(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022048574
(43)【公開日】2022-03-28
(54)【発明の名称】酸化マグネシウム粉末、フィラー組成物、樹脂組成物、及び放熱部品
(51)【国際特許分類】
C01F 5/08 20060101AFI20220318BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20220318BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20220318BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20220318BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20220318BHJP
【FI】
C01F5/08
C08L101/00
C08K3/22
C08K3/013
H01L23/30 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020154459
(22)【出願日】2020-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000108764
【氏名又は名称】タテホ化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 修治
(72)【発明者】
【氏名】中園 淳一
(72)【発明者】
【氏名】田上 将太朗
(72)【発明者】
【氏名】大崎 善久
(72)【発明者】
【氏名】近澤 智文
(72)【発明者】
【氏名】山本 美樹
【テーマコード(参考)】
4G076
4J002
4M109
【Fターム(参考)】
4G076AA02
4G076AB04
4G076AB06
4G076BA13
4G076BA39
4G076BA43
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4G076BC07
4G076BD02
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4G076CA03
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4G076CA26
4G076CA27
4G076CA40
4G076DA02
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4G076DA30
4J002AA001
4J002BD121
4J002BG041
4J002BG051
4J002BN151
4J002CC031
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4J002FD016
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4J002GH01
4J002GQ00
4M109AA01
4M109EA02
4M109EA07
4M109EA10
4M109EB12
4M109EC06
(57)【要約】
【課題】本発明は、樹脂に充填する際に粘度上昇を抑制でき、かつ、その樹脂を含む樹脂組成物の高熱伝導化を実現できる、特定の酸化マグネシウム粒子を含む酸化マグネシウム粉末、並びにその酸化マグネシウム粉末を含むフィラー組成物、樹脂組成物、及び放熱部品の提供を目的とする。
【解決手段】本発明の酸化マグネシウム粉末は、酸化マグネシウム粒子を含み、前記酸化マグネシウム粒子のうち、顕微鏡法による粒子断面の投影面積円相当径が10μm以上である酸化マグネシウム粒子の平均球形度が0.73以上0.95以下であり、前記酸化マグネシウム粒子のうち、球形度が0.65以下である酸化マグネシウム粒子の割合が個数基準で20%以下であり、かつ、前記酸化マグネシウム粒子のうち、球形度が0.55以下である酸化マグネシウム粒子の割合が個数基準で15%以下である、酸化マグネシウム粉末。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化マグネシウム粒子を含む酸化マグネシウム粉末であって、
前記酸化マグネシウム粒子のうち、顕微鏡法による粒子断面の投影面積円相当径が10μm以上である酸化マグネシウム粒子の平均球形度が0.73以上0.95以下であり、
前記酸化マグネシウム粒子のうち、球形度が0.65以下である酸化マグネシウム粒子の割合が個数基準で20%以下であり、かつ、前記酸化マグネシウム粒子のうち、球形度が0.55以下である酸化マグネシウム粒子の割合が個数基準で15%以下である、酸化マグネシウム粉末。
【請求項2】
請求項1に記載の酸化マグネシウム粉末と、前記酸化マグネシウム粒子以外の無機フィラーとを含む、フィラー組成物。
【請求項3】
前記無機フィラーはアルミナ粒子であり、
前記酸化マグネシウム粒子の含有率が、40体積%以上70体積%以下であり、
前記アルミナ粒子の含有率が、30体積%以上60体積%以下であり、
前記アルミナ粒子が、平均粒子径が0.1μm以上1.0μm未満である第1のアルミナ粒子と、平均粒子径が1.0μm以上10μm未満である第2のアルミナ粒子と、を含み、
各前記平均粒子径はレーザー光回折散乱式粒度分布測定機によって測定された粒子径である、請求項2に記載のフィラー組成物。
【請求項4】
樹脂と、請求項2又は3に記載のフィラー組成物とを含む、樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の酸化マグネシウム粉末、請求項2若しくは3に記載のフィラー組成物、又は請求項4に記載の樹脂組成物を含む、放熱部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化マグネシウム粉末、フィラー組成物、樹脂組成物、及び放熱部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気機器の小型化及び高性能化が進行している。小型化及び高性能化に伴い、電気機器を構成する電子部品の実装密度が高くなってきており、電子部品から発生する熱を効果的に放出させる必要性が高まっている。
また、環境負荷の抑制が可能な電気自動車などのパワーデバイス用途においては、電子部品に高電圧が印加されたり、あるいは大電流が流れたりすることがある。この場合、高い熱量が発生し、発生する高い熱量に対処するために、従来よりも効果的に熱を放出させる要求が高まってきている。
【0003】
