(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022049755
(43)【公開日】2022-03-30
(54)【発明の名称】ロービング及びその製造方法、並びにロービングパッケージ
(51)【国際特許分類】
D02G 3/28 20060101AFI20220323BHJP
B65H 51/015 20060101ALI20220323BHJP
【FI】
D02G3/28
B65H51/015
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020155957
(22)【出願日】2020-09-17
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(72)【発明者】
【氏名】寺岡 忠典
(72)【発明者】
【氏名】阿部 次郎
(72)【発明者】
【氏名】阪口 武史
(72)【発明者】
【氏名】大館 和俊
【テーマコード(参考)】
4L036
【Fターム(参考)】
4L036MA04
4L036MA33
4L036PA21
4L036PA46
4L036UA21
(57)【要約】
【課題】ロービングパッケージからの解舒不良を低減することができ、ロービングパッケージから引き出し易い、ロービングを提供する。
【解決手段】2~12本のストランド3により構成されるストランド束2を複数本束ねて合糸されてなるロービング1であって、ストランド束2は、分割率が90%以上である第一ストランド束2aと、分割率が90%未満である第二ストランド束2bを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2~12本のストランドにより構成されるストランド束を複数本束ねて合糸されてなるロービングであって、
前記ストランド束は、
分割率が90%以上である第一ストランド束と、
分割率が90%未満である第二ストランド束と、
を含む、ロービング。
【請求項2】
10mの長さに切断した前記ロービングの撚りを解いて両端を持って水平に引っ張ったときに、水平方向に延びる前記ストランドに対して最も下方に垂れる前記ストランドまでの垂れ幅が、10cm以下である、請求項1に記載のロービング。
【請求項3】
前記第一ストランド束の本数は、前記第二ストランド束の本数よりも多い、請求項1または2に記載のロービング。
【請求項4】
前記ストランド束が、2本のストランドにより構成されている、請求項1~3のいずれか一項に記載のロービング。
【請求項5】
前記第二ストランド束の分割率は、30%以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載のロービング。
【請求項6】
前記第一ストランド束におけるストランドどうしの接着箇所が、前記第一ストランド束100mあたり、100箇所以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載のロービング。
【請求項7】
前記第一ストランド束の分割率は、95%以上である、請求項1~6のいずれか1項に記載のロービング。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のロービングが巻き取られてなる、ロービングパッケージ。
【請求項9】
2~12本のストランドにより構成され、分割率が90%以上である第一巻回体、及び2~12本のストランドにより構成され、分割率が90%未満である第二巻回体を用意する工程と、
前記第一巻回体から引き出された前記ストランドどうしを撚ることにより、第一ストランド束を得るとともに、前記第二巻回体から引き出された前記ストランドどうしを撚ることにより、第二ストランド束を得る工程と、
前記第一ストランド束及び前記第二ストランド束を束ねて合糸することにより、ロービングを得る工程と、
を有する、ロービングの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数本のストランドが巻き取られたケーキから解舒されたストランドを複数本束ねて合糸されてなるロービング、該ロービングの製造方法、並びに該ロービングを用いたロービングパッケージに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス繊維ロービングなどのロービングは、SMC(Sheet Molding Compound)成形や、スプレーアップ成形用の強化繊維基材等として利用されている。このようなロービングは、ケーキに巻き取られたストランドを合糸することにより形成されている。特に、近年では、ストランドを複数本の分割ストランドとして1つのケーキに巻き取り、このケーキを用いてロービングが製造されている。この方法によれば、紡糸工程や合糸工程での作業性を向上させることができる。しかしながら、このようなケーキを用いると、ロービングにループが発生することがあり、その結果ロービングパッケージからロービングが引き出し難いという問題がある。そのため、このループによるロービングの解舒不良を減らす試みがなされている。
