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特開2022-48987吸着塔、吸着剤の温度測定方法、目的ガスの分離動力算出方法、吸着剤の劣化状況の判定方法および圧力スイング吸着設備の運転方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022048987
(43)【公開日】2022-03-28
(54)【発明の名称】吸着塔、吸着剤の温度測定方法、目的ガスの分離動力算出方法、吸着剤の劣化状況の判定方法および圧力スイング吸着設備の運転方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/047 20060101AFI20220318BHJP
【FI】
B01D53/047
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021134403
(22)【出願日】2021-08-19
(31)【優先権主張番号】P 2020154702
(32)【優先日】2020-09-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】田部 正大
(72)【発明者】
【氏名】紫垣 伸行
(72)【発明者】
【氏名】原岡 たかし
(72)【発明者】
【氏名】茂木 康弘
【テーマコード(参考)】
4D012
【Fターム(参考)】
4D012BA02
4D012CB16
4D012CD07
4D012CE02
4D012CF08
4D012CF10
4D012CG01
(57)【要約】
【課題】圧力スイング吸着法により原料ガスから目的ガスを分離する際に、吸着剤の温度を、圧損を抑制して低コストで精確に測定することができる吸着塔、吸着剤の温度測定方法、目的ガスの分離動力算出方法、吸着剤の劣化状況の判定方法および圧力スイング吸着設備の運転方法を提供する。
【解決手段】圧力スイング吸着設備の吸着塔1であって、目的のガス成分を吸着する吸着剤が充填された吸着塔本体11と、吸着塔本体11におけるガスの流通方向に対して平行に吸着塔本体11の全長にわたって設置された熱電対挿入管12と、熱電対挿入管12に挿入され、吸着塔本体12内の吸着剤Aの温度を測定する熱電対13と、熱電対挿入管12内での熱電対13の位置を移動させて、熱電対13が熱電対挿入管12内の任意の位置で吸着剤Aの温度を測定することを可能にする熱電対位置移動制御手段14とを具える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力スイング吸着設備の吸着塔であって、
目的のガス成分を吸着する吸着剤が充填された吸着塔本体と、
前記吸着塔本体におけるガスの流通方向に対して平行に前記吸着塔本体の全長にわたって設置された熱電対挿入管と、
前記熱電対挿入管に挿入され、前記吸着塔本体内の前記吸着剤の温度を測定する熱電対と、
前記熱電対挿入管内での前記熱電対の位置を移動させて、前記熱電対が前記熱電対挿入管内の任意の位置で前記吸着剤の温度を測定することを可能にする熱電対位置移動制御手段と、
を具えることを特徴とする吸着塔。
【請求項2】
請求項1に記載の吸着塔内の前記吸着剤の温度を測定する方法であって、
前記吸着塔本体内のガスの流通方向に沿って少なくとも3点以上の測定点にて圧力スイング1サイクルでの前記吸着剤の温度を測定する第1の測温ステップと、
前記第1の測温ステップにおいて測定された前記吸着剤の温度について前記圧力スイング1サイクルでの前記吸着剤の温度変化ΔTを算出する第1の吸着剤温度変化算出ステップと、
を有することを特徴とする吸着剤の温度測定方法。
【請求項3】
前記第1の吸着剤温度変化算出ステップにおいて前記測定点毎に得られた温度変化ΔTのうち、値が最も小さい温度変化ΔTが測定された最小吸着剤温度変化点を決定する最小吸着剤温度変化点決定ステップと、
