(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022049676
(43)【公開日】2022-03-29
(54)【発明の名称】慢性炎症を予防および/または改善するための分子状水素含有組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 33/00 20060101AFI20220322BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220322BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20220322BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20220322BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20220322BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20220322BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20220322BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20220322BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20220322BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220322BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20220322BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20220322BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220322BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20220322BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20220322BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220322BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20220322BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20220322BHJP
A61P 25/20 20060101ALI20220322BHJP
A61P 25/04 20060101ALI20220322BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20220322BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20220322BHJP
A61P 11/14 20060101ALI20220322BHJP
A61P 7/04 20060101ALI20220322BHJP
A61P 1/12 20060101ALI20220322BHJP
A61P 1/06 20060101ALI20220322BHJP
A61P 7/06 20060101ALI20220322BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20220322BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220322BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20220322BHJP
A61K 9/72 20060101ALI20220322BHJP
【FI】
A61K33/00
A61P29/00
A61P29/00 101
A61P19/02
A61P17/00
A61P11/06
A61P1/16
A61P9/10
A61P3/06
A61P3/10
A61P35/00
A61P25/16
A61P37/08
A61P25/00
A61P11/00
A61P1/04
A61P43/00 105
A61P25/24
A61P25/28
A61P25/20
A61P25/04
A61P25/14
A61P3/02
A61P11/14
A61P7/04
A61P1/12
A61P1/06
A61P7/06
A61P3/04
A61K9/08
A61K9/12
A61K9/72
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2021138427
(22)【出願日】2021-07-20
(62)【分割の表示】P 2020200613の分割
【原出願日】2020-11-13
(31)【優先権主張番号】P 2020169432
(32)【優先日】2020-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】394021270
【氏名又は名称】MiZ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 文武
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 文平
(72)【発明者】
【氏名】市川 祐介
(72)【発明者】
【氏名】平野 伸一
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076AA24
4C076AA93
4C076BB21
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4C086AA01
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4C086NA14
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4C086ZA73
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4C086ZB11
4C086ZB13
4C086ZB15
4C086ZB21
4C086ZB26
4C086ZC21
4C086ZC33
4C086ZC35
(57)【要約】 (修正有)
【課題】慢性炎症を予防および/または改善するための組成物を提供する。
【解決手段】分子状水素を有効成分として含む、被験体において、慢性炎症、慢性炎症と関連する疾病、慢性炎症と関連する症状を予防および/または改善するための組成物。前記慢性炎症を原因とする疾病が、がん、肥満、糖尿病、脂質異常症、心筋梗塞、脳梗塞、前庭疾患、肝炎、肝硬変、アトピー性皮膚炎、喘息、関節リュウマチ、老化、認知症、アルツハイマー病、うつ病、潰瘍性大腸炎、クローン病、慢性閉塞性気道疾患、突発性肺線維症、多発性硬化症、花粉症、および、パーキンソン病からなる群から選択される疾病であることを特徴とする前記組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子状水素を有効成分として含む、被験体において、慢性炎症、慢性炎症と関連する疾病、慢性炎症と関連する症状を予防および/または改善するための組成物。
【請求項2】
前記慢性炎症を原因とする疾病が、がん、肥満、糖尿病、脂質異常症、心筋梗塞、脳梗塞、前庭疾患、肝炎、肝硬変、アトピー性皮膚炎、喘息、関節リュウマチ、老化、認知症、アルツハイマー病、うつ病、潰瘍性大腸炎、クローン病、慢性閉塞性気道疾患、突発性肺線維症、多発性硬化症、花粉症、および、パーキンソン病からなる群から選択される疾病であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記慢性炎症と関連する症状が、発赤、腫脹、熱感、疼痛の他、歩行困難、倦怠、咳、くしゃみ、呼吸困難、出血、下痢、血便、腹痛、貧血、体重の減少、捻転斜頸、ポリープの発生、不眠、および、これらの症状に伴ううつ症状からなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記分子状水素を含む液体又は気体である、請求項1から3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
前記分子状水素を含む液体が、1~10ppmの水素濃度を有する、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記分子状水素を含む気体が、ゼロ(0)より大きく、かつ18.5体積%以下の水素濃度を有する、請求項4に記載の組成物。
【請求項7】
前記被験体が、ヒトを含む哺乳動物である、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
