(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022049691
(43)【公開日】2022-03-29
(54)【発明の名称】異常検出装置、プログラム、異常検出方法、及び情報処理装置
(51)【国際特許分類】
E05F 15/632 20150101AFI20220322BHJP
B61D 19/02 20060101ALI20220322BHJP
【FI】
E05F15/632
B61D19/02 U
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021151062
(22)【出願日】2021-09-16
(31)【優先権主張番号】P 2020155768
(32)【優先日】2020-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100103263
【弁理士】
【氏名又は名称】川崎 康
(72)【発明者】
【氏名】木上 昭吾
【テーマコード(参考)】
2E052
【Fターム(参考)】
2E052AA09
2E052CA06
2E052DA08
2E052DB08
2E052EA15
2E052EB01
2E052EC03
2E052GB15
2E052GB18
2E052KA25
(57)【要約】
【課題】回転体の異常を簡易かつ精度よく検出する。
【解決手段】アクチュエータで発生された動力を伝達してドアを開閉させる回転体の異常検出装置は、前記ドアの開動作又は閉動作の少なくとも一方に関連するドア動作信号を前記ドアの移動中に取得する取得部と、ドア動作信号に前記回転体の回転周期に応じた周期成分が含まれるか否かを判定する判定部と、を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクチュエータで発生された動力を伝達してドアを開閉させる回転体の異常検出装置であって、
前記ドアの開動作又は閉動作の少なくとも一方に関連するドア動作信号を前記ドアの移動中に取得する取得部と、
前記ドア動作信号に前記回転体の回転周期に応じた周期成分が含まれるか否かを判定する判定部と、を備える、異常検出装置。
【請求項2】
前記アクチュエータは、前記ドアを駆動するモータを含み、
前記ドア動作信号は、前記モータを流れる電流、前記ドアの開閉速度、及び前記ドアの振動の少なくとも一つを含む信号である、請求項1に記載の異常検出装置。
【請求項3】
回転半径の異なる複数の前記回転体が設けられており、
前記ドア動作信号に前記周期成分が含まれると前記判定部が判定した場合に、前記複数の回転体の回転半径に基づいて、前記複数の回転体のうちのどの回転体の前記周期成分であるかを特定する特定部を備える、請求項1又は2に記載の異常検出装置。
【請求項4】
前記特定部は、前記複数の回転体の回転半径、前記ドアの速度指令、前記複数の回転体周辺の温度、前記ドアの動作累計時間、及び前記ドアの開閉動作回数の少なくとも一つに基づいて、前記複数の回転体のうちのどの回転体の前記周期成分であるかを特定する、請求項3に記載の異常検出装置。
【請求項5】
前記回転体の回転周期に関する情報を記憶する第1記憶部を備え、
前記特定部は、前記ドア動作信号に前記周期成分が含まれると前記判定部が判定した場合に、前記第1記憶部に記憶された情報を参照して、前記回転体を特定する、請求項3又は4に記載の異常検出装置。
【請求項6】
前記判定部は、前記回転体に異常がない時の前記開動作又は前記閉動作の少なくとも一方に関連する基準信号と前記ドア動作信号とを比較した結果に基づいて前記ドア動作信号に前記周期成分が含まれるか否かを判定する、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の異常検出装置。
【請求項7】
前記判定部は、前記ドア動作信号と前記基準信号との差分信号に前記周期成分が含まれるか否かを判定する、請求項6に記載の異常検出装置。
【請求項8】
前記基準信号を記憶する第2記憶部と、
前記判定部は、前記第2記憶部に記憶された前記基準信号を参照して、前記ドア動作信号に前記周期成分が含まれるか否かを判定する、請求項6又は7に記載の異常検出装置。
【請求項9】
前記判定部は、前記ドアが一定の速度で移動している期間内において、前記ドア動作信号と前記基準信号とを比較して、前記ドア動作信号が前記周期成分を含むか否かを判定する、請求項6乃至8のいずれか一項に記載の異常検出装置。
【請求項10】
前記判定部は、前記ドア動作信号の信号レベルが一定の期間内において、前記ドア動作信号と前記基準信号とを比較して、前記ドア動作信号が前記周期成分を含むか否かを判定する、請求項6乃至8のいずれか一項に記載の異常検出装置。
【請求項11】
前記ドア動作信号は、前記ドアの速度信号を含んでおり、
前記判定部は、前記速度信号の信号レベルが一定である前記ドアの定速域期間内において、前記ドア動作信号と前記基準信号とを比較して、前記ドア動作信号が前記周期成分を含むか否かを判定する、請求項9又は10に記載の異常検出装置。
【請求項12】
前記判定部は、前記ドアが一定の加速度で移動している期間内において、前記ドア動作信号と前記基準信号との差分信号に対して前記一定の加速度による補正を行った後の信号に前記周期成分が含まれるか否かを判定する、請求項6乃至8のいずれか一項に記載の異常検出装置。
【請求項13】
前記ドアの速度指令、前記回転体周辺の温度、前記ドアの動作累計時間、及び前記ドアの開閉動作回数の少なくとも一つに基づいて、前記基準信号を生成する第1生成部を備える、請求項6乃至12のいずれか一項に記載の異常検出装置。
【請求項14】
前記判定部は、前記ドア動作信号と前記基準信号との差分信号が閾値を超えたときに、前記ドア動作信号が前記周期成分を含むか否かを判定する、請求項6乃至13のいずれか一項に記載の異常検出装置。
【請求項15】
前記ドア動作信号と前記基準信号との前記差分信号は、時系列信号であり、
前記判定部は、前記差分信号をフーリエ変換処理にて周波数系列信号に変換し、前記周波数系列信号が前記閾値を超えたときの周波数に対応する前記周期成分を前記ドア動作信号が含むか否かを判定する、請求項14に記載の異常検出装置。
【請求項16】