【0003】
例えば、下記の特許文献1には、ガラス繊維乾燥ケーキより引き出された分割ストランドを複数合わせたロービングストランド束において、中心部の分割ストランドが周辺部のストランドの解舒撚りにより逐次絡みつけられ、全体として締まった状態に保持される構造が開示されている。特許文献1では、この構造により、乾燥ケーキ内に内在するループを押さえ込めることが記載されている。
【0004】
また、下記の特許文献2では、ロービングの分割率を99%以上とし、分割ストランド間の接着箇所をロービングの長さ100m当たり1箇所以下とする方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3743098号公報
【特許文献2】特許第5266637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1や特許文献2の方法によっても、ロービングの解舒不良を十分に低減することができない。
【0007】
本発明の目的は、ロービングパッケージからの解舒不良を低減することができ、ロービングパッケージから引き出し易い、ロービング、該ロービングの製造方法、並びに該ロービングを用いたロービングパッケージを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るロービングは、2~12本のストランドにより構成されるストランド束を複数本束ねて合糸されてなるロービングであって、前記ストランド束は、分割率が90%以上である第一ストランド束と、分割率が90%未満である第二ストランド束と、を含むことを特徴としている。
【0009】
本発明においては、10mの長さに切断した前記ロービングの撚りを解いて両端を持って水平に引っ張ったときに、水平方向に延びる前記ストランドに対して最も下方に垂れる前記ストランドまでの垂れ幅が、10cm以下であることが好ましい。
【0010】
本発明においては、前記第一ストランド束の本数は、前記第二ストランド束の本数よりも多いことが好ましい。
【0011】
本発明においては、前記ストランド束が、2本のストランドにより構成されていることが好ましい。
【0012】
本発明においては、前記第二ストランド束の分割率は、30%以上であることが好ましい。
【0013】
本発明においては、前記第一ストランド束におけるストランドどうしの接着箇所が、前記第一ストランド束100mあたり、100箇所以下であることが好ましい。
【0014】
本発明においては、前記第一ストランド束の分割率は、95%以上であることが好ましい。
【0015】
本発明に係るロービングパッケージは、本発明に従って構成されるロービングが巻き取られてなる。
【0016】
本発明に係るロービングの製造方法は、2~12本のストランドにより構成され、分割率が90%以上である第一ストランド巻回体、及び2~12本のストランドにより構成され、分割率が90%未満である第二巻回体を用意する工程と、前記第一巻回体から引き出された前記ストランドどうしを撚ることにより、第一ストランド束を得るとともに、前記第二巻回体から引き出された前記ストランドどうしを撚ることにより、第二ストランド束を得る工程と、前記第一ストランド束及び前記第二ストランド束を束ねて合糸することにより、ロービングを得る工程と、を有する、ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ロービングパッケージからの解舒不良を低減することができ、ロービングパッケージから引き出し易い、ロービング、該ロービングの製造方法、並びに該ロービングを用いたロービングパッケージを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るロービング及びロービングパッケージを示す模式的斜視図である。
【
図3】
図3は、接着箇所を説明するための図である。
【
図4】
図4は、ストランド束2を切断した後の概略図である。
