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特開2022-49789ボールねじの有効径測定システム及び該システムを含む加工装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022049789
(43)【公開日】2022-03-30
(54)【発明の名称】ボールねじの有効径測定システム及び該システムを含む加工装置
(51)【国際特許分類】
   B23Q 17/20 20060101AFI20220323BHJP
   F16H 25/22 20060101ALI20220323BHJP
   G01B 21/10 20060101ALI20220323BHJP
【FI】
B23Q17/20 A
F16H25/22 Z
G01B21/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020156009
(22)【出願日】2020-09-17
(71)【出願人】
【識別番号】000174987
【氏名又は名称】三井精機工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098279
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 聖
(72)【発明者】
【氏名】浅井 岳見
(72)【発明者】
【氏名】石井 武文
【テーマコード(参考)】
2F069
3C029
3J062
【Fターム(参考)】
2F069AA39
2F069GG01
2F069GG62
2F069JJ04
2F069JJ17
3C029BB03
3C029BB10
3J062AA22
3J062AA38
3J062AB22
3J062BA14
3J062CD02
(57)【要約】
【課題】比較的長尺のボールねじの有効径を測定する場合でも、ボールねじの曲がりや振れ止めによる影響等を受けることなく正確に測定すると共に、それを所望の寸法に補正加工する。
【解決手段】加工対象であるボールねじ軸に加工されたねじ溝の有効径を測定するボールねじの有効径測定システムにおいて、前記ボールねじ軸の外径を測定・評価する第1の工程と、前記ねじ溝の溝底を測定・評価する第2の工程とを有し、前記第1の工程と第2の工程に分けてボールねじの長手方向の対応する位置についての外径と溝底相当の評価の差を算出することでボールねじの有効径の評価を行うシステムを有し、このシステムの評価を用いて補正加工を実行し、補正加工の前後の変化を用いて補正の符号と大きさを自動調整する。
【選択図】 図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工対象であるボールねじ軸に加工されたねじ溝の有効径を測定するボールねじの有効径測定システムにおいて、前記ボールねじ軸の外径を測定・評価する第1の工程と、前記ねじ溝の溝底を測定・評価する第2の工程とを有し、前記第1の工程と第2の工程に分けてボールねじの長手方向の対応する位置についての外径と溝底径相当の評価の差を算出することでボールねじの有効径の評価を行うボールねじの有効径測定システムを有し、この有効径測定システムの評価を用いて補正加工を実行し、補正加工の前後の変化を用いて補正の符号と大きさを自動調整する手段を有することを特徴とするボールねじの有効径の長手方向の分布の補正加工システム。
【請求項2】
加工対象であるボールねじ軸に加工されたねじ溝の有効径を測定するボールねじの有効径測定システムを含む加工装置であって、前記測定システムは、前記ボールねじ軸の外径を測定・評価する第1の工程と、前記ねじ溝の溝底を測定・評価する第2の工程とを有し、前記第1の工程と第2の工程に分けてボールねじの長手方向の対応する位置についての外径と溝底径相当の評価の差を算出することでボールねじの有効径の評価を行い、この有効径測定システムの評価を用いて補正加工を実行し、補正加工の前後の変化を用いて補正の符号と大きさを自動調整する手段を有するボールねじの有効径の長手方向の分布の補正加工システムを備えることを特徴とする加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじを構成するねじ軸の有効径を測定するシステム及び該システムを含む加工装置に関し、特に、ねじ研削盤等を用いてボールねじ軸を生産する現場においてボールねじ軸の有効径の長手方向の分布を加工中に自動的に測定・評価して補正加工するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじは、産業機械やロボットなどに用いられる機械要素であり、外周面にねじ溝を有するねじ軸と、内周面にねじ溝を有するナットと、ねじ軸のねじ溝とナットのねじ溝とからなる転動路に収容された多数のボール(通常は鋼球)とを備え、高い動力伝達効率と位置精度とをもって回転運動の直線運動への変換(あるいは、直線運動の回転運動への変換)を行う。