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特開2022-49104硬化性組成物、硬化物の製造方法、及び硬化性組成物ワニスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022049104
(43)【公開日】2022-03-29
(54)【発明の名称】硬化性組成物、硬化物の製造方法、及び硬化性組成物ワニスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/12 20060101AFI20220322BHJP
【FI】
C08G73/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020155142
(22)【出願日】2020-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】390034348
【氏名又は名称】ケイ・アイ化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100151183
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】南澤 将光
(72)【発明者】
【氏名】金山 薫
【テーマコード(参考)】
4J043
【Fターム(参考)】
4J043PA15
4J043PB03
4J043QC07
4J043RA08
4J043RA34
4J043SA06
4J043SB01
4J043TA11
4J043TA31
4J043TB01
4J043UA131
4J043UB011
4J043UB022
4J043VA021
4J043VA041
4J043XA03
4J043YA06
4J043ZA12
4J043ZB50
(57)【要約】      (修正有)
【課題】溶解性の面でのハンドリングが良好で、より柔軟で脆さを克服可能なビスマレイミド硬化物を与える硬化性組成物を提供すること。
【解決手段】下記一般式(1)で表す化合物、及び下記一般式(2)で表す化合物の両方を含む硬化性組成物。

(一般式(1)中、Rは炭素数1~6のアルキル基であり、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~6のアルキル基であるか、あるいはR及びRとが互いに連結して炭素数4~10の環構造を形成する。一般式(2)中、Xは、1~6個のフェニレン基を備えた2価の有機基である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表す化合物、及び下記一般式(2)で表す化合物の両方を含む硬化性組成物。
【化1】
(上記一般式(1)中、Rは炭素数1~6のアルキル基であり、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~6のアルキル基であるか、あるいはR及びRとが互いに連結して炭素数4~10の環構造を形成する。上記一般式(2)中、Xは、1~6個のフェニレン基を備えた2価の有機基である。)
【請求項2】
前記一般式(2)で表す化合物が、下記一般式(2a)で表す化合物である請求項1記載の硬化性組成物。
【化2】
(上記一般式(2a)中、各X1aは、それぞれ独立に、炭素数1~5の分枝を有してもよいアルキレン基、単結合、酸素原子、硫黄原子又はカルボニル基であり、各Rは、それぞれ独立に、炭素数1~6のアルキル基であり、pは、0~5の整数であり、各qは、それぞれ独立に0~4の整数である。)
【請求項3】
下記一般式(1)で表す化合物、及び下記一般式(2)で表す化合物の両方を含むワニスを成型体とする成形工程と、前記成型体を加熱し硬化させる熱処理工程と、を含むことを特徴とする硬化物の製造方法。
【化3】
(上記一般式(1)中、Rは炭素数1~6のアルキル基であり、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~6のアルキル基であるか、あるいはR及びRとが互いに連結して炭素数4~10の環構造を形成する。上記一般式(2)中、Xは、1~6個のフェニレン基を備えた2価の有機基である。)
【請求項4】
下記一般式(1z)で表す化合物をアルコール中で加熱し、この化合物のエステル化物を含むアルコール溶液を調製するエステル化工程と、
前記アルコール溶液に下記一般式(2)で表す化合物を加えてこれを溶解させる溶解工程と、
前記溶解工程を経た溶液を加熱してワニスとする加熱工程と、を備えた硬化性組成物ワニスの製造方法。
【化4】
