(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022049522
(43)【公開日】2022-03-29
(54)【発明の名称】戸挟み検出装置、鉄道用ドア装置及びプログラム
(51)【国際特許分類】
E05F 15/41 20150101AFI20220322BHJP
E05F 15/655 20150101ALI20220322BHJP
B61D 19/02 20060101ALI20220322BHJP
【FI】
E05F15/41
E05F15/655
B61D19/02 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020155758
(22)【出願日】2020-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100103263
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 康
(72)【発明者】
【氏名】夏 盈菁
(72)【発明者】
【氏名】田邉 和男
(72)【発明者】
【氏名】柳本 裕右
【テーマコード(参考)】
2E052
【Fターム(参考)】
2E052AA09
2E052CA06
2E052DA08
2E052DB08
2E052EA15
2E052EB01
2E052EC02
2E052GA08
2E052GA09
2E052GB06
2E052GB12
2E052GB15
2E052GB20
2E052GC06
2E052GD05
2E052KA15
2E052KA16
(57)【要約】
【課題】戸挟みが生じたか否かを簡易かつ正確に検出する。
【解決手段】モータの駆動力にて閉方向に駆動される際のドアの戸挟みを検出する戸挟み検出装置は、前記ドアの閉動作中の移動速度、移動距離、又は移動時間の少なくとも一つに基づいて、前記ドアが所定の位置に到達したか否かを判定する位置判定部と、前記ドアが前記所定の位置に到達した判定されてから前記ドアが全閉位置に到達するまでの間に、前記モータに流れる電流に基づいて、前記ドアの戸挟みが生じたか否かを判定する戸挟み判定部と、を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの駆動力にて閉方向に駆動される際のドアの戸挟みを検出する戸挟み検出装置であって、
前記ドアの閉動作中の移動速度、移動距離、又は移動時間の少なくとも一つに基づいて、前記ドアが所定の位置に到達したか否かを判定する位置判定部と、
前記ドアが前記所定の位置に到達したと判定されてから前記ドアが全閉位置に到達するまでの間に、前記モータに流れる電流に基づいて、前記ドアの戸挟みが生じたか否かを判定する戸挟み判定部と、を備える、戸挟み検出装置。
【請求項2】
前記戸挟み判定部は、前記ドアが前記所定の位置に到達したと判定されてから前記ドアが全閉位置に到達するまでの間に、前記モータに流れる電流に基づく前記ドアの戸挟み判定と並行して、前記ドアの移動速度に基づいて前記ドアの戸挟みが生じたか否かを判定する、請求項1に記載の戸挟み検出装置。
【請求項3】
前記戸挟み判定部は、
前記ドアが前記所定の位置に到達していないと判定される場合に、前記ドアの移動速度又は前記モータに流れる電流値が第1の条件を満たすか否かによって、前記戸挟みが生じたか否かを判定する第1戸挟み判定部と、
前記ドアが前記所定の位置に到達したと判定されてから前記ドアが全閉位置に到達すまでの間に、前記電流値が前記第1の条件と異なる第2の条件を満たすか否かによって、前記戸挟みが生じたか否かを判定する第2戸挟み判定部と、を有する、請求項1又は2に記載の戸挟み検出装置。
【請求項4】
前記第2戸挟み判定部は、前記ドアが前記所定の位置に到達したと判定されてから前記ドアが全閉位置に到達すまでの間であって、さらに、前記電流値が前記第2の条件を満たすと判定された場合、又は前記ドアの速度に基づいて前記ドアの戸挟みが生じたと判定された場合の少なくとも一方のときに、前記戸挟みが生じたと判定する、請求項3に記載の戸挟み検出装置。
【請求項5】
前記ドアの閉動作中の第1期間に前記モータに流れる第1電流値を取得する第1取得部と、
取得された前記第1電流値に基づいて、前記戸挟みを判定するための閾値を設定する閾値設定部と、
前記ドアの閉動作中の前記第1期間の後である第2期間に前記モータに流れる第2電流値を取得する第2取得部と、を備え、
前記第2戸挟み判定部は、取得された前記第2電流値と前記設定された閾値とを比較することにより、前記第2の条件を満たすか否かを判定する、請求項3又は4に記載の戸挟み検出装置。
【請求項6】
前記閾値設定部は、前記第1期間内に前記モータに流れる電流値の平均値、中央値、最頻値、又は積分値の少なくとも一つに基づいて、前記閾値を設定する、請求項5に記載の戸挟み検出装置。
【請求項7】
前記ドアを閉方向に駆動した際の戸挟みしていない際に前記モータに流れる電流値の平均値、中央値、最頻値、又は積分値の少なくとも一つの計測値と、前記計測値に基づく基準閾値と、の対応関係を記憶する記憶部を備え、
前記閾値設定部は、前記記憶部に記憶された前記対応関係と、前記第1期間内に前記モータに流れる電流値の平均値、中央値、最頻値、又は積分値の少なくとも一つとに基づいて、前記閾値を設定する、請求項5又は6に記載の戸挟み検出装置。
【請求項8】
前記閾値設定部は、前記第1期間の前記モータの駆動電圧に基づいて、前記閾値を設定する、請求項5乃至7のいずれか1項に記載の戸挟み検出装置。
【請求項9】
鉄道車両に設けられたドアと、
ドアを開閉させるモータと、
前記モータを制御するドア開閉制御部と、
前記モータの駆動力によって前記ドアが閉方向に駆動される際の戸挟みを検出する戸挟み検出装置と、を備える鉄道用ドア装置であって、