このような要求に対応するための技術として、熱伝導性フィラーを含む樹脂組成物が用いられている。熱伝導性フィラーとしては、例えば、酸化マグネシウム粒子が用いられており、特許文献1には、特定の球状酸化マグネシウム粒子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、酸化マグネシウム粒子は、樹脂に対する分散性が低く、樹脂に酸化マグネシウム粒子を充填する際に増粘するため、充填性が低い。
この点、特許文献1では、ホウ素及び鉄の含有量を一定の範囲に調整することで、真球度が高く、粒子表面が平滑な球状酸化マグネシウム粒子を得て、この粒子を用いることで、樹脂に対する充填性の向上を図っている。しかし、ホウ素及び鉄の不純物の添加により、酸化マグネシウム粒子自体の熱伝導率が低下し、得られる放熱部品の熱伝導率が低くなるとの問題を有する。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、樹脂に充填する際に粘度上昇を抑制でき、かつ、その樹脂を含む樹脂組成物の高熱伝導化を実現できる、特定の酸化マグネシウム粒子を含む酸化マグネシウム粉末、並びにその酸化マグネシウム粉末を含むフィラー組成物、樹脂組成物、及び放熱部品の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、球形度が調整された酸化マグネシウム粒子を含む酸化マグネシウム粉末を用いれば、樹脂への充填の際に粘度上昇を抑制でき、かつ、その酸化マグネシウム粉末を含むことにより高熱伝導化を実現できる樹脂組成物及び放熱部品を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]酸化マグネシウム粒子を含む酸化マグネシウム粉末であって、前記酸化マグネシウム粒子のうち、顕微鏡法による粒子断面の投影面積円相当径が10μm以上である酸化マグネシウム粒子の平均球形度が0.73以上0.95以下であり、前記酸化マグネシウム粒子のうち、球形度が0.65以下である酸化マグネシウム粒子の割合が個数基準で20%以下であり、かつ、前記酸化マグネシウム粒子のうち、球形度が0.55以下である酸化マグネシウム粒子の割合が個数基準で15%以下である、酸化マグネシウム粉末。
[2][1]に記載の酸化マグネシウム粉末と、前記酸化マグネシウム粒子以外の無機フィラーとを含む、フィラー組成物。
[3]前記無機フィラーがアルミナ粒子であり、前記酸化マグネシウム粉末の含有率が、40体積%以上70体積%以下であり、前記アルミナ粒子の含有率が、30体積%以上60体積%以下であり、前記アルミナ粒子が、平均粒子径が0.1μm以上1.0μm未満である第1のアルミナ粒子と、平均粒子径が1.0μm以上10μm未満である第2のアルミナ粒子と、を含み、各前記平均粒子径はレーザー光回折散乱式粒度分布測定機によって測定された粒子径である、[2]に記載のフィラー組成物。
[4]樹脂と、[2]又は[3]に記載のフィラー組成物とを含む、樹脂組成物。
[5][1]に記載の酸化マグネシウム粉末、[2]若しくは[3]に記載のフィラー組成物、又は[4]に記載の樹脂組成物を含む、放熱部品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、樹脂に充填する際に粘度上昇を抑制でき、かつ、その樹脂を含む樹脂組成物の高熱伝導化を実現できる酸化マグネシウム粉末、並びにその酸化マグネシウム粉末を含むフィラー組成物、樹脂組成物、及び放熱部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係る酸化マグネシウム粒子1を走査型電子顕微鏡により観察した断面SEM像(200倍)である。
【
図2】本実施形態に係る酸化マグネシウム粒子2を走査型電子顕微鏡により観察した断面SEM像(200倍)である。
【
図3】本実施形態に係る酸化マグネシウム粒子3を走査型電子顕微鏡により観察した断面SEM像(200倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について、詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
【0012】
[酸化マグネシウム粉末]
本実施形態の酸化マグネシウム粉末は、後述する本実施形態に係る酸化マグネシウム粒子を含む。
【0013】
(酸化マグネシウム粒子)
本実施形態に係る酸化マグネシウム粉末は、酸化マグネシウム粒子を含み、前記酸化マグネシウム粒子のうち、顕微鏡法による粒子断面の投影面積円相当径が10μm以上である酸化マグネシウム粒子の平均球形度が0.73以上0.95以下であり、前記酸化マグネシウム粒子のうち、球形度が0.65以下である酸化マグネシウム粒子の割合が個数基準で20%以下であり、かつ、前記酸化マグネシウム粒子のうち、球形度が0.55以下である酸化マグネシウム粒子の割合が個数基準で15%以下である。以下、特に説明しない限り、本実施形態に係る酸化マグネシウム粒子を単に「酸化マグネシウム粒子」とも称し、本実施形態に係る酸化マグネシウム粒子を含む酸化マグネシウム粉末を単に「酸化マグネシウム粉末」とも称す。
【0014】
従来の酸化マグネシウム粒子は、球形度が低いため、樹脂に従来の酸化マグネシウム粒子を充填する際に増粘し、そのような酸化マグネシウム粒子を高い割合で充填することが難しい。
しかしながら、本実施形態の係る酸化マグネシウム粒子を含む酸化マグネシウム粉末を用いることで、樹脂中において、酸化マグネシウム粉末の流動性が向上し、樹脂との摩擦抵抗が低下し、樹脂に酸化マグネシウム粉末を充填する際の粘度上昇を抑制することができる。その結果、樹脂に、酸化マグネシウム粉末を高い割合で充填することが可能となり、樹脂中において、酸化マグネシウム粒子同士の接触が十分になり、接触面積が大きくなる。そのため、熱経路を効率よく形成でき、より高熱伝導性の樹脂組成物及び放熱部品を得ることができる。
【0015】