(上記一般式(1z)中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~6のアルキル基であるか、あるいはR及びRとが互いに連結して炭素数4~10の環構造を形成する。上記一般式(2)中、Xは、1~6個のフェニレン基を備えた2価の有機基である。)
【請求項5】
下記一般式(1)で表す化合物及び下記一般式(2)で表す化合物に対して溶媒を加えてこれらを溶解させる溶解工程と、
前記混合工程を経た溶液を加熱してワニスとする加熱工程と、を備えた硬化性組成物ワニスの製造方法。
【化5】
(上記一般式(1)中、Rは炭素数1~6のアルキル基であり、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~6のアルキル基であるか、あるいはR及びRとが互いに連結して炭素数4~10の環構造を形成する。上記一般式(2)中、Xは、1~6個のフェニレン基を備えた2価の有機基である。)
【請求項6】
複数の下記一般式(5)で表す化合物がその両端に存在するマレイミド基を介して互いに架橋されてなるものを含むことを特徴とする硬化物。
【化6】
(上記一般式(5)中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~6のアルキル基であるか、あるいはR及びRとが互いに連結して炭素数4~10の環構造を形成し、Xは、1~6個のフェニレン基を備えた2価の有機基であり、nは、1以上の整数である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性組成物、硬化物の製造方法、及び硬化性組成物ワニスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マレイミド基を2つ備えたビスマレイミド化合物は、マレイミド基に含まれる二重結合のラジカル重合、イオン重合等の単独重合や、芳香族アミンの活性水素との付加反応、アリルフェノールとの共重合によりポリイミドの一種となり、耐熱性に優れた硬化物を与えることが知られている。特にビスマレイミド化合物と芳香族アミンやアリルフェノールとの反応で得られる硬化物は、強靭性に優れているために宇宙・航空分野の炭素繊維複合材料を中心とした先端複合材料のマトリックス樹脂として用いられている。また、ビスマレイミドの硬化物は、低誘電率や低誘電正接といった優れた誘電特性を備え、高周波回路を主とするいわゆる5G以降の通信機器における電気回路を構成するための基材として期待されている。こうしたビスマレイミド化合物を含んだ硬化性組成物は、例えば特許文献1を初めとして各種のものが提案されている。
【0003】
こうした硬化物は、ビスマレイミドや硬化剤等を溶融したり溶剤と混合したりすることでワニスとした後、そのままで又は繊維状補強材等に含浸された状態で所望の形状に成型し、次いで熱処理により調製される。ところが、ビスマレイミド化合物は、溶解性に乏しく融点が高いため、これを溶融又は溶解してワニスを調製するのが難しいというハンドリング上の問題がある。また、ビスマレイミド化合物の硬化物は、上記のように高い耐熱性や優れた機械特性を備える一方で、非常に脆いといった欠点も有する。そして、ハンドリングの難しさや脆さといった問題点が改善された、ビスマレイミド化合物を含む硬化性組成物も提案されている(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-193628号公報
【特許文献2】特許第6689475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上の状況に鑑みてなされたものであり、溶解性の面でのハンドリングが良好で、より柔軟で脆さを克服可能なビスマレイミド硬化物を与える硬化性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、ビスマレイミドの前駆体となるマレイン酸のハーフエステルとジアミン化合物とを組み合わせてこれらを加熱することにより、マレイン酸のハーフエステルとジアミン化合物とがビスマレイミド化合物に転換され、それと同時に上記のジアミン化合物がこのビスマレイミド化合物と反応して直鎖状の重合体を与えるという反応機構を着想するに至った。この重合体は、両端がマレイミド基になっており、最終的には加熱によるラジカル反応で他の重合体とマレイミド基を介して架橋され硬化が完了する。上記のように、この重合体は、直鎖状で架橋密度が高くないため、得られる硬化物は通常のビスマレイミド硬化物よりも柔軟性が高い。これに対して、通常行われるようにビスマレイミド化合物とジアミン化合物とを加熱により硬化させる場合、ジアミン化合物のアミノ基に活性水素が2つ含まれることに起因して、このアミノ基の窒素原子をリンカーとして2つのマレイミド基が互いに架橋されてしまい、硬化物の架橋密度が大きくなって硬化物が脆くなる。