即ち、ボールねじは、外周面に所定のリードで螺旋状のボール転動溝が形成されたねじ軸と、内周面にねじ軸側のボール転動溝と対向する螺旋状のボール転動溝を有し、ボールを介してねじ軸に螺合するナット部材とから構成されており、ねじ軸の回転に応じてナット部材がねじ軸の軸方向へ移動するように構成されている。かかるボールねじは、例えば、工作機械の送りテーブル等をサブマイクロメートル単位で移動させるために用いられるが、その送り精度を確保するために、ボールねじ軸の有効径を測定する必要があり、このための測定方法として、従来、タッチプローブをボールねじ溝に接触させて有効径を測定する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平2-135804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、ボールねじの有効径測定システムとして、典型的には、ボールねじの有効径のワーク長手方向の変化を評価するシステムが種々提案されている。この手法は、直径測定の方法分類上は半径法と呼ばれる形態をとっている。短尺の測定対象の場合には有効な手法であるが、長尺の対象を特に加工機上で測定しようとする場合、マイクロメートルオーダでの評価に難がある。つまり、対象の曲がりを無視できないという問題があり、装置の構成方向によっては重力による変形も無視できない。また、測定システムを加工機と一体とする場合には測定対象であるワークの振れを抑えるため振れ止めと呼ばれるものでワークを押さえつけるが、これによりワークを回転させたときの押さえた位置での振れは押さえ込まれるが、曲がりと言う観点では増えてしまうという難点がある。 図1は、ボールねじの有効径に関する従来の測定方法(半径法)の問題点を説明するための図であり、(A)は、ワーク10が少し太い部分をスタイラス12で測定する場合、(B)は、ワーク10が長手方向のある個所で振れ止め14により支持されている場合に振れ止め14による前進をスタイラス12で測定してしまう場合、をそれぞれ示す。例えば、長手方向に、それぞれ直径を評価しようとした場合、図1に示すように、局所的に直径が増加しているのかそれとも曲がりにより直径は増加していないのにセンサが直径の増加として感じたのか(図1では振れ止め14が押したと仮定している)分解が出来ないという事態を生じる。一方、円筒工作物の外径は、円筒研削盤に数マイクロメートルオーダの円筒度を出せる加工システムもあり、そのオーダで評価するシステムもあるので、外径の円筒度の方が管理する装置を得やすい。
【0005】
本発明は、以上のような事情から為されたものであり、その目的は、半径法による問題点を解消し、比較的長尺のボールねじの有効径を測定する場合でも、ボールねじの曲がりや振れ止めによる影響等を受けることなく、正確に測定すると共に、それを所望の寸法に補正加工する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的のうちボールねじの有効径の測定を達成するため、本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、溝を除いた外周を測定・評価する工程と溝底を測定・評価する工程を分けてボールねじの長手方向の対応する位置についての外周と溝底相当の評価の差を算出することで有効径の評価を行うことで、曲がりや振れ止めによる影響等を受けることなく、ボールねじの有効径を正確に測定することが可能となることを見出した。
【0007】
