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特開2022-48776β-Ga2O3系単結晶膜及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022048776
(43)【公開日】2022-03-28
(54)【発明の名称】β-Ga2O3系単結晶膜及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/16 20060101AFI20220318BHJP
   C30B 25/20 20060101ALI20220318BHJP
   C23C 16/40 20060101ALI20220318BHJP
   H01L 21/20 20060101ALI20220318BHJP
   H01L 29/47 20060101ALI20220318BHJP
   H01L 21/365 20060101ALI20220318BHJP
【FI】
C30B29/16
C30B25/20
C23C16/40
H01L21/20
H01L29/48 D
H01L21/365
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020154786
(22)【出願日】2020-09-15
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、防衛装備庁 安全保障技術研究推進制度、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】515277942
【氏名又は名称】株式会社ノベルクリスタルテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ティユ クァン トゥ
【テーマコード(参考)】
4G077
4K030
4M104
5F045
5F152
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077BB10
4G077DB02
4G077EA01
4G077EA02
4G077EB01
4G077HA06
4G077HA12
4G077TA04
4G077TA07
4G077TB01
4G077TC06
4G077TC07
4G077TG04
4K030AA14
4K030AA16
4K030BA02
4K030BA08
4K030BA11
4K030BA42
4K030BB02
4K030CA05
4K030CA12
4K030FA10
4K030JA10
4K030KA02
4K030LA12
4M104AA03
4M104GG03
5F045AA03
5F045AB40
5F045AC11
5F045AC15
5F045AC16
5F045AD12
5F045AF01
5F045AF03
5F045AF09
5F045DP04
5F045EK06
5F152LL03
5F152LM08
5F152MM02
5F152NN01
5F152NN03
5F152NN13
5F152NN27
5F152NQ01
(57)【要約】
【課題】結晶成長速度が大きく、かつドーパントとして働く不純物の意図しない混入を抑えることのできるβ-Ga系単結晶膜の製造方法、及びその方法により製造されたβ-Ga系単結晶膜を提供する。
【解決手段】一実施の形態として、β-Gaの単結晶、又は、一部のGaがAl、Inの一方又は両方で置換されたβ-Gaの単結晶であるβ-Ga系単結晶からなるβ-Ga系単結晶膜12の製造方法であって、β-Ga系単結晶膜12の中でドーパントとして働く不純物を含む物質の生成を伴わずにA(AはGa、Al、又はIn)のサブオキサイドガスを生成する工程と、サブオキサイドガスをOガスと反応させて、β-Ga系基板10上にβ-Ga系単結晶膜12をエピタキシャル成長させる工程と、を含む、β-Ga系単結晶膜12の製造方法を提供する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
