(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022048726
(43)【公開日】2022-03-28
(54)【発明の名称】回転電機のコア部
(51)【国際特許分類】
H02K 1/04 20060101AFI20220318BHJP
H02K 15/02 20060101ALI20220318BHJP
H02K 15/12 20060101ALI20220318BHJP
H02K 1/18 20060101ALI20220318BHJP
H02K 3/34 20060101ALI20220318BHJP
【FI】
H02K1/04 A
H02K15/02 F
H02K15/12 E
H02K1/04 B
H02K1/18 C
H02K3/34 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020154710
(22)【出願日】2020-09-15
(71)【出願人】
【識別番号】000144038
【氏名又は名称】株式会社三井ハイテック
(74)【代理人】
【識別番号】100099634
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 安雄
(72)【発明者】
【氏名】馬場 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】手塚 昇吾
【テーマコード(参考)】
5H601
5H604
5H615
【Fターム(参考)】
5H601AA16
5H601CC01
5H601CC14
5H601DD01
5H601DD09
5H601DD11
5H601EE04
5H601FF03
5H601GA02
5H601GB05
5H601GB12
5H601GB33
5H601GC12
5H601GD02
5H601GD09
5H601GE10
5H601HH12
5H601JJ06
5H601KK26
5H604AA08
5H604BB01
5H604BB08
5H604BB14
5H604CC01
5H604CC05
5H604CC15
5H615AA01
5H615BB01
5H615BB05
5H615BB14
5H615PP10
5H615SS44
(57)【要約】
【課題】 ブロック鉄心を積層した鉄心本体であっても、鉄心本体に対し絶縁部を適切に配設して、コイルとコア間に空気が介在する状態を生じにくくして、コイルからコア側への伝熱を促せると共に、コア部としての強度も向上させられる、回転電機のコア部を提供する。
【解決手段】 回転電機の鉄心本体におけるスロット13に面する側面部分に、複数のブロック鉄心12間の段差や薄板11a端部の不揃いが存在しても、これらに起因してブロック鉄心12間や薄板11a間に生じる凹状部分が埋められるように絶縁部を成型配設して、ティース部11c側面とこれに接合する絶縁部との間に隙間を生じさせないことから、コイルをなす導線のスロット挿通状態では、鉄心本体に密に接合する絶縁部を介して、導線で発生する熱を鉄心本体へ伝えられ、コイルから外部へ向かう伝熱の効率を向上させて放熱を促進させられ、コイルの温度上昇を抑えられる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性金属材料製の薄板が複数積層されて連結したブロック鉄心を、さらに複数積層一体化させて形成される鉄心本体を少なくとも有する、回転電機のコア部において、
前記鉄心本体が、環状のヨーク部と、当該ヨーク部から突出する複数のティース部とを備え、
前記鉄心本体のヨーク部及び隣り合うティース部の間に生じるスロットに対し、当該スロットに面するヨーク部及びティース部の各側面に一体に接合する樹脂製の絶縁部を成型配設され、
当該絶縁部が、前記ティース部の各側面で、少なくとも前記ブロック鉄心間及び前記薄板間のいずれか一方にある凹状部分を全て埋めるように配設されることを
特徴とする回転電機のコア部。
【請求項2】
前記請求項1に記載の回転電機のコア部において、
前記絶縁部が、前記スロット内の空間に面する表面を、前記鉄心本体におけるヨーク部及びティース部の各側面の表面形状に関わりなく、鉄心本体の軸方向に連続する略平面として成型配設されることを
特徴とする回転電機のコア部。
【請求項3】
前記請求項1又は2に記載の回転電機のコア部において、
前記鉄心本体をなす複数のブロック鉄心が、ブロック鉄心ごとに転積されつつ積層されることを
特徴とする回転電機のコア部。
【請求項4】
前記請求項1ないし3のいずれかに記載の回転電機のコア部において、
前記鉄心本体が、各ブロック鉄心におけるティース部の側面を、それぞれ薄板の積層方向に対し傾斜した傾斜面とされ、
前記絶縁部が、前記各ブロック鉄心におけるティース部の傾斜した側面に密着させて配設されることを
特徴とする回転電機のコア部。
【請求項5】
前記請求項4に記載の回転電機のコア部において、
前記鉄心本体が、一のブロック鉄心に隣接する他のブロック鉄心を、前記一のブロック鉄心に対し、鉄心本体周方向にずらして積層され、
一のブロック鉄心におけるティース部の傾斜した側面と、他のブロック鉄心におけるティース部の一のブロック鉄心寄りの軸方向端面のうち、スロットに面した部分とのなす角を鋭角とされることを
特徴とする回転電機のコア部。
【請求項6】
前記請求項1ないし5のいずれかに記載の回転電機のコア部において、
前記鉄心本体が、前記ブロック鉄心を三つ以上積層させて形成されることを
特徴とする回転電機のコア部。
【請求項7】
前記請求項1ないし6のいずれかに記載の回転電機のコア部において、
前記鉄心本体が、積層される前記薄板を電磁鋼板とされ、熱処理で各薄板端部近傍の結晶粒径を他部分の結晶粒径と略同一となるまで回復された状態で、前記絶縁部を前記スロットに面する各薄板端部に接合するよう成型配設されることを
特徴とする回転電機のコア部。
【請求項8】
前記請求項1ないし7のいずれかに記載の回転電機のコア部において、
前記絶縁部が、少なくとも前記鉄心本体のスロットに面する各部に成型配設される厚さを、0.1mmないし0.5mmとされることを
