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特開2022-49639放電検出方法、プラズマ安定化判別方法及びイオンビーム照射装置
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  • 特開-放電検出方法、プラズマ安定化判別方法及びイオンビーム照射装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022049639
(43)【公開日】2022-03-29
(54)【発明の名称】放電検出方法、プラズマ安定化判別方法及びイオンビーム照射装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/04 20060101AFI20220322BHJP
   H01J 37/30 20060101ALI20220322BHJP
【FI】
H01J37/04 A
H01J37/04 Z
H01J37/30 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020206483
(22)【出願日】2020-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2020155510
(32)【優先日】2020-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】302054866
【氏名又は名称】日新イオン機器株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川村 昌充
(72)【発明者】
【氏名】藤本 龍吾
【テーマコード(参考)】
5C030
5C034
【Fターム(参考)】
5C030AA02
5C030AB05
5C030BC09
5C034AA09
(57)【要約】
【課題】ビームプロファイル測定時の放電の発生を検出する。
【解決手段】イオンビームIBのビームプロファイルを測定する移動式のビーム電流測定器MFと、ターゲット2に照射されるイオンビームの進行方向Zで、移動式のビーム電流測定器MFの下流側に配置された固定式のビーム電流測定器BFと、を具備するイオンビーム照射装置M1で実施される放電検出方法で、移動式のビーム電流測定器MFでのビームプロファイルの測定中に固定式のビーム電流測定器BFで測定されたビーム電流に基づいて、ビームプロファイル測定時の放電の発生を検出する、放電検出方法。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンビームのビームプロファイルを測定する移動式のビーム電流測定器と、
ターゲットに照射されるイオンビームの進行方向で、前記移動式のビーム電流測定器の下流側に配置された固定式のビーム電流測定器と、を具備するイオンビーム照射装置で実施される放電検出方法で、
前記移動式のビーム電流測定器でのビームプロファイルの測定中に前記固定式のビーム電流測定器で測定されたビーム電流に基づいて、ビームプロファイル測定時の放電の発生を検出する、放電検出方法。
【請求項2】
前記固定式のビーム電流測定器は、複数の測定領域を備え、
各測定領域は、前記移動式のビーム電流測定器の移動方向に並んでおり、
放電の発生を検出するにあたって、前記固定式のビーム電流測定器で測定されたビーム電流の測定結果と、前記移動式のビーム電流測定器の位置情報を用いる、請求項1記載の放電検出方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の放電検出方法にて、放電が検出された場合、
前記固定式のビーム電流測定器でビーム電流を測定し、
測定されたビーム電流に基づいてプラズマが安定したかどうかを判別する、プラズマ安定化判別方法。
【請求項4】
イオンビームのビームプロファイルを測定する移動式のビーム電流測定器と、
ターゲットに照射されるイオンビームの進行方向で、前記ビーム電流測定器の下流側に配置された固定式のビーム電流測定器と、
前記固定式のビーム電流測定器との測定結果を受け取る制御装置とを有し、
前記制御装置が、前記移動式のビーム電流測定器でのビームプロファイルの測定中に前記固定式のビーム電流測定器で測定されたビーム電流に基づいて、ビームプロファイル測定時の放電の発生を検出する、イオンビーム照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ビームプロファイルを測定する際に用いられる放電検出方法と当該方法を実施するイオンビーム照射装置、さらには放電が検出された後に実施されるプラズマ安定化判別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン注入装置やイオンビームエッチング装置等のイオンビーム照射装置では、ウエハ(SiやSiC等)やガラス基板といったターゲットにイオンビームを照射することでターゲットの処理が行われている。
