(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022048311
(43)【公開日】2022-03-25
(54)【発明の名称】尿毒症性掻痒症の治療に使用するための製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20220317BHJP
A61K 31/4172 20060101ALI20220317BHJP
A61K 31/4015 20060101ALI20220317BHJP
A61K 38/05 20060101ALI20220317BHJP
A61K 31/198 20060101ALI20220317BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20220317BHJP
A61P 17/04 20060101ALI20220317BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220317BHJP
【FI】
A61K45/00
A61K31/4172
A61K31/4015
A61K38/05
A61K31/198
A61P13/12
A61P17/04
A61P29/00
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022014925
(22)【出願日】2022-02-02
(62)【分割の表示】P 2019518350の分割
【原出願日】2017-06-16
(31)【優先権主張番号】PA201670438
(32)【優先日】2016-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(31)【優先権主張番号】PA201770225
(32)【優先日】2017-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
(71)【出願人】
【識別番号】518445241
【氏名又は名称】ドラッグ デリバリー ソリューションズ アーペーエス
【氏名又は名称原語表記】DRUG DELIVERY SOLUTIONS APS
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】メンネ、トーキル
(72)【発明者】
【氏名】セルマー、ヨハン
(72)【発明者】
【氏名】ランゲ、イェスパー
(72)【発明者】
【氏名】ジョージウー、ミシェル
(72)【発明者】
【氏名】ウィーラー、デレク
(72)【発明者】
【氏名】エバンス、デイビッド
(57)【要約】
【課題】尿素によって引き起こされるかゆみを伴う乾燥した皮膚を治療するための局所製剤を提供すること。
【解決手段】尿素によって引き起こされるかゆみを伴う乾燥した皮膚を治療するための局所製剤は、かゆみを伴う乾燥した皮膚に適用されるものであり、同局所製剤は求核剤を含み、同求核剤の濃度は、皮膚表面cm
2当たり0.001mg~5mgの範囲である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
尿素によって引き起こされるかゆみを伴う乾燥した皮膚を治療するための局所製剤において、前記局所製剤は、前記かゆみを伴う乾燥した皮膚に適用されるものであり、前記局所製剤は求核剤を含み、前記求核剤の濃度は、皮膚表面cm2当たり0.001mg~5mgの範囲である、局所製剤。
【請求項2】
前記尿素によって引き起こされるかゆみを伴う乾燥した皮膚は、尿毒症性掻痒症、ウロストミー性皮膚炎、失禁性皮膚炎およびおむつ性皮膚炎からなる群より選択される、請求項1に記載の局所製剤。
【請求項3】
前記求核剤はヒスチジンおよび/またはその誘導体である、請求項1に記載の局所製剤。
【請求項4】
前記局所製剤はピロリドンカルボン酸をさらに含む、請求項1に記載の局所製剤。
【請求項5】
前記求核剤の濃度は、皮膚表面cm2当たり0.003mg~1mgの範囲である、請求項1に記載の局所製剤。
【請求項6】
前記求核剤の濃度は、皮膚表面cm2当たり0.005mg~0.5mgの範囲である、請求項1に記載の局所製剤。
【請求項7】
前記求核剤はヒスチジンおよび/またはその誘導体であり、かつ前記局所製剤中における唯一の活性成分である、請求項1に記載の局所製剤。