即ち、本発明の第1の様相に係るボールねじの有効径測定システムは、加工対象であるボールねじ軸に加工されたねじ溝の有効径を測定するボールねじの有効径測定システムにおいて、前記ボールねじ軸の外径を測定・評価する第1の工程と、前記ねじ溝の溝底を測定・評価する第2の工程とを有し、前記第1の工程と第2の工程に分けてボールねじの長手方向の対応する位置についての外周と溝底でのそれぞれの径分布評価の差を算出することでボールねじの有効径の評価を行うことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の第2の様相に係る加工装置は、加工対象であるボールねじ軸に加工されたねじ溝の有効径を測定するボールねじの有効径測定システムを含み、該測定システムは、前記ボールねじ軸の外周を測定・評価する第1の工程と、前記ねじ溝の溝底を測定・評価する第2の工程とを有し、前記第1の工程と第2の工程に分けてボールねじの長手方向の対応する位置についての外周と溝底相当位置の径の評価の差を算出することでボールねじの有効径の評価を行うことを特徴とする。
【0009】
更に、上述した有効径のボールねじの長手方向の分布の評価を用いれば、補正加工を行い、数マイクロメートルオーダで所望の有効径分布を持つボールねじに加工することも可能である。補正加工を行う場合、補正の係数の大きさと符号を間違えれば、補正加工を繰り返しても所望の値に収束しない。そこで、収束と発散を検知して補正係数を自動調整する機構を加えて、補正加工を安定的に収束させる。この係数の間違いとは典型的には補正をかける方向、直径で扱う数値と半径で扱う数値の混同、および桁数の取り違いによって頻繁に生じ得る。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、比較的長尺のボールねじの有効径を測定する場合でも、曲がりや振れ止めによる影響等を受けることなく、ボールねじの有効径を正確に測定することが可能な上に、更に、補正の係数の大きさと符号を間違えることなく、安定的に補正加工を収束させる技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ボールねじの有効径に関する従来の測定方法(半径法)の問題点を説明するための図であり、(A)は、ワークが少し太い部分をスタイラスで測定する場合、(B)は、ワークが長手方向のある個所で振れ止めにより支持されている場合に振れ止めによる前進をスタイラスで測定してしまう場合、をそれぞれ示す。
図2】本発明の第1の実施形態に係るボールねじの有効径の測定方法を説明するための第1の図であり、(A)は、溝底部の径変動、即ち、ボールねじの溝底を測定した場合の測定値の変動、(B)は、外周部の径変動、即ち、ボールねじの外周を測定した場合の測定値の変動、をそれぞれ示す。(C)は、本図を含む本願での座標系を説明する図である。
図3】本発明の第1の実施形態に係るボールねじの有効径の測定方法における評価の実施例を示す図であり、(A)は、溝底での測定だけで径変動を評価しようとした場合、(B)は、外周での測定だけで径変動を評価しようとした場合、(C)は、溝底での変動評価と外周での変動評価の差、をそれぞれ示す。なお、(A)および(B)の平均値はそれぞれ0になるように調整している。
図4】本発明の第1の実施形態に係るボールねじの有効径の測定方法(螺旋測定の場合)を説明するための第2の図であり、(A)は、溝底を(螺旋)測定している状態、(B)は、外周を(螺旋)測定している状態、をそれぞれ示す。
図5】本発明の第2の実施形態に係るボールねじの有効径の測定方法(長手方向に間欠的に評価する場合)を説明するための図であり、(A)は、プローブの出力を一定にする制御をかけたままZ走査する場合、(B)は、溝周辺を基準として溝底までの距離を評価する場合、(C)は、溝周辺を基準として一定の特定の斜面傾き角度の点までの距離を評価する場合、をそれぞれ示す。
図6】本発明の第2の実施形態に係るボールねじの有効径の測定方法における評価の実施例を示す図であり、有効径の目標からの偏差を示すグラフである。
図7】本発明の第2の実施形態の変形例に係るボールねじの有効径の測定方法を説明するための図であり、レーザ(非接触)変位計を使用する場合を示す。
図8】本発明の第1の実施形態の変形例に係るボールねじの有効径の測定方法を利用して補正加工を行い、補正が収束しない例を説明するための図である。
図9】本発明の第1の実施形態の変形例に係るボールねじの有効径の測定方法を利用して補正加工を行い、補正が収束する条件を説明するための図である。
図10】本発明の第1の実施形態の変形例に係るボールねじの有効径の測定方法を利用して補正加工を行うと補正が収束するが、繰り返し数が多く必要になる例を説明するための図である。
