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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022049274
(43)【公開日】2022-03-29
(54)【発明の名称】汚染防止ブース
(51)【国際特許分類】
   A61G 10/00 20060101AFI20220322BHJP
   A61L 9/16 20060101ALI20220322BHJP
   C12M 1/00 20060101ALN20220322BHJP
【FI】
A61G10/00 C
A61L9/16 F
C12M1/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020155392
(22)【出願日】2020-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】000163660
【氏名又は名称】ケンブリッジフィルターコーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071010
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 行造
(74)【代理人】
【識別番号】100118647
【弁理士】
【氏名又は名称】赤松 利昭
(74)【代理人】
【識別番号】100123892
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 忠雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169993
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 千裕
(74)【代理人】
【識別番号】100173978
【弁理士】
【氏名又は名称】朴 志恩
(72)【発明者】
【氏名】杉山 訓樹
【テーマコード(参考)】
4B029
4C180
4C341
【Fターム(参考)】
4B029AA18
4B029BB01
4B029CC01
4B029CC02
4C180AA07
4C180DD09
4C180HH05
4C180LL11
4C180MM10
4C341KK01
4C341KL07
(57)【要約】
【課題】患者からの細菌やウィルスから医師、看護師、検査員等の患者の周囲で従事する医療関係者等への汚染を防止する、簡易設置可能なブースを提供することを課題とすること。
【解決手段】少なくとも患者1の頭部2を覆う閉鎖空間22を形成する覆い20と、閉鎖空間22内に給気する給気用ファンフィルターユニット50と、閉鎖空間22内から排気する排気用ファンフィルターユニット60とを備え、給気用ファンフィルターユニット50から給気される空気流82の方向と、排気用ファンフィルターユニット60にて吸引される空気流84との方向が60°~120°の角度を有する、汚染防止ブース10。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも患者の頭部を覆う閉鎖空間を形成する覆いと;
前記閉鎖空間内に給気する給気用ファンフィルターユニットと;
前記閉鎖空間内から排気する排気用ファンフィルターユニットとを備え;
前記給気用ファンフィルターユニットから給気される空気流の方向と、前記排気用ファンフィルターユニットから吸引される空気流との方向が60°~120°の角度を有する;
汚染防止ブース。
【請求項2】
前記排気用ファンフィルターユニットが前記覆いの上部に設けられ、前記排気用ファンフィルターユニットが前記覆いの側部に設けられ;
前記覆いは、前記頭部の下方で開口されている:
請求項1に記載の汚染防止ブース。
【請求項3】
前記排気用ファンフィルターユニットから排気される空気の量は、前記給気用ファンフィルターユニットから給気される空気の量より多い、
請求項1または請求項2に記載の汚染防止ブース。
【請求項4】
前記給気用ファンフィルターユニットから給気される空気流は、0.2~0.45m/secの流速である;
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の汚染防止ブース。
