(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022049724
(43)【公開日】2022-03-30
(54)【発明の名称】細胞種の推定方法、細胞種の推定装置、細胞の製造方法、細胞の製造装置、観察方法、観察装置、学習済モデルの製造方法、および学習済モデルの製造装置
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/04 20060101AFI20220323BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20220323BHJP
C12M 1/42 20060101ALI20220323BHJP
C12M 1/26 20060101ALI20220323BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220323BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20220323BHJP
G01N 21/65 20060101ALI20220323BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20220323BHJP
【FI】
C12Q1/04
C12M1/34 D
C12M1/42
C12M1/26
C12N5/10
C12N5/071
G01N21/65
G01N33/48 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】38
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2019022032
(22)【出願日】2019-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(71)【出願人】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(71)【出願人】
【識別番号】598072179
【氏名又は名称】株式会社片岡製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【弁理士】
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100129137
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 ゆみ
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【弁理士】
【氏名又は名称】伊佐治 創
(74)【代理人】
【識別番号】100194515
【弁理士】
【氏名又は名称】南野 研人
(72)【発明者】
【氏名】加納 英明
(72)【発明者】
【氏名】林 洋平
(72)【発明者】
【氏名】松本 潤一
(72)【発明者】
【氏名】本田 翔一
【テーマコード(参考)】
2G043
2G045
4B029
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
2G043AA03
2G043BA16
2G043EA03
2G043FA01
2G043FA02
2G043HA01
2G043HA02
2G043HA09
2G043HA15
2G043JA02
2G043KA03
2G043KA09
2G043LA03
2G045AA24
2G045CB01
2G045FA16
2G045FA28
2G045JA01
2G045JA03
4B029AA07
4B029AA09
4B029BB11
4B029CC01
4B029FA04
4B029HA09
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ08
4B063QS39
4B063QX01
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC12
4B065AC20
4B065BA01
4B065BA21
4B065BD14
4B065CA44
4B065CA60
(57)【要約】
【課題】 対象細胞が生きた状態で、細胞種を推定可能な細胞種の推定方法を提供する。
【解決手段】 本発明の細胞種の推定方法は、被検細胞について、コヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)顕微鏡を用いて取得された信号光を取得する取得工程と、
前記信号光に基づき、前記被検細胞の細胞種を推定する推定工程とを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検細胞について、コヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)顕微鏡を用いて取得された信号光を取得する取得工程と、
前記信号光に基づき、前記被検細胞の細胞種を推定する推定工程とを含む、細胞種の推定方法。
【請求項2】
前記信号光は、CH2伸縮の信号光および第二高調波の信号光の少なくとも一方である、請求項1記載の推定方法。
【請求項3】
前記CH2伸縮の信号光は、CH2対称伸縮振動の信号光またはCH2はさみ変角振動の信号光である、請求項2記載の推定方法。
【請求項4】
前記推定工程において、前記信号光におけるCH2伸縮の信号光のシグナル強度に基づき、前記被検細胞の細胞種を推定する、請求項1から3のいずれか一項に記載の推定方法。
【請求項5】
前記推定工程において、前記信号光における第二高調波の信号光の形状およびシグナル強度の少なくとも一方に基づき、前記被検細胞の細胞種を推定する、請求項1から4のいずれか一項に記載の推定方法。
【請求項6】
前記推定工程において、前記被検細胞の細胞種として、多能性細胞、外胚葉系細胞、中胚葉系細胞、または内胚葉系細胞であるかを推定する、請求項1から5のいずれか一項に記載の推定方法。
【請求項7】
前記推定工程において、前記信号光と下記条件(1)~(4)とに基づき、前記被検細胞の細胞種を推定する、請求項1から6のいずれか一項に記載の推定方法:
(1)前記信号光におけるCH2伸縮の信号光のシグナル強度が基準値以上であり、かつ前記信号光における第二高調波の信号光のシグナル強度が基準値以下である場合、前記被検細胞は多能性細胞であると推定する;
(2)前記信号光におけるCH2伸縮の信号光のシグナル強度が基準値以上であり、かつ前記信号光における第二高調波の信号光のシグナル強度が基準値以上である、または前記信号光における第二高調波の信号光の形状が粒状である場合、前記被検細胞は、外胚葉系細胞であると推定する;
(3)前記信号光におけるCH2伸縮の信号光のシグナル強度が基準値未満であり、かつ前記信号光における第二高調波の信号光のシグナル強度が基準値以上である、または前記信号光における第二高調波の信号光の形状が網状である場合、前記被検細胞は、中胚葉系細胞であると推定する;および
(4)前記信号光におけるCH2伸縮の信号光のシグナル強度が基準値未満であり、かつ前記信号光における第二高調波の信号光のシグナル強度が基準値未満である場合、前記被検細胞は、中胚葉系細胞であると推定する。
【請求項8】
前記推定工程において、前記信号光に基づき、前記被検細胞の細胞種の推定結果を出力する機械学習により生成された学習済みモデルを用いて、前記被検細胞の細胞種を推定する、請求項1から7のいずれか一項に記載の推定方法。
【請求項9】
前記被検細胞は、多能性細胞または多能性細胞から誘導された分化細胞である、請求項1から8のいずれか一項に記載の推定方法。
【請求項10】
被検細胞について、コヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)顕微鏡を用いて取得された信号光を取得する取得手段と、
前記信号光に基づき、前記被検細胞の細胞種を推定する推定手段とを含む、細胞種の推定装置。
【請求項11】
前記信号光は、CH2伸縮の信号光および第二高調波の信号光の少なくとも一方である、請求項10記載の推定装置。
【請求項12】
前記CH2伸縮の信号光は、CH2対称伸縮振動の信号光である、請求項11記載の推定装置。
【請求項13】
前記推定手段では、前記信号光におけるCH2伸縮の信号光のシグナル強度に基づき、前記被検細胞の細胞種が推定される、請求項10から12のいずれか一項に記載の推定装置。
【請求項14】
前記推定手段では、前記信号光における第二高調波の信号光の形状およびシグナル強度の少なくとも一方に基づき、前記被検細胞の細胞種が推定される、請求項10から13のいずれか一項に記載の推定装置。
【請求項15】
前記推定手段では、前記被検細胞の細胞種として、多能性細胞、外胚葉系細胞、中胚葉系細胞、または内胚葉系細胞であるかが推定される、請求項10から14のいずれか一項に記載の推定装置。
【請求項16】
前記推定手段において、前記信号光と下記条件(1)~(4)とに基づき、前記被検細胞の細胞種が推定される、請求項10から15のいずれか一項に記載の推定装置:
(1)前記信号光におけるCH2伸縮の信号光のシグナル強度が基準値以上であり、かつ前記信号光における第二高調波の信号光のシグナル強度が基準値以下である場合、前記被検細胞は多能性細胞であると推定する;
(2)前記信号光におけるCH2伸縮の信号光のシグナル強度が基準値以上であり、かつ前記信号光における第二高調波の信号光のシグナル強度が基準値以上である、または前記信号光における第二高調波の信号光の形状が粒状である場合、前記被検細胞は、外胚葉系細胞であると推定する;
(3)前記信号光におけるCH2伸縮の信号光のシグナル強度が基準値未満であり、かつ前記信号光における第二高調波の信号光のシグナル強度が基準値以上である、または前記信号光における第二高調波の信号光の形状が網状である場合、前記被検細胞は、中胚葉系細胞であると推定する;および
(4)前記信号光におけるCH2伸縮の信号光のシグナル強度が基準値未満であり、かつ前記信号光における第二高調波の信号光のシグナル強度が基準値未満である場合、前記被検細胞は、中胚葉系細胞であると推定する。
【請求項17】
前記推定手段では、前記信号光に基づき、前記被検細胞の細胞種の推定結果を出力する機械学習により生成された学習済みモデルを用いて、前記被検細胞の細胞種が推定される、請求項10から16のいずれか一項に記載の推定装置。