【請求項8】
前記局所製剤は、高齢者の皮膚の老化における掻痒症を治療するために使用される、請求項1に記載の局所製剤。
【請求項9】
前記局所製剤は、フィラグリン欠損患者におけるかゆみを伴う乾燥した皮膚を治療するために使用される、請求項1に記載の局所製剤。
【請求項10】
前記求核剤は、求核アミノ酸、ペプチドまたはその誘導体である、請求項1に記載の局所製剤。
【請求項11】
前記求核剤は、ヒスチジンを含む求核アミノ酸である、請求項10に記載の局所製剤。
【請求項12】
前記ヒスチジンはL-ヒスチジンを含む、請求項11に記載の局所製剤。
【請求項13】
前記求核剤は、ヒスチジン分解生成物、ヒスチジンのペプチド、ヒスチジンおよび1つ以上のさらなるアミノ酸のペプチド、およびヒスチジンの薬学的に許容される塩、の1つ以上から選択される、請求項10に記載の局所製剤。
【請求項14】
前記局所製剤は、ピロリドンカルボン酸、またはグリシルグリシン、システイン、アルギニンおよびリジンからなる群より選択される1つ以上のアミノ酸、をさらに含む、請求項10に記載の局所製剤。
【請求項15】
前記局所製剤はピロリドンカルボン酸を含み、かつ前記ピロリドンカルボン酸はピロリドンカルボン酸のナトリウム塩を含む、請求項13に記載の局所製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象の、尿毒症性掻痒症のような尿素によって引き起こされるかゆみを伴う乾燥した皮膚の治療に使用するための、ヒスチジンまたは他の任意のアミノ酸もしくはポリペプチドおよび/またはそれらの誘導体のような求核化合物を含む局所製剤に関する。本発明はまた、尿毒症性掻痒症の予防に使用するための局所用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
尿毒症性掻痒症は、腎不全の最も苦痛な症状の1つである。透析患者の最大50%が罹患している(1)。尿毒症患者の皮膚は、貧血、乾燥、および引っ掻き傷のために、多くの場合、青白い。この病状には、湿疹、結節性痒疹、貨幣状湿疹および湿気(licinification)などの皮膚症状が含まれる。自覚症状には、激しいかゆみや灼熱感があり、これらは局在化または全身化することがある。病状の病因については多くの仮説があり、それが多くの全身的および局所的治療につながっている。一般に、これらの治療は殆どまたは全く効果がないが、患者のサブグループにおいていくらかには役立つものもある(1)。
【0003】
尿毒症透析患者における代謝および内分泌の変化は、多くかつ複雑である(2)。体内での尿素の蓄積は、慢性腎臓病における中心的な代謝変化の1つである。尿素は腎臓系と汗の両方から排出される(3)。汗の濃度は血清濃度より2~4倍高い。これは、尿毒症患者の皮膚に高濃度の尿素が存在する可能性があることを意味する(4)。時には濃度が非常に高いために尿素が尿素霜として視認できることがある。
【0004】
皮膚の外側部分である角質層は、セラミド、コレステロールおよび遊離脂肪酸からなる脂質細胞間マトリックスに埋め込まれ、天然保湿因子(NMF)と混合された、タンパク質富化角質細胞の形態の角質化上皮層からなる。(5)(6)。NMFの50%は、表皮タンパク質、特にフィラグリンの酵素的分解から生じるアミノ酸(6)、ならびにヒスチジン、トランス-ウロカニン酸およびピロリドンカルボン酸を含むその極めて重要なアミノ酸分解生成物(7)からなる。NMFの残りの部分は、電解質、乳酸、尿素、そしてごく少量のアミノ酸を含む汗の成分から成る。保湿効果(水結合)を有することに加えて、アミノ酸は天然の紫外線防御(トランスウロカニン酸)の一部を示し、そしてpH安定化因子として機能する。
【0005】
フィラグリンをコードする遺伝子に切断型変異を有する個体は、重症型の乾燥肌、尋常性魚鱗癬および/または湿疹に強くかかりやすい。湿疹のすべての重症例のほぼ50%が少なくとも1つの変異型フィラグリン遺伝子を有する可能性があることが示されている。フィラグリンヌルキャリアに見られるバリアの欠陥はまた、喘息の感受性および増悪の増加をもたらすように思われる。
【0006】
