(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022048714
(43)【公開日】2022-03-28
(54)【発明の名称】ケイ素窒化物用エッチング組成物及び半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/306 20060101AFI20220318BHJP
H01L 21/308 20060101ALI20220318BHJP
H01L 21/3205 20060101ALI20220318BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20220318BHJP
H01L 27/11582 20170101ALI20220318BHJP
【FI】
H01L21/306 E
H01L21/308 E
H01L21/88 B
H01L29/78 371
H01L27/11582
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020154695
(22)【出願日】2020-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】318010018
【氏名又は名称】キオクシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 明
(72)【発明者】
【氏名】中崎 靖
【テーマコード(参考)】
5F033
5F043
5F083
5F101
【Fターム(参考)】
5F033HH19
5F033HH20
5F033PP06
5F033QQ09
5F033QQ19
5F033QQ20
5F033RR04
5F033RR06
5F033TT02
5F033VV16
5F043AA35
5F043AA38
5F043BB23
5F043DD07
5F043FF01
5F043FF06
5F083EP18
5F083EP23
5F083EP76
5F083GA10
5F083GA27
5F083JA02
5F083JA03
5F083JA04
5F083JA19
5F083JA39
5F083JA40
5F083JA56
5F083PR05
5F083PR06
5F083PR07
5F101BA45
5F101BB05
5F101BD16
5F101BD30
5F101BD32
5F101BD34
5F101BH15
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ケイ素窒化物のエッチングレートを高めることを可能にしたケイ素窒化物用エッチング組成物を提供する。
【解決手段】ケイ素窒化物用エッチング組成物は、リン酸溶液と、一般式:Si(R
1)(R
2)(R
3)(R
4)で表される組成を有するシラン化合物を含む添加剤とを具備する。ここで、R
1、R
2、R
3及びR
4は1価基であって、R
1、R
2、R
3及びR
4の少なくとも1つはアルコキシ基であり、R
1、R
2、R
3及びR
4の他の少なくとも1つは2個以上の酸素を含む官能基である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸溶液と、
一般式:Si(R1)(R2)(R3)(R4)
ここで、R1、R2、R3、及びR4は1価基であって、R1、R2、R3、及びR4の少なくとも1つはアルコキシ基であり、R1、R2、R3、及びR4の他の少なくとも1つは2個以上の酸素を含む官能基である、
で表される組成を有するシラン化合物を含む添加剤と
を具備するケイ素窒化物用エッチング組成物。
【請求項2】
前記2個以上の酸素を含む官能基は、カルボン酸無水物を含む1価基又はエポキシ基と当該エポキシ基には含まれないエーテル酸素を含む1価基である、請求項1に記載のケイ素窒化物用エッチング組成物。
【請求項3】
前記2個以上の酸素を含む官能基は、
一般式:R5(CO)O(CO)R6- …(1)
ここで、R5及びR6はそれぞれ独立して存在し、かつR5は1価の有機基、R6は2価の有機基である、又はR5及びR6は脂環構造、芳香環構造、及びそれらを組合せた複合環構造から選ばれる環構造を有する環状化合物を形成する有機基である、
又は
一般式:R7OR8-O- …(2)
ここで、R7は2価の有機基、R8は3価の有機基である、
で表される組成を有する1価の基を含む、請求項1又は請求項2に記載のケイ素窒化物用エッチング組成物。