図11】本発明の第1の実施形態の変形例に係るボールねじの有効径の測定方法を利用して補正加工を行うシステムのフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず、本発明の理解を容易にするため、ボールねじの有効径の測定に関する従来の測定方法の問題点について説明しておく。図1は、その問題点を説明するための図であり、上述したように半径法を用いて有効径を測定する従来の方法の一例を示している。図1において、(A)は、ワーク10が少し太い部分をスタイラス12で測定する場合、(B)は、ワーク10が長手方向のある個所で振れ止め14により支持されている場合に、振れ止め14による前進をスタイラス12で測定してしまう場合、をそれぞれ示す。図1(A)に示すように、ワーク10が少し太い部分をスタイラス12で測定することは可能である。しかしながら、図1(B)に示すように、長尺のボールねじ(長い弾性体円筒と評価できる)の所々が振れ止め14で支持される場合には、振れ止め14で抑えられてスタイラス12方向に前進してしまう分が測定値に混入してしまうので、振れ止め14で抑えられた長い弾性体円筒の直径を半径法で測定しても、マイクロメートルオーダの直径の評価はできない、という難点がある。
【0013】
そこで、本発明者は、以下に詳述するように、有効径を測定する場合に、ボールねじ(軸)の外周を測定・評価する第1の工程と、ねじ溝の溝底を測定・評価する第2の工程とに分けてボールねじの長手方向の同じ位置についての外径と溝底相当部の径の評価の差を算出することでボールねじの有効径の評価を行うことを見出した。図2は、本発明の第1の実施形態に係るボールねじの有効径の測定方法を説明するための図であり、(A)は、溝底部の径変動、即ち、ボールねじの溝底部を測定した場合の測定値の変動、(B)は、外周部の径変動、即ち、ボールねじの外径を測定した場合の測定値の変動、をそれぞれ示す。 即ち、本実施形態では、ボールねじの有効径の評価システムにおいて、長手方向の有効径変動が図2(A)(B)のように評価される場合、上(A)の評価に対して下(B)の評価分を補正し(減じ)て、有効径の長手方向の変動評価とする。ここで図2(A)(B)の中にZと記載しているが、(C)のように座標系を定義する。即ちワーク10の長手方向にZ軸をとり、それと垂直にX軸をとる。そしてZ軸周りに回転C軸をとる。また、外周部とはワーク10の溝のない部分であり、外周部分で評価される直径を外径と呼ぶ。以降はこの座標の定義を使用する。図3は、その変動評価の実施例を示す図であり、(A)は、溝底部での径変動、(B)は、外周部での径変動、(C)は、溝底部での径変動と外周部での径変動の分布の差、をそれぞれ示す。このように、(A)溝底部の径変動に対して(B)外周部の径変動の評価分を補正し(減じ)て、(C)を得て、これを有効径の長手方向の変動評価とすることで、半径法による問題点を解消し、比較的長
尺のボールねじの有効径を測定する場合でも、ボールねじの曲がりや振れ止めによる影響等を受けることなく、正確に測定することが可能になる。尚、ボールねじの外周の径の長手方向の分布評価(外周部の円筒度の評価)は別システムで行っていても良い。また、ボールねじではなく、ナットの場合には、外径は内径に置き換わることは言うまでもない。
【0014】
図4は、本発明の第1の実施形態に係るボールねじの有効径の測定方法(螺旋測定の場合)を説明するための第2の図であり、(A)は、ワーク10の溝底をスタイラス12で(螺旋)測定している状態、(B)は、ワーク10の外周をスタイラス12で(螺旋)測定している状態、をそれぞれ示す。即ち、上述した第1の実施形態の測定を行う具体的方法例として、図4(A)に示すように、ワーク10の溝の底にスタイラス12のプローブの先端をあてて螺旋走査させて長手方向の読みの変動を調べる。次に、図4(B)に示すように、ワーク10の溝のない外径部分にスタイラス12のプローブの先端をあてて螺旋走査させて長手方向の読みの変動を調べる。このとき、スタイラス12のプローブはワーク10の振れに相当する成分を拾うがローパスフィルタで濾波して取り除くか、データの位相を揃えて消し去ることが可能である。ただ、通常、ワークには局所的に傷やゴミの付着が見られるので、ローパスフィルタで濾波するのが最適である。このとき濾波の目的が達せられれば、一般的なローパスフィルタでも良いし、いわゆる平滑化である平滑化スプラインや多項式近似、重み付け多項式近似などでも良い。ワークの長手方向の評価の数列同士の差の計算で、その長手方向の位置のずれが問題とならないように、外挿・内挿・補間・間引きなどを入れても良いことは言うまでもない。
