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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022049161
(43)【公開日】2022-03-29
(54)【発明の名称】機械部品
(51)【国際特許分類】
   B22F 3/16 20060101AFI20220322BHJP
   B22F 3/105 20060101ALI20220322BHJP
   C22C 19/07 20060101ALI20220322BHJP
【FI】
B22F3/16
B22F3/105
C22C19/07 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020155229
(22)【出願日】2020-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(71)【出願人】
【識別番号】000222772
【氏名又は名称】東洋刃物株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】千葉 晶彦
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 信之
(72)【発明者】
【氏名】志村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】神尾 大介
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA10
4K018AB02
4K018AC03
4K018BA04
4K018EA60
4K018KA02
4K018KA03
4K018KA15
4K018KA62
(57)【要約】
【課題】超硬合金並みの硬度と、より優れた靭性とを兼ね備えた、コバルト基合金から成る機械部品を提供する。
【解決手段】C:2.5~5.0質量%と、Cr:26~35質量%と、Mo:10質量%以下と、W:8~18質量%と、不可避不純物とを含み、残部がCoから成るCo基合金粉末を材料とし、積層造形法を利用して形成されている。また、10μm以下の炭化物が均一に分散化されたCo基合金から成っている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:2.5~5.0質量%と、Cr:26~35質量%と、Mo:10質量%以下と、W:8~18質量%と、不可避不純物とを含み、残部がCoから成るCo基合金粉末を材料とし、積層造形法を利用して形成された、10μm以下の炭化物が均一に分散化されたCo基合金から成ることを特徴とする機械部品。
【請求項2】
前記Co基合金は、前記炭化物が立体的に網目状に繋がっていることを特徴とする請求項1記載の機械部品。
【請求項3】
前記積層造形法により、前記Co基合金粉末に電子ビームまたはレーザービームを照射して焼結溶解することでニアネットシェイプに成形した後、仕上げ加工して形成されていることを特徴とする請求項1または2記載の機械部品。
【請求項4】
刃物から成ることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の機械部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、機械部品として使用される材料として、ダイス鋼(SKD材)、高速度工具鋼(ハイス)、セラミックス、超硬合金等がある。これらの材料を用いた機械部品として、例えば、高速度工具鋼系、ダイス鋼系、または合金工具鋼系の粉末材料を用いて、熱間静水圧プレスにより成形体を作成し、この成形体を所望の寸法に切断して最終形状に加工して製造された刃物類が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかし、この機械部品は、材料として粉末ハイスを用いた場合、シャルピー衝撃値が約30~42J/cm2であり、超硬合金(約3J/cm2)と比べて靭性に優れているが、硬度はHRC(ロックウェル硬さ)62~64であり、超硬合金(HRC>70)と比べてやや低くなっている。また、ダイス鋼を用いた場合も、シャルピー衝撃値が約18~20J/cm2であり、超硬合金と比べて靭性は優れているが、硬度はHRC62であり、超硬合金と比べてやや低くなっている。このように、従来の機械部品は、硬くなるほど靭性(シャルピー衝撃値:動的靱性)が低下する傾向があり、超硬合金に近い高硬度領域で、ダイス鋼や高速度工具鋼の鉄鋼材料並みの靭性を有する材料は存在しないという問題があった。
【0004】
そこで、この問題を解決するために、本発明者等は、積層造形法を利用し、優れた硬度および靭性を兼ね備えた、コバルト基合金から成る機械部品の開発を進めている。すなわち、C:0.5~5.0質量%と、Cr:26~35質量%と、Mo:5.0~7.0質量%と、不可避不純物とを含み、残部がCoから成るCo基合金粉末を材料として、積層造形法を利用して形成され、硬度がHRC63の機械部品を開発している(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