【請求項18】
前記被検細胞は、多能性細胞または多能性細胞から誘導された分化細胞である、請求項10から17のいずれか一項に記載の推定装置。
【請求項19】
被検細胞を観察する観察工程と、
前記被検細胞の細胞種を推定する推定工程と、
所定の細胞種の被検細胞を選抜する選抜工程とを含み、
前記観察工程は、コヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)顕微鏡を用いて実施され、
前記推定工程は、請求項1から9のいずれか一項に記載の細胞種の推定方法により実施される、細胞の製造方法。
【請求項20】
前記選抜工程は、前記所定の細胞種の被検細胞を回収する、または所定の細胞種以外の被検細胞を除去することにより、前記所定の細胞種の被検細胞を選抜する、請求項19記載の細胞の製造方法。
【請求項21】
被検細胞を観察可能な観察ユニットと、
前記被検細胞の細胞種を推定する推定ユニットと、
所定の細胞種の被検細胞を選抜する選抜ユニットとを含み、
前記観察ユニットは、コヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)顕微鏡を含み、
前記推定ユニットは、請求項10から18のいずれか一項に記載の細胞種の推定装置を含む、細胞の製造装置。
【請求項22】
前記選抜ユニットは、前記所定の細胞種の被検細胞もしくは、所定の細胞種以外の被検細胞を回収する回収手段、または前記所定の細胞種以外の被検細胞にレーザを照射可能なレーザ照射ユニットを含む、請求項21記載の細胞の製造装置。
【請求項23】
被検細胞を観察する観察工程と、
前記被検細胞の細胞種を推定する推定工程と、
所定の細胞種の被検細胞を再度観察する再観察工程とを含み、
前記観察工程は、コヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)顕微鏡を用いて実施され、
前記推定工程は、請求項1から9のいずれか一項に記載の細胞種の推定方法により実施される、コヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)顕微鏡を用いた観察方法。
【請求項24】
被検細胞を観察可能な観察ユニットと、
前記被検細胞の細胞種を推定する推定ユニットと、
前記観察ユニットを制御可能な制御ユニットとを含み、
前記観察ユニットは、コヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)顕微鏡を含み、
前記推定ユニットは、請求項10から18のいずれか一項に記載の細胞種の推定装置を含み、
前記制御ユニットは、前記被検細胞のうち、所定の細胞種と推定された細胞について、前記観察ユニットにより再観察を実施する、コヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)顕微鏡を用いた観察装置。
【請求項25】
被検細胞のコヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)顕微鏡を用いて取得された信号光を取得する取得工程と、
前記信号光と、前記被検細胞の細胞種との組を教師データとして、前記信号光から被検細胞の細胞種の推定結果を出力する学習済モデルを生成する学習工程とを含む、細胞種の推定に用いる学習済モデルの製造方法。
【請求項26】
前記信号光は、CH2伸縮の信号光および第二高調波の信号光の少なくとも一方である、請求項25記載の製造方法。
【請求項27】
前記CH2伸縮の信号光は、CH2対称伸縮振動の信号光である、請求項26記載の製造方法。
【請求項28】
前記学習工程において、前記信号光として、CH2伸縮の信号光のシグナル強度を用いる、請求項25から27のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項29】
前記学習工程において、前記信号光として、第二高調波の信号光の形状およびシグナル強度の少なくとも一方を用いる、請求項25から28のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項30】
前記被検細胞は、多能性細胞、外胚葉系細胞、中胚葉系細胞、または内胚葉系細胞を含む、請求項25から29のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項31】
被検細胞のコヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)顕微鏡を用いて取得された信号光を取得する取得手段と、
前記信号光と、前記被検細胞の細胞種との組を教師データとして、前記信号光から被検細胞の細胞種の推定結果を出力する学習済モデルを生成する学習手段とを含む、細胞種の推定に用いる学習済モデルの製造装置。
【請求項32】
前記信号光は、CH2伸縮の信号光および第二高調波の信号光の少なくとも一方である、請求項31記載の製造装置。
【請求項33】
前記CH2伸縮の信号光は、CH2対称伸縮振動の信号光である、請求項32記載の製造装置。
【請求項34】
前記学習手段において、前記信号光として、CH2伸縮の信号光のシグナル強度を用いる、請求項31から33のいずれか一項に記載の製造装置。
【請求項35】
前記学習手段において、前記信号光として、第二高調波の信号光の形状およびシグナル強度の少なくとも一方を用いる、請求項31から34のいずれか一項に記載の製造装置。
【請求項36】
前記被検細胞は、多能性細胞、外胚葉系細胞、中胚葉系細胞、または内胚葉系細胞を含む、請求項31から35のいずれか一項に記載の製造装置。
【請求項37】
被検細胞について、コヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)顕微鏡を用いて取得された信号光を取得する取得処理と、
前記信号光に基づき、前記被検細胞の細胞種を推定する推定処理とを、コンピュータ上で実行可能であるプログラム。
【請求項38】
被検細胞のコヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)顕微鏡を用いて取得された信号光を取得する取得処理と、
前記信号光と、前記被検細胞の細胞種との組を教師データとして、前記信号光から被検細胞の細胞種の推定結果を出力する学習済モデルを生成する学習処理とを、コンピュータ上で実行可能であるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞種の推定方法、細胞種の推定装置、細胞の製造方法、細胞の製造装置、観察方法、観察装置、学習済モデルの製造方法、および学習済モデルの製造装置
に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞の外形等に基づき、iPS細胞等の多能性細胞の分化能の評価を行うことが試みられている(非特許文献1および2、特許文献1)。ただし、細胞の外形のみでは細胞種の評価が難しいという問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Ryuji Kato et.al., "Parametric analysis of colony morphology of non-labelled live human pluripotent stem cells for cell quality control", 2016, Scientific Reports, volume 6, Article number: 34009
【非特許文献2】Ke Fan et.al., “A Machine Learning Assisted, Label-free, Non-invasive Approach for Somatic Reprogramming in Induced Pluripotent Stem Cell Colony Formation Detection and Prediction”, 2017, Scientific Reports, volume 7, Article number: 13496
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
他の細胞種の推定方法としては、対象細胞を回収し、回収した細胞の遺伝子発現パターンに基づき推定する方法がある。しかしながら、対象細胞の遺伝子発現を確認するには、細胞を溶解して使用する必要があるため、対象細胞が生きた状態で、細胞の種類を推定することは困難という問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、対象細胞が生きた状態で、細胞種を推定可能な細胞種の推定方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の細胞種の推定方法(以下、「推定方法」ともいう)は、被検細胞について、コヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)顕微鏡を用いて取得された信号光を取得する取得工程と、
前記信号光に基づき、前記被検細胞の細胞種を推定する推定工程とを含む。
【0008】
本発明の細胞種の推定装置(以下、「推定装置」ともいう)は、被検細胞について、コヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)顕微鏡を用いて取得された信号光を取得する取得手段と、
前記信号光に基づき、前記被検細胞の細胞種を推定する推定手段とを含む。
【0009】
本発明の細胞の製造方法は、被検細胞を観察する観察工程と、
前記被検細胞の細胞種を推定する推定工程と、
所定の細胞種の被検細胞を選抜する選抜工程とを含み、
前記観察工程は、コヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)顕微鏡を用いて実施され、
前記推定工程は、前記本発明の細胞種の推定方法により実施される。
【0010】
本発明の細胞の製造装置は、被検細胞を観察可能な観察ユニットと、
前記被検細胞の細胞種を推定する推定ユニットと、
所定の細胞種の被検細胞を選抜する選抜ユニットとを含み、