β-Gaの単結晶、又は、一部のGaがAl、Inの一方又は両方で置換されたβ-Gaの単結晶であるβ-Ga系単結晶からなるβ-Ga系単結晶膜の製造方法であって、
前記β-Ga系単結晶膜の中でドーパントとして働く不純物を含む物質の生成を伴わずにA(AはGa、Al、又はIn)のサブオキサイドガスを生成する工程と、
前記サブオキサイドガスをOガスと反応させて、基板上に前記β-Ga系単結晶膜をエピタキシャル成長させる工程と、
を含む、β-Ga系単結晶膜の製造方法。
【請求項2】
前記サブオキサイドガスを生成する工程において、GaのサブオキサイドガスをGaと金属Gaを反応させて生成し、Alのサブオキサイドガスを生成する場合はAlと金属Alを反応させて生成し、Inのサブオキサイドガスを生成する場合はInと金属Inを反応させて生成する、
請求項1に記載のβ-Ga系単結晶膜の製造方法。
【請求項3】
前記サブオキサイドガスを生成する工程において、800℃以上の雰囲気温度下で前記サブオキサイドガスを生成する、
請求項1又は2に記載のβ-Ga系単結晶膜の製造方法。
【請求項4】
前記β-Ga系単結晶膜をエピタキシャル成長させる工程において、800℃以上の雰囲気温度下で前記β-Ga系単結晶膜をエピタキシャル成長させる、
請求項1~3のいずれか1項に記載のβ-Ga系単結晶膜の製造方法。
【請求項5】
β-Gaの単結晶、又は、一部のGaがAl、Inの一方又は両方で置換されたβ-Gaの単結晶であるβ-Ga系単結晶からなり、
Clの濃度が5×1014/cm以下、Cの含有量が2×1016/cm以下である、
β-Ga系単結晶膜。
【請求項6】
Snの含有量が1×1015/cm以下、Siの含有量が5×1015/cm以下、Fの含有量が1×1014/cm以下である、
請求項5に記載のβ-Ga系単結晶膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β-Ga系単結晶膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハイドライド気相成長法(HVPE法)やトリハライド気相成長法(THVPE法)によりβ-Ga系単結晶膜を成長させる技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。特にHVPE法は、分子線エピタキシー法(MBE法)などの他の成長方法と比較して結晶成長速度が大きく、生産現場において現実的な時間で厚い結晶膜を形成することができるという優れた特徴を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6376600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、HVPE法及びTHVPE法では、Gaのハライド化合物(GaCl、GaCl)をβ-Ga系単結晶膜の原料として用いるため、原料由来のClが不純物としてβ-Ga系単結晶膜に混入してしまう。Clはβ-Ga系半導体中で浅いドナーとして働くため、たとえアンドープ(意図的なドーピングをしていない)のβ-Ga系単結晶膜を形成した場合であってもキャリア(自由電子)が発生してしまう。例えば、GaClを原料として用いた場合には、β-Ga系単結晶膜に混入するClの濃度は1~2×1016/cm程度であり、発生するキャリア(自由電子)の濃度も同程度である。
【0005】
例えば、β-Ga系単結晶膜をパワーデバイスに用いる場合、デバイスの耐圧はGa系単結晶膜のキャリア濃度と反比例する関係にある。このため、より高耐圧のデバイスを製造することができるβ-Ga系単結晶膜を得るためには、Clのようなドーパントとして働く不純物のβ-Ga系単結晶膜への意図しない混入を抑えることが重要である。
【0006】
したがって、本発明の目的は、結晶成長速度が大きく、かつドーパントとして働く不純物の意図しない混入を抑えることのできるβ-Ga系単結晶膜の製造方法、及びその方法により製造されたβ-Ga系単結晶膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、上記目的を達成するために、下記[1]~[4]のβ-Ga系単結晶膜の製造方法、[5]、[6]のβ-Ga系単結晶膜を提供する。
【0008】
