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特開2022-48551メタライズセラミックス部材及びその製造方法並びにセラミックス溶接体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022048551
(43)【公開日】2022-03-28
(54)【発明の名称】メタライズセラミックス部材及びその製造方法並びにセラミックス溶接体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20220318BHJP
   C04B 37/00 20060101ALI20220318BHJP
   C04B 37/02 20060101ALI20220318BHJP
   B23K 1/005 20060101ALN20220318BHJP
【FI】
B23K20/12 360
C04B37/00 B
C04B37/02 Z
B23K1/005 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020154429
(22)【出願日】2020-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】517132810
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪産業技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】特許業務法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】園村 浩介
(72)【発明者】
【氏名】片桐 一彰
(72)【発明者】
【氏名】山口 拓人
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 友厚
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 泰則
(72)【発明者】
【氏名】田中 努
(72)【発明者】
【氏名】垣辻 篤
【テーマコード(参考)】
4E167
4G026
【Fターム(参考)】
4E167AA06
4E167AA07
4E167AA10
4E167AA21
4E167AA29
4E167AB03
4E167AB05
4E167AD03
4E167BB05
4E167BG05
4E167BG06
4E167BG12
4E167BG13
4E167BG16
4E167BG17
4E167BG25
4E167BG29
4E167BG30
4G026BA03
4G026BA14
4G026BB03
4G026BB14
4G026BE04
4G026BF33
4G026BF38
4G026BG02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】各種高張力鋼やアルミニウムの接合部及び熱影響部における機械的特性の低下を効果的に抑制することができる簡便な低温接合方法及び当該低温接合方法によって得られる接合構造物を提供する。
【解決手段】セラミックス基材4の表面にメタライズ層6を有するメタライズセラミックス部材2であって、メタライズ層6は接合界面8を介してセラミックス基材4に直接接合され、メタライズ層6が摩擦攪拌金属層であること、を特徴とするメタライズセラミックス部材2。摩擦攪拌金属層とは、金属材の摩擦攪拌現象によって形成された金属層である。摩擦熱によって金属材を昇温し、当該摩擦に伴う応力の印加によって金属材が塑性流動することで、摩擦攪拌金属層が形成される。摩擦攪拌現象を発現させる方法は、例えば、回転ツールを金属材に圧入する摩擦攪拌接合及び摩擦攪拌プロセスの原理を用いることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基材の表面にメタライズ層を有するメタライズセラミックス部材であって、
前記メタライズ層は接合界面を介して前記セラミックス基材に直接接合され、
前記メタライズ層が摩擦攪拌金属層であること、
を特徴とするメタライズセラミックス部材。
【請求項2】
前記接合界面近傍における前記メタライズ層の硬度が、前記メタライズ層の表面近傍の硬度よりも高いこと、
を特徴とする請求項1に記載のメタライズセラミックス部材。
【請求項3】
前記接合界面近傍における前記メタライズ層の格子歪が、前記メタライズ層の表面近傍の格子歪よりも大きいこと、
を特徴とする請求項1又は2に記載のメタライズセラミックス部材。
【請求項4】
前記接合界面に対して略垂直方向の引張試験において、前記セラミックス基材側で破断すること、
を特徴とする請求項1~3のうちのいずれかに記載のメタライズセラミックス部材。
【請求項5】
前記メタライズ層がマグネシウム、マグネシウム合金、アルミニウム及びアルミニウム合金のうちのいずれか一つからなること、
を特徴とする請求項1~4のうちのいずれかに記載のメタライズセラミックス部材。
【請求項6】
前記セラミックス基材がアルミナ又は炭化ケイ素からなること、
を特徴とする請求項1~5のうちのいずれかに記載のメタライズセラミックス部材。
【請求項7】
セラミックス基材の表面に金属材を配置し、
前記金属材の側から所定の回転速度で回転させた回転ツールを圧入し、
前記金属材を摩擦攪拌することで前記セラミックス基材の表面にメタライズ層を形成させること、
を特徴とするメタライズセラミックス部材の製造方法。
【請求項8】
金属製の回転ツールを用い、
セラミックス基材の表面に所定の回転速度で回転させた前記回転ツールを当接させ、
前記回転ツールを摩擦攪拌することで前記セラミックス基材の表面にメタライズ層を形成させること、
を特徴とするメタライズセラミックス部材の製造方法。
【請求項9】
一方の部材と他方の部材とを被接合部において対向させて被接合界面を形成し、前記被接合界面を昇温して前記一方の部材と前記他方の部材とを接合する工程を含み、
前記一方の部材及び/又は前記他方の部材を請求項1~6のうちのいずれかに記載のメタライズセラミックス部材とし、
前記被接合界面に摩擦攪拌金属層からなるメタライズ層を配置すること、
を特徴とするセラミックス溶接体の製造方法。
【請求項10】
前記一方の部材と前記他方の部材を共に前記メタライズセラミックス部材とし、
前記メタライズ層同士を対向させて前記被接合界面を形成すること、
