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特開2022-48629抗生物質誘発性の腸内ディスバイオシスを改善するための組成物
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  • 特開-抗生物質誘発性の腸内ディスバイオシスを改善するための組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022048629
(43)【公開日】2022-03-28
(54)【発明の名称】抗生物質誘発性の腸内ディスバイオシスを改善するための組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/10 20160101AFI20220318BHJP
   A23L 7/10 20160101ALI20220318BHJP
   A61P 1/14 20060101ALI20220318BHJP
   A61K 36/8998 20060101ALI20220318BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220318BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20220318BHJP
【FI】
A23L33/10
A23L7/10 Z
A61P1/14
A61K36/8998
A61P43/00 111
A61K47/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020154544
(22)【出願日】2020-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】中山 保典
(72)【発明者】
【氏名】田宮 大雅
【テーマコード(参考)】
4B018
4B023
4C076
4C088
【Fターム(参考)】
4B018LB03
4B018LB10
4B018MD49
4B018ME11
4B018ME14
4B018MF14
4B023LC09
4B023LE26
4B023LG05
4C076AA11
4C076AA22
4C076AA30
4C076AA31
4C076AA36
4C076AA53
4C076BB01
4C076BB11
4C076BB21
4C076BB27
4C076BB29
4C076BB31
4C076CC16
4C076EE30
4C076EE38
4C088AB73
4C088MA13
4C088MA16
4C088MA17
4C088MA23
4C088MA31
4C088MA35
4C088MA37
4C088MA41
4C088MA43
4C088MA52
4C088MA55
4C088MA56
4C088MA60
4C088MA63
4C088MA66
4C088NA14
4C088ZA69
4C088ZA73
4C088ZC02
(57)【要約】
【課題】抗生物質誘発性の腸内ディスバイオシスを改善するための、組成物の提供。
【解決手段】デンプン合成酵素IIの発現量及び/又は活性が抑制された大麦を含有する、抗生物質誘発性の腸内ディスバイオシスを改善するための、組成物。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
デンプン合成酵素IIの発現量及び/又は活性が抑制された大麦を含有する、抗生物質誘発性の腸内ディスバイオシスを改善するための、組成物。
【請求項2】
その大麦殻粒の粉砕物あたりレジスタントスターチを2質量%~10質量%、フルクタンを5質量%~15質量%及びβ-グルカンを2質量%~15質量%含む大麦を含有する、抗生物質誘発性の腸内ディスバイオシスを改善するための、組成物。
【請求項3】
腸内ディスバイオシスの改善が、腸内細菌の数を増加及び/又は減少させることである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
腸内ディスバイオシスの改善が、ラクノスピラ科、ルミノコッカス科及びバクテロイデス属からなる群から選ばれる一つ以上の科及び/又は属に属する腸内細菌の数を増加させることである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項5】
腸内ディスバイオシスの改善が、エンテロバクター科に属する腸内細菌の数を減少させることである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項6】
腸内ディスバイオシスの改善が、腸内細菌の多様性を増加させることである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項7】
腸内ディスバイオシスの改善が、腸内細菌のアルファ多様性を増加させることである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項8】
腸内ディスバイオシスの改善が、Observed species、Phylogenetic Diversity whole tree、Shannon diversity index及びChao1 indexからなる群から選ばれる一つ以上の腸内細菌のアルファ多様性を示す値を増加させることである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項9】
腸内ディスバイオシスの改善が、腸内の短鎖脂肪酸の産生を促進させることである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項10】
腸内ディスバイオシスの改善が、酢酸、プロピオン酸及び酪酸からなる群から選ばれる一つ以上の腸内の短鎖脂肪酸の産生を促進させることである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項11】
腸内ディスバイオシスの改善が、腸内のpHを低下させることである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項12】
腸内ディスバイオシスの改善が、前記組成物が供された日から14日以内になされる、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項13】