特徴とする回転電機のコア部。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機の固定子又は回転子におけるコア部に関し、特に鉄心とコイルとの間に絶縁体が介設されるコア部に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機や発電機といった回転電機の固定子又は回転子において、コイルを配設されるコアには、積層鉄心が一般に用いられる。コイルは積層鉄心のティース部に巻回状態で配設されるが、コイル配設の際、打ち抜き等による形成後、特に処理されていない鉄心端面とコイルとの接触で、コイルの絶縁被膜の損傷等の影響が出ないようにするなどの目的で、鉄心におけるティース部間のスロットに配置されるコイルとティース部との間に、絶縁紙等のインシュレーター(絶縁体)を介在させるようにしていた。
こうした従来の回転電機におけるコアの一例として、特許第6277892号公報に開示されるものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の回転電機のコアは、前記特許文献に示される構成を有しており、例えば、コイルとティース部との間に絶縁紙を介在させるように設ける場合、コイル配設前に絶縁紙をティース部間のスロットに挿入する工程などが必要となり、製造能率の向上を図ることが難しいという課題を有していた。
【0005】
この他、コアをなす積層鉄心には、例えば、磁性金属材料製の薄板を複数積層して連結固定したものや、同じく磁性金属材料製の薄板を所定枚数積層したものをかしめ等により連結してブロック鉄心を形成し、さらに複数のブロック鉄心同士を積層し、互いに点溶接で一体化したものが用いられていた。
【0006】
このうち、ブロック鉄心を複数積層し、一体化して積層鉄心を形成する場合、複数のブロック鉄心同士が重なる部分は、完全に重ね合わせることは難しく、ずれによる段差が生じやすかった。こうした段差がある場合、積層鉄心におけるティース部等のコイルに面する部分に絶縁紙を配置する際、積層鉄心と絶縁紙との間には部分的な隙間が生じ、この隙間に空気が介在することで、コイルから鉄心への伝熱性能が悪化して、コイルからの放熱が適切に行えなくなるという課題を有していた。
【0007】
さらに、ブロック鉄心は、これを構成する複数の薄板間がかしめ等により連結されるのみであることが多いため、そのねじり方向の力に対する強度は高いとはいえなかった。こうしたブロック鉄心を組み合わせた積層鉄心のねじり強度についても、十分高いものとすることはできず、コア製造工程やコイル巻回等の後工程で積層鉄心に過大な力が加わらないようにするなど、その取り扱いに配慮を要する分、製造効率を向上させることが難しいという課題を有していた。
【0008】
本発明は前記課題を解消するためになされたもので、ブロック鉄心を積層した鉄心本体であっても、鉄心本体に対し絶縁部を適切に配設して、コイルとコア間に空気が介在する状態を生じにくくして、コイルからコア側への伝熱を促せると共に、コア部としての強度も向上させられる、回転電機のコア部を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の開示に係る回転電機のコア部は、磁性金属材料製の薄板が複数積層されて連結したブロック鉄心を、さらに複数積層一体化させて形成される鉄心本体を少なくとも有する、回転電機のコア部において、前記鉄心本体が、環状のヨーク部と、当該ヨーク部から突出する複数のティース部とを備え、前記鉄心本体のヨーク部及び隣り合うティース部の間に生じるスロットに対し、当該スロットに面するヨーク部及びティース部の各側面に一体に接合する樹脂製の絶縁部を成型配設され、当該絶縁部が、前記ティース部の各側面で、少なくとも前記ブロック鉄心間及び前記薄板間のいずれか一方にある凹状部分を全て埋めるように配設されるものである。
【0010】
このように本発明の開示によれば、回転電機の鉄心本体におけるスロットに面する側面部分に、複数のブロック鉄心間の段差や薄板端部の不揃いが存在しても、これらに起因してブロック鉄心間や薄板間に生じる凹状部分が埋められるように絶縁部を成型配設して、ティース部側面とこれに接合する絶縁部との間に隙間を生じさせないことにより、コイルをなす導線のスロット挿通状態では、鉄心本体に密に接合する絶縁部を介して、導線で発生する熱を鉄心本体へ伝えられ、コイルから外部へ向かう伝熱の効率を向上させて放熱を促進させられ、コイルの温度上昇を抑えて、回転電機の作動をより安定化できる。
また、鉄心本体に対し絶縁部を成型配設して、絶縁部の外縁部を鉄心本体のスロットに面する各面の形状に追随させて接合一体化することで、絶縁部は特にティース部の側面の凹状部分に入り込んで密着一体化することとなり、積層されてブロック鉄心をなす各薄板同士及びブロック鉄心同士を相互に固定でき、鉄心本体のねじり強度を向上させられる。
【0011】
また、本発明の開示に係る回転電機のコア部は必要に応じて、前記絶縁部が、前記スロット内の空間に面する表面を、前記鉄心本体におけるヨーク部及びティース部の各側面の表面形状に関わりなく、鉄心本体の軸方向に連続する略平面として成型配設されるものである。
【0012】
このように本発明の開示によれば、絶縁部のスロット内に位置する表面形状を、ティース部の各側面の表面形状には関わりなく、鉄心本体の軸方向に連続する面とされることにより、ブロック鉄心間の段差や薄板端部の不揃いに伴う凹凸を絶縁部で吸収して、鉄心本体のティース部側面の真直度に影響を受けることなく、絶縁部表面の真直度を確保でき、コイルをなす導線のスロット挿通状態では、例えば導線表面と絶縁部表面の連続方向をほとんど同じとして、導線と絶縁部間に、絶縁部表面の凹凸や傾きに起因する隙間が生じにくく、導線と絶縁部との間に介在する空気を減らし、絶縁部を介した導線と鉄心本体との間における伝熱効率を向上させられ、コイルからの放熱を促進できる。
【0013】
また、本発明の開示に係る回転電機のコア部は必要に応じて、前記鉄心本体をなす複数のブロック鉄心が、ブロック鉄心ごとに転積されつつ積層されるものである。
【0014】
このように本発明の開示によれば、鉄心本体をなす複数のブロック鉄心を、ブロック鉄心ごとに転積しつつ積層して、鉄心本体を形成することにより、鉄心本体の形成にあたって薄板ごとに転積を行って積層する場合に比べて、転積をより効率よく実現して積層工程を進められ、鉄心本体の品質確保と製造効率向上との両立が図れる。