酸化マグネシウム粒子のうち、下記の顕微鏡法による粒子断面の投影面積円相当径が10μm以上である酸化マグネシウム粒子の平均球形度が0.73以上0.95以下の酸化マグネシウム粒子を含む。酸化マグネシウム粒子の平均球形度が上記範囲にあるような球状であると、粒子の表面がより平滑となり、樹脂に酸化マグネシウム粒子を充填する際に増粘しにくくなり、酸化マグネシウム粒子を高い割合で充填することが可能となる。その平均球形度は、樹脂に充填した際の摩擦抵抗低下、及び粒子同士の接触面積増加の点から、0.75以上0.90以下であることが好ましい。本実施形態において、球形度、その割合、及び平均球形度は、粒子断面の画像によって評価される。例えば、下記の顕微鏡法により測定される。すなわち、前記酸化マグネシウム粉末をエポキシ樹脂で包埋し、それを硬化させることで包埋試料を作製し、前記包埋試料を切断して露出した断面に研磨を施し、前記研磨を施した前記断面を走査電子顕微鏡等により観察する。その画像を画像解析装置に取り込み、写真(倍率:200倍)から粒子の投影面積(A)と周囲長(PM)を測定する。その周囲長(PM)と同一の周囲長を持つ真円の面積を(B)とすると、その粒子の球形度はA/Bとなる。よって、試料の周囲長(PM)と同一の周囲長を持つ真円を想定すると、PM=2πr、B=πr2であるから、B=π×(PM/2π)2となり、個々の粒子の球形度は、球形度=A/B=A×4π/(PM)2となる。投影面積相当径が10μm以上である任意の粒子200個の球形度、及びその割合を上記のようにして求め、また、個々の粒子の球形度の相加平均値を平均球形度とする。なお、投影面積円相当径の上限は、通常300μmである。具体的な測定方法は実施例の記載を参照できる。また、粒子径は、投影面積円相当径であり、粒子の投影面積(A)と同一の投影面積を持つ真円の直径を指す。
【0016】
酸化マグネシウム粒子のうち、上記の顕微鏡法により測定された、球形度が0.65以下である酸化マグネシウム粒子の割合が個数基準で20%以下であり、個数基準で15%以下であることが好ましい。球形度が0.65以下である粒子の割合が個数基準で20%以下ということは、樹脂に酸化マグネシウム粉末を充填する際に増粘を引き起こす合着粒子や割れ粒子が少ない酸化マグネシウム粉末であることを意味し、その点で好ましい。また、装置及び金型の摩耗を低減できる傾向にある。その酸化マグネシウム粒子の割合は、通常、個数基準で0.5%以上である。また、顕微鏡法による粒子断面の投影面積円相当径は、通常、2μm以上300μm以下である。
【0017】
酸化マグネシウム粒子のうち、上記の顕微鏡法により測定された、球形度が0.55以下である酸化マグネシウム粒子の割合が個数基準で15%以下であり、個数基準で10%以下であることが好ましい。球形度が0.55以下である粒子の割合が個数基準で15%以下ということは、樹脂に酸化マグネシウム粉末を充填する際に増粘を引き起こす合着粒子や割れ粒子が少ない酸化マグネシウム粉末であることを意味し、その点で好ましい。また、装置及び金型の摩耗を低減できる傾向にある。その酸化マグネシウム粒子の割合は、通常、個数基準で0.5%以上である。また、顕微鏡法による粒子断面の投影面積円相当径は、通常、2μm以上300μm以下である。
【0018】
本実施形態において、酸化マグネシウム粒子に対する表面の複酸化物の含有率が、熱伝導率の低下をより抑制できることから、酸化マグネシウム粒子とその粒子の表面の複酸化物の合計を100質量%に対して、10質量%未満であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。下限は、特に限定されないが、0質量%以上である。本実施形態において、酸化マグネシウム粒子の表面は、複酸化物で被覆されていないことがより好ましい。複酸化物としては、例えば、アルミニウム、鉄、ケイ素、及びチタンからなる群から選択される1以上の元素と、マグネシウムとを含むものが挙げられる。このような複酸化物としては、例えば、フォルステライト(Mg2SiO4)、スピネル(Al2MgO4)、マグネシウムフェライト(Fe2MgO4)、及びチタン酸マグネシウム(MgTiO3)等が挙げられる。本実施形態では、酸化マグネシウム粒子の表面に複酸化物等を被覆せずとも、酸化マグネシウム粒子の表面状態及び形状を制御することで、流動性の改善を図っている。本実施形態では、酸化マグネシウム粒子の表面に被覆層が存在しなくてもよい。即ち、未被覆でもよい。
本実施形態に係る酸化マグネシウム粒子中の酸化マグネシウムの含有率は、樹脂組成物の高熱伝導化をより実現できる点から、酸化マグネシウム粒子100質量%に対して、100質量%であることが好ましい。すなわち、本実施形態に係る酸化マグネシウム粒子は、不純物やその他の成分が含まれず、酸化マグネシウムのみからなることが好ましい。
【0019】
酸化マグネシウム粒子は、JIS R 1639-5:2007に準拠して測定した、累積破壊率63.2%時における粒子強度(単一顆粒圧壊強さ)が、樹脂に充填した際の成形性がより向上するとの理由により、50MPa以上140MPa以下であることが好ましく、60MPa以上120MPa以下であることがより好ましい。粒子強度が50MPa未満では、樹脂との混練時及びプレス時などに応力で凝集粒子が崩れてしまい、熱伝導率が低下するおそれがある。また、粒子強度が140MPaを超えると、金型及び装置が摩耗するおそれがある。なお、累積破壊率における「63.2%」の値は、JIS R 1639-5:2007が引用するJIS R 1625:2010にて記載されている、ワイブル(Weibull)分布関数におけるln[ln(1/(1-F(t)))]=0を満たす値であり、粒子の個数基準の値である。粒子強度は、実施例に記載の方法で測定される。
【0020】
酸化マグネシウム粒子は、球形度が調整されているため、良好な流動性を有する。そのため、酸化マグネシウム粒子を樹脂に高充填できるため、酸化マグネシウム粉末同士の接触がより良好となり、熱経路を効率よく良好に形成でき、より高熱伝導性の樹脂組成物及び放熱部品を得ることができる。このような効果を好適に得ることができ、更に樹脂組成物とした際の表面平滑性の観点から、平均粒子径は30μm以上150μm以下であることが好ましく、40μm以上140μm以下であることがより好ましく、50μm以上130μm以下であることがより好ましい。平均粒子径が30μm以上であると、樹脂組成物及び放熱部品中において、熱経路をより効率的に形成でき、熱をより十分に伝導させることができる傾向にある。また、平均粒子径が150μm以下であると、放熱部品における表面の平滑性が更に向上し、放熱部品と熱源との界面における熱抵抗が減少するため、熱伝導率をより十分に向上させることができる傾向にある。なお、本実施形態において、粒子径及び平均粒子径は、レーザー光回折散乱式粒度分布測定機によって測定される。具体的な測定方法は、実施例に記載のとおりである。
【0021】
(酸化マグネシウム粉末)
本実施形態において、酸化マグネシウム粉末中の、本実施形態に係る酸化マグネシウム粒子の含有率は、酸化マグネシウム粉末100質量%に対して、80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましく、99質量%以上であることが更により好ましい。その含有率の上限は、例えば、100質量%である。酸化マグネシウム粒子の含有率が上記範囲内にある酸化マグネシウム粉末は、熱経路を阻害する傾向にある二酸化ケイ素、並びに酸化マグネシウム粒子の製造において用いる助剤(例えば、ホウ素及び鉄)などの不可避成分が更に少なくなっているため、より高熱伝導性の樹脂組成物及び放熱部品を得ることができる傾向にある。酸化マグネシウム粒子の含有率は、実施例に記載の方法で測定される。
