より好ましくは15℃以上である。またその上限は、通常、100℃以下であり、90℃以下が好ましい。
成分(A)と成分(B)の融点の差の絶対値が斯かる条件を満たすことで、これらを含有する塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物は、その結晶性が一様ではなくなり、弾性に優れ、他の成分との相溶性に優れるものとなる。従って、付着性、溶液安定性に優れ、更に耐チッピング性にも優れたものとなる。
【0013】
[1-1.成分(A):ポリオレフィン系樹脂A]
成分(A)は、TmAが90~160℃の範囲であるポリオレフィン系樹脂Aである。
成分(A)のTmAは、90~160℃であり、好ましくは95~150℃であり、より好ましくは100~145℃である。成分(A)の融点TmAが90℃以上であることで、十分な接着強度を得ることができる。一方、融点TmAが160℃以下であることにより、低温での接着性や、溶液安定性が良好であり、低温での十分な保管安定性を得ることができる。
DSCによるTmの測定は、例えば、以下の条件で行うことができる。JIS K7121-1987に準拠し、DSC測定装置(セイコー電子工業製)を用い、約5mgの試料を200℃で10分間加熱融解状態を保持した後、10℃/分の速度で降温して-50℃で安定保持する。その後、更に10℃/分で200℃まで昇温して融解した時の融解ピーク温度を測定し、該温度をTmAとして測定し得る。
【0014】
成分(A)は、上記の融点範囲を満たすものであれば、その共重合体の構成について特に限定されるものではない。但し、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体、及びエチレン-プロピレン-1-ブテン共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種の共重合体であることが好ましい。
成分(A)が共重合体である場合、ランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよい。
これら共重合体に占めるプロピレンに由来する構成単位の割合は、共重合体全体の60質量%以上が好ましく、60~99質量%がより好ましい。なお、プロピレンに由来する構成単位等の成分(A)の構成成分の割合は、共重合体を調製する際の各単量体の仕込み量で算出することができる。
【0015】
成分(A)は、測定温度が230℃、測定荷重が2.16kgの条件で測定したメルトフローレート(MFR)が、0.5g/10分以上~5.0g/10分未満が好ましく、1.0g/10分以上~5.0g/10分未満がより好ましく、1.0g/10分以上~4.0g/10分未満がさらに好ましい。当該数値が本範囲未満であると、溶液安定性が悪くなる場合がある。一方、本範囲以上であると、凝集力が低すぎて、非極性樹脂基材に対する付着性能が落ちる場合がある。
メルトフローレートの測定は、ASTM D1238に準拠し、メルトフローインデックステスタ(安田精機製作所製)にて算出することができる。
【0016】
[1-2.成分(B):ポリオレフィン系樹脂B]
成分(B)は、TmBが50~130℃の範囲であるポリオレフィン系樹脂Bである。
成分(B)のTmBは、50~130℃であり、好ましくは55~125℃であり、より好ましくは55~120℃である。成分(B)の融点TmBが50℃以上であることで、十分な接着強度を得ることができる。一方、融点TmBが130℃以下であることにより、低温での溶液安定性が良好であり、低温での十分な保管安定性を得ることができる。
成分(B)のDSCによるTmの測定は、上記の成分(A)のTmの測定と同様にして行うことができる。
【0017】
成分(B)は、上記の融点を満たすものであれば、その共重合体の構成について特に限定されるものではなく、例えば、プロピレン成分と他のα-オレフィン成分を含むプロピレン系共重合体があり、より詳細には、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体、及びエチレン-プロピレン-1-ブテン共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種の共重合体を挙げることができる。
なお、成分(B)の共重合体は、ランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよい。
【0018】
成分(B)は、上記した中でも、プロピレン成分と他のα-オレフィン成分を含むプロピレン系ブロック共重合体が好ましく、プロピレンとエチレンからなるブロック共重合体がより好ましい。
ここで、ブロック共重合体とは、プロピレン成分、エチレン成分、ブテン成分等のα-オレフィン成分が、同種の単量体成分同士で一定の長さで連続的に共重合したブロック体を、その構成単位として含むものをいう。また、ランダム共重合体とは、単量体成分の配列に規則性の無い共重合体をいう。
