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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022048333
(43)【公開日】2022-03-25
(54)【発明の名称】医療用固定具
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20220317BHJP
【FI】
A61N5/10 T
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022015354
(22)【出願日】2022-02-03
(62)【分割の表示】P 2021540546の分割
【原出願日】2021-03-04
(31)【優先権主張番号】P 2020037443
(32)【優先日】2020-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000178826
【氏名又は名称】日本山村硝子株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 周二
(72)【発明者】
【氏名】小椋 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】宮脇 大輔
(72)【発明者】
【氏名】椋本 成俊
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 良平
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 悟
(57)【要約】
【課題】
患者等をしっかりと固定可能でありながら、患者等の負担軽減にも資する医療用固定具を提供すること。
【解決手段】
医療用固定具10は、患者等が仰向けに横たわった状態で患者等の体の特定部位1を固定するための医療用固定具であって、放射線が透過する材質のブロック体3よりなり、ブロック体3は、特定部位1の少なくとも下面から両側面に至る領域が密接状態で嵌り込むホルダー部2a~2cを備えており、ブロック体3は、上側の全部又は一部が開放されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者等が仰向けに横たわった状態で患者等の体の特定部位を固定するための医療用固定具であって、
放射線が透過する材質のブロック体よりなり、
前記ブロック体は、前記特定部位の少なくとも下面から両側面に至る領域が密接状態で嵌り込むホルダー部を備えており、
前記ブロック体は、上側の全部又は一部が開放されている医療用固定具。
【請求項2】
前記ホルダー部は、前記特定部位の側面が接する領域のそれぞれの上端が、前記特定部位の上下方向における中央よりも上方に位置する請求項1に記載の医療用固定具。
【請求項3】
前記ホルダー部は、前記特定部位の下面から両側面に至る領域が全面にわたって密接状態で嵌まり込む請求項1または2に記載の医療用固定具。
【請求項4】
前記ホルダー部は、前記特定部位が接触しない通風部を含み、前記通風部を除く領域において、前記特定部位の下面から両側面に至る領域が密接状態で嵌まり込む請求項1から3のいずれかに記載の医療用固定具。
【請求項5】
前記ブロック体は、互いに連結される複数のパーツよりなる請求項1から4のいずれかに記載の医療用固定具。
【請求項6】
前記ブロック体は、頭部を固定するための頭部固定用のパーツと、肩部を固定するための肩部固定用のパーツとが連結されるものであり、
前記頭部固定用のパーツは、右頭部を固定するための右頭部固定用のパーツと、左頭部を固定するための左頭部固定用のパーツとを含む請求項5に記載の医療用固定具。
【請求項7】
前記ブロック体は、頭部を固定するための頭部固定用のパーツと、肩部を固定するための肩部固定用のパーツと、顎部を固定するための顎部固定用のパーツと額部を固定するための額部固定用のパーツの少なくとも一方とが連結されるものであり、
前記頭部固定用のパーツは、少なくとも右側頭部を固定する右頭部固定用のパーツと左側頭部を固定する左頭部固定用のパーツとを含み、
前記顎部固定用のパーツと前記額部固定用のパーツの少なくとも一方は、前記右頭部固定用のパーツと前記左頭部固定用のパーツの間の上側の開放部分を跨いで両端部が前記右頭部固定用のパーツ及び前記左頭部固定用のパーツに連結される、請求項5に記載の医療用固定具。
【請求項8】
前記ブロック体は、前記頭部固定用のパーツと、前記肩部固定用のパーツと、前記顎部固定用のパーツが連結されるものであり、
前記頭部固定用のパーツは、右側頭部を固定するための右側頭部固定用のパーツと、左側頭部を固定するための左側頭部固定用のパーツと、後頭部を固定するための後頭部固定用のパーツとを含み、
前記後頭部固定用のパーツと前記肩部固定用のパーツとは長さ方向に連結され、前記左右の側頭部固定用のパーツは、前記後頭部固定用のパーツの左右の側部にそれぞれ連結され、前記顎部固定用のパーツは、前記左右の側頭部固定用のパーツの間の上側の開放部分を跨いで両端部が前記左右の側頭部固定用のパーツに連結される請求項7に記載の医療用固定具。
【請求項9】
前記ブロック体は、前記頭部固定用のパーツと、前記肩部固定用のパーツと、前記顎部固定用のパーツと、前記額部固定用のパーツとが連結されるものであり、
前記頭部固定用のパーツと前記肩部固定用のパーツとは長さ方向に連結され、前記顎部固定用のパーツ及び額部固定用のパーツは、前記左右の頭部固定用のパーツの間の上側の開放部分を跨いで両端部が前記左右の頭部固定用のパーツに連結される請求項7に記載の医療用固定具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、放射線治療やMRI等の画像診断等を行う際に患者や被験者(以下、「患者等」という。)を固定するのに適した医療用固定具に関する。
なお、以下において、仰向けに横たわった状態の患者等についての「上下」に関する語は、起立状態の患者等の上下とは異なり、患者等の腹部の向く側を上、背部の向く側を下の意味で用いる。
【背景技術】
【0002】
がんの放射線治療の一つにIMRT(強度変調放射線治療)がある。IMRTでは、患者等に多方向から照射する放射線を小さいビームに分け、各々の照射形状を適宜に変えることにより、腫瘍部分の照射線量を高めて腫瘍制御率の向上を図り、かつ照射時間の日数分割(繰返し照射)も行う事によって、正常組織の被ばくを抑えて合併症を軽減することができる。
【0003】
IMRTでは、コンピュータ制御により放射線の照射位置等を高精度に調整可能とする装置を用いる。しかし、放射線照射中に患者等が動いて照射位置がずれる、再照射時の患者等の位置がずれる、といった事で治療効果が損なわれたり合併症のリスクが高まったりするおそれがあるので、放射線照射中の患者等をしっかりと固定する必要がある。