【請求項5】
前記排気用ファンフィルターユニットで吸引される空気流は、0.26~1.2m/secの流速である;
請求項4に記載の汚染防止ブース。
【請求項6】
前記給気用ファンフィルターユニットは、前記頭部から25~150cmの上方に設置される;
請求項4又は請求項5に記載の汚染防止ブース。
【請求項7】
前記排気用ファンフィルターユニットは、前記頭部から15~170cmの側方に設置される;
請求項4ないし請求項6のいずれか1項に記載の汚染防止ブース。
【請求項8】
前記給気用ファンフィルターユニットの給気する給気口の面積は、前記頭部の給気される空気流の断面への投影面積より広い;
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の汚染防止ブース。
【請求項9】
前記覆いは、フレームと、該フレームに支持されるカバーとを有し;
前記フレームは、キャスタにより移動可能である;
請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の汚染防止ブース。
【請求項10】
前記排気用ファンフィルターユニットには、HEPAフィルターが用いられる;
請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の汚染防止ブース。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感染症患者からの細菌やウィルスが他の人を汚染するのを防止するためのブースに関する。
【背景技術】
【0002】
突発的な新型のインフルエンザウィルスやコロナウィルスの発生時においては、短期間での感染確認、ふるいわけ(トリアージ)は難しく、また発症者への適正な治療薬投与やワクチンの投与までに感染拡大が起こり、ときには国をまたいで感染者が広まってしまうことがある。これら感染拡大の防止処置の一環として、医療従事者自身が安心して患者を診察、診療、検査の行える、簡易設置型診察・診療空間が必要となる。そこで、通常の部屋に個別診察用空気清浄ブースを設置する方法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1に開示されたブースでは、給気用ファンフィルターユニットである送風器により医師の背後から患者へ向かって水平方向に流れる空気流を形成し、患者の背後に設置された排気口からブース外に排気する。この空気流により、患者から飛散するウィルスを含む粒子が医師側に流れることを防止する。
【0004】
しかし、発明者らの実験により、次の事実が明らかとなった。図4は、給気用ファンフィルターユニットと排気用ファンフィルターユニットを水平に対向配置し、水平方向の空気流を生成した様子を示す写真である。図中、左側に設置された給気用ファンフィルターユニットの前で発煙させると、煙は水平に右方向に流れ、排気用ファンフィルターユニットに吸い取られる。しかし、図5に示すように、給気用ファンフィルターユニットと排気用ファンフィルターユニットの間に医師と患者とを模した二人の人が座ると、二人の間で発煙した煙は、右方向に流れることなく、滞留する。水平方向の空気流は医師の背中に当たることにより乱れ、医師と患者の間では、期待した水平流が形成されないことが分かる。上記実験からも明らかなように、給気用ファンフィルターユニットで給気をして、排気側ファンフィルターユニットで吸引しても、人あるいは物に当たって乱れた空気流は排気側で吸引されずに拡散もしくは滞留をすることになる。
【0005】
一方、患者に対して診察、診療、検査をおこなうためには、患者側にアクセスする必要があり、患者を完全な閉空間に収容することはできない。そこで、患者をブース内に収容するとしても、ブース内の患者へのアクセスが容易であることが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2010-17225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明者らが鋭意検討したところ、図6に示すように、一人の人の頭上に給気用ファンフィルターユニットを設置し、その人の側方に排気用ファンフィルターユニットを設置することにより、頭上からの空気流が人に当たり乱されながらも、排気用ファンフィルターユニットで吸引されて水平方向の空気流となり、他の人の方向や周囲には流れないことが確認された。すなわち、患者の頭部をブース内に収容しつつ、例えばブース下部を開放しても、患者の頭部、具体的には口や鼻から飛散した細菌やウィルスを含む空気を、排気用ファンフィルターユニットで吸引することにより、ブース外に流出して周囲を汚染することを防止することの可能性を示している。
