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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022049406
(43)【公開日】2022-03-29
(54)【発明の名称】磁気記憶装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/8239 20060101AFI20220322BHJP
   H01L 43/08 20060101ALI20220322BHJP
   H01L 45/00 20060101ALI20220322BHJP
【FI】
H01L27/105 447
H01L43/08 Z
H01L45/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020155599
(22)【出願日】2020-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】318010018
【氏名又は名称】キオクシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】板井 翔吾
(72)【発明者】
【氏名】大坊 忠臣
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雄一
(72)【発明者】
【氏名】小松 克伊
【テーマコード(参考)】
4M119
5F092
【Fターム(参考)】
4M119AA07
4M119AA08
4M119BB01
4M119CC05
4M119DD09
4M119DD17
4M119DD26
4M119DD31
4M119DD42
4M119EE22
4M119EE27
5F092AA15
5F092AC12
5F092AD03
5F092AD23
5F092AD25
5F092BB23
5F092BB36
5F092BB43
5F092BC03
5F092BC04
5F092BC07
5F092BC46
(57)【要約】      (修正有)
【課題】安定した読み出し動作を行うことが可能な磁気記憶装置を提供する。
【解決手段】磁気記憶装置は、磁気抵抗効果素子40と、磁気抵抗効果素子に対して直列に接続され、2端子間に印加される電圧が閾電圧以上になると電気的に非導通状態から電気的に導通状態へと変わる2端子型のスイッチング素子と、を備える。磁気抵抗効果素子は、固定された磁化方向を有する第1の磁性層41と、固定された磁化方向を有する第2の磁性層42と、第1の磁性層と第2の磁性層との間に設けられ、可変の磁化方向を有する第3の磁性層43と、第1の磁性層と第3の磁性層との間に設けられた第1の非磁性層46と、第2の磁性層と第3の磁性層との間に設けられた第2の非磁性層47と、を備える
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定された磁化方向を有する第1の磁性層と、
固定された磁化方向を有する第2の磁性層と、
前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間に設けられ、可変の磁化方向を有する第3の磁性層と、
前記第1の磁性層と前記第3の磁性層との間に設けられた第1の非磁性層と、
前記第2の磁性層と前記第3の磁性層との間に設けられた第2の非磁性層と、
を備える磁気抵抗効果素子と、
前記磁気抵抗効果素子に対して直列に接続され、2端子間に印加される電圧が閾電圧以上になると電気的に非導通状態から電気的に導通状態へと変わる2端子型のスイッチング素子と、
を備えることを特徴とする磁気記憶装置。
【請求項2】
前記第1の磁性層の磁化方向と前記第2の磁性層の磁化方向とは互いに平行である
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気記憶装置。
【請求項3】
前記磁気抵抗効果素子は、前記第3の磁性層の磁化方向が前記第1及び第2の磁性層の磁化方向に対して平行である第1の抵抗状態と、前記第3の磁性層の磁化方向が前記第1及び第2の磁性層の磁化方向に対して反平行である第2の抵抗状態とを有する