【0004】
従来、放射線照射中の患者等の固定には、仰向けに横たわった状態の患者等を上下両側から挟み込んで固定する上面固定具及び下面固定具が用いられている。
上面固定具は特許文献1に示されるように、熱して軟らかくなった穴あきの樹脂製マスクを仰向けに横たわった状態の患者等に上側から押し付けるようにして被せ、冷やして固めることにより、患者等に沿う形状にしたものである。
下面固定具は特許文献2に示されるように診療台に固定されたビーズ入りの気密マットの上に患者等を仰向けに寝かせた状態でマット内の空気を抜き、患者等に沿う形状に整形する吸引マットが用いられることが多い。そして、患者等を固定する際は、両固定具を連結し、患者等の体を上下からぴったりと挟み込んだ状態とする。
【0005】
また上記の樹脂製マスクや吸引マットを用いない固定具として、特許文献3に示されるように発泡ポリウレタンなどをフロス発泡させた状態で軟化前に患者等を埋め込み象る事によって作製される固定具も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6563737号公報
【特許文献2】特許第6619609号公報
【特許文献3】特公平3-74592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら特許文献1のような方法で仰向けに横たわった状態の患者等を固定する場合、上側からの固定はある程度の患者等形状の再現性を得るが、作製中及び治療実施時の患者等の精神的、肉体的な負担が大きい。一方、特許文献2のような下側からの固定は負担が小さくなる傾向があるが、吸引マットを用いる方法ではマット材質や形状形成の手順の煩雑さと相まって患者等形状を再現する事が難しいため、固定性能に難がある。このように上記従来の固定方法では、患者等の形状を再現している上面固定具によって主に患者等を上側から覆って固定するため患者等の負担が大きく、また下側固定具の形状再現精度の不足によって全体の固定精度が悪化することになる。
【0008】
また、特許文献3で提案される一連の固定具には、発泡体が固化するまでの間患者等の動きを抑制する必要があるため患者等に多大な負担を強いる、固定具作製が非常に煩雑であり作製者にかかる負担が大きい、完成した発泡体固定具の強度が弱く(脆く)一連の治療期間中に破壊してしまう、といった問題点が有る。
【0009】
本発明は上述の事柄に留意してなされたもので、その目的は、患者等をしっかりと固定可能でその固定精度及び再現性と固定に関する作業性の向上にも寄与するものでありながら、患者等の負担軽減にも資する医療用固定具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る医療用固定具は、患者等が仰向けに横たわった状態で患者等の体の特定部位を固定するための医療用固定具であって、放射線が透過する材質のブロック体よりなり、前記ブロック体は、前記特定部位の少なくとも下面から両側面に至る領域が密接状態で嵌り込むホルダー部を備えており、前記ブロック体は、上側の全部又は一部が開放されている。
【0011】
好ましい実施形態においては、前記ホルダー部は、前記特定部位の側面が接する領域のそれぞれの上端が、前記特定部位の上下方向における中央よりも上方に位置する。
【0012】
好ましい実施形態においては、前記ホルダー部は、前記特定部位の下面から両側面に至る領域が全面にわたって密接状態で嵌まり込む。
【0013】
前記ホルダー部は、前記特定部位が接触しない通風部を含み、前記通風部を除く領域において、前記特定部位の下面から両側面に至る領域が密接状態で嵌まり込むものであってもよい。
【0014】
好ましい実施形態においては、前記ブロック体は、互いに連結される複数のパーツよりなる。
【0015】
好ましい実施形態においては、前記ブロック体は、頭部固定用のパーツと、肩部固定用のパーツとが連結されるものであり、前記頭部固定用のパーツは、右頭部を固定する右頭部固定用のパーツと、左頭部を固定する左頭部固定用のパーツとを含む。
【0016】
さらに好ましい実施形態においては、前記ブロック体は、頭部を固定するための頭部固定用のパーツと、肩部を固定するための肩部固定用のパーツと、顎部を固定するための顎部固定用のパーツと額部を固定するための額部固定用のパーツの少なくとも一方とが連結されるものであり、前記頭部固定用のパーツは、少なくとも右側頭部を固定する右頭部固定用のパーツと左側頭部を固定する左頭部固定用のパーツとを含み、前記顎部固定用のパーツと前記額部固定用のパーツの少なくとも一方は、前記右頭部固定用のパーツと前記左頭部固定用のパーツの間の上側の開放部分を跨いで両端部が前記右頭部固定用のパーツ及び前記左頭部固定用のパーツに連結される。
【0017】
一つの好ましい実施形態においては、前記ブロック体は、前記頭部固定用のパーツと、前記肩部固定用のパーツと、前記顎部固定用のパーツが連結されるものであり、前記頭部固定用のパーツは、右側頭部を固定するための右側頭部固定用のパーツと、左側頭部を固定するための左側頭部固定用のパーツと、後頭部を固定するための後頭部固定用のパーツとを含み、前記後頭部固定用のパーツと前記肩部固定用のパーツとは長さ方向に連結され、前記左右の側頭部固定用のパーツは、前記後頭部固定用のパーツの左右の側部にそれぞれ連結され、前記顎部固定用のパーツは、前記左右の側頭部固定用のパーツの間の上側の開放部分を跨いで両端部が前記左右の側頭部固定用のパーツに連結される。
【0018】
他の好ましい実施形態においては、前記ブロック体は、前記頭部固定用のパーツと、前記肩部固定用のパーツと、前記顎部固定用のパーツと、前記額部固定用のパーツとが連結されるものであり、前記頭部固定用のパーツと前記肩部固定用のパーツとは長さ方向に連結され、前記顎部固定用のパーツ及び額部固定用のパーツは、前記左右の頭部固定用のパーツの間の上側の開放部分を跨いで両端部が前記左右の頭部固定用のパーツに連結される。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、患者等をしっかりと固定可能でその固定精度及び再現性と固定に関する作業性の向上にも寄与するものでありながら、患者等の負担軽減にも資する医療用固定具が得られる。
【0020】
好ましい実施形態の医療用固定具では、特定部位の厚みのいわば半分以上の深さを有するホルダー部によって患者等の特定部位をしっかりと固定することができ、その深いホルダー部を用いた固定によって固定精度及び再現性の向上をも図ることができる。それに加え、仰向けに横たわった状態の患者等の上側からの固定は無くし(あるいは僅かとし)、主としてホルダー部による下側からの固定のみを行うようにすれば、患者等の精神的、肉体的な負担を軽減することができる。