前記ドアの設置直後又は保守終了直後に前記ドアを開閉させて前記基準信号を生成する第2生成部を備える、請求項6乃至15のいずれか一項に記載の異常検出装置。
【請求項17】
前記取得部は、電源起動後又は再起動後の最初の前記ドアの開閉時に前記ドア動作信号を取得する、請求項1乃至16のいずれか一項に記載の異常検出装置。
【請求項18】
前記ドア動作信号に前記周期成分が含まれると前記判定部が判定したことを出力する出力部を備える、請求項1乃至17のいずれか一項に記載の異常検出装置。
【請求項19】
アクチュエータで発生された動力をドアに伝達する回転体の異常検出を行うプログラムであって、
コンピュータに、
前記ドアの開動作又は閉動作の少なくとも一方に関連するドア動作信号を取得する手順と、
前記ドア動作信号と基準信号とに基づいて、前記ドア動作信号に前記回転体の回転周期に応じた周期成分が含まれるか否かを判定する手順とを実行させるためのプログラム。
【請求項20】
アクチュエータで発生された動力をドアに伝達する回転体の異常検出方法であって、
前記ドアの開動作又は閉動作の少なくとも一方に関連するドア動作信号を取得し、
前記ドア動作信号と基準信号とに基づいて、前記ドア動作信号に前記回転体の回転周期に応じた周期成分が含まれるか否かを判定する異常検出方法。
【請求項21】
アクチュエータで発生された動力をドアに伝達する回転体の異常検出を行う情報処理装置であって、
前記ドアの開動作又は閉動作の少なくとも一方に関連するドア動作信号を受信する受信部と、
前記ドア動作信号と基準信号とに基づいて、前記ドア動作信号に前記回転体の回転周期に応じた周期成分が含まれるか否かを判定する判定部と、を備える、情報処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施形態は、異常検出装置、プログラム、異常検出方法、及び情報処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動ドアは、戸車やピニオンギアなどの複数の回転体からなる機構部品を備えている。回転体には、戸車のようにレール上を移動するものや、ピニオンギアのように歯が別の回転体の歯に噛み合って回転するものがある。戸車では、レールとの接触面が摩耗すると、従前通りスムーズに回転しなくなるおそれがある。また、ピニオンギアのような歯車では、歯が破損して、別の歯車と噛み合わなくなり、回転力が低下してしまうおそれがある。このように、回転体は、経年劣化等により破損や摩耗などが生じるため、必要に応じて部品を交換する等の保守作業を行う必要がある。
【0003】
回転体が破損したり摩耗すると、回転力が正常に伝達されなくなることから、ドアの速度やモータ電流等が変化することがある。そこで、ドアの速度やモータ電流などを監視して、所定の閾値を超えると何らかの異常が起こったと判断して保守作業を促す装置が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、自動ドアには、複数の回転体が用いられており、各回転体が破損や摩耗を起こしているかどうかを確認することは容易ではなく、回転体を内蔵する機構部品を取り外して分解しない限り、回転体の状態は把握できない。このため、回転体が要因で自動ドアの動作に異常が起きたときに、その原因の特定に時間がかかるという問題がある。
【0006】
そこで、本発明の一実施形態では、回転体の異常を簡易かつ精度よく検出可能な異常検出装置、プログラム、異常検出方法、及び情報処理装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一実施形態によれば、アクチュエータで発生された動力を伝達してドアを開閉させる回転体の異常検出装置であって、
前記ドアの開動作又は閉動作の少なくとも一方に関連するドア動作信号を前記ドアの移動中に取得する取得部と、
前記ドア動作信号に前記回転体の回転周期に応じた周期成分が含まれるか否かを判定する判定部と、を備える、異常検出装置が提供される。
【0008】
前記アクチュエータは、前記ドアを駆動するモータを含み、
前記ドア動作信号は、前記モータを流れる電流、前記ドアの開閉速度、及び前記ドアの振動の少なくとも一つを含む信号であってもよい。
【0009】
回転半径の異なる複数の前記回転体が設けられており、
前記ドア動作信号に前記周期成分が含まれると前記判定部が判定した場合に、前記複数の回転体の回転半径に基づいて、前記複数の回転体のうちのどの回転体の前記周期成分であるかを特定する特定部を備えてもよい。
【0010】
前記特定部は、前記複数の回転体の回転半径、前記ドアの速度指令、前記複数の回転体周辺の温度、前記ドアの動作累計時間、及び前記ドアの開閉動作回数の少なくとも一つに基づいて、前記複数の回転体のうちのどの回転体の前記周期成分であるかを特定してもよい。
【0011】
前記回転体の回転周期に関する情報を記憶する第1記憶部を備え、
前記特定部は、前記ドア動作信号に前記周期成分が含まれると前記判定部が判定した場合に、前記第1記憶部に記憶された情報を参照して、前記回転体を特定してもよい。
【0012】
前記判定部は、前記回転体に異常がない時の前記開動作又は前記閉動作の少なくとも一方に関連する基準信号と前記ドア動作信号とを比較した結果に基づいて前記ドア動作信号に前記周期成分が含まれるか否かを判定してもよい。
【0013】
前記判定部は、前記ドア動作信号と前記基準信号との差分信号に前記周期成分が含まれるか否かを判定してもよい。
【0014】
前記基準信号を記憶する第2記憶部と、
前記判定部は、前記第2記憶部に記憶された前記基準信号を参照して、前記ドア動作信号に前記周期成分が含まれるか否かを判定してもよい。
【0015】
前記判定部は、前記ドアが一定の速度で移動している期間内において、前記ドア動作信号と前記基準信号とを比較して、前記ドア動作信号が前記周期成分を含むか否かを判定してもよい。
【0016】
前記判定部は、前記ドア動作信号の信号レベルが一定の期間内において、前記ドア動作信号と前記基準信号とを比較して、前記ドア動作信号が前記周期成分を含むか否かを判定してもよい。
【0017】
前記ドア動作信号は、前記ドアの速度信号を含んでおり、
前記判定部は、前記速度信号の信号レベルが一定である前記ドアの定速域期間内において、前記ドア動作信号と前記基準信号とを比較して、前記ドア動作信号が前記周期成分を含むか否かを判定してもよい。
