(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022049523
(43)【公開日】2022-03-29
(54)【発明の名称】異常発生予測システムおよび異常発生予測方法、ならびに鋼材の製造方法
(51)【国際特許分類】
B21B 38/00 20060101AFI20220322BHJP
B21B 31/32 20060101ALI20220322BHJP
B21C 51/00 20060101ALI20220322BHJP
G05B 23/02 20060101ALI20220322BHJP
【FI】
B21B38/00 G
B21B31/32 A
B21C51/00 Q
G05B23/02 302S
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020155759
(22)【出願日】2020-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 宣文
(72)【発明者】
【氏名】熊野 桜里
(72)【発明者】
【氏名】小玉 開
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA05
3C223BA03
3C223CC02
3C223CC03
3C223DD03
3C223EA06
3C223EB02
3C223FF04
3C223FF35
3C223GG01
(57)【要約】
【課題】
油圧システムを有する設備、特に金属材料である鋼素材を圧延して鋼板等の鋼材を製造する圧延設備の異常発生を予測して、設備の異常発生によるトラブルを未然に防ぎ、設備の稼働率を向上させることを可能とする、異常発生予測システムおよび異常発生予測方法、ならびに鋼材の製造方法を提供する。
【解決手段】
油圧システムを有する設備における前記設備の稼働中の前記油圧システムの動作状況を示す信号を取得する信号取得手段と、前記信号取得手段により取得された前記信号が所定の条件を満たすときに前記設備の異常発生を予測する異常発生予測手段とを備えることを特徴とする異常発生予測システム。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧システムを有する設備における前記設備の稼働中の前記油圧システムの動作状況を示す信号を取得する信号取得手段と、
前記信号取得手段により取得された前記信号が所定の条件を満たすときに前記設備の異常発生を予測する異常発生予測手段と
を備えることを特徴とする異常発生予測システム。
【請求項2】
前記異常発生予測手段は、前記信号取得手段により取得された複数の前記信号の所定の時間範囲毎の中央値が所定の範囲から逸脱するときに前記設備の異常発生を予測することを特徴とする請求項1に記載の異常発生予測システム。
【請求項3】
前記異常発生予測手段は、前記信号の所定の時間範囲毎の中央値が所定の範囲から逸脱する状態が所定時間以上継続するときに前記設備の異常発生を予測することを特徴とする請求項1に記載の異常発生予測システム。
【請求項4】
前記設備は金属材料の圧延設備であり、前記油圧システムは前記圧延設備の圧延ロールの圧下量を調整する油圧システムであることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の異常発生予測システム。
【請求項5】
前記異常発生予測手段は、前記信号として、前記圧延ロールの圧下量を調整する前記油圧システムの油柱の位置の目標値からの偏差と、前記油柱に供給される作動油の量を調整するサーボ弁の開度の指令値との少なくとも一方を用いることを特徴とする請求項4に記載の異常発生予測システム。
【請求項6】
前記異常発生予測手段は、前記圧延ロールによる前記金属材料の圧延の開始から、該圧延中に前記圧延ロールの圧下量を調整する前記油圧システムの前記油柱の位置が所定の基準位置に復帰するまでの間の前記信号を用いることを特徴とする請求項5に記載の異常発生予測システム。
【請求項7】
油圧システムを有する設備における前記設備の稼働中の前記油圧システムの動作状況を示す信号を取得し、取得された前記信号が所定の条件を満たすときに前記設備の異常発生を予測することを特徴とする異常発生予測方法。
【請求項8】