前記観察ユニットは、コヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)顕微鏡を含み、
前記推定ユニットは、前記本発明の細胞種の推定装置を含む。
【0011】
本発明のコヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)を用いた観察方法(以下、「観察方法」という)は、被検細胞を観察する観察工程と、
前記被検細胞の細胞種を推定する推定工程と、
所定の細胞種の被検細胞を再度観察する再観察工程とを含み、
前記観察工程は、コヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)顕微鏡を用いて実施され、
前記推定工程は、前記本発明の細胞種の推定方法により実施される。
【0012】
本発明のコヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)を用いた観察装置(以下、「観察装置」という)は、被検細胞を観察可能な観察ユニットと、
前記被検細胞の細胞種を推定する推定ユニットと、
前記観察ユニットを制御可能な制御ユニットとを含み、
前記観察ユニットは、コヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)顕微鏡を含み、
前記推定ユニットは、本発明の細胞種の推定装置を含み、
前記制御ユニットは、前記被検細胞のうち、所定の細胞種と推定された細胞について、前記観察ユニットにより再観察を実施する。
【0013】
本発明の細胞種の推定に用いる学習済モデルの製造方法(以下、「学習方法」ともいう)は、被検細胞のコヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)顕微鏡を用いて取得された信号光を取得する取得工程と、
前記信号光と、前記被検細胞の細胞種との組を教師データとして、前記信号光から被検細胞の細胞種の推定結果を出力する学習済モデルを生成する学習工程とを含む。
【0014】
本発明の細胞種の推定に用いる学習済モデルの製造装置(以下、「学習装置」ともいう)は、被検細胞のコヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)顕微鏡を用いて取得された信号光を取得する取得手段と、
前記信号光と、前記被検細胞の細胞種との組を教師データとして、前記信号光から被検細胞の細胞種の推定結果を出力する学習済モデルを生成する学習手段とを含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、対象細胞が生きた状態で、細胞種を推定可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、実施形態1の推定装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、実施形態1の推定装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、実施形態1の推定方法の一例を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、実施形態2の製造装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、実施形態2の製造方法の一例を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、実施形態3の観察装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図7】
図7は、実施形態3の観察方法の一例を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、実施形態4の学習装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図9】
図9は、実施形態4の学習方法の一例を示すフローチャートである。
【
図10】
図10は、実施例1で用いたCARS顕微鏡の光学系の構成を示す概略図である。
【
図11】
図11は、実施例1におけるCH
2伸縮像およびSHG像を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明において、「細胞」は、例えば、単離された細胞、細胞から構成される細胞塊、組織、または臓器を意味する。前記細胞は、例えば、培養細胞でもよいし、生体から単離された細胞でもよい。また、前記細胞塊、組織または臓器は、例えば、前記細胞から作製された細胞塊、細胞シート、組織または臓器でもよいし、生体から単離された細胞塊、組織または臓器でもよい。
【0018】
本発明において、「細胞の選抜」は、例えば、所望の細胞の回収、所望の細胞の維持、および所望の細胞以外の除去のいずれの意味で用いてもよい。
【0019】
以下、本発明について、図面を参照して詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の説明に限定されない。なお、以下の
図1~
図11において、同一部分には、同一符号を付し、その説明を省略する場合がある。また、図面においては、説明の便宜上、各部の構造は適宜簡略化して示す場合があり、各部の寸法比等は、実際とは異なり、模式的に示す場合がある。また、各実施形態は、特に言及しない限り、互いにその説明を援用できる。
【0020】
<細胞種の推定方法および推定装置>
本発明の細胞種の推定方法は、前述のように、被検細胞について、コヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)顕微鏡を用いて取得された信号光を取得する取得工程と、前記信号光に基づき、前記被検細胞の細胞種を推定する推定工程とを含む。また、本発明の細胞種の推定装置は、被検細胞について、コヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)顕微鏡を用いて取得された信号光を取得する取得手段と、前記信号光に基づき、前記被検細胞の細胞種を推定する推定手段とを含む。本発明の推定方法は、CARS顕微鏡により取得された信号光に基づき、前記被検細胞の細胞種を推定することが特徴であり、その他の構成および条件は特に制限されない。
【0021】
本発明者らは鋭意研究の結果、CARS顕微鏡を用いて取得された信号光、具体的には、信号光の形状、シグナル強度等と、細胞種とに関連性があることを見出し、本発明を確立するに至った。このため、本発明によれば、被検細胞についてCARS顕微鏡を用いて取得された信号光に基づき、前記被検細胞の細胞種を推定できる。また、CARS顕微鏡による信号光は、細胞が生きた状態で取得できる。このため、本発明によれば、対象細胞、すなわち、被検細胞が生きた状態で、細胞種を推定可能である。また、本発明は、CARS顕微鏡を用いて取得された信号光に基づき、細胞種を推定するため、例えば、細胞表面マーカー分子に対する特異的な抗体等の結合分子による標識が不要となる。さらに、本発明によれば、細胞種の推定が可能であるため、例えば、細胞の分化段階または分化状態を推定できる。このため、本発明によれば、例えば、多能性細胞、前駆細胞等の分化能を有する細胞から、分化細胞を誘導する際に、得られた細胞における細胞の分化段階または分化状態を推定することができる。したがって、本発明の推定方法は、例えば、細胞の分化段階または分化状態の推定方法ということもできる。なお、以下、特に言及しない場合、「分化状態」は、「細胞種」または「分化段階」と同義であり、互いに読み替えてその説明を援用できる。
【0022】
(実施形態1)
図1に、本実施形態における推定装置のブロック図を示す。
図1に示すように、本実施形態の推定装置10は、取得手段111および推定手段112を含む。
図1に示すように、取得手段111および推定手段112は、ハードウェアであるデータ処理手段(データ処理装置)11に組み込まれてもよく、ソフトウェアまたは前記ソフトウェアが組み込まれたハードウェアでもよい。データ処理手段11は、CPU等を備えてもよい。また、データ処理手段11は、例えば、後述のROM、RAM等を備えてもよい。
【0023】
つぎに、
図2に、推定装置10のハードウェア構成のブロック図を例示する。推定置10は、例えば、CPU(中央処理装置)201、メモリ202、バス203、記憶装置204、入力装置206、ディスプレイ207、通信デバイス208等を有する。推定装置10の各部は、それぞれのインタフェース(I/F)により、バス203を介して接続されている。推定装置10のハードウェア構成は、例えば、後述の観察装置における推定ユニット、製造装置における推定ユニット、および学習済モデルの製造装置のハードウェア構成としても採用できる。
【0024】
CPU201は、例えば、コントローラ(システムコントローラ、I/Oコントローラ等)等により、他の構成と連携動作し、推定装置10の全体の制御を担う。推定装置10において、CPU201により、例えば、本発明のプログラム205やその他のプログラムが実行され、また、各種情報の読み込みや書き込みが行われる。具体的には、例えば、CPU201が、取得手段111および推定手段112として機能する。推定装置10は、演算装置として、CPUを備えるが、GPU(Graphics Processing Unit)、APU(Accelerated Processing Unit)等の他の演算装置を備えてもよいし、CPUとこれらとの組合せを備えてもよい。なお、CPU201は、例えば、後述する実施形態2~4における記憶手段以外の各手段、推定ユニット、または制御ユニットとして機能する。
【0025】
メモリ202は、例えば、メインメモリを含む。前記メインメモリは、主記憶装置ともいう。CPU201が処理を行う際には、例えば、後述する記憶装置204(補助記憶装置)に記憶されている本発明のプログラム205等の種々の動作プログラムを、メモリ202が読み込む。そして、CPU201は、メモリ202からデータを読み出し、解読し、前記プログラムを実行する。前記メインメモリは、例えば、RAM(ランダムアクセスメモリ)である。メモリ202は、例えば、さらに、ROM(読み出し専用メモリ)を含む。
【0026】
