(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022049070
(43)【公開日】2022-03-29
(54)【発明の名称】土砂等運搬用荷台及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B62D 33/02 20060101AFI20220322BHJP
B29C 65/16 20060101ALI20220322BHJP
B23K 26/352 20140101ALI20220322BHJP
【FI】
B62D33/02 B
B29C65/16
B23K26/352
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020155105
(22)【出願日】2020-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】000135999
【氏名又は名称】株式会社ヒロテック
(71)【出願人】
【識別番号】504194878
【氏名又は名称】国立研究開発法人海洋研究開発機構
(71)【出願人】
【識別番号】000208204
【氏名又は名称】大林道路株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520359527
【氏名又は名称】大蓉ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】特許業務法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】和鹿 公則
(72)【発明者】
【氏名】川渕 達巳
(72)【発明者】
【氏名】川人 洋介
(72)【発明者】
【氏名】光谷 修平
(72)【発明者】
【氏名】山下 将弘
【テーマコード(参考)】
4E168
4F211
【Fターム(参考)】
4E168AB01
4E168DA26
4E168DA32
4E168DA43
4E168FB02
4E168JA02
4E168KA04
4F211AA17
4F211AD03
4F211AH18
4F211TA01
4F211TH24
4F211TN27
(57)【要約】
【課題】鋼板床面構造の荷台と比較しても付着残土を効率的に抑制することができ、土砂等を繰り返し運搬しても当該効果を維持することができる土砂等運搬用荷台及びその効率的な製造方法を提供する。
【解決手段】鉄鋼製荷台の内側表面にフッ素樹脂材が設けられ、鉄鋼製荷台とフッ素樹脂材が直接に接合された接合部を有し、当該接合部において鉄鋼製荷台からフッ素樹脂材を剥離させると、フッ素樹脂材が鉄鋼製荷台の表面から繊維状に伸長すること、を特徴とする土砂等運搬用荷台。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄鋼製荷台の内側表面にフッ素樹脂材が設けられ、
前記鉄鋼製荷台と前記フッ素樹脂材が直接に接合された接合部を有し、
前記接合部において前記鉄鋼製荷台から前記フッ素樹脂材を剥離させると、前記フッ素樹脂材が前記鉄鋼製荷台の表面から繊維状に伸長すること、
を特徴とする土砂等運搬用荷台。
【請求項2】
前記フッ素樹脂材の厚さが5mm以下であること、
を特徴とする請求項1に記載の土砂等運搬用荷台。
【請求項3】
前記接合部において、前記鉄鋼製荷台の表面に金属酸化物粒子からなる金属酸化物層を有すること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の土砂等運搬用荷台。
【請求項4】
前記金属酸化物粒子の粒径が50~200nmであること、
を特徴とする請求項1~3のうちのいずれかに記載の土砂等運搬用荷台。
【請求項5】
前記フッ素樹脂板が前記鉄鋼製荷台の少なくとも隅角部に設けられていること、
を特徴とする請求項1~4のうちのいずれかに記載の土砂等運搬用荷台。
【請求項6】
前記フッ素樹脂材がポリテトラフルオロエチレンであること、
を特徴とする請求項1~5のうちのいずれかに記載の土砂等運搬用荷台。
【請求項7】
酸化性雰囲気下において鉄鋼製荷台の内側表面にパルスレーザを照射し、表面改質領域を形成する第一工程と、
前記表面改質領域にフッ素樹脂材を当接させ、被接合界面を形成する第二工程と、
レーザ照射によって前記被接合界面を昇温して接合を達成する第三工程と、を有し、
前記第一工程において、前記表面改質領域に5~500nmの粒径を有する金属酸化物粒子が連続的に接合されてなる金属酸化物粒子クラスターを形成し、
前記金属酸化物粒子クラスターの表面の最大高さ(Sz)を50nm~3μmとすること、
を特徴とする土砂等運搬用荷台の製造方法。
【請求項8】
前記フッ素樹脂材の厚さを5mm以下とすること、
を特徴とする請求項7に記載の土砂等運搬用荷台の製造方法。
【請求項9】
前記金属酸化物粒子の粒径を50~200nmとすること、
を特徴とする請求項7又は8に記載の土砂等運搬用荷台の製造方法。
【請求項10】
前記表面改質領域を前記被接合界面の20%以上の面積とすること、
を特徴とする請求項7~9のうちのいずれかに記載の土砂等運搬用荷台の製造方法。
【請求項11】
前記第三工程において、前記金属酸化物粒子の触媒作用によって前記フッ素樹脂材のC-F結合を解離させ、当該解離によって生成する官能基と前記金属材に含まれる金属元素とを結合させること、
を特徴とする請求項7~10のうちのいずれかに記載の土砂等運搬用荷台の製造方法。
【請求項12】
前記パルスレーザの1パルスの照射エネルギーを0.2~1.0mjとすること、
を特徴とする請求項7~11のうちのいずれかに記載の土砂等運搬用荷台の製造方法。
【請求項13】
前記第三工程において、前記被接合界面に5MPa以上の圧力を印加すること、
を特徴とする請求項7~12のうちのいずれかに記載の土砂等運搬用荷台の製造方法。