請求項4~6のいずれかに記載の異常発生予測システムにより、前記圧延設備の異常発生を予測しながら、該圧延設備により鋼素材を圧延して鋼材を製造することを特徴とする鋼材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧システムを有する設備、特に金属材料である鋼素材を圧延して鋼板等の6鋼材を製造する圧延設備の異常発生予測システム、異常発生予測方法、ならびにこれを用いた鋼材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
設備の異常発生を検知するシステムとして、種々のシステムが提案されている。例えば、特許文献1には、設備の正常動作時に得られる信号から多数組の正常データを抽出し、同設備の操業時に得られる信号から監視対象データを抽出して、監視対象データの正常データ分布からの逸脱度をもとに設備の異常発生を検知する異常監視システムが開示されている。
【0003】
さらに、特許文献1では、金属材料の圧延設備において、鋼板が圧延ロールの噛込状態から抜けるメタルオフから次の圧延開始前までの圧延を実施していない期間の油圧システムから得られる信号を監視対象データとすることが開示されている。この圧延を実施していない期間には、圧延設備の油圧システムの動作は、メタルオフ後のゼロ点調整のための動作または次の圧延の設定のための動作のいずれかであるため、油圧システムの動作がシンプルで、鋼板の圧延中よりも圧延設備の異常監視が容易になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示される異常監視システムでは、圧延を実施していない期間の油圧システムから得られる信号を監視対象データとするため、このデータには設備の異常に起因する予兆が現れにくい。このように、圧延を実施していない期間の油圧システムから得られる監視対象データを用いると、設備の異常発生を検知することはできるが、設備の異常発生を予測することは難しかった。
【0006】
本発明は、当該問題に鑑みて完成されたものであり、油圧システムを有する設備、特に金属材料である鋼素材を圧延して鋼板等の鋼材を製造する圧延設備の異常発生を予測して、設備の異常発生によるトラブルを未然に防ぎ、設備の稼働率を向上させることを可能とする、異常発生予測システムおよび異常発生予測方法、ならびに鋼材の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
[1] 油圧システムを有する設備における前記設備の稼働中の前記油圧システムの動作状況を示す信号を取得する信号取得手段と、前記信号取得手段により取得された前記信号が所定の条件を満たすときに前記設備の異常発生を予測する異常発生予測手段とを備えることを特徴とする異常発生予測システム。
[2] 前記異常発生予測手段は、前記信号取得手段により取得された複数の前記信号の所定の時間範囲毎の中央値が所定の範囲から逸脱するときに前記設備の異常発生を予測することを特徴とする[1]に記載の異常発生予測システム。
[3] 前記異常発生予測手段は、前記信号の所定の時間範囲毎の中央値が所定の範囲から逸脱する状態が所定時間以上継続するときに前記設備の異常発生を予測することを特徴とする[1]に記載の異常発生予測システム。
[4] 前記設備は金属材料の圧延設備であり、前記油圧システムは前記圧延設備の圧延ロールの圧下量を調整する油圧システムであることを特徴とする[1]~[3]のいずれかに記載の異常発生予測システム。
[5] 前記異常発生予測手段は、前記信号として、前記圧延ロールの圧下量を調整する前記油圧システムの油柱の位置の目標値からの偏差と、前記油柱に供給される作動油の量を調整するサーボ弁の開度の指令値との少なくとも一方を用いることを特徴とする[4]に記載の異常発生予測システム。
[6] 前記異常発生予測手段は、前記圧延ロールによる前記金属材料の圧延の開始から、該圧延中に前記圧延ロールの圧下量を調整する前記油圧システムの前記油柱の位置が所定の基準位置に復帰するまでの間の前記信号を用いることを特徴とする[5]に記載の異常発生予測システム。
[7] 油圧システムを有する設備における前記設備の稼働中の前記油圧システムの動作状況を示す信号を取得し、取得された前記信号が所定の条件を満たすときに前記設備の異常発生を予測することを特徴とする異常発生予測方法。
