(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022048417
(43)【公開日】2022-03-28
(54)【発明の名称】無機含有有機膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 41/12 20060101AFI20220318BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20220318BHJP
B29L 7/00 20060101ALN20220318BHJP
【FI】
B29C41/12
C08J5/18
B29L7:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020154227
(22)【出願日】2020-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小坂 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】倉持 政宏
【テーマコード(参考)】
4F071
4F205
【Fターム(参考)】
4F071AA58
4F071AA60
4F071AA68
4F071AF15Y
4F071AF21Y
4F071AG28
4F071AH02
4F071AH12
4F071AH19
4F071BA02
4F071BB02
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4F071BC12
4F205AA40
4F205AB11
4F205AB16
4F205AB24
4F205AC05
4F205AG01
4F205AJ06
4F205AR06
4F205GA07
4F205GB01
4F205GC06
4F205GN21
4F205GN29
(57)【要約】
【課題】機械的強度が優れる無機含有有機膜の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の無機含有有機膜の製造方法は、耐熱性樹脂を混合することで、高温で熱処理でき、また、160℃以上と高い温度で熱処理することにより、耐熱性樹脂のみからなる膜よりも機械的強度が向上した無機含有有機膜が製造できる。これは、高温で熱処理することで無機含有有機膜に含まれる無機成分同士、及び無機成分と有機成分が強固に結合するためと考えられる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)無機系曳糸性ゾル溶液を調製する工程、
(2)前記無機系曳糸性ゾル溶液と、前記無機系曳糸性ゾル溶液を溶解可能な溶媒と、前記溶媒に溶解可能で、かつ融点または軟化温度または分解温度のいずれかが160℃以上の耐熱性樹脂とを混合して、塗工液を調製する工程、
(3)前記塗工液を基材に塗布し、160℃以上で熱処理して、無機系ゲルと耐熱性樹脂とからなる無機含有有機膜を形成する工程、
を含む無機含有有機膜の製造方法。
【請求項2】
無機系曳糸性ゾル溶液が、有機置換基を有する金属アルコキシドを含む原料から調製されたものである、請求項1に記載の無機含有有機膜の製造方法。
【請求項3】
無機系曳糸性ゾル溶液の固形分質量が耐熱性樹脂質量と無機系曳糸性ゾル溶液の固形分質量の合計量に対して10mass%以下である、請求項1又は2に記載の無機含有有機膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無機含有有機膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、センサーや電子デバイス、分離膜、支持膜等への利用を目的とした無機含有有機膜(フィルム)が知られている。これら各種用途に使用する膜は機械的強度に優れているのが好ましい。
【0003】
このような機械的強度の優れる無機含有有機膜を製造できる方法として、特開2010-143181号公報に、無機系曳糸性ゾル溶液と有機ポリマーとを混合して無機含有有機膜を製造する方法が開示されており、実施例において、無機系曳糸性ゾル溶液とポリアクリロニトリルを混合して塗工液を調製し、基材に塗布し、150℃で乾燥して無機含有有機膜を製膜していることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献1に記載の発明は、確かに機械的強度に優れる無機含有有機膜を実現できる製造方法であったが、製造された無機含有有機膜の機械的強度は、十分なものではなかった。