【0021】
好ましい実施形態の医療用固定具では、ブロック体を複数のパーツで構成することにより、ブロック体の形状に高い自由度を持たせ易くすることができる。
【0022】
さらに好ましい実施形態の医療用固定具では、後頭部及び側頭部固定用のパーツにより頭部が固定されるとともに、顎部固定用のパーツと額部固定用のパーツの少なくとも一方を備えることで、患者等の顎部と額部との少なくとも一方を上から固定することができ、上側を覆うことなく、特定部位である患者等の頭部及び頭頚部をしっかりと固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の医療用固定具が使用される放射線治療機の説明図である。
図2】本発明の一実施形態を示す平面図である。
図3図2の実施例の側面図である
図4】(A)は図2のA-A線に沿う断面図であり、(B)は図2のB-B線に沿う断面図であり、(C)は図2のC-C線に沿う断面図である。
図5図2のD-D線に沿う断面図である。
図6】(A)(B)は図2に示す実施例を用いて患者の頭部及び肩部を固定した状態を示す説明図である。
図7】本発明の他の実施例を示す平面図である。
図8図7の実施例の側面図である。
図9図7に示す実施例を用いて患者の頭部及び肩部を固定した状態を示す説明図である。
図10】本発明の医療用固定具の製法を示す説明図である。
図11】本発明の他の実施例を示す図であり、(A)は平面図であり、(B)はE-E線に沿う断面図である。
図12】(A)は図11の実施例の作成に用いられる基本形状を示す図であり、(B)は(A)の基本形状より作成された実施例を用いて患者の頭部及び肩部を固定した状態を示す説明図である。
図13】本発明の他の実施例を示す平面図である。
図14図13のF-F線に沿う断面図である。
図15図13に示す実施例を用いて患者の頭部及び肩部を固定した状態を示す説明図である。
図16】本発明の他の実施例を示す平面図である。
図17図16の実施例の側面図である。
図18図16の実施例の分解斜視図である。
図19】(A)は左側頭部固定用のパーツを示す斜視図であり、(B)は後頭部固定用のパーツを示す斜視図であり、(C)は顎部固定用のパーツを示す斜視図である。
図20図16に示す実施例を用いて患者の頭部及び肩部を固定した状態を示す説明図である。
図21】本発明の他の実施例を示す平面図である。
図22図21の実施例の側面図である。
図23図21の実施例の分解斜視図である。
図24図21に示す実施例を用いて患者の頭部及び肩部を固定した状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明に係る医療用固定具10は、図1に示すように、放射線治療機100内で患者1A等が仰向けに横たわった状態で支持される支持台101上で使用されるもので、図示しない保持機構により、支持台101上の決められた位置に位置決め固定される。本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0025】
図2図5に示す医療用固定具10は、例えばIMRTに係る放射線照射の際に患者1A等の体の特定部位1を固定するためのものであり、放射線が透過する材質のブロック体3よりなる。ブロック体3は、適宜の弾性を有し、仰向けに横たわった状態の患者1A等の体の特定部位1の少なくとも下面から両側面に至る領域が全面にわたって密接状態で嵌まり込むホルダー部2を備えている。ホルダー部2は、特定部位1の両側面が接する領域の上端2dの少なくとも一部分が特定部位1の上下方向における中央よりも上方に位置する。
【0026】
ここで、「特定部位1の上下方向における中央」とは、図4(A)に示すように、平坦な面P1上に横たわった自然な姿勢において、特定部位1の最も高い点の高さ、すなわち面P1上からの頂点P2(例えば、頭部であれば鼻の頂点)の高さdの2分の1の高さ位置P3を意味する。
好ましくは、特定部位1の両側面が接する領域の上端2dの少なくとも一部分が、特定部位1の頂点P2から下方に向かって特定部位1の高さdの5分の2までの範囲に含まれるようにする。これによって、特定部位1の固定がより確実なものとなる。図2図5に示す実施例では、ホルダー部2の両側面が頭部に接する領域の上端2dの全体が、特定部位1の上下方向における中央の高さ位置P3よりも上方に位置する。
ブロック体3は、患者等の上側を覆うことがないように、上側の全部又は一部が開放されるもので、特定部位1がホルダー部2に嵌まり込んだとき、好ましくは、特定部位1の上方の大部分が開放されるように構成される。
【0027】
本実施例の医療用固定具10は、自然な姿勢で仰向けに横たわった状態の患者1A等の主として頭頸部をしっかりと固定することを想定したものである。また、本実施例の医療用固定具10では、患者1A等の頭部から肩部までを特定部位1とし、少なくとも下部側がホルダー部2に嵌まり込むようにしてある。
【0028】
特定部位1とは、以下の実施例では、患者1A等の頭部、首部、肩部であるが、これに限定されるものではない。「肩部」とは、人の腕が胴体に接続する部分の上部、および、そこから首の付け根にかけての部分である。「首部」とは、頭部と肩部との間の部分である。また、「頭部」とは、首部より上の部分であり、下側部分である後頭部、左右の側面部分である左右の側頭部、頭の頂き部分である頭頂部、顎部及び額部を含む顔面部とに分けられる。
特に定義しない限り、「左右方向」とは、支持台101に仰向けに横たわった患者1A等から見た左右方向とし、「上下方向」とは、支持台101に仰向けに横たわった患者1A等の腹側を上方向、背側を下方向とし、「長さ方向」とは、上下、左右の各方向と直交する方向を言い、患者1A等の頭に向かう方向を頭側、頭側と反対方向を肩側とする。「厚み」や「高さ」とは、上下方向の寸法(距離)を言い、「幅」とは、左右方向の寸法(距離)と言い、「長さ」とは長さ方向の寸法(距離)を言う。
【0029】
このように構成した本実施例の医療用固定具10では、特定部位1のうちの特に頭部の厚みのいわば半分以上の深さを有するホルダー部2によって患者1A等の特定部位1をしっかりと固定することができる。その深いホルダー部2を用いた固定によって固定精度及び再現性の向上をも図ることができる。
その上、ブロック体3の上側の全部又は一部を開放し、仰向けに横たわった状態の患者1A等の上側からの固定は無くし(あるいは僅かとし)て、主としてホルダー部2による下側からの固定のみを行うようにすれば、患者1A等の精神的、肉体的な負担を軽減することができる。斯かる効果は、顔面部全てがブロック体3で覆われることがないため、特に閉所恐怖症の患者1A等に有効である。
しかも、ホルダー部2に特定部位1が嵌まり込むだけで患者1A等の特定部位1の固定は基本的に完了するため、固定に関する作業性の向上をも図ることができる。