尿素は生化学的研究においても工業プロセスにおいてもタンパク質を変性させるその能力のために長い間使用されてきた(8)。球状タンパク質に対する尿素の変性作用は、折り畳まれていない形態のタンパク質分子の安定化によるものである。尿素はまた、室温でアミノ酸に直接濃度依存的な影響を及ぼす(8)。尿素水溶液中に存在するであろう少量のシアネートは、存在する-SH基と同様にタンパク質およびアミノ酸の-NH2基に付加してカルバミル誘導体を生成することができる(9)。シアネートとアミノ酸との反応の速度定数の対数は、アミノ酸またはポリペプチドのアミノ基のPKa値に線形的に関連していることが証明されている(15)。
【0007】
したがって、尿毒症患者の角質層中の高濃度の尿素(汗から生じる尿素)は、表皮および角質層中の酵素による生物学的プロセスに重大な影響を及ぼすと予想される。これらの影響は、尿毒症性掻痒症の病因としては調査されていないか、またはこの病状を治療するための新たな手段として見られていない。尿毒症患者に存在する濃度における尿素の変性効果は、NMFの形成に重大な効果を及ぼすと予想される。タンパク質(特にフィラグリン)の変性は、角質層中のNMFの大部分を構成するフィラグリン由来アミノ酸を減少させると予想されなければならない。さらに、必要な酵素(ヒスチジナーゼ)もまた尿毒症患者の皮膚中の高い尿素濃度によって変性される可能性があるので、利用可能なヒスチジンはトランス-ウロカニン酸に変換されないであろう。ヒスチジン自体は、分子に対する尿素の直接作用によって変化する。NMFの量と質に大きな影響を与えると予想されるこれらの撹乱は、NMFの形成と生物学的影響に関する知識と動態が新しいため、これまで調査されてはいない。
【0008】
先行技術に関し、特許文献1は、腎疾患に伴うかゆみのある皮膚の治療または予防に使用するための局所製剤を開示している。尿素を封鎖するための求核攻撃の開示はなく、製剤中で使用されるアミノ酸は求核剤として作用することは含まれていない。
【0009】
特許文献2は、いくつかの他の皮膚疾患の中でも、尿毒症性掻痒症に関連するかゆみの治療について言及しているが、開示されているTRPV4阻害剤は求核剤として作用することによって尿素を封鎖することはできない。
【0010】
特許文献3は、掻痒症を治療し得るアミノ酸のヒスチジン誘導体およびN-プロパノイル誘導体を開示している。しかしながら、尿素を求核剤で封鎖することによって引き起こされるかゆみのある乾燥した皮膚を治療することについての開示はない。それどころか、特許文献3は、尿素が製剤中に含まれ得ることを述べている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許出願公開第2016/0008297号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2015/0252035号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2009/0186853号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、尿素によって引き起こされるかゆみを伴う乾燥した皮膚を治療するための局所製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、尿毒症性掻痒症の治療に使用するための、求核性化合物、好ましくはアミノ酸もしくはポリペプチドおよび/または低アミノ基PKaを有するその誘導体を含む製剤が提供される。いかなる理論にも縛られることなく、本願の発明者らは、尿毒症性掻痒症の患者の皮膚に蓄積する過剰な尿素の望ましくない効果が、求核性アミノ酸またはポリペプチドなどの求核性化合物および/または誘導体、例えば、ヒスチジン、システイン、アルギニン、リジン、グリシルグリシン、グリシルアラニン、またはトリグリシン若しくはテトラグリシンの存在によって相殺され得ることを見いだした。
【0014】
本願の発明者らによって行われた分析化学によれば、そのような求核剤は尿素由来のシアネートと反応しそしてカルバミル化された最終生成物およびアンモニアを生成すると思われる。残っている未反応の求核性アミノ酸、特にヒスチジンは、そのようなアミノ酸から知られている有益な皮膚効果を発揮し、それにより、尿毒症性掻痒症に罹患する患者の皮膚は、かゆみを生じることなく正常な状態に戻る。ペプチドおよびタンパク質がどのようにカルバミル化されているかについてのさらなる詳細については、G.R.スターク(Stark)によって書かれた論文(15)を参照でき、当該論文は参照により本明細書に組み入れられる。
