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特開2022-49581溶融めっき鋼管の製造方法および鋼管用溶融めっき装置
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  • 特開-溶融めっき鋼管の製造方法および鋼管用溶融めっき装置 図1
  • 特開-溶融めっき鋼管の製造方法および鋼管用溶融めっき装置 図2
  • 特開-溶融めっき鋼管の製造方法および鋼管用溶融めっき装置 図3
  • 特開-溶融めっき鋼管の製造方法および鋼管用溶融めっき装置 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022049581
(43)【公開日】2022-03-29
(54)【発明の名称】溶融めっき鋼管の製造方法および鋼管用溶融めっき装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 2/38 20060101AFI20220322BHJP
   C23C 2/00 20060101ALI20220322BHJP
【FI】
C23C2/38
C23C2/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020155850
(22)【出願日】2020-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100195785
【弁理士】
【氏名又は名称】市枝 信之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 新吾
(72)【発明者】
【氏名】原田 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】小澤 典子
(72)【発明者】
【氏名】岡井 和久
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 成人
(72)【発明者】
【氏名】小野 絹正
【テーマコード(参考)】
4K027
【Fターム(参考)】
4K027AA07
4K027AA22
4K027AB05
4K027AB42
4K027AD08
4K027AE08
(57)【要約】
【課題】鋼管の溶融めっきにおける管端部の不めっきを防止し、品質に優れた溶融めっき鋼管を提供する。
【解決手段】鋼管を溶融金属に浸漬して溶融めっきする溶融めっき鋼管の製造方法であって、前記鋼管の前記溶融金属への浸漬を、複数のスクリューそれぞれのスクリュー羽根間に前記鋼管を保持した状態で前記スクリューを回転させることによって行い、前記浸漬の際には、前記鋼管と前記溶融金属の液面とのなす角を2°以上とする、溶融めっき鋼管の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管を溶融金属に浸漬して溶融めっきする溶融めっき鋼管の製造方法であって、
前記鋼管の前記溶融金属への浸漬を、複数のスクリューそれぞれのスクリュー羽根間に前記鋼管を保持した状態で前記スクリューを回転させることによって行い、
前記浸漬の際には、前記鋼管と前記溶融金属の液面とのなす角を2°以上とする、溶融めっき鋼管の製造方法。
【請求項2】
溶融金属を保持する溶融めっき槽と、
複数のスクリューそれぞれのスクリュー羽根間に鋼管を保持した状態で回転することにより前記鋼管を前記溶融金属に浸漬するスクリューとを備え、
前記浸漬の際には、前記鋼管と前記溶融金属の液面とのなす角が2°以上となるよう構成されている、鋼管用溶融めっき装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融めっき鋼管の製造方法および鋼管用溶融めっき装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼管の内外面に亜鉛などの金属を溶融めっきした溶融めっき鋼管は、その耐食性の高さなどから幅広い用途に用いられている。
【0003】
一般的に、溶融めっき鋼管は、鋼管に脱脂、酸洗、化成処理などの前処理を施したのち、該鋼管を溶融めっき浴に浸漬することによって製造される。その際、溶融めっき浴から引き上げた鋼管の内外面には余剰の溶融金属が付着しているため、この余剰金属を除去してめっき付着量を制御するための様々な技術が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、溶融亜鉛めっき浴から引き上げられた鋼管を外面ブロー装置に通過させるとともに、噴射ノズルを備えたマンドレル棒を用いて前記鋼管の内面をブローすることにより、鋼管の内外面の余剰亜鉛を除去することが提案されている。