請求項1、2、4、および、5に記載の分子状水素を有効成分として含む組成物を、マスク、カニューラ、または、水素を供給可能な部屋を用いて被験体が吸入することを特徴とする、請求項1~4、6および、7のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、被験体において、慢性炎症を予防および/または改善するための分子状水素含有組成物を提供する。
【背景技術】
炎症には慢性炎症と急性炎症がある。現代西洋医学は急性炎症が原因である疾病についての治療は可能であるものの、疾病の原因の8割とされる慢性炎症については慢性炎症のメカニズムが明らかでないため治療方法、抑制方法が確立されていない。
慢性炎症とは、本来一過性で治まるはずの炎症反応(急性炎症)が低レベルではあるものの、長期間持続して慢性化した状態のことをいう。炎症状態が持続すると、生体組織の機能や構造に異常が生じてさまざまな疾患の原因になるが、なぜ炎症が慢性化して慢性炎症となるのかそのメカニズムは不明な事が多い。
本発明の有効成分である水素は、ヒドロキシルラジカルを消去することができることが知られている(非特許文献1)。しかしながら、水素を用いた慢性炎症に対する治療効果については知られていない。
また、水素分子は高濃度では爆発性を有するため、爆発限界以下の低濃度の水素を治療や予防に用いるべきであるが、低濃度においても疾病に対して十分な予防、改善効果を示すかどうかについても十分に知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【非特許文献1】「水素分子はかなりすごい」深井有著、光文社新書 2017年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
慢性炎症を予防および/または改善することができるならば、患者の苦痛を軽減し、かつ生活の質を改善することができるだけでなく、医療費の削減にも貢献できるだろうと考えられる。上記のとおり、慢性炎症を予防および/または改善に有用な成分もしくは物質は、ほとんど知られていない。
このような状況下で、本発明の目的は、爆発限界以下の比較的低濃度の分子状水素を使用することによって慢性炎症を予防および/または改善し、及び/又は、慢性炎症と関連する症状の改善を促進することである。
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明は、以下の特徴を包含する。
(1)分子状水素を有効成分として含む、被験体において、慢性炎症と慢性炎症と関連する症状を予防および/または改善するための組成物である。
(2)前記分子状水素を含む液体又は気体である、(1)に記載の組成物である。
(3)前記分子状水素を含む液体が、1~10ppmの水素濃度を有する、(2)に記載の組成物である。
(4)前記分子状水素を含む気体が、ゼロ(0)より大きく、かつ18.5体積%以下の水素濃度を有する、(2)に記載の組成物である。
(5)前記被験体が、ヒトを含む哺乳動物である、(1)~(4)のいずれか1項に記載の組成物である。
(6)(1)、(2)、(4)、および、(5)に記載の分子状水素を有効成分として含む組成物を、マスク、カニューラ、または、水素を供給可能な部屋を用いて被験体が吸入することを特徴とする、(1)、(2)、(4)、および、(5)のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の効果】
本発明は、被験体において、慢性炎症を予防および/または改善するとともに、被験体に効率よく分子状水素を供給する手段を提供することである。
【発明を実施するための形態】
本発明をさらに詳細に説明する。
1.慢性炎症を予防および/または改善するための組成物
本発明は、分子状水素を有効成分として含む、被験体において、慢性炎症と慢性炎症と関連する症状を予防および/または改善するための組成物を提供する。
本明細書中「慢性炎症」とは、本来一過性で治まるはずの炎症反応が長期間持続して慢性化した状態、または、組織異常が解消されているのにもかかわらず炎症物質、細胞などの活動が収束しない状態のことをいい、免疫系の破綻を原因とするもの、原因が不明な炎症を含む。臨床的には長期間とは少なくとも1週間以上のことをいう。
本明細書中「急性炎症」とは、慢性炎症とは病態が異なる炎症として明確に区別されるものであり、生体内に異常が生じた時、その初期、あるいは軽微な異常に対処するために生じる反応のことをいう。急性炎症の原因として、虚血再灌流障害、医薬品の副作用、やけど、怪我、捻挫、骨折、脱毛、ウイルスや微生物などによる感染、紫外線や放射線の暴露、喫煙、激しい運動、などを含み、マウスやラットの動物実験等において、例えば、デキストラン硫酸などの薬品によって炎症誘発させた炎症モデル動物は急性炎症に分類される。
