(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022049142
(43)【公開日】2022-03-29
(54)【発明の名称】積層シート
(51)【国際特許分類】
B32B 5/28 20060101AFI20220322BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20220322BHJP
D06N 3/06 20060101ALI20220322BHJP
D06N 3/14 20060101ALI20220322BHJP
B60N 2/58 20060101ALN20220322BHJP
B68G 7/05 20060101ALN20220322BHJP
【FI】
B32B5/28
B32B27/30 101
D06N3/06
D06N3/14
B60N2/58
B68G7/05 Z
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020155202
(22)【出願日】2020-09-16
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-03-04
(71)【出願人】
【識別番号】519152009
【氏名又は名称】トリプルエー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 進
(72)【発明者】
【氏名】小山 将平
(72)【発明者】
【氏名】上村 知行
【テーマコード(参考)】
3B087
4F055
4F100
【Fターム(参考)】
3B087DE03
4F055AA01
4F055AA03
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4F100YY00B
4F100YY00D
(57)【要約】
【課題】張り栄えが良く、通気性および難燃性に優れ、開口部からの毛羽の露出が起こりにくい積層シートを提供する。
【解決手段】基布層11と、ポリ塩化ビニル系樹脂を主成分とする樹脂組成物層12とを備える積層シート1であり、
樹脂組成物層12は基布層11に含浸した含浸部12aを有し、
基布層11および樹脂組成物層12を厚さ方向に貫通する複数の開口部20を有し、
樹脂組成物層12の質量は、基布層11の質量100質量部に対して30~100質量部であり、
基布層11は、縦横方向ともに引張強度が100N/cm以上且つ定荷重伸びが20%以上であり、
積層シート1の通気度が50cc/cm
2・s以上である、積層シート1。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基布層と、ポリ塩化ビニル系樹脂を主成分とする樹脂組成物層とを備える積層シートであり、
前記樹脂組成物層は前記基布層に含浸した含浸部を有し、
前記基布層および前記樹脂組成物層を厚さ方向に貫通する複数の開口部を有し、
前記樹脂組成物層の質量は、前記基布層100質量部に対して30~100質量部であり、
前記基布層は、縦横方向ともに引張強度が100N/cm以上且つ定荷重伸びが20%以上であり、
前記積層シートの通気度が50cc/cm2・s以上である、積層シート。
【請求項2】
前記含浸部は、前記基布層の一方の面に露出しており、他方の面には露出していない、請求項1に記載の積層シート。
【請求項3】
前記含浸部において、前記樹脂組成物層は、前記基布層の前記一方の面から、前記基布層の厚さに対して10~90%の深さまで基布層内部に含浸している、請求項2に記載の積層シート。
【請求項4】
前記樹脂組成物層は、前記基布層の前記一方の面から基布層外部に突出する突出部を有する、請求項2または3に記載の積層シート。
【請求項5】
前記基布層の裏面に、通気度が100cc/cm2・s以上である裏材をさらに備える、請求項1~4のいずれか1項に記載の積層シート。
【請求項6】
前記裏材は前記基布層の裏面に、接着層を介して設けられている、請求項5に記載の積層シート。
【請求項7】
前記開口部は前記裏材を貫通しない請求項5または6に記載の積層シート。
【請求項8】
前記基布層もしくは前記樹脂組成物層および前記裏材を両端面に有する積層体の定荷重伸びが縦横方向ともに10%以上であり、通気度が50cc/cm2・s以上である、請求項5~7のいずれか1項に記載の積層シート。
【請求項9】
前記基布層の一方の面に、ポリ塩化ビニル系樹脂を主成分として含む発泡樹脂層をさらに備える、請求項1~8のいずれか1項に記載の積層シート。
【請求項10】
前記発泡樹脂層は熱可塑性ポリウレタンエラストマーを含む請求項9に記載の積層シート。
【請求項11】
前記発泡樹脂層の、前記基布層が位置する側とは反対側に、ポリウレタン系樹脂を含む表皮層をさらに備える、請求項9または10に記載の積層シート。
【請求項12】
合成皮革用途である請求項1~11のいずれか1項に記載の積層シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、積層シートに関する。より詳細には、本開示は、合成皮革に適用されるのに適した積層シートに関する。
【背景技術】
【0002】
天然皮革の代替品、あるいは天然皮革以上に良好な物性を備えた皮革素材として、合成皮革が広く用いられている。特に、自動車などの車両用のシート座面材料として用いられる合成皮革として、天然皮革調の触感や風合いを得るために、一般に、繊維質の基布(例えば、不織布、織物、編物等)の上にポリウレタン系樹脂やポリ塩化ビニル系樹脂を主体とする樹脂層を備えるものが知られている。
【0003】
上記合成皮革に用いられる積層シートには、透湿性および通気性を付与する目的で、穿孔加工(パーフォレーション加工)が施されることがある(特許文献1~4参照)。例えば、特許文献1には、繊維質基材と、上記繊維質基材の表面側に設けられたポリウレタン樹脂層と、上記繊維質基材の裏面側にポリウレタン樹脂からなる接着剤層を介して貼り付けられた織物と、を備え、上記ポリウレタン樹脂層の表面に複数の開口部を有する複合表皮材の開示がある。特許文献4には、ポリウレタン系樹脂および有機難燃剤を含む樹脂組成物を、引裂き強度がタテ150N以上かつヨコ100N以上の織布に含浸させてなる多孔質構造を有する基布層と、上記基布層上に積層された表皮層と、を有し、厚さ方向に貫通する複数の通気口を有する積層シートの開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-165209号公報
【特許文献2】特開2016-129994号公報
【特許文献3】国際公開第2015/022772号
【特許文献4】国際公開第2014/097999号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
積層シートにパーフォレーション加工を施すと、基材がほつれて発生する毛羽が孔(開口部)から出てきて外観を損なうという問題があった。また、例えば自動車等の車両用のシート座面に上記積層シートを使用する場合、積層シートの通気性を確保する観点から、接着剤を介さずに発泡シートを上記基材に重ね合わせて縫製することが通常行われるが、この場合、上記基材と上記発泡シートとが摩擦することで、上記毛羽が開口部からよりいっそう出てきやすい。さらに、上記基材の裏面が摩擦することで、基材裏面においても基材がほつれて毛羽立ちが起こりやすいという問題もある。
【0006】
特許文献1の複合表皮材のように、基材の裏面側に接着剤層を介して織物等の裏材を貼り付けることにより、基材裏面の毛羽立ちを抑制することができる。しかしながら、特許文献1の複合表皮材では、開口部からの毛羽の露出を抑制することはできない。また、特許文献1の積層シートは、織布に含浸させる樹脂としてポリウレタン系樹脂を用いているため、難燃性に懸念があった。
【0007】
特許文献4の積層シートは、ポリウレタン系樹脂を含む樹脂組成物を織布に含浸させてなる基布層を用いていることにより、基材表面のほつれが抑制され、開口部からの毛羽の露出が起こりにくい。しかしながら、特許文献4の積層シートは、基材の伸びが不足しており、シートに張り込む際にシワが発生しやすく、張り栄えが劣るため、特定のシート形状にしか使用できなかった。
【0008】
本開示は上記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、張り栄えが良く、通気性および難燃性に優れ、開口部からの毛羽の露出が起こりにくい積層シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、特定の物性を有する基布層と、特定の含浸量となるように上記基布層に含浸したポリ塩化ビニル系樹脂を主成分とする樹脂組成物層とを備える積層シートであり、上記基布層および上記樹脂組成物層を厚さ方向に貫通する複数の開口部を有し、特定の通気度を有する積層シートによれば、張り栄えが良く、通気性および難燃性に優れ、開口部からの毛羽の露出が起こりにくい積層シートを提供可能であることを見出した。本開示は、これらの知見に基づいて完成されたものに関する。
【0010】
すなわち、本開示は、基布層と、ポリ塩化ビニル系樹脂を主成分とする樹脂組成物層とを備える積層シートであり、
上記樹脂組成物層は前記基布層に含浸した含浸部を有し、
上記基布層および上記樹脂組成物層を厚さ方向に貫通する複数の開口部を有し、
上記樹脂組成物層の質量は、上記基布層100質量部に対して30~100質量部であり、
上記基布層は、縦横方向ともに引張強度が100N/cm以上且つ定荷重伸びが20%以上であり、