【0022】
本実施形態に係る酸化マグネシウム粉末には、通常、本実施形態に係る酸化マグネシウム粒子以外のフィラーを含まない。このようなフィラーとしては、例えば、無機フィラー、有機フィラー、及び有機-無機ハイブリッドフィラーが挙げられる。具体的には、無機フィラーとしては、本実施形態に係る酸化マグネシウム粒子以外の酸化マグネシウム粒子、シリカ粒子、アルミナ粒子、窒化アルミニウム粒子、窒化ケイ素粒子、酸化イットリウム粒子、窒化ホウ素粒子、酸化カルシウム粒子、酸化鉄粒子、及び酸化ホウ素粒子等の無機物からなるフィラーが挙げられる。有機フィラーとしては、スチレン、ビニルケトン、アクリロニトリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、及びアクリル酸メチル等の単独あるいは2種類以上の共重合体;ポリテトラフルオロエチレン、4-フッ化エチレン-6-フッ化プロピレン共重合体、4-フッ化エチレン-エチレン共重合体、及びポリビニリデンフルオライド等のフッ素系樹脂;メラミン樹脂;尿素樹脂;ポリエチレン;ポリプロピレン;ポリメタクリレート等の有機物からなるフィラーが挙げられる。有機-無機ハイブリッドフィラーとしては、ポリシルセスキオキサンを含むフィラーが挙げられる。なお、後記のとおり、本実施形態に係るフィラー組成物は、本実施形態に係る酸化マグネシウム粉末と、本実施形態に係る酸化マグネシウム粒子以外の無機フィラーとを含む。
【0023】
酸化マグネシウム粉末の粒子密度は、熱伝導率がより向上することから、3.0g/cm3以上3.5g/cm3以下であることが好ましく、3.1g/cm3以上3.4g/cm3以下であることがより好ましい。酸化マグネシウム粉末の粒子密度が上記範囲にあると、通常の酸化マグネシウム粉末に比べて軽量であるため、放熱部品を軽量化することが可能となる。また、金型及び装置の摩耗を低減できるという効果も奏する。粒子密度は、実施例に記載の方法で測定される。
【0024】
(酸化マグネシウム粒子の製造方法)
本実施形態に係る酸化マグネシウム粒子及び酸化マグネシウム粉末は、例えば、次の工程(1)乃至(5)を含むことで製造することができる。
(1)塩化マグネシウムと水とを混合した水溶液と、アルカリ水溶液とを混合して、反応させることで水酸化マグネシウムスラリーを得る工程、
(2)前記水酸化マグネシウムスラリーを濾過、水洗、及び乾燥させた後、焼成し、酸化マグネシウム粒子を得る工程、
(3)前記酸化マグネシウム粒子に有機溶媒等の溶媒を加えて分散液とした後、この分散液中にて湿式粉砕を行う工程、
(4)次いで、噴霧乾燥を行うことで酸化マグネシウム粒子を得る工程、
(5)前記酸化マグネシウム粒子を焼成することで、本実施形態に係る酸化マグネシウム粒子を含む酸化マグネシウム粉末を得る工程。
【0025】
この製造方法においては、最終焼成までに、本実施形態の酸化マグネシウム粉末中におけるホウ素含有量が300ppm以上2,000ppm以下、及び鉄含有量が100ppm以上1,500ppm以下となるように、ホウ素源及び鉄源を混合及び/又は添加する。具体的には、上記の工程(1)乃至(3)において、(a)塩化マグネシウム水溶液、(b)水酸化マグネシウムスラリー、(c)工程(2)で得られた酸化マグネシウム粒子、(d)分散液、及び/又は分散液中における湿式粉砕中のいずれか1つ以上において、ホウ素源及び/又は鉄源を添加するか、又は混合することで、本実施形態の酸化マグネシウム粉末中のホウ素含有量及び鉄含有量を調整することができる。
【0026】
本実施形態の酸化マグネシウム粉末中におけるホウ素含有量が、300ppm未満であると、表面が平滑化せず、耐湿性が悪くなるおそれがある。また、ホウ素含有量が2,000ppmを超えると、球状の一部に凹みが形成されることや、ドーナツ状の酸化マグネシウムが形成され、真球度が高い酸化マグネシウムが得られないおそれがある。
本実施形態の酸化マグネシウム粉末中における鉄含有量が、100ppm未満であると、耐湿性が悪くなることや、球状の一部に凹みが形成されることで、真球度が高い酸化マグネシウムが得られないおそれがある。また、鉄含有量が1,500ppmを超えると、酸化マグネシウム表面に微粒子が多数発生し、耐湿性が悪くなるおそれがある。
【0027】
ホウ素源としては、ホウ素を含む化合物であれば特に限定されず、例えば、ホウ酸、酸化ホウ素、水酸化ホウ素、窒化ホウ素、炭化ホウ素、及びホウ酸アンモニウムが挙げられる。
鉄源としては、鉄を含む化合物であれば特に限定されず、酸化鉄(II)、酸化鉄(III)、四三酸化鉄、水酸化鉄、塩化鉄、窒化鉄、臭化鉄、及びフッ化鉄が挙げられる。
【0028】
塩化マグネシウムとしては、例えば、塩化マグネシウム六水和物、塩化マグネシウム二水和物、塩化マグネシウム無水和物、苦汁(にがり)、及び海水、並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0029】
アルカリ水溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、及びアンモニア水、並びにこれら混合物が挙げられる。
【0030】
工程(3)において、酸化マグネシウム粒子に加える溶媒としては、公知の有機溶媒が挙げられる。例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、アセトン、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、テトラヒドロフラン、及びトルエン、並びにこれらの混合溶媒が挙げられる。
工程(3)において、分散液100質量%に対して、酸化マグネシウム粒子を60質量%以上で含まれるスラリー状態の分散液とすることが必要である。スラリーの分散性の低下を抑えつつ、スラリー濃度を高めるには分散剤の添加が有効である。分散剤としては、公知の分散剤を用いることできる。スラリー濃度を高く調整をするとともに、工程(4)における噴霧乾燥の乾燥温度を高くすることで、本実施形態に係る酸化マグネシウムを得ることができる。なお、スラリー濃度の上限は、90質量%以下とする。
また、湿式粉砕としては、ボールミルを用いた粉砕など、公知の粉砕方法を用いることができる。
【0031】
工程(4)において、噴霧乾燥の方法は特に限定されないが、湿式粉砕後の酸化マグネシウム分散液を回転ディスクやノズルから噴霧し、酸化マグネシウム粒子を得るスプレードライ法等を用いることが好ましい。また、湿式粉砕及び噴霧時における分散液は、分散液中に酸化マグネシウムが60質量%以上80質量%以下になるように調整することが好ましい。