バス203は、例えば、外部機器とも接続できる。前記外部機器は、例えば、外部記憶装置(外部データベース等)、プリンター等があげられる。推定装置10は、例えば、バス203に接続された通信デバイス208により、通信回線網に接続でき、通信回線網を介して、前記外部機器と接続することもできる。また、推定装置10は、通信デバイス208および通信回線網を介して、端末等にも接続できる。
【0027】
記憶装置204は、例えば、前記メインメモリ(主記憶装置)に対して、いわゆる補助記憶装置ともいう。前述のように、記憶装置204には、本発明のプログラム205を含む動作プログラムが格納されている。記憶装置204は、例えば、記憶媒体と、前記記憶媒体に読み書きするドライブとを含む。前記記憶媒体は、特に制限されず、例えば、内蔵型でも外付け型でもよく、HD(ハードディスク)、FD(フロッピー(登録商標)ディスク)、CD-ROM、CD-R、CD-RW、MO、DVD、フラッシュメモリー、メモリーカード等があげられ、前記ドライブは、特に制限されない。記憶装置204は、例えば、前記記憶媒体と前記ドライブとが一体化されたハードディスクドライブ(HDD)であってもよい。
【0028】
推定装置10は、例えば、さらに、入力装置206、ディスプレイ207を有する。入力装置206は、例えば、タッチパネル、トラックパッド、マウス等のポインティングデバイス;キーボード;カメラ、スキャナ等の撮像手段;ICカードリーダ、磁気カードリーダ等のカードリーダ;マイク等の音声入力手段;等があげられる。ディスプレイ207は、例えば、LEDディスプレイ、液晶ディスプレイ等の表示装置があげられる。本実施形態1において、入力装置206とディスプレイ207とは、別個に構成されているが、入力装置206とディスプレイ207とは、タッチパネルディスプレイのように、一体として構成されてもよい。
【0029】
つぎに、本実施形態の推定装置10の処理の一例について、被検細胞についてCARS顕微鏡を用いて信号光を取得した場合を例に取り、
図3のフローチャートに基づき、説明する。
【0030】
推定装置10の処理に先立ち、まず、CARS顕微鏡を用いて被検細胞を観察し、信号光を取得する。前記被検細胞は、任意の細胞とでき、例えば、細胞種がわかっている細胞でもよいし、細胞種が不明の細胞でもよい。推定装置10を細胞の分化段階または分化状態の推定に用いる場合、前記被検細胞は、例えば、分化誘導前の細胞、分化誘導中の細胞、分化誘導後の細胞等があげられる。
【0031】
前記被検細胞は、特に制限されず、例えば、生体から分離した細胞、培養細胞等の任意の細胞とできる。前記被検細胞は、具体例として、iPS細胞、ES細胞等の多能性細胞、前記多能性細胞から誘導した三胚葉系細胞、および前記三胚葉系細胞から誘導した各組織の分化細胞があげられる。前記分化細胞は、例えば、上皮系細胞;ニューロン、グリア細胞、アストロサイト等の神経系細胞;肝臓細胞;脂肪細胞;間質細胞;T細胞、B細胞等の造血系細胞;骨格筋細胞、心筋細胞等の筋細胞;等があげられる。前記三胚葉系細胞は、例えば、外胚葉系細胞、中胚葉系細胞、または内胚葉系細胞があげられる。本発明によれば、例えば、前記多能性細胞、前記外胚葉系細胞、前記中胚葉系細胞、および前記内胚葉系細胞のいずれの細胞種であるかを好適に推定できる。前記多能性細胞、前記外胚葉系細胞、前記中胚葉系細胞、および前記内胚葉系細胞のマーカーとしては、例えば、下記マーカーが利用できる。
iPS細胞:OCT4 (POU5F1)、NANOG、DPPA4、DNMT3B、L1TD1、E-cadherin、Podocalyxin、TERT
外胚葉系細胞:PAX6、SOX1、OTX2、MAP2、Musashi1、N-cadherin、Nestin、NCAM、GFAP
中胚葉系細胞:T(Brachyury)、Pitx2、MSX1、MESP1、GATA4、TBX6、NKX2.5、Vimentin、Desmin、Smooth Muscle Actin
内胚葉系細胞:SOX17、MIXL1、FOXA2、PDX1, AFP、CXCR4
【0032】
前記CARS顕微鏡による信号光の取得は、前記被検細胞全体または一部に対して実施する。後者の場合、前記CARS顕微鏡による信号光の取得は、例えば、前記被検細胞の中心部において、被検細胞の配置面に対して垂直方向を含む断面の信号光を取得することが好ましい。前記被検細胞は、1つでもよいし、複数でもよい。後者の場合、前記CARS顕微鏡による信号光の取得は、その一部または全部の細胞に対して実施する。前記CARS顕微鏡は、コヒーレント反ストークスラマン散乱を利用した顕微鏡であり、その構成は特に制限されず、例えば、後述の実施例の構成を参照できる。前記CARS顕微鏡では、CARS分光用の光照射手段を含み、前記光照射手段により、超広帯域光および励起光の混合光が被検細胞に照射される。そして、前記CARS顕微鏡では、前記被検細胞から出射された出射光から、回折格子等によりCARS光(信号光)が分光される。そして、前記CARS光のシグナル強度、空間位置等の情報が、取得される。本発明において、前記信号光は、第二高調波(SHG)、第三高調波(THG)、二光子励起蛍光を含んでもよい。前記超広帯域光の波長は、例えば、400~2400nmである。また、前記励起光の波長は、例えば、750~1100nm、750~1064nmである。
【0033】
つぎに、推定装置10による処理を開始する。まず、推定装置10の取得手段111が、前記CARS顕微鏡で取得された、信号光、より具体的には、信号光の情報を取得する(S1、取得工程)。前記取得工程において取得する信号光は、後述の推定工程で使用される信号光を含み、具体例として、CH2伸縮の信号光および第二高調波(SHG)の信号光の少なくとも一方を含むことが好ましい。前記取得する信号光は、例えば、下記表1Aおよび表1Bを参照して、検出対象の分子に応じて適宜設定できる。なお、下記表1Aおよび表1Bに示すラマンシフトの値は、典型的な数値であり、CARS顕微鏡に応じてその前後の領域でも検出対象の分子を検出可能である。前記CH2伸縮の信号光は、例えば、CH2対称伸縮振動の信号光またはCH2はさみ変角振動の信号光等があげられる。前記CH2伸縮の信号光の波数は、例えば、2835~2865Raman shift/cm-1である。前記CH2対称伸縮振動の信号光の波数は、例えば、2835~2865Raman shift/cm-1である。前記CH2はさみ変角振動の信号光の波数は、例えば、1423~1453Raman shift/cm-1である。前記SHGの信号光の波数は、入射レーザの波長をλとするとλ/2となる。
【0034】
【0035】
つぎに、推定手段112が、前記信号光に基づき、前記被検細胞の細胞種を推定する(S2、推定工程)。前記信号光において、各波数(Raman shift/cm-1)は、その信号の由来となる被検細胞内の物質が異なる。また、細胞種が異なる場合、細胞種の異なる細胞ではその機能および代謝も異なるため、前記細胞が含有する物質の種類、物質の含有率および物質の局在等も異なると推定される。そこで、本発明では、前記細胞の細胞種の違いが、例えば、前記信号光の違いとして生じることを利用し、前記信号光に基づき、前記被検細胞の細胞種を推定する。前記被検細胞が複数の場合、S2工程では、1つまたは複数の被検細胞の細胞種を推定するが、全部の被検細胞の細胞種を推定することが好ましい。以下、前記被検細胞が、前記多能性細胞、前記外胚葉系細胞、前記中胚葉系細胞、または前記内胚葉系細胞であるかを推定する例をあげて説明するが、本発明はこれに限定されず、他の細胞種の細胞の推定にも利用できる。
【0036】
前記多能性細胞および前記外胚葉系細胞は、例えば、前記中胚葉系細胞および前記内胚葉系細胞と比較して、豊富に脂肪滴が存在する。前記脂肪滴は、主に、トリアシルグリセロールから構成される。また、トリアシルグリセロール中の脂肪酸は、CH2伸縮の信号光に基づき特定できる。したがって、前記多能性細胞および前記外胚葉系細胞と、前記中胚葉系細胞および前記内胚葉系細胞とは、例えば、脂肪酸におけるCH2伸縮の信号光、より好ましくは、CH2対称伸縮振動の信号光またはCH2はさみ変角振動の信号光により推定可能である。具体的には、S2工程において、前記多能性細胞および前記外胚葉系細胞と、前記中胚葉系細胞および前記内胚葉系細胞とは、例えば、CH2伸縮の信号光、より具体的には、CH2伸縮の信号光のシグナル強度に基づき、両者の間に基準値を設け、基準値以上であれば前者、基準値未満であれば後者と推定できる。前記基準値は、例えば、予め前記多能性細胞、前記外胚葉系細胞、前記中胚葉系細胞および前記内胚葉系細胞について、CARS顕微鏡により信号光を取得し、そのシグナル強度に基づき設定できる。前記シグナル強度は、基準サンプルのシグナル強度により補正された、補正シグナル強度が好ましい(以下、同様)。前記基準サンプルは、例えば、ポリスチレンビーズ等のプラスチックビーズがあげられる。
【0037】
S2工程では、CH2伸縮の信号光のシグナル強度と、CH2伸縮の信号光から再構築されたCH2伸縮像の形状とに基づき、多能性細胞、外胚葉系細胞、中胚葉系細胞、および内胚葉系細胞を推定してもよい。具体例として、細胞質の広い範囲でCH2伸縮像(脂肪滴)が存在し、かつ脂肪滴内に大きなシグナルの欠如する領域(細胞核)が存在する場合、S2工程では、前記被検細胞は、例えば、多能性細胞であると推定できる。また、細胞質の広い範囲で脂肪滴が存在し、かつ脂肪滴内に中程度のシグナルの欠如する領域(細胞核)が存在する場合、S2工程では、前記被検細胞は、例えば、外胚葉系細胞であると推定できる。さらに、シグナル強度の弱い粒状の脂肪滴が存在する場合、S2工程では、前記被検細胞は、例えば、中胚葉系細胞であると推定できる。そして、シグナル強度が強い粒状の脂肪滴が存在する場合、S2工程では、前記被検細胞は、例えば、内胚葉系細胞であると推定できる。
【0038】
