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  • 特開-殺菌乾燥方法 図1
  • 特開-殺菌乾燥方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022049859
(43)【公開日】2022-03-30
(54)【発明の名称】殺菌乾燥方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 2/08 20060101AFI20220323BHJP
   F26B 17/12 20060101ALI20220323BHJP
   A23L 3/40 20060101ALI20220323BHJP
【FI】
A61L2/08 106
F26B17/12 Z
A23L3/40 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020156119
(22)【出願日】2020-09-17
(71)【出願人】
【識別番号】502313325
【氏名又は名称】内藤 富久
(72)【発明者】
【氏名】内藤 富久
(72)【発明者】
【氏名】平野 保則
(72)【発明者】
【氏名】今津 秀則
【テーマコード(参考)】
3L113
4B022
4C058
【Fターム(参考)】
3L113AA07
3L113AB01
3L113AC03
3L113AC05
3L113AC67
3L113AC85
3L113BA03
3L113DA13
4B022LF01
4B022LR01
4B022LT05
4C058AA21
4C058AA30
4C058BB06
4C058CC07
4C058DD04
4C058EE23
4C058KK05
4C058KK45
(57)【要約】
【課題】食材や種子を、高温の過熱水蒸気と二酸化炭素ガスから照射される赤外線を使い、芽胞菌や細菌などの微生物を構成する水分や有機物分子に共振・共鳴運動を誘発させ微生物を死滅させる殺菌乾燥方法を提供する。
【解決手段】殺菌乾燥方法は、LPG又は灯油を含む炭化水素燃料を空気で燃焼させ酸素濃度を低下させた高温燃焼ガスに、水を混入し過熱水蒸気を生成し、高温燃焼ガスと過熱水蒸気とからなる混合気を所定の温度で殺菌容器に供給する混合気供給工程と、殺菌容器内に混合気を供給しながら、対象物を殺菌容器に通過させる殺菌工程とを備える。殺菌工程において、対象物が乾燥された状態で殺菌容器から排出される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
LPG又は灯油を含む炭化水素燃料を空気で燃焼させ酸素濃度を低下させた高温燃焼ガスに、水を混入し過熱水蒸気を生成し、前記高温燃焼ガスと前記過熱水蒸気とからなる混合気を所定の温度で殺菌容器に供給する混合気供給工程と、
前記殺菌容器内に前記混合気を供給しながら、対象物を前記殺菌容器に通過させる殺菌工程と、を備え、
前記殺菌工程において、前記対象物が乾燥された状態で前記殺菌容器から排出されることを特徴とする殺菌乾燥方法。
【請求項2】
前記混合気は、体積比率で40%~80%の非凝縮性気体を含有し、
前記混合気に含まれる酸素濃度が5%以下であることを特徴とする請求項1に記載の殺菌乾燥方法。
【請求項3】
前記殺菌工程において、前記対象物は、前記殺菌容器内を自然落下しながら通過することを特徴とする請求項1又は2に記載の殺菌乾燥方法。
【請求項4】
前記混合気供給工程において、前記殺菌容器に供給する混合気の温度が300℃~500℃であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の殺菌乾燥方法。
【請求項5】
前記混合気供給工程において、高温燃焼ガスに混入する水の量を制御することにより、前記混合気の温度を制御することを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の殺菌乾燥方法。
【請求項6】
前記対象物は、食材又は種子を含むことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の殺菌乾燥方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殺菌乾燥方法に関するものである。より詳細には、高温燃焼ガスと過熱水蒸気の混合気による食材や種子の殺菌乾燥方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の技術としては、例えば特許文献1に開示されているように、微生物を死滅させる殺菌手段としては、赤外線発生装置を用い、被照射対象物の表面に付着する微生物が赤外線を吸収することにより死滅させる方法が知られている。