前記戸挟み検出装置は、
前記ドアの閉動作中に、前記ドアの移動速度、移動距離、又は前記ドアの閉方向への移動時間の少なくとも一つに基づいて、前記ドアが所定の位置に到達したか否かを判定する位置判定部と、
前記ドアが前記所定の位置に到達していないと判定される場合に、前記ドアの移動速度又は前記モータに流れる電流値が第1の条件を満たすか否かによって、前記戸挟みが生じたか否かを判定する第1戸挟み判定部と、
前記ドアが前記所定の位置に到達したと判定されてから前記ドアが全閉位置に到達するまでの間に、前記電流値が前記第1の条件と異なる第2の条件を満たすか否かによって、前記戸挟みが生じたか否かを判定する第2戸挟み判定部と、を有する、鉄道用ドア装置。
【請求項10】
コンピュータに、モータの駆動力によってドアが閉方向に駆動される際の戸挟みを検出させるプログラムであって、
前記ドアの閉動作中に、前記ドアの移動速度、移動距離、又は前記ドアの閉方向への移動時間の少なくとも一つに基づいて、前記ドアが所定の位置に到達したか否かを判定する手順と、
前記ドアが前記所定の位置に到達していないと判定される場合に、前記ドアの移動速度又は前記モータに流れる電流値が第1の条件を満たすか否かによって、前記戸挟みが生じたか否かを判定する手順と、
前記ドアが前記所定の位置に到達したと判定されてから前記ドアが全閉位置に到達するまでの間に、前記電流値が前記第1の条件と異なる第2の条件を満たすか否かによって、前記戸挟みが生じたか否かを判定する手順と、を前記コンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施形態は、戸挟み検出装置、鉄道用ドア装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動ドア装置は、ドアリーフの戸先に人間や物体が接触したことを検知する戸挟み検出装置を備えている。従来の戸挟み検出装置には、ドアリーフの移動速度により戸挟みを検出する方式と、ドアリーフを移動させる駆動力を発生するモータに流れる電流(以下、モータ電流)により戸挟みを検出する方式とがある。
【0003】
ドアリーフの移動速度で戸挟みを検出する場合、戸挟みが生じるとドアリーフの移動速度がゼロになるため、移動速度がゼロになれば戸挟みが生じたと判断する。また、モータ電流で戸挟みを検出する場合、戸挟みが生じるとモータ電流が急増するため、モータ電流が所定の閾値を超えると戸挟みが生じたと判断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ドアリーフの戸先には、人間や物体への接触を和らげるために戸先ゴムが取り付けられており、人間や物体が戸先ゴムに接触してもすぐにはドアリーフの移動速度はゼロにならず、戸先ゴムが収縮できる範囲でドアリーフが低速で移動する。同様に、全閉時には、左右のドアリーフの戸先ゴム同士が接触しても、しばらくはドアリーフが低速で移動する。このため、ドアの移動速度だけでは、戸挟みが生じたか否かを正確には判断できないおそれがある。
【0006】
一方、モータ電流も様々な要因で変動しやすく、モータ電流を閾値と比較して戸挟みを検出しようとしても、モータ電流が大きく変動する状況では、正確な戸挟み検出を行うことはできない。
【0007】
そこで、本発明の一実施形態では、戸挟みが生じたか否かを簡易かつ正確に検出できる戸挟み検出装置、鉄道用ドア装置及びプログラムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一実施形態によれば、モータの駆動力にて閉方向に駆動される際のドアの戸挟みを検出する戸挟み検出装置であって、
前記ドアの閉動作中の移動速度、移動距離、又は移動時間の少なくとも一つに基づいて、前記ドアが所定の位置に到達したか否かを判定する位置判定部と、
前記ドアが前記所定の位置に到達した判定されてから前記ドアが全閉位置に到達するまでの間に、前記モータに流れる電流に基づいて、前記ドアの戸挟みが生じたか否かを判定する戸挟み判定部と、を備える、戸挟み検出装置が提供される。
【0009】
前記戸挟み判定部は、前記ドアが前記所定の位置に到達したと判定されてから前記ドアが全閉位置に到達するまでの間に、前記モータに流れる電流に基づく前記ドアの戸挟み判定と並行して、前記ドアの移動速度に基づいて前記ドアの戸挟みが生じたか否かを判定してもよい。
【0010】
前記戸挟み判定部は、
前記ドアが前記所定の位置に到達していないと判定される場合に、前記ドアの移動速度又は前記モータに流れる電流値が第1の条件を満たすか否かによって、前記戸挟みが生じたか否かを判定する第1戸挟み判定部と、
前記ドアが前記所定の位置に到達したと判定されてから前記ドアが全閉位置に到達するまでの間に、前記電流値が前記第1の条件と異なる第2の条件を満たすか否かによって、前記戸挟みが生じたか否かを判定する第2戸挟み判定部と、を有してもよい。
【0011】
前記第2戸挟み判定部は、前記ドアが前記所定の位置に到達したと判定されてから前記ドアが全閉位置に到達するまでの間であって、さらに、前記電流値が前記第2の条件を満たすと判定された場合、又は前記ドアの速度に基づいて前記ドアの戸挟みが生じたと判定された場合の少なくとも一方のときに、前記戸挟みが生じたと判定してもよい。
【0012】
前記ドアの閉動作中の第1期間に前記モータに流れる第1電流値を取得する第1取得部と、
取得された前記第1電流値に基づいて、前記戸挟みを判定するための閾値を設定する閾値設定部と、
前記ドアの閉動作中の前記第1期間の後である第2期間に前記モータに流れる第2電流値を取得する第2取得部と、を備え、
前記第2戸挟み判定部は、取得された前記第2電流値と前記設定された閾値とを比較することにより、前記第2の条件を満たすか否かを判定してもよい。
【0013】