【0018】
前記判定部は、前記ドアが一定の加速度で移動している期間内において、前記ドア動作信号と前記基準信号との差分信号に対して前記一定の加速度による補正を行った後の信号に前記周期成分が含まれるか否かを判定してもよい。
【0019】
前記ドアの速度指令、前記回転体周辺の温度、前記ドアの動作累計時間、及び前記ドアの開閉動作回数の少なくとも一つに基づいて、前記基準信号を生成する第1生成部を備えてもよい。
【0020】
前記判定部は、前記ドア動作信号と前記基準信号との差分信号が閾値を超えたときに、前記ドア動作信号が前記周期成分を含むか否かを判定してもよい。
【0021】
前記ドア動作信号と前記基準信号との前記差分信号は、時系列信号であり、
前記判定部は、前記差分信号をフーリエ変換処理にて周波数系列信号に変換し、前記周波数系列信号が前記閾値を超えたときの周波数に対応する前記周期成分を前記ドア動作信号が含むか否かを判定してもよい。
【0022】
前記ドアの設置直後又は保守終了直後に前記ドアを開閉させて前記基準信号を生成する第2生成部を備えてもよい。
【0023】
前記取得部は、電源起動後又は再起動後の最初の前記ドアの開閉時に前記ドア動作信号を取得してもよい。
【0024】
前記ドア動作信号に前記周期成分が含まれると前記判定部が判定したことを出力する出力部を備えてもよい。
【0025】
本発明の他の一態様では、アクチュエータで発生された動力をドアに伝達する回転体の異常検出を行うプログラムであって、
コンピュータに、
前記ドアの開動作又は閉動作の少なくとも一方に関連するドア動作信号を取得する手順と、
前記ドア動作信号と基準信号とに基づいて、前記ドア動作信号に前記回転体の回転周期に応じた周期成分が含まれるか否かを判定する手順とを実行させるためのプログラム。
【0026】
本発明の他の一態様では、アクチュエータで発生された動力をドアに伝達する回転体の異常検出方法であって、
前記ドアの開動作又は閉動作の少なくとも一方に関連するドア動作信号を取得し、
前記ドア動作信号と基準信号とに基づいて、前記ドア動作信号に前記回転体の回転周期に応じた周期成分が含まれるか否かを判定する異常検出方法が提供される。
【0027】
本発明の他の一態様では、アクチュエータで発生された動力をドアに伝達する回転体の異常検出を行う情報処理装置であって、
前記ドアの開動作又は閉動作の少なくとも一方に関連するドア動作信号を受信する受信部と、
前記ドア動作信号と基準信号とに基づいて、前記ドア動作信号に前記回転体の回転周期に応じた周期成分が含まれるか否かを判定する判定部と、を備える、情報処理装置が提供される。
【発明の効果】
【0028】
本発明の一態様によれば、回転体の異常を簡易かつ精度よく検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】一実施形態による異常検出装置を内蔵した電気式ドア装置の外観図。
【
図3】
図1の電気式ドア装置の制御系の概略構成を示すブロック図。
【
図4】異常検出装置の内部構成の一例を示すブロック図。
【
図5A】取得部が取得するドア動作信号の一例を示す信号波形図。
【
図6A】異常信号を含む差分信号の一例を示す信号波形図。
【
図6B】異常信号を含まない差分信号の一例を示す信号波形図。
【
図7】本実施形態による異常検出装置の処理動作の一例を示すフローチャート。
【
図8】電気式ドア装置を備えた情報処理装置の概略構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照して、異常検出装置、プログラム、異常検出方法、及び情報処理装置の実施形態について説明する。以下では、異常検出装置、プログラム、異常検出方法、及び情報処理装置の主要な構成部分を中心に説明するが、異常検出装置、プログラム、異常検出方法、及び情報処理装置には、図示又は説明されていない構成部分や機能が存在しうる。以下の説明は、図示又は説明されていない構成部分や機能を除外するものではない。
【0031】
図1は一実施形態による異常検出装置1を内蔵した電気式ドア装置2の外観図である。
図1の電気式ドア装置2は、鉄道車両に搭載されるものである。なお、本実施形態による電気式ドア装置2は、鉄道車両以外の用途に幅広く用いることができる。例えば、本実施形態による電気式ドア装置2は、乗物や建物、施設の自動ドア装置の他、家屋のホームドアなどにも適用可能である。以下では、本明細書では主に鉄道車両に搭載される電気式ドア装置2について説明する。
【0032】
図1の電気式ドア装置2は、引き戸である一対のドアリーフ3R、3Lを備えている。ドアリーフ3R、3Lは図示の左右方向に移動可能とされている。ドアリーフ3R、3Lの上方には、ガイドレール4と、右側のドアリーフ3Rを支持する戸吊装置5Rと、左側のドアリーフ3Lを支持する戸吊装置5Lとが配置されている。
【0033】
戸吊装置5Rとドアリーフ3Rは、ガイドレール4に沿って一体に移動自在とされている。また、戸吊装置5Lとドアリーフ3Lは、ガイドレール4に沿って一体に移動自在とされている。本明細書では、一対のドアリーフ3R、3Lの少なくとも一方を単にドアと呼ぶことがある。
【0034】
戸吊装置5R、5Lの内部には、
図1に破線で示すように、複数の戸車6が設けられている。各戸車6は、ガイドレール4の上面又は下面に接触しながら転動する。
【0035】
各ドアリーフ3R、3Lの戸先には、軟質の合成ゴム材料で形成された戸先ゴム7が取り付けられている。一対のドアリーフ3R,3Lを全閉すると、戸先ゴム7同士が互いに接触し、接触した状態で戸先ゴム7同士がある程度まで収縮してからドアリーフ3R、3Lが停止するようになっている。
【0036】
ガイドレール4の上方には、ガイドレール4の延びる方向に沿って右用ラックギア8Rと左用ラックギア8Lが設けられている。右用ラックギア8Rには、右側ブラケット9Rが連結されており、右用ラックギア8Rが左右に移動すると、その移動に伴って右側ブラケット9Rが左右に移動する。同様に、左用ラックギア8Lには、左側ブラケット9Lが連結されており、左用ラックギア8Lが左右に移動すると、その移動に伴って左側ブラケット9Lが左右に移動する。右側ブラケット9Rには戸吊装置5Rが連結されており、右側ブラケット9Rの左右の移動に合わせて戸吊装置5Rとドアリーフ3Rが一体に左右に移動する。また、左側ブラケット9Lには戸吊り装置5Lが連結されており、左側ブラケット9Lの左右の移動に合わせて戸吊装置5Lとドアリーフ3Lが一体に左右に移動する。