を特徴とする請求項9に記載のセラミックス溶接体の製造方法。
【請求項11】
レーザ照射によって前記被接合界面を昇温すること、
を特徴とする請求項9又は10に記載のセラミックス溶接体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセラミックス溶接体の製造に用いることができるメタライズセラミックス部材及びその製造方法に関する。また、当該メタライズセラミックス部材を用いたセラミックス溶接体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックスは優れた強度、耐摩耗性、耐食性及び耐熱性等を有しており、各種構造材として広く利用されている。また、電気的特徴及び熱的特徴等を活用して、各種電子電気機器にも利用されている。しかしながら、セラミックス材のみで使用されることは少なく、セラミックス材と金属材とを接合して用いることが多い。また、焼結等で得られるセラミックス材はサイズや形状に制約があり、任意のセラミックス構造部材を製造するためにはセラミックス材同士の接合が必要不可欠である。
【0003】
ここで、少なくとも一方の被接合材をセラミックスとする接合においては、ろう付けが用いられるのが一般的である。しかしながら、雰囲気炉を使用してろう付けを行う場合、処理時間が長くなり、製造コストが高くなる。また、製品全体を加熱する必要があり、局所加熱による接合に対応することができない。これに対し、局所加熱によるセラミックス材の接合方法として、レーザ照射を用いた接合技術が検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1(特開2014-94855号公報)においては、炭化ケイ素セラミックスからなる被接合部材間に、二酸化ケイ素及び酸化アルミニウムを含有し、さらに酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化リチウム、酸化ホウ素、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、酸化鉄及び酸化クロムからなる群から選ばれる少なくとも1つの成分を含有するろう材からなるろう材層を設け、レーザビームを照射して前記ろう材層を加熱することを特徴とする炭化ケイ素セラミックス接合体の製造方法、が開示されている。
【0005】
上記特許文献1に記載の炭化ケイ素セラミックス接合体の製造方法においては、大型形状、又は複雑形状であっても、大気中での局部加熱により、接合強度が高く、耐熱性、形状安定性に優れた炭化ケイ素セラミックス接合体及び炭化ケイ素セラミックス接合体の製造方法を提供することができる、としている。
【0006】
また、特許文献2(特開平7-112330号公報)においては、セラミックス表面にレーザビームを照射してその照射部にセラミックス成分の金属元素を析出させ、次いでこの金属層を介して金属材料を接合させることを特徴とするセラミックスと金属材料との接合体の製造方法、が開示されている。
【0007】
上記特許文献2に記載のセラミックスと金属材料との接合体の製造方法においては、セラミックスと金属材料とをそれらの特性をそこなうことなく強固に接合させることにより、各種機械部品や電子部品などの材料として好適に用いられるセラミックスと金属材料との接合体を得ることができる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2014-94855号公報
【特許文献2】特開平7-112330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1に開示されている炭化ケイ素セラミックス接合体の製造方法では、被接合材が限定されることに加えて、ろう材層と被接合材の接合強度を十分かつ均一に制御することが困難である。
【0010】
また、上記特許文献2に開示されているセラミックスと金属材料との接合体の製造方法においては、接合の前処理としてもレーザ照射を行う必要があり、被接合界面近傍が極めて高い温度に加熱されるため、接合部に対する熱影響等が問題となる。また、被接合界面に析出するのはセラミックスに含まれる元素に限られることに加えて、その量や分布状態等を制御することも極めて困難である。
【0011】
以上のような従来技術における問題点に鑑み、本発明の目的は、セラミックス溶接体の製造に好適に用いることができるメタライズセラミックス部材であって、メタライズ層とセラミックス材とが高強度かつ均一に接合されていることに加えて、セラミクス材の劣化が抑制されたメタライズセラミックス部材及びその効率的な製造方法を提供することにある。また、本発明は、本発明のメタライズセラミックス部材を用いた効率的なセラミックス溶接体の製造方法を提供することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は上記目的を達成すべく、セラミックス材へのメタライズ方法等について鋭意研究を重ねた結果、摩擦攪拌現象を用いること等が極めて有効であることを見出し、本発明に到達した。
【0013】
即ち、本発明は、
セラミックス基材の表面にメタライズ層を有するメタライズセラミックス部材であって、
前記メタライズ層は接合界面を介して前記セラミックス基材に直接接合され、
前記メタライズ層が摩擦攪拌金属層であること、
を特徴とするメタライズセラミックス部材、を提供する。
【0014】
摩擦攪拌金属層とは、金属材の摩擦攪拌現象によって形成された金属層である。摩擦熱によって金属材を昇温し、当該摩擦に伴う応力の印加によって金属材が塑性流動することで、摩擦攪拌金属層が形成される。摩擦攪拌現象を発現させる方法は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されないが、例えば、回転ツールを金属材に圧入する摩擦攪拌接合及び摩擦攪拌プロセスの原理を用いることができる。また、円柱状の金属材を高速回転させ、セラミックス基材に押圧してもよい。
【0015】
メタライズ層が形成されている領域は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、メタライズセラミックス部材を用いてセラミックス溶接体を製造する際に、被接合部となる領域に形成されていればよい。
【0016】