ことを特徴とする請求項2に記載の磁気記憶装置。
【請求項4】
前記第1の抵抗状態及び前記第2の抵抗状態は、前記磁気抵抗効果素子に流れる電流の方向に応じて設定される
ことを特徴とする請求項3に記載の磁気記憶装置。
【請求項5】
前記磁気抵抗効果素子は、
固定された磁化方向を有する第4の磁性層と、
固定された磁化方向を有する第5の磁性層と、
をさらに備え、
前記第4及び第5の磁性層の磁化方向は、前記第1及び第2の磁性層の磁化方向に対して反平行であり、
前記第1、第2及び第3の磁性層は、前記第4の磁性層と前記第5の磁性層との間に設けられている
ことを特徴とする請求項2に記載の磁気記憶装置。
【請求項6】
前記第1の磁性層、前記第3の磁性層及び前記第1の非磁性層は、第1の磁気抵抗効果素子部分を構成し、
前記第2の磁性層、前記第3の磁性層及び前記第2の非磁性層は、第2の磁気抵抗効果素子部分を構成し、
前記第1の磁気抵抗効果素子部分のMR比と前記第2の磁気抵抗効果素子部分のMR比とは互いに異なる
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気記憶装置。
【請求項7】
前記第1、第2及び第3の磁性層は、垂直磁化を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気記憶装置。
【請求項8】
第1の方向に延伸する第1の配線と、
前記第1の方向と交差する第2の方向に延伸する第2の配線と、
をさらに備え、
前記磁気抵抗効果素子及び前記スイッチング素子は、前記第1の配線と前記第2の配線との間に直列に接続されている
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気記憶装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、磁気記憶装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体基板上に、磁気抵抗効果素子及びスイッチング素子(セレクタ)を含むメモリセルが集積化された不揮発性の磁気記憶装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第10304509号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
安定した読み出し動作を行うことが可能な磁気記憶装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態に係る磁気記憶装置は、固定された磁化方向を有する第1の磁性層と、固定された磁化方向を有する第2の磁性層と、前記第1の磁性層と前記第2の磁性層との間に設けられ、可変の磁化方向を有する第3の磁性層と、前記第1の磁性層と前記第3の磁性層との間に設けられた第1の非磁性層と、前記第2の磁性層と前記第3の磁性層との間に設けられた第2の非磁性層と、を備える磁気抵抗効果素子と、前記磁気抵抗効果素子に対して直列に接続され、2端子間に印加される電圧が閾電圧以上になると電気的に非導通状態から電気的に導通状態へと変わる2端子型のスイッチング素子と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1A】実施形態に係る磁気記憶装置の構成の一例を模式的に示した斜視図である。
図1B】実施形態に係る磁気記憶装置の構成の他の例を模式的に示した斜視図である。
図2】実施形態に係る磁気記憶装置に含まれる磁気抵抗効果素子の構成を模式的に示した断面図である。
図3】実施形態に係る磁気記憶装置に含まれるセレクタの構成を模式的に示した断面図である。
図4】実施形態に係る磁気記憶装置に含まれるセレクタの電流-電圧特性を模式的に示した図である。
図5】磁気記憶装置の読み出し動作において要求される電流の範囲について示した図である。
図6】実施形態に係る磁気記憶装置に含まれる磁気抵抗効果素子に対して書き込みを行うときの動作を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
【0008】
図1Aは、実施形態に係る不揮発性の磁気記憶装置の構成を模式的に示した斜視図である。図1Aに示した構造は、半導体基板(図示せず)上に集積化されている。