本明細書中「慢性炎症を原因とする疾病」とは、がん、肥満、糖尿病、脂質異常症、心筋梗塞、脳梗塞、前庭疾患、肝炎、肝硬変、アトピー性皮膚炎、喘息、関節リュウマチ、老化、認知症、アルツハイマー病、うつ病、潰瘍性大腸炎、クローン病、慢性閉塞性気道疾患、突発性肺線維症、多発性硬化症、花粉症、パーキンソン病などを含む。
本明細書中「慢性炎症と関連する症状」という用語は、慢性炎症に伴う症状のことをいう。そのような症状としては、例えば、発赤、腫脹、熱感、疼痛の他、歩行困難、倦怠、咳、くしゃみ、呼吸困難、出血、下痢、血便、腹痛、貧血、体重の減少、捻転斜頸、ポリープの発生、および、不眠、これらの症状に伴ううつ症状を含むが、無症状の慢性炎症も本明細書に記載の発明に含まれる。
本明細書中「被験体」という用語は、哺乳動物、例えば、ヒトを含む霊長類、イヌ、ネコなどのペット動物、動物園などの観賞用動物などを含む。好ましい被験体はヒトである。
本明細書中、本発明の組成物の有効成分である「水素」は分子状水素(すなわち、気体状水素もしくは水素ガス)であり、特に断らない限り、単に「水素」又は「水素ガス」と称する。また、本明細書中で使用する用語「水素」は、分子式でH2、D2(重水素)、HD(重水素化水素)、又はそれらの混合ガスを指す。D2は、高価であるが、H2よりスーパーオキシド消去作用が強いことが知られている。本発明で使用可能な水素は、H2、D2(重水素)、HD(重水素化水素)、又はそれらの混合ガスであり、好ましくはH2であり、或いはH2に代えて、又はH2と混合して、D2及び/又はHDを使用してもよい。
本発明の組成物の好ましい形態は、分子状水素を含む気体又は液体であり、好ましくは分子状水素を含む気体である。
分子状水素を含む気体は、好ましくは、水素ガスを含む空気又は、水素ガスと酸素ガスを含む混合ガスである。分子状水素を含む気体の水素ガスの濃度は、ゼロ(0)より大きく、かつ18.5体積%以下、例えば0.5~18.5体積%であり、好ましくは1~10体積%、例えば2~8体積%、2~9体積%、2~10体積%、3~6体積%、3~7体積%、3~8体積%、3~9体積%、3~10体積%、4~5体積%、4~6体積%、4~7体積%、4~8体積%、4~9体積%、4~10体積%、、5~8体積%、5~9体積%、5~10体積%、6~7体積%、6~8体積%、6~9体積%、6~10体積%などである。本発明では、爆発限界以下で水素ガス濃度が高いほど、或いは1日あたりの水素投与量が高いほど、ヒトまたは前記動物の疾病を予防または改善する効果が高い傾向がある。
水素は可燃性かつ爆発性ガスであり、18.5%以上の水素濃度の水素ガスは爆発だけでなく、爆轟も伴うために使用を避けるべきである。したがって、慢性炎症を予防および/または改善するにおいては、ヒトなどの被験体に安全な条件で本発明の組成物に水素を含有させて被験体に投与することが好ましい。
水素ガス以外の気体が空気であるときには、空気の濃度は、例えば81.5~99.5体積%の範囲である。水素ガス以外の気体が酸素ガスを含む気体であるときには、酸素ガスの濃度は、例えば21~99.5体積%の範囲である。その他の主気体として例えば窒素ガスをさらに含有させることができる。
本願発明者は本出願の出願日の後に学術誌Medical Gas Researchにおいて公開されるコメント論文において、被験体が吸入する水素ガスの量について、大量の水素を吸入することで疾病を改善させる「メガ水素療法」を提唱している。同論文において、本願発明者は、水素はミトコンドリア内部のヒドロキシルラジカルを消去し抗炎症作用を示すことについても主張している。本願発明者が提唱する「メガ水素療法」は、ライナス・ポーリングが「メガビタミン療法」では成し遂げることができなかった医療革命を実現するものとなるだろう。
分子状水素を含む液体は、具体的には、水素ガスを溶存させた水性液体であり、ここで、水性液体は、非限定的に、例えば水(例えば精製水、滅菌水)、生理食塩水、緩衝液(例えばpH4~7.4の緩衝液)、点滴液、輸液、注射溶液、飲料(例えば、緑茶、紅茶などの茶飲料、果汁、青汁、野菜ジュース、など)などである。分子状水素を含む液体の水素濃度は、非限定的に、例えば1~10ppm、好ましくは1.2~9ppm、例えば1.5~9ppm、1.5~8ppm、1.5~7ppm、1.5~6ppm、1.5~5ppm、1.5~4ppm、2~10ppm、2~9ppm、2~8ppm、2~7ppm、2~6ppm、2~5ppm、3~10ppm、3~9ppm、3~8ppm、3~7ppm、4~10ppm、4~9ppm、4~8ppm、4~7ppm、5~10ppm、5~9ppm、5~8ppm、5~7ppmなどである。