請求項1~12の何れか一項に記載の組成物を含有する、飲食品。
【請求項14】
請求項1~12の何れか一項に記載の組成物を含有する、医薬品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗生物質誘発性の腸内ディスバイオシスを改善するための組成物並びに当該組成物を含有する飲食品及び医薬品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ブタ、ウサギ等の哺乳動物、ハエ、カ、アブ、ハチ、アリ、ゴキブリ、チョウ等の昆虫等を始めとする生物の腸内には腸内細菌と呼ばれる多数の細菌が生息している。腸内細菌は、一般的に、善玉菌、悪玉菌及び日和見菌に分類され、これらが一定の割合でバランスよく存在することにより、腸内細菌叢、即ち、腸内フローラが形成・維持されている。
【0003】
腸内細菌叢の研究は盛んに行われており、腸内細菌叢の乱れは、一般的に、腸内ディスバイオシスとも呼ばれ、ヒト等の動物の疾患・健康と密接に関連することが明らかにされつつある。そして、近年、抗生物質の使用(投与、服用等)により、この腸内ディスバイオシスが引き起こされてしまうことが問題となっている。具体的には、例えば、抗生物質の使用により、病原菌のみならず、他の有益な腸内細菌までも死滅させてしまい、結果として、腸内細菌叢を形成する腸内細菌の多様性の低下や、腸内細菌が生み出す、炎症の抑制、血糖の上昇の抑制等に関与する短鎖脂肪酸の産生低下等が引き起こされてしまうことである。
【0004】
これまでの、腸内ディスバイオシスを改善させるための試みとしては、例えば、卵殻膜含有粉末を有効成分として含有する組成物(特許文献1)や、一定量のβ-グルカン、レジスタントスターチ及びフルクタンを含有する組成物(特許文献2)等が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-052854号公報
【特許文献2】特開2018-050526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1及び2では、大腸炎モデルマウス及び健常ヒトを検体としてそれぞれ用いている。そのため、上記特許文献1及び2では、抗生物質使用後の検体における腸内ディスバイオシスの改善については一切の検討がなされていない。
【0007】
本発明の課題は、抗生物質誘発性の腸内ディスバイオシスを改善するための、組成物の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1]
デンプン合成酵素IIの発現量及び/又は活性が抑制された大麦を含有する、抗生物質誘発性の腸内ディスバイオシスを改善するための、組成物。
[2]
その大麦殻粒の粉砕物あたりレジスタントスターチを2質量%~10質量%、フルクタンを5質量%~15質量%及びβ-グルカンを2質量%~15質量%含む大麦を含有する、抗生物質誘発性の腸内ディスバイオシスを改善するための、組成物。
[3]
腸内ディスバイオシスの改善が、腸内細菌の数を増加及び/又は減少させることである、[1]又は[2]に記載の組成物。
[4]
腸内ディスバイオシスの改善が、ラクノスピラ科、ルミノコッカス科及びバクテロイデス科からなる属から選ばれる一つ以上の科及び/又は属に属する腸内細菌の数を増加させることである、[1]又は[2]に記載の組成物。
[5]
腸内ディスバイオシスの改善が、エンテロバクター科に属する腸内細菌の数を減少させることである、[1]又は[2]に記載の組成物。
[6]
腸内ディスバイオシスの改善が、腸内細菌の多様性を増加させることである、[1]又は[2]に記載の組成物。
[7]
腸内ディスバイオシスの改善が、腸内細菌のアルファ多様性を増加させることである、[1]又は[2]に記載の組成物。
[8]
腸内ディスバイオシスの改善が、Observed species、Phylogenetic Diversity whole tree、Shannon diversity index及びChao1 indexからなる群から選ばれる一つ以上の腸内細菌のアルファ多様性を示す値を増加させることである、[1]又は[2]に記載の組成物。
[9]
腸内ディスバイオシスの改善が、腸内の短鎖脂肪酸の産生を促進させることである、[1]又は[2]に記載の組成物。
[10]
腸内ディスバイオシスの改善が、酢酸、プロピオン酸及び酪酸からなる群から選ばれる一つ以上の腸内の短鎖脂肪酸の産生を促進させることである、[1]又は[2]に記載の組成物。
[11]
腸内ディスバイオシスの改善が、腸内のpHを低下させることである、[1]又は[2]に記載の組成物。
[12]
腸内ディスバイオシスの改善が、前記組成物が供された日から14日以内になされる、[1]又は[2]に記載の組成物。
[13]
[1]~[12]の何れか一つに記載の組成物を含有する、飲食品。
[14]
[1]~[12]の何れか一つに記載の組成物を含有する、医薬品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、抗生物質誘発性の腸内ディスバイオシスを改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1により得られた、糞便中のDNA量の測定結果を示す図である。
図2】実施例2により得られた、腸内細菌叢の多様性の解析結果を示す図である。
図3】実施例3により得られた、腸内細菌の存在比率の解析結果を示す図である。
図4】実施例4により得られた、腸内の短鎖脂肪酸の測定結果を示す図である。
図5】実施例5により得られた、腸内のpHの測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<本発明の抗生物質誘発性の腸内ディスバイオシスを改善するための、組成物>
本発明の抗生物質誘発性の腸内ディスバイオシスを改善するための、組成物(以下、「本発明の組成物」と略記する場合がある)は、デンプン合成酵素IIの発現量及び/又は活性が抑制された大麦を含有するものである。
本発明の組成物は、別の形態としては、その大麦殻粒の粉砕物あたりレジスタントスターチを2質量%~10質量%、フルクタンを5質量%~15質量%及びβ-グルカンを2質量%~15質量%含む大麦を含有するものである。