【0015】
出来上がった 「溝底部の評価」から「外周部の評価」を減じたものは外周を基準とした溝の深さを表し、これこそ従来の測定方法より正確な「ボールねじの有効径のワーク長手方向の変化の評価」となる。即ち、周辺の外径測定と溝底測定の局所的評価とすることで、ワーク長手方向の長周期の曲がりが有効径の変動評価に与える影響を大きく減じることができる。
【0016】
更に、別測定としてマイクロメータでワークを局所的にはさむなど、ワークの溝のない部分の外径の長手方向の変動が評価できる場合、もしくは溝加工の前の外径の仕上げを行う設備の傾向として必ず一定のテーパ成分が残るなどの事情がある場合には更に補正を加えることができる。 前出の「外周部の評価」を「その場での外径の長手方向での分布評価」と言い今回述べた「外径部の評価」を「事前評価での外径の長手方向での分布評価」と言うことにすると、「溝底部の評価」-「その場での外径の長手方向での分布評価」-「事前評価での外径の長手方向での分布評価」を使用して更に正確な「ボールねじの有効径のワーク長手方向の変化の評価」となる。なお、直径で評価する器具、半径で評価する器具、符号が反転して評価される測定器具などが組み合わされていても適切に係数を調整することはいうまでもない。
【0017】
また、プローブの押し込み方向に校正された送り軸を使用する場合には、プローブの線形性の問題を避けるため、溝底部を測るときと外径を測るときでプローブの出力が概ね同じ程度になるように、校正された送り軸で調整するのが良い。また、可能なら校正された送り軸でプローブを微小に押し込んでプローブの入力と出力の関係をその場で校正し直すと、尚良い。当然、プローブの方も押し込み量と出力の関係が校正されているなど十分な線形性がある場合にはこれは絶対ではない。逆に送り軸の側は校正されていなくてプローブの方が校正されている場合には、プローブの測定範囲内で送り軸の押し込み量の差を小さくするように調整するのが良い。
【0018】
図5は、本発明の第2の実施形態に係るボールねじの有効径の測定方法(長手方向に間欠的に評価する場合)を説明するための図であり、(A)は、プローブのX方向の測定範囲が狭いためにスタイラス12のプローブの出力を一定にするようにプローブを押し込み方向に送る軸(X軸)で制御をかけたまま、ワーク10に対してZ走査する場合、(B)は、ワーク10[図5(A)参照]の溝周辺を基準として溝底までの距離を評価する場合、(C)は、ワーク10[図5(A)参照]の溝周辺を基準として一定の特定の斜面傾き角度の点までの距離を評価する場合、をそれぞれ示す。即ち、本実施形態では、図5(A)に示ように、スタイラス12のプローブの出力が一定になるように制御を加えることも可能である。スタイラス12のプローブの出力の代わりにプローブのX方向の送り装置の位置座標を使用する。この場合には、螺旋に測定するのではなく、スタイラス12を長手方向に直線に動かす。但し、ワーク10[図5(A)参照]の径の評価は長手方向に飛び飛びになる。このとき局所的な傷やゴミの付着が考えられるので、その長手方向に近傍の評価点で平滑化を行うことが最適である。また、振れ止め(図5では図示せず)の押し付けが不十分な場合などに生じやすい振れの影響を考慮するとワーク10[図5(A)参照]を2分の1周など回して数回Z走査をして平滑化ないし平均化する方が良い。ここで、一定の傾きの角度の点までの距離を評価したとしても、設計形状を当てはめれば、ワーク10[図5(A)参照]の溝底に相当する径も推定できるし、ワーク10[図5(A)参照]をボールねじとして使用する場合の有効径も推定でき、評価する項目を他のものと揃えることは可能である。本願では、溝底径に換算しなくても直接使っても良いし、溝底径を推定して使っても良いし有効径に換算してから使っても良いので、これを溝底径相当と定義する。
【0019】
図6は、本発明の第2の実施形態に係るボールねじの有効径の測定方法における評価の一実施例を示す図であり、有効径の目標からの偏差を示すグラフである。即ち、図6は、第2の実施形態にて得られた評価例として、第1の実施形態における図3(C)に相当するデータである。図6に示すように、上述した第2の実施形態の測定方法にて評価した図示の実施例では、長手方向に飛び飛びに径のデータが得られ、それぞれ有効径の目標から図示のような偏差を示している。