【請求項4】
前記2個以上の酸素を含む官能基は、
一般式:(CHa)x1(CO)y1Ow1(CHb)z1- …(3)
ここで、x1、y1、z1、w1、a、及びbは、x1≧1、y1≧2、z1≧1、w1≧1、a≧1、b≧0を満足する数であり、CHa基とCHb基は鎖状化合物を形成する独立して存在する基、又はCHa基とCHb基は脂環構造、芳香環構造、及びそれらを組合せた複合環構造から選ばれる環構造を有する環状化合物を形成する基である、
又は
一般式:(H2nCn)x2O(CH)y2(CH2)z2-Ow2- …(4)
ここで、x2、y2、z2、w2、及びnは、x2≧1、y2≧1、z2≧1、w2≧1、n≧1を満足する数である、
で表される組成を有する1価の基を含む、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のケイ素窒化物用エッチング組成物。
【請求項5】
前記R1、R2、R3、及びR4のうちの前記アルコキシ基及び前記2個以上の酸素を含む官能基以外の前記1価基は、アルキル基、ヒドロキシル基、及び水素からなる群より選ばれる基である、請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のケイ素窒化物用エッチング組成物。
【請求項6】
ケイ素窒化物を含む膜をエッチング組成物によりエッチングする工程を具備する半導体装置の製造方法において、
前記エッチング組成物は、リン酸溶液と、
一般式:Si(R1)(R2)(R3)(R4)
ここで、R1、R2、R3、及びR4は1価基であって、R1、R2、R3、及びR4の少なくとも1つはアルコキシ基であり、R1、R2、R3、及びR4の他の少なくとも1つは2個以上の酸素を含む官能基である、
で表される組成を有するシラン化合物を含む添加剤とを含有する、半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記2個以上の酸素を含む官能基は、カルボン酸無水物を含む1価基又はエポキシ基と当該エポキシ基には含まれないエーテル酸素を含む1価基である、請求項6に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記2個以上の酸素を含む官能基は、
一般式:R5(OC)O(CO)R6- …(1)
ここで、R5及びR6はそれぞれ独立して存在し、かつR5は1価の有機基、R6は2価の有機基である、又はR5及びR6は脂環構造、芳香環構造、及びそれらを組合せた複合環構造から選ばれる環構造を有する環状化合物を形成する有機基である、
又は
一般式:R7OR8-O- …(2)
ここで、R7は2価の有機基、R8は3価の有機基である、
で表される組成を有する1価の基を含む、請求項6又は請求項7に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記2個以上の酸素を含む官能基は、
一般式:(CHa)x1(CO)y1Ow1(CHb)z1- …(3)
ここで、x1、y1、z1、w1、a、及びbは、x1≧1、y1≧2、z1≧1、w1≧1、a≧1、b≧0を満足する数であり、CHa基とCHb基は鎖状化合物を形成する独立して存在する基、又はCHa基とCHb基は脂環構造、芳香環構造、及びそれらを組合せた複合環構造から選ばれる環構造を有する環状化合物を形成する基である、
又は
一般式:(H2nCn)x2O(CH)y2(CH2)z2-Ow2- …(4)
ここで、x2、y2、z2、w2、及びnは、x2≧1、y2≧1、z2≧1、w2≧1、n≧1を満足する数である、
で表される組成を有する1価の基を含む、請求項6ないし請求項8のいずれかに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項10】
前記R1、R2、R3、及びR4のうちの前記アルコキシ基及び前記2個以上の酸素を含む官能基以外の前記1価基は、アルキル基、ヒドロキシル基、及び水素からなる群より選ばれる基である、請求項6ないし請求項9のいずれかに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項11】
前記ケイ素窒化物を含む膜は、ケイ素酸化物を含む膜と交互に積層されて積層体を形成しており、
前記積層体における前記ケイ素窒化物を含む膜を選択的にエッチングする、請求項6ないし請求項10のいずれかに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項12】