また、前記外胚葉系細胞および前記中胚葉系細胞は、前記多能性細胞および前記内胚葉系細胞と比較して、SHGの信号のシグナル強度が相対的に強い。また、前記外胚葉系細胞のSHGの信号から再構成されたSHG像において、前記外胚葉系細胞は、例えば、フィラメント状のSHGのシグナルを生じる。他方、前記中胚葉系細胞のSHGの信号から再構成されたSHG像において、前記中胚葉系細胞は、例えば、網状のSHGのシグナルを生じる。このため、前記外胚葉系細胞および前記中胚葉系細胞と、前記多能性細胞および前記内胚葉系細胞とは、例えば、SHGの信号光の形状および/またはシグナル強度に基づき、両者のいずれに属するかを推定できる。具体的には、SHGの信号光のシグナル強度を推定に用いる場合、S2工程において、前記外胚葉系細胞および前記中胚葉系細胞と、前記多能性細胞および前記内胚葉系細胞とは、例えば、両者の間に基準値を設け、基準値以上であれば前者、基準値未満であれば後者と推定できる。また、SHGの信号光の形状を推定に用いる場合、SHGの信号が存在し、かつSHGの信号から再構成されたSHG像におけるSHGの形状がフィラメント状である場合、S2工程では、外胚葉系細胞と推定できる。さらに、SHGの信号が存在し、かつSHGの形状が網状である場合、S2工程では、中胚葉系細胞であると推定できる。
【0039】
S2工程では、SHGの信号光のシグナル強度と、SHGの信号光から再構築されたSHG像の形状とに基づき、多能性細胞、外胚葉系細胞、中胚葉系細胞、および内胚葉系細胞を推定してもよい。具体例として、フィラメント状のSHG像が存在する場合、S2工程では、前記被検細胞は、例えば、多能性細胞であると推定できる。また、シグナル強度が強い粒状のSHG像が存在する場合、S2工程では、前記被検細胞は、例えば、外胚葉系細胞であると推定できる。さらに、メッシュ状のSHG像が存在する場合、S2工程では、前記被検細胞は、例えば、中胚葉系細胞であると推定できる。そして、SHG像が存在しない場合、S2工程では、前記被検細胞は、例えば、内胚葉系細胞であると推定できる。
【0040】
S2工程において、推定手段112は、複数の条件を組み合せて、細胞種を推定してもよい。具体例として、前記多能性細胞、前記外胚葉系細胞、前記中胚葉系細胞、または前記内胚葉系細胞であるかを推定する場合、S2工程では、例えば、前記信号光と下記条件(1)~(4)に基づき、前記信号光が、下記条件(1)~(4)を満たすかを判定し、前記被検細胞の細胞種を推定できる。
(1)前記信号光におけるCH2伸縮の信号光のシグナル強度が基準値以上であり、かつ前記信号光における第二高調波の信号光のシグナル強度が基準値以下である場合、前記被検細胞は多能性細胞であると推定する。
(2)前記信号光におけるCH2伸縮の信号光のシグナル強度が基準値以上であり、かつ前記信号光における第二高調波の信号光のシグナル強度が基準値以上である、または前記信号光における第二高調波の信号光の形状が粒状である場合、前記被検細胞は、外胚葉系細胞であると推定する。
(3)前記信号光におけるCH2伸縮の信号光のシグナル強度が基準値未満であり、かつ前記信号光における第二高調波の信号光のシグナル強度が基準値以上である、または前記信号光における第二高調波の信号光の形状が網状である場合、前記被検細胞は、中胚葉系細胞であると推定する。
(4)前記信号光におけるCH2伸縮の信号光のシグナル強度が基準値未満であり、かつ前記信号光における第二高調波の信号光のシグナル強度が基準値未満である場合、前記被検細胞は、中胚葉系細胞であると推定する。
【0041】
前記多能性細胞および前記外胚葉系細胞は、例えば、前記中胚葉系細胞および前記内胚葉系細胞と比較して、細胞核が相対的に大きい。このため、S2工程では、前記条件(1)~(4)において、前記信号光におけるCH2伸縮に代えて、細胞核の大きさを用いて、推定してもよい。前記細胞核の大きさは、例えば、CH2伸縮の信号光から再構成されたCH2伸縮像において、シグナル強度の弱い領域の大きさとして表される。
【0042】
S2工程において、推定手段112は、例えば、前記信号光に基づき、前記被検細胞の細胞種の推定結果を出力する機械学習により生成された学習済モデルを用いて、前記被検細胞の細胞種の推定を実施してもよい。前記学習済モデルは、例えば、後述の学習済モデルの製造方法および学習済モデルの製造装置により製造できる。
【0043】
実施形態1において、シグナル強度および第二高調波の信号光の形状の検出は、推定手段112が行なっているが、例えば、各信号光のシグナル強度を検出する検出手段または各信号光から信号像を再構築し、形状を検出する検出手段によって実施されてもよい。
【0044】
実施形態1において、被検細胞として、多能性細胞、外胚葉系細胞、中胚葉系細胞、および内胚葉細胞を例にあげて説明したが、前述のように、本発明はこれに限定されず、他の細胞の推定に使用できる。具体例として、SHGから再構築されたSHG像が軸索状の場合、前記被検細胞は、例えば、神経細胞と推定できる。また、SHGから再構築されたSHG像が線毛根状の場合、前記被検細胞は、例えば、視細胞と推定できる。
【0045】
実施形態1において、信号光として、CH2伸縮およびSHGを用いる場合を例にあげて説明したが、他の信号光を用いてもよい。具体例として、前記被検細胞として骨系の細胞を検出する場合、前記信号光として、961Raman shift/cm-1を使用することにより、PO4
3-を検出できる。
【0046】
<細胞の製造方法および製造装置>
本発明の細胞の製造方法は、前述のように、被検細胞を観察する観察工程と、前記被検細胞の細胞種を推定する推定工程と、前記所定の細胞種の被検細胞を選抜する選抜工程とを含み、前記観察工程は、コヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)顕微鏡を用いて実施され、前記推定工程は、前記本発明の細胞種の推定方法により実施される。また、本発明の細胞の製造装置は、被検細胞を観察可能な観察ユニットと、前記被検細胞の細胞種を推定する推定ユニットと、前記所定の細胞種の被検細胞を選抜する選抜ユニットとを含み、前記観察ユニットは、コヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)顕微鏡を含み、前記推定ユニットは、前記本発明の細胞種の推定装置を含む。本発明の製造方法および製造装置は、前記被検細胞の細胞種の推定を、前記本発明の推定方法または推定装置で実施することが特徴であり、その他の構成および条件は、特に制限されない。本発明によれば、対象細胞が生きた状態で、細胞種を推定可能であるため、所定の細胞種の細胞を生きた状態で製造できる。本発明の製造方法および製造装置は、前記本発明の推定方法および推定装置の説明を援用できる。
【0047】
(実施形態2)
図4に、本実施形態における製造装置のブロック図を示す。
図4に示すように、本実施形態の製造装置20は、推定ユニットとして、実施形態1の推定装置10を備え、さらに、観察ユニット113および選抜ユニット114を含む。観察ユニット113は、被検細胞を観察可能である。観察ユニット113は、例えば、明視野顕微鏡、実体顕微鏡、位相差顕微鏡、微分干渉顕微鏡、偏光顕微鏡、蛍光顕微鏡、共焦点レーザ顕微鏡、全反射照明蛍光顕微鏡、ラマン顕微鏡、CARS顕微鏡等の光学顕微鏡があげられる。観察ユニット113は、CARS顕微鏡を含むことが好ましい。この場合、観察ユニット113は、他の光学顕微鏡を含んでもよい。選抜ユニット114は、所定の細胞種の被検細胞を選抜する。選抜ユニット114は、例えば、所定の細胞種の被検細胞を回収または維持できればよく、具体例として、被検細胞にレーザを照射可能なレーザ照射ユニット、特定の細胞を回収可能な回収ユニット等があげられる。前者の場合、レーザ照射ユニットは、例えば、前記所定の細胞種の被検細胞にレーザを照射し、剥離することにより回収してもよいし、前記所定の細胞種以外の細胞にレーザを照射し、剥離または致死させることにより実施してもよい。後者の場合、前記回収ユニットは、例えば、スカラーロボットとスクレーパー等の組合せがあげられる。これらの点を除き、実施形態2の製造装置20は、実施形態1の推定装置10と同様の構成を有し、その説明を援用できる。
【0048】
つぎに、
図4の製造装置における処理の一例を、
図5のフローチャートに基づいて説明する。
【0049】
まず、観察ユニット113により、被検細胞を観察する(S3、観察工程)。これにより、被検細胞の細胞種の推定に必要な、CARS顕微鏡により取得される信号光を取得する。S3工程は、実施形態1におけるCARS顕微鏡による信号光の取得と同様にして実施できる。
【0050】
つぎに、実施形態1の推定方法におけるS1工程およびS2工程と同様にして、推定ユニットである推定装置10により、被検細胞の細胞種を推定する(推定工程)。
【0051】
さらに、選抜ユニット114により、所定の細胞種の被検細胞を選抜する(S4、選抜工程)。前記所定の細胞種は、特に制限されず、任意の細胞種とできる。選抜ユニット114による選抜は、例えば、所定の細胞種の被検細胞を回収することにより実施してもよいし、所定の細胞種以外の被検細胞を除去することにより実施してもよい。具体例として、前記多能性細胞から、特定の分化細胞を誘導する場合、前記所定の細胞種は、例えば、特定の分化細胞である。このため、S4工程では、選抜ユニット114により、特定の分化細胞を回収する、また、特定の細胞種以前の細胞を除去することにより、前記特定の分化細胞を選抜できる。
【0052】
<観察方法および観察装置>
本発明のコヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)を用いた観察方法は、前述のように、被検細胞を観察する観察工程と、前記被検細胞の細胞種を推定する推定工程と、所定の細胞種の被検細胞を再度観察する再観察工程とを含み、前記観察工程は、コヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)顕微鏡を用いて実施され、前記推定工程は、前記本発明の細胞種の推定方法により実施される。本発明のコヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)を用いた観察装置は、被検細胞を観察可能な観察ユニットと、前記被検細胞の細胞種を推定する推定ユニットと、前記観察ユニットを制御可能な制御ユニットとを含み、前記観察ユニットは、コヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)顕微鏡を含み、前記推定ユニットは、本発明の細胞種の推定装置を含み、前記制御ユニットは、前記被検細胞のうち、所定の細胞種と推定された細胞について、前記観察ユニットにより再観察を実施する。本発明の観察方法および観察装置は、前記被検細胞の細胞種の推定を、前記本発明の推定方法または推定装置で実施することが特徴であり、その他の構成および条件は、特に制限されない。本発明によれば、対象細胞が生きた状態で、細胞種を推定可能であるため、所定の細胞種の細胞について、生きた状態でさらなる観察を行なうことができる。本発明の観察方法および観察装置は、前記本発明の推定方法、推定装置、製造方法および製造装置の説明を援用できる。