【0037】
右用ラックギア8Rと左用ラックギア8Lは、ピニオンギア10に噛み合っており、ピニオンギア10の回転運動を直線運動に変換する作用を行う。ピニオンギア10は、モータ11の駆動力で回転する。
【0038】
図2はモータ11の周辺の構造をより具体的に示す図である。モータ11の回転軸12に取り付けられたサンギア13と、サンギア13の周囲に配置されてサンギア13と噛み合う複数の遊星ギア14と、複数の遊星ギア14の外側に配置されて複数の遊星ギア14と噛み合うアウタギアであるピニオンギア10とが設けられている。
【0039】
このように、モータ11が回転すると、その回転力は、ピニオンギア10を介してラックギア8R、8Lに伝達され、ラックギア8R、8Lがモータ11の回転に応じて左右に移動すると、右側ブラケット9R及び左側ブラケット9Lを介して一対のドアリーフ3R、3Lはガイドレール4に沿って左右に移動する。モータ11は後述する
図3の制御器15内のモータ駆動部23により駆動される。
【0040】
なお、電気式ドア装置2の開閉方式は、必ずしも上述したラックアンドピニオン方式である必要はなく、それ以外の任意の方式(例えば、ベルト式、スクリュー式、リニアモータ式など)でもよい。
【0041】
図3は
図1の電気式ドア装置2の制御系の概略構成を示すブロック図である。本実施形態による電気式ドア装置2の制御系は、制御器15と、電源部16と、モータモニタ部17とを備えており、制御器15の内部には、異常検出装置1が設けられている。
【0042】
電源部16は、架線から供給される交流電圧を直流電圧に変換する電源装置を内蔵する。制御器15は、異常検出装置1の他に、ドア開閉制御部18と、指令部19とを有する。指令部19は、不図示の管理装置からの指令に従って、ドア開閉制御部18に対して、ドアリーフ3R、3Lを開閉させるための指令信号を出力する。ドア開閉制御部18は、指令信号に基づいて、ドアリーフ3R、3Lの開閉を制御する。
【0043】
ドア開閉制御部18は、電源電圧検出部21と、PWM制御部22と、モータ駆動部23と、ホール信号検出部24とを備えている。
【0044】
電源電圧検出部21は、電源部16から出力される直流電圧の電圧レベルを検出する。PWM制御部22は、電源電圧検出部21で検出された直流電圧の電圧レベルと、指令部19からの指令信号とに基づいて、モータ11を駆動するためのPWM信号を生成する。より詳細には、PWM制御部22は、指令信号に応じた基準電圧指令パターンと、電源電圧検出部21で検出された直流信号の電圧レベルとに基づいて、モータ11に供給される電圧のデューティ比を制御するためのPWM信号を生成する。
【0045】
モータ駆動部23は、PWM信号に基づいて、モータ11を駆動するトランジスタのオン又はオフを制御する。例えば、モータ11が三相モータ11の場合、モータ駆動部23は、U相、V相及びW相の各トランジスタをオン又はオフさせるためのゲート信号を生成する。
【0046】
モータ11の回転軸12の近傍にはホール素子25が取り付けられており、ホール素子25にてモータ11の回転数が検出される。また、モータ11の近傍には、モータモニタ部17が設けられている。モータモニタ部17は、上述したホール素子25の他に、モータ電流を検出するためのモータ電流検出器26と、モータ11への印可電圧を検出するモータ電圧検出器27とを有する。
【0047】
ホール信号検出部24は、ホール素子25の検出信号に基づいて、モータ11の回転数を検出する。モータ駆動部23は、ホール信号検出部24で検出されたモータ11の回転数に基づいて、モータ11を駆動する各トランジスタのオン又はオフの制御タイミングを帰還制御することができる。
【0048】
本実施形態による電気式ドア装置2は、送信部28を備えていてもよい。送信部28は、異常検出装置1が回転体の異常を検出したときに、回転体の異常を検出したことを不図示の管理装置や保守作業員が所持する携帯端末等に通知する。
【0049】
異常検出装置1は、電気式ドア装置2で用いられる種々の回転体の異常を検出する。回転体の異常とは、例えば、回転体が歯車の場合には、一部の歯の欠けや摩耗などである。また、電気式ドア装置2がベルト式の場合には、ベルトに取り付けられたプーリの摩耗などが回転体の異常の要因になりうる。さらに、電気式ドア装置2がスクリュー式の場合には、ナットの破損などが回転体の異常の要因になりうる。回転体の具体的な種類は問わないが、例えば、
図1に示す戸車6、モータ11の回転軸12付近に設けられるサンギア13、遊星ギア14、ピニオンギア10などである。
【0050】
図4は異常検出装置1の内部構成の一例を示すブロック図である。
図4に示すように、異常検出装置1は、取得部31と判定部32とを備えている。
【0051】
取得部31は、ドアリーフ3R、3Lの開動作又は閉動作の少なくとも一方に関連するドア動作信号をドアの移動中に取得する。ドア動作信号とは、例えば、ドアリーフ3R、3Lの速度、ドアリーフ3R、3Lの振動、又はモータ11の電流の少なくとも一つを含む信号である。ドア動作信号は、所定の期間継続して取得される時系列信号である。
【0052】
判定部32は、ドア動作信号に回転体の回転周期に応じた周期成分が含まれるか否かを判定する。周期成分とは、電気式ドア装置2に設けられる種々の回転体のそれぞれに固有の周期成分である。例えば、回転体が複数の歯を持つ歯車(ギア)の場合、歯車の回転半径、歯の数、及び歯車の回転周期に応じた周期成分を持つ。また、戸車6のように歯を持たない回転体の場合、当該回転体自身の回転半径と回転周期に応じた周期成分を持つ。例えば、回転体が一定の回転速度で回転している場合、回転半径が大きいほどドア動作信号に含まれる周期成分の周期は長くなり、歯の数が多いほど周期成分の周期は短くなる。また、回転体の回転周期が長いほど、ドア動作信号に含まれる周期成分は長くなる。ドア動作信号に含まれる周期成分は、ドア動作信号に関連するいずれかの回転体に異常があるときに顕著になる。すなわち、ドア動作信号には、どの回転体にも異常がない場合には周期成分は含まれず、少なくとも一つの回転体に異常がある場合には、異常を起こした回転体に固有の周期成分が含まれる。そこで、判定部32は、異常を起こした回転体を特定することを意図して、ドア動作信号に周期成分が含まれるか否かを判定する。