前記ケイ素窒化物のエッチングにより形成された空間内に、金属膜を充填する工程を具備する、請求項11に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項13】
前記積層体は、その積層方向に沿って設けられた柱状部を有し、
前記柱状部は、半導体膜と、前記半導体膜と前記金属膜との間に配置された電荷蓄積膜とを有する、請求項12に記載の半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、ケイ素窒化物用エッチング組成物及び半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造方法においては、各種の工程でケイ素窒化物膜を選択的にエッチングする工程が実施されている。例えば、メモリデバイスを高集積化するために、メモリセルを三次元に積み上げた三次元積層型不揮発性メモリデバイスでは、メモリホールの周囲に絶縁膜と導電膜とを積層した積層体を形成するにあたって、ケイ素酸化物膜とケイ素窒化物膜とを交互に積層した積層体に対し、ケイ素窒化物膜を選択的にエッチングする工程が実施される。このようなケイ素窒化物膜のエッチング工程では、ケイ素窒化物膜のエッチングレートを高めることが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2020/0024517号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2019/0136090号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の解決しようとする課題は、ケイ素窒化物のエッチングレートを高めることを可能にしたケイ素窒化物用エッチング組成物、及びそれを用いた半導体装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態のケイ素窒化物用エッチング組成物は、リン酸溶液と、
一般式:Si(R1)(R2)(R3)(R4)
ここで、R1、R2、R3、及びR4は1価基であって、R1、R2、R3、及びR4の少なくとも1つはアルコキシ基であり、R1、R2、R3、及びR4の他の少なくとも1つは2個以上の酸素を含む官能基である、で表される組成を有するシラン化合物を含む添加剤とを具備する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】実施形態のエッチング組成物を用いたケイ素窒化物のエッチング工程の一例を示す断面図である。
【
図2】実施形態のエッチング組成物に用いるシラン化合物の第1の例の分子構造を示す図である。
【
図3】実施形態のエッチング組成物に用いるシラン化合物の第2の例の分子構造を示す図である。
【
図4】ケイ素窒化物をリン酸水溶液でエッチングする際の概略反応を示す図である。
【
図5】ケイ素窒化物をリン酸水溶液でエッチングする際の反応の進行を示す図である。
【
図6】実施形態のエッチング組成物に用いるシラン化合物のE
a1、E
a2、E
a1+E
a2、及びΔE
MOを示す表である。
【
図7】実施形態のエッチング組成物に用いるシラン化合物のΔE
MOとE
a1+E
a2との関係を示す
【
図8】実施形態のエッチング組成物に用いるシラン化合物の添加剤の最低空軌道(LUMO)のエネルギー準位とE
a1+E
a2との関係を示す図である。
【
図9】第2の実施形態の半導体装置の製造工程で作製する半導体記憶装置を示す断面図である。
【
図10】第2の実施形態の半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【
図11】第2の実施形態の半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【
図12】第2の実施形態の半導体装置の製造工程を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態のケイ素窒化物用エッチング組成物及び半導体装置の製造方法について、図面を参照して説明する。なお、各実施形態において、実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、その説明を一部省略する場合がある。図面は模式的なものであり、厚さと平面寸法との関係、各部の厚さの比率等は現実のものとは異なる場合がある。