【0015】
また、本発明の開示に係る回転電機のコア部は必要に応じて、前記鉄心本体が、各ブロック鉄心におけるティース部の側面を、それぞれ薄板の積層方向に対し傾斜した傾斜面とされ、前記絶縁部が、前記各ブロック鉄心におけるティース部の傾斜した側面に密着させて配設されるものである。
【0016】
このように本発明の開示によれば、ティース部の側面をなす各ブロック鉄心の側面を傾斜面とし、この側面に絶縁部を密着させることにより、ブロック鉄心の側面と絶縁部との接合面積を大きくして確実に一体化でき、ブロック鉄心同士の連結を絶縁部でさらに強化でき、鉄心本体の強度を高められる。
【0017】
また、本発明の開示に係る回転電機のコア部は必要に応じて、前記鉄心本体が、一のブロック鉄心に隣接する他のブロック鉄心を、前記一のブロック鉄心に対し、鉄心本体周方向にずらして積層され、一のブロック鉄心におけるティース部の傾斜した側面と、他のブロック鉄心におけるティース部の一のブロック鉄心寄りの軸方向端面のうち、スロットに面した部分とのなす角を鋭角とされるものである。
【0018】
このように本発明の開示によれば、複数のブロック鉄心の積層において一のブロック鉄心におけるティース部の傾斜した側面と、これに隣接する他のブロック鉄心における軸方向端面とのなす角が鋭角となるようにして、ティース部側面に沿って成型配設される絶縁部を、ブロック鉄心間の鋭角となった凹部に食い込んで密着する状態とすることにより、絶縁部はティース部の側面により強力に密着一体化することとなり、鉄心本体をなすブロック鉄心相互の絶縁部による固定もさらに確実なものとなり、鉄心本体のねじり強度を大きく強化できる。そして、絶縁部がティース部側面の狭い凹部にも食い込むように配設されることで、ティース部側面と絶縁部との間に空気の介在する余地をなくし、絶縁部からティース部側へ熱を効率よく伝えられる状態を確保できる。
【0019】
また、本発明の開示に係る回転電機のコア部は必要に応じて、前記鉄心本体が、前記ブロック鉄心を三つ以上積層させて形成されるものである。
【0020】
このように本発明の開示によれば、鉄心本体をなすブロック鉄心を三つ以上として、ブロック鉄心一つあたりの薄板の積層数を相対的に少なくすることにより、一つのブロック鉄心における薄板端部の突出量の差が小さくなり、ブロック鉄心ごとの薄板端部の突出量の差異を絶縁部で吸収して絶縁部表面を滑らかな面とするために必要な絶縁部の厚さを小さくすることができ、絶縁部を通じた伝熱の効率をさらに高められる。
【0021】
また、本発明の開示に係る回転電機のコア部は必要に応じて、前記鉄心本体が、積層される前記薄板を電磁鋼板とされ、熱処理で各薄板端部近傍の結晶粒径を他部分の結晶粒径と略同一となるまで回復された状態で、前記絶縁部を前記スロットに面する各薄板端部に接合するよう成型配設されるものである。
【0022】
このように本発明の開示によれば、鉄心本体をなす電磁鋼板である薄板を、以前の加工により変化した結晶粒径が他部分のそれと略同一となるまで回復するよう熱処理し、そのまま絶縁部を鉄心本体におけるスロットに面する側面部分に成型配設して、各薄板端部を絶縁部で覆った状態とすることにより、鉄心本体の絶縁部を接合させた薄板端部を空気と接触させず、防錆効果を付与した状態とすることができ、絶縁部の配設前に別途防錆用の加工を施す必要がなくなり、熱処理後の防錆のための工程を省略して製造コストを抑えられる。
【0023】
また、本発明の開示に係る回転電機のコア部は必要に応じて、前記絶縁部が、少なくとも前記鉄心本体のスロットに面する各部に成型配設される厚さを、0.1mmないし0.5mmとされるものである。
【0024】
このように本発明の開示によれば、鉄心本体のスロットに面する各部への、絶縁部の配設厚さを、0.1mmないし0.5mmの範囲内として、絶縁性を確保可能且つ成型配設可能な範囲で絶縁部を厚くなり過ぎない適切な厚さとすることにより、絶縁部の成型配設工程で、絶縁部となる樹脂の流通経路を兼ねる絶縁部配設箇所が、樹脂の流通に適した隙間となり、樹脂に含まれるフィラー等の混合物が流通経路に詰まることも無く、樹脂の流動性を確保でき、絶縁部配設箇所全域に樹脂を無理なく均一に行き渡らせて、絶縁部を設計通りに形成できることに加え、配設された絶縁部を、従来の絶縁紙のようなインシュレーターより薄くすることができ、スロットにおける導線の配置領域を確保できると共に、導線の挿入時に絶縁部の引っ掛かりが生じにくく、挿入がスムーズに行える。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係るコア部の平面図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係るコア部の要部拡大図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態に係るコア部におけるインシュレーター配設前の鉄心本体の要部拡大図である。
【
図5】本発明の第1の実施形態に係るコア部製造時におけるスリットへの樹脂注入前の状態を示す説明図である。
【
図6】本発明の第1の実施形態に係るコア部製造時における鉄心本体のモールド装置への装着状態を示す概略説明図である。
【
図7】本発明の第1の実施形態に係るコア部における他のインシュレーターの配設状態を示す説明図である。
【
図8】本発明の第2の実施形態に係るコア部における鉄心本体の要部断面拡大図である。
【
図9】本発明の第2の実施形態に係るコア部の要部断面拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(本発明の第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態に係る回転電機のコア部を
図1ないし
図6に基づいて説明する。本実施形態においては、回転電機としての電動機の固定子をなすコアの例について説明する。
【0027】