工程(4)において、乾燥温度は60℃以上とする。上記のとおり、工程(3)でのスラリー濃度を高めるとともに、工程(4)における噴霧乾燥の乾燥温度を高めることが重要である。なお、乾燥温度は、180℃以下とする。
また、工程(3)でのスラリー濃度を高めるとともに、工程(4)における噴霧乾燥の乾燥温度を高めることで粒子表面の平滑性も高めることができる。
【0032】
工程(5)において、酸化マグネシウム粒子の焼成条件は、酸化マグネシウム粒子が焼結する範囲であれば特に限定されないが、焼成温度が1,000℃以上1,800℃以下であることが好ましく、1,100℃以上1,700℃以下であることがより好ましく、1,200℃以上1,600℃以下であることが更に好ましい。焼成温度が1,000℃に満たないと、十分に焼結しないおそれがある。1,800℃を超えると、粒子同士が焼結し、粗大な凝集体を形成するおそれがある。焼成時間は、焼成温度により特に限定されないが、0.5時間以上10時間以下であることが好ましい。
【0033】
[フィラー組成物]
本実施形態に係るフィラー組成物は、本実施形態に係る酸化マグネシウム粉末と、本実施形態に係る酸化マグネシウム粒子以外のフィラーとを含む。このようなフィラーとしては、例えば、無機フィラー、有機フィラー、及び有機-無機ハイブリッドフィラーが挙げられる。これらは上述で例示したものと同様であり、具体例は省略する。これらの中でも、無機フィラーが好ましく、アルミナ粒子がより好ましい。また、本実施形態では、フィラー組成物に、種々の添加剤を含んでもよい。このような添加剤としては、例えば、シランカップリング剤、及び湿潤分散剤が挙げられる。
【0034】
本実施形態に係る酸化マグネシウム粒子以外のフィラーとしては、本実施形態に係る酸化マグネシウム粒子以外であって、例えば、上記の顕微鏡法による粒子断面の投影面積円相当径が粒子径10μm以上のである酸化マグネシウム粒子の平均球形度が0.73未満である酸化マグネシウム粒子、上記の顕微鏡法による粒子断面の投影面積円相当径が粒子径10μm以上のである酸化マグネシウム粒子の平均球形度が0.73以上0.95以下であっても、前記酸化マグネシウム粒子の球形度が0.65以下のである粒子の割合が個数基準で20個数%を超える酸化マグネシウム粒子、及び上記の顕微鏡法による粒子断面の投影面積円相当径が粒子径10μm以上のである酸化マグネシウム粒子の平均球形度が0.73以上0.95以下であり、前記酸化マグネシウム粒子の球形度が0.65以下のである粒子の割合が個数基準で20個数%以下であっても、前記酸化マグネシウム粒子の球形度が0.55以下のである粒子の割合が個数基準で15個数%を超える酸化マグネシウム粒子が挙げられる。
【0035】
これらのフィラーは、公知のシランカップリング剤などを用いて表面処理されたフィラーであってもよい。フィラー組成物には、本実施形態に係る酸化マグネシウム粒子と共に、これらのフィラーが1種又は2種以上含まれていてもよい。
【0036】
本実施形態に係るフィラー組成物は、本実施形態に係る酸化マグネシウム粉末と、アルミナ粒子とを含むことが好ましい。これらを含むことで、本実施形態に係るフィラー組成物は、増粘を抑制できると共に高い熱伝導性を有することが可能となる。
【0037】
(アルミナ粒子)
本実施形態に係るアルミナ粒子は、1種のアルミナ粒子、又は互いに平均粒子径の異なる2種以上のアルミナ粒子を含む。アルミナ粉末は、アルミナ粒子以外のフィラー、特に無機フィラーを含んでもよい。また、アルミナ粒子の代わりに、アルミナ粒子と、アルミナ粒子以外のフィラー、特に無機フィラーを含むアルミナ粉末を用いてもよい。このようなアルミナ粉末は、アルミナ粒子以外のフィラーであって、無機フィラー以外のフィラーを含む場合は、アルミナ粉末というよりも単なる粉末と称されるべきである。
【0038】
本実施形態において、アルミナ粉末中の、アルミナ粒子の含有率は、アルミナ粉末を100質量%に対して、80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましく、99質量%以上であることが更により好ましい。その含有率の上限は、例えば、100質量%である。なお、アルミナ粉末中に、互いに平均粒子径の異なる2種以上のアルミナ粒子を含む場合には、そのアルミナ粒子の含有率は、これらの合計の含有率とする。アルミナ粒子の含有率が上記範囲内にあるアルミナ粉末は、熱経路を阻害する傾向にある二酸化ケイ素などの不可避成分が更に少なくなっているため、より高熱伝導性の樹脂組成物及び放熱部品を得ることができる傾向にある。
【0039】
本実施形態のフィラー組成物において、酸化マグネシウム粒子の含有率は、熱伝導率がより向上し、また、樹脂に対する充填性の低下をより抑制できる点から、フィラー組成物100体積%に対して、40体積%以上70体積%以下であることが好ましく、45体積%以上65体積%以下であることがより好ましい。また、酸化マグネシウム粉末と共にアルミナ粒子を含む場合、アルミナ粒子の含有率は、熱伝導率がより向上し、また、樹脂に対する充填性の低下をより抑制できる点から、フィラー組成物100体積%に対して、30体積%以上60体積%以下であることが好ましく、35体積%以上55体積%以下であることが好ましい。
上記の範囲内で酸化マグネシウム粉末及びアルミナ粒子が含まれることにより、本実施形態に係るフィラー組成物は、樹脂に充填する際に粘度上昇をより抑制でき、かつ、その樹脂を含む樹脂組成物の高熱伝導化をより実現できる。
【0040】
アルミナ粉末は、粒子径が0.1μm以上1.0μm未満である第1のアルミナ粒子と、粒子径が1.0μm以上10μm未満である第2のアルミナ粒子と、を含むことが好ましい。第1のアルミナ粒子の役割は、粒子同士の流動性を助長することであり、第2のアルミナ粒子の役割は、酸化マグネシウムの間隙を効率良く埋め、樹脂に対する充填性を助長することであり、これらの組み合わせで成形性の更なる向上という効果が得られる。この効果を得るためには、フィラー組成物100体積%に対して、第1のアルミナ粒子の含有率は、8体積%以上20体積%以下が好ましく、12体積%以上17体積%以下がより好ましい。また、第2のアルミナ粒子の含有率は、22体積%以上40体積%以下が好ましく、23体積%以上38体積%以下であることがより好ましい。アルミナ粉末の粒子径は、例えば、レーザー光回折散乱式粒度分布測定機を用いて測定する。
【0041】