【0008】
実施形態によるケイ素窒化物用エッチング組成物は、例えば半導体基板のような基板上に設けられたケイ素窒化物のエッチングに用いられるものである。
図1は実施形態のエッチング組成物を用いたエッチング工程の一例を示す図であって、エッチング処理される被加工物とそのエッチング工程を示している。
図1(A)に示される被加工物は、半導体基板のような基板1上に設けられ、交互に形成されたケイ素窒化膜2とケイ素酸化膜3とを有する積層体4を具備する。このような積層体4に、例えば
図1(B)に示すように、スリット5を形成し、次いで
図1(C)に示すように、スリット5を介してケイ素窒化膜2を選択的にエッチングして空間6を形成する。実施形態のエッチング工程は、このようなケイ素窒化膜2のエッチングに適用される。ただし、
図1は実施形態のエッチング工程の一例を示すものであり、実施形態のケイ素窒化物のエッチング工程はこれに限られるものではなく、各種のケイ素窒化物のエッチングに適用することができる。
【0009】
上述したようなケイ素窒化膜2のエッチングには、例えば150℃前後に加熱されたリン酸水溶液が用いられる。ただし、リン酸水溶液のみではケイ素窒化物のエッチングレートを十分に高めることができない。そこで、実施形態のケイ素窒化物のエッチング工程においては、リン酸水溶液と添加剤とを含有するエッチング組成物が用いられる。リン酸水溶液としては、一般的なH3PO4で表される無機リン酸(オルトリン酸)の水溶液が用いられる。ただし、H3PO4に代えて、もしくはH3PO4に加えて、H4P2O7(ピロリン酸)を用いてもよい。さらに、リン酸のアルカリ金属塩のようなリン酸塩や有機リン酸等を添加して使用してもよい。
【0010】
エッチング組成物に含有される添加剤は、
一般式:Si(R
1)(R
2)(R
3)(R
4)
ここで、R
1、R
2、R
3、及びR
4は1価基であって、R
1、R
2、R
3、及びR
4の少なくとも1つはアルコキシ基であり、R
1、R
2、R
3、及びR
4の他の少なくとも1つは2個以上の酸素を含む官能基である、
で表される組成を有するシラン化合物を含むものである。添加剤の含有量は、リン酸水溶液に対して0.01質量%以上15質量%以下の範囲とすることが好ましい。このような添加剤を、リン酸水溶液を主成分とするエッチング組成物に添加することによって、後述するようにケイ素窒化物のエッチングレートを高めることができる。従って、
図1に示した積層体4からケイ素窒化膜2を選択的にエッチングする際に、ケイ素窒化膜2のエッチングレートを高めて生産性を向上させることができると共に、ケイ素酸化膜3のリン酸水溶液によるダメージを低減することが可能になる。
【0011】
実施形態のエッチング組成物の添加剤としてのシラン化合物において、Si原子に結合される4つの1価基、すなわちR1基、R2基、R3基、及びR4基の少なくとも1つはアルコキシ基であり、他の少なくとも1つは2個以上の酸素を含む官能基(以下、酸素含有官能基と記す場合がある。)である。添加剤としてのシラン化合物はアルコキシシランであって、1個以上3個以下のアルコキシ基を含み、Si(OCnH2n+1)3R、Si(OCnH2n+1)2R2、Si(OCnH2n+1)1R3(ここで、nは1以上の数、Rは少なくとも1個の酸素含有官能基を含む1価基である)のいずれであってもよい。アルコキシシランに含まれるアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられるが、メトキシ基(-OCH3)が一般的である。
【0012】
上記した4つのR1基、R2基、R3基、及びR4基のうち、少なくとも1つのアルコキシ基及び少なくとも1つの酸素含有官能基以外の1価基は、特に限定されるものではないが、上記した-CnH2n+1で表されるアルキル基(nは1以上の数であり、例えば1~4の整数である。)が用いられ、またヒドロキシ基(-OH)や水素(-H)であってもよい。「Si(R1)(R2)(R3)(R4)」で表されるアルコキシシランは、酸素含有官能基を含むトリアルコキシシラン、酸素含有官能基を含むアルキルジアルコキシシラン、酸素含有官能基を含むジアルキルアルコキシシラン等であることが好ましい。
【0013】