各図において本実施形態に係る回転電機のコア部10は、磁性金属材料製の薄板11aを複数積層し連結したブロック鉄心12を、さらに複数積層一体化させて形成される鉄心本体11と、この鉄心本体11に複数設けられる各スロット13に面する鉄心本体11の各側面と一体に成型配設される、絶縁部をなす絶縁樹脂材料製のインシュレーター15とを備える構成である。
【0028】
本実施形態に係るコア部10を用いる回転電機は、コア部10にコイルを巻回状態で配設してなる固定子と、この固定子の内側に回転可能に配設される回転子と、これら固定子及び回転子を覆う中空箱状のケースとを備える公知の構成であり、詳細な説明を省略する。
【0029】
鉄心本体11は、複数のブロック鉄心12、好ましくは、三つ以上のブロック鉄心12、を積層一体化させて形成される積層鉄心である。そして、各ブロック鉄心12は、磁性金属材料製の薄板11aを複数積層して形成されたものである。
【0030】
ブロック鉄心12をなす薄板11aは、電磁鋼やアモルファス合金等からなる薄板材から打抜き形成されるものである。
ブロック鉄心12において、重ね合わせた薄板11a同士は、接着剤による接着で連結される。ただし、これに限らず、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂等の樹脂による固定、及び、薄板同士の溶接、などのいずれか1又は2以上を用いて連結することもできる。
【0031】
複数のブロック鉄心12を積層して鉄心本体11を形成する際には、薄板11aの板厚偏差を相殺し、鉄心本体11の各部位ごとの積層方向の厚さのばらつきを抑えることを目的とする転積が実行される。この転積は、複数の薄板11aを積層して形成されたブロック鉄心12を積み重ねるごとに行われ、重ねようとするブロック鉄心12を重ねる対象のブロック鉄心12の周方向に所定角度回転させて、ブロック鉄心同士の角度をずらすようにされる。こうして、転積をブロック鉄心12単位で行うことで、薄板11a単位で転積を行う場合に比べて、転積の工程を速やかに実行できる。
【0032】
鉄心本体11は、ブロック鉄心12を転積しつつ積層することから、ブロック鉄心12同士の端面を完全に一致させて重ね合わされるのは極めてまれであり、ブロック鉄心12同士の若干のずれは通常避けられない。また、ブロック鉄心12を転積せずに複数積層して鉄心本体11とする場合も、同様にブロック鉄心12同士の若干のずれは避けられない。このため、鉄心本体11を複数のブロック鉄心12の積層により形成する場合、ブロック鉄心12の重なる境界部分、特にティース部11cの側面におけるブロック鉄心12の境界部分には、ずれによる段差が生じている。
【0033】
また、鉄心本体11は、重ね合わせたブロック鉄心12同士を、点溶接で連結一体化される。ただし、これに限らず、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂等の樹脂による固定、接着剤による接着等を用いて連結することもできる。この他、インシュレーター15の成型配設までブロック鉄心12の積層状態を維持可能であれば、ブロック鉄心12同士を連結しない構成とすることもできる。
【0034】
鉄心本体11の内周部には、複数の導線51からなるコイルを設けるためのスロット13が複数等間隔で設けられ、各スロット13はいずれも鉄心本体11中央の回転子配設位置となる空間部分に通じている。なお、鉄心本体において、全てのスロットが等間隔で設けられる必要はなく、一部異なる間隔であってもかまわない。
【0035】
そして、鉄心本体11は、スロット13より外側で環状に連続するヨーク部11bと、このヨーク部11bの内周から径方向内方に突出する状態で各スロット13間に形成されるティース部11cとを備える構成である。この鉄心本体11のヨーク部11bとティース部11cの形状は、鉄心本体11の軸方向の全体にわたって同一形状とされる場合と、同一でなく異なる形状部分を含む場合のいずれでもかまわない。
【0036】
ティース部11cは、このティース部11cを挟んで隣り合う二つのスロット13にそれぞれ面するこのティース部11cの両側面を、それぞれ鉄心本体11の径方向と平行な向きとされ、ティース部11cのうちこれら両側面の間の部分が、鉄心本体11の中心寄りに位置するほど先細となる形状とされる(
図4参照)。
これにより、ティース部11c間のスロット13は、その横断面形状が略同一の幅で前記径方向に連続する形状となり、このスロット13を挟む二つのティース部11cにおけるスロット13に面する各側面同士が略平行とされる。
【0037】
こうした各スロット13には、スロット13に面する鉄心本体11の各側面、すなわち、ヨーク部11bの側面(内周面)及びティース部11cの側面、と一体とされる、絶縁樹脂材料製のインシュレーター15を成型配設される構成である。
【0038】
インシュレーター15は、絶縁性のある樹脂材料、例えば、エポキシ系の熱硬化性樹脂など、を固化させたものであり、スロット13の一部をなす空間部13aを取り囲む形状を有する。
【0039】
空間部13aは、スロット13のうちインシュレーター15が設けられずに残った部分であり、前記コイルをなす複数の導線51を挿通可能とされる。この空間部13aへの導線挿通状態では、導線51の存在する部位を除いたスロット13の残り部分を、インシュレーター15が占めて、このインシュレーター15が導線51と鉄心本体11(ヨーク部11b及びティース部11c)との間に絶縁物として介在することとなる。
【0040】
インシュレーター15は、スロット13に面する鉄心本体11の各側面に接合して、鉄心本体11と一体化しているが、鉄心本体11をなす複数のブロック鉄心12はずれを伴って積層され、また、ブロック鉄心12を構成する薄板11aの端部も整っておらず不揃いであり、インシュレーター15の接合する鉄心本体11の側面は平滑な連続面とはなっていない。
【0041】
特に、鉄心本体11における、ティース部11cの側面におけるブロック鉄心12の重なる境界部分には、ずれによる段差が生じて、複数のブロック鉄心12で凹凸を生じさせている。
【0042】
これに対し、インシュレーター15は、ヨーク部11b及びティース部11cの各側面で、ブロック鉄心12間にある凹状部分や、薄板11a間にある凹状部分を全て埋めるように配設される。インシュレーター15の厚さは、0.1mmないし0.5mmとされており、ブロック鉄心12のずれが数μmから数十μmであるのと比較して十分大きく、上記の凹状部分を問題なく埋めて段差を解消できる。
