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特開2022-48528空気漏れ可視化システム及び空気漏れ可視化方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022048528
(43)【公開日】2022-03-28
(54)【発明の名称】空気漏れ可視化システム及び空気漏れ可視化方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 90/00 20160101AFI20220318BHJP
   A61B 1/313 20060101ALI20220318BHJP
   G01M 3/20 20060101ALN20220318BHJP
【FI】
A61B90/00
A61B1/313
G01M3/20 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020154394
(22)【出願日】2020-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】592019213
【氏名又は名称】学校法人昭和大学
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】植松 秀護
【テーマコード(参考)】
2G067
4C161
【Fターム(参考)】
2G067AA48
2G067BB02
2G067BB15
2G067BB26
2G067CC18
2G067DD11
2G067EE08
4C161AA26
4C161GG01
(57)【要約】
【課題】微量なリークでも検知可能な視認性の高い空気漏れ可視化システムを提供する。
【解決手段】患者Hの胸腔H1内に漏れ出す空気を可視化するための空気漏れ可視化システム1である。
そして、レーザ光が出射される先端211が胸腔内に挿入されるレーザ照射装置2と、胸腔内にトレーサTRを停留させるトレーサ供給装置3と、レーザ光がトレーサで散乱した胸腔内の状態を撮影する内視鏡部4と、内視鏡部によって撮影された画像を出力するモニタ43とを備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の胸腔内に漏れ出す空気を可視化するための空気漏れ可視化システムであって、
レーザ光が出射される先端が前記胸腔内に挿入されるレーザ照射装置と、
前記胸腔内にトレーサを停留させるトレーサ供給装置と、
前記レーザ光が前記トレーサで散乱した前記胸腔内の状態を撮影する撮像装置と、
前記撮像装置によって撮影された画像を出力する出力装置とを備えたことを特徴とする空気漏れ可視化システム。
【請求項2】
前記レーザ照射装置は、レーザ光源部と、前記レーザ光源部を収容するとともに前記胸腔内に先端が配置される筒部と、前記筒部の先端に配置される円柱状透過体とを備えたことを特徴とする請求項1に記載の空気漏れ可視化システム。
【請求項3】
前記レーザ照射装置は、前記胸腔内に先端が配置される筒部と、前記筒部の先端に配置されて出射角度が可変のレーザ光源部と、前記レーザ光源部の出射側に配置されるスリット部とを備えたことを特徴とする請求項1に記載の空気漏れ可視化システム。
【請求項4】
前記トレーサ供給装置は、前記トレーサを発生させるトレーサ発生部と、前記トレーサ発生部で発生させた前記トレーサを前記胸腔内に誘導するガイド筒部とを備えたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の空気漏れ可視化システム。
【請求項5】
患者の胸腔内に漏れ出す空気を可視化するための空気漏れ可視化方法であって、
前記胸腔内にトレーサを停留させるステップと、
前記トレーサが停留した前記胸腔内にレーザ光を出射するステップと、
前記レーザ光が前記トレーサで散乱した前記胸腔内の状態を撮影するステップとを備えたことを特徴とする空気漏れ可視化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の胸腔内に漏れ出す空気を可視化するための空気漏れ可視化システム及び空気漏れ可視化方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
胸部手術の手術中に、肺や気管支の損傷部や、肺瘻などによって空気漏れ(リーク)が起きている場合、その空気漏れの箇所を同定し、修復する必要がある。肺実質からのリークには、手術操作に伴い医原性に生じるものと、自然気胸のような肺胸膜の穿破に伴うものとがある。
【0003】