【0009】
図1Aに示すように、本実施形態に係る磁気記憶装置は、X方向に延伸する複数の第1の配線10と、X方向と交差するY方向に延伸する複数の第2の配線20と、複数の第1の配線10と複数の第2の配線20との間に接続された複数のメモリセル30とを含んでいる。第1の配線10及び第2の配線20の一方はワード線に対応し、他方はビット線に対応する。
【0010】
各メモリセル30は、磁気抵抗効果素子40と、磁気抵抗効果素子40に対して直列に接続されたセレクタ(スイッチング素子)50とを含んでいる。図1Aに示した例では、磁気抵抗効果素子40とセレクタ50との間に、導電性のバッファ層60が設けられている。なお、本実施形態では、磁気抵抗効果素子40がMTJ(magnetic tunnel junction)素子の場合で説明を行う。
【0011】
所望のメモリセル30に接続された第1の配線10と第2の配線20との間に所定の電圧を印加することで、所望のメモリセル30に含まれるセレクタ50がオン状態となり、所望のメモリセル30に含まれる磁気抵抗効果素子40に対して読み出し或いは書き込みを行うことが可能である。
【0012】
なお、図1Aに示した磁気記憶装置は、磁気抵抗効果素子40の上層側にセレクタ50が設けられた構成であるが、図1Bに示すように、セレクタ50の上層側に磁気抵抗効果素子40が設けられた構成であってもよい。
【0013】
図2は、上述した磁気抵抗効果素子40の構成を模式的に示した断面図である。
【0014】
図2に示すように、磁気抵抗効果素子40は、第1の磁性層41、第2の磁性層42、第3の磁性層43、第4の磁性層44、第5の磁性層45、第1のトンネルバリア層(第1の非磁性層)46、第2のトンネルバリア層(第2の非磁性層)47、第1の中間層48及び第2の中間層49を含んでおり、これらの層41~49がZ方向に積層された構造を有している。
【0015】
具体的には、第1の磁性層41と第2の磁性層42との間に第3の磁性層43が設けられ、第1の磁性層41と第3の磁性層43との間に第1のトンネルバリア層(第1の非磁性層)46が設けられ、第2の磁性層42と第3の磁性層43との間に第2のトンネルバリア層(第2の非磁性層)47が設けられている。また、第1の磁性層41、第2の磁性層42及び第3の磁性層43が、第4の磁性層44と第5の磁性層45との間に設けられている。
【0016】
第1の磁性層41は、固定された磁化方向を有する強磁性層であり、第1の参照層RL1の一部として機能する。固定された磁化方向とは、所定の書き込み電流に対して磁化方向が変わらないことを意味する。第1の磁性層41は、例えば、コバルト(Co)、鉄(Fe)及びボロン(B)を含有するCcFeB層で形成されている。
【0017】
第2の磁性層42も、固定された磁化方向を有する強磁性層であり、第2の参照層RL2の一部として機能する。第1の磁性層41の磁化方向と第2の磁性層42の磁化方向とは互いに平行である。すなわち、第1の磁性層41の磁化方向と第2の磁性層42の磁化方向とは同一方向である。第2の磁性層42も、例えば、コバルト(Co)、鉄(Fe)及びボロン(B)を含有するCcFeB層で形成されている。
【0018】
第3の磁性層43は、可変の磁化方向を有する強磁性層であり、記憶層SLとして機能する。可変の磁化方向とは、所定の書き込み電流に対して磁化方向が変わることを意味する。第3の磁性層43は、例えば、コバルト(Co)、鉄(Fe)及びボロン(B)を含有するCcFeB層で形成されている。
【0019】
第4の磁性層44は、固定された磁化方向を有する強磁性層であり、第1の参照層RL1の一部として機能する。第4の磁性層44の磁化方向は、第1の磁性層41の磁化方向に対して反平行である。すなわち、第4の磁性層44の磁化方向は、第1の磁性層41の磁化方向に対して逆方向である。第4の磁性層44は、例えば、コバルト(Co)層及びプラチナ(Pt)層が交互に積層された超格子層で形成されている。
【0020】