【0053】
ドア動作信号には、回転体の回転周期に応じた周期成分以外に、ノイズ信号も含まれているおそれがあり、ドア動作信号から直接、周期成分を抽出するのが容易でない場合も想定される。そこで、判定部32は、例えば時系列信号であるドア動作信号に対してフーリエ変換処理を施して、周波数系列の信号に変換した上で、その周波数系列信号を所定の閾値と比較して、閾値を超えた場合に、閾値を超えた周波数に対応する周期成分がドア動作信号に含まれていると判定してもよい。
【0054】
後述するように、ドア動作信号に周期成分が含まれると判定部32が判定した場合、その周期成分を持つ回転体は異常を起こしたと判断される。
【0055】
判定部32は、電気式ドア装置2に設けられる種々の回転体のうち、同一の回転周期を持つ2以上の回転体を1つのグループに分類し、グループ単位でドア動作信号に周期成分が含まれるか否かを判定してもよい。
【0056】
本実施形態による異常検出装置1は、取得部31と判定部32の他に、特定部33を備えていてもよい。特定部33は、ドア動作信号に周期成分が含まれると判定部32が判定した場合に、複数の回転体の回転半径に基づいて、複数の回転体のうちのどの回転体の周期成分であるかを特定する。特定された回転体は、異常を起こしたことが想定される回転体である。特定部33が回転体の周期成分を特定するために複数の回転体の回転半径を考慮に入れるのは、回転半径によって回転体の回転周期が異なるためである。
【0057】
特定部33は、複数の回転体の回転半径、ドアの速度指令、複数の回転体周辺の温度、ドアの動作累計時間、及びドアの開閉動作回数の少なくとも一つに基づいて、複数の回転体のうちのどの回転体の周期成分であるかを特定してもよい。特定部33がドアの速度指令を考慮に入れるのは、回転体の回転速度によって回転体の回転周期が変化するためである。また、複数の回転体周辺の温度を考慮に入れるのは、温度が変わると回転体が膨張又は収縮して回転半径が変化し、回転周期が変化するためである。また、温度が変わると回転体の摩擦係数が変化して回転速度が変化するおそれもあるためである。また、ドアの動作累計時間や開閉動作回数を考慮に入れるのは、動作累計時間や開閉動作回数が多くなるほど、回転体ごとに破損や摩耗の度合いの差が大きくなって、回転周期も変わるおそれがあるためである。なお、ドアの速度指令は、管理装置から指令部19を介して指令される場合と、モータ駆動部23からのモータ駆動信号で指令される場合とがある。
【0058】
このように、本実施形態は、電気式ドア装置2に設けられる種々の回転体の異常の有無を直接調べなくても、ドア動作信号に周期成分が含まれるか否かを判定部32で判定することにより、異常を起こした回転体を容易に特定できるという特徴を有する。
【0059】
本実施形態による異常検出装置1は、判定部32の判定結果を出力する出力部34を備えていてもよい。出力部34は、ドア動作信号に周期成分が含まれると判定部32が判定したことを出力する。また、出力部34は、特定部33で特定された回転体に関する情報を出力してもよい。出力部34から出力された情報は、
図3の送信部28を介して、例えば、保守作業者が所持する携帯端末に送信されてもよいし、電気式ドア装置2を管理している不図示の管理装置に送信されてもよい。
【0060】
本実施形態による異常検出装置1は、第1記憶部35を備えていてもよい。第1記憶部35は、回転体の回転周期に関する情報を記憶する。例えば、電気式ドア装置2に設けられる種々の回転体のそれぞれについて、回転体の回転周期に関する情報を事前に調べて、その情報を第1記憶部35に記憶しておく。上述したように、回転体が複数の歯を有する歯車(ギア)の場合、歯の数と回転速度に応じて回転周期が変化するため、歯の数と回転速度の組み合わせ別に回転体の回転周期に関する情報を第1記憶部35に記憶してもよい。
【0061】
また、回転体周辺の温度、ドアの累計動作時間、又はドアの開閉動作回数によっても回転体の回転周期が変化するおそれがあるため、回転体周辺の温度、ドアの累計動作時間、及びドアの開閉動作回数の少なくとも一つに対応づけて、回転体の回転周期に関する情報を予め第1記憶部35に記憶してもよい。この場合、回転体周辺の現在の温度や、現時点でのドアの累計動作時間、現時点でのドアの開閉動作回数を入力パラメータとして、第1記憶部35に入力することで、対応する回転体の回転周期を第1記憶部35から読み出すことができる。第1記憶部35に記憶されている回転体の回転周期に関する情報とは、例えば、該当する回転体が有する周期成分の値である。第1記憶部35は、不揮発メモリ又は不揮発記憶装置である。いったん第1記憶部35に記憶された情報はその後に更新するまでは、電気式ドア装置2の電源を途中でオフにしても情報が保持されるため、再度記憶し直す必要がなくなるという利点がある。
【0062】
異常検出装置1が第1記憶部35を備えている場合、特定部33は、周期成分が含まれると判定部32が判定したときに、第1記憶部35に記憶された情報を参照して、周期成分に合致する回転周期を有する回転体を特定する。すなわち、特定部33は、ドア動作信号に含まれる周期成分と同一又は類似の周期成分を持つ回転体の情報が第1記憶部35に記憶されているか否かを検索することで、ドア動作信号に含まれる周期成分を持つ回転体を簡易かつ精度よく検出できる。
【0063】
上述したように、ドア動作信号は、ドアリーフ3R、3Lの速度、ドアリーフ3R、3Lの振動、及びモータ11の電流の少なくとも一つを含む信号であり、時間に応じて信号レベルが変動する可能性がある。このため、判定部32は、ドア動作信号に回転体の回転周期に応じた周期成分が含まれるか否かを容易には判定できないおそれがある。
【0064】