【0006】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、機械的強度が更に優れる無機含有有機膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1にかかる発明は、「(1)無機系曳糸性ゾル溶液を調製する工程、(2)前記無機系曳糸性ゾル溶液と、前記無機系曳糸性ゾル溶液を溶解可能な溶媒と、前記溶媒に溶解可能で、かつ融点または軟化温度または分解温度のいずれかが160℃以上の耐熱性樹脂とを混合して、塗工液を調製する工程、(3)前記塗工液を基材に塗布し、160℃以上で熱処理して、無機系ゲルと耐熱性樹脂とからなる無機含有有機膜を形成する工程、を含む無機含有有機膜の製造方法。」である。
【0008】
本発明の請求項2にかかる発明は、「無機系曳糸性ゾル溶液が、有機置換基を有する金属アルコキシドを含む原料から調製されたものである、請求項1に記載の無機含有有機膜の製造方法。」である。
【0009】
本発明の請求項3にかかる発明は、「無機系曳糸性ゾル溶液の固形分質量が耐熱性樹脂質量と無機系曳糸性ゾル溶液の固形分質量の合計量に対して10mass%以下である、請求項1又は2に記載の無機含有有機膜の製造方法。」である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の請求項1にかかる無機含有有機膜の製造方法は、耐熱性樹脂を混合することで、高温で熱処理でき、また、160℃以上と高い温度で熱処理することにより、機械的強度が優れる無機含有有機膜が製造できる。これは、高温で熱処理することで無機含有有機膜に含まれる無機成分同士、及び無機成分と有機成分が強固に結合するためと考えられる。また、耐熱性樹脂に対して曳糸性の無機系ゾル溶液を混合することにより、曳糸性ゾルは通常の無機系ゾルと比べて反応性が低いことから耐熱性樹脂と混合しても耐熱性樹脂と反応してゲル化しにくく、前記塗工液を基材に塗布する際に曳糸性ゾルが無機含有有機膜中に十分に分散できることから、耐熱性樹脂のみからなる膜よりも機械的強度が向上した無機含有有機膜を製造できる。
【0011】
本発明の請求項2にかかる無機含有有機膜の製造方法は、無機系曳糸性ゾル溶液が有機置換基を有する金属アルコキシドを含む原料から調製されたものであり、有機置換基を有する無機成分は有機ポリマーとの親和性が良いため、薄く、かつ機械的強度の向上した無機含有有機膜を製造しやすい。
【0012】
本発明の請求項3にかかる無機含有有機膜の製造方法は、耐熱性樹脂に対する無機系曳糸性ゾル溶液の混合割合が少ないため、耐熱性樹脂の特性を損なうことなく、薄く、かつ機械的強度の向上した無機含有有機膜を製造しやすい。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明においては、(1)無機系曳糸性ゾル溶液(以下、単に「ゾル溶液」又は「曳糸性ゾル溶液」と表記することがある)を調製する工程を実施する。本発明においては、無機含有有機膜中、無機成分が分散した状態となり、無機含有有機膜の機械的強度が向上するように、無機系曳糸性ゾル溶液を調製する。無機系ゾル溶液が「曳糸性」であると、成膜後の無機含有有機膜中において、無機成分が分散した状態になり、結果として無機含有有機膜の機械的強度が向上する。
【0014】
本明細書において「無機系」とは、無機成分の質量比率が10mass%以上を占めていることを意味する。前記無機系曳糸性ゾル溶液の無機成分の質量比率は、13mass%以上が好ましく、15mass%以上がより好ましい。なお、この無機成分の質量比率(Mr1)は、無機系曳糸性ゾル溶液質量(Ms1)の、そのゾル溶液のみを紡糸して得られるゲル繊維の質量(Mg)に対する比をいう。つまり、次の式から算出される値をいう。
Mr1=(Mg/Ms1)×100
【0015】
本明細書において「曳糸性」の判定は、以下に示す条件で静電紡糸を行い、以下の判断基準により判定する。
(判定法)