前記最小吸着剤温度変化点決定ステップにおいて決定された前記最小吸着剤温度変化点と、前記吸着塔本体における最も原料ガス供給口側の測定点との間に複数の測定点を等間隔で設けて各測定点で前記吸着剤の温度を測定する第2の測温ステップと、
前記第2の測温ステップにおいて測定された前記吸着剤の温度について、圧力スイング1サイクルの前記吸着剤の温度変化ΔTを算出する第2の吸着剤温度変化算出ステップと、
をさらに有する、請求項2に記載の吸着剤の温度測定方法。
【請求項4】
圧力スイング吸着法における目的ガスの分離動力を算出する方法であって、
吸着剤の比熱Cpads(J/kg・K)、吸着剤の質量Mads(kg)、目的ガスの吸着量Mgas(kg)および請求項2または3に記載の吸着塔内の吸着剤の温度測定方法によって測定された前記吸着剤温度変化ΔT(K)、電力換算係数Cを用いて、前記目的ガスの分離動力Wgas(Wh/kg-gas)を以下の式(A)を用いて算出することを特徴とする目的ガスの分離動力算出方法。ここで、前記電力換算係数Cは、エネルギー(J)を電力量(Wh)に変換する係数である。
【数1】
【請求項5】
圧力スイング吸着設備における吸着剤の劣化状況を判定する方法であって、
請求項2または3に記載の吸着塔内の吸着剤の温度測定方法によって前記吸着塔本体内の前記測定点での前記吸着剤の温度変化ΔTの時間変化を求め、
所定の目的ガス回収率が達成できなくなった段階で、ガス分離開始時から前記温度変化ΔTが減少した領域の吸着剤が劣化していると判定することを特徴とする吸着剤の劣化状況の判定方法。
【請求項6】
圧力スイング吸着設備の運転方法であって、
請求項5に記載の吸着剤の劣化状況の判定方法によって劣化した吸着剤が充填された領域を特定する劣化吸着剤特定ステップと、
特定された前記領域に充填された吸着剤のみを交換する吸着剤交換ステップと、
を有することを特徴とする圧力スイング吸着設備の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着塔、吸着剤の温度測定方法、目的ガスの分離動力算出方法、吸着剤の劣化状況の判定方法および圧力スイング吸着設備の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、原料ガスに含まれる目的のガス成分を分離回収する方法として、圧力スイング吸着(Pressure Swing Adsorption、PSA)法が知られている。PSA法は、吸着剤へのガス成分の吸着量、ガス種および分圧の差を利用したガス分離方法であり、主に目的ガス成分を吸着剤に吸着させる吸着工程、吸着剤への目的ガス成分の吸着率を高める洗浄工程、目的ガス成分を吸着剤から脱着させて高濃度の目的ガスを分離回収する脱着工程とからなる。
【0003】
通常、実機スケールのPSAにおける目的ガスの分離回収に要する電力消費量は、真空ポンプ、昇圧器などの電力使用量から算出される。一方、ラボスケールのPSAでは、真空ポンプの吸引圧をニードルバルブの開度に応じた吸引流量変化にて調整するため、真空ポンプの出力との直接的な相関が取れない。
【0004】
吸着工程において吸着剤に対してガス成分が吸着する際の吸着熱の発生、および脱着工程において真空ポンプで吸引脱着する際に、脱着ガス量に応じた吸着熱が発生して吸着剤の温度が変化する現象が知られている(例えば、非特許文献1参照)。真空ポンプの動力は発生した吸着熱に比例すると考えられることから、PSAの1サイクル当たりの吸着剤の温度変化(ΔT)から求まる吸着熱から目的ガスの分離動力を近似的に算出できると考えられる。
【0005】
温度変化ΔTは、吸着剤に対するガス吸着量が多いほど絶対値が増加し、ガス吸着量は吸着塔の原料ガス供給口側から排出口側に向かって減少することから、ガス吸着量と同様に吸着塔の原料ガス供給口側から排出口側に向かって次第に減少していく傾向を示す。
【0006】