【請求項14】
前記フッ素樹脂材をポリテトラフルオロエチレンとすること、
を特徴とする請求項7~13のうちのいずれかに記載の土砂等運搬用荷台の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は土砂等運搬用荷台及びその製造方法に関し、より具体的には、土砂等を運搬するダンプカーの荷台やパワーショベルのショベル部等及びこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土木建築業界においては大量の土砂貨物等を運搬することが必要不可欠であり、当該土砂貨物等の運搬に関しては、様々な観点からの改善要求が存在する。例えば、ダンプカーの荷台として一般的に用いられているのは鋼板であるが、鉄鋼製の荷台は高重量となる。一方で、道路を走行する際の車両の総重量は道路交通法で上限が定められており、一度により多くの砂利や土砂等を運搬するためには、車両自体を軽量化する必要がある。
【0003】
ここで、荷台をアルミニウム合金製とすれば、車両の軽量化を図ることができるが、アルミニウム合金材の耐摩耗性は鉄鋼材と比較して大幅に低く、砂利や土砂を繰り返し積載及び荷下ろしすると摩耗の進行が深刻となる。当該摩耗を考慮するとアルミニウム合金板の厚さを増加させる必要があり、重量増となることに加え、アルミニウム合金板表面における土砂等の滑り性は悪く、荷台の傾斜を急にしないと土砂貨物等を円滑に荷下ろしできないという問題があった。
【0004】
これに対し、特許文献1(特開平10-181417号公報)においては、アルミニウム又はアルミニウム合金で形成された傾斜荷台付き車両の荷台床面に、積載物の滑り性が優れ且つ耐摩耗性の優れた樹脂材料でなる板を付着させて成り、前記樹脂材料は高分子ポリエチレンから成ることを特徴とする傾斜荷台付き車両の荷台構造、が提案されている。また、当該荷台構造においては、樹脂材料にフッ素樹脂を用いることも提案されている。
【0005】
前記特許文献1に記載の荷台構造においては、鋼板床面構造のダンプトラックと同じ滑り性と耐摩耗性を維持し、荷台全体を大きく軽量化でき、長期間実用的な使用に耐え、法律によって規制された重量内で、従来のものより多くの砂利や土砂等を運搬することができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、土砂貨物等の運搬に関しては、ダンプカー等の荷台への付着残土によって積載可能量が減少し、運搬効率が悪化するという問題も存在する。また、当該運搬効率の悪化に起因して、過剰な運搬回数の増加、付着残土除去のための清掃による運搬稼働率の低下、車両消費燃料の増加等が生じており、これらの改善が切望されている。
【0008】
これに対し、上記特許文献1に記載の荷台構造においては、荷台への付着残土の抑制については全く考慮されていない。また、付着残土の問題は、アルミニウム合金製の荷台と比較すると良好な滑り性を確保できる鉄鋼製の荷台について顕在化しており、鋼板床面構造の荷台においても、付着残土による運搬効率の悪化を十分に抑制することができない。具体的には、鋼板床面構造の荷台を用いた場合であっても、平均で積載した土砂の約5%が付着残土となってしまう。これは、積載効率が95%となることを意味しており、土木建築業界における土砂運搬の総量を考慮すると、経済的損失は極めて大きい。
【0009】
更に、前記特許文献1に記載の荷台構造においては、樹脂板がアルミニウム製荷台の床面にリベットやビスで機械的に締結されている。リベットやビスの使用は荷台構造の重量を増加させるだけでなく、金属材と比較して強度が低い樹脂板に亀裂等が生じやすく、土砂等を運搬するという極めて過酷な使用環境下において、長期信頼性を担保することができない。また、締結部の隙間を完全にシールすることは困難であり、当該隙間からの土砂等の侵入により、樹脂材が破断する虞がある。また、樹脂板をリベットやビス等で金属材に機械的に締結する場合、接合部の強度及び信頼性を担保するためには樹脂材を厚くする必要がある。その結果、荷台の積載効率(容積及び重量)が悪化することに加え、材料コストや運搬コストも増加する。
【0010】
ここで、滑り性や耐久性等の観点からは樹脂材としてフッ素樹脂製の板材を用いることが好ましいが、フッ素樹脂は難接合材であり、リベットやビス等を用いることなくフッ素樹脂板を金属材に接合し、当該接合部に高い強度と長期信頼性を付与できる簡便な接合方法は存在しないのが現状である。
【0011】
以上のような従来技術における問題点に鑑み、本発明の目的は、鋼板床面構造の荷台と比較しても付着残土を効率的に抑制することができ、土砂等を繰り返し運搬しても当該効果を維持することができる土砂等運搬用荷台及びその効率的な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は上記目的を達成すべく、土砂等運搬用荷台の構造等について鋭意研究を重ねた結果、鉄鋼製荷台の内側表面にフッ素樹脂材を直接接合し、鉄鋼製荷台からフッ素樹脂材を剥離させると、フッ素樹脂材が鉄鋼製荷台の表面から繊維状に伸長する程度にまで、当該接合部の強度を増加させること等が効果的であることを見出し、本発明に到達した。
【0013】
即ち、本発明は、
鉄鋼製荷台の内側表面にフッ素樹脂材が設けられ、
前記鉄鋼製荷台と前記フッ素樹脂材が直接に接合された接合部を有し、
前記接合部において前記鉄鋼製荷台から前記フッ素樹脂材を剥離させると、前記フッ素樹脂材が前記鉄鋼製荷台の表面から繊維状に伸長すること、
を特徴とする土砂等運搬用荷台、を提供する。
【0014】