手術におけるリーク制御は、手術後の入院期間の延長や合併症の増加に関係しているため、微量なリークでも検知して、修復を行うことが重要になる。手術中のリークの評価方法としては、特許文献1-3に開示されているような水封試験によるものが知られている。
【0004】
水封試験は、胸腔内に生理食塩水を注入して肺を浸し、肺を膨らました際に胸膜欠損部から漏れ出る空気の泡を視認し、リークの程度を示す泡の大きさと量を定性的に判断する手法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-41780号公報
【特許文献2】特開2014-136104号公報
【特許文献3】特開2016-93227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、水封試験は、リークの程度を泡の大きさと量で主観的に判断するため、客観性に欠け、術者の技量に左右される。また、鏡視下手術の場面では、胸腔内に注入された水や飛び散る水滴によって内視鏡のカメラが汚れ、視認性が低下するとともに、カメラの清掃などに手間や時間がかかる。そして、水封試験に用いた水そのものが血液付着の医療廃棄物になるため、廃棄物処理にコストがかかる。
【0007】
そこで、本発明は、微量なリークでも検知可能な視認性の高い空気漏れ可視化システム及び空気漏れ可視化方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の空気漏れ可視化システムは、患者の胸腔内に漏れ出す空気を可視化するための空気漏れ可視化システムであって、レーザ光が出射される先端が前記胸腔内に挿入されるレーザ照射装置と、前記胸腔内にトレーサを停留させるトレーサ供給装置と、前記レーザ光が前記トレーサで散乱した前記胸腔内の状態を撮影する撮像装置と、前記撮像装置によって撮影された画像を出力する出力装置とを備えたことを特徴とする。
【0009】
ここで、前記レーザ照射装置は、レーザ光源部と、前記レーザ光源部を収容するとともに前記胸腔内に先端が配置される筒部と、前記筒部の先端に配置される円柱状透過体とを備えた構成とすることができる。また、前記レーザ照射装置は、前記胸腔内に先端が配置される筒部と、前記筒部の先端に配置されて出射角度が可変のレーザ光源部と、前記レーザ光源部の出射側に配置されるスリット部とを備えた構成であってもよい。
【0010】
一方、前記トレーサ供給装置は、前記トレーサを発生させるトレーサ発生部と、前記トレーサ発生部で発生させた前記トレーサを前記胸腔内に誘導するガイド筒部とを備えた構成とすることができる。
【0011】
そして、空気漏れ可視化方法の発明は、患者の胸腔内に漏れ出す空気を可視化するための空気漏れ可視化方法であって、前記胸腔内にトレーサを停留させるステップと、前記トレーサが停留した前記胸腔内にレーザ光を出射するステップと、前記レーザ光が前記トレーサで散乱した前記胸腔内の状態を撮影するステップとを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
このように構成された本発明の空気漏れ可視化システムは、レーザ光が出射される先端が胸腔内に挿入されるレーザ照射装置と、胸腔内にトレーサを停留させるためのトレーサ供給装置とを備えている。そして、レーザ光がトレーサで散乱した胸腔内の状態を撮像装置で撮影して、その画像を出力装置に出力させる。
【0013】
このようにレーザ光によって空気漏れ(リーク)を可視化させる構成であれば、胸腔内の撮影環境を劣化させることがなく、微量なリークでも検知可能な視認性の高い空気漏れ可視化システムにすることができる。
【0014】
また、空気漏れ可視化方法の発明は、トレーサを停留させた胸腔内にレーザ光を出射して、トレーサで散乱した胸腔内の状態を撮影する方法であるため、水封試験のように生理食塩水などによってカメラの視認性を低下させることがなく、微量なリークでも検知することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施の形態の空気漏れ可視化システムの構成を模式的に示した説明図である。
図2】レーザ照射装置を例示した図であって、(a)は筒部の先端でレーザ光を屈折させることでシート状に広げる構成のレーザ照射装置の説明図、(b)は筒部の先端にレーザ光源部を配置する構成のレーザ照射装置の説明図である。
図3】トレーサ供給装置を模式的に例示した説明図である。
図4】胸腔内の撮影状態を説明するための模式図である。
図5】空気漏れが起きている状態を撮影した画像の一例である。
図6】漏れ出る空気の流速が速い場合の可視化状況を説明する図であって、(a)は撮影画像の一例、(b)は画像を模式的に示した説明図である。