アースした金属板に対し、水平方向に配置した金属ノズル(内径:0.4mm)から曳糸性を判断するゾル溶液(固形分濃度:20~50wt%)を吐出する(吐出量:0.5~1.0g/hr)と共に、ノズルに電圧を印加(電界強度:1~3kV/cm、極性:プラス印加又はマイナス印加) し、ノズルの先端にゾル溶液の固化を生じさせることなく、1分間以上、連続して紡糸し、金属板上にゲル繊維を集積させる。
この集積したゲル繊維の走査電子顕微鏡写真を撮り、観察し、液滴がなく、ゲル繊維の平均繊維径(50点の算術平均値)が5μm以下、アスペクト比が100以上のゲル繊維を製造できる条件が存在する場合、そのゾル溶液は「曳糸性あり」と判断する。これに対して、前記条件(すなわち、濃度、押出量、電界強度、及び/又は極性)を変え、いかに組み合わせても、液滴がある場合、オイル状で一定した繊維形態でない場合、平均繊維径が5μmを超える場合、あるいは、アスペクト比が100未満の場合(例えば、粒子状)で、前記ゲル繊維を製造できる条件が存在しない場合、その溶液は「曳糸性なし」と判断する。
【0016】
このようなゾル溶液は、本発明の製造方法で最終的に得られる無機含有有機膜の無機成分を構成する元素を含む化合物を含む溶液(原料溶液)を、約100℃以下の温度で加水分解させ、縮重合させることによって得ることができる。前記原料溶液の溶媒は、例えば、有機溶媒(例えば、アルコール)又は水である。
【0017】
この化合物を構成する元素は特に限定するものではないが、例えば、リチウム、ベリリウム、ホウ素、炭素、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、リン、硫黄、カリウム、カルシウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ヒ素、セレン、ルビジウム、ストロンチウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、カドミウム、インジウム、スズ、アンチモン、テルル、セシウム、バリウム、ランタン、ハフニウム、タンタル、タングステン、水銀、タリウム、鉛、ビスマス、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、又はルテチウムなどを挙げることができる。
【0018】
曳糸性ゾル溶液を調製可能な金属化合物としては、例えば、前記元素の金属有機化合物、あるいは、金属無機化合物を挙げることができる。前記金属有機化合物としては、例えば、金属アルコキシド、金属アセチルアセトネート、酢酸塩、シュウ酸塩等を挙げることができる。金属アルコキシドの場合、金属元素として、例えば、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、スズ、亜鉛等を挙げることができ、これらのメトキシド、エトキシド、プロポキシド、ブトキシド等を使用することができる。例えば、金属元素がケイ素の場合、原料にアルコキシドを使用し、酸触媒を用いて加水分解縮重合反応を進行させることにより、曳糸性ゾル溶液を調製することができる。
【0019】
なお、有機置換基(例えば、メチル基、プロピル基、フェニル基等)を有する金属アルコキシドを無機系曳糸性ゾル溶液の原料として含む、特には、金属骨格と2個以上の加水分解基及び1~2個の有機置換基からなる金属アルコキシドを無機系曳糸性ゾル溶液の原料として含んでいると、有機ポリマーとの親和性が良い無機成分とすることができ、薄く、かつ機械的強度の向上した無機含有有機膜を製造しやすいため好適である。前記金属アルコキシドとして、メチルトリエトキシシラン(MTES)、プロピルトリエトキシシラン(P TES)、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(GPTES)、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)、ジメチルジエトキシシラン(DMDES)などを例示できる。
【0020】
曳糸性ゾル溶液を調製可能な金属化合物が金属アルコキシドからなる場合、前述のような有機置換基を有する金属アルコキシドのみを原料とすることができるし、有機置換基をもたない金属アルコキシドのみを原料とすることができるし、或いは有機置換基を有する金属アルコキシドと有機置換基をもたない金属アルコキシドとを混合して原料とすることもできる。なお、混合する場合、その混合比率は特に限定するものではない。
【0021】
