(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022049294
(43)【公開日】2022-03-29
(54)【発明の名称】点火プラグの耐汚損性評価方法
(51)【国際特許分類】
F02P 17/00 20060101AFI20220322BHJP
G01M 15/02 20060101ALI20220322BHJP
H01T 13/58 20200101ALN20220322BHJP
【FI】
F02P17/00 X
G01M15/02
H01T13/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020155422
(22)【出願日】2020-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】長嶋 諭
(72)【発明者】
【氏名】水谷 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】青木 文明
【テーマコード(参考)】
2G087
3G019
5G059
【Fターム(参考)】
2G087AA13
2G087BB01
2G087BB11
2G087BB40
2G087CC40
3G019LA13
5G059AA01
5G059AA05
5G059KK30
(57)【要約】
【課題】点火プラグの耐汚損性評価にかかる工数を削減する。
【解決手段】点火プラグの耐汚損性評価方法は、中心電極と、中心電極の外周に設けられていて一端から中心電極が露出する絶縁性の碍子と、碍子の外周に設けられていて、碍子を支持する支持部、及び該支持部の前記一端側に設けられて碍子の外周面との間に隙間が形成された先端部を有するハウジングと、ハウジングに連結されて中心電極との間で火花放電を行う接地電極とを備え、内燃機関に設けられる点火プラグを対象とし、碍子の外周面に付着する導電性物質に対する耐性を示す耐汚損性を評価する。点火プラグの耐汚損性評価方法は、碍子の外周面において燃焼時の火炎が接触する接触範囲に基づいて点火プラグの耐汚損性を評価する(S34)。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心電極と、
前記中心電極の外周に設けられていて一端から前記中心電極が露出する絶縁性の碍子と、
前記碍子の外周に設けられていて、前記碍子を支持する支持部、及び該支持部における前記一端側に設けられて前記碍子の外周面との間に隙間が形成された先端部を有するハウジングと、
前記ハウジングに連結されて前記中心電極との間で火花放電を行う接地電極とを備え、内燃機関に設けられる点火プラグを対象とし、
前記碍子の外周面に付着する導電性物質に対する耐性を示す耐汚損性を評価するための評価方法であって、
前記碍子の外周面において燃焼時の火炎が接触する接触範囲に基づいて前記耐汚損性を評価する点火プラグの耐汚損性評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、点火プラグの耐汚損性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、内燃機関に設けられる点火プラグが開示されている。この点火プラグは、中心電極と、中心電極の外周に設けられた絶縁性の碍子と、碍子の外周に設けられたハウジングと、ハウジングに連結されて中心電極との間で火花放電を行う接地電極とを備えている。点火プラグでは、燃焼室に露出する一端側において碍子とハウジングとの間に隙間が形成されている。そのため、混合気の燃焼により発生するカーボン等の導電性物質は、碍子の外周面に付着して堆積する。碍子の外周面に導電性物質が堆積して汚損されると、中心電極と接地電極との間で適切に火花放電が行われなくなり、燃焼状態の悪化を招く。
【0003】
特許文献1に記載の点火プラグの耐汚損性評価方法では、点火プラグが設けられた内燃機関において、複数回の燃焼実験を行う。こうした燃焼実験を通じて、点火プラグにおける放電に関する異常の発生及び不完全燃焼の発生を検出し、これらの発生有無に基づいて点火プラグの耐汚損性を評価する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の点火プラグの耐汚損性評価方法では、放電に関する異常の発生と不完全燃焼の発生とを個別に検出していることから、耐汚損性を評価する上で複数の要因を考慮する必要があり、工程数が増大する一因となる。