本発明のメタライズセラミックス部材は、前記接合界面近傍における前記メタライズ層の硬度が、前記メタライズ層の表面近傍の硬度よりも高いこと、が好ましい。メタライズ層の硬度はセラミックス基材の硬度よりも低いところ、接合界面近傍におけるメタライズ層の硬度を表面近傍よりも高くすることで、メタライズ層とセラミックス基材との機械的性質の差異を緩和することができる。
【0017】
また、本発明のメタライズセラミックス部材は、前記接合界面近傍における前記メタライズ層の格子歪が、前記メタライズ層の表面近傍の格子歪よりも大きいこと、が好ましい。接合界面近傍でメタライズ層の格子歪が大きくなることで、当該領域の硬度を増加させることができる。加えて、メタライズ層とセラミックス基材との結晶構造の差異が緩和され、接合界面を介したメタライズ層とセラミックス基材との連続性を向上させることができる。
【0018】
また、本発明のメタライズセラミックス部材は、前記接合界面に対して略垂直方向の引張試験において、前記セラミックス基材側で破断すること、が好ましい。引張試験においてセラミックス基材側で破断する程度にまで接合界面の強度を向上させることで、当該メタライズセラミックス部材を用いて得られるセラミックス溶接体に高い信頼性を付与することができる。ここで、メタライズ層が不均一な場合は当該メタライズ層で容易に破断が進行することから、引張試験においてセラミックス基材側で破断が生じることは、極めて均一性の高いメタライズ層が形成していることを意味している。
【0019】
また、本発明のメタライズセラミックス部材は、前記メタライズ層がマグネシウム、マグネシウム合金、アルミニウム及びアルミニウム合金のうちのいずれか一つからなること、が好ましい。これらの金属材は容易に摩擦攪拌することができ、欠陥のない摩擦攪拌金属層を効率的に形成させることができる。
【0020】
更に、本発明のメタライズセラミックス部材は、前記セラミックス基材がアルミナ又は炭化ケイ素からなること、が好ましい。アルミナ及び炭化ケイ素は代表的なセラミックス材であり、これらを基材とするメタライズセラミックス部材は種々の分野で大量に使用することができる。
【0021】
また、本発明は、
セラミックス基材の表面に金属材を配置し、
前記金属材の側から所定の回転速度で回転させた回転ツールを圧入し、
前記金属材を摩擦攪拌することで前記セラミックス基材の表面にメタライズ層を形成させること、
を特徴とするメタライズセラミックス部材の製造方法、を提供する。
【0022】
摩擦攪拌条件は金属材の組成、形状及び厚さや回転ツールの材質、形状及び大きさ等に応じて適宜調整すればよいが、従来公知の摩擦攪拌接合及び摩擦攪拌プロセスの条件を参考とすることができる。回転ツールは圧入位置で適当な時間保持した後にそのまま引き上げてもよく(スポット状の処理領域が形成)、任意の方向に移動させてもよい(線状の処理領域が形成)。また、これらの処理の組合せ及び/又は重複により、任意の面状にメタライズ層を形成させることができる。また、処理装置には汎用のボール盤や摩擦攪拌接合装置等を用いることができる。
【0023】
また、本発明は、
金属製の回転ツールを用い、
セラミックス基材の表面に所定の回転速度で回転させた前記回転ツールを当接させ、
前記回転ツールを摩擦攪拌することで前記セラミックス基材の表面にメタライズ層を形成させること、
を特徴とするメタライズセラミックス部材の製造方法、を提供する。
【0024】
回転ツールをメタライズ層の原料とする場合、摩擦攪拌によって回転ツールの先端部がセラミックス基材の表面に付着してメタライズ層が形成される。回転ツールは圧入位置で適当な時間保持した後にそのまま引き上げてもよく(スポット状の処理領域が形成)、任意の方向に移動させてもよい(線状の処理領域が形成)。また、これらの処理の組合せ及び/又は重複により、任意の面状にメタライズ層を形成させることができる。回転ツールの回転速度、保持時間、移動速度等は回転ツールの材質、形状及び大きさや所望のメタライズ層の厚さ等に応じて適宜調整すればよい。また、処理装置には汎用のボール盤や摩擦攪拌接合装置等を用いることができる。
【0025】
摩擦攪拌は金属材が固相状態で進行するため、セラミックス基材の表面に金属材を配置する場合、回転ツールを原料とする場合共に、レーザ照射等を用いた場合と比較して低温で処理を行うことができる。その結果、セラミックス基材に対する入熱が低減され、熱履歴によるセラミックス基材の劣化を抑制することができる。ここで、より低温での摩擦攪拌が必要な場合は、例えば、ツール回転速度及びツール圧入荷重の低下やツール移動速度の増加等によって達成することができる。
【0026】
更に、本発明は、
一方の部材と他方の部材とを被接合部において対向させて被接合界面を形成し、前記被接合界面を昇温して前記一方の部材と前記他方の部材とを接合する工程を含み、
前記一方の部材及び/又は前記他方の部材を本発明のメタライズセラミックス部材とし、
前記被接合界面に摩擦攪拌金属層からなるメタライズ層を配置すること、
を特徴とするセラミックス溶接体の製造方法、も提供する。
【0027】
本発明のセラミックス溶接体の製造方法においては、セラミックス部材と金属部材を接合する場合には被接合界面においてメタライズ層と金属部材の表面が当接し、当該被接合界面の昇温によってメタライズ層と金属部材の表面が接合される。また、セラミックス部材同士を接合する場合には被接合界面においてメタライズ層同士が当接し、当該被接合界面の昇温によってメタライズ層同士が接合される。何れの場合においても被接合界面においては金属/金属の接合が進行し、良好な接合部を形成することができる。
【0028】
接合の態様は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の継手形状とすることができる。例えば、点接合、突合せ接合、重ね接合及びT字接合等とすることができる。
【0029】
本発明のセラミックス溶接体の製造方法においては、前記一方の部材と前記他方の部材を共に前記メタライズセラミックス部材とし、前記メタライズ層同士を対向させて前記被接合界面を形成すること、が好ましい。被接合界面において、基本的に同じ組成を有する金属材同士の接合が進行するため、脆弱な金属間化合物層が形成されず、極めて良好な接合部を形成することができる。
【0030】