【0015】
本発明によれば、尿毒症性掻痒症の治療方法であって、求核性アミノ酸、好ましくはヒスチジンおよび/またはその誘導体のような治療上有効量の求核性化合物を前記対象に投与することを含む方法も提供される。
【0016】
別の実施形態において、本発明はさらに、ウロストミー性(urostomi)皮膚炎、失禁性皮膚炎、およびおむつ性皮膚炎を含むがこれらに限定されない、尿素または尿の存在によって引き起こされるさらなる皮膚病状の、求核性求核性アミノ酸またはポリペプチドおよび/またはその誘導体のような求核性化合物の治療上有効量を対象に投与することを含む方法による治療を含む。
【0017】
具体的には、対象の尿毒症性掻痒症の治療または予防に使用するための、ヒスチジンおよび/またはその誘導体を含む局所製剤が提供され、その製剤は、アミノ酸またはポリペプチドfおよび/またはその誘導体であって、皮膚表面cm2当たり0.001mg~5mg、好ましくは皮膚表面cm2当たり0.003mg~1mg、より好ましくは皮膚表面cm2当たり0.005mg~0.5mgの範囲にわたる濃度のアミノ酸またはポリペプチドfおよび/またはその誘導体を備えて皮膚に適用される。
【0018】
好ましくは、誘導体は、低PKaを有するアミノ酸若しくはポリペプチドおよび/またはその誘導体、トランスウロカニン酸(trans urocanic acid)、ヒスチジンのペプチドまたはヒスチジンと1つまたは複数のさらなるアミノ酸のペプチド、およびヒスチジンの薬学的に許容される塩のような1つまたは複数のヒスチジン分解生成物から選択される。ヒスチジンはL-ヒスチジンであることが好ましい。
【0019】
一実施形態において、ヒスチジンおよび/またはその誘導体は、医薬組成物中の唯一の活性成分である。
別の実施形態において、製剤はピロリドンカルボン酸またはその塩、好ましくはナトリウム塩をさらに含む。
【発明の効果】
【0020】
以上、本発明によれば尿素によって引き起こされるかゆみを伴う乾燥した皮膚を治療するための局所製剤が提供できた。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】尿毒症性掻痒症に関連する生化学的障害の図を示す。
【
図2】尿素に暴露された再構成ヒト表皮サンプルの組織学的検査を示す。
【
図3】尿素に暴露された再構成ヒト表皮サンプルの組織学的検査を示す。
【
図4】尿素および2%のアミノ酸を含有する局所適用クリームに暴露された再構成ヒト表皮サンプルの組織学的検査を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
述べたように、本発明はまた、尿毒症性掻痒症を治療するための治療方法を提供する。具体的には、本発明は、その第2の態様において、ある濃度のヒスチジンおよび/またはその誘導体、例えばトランスウロカニン酸(UCA)、を含む局所製剤であって、皮膚表面cm2当たり0.001mg~5mg、好ましくは皮膚表面cm2当たり0.003mg~1mg、より好ましくは皮膚表面cm2当たり0.005mg~0.5mgの範囲であるヒスチジンおよび/またはその誘導体を皮膚に適用する、対象の尿毒症性掻痒症の治療方法を提供する。アミノ酸若しくはポリペプチドおよび/またはその誘導体は、医薬組成物中の唯一の活性成分であり得る。あるいは、製剤は、ピロリドンカルボン酸などのさらなる活性物質を含む。
【0023】
尿毒症性掻痒症は、アトピー性皮膚炎などの炎症性皮膚疾患(特に慢性炎症性皮膚疾患)、あらゆる種類の乾癬(プラーク湾曲性、滴状性、膿疱性、爪、光線過敏性、乾癬性紅皮症(erythrodermic psoriasis)および乾癬性関節炎を含む)、ニキビ、魚鱗癬、接触性皮膚炎、湿疹、光線性皮膚炎および乾燥肌疾患とは明らかに区別され得る明確に定義された徴候である。
【0024】
皮膚のバリア機能は、存在するタンパク質およびそれらが存在する環境(例えばpH)を含む多くの要因によって制御されている。本願の発明者らは、必要とされる酵素(ヒスチジナーゼ)は、尿毒症患者の皮膚中の高い尿素濃度によって変性する可能性があるので、ヒスチジンはトランス-ウロカニン酸に変換されないであろうことを認識した。
【0025】