[1]β-Gaの単結晶、又は、一部のGaがAl、Inの一方又は両方で置換されたβ-Gaの単結晶であるβ-Ga系単結晶からなるβ-Ga系単結晶膜の製造方法であって、前記β-Ga系単結晶膜の中でドーパントとして働く不純物を含む物質の生成を伴わずにA(AはGa、Al、又はIn)のサブオキサイドガスを生成する工程と、前記サブオキサイドガスをOガスと反応させて、基板上に前記β-Ga系単結晶膜をエピタキシャル成長させる工程と、を含む、β-Ga系単結晶膜の製造方法。
[2]前記サブオキサイドガスを生成する工程において、GaのサブオキサイドガスをGaと金属Gaを反応させて生成し、Alのサブオキサイドガスを生成する場合はAlと金属Alを反応させて生成し、Inのサブオキサイドガスを生成する場合はInと金属Inを反応させて生成する、前記[1]に記載のβ-Ga系単結晶膜の製造方法。
[3]前記サブオキサイドガスを生成する工程において、800℃以上の雰囲気温度下で前記サブオキサイドガスを生成する、前記[1]又は[2]に記載のβ-Ga系単結晶膜の製造方法。
[4]前記β-Ga系単結晶膜をエピタキシャル成長させる工程において、800℃以上の雰囲気温度下で前記β-Ga系単結晶膜をエピタキシャル成長させる、前記[1]~[3]のいずれか1項に記載のβ-Ga系単結晶膜の製造方法。
[5]β-Gaの単結晶、又は、一部のGaがAl、Inの一方又は両方で置換されたβ-Gaの単結晶であるβ-Ga系単結晶からなり、Clの濃度が5×1014/cm以下、Cの含有量が2×1016/cm以下である、β-Ga系単結晶膜。
[6]Snの含有量が1×1015/cm以下、Siの含有量が5×1015/cm以下、Fの含有量が1×1014/cm以下である、前記[5]に記載のβ-Ga系単結晶膜。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、結晶成長速度が大きく、かつドーパントとして働く不純物の意図しない混入を抑えることのできるβ-Ga系単結晶膜の製造方法、及びその方法により製造されたβ-Ga系単結晶膜を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の実施の形態に係る結晶積層構造体の垂直断面図である。
図2図2は、本発明の実施の形態に係る気相成長装置の垂直断面図である。
図3図3は、Gaサブオキサイドガス中のGaOガスとGaOガスの分圧と温度の関係を示すグラフである。
図4図4は、本発明の実施の形態に係る方法、HVPE法、及びTHVPE法の各成膜法によるGaの生成反応における平衡定数を示すグラフである。
図5図5は、本発明の実施例に係る結晶積層構造体のSIMSによる元素分析の測定結果を示すグラフである。
図6図6は、厚さ3μmのβ-Ga単結晶膜の表面モフォロジーの光学顕微鏡による観察像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔実施の形態〕
(結晶積層構造体の構成)
図1は、本発明の実施の形態に係る結晶積層構造体1の垂直断面図である。結晶積層構造体1は、β-Ga系基板10と、β-Ga系基板10の主面11上にエピタキシャル結晶成長により形成されたβ-Ga系単結晶膜12を有する。
【0012】
β-Ga系基板10は、β-Ga系単結晶からなる基板である。ここで、β-Ga系単結晶とは、β型の結晶構造を有するGaであるβ-Gaの単結晶、又は、一部のGaがAl、Inの一方又は両方で置換されたβ-Gaの単結晶であり、(GaAlIn(1-x-y)(0<x≦1、0≦y≦1、0<x+y≦1)で表される理想組成を有する。例えば、一部のGaがAlで置換された(GaAl1-x(0<x<1)は、Gaよりもバンドギャップが大きく、一部のGaがInで置換された(GaIn1-x(0<x<1)は、Gaよりもバンドギャップが小さい。また、β-Ga系基板10は、Sn、Siなどのドーパントを含んでもよい。
【0013】
β-Ga系基板10の主面11の面方位は特に限定されず、例えば、(001)、(010)、(-201)、又は(101)である。
【0014】