【0003】
また、過熱水蒸気を用いて微生物を殺菌する技術としては、例えば特許文献2に開示されているように、微生物が付着した食材を過熱水蒸気に接触させ、その後に殺菌効果の持続と乾燥の目的で酸化カルシウムを添加している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005―110799号公報
【特許文献2】特開2013―212106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、文献1の殺菌方法は、赤外線発生装置を用い食材に付着した微生物の殺菌を行うもので、発生装置が高価である。また、照射のやり方によっては、微生物が被照射物の陰に隠れて、赤外線が微生物に照射できなくなり、殺菌が不十分になる欠点があった。
次に、過熱水蒸気で殺菌する文献2の方法は、食材に過熱水蒸気を接触させた後、殺菌効果の持続と乾燥を目的として酸化カルシウムの添加も必要としている。この方法で用いた過熱水蒸気は非凝縮性気体を含まない水だけでできた水蒸気である。非凝縮性気体を含まない過熱水蒸気は100℃以下に温度が低下すると、全量液体の水に変化する。処理後食材を取り出す時、食材に多量の凝縮水が付着するため別途乾燥工程を設けるか、酸化カルシウムで吸湿する必要がある。この方法では、処理にコストと手間がかかる問題があった。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、高価な赤外線発生装置を用いることなく、被処理物の殺菌効果が高く、また、酸化カルシウム添加等の別途の乾燥工程が不要な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る殺菌乾燥方法は、LPG又は灯油を含む炭化水素燃料を空気で燃焼させ酸素濃度を低下させた高温燃焼ガスに、水を混入し過熱水蒸気を生成し、前記高温燃焼ガスと前記過熱水蒸気とからなる混合気を所定の温度で殺菌容器に供給する混合気供給工程と、前記殺菌容器内に前記混合気を供給しながら、対象物を前記殺菌容器に通過させる殺菌工程とを備える。また、前記殺菌工程において、前記対象物が乾燥された状態で前記殺菌容器から排出されることを特徴とする。本発明に係る殺菌乾燥方法では、混合気を殺菌容器内に供給し、対象物を殺菌容器に通過させることにより、対象物に付着した微生物を効果的に殺菌することができる。混合気には、過熱水蒸気の他に酸素濃度を低下させた高温燃焼ガスが含まれるので、対象物が乾燥された状態で前記殺菌容器から排出される。さらに、高温燃焼ガスの酸素濃度を低下させることで対象物の酸化を防止することができるとともに、酸化による対象物の品質劣化を低減することができる。
【0008】
また、本発明に係る殺菌乾燥方法は、前記混合気は、体積比率で40%~80%の非凝縮性気体を含有し、前記混合気に含まれる酸素濃度が5%以下であることを特徴としてもよい。混合気は、体積比率で40%~80%の非凝縮性気体を含有するので、対象物を効率的に乾燥することができる。混合気に含まれる酸素濃度が5%以下であるので、対象物の酸化を効果的に防止することができるとともに、酸化による対象物の品質劣化を低減することができる。
【0009】
また、本発明に係る殺菌乾燥方法は、前記殺菌工程において、前記対象物は、前記殺菌容器内を自然落下しながら通過する。殺菌容器内に充満した混合気中を落下する対象物は、落下中にバラバラになり、対象物を均一に殺菌乾燥することができる。
【0010】
また、本発明に係る殺菌乾燥方法は、前記混合気供給工程において、前記殺菌容器に供給する混合気の温度が300℃~500℃であることを特徴としてもよい。
【0011】
また、本発明に係る殺菌乾燥方法は、前記混合気供給工程において、高温燃焼ガスに混入する水の量を制御することにより、前記混合気の温度を制御することを特徴としてもよい。
【0012】