正常な皮膚において、バリア形成に関与する多くのタンパク質はpH依存性であり、UCAによって作られた上部表皮/角質層の酸性環境でのみ活性がある(10)。このホメオスタシスを維持することに加えて、角質層の低いpHは微生物の感染および増殖を直接阻害する(11)。欠陥のあるフィラグリンは、角質層中の減少したレベルのヒスチジンを含む減少したアミノ酸含有量をもたらし、それが今度は減少したレベルのトランス-UCAおよび異常に高いpHをもたらすことが知られている。角質層における最適pHよりも高いpHは、pH依存性脂質処理酵素(例えば、β-グルコセレブロシダーゼ)を減少させ、そしてバリア機能および修復を損なうと考えられている(12)。
【0026】
しかしながら、本研究は、皮膚疾患を患っている欠陥のあるフィラグリニン患者の生理学的原因を解決することには関係していない。代わりに、本願の発明者らは、本発明の使用における活性成分としてのヒスチジン若しくはポリペプチドおよび/またはその誘導体を含むアミノ酸の使用が、尿毒症性掻痒症の患者の皮膚における高濃度の尿素によって引き起こされる欠陥のあるフィラグリンを補うように見えることを発見した。現在、尿毒症性掻痒症を予防および/または治療する手段は存在しない。
【0027】
さらに、ヒスチジンおよびほとんどのポリペプチドおよび/またはその誘導体を含むアミノ酸は、従来の用量で哺乳動物に対する毒性若しくは報告された副作用が低いかまたは全くないことを示している。したがって、有効成分としてのヒスチジンおよびポリペプチドおよび/またはその誘導体を含むアミノ酸の使用は、現在使用されている代替薬と比較して、患者への容易なアクセス、患者のコンプライアンスの向上、結果として、広い患者集団における有効成分の使用の増加およびより長くかつ中断のない治療計画が得られることを含む利点を提供する。さらに、ヒスチジンおよびほとんどのポリペプチドおよび/またはその誘導体を含むアミノ酸は、患者の体表面全体を治療するのに有用でありそして広範囲の皮膚疾患(特に炎症性皮膚疾患)に対して有効であると期待される。好ましくは、そのような皮膚疾患は、尿素または尿の存在によって引き起こされ、そしてこれらに限定されないが、ウロストミー性皮膚炎、失禁性皮膚炎、およびおむつ性皮膚炎、より好ましくは尿毒症性掻痒症を含む。
【0028】
図1に示すように、尿毒症性掻痒症は、汗管(sweat ducts)によって皮膚上部表面に輸送される大過剰の尿素によって引き起こされる。本願の発明者らによってなされた新規な観察は、高い尿素濃度がタンパク質およびアミノ酸の正常な機能を乱しているということである。さらに、pH調整は、高濃度の尿素によって悪影響を受ける。
【0029】
ヒスチジンおよびほとんどのポリペプチドおよび/またはその誘導体を含むアミノ酸は、本明細書に記載の通り、例えば本明細書にて議論されるように、任意の適切な形態で使用することができる。
【0030】
ヒスチジンおよびほとんどのポリペプチドおよび/またはその誘導体を含むアミノ酸は、単独の治療として、または尿毒症性掻痒症の予防および/または治療のための従来の治療と組み合わせて使用することができる。適切な従来の治療法には、ステロイド(例えば局所投与用のステロイド)による治療および/または適切な脂質による治療および/または光線療法による治療が含まれる。
【0031】
本発明はさらに、高齢者の皮膚の老化における掻痒症の治療または予防における使用のための上記の局所製剤を提供する。本発明はまた、フィラグリン欠損患者におけるかゆみを伴う乾燥した皮膚の治療または予防における製剤の使用に関する。
【0032】
本発明に従う局所投与用の医薬組成物は、例えば、溶液、クリーム、軟膏、ゼリー、ゲル、スプレー、フォーム、粉末、リポソーム、または水性もしくは油性の溶液もしくは懸濁液の形態であり得る。水中油型エマルジョン、油中水型エマルジョンまたはポリアプロン(高内相(high internal)エマルジョン、ゲルエマルジョンなど)も本発明に包含される。適切な賦形剤および担体には、例えば、落花生油、水、エチルココエート、オクチルココエート、ポリオキシエチレン化硬化ヒマシ油、流動パラフィン、イソプロパノール、グリセロール、プロピレングリコール、パラフィン、セルロース、パラベン、ステアリルアルコール、ポリエチレングリコール、イソプロピルミリステート、およびフェノキシエタノールが含まれる。
【0033】