フィラー組成物において、酸化マグネシウム粒子及びアルミナ粒子以外のその他のフィラーを含む場合、その含有率は、フィラー組成物100体積%に対して、40体積%以下であってよく、30体積%以下であってよく、20体積%以下であってよく、15体積%以下であってよく、10体積%以下であってよく、5体積%以下であってよい。また、その他のフィラーを含まなくてもよい。
【0042】
本実施形態のフィラー組成物は、粒子径が0.01μm以上3,500μm以下の粒度域に、複数、すなわち2以上のピークを有し、2以上4以下のピークを有することが好ましく、3つのピークを有することがより好ましい。ここで、本実施形態において、ピークとは、レーザー光回折散乱法による体積基準頻度粒度分布において、0.01μm以上3,500μm以下の粒径範囲を等間隔(ただし、最も小さい粒径の領域は0.01μm以上35μm以下。それよりも大きい粒径の領域は35μmの間隔。)に100等分に分割して、その粒径範囲に検出される極大点を称する。また、検出されるピークにおいて、ショルダーがある場合には、そのショルダーもピークとしてカウントする。ショルダーとは、二次微分係数から与えられるピークの曲率で検出され、ピーク中に変曲点を有すること、すなわち、特定粒径の粒子成分がより多く存在することを意味する。
また、それぞれのピークについて、レーザー光回折散乱法による体積基準頻度粒度分布において、粒子径が0.01μm以上3,500μm以下の粒度域における微粒側(すなわち、0.01μm側)から、検出される1番目のピークを有する粒子を第1の粒子、2番目のピークを有する粒子を第2の粒子として、順次n番目のピークを有する粒子を第nの粒子とする。すなわち、検出されるピーク数はnとなる。検出される粒子は、本実施形態に係る酸化マグネシウム粒子とアルミナ粒子だけであってもよく、それに加えてその酸化マグネシウム粒子及びアルミナ粒子以外のフィラーであってもよい。また、検出される粒子は、本実施形態に係る酸化マグネシウム粒子と、互いに平均粒子径の異なる2種以上のアルミナ粒子であることが好ましく、本実施形態に係る酸化マグネシウム粒子と、互いに平均粒子径の異なる2種のアルミナ粒子であることがより好ましい。
【0043】
(フィラー組成物の製造方法)
本実施形態に係るフィラー組成物としては、本実施形態に係る酸化マグネシウム粉末1種をそのまま用いてもよい。また、本実施形態に係るフィラー組成物は、2種以上の酸化マグネシウム粉末を適宜混合することで得られてもよい。さらに、本実施形態に係るフィラー組成物は、本実施形態に係る酸化マグネシウム粉末と、それ以外のフィラー等とを適宜混合することで得られてもよい。混合方法としては、例えば、ボールミル混合が挙げられる。
【0044】
[樹脂組成物及びその製造方法]
本実施形態に係る樹脂組成物は、樹脂と、本実施形態に係る酸化マグネシウム粉末とを含む。また、本実施形態に係る樹脂組成物は、樹脂と、本実施形態に係るフィラー組成物とを含む。本実施形態に係る樹脂組成物は、上記酸化マグネシウム粉末を含むことにより、増粘を抑制できると共に高い熱伝導性を有することが可能となる。
【0045】
本実施形態に係る樹脂組成物の熱伝導率は、5.5(W/m・K)以上であり、7.0(W/m・K)以上であってもよく、10.0(W/m・K)以上であってもよい。熱伝導率は、実施例に記載の方法で測定される。
【0046】
(樹脂)
樹脂としては、熱可塑性樹脂及びそのオリゴマー、エラストマー類等の種々の高分子化合物を用いることできる。例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、及びフッ素樹脂;ポリイミド、ポリアミドイミド、及びポリエーテルイミド等のポリアミド;ポリブチレンテレフタレート、及びポリエチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリフェニレンスルフィド、芳香族ポリエステル、ポリスルホン、液晶ポリマー、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、マレイミド変性樹脂、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)樹脂、AAS(アクリロニトリル・アクリルゴム・スチレン)樹脂、AES(アクリロニトリル・エチレン・プロピレン・ジエンゴム・スチレン)樹脂、EVA(エチレン酢酸ビニル共重合体)樹脂、及びシリコーン樹脂等を用いることができる。これらの樹脂は、1種単独で、又は2種以上を適宜混合して用いることができる。
【0047】
これらの樹脂の中でも、高放熱特性が得られる点から、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリカーボネート、ABS樹脂、及びシリコーン樹脂が好ましく、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、及びアクリル樹脂がより好ましく、シリコーン樹脂が更に好ましい。
【0048】
シリコーン樹脂としては、メチル基及びフェニル基などの有機基を有する一液型又は二液型付加反応型液状シリコーンから得られるゴム又はゲルを用いることが好ましい。このようなゴム又はゲルとしては、例えば、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製の「YE5822A液/YE5822B液(商品名)」、及び東レ・ダウコーニング社製の「SE1885A液/SE1885B液(商品名)」などを挙げることができる。
【0049】
(酸化マグネシウム粉末、アルミナ粒子、及び樹脂の充填率)
本実施形態の樹脂組成物において、熱伝導率向上の点から、樹脂組成物100質量%に対して、本実施形態に係る酸化マグネシウム粉末の充填率が67体積%以上88体積%以下であることが好ましく、71体積%以上85体積%以下であることがより好ましい。この場合は、樹脂分(固形分)の充填率は、樹脂組成物の成形性の点から、12体積%以上33体積%以下であることが好ましく、15体積%以上29体積%以下であることがより好ましい。
【0050】
また、本実施形態の樹脂組成物において、アルミナ粒子を含む場合には、熱伝導率がより向上する点から、樹脂組成物100質量%に対して、本実施形態に係る酸化マグネシウム粉末とアルミナ粒子との合計の充填率が67体積%以上88体積%以下であることが好ましく、71体積%以上85体積%以下であることがより好ましい。樹脂分(固形分)の充填率は、樹脂組成物の成形性の点から、12体積%以上33体積%以下であることが好ましく、15体積%以上29体積%以下であることがより好ましい。
本実施形態に係る酸化マグネシウム粉末は、樹脂に充填しても増粘し難いので、上記の範囲内で樹脂組成物中に含まれても、樹脂組成物の増粘を抑制することが可能である。
【0051】