前記閾値設定部は、前記第1期間内に前記モータに流れる電流値の平均値、中央値、最頻値、又は積分値の少なくとも一つに基づいて、前記閾値を設定してもよい。
【0014】
前記ドアを閉方向に駆動した際の戸挟みしていない際に前記モータに流れる電流値の平均値、中央値、最頻値、又は積分値の少なくとも一つの計測値と、前記計測値に基づく基準閾値と、の対応関係を記憶する記憶部を備え、
前記閾値設定部は、前記記憶部に記憶された前記対応関係と、前記第1期間内に前記モータに流れる電流値の平均値、中央値、最頻値、又は積分値の少なくとも一つとに基づいて、前記閾値を設定してもよい。
【0015】
前記閾値設定部は、前記第1期間の前記モータの駆動電圧に基づいて、前記閾値を設定してもよい。
【0016】
本発明の他の一態様では、鉄道車両に設けられたドアと、
ドアを開閉させるモータと、
前記モータを制御するドア開閉制御部と、
前記モータの駆動力によって前記ドアが閉方向に駆動される際の戸挟みを検出する戸挟み検出装置と、を備える鉄道用ドア装置であって、
前記戸挟み検出装置は、
前記ドアの閉動作中に、前記ドアの移動速度、移動距離、又は前記ドアの閉方向への移動時間の少なくとも一つに基づいて、前記ドアが所定の位置に到達したか否かを判定する位置判定部と、
前記ドアが前記所定の位置に到達していないと判定される場合に、前記ドアの移動速度又は前記モータに流れる電流値が第1の条件を満たすか否かによって、前記戸挟みが生じたか否かを判定する第1戸挟み判定部と、
前記ドアが前記所定の位置に到達したと判定されてから前記ドアが全閉位置に到達するまでの間に、前記電流値が前記第1の条件と異なる第2の条件を満たすか否かによって、前記戸挟みが生じたか否かを判定する第2戸挟み判定部と、を有する、鉄道用ドア装置が提供される。
【0017】
本発明の他の一態様では、コンピュータに、モータの駆動力によってドアが閉方向に駆動される際の戸挟みを検出させるプログラムであって、
前記ドアの閉動作中に、前記ドアの移動速度、移動距離、又は前記ドアの閉方向への移動時間の少なくとも一つに基づいて、前記ドアが所定の位置に到達したか否かを判定する手順と、
前記ドアが前記所定の位置に到達していないと判定される場合に、前記ドアの移動速度又は前記モータに流れる電流値が第1の条件を満たすか否かによって、前記戸挟みが生じたか否かを判定する手順と、
前記ドアが前記所定の位置に到達したと判定されてから前記ドアが全閉位置に到達するまでの間に、前記電流値が前記第1の条件と異なる第2の条件を満たすか否かによって、前記戸挟みが生じたか否かを判定する手順と、を前記コンピュータに実行させるためのプログラムが提供される。
【0018】
前記閾値設定部は、前記第1期間の前記モータの駆動電圧に基づいて、前記閾値を設定してもよい。
【0019】
本発明の他の一態様によれば、ドアと、
ドアを開閉させるモータと、
前記モータを制御するドア開閉制御部と、
前記モータの駆動力によって前記ドアが閉方向に駆動される際の戸挟みを検出する戸挟み検出装置と、を備える鉄道用ドア装置であって、
前記戸挟み検出装置は、
前記ドアの閉動作中に、前記ドアの移動速度、移動距離、又は前記ドアの閉方向への移動時間の少なくとも一つに基づいて、前記ドアが所定の位置に到達したか否かを判定する位置判定部と、
前記ドアが前記所定の位置に到達していないと判定される場合に、前記ドアの移動速度又は前記モータに流れる電流値が第1の条件を満たすか否かによって、前記戸挟みが生じたか否かを判定する第1戸挟み判定部と、
前記ドアが前記所定の位置に到達したと判定される場合に、前記電流値が前記第1の条件と異なる第2の条件を満たすか否かによって、前記戸挟みが生じたか否かを判定する第2戸挟み判定部と、を有する、鉄道用ドア装置が提供される。
【0020】
本発明の一態様によれば、コンピュータに、モータの駆動力によってドアが閉方向に駆動される際の戸挟みを検出させるプログラムであって、
前記ドアの閉動作中に、前記ドアの移動速度、移動距離、又は前記ドアの閉方向への移動時間の少なくとも一つに基づいて、前記ドアが所定の位置に到達したか否かを判定する手順と、
前記ドアが前記所定の位置に到達していないと判定される場合に、前記ドアの移動速度又は前記モータに流れる電流値が第1の条件を満たすか否かによって、前記戸挟みが生じたか否かを判定する手順と、
前記ドアが前記所定の位置に到達したと判定される場合に、前記電流値が前記第1の条件と異なる第2の条件を満たすか否かによって、前記戸挟みが生じたか否かを判定する手順と、を前記コンピュータに実行させるためのプログラムが提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明の一態様によれば、戸挟みが生じたか否かを簡易かつ正確に検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】第1の実施形態による戸挟み検出装置を内蔵した自動ドア装置の外観図。
【
図3】
図1の自動ドア装置の制御系の概略構成を示すブロック図。
【
図4】第1の実施形態による戸挟み検出装置の内部構成を示すブロック図。
【
図5】ストローク、移動速度、モータ電流の変化を示すグラフ。
【
図6】第1の実施形態による戸挟み検出装置の処理手順を示すフローチャート。
【
図7】第2の実施形態による戸挟み検出装置の処理手順を示すフローチャート。
【
図8】第3の実施形態による戸挟み検出装置の内部構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、戸挟み検出装置、鉄道用ドア装置及びプログラムの実施形態について説明する。以下では、戸挟み検出装置、鉄道用ドア装置及びプログラムの主要な構成部分を中心に説明するが、戸挟み検出装置、鉄道用ドア装置及びプログラムには、図示又は説明されていない構成部分や機能が存在しうる。以下の説明は、図示又は説明されていない構成部分や機能を除外するものではない。