アルコキシシランのSiに結合する酸素含有官能基は、2個以上の酸素を含む官能基であれば特に限定されるものではないが、例えばカルボン酸無水物を含む基(以下、第1官能基と記す場合がある。)やエポキシ基と当該エポキシ基には含まれないエーテル酸素を含む基(以下、第2官能基と記す場合がある。)が挙げられる。第1官能基としては、下記の(1)式で表される1価基を含む基が例示される。第2官能基としては、下記の(2)式で表される1価基を含む基が例示される。
【0014】
一般式:R5(OC)O(CO)R6- …(1)
ここで、R5及びR6はそれぞれ独立して存在し、かつR5は1価の有機基、R6は2価の有機基である、又はR5及びR6は脂環構造、芳香環構造、及びそれらを組合せた複合環構造から選ばれる環構造を有する環状化合物を形成する有機基である。
一般式:R7OR8-O- …(2)
ここで、R7は2価の有機基、R8は3価の有機基である。
【0015】
第1官能基の例としては、下記の(3)式で表される1価基が挙げられる。
一般式:(CHa)x1(CO)y1Ow1(CHb)z1- …(3)
ここで、x1、y1、z1、w1、a、及びbは、x1≧1、y1≧2、z1≧1、w1≧1、a≧1、b≧0を満足する数である。
CHa基とCHb基はそれぞれ独立して存在して鎖状化合物を形成する基であってもよいし、CHa基とCHb基とが脂環構造、芳香環構造、及びそれらを組合せた複合環構造から選ばれる環構造を有する環状化合物を形成する基であってもよい。
第2官能基の具体例としては、下記の(4)式で表される1価基が挙げられる。
一般式:(H2nCn)x2O(CH)y2(CH2)z2-Ow2- …(4)
ここで、x2、y2、z2、w2、及びnは、x2≧1、y2≧1、z2≧1、w2≧1、n≧1を満足する数である。
【0016】
第1官能基における無水カルボン酸に基づく1価基は、そのままの状態で含まれてもよいが、コハク酸無水物(C4H4O3)に基づく1価基(-C4H3O3:(3)式において、a=2、x1=1、y1=2、b=1、z1=1、w1=1の1価基)、マレイン酸無水物(C4H2O3)に基づく1価基(-C4H1O3:(3)式において、a=1、x1=1、y1=2、b=0、z1=1、w1=1の1価基)、フタル酸無水物(C8H4O3)に基づく1価基(-C8H3O3:(3)式において、a=1、x1=3、y1=2、b=0、z1=3、w1=1の1価基)のように、その一部が無水カルボン酸構造を有する1価基を含むことが好ましい。
【0017】
さらに、無水カルボン酸に基づく1価基は、1価の環状化合物に限らず、下記の(5)式で表される1価の鎖状化合物であってもよい。
一般式:R9(CO)O(CO)R10- …(5)
ここで、R9はアルキル基やフェニル基等の1価基、R10はアルキレン基やフェニレン基等の2価基である。
そのような1価基の具体例としては、酢酸無水物(C4H6O3)に基づく1価基(-C4H5O3:(3)式において、a=3、x1=1、y1=2、b=3、z1=1、w1=1の1価基)、安息香酸無水物(C14H10O3)に基づく1価基(-C14H9O3:(3)式において、a=1、x1=9、y1=2、b=0、z1=3、w1=1の1価基)等が挙げられる。
【0018】
無水カルボン酸構造を有する1価基は、そのままSiに結合していてもよいが、例えば-(CnH2n)-で表されるアルキレン基や-C(=O)O-のようなカルボン酸に基づく2価基を介してSiに結合していることが好ましい。ただし、無水カルボン酸構造を有する1価基とSiとの間に介在される2価基は、これらに限られるものではない。無水カルボン酸構造を有する1価基とSiとの間に介在されるアルキレン基において、nは1~4の数であることが好ましい。
【0019】
上記した(3)式で表される1価基を含む第1官能基の具体的な化合物基としては、3-トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物、3-トリメトキシシリルプロピルトリメリット酸無水物が挙げられる。3-トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物(化合物1)は、化学式:C
10H
18O
6Siで表され、その構造式を
図2に示す。3-トリメトキシシリルプロピルトリメリット酸無水物(化合物2)は、化学式:C
15H
18O
8Siで表され、その構造式を
図2に示す。これらの化合物は2個以上の酸素を含む官能基等に基づいてリン酸水溶液によるケイ素窒化物のエッチングレートを向上させるものである。
【0020】