【0053】
(実施形態3)
図6に、本実施形態における観察装置のブロック図を示す。
図6に示すように、本実施形態の観察装置30は、観察ユニット113および推定ユニット31を備える。推定ユニット31は、取得手段111、推定手段112、および制御ユニット115を備える。制御ユニット115は、観察ユニット113を制御可能であり、被検細胞のうち、所定の細胞種と推定された細胞について、観察ユニット113により再観察を実施する。これらの点を除き、実施形態3の観察装置は、実施形態1の推定装置10または実施形態2の製造装置20と同様の構成を有し、その説明を援用できる。
【0054】
つぎに、
図6の観察装置における処理の一例を、
図7のフローチャートに基づいて説明する。
【0055】
まず、実施形態2の製造方法と同様に、観察ユニット113により被検細胞を観察する(S3、観察工程)。つぎに、実施形態1の推定方法におけるS1工程およびS2工程と同様にして、得られた信号光に基づき、被検細胞の細胞種を推定する(推定工程)。
【0056】
さらに、制御ユニット115は、観察ユニット113を制御し、観察ユニット113により、所定の細胞種の被検細胞を再度観察する(S5、再観察工程)。
【0057】
<学習済モデルの製造方法および製造装置>
本発明の細胞種の推定に用いる学習済モデルの製造方法は、前述のように、被検細胞のコヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)顕微鏡を用いて取得された信号光を取得する取得工程と、前記信号光と、前記被検細胞の細胞種との組を教師データとして、前記信号光から被検細胞の細胞種の推定結果を出力する学習済モデルを生成する学習工程とを含む。また、本発明の細胞種の推定に用いる学習済モデルの製造装置は、被検細胞のコヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)顕微鏡を用いて取得された信号光を取得する取得手段と、前記信号光と、前記被検細胞の細胞種との組を教師データとして、前記信号光から被検細胞の細胞種の推定結果を出力する学習済モデルを生成する学習手段とを含む。本発明の学習方法および学習装置は、被検細胞についてCARS顕微鏡を用いて取得された信号光と、被検細胞の細胞種との組を教師データとして、前記信号光から被検細胞の細胞種の推定結果を出力する学習済モデルを生成することが特徴であり、その他の構成および条件は、特に制限されない。本発明の学習済モデルの製造方法および製造装置によれば、対象細胞が生きた状態で、細胞種を推定可能な学習済モデルを製造できる。本発明の学習方法および学習装置は、前記本発明の推定方法、推定装置、製造方法、製造装置、観察方法および観察装置の説明を援用できる。
【0058】
(実施形態4)
図8に、本実施形態における学習装置のブロック図を示す。
図8に示すように、本実施形態の学習装置40は、取得手段111および学習手段116を備える。
図8に示すように、取得手段111および学習手段116は、ハードウェアであるデータ処理手段(データ処理装置)11に組み込まれてもよく、ソフトウェアまたは前記ソフトウェアが組み込まれたハードウェアでもよい。データ処理手段11は、CPU等を備えてもよい。また、データ処理手段11は、例えば、前述のROM、RAM等を備えてもよい。取得手段111は、実施形態1の推定装置10における取得手段111と同様であり、その説明を援用できる。
【0059】
つぎに、
図8の学習装置における処理の一例を、
図9のフローチャートに基づいて説明する。
【0060】
まず、実施形態1の推定方法のS1工程と同様に、取得手段111により、CARS顕微鏡を用いて取得された信号光を取得する。前記被検細胞の数は、特に制限されず、任意の数とできる。前記被検細胞が複数の場合、各被検細胞の細胞種は、同じでもよいし、異なってもよい。後者の場合、一部の被検細胞は、細胞種が重複することが好ましい。具体例として、前記多能性細胞、前記外胚葉系細胞、前記中胚葉系細胞および前記内胚葉系細胞かを推定可能な学習済モデルを生成する場合、前記被検細胞としては、細胞種を確認した前記多能性細胞、前記外胚葉系細胞、前記中胚葉系細胞および前記内胚葉系細胞を用いることが好ましい。また、各細胞は、複数が好ましい。
【0061】
つぎに、学習手段116は、前記信号光と、前記被検細胞の細胞種との組を教師データとして、前記信号光から被検細胞の細胞種の推定結果を出力する学習済モデルを生成する(S6、学習工程)。具体的には、各被検細胞について、S1工程で得られた信号光と、被検細胞の細胞種とを関連付ける。関連付ける信号光は、S1工程で得られた信号光のスペクトル全体でもよいし、特定の信号光でもよい。後者の場合、特定の信号光は、例えば、CH2伸縮の信号光およびSHGの信号光があげられる。前記特定の信号光を関連付ける場合、本実施形態の学習方法は、例えば、S1工程後、検出手段により、得られた信号において、特定の信号光を検出する。また、前記検出手段は、例えば、特定の信号光のシグナル強度を検出してもよいし、特定の信号光を再構築してえら得られた信号像における信号光の形状を検出してもよい。
【0062】
学習済モデルの生成に用いる機械学習の方法は、特に制限されず、例えば、分類に用いる学習技法を用いることができる。具体例として、前記機械学習の方法としては、例えば、サポートベクターマシン、エクストリーム・ラーニング・マシン、表現学習(Feature learning)等があげられる。本実施形態において、前記機械学習は、教師あり学習を用いているが、半教師あり学習を用いてもよい。前記教師データの数は、複数であり、その上限は特に制限されない。
【0063】
<プログラム>
本発明のプログラムは、前記本発明の推定方法、製造方法、観察方法または学習方法を、コンピュータ上で実行可能なプログラムである。または、本実施形態のプログラムは、例えば、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。前記記録媒体は、例えば、非一時的なコンピュータ可読記録媒体(non-transitory computer-readable storage medium)である。前記記録媒体は、特に制限されず、例えば、ランダムアクセスメモリ(RAM)、読み出し専用メモリ(ROM)、ハードディスク(HD)、光ディスク、フロッピー(登録商標)ディスク(FD)等があげられる。
【実施例0064】
次に、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、下記実施例により制限されない。市販の試薬は、特に示さない限り、それらのプロトコルに基づいて使用した。
【0065】
[実施例1]
CARS顕微鏡により取得した信号光が、細胞の細胞種と関連性を有することを確認した。
【0066】
(1)CARS顕微鏡
実施例1で用いるCARS顕微鏡は、マルチプレックスCARS顕微分光装置を用いた。実施例1で用いたCARS顕微鏡の光学系の構成の概略図を
図10に示す。
【0067】
光源は、発振波長1064nm、パルス幅800ps、繰り返し周波数33 kHzのcw QスイッチマイクロチップNd:YAGレーザー(A)を用いた。パルス幅がサブナノ秒であり、1cm-1以下程度の線幅を持つ。この出力を二つに分け、一方はω1光として基本波である中心波長1064nmのパルスレーザーを、他方はPCFに導入し、ω2光としてスーパーコンティニュウム光を発生させた。ω1光は、光源本体から出射されるレーザ光をf=400.0 mm(AC254-400-C f=400.0 mm, φ1" Achromatic Doublet, ARC: 1050-1700 nm; Thorlabs)の平凸レンズ(B)でコリメートし、ω2光はPCFから出射された広帯域な波長成分を有するスーパーコンティニュウム光を非軸放物面鏡(Protected Silver Reflective Collimator, 450 nm-20 um, φ4 mm, FC/APC; Thorlabs)(C)に導入することでコリメートし伝搬させた。
【0068】
また、ω1光は伝搬の途中でVariable Neutral Density Filter(VND Filter)(D)と1064nm半波長板(S333-1064-2; 駿河精機社製)(E)を挟んだ。VND Filterは、試料に入射するω1光の光量調整を、1064nm半波長板は後述するSHGアクティブな分子の偏光依存性を確認するために用いた。
【0069】
さらに、ω1光は中心波長1064nm以外にもその短波長側に微弱な成分を含んでおり、検出するCARS光の以外のω1光に含まれる余分なスペクトル成分を効率的にカットするために1064nm narrow Band Pass Filter(1064.1-1 OD7 Ultra Narrow Bandpass; Alluxa)(F)を用いた。前記バンドパスフィルターは、中心波長1064.1nm、半値幅1nmのスペクトル成分のみを透過させる超狭帯域バンドパスフィルターを用いた。
【0070】
ω2光はPCFによって可視域から近赤外域まで緩やかに伸びるブロードなバンドを持っている。ω1光の中心波長1064 nmに対してCARS光の測定に必要なω2光の波長域は1064~1650nm程度までである。そこで、ω2光のコリメート直後に可視光の成分をカットする二つのフィルター1050 nm long Pass Filter(G)、赤外透過フィルター(IR80N; ケンコー光学社製)(H)によってω2光の近赤外域に広がるスペクトル成分のみを十分に透過させた。そして、ω1光とω2光の合波後、二つの光を顕微鏡へと伝搬させた。
【0071】
顕微鏡としては、倒立顕微鏡(eclipse Ti-U、株式会社Nikon社製)をカスタムメイドした正倒立顕微鏡を使用した。顕微鏡の倒立側から対物レンズ(Water immersion, Plan, ×60, 1.27NA; Nikon社製)(J)に入射し、試料に集光されたω1光とω2光によりCARSやSHGといった非線形光学現象が発生する。対物レンズで絞られているため、これらの非線形光学現象は位相整合条件から前方方向に効率よく発生する。焦点で発生した信号光は顕微鏡正立側の対物レンズ(Dry, S Plan Fluor, ×40, 0.60NA; Nikon社製)(K)によって集光、コリメートされた。