本発明の組成物は、更に別の形態としては、デンプン合成酵素IIの発現量及び/又は活性が抑制された大麦であって、その大麦殻粒の粉砕物あたりレジスタントスターチを2質量%~10質量%、フルクタンを5質量%~15質量%及びβ-グルカンを2質量%~15質量%含む大麦を含有するものである。
本発明の組成物としては、上記した中でも、(I)デンプン合成酵素IIの発現量及び/又は活性が抑制された大麦を含有するもの、(II)その大麦殻粒の粉砕物あたりレジスタントスターチを2~10質量%、フルクタンを5~15質量%及びβ-グルカンを2~15質量%含む大麦を含有するもの及び(III)デンプン合成酵素IIの発現量又は及び活性が抑制された大麦であって、その大麦殻粒の粉砕物あたりレジスタントスターチを2質量%~10質量%、フルクタンを5質量%~15質量%及びβ-グルカンを2質量%~15質量%含む大麦を含有するものが好ましく、(III)がより好ましい。
【0012】
[本発明に係る大麦]
本発明に係る大麦としては、(i)デンプン合成酵素IIの発現量及び/又は活性が抑制された大麦(以下、本発明に係る大麦Aと略記する場合がある)、(ii)その大麦殻粒の粉砕物あたりレジスタントスターチを2質量%~10質量%、フルクタンを5質量%~15質量%及びβ-グルカンを2質量%~15質量%含む大麦(以下、本発明に係る大麦Bと略記する場合がある)及び(iii)デンプン合成酵素IIの発現量及び/又は活性が抑制された大麦であって、その大麦殻粒の粉砕物あたりレジスタントスターチを2質量%~10質量%、フルクタンを5質量%~15質量%及びβ-グルカンを2質量%~15質量%含む大麦(以下、本発明に係る大麦Cと略記する場合がある)が好ましく、(iii)がより好ましい。
以下に、上記(i)、(ii)及び(iii)についてそれぞれ詳述する。
【0013】
(i)本発明に係る大麦A(デンプン合成酵素IIの発現量及び/又は活性が抑制された大麦)
本発明に係る大麦Aは、特表2004-512427号公報、特表2013-500022号公報、特開2018-050526号公報及び特表2020-028227号公報に開示されている大麦である。
【0014】
本発明に係る大麦Aは、例えば、デンプン合成酵素II遺伝子の発現を下方制御する、内在性デンプン合成酵素II遺伝子中の変異又は外来性核酸分子を導入することにより、野生型デンプン合成酵素II遺伝子と比較してデンプン合成酵素II遺伝子の発現を低下させる変異を導入する方法や、大麦において野生型デンプン合成酵素IIポリペプチドと比較して、合成活性が低いデンプン合成酵素IIポリペプチドの発現を生じさせる変異を導入する方法等によって得ることができる。
また、品種改良大麦である、バーリーマックス(登録商標)は、デンプン合成酵素IIの発現量及び/又は活性が抑制されたものである。そのため、品種改良大麦である、バーリーマックス(登録商標)は、本発明に係る大麦Aの一例である。
【0015】
本発明に係る大麦Aにおける「デンプン合成酵素II」とは、デンプン合成酵素II遺伝子を意味し、デンプンの生合成を触媒するものである。具体的には、グルコースがアミロースやアミロペクチンの非還元末端のグルコース残基とα-1,4結合を形成すること
を触媒するものであり、その配列情報等については、特表2004-512427号公報、特表2013-500022号公報等に記載されている。デンプン合成酵素II遺伝子のアイソフォームとして、デンプン合成酵素IIa遺伝子、デンプン合成酵素IIb遺伝子及びデンプン合成酵素IIc遺伝子等が知られているが、本発明においては、大麦殻粒の表現型等の点から、デンプン合成酵素IIa遺伝子であることが好ましい。
【0016】
本発明に係る大麦Aにおける「デンプン合成酵素IIの発現量」とは、具体的には、デンプン合成酵素II遺伝子のmRNAの量及び/又はタンパク質の量を意味する。また、当該「量」は、容量、質量等の絶対値又は濃度、イオン強度、吸光度、蛍光強度、濁度、ピーク面積値等から算出された値等の相対値の何れかで表されるものである。
【0017】
本発明に係る大麦Aにおける「デンプン合成酵素IIの活性」とは、具体的には、デンプン合成酵素II遺伝子の酵素活性を意味し、より具体的には、デンプン合成酵素II遺伝子が有する触媒作用の強度を意味する。当該「活性及び強度」は、通常この分野で行われている酵素活性測定法において用いられる値(力価、単位、ユニット数等)等で表されるものである。また、当該「デンプン合成酵素II遺伝子の酵素活性の測定」は、通常この分野で行われている方法であれば何れでもよく、具体的には、例えば、分光光度計、放射性同位元素等を用いて、基質の量及び/又は反応生成物の量を測定する方法が挙げられる。尚、当該「デンプン合成酵素II遺伝子の酵素活性の測定」は、市販のキットを用いて測定してもよい。
【0018】
本発明に係る大麦Aにおける「抑制された」とは、デンプン合成酵素II遺伝子の発現量及び/又は酵素活性の値が、未改変、即ち、野生型の大麦殻粒でのデンプン合成酵素II遺伝子の発現量及び/又は酵素活性と比較すると、少なくとも40%、好ましくは60%、より好ましくは75%、更に好ましくは90%、特に好ましくは95%低下している状態のことを意味する。
ここで、上記「大麦殻粒」とは、栽培・収穫後の外皮の付いた裸麦又は精製後の外皮を除去した状態の大麦の粒を意味する。本発明においては、加工性の観点から、精製後の外皮を除去した状態の大麦の粒であることが好ましい。また、当該「大麦殻粒」は、後述の本発明に係る大麦Bにおいても同様の意味を表す。
【0019】
(ii)本発明に係る大麦B(その大麦殻粒の粉砕物あたりレジスタントスターチを2質量%~10質量%、フルクタンを5質量%~15質量%及びβ-グルカンを2質量%~15質量%含む大麦)
本発明に係る大麦Bは、通常この分野で行われている分離育種法、交雑育種法、放射線育種法、プロトプラスト培養法等の品種改良法により得ることができる。
また、品種改良大麦である、バーリーマックス(登録商標)は、その大麦殻粒の粉砕物あたりレジスタントスターチを2質量%~10質量%、フルクタンを5質量%~15質量%及びβ-グルカンを2質量%~15質量%含むものである。そのため、品種改良大麦である、バーリーマックス(登録商標)は、本発明に係る大麦Bの一例である。
【0020】