上記積層シートの通気度が50cc/cm2・s以上である、積層シートを提供する。
【0011】
上記含浸部は、上記基布層の一方の面に露出しており、他方の面には露出していないことが好ましい。
【0012】
上記含浸部において、上記樹脂組成物層は、上記基布層の上記一方の面から、上記基布層の厚さに対して10~90%の深さまで基布層内部に含浸していることが好ましい。
【0013】
上記樹脂組成物層は、上記基布層の上記一方の面から基布層外部に突出する突出部を有することが好ましい。
【0014】
上記積層シートは、上記基布層の裏面に、通気度が100cc/cm2・s以上である裏材をさらに備えることが好ましい。
【0015】
上記裏材は上記層の裏面に、接着層を介して設けられていることが好ましい。
【0016】
上記開口部は上記裏材を貫通しないことが好ましい。
【0017】
上記基布層もしくは上記樹脂組成物層および上記裏材を両端面に有する積層体の定荷重伸びが縦横方向ともに10%以上であり、通気度が50cc/cm2・s以上であることが好ましい。
【0018】
上記積層シートは、上記基布層の一方の面に、ポリ塩化ビニル系樹脂を主成分として含む発泡樹脂層をさらに備えることが好ましい。
【0019】
上記発泡樹脂層は熱可塑性ポリウレタンエラストマーを含むことが好ましい。
【0020】
上記積層シートは、上記発泡樹脂層の、上記基布層が位置する側とは反対側に、ポリウレタン系樹脂を含む表皮層をさらに備えることが好ましい。
【0021】
上記積層シートは、合成皮革用途であることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本開示の積層シートによれば、張り栄えが良く、通気性および難燃性に優れ、開口部からの毛羽の露出が起こりにくい積層シート、特に合成皮革用途に適した積層シートを提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本開示の積層シートの一実施形態を示す概略図(正面断面図)である。
【
図2】実施例1で作製した積層シートの断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[積層シート]
本開示の積層シートは、基布層と、樹脂組成物層とを少なくとも備える。上記積層シートは、上記基布層および上記樹脂組成物層以外のその他の層を備えていてもよい。上記その他の層としては、上記基布層の一方の面に設けられた発泡樹脂層、上記発泡樹脂層の基布層が位置する側とは反対側の面に設けられた表皮層、上記表皮層の発泡樹脂層が位置する側とは反対側の面に設けられた表面処理層、上記基布層の裏面に設けられた裏材などが挙げられる。
【0025】
上記積層シートは、上記基布層および上記樹脂組成物層を厚さ方向に貫通する複数の開口部を有する。上記積層シートが上記発泡樹脂層、上記表皮層、および上記表面処理層のうちの1以上を備える場合、上記複数の開口部は、これらの層を厚さ方向に貫通することが好ましい。なお、上記複数の開口部は、上記裏材および上記裏材を上記基布層に固定するための上記接着剤を貫通しないことが好ましい。
【0026】
上記樹脂組成物層は、ポリ塩化ビニル系樹脂を主成分とし、層の少なくとも一部が上記基布層に含浸している含浸部を有する。なお、本明細書において、「主成分」とは、層において最も大きい質量割合で含まれることをいうものとする。このような構成を有することにより、上記基布層を構成する繊維が樹脂組成物層により拘束され、ほつれにくく、開口部からの毛羽の露出が抑制される。上記含浸部は、上記基布層の一方の面(特に、上記開口部における開口面側の表面)に露出していることが好ましい。この場合、上記基布層表面の繊維が上記樹脂組成物に拘束されるため、開口部からの毛羽の露出がより抑制される。また、上記含浸部は、上記基布層の他方の面(特に、上記開口面側とは反対側の面)には露出していないことが好ましい。この場合、上記樹脂組成物層が含浸していない領域が存在することとなり、上記基布層の伸びが充分に維持され、積層シートの張り栄えが良好となる。また、上記積層シートは通気性に優れる、軽量化される、風合いが良好となるといったメリットもある。
【0027】
上記含浸部において、上記樹脂組成物層は、上記基布層の上記一方の面(特に、上記開口面側の表面)から、上記基布層の厚さに対して10~90%(好ましくは30~70%)の深さまで基布層内部に含浸していることが好ましい。10%以上の深さまで基布層内部に含侵していると、基布層表面付近の繊維が上記樹脂組成物層により拘束されており、基布層表面の毛羽立ちがより抑制され、開口部からの毛羽の露出がよりいっそう抑制される。90%以下の深さまで基布層内部に含侵していると、上記基布層内に上記樹脂組成物層が含浸していない領域が充分に存在することとなり、上記基布層の伸びが充分に維持され、積層シートの張り栄えがより良好となる。また、上記積層シートは通気性に優れる、軽量化される、風合いが良好となるといったメリットもある。
【0028】
上記樹脂組成物層は、上記基布層の上記一方の面(特に、上記開口面側の表面)から基布層外部に突出する突出部(非含浸部)を有することが好ましい。このような構成を有すると、上記樹脂組成物層の上記突出部を介して上記発泡樹脂層などのその他の層を積層する際、上記突出部が接着層として作用し、上記基布層と上記その他の層との密着性がより向上する。また、これにより、層間のずれが起こりにくいため摩擦が生じにくく、上記基布層のほつれがより起こりにくい。なお、上記突出部における上記樹脂組成物層は、上記基布層に含侵していない。
【0029】
上記樹脂組成物層の質量は、上記基布層100質量部に対して30~100質量部であり、好ましくは50~90質量部、より好ましくは50~80質量部である。上記樹脂組成物層の質量が30質量部以上であることにより、上記基布層を充分に含侵しつつ、さらに上記他の層との密着性が良好となり、その結果上記基布層のほつれを抑制し、上記開口部からの毛羽の露出を抑制することができる。上記樹脂組成物層の質量が100質量部以下であることにより、上記基布層の伸びが充分に維持され、積層シートの張り栄えが良好となる。また、積層シートを軽量化することができる、風合いが良好となるといったメリットもある。
【0030】
上記積層シートの一実施形態を
図1に示す。
図1に示すように、積層シート1は、基布層11と、基布層11の一方の面11a側から一部が含浸した樹脂組成物層12と、発泡樹脂層13と、表皮層14と、積層シート1の最表面に位置する表面保護層15とを、この順に備える。基布層11と発泡樹脂層13とは、樹脂組成物層12により接合している。また、基布層11の他方の面11bには、部分的に配置された接着層16を介して裏材17が積層されている。積層シート1には、基布層11から表面保護層15まで貫通する開口部20が複数設けられている。
【0031】
樹脂組成物層12は、基布層11に含浸した含浸部12aと、基布層11の表面11aから基布層11外側に突出した突出部(非含浸部)12bとから構成される。含浸部12aは、基布層11の表面(開口面20a側の表面)11aから基布層11の裏面(開口面20a側とは反対側の表面)11bに向かって、基布層11の厚さの50%程度まで含浸している。すなわち、樹脂組成物層12は、基布層11の表面11aには露出しており、基布層11の裏面11bには露出していない。突出部12bは、基布層11の表面11aから突出している。突出部12bは接着剤として作用することで、発泡樹脂層13と基布層11との密着性に優れる。
【0032】
(基布層)
上記基布層は、縦横方向ともに引張強度が100N/cm以上且つ定荷重伸びが20%以上である。このような物性を有することにより、上記基布層に上記樹脂組成物層が含浸した状態の積層シートは、シートに張り込む際にシワが発生しにくく、張り栄えが良い。なお、上記引張強度および上記定荷重伸びは、上記樹脂組成物層が含浸していない状態の基布層の物性値である。
【0033】
上記引張強度は、縦横方向ともに100N/cm以上であり、好ましくは120N/cm以上である。上記引張強度が100N/cm以上であることにより、パーフォレーション加工が施された状態であっても適度な強度を有する。上記引張強度は、以下の引張試験により測定および算出される値である。
【0034】
<引張試験>
基布層から、幅50mm、長さ150mmの試験片を、経方向および緯方向から各々3枚採取する。室温20±2℃、湿度65±5%RHの状況下で、試験片の両端をつかみ具でたるみのないように挟み、引張試験機を用いて、つかみ幅50mm、つかみ間隔100mm、つかみ具の移動速度200mm/minで試験片を引っ張り、試験片を破断させる。そして、試験片が破断するまでの単位幅当たりの最大荷重(N/cm)を測定し、3枚の試験片の平均値を求める。
【0035】
上記定荷重伸びは、縦横方向ともに20%以上であり、好ましくは30%以上である。上記定荷重伸びが20%以上であることにより、パーフォレーション加工が施された状態であっても充分に伸び、シートに張り込む際にシワが発生しにくく、張り栄えが良い。上記定荷重伸びは、以下の定荷重伸び率試験により測定および算出される値である。
【0036】
<定荷重伸び率試験>
基布層から、幅50mm、長さ250mmの試験片を、経方向および緯方向から各々3枚採取する。次に、試験片の中央部に標線間距離100mmとなるように2本の標線を付ける。これをつかみ間隔150mmとして、試験装置に、取り付け、静かに78.4N(8kgf)の荷重をかける。荷重をかけたまま10分間放置し、その後標線間距離を求める。そして、定荷重伸び率を以下の式により算出し、3枚の試験片の平均値を求める。