【0007】
この違いの生じる理由は、次のように説明できる。すなわち、本発明では、上記のように直鎖状の重合体が形成されるときにジアミン化合物のアミノ基に含まれる2つの活性水素が1つ消費され1つ残るものの、反応基質であるマレイミド基が時間の経過とともに生成されてくる一方で2級アミンの反応速度は1級アミンのそれと比較して大きく劣るので、生成されたマレイミド基は専ら1級アミンと反応することになり、2つ目の活性水素はマレイミド基とは反応せずに残留することになる。これに対して、初めからビスマレイミド化合物とジアミン化合物とを用いる通常の組成物では、組成物中にマレイミド基が豊富に含まれるために、マレイミド基との反応で活性水素を一つ消費した2級アミンもマレイミド基への反応に関わるようになり、窒素原子を介してマレイミド基同士が架橋されることになる。このように、本発明の硬化性組成物により得られる硬化物は、従来のようにビスマレイミド化合物とジアミン化合物とを加熱により硬化させる場合に比べて、架橋密度の小さい、直鎖状の構造を有する(すなわち柔軟性の高い)ものになるのである。
【0008】
また、本発明では、ビスマレイミド化合物の前駆体であるマレイン酸のハーフエステルとジアミン化合物とを溶解させてワニスとするため、ビスマレイミド化合物を用いてワニスを調製するときのように溶解性や溶融性の問題を生じることもなく、従来のようなハンドリングの問題も解決される。
【0009】
具体的には、本発明は、以下のようなものを提供する。
【0010】
(1)本発明は、下記一般式(1)で表す化合物、及び下記一般式(2)で表す化合物の両方を含む硬化性組成物である。
【化1】
(上記一般式(1)中、Rは炭素数1~6のアルキル基であり、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~6のアルキル基であるか、あるいはR及びRとが互いに連結して炭素数4~10の環構造を形成する。上記一般式(2)中、Xは、1~6個のフェニレン基を備えた2価の有機基である。)
【0011】
(2)また本発明は、上記一般式(2)で表す化合物が、下記一般式(2a)で表す化合物である(1)項記載の硬化性組成物である。
【化2】
(上記一般式(2a)中、各X1aは、それぞれ独立に、炭素数1~5の分枝を有してもよいアルキレン基、単結合、酸素原子、硫黄原子又はカルボニル基であり、各Rは、それぞれ独立に、炭素数1~6のアルキル基であり、pは、0~5の整数であり、各qは、それぞれ独立に0~4の整数である。)
【0012】
(3)本発明は、下記一般式(1)で表す化合物、及び下記一般式(2)で表す化合物の両方を含むワニスを成型体とする成形工程と、この成型体を加熱し硬化させる熱処理工程と、を含むことを特徴とする硬化物の製造方法でもある。
【化3】
(上記一般式(1)中、Rは炭素数1~6のアルキル基であり、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~6のアルキル基であるか、あるいはR及びRとが互いに連結して炭素数4~10の環構造を形成する。上記一般式(2)中、Xは、1~6個のフェニレン基を備えた2価の有機基である。)
【0013】
(4)また本発明は、下記一般式(1z)で表す化合物をアルコール中で加熱し、この化合物のエステル化物を含むアルコール溶液を調製するエステル化工程と、上記アルコール溶液に下記一般式(2)で表す化合物を加えてこれを溶解させる溶解工程と、この溶解工程を経た溶液を加熱してワニスとする加熱工程と、を備えた硬化性組成物ワニスの製造方法でもある。
【化4】
(上記一般式(1z)中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~6のアルキル基であるか、あるいはR及びRとが互いに連結して炭素数4~10の環構造を形成する。上記一般式(2)中、Xは、1~6個のフェニレン基を備えた2価の有機基である。)
【0014】
(5)また本発明は、下記一般式(1)で表す化合物及び下記一般式(2)で表す化合物に対して溶媒を加えてこれらを溶解させる溶解工程と、この混合工程を経た溶液を加熱してワニスとする加熱工程と、を備えた硬化性組成物ワニスの製造方法でもある。
【化5】
(上記一般式(1)中、Rは炭素数1~6のアルキル基であり、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~6のアルキル基であるか、あるいはR及びRとが互いに連結して炭素数4~10の環構造を形成する。上記一般式(2)中、Xは、1~6個のフェニレン基を備えた2価の有機基である。)