そのため、点火プラグの耐汚損性を評価する上では未だ改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための点火プラグの耐汚損性評価方法は、中心電極と、前記中心電極の外周に設けられていて一端から前記中心電極が露出する絶縁性の碍子と、前記碍子の外周に設けられていて、前記碍子を支持する支持部、及び該支持部における前記一端側に設けられて前記碍子の外周面との間に隙間が形成された先端部を有するハウジングと、前記ハウジングに連結されて前記中心電極との間で火花放電を行う接地電極とを備え、内燃機関に設けられる点火プラグを対象とし、前記碍子の外周面に付着する導電性物質に対する耐性を示す耐汚損性を評価するための評価方法であって、前記碍子の外周面において燃焼時の火炎が接触する接触範囲に基づいて前記耐汚損性を評価する。
【0007】
発明者等は、点火プラグにおいて碍子の外周面に堆積する導電性物質に対する耐性は、燃焼時の火炎が碍子の外周面に接触する接触範囲に相関することを見出した。上記構成では、この接触範囲を算出して点火プラグにおける耐汚損性の評価を行うことで、1つの要因に基づいた評価を可能にして、工程数の削減に貢献する。したがって、上記構成によれば、点火プラグの耐汚損性評価にかかる工数を削減することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】点火プラグが設けられる内燃機関の概略構成を示す模式図。
【
図2】点火プラグにおける一端部を拡大して示す断面図。
【
図3】点火プラグの耐汚損性の評価手順を示すフローチャート。
【
図4】燃焼シミュレーションにおける火炎の発生状態を示す模式図。
【
図5】燃焼シミュレーションにおける点火プラグのプラグポケットへの火炎の侵入態様の一例を示す模式図。
【
図6】燃焼シミュレーションにおけるプラグポケットへの火炎の侵入限界位置を示す模式図。
【
図7】火炎の接触範囲と耐汚損性との関係の一例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
点火プラグの耐汚損性評価方法の一実施形態について、
図1~
図7を参照して説明する。
図1に示すように、点火プラグ10が設けられる内燃機関100は、シリンダブロック80を有している。シリンダブロック80には、シリンダ80Aが設けられている。シリンダ80Aには、往復動可能にピストン81が収容されている。シリンダブロック80の上端にはシリンダヘッド82が連結されている。内燃機関100には、シリンダ80A、ピストン81、及びシリンダヘッド82によって構成された燃焼室83が設けられている。シリンダヘッド82には、燃焼室83に吸気を導入する吸気ポート84と、燃焼室83から排気を排出する排気ポート85とが設けられている。吸気ポート84には、該吸気ポート84と燃焼室83とを連通、遮断する吸気バルブ86が設けられている。吸気ポート84には、燃料噴射弁87が設けられている。燃料噴射弁87から噴射された燃料は、吸気ポート84を流れる吸気と混合される。燃料と吸気との混合気は吸気バルブ86の開弁に伴い燃焼室83に導入される。なお、混合気には、内燃機関100の各部を潤滑するオイルが含まれる場合もある。燃焼室83には点火プラグ10の一端部が露出している。以下では、点火プラグ10において燃焼室83側を一端側といい、燃焼室83から離間する側を他端側という。
【0010】
燃焼室83に導入された混合気は、点火プラグ10の火花放電によって着火されて燃焼する。排気ポート85には、該排気ポート85と燃焼室83とを連通、遮断する排気バルブ88が設けられている。燃焼室83において燃焼した混合気は排気となり、排気バルブ88の開弁に伴い排気ポート85に排出される。シリンダヘッド82は、燃焼室83に連通し、その内面が雌ねじである固定孔89を有している。固定孔89に点火プラグ10が組付けられている。
【0011】
図1及び
図2に示すように、点火プラグ10は、棒状の中心電極20を備えている。中心電極20の外周には絶縁性の碍子30が設けられている。碍子30は筒状に形成されていて、軸方向において外径が略一定の本体部31と、該本体部31から燃焼室83側に延びるテーパ部32と、本体部31からテーパ部32とは反対側に延びる拡径部33とを有している。テーパ部32は、燃焼室83側ほど外径が縮小されたテーパ形状に形成されている。テーパ部32の先端面32Aは、平坦に形成されている。テーパ部32の先端面32Aにおける中心からは、中心電極20が突出している。すなわち、中心電極20は、碍子30の一端から露出して燃焼室83内に配置されている。拡径部33は、筒状に形成されていて、軸方向において外径が略一定である。拡径部33の外径は、本体部31の外径よりも大きい。碍子30の外周には、ハウジング40が設けられている。