また、本発明に係る殺菌乾燥方法の前記対象物は、食材又は種子を含むことを特徴としてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る殺菌乾燥方法は、混合気を殺菌容器内に供給し、対象物を殺菌容器に通過させることにより、対象物である食材や種子の表面に付着した微生物を短時間で効果的に殺菌することができる。混合気には、過熱水蒸気の他に酸素濃度を低下させた高温燃焼ガスが含まれるので、対象物が乾燥された状態で前記殺菌容器から排出される。さらに、高温燃焼ガスの酸素濃度を低下させることで対象物の酸化を防止することができるとともに、酸化による対象物の品質劣化を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施の形態に関わる、混合気発生装置及び殺菌装置の全体構成を表す概略図
図2】本発明の実施の形態に関わる、混合気発生装置の概略図
【発明を実施するための形態】
【実施例0015】
図1の10で示した混合気発生装置は、実用新案登録第3226378号に示す装置を用いた。その構造を図2に示す。LPGが燃料供給管1から供給され空気供給管2からは空気が供給され燃焼室4で燃焼させて、高温の燃焼ガスを作る。この燃焼ガスは5の混合気製造チャンバーに送られ、3a、3bの噴射ノズルから噴霧された水が高温の燃焼ガスの熱で、過熱水蒸気となる。過熱水蒸気と燃焼ガスの混合気は、混合気出口9から、内径133mm長さ2000mmの縦型円筒炉に供給される。本実施形態の縦型円筒炉が殺菌容器に該当する。混合気は図1で示す混合気導入管20を通して、滅菌・殺菌処理室30となる縦型円筒炉32内に導入される。食材や種子はホッパー31から投入される。投入物は混合気が充満した縦型円筒炉32内を落下しその間に殺菌乾燥され、縦型円筒炉32の下端に到達する。下端に到達した食材や種子はブロワ40で、製品容器50に運ばれる。
【0016】
なお、食材としては、例えば、穀類、豆類、茶葉、コーヒー豆、カカオ豆、山椒の果実などのスパイスが例示される。また、種子としては、例えば、米、大豆などが例示される。しかし、これらに限らず殺菌容器内を自然落下させ得る食用材料や種子であれば本実施形態の殺菌乾燥方法が適用可能である。
【0017】
過熱水蒸気と燃焼ガスを含む混合気の温度は、燃焼ガスに噴霧する水の量で、比較的容易に制御することができる。例えば、水は蒸発する時、2258J/gの大量の気化熱を奪う。1000℃の高温燃焼ガスに混入する水の量の調整で、前記混合気は1000℃以下の任意の温度に容易に制御できる。一方、ボイラーで作った飽和水蒸気を電気ヒーターで加熱させる、従来の過熱水蒸気発生器では、生成した水蒸気の比熱はおおよそ600J/m3Kであり、少しの加熱ですぐに温度上昇するので水蒸気の温度制御が非常に難しい。
[混合気温度と殺菌性能]
【0018】
次に、混合気温度と殺菌性能について説明する。熱伝導による殺菌の場合、多くの微生物は70℃程度で死滅するが、熱に強い芽胞菌は、120~130℃、1~3秒の加熱(超高温瞬間殺菌)でないと死滅しない。芽胞菌は、熱に強い鞘を作って、その中に閉じこもることで、殺菌から免れている。発熱物体は電磁波を放射し、その電磁波は発熱物体より低い温度の吸収物体に吸収される。混合気中に含まれる、3原子から構成される水蒸気や二酸化炭素分子は、分子が起こす伸縮運動により赤外線を発生する。混合気中の、過熱水蒸気と二酸化炭素の無数の分子それぞれが、赤外線発生装置の役割をし、あらゆる方向に赤外線を放射する。赤外線は低温の食材や種子の水分や、約90%が水分でできていると言われている微生物に吸収される。吸収された赤外線は菌体を構成する水分・たんぱく質に共振・共鳴運動を誘発し、菌体の組織を破壊することで殺菌が行われる。赤外線は、人間の皮膚を透過し深さ0.2mmまで到達すると言われている。芽胞菌は長さ5μm幅1μm程度の大きさなので、赤外線は芽胞菌の鞘を透過して鞘に閉じこもっている菌体は、赤外線を吸収して、温度が上昇して滅菌される。
【0019】
混合気温度と殺菌性能の関係を調べるため、米糠で殺菌テストを行った。その結果を表1に示す。
【表1】

温度が高くなるに連れて殺菌性能が向上し、300℃以上、好ましくは400℃以上の混合気で、十分殺菌ができることが分かった。500℃処理では、殺菌は十分なものの米糠に苦みが感じられた。殺菌が完全で、食味が最高な温度は420℃であったので、以降の試験は420℃の混合気を用いることにした。
[混合気の組成]
【0020】