他方、金属無機化合物としては、例えば、塩化物、硝酸塩等を挙げることができる。例えば、酸化スズの場合、塩化スズを原料に使用し、アルコール溶媒に溶解させて加熱により加水分解縮重合反応を進行させることにより、曳糸性ゾル溶液を調製することができる。金属元素がチタンやジルコニアの場合、原料にアルコキシドを用いると、水との反応性が高いため、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アセチルアセトン、アセト酢酸エチルエステル等の配位子を使用し、アルコール溶媒、酸触媒を適宜選択することにより加水分解縮重合反応を進行させて、曳糸性ゾル溶液を調製することができる。
【0022】
これらの曳糸性ゾル溶液は、2種類以上の曳糸性ゾル溶液を混合して使用することができるし、2種類以上の金属化合物から曳糸性ゾル溶液を調製することもできる。
次に、(2)前記無機系曳糸性ゾル溶液と、前記無機系曳糸性ゾル溶液を溶解可能な溶媒と、前記溶媒に溶解可能で、かつ融点または軟化温度または分解温度のいずれかが160℃以上の耐熱性樹脂とを混合して、塗工液を調製する工程を実施する。これらの混合順序は塗工液が得られる限り特に限定されるものではなく、任意の順序で、あるいは、2成分又は3成分を同時に混合することができる。
【0023】
前記溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、アルコール系溶媒(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール)を挙げることができる。使用する耐熱性樹脂と曳糸性ゾル溶液に応じて適宜決定することができ、曳糸性ゾル溶液と耐熱性樹脂が溶液中で相分離やゲル化を起こすことなく、どちらも均一に溶解可能である溶媒を選択する。
【0024】
本発明の「耐熱性樹脂」は、樹脂が融点を有する結晶性樹脂の場合は融点が160℃以上であるもの、樹脂が融点を有しない非晶性樹脂の場合は軟化温度が160℃以上であるもの、熱硬化性樹脂のように融点及び軟化温度を有しない樹脂の場合は分解温度が160℃以上であるものを耐熱性樹脂と定義する。なお、樹脂の融点は、JIS K 7121(2012)「プラスチックの転移温度測定方法」の融解温度のことをいい、また、樹脂の軟化温度は、JIS K 7206(2016)「プラスチック-熱可塑性プラスチック-ビカット軟化温度(VST)の求め方」のビカット軟化温度をいい、更に、樹脂の分解温度は、JIS K 7120(1987)「プラスチックの熱重量測定方法」の終了温度をいう。
【0025】
耐熱性樹脂の融点または軟化温度または分解温度のいずれかは、160℃以上であるが、融点または軟化温度または分解温度のいずれかが高ければ高いほど、より高温で熱処理ができ、機械的強度が優れる無機含有有機膜が製造できることから、180℃以上がより好ましく、200℃以上が更に好ましい。
【0026】
前記溶媒に溶解可能で、かつ融点または軟化温度または分解温度のいずれかが160℃以上の耐熱性樹脂としては、融点または軟化温度または分解温度のいずれかが160℃以上であれば特に限定されるものではなく、例えば、ポリイミド樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、又はシリコーン樹脂などを挙げることができ、ポリイミド樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂が好ましい。
【0027】
耐熱性樹脂質量と無機系曳糸性ゾル溶液の固形分質量の合計量に対する、無機系曳糸性ゾル溶液の固形分質量の比率は、10mass%以下であるのが好ましく、5mass%以下であるのがより好ましく、1mass%以下であるのが更に好ましい。10mass%を超えると、無機含有有機膜の機械的強度が向上しにくくなる傾向があるためである。なお、無機成分によって無機含有有機膜の機械的強度を向上させるためには、0.01mass%以上含んでいるのが好ましく、0.1mass%以上含んでいるのがより好ましい。なお、耐熱性樹脂質量と無機系曳糸性ゾル溶液の固形分質量の合計量に対する、曳糸性ゾル溶液の固形分質量の比率(Mr2)は、曳糸性ゾル溶液の固形分質量(Ms2)の、曳糸性ゾル溶液の固形分質量(Ms2)と耐熱性樹脂の固形分質量(Mp)の合計量に対する比をいう。つまり、次の式から算出される値をいう。
Mr2={Ms2/(Ms2+Mp)}×100
【0028】