【0003】
ターゲットの処理を行う際、イオンビームの均一性がしばしば問題となる。この均一性が所望の範囲内になければ、ターゲット面内でのイオンビームの照射量分布に斑ができ、これが処理不良の要因となる。よって、ターゲット処理に先だってイオンビームのビームプロファイルを測定し、ターゲット処理を実施して問題がないかどうかの確認が行われている。
【0004】
ビームプロファイルの測定は、例えば、特許文献1に記載されている移動式のビーム電流測定器、いわゆるムービングファラデーを用いて行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2004-530265
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
イオンビーム照射装置でイオンビームを生成するイオン源には、イオンビームの引き出しにあたって高電圧が印加されている。高電圧が印加される場所では、使用するガス種に応じて絶縁性の反応物が堆積する。堆積物に電荷が蓄積すると瞬時的な放電が発生する。
【0007】
放電が発生すると、引き出されるイオンビームの形状が変動する。このことから、放電発生時に測定された移動式のビーム電流測定器での測定結果は、正常な測定結果と言えるものではない。これをもとにターゲット処理の実施可否にかかる判断を行うと、判断を誤ることになり、ひいてはターゲット処理が不良となることもある。
そこで、ビームプロファイル測定時の放電の発生が検出可能な放電検出方法と放電検出方法を実施するイオンビーム照射装置を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
放電検出方法は、
イオンビームのビームプロファイルを測定する移動式のビーム電流測定器と、
ターゲットに照射されるイオンビームの進行方向で、前記移動式のビーム電流測定器の下流側に配置された固定式のビーム電流測定器と、を具備するイオンビーム照射装置で実施される放電検出方法で、
前記移動式のビーム電流測定器でのビームプロファイルの測定中に前記固定式のビーム電流測定器で測定されたビーム電流に基づいて、ビームプロファイル測定時の放電の発生を検出する。
【0009】
移動式のビーム電流測定器でビームプロファイルの測定を行っている間に、固定式のビーム電流測定器でビーム電流を測定するようにしたので、ビームプロファイル測定中の放電を検出することが可能となり、ひいてはビームプロファイルの測定結果が正しいデータであるかどうかが明確になる。
【0010】
より具体的な構成に基づく放電検出方法は、
前記固定式のビーム電流測定器は、複数の測定領域を備え、
各測定領域は、前記移動式のビーム電流測定器の移動方向に並んでおり、
放電の発生を検出するにあたって、前記固定式のビーム電流測定器で測定されたビーム電流の測定結果と、前記移動式のビーム電流測定器の位置情報を用いる。
【0011】
放電後にビームプロファイルの測定を再開するには、事前に次のプラズマ安定化判別方法を用いることが望ましい。
上述した放電検出方法にて、放電が検出された場合、
前記固定式のビーム電流測定器でビーム電流を測定し、
測定されたビーム電流に基づいて、プラズマが安定したかどうかを判別する。
【0012】
イオンビーム照射装置としては次の構成とする。
イオンビームのビームプロファイルを測定する移動式のビーム電流測定器と、
ターゲットに照射されるイオンビームの進行方向で、前記ビーム電流測定器の下流側に配置された固定式のビーム電流測定器と、
前記移動式のビーム電流測定器と前記固定式のビーム電流測定器との測定結果を受け取る制御装置とを有し、
前記制御装置が、前記移動式のビーム電流測定器でのビームプロファイルの測定中に前記固定式のビーム電流測定器で測定されたビーム電流に基づいて、ビームプロファイル測定時の放電の発生を検出する。
【発明の効果】
【0013】
移動式のビーム電流測定器でビームプロファイルの測定を行っている間に、固定式のビーム電流測定器でビーム電流を測定するようにしたので、ビームプロファイル測定中の放電を検出することが可能となり、ひいてはビームプロファイルの測定結果が正しいデータであるかどうかが明確になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】イオンビーム照射装置の構成例を示すYZ平面図