【0024】
(第1の実施形態)
図1は第1の実施形態による戸挟み検出装置1を内蔵した電気式ドア装置2の外観図である。
図1の電気式ドア装置2は、鉄道車両に搭載されるものである。なお、本実施形態による電気式ドア装置2は、鉄道車両以外の用途に幅広く用いることができる。例えば、本実施形態による電気式ドア装置2は、乗物や建物、施設の自動ドア装置の他、家屋のホームドアなどにも適用可能である。以下では、本明細書では主に鉄道車両に搭載される電気式ドア装置2について説明する。
【0025】
図1の電気式ドア装置2は、引き戸である一対のドアリーフ3R、RLを備えている。ドアリーフ3R、3Lは図示の左右方向に移動可能とされている。ドアリーフ3R、3Lの上方には、ガイドレール4と、右側のドアリーフ3Rを支持する戸吊装置5Rと、左側のドアリーフ3Lを支持する戸吊装置Lとが配置されている。
【0026】
戸吊装置5Rとドアリーフ3Rは、ガイドレール4に沿って一体に移動自在とされている。また、戸吊装置5Lとドアリーフ3Lは、ガイドレール4に沿って一体に移動自在とされている。本明細書では、一対のドアリーフ3R、3Lの少なくとも一方を単にドアと呼ぶことがある。
【0027】
戸吊装置5R、5Lの内部には、
図1に破線で示すように、複数の戸車6が設けられている。各戸車6は、ガイドレール4の上面又は下面に接触しながら転動する。
【0028】
各ドアリーフ3R、3Lの戸先には、軟質の合成ゴム材料で形成された戸先ゴム7が取り付けられている。一対のドアリーフ3R,3Lを全閉すると、戸先ゴム7同士が互いに接触し、接触した状態で戸先ゴム7同士がある程度まで収縮してからドアリーフ3R、3Lが停止するようになっている。
【0029】
ガイドレール4の上方には、ガイドレール4の延びる方向に沿って右用ラックギア8Rと左用ラックギア8Lが設けられている。右用ラックギア8Rには、右側ブラケット9Rが連結されており、右用ラックギア8Rが左右に移動すると、その移動に伴って右側連結ブラケット9Rが左右に移動する。同様に、左側ラックギア8Lには、左側ブラケット9Lが連結されており、左用ラックギア8Lが左右に移動すると、その移動に伴って左側連結ブラケット9Lが左右に移動する。右側連結ブラケット9Rには戸吊装置5Rが連結されており、右側連結ブラケット9Rの左右の移動に合わせて戸吊装置5Rとドアリーフ3Rが一体に左右に移動する。また、左側連結ブラケット9Lには戸吊装置5Lが連結されており、左側連結ブラケット9Lの左右の移動に合わせて戸吊装置5Lとドアリーフ3Lが一体に左右に移動する。
【0030】
右用ラックギア8Rと左用ラックギア8Lは、ピニオンギア10に噛み合っており、ピニオンギア10の回転運動を直線運動に変換する作用を行う。ピニオンギア10は、モータ11の駆動力で回転する。
【0031】
図2はモータ11の周辺の構造をより具体的に示す図である。モータ11の回転軸12に取り付けられたサンギア13と、サンギア13の周囲に配置されてサンギア13と噛み合う複数の遊星ギア14と、複数の遊星ギア14の外側に配置されて複数の遊星ギア14と噛み合うアウタギアであるピニオンギア10とが設けられている。
【0032】
このように、モータ11が回転すると、その回転力は、ピニオンギア10を介してラックギア8R、8Lに伝達され、ラックギア8R、8Lがモータ11の回転に応じて左右に移動すると、右側ブラケット9R及び左側ブラケット9Lを介して一対のドアリーフ3R、3Lはガイドレール4に沿って左右に移動する。モータ11は後述する
図3の制御器15内のモータ駆動部23により駆動される。
【0033】
なお、電気式ドア装置2の開閉方式は、必ずしも上述したラックアンドピニオン方式である必要はなく、それ以外の任意の方式(例えば、ベルト式、スクリュー式、リニアモータ式など)でもよい。
【0034】
図3は
図1の電気式ドア装置2の制御系の概略構成を示すブロック図である。本実施形態による電気式ドア装置2の制御系は、戸挟み検出装置1を内蔵する制御器15と、電源部16と、モータモニタ部17とを備えている。
【0035】
電源部16は、架線から供給される交流電圧を直流電圧に変換する電源装置を内蔵する。制御器15は、ドア開閉制御部18と、指令部19とを有する。指令部19は、ドア開閉制御部18に対して、ドアリーフ3R、3Lを開閉させるための指令信号を出力する。ドア開閉指令部19は、指令信号に基づいて、ドアリーフ3R、3Lの開閉を制御する。
【0036】
ドア開閉制御部18は、電源電圧検出部21と、PWM制御部22と、モータ駆動部23と、ホール信号検出器24とを備えている。
【0037】
電源電圧検出部21は、電源部16から出力される直流電圧の電圧レベルを検出する。PWM制御部22は、電源電圧検出部21で検出された直流電圧の電圧レベルと、指令部19からの指令信号とに基づいて、モータ11を駆動するためのPWM信号を生成する。より詳細には、PWM制御部22は、指令信号に応じた基準電圧指令パターンと、電源電圧検出部21で検出された直流信号の電圧レベルとに基づいて、モータ11に供給される電圧のデューティ比を制御するためのPWM信号を生成する。
【0038】
モータ駆動部23は、PWM信号に基づいて、モータ11を駆動するトランジスタのオン又はオフを制御する。例えば、モータ11が三相モータ11の場合、モータ駆動部23は、U相、V相及びW相の各トランジスタをオン又はオフさせるためのゲート信号を生成する。
【0039】
モータ11の回転軸12の近傍にはホール素子25が取り付けられており、ホール素子25にてモータ11の回転数が検出される。また、モータ11の近傍には、モータモニタ部17が設けられている。モータモニタ部17は、上述したホール素子25の他に、モータ電流を検出するためのモータ電流検出器26と、モータ11への印加電圧を検出するモータ電圧検出器27とを有する。