頭皮への局所適用の場合、医薬組成物はシャンプーまたはコンディショナーとして処方することができる。皮膚への局所適用の場合、医薬組成物は、洗剤および入浴製品(例えば、入浴用またはシャワー用のゲルおよびクリーム)への添加剤として処方することができる。局所投与用のこのような医薬組成物は、化粧品における使用にも適している希釈剤または担体を含み得る。
【0034】
皮膚への適用による局所投与のための医薬組成物は、保湿剤、ならびに日焼け止めローションおよびクリームを含み得る。
局所投与用の医薬組成物は、任意の適切なディスペンサーにて提供することができる。
【0035】
皮膚への適用による局所投与のための医薬組成物の場合、希釈剤または担体は、皮膚バリアを横切る活性成分の輸送を助けるように選択されるべきであり、そして皮膚の角質層を横切ることができるものである必要があり得る。局所適用のための医薬組成物を調製するための多くの方法が知られている。例えば、活性成分は、本明細書で論じられるように既知の担体材料と混合することができる。
【0036】
あるいは、当業者は、局所投与が局所注射、例えば皮内注射によって達成され得ることを認識するであろう。
典型的には、局所投与用組成物(クリームなど)は、活性成分として、ヒスチジンおよびポリペプチドおよび/またはその誘導体を含むアミノ酸の全組成物の約0.05w/w重量%~15w/w重量%、より具体的には約0.1~5w/w重量%、さらにより具体的には約0.2~2w/w重量%を含有する。
【0037】
本発明の医薬組成物は、当技術分野において周知の従来の医薬用の希釈剤または担体を使用する従来の手順によって得ることができる。
【実施例0038】
局所投与用の典型的なクリームは以下を含み得る。
【0039】
【0040】
クリームは以下のように調製することができる。適切な容器(A)中で、Versagel(登録商標)、イソステアリルイソステアレート、シクロメチコンおよび0.26%ラウレス4を適切に混合しながら混ぜ合わせる。第2の容器(B)中で、ジメチコーンと0.04%ラウレス4を適切に混合しながら混ぜ合わせる。第3の容器(C)中で、ポリソルベート20を7.425%の水と混合する。穏やかに混合しながら、最初に容器Aの内容物、次に容器Bの内容物をゆっくりと容器Cに加える。第4の容器(D)中で、グリセロール、2-ピロリドン-5-カルボン酸(ナトリウム塩)、クエン酸、ヒスチジン、ヒアルロン酸ナトリウム、フェノキシエタノールおよび41.55%の水を混ぜ合わせる。第5の容器(E)中で、カルボマーと13.50%の水とを混ぜ合わせる。十分に分散し水和したら、撹拌しながら容器Eの内容物を容器Cに添加し、次いで容器Dの内容物を添加する。水酸化ナトリウムを使用してpHを調整し(必要な場合)、次に残りの水で量を補う。
ヒスチジンが尿素(これはUPを患っている個人における皮膚の不可避の成分である)の存在下でどのように分解されるかを実証するために、実施例1のクリームを尿素の5w/w%および10w/w%の暴露に供した。分解過程を経時的に追跡し、そして40℃で6週間後に、20%のヒスチジンのみが10w/w%の尿素を有するクリーム中に残った。
ヒスチジンは必須アミノ酸であるので、その継続的な供給は皮膚の正常な機能を維持するために必要とされる。さらに、このアミノ酸はUCAの前駆体であり、それは皮膚のpH調節のための重要な緩衝剤であるので、重要である。尿毒症性掻痒症に関して、ヒスチジンの分解速度は、アトピー性皮膚炎などの他の皮膚疾患における場合よりもはるかに大きい。したがって、本願の発明者らは、分解を補償するためにはヒスチジン(ならびにその誘導体)の供給が相応してより多くなければならず、それによって正常なヒスチジンレベルが達成され得ることを認識した。そのことを念頭に置いて、本願の発明者らはそのような高濃度でヒスチジンを配合した(実施例1を参照)。
皮膚のバリア機能は、存在するタンパク質およびそれらが存在する環境を含む多くの要因によって制御されている。皮膚バリア機能障害は、フィラグリンの欠陥が原因である可能性がある。さらに、フィラグリンはプロテイナーゼによって分解されて大量の構成ヒスチジン残基を放出する。次いで、ヒスチジン残基はヒスチダーゼによって脱アミノ化されて、とりわけトランス-ウロカニン酸(トランス-UCA)が形成される。
本発明は、かゆみを伴う皮膚疾患を患っている患者における欠陥のあるフィラグリンの問題に取り組むものであると考えられる。ヒスチジンおよび/またはその誘導体は欠陥のあるフィラグリンを補う。