【0005】
また、特許文献2では、めっき浴から引き上げた鋼管にガスを吹き付けて内外面の余剰亜鉛を除去する方法において、溶融亜鉛めっき浴の温度を低温としておき、圧縮ガスにより外面の余剰亜鉛を除去した後に鋼管の温度を溶融亜鉛めっき浴の温度よりも高い温度に加熱し、その後、圧縮ガスにより内面の余剰亜鉛を除去することが提案されている。
【0006】
特許文献3では、鋼管を100~600℃に加熱した後に、430~480℃の溶融亜鉛めっき浴に浸漬し、その後、めっき浴から引き上げた鋼管にガスを吹き付けてめっき付着量を制御することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011-063844号公報
【特許文献2】特開平05-140722号公報
【特許文献3】特開平11-246959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1~3で提案されているような従来の技術においては、めっき付着量を制御できるものの、不めっきの発生には注意が払われていなかった。特に鋼管の端部で不めっきが発生すると、品質面で問題となる。また、不めっきが発生した箇所には後処理(補修)を施す必要があるため、生産性が低下するという問題もあった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、鋼管の溶融めっきにおける管端部の不めっきを防止し、品質に優れた溶融めっき鋼管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その要旨構成は以下のとおりである。
【0011】
1.鋼管を溶融金属に浸漬して溶融めっきする溶融めっき鋼管の製造方法であって、
前記鋼管の前記溶融金属への浸漬を、複数のスクリューそれぞれのスクリュー羽根間に前記鋼管を保持した状態で前記スクリューを回転させることによって行い、
前記浸漬の際には、前記鋼管と前記溶融金属の液面とのなす角を2°以上とする、溶融めっき鋼管の製造方法。
【0012】
2.溶融金属を保持する溶融めっき槽と、
複数のスクリューそれぞれのスクリュー羽根間に鋼管を保持した状態で回転することにより前記鋼管を前記溶融金属に浸漬するスクリューとを備え、
前記浸漬の際には、前記鋼管と前記溶融金属の液面とのなす角が2°以上となるよう構成されている、鋼管用溶融めっき装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、鋼管の溶融めっきにおける管端部の不めっきを防止し、品質に優れた溶融めっき鋼管を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態における鋼管の傾斜を示す模式図である。
図2】本発明の一実施形態における鋼管用溶融めっき装置の構造を示す上面図である。
図3】本発明の一実施形態における鋼管用溶融めっき装置の構造を示す側面図である。
図4】シミュレーションにより求めた、傾斜角度(°)と空気残存率(%)の相間を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施する方法について具体的に説明する。なお、以下の説明は、本発明の好適な実施形態の例を示すものであって、本発明はこれに限定されない。
【0016】
本発明の一実施形態における溶融めっき鋼管の製造方法においては、鋼管を溶融金属に浸漬して溶融めっきすることにより溶融めっき鋼管を製造する。
【0017】
[鋼管]
前記鋼管としては、とくに限定されることなく任意の鋼管を用いることができる。前記鋼管の外径についてもとくに限定されず、任意の外径の鋼管を用いることができる。例えば、前記鋼管の外径は、10mm以上であってよく、20mm以上であってもよい。また、前記鋼管の外径は、700mm以下であってよく、610mm以下であってもよい。なお、一般的には、管の径が小さいほど内部の空気が抜けにくく、その結果、不めっきが発生しやすい傾向にある。そのため、本発明の効果は小径管においてより顕著であるが、径が大きい場合であっても同様に本発明を適用できることは言うまでも無い。
【0018】
また、前記鋼管の製造方法についてもとくに限定されず、任意の方法で製造された鋼管を用いることができる。例えば、前記鋼管として、電縫鋼管または鍛接鋼管を用いることができる。ただし、一般的に鍛接鋼管に比べて電縫鋼管の方が管の表面が平滑であるため、めっき皮膜の密着性に劣る傾向にある。そのため、本発明は電縫鋼管に対して特に有効である。