定荷重伸び率(%)=A-100
A:荷重をかけて10分間後の標線間距離(mm)
【0037】
上記基布層としては、織物、編物、不織布等の繊維質布帛や天然皮革などの繊維質基材が挙げられる。繊維質布帛を構成する繊維の種類は、特に限定されないが、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリビニルアルコール等の合成繊維;綿、麻等の天然繊維;レーヨン、スフ、アセテート等の再生繊維;半合成繊維などが挙げられる。上記繊維は、一種のみが使用されていてもよいし、二種以上が使用されていてもよい。中でも、強度および加工性がより優れる観点から、合成繊維からなる編物、特にポリエステル繊維からなる編物が好ましい。上記基布層は、単層であってもよいし複層であってもよい。
【0038】
上記基布層の目付は、特に限定されないが、100~400g/m2であることが好ましく、より好ましくは150~300g/m2である。上記目付が100g/m2以上であると、自動車内装材として、充分な強度を得ることができる。上記目付が300g/m2以下であると、積層シートを軽量化することができる。
【0039】
(樹脂組成物層)
上記樹脂組成物層は、ポリ塩化ビニル系樹脂を主成分とする。すなわち、上記樹脂組成物は、ポリ塩化ビニル系樹脂を最も大きい質量割合で含む。これにより、含浸部において上記基布層を構成する繊維が樹脂組成物層により拘束され、ほつれにくく、開口部からの毛羽の露出が抑制される。また、積層シートの難燃性を向上させることができる、コストを抑えることができ経済性に優れるという効果を奏する。上記樹脂組成物層は、ポリ塩化ビニル系樹脂を接着成分として含むことが好ましい。この場合、上記基布層上に上記その他の層を積層する際の上記基布層と上記その他の層との密着性が向上する。また、これにより、層間のずれが起こりにくいため摩擦が生じにくく、上記基布層のほつれがより起こりにくい。上記ポリ塩化ビニル系樹脂は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0040】
上記ポリ塩化ビニル系樹脂は、塩化ビニルまたは塩化ビニリデンを必須の単量体(モノマー)成分として構成される重合体である。すなわち、分子中(1分子中)に、塩化ビニルまたは塩化ビニリデンに由来する構成単位を少なくとも含む重合体である。
【0041】
上記ポリ塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニルの単独重合体であるポリ塩化ビニル、塩化ビニリデンの単独重合体であるポリ塩化ビニリデン、塩化ビニルまたは塩化ビニリデンと他の単量体との共重合体、塩素化ポリ塩化ビニル、塩素化ポリオレフィンなどが挙げられる。上記塩素化ポリオレフィンとしては、例えば、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレンなどが挙げられる。
【0042】
上記共重合体としては、例えば、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-エチレン共重合体、塩化ビニル-プロピレン共重合体、塩化ビニル-スチレン共重合体、塩化ビニル-イソブチレン共重合休、塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル-ウレタン共重合体、塩化ビニル-ブタジエン共重合体、塩化ビニル-イソプレン共重合体、塩化ビニル-塩素化プロピレン共重合体、塩化ビニル-マレイン酸エステル共重合体や塩化ビニル-(メタ)アクリル酸エステル共重合体等の塩化ビニル-ビニルエステル類共重合体、塩化ビニル-アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル-ビニルエーテル類共重合体、塩化ビニル-スチレン-無水マレイン酸三元共重合体、塩化ビニル-スチレン-アクリロニトリル三元共重合体、塩化ビニル-塩化ビニリデン-酢酸ビニル三元共重合体、エチレン-酢酸ビニル-塩化ビニル共重合体などが挙げられる。上記共重合体としては、ブロック共重合体、ランダム共重合体、グラフト共重合物などが挙げられる。
【0043】
上記ポリ塩化ビニル系樹脂としては、中でも、ポリ塩化ビニル(塩化ビニルホモポリマー)が好ましい。
【0044】
上記ポリ塩化ビニル系樹脂は、公知乃至慣用の重合により得ることができる。上記ポリ塩化ビニル系樹脂の重合方法としては、特に限定されないが、乳化重合、懸濁重合、塊状重合、溶液重合などが挙げられる。中でも、乳化重合または懸濁重合により得られたポリ塩化ビニル系樹脂が好ましい。
【0045】
上記ポリ塩化ビニル系樹脂の平均重合度(JIS K6721に準拠)は、特に限定されないが、800~4000であることが好ましく、より好ましくは1100~3500、さらに好ましくは1300~2800である。上記平均重合度が上記範囲内であると、開口部からの毛羽の露出がより抑制される。
【0046】
上記樹脂組成物中のポリ塩化ビニル系樹脂の含有割合は、特に限定されないが、上記樹脂組成物層の総量100質量%に対して、70質量%以上であることが好ましく、より好ましくは90質量%以上である。上記含有割合が70質量%以上であると、積層シートの難燃性がより優れる。上記含有割合は、100質量%であってもよい。
【0047】
上記樹脂組成物層は、さらに、可塑剤を含むことが好ましい。これにより、積層シートの加工性に優れる。
【0048】
上記可塑剤は、ポリ塩化ビニル系樹脂に使用される一般的なものが使用できる。上記可塑剤としては、例えば、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、フタル酸ジ-n-オクチル、フタル酸ジイソオクチル、フタル酸ジノニル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸C9-11混合アルキルフタル酸ブチルベンジル、イソフタル酸ジイソオクチル等の芳香族カルボン酸エステル;アジピン酸ジイソオクチル、アジピン酸ジイソデシル、セバシン酸ジ-2-エチルヘキシル等の脂肪族カルボン酸エステル;トリメリット酸トリ-n-ブチル(TBTM)、トリメリット酸トリス(2-エチルヘキシル)(TOTM)等のトリメリット酸エステル;ジエチレングリコールジベンゾエート、ジプロピレングリコールジベンゾエート、ポリオキシプロピレングリコールジベンゾエート、ポリオキシエチレングリコールジベンゾエート等のジ安息香酸エステル:リン酸トリクレジル、リン酸トリキシリル等のリン酸エステル;塩素化パラフィン、塩素化脂肪酸エステル等の含ハロゲン系化合物;エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、エポキシ化サフラワー油、エポキシ化ヒマシ油等のエポキシ基含有脂肪酸;ポリエステルなどが挙げられる。上記可塑剤は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0049】
上記可塑剤の含有量は、上記ポリ塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、50~120質量部であることが好ましく、より好ましくは60~100質量部である。上記含有量が50質量部以上であると、積層シートの加工性がより良好となる。上記含有量が90質量部以下であると、樹脂組成物層の老化速度を遅くすることができる。
【0050】
上記樹脂組成物層は、上述の各成分以外のその他の成分を含有していてもよい。上記その他の成分としては、例えば、ポリ塩化ビニル系樹脂以外の樹脂、加工助剤、補強剤、難燃剤、着色剤(染料、顔料など)、消泡剤、レベリング剤、架橋剤、シランカップリング剤、チキソ付与剤、粘着付与剤、ワックス、熱安定剤等の安定剤、耐光向上剤、紫外線吸収剤、耐候性付与剤、蛍光増白剤、導電性付与剤、帯電防止剤、透湿性向上剤、撥水剤、撥油剤、発泡剤、結晶水含有化合物、吸水剤、吸湿剤、消臭剤、整泡剤、防曇剤、防黴剤、防腐剤、防藻剤、顔料分散剤、不活性気体、スリップ剤、滑剤、ブロッキング防止剤、加水分解防止剤、中和剤、天然油、合成油、増粘剤などが挙げられる。上記その他の成分は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0051】
(発泡樹脂層)
上記発泡樹脂層は、ポリ塩化ビニル系樹脂を主成分として含むことが好ましい。すなわち、上記発泡樹脂層は、ポリ塩化ビニル系樹脂を最も大きい質量割合で含む。この場合、上記樹脂組成物層および上記発泡樹脂層の主成分が共にポリ塩化ビニル系樹脂となるので、上記樹脂組成物層を介した上記基層部と上記発泡樹脂層との密着性がよりいっそう優れ、層間のズレを抑制して耐摩耗性および耐屈曲性(特に、耐低温屈曲性)がより優れる。また、層間のズレが抑制されることにより、上記基層部表面の毛羽の発生をより抑制することができる。上記ポリ塩化ビニル系樹脂は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0052】
上記発泡樹脂層におけるポリ塩化ビニル系樹脂としては、上述の樹脂組成物層中に含まれるポリ塩化ビニル系樹脂として例示および説明されたものが挙げられる。上記ポリ塩化ビニル系樹脂としては、ポリ塩化ビニルが好ましい。
【0053】