β-Ga系基板10は、例えば、FZ(Floating Zone)法やEFG(Edge Defined Film Fed Growth)法等の融液成長法により育成したGa系単結晶のバルク結晶をスライスし、表面を研磨することにより形成される。
【0015】
なお、β-Ga系基板10の代わりにサファイア基板やシリコン基板を用いてもよい。
【0016】
β-Ga系単結晶膜12は、β-Ga系基板10と同様に、β-Ga系単結晶からなる。β-Ga系単結晶膜12は、A(AはGa、Al、又はIn)のサブオキサイドの酸化反応により形成され、また、そのサブオキサイドの生成においてβ-Ga系単結晶膜12の中でドーパントとして働くCl、Cなどの不純物を含む物質が生成されないため、ドーパントとして機能する不純物の濃度が非常に低い。このため、β-Ga系単結晶膜12はキャリア濃度が非常に低く、高耐圧のデバイスの材料として優れている。
【0017】
例えば、β-Ga系単結晶膜12のClの濃度は5×1014/cm以下、Cの含有量は2×1016/cm以下、Snの含有量は1×1015/cm以下、Siの含有量は5×1015/cm以下、Fの含有量は1×1014/cm以下、Hの含有量は2×1017/cm以下である。Cl、C、Si、F、Hは、いずれもβ-Ga系単結晶膜12の中でドナーとして働く不純物である。
【0018】
なお、HVPE法及びTHVPE法では、Gaのハライド化合物(GaCl、GaCl)を原料として用いるため、Clの濃度を1×1016/cm以下に抑えることは非常に困難である。また、有機金属化学気相成長法(MOCVD法)では、有機金属原料(トリメチルガリウム(TMGa)、トリエチルガリウム(TEGa))を原料として用いるため、Cの濃度を3×1016/cm以下に抑えることは非常に困難である。
【0019】
ここで、Gaのサブオキサイドは、Gaの酸化数がGaよりも低いGaO又はGaOである。また、Alのサブオキサイドは、Alの酸化数がAlよりも低いAlO又はAlOであり、Inのサブオキサイドは、Inの酸化数がInよりも低いInO又はInOである。β-Ga系単結晶膜12としてβ-Ga単結晶膜を形成する場合は、Gaのサブオキサイドを原料に用いる。β-Ga系単結晶膜12としてβ-(GaAl1-x(0<x<1)単結晶膜を形成する場合は、GaのサブオキサイドとAlのサブオキサイドを原料に用いる。β-Ga系単結晶膜12としてβ-(GaIn1-x(0<x<1)単結晶膜を形成する場合は、GaのサブオキサイドとInのサブオキサイドを原料に用いる。β-Ga系単結晶膜12としてβ-(GaAlIn(1-x-y)(0<x≦1、0≦y≦1、0<x+y≦1)単結晶膜を形成する場合は、Gaのサブオキサイド、Alのサブオキサイド、及びInのサブオキサイドを原料に用いる。
【0020】
なお、β-Ga系基板10からの不純物拡散を防ぐため、β-Ga系基板10とβ-Ga系単結晶膜12の間にバッファ層が形成されてもよい。
【0021】
また、β-Ga系単結晶膜12は、Si、Snなどの意図的に添加されたドーパントを含んでもよい。この場合、上述のようにβ-Ga系単結晶膜12への意図しないドーパントの添加が抑えられるため、意図的に添加するドーパントの濃度を高い精度で制御することができる。
【0022】
(気相成長装置の構造)
以下に、本実施の形態に係るβ-Ga系単結晶膜12としてのβ-Ga単結晶膜の成長に用いる気相成長装置の構造の一例について説明する。
【0023】
図2は、本発明の実施の形態に係る気相成長装置2の垂直断面図である。気相成長装置2は、第1のガス導入ポート21、第2のガス導入ポート22、第3のガス導入ポート23、及び排気ポート25を有する反応チャンバー20と、反応チャンバー20の周囲に設置され、反応チャンバー20内の所定の領域を加熱する第1の加熱手段27及び第2の加熱手段28を備える。
【0024】
反応チャンバー20は、Gaのサブオキサイドのガス(以下、Gaサブオキサイドガスと呼ぶ)の原料が収容された反応容器26が配置され、Gaサブオキサイドガスが生成される原料反応領域R1と、β-Ga系基板10が配置され、β-Ga系単結晶膜12の成長が行われる結晶成長領域R2を有する。反応チャンバー20は、例えば、石英ガラスからなる。
【0025】