共重合体に占めるプロピレンに由来する構成単位の割合は、共重合体全体の60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上が更に好ましい。その上限としては、100質量%以下が好ましく、97質量%以下がより好ましい。
なお、プロピレンに由来する構成単位等の成分(B)の構成成分の割合は、共重合体を調製する際の各単量体の仕込み量で算出することができる。
【0019】
成分(B)は、測定温度が230℃、測定荷重が2.16kgの条件で測定したメルトフローレート(MFR)が、5~40g/10分が好ましく、7~30g/10分がより好ましく、7~20g/10分がさらに好ましい。当該数値が本範囲未満であると、溶液安定性が悪くなる場合がある。一方、本範囲を超えると、凝集力が低すぎて、非極性樹脂基材に対する付着性能が落ちる場合がある。
メルトフローレートの測定は、ASTM D1238に準拠し、メルトフローインデックステスタ(安田精機製作所製)にて算出することができる。
【0020】
[1-3.含有形態]
本発明の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物は、上記の成分(A)及び成分(B)の少なくともいずれか、又はそれらの共重合体として、塩素化ポリオレフィン系樹脂を含有する。その含有形態は、成分(A)と成分(B)の共重合体の塩素化ポリオレフィン系樹脂として含有する形態や、成分(A)と成分(B)を混合した混合物として塩素化ポリオレフィン系樹脂を含有する形態等が挙げられ、必要に応じて適宜選択することができる。中でも、成分(A)と成分(B)の共重合体の塩素化ポリオレフィン系樹脂として含有する形態が好ましい。
【0021】
本発明の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物における成分(A)と成分(B)の含有比率(成分(A)/成分(B))は、90/10~10/90の範囲であることが好ましく、85/15~15/85の範囲であることがより好ましく、80/20~20/80の範囲であることがさらに好ましい(但し、成分(A)+成分(B)=100とする)。
なお、上記成分(A)と成分(B)の含有比率は、塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物を製造する際の成分(A)と成分(B)の仕込み量で算出することができる。
【0022】
[1-4.塩素化]
本発明の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物は、上記の成分(A)及び成分(B)の少なくともいずれか、又はその共重合体を塩素化したものである。これにより、ポリオレフィン系樹脂の非極性樹脂基材に対する付着性や、他成分との相溶性を向上させることができる。
【0023】
塩素化する方法としては、ポリオレフィン系樹脂をクロロホルム等の塩素系溶媒に溶解した後に、塩素ガスを吹き込み、ポリオレフィン系樹脂に塩素原子を導入する方法が挙げられる。
なお、塩素化に用いるポリオレフィン系樹脂は、ポリオレフィン系樹脂A(即ち、(A)成分)のみでもよく、ポリオレフィン系樹脂B(即ち、(B)成分)のみでもよく、ポリオレフィン系樹脂Aとポリオレフィン系樹脂Bの混合物でもよく、ポリオレフィン系樹脂Aとポリオレフィン系樹脂Bの共重合体であってもよい。
【0024】
塩素ガスの吹き込みは、紫外線の照射下で行うことができ、ラジカル反応開始剤の存在下及び不存在下のいずれにおいても行うことができる。塩素ガスの吹き込みを行う際の圧力は制限されず、常圧であってもよいし、加圧下であってもよい。塩素ガスの吹き込みを行う際の温度も特に制限されないが、通常、50~140℃である。
ラジカル反応開始剤としては、有機過酸化物系化合物やアゾニトリル類を使用することができる。なお、有機過酸化物系化合物の詳細は後述する。
【0025】
本発明の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物は、ポリオレフィン系樹脂に塩素を導入して得ることができる。系内の塩素系溶媒は、通常、減圧等により留去されるか、或いは、有機溶剤で置換される。
【0026】
本発明の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物の塩素含有率は、10~40質量%であることが好ましく、15~30重量%であることがより好ましい。塩素含有率を上記範囲にすることで、塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物の極性を一定範囲に調整することができ、その結果として、塗料中の他樹脂との相溶性が良くなり、さらにはポリオレフィン基材等の非極性基材に対して十分な接着性を得ることができる。