【0008】
そこで、本発明は、空気流を形成する給気用ファンフィルターユニットと排気用ファンフィルターユニットとを用い、患者からの細菌やウィルスから医師、看護師、検査員等の患者の周囲で従事する医療関係者等への汚染を防止する、簡易設置可能なブースを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様に係る汚染防止ブース10は、例えば図1に示すように、少なくとも患者1の頭部2を覆う閉鎖空間22を形成する覆い20と、閉鎖空間22内に給気する給気用ファンフィルターユニット50と、閉鎖空間22内から排気する排気用ファンフィルターユニット60とを備え、給気用ファンフィルターユニット50から給気される空気流82の方向と、排気用ファンフィルターユニット60にて吸引される空気流84との方向が60°~120°の角度を有する。
【0010】
このように構成すると、患者の頭部が閉鎖空間内に位置し、封鎖空間内は給気用ファンフィルターユニットから給気され、排気用ファンフィルターユニットで排気され、給気される空気流の方向と吸引して排気される空気流の方向とが60°~120°の角度を有するので、閉鎖空間内の空気は、閉鎖空間内の下部に開口があっても外部に漏れることなく排気用ファンフィルターユニットで排気される。よって、感染症の患者からの細菌やウィルスの汚染から医師、看護師、検査員等の患者の周囲で従事する医療関係者等への細菌やウィルスの汚染を防止する汚染防止ブースを提供することができる。
【0011】
本発明の第2の態様に係る汚染防止ブース10は、例えば図1に示すように、給気用ファンフィルターユニット50が覆い20の上部に設けられ、排気用ファンフィルターユニット60が覆い20の側部に設けられ、覆い20は、頭部2の下方で開口されている。このように構成すると、患者の頭部が覆いの中に入り、例えば手や下半身が開口から覆いの外に出て、医師等の検査を受けたり、看護師が患者に器具を付けるのも容易であり、給気用ファンフィルターユニットが覆いの上部に設置され、側部に設置されるのは排気用ファンフィルターユニットだけであるので、診察、検査等で邪魔になることが少ない。
【0012】
本発明の第3の態様に係る汚染防止ブース10は、排気用ファンフィルターユニット60から排気される空気の量は、給気用ファンフィルターユニット50から給気される空気の量より多い。このように構成すると、覆いから外部への空気の流出を確実に防止できる。
【0013】
本発明の第4の態様に係る汚染防止ブース10は、給気用ファンフィルターユニット50から給気される空気流82は、0.2~0.45m/secの流速である。このように構成すると、空気流が患者に当たっても患者は不快感を催さず、かつ、給気される空気流がしっかりと患者の体表面に沿って流れ、層流が維持されるので覆いから外部への空気の流出を確実に防止できる。
【0014】
本発明の第5の態様に係る汚染防止ブース10は、排気用ファンフィルターユニット60で吸引される空気流84は、0.26~1.2m/secの流速である。このように構成すると、排気される空気流がしっかりと形成されるので覆いから外部への空気の流出を確実に防止できる。
【0015】
本発明の第6の態様に係る汚染防止ブース10は、給気用ファンフィルターユニット50は、頭部2から25~150cmの上方に設置される。このように構成すると、給気用ファンフィルターユニットから給気される空気流がしっかりと頭部を囲うので患者から排出される細菌やウィルスの外部への流出を確実に防止できる。
【0016】
本発明の第7の態様に係る汚染防止ブース10は、排気用ファンフィルターユニット60は、頭部2から15~170cmの側方に設置される。このように構成すると、頭部周辺の空気をしっかりと排気用ファンフィルターユニットが吸引するので患者から排出される細菌やウィルスの外部への流出を確実に防止できる。
【0017】