上記温度変化ΔTの測定方法として、吸着剤を充填した吸着塔の内部に熱電対を挿入し、吸着塔内の高さ位置に応じた吸着剤の温度変化ΔTを測定する方法がある。また、吸着塔内の高さ位置における温度変化ΔTを測定することによって、目的ガス成分が吸着剤の充填領域に対してどの高さ位置まで吸着しているかを間接的に測定することができ、目的ガスの破過を未然に防ぐことができる。
【0007】
例えば、特許文献1および特許文献2には、PSA法において、吸着操作中の吸着塔の温度変化を熱電対によって測定した値に基づいて、運転条件を自動制御し、目的ガスの破過を防ぐような温度測定の方法が提案されている。
【0008】
また、吸着塔内の所定の高さ位置における温度変化を測定することによって、吸着剤の経時的な劣化状態を間接的に測定することができる。例えば、特許文献3には、PSA法において、吸着塔に具備した熱電対により吸着剤の温度変化を測定することによって、吸着剤の寿命および劣化を判定する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5-155603号公報
【特許文献2】特開2014-73461号公報
【特許文献3】特開平8-117541号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】友村政臣、野北舜介、化学工学論文集、1987年13巻2号、p.139-144
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
これまで、PSA法において、吸着塔に充填した吸着剤の温度変化の測定値に基づいて吸着工程および脱着工程を調整することによって、目的ガスを所望以上の濃度および回収率で分離回収方法が検討されてきた。ところが、特許文献1に記載された方法では、吸着剤の種類はゼオライト、非ゼオライト系多孔質酸性酸化物、活性炭または分子ふるいカーボンに限定した塩素ガスの分離回収方法であるため、分離回収する塩素ガスに対して、副成分ガスとのΔTの差が十分に大きくなければΔTを精密に測定できない問題がある。
【0012】
また、特許文献2および特許文献3に記載された方法では、吸着剤の温度変化を測定するための熱電対を挿入する管の数を熱電対の本数に合わせる必要があり、設備費が増加する問題がある。また、熱電対はガスの流通方向に対して垂直に挿入されるため、ガスの流通が阻害されることによる圧損などの問題もある。
【0013】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、圧力スイング吸着法により原料ガスから目的ガスを分離する際に、吸着剤の温度を、圧損を抑制して低コストで精確に測定することができる吸着塔、吸着剤の温度測定方法、目的ガスの分離動力算出方法、吸着剤の劣化状況の判定方法および圧力スイング吸着設備の運転方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決する本発明は、以下の通りである。
【0015】
[1]圧力スイング吸着設備の吸着塔であって、
目的のガス成分を吸着する吸着剤が充填された吸着塔本体と、
前記吸着塔本体におけるガスの流通方向に対して平行に前記吸着塔本体の全長にわたって設置された熱電対挿入管と、
前記熱電対挿入管に挿入され、前記吸着塔本体内の前記吸着剤の温度を測定する熱電対と、
前記熱電対挿入管内での前記熱電対の位置を移動させて、前記熱電対が前記熱電対挿入管内の任意の位置で前記吸着剤の温度を測定することを可能にする熱電対位置移動制御手段と、
を具えることを特徴とする吸着塔。
【0016】
[2]前記[1]に記載の吸着塔内の前記吸着剤の温度を測定する方法であって、
前記吸着塔本体内のガスの流通方向に沿って少なくとも3点以上の測定点にて圧力スイング1サイクルでの前記吸着剤の温度を測定する第1の測温ステップと、
前記第1の測温ステップにおいて測定された前記吸着剤の温度について前記圧力スイング1サイクルでの前記吸着剤の温度変化ΔTを算出する第1の吸着剤温度変化算出ステップと、
を有することを特徴とする吸着剤の温度測定方法。
【0017】