【0043】
この場合、インシュレーター15の厚さは、各ブロック鉄心12の側面ごとに異なるようにされることで、スロット13の空間部13aに面するインシュレーター15の表面は、ブロック鉄心同士のずれに関わりなく、鉄心本体の軸方向に起立し連続する略平面となる。
【0044】
また、スロット13の空間部13aを挟んで対向するティース部11c側面のインシュレーター15の厚さは、互いに異なるようにされる。これにより、スロット13の空間部13aを挟んで対向するインシュレーター15間の間隔、すなわち、スロット13の空間部13aの大きさが一様となっており、コイルを偏りなく均等に配設できる。
【0045】
この他、インシュレーター15は、鉄心本体11の軸方向の両端面からさらに軸方向外方へ所定量(例えば、0.2mmないし3mm程度)突出させたり、鉄心本体11の軸方向の両端面に沿って所定量はみ出させるように配設してもかまわない。
【0046】
また、インシュレーター15は、鉄心本体11の軸方向の両端面から軸方向内方へ端部を所定量(例えば、鉄心本体11に使用する薄板11aの厚さ程度まで)後退させて、鉄心本体11の両端面に対し段差をなすように配設することもできる。
【0047】
インシュレーター15の空間部13aに配設可能な導線51は、表面に絶縁皮膜が形成された金属製線状体であり、ティース部11c周囲に巻回配設されてコイルとされるものである。
【0048】
導線51としては、例えば、表面に絶縁皮膜が形成された矩形又は方形断面の金属製棒状体である平角線を用いる構成とすることもできる。この場合、導線51をインシュレーター15の空間部13aに挿通した後に、複数を連結一体化されてコイルとされることとなる。こうした平角線である導線51を、1つの空間部13aに複数本(例えば、6本)挿通し、空間部13aでの占積率を大きくするように、複数本が鉄心本体11の径方向に整列し、隣り合う側面同士を当接させた状態で空間部13aに配置する構成とすることもできる。
【0049】
次に、本実施形態に係るコア部の製造方法について説明する。
前提として、あらかじめ、公知の製法により、薄板材から打抜いた複数の薄板11aを積層し、接着等で一体化してブロック鉄心12が形成されており、さらにこのブロック鉄心12を転積しつつ積層し、三つ以上のブロック鉄心12を積層した鉄心本体11が得られているものとする。
そして、得られた鉄心本体11における各ブロック鉄心12の重なる境界部分、特にティース部11cの側面におけるブロック鉄心12の境界部分には、ずれによる段差が生じているものとする。
【0050】
まず、鉄心本体11を、モールド装置30の所定位置に置く。このモールド装置30は、
図6に示すように、鉄心本体11をその軸方向両側から挟み込む上型31及び下型32と、鉄心本体11の各スロット13における空間部13aにあたる領域に対し挿抜可能とされる中子34と、下型32に沿うように配設されて中子34を支持する中子基部36と、上型31と鉄心本体11との間に配置されるカルプレート37と、中子基部36と鉄心本体11との間に配置される分離プレート38とを有するものである。上型31と鉄心本体11との間に配置されるカルプレート37には、樹脂を各スロット13に導く樹脂流路35(例えば、ランナー、ゲート孔)が形成される。
【0051】
なお、こうしたモールド装置30による成型工程に至る前に、鉄心本体11に対しその外形側から棒を当てるなどして、鉄心本体搬送時に生じたブロック鉄心12又は薄板11aのずれを直す工程を実行するようにしてもよい。
【0052】
モールド装置30は、鉄心本体11の軸方向両側に、上型31と下型32をそれぞれ配置し、上型31で上から押さえられるカルプレート37を鉄心本体11の上端面に当接させる。また、下型32と中子基部36で支持される分離プレート38を鉄心本体11の下端面に当接させる。これにより、スロット13における鉄心本体11の軸方向の開口部を、後述する中子34の配置領域を除いて全て閉塞できる。
【0053】
また、モールド装置30の下型32上に設けられた分離プレート38の開口を通じて、各スロット13にそれぞれ中子34を下から挿入配置する。スロット13における鉄心本体11の径方向の開口部は、この中子34の端部で閉塞される。
【0054】
図5及び
図6に示すように、モールド装置30で鉄心本体の各スロット13を閉塞状態とした後、成型工程として、モールド装置30のカルプレート37及び分離プレート38と、中子34とで閉じられた空間、すなわち、中子34の外周面と鉄心本体11のスロット13に面する側面との間の隙間に、樹脂を注入する。
【0055】
この樹脂の注入は、モールド装置30に設けられる図示しない樹脂溜めポット内に収容された樹脂材料を、プランジャーによる押圧で樹脂溜めポットから押出し、カルプレート37の樹脂流路35を通じて、中子34と鉄心本体11の側面との間の隙間に圧入することで実行される。樹脂の注入に際しては、モールド装置30によって、鉄心本体11に対しその軸方向や径方向に所定荷重を加え、鉄心本体とこれに接するモールド装置各部との間が開いて樹脂が漏れ出すことのないようにする。
【0056】
インシュレーター15の配設箇所となる、中子34の外周面と鉄心本体11のスロット13に面する側面との間の隙間の大きさは、インシュレーター15の厚さに相当する0.1mmないし0.5mmとされ、注入される樹脂の流通に適した隙間となっており、樹脂に含まれるフィラー等の混合物が詰まることも無く、樹脂の流動性を確保して、隙間全域に樹脂を無理なく均一に行き渡らせることができる。
【0057】
なお、モールド装置30においては、鉄心本体11の各スロット13に対し、それぞれ中子34を下から挿入する構成としているが、これに限られるものではなく、例えば、モールド装置30の上型31下に設けられたカルプレート37の開口を通じて、各スロット13に対し、それぞれ中子34を上から挿入する構成とすることもできる。また、樹脂の注入方向についても、モールド装置30に設けられるプランジャーによる押圧により、鉄心本体11の上下のいずれかから樹脂を注入してもかまわない。