【0030】
ここで、ブロック体3は、放射線を透過する材料で形成されており、そのような材料としては、発泡ウレタン、発泡スチロールなどの発泡性樹脂材料、カーボン材料(CFRP)、木材等を挙げることができ、加工の容易さの点で発泡性樹脂材料が特に好ましい。
【0031】
また、ブロック体3は、単体で構成してもよいが、ブロック体3の形状に高い自由度を持たせ易くする等の目的のために互いに連結される複数のパーツ(ブロックパーツ)で構成してもよい。
本実施例では、図2に示すように、ブロック体3は、頭部固定用の二つのパーツ、すなわち頭部の右頭部を固定する右頭部固定用のパーツ3A及び頭部の左頭部を固定する左頭部固定用のパーツ3Bと、肩部を固定する一つの肩部固定用のパーツ3Cとが連結されたものである。
なお、患者1A等の首部は頭部固定用のパーツで固定されてもよく、肩部固定用のパーツ3Cで固定されてもよく、首部の肩側部分が肩部固定用のパーツ3Cで固定され、首部の頭側部分が頭部固定用のパーツで固定されていてもよい。
【0032】
右頭部固定用のパーツ3Aと左頭部固定用のパーツ3Bは、内側の互いに対向する面7a、7bが突き合わされて結合される。図3図5に示すように、右頭部固定用のパーツ3A及び左頭部固定用のパーツ3Bは、肩部固定用のパーツ3Cより大きな厚みを有している。図4(A)に示すように、各パーツ3A、3Bの上面には、互いに連通するホルダー部2a、2bが形成されている。ホルダー部2a、2bは、患者1A等の頭部の下面から両側面に至る領域に沿った形状を有し、その頭部の領域が密接状態で嵌り込む。
各パーツ3A、3Bは、外形が左右対称の形態を有しているが、患者1A等の特定部位1の形状が左右対称とは限らないため、ホルダー部2a、2bの形状は左右対称とは限らない。
各パーツ3A、3Bは、肩側の端部が肩部固定用のパーツ3Cと嵌合する篏合部分7c、7dとなっている。篏合部分7c、7dの反対側には嵌合部分7c、7dよりも幅が狭い頭頂部分7e、7fを有する。
【0033】
図2図3図4(A)に示すように、右頭部固定用のパーツ3Aと左頭部固定用のパーツ3Bとは、2個の連結具4により結合状態が固定される。各連結具4は、ボルト4a及びナット4bからなるもので、各パーツ3A、3Bのホルダー部2a、2bの下方位置と頭頂部分7e、7fの下部位置との2箇所に各ボルト4aを通すための一連の貫通孔7gが形成されている。
【0034】
図3図4(B)、図4(C)、図5に示すように、肩部固定用のパーツ3Cは、上面にホルダー部2cが形成されている。ホルダー部2cは、患者1A等の首部及び肩部の下面から両側面に至る領域に沿った形状を有し、その首部及び肩部の領域が密接状態で嵌り込む。また、頭側の端面には、右頭部固定用及び左頭部固定用の各パーツ3A、3Bの篏合部分7c、7dが嵌合する凹部7hが形成されている。右頭部固定用のパーツ3A及び左頭部固定用のパーツ3Bと肩部固定用のパーツ3Cとは、パーツ3A、3Bの篏合部分7c、7dがパーツ3Cの凹部7hと緊密に篏合することで連結固定される。
【0035】
右頭部固定用のパーツ3A及び左頭部固定用のパーツ3Bと肩部固定用のパーツ3Cとを連結した状態で、各パーツ3A、3B、3Cのホルダー部2a、2b、2cが連通して特定部位1を支持するための窪んだ空間、すなわちホルダー部2が形成される。特定部位1のうち頭部は右頭部固定用のパーツ3A及び左頭部固定用のパーツ3Bにより左右から挟み込まれた状態で支持される。首部から肩部は肩部固定用のパーツ3Cにより支持される。
【0036】
図6(A)(B)は、患者1A等が横たわった状態で特定部位1である頭部、首部、及び肩部が医療用固定具10により固定された状態を示す。患者1A等の頭部は、下面から両側面に至る領域が右頭部固定用のパーツ3A及び左頭部固定用のパーツ3Bのホルダー部2a、2bに密接状態で嵌り込む。患者1A等の首部及び肩部は、下面から両側面に至る領域が肩部固定用のパーツ3Cのホルダー部2cに密接状態で嵌り込む。これによって、患者1A等の頭部、首部、及び肩部は、上面が開放された状態でしっかりと医療用固定具10に固定される。
【0037】
図7及び図8は、本発明の他の実施例を示している。この実施例では、連結具4に代えて、左右の各頭部固定用のパーツ3A、3Bの互いに対向する面7a、7bの一方に係合凹部8a、他方に係合凹部8aと係合する係合凸部8bをそれぞれ形成して、各パーツ3A、3B間の連結を可能としたものである。また、この実施例では、右頭部固定用のパーツ3A及び肩部固定用のパーツ3Cの互いに対向する面の一方に係合凹部8c、他方に係合凸部8dをそれぞれ形成して、パーツ3A、3C間の連結を可能としている。同様に、左頭部固定用のパーツ3B及び肩部固定用のパーツ3Cの互いに対向する面との一方に係合凹部8e、他方に係合凸部8fをそれぞれ形成して、パーツ3B、3C間の連結を可能としている。
【0038】
図9は、患者1A等が横たわった状態で特定部位1である頭部、首部、及び肩部が図7及び図8の医療用固定具10により固定された状態を示す。患者1A等の頭部は、下面から両側面に至る領域が右頭部固定用、左頭部固定用の各パーツ3A、3Bのホルダー部2a、2bに密接状態で嵌まり込む。首部及び肩部は、下面から両側面に至る領域が肩部固定用のパーツ3Cのホルダー部2cに密接状態で嵌まり込む。これにより、患者1A等の頭部、首部、及び肩部は、上面が開放された状態でしっかりと医療用固定具10に固定される。
【0039】
本発明の医療用固定具10は、図10に示した各工程を順次実施することにより製作されるもので、図10に示す製法を実施することによって、特定部位1の少なくとも下面から両側面に至る領域が密接状態で嵌り込むホルダー部2を備えたブロック体3を製作することができる。なお、図10に図示した医療用固定具10は、上記した実施例の医療用固定具10と形態が異なるが、本発明の上記の実施例または後述の実施例の医療用固定具10についても、同図に示す各工程を実施することにより製作できることはいうまでもない。
【0040】
工程(1):まず、図10(A)、(B)に示すように、患者1A等のCTデータ、MRIデータ等の医用画像データ(DICOM形式)を、処理ソフトウェアを含んだ固定具作製支援装置6(図中、矩形の枠で示す。)に入力する。固定具作製支援装置6は形状抽出ボクセル化プログラムを実行し、医用画像データからの患者1A等の体の特定部位1の形状(外形)の抽出とボクセル化とを行う。なお、本実施例においては、患者1A等の体の特定部位1は右頭部固定用、左頭部固定用の各パーツ3A、3B、肩部固定用のパーツ3Cの3つのパーツで固定されるため、特定部位1の外形の抽出とボクセル化は、各パーツ3A、3B、3Cで固定される領域を含む3つの部分に分けて行なわれる。