第5の磁性層45も、固定された磁化方向を有する強磁性層であり、第2の参照層RL2の一部として機能する。第5の磁性層45の磁化方向は、第2の磁性層42の磁化方向に対して反平行である。すなわち、第5の磁性層45の磁化方向は、第2の磁性層42の磁化方向に対して逆方向である。第5の磁性層45も、例えば、コバルト(Co)層及びプラチナ(Pt)層が交互に積層された超格子層で形成されている。
【0021】
第1のトンネルバリア層(第1の非磁性層)46は、第1の磁性層41と第3の磁性層43との間に設けられた絶縁層である。第1のトンネルバリア層46は、例えば、マグネシウム(Mg)及び酸素(O)を含有するMgO層で形成されている。
【0022】
第2のトンネルバリア層(第2の非磁性層)47は、第2の磁性層42と第3の磁性層43との間に設けられた絶縁層である。第2のトンネルバリア層47も、例えば、マグネシウム(Mg)及び酸素(O)を含有するMgO層で形成されている。
【0023】
第1の中間層48は、第1の磁性層41と第4の磁性層44との間に設けられ、所定の金属材料で形成されている。
【0024】
第2の中間層49は、第2の磁性層42と第5の磁性層45との間に設けられ、所定の金属材料で形成されている。
【0025】
上述した磁気抵抗効果素子40は、垂直磁化を有するSTT(spin transfer torque)型の磁気抵抗効果素子である。具体的には、第1の磁性層41、第2の磁性層42、第3の磁性層43、第4の磁性層44及び第5の磁性層45の磁化方向はいずれも、それぞれの膜面に対して垂直方向である。
【0026】
上述した磁気抵抗効果素子40は、第3の磁性層43の磁化方向が第1の磁性層41及び第2の磁性層42の磁化方向に対して平行であるときには、相対的に低抵抗状態(第1の抵抗状態)を呈し、第3の磁性層43の磁化方向が第1の磁性層41及び第2の磁性層42の磁化方向に対して反平行であるときには、相対的に高抵抗状態(第2の抵抗状態)を呈する。
【0027】
したがって、磁気抵抗効果素子40は、抵抗状態(低抵抗状態、高抵抗状態)に応じて2値データを記憶することが可能である。また、磁気抵抗効果素子40の抵抗状態は、磁気抵抗効果素子40を流れる電流の方向に応じて設定することが可能である。
【0028】
上述した磁気抵抗効果素子40は、実質的に2つの磁気抵抗効果素子部分を含んでいると考えることができる。具体的には、第1の磁性層41、第3の磁性層43、第4の磁性層44、第1のトンネルバリア層46及び第1の中間層48によって第1の磁気抵抗効果素子部分が構成され、第2の磁性層42、第3の磁性層43、第5の磁性層45、第2のトンネルバリア層47及び第2の中間層49によって第2の磁気抵抗効果素子部分が構成される。この場合、第1の磁気抵抗効果素子部分のMR比(magnetoresistance ratio)と第2の磁気抵抗効果素子部分のMR比とは互いに異なっている。
【0029】
図3は、上述したセレクタ(スイッチング素子)50の構成を模式的に示した断面図である。
【0030】
図3に示すように、セレクタ50は、第1の電極51と、第2の電極52と、第1の電極51と第2の電極52との間に設けられたセレクタ材料層53とを含んでいる。セレクタ50は、2端子型のスイッチング素子であり、2端子間に印加される電圧が閾電圧未満の場合には、そのスイッチング素子は“高抵抗状態”、例えば電気的に非導通状態であり、2端子間に印加される電圧が閾電圧以上になると、スイッチング素子は“低抵抗状態”、例えば、電気的に導通状態へと変わる。
【0031】
図4は、本実施形態で用いられるセレクタ50の電流-電圧特性を模式的に示した図である。
【0032】
セレクタ50は、非線形な電流-電圧特性を有しており、2端子間に印加される電圧が増加して閾電圧Vthに達するとオフ状態(非導通状態)からオン状態(導通状態)に移行し、オン状態になると2端子間の電圧が閾電圧Vthよりも低いホールド電圧Vhold(このとき、セレクタ50には電流Iholdが流れる)に移行して電流が急激に増加する特性を有している。また、セレクタ50は、2端子間に印加される電圧が減少してホールド電圧Vholdに達するとオン状態からオフ状態に移行する特性を有している。また、セレクタ50は、双方向(正方向及び負方向)で互いに対称的な電流-電圧特性を有していてもよい。
【0033】
本実施形態では、上述した磁気記憶装置を用いることにより、安定した読み出し及び書き込み動作を行うことが可能となる。以下、詳細に説明する。