このような曳糸性ゾル溶液と耐熱性樹脂又は耐熱性樹脂溶液との混合は、特に限定するものではないが、例えば、単に混合し、攪拌するだけで塗工液を得ることができる。なお、塗工液を調製するときに、ゾル溶液は曳糸性を有する必要はない。例えば、曳糸性ありと判定されたゾル溶液を希釈し、その希釈状態では曳糸性のないゾル溶液であっても使用することができる。
【0029】
次いで、(3)前記塗工液を基材に塗布し、160℃以上で熱処理して、無機系ゲルと耐熱性樹脂とからなる無機含有有機膜を形成する工程を実施して、無機含有有機膜を製造する。
【0030】
この塗工液の塗布は公知の方法により実施することができ、例えば、キャスティングによる基材への塗布を挙げることができる。また、塗布量は所望とする無機含有有機膜の厚さによって異なるため特に限定するものではない。無機含有有機膜の厚さが所望厚さとなるように、塗工液の濃度等を考慮して、適宜設定する。
【0031】
なお、基材は塗工液を支持し、塗工液から無機含有有機膜を成膜した後に取り除かれるが、基材塗工面は平滑であっても、凹凸があっても良い。平滑であれば、無孔の無機含有有機膜を製造しやすく、凹凸があれば、有孔の無機含有有機膜を製造しやすい。また、塗工液を塗布した後に無機含有有機膜の形態を固定するため、基材はこの工程によって、形態が変化しないものを使用するのが好ましい。
【0032】
また、熱処理する際の温度は、160℃以上であればよいが、熱処理温度が高ければ高いほど、機械的強度が優れる無機含有有機膜が製造できる傾向があることから、180℃以上がより好ましく、200℃以上が更に好ましい。なお、熱処理温度が高ければ高いほど、機械的強度が優れる無機含有有機膜が製造できる理由としては、無機含有有機膜に含まれる無機成分同士、及び無機成分と有機成分が強固に結合するためと考えられる。熱処理する際の熱処理時間は、十分に無機含有有機膜に含まれる無機成分同士が強固に結合できるように、30分以上が好ましく、40分以上がより好ましく、60分以上が更に好ましい。熱処理する際の熱処理方法は、特に限定するものではなく、例えば、オーブン、赤外線、熱風、誘導加熱により実施できる。このときの熱処理は、塗工液を基材に塗布してから、基材を取り除かずに熱処理してもよいし、塗工液を塗布した後に形態を固定し、基材を取り除いてから熱処理してもよい。この塗工液を塗布した後に形態を固定する方法は、基材を取り除いて膜のみとしても取り扱うことができる程度に、曳糸性ゾル及び耐熱性樹脂を固定し、無機含有有機膜の形態を固定できる方法であれば良く、特に限定するものではないが、例えば、乾燥して塗工液の溶媒を除去する方法、凝固浴中に浸漬して塗工液の溶媒を除去するなど凝固させる方法、光を照射することによって硬化させる方法、加熱することによって硬化させる方法、などを挙げることができる。乾燥して塗工液の溶媒を除去する場合は、例えば、オーブン、赤外線、熱風、誘導加熱により実施できる。また、形態を固定した後、基材を取り除く場合、基材の除去方法は160℃で熱処理する前の無機含有有機膜前駆体を基材から剥がすなど、取り除ければ良く、特に限定するものではない。基材を取り除かずに160℃以上で熱処理した後に基材を取り除く場合も、基材の除去方法は特に限定するものではない。
【0033】
製造された無機含有有機膜の膜厚は、使用する用途によって好適な膜厚が異なるので、特に限定するものではない。
【0034】
このような方法により製造された無機含有有機膜は、前記塗工液を基材に塗布する際に曳糸性ゾルが十分に分散していることから、無機成分が無機含有有機膜中に十分に分散しており、また、無機含有有機膜に含まれる無機成分同士、及び無機成分と有機成分が強固に結合しているため、耐熱性樹脂のみからなる有機膜、及び低温で熱処理した無機含有有機膜よりも機械的強度の向上した無機含有有機膜である。また、無機成分が無機含有有機膜中に十分に分散していることによって、柔軟性にも優れている。更に、無機成分が機能性を有する場合には、その機能を発揮することができる。
【実施例0035】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0036】
(曳糸性ジルコニアゾル溶液の調製工程)