【0040】
ホール信号検出器24は、ホール素子25の検出信号に基づいて、モータ11の回転数を検出する。モータ駆動部23は、ホール信号検出器24で検出されたモータ11の回転数に基づいて、モータ11を駆動する各トランジスタのオン又はオフの制御タイミングを帰還制御することができる。
【0041】
戸挟み検出装置1は、モータ11の駆動力にてドアリーフ3R、3Lが閉方向に駆動される際に、ドアリーフ3R、3Lの戸先に戸挟みが生じたことを検出する。
【0042】
本実施形態による電気式ドア装置2は、送信部28を備えていてもよい。送信部28は、戸挟み検出装置1が戸挟みを検出したときに、戸挟みが起こったことを不図示の管理装置や保守作業員が所持する携帯端末等に通知する。
【0043】
図4は第1の実施形態による戸挟み検出装置1の内部構成を示すブロック図である。
図4に示すように、戸挟み検出装置1は、戸挟み判定部31を備えている。
【0044】
戸挟み判定部31は、ドアリーフ3R、3Lの閉動作中の移動速度、移動距離、又は移動時間の少なくとも一つと、モータに流れる電流とに基づいて、ドアの戸挟みが生じたか否かを判定する。戸挟み判定部31は、モータに流れる電流に基づくドアリーフ3R、3Lの戸挟み判定と並行して、ドアリーフ3R、3Lが閉方向に移動を開始した後、ドアリーフ3R、3Lが全閉位置に到達するまでは、ドアリーフ3R、3Lの移動速度に基づいてドアの戸挟みが生じたか否かを判定する処理を継続して行ってもよい。
【0045】
このように、戸挟み判定部31は、モータ電流に基づく戸挟み判定と、ドアリーフ3R、3Lの移動速度に基づく戸挟み判定とを併用することで、より正確に戸挟みを検出できる。
【0046】
本実施形態による戸挟み検出装置1は、位置判定部32を備えている。位置判定部32は、ドアリーフ3R、3Lの閉動作中に、ドアリーフ3R、3Lの移動速度、移動距離、又はドアの閉方向への移動時間の少なくとも一つに基づいて、ドアリーフ3R、3Lが所定の位置に到達したか否かを判定する。位置判定部32は、ドアリーフ3R、3Lが全閉間近に位置するか否かを判定するものであり、所定の位置とは例えば全閉位置から数センチ程度手前の位置に設定される。戸挟み判定部31は、ドアリーフ3R、3Lが所定の位置に到達したと判定されてからドアリーフ3R、3Lが全閉位置に到達するまでの間に、モータ11に流れる電流に基づいて、ドアリーフ3R、3Lの戸挟みが生じたか否かを判定する。このように、戸挟み判定部31は、ドアリーフ3R、3Lが全閉間近に移動した場合には、モータ電流に基づいて戸挟みが生じたか否かを判定する。
【0047】
戸挟み判定部31は、ドアリーフ3R、3Lが所定の位置に到達したか否かにより、戸挟みの判定手法を切り替えてもよい。例えば、
図4に示すように、戸挟み判定部31は、第1戸挟み判定部31aと、第2戸挟み判定部31bとを備えていてもよい。
【0048】
第1戸挟み判定部31aは、ドアリーフ3R、3Lが所定の位置に到達していないと判定される場合に、ドアリーフ3R、3Lの移動速度又はモータに流れる電流値が第1の条件を満たすか否かによって、戸挟みが生じたか否かを判定する。
【0049】
第2戸挟み判定部31bは、ドアリーフ3R、3Lが所定の位置に到達したと判定されてからドアリーフ3R、3Lが全閉位置に到達するまでの間に、電流値が第1の条件と異なる第2の条件を満たすか否かによって、戸挟みが生じたか否かを判定する。第2戸挟み判定部31bは、ドアリーフ3R、3Lが所定の位置に到達したと判定されてからドアリーフ3R、3Lが全閉位置に到達するまでの間であって、さらに、電流値が第2の条件を満たすと判定された場合、又はドアリーフ3R、3Lの速度に基づいてドアリーフ3R、3Lの戸挟みが生じたと判定された場合の少なくとも一方のときに、戸挟みが生じたと判定してもよい。
【0050】
この他、本実施形態による戸挟み判定部31は、ドアリーフ3R、3Lの移動速度を検出する速度検出器33を備えていてもよい。また、本実施形態による戸挟み判定部31は、一対のドアリーフ3R、3Lが全閉になったことを検出する戸閉検出器34を備えていてもよい。さらに、本実施形態による戸挟み判定部31は、ドアリーフ3R、3Lの移動位置(ストローク)を検出するストローク検出器35を備えていてもよい。
【0051】
図5は、ドアリーフ3R、3Lが全開位置から全閉位置まで移動する間のドアリーフ3R、3Lのストロークw1、移動速度w2、モータ電流w3a、w3bの変化を示すグラフである。
図5の横軸はドアリーフ3R、3Lの戸先の位置、縦軸の波形w1はストローク量、波形w2は移動速度、波形w3はモータ電流を示している。ストローク量とは、ドアリーフ3R、3Lが移動した距離を示す。モータ電流については、戸挟みを起こしていない場合の波形w3aと、戸挟みを起こした場合の波形w3bとを示している。
【0052】
ドアリーフ3R、3Lの移動速度は、波形w2に示すように、ドアリーフ3R、3Lが移動し始めた直後は加速域であり、時間に応じて線形に移動速度が上昇する。その後、一定の速度に達すると、その速度が所定期間維持される定速域に移行し、その後、時間に応じて移動速度が減少する減速域に移行する。減速域では、移動速度が段階的に低下する。ドアリーフ3R、3Lのストロークは、移動速度が変化することから、波形w1に示すように、非線形なカーブで変化する。
【0053】
モータ電流は、ドアリーフ3R、3Lの全開位置から閉方向に向けて移動を開始した直後は、外乱の影響を受けて大きく変動する。その後、モータ電流は段階的に減少し、ドアリーフ3R、3Lの移動速度が減速域に移行すると、いったん大きく変動し、その後、段階的に減少する。ドアリーフ3R、3Lが全閉付近に到達すると、ドアリーフ3R、3Lの戸先ゴム同士が接触するため、モータ電流は急激に増大する。