【0058】
また、インシュレーター15の厚さがその配設位置ごとに異なるように設計した場合、モールド装置30における樹脂注入用のゲート位置を、インシュレーター15の厚さの大きい箇所に対応する隙間部分に面するように設定すれば、樹脂が、インシュレーターの厚い部分に対応する隙間の広い箇所から、インシュレーター15の薄い部分に対応する隙間の狭い箇所へ向けて流動することとなる。こうして、隙間の広い箇所を通じて、隙間の狭くなった箇所まで樹脂を到達させられ、樹脂の未充填等の問題が生じにくくなる。
【0059】
さらに、鉄心本体11と当接するカルプレート37と分離プレート38の面のうち、中子34の外周に接する箇所に凹部を形成することで、形成したインシュレーター15に、鉄心本体11の軸方向両端面からさらに軸方向の外方へ突出する部分や、鉄心本体11の軸方向両端面に沿ってはみ出すように延設する部分を一体形成することもできる。
【0060】
特に後者の場合、カルプレート37や分離プレート38の凹部が、樹脂注入の際に、鉄心本体11の軸方向端面であるティース部11c表面に沿った樹脂流路として機能することで、流路断面積を大きくすることができ、ティース部先端付近など樹脂が行き渡りにくい箇所を含む、樹脂を注入すべき隙間の全体に、樹脂を確実に到達させることができる。
【0061】
この他、鉄心本体11と当接するカルプレート37と分離プレート38の面のうち、中子34の外周に接する箇所に凸部を形成することで、形成したインシュレーター15が、鉄心本体11の軸方向両端面から軸方向の内方へ端部を後退させて、鉄心本体11の軸方向両端面に対し窪んだ段差をなすようにすることもできる。
【0062】
この場合、モールド装置30によるインシュレーター15成型の際に、カルプレート37等の凸部がスロット13の空間部13a端部に入り込んで閉塞し、樹脂が誤って空間部13aの端から鉄心本体11の軸方向端面に沿うように漏れ出して広がるような事態を防止でき、鉄心本体11端面に余分に付着した樹脂の除去工程を省略できる。なお、インシュレーター15の鉄心本体11端面に対する段差は、薄板11aの板厚以内とすることで、すべての薄板11aに対しインシュレーター15を接合させて強度を高める状態が確保できる(
図7参照)。
【0063】
注入された樹脂を固化させることで、ティース部11cの両側面とその基端側となるヨーク部11bの内周面に接合し一体化した状態のインシュレーター15が形成され、鉄心本体11の各スロット13にインシュレーター15を備えたコア部10が完成状態となる。
【0064】
そして、コア部10に対し、モールド装置30が、鉄心本体11から上型31、カルプレート37、中子34、下型32、及び分離プレート38をそれぞれ離隔させてコア部10を解放する。このコア部10は、モールド装置30から取り出された後、コイルの配設等の後工程に供給され、コア部10の各スロット13に導線51を挿通される。導線51はスロット13の空間部13aに挿通されてインシュレーター15に取り囲まれた状態となる。
【0065】
コア部10のインシュレーター15は、空間部13aに面して、コイルをなす導線51と接する側面(内周面)の、導線51に対する摩擦抵抗を、従来のコイルとコア間の絶縁に用いられていた絶縁紙と比較して少なくするように形成されている。このため、導線51をスロット13に挿通する際、導線51はインシュレーター15と接触しても抵抗を受けにくく、導線51をスムーズに挿通できる。
【0066】
そして、コア部10の各スロット13に挿通された導線51は、周方向に数個おきの(又は、周方向に隣り合う)スロット13に配置された導線51同士で結線され、電気的に接続されてコイルとされる。最終的に、これらコア部とコイルは、巻線の配線やケースへの取付で回転電機の固定子として使用可能な状態とされる。
【0067】
インシュレーター15は、モールド装置で成型配設され、その配設厚さを0.1mmないし0.5mmとしていることから、従来のコイルとコア間の絶縁に用いられていた絶縁紙より薄く形成することができる。このため、スロット13の空間部13aへの導線51の挿入時にインシュレーター15の引っ掛かりが生じにくく、挿入をスムーズに行うことができる。また、スロット13におけるコイル(導線)の占有率を高められ、より多くの電流をコイルに流すことができ、出力を向上させることができる。
【0068】
また、インシュレーター15が鉄心本体11に一体化されることで、鉄心本体11の連結強度は、強度向上の度合いが部位ごとに異なるものの、全体として向上していることから、インシュレーター15の成型配設まで薄板11aやブロック鉄心12の積層状態を維持可能としているのであれば、薄板11a同士の接着やかしめ等による連結や、ブロック鉄心12同士の溶接等による連結を省略する構成とすることもできる。インシュレーター15を配設した後は、薄板11a同士やブロック鉄心12同士の連結を確実に維持して鉄心本体11として問題なく使用できる状態を確保しつつ、インシュレーター15配設前の薄板11a同士の連結やブロック鉄心12同士の連結に係る工程を行わないことで、製造の効率化が図れ、製造コストを抑えられる。
【0069】
続いて、本実施形態に係るコア部を適用した回転電機における、コイルからコア部への伝熱状態について説明する。
回転電機を作動させ、巻線をなす各コイルに電流が流れると、コイルをなす導線51に熱が発生する。導線51で生じた熱は、導線外周とコア部10の鉄心本体11との間に介在するインシュレーター15における熱伝導性が、コイル周囲の空気における熱伝導性より優れることから、主にインシュレーター15を介して鉄心本体11へ伝わる。
【0070】
すなわち、コイルで生じた熱は、コイルのうちスロット13の空間部13aに収まった部分の導線51から、その表面に密着するインシュレーター15に伝わり、さらに、インシュレーター15から、これと密着する鉄心本体11に伝わり、さらにケース等に伝わることとなる。
【0071】
インシュレーター15は、鉄心本体11のスロット13に面する各側面に接合一体化しているが、このインシュレーター15の空間部13aに面する表面の形状は、鉄心本体11の軸方向に起立し連続する略平面となるように、インシュレーター15の厚さを各ブロック鉄心12の側面ごとに調整されていることから、鉄心本体11のティース部11c側面におけるブロック鉄心12同士のずれによる段差や薄板端部間の凹凸に影響を受けることなく、面の真直度を確保できる。