反応容器26は、例えば、石英ガラスからなり、反応容器26に収容されるGaサブオキサイドガスの原料は固体(例えば、単結晶のバルク又は多結晶の粉末)のGaと液体の金属Gaである。固体のGaと液体の金属Gaは、互いに接触した状態で反応容器26に収容される。Gaは1つの塊であっても、粉末であってもよい。
【0026】
なお、β-Ga系単結晶膜12として、β-(GaAl1-x(0<x<1)単結晶膜を成膜する場合は、Gaサブオキサイドガスを生成する原料反応領域R1の他に、Alのサブオキサイドのガス(以下、Alサブオキサイドガスと呼ぶ)を生成する原料反応領域R1を備えた気相成長装置2を用いる。Alサブオキサイドガスを生成する原料反応領域R1には、Alサブオキサイドガスの原料であるAlと金属Alが収容された反応容器26が配置される。
【0027】
また、β-Ga系単結晶膜12として、β-(GaIn1-x(0<x<1)単結晶膜を成膜する場合は、Gaサブオキサイドガスを生成する原料反応領域R1の他に、Inのサブオキサイドのガス(以下、Inサブオキサイドガスと呼ぶ)を生成する原料反応領域R1を備えた気相成長装置2を用いる。Inサブオキサイドガスを生成する原料反応領域R1には、Inサブオキサイドガスの原料であるInと金属Inが収容された反応容器26が配置される。
【0028】
第1の加熱手段27と第2の加熱手段28は、反応チャンバー20の原料反応領域R1と結晶成長領域R2をそれぞれ加熱することができる。第1の加熱手段27及び第2の加熱手段28は、例えば、抵抗加熱式や輻射加熱式の加熱装置である。
【0029】
第1のガス導入ポート21は、生成されるサブオキサイドガスを運ぶためのキャリアガスを反応チャンバー20の原料反応領域R1内に導入するためのポートである。第2のガス導入ポート22は、酸素の原料ガスであるOガスをそのキャリアガスとともに結晶成長領域R2へ導入するためのポートである。第3のガス導入ポート23は、キャリアガス、及び必要に応じてSiClなどの意図的に添加するドーパントの原料ガスを反応チャンバー20の結晶成長領域R2へ導入するためのポートである。
【0030】
第1のガス導入ポート21、第2のガス導入ポート22、及び第3のガス導入ポート23から導入されるキャリアガスは、Nガス、Arガスなどの不活性ガスである。Nがβ-Ga系単結晶膜12中に混入するとアクセプタとして働くおそれがあるが、原料供給分圧、温度などの条件を調整することにより、β-Ga系単結晶膜12への混入を防ぐことができる。一方、Arはβ-Ga系単結晶膜12中に混入してもドーパントとして働かないため、Arガスをキャリアガスとして用いることが好ましい。
【0031】
(β-Ga系単結晶膜の成長)
以下に、本実施の形態に係るβ-Ga系単結晶膜12としてのβ-Ga単結晶膜の成長工程の一例について説明する。
【0032】
まず、第1の加熱手段27を用いて反応チャンバー20の原料反応領域R1を加熱し、原料反応領域R1の雰囲気温度を所定の温度、例えば800℃以上、に保つ。原料反応領域R1の雰囲気温度を800℃以上にすることにより、Gaサブオキサイドガスの供給分圧をHVPE法のGa原料ガスの供給分圧と同程度にすることができる。β-Ga系単結晶膜12の成長速度は、このGaサブオキサイドガスの供給分圧に比例する。また、原料反応領域R1の雰囲気温度は、反応チャンバー20や反応容器26の軟化点(例えば、石英ガラス製であれば約1200℃)よりも低く設定される。
【0033】
次に、原料反応領域R1において、上記の雰囲気温度下で反応容器26内のGaと金属Gaを反応させ、Gaサブオキサイドガスを生成する。GaサブオキサイドガスであるGaOガスとGaOガスは、それぞれ以下の式1、式2に示される化学反応により生成される。
【0034】
【数1】
【0035】
【数2】
【0036】
式1、式2に示されるように、Gaサブオキサイドガスの生成には、β-Ga系単結晶膜12中でドーパントとして働くClやCなどの元素を含む原料が用いられない。そのため、GaOガスの生成に伴って、β-Ga系単結晶膜12中でドーパントとして働く元素を含む物質が生じることがない。
【0037】