次に、混合気に含まれる非凝縮性気体について説明する。非凝縮性気体として、酸素、窒素、及び二酸化炭素が含まれる。これらのガスを含む非凝縮性気体は、混合気の体積比率として、40%~80%程度とすることができる。この混合気中の非凝縮性気体の比率は、燃焼ガスに水を噴霧等して混入する際に、混入する水の量を調整することで調整することができる。混合気中の非凝縮性気体の体積比率が40%以下の場合、米糠の乾燥が不十分であった。また、80%以上では、米糠に焦げが生じた。また、混合気に含まれる酸素濃度は、5%以下とすることができる。混合気に含まれる酸素濃度を5%以下とすることにより、糠等の食材又は種子の酸化を効果的に防止することができる。特に、食材では、酸化することで味や栄養等の品質が変化し劣化する場合があるが、混合気に含まれる酸素濃度を低下することで、食材等の品質劣化を効果的に低減することができる。
【0021】
上述した420℃の混合気の組成を分析した。その結果を表2に示す。
本実施形態では、混合気中の非凝縮性気体は、酸素、窒素、及び二酸化炭素で、その割合は54.1%である。そして凝縮水発生温度は82℃であった。また、混合気に含まれる酸素濃度は、3.9%であった。
【表2】

なお、混合気の温度は、高温燃焼ガスに混入させる水の量によって決まる。温度が高いと混入する水量は少なく、温度が低いと混入する水量は多くなる。それに従い、混合気中の非凝縮性気体の存在比率が変わる。300℃~600℃における非凝縮性気体の存在比率は40%~80%程度で、凝縮水発生温度は60~90℃となり、非凝縮性気体の含有量が少ないと、乾燥度が低下することが確かめられた。
【0022】
水分以外の気体を含まない純粋な過熱水蒸気は、100℃以下になると過熱水蒸気が全量凝縮水となる。この過熱水蒸気で処理した食材や種子の表面には多量の凝縮水が付着し、その時食材や種子には多量の凝縮熱が与えられる。この過度の熱により食材や種子の機能を損なう恐れがある。また、付着した凝縮水を取り除くため、処理後の食材や種子を乾燥させるために別途乾燥工程設ける必要がある。一方、本実施形態では、混合気が、燃焼ガス由来の窒素、二酸化炭素などの非凝縮性ガスを含むので、凝縮水発生温度が60~90℃と、純粋な過熱水蒸気の凝縮水発生温度、100℃に比べて低くすることができる。この結果、食材や種子の表面に凝縮水が発生しにくく、機能を損なう過度な加熱もなく、また処理後の食材や種子を乾燥させる必要も無い。
[各種食材の殺菌乾燥試験]
【0023】
糯米粉、米糠、米粒、大豆粒について、上記システムで420℃の混合気により、落下時間0.4秒の条件で殺菌乾燥処理を行った。その結果を表3に示す。
【表3】

表3に示すように、いずれの処理物も、十分に殺菌乾燥されていることが分かる。また、これらの処理品でパンや御飯を作ったが、味に問題は見られず、この処理で、穀類の食材としての機能が損なわれることはなかった。なお、300℃の混合気でも乾燥試験を行ない、乾燥できることは確認したが、乾燥度は420℃処理に比べ若干劣った。
[大豆の発芽機能試験]
【0024】
また、大豆粒については、処理品と未処理品の発芽試験を寒天培地で行った。その結果を表4に示す。発芽率、芽の成長、根の成長、芽のカビ発生率、全てにおいて処理品が未処理品を上回った。
この処理により大豆の殺菌はされるものの、大豆の種としての機能は損傷されないだけでなく、殺菌により、育成が良くなる効果があることが分かった。
【表4】

従来、種子などに付着した微生物が伝染性の病害の原因となるため、様々な種子殺菌が行われている。また、芽もの野菜の食中毒を防止するため,原料種子の殺菌も行われている。これらの、処理は大掛かりで時間と費用がかかる欠点がある。本発明により、簡単に種子殺菌ができるようになる。
[耐熱芽胞菌殺菌試験]
【0025】
米糠、米粒、大豆粒について、上記システムで420℃の混合気により、落下時間0.4秒の条件で殺菌乾燥処理を行ない、熱に強いと言われる耐熱芽胞菌の殺菌を行った。その結果を表5に示す。いずれの試料も耐熱芽胞菌は陰性となった。本発明のシステムは、耐熱芽胞菌の殺菌にも有効と分かった。
【表5】
【符号の説明】
【0026】
1:燃料供給管
2:空気供給管
3a,3b:噴射ノズル
4:燃焼室
5:混合気製造チャンバー
9:混合気出口
T1,T2,T3:温度計
A:食材又は種子
10:混合気発生装置
20:混合気導入管
30:滅菌・殺菌処理室
40:ブロア
50:製品容器
31:ホッパー
32:縦型円筒体
図1
図2