そこで、判定部32は、ドア動作信号を基準信号と比較してもよい。より具体的には、判定部32は、回転体に異常がない時の開動作又は閉動作の少なくとも一方に関連する基準信号とドア動作信号とを比較した結果に基づいてドア動作信号に周期成分が含まれるか否かを判定してもよい。この場合、判定部32は、ドア動作信号と基準信号との差分信号が周期成分を含むか否かを判定してもよい。例えば、ドア動作信号がドアリーフ3R、3Lの速度に関する信号の場合、速度に関する基準信号も時間に応じて変動するため、速度に関するドア動作信号と基準信号との差分信号を検出することで、異常を起こした回転体の回転周期に関する周期成分のみを抽出することができる。よって、判定部32は、判定処理を容易に行うことができる。なお、差分信号にもノイズ信号が含まれているおそれがあるため、上述したように、時系列信号である差分信号に対してフーリエ変換処理を施して周波数系列信号に変換した上で、閾値と比較して、閾値を超える周波数に対応する周期成分がドア動作信号に含まれていると判定してもよい。
【0065】
このように、電気式ドア装置2に設けられる種々の回転体は、固有の周期成分を含んでおり、いずれかの回転体に異常が起きると、その回転体の周期成分に応じた異常信号がドア動作信号に重畳される。ドア動作信号と基準信号との差分信号には、主に上述した異常信号が含まれることになり、差分信号の周期成分を検出することで、異常を起こした回転体を特定することができる。
【0066】
本実施形態による異常検出装置1は、上述した基準信号を記憶する第2記憶部36を備えていてもよい。基準信号は、電気式ドア装置2に設けられる種々の回転体が正常に動作しているときのドア動作信号であり、予め生成しておくことが可能である。例えば、電気式ドア装置2を艤装した直後や保守終了直後は、すべての回転体が正常に動作していると考えられるため、艤装直後に基準信号を生成して第2記憶部36に記憶してもよい。直後とは、例えば電気式ドア装置2の実運用を開始又は再開する前である。第2記憶部36に記憶された基準信号は、その後繰り返し利用されるため、第2記憶部36は、不揮発メモリ又は不揮発記憶装置が望ましい。
【0067】
ドアリーフ3R、3Lの開閉時の速度は必ずしも一定ではない。ドアリーフ3R、3Lを全開から全閉方向に移動させる場合、最初はドアリーフ3R、3Lを加速させる加速域を設け、その後ドアリーフ3R、3Lを一定速度で移動させる定速域を設け、全閉近くになるとドアリーフ3R、3Lを減速させる減速域を設けるのが一般的である。
【0068】
ドアリーフ3R、3Lの加速域や減速域では、ドアリーフ3R、3Lが外乱等の影響を受けやすい。そこで、判定部32は、ドアが一定の速度で移動している期間(定速域)内において、ドア動作信号と基準信号とを比較して、ドア動作信号に周期成分が含まれるか否かを判定してもよい。
【0069】
また、ドア動作信号の信号レベルが変動している状態でドア動作信号と基準信号とを比較すると、差分信号がノイズ等の影響を受けやすくなるため、判定部32は、ドア動作信号の信号レベルが一定の期間内において、ドア動作信号と基準信号とを比較して、ドア動作信号に周期成分が含まれるか否かを判定してもよい。
【0070】
例えば、ドア動作信号がドアリーフ3R、3Lの速度に関する速度信号を含む場合、判定部32は、速度信号の信号レベルが一定であるドアの定速域期間内において、ドア動作信号と基準信号とを比較して、ドア動作信号に周期成分が含まれるか否かを判定してもよい。
【0071】
なお、ドアリーフ3R、3Lを全開状態から閉方向に移動させる際には、ドアリーフ3R、3Lを一定の加速度で移動させる加速域と、ドアリーフ3R、3Lを一定の速度で移動させる定速域と、ドアリーフ3R、3Lを一定の加速度で移動させる減速域とが設けられる。判定部32は、定速域だけでなく、加速域と減速域の少なくとも一方においても、ドア動作信号に周期成分が含まれるか否かを判定してもよい。加速域と減速域では、ドアリーフ3R、3Lは一定の加速度で移動している。よって、判定部は、加速域と減速域の少なくとも一方において、ドア動作信号と基準信号との差分信号に対して、ドアリーフ3R、3Lの一定の加速度による補正を行った後の信号に周期成分が含まれるか否かを判定する。より具体的には、回転体に異常がある場合には、その回転体の周期成分が一定の加速度で変化する信号成分がドア動作信号に含まれるため、この信号成分を一定の加速度で割ることにより、異常を起こした回転体の本来の周期成分を抽出することができる。
【0072】
本実施形態による異常検出装置1は、第1生成部37を備えていてもよい。第1生成部37は、ドアリーフ3R、3Lの速度指令、回転体周辺の温度、ドアリーフ3R、3Lの動作累計時間、及び開閉動作回数の少なくとも一つに基づいて、基準信号を生成する。例えば、第1生成部37は、電気式ドア装置2の艤装直後に、ドアリーフ3R、3Lを開閉させて、開閉動作中のドアリーフ3R、3Lの速度を検出して基準信号を生成したり、回転体周辺の温度に基づいて基準信号を生成する。基準信号を生成する際にドアリーフ3R、3Lの速度指令を考慮に入れるのは、ドアリーフ3R、3Lの移動速度が変化すると、回転体の回転速度が変化し、回転速度に応じて回転周期も変わるためである。また、回転体周辺の温度を考慮に入れるのは、温度が変わると回転体が膨張又は収縮して回転半径が変化し、回転周期が変化するためである。また、温度が変わると回転体の摩擦係数が変化して回転速度が変化するおそれもあるためである。また、ドアの動作累計時間や開閉動作回数を考慮に入れるのは、動作累計時間や開閉動作回数が多くなるほど、回転体ごとに破損や摩耗の度合いの差が大きくなって、回転周期も変わるおそれがあるためである。
【0073】
判定部32は、ドア動作信号と基準信号とを比較する際に、ドア動作信号と基準信号との差分信号が閾値を超えるときに、ドア動作信号に周期成分が含まれるか否かを判定してもよい。閾値を設けることで、ノイズ等の外乱の影響を受けにくくなる。なお、差分信号は上述したように時系列信号である。時系列信号からなる差分信号を閾値と比較する際には、差分信号のうち、閾値よりも大きい信号レベルを持つ時間領域を抽出し、抽出された時間領域内で、差分信号に周期成分が含まれるか否かを判定する。これにより、閾値よりも小さい信号レベルのノイズ信号を除去した上で、差分信号に周期成分が含まれるか否かを判定できる。ただし、差分信号にノイズが含まれるなどして差分信号の波形が複雑な場合には、差分信号に周期成分が含まれるか否かを正確に判定できなくなるおそれがあるため、上述したように、いったん差分信号を周波数系列信号に変換してから、閾値と比較するのが望ましい。この場合、閾値を超えた周波数が差分信号に含まれる周期成分となる。また、差分信号は、所定の基準信号レベルに対して正方向及び負方向に変動する交流信号であり、閾値と比較する際には、差分信号の極性を考慮に入れた上で閾値と比較する必要がある。例えば、差分信号の絶対値と閾値とを比較するか、あるいは、正の差分信号と比較するための第1閾値と、負の差分信号と比較するための第2閾値とを設けて比較処理を行ってもよい。