【0012】
ハウジング40は、筒状に形成された支持部41を有している。
図1に示すように、支持部41の外周面には、シリンダヘッド82の固定孔89に螺合する雄ねじ41Aが形成されている。
図2に示すように、支持部41は、碍子30の拡径部33から本体部31に対応する位置まで跨がって延びている。支持部41は、碍子30の拡径部33を支持している。また、ハウジング40は、支持部41における一端側、すなわち燃焼室83側に設けられた先端部42を有している。先端部42は、支持部41側から順に配置された、縮径部43、基端部44、中間部45、及び開口部46からなる。
【0013】
縮径部43の外径は、支持部41の外径と略等しい。そのため、縮径部43の外周面は、支持部41の外周面に対して滑らかに繋がっている。また、縮径部43の内径は、支持部41の内径よりも小さくなっている。そのため、縮径部43は、内周面43Aが本体部31側に突出した形状に形成されている。なお、縮径部43の内周面43Aは、支持部41側から基端部44側に向かうほど徐々に拡径された形状に形成されている。なお、縮径部43の内周面43Aにおいて、最も縮径されている支持部41側の上端部は、本体部31との間に若干の隙間を形成している。
【0014】
基端部44の外径は、縮径部43の外径と略等しい。そのため、基端部44の外周面は、縮径部43の外周面に対して滑らかに繋がっている。また、基端部44の内径は、支持部41の内径と略同一となるように形成されている。
【0015】
中間部45の内径は、基端部44における内径と略同一となるように形成されている。そのため、中間部45の内周面は、基端部44の内周面に対して滑らかに繋がっている。また、中間部45の外径は、開口部46側ほど縮径されている。
【0016】
開口部46の外径は、中間部45における最も縮径された部分の外径と略同一となるように形成されている。また、開口部46の内径は、中間部45の内径と略同一となるように形成されている。そのため、開口部46の内周面は、中間部45の内周面に対して滑らかに繋がっている。なお、開口部46の先端は、碍子30の先端面32Aよりも他端側、すなわちシリンダヘッド82側(
図2の上側)に位置している。碍子30の外周面と、ハウジング40の先端部42との間には、隙間が形成されている。以下では、この隙間をプラグポケット50と称する。換言すれば、プラグポケット50は、碍子30の本体部31及びテーパ部32における外周面と、ハウジング40の先端部42における内周面とによって区画される空間である。本実施形態では、プラグポケット50は、燃焼室83から離間する奥側ほど狭くなる形状に形成されている。なお、点火プラグ10には、プラグポケット50から奥側にガスが流入しないようにパッキン55が設けられている。パッキン55は、円環状に形成されており、碍子30の拡径部33とハウジング40の縮径部43とに挟まれて密着することで、碍子30とハウジング40との間をシールしている。
【0017】
ハウジング40には、先端部42に接続されている接続壁47が設けられている。接続壁47は先端が屈曲したL字形状に形成されている。接続壁47の先端において、中心電極20と対向する面には、中心電極20との間で火花放電を行う接地電極60が連結されている。このように、接地電極60は、ハウジング40に連結されている。
【0018】
また、
図1に示すように、ハウジング40には、支持部41における他端側、すなわち燃焼室83から離間する側に設けられた工具取付部48が設けられている。工具取付部48は、点火プラグ10をシリンダヘッド82に組付ける際に用いられる工具が嵌合可能な形状に形成されている。ハウジング40の長さは、碍子30の長さよりも短いことから、ハウジング40の工具取付部48よりも他端側で碍子30の他端部が露出している。
【0019】
点火プラグ10には、碍子30の他端部から突出している端子電極70が設けられている。端子電極70には、内燃機関100に設けられている点火コイル90が連結されている。点火コイル90は、電源電圧を瞬間的に昇圧して端子電極70に印加する。端子電極70は、中心電極20に電気的に接続されている。そのため、端子電極70を介して点火コイル90から中心電極20に高電圧が印加され、中心電極20と接地電極60との間で火花放電が発生する。
【0020】