【0034】
図5は、読み出し動作において要求される電流(磁気抵抗効果素子40及びセレクタ50が直列接続されたメモリセル30に流れる電流)の範囲について示した図である。
【0035】
図5(a)は、セレクタ50の電流-電圧特性を模式的に示した図であり、図4に示した電流-電圧特性を簡単化して示した図である。図5(b)は、磁気抵抗効果素子40のWER(write error rate)と磁気抵抗効果素子40に流れる電流(すなわち、セレクタ50に流れる電流)との関係を模式的に示した図である。
【0036】
すでに述べたように、セレクタ50は、2端子間に印加される電圧が増加して閾電圧Vthに達するとオフ状態からオン状態に移行し、オン状態になると2端子間の電圧が閾電圧Vthよりも低いホールド電圧Vholdに移行して電流が急激に増加する。2端子間の電圧が閾電圧Vthからホールド電圧Vholdに移行するまでの範囲は不安定な範囲であるため、安定した読み出し動作を行うためには、ホールド電圧Vholdに移行したときの電流Iholdよりも大きな電流をセレクタ50に流すことが必要である。
【0037】
一方、磁気抵抗効果素子40に対して書き込みを行うときには、読み出し電流よりも大きな書き込み電流を磁気抵抗効果素子40に流す必要がある。具体的には、図5(b)に示すように、書き込み電流の下限値Iw0よりも大きな電流を磁気抵抗効果素子40に流す必要があり、書き込み電流の下限値Iw0から電流が増加するにしたがってWER(write error rate)は減少する。これを読み出し電流の観点から考えると、読み出し時には、書き込み電流の下限値Iw0よりも小さな読み出し電流を磁気抵抗効果素子40に流す必要がある。読み出し時にIw0よりも大きな電流が磁気抵抗効果素子40に流れると、磁気抵抗効果素子40に誤って書き込みが行われるおそれがあり、リードディスターブが生じる可能性がある。
【0038】
したがって、的確な読み出し動作を行うためには、ホールド電流Iholdよりも大きく且つ書き込み電流の下限値Iw0よりも小さな読み出し電流を設定する必要がある。さらに、安定した読み出し動作を行うためには十分なマージンを確保することが重要であるが、IholdとIw0との差を大きくとることは容易ではない。
【0039】
本実施形態では、上述した磁気抵抗効果素子40を用いることにより、以下に述べるように、読み出し動作時のマージンを増加させることができ、リードディスターブが抑制された安定した読み出し動作を行うことが可能である。
【0040】
図6は、磁気抵抗効果素子40に対して書き込みを行うときの動作を説明するための図である。なお、第1の磁性層41~第5の磁性層45内に示された矢印は、電子のスピンの方向を表している。
【0041】
まず、磁気抵抗効果素子40に“0”を書き込む場合について説明する。すなわち、磁気抵抗効果素子40に、低抵抗状態(第3の磁性層43の磁化方向が、第1の磁性層41及び第2の磁性層42の磁化方向に対して平行になる状態)を設定する場合について説明する。磁気抵抗効果素子40に“0”を書き込む場合には、図6の上層側から下層側に向かって電流を流す。したがって、電子“e- ”は、図6の下層側から上層側に向かって流れる。
【0042】
すでに述べたように、本実施形態の磁気抵抗効果素子40は、実質的に2つの磁気抵抗効果素子部分40a及び40bを含んでいる。すなわち、第1の磁性層41、第3の磁性層43、第4の磁性層44、第1のトンネルバリア層46及び第1の中間層48によって第1の磁気抵抗効果素子部分40aが構成され、第2の磁性層42、第3の磁性層43、第5の磁性層45、第2のトンネルバリア層47及び第2の中間層49によって第2の磁気抵抗効果素子部分40bが構成される。
【0043】
まず、第1の磁気抵抗効果素子部分40aのみについて考えると、第1の磁性層41から第3の磁性層43に向かって電子e- が流れる。第1の磁性層41からは上向きのスピンを有する電子e- が第3の磁性層43に注入されやすいため、第3の磁性層43内では上向きのスピンを有する電子e- が支配的となる。したがって、第3の磁性層43の磁化方向は、第1の磁性層41の磁化方向に対して平行になる。