【
図5】
図5は、垂れ幅の試験方法を説明するための図である。
【
図7】
図7は、本発明に係るロービングの製造方法において、ケーキを作製する製造装置の一例を説明するための模式図である。
【
図8】
図8は、本発明に係るロービングの製造方法において、ケーキを作製する製造装置の他の例を説明するための模式図である。
【
図9】
図9は、本発明に係るロービングの製造方法において、ケーキを作製する製造装置の他の例を説明するための模式図である。
【
図10】
図10は、本発明に係るロービングの製造方法を説明するための模式的断面図である。
【
図11】
図11は、本発明に係るロービングの製造方法を説明するための模式的断面図である。
【
図12】
図12は、本発明に係るロービングの製造方法を説明するための模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照する場合がある。
【0020】
[ロービング及びロービングパッケージ]
図1は、本発明の一実施形態に係るロービング及びロービングパッケージを示す模式的斜視図である。
図1に示すロービングパッケージ10は、ロービング1が、回転軸Oを中心として巻き取られてなるものである。より具体的には、ロービングパッケージ10は、ロービング1が径方向に層状になるように重ねて巻き取られ、かつ綾掛けされているものである。
【0021】
ロービングパッケージ10は、略円筒形状の構造を有する。従って、ロービングパッケージ10の内周側は空洞となっている。ロービングパッケージ10の中央に、ボビン等の芯が配置されていてもよい。
【0022】
ロービング1は、2~12本のストランド3により構成されるストランド束2を複数本束ねて合糸したものである。ストランド3は、例えば200本以上、10000本以下のガラスフィラメント、及びガラスフィラメントどうしを束ねる有機固形成分により構成される。ストランド3を構成するガラスフィラメントの本数は、8000本以下であることが好ましく、6000本以下であることがより好ましい。なお、
図2では、ストランド束2は2本のストランド3により構成されている。
【0023】
また、ガラスフィラメントの繊維径は、例えば6μm以上、24μm以下である。ガラスフィラメントの繊維径は、20μm以下であることがより好ましく、17μm以下であることがさらに好ましい。ガラスフィラメントの本数及び繊維径を上記の範囲内にある場合、樹脂と複合化した際の複合材の機械的強度をより一層高めることができる。なお、ガラスフィラメントの繊維径は、例えば、後述するガラスフィラメントを製造する際の溶融ガラスの粘度や、巻き取りの際の巻き取り速度等を変更することにより調整することができる。
【0024】
ガラスフィラメントの組成は、特に限定されず、例えば、Eガラス、Sガラス、Dガラス、ARガラス等が挙げられる。これらのなかで、Eガラスは、安価であり、かつ樹脂と複合化した際に複合材の機械的強度をより一層高めることができる。また、Sガラスは、複合材の機械的強度をさらに一層高めることができる。
【0025】
ストランド束2は、2~12本のストランド3が巻き取られた1つのケーキ(巻回体)から引き出して束ねることによって得ることができる。なお、
図2に示す通り、ストランド束2には撚りがかけられている。ストランド束2を構成するストランド3の本数が12本以下であるため、複数本のストランド束2を容易に束ねてロービング1を製造することができる。ストランド束2は、2~6本のストランド3により構成されることにより、より容易に束ねることができるため好ましい。なお、全てのストランド束2を構成するストランド3の本数は2~12本である必要は無く、例えばストランド束は、13本以上のストランド3により構成されていてもよい。また、ロービング1は、2~12本のストランド3により構成されるストランド束2と、1本のストランド3を組み合わせて合糸したものであってもよい。
【0026】
上記のストランド束2は、2種類に分類される。第一に、分割率が90%以上であるストランド束(以下、第一ストランド束2aと記載する)である。第二に、分割率が90%未満であるストランド束(以下、第二ストランド束2bと記載する)である。
【0027】
それぞれのストランド束2の分割率は、以下の式で計算される。
ストランド束の分割率={(ストランド束2の切断により得られたストランド3の総本数)+(ストランド束2の切断により得られた太いストランド3aの本数)}/{(切断していないストランド束2に含まれるストランド3の本数)×100}×100