本発明では、爆発限界以下で溶存する水素濃度が高いほど、或いは1日あたりの水素投与量が高いほど、慢性炎症を予防および/または改善する効果が大きい傾向がある。
分子状水素を含む気体又は液体は、所定の水素ガス濃度になるように配合されたのち、例えば耐圧性の容器(例えば、ステンレスボンベ、アルミ缶、好ましくは内側をアルミフィルムでラミネーションした、耐圧性プラスチックボトル(例えば耐圧性ペットボトル)及びプラスチックバッグ、アルミバッグ、等)に充填される。アルミは水素分子を透過させ難いという性質を有している。或いは、分子状水素を含む気体又は分子状水素を含む液体は、投与時に、水素ガス生成装置、水素水生成装置、又は水素ガス添加装置、例えば、公知のもしくは市販の水素ガス供給装置(分子状水素を含む気体の生成用装置)、水素添加器具(水素水生成用装置)、非破壊的水素含有器(例えば点滴液などの生体適用液バッグ内部へ非破壊的に水素ガスを添加するための装置)などの装置を用いてその場で作製されてもよい。
水素ガス供給装置は、水素発生剤(例えば金属アルミニウム、水素化マグネシウム、等)と水の反応により発生する水素ガスを、希釈用ガス(例えば空気、酸素、等)と所定の比率で混合することを可能にする(日本国特許第5228142号公報、等)。あるいは、水の電気分解を利用して発生した水素ガスを、酸素、空気などの希釈用ガスと混合する(日本国特許第5502973号公報、日本国特許第5900688号公報、等)。これによって、例えば0.5~18.5体積%の範囲内の水素濃度の分子状水素を含む気体を調製することができる。
水素添加器具は、水素発生剤とpH調整剤を用いて水素を発生し、水などの生体適用液に溶存させる装置である(日本国特許第4756102号公報、日本国特許第4652479号公報、日本国特許第4950352号公報、日本国特許第6159462号公報、日本国特許第6170605号公報、特開2017-104842号公報、等)。水素発生剤とpH調整剤の組み合わせは、例えば、金属マグネシウムと強酸性イオン交換樹脂もしくは有機酸(例えばリンゴ酸、クエン酸、等)、金属アルミニウム末と水酸化カルシウム粉末、などである。これによって、例えば1~10ppm程度の溶存水素濃度の分子状水素を含む液体を調製できる。
非破壊的水素含有器は、点滴液などの市販の生体適用液(例えば、ポリエチレン製バッグなどの水素透過性プラスチックバッグに封入されている。)に水素ガスをパッケージの外側から添加する装置又は器具であり、例えばMiZ(株)から市販されている(http://www.e-miz.co.jp/technology.html)。この装置は、生体適用液を含むバッグを飽和水素水に浸漬することによってバッグ内に水素を透過し濃度平衡に達するまで無菌的に水素を生体適用液に溶解させることができる。当該装置は、例えば電解槽と水槽から構成され、水槽内の水が電解槽と水槽を循環し電解により水素を生成することができる。或いは、簡易型の使い捨て器具は同様の目的で使用することができる(特開2016-112562号公報、等)。この器具は、アルミバッグの中に生体適用液含有プラスチックバッグ(水素透過性バッグ、例えばポリエチレン製バッグ)と水素発生剤(例えば、金属カルシウム、金属マグネシウム/陽イオン交換樹脂、等)を内蔵しており、水素発生剤は例えば不織布(例えば水蒸気透過性不織布)に包まれている。不織布に包まれた水素発生剤を水蒸気などの少量の水で濡らすことによって発生した水素が生体適用液に非破壊的かつ無菌的に溶解される。
或いは、精製水素ガスボンベ、精製酸素ガスボンベもしくは精製空気ボンベを用意し、所定の水素濃度、所定の酸素もしくは空気濃度になるように調整した分子状水素を含む気体や液体を作製してもよい。
上記の装置又は器具を用いて調製された、分子状水素を含む気体や分子状水素を含む液体(例えば水(例えば精製水、滅菌水)、生理食塩水、点滴液、等)は、慢性炎症の被験体に、手術の前、手術の間、手術の後に、経口的に又は非経口的に投与されうる。
本発明の組成物の別の形態には、被験体に経口投与(もしくは摂取)するように調製された、消化管内で水素の発生を可能にする水素発生剤を含有する剤型(例えば、錠剤、カプセル剤、等)が含まれる。水素発生剤は、例えば食品もしくは食品添加物として承認されている成分によって構成されることが好ましい。