【0015】
(6)また本発明は、複数の下記一般式(5)で表す化合物がその両端に存在するマレイミド基を介して互いに架橋されてなるものを含むことを特徴とする硬化物でもある。
【化6】
(上記一般式(5)中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~6のアルキル基であるか、あるいはR及びRとが互いに連結して炭素数4~10の環構造を形成し、Xは、1~6個のフェニレン基を備えた2価の有機基であり、nは、1以上の整数である。)
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、溶解性の面でのハンドリングが良好で、より柔軟で脆さを克服可能なビスマレイミド硬化物を与える硬化性組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の硬化性組成物の一実施形態、硬化性組成物ワニスの製造方法の第一及び第二実施態様、硬化物の製造方法の一実施態様、並びに硬化物の一実施形態について説明する。なお、本発明は、以下の実施形態及び実施態様に限定されるものではなく、本発明の範囲において適宜変更を加えて実施することができる。
【0018】
<硬化性組成物>
まずは、本発明の硬化性組成物の一実施形態について説明する。本発明の硬化性組成物は、下記一般式(1)で表す化合物、及び下記一般式(2)で表す化合物の両方を含むことを特徴とする。
【0019】
【化7】
【0020】
下記反応スキームに表すように、この硬化性組成物は、加熱により、一般式(1)で表すマレイン酸のハーフエステルと、一般式(2)で表すジアミン化合物のアミノ基とが反応してビスマレイミド化合物(3)を形成し、そのビスマレイミド化合物に含まれるマレイミド基と、一般式(2)で表すジアミン化合物とが付加反応をすることで分子の末端にアミノ基が導入される。このアミノ基は、一般式(1)で表すマレイン酸のハーフエステルとマレイミド基を形成することが可能であり、その後、これらの反応が繰り返されることにより鎖伸長する。最終的には、下記スキームにおける一般式(4)で表す、両端にマレイミド基を備えた重合体となり、これは更なる加熱に伴うラジカル反応により、重合体(4)に含まれるマレイミド基同士が分子間架橋して硬化が完了する。なお、下記の反応スキームは一例であり、複数のビスマレイミド化合物(3)が一般式(2)で表すジアミン化合物により互いに結合されるという反応機構もあり得るが、最終的に下記一般式(4)で表す直鎖状の重合体を与える点で変わりはない。また、下記の反応スキームでは、理解を容易にするためにR及びRが水素原子であるものについて示したが、本発明はこれに限定されるものではない。また、下記反応スキームの一般式(4)におけるnは、繰り返し単位の個数を表すものであり、1以上の整数である。
【0021】
【化8】
【0022】
上記一般式(1)において、Rは炭素数1~6のアルキル基である。上記一般式(1)の化合物は、マレイン酸又はその置換体のハーフエステルであり、無水マレイン酸又はその置換体にアルコールを作用させることで調製することもできるし、市販品を用いることもできる。Rは、このアルコールの水酸基を除いた残基であり、炭素数1~6のアルキル基である。より具体的には、Rとしては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられ、これらの中でも、メチル基が好ましく挙げられる。
【0023】
上記一般式(1)において、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基であるか、あるいはR及びRとが互いに連結して炭素数4~10の環構造を形成する。このようなアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。また、R及びRとが互いに連結して環構造を形成する場合、これらの環構造としては、シクロヘキシル環等の脂肪環が好ましく挙げられる。なお、この環構造は、ヘテロ原子を含んでもよい。一般式(1)で表す化合物は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0024】
より具体的には、上記一般式(1)で表す化合物としてR及びRが水素原子であるマレイン酸のハーフエステルが好ましく挙げられ、これらの中でも、Rがメチル基であるマレイン酸モノメチルエステルが好ましく挙げられるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0025】