なお、塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物の塩素含有率は、JIS-K7229に基づいて測定することができる。
【0027】
[1-5.グラフト変性]
本発明の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物は、上記の成分(A)及び成分(B)の少なくともいずれか、又はそれらの共重合体を、α,β-不飽和カルボン酸又はその誘導体(以下、「成分(C)」ともいう)でグラフト変性したグラフト変性物であることが好ましい。成分(C)でグラフト変性することで、塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物の付着性、溶液安定性、耐チッピング性、耐ガソホール性のいずれかを向上し得る。
【0028】
α,β-不飽和カルボン酸及びその誘導体としては、例えば、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、アコニット酸、無水アコニット酸、(メタ)アクリル酸が挙げられる。中でも、無水マレイン酸、無水アコニット酸、無水イタコン酸が好ましく、無水マレイン酸がより好ましい。
成分(C)は、α,β-不飽和カルボン酸及びその誘導体から選ばれる少なくとも1種の化合物であればよく、α,β-不飽和カルボン酸1種以上とその誘導体1種以上の組み合わせ、α,β-不飽和カルボン酸2種以上の組み合わせ、α,β-不飽和カルボン酸の誘導体2種以上の組み合わせであってもよい。
【0029】
グラフト変性は、ラジカル発生剤の存在下、ポリオレフィン系樹脂と成分(C)をラジカル反応させることで行うことができる。
なお、グラフト変性に用いるポリオレフィン系樹脂は、ポリオレフィン系樹脂A(即ち、成分(A))のみでもよく、ポリオレフィン系樹脂B(即ち、成分(B))のみでもよく、ポリオレフィン系樹脂Aとポリオレフィン系樹脂Bの混合物でもよく、ポリオレフィン系樹脂Aとポリオレフィン系樹脂Bの共重合体であってもよい。また、グラフト変性に用いるポリオレフィン系樹脂は、塩素化ポリオレフィン系樹脂Aのみでもよく、塩素化ポリオレフィン系樹脂Bのみでもよく、塩素化ポリオレフィン系樹脂Aと塩素化ポリオレフィン系樹脂Bの混合物でもよく、塩素化ポリオレフィン系樹脂Aと塩素化ポリオレフィン系樹脂Bの共重合体であってもよい。
【0030】
ラジカル発生剤は、公知のラジカル発生剤の中より適宜選択することができ、有機過酸化物系化合物が好ましい。有機過酸化物系化合物としては、例えば、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジラウリルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、1,4-ビス[(t-ブチルパーオキシ)イソプロピル]ベンゼン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-シクロヘキサン、シクロヘキサノンパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、クミルパーオキシオクトエートが挙げられる。中でも、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジラウリルパーオキサイドが好ましい。
ラジカル発生剤は、1種単独のラジカル発生剤でもよいし、複数種のラジカル発生剤の組み合わせであってもよい。
【0031】
グラフト変性反応におけるラジカル発生剤の添加量は、成分(C)及び他のグラフト成分の添加量の合計(質量)に対し、好ましくは1~100質量%であり、より好ましくは10~50質量%である。1質量%以上であることにより、十分なグラフト効率を保持することができる。100質量%以下であることにより、塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物の重量平均分子量の低下を防止することができる。
【0032】
塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物中の成分(C)のグラフト質量は、変性ポリオレフィン系樹脂を100質量%とした場合に、好ましくは0.1~20質量%であり、より好ましくは0.5~10質量%であり、さらに好ましくは1~5質量%である。グラフト質量が0.1質量%以上であることにより、得られる塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物の、金属被着体に対する接着性を保つことができる。グラフト質量が20質量%以下であることにより、グラフト未反応物の発生を防止することができ、樹脂被着体に対する十分な接着性を得ることができる。