本発明に係る大麦Bにおける「大麦殻粒の粉砕物」とは、上述の大麦殻粒が砕かれた固形物を意味し、好ましくは、精麦後の外皮を取り除き、ふすまの付いた状態の大麦殻粒を粉砕した全粒粉のことである。尚、当該「粉砕」は、乳鉢、包丁、カッターナイフ、ハサミ等を用いて手作業で行ってもよいが、大量のものを短時間で処理したい場合にはミル、ハンマー式粉砕機、ミキサー、ブレンダー等の装置を使用して行ってもよい。
【0021】
本発明に係る大麦Bにおける「レジスタントスターチ」とは、穀物等に含まれるデンプンのうち、消化酵素に対して難消化性の画分を意味する。
レジスタントスターチは、その消化抵抗性の機構の違いにより、レジスタントスターチ
1(Resistant Starch 1:RS1)~レジスタントスターチ(Resistant Starch 4:RS4)に分類される。RS1は、豆類や未粉砕の全粒穀類のデンプン等物理的に消化酵素が接触できないものである。RS2は、生のジャガイモ、未熟なバナナ、ハイアミロースコーン等のデンプンである。RS3は、老化デンプン(一旦糊化(α化)したデンプンが再結晶化(β化)したもの)である。また、RS4は、加工デンプン(架橋デンプンなど化学修飾されたもの)である。本発明においては、レジスタントスターチとしては上記RS1~RS4の何れであってもよいが、食品として簡便に摂取でき、また、腸内(特に、下行結腸、S字(S状)結腸及び直腸)に到達しやすいRS1が好ましく、品種改良大麦である、バーリーマックス(登録商標)に含まれるレジスタントスターチがより好ましい。
本発明に係る大麦Bにおいて、レジスタントスターチの含有量は、通常2質量%~10質量%であり、好ましくは3質量%~8質量%であり、より好ましくは4質量%~6質量%である。
【0022】
本発明に係る大麦Bにおける「フルクタン」とは、フラクトオリゴ糖等を含むフルクトース多糖を意味する。フルクタンには、フルクトースのみが重合したホモ多糖の他、スクロースにフルクトースが重合した多糖も包含される。尚、当該「多糖」とは、3以上の糖が重合してなるオリゴマーを意味する。
フルクタンは、主に微生物や植物(例えば、禾本科植物の葉や茎)内に存在しており、細菌の作用によりショ糖から生成される細菌分泌多糖であるレバン(D-フルクトフラノースがβ2→6結合)、キク科、ユリ科、アヤメ科、ラン科等の植物の根、根茎、穀物等に存在するイヌリン(D-フルクトフラノースがβ2→1結合)、ラッキョウ、ニンニク、タマネギ等のネギ属植物の球根(鱗茎)に含まれるフルクタン(β2→6結合及びβ2→1結合の両方を含むもの。特許第3111378号公報参照)等が知られている。フルクタンとしては、上記レバン、イヌリン及びネギ属植物由来のフルクタンの何れであってもよいが、直鎖状及び/又は分岐鎖状のイヌリンが好ましい。また、フルクタンには、微生物や植物から抽出されたフルクタンの加水分解物も包含され、加水分解する方法としては、イヌリナ-ゼ等の加水分解酵素でフルクタンを限定分解する方法等が挙げられる。また、本発明に用いられるフルクタンは、合成物、天然物の何れであってもよく、天然物の場合、微生物、植物等由来のものが用いられる。
本発明に係る大麦Bにおいて、フルクタンの含有量は、通常5質量%~15質量%であり、好ましくは7質量%~13質量%であり、より好ましくは9質量%~12質量%である。
【0023】
本発明に係る大麦Bにおける「β-グルカン」とは、グルコースが1-3結合と1-4結合した多糖、即ち、(1-3),(1-4)-β-D-グルカンを意味し、食物繊維の一種でもある。また、本発明に係る大麦Bにおいて、β-グルカンは、質量平均分子量として数万~数百万を有していてもよい。
本発明に係る大麦Bにおいて、β-グルカンの含有量は、通常2質量%~15質量%であり、好ましくは4質量%~10質量%であり、より好ましくは6質量%~8質量%である。
【0024】
(iii)本発明に係る大麦C(デンプン合成酵素IIの発現量及び/又は活性が抑制された大麦であって、その大麦殻粒の粉砕物あたりレジスタントスターチを2質量%~10質量%、フルクタンを5質量%~15質量%及びβ-グルカンを2質量%~15質量%含む大麦)
本発明に係る大麦Cは、上述の本発明に係る大麦A及びBの機能、特徴及び組成を有するものであり、それぞれ上記で説明した通りである。
本発明に係る大麦Cは、上述の本発明に係る大麦A及びBの項で記載した方法により得ることができる。
また、品種改良大麦である、バーリーマックス(登録商標)は、デンプン合成酵素IIの発現量及び/又は活性が抑制された大麦であって、その大麦殻粒の粉砕物あたりレジスタントスターチを2質量%~10質量%、フルクタンを5質量%~15質量%及びβ-グルカンを2質量%~15質量%含むものである。そのため、品種改良大麦である、バーリーマックス(登録商標)は、本発明に係る大麦Cの一例である。
【0025】
[本発明に係る抗生物質誘発性の腸内ディスバイオシスの改善]
本発明の組成物における「抗生物質誘発性の腸内ディスバイオシスの改善」とは、抗生物質の投与により引き起こされた腸内細菌叢のディスバイオシス(乱れ、異常等)の改善を意味する。
ここで、上記「抗生物質誘発性」とは、後述する抗生物質の使用により引き起こされたことを意味し、「抗生物質誘導性」等の表現とも同じ意味である。上記「改善」とは、抗生物質の使用により引き起こされた腸内細菌叢のディスバイオシスからの回復、換言すると、抗生物質の使用後の腸内細菌叢のディスバイオシスからの回復を意味する。具体的には、抗生物質の使用前の腸内細菌叢と同程度未満の状態までの回復、抗生物質の使用前の腸内細菌叢と同程度の状態までの回復、抗生物質の使用前の腸内細菌叢の状態よりも良好な状態への回復・促進の意味も包含される。また、上記「腸内」とは、小腸及び/又は大腸のことであり、好ましくは大腸のことであり、より好ましくは下行結腸、S字(S状)結腸及び/又は直腸のことである。
【0026】
本発明の組成物における「抗生物質」とは、他の微生物の発育等を阻害し得る物質のことであり、一般的に利用されているものであれば何れでもよく、微生物が産生した天然産物であっても、人工的に合成したものであってもよい。具体的には、例えば、アンピシリン等のβ-ラクタム系抗生物質、ストレプトマイシン等のアミノグリコシド系抗生物質、コリスチン等のポリペプチド系抗生物質、バンコマイシン等のグリコペプチド系抗生物質、ペニシリン等のペニシリン系抗生物質、セファゾリン等のセフェム系抗生物質、メロペネム等のカルバペネム系抗生物質、アズトレオナム等のモノバクタム系抗生物質、テトラサイクリン等のテトラサイクリン系抗生物質、エリスロマイシン等のマクロライド系抗生物質、リンコマイシン等のリンコマイシン系抗生物質が挙げられ、アンピシリン等のβ-ラクタム系抗生物質、ストレプトマイシン等のアミノグリコシド系抗生物質、コリスチン等のポリペプチド系抗生物質及びバンコマイシン等のグリコペプチド系抗生物質が好ましい。また、当該抗生物質の使用経路としては、具体的には、例えば、抗生物質の剤型に応じて、局所、経口、眼、経鼻、経皮、静脈内、筋肉及び皮内注射等の非経口が挙げられる。