Gaと金属Gaは蒸気圧が低いため、それぞれ固体と液体であるが、これらの反応により生成されるGaOとGaOは、Gaと金属Gaよりも蒸気圧が高く、気体となる。この原料との蒸気圧の差により、高純度のGaOガスとGaOガス、すなわちGaサブオキサイドガスが得られる。
【0038】
図3は、接触したGaと金属Gaを熱することで生成されるサブオキサイドガス中のGaOガスとGaOガスの分圧と温度の関係を示すグラフである。図3に示されるように、Gaサブオキサイドガス中のGaOガスの濃度はGaOガスの濃度に比較して無視できるくらい低い。すなわち、Gaサブオキサイドガスは、ほぼGaOガスによって構成される。
【0039】
GaOガスとGaOガスの分圧は、Gaと金属Gaの混合(接触)が十分であれば、ほぼ原料反応領域R1の雰囲気温度のみで決定される。このため、結晶成長領域R2へのGaサブオキサイドガスの供給量は、原料反応領域R1の雰囲気温度とGaサブオキサイドガスを運ぶキャリアガスの流量によって決まる。
【0040】
生成されたGaOサブオキサイドガスは、第1のガス導入ポート21から導入されたArガスなどのキャリアガスによって、結晶成長領域R2へ運ばれる。
【0041】
なお、β-Ga系単結晶膜12として、β-(GaAl1-x(0<x<1)単結晶膜を成膜する場合は、他の原料反応領域R1において、例えば800℃以上、反応チャンバー20や反応容器26の軟化点未満の雰囲気温度下で反応容器26内のAlと金属Alを反応させ、Alサブオキサイドガスを生成する。AlサブオキサイドガスであるAlOガスとAlOガスは、それぞれ以下の式3、式4に示される化学反応により生成される。
【0042】
【数3】
【0043】
【数4】
【0044】
また、β-Ga系単結晶膜12として、β-(GaIn1-x(0<x<1)単結晶膜を成膜する場合は、他の原料反応領域R1において、例えば800℃以上、反応チャンバー20や反応容器26の軟化点未満の雰囲気温度下で反応容器26内のInと金属Inを反応させ、Inサブオキサイドガスを生成する。InサブオキサイドガスであるInOガスとInOガスは、それぞれ以下の式5、式6に示される化学反応により生成される。
【0045】
【数5】
【0046】
【数6】
【0047】
生成されたAlOサブオキサイドガスやInOサブオキサイドガスも、GaOサブオキサイドガスと同様に、第1のガス導入ポート21から導入されたArガスなどのキャリアガスによって、結晶成長領域R2へ運ばれる。
【0048】
次に、第2の加熱手段28を用いて加熱された反応チャンバー20の結晶成長領域R2において、原料反応領域R1で生成されたGaOサブオキサイドガスと、第2のガス導入ポート22から導入されたOガスとを混合させ、その混合ガスにβ-Ga系基板10を曝し、β-Ga系基板10の主面11上にβ-Ga系単結晶膜12をエピタキシャル成長させる。β-Ga系単結晶膜12を構成するGaは、以下の式7、式8に示される化学反応により生成される。
【0049】
【数7】
【0050】
【数8】
【0051】
β-Ga系単結晶膜12の成長温度(結晶成長領域R2の雰囲気温度)は、800℃以上であることが好ましい。800℃よりも低い場合は、準安定相であるα-Gaやε-Gaが発生し単結晶が得られないおそれがある。また、β-Ga系単結晶膜12の成長圧力(結晶成長領域R2の雰囲気圧力)は、例えば、およそ1atmである。また、β-Ga系単結晶膜12の成長温度は、Gaの融点(約1900℃)と反応チャンバー20の軟化点(例えば、石英ガラス製であれば約1200℃)の低い方よりも低く設定される。
【0052】
図4は、本発明の実施の形態に係る方法、HVPE法、及びTHVPE法の各成膜法によるGaの生成反応における平衡定数を示すグラフである。図4の上側の横軸は温度(℃)、下側の横軸は1000/T(K-1)(Tは絶対温度)、縦軸はlogK(Kは平衡定数)である。図4は、本発明の実施の形態に係る方法は、HVPE法及びTHVPE法よりもGaが生成されやすいことを示している。
【0053】
β-Ga系単結晶膜12の成長速度は、成長温度などの成長条件によっておよそ1~10μm/hとなることが実証実験により確認されている。この成長速度は、他の結晶成長方法の成長速度と比較して高く、例えば、MBE法の数百nm/h程度の成長速度と比較すると格段に高い。また、実証実験より、さらに成長条件を調整すれば、HVPE法の成長速度(数十μm/h)以上になる可能性が十分にあることが確認されている。