(4)式の具体例としては、(H2C)O(CH)-で表されるエポキシ基に-CH2-等のアルキレン基が結合したグリシジル基等を有し、さらにグリシジル基等がエーテル酸素(-O-)に結合した1価基が挙げられる。ただし、(4)式に含まれる基はグリシジル基に限られるものではなく、エポキシ基に-(CnH2n)-で表されるアルキレン基、好ましくはnが1~4の範囲の数であるアルキレン基が結合していてもよい。また、エポキシ基を構成するCH2に他のアルキレン基やアルキル基が結合した構造、例えばH3C-(CnH2n)-(HC)O(CH)-で表される構造を有していてもよい。
【0021】
上記した(4)式で表される1価の基を含む第1官能基の具体的な化合物基としては、例えば3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシランが挙げられる。3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(化合物3)は、化学式:C
9H
20O
5Siで表されで、その構造式を
図3に示す。3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン(化合物4)は、化学式:C
9H
20O
4Siで表され、その構造式を
図3に示す。これらの化合物は2個以上の酸素を含む官能基等に基づいてリン酸水溶液によるケイ素窒化物のエッチングレートを向上させるものである。
【0022】
次に、上記したエッチング組成物によるシリコン窒化物(SiN)のエッチング工程について詳述する。まず、SiNのリン酸水溶液によるエッチングについて、
図4及び
図5を参照して述べる。
図4に概略反応式を示すように、SiNのH
3PO
4水溶液によるエッチングは、H
3PO
4とH
2Oとが反応してヒドロニウムイオン(H
3O
+)が生成し、このヒドロニウムイオンをSiNに付加することにより反応が進行する。具体的には、
図5に示す反応式に基づいてSiNのエッチングが進行する。
図5において、矢印及び鉤矢印は反応の進行方向を示し、短い左向きの中空矢印はH
2OがSiに攻撃する方向を示し、破線矢印はNH
2が脱離することを示す。
図5に示すように、ヒドロニウムイオンを付加することによりSiに結合した-NH-基の1つが-NH
2
+-となる。次いで、H
2Oを付加することによりSiに-OH
2
+が付加され、さらにNH
2が脱離すると共に、Siに1つの-OHが結合した状態が得られる。ここで、
図5中の1段目は1個目のH
2Oの付加反応、2段目は2個目のH
2Oの付加反応、3段目は3個目のH
2Oの付加反応、4段目は4個目のH
2Oの付加反応を表す。このような反応がSiに結合した4つの-NH-基に対して順に進行することによって、最終的にSiNがSi(OH)
4として溶解してエッチングが進行する。
【0023】
リン酸水溶液によるSiNの反応過程において、1個目の水の付加によるSiの5配位状態の形成過程がSiNのエッチング反応の律速段階となることが判明した。具体的には、
図5に示す反応過程の1段目におけるH
2Oの付加反応(
図5において、点線の丸で示す)である。このため、SiN表面の-NH
2基にプロトンを付加し、Siへの水付加反応の活性化エネルギーを低下させることができれば、SiNのエッチングレートを高めることができる。この点を考慮すると、Siの5配位状態の形成性を高めるためには、(1)SiNのプロトン形成過程の活性化エネルギー(E
a1)、(2)(1)に続く水分子付加過程の活性化エネルギー(E
a2)が小さい添加剤を使用すれば、Siの5配位状態が形成されやすくなり、SiNのエッチングレートを高めることができる。具体的には、活性化エネルギーE
a1、活性化エネルギーE
a2、及びこれらの和(E
a1+E
a2)が、H
3O
+のそれより小さいアルコキシシラン類を添加剤として使用すれば、SiNのエッチングレートを高めることができる。
【0024】
上述したSiNのエッチングレートを高める添加剤に関して、2個以上の酸素を含む官能基を有するアルコキシシランが有効であることを見出した。実施形態の添加剤としてのアルコキシシランの具体例として記載した化合物1、化合物3、化合物4、及びH
3O
+の活性化エネルギーE
a1、活性化エネルギーE
a2、及びこれらの和(E
a1+E
a2)を、
図6に示す。
図6に示すように、H
3O
+のE
a1は0.02eV、E
a2は0.81eV、E
a1+E