ジルコニウムテトラノルマルブトキシド、アセト酢酸エチル、塩化ヒドラキシルアンモニウム、水、2-プロパノールを1:1.5:0.02:1.5:22のモル比で混合し、室温下で3日間攪拌した。そして、エバポレータにより、ジルコニア濃度が30wt%になるまで濃縮した後、粘度が2100~2700mPa・sになるまで増粘させて、曳糸性ジルコニアゾル溶液を得た。なお、ジルコニウムテトラノルマルブトキシドが無機原料として、アセト酢酸エチルが配位子として、塩化ヒドラキシルアンモニウムが触媒として、それぞれ機能する。
【0037】
(曳糸性チタニアゾル溶液の調製工程)
チタニウムテトラノルマルブトキシド、乳酸エチル、塩化ヒドラキシルアンモニウム、水、2-プロパノールを1:1:0.02:1.5:22のモル比で混合し、室温下3日間攪拌した。そして、エバポレータにより、チタニア濃度が30wt%になるまで濃縮した後、粘度が2100~2700mPa・sになるまで増粘させて、曳糸性チタニアゾル溶液を得た。なお、チタニウムテトラノルマルブトキシドが無機原料として、乳酸エチルが配位子として、塩化ヒドラキシルアンモニウムが触媒として、それぞれ機能する。
【0038】
(曳糸性アルミナゾル溶液の調製工程)
アルミニウムsec-ブトキシド、乳酸エチル、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、水、2-プロパノールを1:5:0.0025:1:5のモル比で混合し、温度70℃で15時間加熱撹拌し、縮重合させた。そして、エバポレータにより、アルミナ濃度が15wt%になるまで濃縮した後、粘度が2000~3000mPa・sになるまで増粘させて、曳糸性アルミナゾル溶液を得た。なお、アルミニウムsec-ブトキシドが無機原料として、乳酸エチルが配位子として、テトラブチルアンモニウムヒドロキシドが触媒として、それぞれ機能する。
【0039】
(実施例1)
ポリイミド溶液(固形分濃度:10mass%、溶媒:N,N-ジメチルホルムアミド)と曳糸性ジルコニアゾル溶液とを、最終生成物のジルコニア含有ポリイミド膜におけるジルコニアの割合が1mass%となるように混合して、脱泡機(株式会社シンキー製、あわとり練太郎 ARE-310)で攪拌(回転数:2000rpm)を行うことで塗工液を調製した。
次に、前記塗工液を、平らなガラス板(基材)上にバーコーターで製膜し、オーブンにより温度80℃で60分間の乾燥を実施して溶媒を除去して形態を固定し、ガラス板から膜状のジルコニア含有ポリイミド膜前駆体をはがしてガラス板を取り除き、更に温度180℃で60分間の熱処理を実施して、ジルコニア含有ポリイミド膜を製造した。
【0040】
(実施例2)
実施例1に記載のジルコニア含有ポリイミド膜前駆体を、温度270℃で60分間の熱処理を実施したことを除いては、実施例1と同様にして、ジルコニア含有ポリイミド膜を製造した。
【0041】
(実施例3)
実施例1に記載のジルコニア含有ポリイミド膜前駆体を、温度400℃で60分間の熱処理を実施したことを除いては、実施例1と同様にして、ジルコニア含有ポリイミド膜を製造した。
【0042】
(実施例4)
実施例1と同じポリイミド溶液と曳糸性チタニアゾル溶液とを、最終生成物のチタニア含有ポリイミド膜におけるチタニアの割合が1mass%となるように混合して、実施例1と同じ脱泡機で攪拌(回転数:2000rpm)を行うことで塗工液を調製した。
次に、前記塗工液を、平らなガラス板上にバーコーターで製膜し、温度80℃で60分間の乾燥を実施して形態を固定し、ガラス板から膜状のチタニア含有ポリイミド膜前駆体をはがしてガラス板を取り除き、更に温度180℃で60分間の熱処理を実施して、チタニア含有ポリイミド膜を製造した。
【0043】
(実施例5)
実施例4に記載のチタニア含有ポリイミド膜前駆体を、温度270℃で60分間の熱処理を実施したことを除いては、実施例4と同様にして、チタニア含有ポリイミド膜を製造した。
【0044】
(実施例6)
実施例1と同じポリイミド溶液と曳糸性アルミナゾル溶液とを、最終生成物のアルミナ含有ポリイミド膜におけるアルミナの割合が1mass%となるように混合して、実施例1と同じ脱泡機で攪拌(回転数:2000rpm)を行うことで塗工液を調製した。
次に、前記塗工液を、平らなガラス板上にバーコーターで製膜し、温度80℃で60分間の乾燥を実施して形態を固定し、ガラス板から膜状のアルミナ含有ポリイミド膜前駆体をはがしてガラス板を取り除き、更に温度180℃で60分間の熱処理を実施して、アルミナ含有ポリイミド膜を製造した。
【0045】
(実施例7)