図2】イオンビーム照射装置の構成例を示すZX平面図
図3】放電検出方法についてのフローチャート
図4】固定式のビーム電流測定器の構成例を示すXY平面図
図5】固定式のビーム電流測定器の他の構成例を示すXY平面図
図6】プラズマ安定化判別処理についてのフローチャート
図7】イオンビーム照射装置の他の構成例を示すYZ平面図
図8】イオンビーム照射装置の他の構成例を示すZX平面図
図9】放電検出方法の変形例にかかるフローチャート
図10図9の処理S21と処理S22についての補足説明図
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1図2はイオンビーム照射装置の構成例を示す平面図である。各図に描かれるイオンビーム照射装置は同一のものであり、描かれている平面が相違している。
【0016】
イオンビーム照射装置M1は、例えば、イオン注入装置やイオンビームエッチング装置といったイオンビームを用いてウエハ(SiやSiC等)やガラス基板といったターゲットを処理する装置である。図1図2に基づき、以下にその構成を説明する。
【0017】
イオン源1は、一方向に長いリボン状のイオンビームIB(リボンビームやシートビームとも呼ぶ)を引き出して、図示されるZ方向に向けて射出する。イオンビームIBの進行方向であるZ方向に垂直なXY平面によるイオンビームIBの断面は、略長方形状であり、同断面における長手方向(以下、単にイオンビームの長手方向と呼ぶ)は図示されるY方向と一致している。
【0018】
イオンビームIBは、均一化調整レンズ3を通過し、ターゲット2側に進行する。均一化調整レンズ3は、イオンビームIBの長手方向におけるビームプロファイルを調整するためのレンズである。
なお、本発明のイオンビーム照射装置M1において、ビームプロファイルの調整は必須ではない。必要に応じて、均一化調整レンズ3をイオンビーム照射装置M1に設けるようにしてもよい。
【0019】
均一化調整レンズ3の例としては、図示されるX方向でイオンビームを挟むように設けられた一対の電極あるいは磁極をイオンビームIBの長手方向に沿って複数対配置した静電あるいは磁界レンズが挙げられる。他、均一化調整レンズ3の例としては、イオンビームを通過する空間を有するロの字状のヨークに複数のコイルが巻回された磁界レンズでもよい。ビームプロファイルが正常でないとき、このような均一化調整レンズ3を用いてビームプロファイルの調整を行ってもよい。
【0020】
均一化調整レンズ3の下流側(Z方向側)には、移動式のビーム電流測定器MFが配置されている。移動式のビーム電流測定器MFは、矢印Uで示されるごとく、イオンビームIBの長手方向に移動する。このビーム電流測定器MFは、例えば単一のファラデーカップで構成されていて、矢印U方向へ移動しながら、ビーム電流を測定することでイオンビームIBの長手方向におけるビームプロファイルを測定する。
【0021】
ターゲット2は、図示されないプラテンに支持されている。プラテンは、ターゲットの受け渡し時やビームプロファイルの測定が行われている間、図2に図示される位置に移動している。一方、ターゲット2へのイオンビーム照射処理にあたっては、X方向でイオンビームIBを横切ってターゲット全面にイオンビームIBが照射されるよう、図示されないプラテンがV方向へ搬送される。
【0022】
ターゲット2の下流には、固定式のビーム電流測定器BFが配置されている。移動式のビーム電流測定器MFでビームプロファイルの測定が行われている間、固定式のビーム電流測定器BFには、イオンビームIBの一部が照射されている。
【0023】
Y方向での寸法関係について言えば、移動式のビーム電流測定器MFの寸法はイオンビームIBの寸法に比べて小さい。このことから、ビームプロファイルの測定中、移動式のビーム電流測定器MFでイオンビームIBは部分的に遮られるが、移動式のビーム電流測定器MFで遮られないイオンビームIBの一部は、固定式のビーム電流測定器BFに照射されるので、固定式のビーム電流測定器BFでのビーム電流の測定が可能となる。
【0024】
制御装置Cは、固定式のビーム電流測定器BFでのビーム電流の測定結果に基づいて、ビームプロファイル測定中の放電を検出する機能を有している。
また、制御装置Cは、移動式のビーム電流測定器MFの移動を制御して、その位置情報を記録する機能を有していてもよい。
一方、移動式のビーム電流測定器MFの移動制御は他の制御装置に任せておき、移動式のビーム電流測定器MFの位置情報を受信して、この情報に基づいて後述する複数のビーム電流測定器を切り替えてビーム電流を測定してもよい。
【0025】