【0054】
β-Ga系単結晶膜12として、β-(GaAl1-x(0<x<1)単結晶膜を成膜する場合は、GaOサブオキサイドガスとOガスに加えてAlOサブオキサイドガスも結晶成長領域R2に導入する。以下の式9に、(GaAl1-xが生成される主な化学反応を示す。
【0055】
【数9】
【0056】
β-Ga系単結晶膜12として、β-(GaIn1-x(0<x<1)単結晶膜を成膜する場合は、GaOサブオキサイドガスとOガスに加えてInOサブオキサイドガスも結晶成長領域R2に導入する。以下の式10に、(GaIn1-xが生成される主な化学反応を示す。
【0057】
【数10】
【0058】
なお、上記の工程を経てβ-Ga系単結晶膜12を得た後、β-Ga系基板10の厚さ方向の電気抵抗を低下させるために、研磨などの手段を用いてβ-Ga系基板10を薄くしてもよい。また、上記の工程を経て得られたβ-Ga系単結晶膜12を、研磨などの手段を用いてβ-Ga系基板10から切り離してもよい。
【0059】
(実施の形態の効果)
上記本発明の実施の形態によれば、β-Ga系単結晶膜12の原料であるGaサブオキサイドガス、Alサブオキサイドガス、InサブオキサイドガスやOガス、キャリアガスである不活性ガスに、β-Ga系単結晶膜12中でドーパントとして機能するCl、Cなどの不純物が含まれず、また、上記サブオキサイドガスの原料であるGa、Al、In、金属Ga、金属Al、金属Inにもβ-Ga系単結晶膜12中でドーパントとして機能するCl、Cなどの不純物が含まれないため、サブオキサイドガスの生成に伴ってβ-Ga系単結晶膜12中でドーパントとして機能する不純物を含む物質が生成されることがない。このため、β-Ga系単結晶膜12中のドーパントとして機能する不純物の濃度が非常に低く、ショットキーバリアダイオードなどの高耐圧を要するデバイスの材料にβ-Ga系単結晶膜12を用いることにより、非常に高い耐圧を得ることができる。
【0060】
また、上記本発明の実施の形態に係るβ-Ga系単結晶膜12の製造方法は、β-Ga系単結晶膜12の成長速度にも優れるため、適用するデバイスの特性上、β-Ga系単結晶膜12にある程度の厚さが求められる場合であっても、生産現場において現実的な時間でβ-Ga系単結晶膜12を形成することができる。
【実施例0061】
図5は、結晶積層構造体1の二次イオン質量分析法(SIMS)による元素分析の測定結果を示すグラフである。本実施例では、β-Ga系基板10としてβ-Ga単結晶基板を、β-Ga系単結晶膜12としてβ-Ga単結晶膜を用いた。図5には、β-Ga系単結晶膜12中でドーパントとして働く不純物元素Cl、Sn、Siの濃度が示されている。
【0062】
図5の横軸はβ-Ga単結晶膜の表面(結晶積層構造体1の表面)からの深さ(μm)であり、縦軸は各元素の濃度(/cm)である。また、グラフ右側の点線は、各元素濃度のバックグラウンド(BG)レベルを表す。バックグラウンドレベルは、分析装置内に何も収容しない状態で測定した各元素の濃度である。
【0063】
グラフ上側に“β-Ga単結晶膜”、“基板”で示される深さ方向の範囲は、それぞれβ-Ga単結晶膜、Snをドーパントとして含むβ-Ga系基板10の測定領域を示す。なお、β-Ga単結晶膜の表面近傍の各元素の濃度の立ち上がりは、表面吸着物の影響によるものであり、内部の各元素の濃度を示すものではない。
【0064】
図5によれば、β-Ga単結晶膜中のClの濃度は、バックグラウンドの濃度である5×1014/cmと一致しており、SIMS装置の検出限界以下、すなわち5×1014/cm以下であることがわかる。
【0065】
また、β-Ga単結晶膜中のCの濃度は、バックグラウンドの濃度である2×1016/cmと一致しており、SIMS装置の検出限界以下、すなわち2×1016/cm以下であることがわかる。
【0066】
また、β-Ga単結晶膜中のSnの濃度は、バックグラウンドの濃度である1×1015/cmと一致しており、SIMS装置の検出限界以下、すなわち1×1015/cm以下であることがわかる。