【0054】
また、ドアリーフ3R、3Lの全閉付近で戸挟みを起こした場合(波形w3b)と起こさない場合(波形w3a)で、モータ電流は大きく異なり、戸挟みを起こした場合(波形w3b)は戸挟みを起こさない場合(w3a)と比べて、モータ電流がはるかに大きくなる。
【0055】
本実施形態による戸挟み検出装置1は、
図5の各波形の波形形状に基づいて、ドアリーフ3R、3Lの全閉付近では、モータ電流を所定の閾値と比較して、戸挟みを起こしたことを検出する。閾値は、例えば、
図5において、ドアリーフ3R、3Lの全閉付近での波形w3aのピーク値と波形w3bのピーク値の中間値付近に設定される。
【0056】
図6は第1の実施形態による戸挟み検出装置1の処理手順を示すフローチャートである。
図6のフローチャートの処理は、ドアリーフ3R、3Lが閉方向に向けて移動し始めたときに開始される。まず、ドアリーフ3R、3Lが全閉位置に到達したか以下を判定する(ステップS1)。ドアリーフ3R、3Lが全閉位置に到達したか否かは、例えばストローク検出器35からの信号で検出してもよい。ストローク検出器35からの信号により、ドアリーフ3R、3Lの移動距離を検出できるため、ドアリーフ3R、3Lが全閉位置に到達したか否かを判断できる。あるいは、戸閉検出器34の信号により、ドアリーフ3R、3Lが移動中か否かを判定してもよい。戸閉検出器34は、ドアリーフ3R、3Lが全閉位置に到達したことを検出する。
【0057】
ステップS1でドアリーフ3R、3Lが全閉位置に到達したと判定されると、
図6の処理は終了する。ステップS1でドアリーフ3R、3Lが全閉位置に到達していないと判定されると、次に、ドアリーフ3R、3Lの移動速度がゼロになったか否かを判定する(ステップS2)。ドアリーフ3R、3Lの移動速度は、例えば速度検出器33にて検出する。あるいは、ホール信号検出器にて検出された信号からドアリーフ3R、3Lの移動速度を検出してもよい。
【0058】
ステップS2で、ドアリーフ3R、3Lの移動速度がゼロでないと判定されると、ドアリーフ3R、3Lが全閉手前の所定位置に到達したか否かを判定する(ステップS3)。全閉手前の所定位置とは、例えば数センチ程度でもよい。
【0059】
ステップS3で、まだ所定位置に到達していないと判定されると、ステップS2の処理に戻る。ステップS3で所定位置に到達したと判定されると、モータ電流が予め定めた閾値より大きいか否かを判定する(ステップS4)。ステップS4でモータ電流が閾値より大きいと判定されると、戸挟みが生じたと判定し、戸挟みを検出する(ステップS5)。また、ステップS2で、ドアリーフ3R、3Lが全閉位置に到達していないにもかかわらず、ドアリーフ3R、3Lの移動速度がゼロになった場合も、ステップS5に移行して、戸挟みを検出する。戸挟みを検出した情報は、例えば、送信部28を介して不図示の管理装置や保守作業員の携帯端末等に送信される。
【0060】
このように、第1の実施形態では、ドアリーフ3R、3Lが閉方向に移動を開始して、全閉位置に到達するまでは、ドア速度がゼロになったときに戸挟みが生じたと判断する。また、ドアリーフ3R、3Lが全閉手前の所定位置に到達すると、モータ電流を閾値と比較して、モータ電流が閾値を超えれば、戸挟みが生じたと判断する。上述したように、ドアリーフ3R、3Lの戸先には戸先ゴム7が取り付けられており、人間や物体が戸先ゴム7に接触しても、戸先ゴム7が収縮できる間はドアリーフ3R、3Lは移動し続ける。よって、ドア速度だけでは、戸挟みを迅速かつ正確に検出できないおそれがある。そこで、本実施形態では、モータ速度だけでなく、モータ電流も含めて戸挟みを検出するため、戸挟みが生じたことを迅速かつ正確に検出できる。
【0061】
(第2の実施形態)
第2の実施形態による戸挟み検出装置1は、
図4と同様のブロック構成を備えているが、戸挟み検出装置1の処理手順が第1の実施形態とは異なっている。
【0062】
図7は第2の実施形態による戸挟み検出装置1の処理手順を示すフローチャートである。
図7のフローチャートは、ドアリーフ3R、3Lが閉方向に移動し始めたときに処理が開始される。
【0063】
まず、ドアリーフ3R、3Lの戸先が所定の位置に到達したか否かを判定する(ステップS11)。所定の位置とは、例えば全閉手前の数センチの位置であり、この位置は任意に設定可能である。
【0064】
ステップS11で、まだドアリーフ3R、3Lの戸先が所定の位置に到達していない場合は、ドアリーフ3R、3Lの移動速度又はモータに流れる電流値が第1の条件を満たすか否かを判定する(ステップS12)。第1の条件は、例えば、ドアリーフ3R、3Lの移動速度又はモータに流れる電流値が所定の閾値以上である場合である。
【0065】
第1の条件の具体的な内容も任意に設定可能であるが、ドアリーフ3R、3Lの戸先が所定の位置に到達していないときは、
図5のグラフw3a、w3bからわかるように、モータ電流は大きく変動することから、モータ電流の閾値を低めに設定してもよい。また、モータ電流だけでは戸挟みが生じたと判断せず、ドアリーフ3R、3Lの移動速度がゼロになることを条件にしてもよい。
【0066】
ステップS12で第1の条件を満たしていない場合は、戸挟みが生じていないと判定して、ステップS11の処理を再度行う。ステップS11で、ドアリーフ3R、3Lの戸先が所定の位置に到達したと判定されてからドアリーフ3R、3Lが全閉位置に到達するまでの間に、モータに流れる電流値が第2の条件を満たすか否かを判定する(ステップS13)。第2の条件とは、例えば、モータ電流と比較するための閾値を、第1の条件時の閾値よりも大きい値に設定する。より具体的には、例えば、