図3は、放電検出方法にかかるフローチャートである。このフローチャートに基づき、制御装置Cで実施される放電検出方法について説明する。
【0026】
イオンビームIBのビームプロファイルの測定にあたり、移動式のビーム電流測定器MFを所定方向(イオンビームの長手方向)へ移動させながら、ビーム電流を測定する(S1)。これと同時に、固定式のビーム電流測定器BFでイオンビームIBのビーム電流を測定する(S2)。
次に、固定式のビーム電流測定器BFで測定されたビーム電流の平均値と標準偏差(σ)を算出する。算出値をもとに、測定値が平均値から標準偏差を3倍したものを引いた値から平均値に標準偏差を3倍したものを足した値の範囲内にあるかどうかを確認する(S3)。
【0027】
処理S3で範囲外となる測定値が存在している場合には、放電有と判別し、ビームプロファイル測定を中止する(S4)。
一方、処理S3で測定値が範囲内であれば、移動式のビーム電流測定器MFがビームプロファイルの測定終了位置まで移動しているかどうかの判別が行われる(S5)。
【0028】
処理S5で、移動式のビーム電流測定器MFがビームプロファイルの測定終了位置に到達していない、つまり、未だビームプロファイルの測定中である場合、処理S2に戻り、引き続き固定式のビーム電流測定器BFでビーム電流の測定が行われる。
一方、処理S5で移動式のビーム電流測定器MFがビームプロファイル終了位置に到達していれば、ビームプロファイルの測定を完了する(S6)。
【0029】
図4図5は固定式のビーム電流測定器BFの構成例である。
図4の固定式のビーム電流測定器BFは、単一の大口径ファラデーカップ4で構成されている。一方、図5の固定式のビーム電流測定器BFは、複数のファラデーカップ4a~4eで構成されている。
いずれの固定式のビーム電流測定器BFでも、上述した図3のフローチャートに記載の放電検出方法を実現することはできる。
しかしながら、イオンビームIBによるターゲット2の処理中や処理の前後に、短時間で簡易的に現在のビームプロファイルを確認したいという要望があれば、図5に示す固定式のビーム電流測定器BFを採用する方が望ましい。図5に示す固定式のビーム電流測定器BFであれば、ファラデーカップが離散的にY方向に並んでいるため、各ファラデーカップでのビーム電流の測定値からイオンビームIBのビームプロファイルを知ることができる。
【0030】
図5のビーム電流測定器BFでは、複数のファラデーカップ4a~4eを具備しているが、上述した放電検出方法において、必ずしも全てのファラデーカップを使用する必要はなく、特定のファラデーカップの組が使用される。
使用するファラデーカップの組み合わせは、ファラデーカップの配置や移動式のビーム電流測定器MFの大きさに応じて変更される。
具体的には、ビーム電流の測定に利用するファラデーカップを切り替えて、いずれかのファラデーカップを用いてビーム電流の測定が継続して行える組み合わせを選択する。
【0031】
図5において、例えば、ファラデーカップ4aとファラデーカップ4eの組み合わせがこれに相当する。
移動式のビーム電流測定器MFが紙面下側から上側へ向けて移動する場合、イオンビームIBの下端から中央に移動式のビーム電流測定器MFが移動している間はファラデーカップ4eでビーム電流を測定し、イオンビームIBの中央から上端へ移動式のビーム電流測定器MFが移動している間はファラデーカップ4aでビーム電流を測定する。このようにビーム電流の測定に利用するファラデーカップを切り替えて、ビーム電流の測定を継続する。
【0032】
放電を検出した結果、すぐにビームプロファイルの再測定を開始してもよいが、放電の発生場所や放電の要因によって、プラズマの点灯が安定しておらず、イオンビームIBの引き出しが不安定な状態が続くこともある。
この点を考慮して、ビームプロファイルの再測定を実施する場合には、再測定に先だって図6のフローチャートに示すプラズマ安定化判別方法を用いることが望ましい。
【0033】
まず、固定式のビーム電流測定器BFによるビーム電流の測定が行われる(S11)。この測定にあたって、図3のフローチャートで処理S4を実行し、ビームプロファイルの測定を途中で中止した場合には、移動式のビーム電流測定器MFを固定式のビーム電流測定器BFによるイオンビームIBのビーム電流の測定に邪魔にならない位置に移動して、固定式のビーム電流測定器BFの全測定領域を使ってビーム電流の測定を行うようにしてもよい。
【0034】
移動式のビーム電流測定器MFの移動場所は、図4図5に示すイオンビームIBの下方位置や反対側のイオンビームIBの上方位置となる。