上記ポリ塩化ビニル系樹脂の平均粒子径は、特に限定されないが、0.1~5μmであることが好ましく、より好ましくは0.2~4μmである。上記平均粒子径が0.1μm以上であると、カレンダー加工時の生産性が良好である。上記平均粒子径が5μm以下であると、熱可塑性ポリウレタンエラストマー粒子の塩化ビニル組成への分散性が良好である。なお、上記平均粒子径は、レーザー回折・散乱法により測定される値である。
【0054】
上記発泡樹脂層は、さらに、熱可塑性ポリウレタンエラストマーを含むことが好ましい。これにより、軽量であり且つ耐摩耗性に優れる積層シートとすることができる。上記熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0055】
上記熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)は、硬質相(ハードセグメント)と軟質相(ソフトセグメント)からなる。上記熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、通常、ポリイシソアネートと、長鎖ポリオールと、鎖伸長剤と、必要に応じて他のイソシアネート反応性化合物とを反応させることにより得られる。
【0056】
上記ポリイソシアネートは、分子内に2以上のイソシアネート基を有する化合物である。上記ポリイソシアネートとしては、例えば、脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネートなどが挙げられる。上記ポリイソシアネートとしては、また、上記脂肪族ポリイソシアネート、脂環式ポリイソシアネ-ト、芳香族ポリイソシアネート、および/または芳香脂肪族ポリイソシアネートによる二量体や三量体、反応生成物または重合物(例えば、ジフェニルメタンジイソシアネートの二量体や三量体、トリメチロールプロパンとトリレンジイソシアネートとの反応生成物、トリメチロールプロパンとヘキサメチレンジイソシアネートとの反応生成物、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、ポリエーテルポリイソシアネート、ポリエステルポリイソシアネートなど)なども挙げられる。上記ポリイソシアネートは、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0057】
上記長鎖ポリオールとしては、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリオレフィンポリオール、ポリアクリルポリオールなどが挙げられる。長鎖ポリオールの数平均分子量は、通常、500以上であり、好ましくは500~10000、より好ましくは600~6000、さらに好ましくは800~4000である。上記長鎖ポリオールは、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0058】
上記鎖伸長剤としては、熱可塑性ポリウレタンエラストマーの製造に通常用いられる鎖伸長剤を用いることができ、例えば、低分子量のポリオール、ポリアミンなどが挙げられる。鎖伸長剤の分子量は、通常、500未満であり、好ましくは300以下である。上記鎖伸長剤は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0059】
上記熱可塑性ポリウレタンエラストマーのショアA硬度は、50~80であることが好ましく、より好ましくは55~75である。上記ショアA硬度が上記範囲内であると、ポリ塩化ビニル系樹脂との相溶性がより良好となる。これにより、上記ショアA硬度が50以上であると、上記発泡樹脂層の前駆体である樹脂組成物の加工性および切断性に優れ、ペレット化が容易となる。また、上記ショアA硬度が80以下であると、積層シートの柔軟性および耐屈曲性(特に、耐低温屈曲性)がより良好となる。また、ポリ塩化ビニル系樹脂との相溶性が良好になり、上記発泡樹脂層の前駆体である未発泡樹脂シートをカレンダー法により得る際のシート加工性に優れる。
【0060】
上記熱可塑性ポリウレタンエラストマーの融点は、140~200℃であることが好ましく、より好ましくは150~180℃である。上記融点が140℃以上であると、発泡樹脂層の形成が良好になり、自動車内装材として使用される際の耐熱性を保持できる。上記融点が200℃以下であると、ポリ塩化ビニル系樹脂との相溶性が良好になりカレンダー加工性が良好である。
【0061】
上記熱可塑性ポリウレタンエラストマーの含有量は、上記ポリ塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、1~50質量部であることが好ましく、より好ましくは5~45質量部、さらに好ましくは8~35質量部である。上記含有量が1質量部以上であると、熱可塑性ポリウレタンエラストマーの含有量がより充分となり耐摩耗性および耐屈曲性(特に、耐低温屈曲性)がより良好となる。上記含有量が50質量部以下であると、ポリ塩化ビニル系樹脂の含有量を充分に確保でき、ポリ塩化ビニル系樹脂の性能をより発揮することができる。また、カレンダー法による未発泡樹脂シートへの加工性がより良好となる。
【0062】
上記発泡樹脂層は、さらに可塑剤を含むことが好ましい。可塑剤を含むと、上記発泡樹脂層および上記積層シートの柔軟性がより向上し、耐屈曲性(特に、耐低温屈曲性)が向上する。
【0063】
上記発泡樹脂層における可塑剤としては、上述の樹脂組成物層中に含まれ得る可塑剤として例示および説明されたものが挙げられる。上記可塑剤は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0064】
上記可塑剤の含有量は、上記ポリ塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、50~90質量部であることが好ましく、より好ましくは60~90質量部である。上記含有量が50質量部以上であると、積層シートの風合いがより良好となる。上記含有量が90質量部以下であると、発泡樹脂層表面への可塑剤のブリードアウトを抑制でき、隣接する層との密着性を高く維持できるため、耐摩耗性がより向上する。また、ポリ塩化ビニル系樹脂が従来有する性能をより発揮することができる。
【0065】
上記発泡樹脂層は、さらに充填剤を含むことが好ましい。充填剤を含むことにより、発泡樹脂層の剛性を高め、耐久性を向上させることができる。
【0066】
上記充填剤としては、特に限定されないが、例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、亜リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、ほう酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化アンチモン、シリカ、ほう酸亜鉛、錫酸亜鉛、ヒドロキシ錫酸亜鉛、みょうばん、タルク、カオリン、クレー、アスベスト、合成ゼオライト、合成ハイドロタルサイトなどの無機充填剤が挙げられる。上記充填剤は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0067】
上記充填剤の含有量は、上記ポリ塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、1~100質量部であることが好ましく、より好ましくは5~30質量部である。上記含有量が1質量部以上であると、発泡樹脂層が独立気泡構造をより形成しやすい。また、発泡樹脂層の剛性および耐久性が向上する。上記含有量が100質量部以下であると、耐屈曲性、耐摩耗性に影響を与えずに含有させることができる。
【0068】
上記発泡樹脂層は、上述の各成分以外のその他の成分を含有していてもよい。上記その他の成分としては、公知乃至慣用の発泡体に含まれる成分が挙げられる。上記その他の成分としては、例えば、上述の樹脂組成物層が含み得るものとして例示および説明されたものが挙げられる。上記その他の成分は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0069】
上記発泡樹脂層は、見掛け密度が0.3~0.7g/cm3であることが好ましく、より好ましくは0.4~0.5g/cm3である。上記見掛け密度が0.3g/cm3以上であると、積層シートの耐摩耗性がより良好となる。上記見掛け密度が0.7g/cm3以下であると、重量がより軽量となるため充分な厚さを確保することができ、柔軟性により優れる。また、上記発泡樹脂層は、上記見掛け密度が0.7g/cm3以下と比較的低くてもポリ塩化ビニル系樹脂の配合による強度を維持することができる。さらに、上記見掛け密度を上記範囲内とすることにより、積層シートの風合いがより良好となる。上記見掛け密度は、発泡樹脂層を30cm四方の大きさに切り抜き、厚さをn=5の平均値とし、切り取った発泡樹脂層の体積を算出し、その発泡樹脂層の質量と体積から算出される。
【0070】
上記発泡樹脂層は、平均セル径が50~250μmであることが好ましく、より好ましくは55~160μm、さらに好ましくは60~100μmである。上記平均セル径が50μm以上であると、柔軟性がより良好となる。上記平均セル径が250μm以下であると、耐摩耗性がより良好となる。
【0071】
上記発泡樹脂層は、最大セル径が80~400μmであることが好ましく、より好ましくは90~250μm、さらに好ましくは100~200μmである。上記最大セル径が80μm以上であると、柔軟性がより良好となる。上記最大セル径が400μm以下であると、耐摩耗性がより良好となる。
【0072】