医用画像データの入力は、適宜のデータ入力手段により行う。なお、例えば患者1A等がIMRTを受ける場合には、CTデータ等が病院で取得されていることが殆どであるので、こうした医用画像データを用いるのが理に適っているが、これに限らず、適宜の人体スキャナ等により取得した患者1A等の体の形状を抽出可能な他の画像データをかわりに用いるようにしてもよい。
また、固定具作製支援装置6は、データ入出力部、記憶部、表示部、操作部、所定のプログラムを実行するためのCPUを含む制御部などを備えており、処理ソフトウェアは記憶部に記憶されている。
【0041】
工程(2):一方、図10(C)に示すように、本実施例の医療用固定具10の基本形状データ(3DCAD等の例えばSTL形式のデータ)を、固定具作製支援装置6に入力(インポート)する。固定具作製支援装置6はボクセル化プログラムを実行して、前記基本形状データのボクセル化を行う。なお、この工程(2)は、例えば上記工程(1)の前に行ってもよい。
基本形状データとは、ホルター部2が形成される前のブロック体3の複数のパーツの外形を示す3Dデータであり、本実施例では右頭部固定用のパーツ3A、左頭部固定用のパーツ3B、肩部固定用のパーツ3Cに対応する外形の3Dデータである。なお、後述する図12(A)は図12(B)に示す形態の実施例を製造するのに用いられる基本形状を示す図であり、図中の複数の各パーツに、ホルター部2が形成されたブロック体3の各パーツと同じ符号を付している。
【0042】
工程(3):上記工程(1)、(2)の後、図10(D)、(E)に示すように、固定具作製支援装置6において、データ融合演算プログラムを実行し、ホルダー部2の形状が得られるように医療用固定具10の基本形状データから患者1A等の形状を引き算し、患者1A等の体型にカスタマイズした医療用固定具10の各パーツごとの3Dの形状データを完成させる。すなわち、本実施例では、患者1A等の体型ごとに適したホルダー部2の形状が異なるのであり、完成した形状データでは、患者1A等の体型に合致するホルダー部2の形状が付与されている。もちろん、このカスタマイズに際し、医療用固定具10におけるホルダー部2以外の部分の形状を適宜に調整するようにしてもよい。
【0043】
工程(4):上記工程(3)の後、図10(F)、(G)に示すように、完成させた形状データを適宜の形式(例えばSTL形式)に変換し、図外の加工機(例えば切削機や3Dプリンター)に出力し、その加工機を用いて医療用固定具10を製造する。なお、用いる加工機は、例えば発泡スチロールを素材とするブロックから所定形状の医療用固定具10を削り出す切削加工を行うものであってもよいし、例えばCFRP素材を積層等して所定形状の医療用固定具10を造形する付加加工を行うものであってもよい。また、加工機を用いて医療用固定具10の各部品を製造してもよいが、例えばブロック体3のみを加工機で製造し、連結具4等の他の部品は既製品を用いる、というように、加工機で医療用固定具10の一部の部品のみを製造するようにしてもよい。そして、ブロック体3を複数のパーツで構成した場合、複数の加工機で同時に別々のパーツを製造するようにすれば、製造時間の短縮化を図ることができる。
【0044】
ここで、上述した上面固定具及び下面固定具を用いる従来の患者1A等の固定方法では、多くの場合、放射線技師等が現場で上面固定具及び下面固定具を作製することになるが、この作製には手間が掛かり、それが患者1A等の負担にもなる。しかも、患者1A等は、上面固定具の作製の際、熱して軟化したマスクが顔に被せられたときにその熱さに耐えなければならないといった難点もある。
しかし、本実施例の医療用固定具10では、その作製のための上記工程(1)~(4)を放射線技師等が現場で行う必要はなく、治療前に予め例えば業者に依頼して本実施例の医療用固定具10を作製しておくといったことが可能である上、患者1A等に特段の我慢を強いる必要もないのであって、これらのことは、治療時間の短縮化や患者1A等の負担軽減に繋がる。
【0045】
また、上記従来の固定方法では、各固定具の作製作業の熟練度等によっては、固定が甘くなって患者1A等と固定具との間に意図しないクリアランスが発生してしまうことがある。さらに、現状の下面固定具として用いられている吸引マットがエアリークによって変形すると、患者1A等の体型に沿わなくなってIMRT治療の継続が不可能となる。
これに対して、本実施例の医療用固定具10では、ブロック体3の作製を機械化してあるので、作業の熟練は不要といえ、完成する医療用固定具10は患者1A等の体型に確実にフィットするものとなり現状より固定精度が向上し、エアリーク等の不具合も生じない。
【0046】
なお、本発明は、上記の実施の形態に何ら限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々に変形して実施し得ることは勿論である。例えば、以下のような変形例を挙げることができる。
【0047】
上記した各実施例では、各ホルダー部2は、仰向けに横たわった状態の患者1A等の頭部を三方から取り囲むように設けられているが、これに限らず、図11及び図12(B)に示す実施例のように、頭頂部を開放して通風部5を設け、通風部5を毛髪の逃げ道とするようにブロック体3の右頭部固定用のパーツ3A、左頭部固定用のパーツ3Bを構成してもよい。
【0048】
また、上記した実施例では、ホルダー部2は、患者1A等の頭部から肩部までが嵌まり込む構成のものであるが、これに限らず、患者1A等の頭部と肩部のみが嵌まり込む構成のものとし、首部については、肩部固定用のパーツ3Cの上面に載せるだけの構成のものとしてもよい。このように、ホルダー2の形状や配置は種々に変更可能である。
【0049】
上記した各実施例では、ホルダー部2は、患者1A等の特定部位1、すなわち、頭部、首部、及び肩部の下面から両側面に至る領域が全面にわたって密接状態で嵌まり込むように構成されている。これに対して、図13図15に示す実施例は、ホルダー部2として、患者1A等の特定部位1のうちの一部の領域については接触しないように構成している。この実施例では、図14に示すように、通風部5を除く領域において、頭部、首部、及び肩部の下面から両側面に至る領域が密接状態で嵌まり込む。
図13図15に示す実施例では、右頭部固定用のパーツ3A、左頭部固定用のパーツ3Bにおいて、肩側の端部を、下部を残して側部から上部にわたってそれぞれ切り欠くとともに、頭頂部寄りの中間部を、下部を残して両側部から上部にわたって切り欠いている。右頭部固定用のパーツ3A、左頭部固定用のパーツ3B、肩部固定用のパーツ3Cが結合された状態で、右頭部固定用のパーツ3Aと肩部固定用のパーツ3Cとの間の空間と、左頭部固定用のパーツ3Bと肩部固定用のパーツ3Cとの間の空間とで通風部5が形成され、さらに、右頭部固定用のパーツ3Aの切り欠きと、左頭部固定用のパーツ3Bの頭側の切り欠きとの間で通風部5が形成される。