【0072】
よって、導線51のスロット挿通状態では、例えば導線表面とインシュレーター15表面の連続方向とをほとんど平行として、導線51とインシュレーター15間に、インシュレーター15表面の凹凸や傾きに起因する隙間が生じにくく、導線51とインシュレーター15との間に介在する空気を減らし、インシュレーター15を介した導線51と鉄心本体11との間における伝熱効率を向上させられる。
【0073】
また、インシュレーター15は、ヨーク部11b及びティース部11cの各側面で、ブロック鉄心12間にある凹状部分や、薄板11a間にある凹状部分を全て埋めるように配設され、各側面との間に隙間を介在させることなく、各側面に密着する。例えば、薄板11aを打ち抜き加工で形成した場合、薄板11a端部に残るバリやダレが、薄板11aを積層した状態で、これらの間に小さな凹状部分を生じさせるものの、こうした凹状部分にもインシュレーター15を隙間なく配設できる。
【0074】
これにより、インシュレーター15とティース部11c側面との間には空気が存在し得ず、コイルをなす導線51のスロット挿通状態では、鉄心本体11に密に接合するインシュレーター15を介して、導線51で発生する熱を鉄心本体11へ伝えられ、コイルから外部へ向かう伝熱の効率を向上させて放熱を促進させられる。
【0075】
この他、インシュレーター15をモールド装置30で成型配設することで精度よく形成でき、寸法の誤差を小さくでき、導線51の入る空間部13aの周りに挿通のためのクリアランスを大きく設定する必要がないことで、空間部13aに挿通する導線51とインシュレーター15との間のクリアランス自体を小さくすることができ、導線51と鉄心本体11との間に介在する空気の層を薄くして、この点でも導線51と鉄心本体11との間における伝熱効率を向上させられる。
【0076】
このように、本実施形態に係る回転電機のコア部は、鉄心本体11におけるスロット13に面する側面部分に、複数のブロック鉄心12間の段差や薄板11a端部の不揃いが存在しても、これらに起因してブロック鉄心12間や薄板11a間に生じる凹状部分が埋められるようにインシュレーター15を成型配設して、ティース部11c側面とこれに接合するインシュレーター15との間に隙間を生じさせないことから、コイルをなす導線51のスロット挿通状態では、鉄心本体11に密に接合するインシュレーター15を介して、導線51で発生する熱を鉄心本体へ伝えられ、コイルから外部へ向かう伝熱の効率を向上させて放熱を促進させられ、コイルの温度上昇を抑えて、より大きな電流を流すことができる。
【0077】
また、鉄心本体11に対しインシュレーター15を成型配設して、インシュレーター15の外縁部を鉄心本体11のスロット13に面する各面の形状に追随させて接合一体化することで、インシュレーター15は特にティース部11cの側面の凹状部分に入り込んで密着一体化することとなり、積層されてブロック鉄心12をなす各薄板11a同士及びブロック鉄心12同士を相互に固定でき、鉄心本体11のねじり強度を向上させられる。
【0078】
なお、実施形態に係るコア部を適用する回転電機を電動機としているが、これに限らず、回転電機は発電機であってもかまわない。また、コア部は、インナーロータ構造における固定子の一部とされる構成としているが、これに限られるものではなく、アウターロータ構造における固定子の一部とすることもできる。加えて、コア部は固定子だけでなく、巻線タイプのロータのコアとして用いる構成とすることもできる。
【0079】
また、実施形態に係る回転電機のコア部においては、ティース部11c側面のインシュレーター15におけるスロット13内の空間部13aに面する表面を、鉄心本体11の軸方向に連続する略平面として形成する構成としているが、この他、インシュレーター15におけるスロット13内の空間部13aに面する表面を、鉄心本体11の軸方向に連続する溝が複数並べて設けられた形状として形成する構成とすることもできる。この場合、導線挿入の際に、インシュレーター15の表面と導線51外周面との接触面積を減らせることで、導線51の挿入に伴う摩擦抵抗を抑えられ、導線51を空間部13aにスムーズに挿入できる。
【0080】
また、完成後のコア部10を用いた回転電機において、回転電機内に冷却用媒体等の液体を流通させる場合に、インシュレーター15表面に設けられる複数の溝が、コイル(導線)とインシュレーター15間の流路として前記液体を通せることで、液体をコイル周囲に流通させて、コイルの熱の放熱効率を向上させられる。
【0081】
また、実施形態に係る回転電機のコア部においては、各スロット13の空間部13aに導線51を配設する際にその配設を容易にするための構造を特に採用しない構成としているが、例えば、導線51を空間部13aに挿入して配設する場合に対応させて、インシュレーター15における空間部13a周縁のうち導線挿入側(例えば、上側)の角部に面取り加工を施す構成とすることもできる。このような面取り加工で得られた面取り部では、導線51の誘い込みが可能となり、導線51を容易に挿入でき、コア部10への導線挿通工程の短縮化や省力化が図れる。
【0082】
さらに、インシュレーター15におけるティース部11c基端部寄りの隅部に、ヌスミ部を設ける構成とすることもできる。このようにヌスミ部が設けられることで、導線51が平角線の場合に、その角部がインシュレーター15の隅部に接触して摩擦抵抗が生じることを回避でき、導線51をスロット13の空間部13aにスムーズに挿通させられ、コア部10への導線挿通工程の短縮化や省力化が図れる。
【0083】
(本発明の第2の実施形態)
第1の実施形態に係るコア部においては、鉄心本体11をなす各ブロック鉄心12における積層される薄板11a同士を、接着で連結して、各ブロック鉄心12のティース部11c側面を薄板11aの積層方向に起立し連続する略平面状に形成する構成としているが、これに限らず、第2の実施形態として、
図8及び