具体的には、、ロービング1を10mの長さに切断し、切断したロービング1の両端を押さえながら撚りを解いて、複数本のストランド束2に分離する。その際、ストランド3間の接着箇所は剥離させないように、ロービング1をストランド束2に分離する。なお、
図3(a)に示すように、ストランド3どうしの接着箇所以外においては、ストランド3どうしが撚られた状態であるが、
図3(b)に示すように、ストランド3どうしの接着箇所は、ストランド3どうしが接着しながら同じ方向に沿ってストランド3が延伸している。なお、ストランド3間の接着箇所は、集束剤に含まれている有機固形成分により接着している。次に、それぞれのストランド束2について、任意の100箇所を切り出す。なお、切り出したストランド束2の長さは2.5cmである。ストランド束2を2.5cmに切断することにより、ストランド束2はストランド3となる。ただし、
図4に示すように、ストランド3間の接着箇所が存在すると、切断しても、ストランド3よりも太い状態の太いストランド3aが存在することになる。従って、分割率は、ストランド束2を構成するストランド3間における接着箇所数の指標として用いることができ、分割率が小さいほどストランド3間の接着箇所数が多くなることを示している。
【0028】
第一ストランド束2aは、分割率が、90%以上であり、好ましくは95%以上、より好ましくは99%以上である。また、分割率の上限値は、特に限定されないが、例えば、100%とすることができる。
【0029】
第二ストランド束2bは、分割率が、90%未満であり、好ましくは85%以下、より好ましくは75%以下である。また、分割率の下限値は、特に限定されないが、品質上の観点から、例えば、30%とすることができる。
【0030】
また、ロービング1を構成するストランド束2の本数は、例えば、5本以上、100本以下とすることができる。なお、第一ストランド束2aの本数は、4本以上、80本以下とすることができ、第二ストランド束2bの本数は、1本以上、20本以下とすることができる。さらに、第一ストランド束2aの本数は、第二ストランド束2bの本数よりも多いことが好ましい。第二ストランド束2bの方が多いと、樹脂と複合化した際の複合材の機械的強度にばらつきが発生しやすい。なお、第一ストランド束2aと第二ストランド束2bとの本数の比(第一ストランド束/第二ストランド束)は、1~50であることが好ましく、10~25であることがより好ましい。
【0031】
ロービング1の番手は、例えば、1000tex以上、8000tex以下とすることができる。ロービング1に含まれるストランド3の本数は、例えば、10本以上、200本以下とすることができる。ストランド3の番手は、例えば、10tex以上、150tex以下とすることができる。
【0032】
本実施形態において、ロービング1は、分割率が99%未満である。なお、ロービング1の分割率とは、上述に示したストランド束2の分割率の場合とは異なり、ロービング1の両端を押さえながら撚りを解くことなく、ロービング1の任意の100箇所を2.5cmの長さに切り出したときに得られたストランド3の本数及び太いストランド3aの本数から求められる。
【0033】
ロービング1では、分割率が、好ましくは98.5%以下、より好ましくは96%以下である。また、分割率の下限値は、特に限定されないが、製造上の観点から、例えば、60%とすることができる。また、ストランド3どうしの接着箇所が多すぎると、ループ以外の品質上の問題が生じる場合があることから、この点からも、分割率は上記の下限値以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、94%以上であることがさらに好ましい。
【0034】
また、本実施形態では、
図5に示す試験を行ったときに、水平方向に延びるストランドに3b対して最も下方に垂れるストランド3cまでの垂れ幅Lが、10cm以下である。なお、
図5に示す試験は、以下のようにして行うことができる。
【0035】
まず、ロービング1を10mの長さに切断し、切断したロービング1の両端を押さえながら撚りを解いて、ストランド3に分離する。その際、ストランド3間の接着箇所は剥離させないように、ストランド3を分離する。次に、各ストランド3の両端位置を揃えて水平方向xに引っ張る。この際、各ストランド3の両端側は、接着剤などを用いて支持部材3A,3Bに固定する。次に、水平方向xに延びるストランド3bから、最も下方に垂れるストランド3cまでの垂れ幅Lを測定する。なお、垂れ幅Lは、水平方向xに直交する鉛直方向zにおいて、水平方向xに延びるストランド3vと、最も下方に垂れるストランド3cにおける最も下側の部分との距離である。