本発明の土砂等運搬用荷台においては、鉄鋼製荷台の内側表面にフッ素樹脂材がリベットやビス等を用いることなく直接接合されていることから、接合に起因する重量増加がない。加えて、フッ素樹脂材を薄くすることができ、フッ素樹脂材の接合に起因する重量増加を抑制することができる。また、鉄鋼製荷台の内側表面とフッ素樹脂材が直接接合されていることは、当該内側表面とフッ素樹脂材の表面とが完全に密着していることを意味しており、細かな土砂等であっても、鉄鋼製荷台とフッ素樹脂材との間に侵入することはない。また、本発明において、「土砂等運搬用荷台」とは、ダンプカー等の荷台に限られず、例えば、パワーショベルのショベル部やアスファルトフィニッシャのホッパ等を含むものである。
【0015】
また、鉄鋼製荷台の内側表面とフッ素樹脂材とは、鉄鋼製荷台からフッ素樹脂材を剥離させると、フッ素樹脂材が鉄鋼製荷台の表面から繊維状に伸長する程度にまで強固に接合されており、土砂等を繰り返し運搬する過酷な使用環境においても長期の信頼性を有している。ここで、本発明の土砂等運搬用荷台は、本発明の土砂等運搬用荷台の製造方法によって好適に得ることができ、鉄鋼製荷台の表面とフッ素樹脂材との強固な接合部は、例えば、レーザ照射を用いた直接接合によって形成させることができる。
【0016】
本発明の土砂等運搬用荷台においては、前記フッ素樹脂材の厚さが5mm以下であること、が好ましい。本発明の土砂等運搬用荷台においては、鉄鋼製荷台の内側表面にフッ素樹脂材がリベットやビス等を用いることなく直接接合されていることから、フッ素樹脂材を薄くすることができ、フッ素樹脂材の厚さを5mm以下とすることで、フッ素樹脂材に起因する土砂等運搬用荷台の内容積の低減及び重量増加を抑制することができる。フッ素樹脂材の厚さは0.5~1.5mmとすることがより好ましく、0.8~1.0mmとすることが最も好ましい。
【0017】
本発明の土砂等運搬用荷台においては、前記接合部において、前記鉄鋼製荷台の表面に金属酸化物粒子からなる金属酸化物層を有すること、が好ましい。当該金属酸化物層は金属酸化物粒子のクラスターからなり、そのような構成を有する金属酸化物層によって鉄鋼製荷台の表面とフッ素樹脂材との接合強度を飛躍的に向上させることができる。より具体的には、フッ素樹脂材のC-F結合の解離が金属酸化物粒子クラスターによって促進され、効率的に強固な接合部を得ることができる。
【0018】
ここで、金属酸化物層の表面の最大高さ(Sz)は50nm~3μmであることが好ましい。金属材側の被接合界面となる金属酸化物粒子クラスターの表面の最大高さ(Sz)を50nm~3μmとすることで、金属酸化物粒子クラスターとフッ素樹脂材との密着性を担保することができる。
【0019】
また、本発明の土砂等運搬用荷台においては、前記金属酸化物粒子の粒径が50~200nmであること、が好ましい。金属酸化物粒子の粒径を50nm以上とすることで、金属酸化物粒子クラスターの表面の最大高さ(Sz)を50nm以上とすることが容易になる。また、金属酸化物粒子の粒径を200nm以下とすることで、金属酸化物粒子クラスターの表面の最大高さ(Sz)を3μm以下とすることが容易になる。加えて、金属酸化物粒子の粒径を50~200nmとすることで、当該金属酸化物粒子の表面においてフッ素樹脂材が加熱された際に、当該フッ素樹脂材のC-F結合の解離を促進することができる。C-F結合の解離が促進される理由については必ずしも明らかにはなっていないが、適当な曲率(エネルギー状態)を有する金属酸化物粒子が所謂触媒作用を発現するものと考えられる。
【0020】
また、本発明の土砂等運搬用荷台においては、前記フッ素樹脂板が前記鉄鋼製荷台の少なくとも隅角部に設けられていること、が好ましい。土砂等を運搬することによる付着残土は荷台の隅角部に顕著に形成されることから、当該領域にフッ素樹脂板を設けることによって、極めて効果的に付着残土を低減することができる。リベットやビスを用いて機械的に締結する場合、隅角部への接合は平面部への接合と比較すると困難であることに加え、鉄鋼製荷台の表面とフッ素樹脂材との間に隙間が生じやすい。これに対し、本発明の土砂等運搬用荷台においてはフッ素樹脂材が鉄鋼製荷台の内側表面に直接接合されていることから、隅角部であっても平面部と同等の接合部を形成することができる。
【0021】
更に、本発明の土砂等運搬用荷台においては、前記フッ素樹脂材がポリテトラフルオロエチレンであること、が好ましい。ポリテトラフルオロエチレンはフッ素樹脂材のなかでも反応性に乏しく、付着残土をより効率的に抑制することができる。ここで、ポリテトラフルオロエチレンは超難接合材であるが、レーザを用いた直接接合法を用いることで、良好な接合部を形成することができる。
【0022】
また、本発明は、
酸化性雰囲気下において鉄鋼製荷台の内側表面にパルスレーザを照射し、表面改質領域を形成する第一工程と、
前記表面改質領域にフッ素樹脂材を当接させ、被接合界面を形成する第二工程と、
レーザ照射によって前記被接合界面を昇温して接合を達成する第三工程と、を有し、
前記第一工程において、前記表面改質領域に5~500nmの粒径を有する金属酸化物粒子が連続的に接合されてなる金属酸化物粒子クラスターを形成し、
前記金属酸化物粒子クラスターの表面の最大高さ(Sz)を50nm~3μmとすること、
を特徴とする土砂等運搬用荷台の製造方法、も提供する。
【0023】
本発明の土砂等運搬用荷台の製造方法においては、第三工程におけるフッ素樹脂材のC-F結合の解離が金属酸化物粒子クラスターによって促進され、効率的に強固な接合部を得ることができる。加えて、金属材側の被接合界面となる金属酸化物粒子クラスターの表面の最大高さ(Sz)を50nm~3μmとすることで、金属酸化物粒子クラスターとフッ素樹脂材との密着性を担保することができる。
【0024】
多くのフッ素樹脂は溶融流動性を有しておらず、被接合界面に空隙がある場合、当該空隙が微小な場合でも密着性に及ぼす影響は大きい。一方で、空隙にフッ素樹脂が隙間なく充填される場合は、当該空隙の存在は接合強度の向上に寄与する。本発明の金属フッ素樹脂直接接合方法においては、金属酸化物粒子クラスターの表面の最大高さ(Sz)を50nm以上とすることで、フッ素樹脂の充填によって接合部の強度を向上させることができ、3μm以下とすることで、フッ素樹脂が充填されずに空隙のまま残存することを抑制できる。