【0074】
本実施形態による異常検出装置1は、第2生成部38を備えていてもよい。第2生成部38は、ドアリーフ3R、3Lの設置直後又は保守終了直後にドアリーフ3R、3Lを開閉させて基準信号を生成する。生成された基準信号は、第2記憶部36に記憶するのが望ましい。すでに第2記憶部36に基準信号が記憶されている場合は、記憶された基準信号を新たな基準信号に更新するのが望ましい。
【0075】
鉄道用の電気式ドア装置2は、ドアリーフ3R、3Lにもたれかかる乗客や、混雑でドアリーフ3R、3Lに押しつけられ乗客などの外乱の影響で、ドアリーフ3R、3Lに意図しない負荷がかかり、ドアリーフ3R、3Lの速度が変動するおそれがある。
【0076】
乗客に起因する外乱を回避するには、乗客がまだ乗車していない鉄道車両の発車前の状況か、保守作業を終えて乗客がまだ乗車していない状況で、取得部31と判定部32の処理を行うのが望ましい。
【0077】
本実施形態による異常検出装置1には、
図3に示すように温度検出器39が接続又は内蔵されていてもよい。温度検出器39は、回転体の周囲の温度を検出する。温度検出器39を設ける理由は、温度によってドア動作信号が影響を受ける可能性があるためである。例えば、上述した第2記憶部36は、温度に応じて異なる複数の基準信号を記憶してもよい。温度に応じて異なる複数の基準信号を記憶する理由は、温度が変わると、回転体が膨張又は収縮して回転半径が変化し、回転体の回転周期が想定値からずれるおそれがあるためである。また、温度が変わると、回転体の回転軸に注入されているグリスの粘性変化により回転体の摩擦係数が変化し、回転周期が想定値からずれるおそれもある。この場合、第2記憶部36は、複数の温度に対応づけて複数の基準信号を記憶し、判定部32は、温度検出器39で検出された温度に応じた基準信号を第2記憶部36から読み出して、ドア動作信号との差分信号を検出することで、回転体周辺の温度を考慮に入れて、ドア動作信号に周期成分が含まれるか否かを判定できる。
【0078】
本実施形態による異常検出装置1には、
図3に示すように振動検出器40が接続又は内蔵されていてもよい。振動検出器40は、ドアリーフ3R、3Lが移動する際に発生する振動を検出する。電気式ドア装置2に含まれるいずれかの回転体に異常がある場合、回転体が回転する際にガタが発生し、その影響でドアリーフ3R、3Lが振動する場合がある。そこで、ドア動作信号が振動検出器40で検出された振動を含む場合には、その振動周期により、どの回転体が異常を起こしたかを特定することができる。
【0079】
図5Aは取得部31が取得するドア動作信号の一例を示す信号波形図、
図5Bは基準信号の一例を示す信号波形図である。
図5A及び
図5Bの横軸は時間、縦軸はドア動作信号又は基準信号の信号レベルである。
図5A及び
図5Bのドア動作信号及び基準信号は、例えばドアリーフ3R、3Lの速度信号である。
【0080】
ドアリーフ3R、3Lの速度信号は、ドアリーフ3R、3Lが全開から閉方向に移動する場合には、加速域と、定速域と、減速域とを有する。電気式ドア装置2に含まれる複数の回転体のいずれかに異常がある場合には、
図5Aの信号突起部分に示すように、本来の速度信号には含まれない周期成分の異常信号が現れる。
【0081】
判定部32は、
図5Aのドア動作信号と
図5Bの基準信号とを比較して、両信号の差分信号を検出する。差分信号は、例えば
図6Aのような信号波形の異常信号のみを含んでいる。このように、ドア動作信号と基準信号との差分を取ることで、ドア動作信号に含まれる基準信号の成分が除去されて、異常を起こした回転体の周期成分のみを含む異常信号が抽出される。
図6Aの差分信号は、異常を起こした回転体の周期成分の異常信号を含んでいるが、この異常信号の周期成分は必ずしも一定の周期であるとは限らない。
図6Aに示すように、ドア動作信号が速度信号を含む場合、差分信号に含まれる異常信号は、定速域では一定の周波数の周期成分を含んでいるが、加速域と減速域では周期成分の周波数が変化してしまう。
【0082】
そこで、特定部33は、
図6Aの破線で示すドアリーフ3R、3Lの定速域に対応した周期成分に基づいて、同一又は類似の周期成分を持つ回転体を特定する。あるいは、上述したように、加速域と減速域では、ドアリーフ3R、3Lの加速度にて異常信号を補正することで、一定の周波数の周期成分を生成してもよい。
【0083】
なお、電気式ドア装置2に含まれる全ての回転体が正常に動作している場合には、ドア動作信号は
図5Bに示す基準信号と同じ信号波形になるため、判定部32で検出されるドア動作信号と基準信号との差分信号は、
図6Bのように周期成分を含まない信号(ゼロレベル)になる。
【0084】
図7は本実施形態による異常検出装置1の処理動作の一例を示すフローチャートである。まず、温度検出器39にて温度を検出し(ステップS1)、検出された温度に応じた基準信号を第2記憶部36から選択する(ステップS2)。温度に応じた基準信号を選択することは必須ではなく、第2記憶部36には温度に依存しない基準信号を記憶しておき、この基準信号を第2記憶部36から読み出してもよい。
【0085】
次に、取得部31にてドア動作信号を取得する(ステップS3)。次に、判定部32にて、ドア動作信号と基準信号との差分信号を生成する(ステップS4)。
【0086】
次に、差分信号が閾値を超えているか否かを判定する(ステップS5)。ステップS5の処理は省略してもよいが、差分信号がノイズ成分を含んでいる場合には、閾値との比較を行うことで、差分信号に含まれるノイズの影響を受けにくくなる。また、差分信号は時系列信号であることから、上述したように、フーリエ変換処理で周波数系列信号に変換してから閾値と比較してもよい。