a2は0.83eVであるのに対して、化合物1、化合物3、及び化合物4はE
a1、E
a2、E
a1+E
a2がいずれもH
3O
+より小さいことが分かる。化合物1、化合物3、及び化合物4を添加剤として使用することによって、SiN表面の-NH
2基へのプロトンの付加反応が進行し、Siの5配位状態の形成過程が進行しやすくなる。従って、SiNのエッチングレートを高めることができる。
【0025】
上記した現象は、添加剤のΔE
MOからも明らかである。ここで、ΔE
MOは「(添加剤によるプロトン付加状態の最低空軌道(LUMO)のエネルギー準位)-(水分子の最高占有軌道(HOMO)のエネルギー準位)」で表される値である。
図6に化合物1、化合物3、及び化合物4のΔE
MOを合わせて示す。また、
図7にΔE
MOとE
a1+E
a2との関係を示す。ΔE
MOが小さいほど、添加剤によるプロトン付加状態が水分子の求核的な付加を受けやすい。そのような添加剤は、5配位状態の形成も起こしやすい。さらに、
図8に添加剤のLUMOとE
a1+E
a2との関係を示す。添加剤のLUMOが深い(小さい)ほど、E
a1+E
a2が小さい。そのため、5配位状態の形成も起こしやすい。これらの点からも、化合物1、化合物3、及び化合物4を添加剤として使用することによって、SiNのエッチングレートを高めることができる。これらの現象は化合物1、化合物3、及び化合物4に限られるものではなく、化合物2、さらには他の2個以上の酸素を含む官能基を有するアルコキシシランにおいて期待できる。
【0026】
上述したような添加剤を含むリン酸水溶液を150℃程度の温度に加熱した状態で用いて、
図1(B)及び
図1(C)に示すように、スリット5を介してケイ素窒化膜2を選択的にエッチングしたところ、リン酸水溶液のみを用いたエッチングに比べて、ケイ素窒化膜2のエッチングレートが向上することが確認された。従って、
図1(A)に示すように、ケイ素窒化膜2とケイ素酸化膜3とを有する積層体4に対して、ケイ素窒化膜2を選択的にエッチングする場合において、実施形態のエッチング組成物は有用であり、ケイ素酸化膜3の状態を維持しつつ、ケイ素窒化膜2を効率よくエッチングすることができる。
【0027】
(第2の実施形態)
次に、実施形態の製造方法は、例えばメモリセルアレイを有する半導体記憶装置の製造に適用した第2の実施形態について、
図9ないし
図12を参照して説明する。
図9は第2の実施形態の製造方法を適用して作製した半導体記憶装置におけるメモリセルを示す断面図である。
図10ないし
図12は
図9に示す半導体記憶装置の製造工程を示す図である。
図9に示す半導体記憶装置は、半導体基板10と、半導体基板10上に設けられた積層体20と、積層体20の積層方向に沿って延伸する柱状部30とを備える。
図9において、半導体基板10の主面に対して平行な方向であって、互いに交わる2方向をX方向及びY方向とし、これらX方向及びY方向の双方に交わる方向をZ方向(積層方向)とする。
【0028】
半導体基板10は、選択トランジスタに接続される拡散層11を有している。拡散層11を有する半導体基板10上には、層間絶縁膜12を介して積層体20が設けられている。積層体20は、複数の導電膜21と複数の絶縁膜22を有している。これら導電膜21と絶縁膜22は、Z方向に交互に積層されている。導電膜21としては、後に詳述するように、膜厚が30nm程度のタングステン(W)やモリブデン(Mo)が用いられる。絶縁膜22としては、膜厚が30nm程度のシリコン酸化膜が用いられる。導電膜21の周囲には、ブロック絶縁膜23としてアルミニウム酸化膜が形成されている。
【0029】
導電膜21は後述するように、絶縁膜22としてのシリコン酸化膜とシリコン窒化膜とを交互に積層し、シリコン窒化膜を選択的にエッチングした後、シリコン窒化膜がエッチング除去された空間の壁面にアルミニウム酸化膜23を形成した後、残部の空間にWやMoをCVD法やALD法等で充填することにより形成される。
【0030】
柱状部30は、積層体20をZ方向に貫通するように設けられ、外周部31aを有している。柱状部30は半導体基板10に設けられた拡散層11に達するように形成されている。柱状部30はMONOS(Metal-Oxide-Nitride-Oxide-Silicon)構造を有する。すなわち、柱状部30の外周面31aに沿って、積層体20側から順に、ブロック絶縁膜の一部としてシリコン酸化膜23a、電荷蓄積膜32としてシリコン窒化膜、トンネル絶縁膜33としてシリコン酸化膜、及びチャネル膜34としてシリコン膜が形成されている。