ところで、点火プラグ10には、混合気の燃焼により発生する導電性物質が付着して堆積する。例えば、碍子30の外周面に導電性物質が堆積して汚損されると、中心電極20と接地電極60との間で適切な火花放電が行えなくなったり、中心電極20から碍子30を通じて電流がリークすることで火花放電自体が行えずに失火が生じたりする。そのため、本実施形態では、コンピュータ等の評価装置を用いて次のようにして点火プラグ10の耐汚損性を評価する。なお、導電性物質には、カーボンの他、燃料に含まれる金属(例えば鉄やマンガン)の酸化物等が含まれる。
【0021】
図3に示すように、点火プラグ10の耐汚損性評価方法では、3Dモデリング工程(ステップS30)、条件設定工程(ステップS31)、燃焼シミュレーション工程(ステップS32)、算出工程(ステップS33)、及び評価工程(ステップS34)を順に行う。
【0022】
すなわち、3Dモデリング工程では、点火プラグ10の3次元モデルを作成する。この工程では、点火プラグ10の各部品における3次元モデルを作成することで、上述したプラグポケット50の形状や容積が設定される。なお、3Dモデリング工程では、作業者が評価装置に点火プラグ10の3次元データを記憶させることで3次元モデルを作成してもよいし、点火プラグ10の立体形状を評価装置がスキャンすることで3次元モデルを作成してもよい。
【0023】
その後、ステップS31の条件設定工程では、3Dモデリング工程において作成した点火プラグ10の3次元モデルを用いて、後述する燃焼シミュレーションを行うための条件を設定する。
【0024】
図4に示すように、条件設定工程では、例えば、燃焼シミュレーションを行うときの燃焼空間110の大きさや燃焼空間110における壁面110Aの温度、燃焼空間110内の初期圧力、及び混合気の成分等の条件を評価装置において設定する。なお、本実施形態では、燃焼シミュレーションを行うときの燃焼空間110を立方体の単純容器として設定している。また、本実施形態では、混合気には、例えば鉄やマンガンなどの金属が含まれた燃料と、例えばカルシウム等のアルカリ土類金属が含まれたオイルとが含まれるように設定している。
【0025】
こうして条件設定工程において各種条件を設定すると、次に、
図3のステップS32の処理に移行して、燃焼シミュレーション工程を実行する。燃焼シミュレーション工程では、評価装置によって、3Dモデリング工程において作成した点火プラグ10の3次元モデルを用いて燃焼空間110内での燃焼反応をシミュレーションする。なお、こうした燃焼シミュレーションは、公知のシミュレーションソフトを評価装置にインストールすること等で実現できる。
図4~
図6には、燃焼シミュレーションを行ったときの燃焼空間110内での火炎の広がり方を示している。
【0026】
図4にドットで示すように、燃焼空間110において点火プラグ10が火花放電を行った直後の状態では、中心電極20及び接地電極60の周囲で混合気の燃焼反応が生じて火炎が発生する。これにより、碍子30の外周面に燃焼時の火炎が接触するようになる。
【0027】
その後、
図5にドットで示すように、燃焼反応が進行するにつれて火炎が発生している範囲が拡大し、点火プラグ10におけるプラグポケット50内にも火炎が進入する。プラグポケット50内では、未燃焼状態の混合気が燃焼ガスによって圧縮される現象が生じる。そして、圧縮された未燃焼状態の混合気の圧力と燃焼ガスの圧力とが等しくなると、燃焼ガスはそれ以上プラグポケット50内へ進入できなくなる。そのため、プラグポケット50内への火炎の進入も停止する。
【0028】
したがって、
図6にドットで示すように、燃焼反応によってプラグポケット50内に進入する火炎の進入量には限界がある。以下では、火炎のプラグポケット50への進入量の限界位置を単に進入限界位置Rという。なお、進入限界位置Rは、上述したように未燃焼状態の混合気が圧縮されたときの圧力に相関しており、未燃焼状態の混合気が圧縮されたとき圧力の変化度合いは、プラグポケット50の形状や容積によって変化する。すなわち、火炎の進入が停止するまでの混合気の圧縮量は、プラグポケット50の容積が大きい場合には、プラグポケット50の容積が小さい場合に比して大きくなる傾向がある。そのため、プラグポケット50の容積が大きい場合には、プラグポケット50の容積が小さい場合に比して、進入限界位置Rが奥側(