図7】漏れ出る空気の流速が遅い場合の可視化状況を説明する図であって、(a)は撮影画像の一例、(b)は画像を模式的に示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施の形態の空気漏れ可視化システム1の構成を模式的に示した説明図である。
【0017】
本実施の形態の空気漏れ可視化システム1は、人(患者H)の胸腔内の状態を撮影するためのシステムである。特に、患者Hの胸腔H1の内部に、肺、気管支、気管などから漏れ出す空気(リーク)を可視化するのに適している。
【0018】
胸部手術の手術中に、肺H2や気管支などの損傷部、肺瘻などによって空気漏れ(リーク)が起きていることがある。このような肺実質からのリークは、手術後の入院期間の延長や合併症の増加に関係しているため、微量なリークでも検知して、修復を行うリーク制御が重要になる。そこで、本実施の形態の空気漏れ可視化システム1を使用することで、空気漏れが起きている箇所を高精度に同定し、微量なリークでも検知できるようにする。
【0019】
本実施の形態の空気漏れ可視化システム1は、レーザ光(LS)が出射される先端211が胸腔H1の内部に挿入されるレーザ照射装置2と、胸腔内にトレーサTRを停留させるトレーサ供給装置3と、レーザ光がトレーサTRで散乱した胸腔内の状態を撮影する撮像装置となる内視鏡部4と、内視鏡部4によって撮影された画像を出力するモニタ43などの出力装置とを備えている。
【0020】
図2には、レーザ照射装置2の具体例として、2つのレーザ照射装置2A,2Bを模式的に示した図である。図2(a)に示したレーザ照射装置2Aは、レーザ光源部23と、レーザ光源部23を収容するとともに胸腔内に先端241が配置される筒部24と、筒部24の先端241に配置される円柱状透過体であるガラス円柱25とによって主に構成される。
【0021】
レーザ光源部23は、350nm-750nm程度の波長のレーザ光を出射させるユニットで、接続させる電源22がバッテリであれば、ハンディタイプにするなど携帯性を高めることができる。例えば532nmの波長のレーザ光を出射させるYAGレーザなどが使用できる。
【0022】
レーザ光源部23を収容する筒部24は、先端241側が患者Hの体内に挿入される挿入部21となる中空のチューブである。筒部24は、レーザ光に対して非透過性及び非燃焼性の材料によって形成される。そして、患者Hの体内に挿入させずに体外に突出させる筒部24の内空に、レーザ光源部23が収容される。
【0023】
一方、筒部24の先端241の開口に隣接した位置には、ガラス円柱25が配置される。このガラス円柱25は、直進するレーザ光LBをシート状のスクリーンLSに形成するためのシリンドリカルレンズである。胸腔内にシート状(膜状)のスクリーンLSを形成することで、流れ場の断面を可視化することができるようになる。
【0024】
すなわち、レーザ光源部23から出射された点状のレーザ光LBは、ガラス円柱25を通過して、ガラス円柱25の軸回りの360度の方向に屈折されてシート状になる。筒部24の先端241を任意の形状にカットすることにより、筒部24の内部から外部に照射されるシート状のスクリーンLSの照射方向を設定することができる。
【0025】
例えば図2(a)においては、筒部24の先端241は庇状に斜めにカットされている。このような形状にすることで、ガラス円柱25により上向きに屈折したレーザ光は筒部24の周壁で遮断され、直進から下向きのシート状に広がったレーザ光により扇状のスクリーンLSが形成される。
【0026】
一方、図2(b)に示したレーザ照射装置2Bは、胸腔内に先端261が配置される筒部26と、筒部26の先端261に配置されて出射角度が可変のレーザ光源部27と、レーザ光源部27の出射側に配置されるスリット部28とによって主に構成される。
【0027】
レーザ光源部27は、上述したレーザ光源部23と同様のレーザ光を出射させるユニットで、筒部26を通したコード271によって電源22に接続される。レーザ光源部27を先端261付近に収容する筒部26は、先端261側が患者Hの体内に挿入される挿入部21となる中空のチューブである。
【0028】
筒部26は、上述した筒部24とは異なり、レーザ光を通過させることがないので、様々な医療向けの材料によって形成することができる。そして、筒部26の先端261には、向きを任意に変動させることができるようにレーザ光源部27が取り付けられる。
【0029】