【0025】
また、本発明の土砂等運搬用荷台の製造方法においては、第一工程において、酸化性雰囲気下において鉄鋼材の表面にパルスレーザを照射して表面改質領域を形成させることから、表面改質領域の形成に湿式工程を用いる必要が無く、大量かつ効率的に均質な表面改質領域を形成させることができる。加えて、第一工程で使用するレーザ設備を第三工程で使用してもよく、作業効率の向上及び設備導入コストの低減を図ることができる。
【0026】
第一工程及び第三工程で用いるレーザは、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に制限されず、従来公知の種々のレーザを用いることができ、例えば、鉄鋼材を効率的に加熱できる半導体レーザを好適に用いることができる。
【0027】
また、本発明の土砂等運搬用荷台の製造方法においては、前記フッ素樹脂材の厚さを5mm以下とすること、が好ましい。本発明の土砂等運搬用荷台の製造方法においては、レーザ照射を用いて鉄鋼製荷台の内側表面にフッ素樹脂材を直接接合することから、フッ素樹脂材を薄くすることができ、フッ素樹脂材の厚さを5mm以下とすることで、フッ素樹脂材に起因する土砂等運搬用荷台の内容積の低減及び重量増加を抑制することができる。フッ素樹脂材の厚さは0.5~1.5mmとすることがより好ましく、0.8~1.0mmとすることが最も好ましい。
【0028】
また、本発明の土砂等運搬用荷台の製造方法においては、前記金属酸化物粒子の粒径を50~200nmとすること、が好ましい。金属酸化物粒子の粒径を50nm以上とすることで、金属酸化物粒子クラスターの表面の最大高さ(Sz)を50nm以上とすることが容易になる。また、金属酸化物粒子の粒径を200nm以下とすることで、金属酸化物粒子クラスターの表面の最大高さ(Sz)を3μm以下とすることが容易になる。加えて、金属酸化物粒子の粒径を50~200nmとすることで、当該金属酸化物粒子の表面においてフッ素樹脂材が加熱された際に、当該フッ素樹脂材のC-F結合の解離を促進することができる。C-F結合の解離が促進される理由については必ずしも明らかにはなっていないが、適当な曲率(エネルギー状態)を有する金属酸化物粒子が所謂触媒作用を発現するものと考えられる。
【0029】
また、本発明の土砂等運搬用荷台の製造方法においては、前記第三工程において、前記金属酸化物粒子の触媒作用によって前記フッ素樹脂材のC-F結合を解離させ、当該解離によって生成するカルボキシル基等の官能基と前記鉄鋼材に含まれる金属元素とを結合させること、が好ましい。フッ素樹脂材のC-F結合は強固であり、解離させることは極めて困難であるが、金属酸化物粒子の触媒作用を活用することで、効率的にC-F結合を解離させることができる。また、金属酸化物粒子の近傍でC-F結合が解離することで、カルボキシル基等と金属酸化物粒子に含まれる金属元素とを結合させることができる。なお、本発明においては、フッ素樹脂材由来のカルボキシル基等の官能基と鉄鋼材に含まれる金属元素とが結合することで接合が達成されるが、「鉄鋼材に含まれる金属元素」とは、表面改質領域においては金属酸化物粒子に含まれる鉄鋼材由来の金属元素を意味する。
【0030】
本発明の土砂等運搬用荷台の製造方法においては、前記表面改質領域を前記被接合界面の20%以上の面積とすること、が好ましい。表面改質領域を被接合界面の20%以上の面積とすることで、接合部全体として高い継手強度と信頼性を担保することができる。
【0031】
また、本発明の土砂等運搬用荷台の製造方法においては、第一工程で用いる前記パルスレーザの1パルスの照射エネルギーを0.2~1.0mjとすること、が好ましい。パルスレーザの1パルスの照射エネルギーを0.2~1.0mjとすることで、照射領域に5~500nmの粒径を有する金属酸化物粒子が連続的に接合されてなる金属酸化物粒子クラスターを形成すると共に、当該金属酸化物粒子クラスターの表面の最大高さ(Sz)を50nm~3μmとすることができる。
【0032】
また、本発明の土砂等運搬用荷台の製造方法においては、前記第三工程において、前記被接合界面に5MPa以上の圧力を印加すること、が好ましい。第三工程において被接合界面に5MPa以上の圧力を印加することで、フッ素樹脂材と鉄鋼材(金属酸化物粒子クラスター)を密着させることができ、強固な接合部を得ることができる。加えて、昇温に伴って接合部に気泡等が形成される場合であっても、当該気泡を系外に排出させることができる。
【0033】
また、本発明の土砂等運搬用荷台の製造方法においては、前記第三工程において、前記フッ素樹脂材が透明な場合は前記フッ素樹脂材側から前記レーザを照射し、前記フッ素樹脂材が不透明な場合は前記鉄鋼材側から前記レーザを照射すること、が好ましい。フッ素樹脂材が透明な場合はフッ素樹脂材側からレーザを照射し、フッ素樹脂材が不透明な場合は鉄鋼材側からレーザを照射することで、被接合界面の温度を効率的に上昇させることができる。また、鉄鋼材側からレーザ照射することにより、フッ素樹脂材の種類に依らず被接合材として用いることができる。更に、鉄鋼材側から加熱することにより、フッ素樹脂材側に空間を設けることができ、必要に応じて当該フッ素樹脂材表面から加圧することができる。
【0034】
第三工程で使用するレーザには、例えば、矩形ビームを形成した半導体レーザを用いることができる。ここで、フッ素樹脂、特にPTFEは加熱流動性を持たないため、被接合界面に数μm程度のごく僅かの隙間が存在する場合であって良好な密着界面を形成することができず、金属材との接合を達成することができない。従って、加熱されたフッ素樹脂と金属表面とを密着させるために、第三工程においては、レーザ照射により接合界面を最適な温度に昇温した後、直ちにフッ素樹脂と金属表面の密着を促す圧力を印加することが好ましい。