実施例6に記載のアルミナ含有ポリイミド膜前駆体を、温度270℃で60分間の熱処理を実施したことを除いては、実施例6と同様にして、アルミナ含有ポリイミド膜を製造した。
【0046】
(実施例8)
実施例6に記載のアルミナ含有ポリイミド膜前駆体を、温度400℃で60分間の熱処理を実施したことを除いては、実施例6と同様にして、アルミナ含有ポリイミド膜を製造した。
【0047】
(実施例9)
ポリベンゾイミダゾール溶液(固形分濃度:15mass%、溶媒:N,N-ジメチルアセトアミド)と曳糸性ジルコニアゾル溶液とを、最終生成物のジルコニア含有ポリベンゾイミダゾール膜におけるジルコニアの割合が1mass%となるように混合して、実施例1と同じ脱泡機で攪拌(回転数:2000rpm)を行うことで塗工液を調製した。
次に、前記塗工液を、平らなガラス板上にバーコーターで製膜し、温度80℃で60分間の乾燥を実施して形態を固定し、ガラス板から膜状のジルコニア含有ポリベンゾイミダゾール膜前駆体をはがしてガラス板を取り除き、更に温度180℃で60分間の熱処理を実施して、ジルコニア含有ポリベンゾイミダゾール膜を製造した。
【0048】
(実施例10)
実施例9に記載のジルコニア含有ポリベンゾイミダゾール膜前駆体を、温度270℃で60分間の熱処理を実施したことを除いては、実施例9と同様にして、ジルコニア含有ポリベンゾイミダゾール膜を製造した。
【0049】
(実施例11)
実施例9と同じポリベンゾイミダゾール溶液と曳糸性チタニアゾル溶液とを、最終生成物のチタニア含有ポリベンゾイミダゾール膜におけるチタニアの割合が1mass%となるように混合して、実施例1と同じ脱泡機で攪拌(回転数:2000rpm)を行うことで塗工液を調製した。
次に、前記塗工液を、平らなガラス板上にバーコーターで製膜し、温度80℃で60分間の乾燥を実施して形態を固定し、ガラス板から膜状のチタニア含有ポリベンゾイミダゾール膜前駆体をはがしてガラス板を取り除き、更に温度180℃で60分間の熱処理を実施して、チタニア含有ポリベンゾイミダゾール膜を製造した。
【0050】
(実施例12)
実施例11に記載のチタニア含有ポリベンゾイミダゾール膜前駆体を、温度270℃で60分間の熱処理を実施したことを除いては、実施例11と同様にして、チタニア含有ポリベンゾイミダゾール膜を製造した。
【0051】
(実施例13)
実施例9と同じポリベンゾイミダゾール溶液と曳糸性アルミナゾル溶液とを、最終生成物のアルミナ含有ポリベンゾイミダゾール膜におけるアルミナの割合が1mass%となるように混合して、実施例1と同じ脱泡機で攪拌(回転数:2000rpm)を行うことで塗工液を調製した。
次に、前記塗工液を、平らなガラス板上にバーコーターで製膜し、温度80℃で60分間の乾燥を実施して形態を固定し、ガラス板から膜状のチタニア含有ポリベンゾイミダゾール膜前駆体をはがしてガラス板を取り除き、更に温度180℃で60分間の熱処理を実施して、アルミナ含有ポリベンゾイミダゾール膜を製造した。
【0052】
(実施例14)
実施例13に記載のアルミナ含有ポリベンゾイミダゾール膜前駆体を、温度270℃で60分間の熱処理を実施したことを除いては、実施例13と同様にして、アルミナ含有ポリベンゾイミダゾール膜を製造した。
【0053】
(比較例1)
実施例1に記載のジルコニア含有ポリイミド膜前駆体を、温度150℃で60分間の熱処理を実施したことを除いては、実施例1と同様にして、ジルコニア含有ポリイミド膜を製造した。
【0054】
(比較例2)
実施例4に記載のチタニア含有ポリイミド膜前駆体を、温度150℃で60分間の熱処理を実施したことを除いては、実施例4と同様にして、チタニア含有ポリイミド膜を製造した。
【0055】
(比較例3)
実施例6に記載のアルミナ含有ポリイミド膜前駆体を、温度150℃で60分間の熱処理を実施したことを除いては、実施例6と同様にして、アルミナ含有ポリイミド膜を製造した。
【0056】
(比較例4)
実施例1と同じポリイミド溶液を、実施例1と同じ脱泡機で攪拌(回転数:2000rpm)を行うことで塗工液を調製した。
次に、前記塗工液を、平らなガラス板上にバーコーターで製膜し、温度80℃で60分間の乾燥を実施して形態を固定し、ガラス板から膜状のポリイミド膜前駆体をはがしてガラス板を取り除き、更に温度150℃で60分間の熱処理を実施して、無機成分を含有しないポリイミド膜を製造した。
【0057】
(比較例5)