[3]前記第1の吸着剤温度変化算出ステップにおいて前記測定点毎に得られた温度変化ΔTのうち、値が最も小さい温度変化ΔTが測定された最小吸着剤温度変化点を決定する最小吸着剤温度変化点決定ステップと、
前記最小吸着剤温度変化点決定ステップにおいて決定された前記最小吸着剤温度変化点と、前記吸着塔本体における最も原料ガス供給口側の測定点との間に複数の測定点を等間隔で設けて各測定点で前記吸着剤の温度を測定する第2の測温ステップと、
前記第2の測温ステップにおいて測定された前記吸着剤の温度について、圧力スイング1サイクルの前記吸着剤の温度変化ΔTを算出する第2の吸着剤温度変化算出ステップと、
をさらに有する、前記[2]に記載の吸着剤の温度測定方法。
【0018】
[4]圧力スイング吸着法における目的ガスの分離動力を算出する方法であって、
吸着剤の比熱Cpads(J/kg・K)、吸着剤の質量Mads(kg)、目的ガスの吸着量Mgas(kg)および前記[2]または[3]に記載の吸着塔内の吸着剤の温度測定方法によって測定された前記吸着剤温度変化ΔT(K)、電力換算係数Cを用いて、前記目的ガスの分離動力Wgas(Wh/kg-gas)を以下の式(A)を用いて算出することを特徴とする目的ガスの分離動力算出方法。ここで、前記電力換算係数Cは、エネルギー(J)を電力量(Wh)に変換する係数である。
【数1】
【0019】
[5]圧力スイング吸着設備における吸着剤の劣化状況を判定する方法であって、
前記[2]または[3]に記載の吸着塔内の吸着剤の温度測定方法によって前記吸着塔本体内の前記測定点での前記吸着剤の温度変化ΔTの時間変化を求め、
所定の目的ガス回収率が達成できなくなった段階で、ガス分離開始時から前記温度変化ΔTが減少した領域の吸着剤が劣化していると判定することを特徴とする吸着剤の劣化状況の判定方法。
【0020】
[6]圧力スイング吸着設備の運転方法であって、
前記[5]に記載の吸着剤の劣化状況の判定方法によって劣化した吸着剤が充填された領域を特定する劣化吸着剤特定ステップと、
特定された前記領域に充填された吸着剤のみを交換する吸着剤交換ステップと、
を有することを特徴とする圧力スイング吸着設備の運転方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、圧力スイング吸着法により原料ガスから目的ガスを分離する際に、吸着剤の温度を、圧損を抑制して低コストで精確に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明による圧力スイング吸着設備の吸着塔の一例を示す図である。
図2】本発明による吸着塔が適用可能な圧力スイング吸着設備の一例を示す図である。
図3】吸着塔(吸着塔本体)内の高さ位置と吸着剤の圧力スイング1サイクルでの温度変化との関係の模式図である。
図4】サイクルタイムが100秒の場合について圧力スイング1サイクルにおける吸着剤の温度変化を示す図であり、(a)は測定点が5点、(b)は測定点が20点の場合に対するものである。
図5】サイクルタイムが300秒の場合について圧力スイング1サイクルにおける吸着剤の温度変化を示す図であり、(a)は測定点が5点、(b)は測定点が20点の場合に対するものである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(圧力スイング吸着設備の吸着塔)
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。図1は、本発明による圧力スイング吸着設備の吸着塔の一例を示している。図1に示した吸着塔1は、吸着塔本体11と、熱電対挿入管12と、熱電対13と、熱電対位置移動制御手段14とを具える。
【0024】