図9に示すように、各ブロック鉄心12のティース部11c側面を、薄板11aの積層方向に対し傾いた傾斜面として形成し、インシュレーター15をこのブロック鉄心12におけるティース部11cの傾斜した側面に密着させて配設する構成とすることもできる。そして、このように各ブロック鉄心12のティース部11c側面を傾斜した面とする場合、特に、ブロック鉄心12における積層される薄板11a同士を、かしめで連結する構成を用いることができる。
【0084】
すなわち、かしめによる連結の場合には、かしめによって生じた薄板11aのわずかな位置ずれが、積層枚数に比例して累積することで、ブロック鉄心12におけるこのずれた薄板端部のあらわれるティース部11cの側面が、薄板積層方向に対し傾斜した面となる。こうしたブロック鉄心12を、鉄心本体11を構成するものとしてそのまま採用できる。
【0085】
こうして、ティース部11cの側面をなす各ブロック鉄心12の側面を傾斜面とし、この側面にインシュレーター15を密着させることで、ブロック鉄心12の側面とインシュレーター15との接合面積を大きくして確実に一体化でき、ブロック鉄心12同士の連結をインシュレーター15でさらに強化でき、鉄心本体11の強度を高められる。なお、インシュレーター15の厚さは、0.1mmないし0.5mmとされており、かしめによる位置ずれの累積量が数μmであるのと比較して十分大きく、ずれを吸収してその影響を抑えられる。
【0086】
一方、鉄心本体11は、ブロック鉄心12を積層して形成することから、前記第1の実施形態と同様、ブロック鉄心12同士の若干のずれが生じており、ティース部11cの側面におけるブロック鉄心12の境界部分には、ブロック鉄心12同士の鉄心本体周方向へのずれによる段差を有する。
【0087】
さらに、鉄心本体11は、ブロック鉄心12ごとに段差のある状態で、一のブロック鉄心におけるティース部11cの傾斜した側面と、他のブロック鉄心におけるティース部11cの一のブロック鉄心寄りの軸方向端面のうち、スロット13に面した部分とのなす角αが鋭角となるようにされる(
図8参照)。この場合、ティース部11c側面に沿って成型配設されるインシュレーター15を、ブロック鉄心12間の鋭角となった凹部12aに食い込んで密着する状態(
図9参照)とすることで、インシュレーター15はティース部11cの側面に強力に密着一体化する。
【0088】
これにより、鉄心本体11をなすブロック鉄心12相互のインシュレーター15による固定もさらに確実なものとなり、鉄心本体11のねじり強度を大きく強化できる。そして、インシュレーター15がティース部11c側面の狭い凹部12aにも食い込むように配設されることで、ティース部11c側面とインシュレーター15との間に空気の介在する余地をなくし、インシュレーター15からティース部11c側へ熱を効率よく伝えられる状態を確保できる。
【0089】
特に、鉄心本体11をなすブロック鉄心12を三つ以上としていることで、ブロック鉄心12一つあたりの薄板11aの積層数を相対的に少なくし、一つのブロック鉄心12における薄板端部の突出量の差を小さくしており、ブロック鉄心12ごとの薄板端部の突出量の差異をインシュレーター15で吸収してインシュレーター15表面を連続する略平面とするために最低限必要なインシュレーター15の厚さを小さくできた分、インシュレーター15の薄型化が実現している。
【0090】
なお、ブロック鉄心12における積層される薄板11a同士を、かしめで連結するにあたっては、薄板11aに直接かしめを付与する構成に限られるものではなく、ブロック鉄心12にかしめ形状が残らないようにする方法を採用できる。例えば、各薄板11aの外周部又は内周部にかしめブロック(スクラップ部)を設け、積層方向に隣り合う各薄板11aのかしめブロック同士をかしめ接合して各薄板11aを一体化した後、かしめブロックを薄板11aから取り除く、といった手法で行うようにしてもよい。
【0091】
(本発明の第3の実施形態)
第1の実施形態及び第2の実施形態に係るコア部においては、鉄心本体11にインシュレーター15を配設する前の鉄心本体11に対する各種処理を詳細に説明していないが、鉄心本体に対しては、通常、薄板表面に付着した油分を除去する処理や、薄板の打ち抜き等の加工に伴う歪(内部応力)を除去する熱処理、防錆を目的として薄板端部等に四酸化三鉄の被膜を生成するブルーイング処理などが行われる。
【0092】
鉄心本体11をなす薄板11aが電磁鋼板の場合、歪除去のために各薄板端部近傍の結晶粒径を他部分の結晶粒径と略同一となるまで回復させる熱処理(焼鈍)が行われるが、こうした鉄心本体11への熱処理の後、そのまま鉄心本体11へのインシュレーター15の成型配設を行う構成とすることもできる。
【0093】
この場合、インシュレーター15をスロット13に面する鉄心本体11の側面にあらわれる各薄板11a端部(絶縁被膜で覆われていた電磁鋼板の打ち抜き加工により新たに金属面が露出している端部)に接合するよう成型配設することで、各薄板11a端部をインシュレーター15で覆った状態として、鉄心本体11のインシュレーター15を接合させた薄板11a端部を空気と接触させず、防錆効果を付与した状態とすることができる。これにより、鉄心本体11に対しインシュレーター15の配設前に別途防錆用の加工を施す必要がなくなり、熱処理後の防錆のためのブルーイング等の防錆処理工程を省略でき、製造コストを抑えられる。
【0094】
他方、熱処理後の鉄心本体11をなす薄板11aに対しブルーイング等の防錆処理を行い、薄板端部他に四酸化三鉄等の防錆用の被膜を形成してから、インシュレーター15の成型配設を行う構成としてもかまわない。
この場合、防錆用の被膜形成により、酸化等の状態変化がなく安定化した薄板端部等の表面にインシュレーター15を接合させられることで、インシュレーター15の密着性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0095】
10 コア部
11 鉄心本体
11a 薄板
11b ヨーク部
11c ティース部
12 ブロック鉄心
12a 凹部
13 スロット
13a 空間部
15 インシュレーター
30 モールド装置
31 上型
32 下型
34 中子
35 樹脂流路
36 中子基部
37 カルプレート
38 分離プレート
51 導線