レーザ光源部27から胸腔内に向けて出射されるレーザ光は、スリット部28を通過することでシート状に広がって、スクリーンLSが形成される。すなわち、レーザ光源部27の角度を調整することで、任意の角度に向いたシート状のスクリーンLSを形成することができる。
【0030】
レーザ光源部27を任意の角度に調整できるようにすることで、観察対象部位からレーザ光源部27の出射位置までの距離を長くして、より大きなスクリーンLSを作成することができるようになる。また、直進のレーザ光では影になる部位に対しても、レーザ光源部27の角度を調整することで、レーザ光が届くようにすることができる。
【0031】
図3は、トレーサ供給装置3の一例を模式図によって説明する図である。このトレーサ供給装置3は、トレーサTRを発生させるトレーサ発生部31と、トレーサ発生部31で発生させたトレーサTRを胸腔内に誘導するガイド筒部32とによって主に構成される。
【0032】
トレーサ発生部31は、レーザ光を散乱させるのに適した粒子などのトレーサTRを発生させるユニットで、バッテリなどの電源33に接続される。また、トレーサ発生部31には、発生させたトレーサTRを排出するための吐出チューブ311が接続される。
【0033】
ガイド筒部32は、吐出チューブ311から排出されたトレーサTRを後端から取り込み、胸腔内に配置される先端部321までトレーサTRを搬送させるための中空のチューブで、様々な医療向けの材料によって形成することができる。
【0034】
そして、胸腔内の任意の位置に配置することが可能な先端部321からは、トレーサTRが排出されて、胸腔内にトレーサTRを停留させることができる。胸腔内に注入されるトレーサTRは、人体に対して無害なものが望ましく、例えば霧状に生成された水(ミスト)や煙(スモーク)をトレーサTRとして使用することができる。
【0035】
胸腔内に停留するトレーサTRとシート状のレーザ光とにより形成されるスクリーンLSによって、流れ場が可視化された断面として表れる。この断面(スクリーンLS)に対して、正面からの撮影が可能となるように、撮像装置となる内視鏡部4を配置する。
【0036】
内視鏡部4は、患者Hの外部から体内を観察するための装置である。内視鏡部4は、胸腔内に挿入される撮像部41と、撮像部41によって撮影された撮像データを処理する画像処理装置42とを備えている。
【0037】
撮像部41は、CCD(Charge-Coupled Device)、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)などの撮像素子を有している。この撮像素子によって胸腔内の部位の光学像を撮像すると、その光学像に応じた電気信号が出力される。
【0038】
撮像部41は、開口面がスクリーンLSの面に対して略平行となる位置に配置されるのが望ましい。すなわち、スクリーンLSの面に対して撮像部41の光軸が略直交する正面において、撮像部41によるスクリーンLSの撮影が行われる。撮像部41が、高感度のハイスピードカメラであれば、トレーサTRの粒子自体を捉えることができる。
【0039】
内視鏡部4には、胸腔内に挿入する部分が曲がる軟性内視鏡と、曲がらない硬性内視鏡とがある。軟性内視鏡を使用する場合は、先端のCCDなどで撮像された撮像データが、電気的に画像処理装置42を介してモニタ43まで導かれて表示される。硬性内視鏡を使用する場合は、先端からレンズ系を繋いで体外の接眼部まで導き、接眼部にカメラヘッドなどを接続することで撮像データを取得することになる。
【0040】
画像処理装置42では、胸腔内を撮影した撮像データの信号処理を行う。ここで、信号処理とは、撮像部41によって入力される胸腔内を撮像した撮像データである電気信号を、映像信号に変換して出力する処理をいう。
【0041】
また、画像処理装置42にトレーサTRの粒子を追跡するソフトウェアを実装させることによって、粒子の運動方向や速度を算出することができるようになる。すなわち、漏れ出す空気の量(リーク量)を算出することができるようになる。例えば、粒子イメージ流速計(PIV:Particle Image Velocimetry)となるソフトウェアが実装されていれば、粒子によって可視化された流れ場のイメージから速度と方向を同時に解析することができる。
【0042】
撮像データから変換された映像信号は、モニタ43に動画の映像として表示される。また、撮像データから変換された映像信号は、ハードディスクドライブやソリッドステートドライブ(SSD : Solid State Drive)等の大容量記憶媒体、フラッシュメモリ等の不揮発性メモリなどの記憶部に記録される。
【0043】