【0031】
チャネル膜34の内側には、シリコン膜35が形成されており、シリコン膜35の内側にはシリコン酸化膜36が形成されている。シリコン膜35はチャネル膜34の拡散層11への電気的接続を取るために、Z方向に向かって伸びる突出部31bを有する。電荷蓄積膜32、及びトンネル絶縁膜33は、メモリ膜37を構成している。チャネル膜34及びシリコン膜35は、半導体膜38を構成している。
【0032】
導電膜21、ブロック絶縁膜23、メモリ膜37、及び半導体膜38は、Z方向に並ぶ複数のメモリセルMCを構成している。メモリセルMCは、半導体膜38の周囲を、メモリ膜37を介して、導電膜21が囲んだ縦型トランジスタ構造を有する。半導体膜38は、縦型トランジスタ構造のメモリセルMCのチャネルとして機能し、導電膜21はコントロールゲート(制御電極)として機能する。電荷蓄積膜32は半導体膜38から注入される電荷を蓄積するデータ記憶層として機能する。
【0033】
次に、第2の実施形態による半導体装置の製造方法について、
図10ないし
図12を参照して述べる。まず、
図10に示すように、拡散層11を有する半導体基板10上に、層間絶縁膜12を介して、膜厚が30nm程度のシリコン窒化膜21Xと、絶縁膜22として膜厚が30nm程度のシリコン酸化膜22を、交互にCVD法で成膜し、積層体20Xを形成する。シリコン窒化膜21Xと絶縁膜22はそれぞれ、例えば100層成膜される。リソグラフィー法を用いて積層体20Xの積層方向(Z方向)にメモリホール31aを形成する。メモリホール31aの直径は、例えば80nmとする。
【0034】
次いで、メモリホール31a内にブロック絶縁膜の一部として膜厚が5nm程度のシリコン酸化膜23a、電荷蓄積膜32として膜厚が5nm程度のシリコン窒化膜、トンネル絶縁膜33として膜厚が8nm程度のシリコン酸化膜、チャネル膜34として膜厚が5nm程度のポリシリコン膜、及び側壁膜(図示せず)として膜厚が5nm程度のシリコン酸化膜を順に成膜する。側壁膜をマスクとして、各膜23a、32、33、34の下部と層間絶縁膜12をRIE(Reactive Ion Etching)法によりエッチングし、拡散層11を露出させる。続いて、マスクの側壁膜を選択的RIEによりエッチングし、チャネル膜(ポリシリコン膜)34を露出させる。チャネル膜34の内壁に沿って、ポリシリコン膜35を成膜し、チャネル膜34を拡散層11に電気的に接続する。ポリシリコン膜35の内側に存在するホール内にシリコン酸化膜36を埋め込む。リソグラフィー法とRIE法を用いて、積層体20Xにスリット41を形成する。
【0035】
次に、
図11に示すように、150℃に加熱したリン酸と添加剤とを含むエッチング組成物を用いて、スリット41を介してシリコン窒化膜21Xをエッチングし、導電膜21を形成する空間(充填空間)Sを作製する。シリコン窒化膜21Xのエッチング工程は、第1の実施形態と同様にして実施される。
図12に示すように、空間Sの壁面にブロック絶縁膜23として膜厚が5nm程度のアルミニウム酸化膜を形成した後、空間SにW膜やMo膜等の金属膜を充填し、導電膜21を形成して積層体20とする。その後、不要部分の金属膜を除去し、シリコン酸化膜を埋め込んだ後に、図示を省略した上部配線等を形成して、半導体装置(三次元積層型不揮発性メモリデバイス)を作製する。
【0036】
なお、上述した各実施形態の構成は、それぞれ組合せて適用することができ、また一部置き換えることも可能である。ここでは、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図するものではない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の省略、置き換え、変更等を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同時に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0037】
1…基板、2…シリコン窒化膜、3…シリコン酸化膜、4…積層体、5…スリット、10…半導体基板、20…積層体、21…導電膜、21X…窒化珪素膜、22…絶縁膜、23…ブロック絶縁膜、30…柱状部、31a…メモリホール、31b…突出部、32…電荷蓄積膜、38…メモリ膜、39…半導体膜。