[8] [4]~[6]のいずれかに記載の異常発生予測システムにより、前記圧延設備の異常発生を予測しながら、該圧延設備により鋼素材を圧延して鋼材を製造することを特徴とする鋼材の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の異常発生予測システムおよび異常発生予測方法、ならびに鋼材の製造方法によれば、油圧システムを有する設備の異常発生を予測して、設備の異常発生によるトラブルを未然に防ぎ、設備の稼働率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の異常発生予測システムおよび異常発生予測方法、ならびに鋼材の製造方法の一例の全体構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の異常発生予測システムおよび異常発生予測方法による異常発生予測動作の一例を説明するグラフである。
【
図3】
図3は、本発明の異常発生予測システムおよび異常発生予測方法による異常発生予測動作の一例を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の異常発生予測システムおよび異常発生予測方法、ならびに鋼材の製造方法の一実施形態について具体的に説明する。
【0011】
本実施形態の異常発生予測システムおよび異常発生予測方法、ならびに鋼材の製造方法は、金属材料である鋼板(鋼材)の圧延を行う圧延設備の圧延ロールの圧下量を調整する油圧システムの動作状況を示す信号が所定の条件を満たすかどうかを監視することにより、圧延設備の油圧ポンプの異常やリリーフ弁等における異常発生を予測するために用いられる。
【0012】
図1に、本実施形態の異常発生予測システム1およびこの異常発生予測システム1が適用される鋼板の圧延設備2の全体構成を模式的に示す。
【0013】
圧延設備2は、鋼板の圧延を行う圧延ロール31を有する圧延機3と、圧延ロール31の圧下量、すなわち圧延ロール31の間隔を調整する油圧システム4とを備えている。
【0014】
圧延設備2には制御装置5が接続され、この制御装置5により圧延設備2の動作が制御されるようになっている。また、制御装置5には制御端末51が接続され、圧延設備2の動作状況をディスプレイ等の表示装置等に出力するとともに、オペレータが制御端末51を操作することにより制御装置5による圧延設備2の動作の制御を修正できるようになっている。そして、後述する異常発生予測システム1が、制御装置5に接続されている。異常発生予測システム1および制御装置5はProgrammable Logic Controller(PLC)等に、後述する機能を有するソフトウェアが導入されることにより構成され、制御端末51はGraphic Operation Terminal(GOT)等により構成されている。
【0015】
油圧システム4は、圧延ロール31の圧下量を調整する油柱シリンダー41の油柱411と、油柱シリンダー41への作動油の供給量を制御するサーボ弁42と、油柱シリンダー41への背圧油の供給量を制御する背圧制御弁(図示せず)と、サーボ弁42に供給されるパイロット圧の大きさを制御するパイロットバルブ(図示せず)等を有している。
【0016】
サーボ弁42から油柱シリンダー41への作動油の供給量の調整は、サーボ弁42内のスプール421を移動させてサーボ弁42の開度を変更することにより行われる。具体的には、制御装置5は、油柱位置センサ412によって検出される油柱411の位置の信号を取得する。この油柱411の位置は、圧延ロール31の圧下量に対応する。
【0017】
そして、制御装置5は、油柱位置センサ412によって検出される油柱411の位置の、目標値からの偏差を算出し、この偏差に応じてサーボ弁42の開度の指令値を決定する。油柱シリンダー41の油柱411の位置の目標値は、圧延ロール31の圧下量の目標値に応じて定められる。さらに、制御装置5は、サーボ弁42の開度の指令値に応じて、サーボ弁42のスプール421を駆動するフォースモーター422に供給される励磁電流の大きさを制御して、サーボ弁42内のスプール421を移動させる。このようにして、サーボ弁42の開度が変更されて、サーボ弁42から油柱シリンダー41への作動油の供給量が調整されることで、油柱411の位置が調整されて、圧延ロール31の圧下量が調整される。
【0018】