【0027】
本発明の組成物における「抗生物質誘発性の腸内ディスバイオシスの改善」としては、具体的には、例えば、(i)腸内細菌の数の増加及び/又は減少、(ii)腸内細菌の多様性の増加、(iii)腸内の短鎖脂肪酸の産生促進、(iv)腸内のpHの低下等が挙げられる。
以下に、上記(i)、(ii)、(iii)及び(iv)についてそれぞれ詳述する。
【0028】
(i)腸内細菌の数の増加及び/又は減少
本発明の組成物における抗生物質誘発性の腸内ディスバイオシスの改善の一つである、「腸内細菌の数の増加及び/又は減少」とは、腸内細菌叢を形成するラクノスピラ(Lachnospiraceae)科、ルミノコッカス(Ruminococcaceae)科及びバクテロイデス(Bacteroides)属からなる群から選ばれる一つ以上の科及び/又は属に属する腸内細菌の数、種類及び/又は割合の増加及び/又はエンテロバクター(Enterobacteriaceae)科に属する腸内細菌の数、種類及び/又は割合の減少のことである。具体的には、本発明の組成物によれば、ラクノスピラ(Lachnospiraceae)科、ルミノコッカス(Ruminococcaceae
)科及びバクテロイデス(Bacteroides)属からなる群から選ばれる一つ以上の科又は属に属する腸内細菌の数、種類及び/又は割合を増加させることができる。また、本発明の組成物によれば、エンテロバクター(Enterobacteriaceae)科に属する腸内細菌の数、種類及び/又は割合を減少させることもできる。
ここで、上記「ラクノスピラ(Lachnospiraceae)科に属する腸内細菌」とは、ラクノスピラ(Lachnospiraceae)科に属する腸内細菌であれば何れでもよいが、具体的には、例えば、ブラウティア(Blautia)属、ロゼブリア(Roseburia)属、コプロコッカス(Coprococcus)属等に属する腸内細菌のことであり、より具体的には、Blautia obeum、Roseburia inulinivorans、Coprococcus catus等の腸内細菌のことである。上記「ルミノコッカス(Ruminococcaceae)科に属する腸内細菌」とは、ルミノコッカス(Ruminococcaceae)科に属する腸内細菌であれば何れでもよいが、具体的には、例えば、フィーカリバクテリウム(Faecalibacterium)属、Subdoligranulum属、ルミノコッカス(Ruminococcus)属等に属する腸内細菌のことであり、より具体的には、Faecalibacterium prausnitzii、Subdoligranulum variabile、Ruminococcus bromii等の腸内細菌のことである。上記「バクテロイデス(Bacteroides)属に属する腸内細菌」とは、バクテロイデス(Bacteroides)属に属する腸内細菌であれば何れでもよいが、具体的には、例えば、Bacteroides thetaiotaomicron、Bacteroides uniformis、Bacteroides vulgatus等の腸内細菌のことである。また、上記「エンテロバクター(Enterobacteriaceae)科に属する腸内細菌」とは、エンテロバクター(Enterobacteriaceae)科に属する腸内細菌であれば何れでもよいが、具体的には、例えば、エスケリキア(Escherichia)属、シゲラ(Shigella)属、サルモネラ(Salmonella)属等に属する腸内細菌のことであり、より具体的には、Escherichia coli、Shigella sonnei、Salmonella enterica等の腸内細菌のことである。
【0029】
(ii)腸内細菌の多様性の増加
本発明の組成物における抗生物質誘発性の腸内ディスバイオシスの改善の一つである、「腸内細菌の多様性の増加」とは、腸内細菌叢を形成する腸内細菌の種類の増加のことであり、より具体的には、腸内細菌叢を形成する腸内細菌のアルファ(α)多様性の増加のことである。本発明の組成物によれば、腸内細菌のアルファ(α)多様性の指標である、Observed species、Phylogenetic Diversity whole tree(PD whole tree)、Shannon diversity index及びChao1 indexの値を増加させることができる。
ここで、上記「アルファ(α)多様性」とは、ある一つの環境(例えば、腸内)における種の多様性のことを意味する。上記「Observed species」とは、確認された生物種数のことを意味し、生物種の豊富さの指標である。この値が高い程、生物種が豊富に存在していることを示す。上記「Phylogenetic Diversity whole tree」とは、系統樹の距離の総和のことを意味し、系統的な多様性の指標である。この値が高い程、様々な分類の生物種が存在していることを示す。上記「Shannon diversity index」とは、各生物種の割合から算出した種間の均等性(Evenness)の指標である。この値が高い程、各生物種が均等に存在していることを示す。また、「Chao1 index」とは、一度のみ確認された生物種(シングルトン)と二度のみ確認された生物種(ダブルトン)の配列を基に推計した生物種の豊富さの指標である。この数値が高い程、様々な分類の種が存在していることを示す。
【0030】
(iii)腸内の短鎖脂肪酸の産生の促進
本発明の組成物における抗生物質誘発性の腸内ディスバイオシスの改善の一つである、「腸内の短鎖脂肪酸の産生の促進」とは、腸内の炎症抑制、また、血糖の上昇の抑制等に関与するとされる腸内の短鎖脂肪酸の量の増加のことである。本発明の組成物によれば、腸内の短鎖脂肪酸の産生を促進させることができる。