上記発泡樹脂層の発泡度は、2.0~4.0倍であることが好ましく、より好ましくは2.5~3.0倍である。上記発泡度が2.0倍以上であると、積層シートの風合いがより良好となる。上記発泡度が4.0倍以下であると、積層シートの耐摩耗性がより良好となる。
【0073】
上記発泡度は、以下のようにして求められる。発泡樹脂層の厚さ方向断面の電子顕微鏡写真(50倍)をスキャナーでパソコン内に読み込み、発泡部を白く塗りつぶした後、発泡部と非発泡部の色を白と黒に2値化して白ドット部分を積分により集計する。そして、上記発泡度は下記の式を用いて求められる。
発泡度=(発泡部の面積+非発泡部の面積)/非発泡部の面積
【0074】
上記発泡樹脂層の気泡構造は、独立気泡構造、半独立半連続気泡構造、連続気泡構造のいずれであってもよいが、独立気泡構造を有することが好ましい。独立気泡構造を有する場合、耐摩耗性および耐屈曲性(特に、耐低温屈曲性)がより良好となる。
【0075】
上記発泡樹脂層の厚さは、特に限定されないが、200~650μmであることが好ましく、より好ましくは250~600μm、さらに好ましくは300~500μmである。上記厚さが200μm以上であると、耐摩耗性がより良好となる。上記厚さが650μm以下であると、より軽量化される。
【0076】
(表皮層)
上記表皮層は、耐摩耗性がより向上する観点から、非発泡樹脂層であることが好ましい。上記表皮層は、ポリウレタン系樹脂を含むことが好ましい。ポリウレタン系樹脂を含む表皮層は、熱可塑性ポリウレタンエラストマーを含む場合の上記発泡樹脂層との密着性がより良好となる。これにより、表皮層と発泡樹脂層の層間のズレがより起こりにくく、耐摩耗性が極めて良好となる。また、積層シートの風合いがより良好となる。上記表皮層(非発泡樹脂層)は、単層であってもよいし複層であってもよい。
【0077】
上記ポリウレタン系樹脂は、通常、ポリイシソアネートと、長鎖ポリオールと、鎖伸長剤と、必要に応じて他のイソシアネート反応性化合物とを反応させることにより得られる。上記ポリイソシアネート、長鎖ポリオール、および鎖伸長剤は、それぞれ、上述の発泡樹脂層に含まれ得る熱可塑性ポリウレタンエラストマーの構成成分として例示および説明されたものが挙げられる。上記ポリイソシアネート、長鎖ポリオール、および鎖伸長剤は、それぞれ、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0078】
上記長鎖ポリオールとしては、中でも、ポリカーボネートポリオールが好ましい。すなわち、上記表皮層に含まれ得るポリウレタン系樹脂は、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が好ましい。ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂を用いることにより、積層シートの耐摩耗性がより向上する。
【0079】
上記表皮層中のポリウレタン系樹脂は、水性ポリウレタン系樹脂であることが好ましい。すなわち、上記ポリウレタン系樹脂は、水性ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が好ましい。このような構成を有することにより、耐摩耗性により優れ、さらに、皮脂成分に由来するオレイン酸に対する耐性(耐オレイン酸性)にも優れる。また、有機溶剤を使用しないため、環境負荷の低減にも寄与する。
【0080】
上記表皮中のポリウレタン系樹脂(特に、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂)の含有割合は、特に限定されないが、上記表皮層の総量100質量%に対して、30質量%以上であることが好ましく、より好ましくは50質量%以上である。上記含有割合が30質量%以上であると、上記発泡樹脂層との密着性がより高くなり、積層シートの耐摩耗性がより良好となる。
【0081】
上記表皮層は、ポリウレタン系樹脂以外のその他の成分を含有していてもよい。上記その他の成分としては、上述の樹脂組成物層が含んでいてもよいその他の成分として例示および説明されたものが挙げられる。上記その他の成分は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0082】
上記表皮層の厚さは、特に限定されないが、10~100μmであることが好ましく、より好ましくは20~40μmである。上記厚さが10μm以上であると、積層シートの耐摩耗性がより向上する。上記厚さが100μm以下であると、積層シートがより軽量化される。
【0083】
(表面保護層)
上記表面保護層は、上記積層シートにおいて最表面となる層であり、上記表皮層、上記発泡樹脂層、上記樹脂組成物層、および上記基布層などの内部の層を摩擦などから保護する層であり、上記積層シートの耐摩耗性をより向上させる。
【0084】
上記表面保護層は、ポリウレタン系樹脂を含むことが好ましい。ポリウレタン系樹脂を含む表面保護層は、ポリウレタン系樹脂を含む場合の上記表皮層との密着性がより良好となる。これにより、表面保護層と表皮層の層間のズレがより起こりにくく、耐摩耗性が極めて良好となる。また、積層シートの風合いがより良好となる。
【0085】
上記ポリウレタン系樹脂は、通常、ポリイシソアネートと、長鎖ポリオールと、鎖伸長剤と、必要に応じて他のイソシアネート反応性化合物とを反応させることにより得られる。上記ポリイソシアネート、長鎖ポリオール、および鎖伸長剤は、それぞれ、上述の発泡樹脂層に含まれ得る熱可塑性ポリウレタンエラストマーの構成成分として例示および説明されたものが挙げられる。上記ポリイソシアネート、長鎖ポリオール、および鎖伸長剤は、それぞれ、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0086】
上記長鎖ポリオールとしては、中でも、ポリカーボネートポリオールが好ましい。すなわち、上記表面保護層に含まれ得るポリウレタン系樹脂は、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が好ましい。ポリカーボネートポリウレタン系樹脂を用いることにより、積層シートの耐摩耗性がより向上する。
【0087】
上記表面保護層中のポリウレタン系樹脂は、水性ポリウレタン系樹脂であることが好ましい。すなわち、上記ポリウレタン系樹脂は、水性ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が好ましい。このような構成を有することにより、水性ポリウレタン系樹脂を含む場合の上記表皮層との密着性がより良好となり、耐摩耗性によりいっそう優れ、さらに、耐オレイン酸性にもより優れる。また、有機溶剤を使用しないため、環境負荷の低減にも寄与する。
【0088】
上記表面保護層中のポリウレタン系樹脂(特に、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂)の含有割合は、特に限定されないが、上記表面保護層の総量100質量%に対して、60質量%以上であることが好ましく、より好ましくは90質量%以上である。上記含有割合が60質量%以上であると、積層シートの耐摩耗性が極めて良好となる。上記含有割合は、100質量%であってもよい。
【0089】
上記表面保護層がポリウレタン系樹脂を含む場合、上記表面保護層中のポリウレタン系樹脂(特に、水性ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂)は、カルボジイミド系架橋剤により架橋していることが好ましい。上記カルボジイミド系架橋剤としては、例えば、ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド、ジシクロヘキシルカルボジイミド、テトラメチルキシリレンカルボジイミド、ウレア変性カルボジイミドなどが挙げられる。上記カルボジイミド系架橋剤としては、水性カルボジイミド系架橋剤が好ましい。上記カルボジイミド系架橋剤は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0090】
上記表面保護層は、特に、水性ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂が水性カルボジイミド系架橋剤により架橋していることが好ましい。上記表面処理層は、耐オレイン酸性の高い架橋膜となり、耐摩耗性に加えて、耐オレイン酸性に優れるため、積層シートは、人体の接触による汗や皮脂、保湿用ローションなどの付着が起こり得るところでの使用に対しても良好な耐摩耗性を維持することができる。
【0091】
上記表面保護層中のカルボジイミド系架橋剤由来の構造部の含有量(すなわち、表面保護層を形成する際に配合するカルボジイミド系架橋剤の含有量)は、特に限定されないが、ポリウレタン系樹脂100質量部に対して、0.5~10.0質量部が好ましく、より好ましくは2.0~5.0質量部である。
【0092】
上記表面保護層は、さらに、シリコーン系化合物を含むことが好ましい。シリコーン化合物を含むと、表面の平滑性が向上し、積層シートの耐摩耗性がよりいっそう向上する。上記シリコーン系化合物は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0093】
上記シリコーン系化合物としては、シロキサン結合が2000以下のシリコーン系化合物が好ましい。シリコーン系化合物としては、例えば、シリコーンオイル、変性シリコーンオイル、シリコーンレジンなどが挙げられる。
【0094】