【0072】
倒立側対物レンズにより試料面で集光された位置でパワーメーターを用いて測定した平均パワーはそれぞれω1光が最大55 mW、ω2光が最大20 mWであった。実際の測定ではこのうちパワーの高いω1光に前述のVND Filterを用いることでサンプル信号強度の調節を行った。
【0073】
顕微鏡にはハロゲンランプが備え付けられており、試料の光学像をCCDカメラで撮影可能である。顕微鏡内ではω1光とω2光がハロゲンランプの光と同軸に存在するため、倒立側対物レンズ直前のダイクロイックビームスプリッター(FF825-SDi01-25×36×2.0シングルエッジショートパスDichroicビームスプリッター; オプトライン社製)(L)と、正立側対物レンズの直後のダイクロイックミラー(TFMS-30C05-3/20超広帯域誘多膜平面ミラー; シグマ光機社製)(M)とを使用した。
【0074】
顕微鏡に設置したステージは二軸の微小位置決め装置によって制御されるステップモータ式MicroStage(Micro-Stage(2 axis); Mad City Labs)(N)を利用した。さらに前記MicroStageの上に動作範囲75 μm×75 μm×50 μmのピエゾステージ(Nano-LPQ; Mad City Labs社製)(O)を設置し、ミリ単位での面内幅広いストロークに加え、さらに細かいストロークの面内ステージ制御と光軸Z方向、すなわち試料に対しての奥行方向のスキャンを可能とした。MicroStageは非常に高精度の駆動装置により最小ステップサイズ95 nm、最大速度2 mm/secの制御が可能である。
【0075】
つぎに、検出器側の光学系は、以下の通りとした。顕微鏡の正立側対物レンズで集光された信号光は、直後のダイクロイックミラーによって反射され、その後ダイクロイックビームスプリッター(FF685-Di02-25×36 685 nm シングルエッジDichroicビームスプリッター; Semrock社製)(P)によって、近赤外域のCARS光を透過させ、可視域の光は反射させた。
【0076】
可視域の光について、633nm short Pass Filter(Q)により可視域外の励起光由来のバックグラウンドを遮断し、その後f=65 mmの平凸レンズ(R)により分光器(Z-300 Series; LUCIR社製)(S)に集光させた。前記分光器を接続したPC上でソフトウェア(Ementool; Zolix社製)によって制御を行った。本実施例では、Grating Groove 300本/mm、Grating Blaze 500 nm、分光器の中心波長410 nmに設定した。SHGの検出には電子冷却CCDカメラ(iVac300; Andor社製)(T)を用いた。
【0077】
近赤外域の光はダイクロイックビームスプリッターを透過し、1064nm notch Filter(1064 Narrow ノッチフィルター; Iridian社製)(U)と1050nm short Pass Filter(3RD1050SP; Omega)(V)によってω1光とω2光を遮断し、CARS光のみを分光器へと導光した。
【0078】
1064nm notch Filterと1050nm short Pass Filterとを透過後、CARS光はf=25 mmの平凸レンズで分光器(Acton Series LS785; Princeton Instruments社製)(X)によって波長ごとに分光され、電子冷却CCDカメラ(PIXIS 100BR; Princeton Instruments社製)(Y)で検出した。PIXIS 100BR、iVac 316、およびiVac300は、それぞれPC上のソフトウェア(LightField; Princeton Instruments社製、Andor SOLIS; Andor社製)によって制御されている。
【0079】
(2)被検細胞
被検細胞としては、iPS細胞(HiPS-WTc11 (GM25256))と、前記iPS細胞から分化誘導した、外胚葉系細胞、中胚葉系細胞、および内胚葉系細胞とを用いた。各細胞は、24ウェルディッシュ内にプレパラートを配置し、プレパラート上で培養した。各細胞は以下のように調製した。iPS細胞はプレートに播種している細胞を回収し、再度2500細胞/cm2となるように播種した。iPS細胞の培養には、Supplement BおよびSupplement Cを添加したStem Fit AK02N(味の素社製)を使用した。また、外胚葉系細胞、中胚葉系細胞、および内胚葉系細胞は、iPS細胞を2500細胞/cm2となるように播種し、1日培養後、Supplement Cを含まないStem Fit AK02N培地に置換した。この際に、外胚葉系細胞を誘導する場合、前記培地に、10μmol/L SB431542(4-[4-(1,3-benzodioxol-5-yl)-5-(2-pyridinyl)-1H-imidazol-2-yl]benzamide(ALK阻害剤)、和光純薬工業)および10μmol/L DMH1(4-[6-(4-Isopropoxyphenyl)pyrazolo[1,5-a]pyrimidin-3-yl]quinoline, 4-[6-[4-(1-Methylethoxy)phenyl]pyrazolo[1,5-a]pyrimidin-3-yl]-quinoline(BMP阻害剤)、和光純薬工業)となるように、各化合物を添加した。また、中胚葉系細胞を誘導する場合は、前記培地に、3μmol/L CHIR99021(6-[[2-[[4-(2,4-Dichlorophenyl)-5-(5-methyl-1H-imidazol-2-yl)-2-pyrimidinyl]amino]ethyl]amino]-3-pyridinecarbonitrile(GSK3阻害剤)、和光純薬工業)および10ng/mL ヒトリコンビナントBone Morphogenetic Protein 4(和光純薬工業)となるように、化合物およびタンパク質を添加した。さらに、内胚葉系細胞を誘導する場合は、3μmol/L CHIR99021(和光純薬工業)および10ng/mL ヒトリコンビナントActivin A(和光純薬工業)となるように、化合物およびタンパク質を添加した。そして、各細胞について、4日間以上培養した。
【0080】
(3)測定
培養後の各細胞を含むプレパラートをスライドグラスにマウントし、前記実施例1(1)のCARS顕微鏡で、信号光を取得した。そして、得られたCH
2伸縮およびSHGの信号光を再構築し、CH
2対称伸縮振動の像(CH
2伸縮像)およびSHG像を作製した。これらの結果を
図11に示す。
【0081】
図11は、CH
2伸縮像およびSHG像を示す写真である。
図11において、(A)は、iPS細胞の結果を示し、(B)は、外胚葉系細胞の結果を示し、(C)は、中胚葉系細胞の結果を示し、(D)は、内胚葉系細胞の結果を示す。また、
図11において、上段は、SHG像を示し、下段は、CH
2伸縮像を示す。
図11(A)~(D)の上段において矢印Xで示すように、SHG像として、iPS細胞では、フィラメント状のSHG像が観察され、外胚葉系細胞では、シグナル強度が強い粒状のSHG像が観察され、中胚葉系細胞では、メッシュ状のSHG像が観察され、内胚葉系細胞では、SHG像が観察されなかった。このため、各細胞の細胞種について、SHG像のシグナル強度および形状に基づき、推定できることがわかった。また、
図11(A)~(D)の下段に示すように、CH
2伸縮像として、iPS細胞では、広い範囲でCH
2伸縮像が観察され、かつCH
2伸縮像内に大きなシグナルの欠如する領域(細胞核)が観察され、外胚葉系細胞では、広い範囲でCH
2伸縮像が観察され、かつCH
2伸縮像内に中程度のシグナルの欠如する領域(細胞核)が観察され、中胚葉系細胞では、粒状のCH
2伸縮像が観察され、内胚葉系細胞では、シグナル強度が強い粒状のCH
2伸縮像が観察された。このため、各細胞の細胞種について、CH
2伸縮像のシグナル強度および形状に基づき、推定できることがわかった。
【0082】
以上のことから、CARS顕微鏡により取得した信号光が、細胞種と関連性を有し、前記信号光に基づき、細胞種を推定できることがわかった。
【0083】
以上、実施形態および実施例を参照して本発明を説明したが、本発明は、上記実施形態および実施例に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。
【0084】
<付記>
上記の実施形態および実施例の一部または全部は、以下の付記のように記載されうるが、以下には限られない。
(付記1)
被検細胞について、コヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)顕微鏡を用いて取得された信号光を取得する取得工程と、
前記信号光に基づき、前記被検細胞の細胞種を推定する推定工程とを含む、細胞種の推定方法。
(付記2)
前記信号光は、CH2伸縮の信号光および第二高調波の信号光の少なくとも一方である、付記1記載の推定方法。
(付記3)
前記CH2伸縮の信号光は、CH2対称伸縮振動の信号光またはCH2はさみ変角振動の信号光である、付記2記載の推定方法。
(付記4)
前記推定工程において、前記信号光におけるCH2伸縮の信号光のシグナル強度に基づき、前記被検細胞の細胞種を推定する、付記1から3のいずれかに記載の推定方法。
(付記5)
前記推定工程において、前記信号光における第二高調波の信号光の形状およびシグナル強度の少なくとも一方に基づき、前記被検細胞の細胞種を推定する、付記1から4のいずれかに記載の推定方法。
(付記6)
前記推定工程において、前記被検細胞の細胞種として、多能性細胞、外胚葉系細胞、中胚葉系細胞、または内胚葉系細胞であるかを推定する、付記1から5のいずれかに記載の推定方法。
(付記7)
前記推定工程において、前記信号光と下記条件(1)~(4)とに基づき、前記被検細胞の細胞種を推定する、付記1から6のいずれかに記載の推定方法:
(1)前記信号光におけるCH2伸縮の信号光のシグナル強度が基準値以上であり、かつ前記信号光における第二高調波の信号光のシグナル強度が基準値以下である場合、前記被検細胞は多能性細胞であると推定する;
(2)前記信号光におけるCH2伸縮の信号光のシグナル強度が基準値以上であり、かつ前記信号光における第二高調波の信号光のシグナル強度が基準値以上である、または前記信号光における第二高調波の信号光の形状が粒状である場合、前記被検細胞は、外胚葉系細胞であると推定する;
(3)前記信号光におけるCH2伸縮の信号光のシグナル強度が基準値未満であり、かつ前記信号光における第二高調波の信号光のシグナル強度が基準値以上である、または前記信号光における第二高調波の信号光の形状が網状である場合、前記被検細胞は、中胚葉系細胞であると推定する;および
(4)前記信号光におけるCH2伸縮の信号光のシグナル強度が基準値未満であり、かつ前記信号光における第二高調波の信号光のシグナル強度が基準値未満である場合、前記被検細胞は、中胚葉系細胞であると推定する。
(付記8)
前記推定工程において、前記信号光に基づき、前記被検細胞の細胞種の推定結果を出力する機械学習により生成された学習済みモデルを用いて、前記被検細胞の細胞種を推定する、付記1から7のいずれかに記載の推定方法。
(付記9)
前記被検細胞は、多能性細胞または多能性細胞から誘導された分化細胞である、付記1から8のいずれかに記載の推定方法。
(付記10)
被検細胞について、コヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)顕微鏡を用いて取得された信号光を取得する取得手段と、
前記信号光に基づき、前記被検細胞の細胞種を推定する推定手段とを含む、細胞種の推定装置。
(付記11)
前記信号光は、CH2伸縮の信号光および第二高調波の信号光の少なくとも一方である、付記10記載の推定装置。
(付記12)
前記CH2伸縮の信号光は、CH2対称伸縮振動の信号光である、付記11記載の推定装置。
(付記13)
前記推定手段では、前記信号光におけるCH2伸縮の信号光のシグナル強度に基づき、前記被検細胞の細胞種が推定される、付記10から12のいずれかに記載の推定装置。
(付記14)
前記推定手段では、前記信号光における第二高調波の信号光の形状およびシグナル強度の少なくとも一方に基づき、前記被検細胞の細胞種が推定される、付記10から13のいずれかに記載の推定装置。
(付記15)
前記推定手段では、前記被検細胞の細胞種として、多能性細胞、外胚葉系細胞、中胚葉系細胞、または内胚葉系細胞であるかが推定される、付記10から14のいずれかに記載の推定装置。
(付記16)
前記推定手段において、前記信号光と下記条件(1)~(4)とに基づき、前記被検細胞の細胞種が推定される、付記10から15のいずれかに記載の推定装置:
(1)前記信号光におけるCH2伸縮の信号光のシグナル強度が基準値以上であり、かつ前記信号光における第二高調波の信号光のシグナル強度が基準値以下である場合、前記被検細胞は多能性細胞であると推定する;
(2)前記信号光におけるCH2伸縮の信号光のシグナル強度が基準値以上であり、かつ前記信号光における第二高調波の信号光のシグナル強度が基準値以上である、または前記信号光における第二高調波の信号光の形状が粒状である場合、前記被検細胞は、外胚葉系細胞であると推定する;
(3)前記信号光におけるCH2伸縮の信号光のシグナル強度が基準値未満であり、かつ前記信号光における第二高調波の信号光のシグナル強度が基準値以上である、または前記信号光における第二高調波の信号光の形状が網状である場合、前記被検細胞は、中胚葉系細胞であると推定する;および
(4)前記信号光におけるCH2伸縮の信号光のシグナル強度が基準値未満であり、かつ前記信号光における第二高調波の信号光のシグナル強度が基準値未満である場合、前記被検細胞は、中胚葉系細胞であると推定する。
(付記17)
前記推定手段では、前記信号光に基づき、前記被検細胞の細胞種の推定結果を出力する機械学習により生成された学習済みモデルを用いて、前記被検細胞の細胞種が推定される、付記10から16のいずれかに記載の推定装置。
(付記18)
前記被検細胞は、多能性細胞または多能性細胞から誘導された分化細胞である、付記10から17のいずれかに記載の推定装置。
(付記19)
被検細胞を観察する観察工程と、
前記被検細胞の細胞種を推定する推定工程と、
所定の細胞種の被検細胞を選抜する選抜工程とを含み、
前記観察工程は、コヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)顕微鏡を用いて実施され、
前記推定工程は、付記1から9のいずれかに記載の細胞種の推定方法により実施される、細胞の製造方法。
(付記20)
前記選抜工程は、前記所定の細胞種の被検細胞を回収する、または所定の細胞種以外の被検細胞を除去することにより、前記所定の細胞種の被検細胞を選抜する、付記19記載の細胞の製造方法。
(付記21)
被検細胞を観察可能な観察ユニットと、
前記被検細胞の細胞種を推定する推定ユニットと、
所定の細胞種の被検細胞を選抜する選抜ユニットとを含み、
前記観察ユニットは、コヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)顕微鏡を含み、
前記推定ユニットは、付記10から18のいずれかに記載の細胞種の推定装置を含む、細胞の製造装置。
(付記22)
前記選抜ユニットは、前記所定の細胞種の被検細胞もしくは、所定の細胞種以外の被検細胞を回収する回収手段、または前記所定の細胞種以外の被検細胞にレーザを照射可能なレーザ照射ユニットを含む、付記21記載の細胞の製造装置。
(付記23)
被検細胞を観察する観察工程と、
前記被検細胞の細胞種を推定する推定工程と、
所定の細胞種の被検細胞を再度観察する再観察工程とを含み、
前記観察工程は、コヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)顕微鏡を用いて実施され、
前記推定工程は、付記1から9のいずれかに記載の細胞種の推定方法により実施される、コヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)顕微鏡を用いた観察方法。
(付記24)
被検細胞を観察可能な観察ユニットと、
前記被検細胞の細胞種を推定する推定ユニットと、
前記観察ユニットを制御可能な制御ユニットとを含み、
前記観察ユニットは、コヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)顕微鏡を含み、
前記推定ユニットは、付記10から18のいずれかに記載の細胞種の推定装置を含み、
前記制御ユニットは、前記被検細胞のうち、所定の細胞種と推定された細胞について、前記観察ユニットにより再観察を実施する、コヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)顕微鏡を用いた観察装置。
(付記25)
被検細胞のコヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)顕微鏡を用いて取得された信号光を取得する取得工程と、
前記信号光と、前記被検細胞の細胞種との組を教師データとして、前記信号光から細胞の細胞種の推定結果を出力する学習済モデルを生成する学習工程とを含む、細胞種の推定に用いる学習済モデルの製造方法。
(付記26)
前記信号光は、CH2伸縮の信号光および第二高調波の信号光の少なくとも一方である、付記25記載の製造方法。
(付記27)
前記CH2伸縮の信号光は、CH2対称伸縮振動の信号光である、付記26記載の製造方法。
(付記28)
前記学習工程において、前記信号光として、CH2伸縮の信号光のシグナル強度を用いる、付記25から27のいずれかに記載の製造方法。
(付記29)
前記学習工程において、前記信号光として、第二高調波の信号光の形状およびシグナル強度の少なくとも一方を用いる、付記25から28のいずれかに記載の製造方法。
(付記30)
前記被検細胞は、多能性細胞、外胚葉系細胞、中胚葉系細胞、または内胚葉系細胞を含む、付記25から29のいずれかに記載の製造方法。
(付記31)
被検細胞のコヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)顕微鏡を用いて取得された信号光を取得する取得手段と、
前記信号光と、前記被検細胞の細胞種との組を教師データとして、前記信号光から被検細胞の細胞種の推定結果を出力する学習済モデルを生成する学習手段とを含む、細胞種の推定に用いる学習済モデルの製造装置。
(付記32)
前記信号光は、CH2伸縮の信号光および第二高調波の信号光の少なくとも一方である、付記31記載の製造装置。
(付記33)
前記CH2伸縮の信号光は、CH2対称伸縮振動の信号光である、付記32記載の製造装置。
(付記34)
前記学習手段において、前記信号光として、CH2伸縮の信号光のシグナル強度を用いる、付記31から33のいずれかに記載の製造装置。
(付記35)
前記学習手段において、前記信号光として、第二高調波の信号光の形状およびシグナル強度の少なくとも一方を用いる、付記31から34のいずれかに記載の製造装置。
(付記36)
前記被検細胞は、多能性細胞、外胚葉系細胞、中胚葉系細胞、または内胚葉系細胞を含む、付記31から35のいずれかに記載の製造装置。
(付記37)
被検細胞について、コヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)顕微鏡を用いて取得された信号光を取得する取得処理と、
前記信号光に基づき、前記被検細胞の細胞種を推定する推定処理とを、コンピュータ上で実行可能であるプログラム。
(付記38)
被検細胞のコヒーレント反ストークスラマン散乱(CARS)顕微鏡を用いて取得された信号光を取得する取得処理と、
前記信号光と、前記被検細胞の細胞種との組を教師データとして、前記信号光から被検細胞の細胞種の推定結果を出力する学習済モデルを生成する学習処理とを、コンピュータ上で実行可能であるプログラム。
(付記39)
付記38または39に記載のプログラムを記録している、コンピュータ読み取り可能な記録媒体。
以上のように、本発明によれば、対象細胞が生きた状態で、細胞種を推定可能である。このため、本発明は、細胞、組織等の加工を行なう生命科学分野、再生医療等において、極めて有用である。