上記一般式(2)において、Xは、1~6個のフェニレン基を備えた2価の有機基である。Xはジアミン化合物の残基であり、このようなXを含むジアミン化合物としては、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン)、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノビフェニル、3,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,4’-ジアミノベンゾフェノン、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、4,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、1,4-ビス(4-アミノフェニル)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェニル)ベンゼン、9,10-ビス(4-アミノフェニル)アントラセン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,4-ビス(3-アミノプロピルジメチルシリル)ベンゼン等が挙げられる。一般式(2)で表す化合物は、一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0026】
より好ましくは、上記一般式(2)で表す化合物として、下記一般式(2a)で表すものを挙げることができる。
【0027】
【化9】
【0028】
上記一般式(2a)中、各X1aは、それぞれ独立に、炭素数1~5の分枝を有してもよいアルキレン基、単結合、酸素原子、硫黄原子又はカルボニル基である。このようなアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、tert-ブチレン基等が好ましく挙げられる。上記一般式(2a)中、各Rは、それぞれ独立に、炭素数1~6のアルキル基である。このようなアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。上記一般式(2a)中、pは、0~5の整数であり、各qは、それぞれ独立に0~4の整数である。
【0029】
より具体的には、上記一般式(2)で表す化合物として下記化学式で表すものを好ましく例示できるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0030】
【化10】
【0031】
上記一般式(1)及び(2)のモル比を調節することにより、上記一般式(4)で表す重合体のn、すなわち繰り返し数を調節することができる。例えば、上記一般式(4)で表すように、繰り返し単位の繰り返し数がnの重合体を得るには、理論値で、上記一般式(1)で表す化合物:上記一般式(2)で表す化合物の比を(2n+2):(2n+1)とすればよいことになる。また、この重合体は、両端に不飽和結合(マレイミド基)を備えるので、加熱により分子間架橋をすることができる。このような架橋が生じると、硬化性組成物は硬化し、得られた硬化物はポリイミド骨格に基づく耐熱性と耐久性とを備え、さらに直鎖状構造に基づく柔軟性も備えることになる。
【0032】
本発明の硬化性組成物は、上記一般式(1)及び(2)の各化合物に加えて、溶媒を含んでワニスとされることが好ましい。この場合、上記一般式(2)で表すジアミン化合物と、上記一般式(1)で表すカルボン酸との間で酸塩基反応を生じて、適切な粘度を備えた液体となるので、ハンドリング性や成形性に優れたワニスとして利用できる。このような溶媒としては、アセトンやメチルエチルケトンのようなケトン類を好ましく例示することができるが、これに限定されるものではなく、用途に応じて各種のものを選択することができる。
【0033】
本発明の硬化性組成物は、上記のようにワニスとされた状態で所望の形状に成型され、熱処理を受けて硬化物とされる。成型手段としては特に限定されず、スピンコート、グラビアコート等によりフィルム状成型体とする方法、適切な型に流し込むことにより立体成型体とする方法、炭素繊維やガラス繊維等の基材に含浸させて所望の形状に成型する方法等、各種の手段を挙げることができる。また、熱処理に際しては、90~180℃程度で数時間熱処理を行った後、200~300℃程度で数時間熱処理を行う多段階法を採用することが好ましい。このように熱処理を行うと、前半の熱処理により、上記一般式(1)及び(2)の化合物の重合体が形成され、後半の熱処理により、重合体の架橋反応を生じさせることができる。