【0033】
成分(C)のグラフト質量は、公知の方法で測定することができる。例えば、アルカリ滴定法やフーリエ変換赤外分光法によって求めることができる。
【0034】
本発明の変性ポリオレフィン系樹脂組成物は、用途や目的に応じて、本発明の特性を損なわない範囲で、成分(C)以外の他のグラフト成分でグラフト変性してもよい。他のグラフト成分としては、例えば、(メタ)アクリル酸誘導体(例えば、(メタ)アクリル酸エステル、N-メチル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルモルホリン等)が挙げられる。
なお、他のグラフト成分は、1種単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて併用してもよい。
【0035】
[2.製造方法]
本発明の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物は、例えば、以下の方法で製造することできる。
成分(A)と成分(B)をそれらが反応する程度に溶解する有機溶剤(例えば、トルエン等)に加熱溶解し、成分(A)と成分(B)の共重合物であるポリオレフィン系樹脂を得た後、成分(C)等のグラフト成分を加えて反応させることで変性ポリオレフィン系樹脂を得る。その後、グラスライニングされた反応釜に投入し、クロロホルムを加え所定の圧力下、昇温して十分に溶解した後、アゾビスイソブチロニトリルを加え、上記釜内圧力を制御しながら塩素ガスを吹き込み、適当な塩素含有率になるまで塩素化し、本発明の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物を得ることができる。
【0036】
また、成分(A)と成分(B)を有機溶媒に溶かしただけの混合物を、上記と同様にして変性した後、塩素化し、本発明の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物を得る方法もある。さらに、成分(A)(又は成分(B))を、単独で上記と同様にして変性した後、塩素化して成分(A)(又は成分(B))の塩素化ポリオレフィン系樹脂を得て、それと成分(B)(又は成分(A))(その変性物及び/又は塩素化物を含む)を混合する方法もある。
【0037】
加えて、成分(A)、成分(B)、及び必要に応じて成分(C)等のグラフト成分を予めそれらが反応する程度に溶解する有機溶剤に加熱溶解して反応させ、その後塩素化する方法もある。さらにまた、バンバリーミキサー、ニーダー、押出機等を使用して、成分(A)、成分(B)、及び必要に応じて成分(C)等のグラフト成分を溶融混練して反応させて、その後塩素化する方法もある。
【0038】
[3.物性]
本発明の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物の重量平均分子量は、10,000~200,000であることが好ましく、20,000~120,000であることがより好ましい。重量平均分子量が10,000以上であることにより、十分な接着力を発現できる。200,000以下であることにより、十分な溶剤溶解性を得ることができる。
なお、実施例を含む本発明の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(標準物質:ポリスチレン)によって測定し、算出された値である。
【0039】
塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物は、塩素化されることで非極性基材への付着力が向上し、また溶液中で多成分との相溶性が増す。さらに成分(C)などのグラフト変性を行うことでより付着性を向上できる。
この塩素化(及び変性)される樹脂として、成分(A)及び成分(B)で示される異なる融点を持つポリオレフィン樹脂が含有されると、その塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物における樹脂の結晶性は一様とはならなくなるため、適度な弾性を持つ樹脂被膜を形成できるようになり、また他の成分との相溶性をさらに向上させ、溶液安定性に優れるものとなる。
【0040】
本発明の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物は、他の成分として、溶液、硬化剤、及び接着成分からなる群より選択される少なくとも1種の成分をさらに含むものが好ましい。
【0041】