(その他の成分)
本実施形態の樹脂組成物には、本実施形態の特性が損なわれない範囲において、本実施形態に係る酸化マグネシウム粒子、アルミナ粒子及び樹脂以外に、必要に応じて、溶融シリカ、結晶シリカ、ジルコン、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭化珪素、窒化アルミ、窒化ホウ素、ベリリア、及びジルコニア等の無機フィラー;メラミン及びベンゾグアナミン等の窒素含有化合物、オキサジン環含有化合物、及びリン系化合物のホスフェート化合物、芳香族縮合リン酸エステル、及び含ハロゲン縮合リン酸エステル等の難燃性の化合物;添加剤等を含んでもよい。添加剤としては、マレイン酸ジメチル等の反応遅延剤、硬化剤、硬化促進剤、難燃助剤、難燃剤、着色剤、粘着付与剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、蛍光増白剤、光増感剤、増粘剤、滑剤、消泡剤、表面調整剤、光沢剤、及び重合禁止剤等が挙げられる。これらの成分は、1種単独で、又は2種以上を適宜混合して用いることができる。本実施形態の樹脂組成物において、その他の成分の含有率は、樹脂組成物100質量%に対して、通常、それぞれ0.1質量%以上5質量%以下である。また、その他の成分の合計は、樹脂組成物100質量%に対して、40質量%以下であってよく、30質量%以下であってよく、20質量%以下であってよく、15質量%以下であってよく、10質量%以下であってよく、5質量%以下であってよい。また、その他の成分を含まなくてもよい。
【0052】
(樹脂組成物の製造方法)
本実施形態の樹脂組成物の製造方法は、例えば、樹脂と、酸化マグネシウム粉末と、必要に応じて、アルミナ粒子と、その他の成分を十分に攪拌して得る方法が挙げられる。本実施形態の樹脂組成物は、例えば、各成分の所定量を、ブレンダー、及びヘンシェルミキサー等によりブレンドした後、混合物の粘度によってドクターブレード法、押し出し法、及びプレス法等によって成形し、加熱硬化することによって製造することができる。
【0053】
[放熱部品]
本実施形態に係る放熱部品は、本実施形態に係る酸化マグネシウム粉末、フィラー組成物、又は樹脂組成物を含む。本実施形態に係る放熱部品は、上記酸化マグネシウム粉末、フィラー組成物、又は樹脂組成物を用いることで、高い熱伝導性を実現できる、すなわち、高い放熱性を有することができる。放熱部品としては、例えば、放熱シート、放熱グリース、放熱スペーサー、半導体封止材、及び放熱塗料(放熱コート剤)が挙げられる。
【実施例0054】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0055】
〔評価方法〕
(1)平均球形度、球形度、及び割合
上記の顕微鏡法のとおり、走査型電子顕微鏡(日本電子社製「JSM-6301F型」(商品名))にて撮影した任意の200個の粒子の断面像を画像解析装置(マウンテック社製「MacView Ver.4」(商品名))に取り込み、写真から、実施例及び比較例にて得られた酸化マグネシウム粒子のそれぞれの投影面積(A)と周囲長(PM)を測定した。それらの値を用いて、個々の粒子の球形度及びその割合を求め、また、個々の粒子の球形度の相加平均値を平均球形度とした。なお、酸化マグネシウム粒子1~3のぞれぞれの断面SEM像(各200倍)を
図1乃至3に示した。
【0056】
(2)複酸化物の含有率
粉末X線回折パターンのリートベルト解析にて、酸化マグネシウム粉末中の複酸化物の含有率を測定した。実施例及び比較例にて得られた酸化マグネシウム粉末をそれぞれサンプルホルダに詰め、X線回折装置(ブルカー社製「D8 ADVANCE」(製品名)、検出器:LynxEye(製品名))を用いて測定した。測定条件は、X線源:CuKα(λ=1.5406Å)、測定法:連続スキャン法、スキャン速度:0.017°/1.0sec、管電圧:40kV、管電流:40mA、発散スリット:0.5°、ソーラースリット:2.5°、測定範囲:2θ=10°~70°とした。得られたX線回折パターンを基に、解析ソフトTOPASを用いたリートベルト解析による定量分析によって酸化マグネシウム粉末中の複酸化物の含有率(質量%)を求めた。
【0057】
(3)粒子強度
JIS R 1639-5:2007に準じて測定を実施した。測定装置としては、微小圧縮試験器(島津製作所社製「MCT-W500」(商品名))を用いた。実施例及び比較例にて得られた酸化マグネシウム粒子のそれぞれの粒子強度(σ、単位:MPa)について、粒子内の位置によって変化する無次元数(α=2.48)と圧壊試験力(P、単位:N)と粒子径(d、単位:μm)とからσ=α×P/(π×d2)の式を用いて20個以上の粒子について測定を行い、累積破壊率63.2%の時点での値をそれぞれ算出し、その平均値を粒子強度(MPa)とした。なお、平均粒子径が20μm未満では、粒径が小さすぎるため粒子強度の算出が不可であった。
【0058】
(4)平均粒子径及び粒度分布(ピーク数)
平均粒子径及び粒度分布(ピーク数)は、レーザー回折光散乱法粒度分布測定装置(マルバーン社製「マスターサイザー3000」(商品名)、湿式分散ユニット:Hydro MV装着)により測定した。測定に際して、測定対象となる、実施例及び比較例にて得られた酸化マグネシウム粉末又はフィラー組成物のそれぞれを、溶媒としての水中に、前処理として2分間、トミー精工社製の超音波発生器UD-200(超微量チップTP-040装着)(商品名)を用いて200Wの出力をかけて分散処理した。分散処理後の粒子を、レーザー光回折散乱強度が10%以上15%以下になるように分散ユニットに滴下した。分散ユニットスターラーの撹拌速度は1750rpm、超音波モードは「なし」とした。粒度分布の解析は粒子径0.01μm以上3500μm以下の範囲を100分割にして行った。水、酸化マグネシウム、及びアルミナ粒子の屈折率には、それぞれ1.33、1.74、及び1.768を用いた。測定した質量基準の粒度分布において、累積質量が50%となる粒子を平均粒子径(μm)とした。また、ピークは、上記の粒径範囲に検出される極大点とした。
【0059】
(5)酸化マグネシウム粒子の含有率
粉末X線回折パターンのリートベルト解析にて、酸化マグネシウム粉末中の酸化マグネシウム粒子の含有率を測定した。実施例及び比較例にて得られた酸化マグネシウム粉末をそれぞれサンプルホルダに詰め、X線回折装置(ブルカー社製「D8 ADVANCE」(製品名)、検出器:LynxEye(製品名))を用いて測定した。測定条件は、X線源:CuKα(λ=1.5406Å)、測定法:連続スキャン法、スキャン速度:0.017°/1.0sec、管電圧:40kV、管電流:40mA、発散スリット:0.5°、ソーラースリット:2.5°、測定範囲:2θ=10°~70°とした。得られたX線回折パターンを基に、解析ソフトTOPASを用いたリートベルト解析による定量分析によって酸化マグネシウム粉末中の酸化マグネシウム粒子の含有率(質量%)を求めた。