ここで、上記「腸内の短鎖脂肪酸」とは、腸内細菌が産生する、炭素数6以下の脂肪酸を意味し、具体的には、例えば、酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、酪酸、イソ吉草酸、吉草酸、コハク酸、ギ酸、乳酸、カプロン酸等が挙げられ、酢酸、プロピオン酸及び酪酸が好ましく、酢酸及び酪酸がより好ましく、酪酸が特に好ましい。
【0031】
(iv)腸内のpHの低下
本発明の組成物における抗生物質誘発性の腸内ディスバイオシスの改善の一つである、「腸内のpHの低下」とは、腸内のpHの値の低下のことである。本発明の組成物によれば、腸内のpHをアルカリ性から酸性へと低下させることができる。ここで、上記「pH」とはPotential of Hydrogenのことであり、水素イオン指数、水素イオン濃度指数、水素指数とも表記される。
【0032】
本発明の組成物は、食経験が豊富な大麦を含有するものであることから、長時間継続的に摂取したとしても、それを必要とする対象に有害な作用をもたらす懸念が少なく、安全性が保証されているものである。
ここで、上記「対象」としては、ヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ブタ、ウサギ等の哺乳動物が挙げられ、ヒト、マウス又はラットが好ましく、ヒトがより好ましい。
【0033】
また、本発明の組成物によれば、抗生物質誘発性の腸内ディスバイオシスを早期に改善することができる。具体的には、本発明の組成物によれば、本発明の組成物が供された日から14日以内に、抗生物質誘発性の腸内ディスバイオシスの改善が達成される。より具体的には、本発明の組成物が供された日から3日目、5日目、7日目、10日目又は14日目には抗生物質誘発性の腸内ディスバイオシスの改善が達成される。
尚、上記「本発明の組成物が供された日から3日目」とは、本発明の組成物が供された日を0日目として算出した日数のことであり、「本発明の組成物が供された日から5日目」、「本発明の組成物が供された日から7日目」、「本発明の組成物が供された日から10日目」及び「本発明の組成物が供された日から14日目」についても同様である。
【0034】
本発明の組成物の供される量としては、所望の効果、即ち、抗生物質誘発性の腸内ディスバイオシスの改善が達成される量であれば何れでもよく、組成物の形態、供される対象の種、症状、年齢、性別等に応じて適宜変更され得る。本発明の組成物の供される量としては、具体的には、例えば、本発明の組成物に含まれる、本発明に係る大麦を、成人(体重:60kg)1日あたり通常1g~20g、好ましくは3g~17g、より好ましくは5g~15g、更に好ましくは7g~13gである。
【0035】
[本発明の飲食品]
本発明の飲食品は、本発明の組成物を含有することを特徴とするものである。
【0036】
本発明の飲食品は、抗生物質誘発性の腸内ディスバイオシスを改善するための飲食品として用いることができ、その形態としては、具体的には、例えば、飯類(例えば、おにぎり、弁当のご飯、お粥)、菓子類(例えば、アイス、ポテトチップス)、ベーカリー類(例えば、パン、パイ、ケーキ、クッキー、ビスケット、クラッカー)、麺類(例えば、うどん、そば、ラーメン)、冷凍や冷蔵流通の加工食品、離乳食、ベビーフード、ペットフード、動物用飼料、飲料(例えば、果汁飲料、清涼飲料、アルコール飲料、茶、スポーツ飲料)、薬用酒等の発酵食品、調味料(例えば、みりん、食酢、醤油、味噌、ソース等)、スポーツ食品、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、保健機能食品(例えば、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品)、特別用途食品(例えば、幼児用食品、妊産婦用食品、病者用食品)が挙げられ、飯類、スナック菓子類、ベーカリー類、麺類、栄養補助食品及び保健機能食品が好ましい。本発明の飲食品において、その形態が栄養補助食品又は保健機能食品である場合、錠剤、カプセル剤等の形態であるサプリメント、グラノーラ様シリアル、グラノーラ様スネークバーシリアルバー等が挙げられる。
ここで、上記「保健機能食品」とは、腸内ディスバイオシスの改善等を目的として飲食品の製造及び/又は販売を行う場合に、保健上の観点から、各国において法規上の制限を受けることがある飲食品のことである。このような飲食品には、疾病リスクの低減可能性、健康への働きかけ(維持・増進)、安全性等を表示することができ、例えば、飲食品の製品本体、容器、包装、説明書、添付文書、宣伝物に表示することができる。
【0037】
本発明の飲食品は、通常この分野で行われている公知の製造技術を参照して製造することができる。その際、必要に応じ、ビタミン類、ミネラル類、糖類、香料、果汁、添加剤、安定化剤、乳酸菌、ビフィズス菌等の菌類等を添加してもよい。また、本発明の飲食品は、後述の医薬品に係る製造技術に準じて製造することもでき、その場合には、薬学的に許容される担体、添加剤等を用いることもできる。
【0038】
本発明の飲食品を摂取する対象としては、ヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ブタ、ウサギ等の哺乳動物が挙げられ、ヒト、マウス及びラットが好ましく、ヒトがより好ましい。
【0039】
本発明の飲食品の摂取量としては、所望の腸内ディスバイオシスの改善効果が得られる量であれば何れでもよく、飲食品の形態、摂取する固体の種、症状、年齢、性別等に応じて適宜変更され得る。本発明の飲食品の摂取量としては、具体的には、例えば、本発明の飲食品に含まれる、本発明に係る大麦を、成人(体重:60kg)1日あたり通常1g~20g、好ましくは3g~17g、より好ましくは5g~15g、更に好ましくは7g~13gである。
【0040】
[本発明の医薬品]
本発明の医薬品は、本発明の組成物を含有することを特徴とするものである。
【0041】
本発明の医薬品は、抗生物質誘発性の腸内ディスバイオシスを改善するための医薬品(改善薬)、抗生物質誘発性の腸内ディスバイオシスにより引き起こされ得る疾患(例えば、肥満、糖尿病、動脈硬化、炎症性腸疾患、関節リウマチ、大腸癌、パーキンソン病)の治療薬としても用いることができ、その形態としては、具体的には、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、ドライシロップ剤、液剤、懸濁剤等の経口剤、吸入剤、経皮製剤、坐剤等の経腸製剤、点滴剤、注射剤等の非経口剤が挙げられ、錠剤、カプセル剤、顆粒剤及び散剤が好ましい。