図5の全閉付近における波形w3aのピーク値と波形w3bのピーク値との中間値付近に閾値を設定してもよい。なお、第2の条件に、モータ速度の条件を含めてもよい。モータ速度については、第1条件と第2条件のいずれでも、例えばモータ速度がゼロになれば、戸挟みが生じたと判断してもよい。第2条件は、例えば全閉手前の所定範囲(
図5の矢印線)内に満たすと判断される。
【0067】
ステップS13で第2の条件を満たしていないと判定されると、ドアが全閉位置に到達したか否かを判定し(ステップS14)、全閉位置に到達していなければステップS11以降の処理を再度行う。全閉位置に到達すると、処理を終了する。
【0068】
ステップS12で第1の条件を満たしたと判定されるか、又はステップS13で第2の条件を満たしたと判定されると、戸挟みが生じたと判定し(ステップS15)、所定の処理を行った上で、
図7の処理を終了する。所定の処理とは、例えば、戸挟みが生じたことを管理装置や保守作業員に通知する処理などである。
【0069】
このように、第2の実施形態では、ドアリーフ3R、3Lが閉方向に移動している間のドアリーフ3R、3Lの位置によって、戸挟みの判定基準を変えるため、迅速かつ正確に戸挟みを判断できる。
【0070】
(第3の実施形態)
上述した第1及び第2の実施形態では、ドアリーフ3R、3Lが全閉付近に位置している場合には、モータ電流を閾値と比較して戸挟みを判断しているが、以下に説明する第3の実施形態は、閾値を最適化するものである。
【0071】
図8は第3の実施形態による戸挟み検出装置1の内部構成を示すブロック図である。
図8の戸挟み検出装置1は、
図4の構成に加えて、第1取得部36と、閾値設定部37と、第2取得部38とを備えている。
【0072】
第1取得部36は、ドアリーフ3R、3Lの閉動作中の第1期間にモータに流れる第1電流値を取得する。第1期間は、例えば、
図5に示すドアリーフ3R、3Lの移動速度の定速域を含む期間である。
図5に示すように、定速域の期間内は、モータ電流が比較的安定しており、この期間内にモータ電流を取得することで、外乱の影響の少ないモータ電流を取得できる。
【0073】
第1期間は、ドアが閉方向に移動を開始した後の加速域内の期間又は加速域から移行した定速域内の期間でもよい。
図5に示すように、加速域が始まった直後はモータ電流が大きく変動するため、加速域が始まった直後の期間ではモータ電流を取得しない方がよいが、加速域の中盤から終盤では、モータ電流の変動は少ない。よって、第1期間に加速域内の一部の期間が含まれていてもよい。同様に、移動速度が定速域から減速域に移行した場合、
図5に示すように減速域に移行してからしばらくの間はモータ電流の変動が少ないことから、第1期間にドアリーフ3R、3Lの移動速度の減速域内の一部の期間が含まれていてもよい。
【0074】
閾値設定部37は、第1取得部36で取得された第1電流値に基づいて、戸挟みを判定するための閾値を設定する。閾値設定部37が設定する閾値は、上述した
図6や
図7のフローチャートで、モータ電流と比較される閾値である。この閾値は、ドアリーフ3R、3Lが全閉付近に位置するときのモータ電流と比較される閾値である。このように、閾値設定部37は、ドアリーフ3R、3Lがまだ全閉付近に到達していない状態でのモータ電流の実績値に基づいて、ドアリーフ3R、3Lが全閉付近に位置するときのモータ電流の閾値を設定する。
【0075】
閾値設定部37を設ける理由は以下の通りである。電気式ドアは、稼働している間に摺動抵抗が次第に変化したり、モータ11の駆動力が低下したりし、同じ速度でドアリーフ3R、3Lを移動させていたとしても、モータ電流が同じとは限らない。そこで、モータ電流の実績値に基づいて、モータ電流の閾値を設定するようにしたものである。
【0076】
閾値設定部37で閾値を設定するにあたって、戸吊装置5R、5Lに、重量がそれぞれ異なる複数の錘を代わり番こに取り付けた状態で、ドアリーフ3R、3Lを移動させることで、摺動抵抗を擬似的に変更させることができる。錘の重量が大きいほど、摺動抵抗が大きくなる。このように、ドアリーフ3R、3Lの摺動抵抗を複数通りに変化させて、第1期間内のモータ電流を取得した結果に基づいて、閾値設定部37にて閾値を設定してもよい。
【0077】
閾値設定部37は、第1期間内にモータに流れる電流値の平均値、中央値、最頻値、又は積分値の少なくとも一つに基づいて、閾値を設定してもよい。例えば、第1期間内のモータ電流を累積加算した値の平均値に、所定の係数を乗じた値を閾値としてもよい。所定の係数は、0より大きく、1未満の値であり、例えば過去の電気式ドア装置2の運用実績から設定される値である。あるいは、第1期間内のモータ電流の中央値に所定の係数を乗じた値を閾値としてもよい。あるいは、第1期間内のモータ電流の電流値を頻度順に分類して、最頻値のモータ電流に所定の係数を乗じた値を閾値としてもよい。あるいは、第1期間内のモータ電流の累積加算値(積分値)に所定の係数を乗じた値を閾値としてもよい。この場合の係数は、平均値から閾値を求める場合の係数よりも小さい値にする。
モータ電流は、ドアリーフ3R、3Lの摺動抵抗やモータの駆動力によって変動する他に、温度や電源電圧等の環境条件によっても変動する。このため、閾値設定部37は、第1期間内でモータ電流が変化することを見込んで、閾値と比較するべきモータ電流を決定してもよい。例えば、第1期間内にモータ電流が一時的に大きく変動することがない場合には、平均値を取ればよい。逆に、第1期間内にモータ電流が一時的に大きく変動する場合には、平均値を取ると、モータ電流の一時的な変動の影響を受けてしまう。そこで、このような場合は、中央値や最頻値を取るのが望ましい。また、モータ電流自体が小さい場合には、積分値を取ってもよい。
【0078】