本発明の第8の態様に係る汚染防止ブース10は、給気用ファンフィルターユニット50の給気する給気口56の面積は、頭部2の給気される空気流の断面への投影面積より広い。このように構成すると、給気用ファンフィルターユニットから給気される空気流がしっかりと頭部を囲うので患者から排出される細菌やウィルスの外部への流出を確実に防止できる。
【0018】
本発明の第9の態様に係る汚染防止ブース10は、例えば図1に示すように、覆い20は、フレーム30と、フレーム30に支持されるカバー40とを有し、フレーム30は、キャスタ38により移動可能である。このように構成すると、汚染防止ブースを容易に移動できるので、適切な場所に容易に設置できる汚染防止ブースとなる。
【0019】
本発明の第10の態様に係る汚染防止ブース10は、排気用ファンフィルターユニット60には、HEPAフィルター64が用いられる。このように構成すると、汚染防止ブースの排気から細菌やウィルスを除去できるので、患者からの細菌やウィルスが周囲を汚染することを防止できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明による汚染防止ブースによれば、少なくとも患者の頭部を覆う閉鎖空間を形成する覆いと、閉鎖空間内に給気する給気用ファンフィルターユニットと、閉鎖空間内から排気する排気用ファンフィルターユニットとを備え、給気用ファンフィルターユニットから給気される空気流の方向と、排気用ファンフィルターユニットにて吸引される空気流との方向が60°~120°の角度を有するので、閉鎖空間内の空気は、閉鎖空間内の下部に開口があっても外部に漏れることなく排気用ファンフィルターユニットで排気され、感染症の患者からの細菌やウィルスの汚染から医師、看護師、検査員等の患者の周囲で従事する医療関係者等への細菌やウィルスの汚染を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明に係る汚染防止ブースの使用例を示す模式的断面図であり、患者が椅子に座っているところを示す。
図2図2は、本発明に係る汚染防止ブースの使用例を示す模式的断面図であり、患者がベッドに寝ているところを示す。
図3図3は、図2に示す模式的断面図をベッドの長手方向に見て空気流の向きを見やすくした図である。
図4図4は、従来技術として、給気用ファンフィルターユニットと排気用ファンフィルターユニットとを対向させて配置し、ファンフィルターユニット間に人や物が存在しない場合の空気流を示す写真である。
図5図5は、図4に示す給気用ファンフィルターユニットと排気用ファンフィルターユニットにおいて、ファンフィルターユニット間で対面する二人の人の間の空気流の滞留状態を示す写真である。
図6図6は、人の頭上に給気用ファンフィルターユニットを設置し、その人の側方に排気用ファンフィルターユニットを設置した場合の空気流を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。なお、各図において、互いに同一または相当する装置には同一符号を付し、重複した説明は省略する。図1は、一実施の形態としての汚染防止ブース10を模式的に示す水平方向に見た断面図である。図1に示す例では、感染症の患者1が汚染防止ブース10内で椅子70に腰掛けて、医師(不図示)の診察を受けている。
【0023】
汚染防止ブース10は、少なくとも患者1の頭部2を覆う閉鎖空間22を形成する覆い20を有する。患者1は感染症の患者を想定しており、鼻や口から細菌やウィルスが飛散する恐れがある。そこで、細菌やウィルスの発生源となる頭部2は、覆い20で形成した閉鎖空間22内に収まるようにする。しかし、例えば患者1の下半身や手などは、発生源とはなりにくいので、必ずしも閉鎖空間22内にある必要はない。また、医療従事者(不図示)が患者1の診察や検査をするときには、患者1に接触したり、患者1との間で器具の受け渡しを行ったりする必要があり、そのためのアクセスを確保する必要がある。そこで、覆い20の下部は開口されている。すなわち、本書でいう閉鎖空間22とは、密閉された空間ではなく、発生源から飛散した細菌やウィルスを周囲に放散させないための空間である。
【0024】