異常発生予測システム1は、圧延設備2の稼働中の油圧システム4の動作状況を示す信号を取得する信号取得手段を備えている。本実施形態では、油圧システム4の動作状況を示す信号として、油柱411の位置の目標値からの偏差およびサーボ弁42の開度の指令値が用いられる。そこで、制御装置5から送信される油柱411の位置の目標値からの偏差およびサーボ弁42の開度の指令値をそれぞれ受信する、油柱シリンダー位置偏差受信部11およびサーボ弁開度指令値受信部12が、異常発生予測システム1に設けられ、これら油柱シリンダー位置偏差受信部11およびサーボ弁開度指令値受信部12によって、信号取得手段が構成されている。
【0019】
さらに、異常発生予測システム1には、異常診断部(異常発生予測手段)13が設けられている。異常診断部13は、油柱シリンダー位置偏差受信部11およびサーボ弁開度指令値受信部12により取得された、油柱411の位置の目標値からの偏差およびサーボ弁42の開度の指令値を受信して、これら油柱411の位置の目標値からの偏差とサーボ弁42の開度の指令値の少なくとも一方が所定の条件を満たすときに、圧延設備2の異常発生を予測する。
【0020】
本実施形態では、異常診断部13は、油柱411の位置の目標値からの偏差と、サーボ弁42の開度の指令値の各々について、所定の時間範囲毎に中央値の取得を行い、この中央値が所定の範囲から所定時間以上継続して逸脱する場合に、圧延設備2の異常発生の予兆があるとの判定を行う。
【0021】
ここで、上記中央値とは、油柱411の位置の目標値からの偏差またはサーボ弁42の開度の指令値のデータ列を所定の時間範囲毎に区切り、各時間範囲内のデータを小さい順に並べたときの中央値を意味する。また、上記所定の時間範囲は、例えば、過去に鋼板の圧延設備において異常が発生したときの油柱411の位置の目標値からの偏差またはサーボ弁42の開度の指令値のデータ列を分析することにより適宜設定すればよく、例えば、数秒である。
【0022】
また、本実施形態では、異常診断部13は、上記信号として、圧延設備2の稼働中の油柱411の位置の目標値からの偏差およびサーボ弁42の開度の指令値を用いる。具体的には、鋼板の圧延開始から(圧延ロール31に鋼板が噛み込まれてから)、この圧延中に油柱シリンダー41の油柱411の位置が所定の基準位置に復帰するまでの時間、例えば、鋼板の圧延開始から30秒間における、油柱411の位置の目標値からの偏差およびサーボ弁42の開度の指令値を用いる。
【0023】
圧延設備2の圧延ロール31の圧下量を調整する油圧システム4の動作状況を示す信号データとしては、上記の他に、サーボ弁42のスプール421の位置、サーボ弁42のスプール421を駆動するフォースモーター422に供給される励磁電流、油柱シリンダー41のシリンダーの位置等も挙げられるが、発明者らが圧延設備2の実機の動作状況を解析したところ、油柱411の位置の目標値からの偏差およびサーボ弁42の開度の指令値が、圧延設備2の異常発生との相関が大きいことが分かった。そこで、本実施形態では、油柱411の位置の目標値からの偏差およびサーボ弁42の開度の指令値を用いて、圧延設備2の異常発生の予測を行っている。
【0024】
本実施形態の鋼材の製造方法は、上述の異常発生予測システム1により、圧延設備2の異常発生を予測しながら、この圧延設備2により鋼素材を圧延して鋼板(鋼材)を製造することにより実現される。
【0025】
本実施形態では、上述のとおり、圧延設備2における油圧システム4の動作状況を示す信号を用いて圧延設備2の異常発生の予測を行っている。これは、油圧システム4の動作が鋼板製品の板厚の作り込みに大きく影響するとともに、油圧システム4に異常が発生した場合には、数多くの機器から構成される油圧システム4を復旧するには長時間を要することを考慮して、特に油圧システム4における異常発生を早期に予測することを意図したものである。
【0026】
具体的には、圧延設備2による鋼板の圧延中において、油柱411の位置の目標値からの偏差およびサーボ弁42の開度の指令値の所定の時間範囲毎の中央値が所定の範囲から逸脱していないかを監視することにより、圧延設備2における異常発生の数時間前に、この異常発生を予測できる。
【0027】
圧延設備2の稼働中、すなわち圧延ロール31による鋼板の圧延中は、圧延設備2が受ける外乱が多いため、油圧システム4の動作状況を示す信号が変化しやすく、圧延設備2の異常に起因する予兆が発現しやすい。そこで、鋼板の圧延開始から(圧延ロール31に鋼板が噛み込まれてから)、この圧延中に油柱シリンダー41の油柱411の位置が所定の基準位置に復帰するまでの間の油圧システム4の動作状況を示す信号をモニタリングすることで、圧延設備2の異常発生を早期に予測することができる。