【0050】
なお、図13図15の実施例では、左右の各頭部固定用のパーツ3A、3Bの互いに対向する面7a、7bの一方に係合凹部8a、他方に係合凹部8aと係合する係合凸部8bをそれぞれ形成して、各パーツ3A、3B間の連結を可能としている。また、この実施例では、肩部固定用のパーツ3Cの左右の各頭部固定用のパーツ3A、3Bと互いに対向する面の左右方向の中央部に係合凹部8cを形成し、左右の各頭部固定用のパーツ3A、3Bの対向する面に係合凸部8d、8fを形成して、係合凸部8d、8fが係合凹部8cに係合することでパーツ3A、3C間及びパーツ3B、3C間の連結を可能としている。
【0051】
一般に、患者1A等の頬などは軟らかく、そのような部位をホルダー部2で支持しても患者1A等の体を固定する効果は殆ど得られない。また、治療期間中、例えば浮腫などで患者1A等の体形が変化することにより固定具が装着できなくなる、といった問題も発生する。このように、患者1A等の体には固定効果が得られない部位が複数存在すると考えられる。また、ホルダー部2と患者1A等とが接する部分が多いと、通気性が低下し、患者1A等は汗をかきやすく、不快感が高まる。
図13図15に示す実施例は、体の固定に支障のない範囲でブロック体3に通風部5を形成したものである。これにより、材料の節約になり、製造コストの低減を図ることが可能となり、図10(G)において、加工機で付加加工を行う場合は作業時間の短縮を図れ、加工機で切削する場合も切削対象とする素材に当初から通風部5を設けておけば作業時間の短縮を図ることができる。
【0052】
図16図20は、さらに他の実施例を示すもので、ブロック体3は、頭部固定用のパーツ30Aと、肩部固定用のパーツ30Cと、顎部固定用のパーツ30Bとが連結されるものである。頭部固定用のパーツ30Aは、頭部の右側頭部を固定するための右側頭部固定用のパーツ30Dと、左側頭部を固定するための左側頭部固定用のパーツ30Eと、後頭部を固定するための後頭部固定用のパーツ30Fとを含んでいる。なお、図16の実施例においては、首部は、肩側部分が肩部固定用のパーツ30Cで固定され、頭側部分が頭部固定用のパーツ30Aで固定されているが、首部は頭部固定用のパーツ30A、肩部固定用のパーツ30Cのいずれか一方で固定されてもよい。
【0053】
図16に示すように、後頭部固定用のパーツ30Fと肩部固定用のパーツ30Cとは長さ方向に連結されている。左右の側頭部固定用の各パーツ30D、30Eは後頭部固定用のパーツ30Fの両側部上に連結されている。顎部固定用のパーツ30Bは、左右の側頭部固定用の各パーツ30D、30Eの間の上側の開放部分を跨いで両端部が左右の側頭部固定用の各パーツ30D、30Eに連結されている。顎部固定用のパーツ30Bは、ブロック体3の上側の開放部分の一部を覆うだけで、大部分が開放されている。
【0054】
後頭部固定用のパーツ30Fは、図18図19(B)に示すように、外形が略直方体であり、上面にホルダー部20fが形成されている。ホルダー部20fは、患者1A等の特定部位1のうち、頭部から首部にかけての頭部及び首部の下面の領域に沿った形状を有し、この頭部及び首部の領域が嵌まり込むことが可能である。なお、ホルダー部20fに嵌り込む特定部位1の領域は、頭部及び首部の下面に沿う領域に厳密に限定されるわけではなく、その周囲の領域、例えば、頭部の側面の一部や頭頂部の一部が嵌り込むものであってもよい。後頭部固定用のパーツ30Fの上面の幅方向の両端部には、左右の側頭部固定用の各パーツ30D、30Eが係止される段差部31が長さ方向に沿って形成されている。段差部31は側面31aと底面31bとを有する。
【0055】
左右の側頭部固定用の各パーツ30D、30Eは、図18図19(A)に示すように、それぞれ、側頭部を固定するための側頭部部分32と、首部を固定するための首部部分33と、側頭部部分32及び首部部分33の下端に連続し後頭部固定用のパーツ30Fの段差部31と係合する係合部分34とが一体に形成されたものである。左右の側頭部固定用の各パーツ30D、30Eの側頭部部分32及び首部部分33の対向する内側面にはホルダー部32a、33aが形成されている。左右の側頭部固定用の各パーツ30D、30Eにおいて、ホルダー部32a、33aが連通してホルダー部20d、20eを形成している。左右の側頭部固定用の各パーツ30D、30Eは外形が左右対称の形態を有しているが、患者1A等の側頭部及び首部の形状が左右対称とは限らないため、ホルダー部20d、20eの形状は左右対称とは限らない。
【0056】
ホルダー部20d、20eは、患者1A等の頭部から首部にかけての左側、右側の各頭部の側面及び各首部の側面の領域に沿った形状を有し、この頭部及び首部の領域が嵌まり込むことが可能である。ホルダー部32aには側頭部部分32を内面から外面に貫通する貫通孔32bが形成されている。貫通孔32bは、左右の側頭部固定用の各パーツ30D、30Eで患者1A等の頭部が固定されたときに患者1A等の耳の位置に対応する部分に設けられている。この貫通孔32bにより耳が圧迫されたり不快な共鳴音が発生したりするのを防いでいる。
左右の側頭部固定用の各パーツ30D、30Eは、長さが後頭部固定用のパーツ30Fの長さよりも短く設定されており、係合部分34が後頭部固定用のパーツ30Fの段差部31に係止されたとき、左右の側頭部固定用の各パーツ30D、30Eは、後頭部固定用のパーツ30Fの肩側寄りに位置決めされる。これにより、患者1A等の頭頂部がブロック体3で覆われずに開放され、通気性が確保でき、患者1A等の不快感が軽減される。
左右の側頭部固定用の各パーツ30D、30Eの係合部分34の幅L1、長さL2、高さL3は、それぞれ、後頭部固定用のパーツ30Fの段差部31の幅L4、長さL5、高さL6と略同じに設定されている。
【0057】
肩部固定用のパーツ30Cは、上面にホルダー部20cが形成されている。ホルダー部20cは、患者1A等の肩部の下面から両側面に至る領域に沿う形状を有し、この肩部の領域が密接状態で嵌まり込むことが可能である。肩部固定用のパーツ30Cの頭側の端面には一対の直方体形状の突出部35が設けられている。一対の突出部35の間の間隔L7は後頭部固定用のパーツ30Fの幅L8と略同じに設定されている。一対の突出部35の間に後頭部固定用のパーツ30Fの肩側の端部が緊密に篏合されることで、肩部固定用のパーツ30Cと後頭部固定用のパーツ30Fとが連結されて固定される。突出部35の厚みL9は後頭部固定用のパーツ30Fの下面から段差部31の底面までの厚みL10と等しく、肩部固定用のパーツ30Cに後頭部固定用のパーツ30Fが固定されたときに、突出部35の上面と段差部31の底面とが揃う。
【0058】