更に、本発明のセラミックス溶接体の製造方法においては、レーザ照射によって前記被接合界面を昇温すること、が好ましい。被接合界面の昇温方法は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の加熱方法を用いることができるが、レーザ照射を用いることで被接合領域を局所的に加熱することができることに加え、被接合部材が大型の場合でも容易かつ効率的に接合部を形成することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、セラミックス溶接体の製造に好適に用いることができるメタライズセラミックス部材であって、メタライズ層とセラミックス材とが高強度かつ均一に接合されていることに加えて、セラミクス材の劣化が抑制されたメタライズセラミックス部材及びその効率的な製造方法を提供することができる。また、本発明は、本発明のメタライズセラミックス部材を用いた効率的なセラミックス溶接体の製造方法を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明のメタライズセラミックス部材の一態様を示す概略平面図及び概略断面図である。
図2】本発明のメタライズセラミックス部材の製造方法の工程を示す模式図である(金属材をセラミックス基材の表面に配置する場合)。
図3】本発明のメタライズセラミックス部材の製造方法の工程を示す模式図である(金属製の回転ツールをセラミックス基材に当接させる場合)。
図4】本発明のセラミックス溶接体の製造方法の模式図である(セラミックス材同士を接合する場合)。
図5】本発明のセラミックス溶接体の製造方法の模式図である(セラミックス材と金属材を接合する場合)。
図6】実施例1で得られたメタライズセラミックス部材の外観写真である(アルミニウム箔)。
図7】実施例1で得られたセラミックス溶接体の外観写真である(アルミニウム箔)。
図8】実施例1で得られたセラミックス溶接体の接合界面の拡大写真である(アルミニウム箔)。
図9】実施例1で得られたセラミックス溶接体の外観写真である(ニッケル箔)。
図10】実施例1で得られたセラミックス溶接体の接合界面の拡大写真である(ニッケル箔)。
図11】実施例2で得られたセラミックス溶接体の外観写真である(1100℃)。
図12】引張試験の状況を示す写真である。
図13】実施例2で得られたセラミックス溶接体の破断面である(1100℃)。
図14】メタライズ層の中心付近の硬度分布である。
図15】メタライズ層の端部付近の硬度分布である。
図16】実施例4で得られたメタライズセラミックス部材の外観写真である。
図17】実施例4で得られたメタライズ層のX線回折パターンである。
図18】実施例6で得られたメタライズ層のX線回折パターンである。
図19】実施例7における摩擦攪拌処理の状況を示す写真である。
図20】実施例7で得られたメタライズセラミックス部材の外観写真である。
図21】比較例で得られたセラミックス溶接体の外観写真である。
図22】比較例で得られたセラミックス溶接体の接合界面の拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照しながら本発明のメタライズセラミックス部材及びその製造方法並びにセラミックス溶接体の製造方法の代表的な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。なお、以下の説明では、同一または相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する場合がある。また、図面は、本発明を概念的に説明するためのものであるから、表された各構成要素の寸法やそれらの比は実際のものとは異なる場合もある。
【0034】
(1)メタライズセラミックス部材
図1に、本発明のメタライズセラミックス部材の一態様を示す概略平面図及び概略断面図を示す。なお、本発明のメタライズセラミックス部材の代表的な態様として、図1ではスポット状のメタライズ層を有するメタライズセラミックス部材を示している。
【0035】
メタライズセラミックス部材2は、セラミックス基材4の表面にメタライズ層6を有している。メタライズ層6は摩擦攪拌金属層であり、接合界面8を介してセラミックス基材4に直接接合されている。
【0036】
金属材の摩擦攪拌によって形成されたメタライズ層6がセラミックス基材4に強固に直接接合されている理由は必ずしも明らかにはなっていないが、摩擦攪拌現象に起因して、接合界面8に極めて薄い(一般的な観察手法や測定手法では明瞭に存在を確認できない程度の)化合物層又は拡散層が形成されるものと考えられる。
【0037】
また、摩擦攪拌によってメタライズ層6を構成する金属材に強ひずみが導入され、当該ひずみによって接合界面8近傍のメタライズ層6に均一かつ大きな格子歪が導入される。加えて、接合界面8近傍ではメタライズ層6の結晶子サイズが大きくなる。更には、摩擦攪拌によって生じる塑性流動のランダム化により、接合界面8近傍では集合組織の強度が低下する。例えば、メタライズ層6がマグネシウム又はマグネシウム合金からなる場合は、底面集合組織の強度が低下する。これらが原因となり、セラミックス基材4とメタライズ層6の接合部に良好な連続性及び高い強度が付与されている。
【0038】
メタライズセラミックス部材2は、接合界面8近傍におけるメタライズ層6の硬度が、メタライズ層6の表面近傍の硬度よりも高いことが好ましい。メタライズ層6の硬度はセラミックス基材4の硬度よりも低いところ、接合界面8近傍におけるメタライズ層6の硬度を表面近傍よりも高くすることで、メタライズ層6とセラミックス基材4との機械的性質の差異を緩和することができる。
【0039】
ここで、メタライズ層6の硬度は、接合界面8からメタライズ層6側に5μmの範囲で増加していることが好ましく、接合界面8からメタライズ層6側に10μmの範囲で増加していることがより好ましく、接合界面8からメタライズ層6側に15μmの範囲で増加していることが最も好ましい。当該領域が硬化していることで、セラミックス基材4とメタライズ層6の物性的な差異を効果的に緩和することができる。
【0040】
また、接合界面8近傍におけるメタライズ層6の硬度は少しでも増加するとセラミックス基材4とメタライズ層6の物性的な差異の緩和に寄与するが、メタライズ層6の硬度がセラミックス基材4の硬度の20%以上となることが好ましく、40%以上となることがより好ましく、60%以上となることが最も好ましい。硬度測定の方法は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の方法を用いることができるが、例えば、接合界面8近傍を含む断面試料を作製し、ナノインデンターを用いて測定すればよい。