【0060】
(6)粒子密度
実施例及び比較例にて得られた酸化マグネシウム粉末のそれぞれの粒子密度(g/cm3)は、連続自動粉粒体真密度測定器「オートトゥルーデンサーMAT-7000(商品名)、(株)セイシン企業製」を用いて測定した。測定溶媒には、エタノール(試薬特級)を用いた。
【0061】
(7)粘度
実施例及び比較例にて得られたフィラー組成物のそれぞれをシリコーンオイル(信越化学工業社製「KF96-100cs」(商品名))に、フィラー組成物中における酸化マグネシウム粉末とアルミナ粒子との合計の充填率が73体積%となるように投入した。これを自転・公転ミキサー(シンキー社製「あわとり練太郎 ARE-310」(商品名))を用いて回転数2,200rpmで30秒間混合後、真空脱泡して樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物について、レオメーター(AntonーPaar社製「MCR102」(商品名))を用いせん断粘度を測定した。測定条件は、温度:30℃、プレート:φ25mmパラレルプレート、ギャップ:1mmとした。せん断速度を0.01s-1から10s-1まで連続的に変化させながら測定し、5s-1の時の粘度(Pa・s)を読み取った。
【0062】
(8)熱伝導率
実施例及び比較例にて得られたフィラー組成物のそれぞれをシリコーン樹脂(東レ・ダウコーニング社製SE-1885A液、及びSE1885B液)に、フィラー組成物中における酸化マグネシウム粉末とアルミナ粒子との合計の充填率が78体積%となるように投入した。これを撹拌混合後、真空脱泡して、厚さ3mmに加工後、120℃、5時間加熱して、樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物について、熱伝導率測定装置(日立テクノロジーアンドサービス社製樹脂材料熱抵抗測定装置「TRM-046RHHT」(商品名))を用い、ASTM D5470に準拠した定常法で熱伝導率(W/m・K)を測定した。樹脂組成物は幅10mm×10mmに加工し、2Nの荷重をかけながら測定を実施した。
【0063】
(酸化マグネシウム粒子1の製造)
塩化マグネシウム無水和物(MgCl2)をイオン交換水に溶解して、約3.5mol/Lの塩化マグネシウム水溶液を調製した。塩化マグネシウムの反応率が90モル%になるよう、塩化マグネシウム水溶液と25%水酸化ナトリウム水溶液とを、それぞれ定量ポンプにてリアクターに送液して、連続反応を実施し、水酸化マグネシウムスラリーを得た。
水酸化マグネシウムスラリーに、最終的に得られる酸化マグネシウム粉末中のホウ素含有量が650ppmとなるようにホウ酸(関東化学(株)製、試薬特級)、及び鉄含有量が350ppmとなるように酸化鉄(II)(林純薬工業(株)製)を添加した。その後、スラリーを濾過、水洗、及び乾燥させた後、900℃で1時間焼成し、酸化マグネシウム粒子を得た。
この酸化マグネシウム粒子に、工業用アルコール(日本アルコール販売(株)製ソルミックスA-7(商品名))を添加し、酸化マグネシウム粒子の濃度55質量%の分散液を得た。この分散液中にて、ボールミルを用いて4時間、湿式粉砕を行った。
その後、スプレードライ法による噴霧乾燥を行った。乾燥温度は、70℃とした。
得られた噴霧乾燥後の酸化マグネシウム粒子を、電気炉を用いて1,600℃で1時間焼成し、酸化マグネシウム粒子1を含む酸化マグネシウム粉末を得た。
【0064】
前記の評価方法に従って、得られた酸化マグネシウム粒子1及び粉末の物性をそれぞれ評価した。投影面積円相当径が10μm以上である酸化マグネシウム粒子の平均球形度は0.70であり、球形度0.65以下の粒子の割合は個数基準で23.5%であり、球形度0.55以下の粒子の割合は個数基準で18.5%であり、複酸化物の含有量は0質量%であり、粒子強度は91MPaであり、平均粒子径は112μmであり、酸化マグネシウム粒子の含有率は100質量%であり、粒子密度は3.4であった。
【0065】
(酸化マグネシウム粒子2の製造)
酸化マグネシウム粒子の濃度を65質量%に変更した以外は、実施例1と同様にして、酸化マグネシウム粒子2を含む酸化マグネシウム粉末を製造した。
【0066】
前記の評価方法に従って、得られた酸化マグネシウム粒子2及び粉末の物性をそれぞれ評価した。その結果、投影面積円相当径が10μm以上である酸化マグネシウム粒子の平均球形度は0.79であり、球形度0.65以下の粒子の割合は個数基準で12.0%であり、球形度0.55以下の粒子の割合は個数基準で7.0%であり、複酸化物の含有量は0質量%であり、粒子強度は92MPaであり、平均粒子径は139μmであり、酸化マグネシウム粒子の含有率は100質量%であり、粒子密度は3.4であった。
【0067】
(酸化マグネシウム粒子3の製造)
酸化マグネシウム粒子の濃度を60質量%に変更し、かつ、スプレードライ法による噴霧乾燥における乾燥温度を100℃に変更した以外は、実施例1と同様にして、酸化マグネシウム粒子3を含む酸化マグネシウム粉末を製造した。
【0068】
前記の評価方法に従って、得られた酸化マグネシウム粒子3及び粉末の物性をそれぞれ評価した。その結果、投影面積円相当径が10μm以上の粒子の平均球形度は0.82であり、球形度0.65以下の粒子の割合は個数基準で3.5%であり、球形度0.55以下の粒子の割合は個数基準で3.0%であり、複酸化物の含有量は0質量%であり、粒子強度は110MPaであり、平均粒子径は97μmであり、酸化マグネシウム粒子の含有率は100質量%であり、粒子密度は3.4であった。
【0069】
[実施例1~4、比較例1及び2]
表1に示す割合(体積%)で、酸化マグネシウム粉末1~3と、アルミナ粒子1~3とを配合して、フィラー組成物を得た。得られたフィラー組成物の物性を評価し、結果を表1に示した。なお、アルミナ粒子1としてデンカ社製「DAW-07」(商品名、平均粒子径:7μm)、アルミナ粒子2としてデンカ社製「DAW-05」(商品名、平均粒子径:5μm)、及びアルミナ粒子3としてデンカ社製「ASFP-40」(商品名、平均粒子径:0.4μm)を用いた。
【0070】
本発明の酸化マグネシウム粉末によれば、樹脂に充填する際に粘度上昇を抑制でき、かつ、その樹脂を含む樹脂組成物の高熱伝導化を実現できる。そのため、例えば、放熱シート、放熱グリース、放熱スペーサー、半導体封止材、及び放熱塗料(放熱コート剤)等の放熱部品の用途に特に有用である。