顎部固定用のパーツ30Bは、図18図19(C)に示すように、開口が下向きのアーチ形状であり、ホルダー部20bが下面に形成される固定用部分36と、固定用部分36の両端に設けられる一対の脚部分37とからなる。ホルダー部20bは、患者1A等の顎部の上面と左右の両側面、顎部の下面、及び首部の頭側の上面と両側面に至る領域に沿う形状を有し、これらの体の領域が嵌まり込むことが可能である。
一対の脚部分37の間の間隔L11は、肩部固定用のパーツ30Cの一対の突出部35の間の間隔L7と略同じである。一対の脚部分37の底面の形状は肩部固定用のパーツ30Cの一対の突出部35の上面の形状と略同じ長方形状である。各脚部分37の高さL12は、左右の側頭部固定用の各パーツ30D、30Eの首部部分33の厚みL13と略同じである。顎部固定用のパーツ30Bは、脚部分37が左右の側頭部固定用の各パーツ30D、30Eの首部部分33に緊密に篏合することで左右の側頭部固定用の各パーツ30D、30Eに連結される。
【0059】
この実施例のブロック体3は、以下の手順により組み立てられる。
まず、肩部固定用のパーツ30Cの一対の突出部35の間に、後頭部固定用のパーツ30Fの肩側の端部を緊密に篏合させて肩部固定用のパーツ30Cと後頭部固定用のパーツ30Fとを連結する。
次に、左右の側頭部固定用の各パーツ30D、30Eの係合部分34を後頭部固定用のパーツ30Fの段差部31に係止した後、顎部固定用のパーツ30Bを、後頭部固定用のパーツ30Fの上側の開放部分及び左右の側頭部固定用の各パーツ30D、30Eを跨ぐように上方から嵌め込む。
このとき、顎部固定用のパーツ30Bは、脚部分37の底面が肩部固定用のパーツ30Cの突出部35の上面と当接する。顎部固定用のパーツ30Bの脚部分37の内面は、左右の側頭部固定用の各パーツ30D、30Eの係合部分39を後頭部固定用のパーツ30Fの段差部31の側面31aに向けて押し付ける。これにより、顎部固定用のパーツ30B、肩部固定用のパーツ30C、左右の側頭部固定用の各パーツ30D、30E、後頭部固定用のパーツ30Fが連結され、各パーツ30B、30C、30D、30E、30Fは、特定部位1を密接状態で支持するための窪んだ空間、すなわちホルダー部2を形成する。
【0060】
図20は、患者1A等が横たわった状態で患者1A等の頭部、首部、及び肩部が医療用固定具10により固定された状態を示す。患者1A等の頭部の下側及び首部の下側は、後頭部固定用のパーツ30Fのホルダー部20fに密接状態で嵌まり込む。患者1A等の頭部の側部及び首部の側部は左右の側頭部固定用の各パーツ30D、30Eのホルダー部20d、20eに密接状態で嵌まり込む。患者1A等の肩部は肩部固定用のパーツ30Cのホルダー部20cに密接状態で嵌まり込む。患者1A等の顎部は上側から顎部固定用のパーツ30Bのホルダー部20bに密接状態で嵌まり込む。側端部固定用のパーツ30D、30Eのホルダー部20d、20eは、頭部の両側面が接する領域の上端2dが頭部の上下方向における中央よりも上方に位置する。これによって、患者1A等の頭部、首部、顎部は、ブロック体3の上面の大部分が開放された状態で医療用固定具10にしっかりと固定される。
【0061】
本実施例によれば、特に、顎部固定用のパーツ30Bによって患者1A等の顎部がしっかりと固定されるため、頭部を左右に振る、口を開ける、顎を上げるなどの患者1A等の動作を規制することができる。また、ブロック体3は、顎部固定用のパーツ30Bが設けられた領域以外は上面が開放された状態であるため、患者1A等が息苦しさや圧迫感を感じることなく、患者1A等の負担感が小さい。さらに、左右の側頭部固定用の各パーツ30D、30Eは患者1A等の肩側寄りに位置しており、患者1A等の頭頂部はブロック体3に覆われないため、通気性を確保することができる。
【0062】
図21図24は、さらに他の実施例を示す。ブロック体3は、頭部固定用のパーツ30Aと、肩部固定用のパーツ30Cと、顎部固定用のパーツ30Bと、額部固定用のパーツ30Gとが連結されるものであり、頭部固定用のパーツ30Aは、右頭部固定用のパーツ30Hと左頭部固定用のパーツ30Iとが連結されるものである。
【0063】
左右の頭部固定用の各パーツ30H、30Iは、それぞれ、側部分40と下部分41とが一体に形成されたものである。各側部分40の対向する内面にはホルダー部40aが形成されている。ホルダー部40aは、患者1A等の頭部の左側、右側の各側面の領域に沿った形状を有し、この頭部の領域が嵌まり込むことが可能である。また、ホルダー部40aには、側部分40を内面から外面に貫通する貫通孔40cが形成されている。各下部分41の上面には、ホルダー部41aが形成されている。ホルダー部41aは、患者1A等の頭部の左側、右側の各下面の領域に沿った形状を有し、この頭部の領域がホルダー部41aに嵌まり込むことが可能である。これらのホルダー部40a、41aは互いに連通してホルダー部20h、20iを形成する。左右の頭部固定用の各パーツ30H、30Iは、外形が左右対称の形態を有しているが、患者1A等の頭部の形状が左右対称とは限らないため、ホルダー部20h、20iの形状は左右対称とは限らない。
【0064】
左右の頭部固定用の各パーツ30H、30Iは、肩部固定用のパーツ30Cより大きな厚みを有している。側部分40の上面の肩側寄りには顎部固定用のパーツ30Bの両端部が係止される窪み40bが形成され、頭頂側寄りには額部固定用のパーツ30Gの両端部が係止される窪み40bが形成されている。各パーツ30H、30Iの下部分41の対向する面には係合凹部42aがそれぞれ形成されており、係合凹部42aに連結部材42bを緊密に嵌め込むことで、左右の頭部固定用の各パーツ30H、30Iが連結されている。
また、右頭部固定用のパーツ30Hと肩部固定用のパーツ30Cとが対向する面、及び左頭部固定用のパーツ30Iと肩部固定用のパーツ30Cとが対向する面には、係合凹部42c、42dがそれぞれ形成されている。左右の頭部固定用の各パーツ30H、30Iには、左右2箇所の位置に係合凹部42cが形成される。肩部固定用のパーツ30Cには、係合凹部42cに対応する中央部及び左右2箇所の位置に3つの係合凹部42dが形成されている。
各パーツ30H、30I、30Cの対向する面が互いに突き合わされ、連結部材42eを係合凹部42c、42dに緊密に嵌め込むことで、右頭部固定用のパーツ30H及び肩部固定用のパーツ30C、左頭部固定用のパーツ30I及び肩部固定用のパーツ30Cがぞれぞれ連結される。
【0065】
肩部固定用のパーツ30Cの上面にはホルダー部20cが形成されている。ホルダー部20cは、患者1A等の肩部の下面から両側面及び首部の肩側部分の下面から両側面に至る領域に沿った形状を有し、この肩部及び首部の領域が嵌まり込むことが可能である。
【0066】