尚、上記液剤及び懸濁剤は、服用直前に水又は適当な媒体に溶解又は懸濁する形であってもよく、上記錠剤及び顆粒剤は、必要に応じ、その表面をコーティングしてもよい。更に、本発明の医薬品は、必要に応じ、薬学的に許容される担体及び/又は他の薬効成分を含有していてもよい。当該薬学的に許容される担体としては、具体的には、例えば、賦形剤、結合剤、希釈剤、添加剤、香料、緩衝剤、増粘剤、着色剤、安定剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤等が挙げられ、当該他の薬効成分とは、具体的には、例えば、ビタミン類、ミネラル類、生薬が挙げられる。
【0042】
本発明の医薬品は、本発明の組成物に、上記薬学的に許容される担体及び/又は他の薬効成分を配合し、通常この分野で行われている公知の製造技術を参照して製造することが
できる。
【0043】
本発明の医薬品を使用(投与、服用等)する対象としては、ヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ブタ、ウサギ等の哺乳動物が挙げられ、ヒト、マウス及びラットが好ましく、ヒトがより好ましい。
【0044】
本発明の医薬品の使用(投与、服用等)量としては、所望の腸内ディスバイオシスの改善効果が得られる量であれば何れでもよく、医薬品の形態、投与する固体の種、症状、年齢、性別等に応じて適宜変更され得る。
【実施例0045】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、これにより本発明の範囲が限定されるものではない。
【0046】
[(1)飼料の調製]
飼料は、米国国立栄養研究所(AIN)から発表されている標準精製飼料であるAIN-93Gをベースとして、表1に記載の通りに調整することにより、コントロール飼料及び大麦飼料をそれぞれ得た。具体的には、上記AIN-93Gに、コントロール飼料ではセルロース5%、大麦飼料には大麦粉30.4%をそれぞれ添加し、総食物繊維量が5%となるようにそれぞれ調製した。また、大麦飼料では、スターチ及びタンパク質の量をコントロール飼料と同程度にするために、コーンスターチ及びミルクカゼインの添加量をそれぞれ調整した。
尚、上記セルロース及びAIN-93Gは、富士フイルム和光純薬株式会社及びオリエンタル酵母工業株式会社よりそれぞれ購入した。また、大麦粉は品種改良大麦である、バーリーマックス(登録商標)(ザ ヘルシー グレイン プロプライアタリ- リミテッド)を用いた(本発明に係る大麦A、B及びCの一例である)。
【0047】
【表1】
【0048】
[(2)サンプルの調製]
1週間の馴化飼育が完了した6週齢のC57BL/6JオスマウスをCont群、Ab群、Ab-CL群及びAb-BM群の4群に分類した。そして、Cont群には水道水を
、Ab群、Ab-CL群及びAb-BM群には抗生物質であるアンピシリン(1mg/mL)、ストレプトマイシン(1mg/mL)、コリスチン(1mg/mL)及びバンコマイシン(1mg/mL)を含有する水をそれぞれ7日間自由飲水させた。また、この期間、全4群には飼育繁殖用飼料であるCE-2を給餌した。その後、Cont群及びAb群については、解剖を行い、盲腸内容物及び糞便をそれぞれ回収した。Ab-CL群及びAb-BM群については、水道水の自由飲水にて飼育を続行し、Ab-CL群には上記(1)で調整したコントロール飼料を、Ab-BM群には上記(1)で調製した大麦飼料をそれぞれ14日間給餌した。給餌を開始した日を0日目として、その14日後に解剖を行い、盲腸内容物及び糞便をそれぞれ回収した。回収したサンプルは使用時まで冷凍保存した。
尚、上記抗生物質は、何れも富士フイルム和光純薬株式会社から購入した。
【0049】
[(3)腸内細菌叢の解析]
上記(2)で調製したサンプルにおける腸内細菌叢の解析として、株式会社生物技研に依頼し、糞便中の細菌16S rRNAの解析を行った。
具体的には、先ず、VD-250R Freeze Dryer(株式会社タイテック)を用いて、糞便サンプルをそれぞれ凍結乾燥した後、Shake Master Neo(株式会社バイオメディカルサイエンス)を用いて粉砕した。粉砕後のサンプルから、MPure Bacterial DNA Extraction Kit(MP バイオメディカル)を用いて、DNAをそれぞれ抽出した。次いで、Synergy H1(BioTek Instrument)及びQuantiFluor dsDNA System(プロメガ)を用いて、抽出したDNA溶液の濃度をそれぞれ測定した。その後、各種腸内細菌の16S rRNAに共通して保存されている塩基配列を含む塩基配列をプライマーとして用いた2Step tailed PCRにより、抽出したDNAからライブラリーを作製した。次いで、MiSeq(イルミナ株式会社)を用いて2×300塩基対の条件でシーケンシングを行った。取得した配列から、Fastx toolkitのfastq barcode spliltterを用いて、配列の読み始めが上記で使用したプライマーと完全一致する配列のみを抽出した後、当該配列のプライマー配列を取り除いた。その後、sickle toolsを用いて、クオリティー値が20未満の配列を取り除き、150塩基以下の長さとなった配列とそのペア配列を破棄した。クオリティーフィルタリングを通過した配列を、ペアエンドマージスクリプトFLASHでマージした。マージの条件はマージ後の断片長420塩基、リードの断片長280塩基、最低オーバーラップ長10塩基の条件とした。全てのフィルタリングを通った配列を、usearch のuchime アルゴリズムを用いて、キメラ配列の確認を行った。データベースは菌叢解析用パイプラインQiimeに付属するGreengene の97% OTUを用いて、キメラ配列と判断されなかった全配列を抽出し、解析に用いた。OTU作成と系統推定はQiimeのワークフロースクリプトを用いて、リファレンス無し、パラメーターをすべてデフォルトの条件で行った。また、アルファ(α)多様性の解析は、Qiimeのスクリプトを用いて行った。
尚、上記2Step tailed PCRにおいて用いられるプライマー等は、腸内細菌学雑誌(19:47-52,2005)等を参照して設計することも可能である。