【0028】
また、圧延ロール31による鋼板の圧延中は、油圧システム4の動作状況を示す信号のばらつきが大きいが、上述のとおり、油圧システム4の動作状況を示す信号の所定の時間範囲毎の中央値を用いることで、油柱411の位置の目標値からの偏差およびサーボ弁42の開度の指令値に含まれるばらつきが抑えられる。そして、これらの油圧システム4の動作状況を示す信号の所定の時間範囲毎の中央値をDBM(Data Base Modeling)またはPCA(Principal Component Analysis;主成分分析)により分析することにより、油圧システム4の動作状況を示す信号をそのまま用いる場合よりも、圧延設備2の異常発生の予兆を明確かつ容易に検知することができる。DBMとは、データの集合から基準となる母集団をいくつか作成し、各データとこれに近い母集団のデータ群との平均距離を計算し、この平均距離が所定の閾値を超える場合に異常を判定する手法である。また、PCAとは、相関のある多数の変数から相関のない少数で全体のばらつきを最もよく表す主成分と呼ばれる変数を合成する多変量解析の手法である。
【0029】
異常診断部13は、圧延設備2の異常発生の予兆があると判定した場合には、この判定結果を制御装置5に送信し、さらに制御装置5による圧延設備2の動作の制御を変更することで、圧延設備2の稼働中の異常発生による圧延設備2の停止を未然に防ぐ。これにより、鋼材の圧延設備2の異常発生による予期しない停止が防止され、圧延設備2の稼働率を向上することができる。
【0030】
なお、本実施形態では、鋼材の圧延設備2の圧延ロール31の圧下量を調整する油圧システム4の動作状況を示す信号を用いて、圧延設備2の異常発生予測を行っているが、本発明の異常発生予測システムおよび異常発生予測方法、ならびに鋼材の製造方法は、鋼材以外の金属材料の圧延設備にも適用可能であり、さらには金属材料の圧延設備以外の種々の設備に備えられる油圧システムの異常発生予測にも適用可能である。
【0031】
また、本実施形態では、油圧システム4の動作状況を示す信号の所定の時間範囲毎の中央値を用いて異常発生を予測する構成としているが、中央値に代えて、平均値等の他の値を用いて異常発生を予測する構成としてもよい。
【0032】
また、本実施形態では、油圧システム4の動作状況を示す信号の所定の時間範囲毎の中央値が所定の範囲から逸脱する状態が所定時間以上継続した場合に圧延設備2の異常発生を予測する構成としているが、異常発生の予測条件は上記条件には限られず、例えば所定の範囲(閾値)から逸脱した時点で圧延設備2の異常発生を予測する構成としてもよい。
【0033】
さらに、本実施形態では、油圧システム4の動作状況を示す信号として、油柱411の位置の目標値からの偏差とサーボ弁42の開度の指令値との両方を用いているが、油柱411の位置の目標値からの偏差とサーボ弁42の開度の指令値とのいずれか一方のみを用いてもよく、また、サーボ弁42のスプール421の位置等の他の信号データを用いてもよい。
【実施例0034】
図2および
図3はそれぞれ、鋼板の圧延設備において異常が発生した事例について、この異常が発生する前の、油柱の位置の目標値からの偏差およびサーボ弁の開度の指令値の各々について、数秒の時間範囲毎に区切り、各時間範囲内の中央値をプロットしたグラフである。
【0035】
図2および
図3に示されるように、鋼板の圧延設備に異常が発生する約2時間前から、圧延設備の圧延ロールの圧下量を調整する油柱シリンダーの油柱の位置の目標値からの偏差の中央値と、サーボ弁の開度の指令値の中央値のそれぞれにおいて、変化が発生し始めている。そこで、例えば
図2および
図3に示すように、油柱シリンダーの油柱の位置の目標値からの偏差の中央値と、サーボ弁の開度の指令値の中央値のそれぞれについて、所定の閾値を設定しておき、油柱シリンダーの油柱の位置の目標値からの偏差の中央値と、サーボ弁の開度の指令値の中央値がこの閾値を超える状態が所定時間以上継続する場合に、圧延設備の異常発生の予兆があるとの判定を行うことで、鋼板の圧延設備の異常発生を予測できることがわかる。なお、閾値は、過去に鋼板の圧延設備において異常が発生したときの油柱の位置の目標値からの偏差またはサーボ弁の開度の指令値のデータ列から定量的に算出すればよく、例えば中央値の標準偏差の値を基準として設定できる。