顎部固定用のパーツ30Bは、肩側から見た形状が略T字形状であり、左右の頭部固定用の各パーツ30H、30Iの間に嵌まる嵌合部分43と、嵌合部分43の上端部より左右方向両側へ突出し左右の頭部固定用の各パーツ30H、30Iの上面の窪み40bに係止される鍔部分44とを備えている。嵌合部分43の下面には、ホルダー部20bが形成されている。ホルダー部20bは、患者1A等の顎部の上面から両側面及び首部の頭側部分の上面から両側面に至る領域に沿った形状に形成され、この顎部の領域がホルダー部20bに嵌まり込むことが可能である。
嵌合部分43の幅は左右の頭部固定用の各パーツ30H、30Iの側部分40間の間隔と略同じに設定される。嵌合部分43を左右の頭部固定用の各パーツ30H、30Iの間に嵌め込んだときに、嵌合部分43の外側面と頭部固定用のパーツ30Aの内面とが緊密に篏合し、顎部固定用のパーツ30Bと左右の頭部固定用の各パーツ30H、30Iとが連結される。
【0067】
額部固定用のパーツ30Gは、肩側から見た形状が略T字形状であり、左右の頭部固定用の各パーツ30H、30Iの間に嵌まる嵌合部分45と、嵌合部分45の上端部より左右方向両側方へ突出し左右の頭部固定用の各パーツ30H、30Iの上面の窪み40bに係止される鍔部分46とを備えている。嵌合部分45の下面には、ホルダー部20gが形成されている。ホルダー部20gは、患者1A等の額の上面から頭頂部の上面に至る領域に沿った形状に形成され、この額及び頭頂部の領域がホルダー部20gに嵌まり込むことが可能になっている。嵌合部分45の幅は左右の頭部固定用の各パーツ30H、30Iの側部分40間の間隔と略同じに設定される。嵌合部分45を左右の頭部固定用の各パーツ30H、30Iの間に嵌め込んだときに、嵌合部分45の外側面と頭部固定用のパーツ30Aの内面とが緊密に篏合し、額部固定用のパーツ30Gと左右の頭部固定用の各パーツ30H、30Iとが連結される。
【0068】
顎部固定用のパーツ30B、肩部固定用のパーツ30C、額部固定用のパーツ30G、右頭部固定用のパーツ30Hと左頭部固定用のパーツ30Iを連結した状態で、各パーツ30B、30C、30G、30H、30Iのホルダー部20b、20c、20g、20h、20iは、特定部位1を密接状態で支持するための窪んだ空間、すなわちホルダー部2を形成する。
【0069】
図24は、患者1A等が横たわった状態で患者1A等の頭部、首部、及び肩部が医療用固定具10により固定された状態を示す。患者1A等の頭部及び首部は、下面から両側面に至る領域が左右の頭部固定用の各パーツ30H、30Iのホルダー部20h、20iに密接状態で嵌まり込む。患者1A等の肩部は、下面から両側面に至る領域が肩部固定用のパーツ30Cのホルダー部20cに密接状態で嵌まり込む。患者1A等の顎部の上面から首部の頭側部分の上面に至る領域が顎部固定用のパーツ30Bのホルダー部20bに密接状態で嵌まり込む。患者1A等の額の上面から頭頂部の上面に至る領域が額部固定用のパーツ30Gのホルダー部20gに密接状態で嵌まり込む。ホルダー部20h、20iは、頭部の両側面が接する領域の上端2dが頭部の上下方向における中央よりも上方に位置する。これによって、患者1A等の頭部、首部、顎部、額部は、ブロック体3の上面の一部が開放された状態で医療用固定具10にしっかりと固定される。
【0070】
上記の実施例によれば、顎部固定用のパーツ30B、額部固定用のパーツ30Gによって患者1A等の顎部と額部とがしっかりと固定されるため、頭部を左右に振る、口を開ける、顎を上げるなどの患者1A等の動作を規制することができる。また、ブロック体3は上面の顎部固定用のパーツ30B、額部固定用のパーツ30Gが設けられた領域以外は開放された状態であるため、患者1A等が息苦しさや圧迫感を感じることがない。
【0071】
上記実施の形態では、患者1A等の頭部から肩部までを特定部位1とし、その特定部位1の少なくとも下面から両側面に至る領域、望ましくはこの領域を超える領域までホルダー2に嵌まり込むようにしてあるが、本発明の医療用固定具10はこれに限らず、例えば、患者1A等の体の他の部位や体全体を特定部位1とし、その特定部位1の少なくとも下面から両側面に至る領域、望ましくはこの領域を超える領域までホルダー2に嵌まり込むように構成してもよい。
【符号の説明】
【0072】
1 特定部位
1A 患者
2 ホルダー部
2a~2c ホルダー部
3 ブロック体
3A 右頭部固定用のパーツ
3B 左頭部固定用のパーツ
3C 肩部固定用のパーツ
4 連結具
5 通風部
6 固定具作製支援装置
10 医療用固定具
30A 頭部固定用のパーツ
30B 顎部固定用のパーツ
30C 肩部固定用のパーツ
30G 額部固定用のパーツ
20b~20i ホルダー部
100 放射線治療機
101 支持台
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
【手続補正書】
【提出日】2022-02-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者等が仰向けに横たわった状態で患者等の体の特定部位を固定するための医療用固定具を製作する方法であって、
患者等の体の特定部位の外形を抽出することが可能な患者等の医用画像データを予め取得する工程と、
前記医用画像データを用いて所定の演算を実行することにより、前記医用画像データから抽出された患者等の体型に合致するホルダー部の形状を含む形状データを取得する工程と、
前記形状データに基づき、前記特定部位の少なくとも下面から両側面に至る領域が全面にわたって密接状態で嵌り込む形状のホルダー部を備える放射線が透過する材質のブロック体に加工する工程と、を含む医療用固定具を製作する方法。
【請求項2】
前記形状データは、前記ホルダー部が形成される前の前記ブロック体の外形を表す基本形状データから前記患者等の前記医用画像データを引き算することにより得られる請求項1に記載の医療用固定具を製作する方法。
【請求項3】
患者等が仰向けに横たわった状態で患者等の体の特定部位を固定するために予め製作される医療用固定具であって、
放射線が透過する材質のブロック体よりなり、
前記ブロック体は、前記特定部位の少なくとも下面から両側面に至る領域が全面にわたって密接状態で嵌り込むように、患者等の医用画像データから抽出された患者等の前記特定部位の前記領域の形状に合致する形状に形成されているホルダー部を備えており、
前記ブロック体は、上側の全部又は一部が開放されている医療用固定具。
【請求項4】
前記ホルダー部は、前記特定部位の側面が接する領域のそれぞれの上端が、前記特定部位の上下方向における中央よりも上方に位置する請求項に記載の医療用固定具。
【請求項5】
前記ホルダー部は、前記特定部位が接触しない通風部を含み、前記通風部を除く領域において、前記特定部位の下面から両側面に至る領域が密接状態で嵌まり込む請求項3または4に記載の医療用固定具。