【0036】
このように、垂れ幅Lは、水平方向Xに延びるストランド3bと、最も下方に垂れるストランド3cとの鉛直方向Yにおける距離を示すため、ストランド3間の糸長差の指標として用いることができ、垂れ幅Lが小さいほどストランド3間の糸長差が小さくなることを示している。
【0037】
ロービング1では、垂れ幅Lが、好ましくは7cm以下、より好ましくは5cm以下である。また、垂れ幅Lの下限値は、特に限定されないが、例えば、0.1cmとすることができる。
【0038】
ロービング1では、ストランド3どうしの接着箇所が、ロービング1の長さ100mに対し、好ましくは100箇所以下、より好ましくは10箇所以下、さらに好ましくは2箇所以下である。ストランドどうしの接着箇所が上記の範囲内にある場合、ループをより一層生じ難くすることができ、ロービングパッケージ10からロービング1をより一層引き出し易くすることができる。
【0039】
ロービングパッケージ10の高さは、例えば、100mm~1000mmの範囲とすることができる。ロービングパッケージ10の内径は、例えば、30mm~350mmの範囲とすることができる。ロービングパッケージ10の外径は、例えば、150mm~800mmの範囲とすることができる。また、ロービングパッケージ10の重量は、例えば、10kg~300kgとすることができる。
【0040】
このように、本実施形態のロービング1では、分割率が90%以上である第一ストランド束2aと、分割率が90%未満である第二ストランド束2bとを含むため、ロービングパッケージ10からのロービング1の解舒不良を低減することができ、ロービングパッケージ10からロービング1を引き出し易い。この詳細を、以下において、
図6を用いながら説明する。
【0041】
従来、1つのケーキ(巻回体)から複数本のストランドを解舒させて、ロービングを製造する場合、複数本のストランド3どうしが接着することに起因する糸長差が存在することがある。この糸長差により、ループが生じ、ロービングパッケージからロービングを引き出し難くなる場合がある。
図6(a)に示すように、分割率が高い第一ストランド束2aのみを使用した場合、一旦ストランド3どうしが接着すると、接着箇所間の糸長差が大きくなってしまい、ループが大きくなる。たとえループの数が少なくても、
図6(a)の右図に示すように、ループが大きいと、ロービングパッケージからロービングを引き出し難い。
一方で、
図6(b)に示すように、分割率が低い第二ストランド束2bのみを使用した場合、ループが小さいものの、ループの数が多いために、ストランド3を束ねた場合、複数のループどうしが絡んでしまい、ロービングパッケージからロービングを引き出し難くなる。
【0042】
これに対して、本実施形態のロービング1は、
図6(c)に示すように、分割率が高い第一ストランド束2aと分割率が低い第二ストランド束2bとが混在している。大きなループは小さなループと絡むものの、小さなループどうしの絡み合いと比較してその頻度は低い。一方で、小さなループと大きなループが絡み合うことにより、大きなループは小さくなる。そのため、ロービングパッケージ10からロービング1を引き出し易くすることができると推測される。
【0043】
以下において、本発明に係るロービング及びロービングパッケージの製造方法の一例を示す。
【0044】
[製造方法]
(ケーキの作製)
図7から
図9は、本発明に係るロービングの製造方法において、ケーキ(巻回体)を作製する製造装置21の一例を説明するための模式図である。
【0045】
まず、複数本のガラスフィラメント22を形成する。初めに、ガラス溶融炉内に投入されたガラス原料を溶融して溶融ガラスとする。この溶融ガラスを均質な状態とした後に、ブッシングに付設された耐熱性を有するノズルから溶融ガラスを引き出す。その後、引き出された溶融ガラスを冷却して複数本のガラスフィラメント(モノフィラメント)22を形成する。なお、ブッシングとしては、例えば、白金製のブッシングを用いることができる。
【0046】
なお、ガラスフィラメント22の太さは、溶融ガラスの温度、ノズルの太さ等により調整することができる。
【0047】
次に、得られた複数本のガラスフィラメント22の表面に、集束剤塗布機構23によって集束剤を塗布する。集束剤が均等に塗布された状態で、複数本のガラスフィラメント22を引き揃え、集束する。複数本のガラスフィラメント22は、例えば、集束シュー24により引き揃え、集束することができる。これにより、有機固形成分の被膜が形成されていない状態のストランド25を形成する。