上記シリコーンオイル(ストレートシリコーンオイル)としては、例えば、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイルなどが挙げられる。
【0095】
上記変性シリコーンオイルとしては、例えば、ポリエーテル変性シリコーンオイル(ポリエーテル変性ジメチルシリコーンオイル等)、アルキル変性シリコーンオイル(アルキル変性ジメチルシリコーンオイル等)、アラルキル変性シリコーンオイル(アラルキル変性ジメチルシリコーンオイル等)、高級脂肪酸エステル変性シリコーンオイル(高級脂肪酸エステル変性ジメチルシリコーンオイル等)、フルオロアルキル変性シリコーンオイル(フルオロアルキル変性ジメチルシリコーンオイル等)などが挙げられる。
【0096】
上記シリコーンレジンとしては、ストレートシリコーンレジン、変性シリコーンレジンが挙げられる。ストレートシリコーンレジンとしては、例えば、メチルシリコーンレジン、メチルフェニルシリコーンレジンなどが挙げられる。また、変性シリコーンレジンとしては、例えば、アルキッド変性シリコーンレジン、エポキシ変性シリコーンレジン、アクリル変性シリコーンレジン、ポリエステル変性シリコーンレジンなどが挙げられる。
【0097】
上記表面保護層がポリウレタン系樹脂を含む場合、上記表面保護層中のシリコーン系化合物の含有量は、特に限定されないが、ポリウレタン系樹脂100質量部に対して、3.0~20.0質量部が好ましく、より好ましくは6.0~13.0質量部である。
【0098】
上記表面保護層は、上述の各成分以外のその他の成分を含有していてもよい。上記その他の成分としては、上述の樹脂組成物層が含んでいてもよいその他の成分として例示されたものが挙げられる。上記その他の成分は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0099】
上記表面保護層の厚さは、特に限定されないが、5~40μmであることが好ましく、より好ましくは10~20μmである。上記厚さが5μm以上であると、積層シートの耐摩耗性がより向上する。上記厚さが40μm以下であると、積層シートの耐屈曲性がより向上する。
【0100】
(裏材)
上記裏材は、上記基布層の裏面(開口面側とは反対側の面)に貼り合わせられて使用され、上記基布層の裏面の毛羽立ちを抑制することができる。
【0101】
上記裏材は、通気度が100cc/cm2・s以上であることが好ましく、より好ましくは150cc/cm2・s以上である。上記通気度が100cc/cm2・s以上であると、複数の開口部を有する積層シートの通気度を高く維持することができる。なお、上記通気度は、JIS L1096(2010)の8.26.1A法(フラジール形法)に基づいて測定される値である。
【0102】
上記裏材としては、織物、編物、不織布等の繊維質布帛や天然皮革などの繊維質基材が挙げられる。中でも、伸び自由度がより優れる観点から、編物が好ましい。上記繊維質布帛を構成する繊維としては、上述の基布層における繊維質布帛を構成する繊維として例示および説明されたものが挙げられる。また、上記繊維としては、上記樹脂組成物層にブリードして着色するのを抑制する観点から、原着糸が好ましい。上記繊維は、一種のみが使用されていてもよいし、二種以上が使用されていてもよい。上記裏材は、単層であってもよいし複層であってもよい。
【0103】
上記裏材は、上記基布層の裏面に、接着層を介して貼り合わせられていることが好ましい。上記裏材は、上記接着層を介して、上記基布層の裏面に、複数の点で接着していることが好ましい。これにより、積層シートの通気性を確保しつつ接着することができる。
【0104】
上記接着層を形成する接着剤としては、特に限定されず、公知乃至慣用のものを用いることができる。上記接着剤は、中でも、溶剤を用いなくても熱により溶融させることにより渡航することができ、全面に塗布しても部分的に接着性を発現させることが容易である利点、ヒートシール部分ではヒートシール加工によってさらに大きな接着力が得られる利点を有することから、ホットメルト型(熱溶融型)接着剤であることが好ましい。
【0105】
上記接着剤は、硬化型接着剤であることが好ましい。すなわち、上記接着剤は、硬化型のホットメルト型接着剤であることが好ましい。上記硬化としては、例えば、活性エネルギー線照射による硬化、熱による硬化(熱硬化)、湿気による硬化(湿気硬化)、2液反応型の硬化(2液反応硬化)などが挙げられる。なお、常温で硬化が進行する場合などは、活性エネルギー線照射や加熱等の硬化処理を別途行う必要はない。上記活性エネルギー線としては、可視光、紫外線、電子線などが挙げられる。
【0106】
以上、上記積層シートの一実施形態について
図1を示しつつ説明したが、上記積層シートはこのような態様に限定されるものではない。また、上記積層シートは、突出部12bおよび表皮層14を必須の構成要素とするものではなく、例えば、突出部12bを有しない構造、表皮層14を有しない構造、あるいは突出部12bおよび表皮層14を有しない構造であってもよい。また、上記積層シートは、本開示の効果を損なわない範囲内で、上述した各層以外のその他の層を有していてもよい。上記その他の層としては、例えば、上記発泡樹脂層と上記表皮層との密着性を向上させるためのプライマー層などが挙げられる。
【0107】
(積層シート)
上記積層シートは、通気度が50cc/cm2・s以上であり、好ましくは60cc/cm2・s以上、より好ましくは90cc/cm2・s以上である。通気度が50cc/cm2・s以上であると、通気性に優れ、積層シートを座席用シートに用いた場合にムレ感が小さい。なお、上記通気度は、JIS L1096(2010)の8.26.1A法(フラジール形法)に基づいて測定される値である。
【0108】
上記積層シートにおける、上記基布層もしくは上記樹脂組成物層および上記裏材を両端面に有する積層体の定荷重伸びは、縦横方向ともに、10%以上であることが好ましく、より好ましくは15%以上である。上記定荷重伸びが10%以上であると、上記積層シートの定荷重伸びを高くすることが容易となる。上記定荷重伸びは、試験片として上記積層体を用いること以外は、上述の積層シートの定荷重伸び率試験と同様にして測定および算出される。なお、上記積層体は、上記裏材を一方の端面とし、上記基布層または上記樹脂組成物層を他方の端面とする積層体である。上記樹脂組成物層が上記突出部を有する場合は、上記樹脂組成物層が他方の端面となり、上記積層体は、上記樹脂組成物層および上記裏材を両端面とする積層体である。一方、上記樹脂組成物層が上記突出部を有しない場合は上記基布層が他方の端面となり、上記積層体は、上記基布層および上記裏材を両端面とする積層体である。
【0109】
上記積層シートにおける、上記基布層もしくは上記樹脂組成物層および上記裏材を両端面に有する積層体の通気度は、50cc/cm2・s以上であることが好ましく、より好ましくは60cc/cm2・s以上である。上記通気度が50cc/cm2・s以上であると、複数の開口部を有する積層シートの通気度を高く維持することができる。なお、上記通気度は、JIS L1096(2010)の8.26.1A法(フラジール形法)に基づいて測定される値である。
【0110】
上記積層シートは、BLC値が4.0~6.0であることが好ましく、より好ましくは4.5~5.7である。上記BLC値が4.0以上であると積層シートの風合いが硬すぎず、上記BLC値が6.0以下であると積層シートの風合いがやわらかすぎないため、上記範囲内であることで適度な風合いとすることができる。なお、上記BLC値は、500gの荷重で押し込んだときの歪み測定値をいい、触感計測器(商品名「GT303 Leather Softness Tester」(GOTECH TESTING MACHINRS INC.製)を用いて測定することができる。
【0111】
上記積層シートは、合成皮革用途であることが好ましく、より好ましくは車両内装用合成皮革用途(特に、自動車内装用合成皮革用途)、さらに好ましくは車両用シート用合成皮革用途(特に、自動車シート用合成皮革用途)である。
【0112】
上記積層シートの一実施形態である積層シート1は、例えば以下のようにして作製することができる。まず、樹脂組成物層12が基布層11に含浸した積層体を作製する。樹脂組成物層12を形成するための樹脂組成物として、ポリ塩化ビニル系樹脂、さらに、必要に応じて上記その他の成分などの添加剤を添加し、必要に応じて溶媒に溶解し、混合して樹脂組成物(I)を作製する。樹脂組成物(I)におけるポリ塩化ビニル系樹脂等の各種成分の含有量は、それぞれ、上記樹脂組成物層12における含有量が上述の好ましい範囲内となるように調整される。
【0113】
次に、樹脂組成物層12を形成する樹脂組成物(I)を、基布層11上に塗布して基布層11に含浸させ、その後オーブン等の加熱装置を用いて加熱する。樹脂組成物(I)が溶媒を含む場合は上記加熱により溶媒を揮発させる。突出部12bは、樹脂組成物(I)を塗布後、樹脂組成物(I)が基布層11に完全に含浸する前に加熱して含浸を停止させたり、樹脂組成物(I)の粘度を調整することで形成できる。また、上記加熱は、基布層11への含浸量を所望の深さとなるまで塗布後放置した後に行う。上記加熱は、例えば、温度100~150℃で、1~5分間行う。
【0114】
樹脂組成物(I)の塗布は、公知乃至慣用の方法で行うことができ、例えば、リバースコート法、ロールコート法、ダイコート法、ワイヤバーコート法、ナイフコート法などが挙げられる。また、他の方法として、基布層11を樹脂組成物(I)にディッピングする方法が挙げられる。