【0087】
差分信号が閾値以下であれば、どの回転体にも異常はないと判断して(ステップS6)、
図7の処理を終了する。一方、差分信号が閾値を超えている時間領域があれば、閾値を超えている差分信号の時間領域に基づいて周期成分を検出する(ステップS7)。差分信号を周波数系列信号に変換してから閾値と比較する場合については、周波数系列信号のうち閾値を超えた周波数を周期成分として検出する。
【0088】
次に、差分信号に含まれる周期成分と同一又は類似の周期成分を持つ回転体の情報が第1記憶部35に記憶されているか否かを判定する(ステップS8)。上述したように、第1記憶部35には予め、複数の回転体のそれぞれについて、固有の回転周期の値を示す情報を予め記憶しておく。ステップS8では、ステップS7で検出された差分信号の周期に一致する回転周期を有する回転体の情報が第1記憶部35に記憶されているか否かを判定する。なお、第1記憶部35に記憶されている各回転体の固有の回転周期の値と、差分信号に含まれる周期成分から得られる値とを比較する際には、ある程度の誤差マージンを設けて、誤差マージンの範囲内の回転体が存在すれば、第1記憶部35に記憶されていると判定してもよい。第1記憶部35に記憶されていれば、その回転体に異常があると判断して、その回転体に関する情報を出力する(ステップS9)。ステップS8で第1記憶部35には回転体の情報が記憶されていないと判定されると、差分信号に含まれる周期成分の情報を出力する(ステップS10)。
【0089】
ステップS9又はS10で出力された情報は、送信部28を介して管理装置や保守作業員が所持する携帯端末等に送信してもよい。
【0090】
図4に示す異常検出装置1内の判定部32は、ネットワーク41に接続されたサーバ等の管理装置42に内蔵されていてもよい。
図8は電気式ドア装置2を備えた情報処理装置43の概略構成を示すブロック図である。
図8の情報処理装置43は、ネットワーク41を介して種々の情報通信を行う電気式ドア装置2及び管理装置42を備えている。
【0091】
図8の電気式ドア装置2は、
図1と同様のブロック構成を有する。ただし、電気式ドア装置2内の異常検出装置1の内部構成は
図4とは一部異なっている。より具体的には、
図4の異常検出装置1内の判定部32は、管理装置42の内部に設けられている。管理装置42は、判定部32の他に受信部30を備えている。受信部30は、異常検出装置1内の取得部31で取得されたドア動作信号を、送信部28を介して受信する。判定部32は、受信部30で受信されたドア動作信号に周期成分が含まれるか否かを判定する。
【0092】
図4に示した特定部33、第1記憶部35、第2記憶部36、第1生成部37、及び第2生成部38を管理装置42の内部に設けてもよい。管理装置42は、電気式ドア装置2よりも処理性能の高いCPU(Central Processing Unit)を搭載しているため、電気式ドア装置2内で判定部32の判定処理を行うよりも、より高速に判定処理を行うことができる。
【0093】
管理装置42内の判定部32による判定結果は、ネットワーク41を介して電気式ドア装置2に通知されてもよいし、保守作業員が所持する携帯端末に送信されてもよい。
【0094】
このように、電気式ドア装置2には、種々の回転体が含まれており、回転体ごとに固有の周波数成分を有し、いずれかの回転体が何らかの異常を起こすと、その回転体に固有の周期で、ドア動作信号に信号レベルの変動が生じる。そこで、本実施形態では、ドア動作信号に周期成分が含まれるか否かを判定することで、回転体の異常を迅速に検出できるようにしている。特に、ドア動作信号と基準信号との差分信号が周期成分を含むか否かを判定することにより、外乱に影響されることなく、回転体の異常を簡易かつ正確に検出できる。
【0095】
本実施形態によれば、電気式ドア装置2に設けられる種々の回転体を直接調べなくても、ドア動作信号に周期成分が含まれるか否かで、いずれかの回転体の異常を検出できるため、異常を起こした回転体の特定作業が容易になり、保守作業員の手間を省くことができる。
【0096】
上述した実施形態で説明した異常検出装置1及び情報処理装置43の少なくとも一部は、ハードウェアで構成してもよいし、ソフトウェアで構成してもよい。ソフトウェアで構成する場合には、異常検出装置及び情報処理装置の少なくとも一部の機能を実現するプログラムをフレキシブルディスクやCD-ROM等の記録媒体に収納し、コンピュータに読み込ませて実行させてもよい。記録媒体は、磁気ディスクや光ディスク等の着脱可能なものに限定されず、ハードディスク装置やメモリなどの固定型の記録媒体でもよい。
【0097】
また、異常検出装置及び情報処理装置の少なくとも一部の機能を実現するプログラムを、インターネット等の通信回線(無線通信も含む)を介して頒布してもよい。さらに、同プログラムを暗号化したり、変調をかけたり、圧縮した状態で、インターネット等の有線回線や無線回線を介して、あるいは記録媒体に収納して頒布してもよい。
【0098】
本開示の態様は、上述した個々の実施形態に限定されるものではなく、当業者が想到しうる種々の変形も含むものであり、本開示の効果も上述した内容に限定されない。すなわち、特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本開示の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0099】
1 異常検出装置、2 電気式ドア装置、3R、3L ドアリーフ、4 ガイドレール、5R、5L 戸吊装置、6 戸車、7 戸先ゴム、8R、8L ラックギア、9R、9L ブラケット、10 ピニオンギア、11 モータ、12 回転軸、13 サンギア、14 遊星ギア、15 制御器、16 電源部、17 モータモニタ部、18 ドア開閉制御部、19 指令部、21 電源電圧検出部、22 PWM制御部、23 モータ駆動部、24 ホール信号検出部、25 ホール素子、26 モータ電流検出器、27 モータ電圧検出器、28 送信部、31 取得部、32 判定部、33 特定部、34 出力部、35 第1記憶部、36 第2記憶部、37 第1生成部、38 第2生成部、39 温度検出器、40 振動検出器