【0019】
なお、溶融めっきに先だって、前記鋼管には前処理を施すことが好ましい。前記前処理としては、例えば、脱脂、酸洗、および化成処理からなる群より選択される少なくとも1つを行うことができる。
【0020】
[溶融金属]
前記溶融金属としては、特に限定されることなく任意の金属の溶融物を用いることができる。前記溶融金属としては、典型的には、亜鉛または亜鉛合金を用いることができる。
【0021】
溶融亜鉛めっきを施す場合、溶融亜鉛めっき浴には、任意の添加元素を含有することができる。例えば、溶融亜鉛めっき浴は、任意にPd、Cd、Al、Bi、Sb、およびSnからなる群より選択される少なくとも1つの添加元素を含有することができる。
【0022】
本願発明の一実施形態においては、質量%で、
Pb:0.10%以下、
Cd:0.01%以下、
Al:0.05%以下、および
Bi:0.01%以上1.00%以下を含み、
残部Znおよび不可避不純物からなる化学組成を有する溶融めっき浴を用いることができる。
【0023】
前記溶融めっき浴は、さらに任意に、質量%で、
Sb:0.01%以上1.00%以下、および
Sn:0.01%以上2.00%以下の一方または両方を含むことができる。
【0024】
ただし、本発明は鋼管を特定の角度で傾斜させるという物理的な動作よって所期の効果を得るものであり、その効果は溶融金属(めっき浴)の化学組成に依存するものではない。したがって、前記溶融金属としては、上に例示した化学組成のものに限られることなく、任意のものを用いることができる。
【0025】
[浸漬]
本発明においては、前記鋼管の前記溶融金属への浸漬を、前記鋼管をスクリューのスクリュー羽根間に保持した状態で前記スクリューを回転させることによって行う。なお、鋼管を溶融めっき浴に浸漬する方法としては、従来、複数の鋼管を束ねてクレーンで吊り下げて浸漬する方法が一般的に用いられていた。しかし、前記方法では鋼管同士が接触した状態でめっきが行われるため、鋼管の外面にめっき不良が発生しやすい。また、前記方法では鋼管を浸漬する際の傾斜角度を精度良く制御することが難しい。これに対してスクリューを用いる方法では、傾斜角度を精度よく制御することができる。また、スクリューを用いる方法では、鋼管を溶融金属から引上げた後、連続的にブローによるめっき付着量調整を行うことも容易であるため、めっき皮膜の厚さの制御の面からも有利である。
【0026】
[スクリュー]
本発明では、鋼管を複数のスクリューによって保持した状態で溶融金属へ浸漬する。前記鋼管の保持には、複数スクリューを使用する。すなわち、前記スクリューの本数は、鋼管1本当たり2本以上であればよい。ただし、鋼管を溶融金属に浸漬する際に鋼管内に溶融金属が流れ込むが、その流れ込み方によって鋼管にかかる浮力の分布が変化するとともに、鋼管にたわみが生じる場合もある。そのため、浸漬時に鋼管を安定して保持するという観点からは、鋼管1本当たり3本以上のスクリューを用いることが好ましい。一方、前記スクリューの本数の上限は特に限定されず、鋼管の長さなどに応じて適宜選択すればよい。ただし、過度にスクリューの本数が多すぎるとめっき装置の構造が複雑化し、それにともなって設備コストも上昇する。そのため、前記スクリューの本数は、鋼管1本当たり4本以下とすることが好ましい。
【0027】
[傾斜]
本発明においては、前記浸漬の際に、図1に示すように鋼管が溶融金属の液面に対して傾斜した状態とすることが重要である。その理由について、以下に説明する。
【0028】
鋼管を液面に対して水平に保った状態で浸漬すると、鋼管の両端部から溶融金属が同時に進入するため、鋼管内における溶融金属の流れが大きく乱れる。その結果、鋼管をめっき浴に完全に浸漬した後においても鋼管内に空気が残存することとなり、特に管端部において不めっきが生じる。これに対して、液面に対して傾斜した状態で鋼管を溶融金属に浸漬した場合、一方の端部から溶融金属が鋼管内にスムーズに浸入し、他方の端部から空気が排除されるため、鋼管内に空気が残存することを防止できる。そしてその結果、管端部などにおける不めっきを防止できる。
【0029】
前記効果を得るために、前記浸漬の際の、前記鋼管と前記溶融金属の液面とのなす角θ(以下、「傾斜角度」という)を2°以上とする。一方、前記傾斜角度の上限はとくに限定されない。しかし、傾斜角度が過大であると、鋼管がスクリュー羽根間に保持できず滑り落ちてしまうおそれがある。また、鋼管の内部に溶融金属が急激に流入する結果、鋼管の端部から溶融金属が噴出するおそれもある。そのため、鋼管の滑落および溶融金属の噴出を防止するという観点からは、前記傾斜角度を5°以下とすることが好ましい。なお、鋼管を浸漬させる際には、溶融金属液面は波立ちにより水平面とはならない。そのため、前記傾斜角度を求める際には、鋼管を浸漬する前の静止状態における液面を溶融金属の液面と見なすものとする。