【0044】
一方、第2の磁気抵抗効果素子部分40bのみについて考えると、第3の磁性層43から第2の磁性層42に向かって電子e- が流れる。第3の磁性層43からは上向きのスピンを有する電子e- が第2の磁性層42に注入されやすいため、第3の磁性層43内には下向きのスピンを有する電子e- が残る。したがって、第3の磁性層43の磁化方向は、第2の磁性層42の磁化方向に対して反平行になる。
【0045】
上述したように、磁気抵抗効果素子40に“0”を書き込む場合、第1の磁気抵抗効果素子部分40aでは、第3の磁性層43の磁化方向は第1の磁性層41の磁化方向に対して平行になりやすく、第2の磁気抵抗効果素子部分40bでは、第3の磁性層43の磁化方向は第2の磁性層42の磁化方向に対して反平行になりやすい。しかしながら、実際には、第3の磁性層43は、第1の磁気抵抗効果素子部分40aと第2の磁気抵抗効果素子部分40bとで共通である。そのため、第3の磁性層43の磁化方向は、第1の磁気抵抗効果素子部分40aの書き込み効率(第1のトンネルバリア層46を介した電子の注入効率)と第2の磁気抵抗効果素子部分40bの書き込み効率(第2のトンネルバリア層47を介した電子の注入効率)との関係に依存して決まる。第1の磁気抵抗効果素子部分40aの書き込み効率の方が第2の磁気抵抗効果素子部分40bの書き込み効率よりも高ければ、第3の磁性層43の磁化方向は、第1の磁気抵抗効果素子部分40aでの磁化方向に基づき、上向きに設定される。その結果、第3の磁性層43の磁化方向は、第1の磁性層41及び第2の磁性層42の磁化方向に対して平行となり、磁気抵抗効果素子40には“0”が書き込まれることになる。
【0046】
次に、磁気抵抗効果素子40に“1”を書き込む場合について説明する。すなわち、磁気抵抗効果素子40に、高抵抗状態(第3の磁性層43の磁化方向が、第1の磁性層41及び第2の磁性層42の磁化方向に対して反平行になる状態)を設定する場合について説明する。磁気抵抗効果素子40に“1”を書き込む場合には、図6の下層側から上層側に向かって電流を流す。したがって、電子“e- ”は、図6の上層側から下層側に向かって流れる。
【0047】
まず、第2の磁気抵抗効果素子部分40bのみについて考えると、第2の磁性層42から第3の磁性層43に向かって電子e- が流れる。第2の磁性層42からは上向きのスピンを有する電子e- が第3の磁性層43に注入されやすいため、第3の磁性層43内では上向きのスピンを有する電子e- が支配的となる。したがって、第3の磁性層43の磁化方向は、第2の磁性層42の磁化方向に対して平行になる。
【0048】
一方、第1の磁気抵抗効果素子部分40aのみについて考えると、第3の磁性層43から第1の磁性層41に向かって電子e- が流れる。第3の磁性層43からは上向きのスピンを有する電子e- が第1の磁性層41に注入されやすいため、第3の磁性層43内には下向きのスピンを有する電子e- が残る。したがって、第3の磁性層43の磁化方向は、第1の磁性層41の磁化方向に対して反平行になる。
【0049】
上述したように、磁気抵抗効果素子40に“1”を書き込む場合、第1の磁気抵抗効果素子部分40aでは、第3の磁性層43の磁化方向は第1の磁性層41の磁化方向に対して反平行になりやすく、第2の磁気抵抗効果素子部分40bでは、第3の磁性層43の磁化方向は第2の磁性層42の磁化方向に対して平行になりやすい。したがって、磁気抵抗効果素子40に“0”を書き込む場合の議論と同様の議論により、第1の磁気抵抗効果素子部分40aの書き込み効率が第2の磁気抵抗効果素子部分40bの書き込み効率よりも高ければ、第3の磁性層43の磁化方向は、第1の磁気抵抗効果素子部分40aでの磁化方向に基づき、下向きに設定される。その結果、第3の磁性層43の磁化方向は、第1の磁性層41及び第2の磁性層42の磁化方向に対して反平行となり、磁気抵抗効果素子40には“1”が書き込まれることになる。
【0050】
上述したように、磁気抵抗効果素子40に“0”を書き込む場合及び“1”を書き込む場合いずれの場合も、第3の磁性層43には磁化方向を上向きにしようとする作用と下向きにしようとする作用が働く。その結果、両作用の差分が実質的に第3の磁性層43に対して働くことになる。そのため、2つの磁気抵抗効果素子部分40a及び40bで構成された本実施形態の磁気抵抗効果素子40は、1つの磁気抵抗効果素子部分のみで構成された一般的な磁気抵抗効果素子に比べて、書き込み電流を大きくする必要がある。