内視鏡部4は、図示しない操作部や制御部などを備えていて、術者などが撮像の開始と終了の操作をしたり、画像処理装置42による変換の調整をしたりすることができる。また、撮像データに基づく映像をモニタ43に映し出したり、記憶部への記録と停止の操作をしたりすることができる。
【0044】
次に、本実施の形態の空気漏れ可視化システム1を使用して行われる空気漏れ可視化方法について説明する。
まず、図1に示すように、空気漏れ可視化システム1を構成するレーザ照射装置2、トレーサ供給装置3、内視鏡部4、モニタ43などを準備する。
【0045】
患者Hの体には、レーザ照射装置2の挿入部21を通すための小さな穴B1と、トレーサ供給装置3のガイド筒部32を通すための小さな穴B2と、内視鏡部4の撮像部41を通すための小さな穴B3を開ける。
【0046】
ここで、レーザ照射装置2の挿入部21は、先端211を胸腔内に挿入したり抜去したり、あるいは4方に動かしたりが自由にできるように、固定はされない。また、携帯性に優れた形態であることが好ましい。
【0047】
図4は、胸腔H1の内部の撮影状態を説明するための模式図である。胸壁H3には、挿入部21を通すための穴W1と、ガイド筒部32を通すための穴W2と、撮像部41を通すための穴W3が開けられる。
【0048】
患者Hの胸腔内に漏れ出す空気を可視化する空気漏れ可視化方法では、まず胸腔内にトレーサTRを停留させる。すなわち、ガイド筒部32の先端部321からミストをトレーサTRとして胸腔内に注入し、撮影したい肺H2の近傍にトレーサTRを停留させる。
【0049】
続いて、トレーサTRが停留した胸腔内に、挿入部21の先端211からレーザ光を出射することで、スクリーンLSが形成される。このスクリーンLSを形成する位置も、撮影したい肺H2の部位の近傍となる。
【0050】
スクリーンLSでは、照射されたレーザ光がトレーサTRで散乱して、胸腔内の粒体の流れ場の状態が視認できるようになる。この可視化された状態を、撮像部41によって撮影する。すなわち、撮像部41とスクリーンLSとの間に、撮影したい肺H2の部位(孔HL)がくるようにする。
【0051】
このように、撮像部41を撮影したい肺H2の近傍を挟んでスクリーンLSの正面に配置することで、肺H2に空いた孔HLからの空気の流れFLを撮影することができるようになる。
【0052】
肺H2、気管支、気管などから空気が漏れ出ると、それによりトレーサTR(粒子)が動くことになるため、この粒子の動きでもって、空気漏れの箇所を検知し、空気漏れの程度を評価(診断)することができるようになる。空気漏れの箇所は、どこに存在するかは診断前にはわからないため、レーザ照射装置2の挿入部21、内視鏡部4の撮像部41及びトレーサ供給装置3のガイド筒部32は、術者が所望する位置に容易に移動させることができる構成となっている。
【0053】
図5は、肺H2に空気漏れが起きている状態を胸腔内に見立てて撮影した画像の一例である。平面状に形成されたレーザ光によるスクリーンLSでは、スモークやミストやドライアイスなどの微粒子のトレーサTRが可視化状態になる。すなわち、レーザ光がトレーサTRにより反射されて、粒子の動きを映像として捉えることができるようになる。
【0054】
図5の画像は、摘出ブタ肺の肺瘻からの空気漏れ(リーク)を撮影した画像である。摘出ブタ肺の周囲には水のミストを停留させ、532nmの波長のレーザ光によってスクリーンLSを形成した。ブタ肺には20G針で穴を開け、肺を膨らませて、穴からのリークを撮影した。
【0055】
撮像部41によって撮影されるスクリーンLSにおいては、微粒子(トレーサTR)の密度に比例して、得られる像に濃淡が表れることになる。粒子の密度が高い領域は明るく映り、粒子の密度が低い領域は暗く映り、空気の流れにより層状の像が形成される。
【0056】
ここで、空気漏れの箇所から漏れ出た空気自体は粒子を含まないため、レーザ光で反射されない無構造領域として認識できるようになる。すなわち、図5の中央に黒い筋の煙のように立ち上る無構造帯から、空気漏れの箇所を同定することができる。
【0057】
また、肺H2から胸腔内に漏れ出た空気は、その周囲の空気を押し出したり、巻き込んだりして乱流を生じさせるため、粒子濃度の濃淡による層状の画が崩れることになる。この現象から、その原因となる空気漏れの箇所が近くにあると判断することができる。
【0058】
図6は、漏れ出る空気の流速が速い場合の可視化状況を説明する図である。図6(a)は胸腔内に見立てて撮影した画像の一例を示し、図6(b)は図6(a)の画像を模式的に示して説明を加えた図である。図6(a)の画像も、摘出ブタ肺を使用して撮影された画像である。
【0059】