比較例4に記載のポリイミド膜前駆体を、温度180℃で60分間の熱処理を実施したことを除いては、比較例4と同様にして、無機成分を含有しないポリイミド膜を製造した。
【0058】
(比較例6)
比較例4に記載のポリイミド膜前駆体を、温度270℃で60分間の熱処理を実施したことを除いては、比較例4と同様にして、無機成分を含有しないポリイミド膜を製造した。
【0059】
(比較例7)
比較例4に記載のポリイミド膜前駆体を、温度400℃で60分間の熱処理を実施したことを除いては、比較例4と同様にして、無機成分を含有しないポリイミド膜を製造した。
【0060】
(比較例8)
実施例9に記載のジルコニア含有ポリベンゾイミダゾール膜前駆体を、温度150℃で60分間の熱処理を実施したことを除いては、実施例9と同様にして、ジルコニア含有ポリベンゾイミダゾール膜を製造した。
【0061】
(比較例9)
実施例11に記載のチタニア含有ポリベンゾイミダゾール膜前駆体を、温度150℃で60分間の熱処理を実施したことを除いては、実施例11と同様にして、チタニア含有ポリベンゾイミダゾール膜を製造した。
【0062】
(比較例10)
実施例13に記載のアルミナ含有ポリベンゾイミダゾール膜前駆体を、温度150℃で60分間の熱処理を実施したことを除いては、実施例13と同様にして、アルミナ含有ポリベンゾイミダゾール膜を製造した。
【0063】
(比較例11)
実施例9と同じポリベンゾイミダゾール溶液を、実施例1と同じ脱泡機で攪拌(回転数:2000rpm)を行うことで塗工液を調製した。
次に、前記塗工液を、平らなガラス板上にバーコーターで製膜し、温度80℃で60分間の乾燥を実施して形態を固定し、ガラス板から膜状のポリベンゾイミダゾール膜前駆体をはがしてガラス板を取り除き、更に温度150℃で60分間の熱処理を実施して、無機成分を含有しないポリベンゾイミダゾール膜を製造した。
【0064】
(比較例12)
比較例11に記載のポリベンゾイミダゾール膜前駆体を、温度180℃で60分間の熱処理を実施したことを除いては、比較例11と同様にして、無機成分を含有しないポリベンゾイミダゾール膜を製造した。
【0065】
(比較例13)
比較例11に記載のポリベンゾイミダゾール膜前駆体を、温度270℃で60分間の熱処理を実施したことを除いては、比較例11と同様にして、無機成分を含有しないポリベンゾイミダゾール膜を製造した。
【0066】
実施例及び比較例の無機含有有機膜/有機膜の組成及び熱処理温度、膜厚(ミツトヨ製、デジタルシックネスゲージ、型番:ID-C112BSで5か所測定し、その算術平均値)を、以下の表1に示す。
【0067】
【0068】
また、以下の方法で、実施例及び比較例の無機含有有機膜/有機膜を評価した。
【0069】
(引張試験)
定速伸長型引張試験機(オリエンテック製、UCT-100)を用いて、次の条件により、サンプルが破断するまでの最大荷重を測定した。この最大荷重の測定を5枚のサンプルについて行い、これら最大荷重を算術平均し、膜厚1μmあたりに換算したものを引張り強さとした。
(測定条件)
チャック間距離:50mm
引張り速度:50mm/min.
サンプルサイズ:幅5mm、長さ70mm
また、前記試料が破断に至った際の試料の伸びをもとに、次の式から伸度(S)を算出した。
S={(Lb-L0)/L0}×100={ (Lb-50)/50}×100
ここで、Lbは5枚の破断時の試料の長さの算術平均値(単位:mm)、L0は測定前の試料の長さ、つまりチャック間距離(単位:mm)をそれぞれ意味する。
【0070】
実施例及び比較例の無機含有有機膜の引張り強さ及び伸度を、以下の表2に示す。
【0071】
【0072】
表2の実施例と比較例1~3、8~10との比較から、無機系曳糸性ゾル溶液を融点160℃以上の耐熱性樹脂と混合し、成膜して160℃以上で熱処理することにより、無機含有有機膜の機械的強度が向上することがわかった。また、実施例と比較例4~7、11~13との比較から、無機系曳糸性ゾル溶液を含む無機含有有機膜と含まない有機膜を同じ温度で熱処理したもので比較した際に、無機系曳糸性ゾル溶液を含む無機含有有機膜の方が、機械的強度が高いことがわかった。
本発明の製造方法によれば、機械的強度が向上した無機含有有機膜を製造することができる。このような無機含有有機膜は、例えば、センサーや電子デバイス、分離膜、支持膜などの用途に適用することができる。