図6の上側)になる傾向がある。また、同様に、プラグポケット50の形状が奥側ほど広くなっている場合には、奥側ほど狭くなっている場合に比して、火炎の進入が停止するまでの混合気の圧縮量が大きくなる傾向がある。そのため、プラグポケット50の形状が奥側ほど広くなっている場合には、奥側ほど狭くなっている場合に比して、進入限界位置Rが奥側になる傾向がある。
【0029】
このように、進入限界位置Rは、プラグポケット50の形状や容積によって変化するものであり、プラグポケット50の形状及び容積が同一である点火プラグ10においては、異なる点火プラグ10であっても同様の進入限界位置Rとなる。そのため、評価装置は、点火プラグ10における所定の3次元モデルを用いて燃焼シミュレーションを行ったときの進入限界位置Rを記憶して保存する。
【0030】
こうして燃焼シミュレーションを行うと、次に、
図3のステップS33に示す算出工程において、碍子30の外周面において燃焼時の火炎が接触する接触範囲dを算出する。本実施形態では、火炎の接触範囲dを、プラグポケット50内への火炎の進入量から算出する。すなわち、
図6に示すように、評価装置は、ハウジング40における先端部42の先端面Sから、火炎の進入限界位置Rまでの範囲を接触範囲dとして算出して記憶する。
【0031】
その後、
図3のステップS34に示す評価工程では、算出工程により算出された接触範囲dに基づいて点火プラグ10の耐汚損性を評価する。
ここで、発明者等は、燃焼ガス中の導電性物質は火炎が発生している範囲に存在しており、火炎のプラグポケット50への進入量、すなわち火炎と碍子30とが接触する接触範囲dが碍子30の外周面に付着する導電性物質の付着範囲と相関することを実験により導き出した。すなわち、プラグポケット50への火炎の進入量が大きくなり、進入限界位置Rが奥側になるほど、碍子30の外周面における導電性物質の付着範囲が大きくなる。そして、こうして導電性物質の付着範囲が大きくなると、ハウジング40と中心電極20間の絶縁を確保し難くなり、点火プラグ10の耐汚損性が低下する。
【0032】
したがって、
図7に示すように、接触範囲dが大きいときほど点火プラグ10の耐汚損性は低下することとなる。本実施形態では、評価装置は、算出工程により算出された接触範囲dと予め設定した閾値Itとを比較することにより点火プラグ10の耐汚損性を評価する。点火プラグ10において所定の使用環境下において要求される製品寿命を満たすことを担保可能な耐汚損性の最低値を基準値Dtとする。本実施形態では、閾値Itを基準値Dtに対応する値として設定している。すなわち、接触範囲dが閾値Itを超えるときには、点火プラグ10として要求される耐汚損性を満たすことができないことから、耐汚損性は不良であると評価する。一方で、接触範囲dが閾値It以下のときには、点火プラグ10として要求される耐汚損性を満たすことができることから、耐汚損性は良であると評価する。基準値Dtは、予めシミュレーションや実験によって求めることで設定してもよいし、実際に内燃機関100に設けられた点火プラグ10を用いて収集される収集データに基づいて設定してもよい。
【0033】
このように、本実施形態では、評価装置を用いて3Dモデリング工程から評価工程までを順に実行する耐汚損性評価方法を採用することにより、点火プラグ10の耐汚損性を評価する。
【0034】
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)本実施形態では、点火プラグ10の耐汚損性と相関するパラメータである接触範囲dを算出して該点火プラグ10における耐汚損性の評価を行っている。そのため、1つの要因に基づいた評価が可能になり、点火プラグ10の耐汚損性評価にかかる工数を削減することが可能になる。
【0035】
(2)本実施形態では、接触範囲dが点火プラグ10のプラグポケット50の容積や形状に基づいて変化することに着目しており、評価装置において点火プラグ10の3次元モデルを作成して燃焼シミュレーションを行うことで接触範囲dを算出した。すなわち、実際に内燃機関100に設けて燃焼実験を行うことなく、点火プラグ10における接触範囲dを算出していることから、点火プラグ10の耐汚損性を評価する際の工数を一層削減できる。また、上記着目により、プラグポケット50の形状及び容積が同一であれば、他の形状が異なる点火プラグ10であっても、燃焼シミュレーションの結果を用いて接触範囲dを求めることが可能になる。そのため、シミュレーション結果の汎用性を高めることも可能になる。
【0036】