レーザ光で可視化した粒子は、さらに画像処理により鮮明に捉えることができるようになる。例えば、画像処理装置42にインストールされたプログラムで画像処理した映像をモニタ43に出力させる。
【0060】
肺H2から漏れ出る空気の流速が速い場合は、漏れ出る空気によって線状の無構造領域が形成される。肺H2から胸腔内に噴出する空気に向かい、周囲の空気が引き込まれていく様子(コアンダ効果)も捉えることができる。
【0061】
一方、図7は、漏れ出る空気の流速が遅い場合の可視化状況を説明する図である。図6(a)は胸腔内に見立てて撮影した画像の一例を示し、図7(b)は図7(a)の画像を模式的に示して説明を加えた図である。図7(a)の画像も、摘出ブタ肺を使用して撮影された画像である。
【0062】
肺H2から漏れ出る空気の流速が遅い場合は、周囲の粒子は乱れないが、その画像の中に粒子を含まない空気を無構造領域として認識することができる。この無構造領域が、空気漏れの箇所として検知(判定)される。
【0063】
こうした空気漏れの箇所の判定(評価又は診断)は、術者がモニタ43を見ながら行うことができる。また、画像処理装置42に空気漏れの箇所の判定プログラムを実装させておくことで、自動的に検知させて、その検知結果をモニタ43に画像とともに出力させることもできる。
【0064】
判定プログラムには、例えば人工知能(AI:Artificial Intelligence)技術によるディープラーニングなどの機械学習などによって構築された学習成果を利用することができる。例えば、画像処理装置42に実装された粒子イメージ流速計(PIV)の計測値から算出される漏れ出す空気のリーク量を蓄積しておき、その蓄積されたデータに基づいて機械学習や統計処理を行わせることで判定モデルを構築することができる。あるいは、空気漏れの箇所が映し出された画像データを含むタグ付き学習用データを教師データとして、ディープラーニングを行わせることで、学習済み判定モデルを構築することもできる。
【0065】
次に、本実施の形態の空気漏れ可視化システム1及び空気漏れ可視化方法の作用について説明する。
このように構成された本実施の形態の空気漏れ可視化システム1は、レーザ光が出射される先端211が胸腔内に挿入されるレーザ照射装置2と、胸腔内にトレーサTRを停留させるトレーサ供給装置3とを備えている。そして、レーザ光がトレーサTRで散乱した胸腔内の状態を内視鏡部4で撮影して、その画像を出力装置となるモニタ43に出力させる。
【0066】
このようにレーザ光によって空気漏れ(リーク)を可視化させる構成であれば、胸腔内の撮影環境を水滴などで劣化させることがなく、微量なリークでも検知可能な視認性の高い空気漏れ可視化システム1にすることができる。
【0067】
また、本実施の形態の空気漏れ可視化方法は、トレーサTRを停留させた胸腔内にレーザ光を出射して、トレーサTRで散乱した胸腔内の状態を撮影する方法であるため、生理食塩水などによってカメラの視認性を低下させることがなく、微量なリークでも検知することができるようになる。また、水封試験のように多くの水を使用することがないので、血液付着の医療廃棄物の発生を最小限に抑えることができる。
【0068】
このような空気漏れ可視化システム1及び空気漏れ可視化方法は、肺手術中にリーク制御を行う際に活用することができる。また、胸腔鏡手術や、ロボット手術での鏡視下手術の支援技術としても活用することができる。
【0069】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0070】
例えば、前記実施の形態では、患者Hの体外に設置されたトレーサ発生部31において発生させたミストやスモークなどのトレーサTRを胸腔内に供給する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、レーザや電気メスなどのエネルギーデバイスによって胸腔内に発生するサージカルスモークをトレーサとするトレーサ供給装置であってもよい。
【符号の説明】
【0071】
1 :空気漏れ可視化システム
2 :レーザ照射装置
211 :先端
2A :レーザ照射装置
23 :レーザ光源部
24 :筒部
241 :先端
25 :ガラス円柱(円柱状透過体)
2B :レーザ照射装置
26 :筒部
261 :先端
27 :レーザ光源部
28 :スリット部
3 :トレーサ供給装置
31 :トレーサ発生部
32 :ガイド筒部
4 :内視鏡部(撮像装置)
43 :モニタ(出力装置)
H :患者
H1 :胸腔
TR :トレーサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7