モータ11に供給される電源電圧が変動すると、モータ電流にも影響が及ぶおそれがある。そこで、閾値設定部37は、モータ電圧検出器27で検出された電源電圧も加味して、閾値を設定してもよい。すなわち、閾値設定部37は、第1期間内のモータ11の駆動電圧に基づいて閾値を設定してもよい。一般には、モータ11の駆動電圧が大きくなるほど、モータ電流も大きくなるため、閾値設定部37は、駆動電圧が大きくなるほど閾値をより大きく設定するのが望ましい。
【0079】
第2取得部38は、ドアリーフ3R、3Lの閉動作中の第1期間の後である第2期間にモータ11に流れる第2電流値を取得する。第2期間は、例えば、
図5に示すように、ドアリーフ3R、3Lが全閉付近に位置してモータ電流が急増する期間である。ドアリーフ3R、3Lが全閉の手前のどこに位置するときにモータ電流が急増するかは、電気式ドア装置2ごとに異なるため、電気式ドア装置2ごとに個別に第2期間を設定するのが望ましい。第2期間は、例えば、全閉の手前の数十mmから数mmに範囲に位置する期間である。
【0080】
第1取得部36は、ドアリーフ3R、3Lを全開位置から閉方向に移動させるたびに、第1期間内の第1電流値を取得してもよい。この場合、閾値設定部37は、ドアリーフ3R、3Lを全開位置から閉方向に移動させるたびに、第1取得部36で取得された第1電流値に基づいて、閾値を設定し直してもよい。このように、ドアリーフ3R、3Lを全開位置から閉方向に移動させるたびに閾値を設定し直すことで、電気式ドア装置2の経年劣化の影響を受けることなく、最適な閾値を設定できる。
【0081】
第1取得部36は、ドアリーフ3R、3Lの起動直後にドアリーフ3R、3Lを閉方向に駆動する際の第1期間に第1電流値を取得してもよい。閾値設定部37は、ドアリーフ3R、3Lの起動直後にドアリーフ3R、3Lを閉方向に駆動する際に、第1取得部36で取得された第1電流値に基づいて閾値を設定してもよい。鉄道用の電気式ドア装置2の場合、電気式ドアにもたれかかる乗客や、混雑により電気式ドアに押しつけられる乗客がいるため、乗客が乗車している状態ではモータ電流が外乱の影響を受けやすくなる。そこで、第1取得部36は、ドアリーフ3R、3Lの起動直後などの外乱の影響が少ない状況で、モータ電流を取得することで、外乱の影響を受けることなくモータ電流を取得できる。
【0082】
図8の戸挟み検出装置1は、記憶部39を備えていてもよい。記憶部39は、ドアを閉方向に駆動した際の戸挟みしていない際にモータ11に流れる電流値の平均値、中央値、最頻値、又は積分値の少なくとも一つの計測値と、計測値に基づく基準閾値と、の対応関係を記憶する。ドアリーフ3R、3Lの摺動抵抗によってモータ11に流れる電流が変化するため、例えば、戸吊装置5R、5Lに重量の異なる複数の錘を代わり番こに取り付けて擬似的に摺動抵抗を変化させて、モータ電流と基準閾値との対応関係を事前に求めて記憶部39に記憶しておく。この場合、閾値設定部37は、記憶部39に記憶された対応関係と、第1期間内にモータ11に流れる電流値の平均値、中央値、最頻値、又は積分値の少なくとも一つとに基づいて、閾値を設定する。このように、記憶部39を設けることで、ドアリーフ3R、3Lを閉じるたびに閾値を設定し直さなくて済み、戸挟み検出装置1の処理負担を軽減できる。
【0083】
このように、第3の実施形態では、ドアリーフ3R、3Lを閉方向に移動させている間の定速域を含む第1期間内に取得したモータ電流に基づいて閾値を設定し、設定された閾値とドアリーフ3R、3Lが全閉付近に位置するときのモータ電流とを比較して、戸挟みが生じたことを検出する。第3の実施形態によれば、ドアリーフ3R、3Lの摺動抵抗やモータ11の駆動力等の経年変化を考慮に入れて、閾値を最適化できるため、戸挟みの検出を正確に行うことができる。
【0084】
上述した実施形態で説明した戸挟み検出装置1及び鉄道用ドア装置の少なくとも一部は、ハードウェアで構成してもよいし、ソフトウェアで構成してもよい。ソフトウェアで構成する場合には、戸挟み検出装置1及び鉄道用ドア装置の少なくとも一部の機能を実現するプログラムをフレキシブルディスクやCD-ROM等の記録媒体に収納し、コンピュータに読み込ませて実行させてもよい。記録媒体は、磁気ディスクや光ディスク等の着脱可能なものに限定されず、ハードディスク装置やメモリなどの固定型の記録媒体でもよい。
【0085】
また、戸挟み検出装置1及び鉄道用ドア装置の少なくとも一部の機能を実現するプログラムを、インターネット等の通信回線(無線通信も含む)を介して頒布してもよい。さらに、同プログラムを暗号化したり、変調をかけたり、圧縮した状態で、インターネット等の有線回線や無線回線を介して、あるいは記録媒体に収納して頒布してもよい。
【0086】
本開示の態様は、上述した個々の実施形態に限定されるものではなく、当業者が想到しうる種々の変形も含むものであり、本開示の効果も上述した内容に限定されない。すなわち、特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本開示の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0087】
1 戸挟み検出装置、2 電気式ドア装置、3R、3L ドアリーフ、4 ガイドレール、5R、5L 戸吊装置、6 戸車、7 戸先ゴム、8R、8L ラックギア、9R、9L ブラケット、10 ピニオンギア、11 モータ、12 回転軸、13 サンギア、14 遊星ギア、15 制御器、16 電源部、17 モータモニタ部、18 ドア開閉制御部、19 指令部、21 電源電圧検出部、22 PWM制御部、23 モータ駆動部、24 ホール信号検出器、25 ホール素子、26 モータ電流検出器、27 モータ電圧検出器、31 戸挟み判定部、31a 第1戸挟み判定部、31b 第2戸挟み判定部、32 位置判定部、33 速度検出器、34 戸閉検出器、35 ストローク検出器、36 第1取得部、37 閾値設定部、38 第2取得部、39 記憶部