【発明の効果】
【0035】
本発明の土砂等運搬用荷台及びその製造方法によれば、鋼板床面構造の荷台と比較しても付着残土を効率的に抑制することができ、土砂等を繰り返し運搬しても当該効果を維持することができる土砂等運搬用荷台及びその効率的な製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】本発明の土砂等運搬用荷台の一例を示す模式図である。
【
図2】本発明の土砂等運搬用荷台の製造方法の工程図である。
【
図3】ステンレス鋼材表面に形成された表面改質領域のSEM観察画像である。
【
図4】表面改質領域の断面のTEM観察画像である。
【
図5】実施例で得られた金属フッ素樹脂接合体の外観写真である。
【
図6】せん断引張試験後の金属フッ素樹脂接合体の外観写真である。
【
図7】金属フッ素樹脂接合体の剥離領域のSTEM-EDS分析結果である。
【
図8】実施例2におけるフッ素樹脂材を取り付けたダンプカー荷台の外観写真である。
【
図9】実施例2における最大傾斜時のダンプカー荷台の状況である。
【
図10】実施例2における最大傾斜時のダンプカー荷台の隅角部の状況である。
【
図11】比較例における最大傾斜時のダンプカー荷台の状況である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、図面を参照しながら本発明の土砂等運搬用荷台及びその製造方法の代表的な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。なお、以下の説明では、同一または相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する場合がある。また、図面は、本発明を概念的に説明するためのものであるから、表された各構成要素の寸法やそれらの比は実際のものとは異なる場合もある。
【0038】
(1)土砂等運搬用荷台
図1は本発明の土砂等運搬用荷台の一例を示す概略図である。
図1に示す土砂等運搬用荷台2は、ダンプカーの荷台であり、鉄鋼製荷台4の内側の表面にフッ素樹脂材6が直接接合されている。土砂等運搬用荷台2においては、鉄鋼製荷台4の内側表面にフッ素樹脂材6がリベットやビス等を用いることなく直接接合されていることから、接合に起因する重量増加がない。ここで、鉄鋼製荷台4の内側表面の全域をフッ素樹脂材6で被覆してもよいが、少なくとも、鉄鋼製荷台4の内側の隅角部をフッ素樹脂材6で被覆することが好ましい。
【0039】
フッ素樹脂材6の厚さは、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されないが、5mm以下とすることが好ましく、0.5~1.5mmとすることがより好ましく、0.8~1.0mmとすることが最も好ましい。フッ素樹脂材6の厚さを0.5mm以上とすることで、長期間耐用におけるフッ素樹脂材の摩耗及び摩擦による滑り抵抗性の低下を抑制することができ、5mm以下とすることで、容積低下及び重量増による積載効率の低下を抑制することができる。
【0040】
また、鉄鋼製荷台4の内側の表面とフッ素樹脂材6とは全面に接合部が形成されている必要はなく、使用態様においてフッ素樹脂材6が剥離せず、長期の信頼性を確保できるように接合部を形成させればよい。また、フッ素樹脂材6の外縁部に接合部を形成させることで、土砂等が鉄鋼製荷台4とフッ素樹脂材6の間に侵入することを防止することができる。
【0041】
また、フッ素樹脂材6を鉄鋼製荷台4から強制的に剥離させると、フッ素樹脂材6に起因するフッ素樹脂が鉄鋼製荷台4の表面から繊維状に伸長する。これは、難接合材であるフッ素樹脂材6が鉄鋼製荷台4の表面に化学的に強固に接合されていることを意味しており、機械的締結とは全く状態が異なる。
【0042】
鉄鋼製荷台4の表面から繊維状に伸長したフッ素樹脂材6を確認する方法は特に限定されず、従来公知の種々の方法で観察すればよい。例えば、フッ素樹脂材6を剥離した鉄鋼製荷台4の表面を適当な顕微鏡等で観察すればよく、荷台の状態で観察する場合は持ち運び可能な顕微鏡を用いることができ、より詳細に観察したい場合は鉄鋼製荷台4の該当箇所を適当に切断し、走査電子顕微鏡を用いて高倍率で観察すればよい。
【0043】
また、接合界面においてはフッ素樹脂材6のC-F結合がC-O-O、C-O及びC=O等の結合に変化している。その結果、例えば、鉄鋼製荷台4の表面から繊維状に伸長したフッ素樹脂材4を元素分析すると、CやOと比較してFの検出量は極めて小さくなる。
【0044】
また、土砂等運搬用荷台2の接合部において、鉄鋼製荷台4の表面に金属酸化物粒子からなる金属酸化物層を有することが好ましい。当該金属酸化物層は金属酸化物粒子のクラスターからなり、そのような構成を有する金属酸化物層によって鉄鋼製荷台4の表面とフッ素樹脂材6との接合強度を飛躍的に向上させることができる。より具体的には、フッ素樹脂材6のC-F結合の解離が金属酸化物粒子クラスターによって促進され、効率的に強固な接合部を得ることができる。
【0045】
金属酸化物層の表面の最大高さ(Sz)は50nm~3μmであることが好ましい。鉄鋼製荷台4側の被接合界面となる金属酸化物粒子クラスターの表面の最大高さ(Sz)を50nm~3μmとすることで、金属酸化物粒子クラスターとフッ素樹脂材6との密着性を担保することができる。
【0046】