【0115】
次に、樹脂組成物(I)が含浸した基布層11の含浸側に発泡樹脂層13を形成する。発泡樹脂層13は、例えば、以下のようにして形成することができる。まず、ポリ塩化ビニル系樹脂などの樹脂成分を加熱溶融して混合し、さらに、必要に応じて可塑剤、充填剤、上記その他の成分、発泡剤、発泡促進剤、セル調整剤などの添加剤を添加して混練し、その後冷却して樹脂組成物(II)(ペレットなど)を作製する。樹脂組成物(II)におけるポリ塩化ビニル系樹脂、熱可塑性ポリウレタンエラストマー等の各種成分の好ましい含有量は、それぞれ、上述の発泡樹脂層における含有量と同じである。
【0116】
上記発泡剤としては、例えば、超臨界流体;炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、亜硝酸アンモニウム、水素化ホウ素ナトリウム、アジド類等の無機系発泡剤;アゾ系発泡剤、ニトロソ系発泡剤、ヒドラジド系発泡剤、カルバジド系発泡剤、トリアジン系発泡剤等の有機系発泡剤;イソブタン、ペンタン等の加熱膨張性化合物;上記加熱膨張性化合物が、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクロニトリル、ポリ(メタ)アクリル酸エステル等の熱可塑性樹脂からなるマイクロカプセルに封入された熱膨張性微粒子(熱膨張性マイクロカプセル)などが挙げられる。上記発泡剤は、一種のみを使用してもよいし、二種以上を使用してもよい。
【0117】
上記アゾ系発泡剤としては、例えば、アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチルニトリル、ジアゾアミノベンゼン、ジエチルアゾジカルボキシレート、ジイソプロピルアゾジカルボキシレート、アゾビス(ヘキサヒドロベンゾニトリル)などが挙げられる。上記ニトロソ系発泡剤としては、例えば、N,N’-ジメチル-N,N’-ジニトロテレフタルアミン、N,N’-ジニトロペンタメチレンテトラミンなどが挙げられる。上記ヒドラジド系発泡剤としては、例えば、ベンゼンスルホニルヒドラジド、p-トルエンスルホニルヒドラジド、3,3’-ジスルホンヒドラジドフェニルスルホン、トルエンジスルホニルヒドラゾン、チオビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、p,p’-オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)などが挙げられる。上記カルバジド系発泡剤としては、例えば、p-トルエンスルホニルセミカルバジド、4,4’-オキシビス(ベンゼンスルホニルセミカルバジド)などが挙げられる。上記トリアジン系発泡剤としては、例えば、トリヒドラジノトリアジン、1,3-ビス(o-ビフェニルトリアジン)などが挙げられる。
【0118】
上記発泡樹脂層は、発泡剤を用いて作製されたものであることが好ましく、特に熱膨張性マイクロカプセルを用いて作製されたものが好ましい。発泡剤を用いた場合、機械的撹拌等により発泡させる方法と比べて、発泡樹脂層中のセル径がより均一なものとなる。また、熱膨張性マイクロカプセルを用いた場合、より微小で均一なセル径を有する発泡樹脂層を作製することができる。
【0119】
樹脂組成物(II)における発泡剤の含有量は、特に限定されないが、得ようとする発泡樹脂層の用途に応じて適宜選択され、例えば、ポリ塩化ビニル系樹脂100質量部に対して、0.1~10質量部であることが好ましく、より好ましくは1~5質量部である。
【0120】
次に、樹脂組成物(II)から発泡樹脂層13を形成する。例えば発泡剤を含む樹脂組成物(II)を溶融または溶解後、シート状に加工して未発泡樹脂シート(未発泡樹脂層)を成形し、得られた未発泡樹脂シートを、樹脂組成物(I)が含浸した基布層11の含浸側に貼り合わせ、その後オーブン等の加熱装置を用い、必要に応じて加圧しながら熱処理し、発泡剤を発泡させ、溶媒を含む場合は溶媒を揮発させて、発泡樹脂層13を形成することができる。上記未発泡樹脂シートの成形方法は、公知乃至慣用の方法で行うことができるが、高粘度の樹脂組成物からのシート化が容易であり、広幅の積層シートを生産することが容易である観点から、カレンダー法が好ましい。また、他の方法として、樹脂組成物(II)を溶融または溶解後、剥離シートなどの基材上に塗布して塗膜(未発泡樹脂層)を形成し、得られた塗膜を樹脂組成物(I)が含浸した基布層11の含浸側に貼り合わせ、その後オーブン等の加熱装置を用いて発泡剤を発泡させ、発泡樹脂層13を形成してもよい。上記発泡剤を発泡させる際の加熱により、発泡樹脂層13が形成されるとともに、基布層11に含浸した樹脂組成物(I)から樹脂組成物層12(含浸部12aおよび突出部12b)が形成され、含浸した樹脂組成物層12が基布層11の繊維を拘束する。さらに、その他の方法として、未発泡樹脂層を発泡させて発泡樹脂層13を作製した後に、得られた発泡樹脂層13を樹脂組成物(I)が含浸した基布層11の含浸側に貼り合わせてもよい。
【0121】
次に、発泡樹脂層13表面に表皮層14を形成する。表皮層14を形成するための樹脂組成物を発泡樹脂層13表面に塗布して塗膜を形成し、その後塗膜をオーブン等の加熱装置を用い、ポリウレタン系樹脂を形成するためのイソシアネートとポリオールとの反応促進による硬化、溶媒の揮発、架橋剤による硬化などにより表皮層14を形成する。樹脂組成物の塗布は、公知乃至慣用の方法で行うことができる。
【0122】
次に、表皮層14表面に表面保護層15を形成する。表面保護層15を形成するための樹脂組成物を表皮層14表面に塗布して塗膜を形成し、その後塗膜をオーブン等の加熱装置を用い、ポリウレタン系樹脂を形成するためのイソシアネートとポリオールとの反応促進による硬化、溶媒の揮発、架橋剤による硬化などにより表面保護層15を形成する。上記樹脂組成物の塗布は、公知乃至慣用の方法で行うことができる。以上のようにして、基布層11、基布層11に含浸した樹脂組成物層12、発泡樹脂層13、表皮層14、および表面保護層15をこの順に備える積層体を作製することができる。
【0123】
次に、上記積層体にパーフォレーション加工を行って開口部20を形成する。パーフォレーション加工は、所望の形状となるように公知乃至慣用の方法で実施される。
【0124】
次に、パーフォレーション加工が施された上記積層体の基布層11の裏面11bに、接着層16を介して裏材17を貼り合わせる。まず、基布層11の裏面11bに接着層16を形成する接着剤を、基布層11の裏面11bに点在するようにグラビア塗工などにより塗布する。その後、裏材17の接着面を基布層11の裏面11bに重ね合わせ、次いで加熱することで接着剤を加熱溶融および硬化させ、接着層16を形成して裏材17を貼り合わせる。
【0125】
なお、表面保護層15表面にエンボス加工でシボ柄を付してもよい。以上のようにして、積層シート1を作製することができる。
【0126】
上記積層シートによれば、張り栄えが良く、開口部からの毛羽の露出が起こりにくい積層シート、特に合成皮革を提供することができる。このため、外観に優れ、毛羽により邪魔されずに開口部から基布層の生地を覗かせることができ、生地の色や柄を変えることでデザイン性の高いパーフォレーション積層シート(特に、パーフォレーション合成皮革)を作製することができる。また、基布層と発泡樹脂層等のその他の層との密着性に優れ、中でも、発泡樹脂層がポリ塩化ビニル系樹脂を主成分とする場合の密着性は特に優れるため、パーフォレーション加工を施した場合であっても密着性が高く、耐摩耗性に優れる。このため、特に層間摩擦が起こりやすい自動車用シート座面にも上記積層シートを使用することができる。さらに、ポリ塩化ビニル系樹脂を使用することにより、ポリウレタン系樹脂を使用する場合に対し、難燃性および経済性にも優れる。また、上記積層シートによれば、複数の開口部を有するため、自動車用座面シートの合成皮革に用いた場合、搭乗者の椅子接触面での通気性を確保し、ムレ防止による快適性を得ることができる。このため、上記積層シートは、屋外で長時間座ることになる自動車に特に好ましく使用することができる。
【実施例0127】
以下に実施例を挙げて本開示の発明をより詳細に説明するが、本開示の発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、表に記載の添加量は、各成分の配合量(すなわち、各原料中の有効成分の配合量。所謂純分)であり、特記しない限り「質量部」で表す。
【0128】
実施例1
ポリエステル製基布(商品名「TU16002」、savings-textile社製、目付:255g/m2、厚さ:800μm、経編)の一方の面に、ポリ塩化ビニル(平均重合度:1300)100質量部およびフタル酸ジアルキル系可塑剤90質量部からなるペースト状樹脂組成物を、基布の質量100質量部に対して88質量部となる量で塗布し、一部を基布に含浸させた。その後、120℃で3分間加熱して樹脂組成物を仮固定し、樹脂仮固定基布を得た。
【0129】
一方、ポリ塩化ビニル(平均重合度:2000)100質量部、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(ショアA硬度:75、融点:170℃)10質量部、フタル酸ジアルキル系可塑剤90質量部、発泡剤(アゾジカルボンアミド)2.5質量部、および添加剤(充填剤、安定剤、耐光向上剤、顔料、および難燃剤を含む)15質量部を添加して160℃で5分間混練し、その後冷却して樹脂組成物を作製した。得られた樹脂組成物をカレンダー法によりシート化して未発泡樹脂シートを得、次いで加熱状態で、上記樹脂仮固定基布の樹脂組成物表面に貼り合わせ、210℃で2分間加熱して発泡剤を発泡させ、厚さ500μmの樹脂発泡体を形成し、同時に、仮固定された樹脂組成物を固化し、含浸部において基布の繊維を拘束し、また突出部を形成した。