下方位置、上方位置のいずれに移動するかは予め決定しておいてもいいが、ビームプロファイルの測定を中断したときの移動式のビーム電流測定器MFの位置に応じて、下方位置または上方位置の近い方の位置へ移動させるようにしてもよい。
【0035】
一方、固定式のビーム電流測定器BFで測定可能な測定領域の一部を用いて、ビーム電流の測定を行うようにしてもよい。例えば、図5の固定式のビーム電流測定器BFであれば、ファラデーカップの1つをビーム電流の測定に使用する。この場合、移動式のビーム電流測定器MFが固定式のビーム電流測定器BFの測定対象とするファラデーカップに入射するイオンビームIBを遮らない位置に配置されているならば、移動式のビーム電流測定器MFの位置を移動させておく必要はない。
【0036】
所定時間内に固定式のビーム電流測定器BFで測定されたビーム電流の最大値を基準として、この値から数%(ここでは5%)下回るビーム電流の測定値があるかどうかを確認する(S12)。
ここで測定値が範囲内にあるとするならば、それが所定時間(ここでは5秒間)、継続してこの範囲内にあるかどうかを確認する(S13)。例えば、測定間隔が1秒であれば、5秒間に得られた5つの測定値の全てが上述した範囲内にあれば、プラズマは安定したと判別する(S15)。一方、そうではない場合や処理S12で条件を充足しない場合には、プラズマは不安定な状態にあると判別する(S14)。
【0037】
ビームプロファイルの再測定にあたり、このようなプラズマ安定化判別方法を用いることで、正確なビームプロファイルの測定を実施することが可能となる。
なお、プラズマが不安定な状態が継続している場合には、プラズマ安定化のために装置内部を洗浄する等の対策を実施する必要がある。この点から、プラズマ安定化判別のフローチャートに、インターロック値としてプラズマ安定化判別に要した経過時間を設けておいてもよい。
【0038】
図7図8は、別のイオンビーム照射装置M2の構成例である。図1図2のイオンビーム照射装置M1との違いは、イオン源1から射出されるイオンビームIBがスポット状であることと走査器11及びビーム平行化器12を具備することにある。他の符号が共通している箇所については、図1図2で説明したものと同一であるため、これらの説明は省略する。
【0039】
イオン源1から射出されたスポット状のイオンビームIBは走査器11にて概略Y方向へ時間的に偏向量を変えながら走査される。走査されたイオンビームはビーム平行化器12でZ方向に平行なイオンビームIBに偏向される。ビーム平行化器12を通過したイオンビームIBの外形は、数秒といった長い時間でみれば、図1図2に示すリボン状のイオンビームIBと同等のものになる。
このようなイオンビームを取り扱うイオンビーム照射装置M2にも、本発明を適用することが出来る。なお、図7図8の構成において、イオンビームの長手方向はY方向をいう。
【0040】
他、イオンビーム照射装置の構成としては、これまでに述べた構成に限られない。例えば、質量分析用の電磁石やエネルギー分析用の静電レンズを備えた構成であってもよい。
【0041】
固定式のビーム電流測定器BFの測定データ(ビーム電流)は、測定ノイズの影響から変動することがある。図3のフローチャートで説明した放電検出方法では、測定ノイズによるビーム電流の変動を放電によるものと誤検知してしまうことが懸念される。
この点については、測定ノイズを都度修正することも考えられるが、それでは測定に要する時間が長期化してしまう。
そこで、図3のフローチャートに追加の処理を加えることにより、ビーム電流の変動が放電によるものかどうかを正確に判別できるようにする。具体的な処理は図9のフローチャートと図10の補足説明図を用いて説明する。
【0042】
図9のフローチャートは、図3のフローチャートの処理S3の後ろに、処理S21乃至処理S24を追加したものである。他の処理は、図3のフローチャートで説明しているため、ここでは追加された処理についてのみ説明する。
【0043】
処理S3で条件を充足していないビーム電流の測定値に対応する移動式のビーム電流測定器MFの位置を特定する(S21)。
その後、特定された移動式のビーム電流測定器MFの位置での移動式のビーム電流測定器MFによるビーム電流の測定値と前後1点の測定値(1秒単位でビーム電流を測定しているのであれば、1秒前と1秒後に測定されたビーム電流値)とを合わせた計3点の測定値の増減率が、設定範囲内(例えば、±10%)に収まるかどうかを判別する(S22)。
【0044】
図10を用いて処理S21と処理S22を具体的に説明する。