覆い20は、閉鎖空間22を囲むように配置されたフレーム30と、フレーム30に支持され空気の通過を阻止するカバー40とを有する。上部フレーム32で閉鎖空間22の天井部分の枠組みを形成し、上部フレーム32を支柱34で片持ちで支持する。片持ちで支持するのは、後述するように、閉鎖空間22内の患者1へのアクセスを容易にするためである。片持ちで支持するために、支柱34は片持ちで張り出す方向に複数本の柱で構成してもよい。支柱34は、下部フレーム36に固定される。後述する給気用ファンフィルターユニット50を上部フレーム32上に設置した場合に作用するモーメントを支えるように、下部フレーム36は支柱34側から閉鎖空間22方向へ延在する。そして、下部フレーム36にはキャスタ38が設置され、汚染防止ブース10を容易に移動できるようにすることが望ましい。ただし、汚染防止ブース10は、キャスタを有さずに、固定設置して用いてもよい。フレーム30は、例えばアルミ製の中空角柱で形成される。また、フレーム30にはキャスタを設けず、後述するように、排気用ファンフィルターユニット60にキャスタ68を設けて、汚染防止ブース10を移動可能にすることもできる。
【0025】
カバー40は、フレーム30の上から被せられた樹脂製の筒状シートで、複数の平面シートによる構成でもよく、また、医療従事者(不図示)が患者1と対面する箇所を透明に、それ以外を不透明にしてもよく、その他に透明あるいは不透明ビニール等でもよい。覆い20が例えば四角柱形状を有する場合、カバー40は上面と4側面で構成されるが、上面と側面および側面間の接合部は気密になされるか、一体で形成される。その他に平面状シートの重ね合わせによる密閉構造でもよい。閉鎖空間22内の患者1へのアクセスを確保するため、例えば40の少なくとも一部は、患者1の頭部2の下方20~50cm程度に下端を有する。それに代えて、あるいは加えて、カバー40に、医療従事者が閉鎖空間22に手を差し込むための切込み(不図示)が、空気流80を乱さない程度に設けられてもよい。そして、下部は開口42となっている。患者1は、頭部2を閉鎖空間22内に置きつつ、腹部が開口42を通過して、椅子70に腰掛けることができ、カバー40の開口42をくぐることで閉鎖空間22への出入りもできる。また、医療従事者等は、開口42を通じて、患者1に接触したり、患者1に器具を装着したり、患者1とのコンタクトが可能である。
【0026】
覆い20の上部に給気用ファンフィルターユニット50が設置される。給気用ファンフィルターユニット50は、ファン52で外気を閉鎖空間22内に給気するが、その際にフィルター54で空気中の汚れを除去する。汚れが除去された清浄な空気は、閉鎖空間22の天井部分に設けられた給気口56から患者1の頭部2方向の、すなわち下向きの空気流82となる。
【0027】
覆い20の側部に排気用ファンフィルターユニット60が設置される。排気用ファンフィルターユニット60は、ファン62で閉鎖空間22内の空気を外部に排気するが、その際にフィルター64で空気中の汚れを除去する。HEPAフィルターを用いて細菌やウィルスを除去した空気を外部に排出するのが、細菌やウィルスによる汚染を防止するのに好ましい。覆い20の側部に設置された排気用ファンフィルターユニット60では、側部の排気口66から閉鎖空間22内の空気を、水平方向の空気流84として吸引する。図1に示す汚染防止ブース10では、ファン62およびフィルター64を床に近い位置に配置し、排気口66を患者1の頭部2の高さに設置する。この場合、排気口66で吸引された空気はダクト69を通ってファン62に導かれる。重量のあるファン62およびフィルター64を床に近い位置に配置することにより汚染防止ブース10の移動が容易に安全になる。なお、ファン62およびフィルター64をキャスタ68で支持すると、好ましい。特に排気用ファンフィルターユニット60がフレーム30の支柱34に固定され、フレーム30およびフレーム30上に載置された給気用ファンフィルターユニット50の荷重を支持する構造の場合に、排気用ファンフィルターユニット60をキャスタ68で支えると、排気用ファンフィルターユニット60を移動することにより汚染防止ブース10全体を移動することができる。また、低い位置に配置されたファン62およびフィルター64からの排気は、上方に向けて排出すると、床の汚れ等を巻き上げることがなく、好ましい。
【0028】