【0130】
次に、樹脂発泡体表面に、リバースコーターを用いて、水性ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(商品名「ハイドラン WLS-210」、DIC株式会社製)100質量部に、顔料10質量部、濡れ性向上剤0.3質量部、消泡剤0.3質量部、および架橋剤3質量部を混合して得た組成物を、塗布して塗膜を形成し、当該塗膜を130℃で5分間加熱して塗膜を乾燥・架橋させ、厚さ30μmの表皮層を形成した。次に、表皮層表面に、リバースコーターを用いて、水性ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂(商品名「WF-78-143」、Stahl社製)、シリコーン系化合物(商品名「HM-54-002」、Stahl社製)、およびカルボジイミド系架橋剤混合して得た組成物を、塗布して塗膜を形成し、当該塗膜を130℃で5分間加熱して塗膜を乾燥・架橋させ、厚さ20μmの表面処理層を形成した。そして、形成された表面処理層にエンボス加工でシボ柄を付した。
【0131】
次に、直径:1.1mmのパンチングピンを5mm間隔の菱型状にパーフォレーションされるように配置したパンチングプレートを連続で上下運動させ、その間に上記積層シートを通過させて、パーフォレーション加工を行い、全ての層を貫通する複数の開口部を設けた。
【0132】
次に、基布の非含浸面(樹脂発泡体が形成されていない面)にウレタン系の反応性ホットメルト型接着剤(商品名「NH128」、DIC株式会社製)を90℃で加熱し、グラビアコート法により点在するように塗布し、ポリエステル製裏材(商品名「CU19702」、savings-textile社製、丸編)を基布の接着剤塗布面を貼り合わせ、常温で24時間放置して裏材を基布の非含浸面に貼り合わせた。以上のようにして、積層シートを作製した。
【0133】
実施例2~4、比較例1~2
樹脂の含浸量を表に示すように変更したこと以外は実施例1と同様にして積層シートを作製した。
【0134】
比較例3
基布としてポリエステル製基布(商品名「WO19401」、savings-textile社製、目付:202g/m2)を用いたこと以外は実施例1と同様にして積層シートを作製した。
【0135】
比較例4
パーフォレーション加工において、直径:0.8mmのパンチングピンを使用したこと以外は実施例1と同様にして積層シートを作製した。
【0136】
比較例5
ポリエステル製基布(商品名「TU16002」、savings-textile社製、目付:255g/m2、厚さ:800μm、経編)にポリウレタン樹脂(商品名「MP-865PS」、DIC株式会社製)を基布質量100質量部に対して56質量部となる量で含浸して、湿式凝固させたのち120℃で3分間乾燥して樹脂含浸基布を得た。この樹脂含浸基布を用いたこと以外は実施例1と同様にして積層シートを作製した。
【0137】
<評価>
実施例および比較例で得られた積層シートに関し、以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0138】
(1)引張強度
実施例および比較例で使用した基布から、幅50mm、長さ150mmの試験片を、経方向および緯方向から各々3枚採取した。室温20±2℃、湿度65±5%RHの状況下で、試験片の両端をつかみ具でたるみのないように挟み、引張試験機(商品名「オートグラフ」、株式会社島津製作所製)を用いて、つかみ幅50mm、つかみ間隔100mm、つかみ具の移動速度200mm/minで試験片を引っ張り、試験片を破断させた。そして、縦方向および横方向それぞれについて、試験片が破断するまでの単位幅当たりの最大荷重(N/cm)を測定し、3枚の試験片の平均値を求めた。
【0139】
(2)定荷重伸び率(基布、裏材、積層体(A))
実施例および比較例で使用または作製した基布、裏材、および積層体(A)から、幅50mm、長さ250mmの試験片を、経方向および緯方向から各々3枚採取した。次に、試験片の中央部に標線間距離100mmとなるように2本の標線を付けた。これをつかみ間隔150mmとして、試験装置(商品名「オートグラフ」、株式会社島津製作所製)に、取り付け、静かに78.4N(8kgf)の荷重をかけた。荷重をかけたまま10分間放置し、その後標線間距離を求めた。そして、縦方向および横方向それぞれについて、定荷重伸び率を以下の式により算出し、3枚の試験片の平均値を求めた。なお、積層体(A)は、実施例および比較例で作製した積層シートから、表面保護層、表皮層、および樹脂発泡体を剥離して得た積層体である。
定荷重伸び率(%)=A-100
A:荷重をかけて10分間後の標線間距離(mm)
【0140】
(3)通気度
実施例および比較例で使用または作製した裏材および積層体(A)について、試験装置(商品名「FX3300」、TEXTEST社製)を用いて、JIS L1096(2010)の8.26.1A法(フラジール形法)の条件で通気度を測定した。
【0141】
(4)張り栄え
実施例および比較例で得られた積層シートについて、自動車用座席の上張り(表皮材)とした場合の、張り感の有無を5名で目視評価し、積層シートの張り栄えを以下の判定基準に従って判定した。
[判定基準]
○(良好):3名以上が「張り感があり、シワが無い」と評価
×(不良):2名以下が「張り感があり、シワが無い」と評価
【0142】
(5)外観
実施例および比較例で得られた積層シートの開口部付近を5名で目視評価し、外観を以下の判定基準に従って判定した。
[判定基準]
○(良好):3名以上が「毛羽などが出ていない綺麗な開口部」と評価
×(不良):2名以下が「毛羽などが出ていない綺麗な開口部」と評価
【0143】
(6)毛羽立ち(表側)
実施例および比較例で得られた積層シートの裏材面を、デーバー摩耗試験機(商品名「テーバー式アブレーションテスター」、株式会社安田精機製作所製)を用いて、CS#10の摩耗輪を使って、荷重4.9Nの条件で100回摩耗させた。その後、表面保護層側から掃除機で吸引し、開口部付近を目視で観察し、表側の毛羽立ちを以下の判定基準に従って判定した。
[判定基準]
○(良好):表面保護層側の開口部に毛羽が確認できないもの
×(不良):表面保護層側の開口部に毛羽が確認できるもの
【0144】
(7)難燃性
実施例および比較例で得られた積層シートについて、縦方向及び横方向から、350mm×100mmの試験片を切り出し、FMVSS No.302燃焼性試験の方法で、試験片を水平に保持し、38mm炎を15秒間接炎し、A標線からB標線間254mmに対する燃焼速度を測定し、積層シートの難燃性を以下の判定基準に従って判定した。
[判定基準]
○(良好):燃焼速度が80mm/min以下
×(不良):燃焼速度が81mm/min以上
【0145】
(8)学振摩耗性
実施例および比較例で得られた積層シートから、 幅10mm、長さ150mmの大きさの試験片を、縦方向(長手方向)から1枚採取し、裏面(裏材面)に幅10mm、長さ15mm、厚さ3mmの大きさのウレタンフォームを貼り付けた。JIS L0849に規定する「学振形染色摩擦堅老度試験機」(株式会社大栄科学精機製作所製)を用い、JIS L3102の6号綿布による摩擦試験を実施した。荷重1kgで3万回往復摩耗した。そして、摩耗後の試験片(表面保護層表面)を目視で観察し、学振摩耗性について以下の判定基準に従って判定した。
[判定基準]
○(良好):表面保護層が摩耗で削り取られることなく残っており、表皮層の露出がないもの
△(使用可能):表面保護層が摩耗で削り取られているが基布層の露出のないもの
×(不良):基布層の露出のあるもの
【0146】
(9)BLC値(風合い)
実施例および比較例で得られた積層シートから、150mm四方の大きさの試験片を1枚採取し、「GT303 Leather Softness Tester」(GOTECH TESTING MACHINRS INC.製)を用いて、500gの荷重で押し込んだときの歪み測定値(BLC値)を測定した。歪み測定値が大きいものほど柔らかい風合いであることを示す。
【0147】
(10)含浸部の深さ
実施例で得られた積層シートについて、厚さ方向の断面を、電子顕微鏡(商品名「VHX-5000」、株式会社キーエンス社製)を用いて観察した。実施例1の断面写真を
図2に示す。その結果、いずれの積層シートにおいても含浸部の深さは、基布の厚さに対して30~70%の範囲内であった。なお、
図2に示す積層シートは、裏材が貼り合わせられていないものである。
【0148】
【0149】
実施例1~4の積層シートは、張り栄えが良く、外観が良好であり、表側の毛羽立ちが起こりにくく毛羽の露出が生じなかった。また、通気性、難燃性、および学振摩耗性にも優れていた。一方、樹脂組成物の量が少ない場合(比較例1)、基布層の拘束が不十分であり、外観が劣っており、表側の毛羽立ちが認められた。樹脂組成物の量が多い場合(比較例2)、基布層の伸びが低下し、張り栄えが劣っており、また外観も劣っていた。基布層の低荷重伸びが低い場合(比較例3)、張り栄えが劣っており、また外観も劣っていた。積層シートの通気度が低い場合(比較例4)、通気性が劣っていた。基布層に含浸させる樹脂としてポリウレタン系樹脂を用いた場合(比較例5)、難燃性および学振摩耗性が劣っていた。