本発明の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物の一実施態様は、上記の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物と溶液を含む。溶液としては、有機溶剤が挙げられる。有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル溶剤;メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、エチルシクロヘキサン等のケトン溶剤;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ノナン、デカン等の脂肪族又は脂環式炭化水素溶剤が挙げられる。
これら有機溶剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上の混合溶剤として樹脂組成物に含まれていてよい。環境問題の観点から、有機溶剤として、芳香族溶剤以外の溶剤を使用することが好ましく、脂環式炭化水素溶剤とエステル溶剤又はケトン溶剤との混合溶剤を使用することがより好ましい。
【0042】
また、塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物と溶液を含む樹脂組成物の溶液の保存安定性を高めるために、アルコール(例、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール)、プロピレン系グリコールエーテル(例、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコール-t-ブチルエーテル)を、1種単独で、又は2種以上混合して用いてもよい。この場合、上記有機溶剤に対して、1~20質量%添加することが好ましい。
【0043】
本発明の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物の他の実施態様は、上記の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物と硬化剤を含む組成物である。硬化剤としては、ポリイソシアネート化合物、エポキシ化合物、ポリアミン化合物、ポリオール化合物、或いはそれらの官能基が保護基でブロックされた架橋剤が例示される。硬化剤は、1種単独であってもよいし、複数種の組み合わせであってもよい。
【0044】
硬化剤の配合量は、本発明の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物中の成分(C)の含有量により適宜選択できる。また、硬化剤を配合する場合は、目的に応じて有機スズ化合物、第三級アミン化合物等の触媒を併用することができる。
【0045】
本発明の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物の更に他の実施態様は、上記の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物と接着成分を含む組成物である。接着成分としては、所望の効果を阻害しない範囲でポリエステル系接着剤、ポリウレタン系接着剤、アクリル系接着剤等の公知の接着成分を用いることができる。
【0046】
[4.プライマー、バインダー、接着剤]
本発明のプライマー、塗料用バインダー又はインキ用バインダー、接着剤は、上記の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物を含むものである。そのため、接着性、溶液安定性、耐熱性に優れており、自動車のバンパー等ポリオレフィン基材への上塗り塗装時のプライマー、上塗り塗料やクリアーとの付着性に優れる塗料用バインダーとして好適に利用することができる。
【0047】
本発明のプライマー、塗料用バインダー又はインキ用バインダー、接着剤は、溶液、粉末、シート等、用途に応じた形態で使用できる。また、その際に必要に応じて添加剤、例えば、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、無機充填剤を配合できる。
【実施例0048】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。以下の実施例は、本発明を好適に説明するためのものであって、本発明を限定するものではない。なお、物性値等の測定方法、評価方法を下記に記載し、下記の記載中、「部」は別途記載がない限り質量部を意味する。
【0049】
[MFR(g/10min)]:ASTM D1238に準拠し、測定荷重2.16kgの条件でメルトフローインデックステスタ(安田精機製作所製)にて算出した。なお、成分(A)又は(B)のMFRを測定する際は、230℃の測定温度で実施した。
【0050】
[Tm(℃)]:JIS K7121-1987に準拠し、DSC測定装置(セイコー電子工業製)を用い、約5mgの試料を200℃で10分間加熱融解状態を保持した後、10℃/分の速度で降温して-50℃で安定保持した。その後、更に10℃/分で200℃まで昇温して融解した時の融解ピーク温度を測定し、該温度をTmとした。