吸着塔本体11は、吸着塔1の本体を構成する筒状の部材であり、その内部には最下部からビーズB、スポンジS1が順次配置され、その上に目的ガス成分を吸着する吸着剤Aが充填されている。吸着剤Aの上には、スポンジS1、ビーズB、スポンジS1より目の粗いスポンジS2が順次充填されている。ビーズBは、吸着塔本体11の下部に接続された原料ガス供給管(図示せず)からの原料ガスが吸着塔本体11内に均一に分散させるために設けられている。原料ガスとしては、製鉄所の副生ガスを使用することができ、例えば高炉ガスを好適に使用することができる。
【0025】
熱電対挿入管12は、吸着塔本体11内のガス(原料ガス)の流通方向に対して平行に(すなわち、吸着塔本体11の側壁面(吸着塔本体11の長さ方向)に沿って)吸着塔本体11の全長にわたって設置されており、内部に熱電対13が挿入可能に構成されている。熱電対挿入管12は、PSA設備の運転時に生じる熱などに対して十分な耐性を有する材料で構成されていれば特に限定されないが、吸着塔本体11内の任意の位置での吸着剤Aの熱を熱電対13に良好に伝達できるように、熱伝導率が高い金属などの材料で構成することが好ましい。
【0026】
熱電対13は、熱電対挿入管12の内部に挿入し、熱電対位置移動制御手段14によって、熱電対挿入管12内を吸着塔本体11の長さ方向に沿って移動可能に構成されており、吸着塔本体11内の長さ方向の任意の位置で吸着剤Aの温度を測定することができる。熱電対13としては、公知の適切なものを使用することができる。
【0027】
なお、本発明において、吸着塔本体11内の所定の位置での吸着剤Aの温度は、熱電対13を上記所定の位置に配置して測定された温度を意味している。
【0028】
熱電対位置移動制御手段14は、熱電対13を熱電対挿入管12の内部で移動させることができるように構成されている。
【0029】
図2は、本発明による吸着塔が適用可能なPSA吸着設備の一例を示している。図2に示した2塔式のPSA設備では、原料ガス供給口および原料ガス排出口を具えた吸着塔1を具え、真空ポンプによって吸引減圧されるのと並行して、不純物ガス、回収ガスに分離回収される。原料ガスは、原料ガス供給口から吸着塔1内に導入され、吸着塔1内で所定の圧力に加圧されることによって、吸着剤Aに目的とするガス成分が選択的に吸着される。
【0030】
吸着剤Aに吸着した目的ガス成分を分離回収するために、真空ポンプによって吸着塔1内を減圧することによって、高純度の目的ガス成分を分離回収することができる。目的ガス成分以外のガス成分は、吸着剤Aに吸着されづらいため、脱着工程の吸引開始初期から回収される。目的ガス成分は遅れて脱着されるため、時間差で高純度の目的ガスを回収することができる。
【0031】
このように、本発明による吸着塔1においては、熱電対挿入管12が吸着塔本体11内のガスの流通方向に対して平行に吸着塔本体11の全長にわたって設置されており、熱電対13が熱電対挿入管12内で吸着塔本体11内の任意の位置に移動可能に構成されている。これにより、熱電対13による吸着剤Aの温度の測定点を任意に決定することができ、測定点の制限が設けられず、所定の位置での吸着剤Aの温度変化ΔTを測定することができる。その結果、吸着塔本体11に充填された吸着剤充填領域を細分化してより高精度なΔTの測定が可能になる。
【0032】
同時に、原料ガスを構成する各ガス種の吸着度合いに大きな差がない場合においても、精密なΔTを測定可能となることから、目的ガスの回収率を維持するためのPSA法において、運転条件を設定することが可能となる。
【0033】
さらに、特許文献2および特許文献3のように熱電対がガスの流通方向に導入されている場合に比べて、ガスの流通が阻害されるのを抑制して圧損を低減することができ、目的ガスの濃度および回収率に与える影響を低減することができる。
【0034】
(吸着塔内の吸着剤の温度測定方法)
次に、本発明による吸着塔内の吸着剤の温度を測定する方法について説明する。本発明による吸着塔内の吸着剤の温度測定方法は、上述した本発明による吸着塔1内のガスの流通方向に沿って少なくとも3点以上の測定点において圧力スイング1サイクルでの吸着剤Aの温度を測定する第1の測温ステップと、第1の測温ステップにおいて測定された吸着剤A温度について圧力スイング1サイクルでの吸着剤Aの温度変化ΔTを算出する第1の吸着剤温度変化算出ステップとを有することを特徴とする。