【0051】
このように、本実施形態の磁気抵抗効果素子40では、書き込み電流を大きくしなければ書き込みを行うことができないため、読み出し電流を大きくしても読み出し時に誤って書き込みが行われてしまうことを防止することができる。したがって、本実施形態では、読み出し動作時のマージンを増加させることができ、リードディスターブが抑制された安定した読み出し動作を行うことが可能となる。
【0052】
また、本実施形態では、第1の磁気抵抗効果素子部分40aのMR比と第2の磁気抵抗効果素子部分40bのMR比とが互いに異なっている。具体的には、第1の磁気抵抗効果素子部分40aのMR比の方が第2の磁気抵抗効果素子部分40bのMR比よりも高くなっている。
【0053】
一般に、磁気抵抗効果素子では、“0”を書き込む場合の方が“1”を書き込む場合よりも書き込み効率が高い。そのため、仮に第1の磁気抵抗効果素子部分40aのMR比と第2の磁気抵抗効果素子部分40bのMR比とが同じであるとすると、第1の磁気抵抗効果素子部分40a及び2の磁気抵抗効果素子部分40bのいずれに対しても常に“0”が書き込まれてしまう。そのため、書き込み電流の流れる方向によらず、磁気抵抗効果素子40には常に“0”が書き込まれることになる。
【0054】
本実施形態では、第1の磁気抵抗効果素子部分40aのMR比を第2の磁気抵抗効果素子部分40bのMR比よりも高くすることで、第1の磁気抵抗効果素子部分40aの書き込み効率(第1のトンネルバリア層46を介した電子の注入効率)が第2の磁気抵抗効果素子部分40bの書き込み効率(第2のトンネルバリア層47を介した電子の注入効率)よりも高くなる。そのため、上述したような問題を回避することができ、図6の上層側から下層側に向かって電流を流す(すなわち、電子“e- ”を図6の下層側から上層側に向かって流す)ことで磁気抵抗効果素子40に“0”を書き込むことができ、図6の下層側から上層側に向かって電流を流す(すなわち、電子“e- ”を図6の上層側から下層側に向かって流す)ことで磁気抵抗効果素子40に“1”を書き込むことができる。
【0055】
また、本実施形態では、磁気抵抗効果素子40が実質的に第1の磁気抵抗効果素子部分40aと第2の磁気抵抗効果素子部分40bとの直列接続によって構成されているため、一般的な磁気抵抗効果素子に比べて読み出し電圧が高くなる。そのため、磁気抵抗効果素子40に“0”(低抵抗状態)が記憶されている場合の読み出し電圧と、磁気抵抗効果素子40に“1”(高抵抗状態)が記憶されている場合の読み出し電圧との差を大きくすることができる。したがって、磁気抵抗効果素子40に記憶されているデータ(0又は1)を確実に読み出すことができる。
【0056】
また、読み出し電圧が高くても、第1の磁気抵抗効果素子部分40a及び第2の磁気抵抗効果素子部分40bそれぞれに対しては分圧された電圧が印加されるので、第1のトンネルバリア層46及び第2のトンネルバリア層47それぞれに印加される電圧は増加しない。したがって、読み出し電圧が高くても、第1のトンネルバリア層46及び第2のトンネルバリア層47に大きな電圧が印加されることを抑制することが可能である。
【0057】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0058】
10…第1の配線 20…第2の配線 30…メモリセル
40…磁気抵抗効果素子
40a…第1の磁気抵抗効果素子部分 40b…第2の磁気抵抗効果素子部分
41…第1の磁性層 42…第2の磁性層 43…第3の磁性層
44…第4の磁性層 45…第5の磁性層
46…第1のトンネルバリア層(第1の非磁性層)
47…第2のトンネルバリア層(第2の非磁性層)
48…第1の中間層 49…第2の中間層
50…セレクタ(スイッチング素子)
51…第1の電極 52…第2の電極 53…セレクタ材料層
60…バッファ層
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6