【0034】
<硬化性組成物ワニスの製造方法の第一実施態様>
次に、本発明の硬化性組成物ワニスの製造方法の第一実施態様について説明する。本実施態様の硬化性組成物ワニスの製造方法は、下記一般式(1z)で表す化合物をアルコール中で加熱し、この化合物のエステル化物を含むアルコール溶液を調製するエステル化工程と、上記アルコール溶液に下記一般式(2)で表す化合物を加えてこれを溶解させる溶解工程と、上記溶解工程を経た溶液を加熱してワニスとする加熱工程と、を備える。得られたワニスは、必要に応じて上記ワニスに含まれるアルコールを所望する溶媒へと置換する溶媒置換工程に付されてもよい。この製造方法により、上記本発明の硬化性組成物のワニスが調製される。以下、各工程について説明する。
【0035】
【化11】
【0036】
上記一般式(1z)中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~6のアルキル基であるか、あるいはR及びRとが互いに連結して炭素数4~10の環構造を形成する。上記一般式(2)中、Xは、1~6個のフェニレン基を備えた2価の有機基である。なお、これらR、R及びXは、上記本発明の硬化性組成物の説明において述べた一般式(1)及び(2)におけるものと同じである。
【0037】
[エステル化工程]
まずは、エステル化工程について説明する。本工程は、上記一般式(1z)で表す化合物をアルコール中で加熱し、この化合物のエステル化物を含むアルコール溶液を調製する工程である。すなわち、本工程では、無水マレイン酸又はその置換体である上記一般式(1z)で表す化合物をアルコールと反応させることにより、マレイン酸又はその置換体のハーフエステルである上記一般式(1)で表す化合物を調製する。
【0038】
本工程では、下記の化学反応式で表す反応により、一般式(1z)で表す化合物を一般式(1)で表す化合物へ転換する。ここで用いられるアルコールROHは、無水マレイン酸又はその置換体のエステル化反応試薬であるのと同時に、反応溶媒でもある。この反応を行うに際して、化合物(1z)は、アルコールROH中で加熱される。好ましくは、アルコールROHの還流下でこの反応を行う。反応中は化合物(1z)の存在をモニターし、化合物(1z)が消失した時点で反応終了とする。なお、アルコールROHとしては、メタノールが好ましく用いられる。
【0039】
【化12】
【0040】
上記化学反応式におけるR、R及びRについては、上記本発明の硬化性組成物の説明において述べた一般式(1)におけるものと同様なので、ここでの説明を省略する。
【0041】
この工程を経ることにより、一般式(1)で表す化合物を含むアルコール溶液が得られる。このアルコール溶液は、そのまま後述の溶解工程に付される。
【0042】
[溶解工程]
溶解工程は、上記アルコール溶液に上記一般式(2)で表す化合物を加えてこれを溶解させる工程である。なお、上記一般式(1z)で表す化合物及び一般式(2)で表す化合物の配合比は、上記本発明の硬化性組成物で述べた、上記一般式(1)で表す化合物及び一般式(2)で表す化合物の配合比に準じて決定される。
【0043】
溶解工程を経て得られた溶液は、加熱工程に付される。
【0044】
[加熱工程]
加熱工程は、上記溶解工程を経た溶液を加熱してワニスとする工程である。上記溶解工程を経た溶液には、一般式(1)で表すマレイン酸又はその置換体のハーフエステルと、ジアミンである一般式(2)で表す化合物が溶解している。本工程を経ることで、この溶液が粘調な液体のワニスとなる。加熱の条件としては、溶液の温度が80℃前後となるように加熱を行いながら数時間撹拌を行うことが挙げられるが、特に限定されない。
【0045】
加熱工程を経て得られたワニスは、必要に応じて、溶媒置換工程に付される。なお、ワニスがアルコール溶液でもよい場合には、溶媒置換工程を行う必要はなく、そのアルコール溶液自体をワニスとして用いることができる。
【0046】
[溶媒置換工程]
溶媒置換工程は、上記ワニスに含まれるアルコールを所望する溶媒へと置換する工程である。この工程は、必須ではなく、必要に応じて行えばよい。
【0047】
上記加熱工程を経たワニスは、アルコール溶液である。ワニスの用途に鑑みて、アルコール溶液では問題のある場合には、本工程で溶媒置換を行う。溶媒置換は、ワニスに含まれるアルコールを留去し、所望する溶媒に残留物を溶解させればよい。このような溶媒としては、アセトンやメチルエチルケトンのようなケトン類を好ましく例示することができるが、これに限定されるものではなく、用途に応じて各種のものを選択することができる。
【0048】