また、さらに硬度および靭性を向上させるために、C:2.5~5.0質量%と、Cr:26~35質量%と、Mo:14~20質量%と、不可避不純物とを含み、残部がCoから成るCo基合金粉末や、C:2.5~5.0質量%と、Cr:26~35質量%と、W:20~26質量%と、不可避不純物とを含み、残部がCoから成るCo基合金粉末や、C:2.5~5.0質量%と、Cr:26~35質量%と、Mo:10~15質量%と、W:5~7質量%と、不可避不純物とを含み、残部がCoから成るCo基合金粉末を材料とし、積層造形法を利用して形成された、10μm以下の炭化物が均一に分散された機械部品を開発している(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11-106801号公報
【特許文献2】特開2015-190004号公報
【特許文献3】特開2019-014921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3に記載の機械部品は、硬度がHRC70.1~70.4、シャルピー衝撃値が8~12J/cm2であり、超硬合金並みの硬度、および、超硬合金の約3~4倍で鉄鋼材料に近い靭性を有しているが、より優れた硬度や靭性を有する機械部品の開発が期待されている。
【0008】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、超硬合金並みの硬度と、より優れた靭性とを兼ね備えた、コバルト基合金から成る機械部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明者らは、成分の含有量等を変えてみることにより、さらに靭性の向上を図ることができないかと考えて、鋭意検討し、試行錯誤を重ねた結果、本願発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明に係る機械部品は、C:2.5~5.0質量%と、Cr:26~35質量%と、Mo:10質量%以下と、W:8~18質量%と、不可避不純物とを含み、残部がCoから成るCo基合金粉末を材料とし、積層造形法を利用して形成された、10μm以下の炭化物が均一に分散化されたCo基合金から成ることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る機械部品は、10μm以下の炭化物が均一に分散されているため、硬度が高く、HRC≧72となり、超硬合金並みの高硬度を有し、耐摩耗性に優れている。このため、刃先などの薄く形成された部分等の強度を高めることができる。積層造形法を利用して形成することにより、炭化物などの析出物を10μm以下まで容易に微細化することができ、硬度を高めることができる。また、各組成をそれぞれの割合で配合することにより、ダイス鋼や高速度工具鋼に近い比較的高い靭性を得ることができる。このように、本発明に係る機械部品は、コバルト基合金から成る積層造形体であり、超硬合金並みの硬度と、より優れた靭性とを兼ね備えている。
【0012】
本発明に係る機械部品は、Cが2.5質量%より少ないとき、Crが26質量%より少ないとき、および、Wが8質量%より少ないときの、少なくともいずれか1つのときには、硬度がHRC72より低くなってしまう。また、Cが5.0質量%より多いとき、Crが35質量%より多いとき、Moが10質量%より多いとき、および、Wが18質量%より多いときの、少なくともいずれか1つのときには、靭性が著しく低下し、脆くなって使用できなくなってしまう。本発明に係る機械部品で、不可避不純物は、Si、Mn、N、Ni、Ti、Fe、Nb、V、Taなどである。
【0013】
本発明に係る機械部品で、Moは0質量%より多く、わずかでも含まれていることが好ましい。また、特に優れた硬度および靭性を得るために、Moは、3質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、また、8質量%以下であることが好ましい。Wは、特に優れた硬度および靭性を得るために、10質量%以上であることが好ましく、13質量%以上であることがより好ましい。
【0014】
本発明に係る機械部品は、積層造形法を利用することにより、材料として炭素を含み硬度が高いCo基合金粉末を使用しても、容易に製造することができる。また、本発明に係る機械部品は、特に、前記積層造形法により、前記Co基合金粉末に電子ビームまたはレーザービームを照射して焼結溶解することでニアネットシェイプに成形した後、仕上げ加工して形成されていることが好ましい。この場合、鍛造、圧延等の機械加工や、原材料からの切り出し工程、生加工(内径孔加工)、焼入れ・焼き戻し等の複雑な製造工程が不要となり、さらに容易かつ安価に製造することができる。また、様々な形状・種類のものを製造することができ、多種少量生産を行うことができる。
【0015】
本発明に係る機械部品で、前記Co基合金は、前記炭化物が立体的に網目状に繋がっていることが好ましい。この場合、より優れた硬度および靭性が得られる。
【0016】
本発明に係る機械部品は、いかなる用途の部品であってもよい。本発明に係る機械部品は、優れた硬度および靭性を有し、耐食性および耐摩耗性も高いため、特に刃物から成ることが好ましい。この場合、刃先の強度が高く、刃先が割れたり欠けたりしにくい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、超硬合金並みの硬度と、より優れた靭性とを兼ね備えた、コバルト基合金から成る機械部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施の形態の機械部品に対応する試験試料の、(a)水平断面、(b)垂直断面の電子顕微鏡写真である。
図2図1に示す試験試料の、Coマトリックス部分を除いた、立体的に網目状に繋がった炭化物のイメージを示す斜視図である。