図10は、ビームプロファイルの測定時に測定されたビーム電流のデータである。左下のグラフは、移動式のビーム電流測定器MFで測定されたビーム電流のグラフで、グラフの横軸は移動式のビーム電流測定器MFの測定位置であり、グラフの縦軸は測定されたビーム電流である。左上のグラフは、固定式のビーム電流測定器BFで測定されたビーム電流のグラフで、グラフの横軸は下側のグラフの横軸と同じく移動式のビーム電流測定器MFの測定位置であり、グラフの縦軸は測定されたビーム電流である。
【0045】
左上のグラフにおいて、円で示される領域Eでのビーム電流の測定値は処理S3で所定条件を充足しない測定値である。グラフの横軸の値から、このときの移動式のビーム電流測定器MFの位置(グラフ横軸の値)を特定する。
次に、左下のグラフから、特定された横軸の値が同じ値となるときのビーム電流の測定値を読み出す。このときの測定値は左下のグラフにおいて円で示される領域Fのビーム電流である。
【0046】
左下のグラフの右側は領域Fの拡大図である。この図において、H点が対象とするビーム電流の測定値とすれば、その前後の測定値がG点、I点における測定値である。この例では、G点からH点に向けてビーム電流の測定値が12.4%減少している。また、H点からI点に向けてビーム電流の測定値が9.4%増加している。増減率の設定値を±10%とすれば、G点からH点に向けてのビーム電流の減少率は設定値を上回ることになるため、ノイズの影響を受けてビーム電流の測定値が変動したものではなく、放電により変動したものであると判別される(図9、S24)。
反対に、増減率が±10%の範囲内にあれば、放電無と判別する(図9、S23)。
放電の有無に関わらず、処理S23、処理S24ではビーム電流に変動が生じていることになるため、ビームプロファイルの再測定を実施する。
【0047】
図9の放電検出方法を用いることで、正確に放電の有無を検出することができる。これにより、ビーム電流の変動が放電によるものであることが特定できれば、放電発生の原因となりうる箇所(イオン源のチャンバや引出電極など)を洗浄する等して適切な対応を取ることができる。
【0048】
放電以外の要因によってイオンビームの状態が不安定となることで、放電時のようにビーム電流は急激に大きく変動しないものの、ある程度のビーム電流の変動が発生することもある。このような変動発生時に測定されたビームプロファイルは正確なものとは言えない。
このことから、より正確なビームプロファイルの測定を実施するために、ビームプロファイルの測定中、放電検出とは別にイオンビームの安定性を判別する処理を追加してもよい。
【0049】
具体的には、ビームプロファイルの測定中に、固定式のビーム電流測定器BFで測定されたビーム電流の値に着目する。例えば、所定期間内に測定されたビーム電流の最大値を基準値として、この基準値に対して任意の割合(例えば、5%)を下回るビーム電流の有無をもって、イオンビームが安定か不安定かを判別する。
【0050】
イオンビームのビーム電流が低いとき、測定ノイズの影響が大きくなる。このことから、イオンビームの安定性を判別する処理において、ビーム電流そのものの値を使用することに代えて、数点(例えば、10点)の測定値を移動平均した値を用いてもよい。
移動平均を用いることで、ノイズ成分の影響を少なくすることができる。
【0051】
その他、プラズマ安定化判別方法についても、図3図9の放電検出方法と同じく、図1~2、図7~8に記載のイオンビーム照射装置M1、M2の具備する制御装置Cで実施される。
【0052】
各フローや判別方法において用いられる判別基準は一例であって、別の基準を用いてもよい。例えば、放電検出にあたって、固定式のビーム電流測定器BFで測定されたビーム電流の最小値と最大値の比(min/max)を算出し、これを基準値と比較して放電の有無を判別するようにしてもよい。また、ビーム電流の比を逆転させて、ビーム電流の最大値と最小値の比(max/min)を算出し、これを基準値と比較して放電の有無を判別するようにしてもよい。
【0053】
図3図9の放電検出方法は、ビームプロファイル測定中にリアルタイムで放電検出を実施することが想定されているが、ビームプロファイル測定を終了した後に放電検出を実施するようにしてもよい。
ビームプロファイル測定後の放電検出方法にかかる処理は、図3のフローチャートでは処理S3、図9のフローチャートでは処理S3、処理S21乃至24となる。これらの処理が、ビームプロファイル測定後に実施されることになる。
【0054】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0055】
2 ターゲット
BF 固定式のビーム電流測定器
MF 移動式のビーム電流測定器
IB イオンビーム
M1、M2 イオンビーム照射装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10