<硬化性組成物ワニスの製造方法の第二実施態様>
次に、本発明の硬化性組成物ワニスの製造方法の第二実施態様について説明する。本実施態様の硬化性組成物ワニスの製造方法は、下記一般式(1)で表す化合物及び下記一般式(2)で表す化合物に対して溶媒を加えてこれらを溶解させる溶解工程と、上記混合工程を経た溶液を加熱してワニスとする加熱工程と、を備える。
【0049】
【化13】
【0050】
すなわち、本実施態様の硬化性組成物ワニスの製造方法では、上記第一実施態様にてエステル化工程で調製していた一般式(1)の化合物(ハーフエステル)を直接用いる点で第一実施態様と異なり、その他の点は同様である。したがって、本実施態様の説明では、上記第一実施態様と異なる点を説明し、その他の説明を適宜省略する。
【0051】
上記一般式(1)中、Rは炭素数1~6のアルキル基であり、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~6のアルキル基であるか、あるいはR及びRとが互いに連結して炭素数4~10の環構造を形成する。上記一般式(2)中、Xは、1~6個のフェニレン基を備えた2価の有機基である。R、R、R及びXについては、上記本発明の硬化性組成物で説明した一般式(1)及び(2)におけるものと同様なので、ここでの説明を省略する。
【0052】
溶解工程で用いる溶媒は、最終的にワニスに含まれることになるので、ワニスの用途を考慮して選択すればよい。このような溶媒としては、アセトンやメチルエチルケトンのようなケトン類を好ましく例示することができるが、これに限定されるものではない。
【0053】
<硬化物の製造方法>
次に、本発明の硬化物の製造方法の一実施態様について説明する。本発明の硬化物の製造方法は、下記一般式(1)で表す化合物、及び下記一般式(2)で表す化合物の両方を含むワニスを成型体とする成形工程と、その成型体を加熱し硬化させる熱処理工程と、を含むことを特徴とする。
【0054】
【化14】
【0055】
上記一般式(1)中、Rは炭素数1~6のアルキル基であり、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~6のアルキル基であるか、あるいはR及びRとが互いに連結して炭素数4~10の環構造を形成する。上記一般式(2)中、Xは、1~6個のフェニレン基を備えた2価の有機基である。これらR、R、R及びXについては、上記本発明の硬化性組成物の説明において述べた一般式(1)及び(2)におけるものと同様なので、ここでの説明を省略する。
【0056】
すなわち、本発明の硬化物の製造方法は、上記本発明の硬化性組成物ワニスを成型体として、それを加熱して硬化させることを特徴とするものである。本発明の硬化性組成物及び硬化性組成物ワニスについては、既に説明した通りなので、ここでの説明を省略する。以下、各工程について説明する。
【0057】
[成形工程]
成形工程は、上記一般式(1)で表す化合物、及び一般式(2)で表す化合物で表す化合物の両方を含むワニス、すなわち本発明の硬化性組成物ワニスを成型体とする工程である。
【0058】
成型手段としては特に限定されず、スピンコート、グラビアコート等によりフィルム状成型体とする方法、適切な型に流し込むことにより立体成型体とする方法、炭素繊維やガラス繊維等の基材に含浸させて所望の形状に成型する方法等、各種の手段を挙げることができる。
【0059】
本工程で得られた成型体は、熱処理工程に付される。
【0060】
[熱処理工程]
熱処理工程は、成形工程で得た成型体を加熱し硬化させる工程である。この成型体には、本発明の硬化性組成物が含まれるので、それを熱処理により熱硬化させて硬化物を得るのが本工程である。
【0061】
熱処理に際しては、90~180℃程度で数時間熱処理を行った後、200~300℃程度で数時間熱処理を行う二段階法を採用することが好ましい。このように熱処理を行うと、前半の熱処理により、上記一般式(1)及び(2)の化合物の重合体が形成され、後半の熱処理により、重合体の架橋反応を生じさせることができる。
【0062】
<硬化物>
次に、本発明の硬化物の一実施形態について説明する。本発明の硬化物は、複数の下記一般式(5)で表す化合物がその両端に存在するマレイミド基を介して互いに架橋されてなるものを含むことを特徴とする。
【0063】
【化15】
【0064】
上記一般式(5)中、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~6のアルキル基であるか、あるいはR及びRとが互いに連結して炭素数4~10の環構造を形成し、Xは、1~6個のフェニレン基を備えた2価の有機基であり、nは、1以上の整数である。これらR、R及びXは、上記本発明の硬化性組成物の説明で述べた一般式(1)及び(2)におけるものと同様なので、ここでの説明を省略する。