【0035】
上述のように、本発明によるPSA設備の吸着塔においては、熱電対挿入管12が吸着塔本体11内のガスの流通方向に対して平行に吸着塔本体11の全長にわたって設置されており、熱電対13が熱電対挿入管12内で吸着塔本体11内の任意の位置に移動可能に構成されている。そこで、まず、吸着塔本体11内のガスの流通方向に沿って少なくとも3点以上の測定点において圧力スイング1サイクルでの吸着剤Aの温度を測定する(第1の測温ステップ)。
【0036】
上記3点以上の測定点としては、原料ガス供給口に最も近い箇所、回収ガス排出口に最も近い箇所、およびそれらの中間の箇所とすることが好ましい。また、後述する実施例に示すように、測定箇所の数は多い方が、上記ΔTの値を用いた分析精度が高まるため、好ましい。
【0037】
次に、第1の測温ステップにおいて測定された吸着剤A温度について、圧力スイング1サイクルでの吸着剤Aの温度変化ΔTを算出する(第1の吸着剤温度変化算出ステップ)。こうして得られたΔTに基づいて、原料ガスから目的ガス成分を分離回収する際の動力の算出、吸着剤の劣化状況の判定などを行うことができる。
【0038】
なお、上記吸着剤の温度の測定は、2段階に分けて行ってもよい。具体的には、まず第1段階において、上述した第1の測温ステップおよび第1の吸着剤温度変化算出ステップを行う。これにより、吸着塔1(吸着塔本体11)内のΔTの傾向を把握することができる。次いで、第2段階において、第1の吸着剤温度変化算出ステップにおいて測定点毎に得られた温度変化ΔTのうち、値が最も小さい温度変化ΔTが測定された最小吸着剤温度変化点を決定する(最小吸着剤温度変化点決定ステップ)。
【0039】
続いて、最小吸着剤温度変化点決定ステップにおいて決定された最小吸着剤温度変化点と、吸着塔本体における最も原料ガス供給口側の測定点との間において、上述した第1の測温ステップおよび吸着剤温度変化算出ステップと同じステップを繰り返す。具体的には、上記最小吸着剤温度変化点と、吸着塔本体における最も原料ガス供給口側の測定点との間において、第1の複数の測定点を等間隔で設けて各測定点で吸着剤の温度を測定する(第2の測温ステップ)。そして、第2の測温ステップにおいて測定された吸着剤Aの温度について、圧力スイング1サイクルの吸着剤Aの温度変化ΔTを算出する(第2の吸着剤温度変化算出ステップ)。
【0040】
こうして、測温工程および吸着剤温度変化算出ステップを1回だけ行う場合に比べて、吸着塔1(吸着塔本体11)内におけるΔTの傾向を把握した上で、ΔTの変動がある領域に限定して吸着剤Aの温度を測定してPSA1サイクルにおけるΔTを算出することができる。その結果、ΔTを用いた目的ガス成分の分離動力の算出や、吸着剤の劣化判定をより高精度に行うことができる。
【0041】
(目的ガスの分離動力算出方法)
続いて、本発明による目的ガスの分離動力算出方法について説明する。本発明による目的ガスの分離動力算出方法は、吸着剤の比熱Cpads(J/kg・K)、吸着剤の質量Mads(kg)、目的ガスの吸着量Mgas(kg)および上述した本発明による吸着塔内の吸着剤の温度測定方法によって測定された吸着剤の温度変化ΔT(K)、電力換算係数Cを用いて、目的ガスの分離動力Wgas(Wh/kg-gas)を以下の式(A)を用いて算出することを特徴とする。ここで、上記電力換算係数Cは、エネルギー(J)を電力量(Wh)に変換する係数であり、3600(J)=1(Wh)の関係がある。
【数2】
【0042】
上記式(A)の右辺の和(シグマ)は、温度変化ΔTの数(すなわち、吸着剤Aの温度の測定点の数)について行う。また、吸着剤の質量Madsは、吸着塔内に充填された吸着剤A全体の質量を、吸着剤Aの温度の測定点の数で割った値を入力する。
【0043】