図3図1に示す試験試料と同じ成分を有する鋳造材の断面の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、実施例を挙げながら、本発明の実施の形態について説明する。
本発明の実施の形態の機械部品は、C:2.5~5.0質量%と、Cr:26~35質量%と、Mo:10質量%以下と、W:8~18質量%と、不可避不純物とを含み、残部がCoから成るCo基合金粉末を材料とし、積層造形法を利用して形成されている。本発明の実施の形態の機械部品は、積層造形体であり、10μm以下の炭化物が均一に分散化されたCo基合金から成っている。
【実施例0020】
本発明の実施の形態の機械部品に対応する粉末試料として、Cr:27質量%、Mo:6質量%、W:16質量%、Co:残部を含むCo基合金組成物に、炭素を3質量%添加した原料を真空溶解し、窒素ガス中でガスアトマイズして、Co基合金粉末を作製した。これらの粉末の平均粒径は、アトマイズ条件と、メッシュ篩とを調整することで、1μmから200μmとした。
【0021】
粉末試料を材料として、積層造形法を利用して、積層造形体の試験試料を作製した。積層造形法では、真空チャンバー内でCo基合金粉末に電子ビームを照射して焼結溶解することにより、ニアネットシェイプに成形した。このとき、70μmの1層の厚さごとに、ステージX軸およびY軸に垂直な方向に交互に電子ビームをスキャンして、焼結溶解した。ニアネットシェイプに成形後、Heガス雰囲気で冷却を行い、さらに仕上げ加工を行って、一辺が10mmの立方体形状の試験試料を作製した。
【0022】
なお、使用した電子ビーム積層造形(EBM)装置は、Arcam EBM A2X system(Arcam AB, Molndal, Sweden)である。積層造形の条件として、加速電圧を60kV、予備加熱温度域を750~850℃とした。また、試験試料には、それぞれの主成分以外にも、Si、Mn、N、Ni、Ti、Fe、Nb、V、Ta等の不可避不純物が含まれている可能性がある。なお、ここでは、積層造形に電子ビームを用いたが、レーザービームを用いても同様に試料を作製することができる。作製した試験試料の組成を、表1に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
試験試料について、シャルピー衝撃値およびロックウェル硬度(HRC)の測定を行った。それらの測定結果を、表1に示す。また、表1には、比較試料1~3として、本発明者等によって製造された、特許文献3に記載の試験試料1~3の組成、シャルピー衝撃値およびロックウェル硬度(HRC)も示す。表1に示すように、試験試料は、硬度がHRC72であり、比較試料1~3よりも硬く、超硬合金並みの硬度であることが確認された。また、試験試料は、シャルピー衝撃値が15J/cm2で超硬合金の約5倍であり、比較試料1~3よりも大きく、より鉄鋼材料に近い靭性を有することが確認された。
【0025】
次に、試験試料について、積層造形の際の積層面に沿った水平断面、および、積層方向に沿った垂直断面に対して、電子顕微鏡写真による組織観察を行った。水平断面および垂直断面は、それぞれ一辺10mmの立方体形状を成す試験試料の中心を通る断面とした。試験試料の水平断面および垂直断面の電子顕微鏡写真を、それぞれ図1(a)および(b)に示す。
【0026】
図1に示すように、試験試料は、組織中に微細化された炭化物が析出していることが確認された(図中の白色および灰色の部分)。また、これらの炭化物は、径や大きさが10μm以下であり、組織中にほぼ均一に分散されていることも確認された。これらの炭化物は主に、Cr、MoおよびWの炭化物である。なお、図中の黒色部分は、Coマトリックスである。
【0027】
また、図1では、析出した炭化物が、水平断面および垂直断面のどちらにも、10μm以下で網目状に微細分散していることから、図2に示すように、炭化物は立体的に網目状に繋がって強く結びついて存在しているものと考えられる。このように、試験試料は、積層造形法を利用して形成することにより、炭化物などの析出物が10μm以下まで微細化されるとともに、その炭化物が立体的に網目状に繋がるため、表1に示すような非常に優れた硬度および靭性を有していると考えられる。
【0028】
表1に示す硬度とシャルピー衝撃値の結果、および図の組織観察の結果から、本発明の実施の形態の機械部品は、耐摩耗性や、刃先などの薄く形成された部分の強度(靭性)を高めることができるといえる。このため、摺動部品(ベアリング、ガイドレール等)や刃物などにしたときでも、長寿命で、割れたり欠けたりしにくい。
【0029】
なお、比較のため、試験試料と同じ成分の原料を真空溶解し、その溶湯を金型に鋳込んで作成したインゴット(以下、「鋳造材」という)についても、シャルピー衝撃値およびロックウェル硬度(HRC)の測定、ならびに、電子顕微鏡写真による組織観察を行った。鋳造材の組成、シャルピー衝撃値およびロックウェル硬度(HRC)を表1に、鋳造材の断面の電子顕微鏡写真を、図3に示す。
【0030】
表1に示すように、鋳造材は、硬度がHRC72であり、積層造形体の試験試料と同じ硬度であった。また、図3に示すように、鋳造材は、析出した炭化物が組織中に均一に分散しておらず、互いに立体的に強く結びついていない。このため、脆くて崩れやすく、構造物として成り立たないため、表1に示すように、シャルピー衝撃値を測定することはできなかった。このように、同じ成分であっても、鋳造材では靭性は得られず、機械部品として使用することは不可能であるといえる。
図1
図2
図3