【0020】
図7は、本発明の第2の実施形態の変形例に係るボールねじの有効径の測定方法を説明するための図であり、第2の実施形態のワーク10に対するZ走査をレーザ(非接触)変位計17を使用して行う場合を示す。即ち、図7に示ように、長範囲にわたって線形性の確保ができる非接触の測定器[この例では、レーザ(非接触)変位計17]を利用しても良い。これにより、スタイラス12[図5(A)参照]のプローブの出力が一定になるように制御を加えることを省略することができる。従って、より簡素化した制御で、高速の測定が可能になる。
【0021】
ボールねじの有効径の長手方向の分布の評価が出来ると、これを任意の分布に補正する補正加工に用いることが可能である。ところが、補正に用いる係数が大き過ぎると、補正加工を繰り返しても一定の分布に収束しない場合がある。図8は、補正加工を繰り返しても補正が収束しない場合を説明するための図であり、(a)は補正(の係数)が大きすぎる場合、(b)は補正の符号が間違っている場合、をそれぞれ示す。即ち、補正加工では、切り込み量をボールねじの長手方向で加減するが、その加減の大きさを係数、その加減の方向を符号と表現する。まず、図8(b) に示すように、補正の符号が間違っている場合、1回目の評価、2回目の評価、3回目の評価と補正の評価を繰り返す度に、有効径の長手方向の分布が所望の分布から大きく外れていく。次に、図8(a)に示すように、補正(の係数)が大きすぎる場合、1回目の評価では長さが大きくなる箇所ほど、+側に分布する(グラフは右肩上がりの評価曲線になる)。これに対し、2回目の評価では長さが大きくなる箇所ほど、-側に分布する(グラフは右肩下がりの評価曲線になる)。更に、3回目の評価では、再び長さが大きくなる箇所ほど、+側に分布する(グラフは右肩上がりの評価曲線になる)。このように、符号を間違えれば、補正を繰り返す度に、有効径の長手方向の分布が所望の分布から大きく外れていく。また、符号を間違えるのは避けられたとしても、係数の大きさについては、大きく間違えると、目標の周辺である振幅で発振するようになる。そこで、図9に示すように、適当な範囲の補正係数が求められる。図9は、補正加工を行い、補正が収束する条件を説明するための図である。図9に示すように、補正の係数が適当な範囲内で、且つ補正の符号が間違っていなければ、1回目の評価、2回目の評価、3回目の評価と補正の評価を繰り返す度に、有効径の長手方向の分布が所望の分布に収束していく。一方、図10に示すように、補正係数の絶対値が小さすぎても、補正加工の繰り返しが多く必要になる。図10は、補正が収束するが、繰り返し数が多く必要になる例を示しており、補正係数の絶対値が小さすぎるため、3回目の評価でも、未だ収束しておらず、更に何回もの補正加工の繰り返しが必要になる。
【0022】
図11は、これらの不具合を修正するためのフローの追加を説明するための図である。即ち、図11に示すように、補正加工がスタートすると(S101)、補正前に1回目の評価を行う(S102)。次に、補正加工を行い(S103)、この補正後の評価を行う(S104)。続いて、これら補正前後の評価を比較して許容できる偏差内であるか否か判定する。即ち、補正加工に過不足が無いか、符号に誤りが無いか、を監視し(S105)、許容できる偏差内であれば(S105でYES)、補正加工を終了する(S106)。一方、許容できる偏差内にない場合には(S105でNO)、評価の推移を確認し、係数の調整を行う(S107)。尚、誤りを検出した場合には、収束し易いと思われるように係数の変更を作業者に提示するようにしても良い。もしくは、作業者によらず、自動で係数を変更するようにしても良い。
【0023】
本発明によれば、比較的長尺のボールねじの有効径を測定する場合でも、曲がりや振れ止めによる影響等を受けることなく、ボールねじ軸の外周を測定・評価する第1の工程と、前記ねじ溝の溝底を測定・評価する第2の工程に分けてボールねじの長手方向の同じ位置についての外径と溝底相当の評価の差を算出し、その算出結果を用いて、安定的な補正加工を行う装置を構成することができる。
【符号の説明】
【0024】
10 ワーク、 12 スタイラス、 14 振れ止め、 17 レーザ(非接触)変位計
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11