また、金属酸化物粒子の粒径は50~200nmであることが好ましい。金属酸化物粒子の粒径を50nm以上とすることで、金属酸化物粒子クラスターの表面の最大高さ(Sz)を50nm以上とすることが容易になる。また、金属酸化物粒子の粒径を200nm以下とすることで、金属酸化物粒子クラスターの表面の最大高さ(Sz)を3μm以下とすることが容易になる。加えて、金属酸化物粒子の粒径を50~200nmとすることで、当該金属酸化物粒子の表面においてフッ素樹脂材6が加熱された際に、フッ素樹脂材6のC-F結合の解離を促進することができる。C-F結合の解離が促進される理由については必ずしも明らかにはなっていないが、適当な曲率(エネルギー状態)を有する金属酸化物粒子が所謂触媒作用を発現するものと考えられる。
【0047】
また、土砂等運搬用荷台2においては、フッ素樹脂材6がポリテトラフルオロエチレン(PTFE、融点:327℃)であること、が好ましい。ポリテトラフルオロエチレンはフッ素樹脂材のなかでも反応性に乏しく、付着残土をより効率的に抑制することができる。ここで、ポリテトラフルオロエチレンは超難接合材であるが、レーザを用いた直接接合法を用いることで、良好な接合部を形成することができる。その他、フッ素樹脂材としては、例えば、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE、融点:220℃)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF、融点:151~178℃)、ポリビニルフルオライド(PVF、融点203℃)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP、融点:250~275℃)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA、融点:302~310℃)、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE、融点:218~270℃)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロジオキソール共重合体(TFE/PDD)、クロロトリフルオロエチレン-エチレン共重合体(ECTFE、融点:245℃)などを挙げることができる。
【0048】
(2)土砂等運搬用荷台の製造方法
本発明の土砂等運搬用荷台の製造方法は鉄鋼製荷台の内側表面にフッ素樹脂材を直接接合することを最大の特徴とするものである。よって、鉄鋼製荷台の製造方法やフッ素樹脂材の加工方法等については、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の加工方法や製造方法等によって得られるものを使用することができる。
【0049】
図2は、本発明の土砂等運搬用荷台の製造方法の工程図である。本発明の土砂等運搬用荷台の製造方法は、酸化性雰囲気下において鉄鋼製荷台の内側表面にパルスレーザを照射し、表面改質領域を形成する第一工程(S01)と、表面改質領域にフッ素樹脂材を当接させ、被接合界面を形成する第二工程(S02)と、レーザ照射によって被接合界面を昇温して接合を達成する第三工程(S03)と、を有している。以下、各工程について詳述する。
【0050】
(1-1)第一工程(S01:表面改質領域形成工程)
第一工程(S01)は、強固な接合界面の形成に寄与する表面改質領域を得るための工程である。表面改質領域には、5~500nmの粒径を有する金属酸化物粒子が連続的に接合されてなる金属酸化物粒子クラスターであって、最大高さ(Sz)が50nm~3μmの金属酸化物粒子クラスターを形成する。
【0051】
金属材側の被接合界面となる金属酸化物粒子クラスターの表面の最大高さ(Sz)を50nm~3μmとすることで、第三工程(S03)における金属酸化物粒子クラスターとフッ素樹脂材との密着性を担保することができる。金属酸化物粒子クラスターの表面の最大高さ(Sz)を50nm以上とすることで、フッ素樹脂の充填によって接合部の強度を向上させることができ、3μm以下とすることで、フッ素樹脂が充填されずに空隙のまま残存することを抑制できる。より好ましい金属酸化物粒子クラスターの表面の最大高さ(Sz)は100nm~2μmであり、最も好ましい最大高さ(Sz)は200nm~1μmである。
【0052】
また、金属酸化物粒子の粒径を50~200nmとすることが好ましい。金属酸化物粒子の粒径を50nm以上とすることで、金属酸化物粒子クラスターの表面の最大高さ(Sz)を50nm以上とすることが容易になる。また、金属酸化物粒子の粒径を200nm以下とすることで、金属酸化物粒子クラスターの表面の最大高さ(Sz)を3μm以下とすることが容易になる。加えて、金属酸化物粒子の粒径を50~200nmとすることで、当該金属酸化物粒子の表面においてフッ素樹脂材が加熱された際に、当該フッ素樹脂材のC-F結合の解離を促進することができる。
【0053】
第一工程(S01)において、具体的には、酸化性雰囲気下において鉄鋼製荷台の内側の表面にパルスレーザを照射する。第一工程で用いるレーザは、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に制限されず、従来公知の種々のレーザを用いることができ、例えば、鉄鋼材を効率的に加熱できる半導体レーザを好適に用いることができる。
【0054】
パルスレーザの1パルスの照射エネルギーは0.2~1.0mjとすることが好ましい。パルスレーザの1パルスの照射エネルギーを0.2~1.0mjとすることで、照射領域に5~500nmの粒径を有する金属酸化物粒子が連続的に接合されてなる金属酸化物粒子クラスターを形成すると共に、当該金属酸化物粒子クラスターの表面の最大高さ(Sz)を50nm~3μmとすることができる。
【0055】
また、酸化性雰囲気の種類は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、パルスレーザの照射によって鉄鋼材の表面に金属酸化物粒子クラスターが形成される雰囲気とすればよく、例えば、大気中で処理を施せばよい。
【0056】