【0030】
鋼管を溶融金属の液面に対して傾斜した状態とする方法はとくに限定されず、任意の方法を用いることができる。しかし、装置構造を簡略化し、制御を容易とする観点からはピッチおよび位相の少なくとも一方が異なる複数のスクリューを用いることが好ましい。
【0031】
すなわち、本発明の一実施形態における溶融めっき鋼管の製造方法においては、異なるピッチおよび/または異なる位相を有する複数のスクリューそれぞれのスクリュー羽根間に鋼管を保持し、前記複数のスクリューを回転させることによって該鋼管を溶融金属へ浸漬する。そして、前記複数のスクリューそれぞれのピッチおよび位相は、前記浸漬の際に、前記鋼管と前記溶融金属の液面とのなす角が2°以上となるよう設定されている。
【0032】
また、本発明の一実施形態における鋼管用溶融めっき装置は、異なるピッチおよび/または異なる位相を有する複数のスクリューを備えており、前記複数のスクリューは、それぞれのスクリュー羽根間に鋼管を保持した状態で回転することにより前記鋼管を前記溶融金属に浸漬する。そして、前記複数のスクリューそれぞれのピッチおよび位相は、前記浸漬の際に、前記鋼管と前記溶融金属の液面とのなす角が2°以上となるよう設定されている。
【0033】
例えば、複数のスクリューのうち、鋼管の一方の端部側に設置されているもののピッチを、他端側に設置されているスクリューのピッチより大きくする、すなわちスクリュー羽根間の幅を広くすることで、スクリューの回転に伴って鋼管に傾斜が付与され、前記一方の端部側を他端側より先に溶融金属に浸漬させることができる。
【0034】
同じピッチと位相を有するスクリューを複数使用した場合、鋼管を傾斜させるためには各スクリューを異なる速度で回転させるなどの特殊な制御を行う必要がある。またそのためには、スクリューごとにモーターを設置するか、回転速度を変えるための変速装置などを設ける必要がある。これに対し、上記の実施形態ではスクリューのピッチまたは位相の違いを利用して鋼管を傾斜した状態とするため、スクリューの回転数は同じであってよい。そのため、複数のスクリューを単一の駆動装置(モーターなど)で駆動することができ、スクリューごとに回転数を変えるための変速装置なども不要である。そのため、装置構造を大幅に簡略化することができる。
【0035】
なお、上述したようにスクリューを用いて傾斜を付与する場合、スクリューの回転に伴って鋼管も回転するため、鋼管の特定箇所に気泡が残存することを防ぐ作用もある。なお、スクリューの回転に伴って鋼管が長手方向に移動してしまう場合がある。そのため、鋼管の移動を防止するという観点からは、後述するように鋼管の位置を規制する位置規制部材(スキッドプレートなど)に鋼管の一端を当接させた状態で溶融めっきを行うことが好ましい。その場合、スクリューの回転方向は、鋼管が前記位置規制部材の方向へ移動する向きとすればよい。
【0036】
なお、鋼管の傾斜角度は、めっき浴槽で空気が残存されることを防ぐため、鋼管が浴面下にあるいずれの状態でも保たれることが望ましいが、少なくとも鋼管を浴面下に浸漬させるときに維持されていれば品質上の問題は顕在化しない。
【0037】
前記浸漬の後は、鋼管を溶融めっき浴から引き上げる。引き上げた鋼管には、余剰の溶融金属が付着しているので、該鋼管の内面および外面に気体(例えば、空気または蒸気)を吹き付けて、めっき付着量を調整することが好ましい(内外面ブロー)。さらに、前記内外面ブローの後、鋼管を水冷することが好ましい。前記水冷は、例えば、冷却水に鋼管を浸漬することで行うことができる。
【0038】
次に、本願発明のより具体的な実施形態の一例について、図面を参照して説明する。
【0039】
被めっき物である鋼管Pは、溶融めっき工程に先立つ前処理工程において、必要に応じて脱脂、酸洗、および化成処理を施した後、溶融めっき工程に供される。
【0040】
図2は、本発明の一実施形態における鋼管用溶融めっき装置100の構造を示す上面図である。また、図3は、鋼管用溶融めっき装置100の構造を示す側面図である。本実施形態における鋼管用溶融めっき装置100は、2本の鋼管Pに対して同時に溶融めっきを施すことができるように構成されている。
【0041】