【0051】
[重量平均分子量]:GPC(東ソー社製)を用い、下記の条件に従い測定した。
カラム:TSK-gel G-6000 H×L、G-5000 H×L、G-4000 H×L、G-3000 H×L、 G-2000 H×L(東ソー社製)
溶離液:THF
流速:1.0mL/分
ポンプオーブン及びカラムオーブン温度:40℃
注入量:100μL
分子量標準物質:ポリスチレン(「Easical PS-1」,Agilent Technologyより供給)
【0052】
[成分(C)のグラフト質量(質量%)]:アルカリ滴定法により測定した。
【0053】
[塩素含有率(質量%)]:JIS-K7229に基づいて測定した。
【0054】
[溶液性状]:実施例及び比較例で得られた塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物を、トルエンと配合して固形分20質量%の樹脂溶液とした。プライマー塗料用ウレタン樹脂の固形分30質量%トルエン溶液90部中に、調製した樹脂溶液15部を加え、振とう機にて10分間撹拌した。室温で1日静置した後、溶液性状を観察し、相溶性を溶液の分離状態から目視で判断した。判断基準を下記に記す。なお、「C」以上の評価であれば、実用上問題は無い。
(溶液性状の判断基準)
A:溶液の増粘、分離がみられず、良好な溶液性状である。
B:溶液の僅かな増粘や濁りの発生が確認されるが、分離等がみられない。
C:成分の分離はないものの、溶液中に微粒子が確認される。
D:成分の分離が目視で確認できる。
【0055】
[塗装板の作製]:実施例及び比較例で得られた塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物を、トルエン/シクロヘキサン=9/1の混合溶媒と配合して固形分20質量%の樹脂溶液とし、ポリプロピレン基材及びダル鋼板に乾燥被膜厚が10~15μmになるようにスプレー塗装し、室温で10分間静置してプライマー層を作製した。
次いで、ウレタン系塗料を、プライマー層の表面に乾燥被膜厚が20~25μmになるように塗装し、室温で10分間静置してベース層を作製した。次いで、溶剤系クリア塗料を、ベース層表面に乾燥被膜厚が25~30μmになるように塗装し、室温で10分間静置し、80℃で15分間熱処理した。
以上によって得られたポリプロピレン塗装板を付着性試験に用い、ダル鋼塗装板を耐チッピング性試験及び耐ガソホール性試験に用いた。
【0056】
[付着性試験]:ポリプロピレン塗装板の塗膜面上に1mm間隔で素地に達する線状の刻みを縦横に入れて、100個の区画(碁盤目)を作り、その上にセロハン粘着テープを密着させて180°方向に引き剥がした。セロハン粘着テープを密着させて引き剥がす操作を、同一の100個の区画につき10回行い、付着性(接着性)を以下に示す基準で評価した。なお、「C」以上の評価であれば、実用上問題は無い。
(付着性の評価基準)
A:塗膜の剥離がない。
B:剥離した塗膜の区画が1個以上10個以下である。
C:剥離した塗膜の区画が10個より多く50個以下である。
D:剥離した塗膜の区画が50個より多く剥離した場合である。
【0057】
[耐チッピング性試験]:-20℃に冷却した低温室内でダル鋼塗装板を冷却し、飛石試験機(スガ試験機社製、JA-400型)の試験板装着部に水平から角度90°になるよう試験板を垂直に固定し、5kgf/cm2の空気圧で7号砕石100gを5秒間で吹き付け、試験板に傷を付けた。その後、ダル鋼塗装板を水洗、乾燥させ、塗面にセロハン粘着テープを密着させ、テープの一端を持って引き剥がし、チッピングにより浮き上がった塗膜を除去して、はがれ傷の程度を下記の基準で評価した。はがれ傷の評価は、被衝撃部の縦70mm×横70mmの枠内で行った。
(耐チッピング性の評価基準)
A:最も良好。評価面積当たりの剥離面積率0.0%以上0.7%未満。
B:良好。評価面積当たりの剥離面積率0.7%以上1.2%未満。
C:劣る。評価面積当たりの剥離面積率1.2%以上3.5%未満。
D:最も劣る。評価面積当たりの剥離面積率3.5%以上。
【0058】
[耐ガソホール性試験]:ダル鋼塗装板をレギュラーガソリン/エタノール=9/1(v/v)に120分浸漬し塗膜の状態を観察し、耐ガソホール性を以下に示す基準で評価した。塗膜表面に剥離が生じていなければ、実用上問題はない。
(耐ガソホール性の評価基準)
A:塗膜表面に変化がない。
B:塗膜表面にわずかに変化がみられるが剥離はみられない。
C:塗膜表面に変化がみられるが剥離は生じていない。
D:塗膜表面に剥離が生じている。
【0059】
(実施例1)
成分(A)としてエチレン-プロピレンのランダム共重合体A-1(プロピレン成分97質量%、エチレン成分3質量%、MFR=2.0g/10min、TmA=125℃)35部と、成分(B)としてエチレン-プロピレンのブロック共重合体B-1(プロピレン成分85質量%、エチレン成分15質量%、MFR=20.0g/10min、TmB=103℃)65部、無水マレイン酸4部、ジ-t-ブチルパーオキサイド2部を均一に混合し、二軸押出機(L/D=60、φ=15mm、第1バレル~第14バレル)に供給した。