【0048】
集束剤は、例えば、ポリプロピレン樹脂、ナイロン樹脂、ポリ酢酸ビニル及びポリフェニレンスルフィド樹脂の群から選択された1種以上の熱可塑性樹脂、又は、ポリエステル(不飽和ポリエステル)樹脂、エポキシ樹脂及びポリウレタン樹脂の群から選択された1種以上の熱硬化性樹脂を含有していてもよい。集束剤には、潤滑剤、ノニオン系の界面活性剤及び帯電防止剤等の各成分を添加することも可能であり、これらの成分の配合比については、必要に応じて適宜設定すればよい。
【0049】
次に、トラバース装置26によりストランド25を軸方向に往復させることにより綾掛けを行いながら、例えばコレット27に巻き取る。トラバース装置26としては、ワイヤートラバース等が挙げられる。トラバース装置26が往復移動している間、コレット27は回転している。なお、ガラスフィラメント22の太さは、コレット27の回転速度によっても調整することができる。
【0050】
具体的には、本実施形態では、2本のストランド25a,25bをそれぞれ別々のトラバース装置26a,26bに通して、これらトラバース装置26a,26bを軸方向に往復移動させることにより、ストランド25a,25bをそれぞれ軸方向に往復させることにより綾掛けを行いながら、コレット27に巻き取る。
【0051】
次に、集束剤を加熱乾燥させ、水分を蒸発させる。これにより、ガラスフィラメント22の表面には、有機固形成分により構成された被膜が形成され、コレット27に巻き取られたストランド25a,25bはケーキとなる。なお、トラバース装置26によりストランド25を軸方向に往復させることにより綾掛けを行いながら、例えばコレット27に巻き取る際において、ストランド25a,25bどうしが接触した部分は、水分を蒸発させることにより、接着箇所となる。
【0052】
加熱乾燥の方法としては、例えば、熱風乾燥又は誘電乾燥を用いることが挙げられる。加熱乾燥は、例えば、100℃~150℃の温度範囲において、1時間~24時間行う。これにより、ストランド3が巻き取られてなるケーキ28を得ることができる。
【0053】
本実施形態においては、ストランド3の分割率が90%以上であるケーキ(第一巻回体)とストランド3の分割率が90%未満であるケーキ(第二巻回体)を準備する。ストランド3の分割率は、ストランド25a,25bどうしの接触度合いを調整することにより調整できる。
【0054】
例えば、コレット27に巻き取る際に、綾掛けの速度、トラバース装置26a,26bの移動パターン等を調整することにより、ストランド25a,25bどうしの少なくとも一部が接触する、またはストランド25a,25bどうしが全く接触しないように、ストランド25a,25bをコレット27に巻き取ることができる。
【0055】
このように、ストランド25a,25bどうしの接触を調整することにより得られるケーキの分割率を調整することができる。例えば、トラバース装置26a,26bの往復移動速度を若干異ならせたり、トラバース装置26a,26bの往復移動中において、一方または両方のトラバース装置26a,26bの往復移動速度を規則的、または不規則に変更させたり、トラバース装置26a,26bの形状等を変えることにより上記の通り調整することができる。トラバース装置26a,26bの往復移動速度を変更させることにより、ストランド25a,25bに往復移動方向への慣性力がはたらき、ストランド25a,25bどうしが接触しやすくなる。また、トラバース装置26がワイヤートラバースである場合、ワイヤーの材質や形状を変えることにより、ストランド25a,25bが往復移動方向に滑って移動し、ストランド25a,25bどうしが接触する。
【0056】
例えば、
図7において、トラバース装置26a,26b間の距離を十分に保ちつつ、これらの距離が常に一定となるように往復移動させることにより、ストランド25a,25bどうしの接着を抑制できる。
【0057】
なお、ロービングの製造において、上記のケーキ28以外にも、1本のストランドが巻き取られたケーキや、13本以上のストランドが巻き取られたケーキも併用してもよい。
【0058】
また、