【0041】
メタライズセラミックス部材2は、接合界面8に対して略垂直方向の引張試験において、セラミックス基材4側で破断することが好ましい。引張試験においてセラミックス基材4側で破断する程度にまで接合界面8の強度を向上させることで、メタライズセラミックス部材2を用いて得られるセラミックス溶接体に高い信頼性を付与することができる。引張試験の方法は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の方法を用いることができるが、例えば、接着剤等を用いてメタライズ層6に棒材を固定し、セラミックス基材4と棒材との間に引張応力を印加して測定すればよい。
【0042】
メタライズ層6を構成する金属材は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の金属材とすることができるが、マグネシウム、マグネシウム合金、アルミニウム及びアルミニウム合金のうちのいずれか一つからなることが好ましい。これらの金属材は容易に摩擦攪拌することができ、欠陥のない摩擦攪拌金属層を効率的に形成させることができる。
【0043】
また、メタライズ層6を構成する金属材は1種類に限定されず、深さ方向に異なる金属材から構成してもよい。例えば、セラミックス基材4側が主としてマグネシウムからなり、最表面側が主としてニッケルからなるメタライズ層6を形成させることで、極めて良好な接合性を有するメタライズ層6とすることができる。マグネシウムからなるメタライズ層6の表面には接合性を低下させる酸化皮膜が形成されやすいが、最表面側をニッケル層とすることにより、マグネシウム層の表面酸化を抑制することができる。
【0044】
また、セラミックス基材4を構成するセラミックスは本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々のセラミックスとすることができるが、アルミナ又は炭化ケイ素からなることが好ましい。アルミナ及び炭化ケイ素は代表的なセラミックス材であり、これらを基材とするメタライズセラミックス部材2は種々の分野で大量に使用することができる。
【0045】
メタライズ層6の厚さは目的に応じて適宜調整すればよいが、1~100μmとすることが好ましく、5~80μmとすることがより好ましく、10~50μmとすることが最も好ましい。メタライズ層6が薄過ぎる場合は、メタライズセラミクス部材2を接合する際に金属成分が不足し、メタライズ層6が厚過ぎる場合は、接合部の強度が低くなってしまう。
【0046】
メタライズ層6の面積も目的に応じて適宜調整すればよいが、メタライズセラミックス部材2を接合する際に被接合界面となる領域は全てメタライズ層6で被覆されていることが好ましい。
【0047】
(2)メタライズセラミックス部材の製造方法
本発明のメタライズセラミックス部材の製造方法は、金属材の摩擦攪拌現象を利用するものである。以下、金属材に回転ツールを圧入して当該金属材をメタライズ層6の原料とする場合と、金属製の回転ツールを用いて当該回転ツールをメタライズ層6の原料とする場合について、それぞれ説明する。
【0048】
(2-1)金属材に回転ツールを圧入する製造方法
金属材に回転ツールを圧入する製造方法の工程は、摩擦攪拌接合及び摩擦攪拌プロセスの工程に類似している。図2にスポット状のメタライズ層6を形成させる場合の製造工程の模式図を示す。
【0049】
セラミックス基材4の表面に金属材10を配置し、金属材10の側から所定の回転速度で回転させた回転ツール12を圧入し、金属材10を摩擦攪拌することでセラミックス基材4の表面にメタライズ層6を形成させることができる。ここで、セラミックス基材4及び金属材10は、摩擦攪拌中に位置が変化しないように、適当な方法で固定しておけばよい。
【0050】
摩擦攪拌条件は金属材10の組成、形状及び厚さや回転ツール12の材質、形状及び大きさ等に応じて適宜調整すればよいが、従来公知の摩擦攪拌接合及び摩擦攪拌プロセスの条件を参考とすることができる。ここで、回転ツール12の位置制御にて摩擦攪拌を行う場合は、ツール回転速度の増加に伴い接合面の温度は上昇し、印加される荷重は低下することから、当該温度と荷重のバランスに留意して摩擦攪拌条件を決定することが好ましい。回転ツール12は圧入位置で適当な時間保持した後にそのまま引き上げてもよく(スポット状の処理領域が形成)、任意の方向に移動させてもよい(線状の処理領域が形成)。また、これらの処理の組合せ及び/又は重複により、任意の面状にメタライズ層6を形成させることができる。また、処理装置には汎用のボール盤や摩擦攪拌接合装置等を用いることができる。
【0051】
回転ツール12の底面(金属材10に圧入する面)には必要に応じて突起や凹部を設けてもよいが、メタライズ層6の均質性を担保するために、平滑なフラット形状とすることが好ましい。また、回転ツール12の材質は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、摩擦攪拌接合用ツールとして従来公知の種々の材質を用いることができる(回転ツール12の材質は金属材に限定されない。)。
【0052】
セラミックス基材4に対する摩擦攪拌処理は1回に限られず、複数回行ってもよい。ここで、異なる組成を有する金属材10を用いた摩擦攪拌処理を重畳させることで、メタライズ層6の深さ方向の組成を制御することができる。例えば、マグネシウムからなる金属材10を用いてメタライズ層6を形成させた後、当該領域にニッケルからなる金属材10を用いて摩擦攪拌処理を行うことで、セラミックス基材4側がマグネシウム、最表面がニッケルからなるメタライズ層6を形成させることができる。
【0053】
(2-2)金属製回転ツールを圧入する製造方法
図3に、金属製の回転ツールをメタライズ層6の原料とし、スポット状のメタライズ層6を形成させる場合の製造工程の模式図を示す。
【0054】
金属製回転ツール20を用い、セラミックス基材4の表面に所定の回転速度で回転させた金属製回転ツール20を当接させ、金属製回転ツール20を摩擦攪拌することで、セラミックス基材4の表面にメタライズ層6を形成させることができる。
【0055】