また、表面改質領域は鉄鋼材の被接合界面に形成させればよいが、当該表面改質領域を被接合界面の20%以上の面積とすることが好ましい。表面改質領域を被接合界面の20%以上の面積とすることで、接合部全体として高い継手強度と信頼性を担保することができる。また、表面改質領域は面状に形成してもよく、例えば、線状等として適当なパターンを描いてもよい。
【0057】
(1-2)第二工程(S02:被接合界面形成工程)
第二工程(S02)は、第一工程(S01)で表面改質領域を形成させた鉄鋼材(鉄鋼製荷台の内側の表面)とフッ素樹脂材とを当接させて、被接合界面を形成させるための工程である。
【0058】
また、鉄鋼材とフッ素樹脂材とを重ね継手の状態とする場合、どちらか一方又は両方の被接合材の表面に耐熱性ガラス板等を当接させて全面拘束することで、被接合材同士をより密着させることができ、レーザ照射時の被接合界面のずれ等を抑制することができる。なお、耐熱性ガラスはレーザの透過性に優れたものを用いることが好ましい。また、耐熱ガラスを用いなくとも、鋼製のローラーを用いて両部材を密着せしめる加圧を付与することで、レーザ照射による加熱を行った後、直ちに部材密着を実現することができる。加熱後の密着を実現した後は、適切な時間内に接合界面の温度をフッ素樹脂の融点以下に冷却することが望ましい。
【0059】
被接合材として用いるフッ素樹脂は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知のフッ素樹脂を用いることができる。当該フッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、融点:327℃)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE、融点:220℃)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF、融点:151~178℃)、ポリビニルフルオライド(PVF、融点203℃)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP、融点:250~275℃)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA、融点:302~310℃)、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE、融点:218~270℃)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロジオキソール共重合体(TFE/PDD)、クロロトリフルオロエチレン-エチレン共重合体(ECTFE、融点:245℃)などを挙げることができるが、本発明のフッ素樹脂の接合方法では接着剤を用いることなく高温強度に優れた接合部を得ることができることから、融点の高いポリテトラフルオロエチレン(PTFE、融点:327℃)を用いることが好ましい。ポリテトラフルオロエチレンを用いることで、極めて効率的に鉄鋼製荷台の残土を低減することができる。
【0060】
フッ素樹脂材の厚さは、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されないが、5mm以下とすることが好ましく、0.5~1.5mmとすることがより好ましく、0.8~1.0mmとすることが最も好ましい。フッ素樹脂材6の厚さを0.5mm以上とすることで、長期間耐用におけるフッ素樹脂材の摩耗及び摩擦による滑り抵抗性の低下を抑制することができ、5mm以下とすることで、容積低下及び重量増による積載効率の低下を抑制することができる。
【0061】
被接合材となる鉄鋼製荷台の材質は、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の鉄鋼材を用いることができ、例えば、ステンレス鋼、炭素鋼や工具鋼等を用いることができる。耐食性等の観点からはステンレス鋼を用いることが好ましく、耐摩耗性の観点からは工具鋼を用いることが好ましい。
【0062】
(1-3)第三工程(S03:昇温工程)
第三工程(S03)は、レーザ照射によって第二工程(S02)で形成させた被接合界面を昇温し、接合を達成する工程である。
【0063】
第三工程(S03)においては、フッ素樹脂材が透明な場合はフッ素樹脂材側からレーザを照射し、フッ素樹脂材が不透明な場合は鉄鋼材側からレーザを照射することが好ましい。フッ素樹脂材が透明な場合はフッ素樹脂材側からレーザを照射し、フッ素樹脂材が不透明な場合は鉄鋼材側からレーザを照射することで、被接合界面の温度を効率的に上昇させることができる。また、鉄鋼材側からレーザ照射することにより、フッ素樹脂材の種類に依らず被接合材として用いることができる。更に、鉄鋼材側から加熱することにより、フッ素樹脂材側に空間を設けることができ、必要に応じて当該フッ素樹脂材表面から加圧することができる。
【0064】
第三工程(S03)においては、被接合界面に5MPa以上の圧力を印加することが好ましい。被接合界面に5MPa以上の圧力を印加することで、フッ素樹脂材と鉄鋼材(鉄鋼材の表面に形成させた金属酸化物粒子クラスター)を密着させることができ、強固な接合部を得ることができる。加えて、昇温に伴って接合部に気泡等が形成される場合であっても、当該気泡を系外に排出させることができる。
【0065】
金属酸化物粒子クラスターを介してフッ素樹脂材と鉄鋼材とが直接接合された接合部は十分に高い強度を有しているが、加圧工程を加えることで、品質のばらつきを小さくすることができる。当該加圧により、例えば、軟化したフッ素樹脂材が鉄鋼材の熱影響部の範囲を超えて広がることから、鉄鋼材とフッ素樹脂材との接合界面を拡大することができる。
【0066】