図8に示すように、2本のストランド25a,25bを同じトラバース装置に通してもよい。それによって、ストランド25a,25bどうしの少なくとも一部が接触するように、ストランド25a,25bをコレット27に巻き取り、ロービングの分割率を調整してもよい。例えば、トラバース装置26a,26bの形状や材質を変えることにより、ストランド25a,25bの往復移動方向に加わる慣性力が調整でき、ストランド25a,25bどうしが適度に接触するとともに、ストランド25a,25bの長さの変動が少ないようにすることができる。例えば表面が平滑な材質のトラバース装置26a,26bを用いることにより慣性力がストランド25a,25bにはたらきやすくなり、ストランド25a,25bどうしが接触しやすくなる。
【0059】
さらに、
図9に示すように、4本のストランド25a~25dを用いる場合には、2本のストランド25a,25bを1つのトラバース装置26aに通し、2本のストランド25c,25dを1つのトラバース装置26bに通してもよい。この場合、トラバース装置26aは、コレット27の左半分の範囲内で往復移動し、トラバース装置26bはコレット27の右半分の範囲内で往復移動するようにしてもよい。さらに、綾掛けの速度やトラバース装置26a、26bの形状を調整することにより、ストランド25a,25bとストランド25c,25dの少なくとも一部が接触するように、ストランド25a~25dをコレット27に巻き取ってもよい。なお、3本のストランド25を用いる場合も、同様の方法を適用できるものとする。
【0060】
(ロービング及びロービングパッケージの作製)
図10~
図12は、本発明に係るロービングの製造方法を説明するための模式的断面図である。
【0061】
まず、上述の方法で作製した第一巻回体及び第二巻回体を用意する。例えば第一巻回体を1~18個、第二巻回体を1~10個準備し、これらの巻回体を直列に配置し、ケーキの列とする。なお、第一巻回体と第二巻回体の配置順は適当に決定すればよい。
図10においては、一例として、4個のケーキの列を示す。ここで、
図10における右側を前段とし、左側を後段とする。後段から前段にかけて、ケーキ31A(第一巻回体)、ケーキ31B(第一巻回体)、ケーキ31C(第一巻回体)、及びケーキ31D(第二巻回体)をこの順序において配置する。さらに、
図11に示すように、ケーキの列を並列に、例えば、2段~100段配置する。
図11においては、一例として、4個のケーキの列を3段並べた例を示す。なお、本発明においては、ケーキを1個ずつ並列に複数個配置してもよい。また、複数のケーキの内周側には、ボビンが配置されていない。
【0062】
次に、
図10に示すように、ケーキ31A、ケーキ31B、ケーキ31C、及びケーキ31Dにおけるそれぞれの内周側から、ストランドを解舒する。
具体的には、まず、ケーキ31Aにおける2本のストランド32a,32bを束ねてストランド束32として解舒する。なお、
図12(a)に示すように、ストランド32bは、ストランド32aの周りを周回するように解舒する。それによって、ストランド32aに対してストランド32bをケーキ31Aの円周長毎に撚ることができる。
【0063】
次に、ストランド束32を、前段のケーキ31Bの内周側に通す。そして、ケーキ31Bの2本のストランド33a,33bを束ねてストランド束33として解舒し、ストランド束32とともに束ねて束34とする。なお、
図12(b)に示すように、ストランド束32に対してストランド33a,33bをケーキ31Bの円周長毎に撚るものとする。
【0064】
以下同様に、束34を、前段のケーキ31Cの内周側に通し、ケーキ31Cから解舒されたストランド束35により撚られるように束ねて、束36とする。さらに、束36を、ケーキ31Dの内周側に通し、ケーキ31Dから解舒されたストランド束37により撚られるように束ねて、束38とする。
【0065】
次に、
図11に示すように、各列の最終段のケーキ31Dから引き出される各束38を、一つに束ねて合糸することにより、1本のロービング1を得る。
最後に、ロービング1を例えばボビンに巻き取ることにより、
図1に示すロービングパッケージ10を得ることができる。このとき、ロービング1を10kg~300kgになるまで巻き取ることが望ましい。また、巻き取り後、ロービングパッケージ10からボビンを取り除いて用いてもよい。
【0066】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて、さらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0067】
(実施例1)