金属製回転ツール20をメタライズ層6の原料とする場合、摩擦攪拌によって金属製回転ツール20の先端部がセラミックス基材4の表面に付着してメタライズ層6が形成される。金属製回転ツール20は圧入位置で適当な時間保持した後にそのまま引き上げてもよく(スポット状の処理領域が形成)、任意の方向に移動させてもよい(線状の処理領域が形成)。また、これらの処理の組合せ及び/又は重複により、任意の面状にメタライズ層6を形成させることができる。金属製回転ツール20の回転速度、保持時間、移動速度等は金属製回転ツール20の材質、形状及び大きさや所望のメタライズ層6の厚さ等に応じて適宜調整すればよい。また、処理装置には汎用のボール盤や摩擦攪拌接合装置等を用いることができ、摩擦圧接装置を用いてもよい。
【0056】
金属製回転ツール20の底面(セラミックス基材4の表面に当接させる面)には必要に応じて突起や凹部を設けてもよいが、メタライズ層6の均質性を担保するために、平滑なフラット形状とすることが好ましい。また、金属製回転ツール20は所望のメタライズ層6の材質とする必要があり、例えば、マグネシウム、マグネシウム合金、アルミニウム及びアルミニウム合金等とすることができる。
【0057】
セラミックス基材4に対する摩擦攪拌処理は1回に限られず、複数回行ってもよい。ここで、異なる組成を有する金属製回転ツール20を用いた摩擦攪拌処理を重畳させることで、メタライズ層6の深さ方向の組成を制御することができる。例えば、マグネシウムからなる金属製回転ツール20を用いてメタライズ層6を形成させた後、当該領域にニッケルからなる金属製回転ツール20を用いて摩擦攪拌処理を行うことで、セラミックス基材4側がマグネシウム、最表面がニッケルからなるメタライズ層6を形成させることができる。
【0058】
(3)セラミックス溶接体の製造方法
本発明のセラミックス溶接体の製造方法は、被接合材の少なくとも一方をメタライズセラミックス部材2とするものである。
【0059】
セラミックス材同士(メタライズセラミックス部材2同士)を接合する場合の模式図を図4、セラミックス材と金属材を接合する場合の模式図を図5にそれぞれ示す。なお、接合の態様は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の継手形状とすることができ、例えば、点接合、突合せ接合、重ね接合及びT字接合等とすることができるが、平板の突合せ接合を代表例として説明する。
【0060】
メタライズセラミックス部材2同士を接合する場合、メタライズ層6同士を対向させ、被接合界面30を形成する。また、メタライズセラミックス部材2と金属部材32を接合する場合、メタライズ層6と金属部材32を対向させ、被接合界面30を形成する。何れの場合においても、接合強度を高める必要がある際には、被接合界面30に適当な金属インサート材を配置することが好ましい。例えば、マグネシウムからなるメタライズ層6同士を対向させる場合には、アルミニウム箔やニッケル箔をインサート材として好適に用いることができる。
【0061】
次に、被接合界面30を適当な方法で昇温することで、接合部34を形成することができる。メタライズセラミックス部材2同士を接合する場合と、メタライズセラミックス部材2と金属部材32を接合する場合の何れの場合においても、被接合界面30では金属/金属の接合が進行し、良好な接合部34を形成することができる。
【0062】
ここで、メタライズセラミックス部材2同士を接合する場合は、被接合界面で基本的に同じ組成を有する金属材同士の接合が進行するため、脆弱な金属間化合物層が形成されず、極めて良好な接合部34を形成することができる。
【0063】
被接合界面30を昇温する方法は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の加熱方法を用いることができるが、レーザ照射を用いることが好ましい。レーザ照射を用いることで被接合界面30を局所的に加熱することができることに加え、被接合材が大型の場合でも容易かつ効率的に接合部34を形成することができる。
【0064】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であり、それら設計変更は全て本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0065】
≪実施例1≫
[メタライズセラミックス部材の製造]
10mm×50mm×1mmのアルミナ板(相対密度:99.5%)をセラミックス基材とし、メタライズ層を形成するための金属材には厚さが0.24mmのリボン状のマグネシウム材を用いた。また、摩擦攪拌には汎用のボール盤を用い、回転ツールは炭素鋼製の平滑なフラット形状の底面を有するφ4mmの円柱形状とした。マグネシウム材は純マグネシウムであり、不純物の許容量はFe:0.01質量%、Cu:0.01質量%、Mn:0.03質量%、Zn:0.01質量%、Al:0.01質量%、Si:0.01質量%、Pb:0.001質量%である。
【0066】
2枚の5mm厚のアルミナ板で1mm厚のアルミナ板を挟み込み、1mm厚のアルミナ板の10mm×1mmの端面に被処理面を形成した。当該被処理面の上にマグネシウム材を配置した状態で固定し、3000rpmで回転させたツールをマグネシウム材側から圧入した(挿入力の最大値:1.5kN)。ツールが接触した近傍のマグネシウム材の温度を熱画素カメラで測定し、90℃になるまでツールを押し付けて摩擦攪拌を施した後、横移動させることなくツールを上方に引き抜いた。ここで、マグネシウム材へのツール挿入量は0.22mmとし、90℃でのツール保持時間は約10秒とした。
【0067】
重ね合わせたアルミナ板を分離し、10mm×1mmの端面にメタライズ層が形成されたメタライズセラミックス部材を得た。メタライズセラミックス部材の外観写真を図6に示す。10mm×1mmの端面の全域に金属光沢が認められ、均一なメタライズ層が形成されていることが分かる。
【0068】
[セラミックス溶接体の製造(局所加熱)]
次に、2枚のメタライズセラミックス部材を、メタライズ層を対向させて厚さ100μmのアルミニウム箔を介して突き合せ、被接合界面を形成させた。次に、当該被接合界面にレーザを照射し、レーザ溶接を行った。使用したレーザは波長が1070nmの連続発振レーザ(IPG社製YLR-200-AC)であり、出力:139.3W、走査速度:30mm/s、最小スポット径:30μm、アルゴンガス流量:15l/minとした。
【0069】
得られたセラミックス溶接体の外観写真を図7に示す。また、接合界面の拡大写真を図8に示す。メタライズ層によってアルミナ板表面への溶融アルミニウムの濡れ性が極めて良好であり、健全な接合部が形成されていることが分かる。
【0070】