【0065】
本発明の硬化物は、上記本発明の硬化性組成物を硬化させて得られるものに対応する。これらのことについては、既に説明した通りなので、その説明を省略する。なお、上記一般式(5)においてR及びRが水素原子のものは、上記反応スキームにおける一般式(4)で表す重合体に対応する。
【0066】
本発明の硬化物は、低誘電率や低誘電正接といった優れた誘電特性を備え、また耐熱性や耐久性に優れる。そのため、特に、高周波回路を主とするいわゆる5G以降の通信機器における電気回路を構成するための基材として有用である。その他、本発明の硬化物は、耐久性、柔軟性、機械特性等に優れるので、各種の用途にも有用である。
【実施例0067】
以下、実施例を示すことにより本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0068】
[硬化性組成物ワニス1の調製]
撹拌子及びジムロート冷却管を備えた20mLのナス型フラスコに、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン2.05g(0.005mol)、マレイン酸モノメチル1.46g(0.02mol)及び2-ブタノン(MEK)1.50gを仕込み、常圧下、76~82℃で4時間加熱した。その後、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン2.05g(0.01mol)及びMEK0.34gをさらに仕込み、常圧下、75~82℃で1時間加熱した。得られた混合物を室温まで冷却し、ワインレッド色のワニス1を得た。
【0069】
[硬化性組成物ワニス2の調製]
撹拌子及びジムロート冷却管を備えた20mLのナス型フラスコに、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジエチル-5,5’-ジメチルジフェニルメタン1.45g(0.005mol)、マレイン酸モノメチル1.45g(0.01mol)及びMEK1.31gを仕込み、常圧下、76~85℃で3.5時間加熱した。その後、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジエチル-5,5’-ジメチルジフェニルメタン1.45g(0.005mol)及びMEK1.31gをさらに仕込み、常圧下、78~84℃で1時間加熱した。得られた混合物を室温まで冷却し、橙色のワニス2を得た。
【0070】
[硬化性組成物ワニス3の調製]
撹拌子及びジムロート冷却管を備えた20mLのナス型フラスコに、4,4’-ジアミノジフェニルメタン0.99g(0.005mol)、マレイン酸モノメチル1.45g(0.01mol)及びMEK1.06gを仕込み、常圧下、72~78℃で3.5時間加熱した。その後、4,4’-ジアミノジフェニルメタン0.99g(0.005mol)及びMEK0.33gをさらに仕込み、常圧下、74~76℃で1時間加熱した。得られた混合物を室温まで冷却し、黄色のワニス3を得た。
【0071】
[硬化物の調製]
ワニス1~3のそれぞれについて、硬化物の調製を行った。アセトンで脱脂をしたガラス板に、150μm(ワニス1)又は100μm(ワニス2及び3)の厚さで各ワニスを塗布し、90℃で1.5時間、100℃で0.5時間、160℃で1.5時間、230℃で4時間それぞれ加熱した後、室温まで放冷することで、各ワニスの硬化物を得た。それぞれの硬化物について、軟化点、並びに示差熱重量測定(DTG)による5%重量減温度及び10%重量減温度を求めた。その結果を表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
[誘電正接の測定]
ワニス1を用いて調製した硬化物、及び2,2’-ジアリルビスフェノールAを硬化剤としてビスマレイミドを硬化させた比較用硬化物のそれぞれについて、1.0GHz、5.1GHz及び9.3GHzのそれぞれにおける誘電正接を測定した。その結果を表2に示す。
【0074】
【表2】
【0075】
表1に示すように、本発明の硬化性組成物から調製された硬化物は、良好な耐熱性を備えることがわかる。既に説明したように、本発明の硬化性組成物から調製された硬化物は、ビスマレイミド及びジアミンを用いた硬化物に比べて直鎖状の構造をとっており、柔軟性も併せ持つ。加えて、表2に示すように、本発明の硬化性組成物から調製された硬化物は、通常のビスマレイミドの硬化物に比べて低い誘電正接を示し、誘電特性も良好だった。