給気用ファンフィルターユニット50および排気用ファンフィルターユニット60を作動すると、閉鎖空間22内に空気流80が形成される。空気流80は、給気用ファンフィルターユニット50の給気口から下方に向かう空気流82が、頭部2付近で、排気用ファンフィルターユニット60で吸引される水平方向の空気流84に曲げられる。このように空気流が曲げられて吸引されることにより、図6を参照して説明したように、空気流が拡散したり停滞したりすることなく、滑らかに排気用ファンフィルターユニット60に向かって流れる。したがって、閉鎖空間22の下部がカバー40の開口42となっていても、患者1の頭部2から飛散した細菌やウィルスが開口42を通って外部へ拡散し、周囲を汚染することを防止できる。曲げられる角度θは、典型的には直角方向(90°)である。しかし、曲げられる角度は60°~120°であれば、空気流が拡散したり停滞したりすることなく滑らかに排気用ファンフィルターユニット60に向かって流れるという効果が得られる。曲げられる角度が60°より小さいと、図5で説明したように、人や物に当たって空気流が乱れ、滞留してしまう恐れがある。また、120°より大きいと、空気流の逆流が増加し、すなわち給気用断フィルターユニットから排気用ファンフィルターユニットに直接流れる空気流が増加して効率が悪くなる。曲げられる角度は、好ましくは70°~110°、さらに好ましくは80°~100°である。
【0029】
給気用ファンフィルターユニット50から給気される空気流82の流速(給気口56での流速)は、0.2~0.45m/secであるのが好ましい。0.2m/secより遅いと、空気流82が形成されにくく、患者1の頭部2に至る前に拡散したり滞留したりしてしまう恐れがある。また、0.45m/secより速いと、強い風が患者1に当たることになり、患者1が不快感を催すことがある。また、給気口56と頭部2との間隔は、25~150cm程度とすることが好ましい。25cmより小さいと、患者1に圧迫感を与えたり、ファン52の音がうるさかったりという不都合を生じることがある。150cmより離れていると、空気流82が患者1に届きにくくなる。120cm以下とすると、より好ましい。さらに、給気口56の面積は、頭部2の空気流82の断面への投影面積、すなわち、給気口と平行な面への投影面積より広いことが好ましい。給気口56の面積を広くすることにより、空気流82が頭部2をしっかりと囲って、患者1から飛散する細菌やウィルスを包み込み、空気流80に乗せて排気口66へ運ぶので、細菌やウィルスの拡散を防止できる。
【0030】
排気用ファンフィルターユニット60に吸引される空気流84の流速(排気口66での流速)は、0.26~1.2m/secであるのが好ましい。0.26m/secより遅いと、空気流84が形成されにくくなる。1.2m/secより速いと、患者1の背後に強い風が生じ、患者1が不快感を催すことがある。また、頭部2と頭部2の側方の排気口66との間隔は、15~170cm程度とすることが好ましい。15cmより小さいであると、患者1に圧迫感を与えたり、ファン62の音がうるさかったりという不都合を生じることがある。170cmより離れていると、患者1付近からの空気流84が形成されにくくなることがある。120cm以下とするとより好ましい。排気用ファンフィルターユニット60に吸引される空気の量は、給気用ファンフィルターユニット50から給気される空気の量のより多くすることが好ましい。例えば、1.1~1.5倍とする。このように排気用ファンフィルターユニット60に吸引される空気の量を増やすことにより、閉鎖空間22が陰圧になり、外部に漏れる空気を無くすことができ、細菌やウィルスによる汚染を防止することができる。
【0031】
これまで説明したように、汚染防止ブース10によれば、患者1から飛散した細菌やウィルスは、閉鎖空間22内に形成された空気流80により運ばれ排気用ファンフィルターユニット60に吸引され、カバー40の開口42などから外部へ拡散せず、周囲を汚染することが防止される。さらに、排気用ファンフィルターユニット60にHEPAフィルターを用いると、排気用ファンフィルターユニット60に吸引された細菌やウィルスはHEPAフィルターに捕捉され、外部への拡散することがない。また、覆い20と給気用ファンフィルターユニット50と排気用ファンフィルターユニット60とで構成され、キャスタ38、68で容易に移動も可能で、簡易設置可能である。
【0032】