セラミックス溶接体の強度を評価するために、材料試験機(エー・アンド・デイ社製,MCT-2150)を用いて3点曲げ試験を行った。その結果、曲げ強度は0.0768MPaであった。
【0071】
アルミニウム箔の代わりにニッケル箔をインサート材とした場合についても検討を行った。具体的には、2枚のメタライズセラミックス部材を、メタライズ層を対向させて厚さ20μmのニッケル箔を介して突き合せ、被接合界面を形成させた。次に、当該被接合界面にレーザを照射し、レーザ溶接を行った。使用したレーザは波長が1070nmの連続発振レーザ(IPG社製YLR-200-AC)であり、出力:46.3W、走査速度:10mm/s、最小スポット径:30μm、アルゴンガス流量:15l/minとした。
【0072】
得られたセラミックス溶接体の外観写真を図9に示す。また、接合界面の拡大写真を図10に示す。メタライズ層によってアルミナ板表面への溶融アルミニウムの濡れ性が極めて良好であり、健全な接合部が形成されていることが分かる。
【0073】
セラミックス溶接体の強度を評価するために、材料試験機(エー・アンド・デイ社製,MCT-2150)を用いて引張試験を行った。その結果、引張強度は0.37MPaであった。
【0074】
≪実施例2≫
[メタライズセラミックス部材の製造]
10mm×50mm×1mmのアルミナ板(相対密度:99.5%)をセラミックス基材とし、メタライズ層を形成するための金属材には厚さが0.24mmのリボン状のマグネシウム材を用いた。また、摩擦攪拌には汎用のボール盤を用い、回転ツールは炭素鋼製の平滑なフラット形状の底面を有するφ4mmの円柱形状とした。
【0075】
10mm×50mmの表面を被処理面とし、当該被処理面の上にマグネシウム材を配置した状態で固定し、3000rpmで回転させたツールをマグネシウム材側から圧入した。ツールが接触した近傍のマグネシウム材の温度を熱画素カメラで測定し、100℃になるまでツールを押し付けて摩擦攪拌を施した後、横移動させることなくツールを上方に引き抜いた。ここで、マグネシウム材へのツール挿入量は0.22mmとし、ツール保持時間は約10秒とした。
【0076】
[セラミックス溶接体の製造(全体加熱)]
2枚のメタライズセラミックス部材を、メタライズ層を対向させて厚さ20μm、4mm角のニッケル箔を介して重ね合わせ、被接合界面を形成させた。次に、雰囲気制御炉(富士電波工業社製,FVPS-R-110/120. FRET-18)を使用して、重ね合わせた2枚のメタライズセラミックス部材に熱処理を施した。
【0077】
熱処理条件は、真空中(10-3Pa程度)、49MPaの加圧下で、室温から熱処理温度まで10℃/分で加熱し、当該熱処理温度にて3時間保持した。その後、除荷し、熱処理温度から300℃まで2℃/分で冷却し、300℃から室温まで炉令した。熱処理温度は700℃、900℃及び1100℃とした。得られたセラミックス溶接体の例として、熱処理温度1100℃で得られたセラミックス溶接体の外観写真を図11に示す。
【0078】
得られたセラミックス溶接体の下部を金属器具で固定し、上部をC型金属器具で把持して引張試験を行った。引張試験の状況を図12に示す。引張試験は材料試験機(エー・アンド・デイ社製,MCT-2150)を用いて行った。熱処理温度が700℃、900℃及び1100℃で得られた各セラミックス溶接体の引張強度は、それぞれ16.3N、21.3N及び26.5Nであった(4mm角の面積で規格した場合、1.0MPa、1.3MPa及び1.7MPaである。)。
【0079】
引張試験による代表的な破面として、1100℃で得られたセラミックス溶接体の破断面を図13に示す。一方のアルミナ板の接合部は母材が露出しており、引張試験によってアルミナ板の母材破断となっている。当該結果は、接合部の強度が母材強度よりも高いことを示しており、良好な接合部が形成されたことを意味している。
【0080】
≪実施例3≫
[メタライズセラミックス部材の製造(セラミックス基材/メタライズ層接合界面近傍の硬度分布)]
10mm×50mm×1mmのアルミナ板(相対密度:99.5%)をセラミックス基材とし、メタライズ層を形成するための金属材には厚さが0.24mmのリボン状のマグネシウム材を用いた。また、摩擦攪拌には汎用のボール盤を用い、回転ツールは炭素鋼製の平滑なフラット形状の底面を有するφ5.5mmの円柱形状とした。
【0081】
10mm×50mmの表面を被処理面とし、当該被処理面の上にマグネシウム材を配置した状態で固定し、3000rpmで回転させたツールをマグネシウム材側から圧入した。ツールが接触した近傍のマグネシウム材の温度を熱画素カメラで測定し、100℃になるまでツールを押し付けて摩擦攪拌を施した後、横移動させることなくツールを上方に引き抜いた。ここで、マグネシウム材へのツール挿入量は0.22mmとし、ツール保持時間は約10秒とした。
【0082】
表面にメタライズ層が形成したアルミナ板の断面試料を作製し、バーコビッチ圧子を用いて、ナノインデンテーションテスター(ENT-1100a, Elionix)にて室温の硬度を測定した(最大荷重:50mN)。アルミナ板/メタライズ層接合界面近傍の硬度分布について、メタライズ層の中心付近の測定結果を図14、メタライズ層の端部付近の測定結果を図15にそれぞれ示す。メタライズ層の場所に依らず、メタライズ層(マグネシウム層)は接合界面近傍で硬化しているが、中心付近で硬度の上昇がより大きく、深さ方向に対して広がっている。なお、アルミナは結晶粒が大きく、測定結果のバラつきが大きくなっている。
【0083】
≪実施例4≫
[メタライズセラミックス部材の製造(メタライズ層の組織変化)]
20mm×20mm×1mmのアルミナ板(相対密度:99.5%)をセラミックス基材とし、メタライズ層を形成するための金属材には厚さが0.24mmのリボン状のマグネシウム材を用いた。また、摩擦攪拌には汎用のボール盤を用い、回転ツールは炭素鋼製の平滑なフラット形状の底面を有するφ5.5mmの円柱形状とした。
【0084】
20mm×20mmの表面を被処理面とし、当該被処理面の上にマグネシウム材を配置した状態で固定し、3000rpmで回転させたツールをマグネシウム材側から圧入した。ツールが接触した近傍のマグネシウム材の温度を熱画素カメラで測定し、160~180℃になるまでツールを押し付けて摩擦攪拌を施した後、横移動させることなくツールを上方に引き抜いた。ここで、マグネシウム材へのツール挿入量は0.22mmとし、ツール保持時間は約10秒とした。また、場所を変えて当該処理を12回繰り返し、メタライズ層の面積を拡大した。得られたメタライズセラミックス部材の外観写真を図16に示す。形成されたメタライズ層の平均膜厚は20μmであった。