鋼管用溶融めっき装置100は、溶融めっき槽1を備えており、溶融めっき槽1には溶融金属が収容されている。そして、鋼管用溶融めっき装置100は、鋼管を保持した状態し、溶融金属に浸漬するためのスクリュー2を、鋼管1本当たり3本、合計6本備えている。スクリュー2は、溶融金属の液面より上から液面より下にわたって延在するように、略垂直に設置されている。
【0042】
前処理が終了した鋼管Pは、まず、溶融金属の液面より上の位置において、図2の矢印Aで示すように溶融めっき槽1のボトム側(図2の右側)からトップ側(図2の左側)へ向けて搬送される。次いで、鋼管Pをスクリュー2のスクリュー羽根間に保持した状態でスクリュー2を回転させることによって、鋼管Pが溶融金属に浸漬される。その際、鋼管Pが溶融金属の液面に対して傾斜した状態とされる。なお、鋼管用溶融めっき装置100には、スクリュー2と略平行にサイドガイド3が設置されており、浸漬過程において鋼管Pがスクリュー2のスクリュー羽根間から逸脱しないよう、鋼管Pの移動が規制されている。また、溶融めっき槽1のトップ側には、鋼管Pの先端を位置決めするスキッドプレート10を備えることが好ましい。スキッドプレート10を使用する場合、図2、3に示すように鋼管Pの一端をスキッドプレート10に当接させた状態で溶融めっきを行うことができる。これにより、溶融めっき槽1内における鋼管Pの位置を正確に決定できることに加え、スクリューの回転や傾斜の影響によって鋼管の位置がずれてしまうことを防止できる。
【0043】
溶融めっき槽1の下方には、鋼管Pを支持するためのクレードル4が設置されている。スクリュー2によって溶融金属中に浸漬された鋼管Pは、そのままスクリュー2の回転により下方へ搬送され、クレードル4の上に載置される。
【0044】
クレードル4の上に載置された鋼管Pは、スクリュー2の下端に備えられている払出し装置5により払い出され、引上げ装置6に移し替えられる。そして、鋼管Pは引上げ装置6により溶融めっき槽1から引上げられる。なお、本実施形態の鋼管用溶融めっき装置100では、2本の鋼管Pに対して同時に溶融めっきが行われる。そのため、鋼管用溶融めっき装置100には2つの引上げ装置6が備えられている。図2の上側のスクリュー群により浸漬された鋼管Pは、矢印Bで示すように上側の引上げ装置6により引上げられ、図2の下側のスクリュー群により浸漬された鋼管Pは、矢印Cで示すように下側の引上げ装置6により引上げられる。
【0045】
鋼管Pを溶融めっき槽1から引上げた後は、必要に応じて気体の吹き付けによるめっき付着量の調整および冷却を行うことができる。
【実施例0046】
(実施例1)
本発明の効果を確認するため、鋼管のめっき槽への浸漬を模擬した熱流体シミュレーションを実施した。シミュレーションにはSIEMENS社製の汎用熱流体ソフトウェアであるSTAR-CCM+(登録商標)を用いた。鋼のサイズは、呼び径100Aまたは125A、長さ4.0mとした。また、鋼管を溶融金属に浸漬する速度(下降速度)は25mm/秒とした。
【0047】
前記シミュレーションにより、鋼管の両端がめっき槽へ完全に浸漬した際の、鋼管内の空気残存率を算出した。前記空気残存率は、以下のように算出した。
空気残存率[%]=(浸漬後の鋼管内に残存する空気の体積)/(鋼管内部の容積)×100
【0048】
図4は、上記シミュレーションにより求めた、傾斜角度(°)と空気残存率(%)の相間を示すグラフである。図4に示した結果より、鋼管が前記溶融金属の液面に対して傾斜した状態で浸漬を行うことにより鋼管内に残留する空気の量を効果的に低減できることが分かる。特に、傾斜角度が2°以上であれば、残留する空気の量をほぼゼロとすることができる。
【0049】
(実施例2)
次に、実際に鋼管に対して溶融亜鉛めっきを行って、目視により不めっきの有無を評価した。具体的には、表1に示す呼び径の鋼管に対して、前処理として、脱脂、酸洗、および化成処理を行った後、表1に示した傾斜角度で溶融亜鉛めっきを実施した。溶融めっき槽から鋼管を引上げた後、該鋼管の内外面をブローして余剰の亜鉛を除去し、次いで、鋼管を冷却槽に浸漬して水冷した。
【0050】
得られた鋼管の端部における不めっきの有無を目視により評価した。評価結果を表1に示す。なお、本実施例の各条件について、上記実施例1と同様の方法でシミュレーションを行って求めた空気残存率も表1に併記する。
【0051】
表1に示した結果より、本発明によれば、管内に空気が残留することに起因する不めっきの発生を効果的に防止できることが分かる。
【0052】
【表1】
【符号の説明】
【0053】
P 鋼管
1 溶融めっき槽
2 スクリュー
3 サイドガイド
4 クレードル
5 払出し装置
6 引上げ装置
10 スキッドプレート
100 鋼管用溶融めっき装置
図1
図2
図3
図4