こうして、吸着塔1(吸着塔本体11)内に充填された吸着剤AのPSA1サイクルでの温度変化ΔTの値に基づいて、目的ガスの分離動力を高精度に算出することができる。
【0044】
(吸着剤の劣化状況の判定方法)
続いて、本発明による吸着剤の劣化状況の判定方法について説明する。本発明による吸着剤の劣化状況の判定方法は、圧力スイング吸着設備における吸着剤の劣化状況を判定する方法であって、上述した本発明による吸着塔内の吸着剤の温度測定方法によって吸着塔本体11内の測定点での吸着剤Aの温度変化ΔTの時間変化を求め、所定の目的ガス回収率が達成できなくなった段階で、ガス分離開始時から温度変化ΔTが減少した領域の吸着剤Aが劣化していると判定することを特徴とする。
【0045】
PSA運転を実施する上で、吸着剤Aにおける細孔の目詰まり、化学反応などによる結晶細孔の減少などによって、吸着剤Aの吸着性能の劣化が進行する。図3は、吸着塔1(吸着塔本体11)内の高さ位置hと吸着剤AのPSA1サイクルでの温度変化ΔTとの関係の模式図を示している。吸着塔1(吸着塔本体11)内の高さ位置hにおいて、吸着剤Aの温度変化ΔTの測定点のうち、A点は原料ガス供給側に最も近い測定点、B点は排出口側に最も近い測定点である。図3は、状態a→b→cの順に吸着剤Aの吸着性能が劣化していく様子を示している。
【0046】
吸着剤Aは、原料ガス供給口側に近い領域では、目的ガス成分を吸着する度合いが高いため、劣化する進行度合いも高い。一方、原料ガス排出口側に近い領域では、目的ガス成分を吸着する度合いが低いため、劣化する進行度合いも低い。
【0047】
吸着剤Aが劣化するにつれて目的ガス成分の吸着量が減少するため、原料ガス供給口側のA点での温度変化ΔTは、I→II→IIIの順で減少する。一方、B点では、原料ガス供給口側から吸着されずに通過してきた目的ガス成分が吸着剤Aに吸着されるため、I’→II’→III’の順で増加する傾向を示す。
【0048】
ここで、目的ガス成分が破過しない条件を状態aであると仮定した場合、B点におけるΔTminから温度変化上昇が確認された場合には、目的ガス成分が破過していると言うことができる。ただし、目的ガス成分が破過している場合であっても、所定の目的ガス回収率が達成できていれば問題はない。
【0049】
そこで、本発明においては、上述した本発明による吸着塔内の吸着剤の温度測定方法によって吸着塔本体11内の測定点での吸着剤Aの温度変化ΔTの時間変化を求め、所定の目的ガス回収率が達成できなくなった段階で、ガス分離開始時から温度変化ΔTが減少した領域の吸着剤Aが劣化していると判定する。
【0050】
なお、上記所定の目的ガス回収率が達成できなくなった段階は、例えば、全ての測定点での温度変化ΔTの合計値に基づいて判定することができる。
【0051】
(圧力スイング吸着設備の運転方法)
次に、本発明による圧力スイング吸着設備の運転方法について説明する。本発明による圧力スイング吸着設備の運転方法は、上述した本発明による吸着剤の劣化状況の判定方法によって劣化した吸着剤が充填された領域を特定する劣化吸着剤特定ステップと、特定された前記領域に充填された吸着剤のみを交換する吸着剤交換ステップと、を有することを特徴とする。
【0052】
上述した本発明による本発明による吸着剤の劣化状況の判定方法によって劣化した吸着剤が充填された領域を把握することができる。これにより、劣化した吸着剤のみを交換して、コストを抑制して圧力スイング吸着設備の運転を行うことができる。
【実施例0053】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は実施例に限定されない。
【0054】