【0085】
リガク製のSmart Lab(9kW,Cu線源)を用い、集中法にてメタライズ層のXRD測定を行った。ここで、メタライズ層を徐々に研磨し、メタライズ層の平均膜厚が20μm、15μm及び5μmの場合について測定を行った。得られた回折プロファイルを図17に示す。
【0086】
研磨前(メタライズ層の平均膜厚:20μm)においては、Al23,Mg及びMgOのピークが確認される。また、2θが33.6°付近にはunknownピークが存在する。加えて、Mgは(002)のピークが比較的高く、優先的に配向していることが分かる。
【0087】
研磨の進行に伴い、Al23のピークには変化が認められないが、Mg、MgO及びunknownに起因するピークの強度は減少している。ここで、強度が増加するピークは認められず、アルミナ板/メタライズ層の接合界面には厚い化合物層は形成していないことが分かる。
【0088】
Mgに起因するピークは研磨の進行に伴い2θが高角側にシフトし、半価幅が小さくなっている。当該結果より、メタライズ層の深さ方向に対して(接合界面に近接するに伴い)、均一なひずみが大きくなること、及び結晶子サイズが大きくなることが示唆される。深さ方向に対するMg(002)のピーク変化に関する情報を表1に、Mg(002)とMg(100)の回折強度比を表2に、それぞれ示す。回折強度比の変化からは、メタライズ層の深さ方向に対して、当該メタライズ層の面直方向に配向したMg(002)の結晶粒が顕著に減少することが分かる。
【0089】
【表1】
【0090】
【表2】
【0091】
≪実施例5≫
[メタライズセラミックス部材の製造(メタライズ層の引張強度)]
20mm×20mm×1mmのアルミナ板(相対密度:99.5%)をセラミックス基材とし、メタライズ層を形成するための金属材には厚さが0.24mmのリボン状のマグネシウム材を用いた。アルミナ板の表面粗さRaは0.045μmであった。また、摩擦攪拌には汎用のボール盤を用い、回転ツールは炭素鋼製の平滑なフラット形状の底面を有するφ5.5mmの円柱形状とした。
【0092】
20mm×20mmの表面を被処理面とし、当該被処理面の上にマグネシウム材を配置した状態で固定し、3000rpmで回転させたツールをマグネシウム材側から圧入した。ツールが接触した近傍のマグネシウム材の温度を熱画素カメラで測定し、160~180℃になるまでツールを押し付けて摩擦攪拌を施した後、横移動させることなくツールを上方に引き抜いた。当該処理を異なる場所で2回行い、平均膜厚が16μmのメタライズ層と平均膜厚が39μmのメタライズ層を形成させた。
【0093】
次に、各メタライズ層の引張強度を測定した。具体的には、直径4mmの炭素鋼製の丸棒をアクリル樹脂系接着剤でメタライズ処理した面に固定し、引張試験は材料試験機(エー・アンド・デイ社製,MCT-2150)を用いて行った。その結果、16μm厚のメタライズ層の引張強度は23.8MPa以上、39μm厚のメタライズ層の引張強度は23.8MPaであった。引張試験後の破断面を観察したところ、16μm厚の場合はアクリル樹脂系接着剤で破壊しており、メタライズ層は剥がれていなかった。また、39μ厚の場合はアルミナ板の内部で破壊していた。
【0094】
≪実施例6≫
[メタライズセラミックス部材の製造(二種類以上の金属材を用いた摩擦攪拌)]
20mm×20mm×1mmのアルミナ板(相対密度:99.5%)をセラミックス基材とし、メタライズ層を形成するための金属材には厚さが0.24mmのリボン状のマグネシウム材及び厚さが0.02mmの薄膜状のニッケル材を用いた。また、摩擦攪拌には汎用のボール盤を用い、回転ツールは炭素鋼製の平滑なフラット形状の底面を有するφ4mmの円柱形状とした。
【0095】
20mm×20mmの表面を被処理面とし、当該被処理面の上にマグネシウム材を配置した状態で固定し、3000rpmで回転させたツールをマグネシウム材側から圧入した。その後、マグネシウム材によって形成されたメタライズ層の表面にニッケル材を配置し、3000rpmで回転させたツールをニッケル材側から圧入した。
【0096】
リガク製のSmart Lab(9kW,Cu線源)を用い、集中法にてメタライズ層のXRD測定を行った。得られた回折プロファイルを図18に示す。マグネシウムとニッケルに起因するピークが共に確認され、これらの金属からなるメタライズ層が形成されていることが分かる。
【0097】
≪実施例7≫
[メタライズセラミックス部材の製造(金属製丸棒の摩擦攪拌)]
20mm×20mm×1mmのアルミナ板(相対密度:99.5%)をセラミックス基材とし、底面がフラットなマグネシウム金属丸棒(直径:8mm,純度:99.99%)を回転ツールとした。
【0098】
ツールの回転速度を3000rpmとし、マグネシウム金属丸棒の先端をセラミックス基材の表面に当接させて摩擦攪拌した。摩擦攪拌処理の状況を図19に示す。また、得られたメタライズセラミックス部材の外観写真を図20に示す。アルミナ板の中央にメタライズ層が形成されていることが確認できる。
【0099】
≪比較例≫
[セラミックス溶接体の製造]
10mm×50mm×1mmのアルミナ板(相対密度:99.5%)を用い、メタライズ層を形成させないこと以外は実施例1の「セラミックス溶接体の製造(局所加熱)」と同様にして、セラミックス溶接体を製造した。
【0100】
得られたセラミックス溶接体の外観写真を図21に示す。また、接合界面の拡大写真を図22に示す。インサート材として被接合界面に配置したアルミニウム箔が溶けているが、メタライズ層が存在しないため、アルミナ板表面での濡れ性が極めて悪く、接合界面の密着性に乏しいことが分かる。その結果、強度試験前に簡単にアルミナ板が分離してしまい、使用に耐え得るセラミックス溶接体を得ることができなかった。
【符号の説明】
【0101】
2・・・メタライズセラミックス部材、
4・・・セラミックス基材、
6・・・メタライズ層、
8・・・接合界面、
10・・・金属材、
12・・・回転ツール、
20・・・金属製回転ツール、
30・・・被接合界面、
32・・・金属部材、
34・・・接合部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22