【0067】
また、β-Ga単結晶膜中のSiの濃度は、バックグラウンドの濃度である5×1015/cmと一致しており、SIMS装置の検出限界以下、すなわち5×1015/cm以下であることがわかる。
【0068】
また、β-Ga単結晶膜中のFの濃度は、バックグラウンドの濃度である1×1014/cmと一致しており、SIMS装置の検出限界以下、すなわち1×1014/cm以下であることがわかる。
【0069】
これらの非常に低いCl、C、Sn、Si、Fの濃度は、β-Ga単結晶膜の原料であるGaサブオキサイドガスとOガス、Gaサブオキサイドガスの原料であるGaと金属Ga、及びキャリアガスである不活性ガスにCl、C、Sn、Si、Fが含まれないことによる。
【0070】
なお、β-Ga単結晶膜の成膜に用いた気相成長装置2の反応チャンバー20と反応容器26は石英ガラス(SiO)製であり、Siを含むが、上述のβ-Ga系単結晶膜12中のSiの濃度から、反応チャンバー20と反応容器26に含まれるSiのβ-Ga単結晶膜への混入はほとんどなかったと考えられる。
【0071】
また、β-Ga単結晶膜のエピタキシャル結晶成長の下地であるβ-Ga系基板10がドーパントとして濃度が約5×1018/cmのSnを含んでいたが、上述のβ-Ga単結晶膜中のSnの濃度から、β-Ga系基板10に含まれるSnのβ-Ga単結晶膜への混入はほとんどなかったと考えられる。
【0072】
また、β-Ga単結晶膜のHの濃度については、SIMS装置のバックグラウンドレベルが2×1017/cm程度と高く、有意義なデータが取得できないため行っていない。しかしながら、β-Ga単結晶膜の原料であるGaサブオキサイドガスとOガス、Gaサブオキサイドガスの原料であるGaと金属Ga、及びキャリアガスである不活性ガスにはHが含まれないため、β-Ga単結晶膜のHの濃度はバックグラウンドレベルである2×1017/cmよりも大幅に低いことが推測される。
【0073】
図6は、厚さ3μmのβ-Ga単結晶膜の表面モフォロジーの光学顕微鏡による観察像である。図6の観察像によれば、エピタキシャル成長結晶の表面に特有の筋が確認できる。この表面の状態から、HVPE法で成膜したものと遜色ない品質の膜が得られていることがわかる。
【0074】
なお、本実施例においては、β-Ga系単結晶膜12としてβ-Ga単結晶膜についての評価結果を示したが、他のβ-Ga単結晶膜であるβ-(GaAl1-x単結晶膜やβ-(GaIn1-x単結晶膜を評価した場合であっても、β-Ga単結晶膜と同様にドーパントとして働く不純物の意図しない混入が抑えられているため、同様の評価結果が得られる。
【0075】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、本発明は、上記実施の形態及び実施例に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。
【0076】
また、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0077】
1…結晶積層構造体、10…β-Ga系基板、11…主面、12…β-Ga系単結晶膜、2…気相成長装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2021-10-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0074
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0074】
なお、本実施例においては、β-Ga系単結晶膜12としてβ-Ga単結晶膜についての評価結果を示したが、他のβ-Ga 系単結晶膜であるβ-(GaAl1-x単結晶膜やβ-(GaIn1-x単結晶膜を評価した場合であっても、β-Ga単結晶膜と同様にドーパントとして働く不純物の意図しない混入が抑えられているため、同様の評価結果が得られる。
【手続補正2】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図5
【補正方法】変更
【補正の内容】
図5