図1に記載した吸着塔1(内径400mm×高さ255mm、吸着剤Aの充填高さ200mm)を有する、図2に示した2塔式のPSA実験装置を用いて、本発明の効果を実証する実験を行った。吸着剤Aとしては、市販の13Xゼオライトを使用した。吸着剤Aの充填高さに対して温度の測定点を5点、10点、20点設け、各測定点は等間隔に配置した。吸着圧50kPaG、脱着圧-95kPaG、サイクルタイムは100秒および300秒とした。また、原料ガスとしては、N濃度41%、CO濃度37%、CO濃度1%、H濃度21%の混合ガスを用い、マスフローコントローラー(MFC)で流量3.0NL/分に制御して供給した。そして、分離回収する目的ガスはCOとし、分離回収したCOの質量を用いて、式(A)からCOの分離動力を算出した。
【0055】
図4はサイクルタイム100秒、図5はサイクルタイム300秒の場合に対する測定点毎の吸着剤Aの温度変化ΔTを示している。図4および図5において、(a)は測定点が5点の場合、(b)は測定点が20点の場合に対する結果を示している。
【0056】
図4(a)と図4(b)とを比較すると、吸着剤Aの温度変化ΔTが一定値(ΔTmin)になる測定点が複数存在し、吸着剤Aが充填された領域に対してCOが吸着剤に吸着した領域が狭いことが分かる。これに対して、図5(a)と図5(b)とを比較すると、吸着剤Aの温度変化が一定値(ΔTmin)になる測定点が複数存在せず、吸着剤Aが充填された領域においてCOが広く吸着していることが分かる。算出したCOの分離動力は、サイクルタイム100秒運転時において、測定点が5点の場合と20点の場合とでは9%、10点の場合と20点の場合とでは5%の差が生じたが、サイクルタイム300秒運転時において、5点の場合と20点の場合とでは2%、10点の場合と20点の場合とでは1%の差まで縮小することが明らかとなった。従って、ΔTmin以上の吸着剤Aの温度変化を示す領域を20点設定して温度を測定することによって、測定点が5点および10点の場合に比べて、CO分離動力をより精確に算出できることが分かった。
【0057】
サイクルタイム300秒の場合に、吸着剤Aとして、新品の13Xゼオライトおよび使用済みの13Xゼオライトの2種を用意し、PSA運転を実施した。吸着剤Aの充填領域において、原料ガス供給口側から10mmの位置での温度変化ΔT、中央位置での温度変化ΔT、原料ガス排出口から100mmの位置での温度変化ΔTの3点について、温度変化を測定した後、各位置での温度変化と、目的ガスであるCOの回収率、分離動力との関連性を比較した。
【0058】
測定結果は、新品の吸着剤を使用した場合、ΔT=12℃、ΔT=11℃、ΔT=6℃、CO回収率=70%、分離動力=0.19Wh/g-COとなった。これに対して、使用済みの吸着剤を使用した場合、ΔT=9℃、ΔT=8℃、ΔT=7℃、CO回収率=60%、分離動力=0.21Wh/g-COとなった。この結果から、使用済み吸着剤使用時における原料ガス供給口から10mm位置の吸着剤の吸着性能が劣化したことが確認され、吸着剤が新品か使用済みかによって吸着剤Aの充填領域の各位置における温度変化が変動し、図3に示したような挙動を示すことが確認された。
【0059】
次いで、使用済み吸着剤を使用した実験において、吸着剤Aの充填領域のうち、中央位置から原料ガス供給口までの半分量を新品の吸着剤に交換して再度実験を行った。その結果、ΔT=12℃、ΔT=10℃、ΔT=6℃、CO回収率=70%、分離動力=0.19Wh/g-COとなり、新品の吸着剤を全量使用した場合と同等の結果となった。このように、本発明の吸着剤の劣化状況の判定方法によって吸着剤の劣化状況を把握し、劣化した吸着剤のみを選択的に交換することによって、コストを抑制してPSA設備を運転できることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、圧力スイング吸着法により原料ガスから目的ガスを分離する際に、吸着剤の温度を、圧損を抑制して低コストで精確に測定することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 吸着塔
11 吸着塔本体
12 熱電対挿入管
13 熱電対
14 熱電対位置移動制御手段
A 吸着剤
B ビーズ
S1,S2 スポンジ
図1
図2
図3
図4
図5