被接合界面を加圧する場合、第二工程(S02)において、どちらか一方又は両方の被接合材の表面に耐熱性ガラス板等を当接させて全面拘束することで、より容易に被接合界面を押圧することができる。
【0067】
なお、レーザ出力、走査速度及び焦点距離等のレーザ照射に関するプロセスパラメータについては、被接合材の種類、大きさ、被接合界面の面積及び継手に要求される機械的性質等に応じて適当に選択すればよい。
【0068】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であり、それら設計変更は全て本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0069】
≪実施例1≫
[鋼材へのフッ素樹脂材の直接接合]
本発明の土砂等運搬用荷台の製造方法を用いて、フッ素樹脂材とステンレス鋼材(鉄鋼製荷台の内側表面)との直接接合を行った。フッ素樹脂材はポリテトラフルオロエチレン(PTFE)とし、ニチアス株式会社製のナフロンTOMBO No.9000(板厚1mm)を25mm×50mmに切断して一方の被接合材とした。また、鉄鋼材はSUS304ステンレス鋼(板厚0.5mm)とし、本実施例においては25mm×100mmに切断して鉄鋼製荷台の内側表面に対応する他方の被接合材とした。
【0070】
ステンレス鋼材の被接合界面となる領域に対して大気中にてレーザ照射を施し、表面改質領域を形成させた(第一工程)。レーザにはIPG社製のYLPパルスレーザを用い、レーザの照射条件は平均出力:50W(1パルスのエネルギー:1mj)、フォーカス径:59μm、走査速度:15000588.5μm/sとした。また、レーザ照射のピッチ及びオフセットを共に60μmとし、被接合界面の全域に表面改質領域を形成させた。
【0071】
ステンレス鋼材表面に形成された表面改質領域のSEM写真(低倍及び高倍)を
図3に示す。SEM観察には、日本電子株式会社製のJSM-7100Fを用いた。高倍のSEM写真によって、表面改質領域には5~100nm程度の粒径を有する粒子が連続的に接合されてなるクラスターが形成していることが分かる。また、当該クラスターについてSEMに付随するエネルギー分散形X線分析装置(JED-2300 Analysis Station Plus)を用いてSEM-EDS分析を行ったところ、主としてOとFe等の金属元素が検出された。具体的には、クラスターに対する点分析結果は、Fe:28.0at%,O:26.2at%,Cr:21.9at%,C:17.2at%,Ni:4.8at%,Mn:1.5at%,Si:0.4at%となった。これらの結果は、表面改質領域に微細な金属酸化物粒子が連続的に接合されてなるクラスターが形成していることを示している。
【0072】
表面改質領域の断面について、TEM観察を行った。TEM観察には日本電子株式会社製のJEM-ARM200Fを用いた。得られたTEM観察画像を
図4に示す。金属酸化物粒子からなるクラスターの表面は比較的平滑な状態になっており、最大高さ(Sz)は50nm~3μmとなっていることが分かる。
【0073】
第一工程の後、表面改質領域にPTFE板を重ね合わせ(第二工程)、ステンレス鋼板側からレーザを照射して金属フッ素樹脂接合体を得た(第三工程)。第三工程ではLaserline社製の4kw半導体レーザを用い、光学系にズームホモジナイザーを用いて3mm×40mmのラインレーザとし、出力200w、走査速度0.5mm/sで25mm走査させた。また、第三工程において、被接合界面には約5MPaの圧力を印加した。金属フッ素樹脂接合体の接合部は、板幅25mmに対して15mmの接合長となっており、25mm×15mmの接合領域が形成されている。得られた金属フッ素樹脂接合体の外観写真を
図5に示す。
【0074】
同様の方法で5本の金属フッ素樹脂接合体を作製し、得られた接合体のせん断引張強度を測定した。せん断引張試験の前に金属フッ素樹脂接合体を-30℃にて10分間保持し、引張速度は10mm/分とした。得られたせん断引張特性を表1に示す。また、せん断引張試験後の金属フッ素樹脂接合体の外観写真を
図6に示す。
【0075】
【0076】
全ての金属フッ素樹脂接合体でPTFE板が伸長し、荷重は500N以上の高い値を示した。せん断引張試験においてPTFE板が破断しており、素材強度を上回る接合強度が得られていることが分かる。
【0077】
また、金属フッ素樹脂接合体について、ステンレス鋼板とPTFE板を強制的に剥離させ、完全分離する直前の試料をSTEM-EDS分析した。得られたSTEM-EDS分析結果を
図7に示す。PTFEは金属酸化物粒子クラスターに接合したまま繊維状に伸長し、接合界面に空隙が生じている。また、EDS分析において、C及びOは明瞭に検出されるが、Fは殆ど検出されなかった。当該結果は、PTFEのC-F結合がC-O-O、C-O及びC=O等の結合に変化していることを示唆している。
【0078】
≪実施例2≫
[土砂運搬用荷台の性能評価]
実施例1に記載の接合方法を用い、鋼製ダンプカー荷台の内側の隅角部にフッ素樹脂材(PTFE)を直接接合した。フッ素樹脂材を取り付けたダンプカー荷台の外観写真を
図8に示す。
【0079】
次に、ダンプカー荷台への土砂の付着状況を評価するために、当該ダンプカー荷台にシルト質粘性土を充填した後、ダンプカー荷台を最大限に傾斜させた。傾斜時のダンプカー荷台の状況を
図9に、ダンプカー荷台の隅角部の状況を
図10に、それぞれ示す。
図9及び
図10から、フッ素樹脂材によりシルト質粘性土の付着が極めて効果的に抑制されていることが分かる。
【0080】
≪比較例≫
鋼製ダンプカー荷台の内側の隅角部にフッ素樹脂材を接合しなかったこと以外は実施例2と同様にして、ダンプカー荷台への土砂の付着を評価した。
【0081】
ダンプカー荷台を最大限に傾斜させた際の状況を
図11に示す。大量のシルト質粘性土が荷台隅角部に残土として付着していることが分かる。