滞留時間が10分、回転数200rpm、バレル温度が100℃(第1、2バレル)、200℃(第3~8バレル)、90℃(第9、10バレル)、110℃(第11~14バレル)の条件で反応を行い、減圧処理を行うことで未反応の無水マレイン酸を除去し、無水マレイン酸変性ポリプロピレン系樹脂を得た。
得られた無水マレイン酸変性ポリプロピレン系樹脂100部を、グラスライニングされた反応釜に投入した。これにクロロホルムを加え、2kg/cm2の圧力下、温度110℃で十分に溶解した後、アゾビスイソブチロニトリル2部を加え、上記釜内圧力を2kg/cm2に制御しながら塩素ガスを吹き込み、塩素化を行った。
反応終了後、安定剤としてエポキシ化合物(エポサイザーW-100EL、大日本インキ化学工業社製)を6部添加し、スクリューシャフト部に脱溶剤用吸引部を備えたベント付き押出機に供給して、脱溶剤し、固形化し、塩素化ポリオレフィン系樹脂である、重量平均分子量78,000の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物1(無水マレイン酸のグラフト質量=3質量%、塩素含有率=23質量%)を得た。
【0060】
(実施例2)
攪拌機、冷却管、及び滴下漏斗を取り付けた四つ口フラスコ中で、成分(A)としてエチレン-プロピレンのランダム共重合体A-2(プロピレン成分99質量%、エチレン成分1質量%、MFR=1.5g/10min、TmA=140℃)20部と、成分(B)としてエチレン-プロピレンのブロック共重合体B-2(プロピレン成分90質量%、エチレン成分10質量%、MFR=15g/10min、TmB=118℃)80部を、180℃の油浴中で完全に溶解した。フラスコ内の窒素置換を約10分間行った後、撹拌を行いながら無水マレイン酸4部を約5分間かけて投入し、ヘプタン1部に溶解したジ-tert-ブチルパーオキサイド0.4部を滴下ロートから約30分かけて投入した。
その後、系内を180℃に保ち、更に一時間反応を継続した後、アスピレーターでフラスコ内を減圧しながら約1時間かけて未反応の無水マレイン酸を取り除き、無水マレイン酸変性ポリプロピレン系樹脂を得た。
得られた無水マレイン酸変性ポリプロピレン系樹脂100部を、グラスライニングされた反応釜に投入した。これにクロロホルムを加え、2kg/cm2の圧力下、紫外線を照射しながら塩素ガスを吹き込み、塩素化を行った。
反応終了後、安定剤としてエポキシ化合物(エポサイザーW-100EL、大日本インキ化学工業社製)を6部添加し、スクリューシャフト部に脱溶剤用吸引部を備えたベント付き押出機に供給して、脱溶剤し、固形化し、塩素化ポリオレフィン系樹脂である、重量平均分子量60,000の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物2(無水マレイン酸のグラフト質量=5質量%、塩素含有率=15質量%)を得た。
【0061】
(実施例3)
成分(A)として、エチレン-プロピレン-ブテンのランダム共重合体A-3(プロピレン成分85質量%、エチレン成分10質量%、ブテン成分5質量%、MFR=3.7g/10min、TmA=102℃)80部と、成分(B)としてエチレン-プロピレンのブロック共重合体B-2(プロピレン成分90質量%、エチレン成分10質量%、MFR=15g/10min、TmB=118℃)20部を用いた以外は、実施例1と同様にして、重量平均分子量120,000の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物3(無水マレイン酸のグラフト質量=1質量%、塩素含有率=24質量%)を得た。
【0062】
(実施例4)
成分(A)として、エチレン-プロピレン-ブテンのランダム共重合体A-3(プロピレン成分85質量%、エチレン成分10質量%、ブテン成分5質量%、MFR=3.7g/10min、TmA=102℃)35部と、成分(B)として、エチレン-プロピレンのランダム共重合体B-3(プロピレン成分89質量%、エチレン成分11質量%、MFR=7g/10min、TmB=58℃)65部を用いた以外は、実施例1と同様にして、重量平均分子量20,000の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物4(無水マレイン酸のグラフト質量=3質量%、塩素含有率=30質量%)を得た。
【0063】
(実施例5)