【0050】
[(4)腸内の短鎖脂肪酸の測定]
下記表2に記載の条件の通り、高速液体クロマトグラフProminence(株式会社島津製作所)を用いて、腸内の短鎖脂肪酸の測定を行った。具体的には、上記(2)で調製したサンプル由来の盲腸内容物0.1gをMilli-Q水で懸濁した後、遠心分離(15,350×g、10分間)を行った。その後、得られた上清を0.2μmフィルター(メルクミリポア)で濾過したものを測定サンプルとした。短鎖脂肪酸である酢酸、プロピオン酸及び酪酸の同定は、測定サンプル及び標準溶液の保持時間の比較によって、定量は、ピーク面積値の比較によって行った。
【0051】
【表2】
【0052】
[実施例1:糞便中DNA量の測定]
上記(3)より、糞便から抽出したDNA量を測定したところ、図1に示す通りの結果が得られた。
具体的には、Ab群では、抗生物質投与後、Cont群と比較して、DNA量の減少が確認された。Ab-CL群では、抗生物質投与後、Ab群と比較して、DNA量の回復が確認されたものの、その値はCont群と同程度であった。一方、Ab-BM群では、驚くべきことに、抗生物質投与後、Cont群、Ab群及びAb-CL群と比較して、DNA量の大幅な回復・増加が確認された。
実施例1の結果より、糞便から抽出したDNA量は、腸内細菌の数に比例するため、大麦飼料の摂取によって、抗生物質の投与により引き起こされた腸内細菌の数の減少が改善(回復・増加)された。
【0053】
[実施例2:腸内細菌叢の多様性の解析]
上記(3)より、腸内細菌叢のアルファ(α)多様性(Observed species、PD whole tree、Shannon diversity index及びChao1 index)を解析したところ、図2に示す通りの結果が得られた。
具体的には、Ab群では、抗生物質投与後、Cont群と比較して、アルファ(α)多様性を示す上記4つの指標値の減少がそれぞれ確認された。Ab-CL群では、抗生物質投与後、Cont群及びAb群と比較して、アルファ(α)多様性を示す上記4つの指標値の更なる減少がそれぞれ確認された。一方、Ab-BM群では、驚くべきことに、抗生物質投与後、Ab-CL群と比較して、アルファ(α)多様性を示す上記4つの指標値の回復・増加がそれぞれ確認された。
実施例2の結果より、大麦飼料の摂取によって、抗生物質の投与により引き起こされた腸内細菌叢(腸内フローラ)の多様性の低下が改善(回復・増加)された。
【0054】
[実施例3:腸内細菌の存在比率の解析]
上記(3)より、各種腸内細菌の存在比率を解析したところ、図3に示す通りの結果が得られた。
具体的には、Ab群では、抗生物質投与後、Cont群と比較して、ラクノスピラ(Lachnospiraceae)科、ルミノコッカス(Ruminococcaceae)科及びバクテロイデス(Bacteroides)属に属する腸内細菌の存在比率の減少がそれぞれ確認された。Ab-CL群では、抗生物質投与後、Cont群及びAb群と比較して、ラクノスピラ(Lachnospiraceae)科及びルミノコッカス(Ruminococcaceae)科に属する腸内細菌の存在比率の更なる減少がそれぞれ確認されたものの、バクテロイデス(Bacteroides)属に属する腸内細菌の存在比率の回復・増加が確認された。一方、Ab-BM群では、Cont群、Ab群及びAb-CL群と比較して、ラクノスピラ(Lachnospiraceae)科、ルミノコッカス(Ruminococcaceae)科及びバクテロイデス(Bacteroides)属に属する腸内細菌の存在比率の大幅な回復・増加がそれぞれ確認された。
また、Ab群及びAb-CL群では、抗生物質投与後、Cont群と比較して、エンテロバクター(Enterobacteriaceae)科に属する腸内細菌の存在比率の増加がそれぞれ確認されたものの、Ab-BM群では、抗生物質投与後であっても、この増加の抑制が確認された。
実施例3の結果より、ラクノスピラ(Lachnospiraceae)科及びルミノコッカス(Ruminococcaceae)科に属する腸内細菌には、酪酸産生菌として知られている菌が含まれていることから、大麦飼料の摂取によって、抗生物質の投与により引き起こされた酪酸産生菌の数の減少が改善(回復・増加)された。また、エンテロバクター(Enterobacteriaceae)科には、エスケリキア(Escherichia)属やシゲラ(Shigella)属、サルモネラ(Salmonella)属等の病原菌が属していることから、大麦飼料の摂取によって、抗生物質の投与により引き起こされたこれら病原菌の数の増加が改善(回復・抑制)された。
【0055】
[実施例4:腸内の短鎖脂肪酸の測定]
上記(4)より、短鎖脂肪酸である酢酸、酪酸及びプロピオン酸を測定したところ、図4に示す通りの結果が得られた。
具体的には、Ab群では、抗生物質投与後、Cont群と比較して、酢酸、酪酸、プロピオン酸及びトータル短鎖脂肪酸の量の減少がそれぞれ確認された。Ab-CL群では、抗生物質投与後、Ab群と比較して、酪酸の量は同程度だったものの、酢酸、プロピオン酸及びトータル短鎖脂肪酸の量の回復・増加がそれぞれ確認された。一方、Ab-BM群では、Ab群及びAb-CL群と比較して、酢酸、酪酸、プロピオン酸及びトータル短鎖脂肪酸の量の大幅な回復・増加がそれぞれ確認された。
実施例4の結果より、大麦飼料の摂取によって、抗生物質の投与により引き起こされた短鎖脂肪酸の量の減少が改善(回復・増加)された。
【0056】
[実施例5:腸内のpHの測定]
上記(2)より、盲腸内容物のpHをpHメータにより測定したところ、図5に示す通りの結果が得られた。
具体的には、Ab群及びAb-CL群では、抗生物質投与後、Cont群と比較して、pHの増加が確認されたものの、Ab-BM群では、抗生物質投与後であっても、この増加の抑制が確認された。
実施例5の結果より、大麦飼料の摂取によって、抗生物質の投与により引き起こされた腸内のpHの上昇が改善(回復・抑制)された。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、抗生物質誘発性の腸内ディスバイオシスを改善するための組成物、飲食品及び医薬品の生産業に利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5