まず、ブッシングから引き出された複数本のガラスフィラメントを、集束剤を塗布して束ねることにより2本のガラスストランドを得た。このようにして作製した2本のガラスストランドを、ワイヤートラバース装置を用いて、軸方向に往復させることにより綾振りを行いながら、ストランドどうしが全く接触しないようにコレットに巻き取り、集束剤を乾燥させることによりケーキ(第一巻回体)を作製した。なお、第一巻回体の製造に用いたワイヤートラバース装置は、コレットの軸と略平行である軸を有し、軸を中心に回転する回転軸と、当該回転軸から伸びる第一ワイヤーと、回転軸の、第一ワイヤーが伸びる位置から回転軸方向において離れた位置から伸び、かつ回転軸の軸側から見た平面図において、第一ワイヤーと異なる位置より伸びるとともに、第一ワイヤーよりも短い第二ワイヤーと、第一ワイヤーと第二ワイヤーの端部どうしを結ぶ直線状の第三ワイヤーとを備えた複数のワイヤーとを有している。なお、第一巻回体に巻き取られたストランドの分割率は100%である。
【0068】
次に、2本のガラスストランドを、ワイヤートラバース装置を用いて、軸方向に往復させることにより綾振りを行いながら、ストランドどうしの一部が接触するようにコレットに巻き取り、集束剤を乾燥させることによりケーキ(第二巻回体)を作製した。なお、第二巻回体の製造に用いたワイヤートラバース装置は、第三ワイヤーが曲線状であること以外は、第一巻回体の製造に用いたものと同じである。また、第二巻回体に巻き取られたストランドの分割率は52%である。
【0069】
次に、作製したケーキを30個並べ(第一巻回体29個、第二巻回体1個)、各ケーキの内周側からそれぞれ2本のストランドを解舒して撚ることにより得られたストランド束を束ねてロービングを作製した。
【0070】
なお、ケーキの分割率は、上記の第一巻回体及び第二巻回体をから引き出したストランドを2.5cmの長さとなるように100箇所で切断し、それぞれ切り出されたロービングから分散させたストランドの本数を実測し、下記式により分割率を算出した。
分割率=X/(2×100)×100(%)
X:ストランドの実測本数(太いストランドを含む本数)の平均値
なお、分割率は、ロービングの先端から4100m、8200m、12300m、16400m、20500m、24600m、28700mの地点から、2.5cmの長さとなるように100個採取して測定し(4100m、8200mは15個、12300m、16400m、20500m、24600m、18700mは14個)、その平均値を求めた。
【0071】
(比較例1)
上記の第二巻回体を30個並べ、各巻回体の内周側からそれぞれ2本のストランドを解舒して撚ること以外は実施例1と同じ方法でロービングを作製した。
【0072】
(比較例2)
第三ワイヤーが曲線状であるトラバース装置を用いてストランドの分割率が93%のケーキを得た。なお、上記の実施例及び比較例で得た第二巻回体との製造方法の違いとしては、トラバースの往復パターンを変更したことである。具体的には、コレットへの巻き取り開始時点における2本のストランド間の間隔が異なることにより、分割率が変化する。第二巻回体は、比較例2のケーキを製造する場合と比較して、ストランド間の間隔が小さい。
そして、上記のケーキを30個並べ、各巻回体の内周側からそれぞれ2本のストランドを解舒して撚ること以外は実施例1と同じ方法でロービングを作製した。
【0073】
(垂れ幅の測定)
10mの長さのロービングの撚りを解いて、ストランドに分離した。この際、
図3(b)に示すようなストランド間の接着箇所は剥離させないように、ストランドを分離した。次に、各ストランドの両端位置を揃えて水平方向に引っ張った。次に、水平方向に延びるストランドから、最も下方に垂れるストランドまでの垂れ幅Lを測定した。
なお、垂れ幅は、ロービングの先端から4100m、8200m、12300m、16400m、20500m、24600m、28700mの各地点から、10mのロービングを採取して測定し、その平均値を求めた。
結果を下記の表1に示す。
【0074】
【0075】
表1に示すように、実施例1のロービングパッケージからロービングを引き出した結果、引っ掛かりが全くなかった。一方、比較例1及び比較2のロービングパッケージからロービングを引き出した結果、引っ掛かりが発生した。
【符号の説明】
【0076】
1…ロービング
2,2a,2b…ストランド束
3…ストランド
10…ロービングパッケージ
25,25a~25d…ストランド
26,26a~26b…トラバース装置
27…コレット
28,31A,31B,31C,31D…ケーキ
32,33,35,37…ストランド束
32a,32b,33a,33b…ストランド
34,36,38…束