攪拌機、冷却管、及び滴下漏斗を取り付けた四つ口フラスコ中で、成分(A)としてエチレン-プロピレンのランダム共重合体A-2(プロピレン成分99質量%、エチレン成分1質量%、MFR=1.5g/10min、TmA=140℃)80部と、成分(B)として、エチレン-プロピレンのランダム共重合体B-3(プロピレン成分89質量%、エチレン成分11質量%、MFR=7g/10min、TmB=58℃)20部を、グラスライニングされた反応釜に投入した。
これにクロロホルムを加え、2kg/cm2の圧力下、温度110℃で十分に溶解した後、アゾビスイソブチロニトリル2部を加え、上記釜内圧力を2kg/cm2に制御しながら塩素ガスを吹き込み、塩素化を行った。
反応終了後、安定剤としてエポキシ化合物(エポサイザーW-100EL、大日本インキ化学工業社製)を6部添加し、スクリューシャフト部に脱溶剤用吸引部を備えたベント付き押出機に供給して、脱溶剤し、固形化し、重量平均分子量100,000の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物5(塩素含有率=25質量%)を得た。
【0064】
(比較例1)
成分(A)として、エチレン-プロピレンのランダム共重合体A-1(プロピレン成分97質量%、エチレン成分3質量%、MFR=2.0g/10min、TmA=125℃)35部と、成分(B)として、エチレン-プロピレンのブロック共重合体B-4(プロピレン成分85質量%、エチレン成分15質量%、MFR=20g/10min、TmB=165℃)65部を用いた以外は、実施例1と同様にして、重量平均分子量80,000の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物6(無水マレイン酸のグラフト質量=3質量%、塩素含有率=23質量%)を得た。
【0065】
(比較例2)
成分(A)として、エチレン-プロピレン-ブテンのランダム共重合体A-4(プロピレン成分80質量%、エチレン成分5質量%、ブテン成分15質量%、MFR=2.8g/10min、TmA=81℃)65部と、成分(B)として、エチレン-プロピレンのブロック共重合体B-1(プロピレン成分85質量%、エチレン成分15質量%、MFR=20g/10min、TmB=103℃)35部を用いた以外は、実施例1と同様にして、重量平均分子量70,000の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物7(無水マレイン酸のグラフト質量=10質量%、塩素含有率=20質量%)を得た。
【0066】
(比較例3)
成分(A)として、エチレン-プロピレンのランダム共重合体A-1(プロピレン成分97質量%、エチレン成分3質量%、MFR=2.0g/10min、TmA=125℃)35部と、成分(B)として、エチレン-プロピレン-ブテンのランダム共重合体B-5(プロピレン成分65質量%、エチレン成分11質量%、ブテン成分24質量%、MFR=10g/10min、TmB=48℃)65部を用いた以外は、実施例1と同様にして、重量平均分子量90000の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物8(無水マレイン酸のグラフト質量=20質量%、塩素含有率=18質量%)を得た。
【0067】
実施例1~5及び比較例1~3で用いた成分(A)及び成分(B)の種類、構成、物性値、並びに得られた塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物1~8の構成及び物性値を下記表1にまとめて記す。
【0068】
【0069】
得られた塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物1~8を用いて、溶液安定性、耐チッピング性、付着性、耐ガソホール性の評価を行った。結果を下記表2にまとめて記す。
【0070】
【0071】
表2からわかるように、本発明の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物は、溶液安定性、耐チッピング性、付着性、耐ガソホール性の評価が「A」又は「B」であり、付着性、溶液安定性に優れ、更に耐チッピング性に優れたものであった。一方、従来の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物は、溶液安定性、耐チッピング性、付着性、耐ガソホール性の評価のどれかに「D」評価があり、実用上改善が望まれるものである。
前記成分(A)及び前記成分(B)の少なくともいずれか、又はそれらの共重合体がα,β-不飽和カルボン酸又はその無水物のグラフト変性物である請求項1に記載の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物。
前記成分(A)と前記成分(B)の含有比率(成分(A)/成分(B))が、90/10~10/90(但し、成分(A)+成分(B)=100とする)の範囲である請求項1又は2に記載の塩素化ポリオレフィン系樹脂組成物。