(3)碍子30の外周面において燃焼時の火炎が接触する接触範囲dは、プラグポケット50の容積や形状による影響が大きい一方で、燃焼空間110の容積や形状による影響は少ない。そのため、本実施形態のように、燃焼シミュレーショ行程において用いる燃焼空間110を立方体からなる単純容器として設定することで、シミュレーションモデルを単純化することが可能になり、燃焼シミュレーションを実行する際の演算負荷を軽減できる。
【0037】
(4)本実施形態では、燃焼シミュレーションにおいて、混合気にカルシウム等のアルカリ土類金属が含まれたオイルが含まれるように条件を設定している。例えば、混合気にオイル由来のカルシウムが含まれる場合、該カルシウムは炭酸カルシウムとして存在する。混合気中の炭酸カルシウムは、碍子30の外周面に導電性物質と同様に付着する。そのため、燃焼時には、碍子30の外周面に導電性物質だけでなく、炭酸カルシウムも付着した状態となる。碍子30に付着した炭酸カルシウムは高温によって脱炭酸されて酸化カルシウムとして凝集する。このように酸化カルシウムが凝集する過程で、その周囲にある導電性物質も碍子30の外周面に強固に固着する。その結果、導電性物質は、混合気や排気等のガスの流動や燃料液滴の衝突等の影響によって剥離することなく、碍子30の外周面に堆積した状態で維持される。本実施形態では、燃焼シミュレーションを行う条件をオイルの成分を考慮して設定していることから、実際に燃焼室83での燃焼反応によって生じる現象、すなわち付着した導電性物質の剥離が生じない場合のシミュレーションを用いて耐汚損性を評価することができる。その結果、点火プラグ10における耐汚損性の評価精度を高めることができる。
【0038】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態では、燃焼シミュレーションの条件として、混合気に含まれるオイルの成分を考慮したが、こうした構成は必ずしも必須ではない。また、上記実施形態では、混合気に含まれる燃料の成分を考慮したが、こうした構成を省略することも可能である。
【0039】
・上記実施形態において、燃焼シミュレーションに用いる燃焼空間110の容積や形状を適宜変更することも可能である。例えば、燃焼空間110を、点火プラグ10が設けられる内燃機関100の燃焼室83の容積及び形状と同じ容積及び形状となるように設定してもよい。
【0040】
・耐汚損性評価方法における算出工程では、火炎の接触範囲dをハウジング40の先端面Sから火炎の進入限界位置Rまでの範囲として算出した。接触範囲dはこの範囲に限らず適宜設定してもよい。例えば、碍子30のテーパ部32における先端面32Aから火炎の進入限界位置Rまでの範囲を接触範囲dとして算出してもよい。なお、火炎の進入限界位置Rは、火炎の接触範囲を示すパラメータであることから、算出した進入限界位置Rに相関するパラメータ(例えば、先端面Sから進入限界位置Rまでの距離等)に基づいて耐汚損性の評価を行うことも可能である。こうした構成であっても、火炎の接触範囲に基づいて耐汚損性の評価を行っているといえる。
【0041】
・上記実施形態では、点火プラグ10の碍子30の外周面において燃焼時の火炎が接触する接触範囲dを燃焼シミュレーションの実行により算出したが、接触範囲dの算出方法はこれに限らない。例えば、点火プラグ10が設けられた内燃機関100の燃焼室83において実際に燃焼反応を起こすことで、接触範囲dを算出することも可能である。
【0042】
・上記実施形態では、吸気ポート84に燃料噴射弁87が設けられたポート噴射式の内燃機関100に組付けられる点火プラグ10の耐汚損性評価方法を例に説明した。点火プラグの耐汚損性評価方法は、他の内燃機関に組付けられる点火プラグにおいても同様に適用可能である。例えば、燃焼室83に燃料噴射弁が設けられる直噴式の内燃機関に組付けられる点火プラグであっても、上記実施形態と同様の方法によって耐汚損性を評価することができる。
【符号の説明】
【0043】
10…点火プラグ
20…中心電極
30…碍子
31…本体部
32…テーパ部
33…拡径部
32A…先端面
40…ハウジング
41…支持部
41A…雄ねじ
42…先端部
43…縮径部
43A…内周面
44…基端部
45…中間部
46…開口部
47…接続壁
48…工具取付部
50…プラグポケット
55…パッキン
60…接地電極
70…端子電極
80…シリンダブロック
80A…シリンダ
81…ピストン
82…シリンダヘッド
83…燃焼室
84…吸気ポート
85…排気ポート
86…吸気バルブ
87…燃焼噴射弁
88…排気バルブ
89…固定孔
90…点火コイル
100…内燃機関
110…燃焼空間
110A…壁面
d…接触範囲
R…進入限界位置
S…先端面