本発明の組成物を被験体に投与する方法としては、分子状水素を有効成分とするとき、例えば吸入、吸引等による投与、例えば経肺投与が好ましい、また、分子状水素を含む液体を有効成分とするとき経口投与又は静脈内投与(点滴を含む)が好ましい。ガスを吸入するときには、鼻カニューラや、口と鼻を覆うマスク型の器具、チャンバーなど水素を供給可能な部屋を介して口又は鼻からガスを吸入して肺に送り、血液を介して全身に送達することができる。
経口投与する分子状水素を含む液体については、冷却した液体又は常温で保存した液体を被験体に投与してもよい。水素は常温常圧下で約1.6ppm(1.6mg/L)の濃度で水に溶解し、温度による溶解度差が比較的小さいことが知られている。或いは、分子状水素を含む液体は、例えば上記の非破壊的水素含有器を用いて調製された水素ガスを含有させた点滴液又は注射液の形態であるときには、静脈内投与、動脈内投与などの非経口投与経路によって被験体に投与してもよい。
上記水素濃度の分子状水素を含む気体又は上記溶存水素濃度の分子状水素を含む液体を1日あたり1回又は複数回(例えば2~3回)、1週間~3か月又はそれ以上の期間、例えば1週間~6か月又はそれ以上(例えば、1年以上、2年以上、など)にわたりヒトに投与することができる。分子状水素を含む気体が投与されるときには、1回あたり少なくとも30分吸入することが好ましい。吸入時間は長いほど改善効果があることから、例えば、30分から1時間、1時間から2時間、2時間から3時間、もしくはそれ以上かけて投与することができる。また、分子状水素を含む気体を吸入又は吸引によって経肺投与するときには、大気圧環境下で、或いは、例えば標準大気圧(約1.013気圧をいう。)を超える且つ7.0気圧以下の範囲内の高気圧、例えば1.02~7.0気圧、好ましくは1.02~5.0気圧、より好ましくは1.02~4.0気圧、さらに好ましくは1.02~1.35気圧の範囲内の高気圧環境下(分子状水素含有気体を含む)で被験体に当該気体を投与することができる。
2.慢性炎症を予防および/または改善するための方法
本発明はさらに、上記の分子状水素を有効成分として含む組成物を、慢性炎症の被験体において、手術の侵襲からの、及び/又は、手術と関連する症状からの回復又は改善を促進するための方法を提供する。
分子状水素を含む組成物、慢性炎症、慢性炎症と関連する症状、投与量、投与方法、などについては、上記1.で説明したとおりである。
本発明の方法では、被験体に、ゼロ(0)より大きく、かつ18.5体積%以下、例えば0.5~18,5体積%、2~10体積%、2~9体積%、2~8体積%、3~10体積%、3~9体積%、3~8体積%、3~7体積%、3~6体積%、4~10体積%、4~9体積%、4~8体積%、4~7体積%、4~6体積%、4~5体積%、5~10体積%、5~9体積%、5~8体積%、6~10体積%、6~9体積%、6~8体積%、6~7体積%など、好ましくは5~10体積%、5~8体積%、例えば6~10体積%、6~8体積%、6~7体積%など、の分子状水素を含有する気体(好ましくは、空気もしくは酸素)を1日あたり例えば1~3時間もしくはそれ以上にわたり吸入又は吸引し、例えば1~3か月もしくはそれ以上、4~7か月もしくはそれ以上、1~3年もしくはそれ以上継続することができる。
或いは、本発明の方法では、被験体に、例えば1~10ppm、1.5~9ppm、1.5~8ppm、1.5~7ppm、1.5~6ppm、1.5~5ppm、1.5~4ppm、2~10ppm、2~9ppm、2~8ppm、2~7ppm、2~6ppm、2~5ppm、3~10ppm、3~9ppm、3~8ppm、3~7ppm、4~10ppm、4~9ppm、4~8ppm、4~7ppm、5~10ppm、5~9ppm、5~8ppm、5~7ppmなど、好ましくは3~10ppm、4~10ppm、5~10ppm、5~9ppm、5~8ppm、5~7ppmなど、の分子状水素含有液体を、静脈内投与の場合1回あたり例えば200~500mL、また経口投与の場合1回あたり例えば500~1000mLを投与し、例えば0.5~3か月もしくはそれ以上、4~7か月もしくはそれ以上、1~3年もしくはそれ以上継続することができる。
本発明の方法はさらに、必要に応じて、慢性炎症の治療に用いられる治療薬を併用してもよい。併用することによって、慢性炎症を予防および/または改善が高まることが期待される。
【実施例
】
以下の実施例を参照しながら本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は当該実施例によって制限されないものとする。
【実施例1】
<水素吸入による慢性炎症の症例>