次に図2および図3を参照して、第二の実施の形態としての汚染防止ブース12について説明する。図2は、感染症の患者1が頭部2を汚染防止ブース12内にしてベッド72に横たわっている状態を模式的に示す正面図である。図3は、図2を横から見た側面図であり、患者1は省略して示す。
【0033】
汚染防止ブース12も、汚染防止ブース10について説明したのと同様の覆い20、給気用ファンフィルターユニット50、排気用ファンフィルターユニット60を有するので、異なる点だけを説明する。汚染防止ブース12では、カバー40は、ベッドの上に接触する長さを有する。すなわち、患者1に医師等がアクセスするときには、カバー40の下をめくる。なお、患者1の足側の面では、カバー40は、ベッドの上との間に横たわった人の高さだけの隙間を有していてもよい。また、例えば、支柱34をスライド式にして、覆い20の高さを変えられるように構成し、また、カバー40の長さを調整できるように構成してもよい。
【0034】
汚染防止ブース12でも、上部フレーム32を支柱34により片持ちで支持し、支柱34を下部フレーム36で固定支持するので、ベッド72の脇に支柱34および排気用ファンフィルターユニット60を位置させて、ベッド72上の患者1の頭部2を閉鎖空間22内に置きやすい。さらに、ベッド72の汚染防止ブース12と反対側には支柱等がないので、医師等が患者1にコンタクトしやすく、また、医療機器や検査機器を設置しやすい。
【0035】
汚染防止ブース12においても、患者1から飛散した細菌やウィルスは、閉鎖空間22内に形成された空気流80により運ばれ排気用ファンフィルターユニット60に吸引され、カバー40の開口42などから外部へ拡散せず、周囲を汚染することが防止される。さらに、排気用ファンフィルターユニット60にHEPAフィルターを用いると、排気用ファンフィルターユニット60に吸引された細菌やウィルスはHEPAフィルターに捕捉され、外部への拡散することがない。また、覆い20と給気用ファンフィルターユニット50と排気用ファンフィルターユニット60とで構成され、キャスタ38、68で容易に移動も可能で、簡易設置可能である。
【0036】
汚染防止ブース10、12では、給気用ファンフィルターユニット50を覆い20の上部に設置するものとして説明したが、設置場所によっては、給気用ファンフィルターユニット50も覆い20の側部に設置してもよい。ただし、給気用ファンフィルターユニット50から給気される空気流の方向と、排気用ファンフィルターユニット60にて吸引される空気流の方向とは、前述したように、60°~120°の角度を有するようにする。また、給気用ファンフィルターユニット50を覆い20から離間した位置に設置し、ダクトにより空気を閉鎖空間22内に給気してもよい。同様に、排気用ファンフィルターユニット60を覆い20から離間した位置に設置し、ダクトにより閉鎖空間22内の空気を吸引してもよい。
【0037】
汚染防止ブース10では、上部フレーム32を支柱34が片持ちで支持するものとして説明したが、支柱34が、例えば上部フレーム32の四隅を支持するように配置された、テントのようなフレーム30を有してもよい。アクセス性は劣るが、構造的に安定し、また剛性の低い部材でフレーム30を構成することができる。
【0038】
汚染防止ブース10では、椅子70に座る患者1を医師が診察する場合について説明したが、汚染防止ブース10は、レントゲン装置の前の患者用、待合室で待つ患者用等、感染症の患者あるいは感染症の疑いのある患者が周囲を汚染するのを防止する広い用途に用いることができる。
【0039】
汚染防止ブース12では、ベッド72に横たわる患者1の場合について説明したが、汚染防止ブース12は、手術台の患者用等、感染症の患者あるいは感染症の疑いのある患者が周囲を汚染するのを防止する広い用途に用いることができる。
【符号の説明】
【0040】
1 患者
2 頭部
10、12 汚染防止ブース
20 覆い
22 閉鎖空間
30 フレーム
32 上部フレーム
34 支柱
36 下部フレーム
38 キャスタ
40 カバー
42 開口
50 給気用ファンフィルターユニット
52 ファン
54 フィルター
56 給気口
60 排気用ファンフィルターユニット
62 ファン
64 フィルター
66 排気口
68 キャスタ
69 ダクト
70 椅子
72 ベッド
80 空気流
82 給気される空気流
84 吸引される空気流


図1
図2
図3
図4
図5
図6