13歳のミニチュア・シュナウザーは、右捻転傾斜を認めたが、時間と共に症状が消失した。しがし、4か月後に再び右捻転斜頸と起立困難の症状が現れ、フローリングで足を滑らせる動作が目立つようになった。通常、特発性前庭疾患は突発性(急性)であれば、数日で症状が安定し、数週間で徐々に回復していく傾向があるが、ミニチュア・シュナウザーは経過観察をするも改善は見られなかった。神経学的検査の結果、小脳梗塞に起因した慢性的炎症が生じ、その結果として特発性前庭症候群の症状が現われたと獣医師は診断した。漢方薬の他、ビタミンC等の抗酸化作用を有するビタミン剤を用いた治療を施すも慢性炎症に起因する症状の改善が見られなかった。したがって、ミニチュア・シュナウザーの慢性炎症の原因は酸化ストレス以外に起因するものであると考えられた。症状の改善が見られなかったことに悲観した飼い主は安楽死を希望した。安楽死の前に獣医師は水素ガス吸入療法を提案し実施した。MiZ株式会社製の水素ガス吸入機(タイプMHG2000-α、水素濃度約6.0~7.0%、水素ガス発生量約120ml/min)から発生した水素ガスを導入したチャンバー内でミニチュア・シュナウザーを1日あたり24時間飼育した。水素を導入したチャンバーで飼育開始から5日目にミニチュア・シュナウザーは起立可能となった。慢性炎症の所見も改善してきたため、8日目に退院した。その後、自宅で経過観察を行ったが、徐々に右捻転斜頸も改善し、退院から2か月後には、慢性炎症の所見はまったくみられず、走ることができるまで回復したことから、獣医師は水素ガス吸入による慢性炎症の抑制によって特発性前提疾患が改善したと診断した。
【実施例2】
<水素吸入による慢性炎症の症例>
LDLコレステロールの値が高く脳内の慢性炎症を原因とする小脳の脳梗塞を起こしたチワワに対し、抗酸化剤の投与による治療を施したが改善の傾向が見られなかった。獣医師の提案によりMiZ株式会社製の水素ガス吸入機(タイプJobs-α、水素濃度約4.0~5.0%、水素ガス発生量約200ml/min)を用いて犬用の鼻カニューラを用いて水素を1日に12時間吸入させたところ8日目に起立可能になり、14日目には歩行可能となり退院することができた。同様の効果は他の1匹の犬でも確認できた。
【実施例3】
<水素吸入による慢性炎症の症例3>
尿素窒素やクレアチニン値が高く、腎臓の慢性炎症を原因とした慢性腎臓病の猫に抗酸化作用を有するビタミン剤の投与を行ったが改善が見られなかった。MiZ株式会社製の水素ガス吸入機(タイプJobs-mini、水素濃度約1.0~2.0%、水素ガス発生量約30ml/min)1日24時間、7日間の水素ガス吸入を行ったところクレアチニンの値が改善した。さらに1週間の吸入を行い退院できるようになった。退院後、1日または2日おきに1.0ppmの水素を含む生理食塩水の点滴をしたところ尿素窒素やクレアチニン値が正常値まで戻った。また、腎臓の腫れも引き炎症が改善していることを確認した。
【実施例4】
<水素吸入による慢性炎症の症例4>
慢性肝炎が原因の肝不全を起こした犬に対してMiZ株式会社製の水素ガス吸入機(タイプJobs-α、水素濃度約4.0~5.0%、水素ガス発生量約200ml/min)を用いて1日24時間、14日間水素ガスの吸入を行ったところ、肝炎のマーカーが減少した。
【実施例5】
<水素吸入による慢性炎症の症例5>
犬のガンにより生じた慢性炎症に由来する腫れがMiZ株式会社製の水素ガス吸入機(タイプJobs-α、水素濃度約4.0~5.0%、水素ガス発生量約200ml/min)による水素ガスの吸入(1日6時間、12日間)行ったところ腫れがひき、食欲ももどりQOLが改善した。
【実施例6】
<水素吸入による慢性炎症の症例6>
動脈硬化によって心臓に慢性炎症が生じ僧帽弁不全により心不全を起こした犬に対し、MiZ株式会社製の水素ガス吸入機(タイプJobs-α、水素濃度約4.0~5.0%、水素ガス発生量約200ml/min)を用いて1日24時間、14日間水素ガスの吸入を行ったところ慢性炎症が軽減し、手術をおこなわなくとも退院できるまでに回復した。
【実施例7】
パーキンソン病と診断された患者は血液検査の結果炎症マーカーであるCRP(C反応タンパク質)の値が1.5mg/dLと基準値を超えていた(2020年10月23日)。CRPの正常値は、0.0~0.4mg/dLである。10月24日よりMiZ株式会社製の水素ガス吸入機(タイプJobs-α、水素濃度約4.0~5.0%、水素ガス発生量約200ml/min)を用いて1日3時間の吸入を開始したところ、同年11月2日の血液検査でCRPの値が0.2mg/dLまで下がった。
【産業上の利用可能性】
本発明により、分子状水素を含む組成物を投与することによって、慢性炎症を予防および/または改善が可能である。