(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022049901
(43)【公開日】2022-03-30
(54)【発明の名称】覆工コンクリートの加温・保温装置及び加温方法、並びに移動式セントル
(51)【国際特許分類】
E21D 11/00 20060101AFI20220323BHJP
E21D 11/10 20060101ALI20220323BHJP
【FI】
E21D11/00 Z
E21D11/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020156189
(22)【出願日】2020-09-17
(71)【出願人】
【識別番号】501360120
【氏名又は名称】テクノプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐土原 大輔
【テーマコード(参考)】
2D155
【Fターム(参考)】
2D155BA05
2D155BB02
2D155CA03
2D155DA08
2D155KC06
2D155LA05
2D155LA13
(57)【要約】 (修正有)
【課題】覆工コンクリートを所定の圧縮強度まで高める作業を容易に行う覆工コンクリートの加温・保温装置及び加温方法、並びに移動式セントルを提供する。
【解決手段】脱型予定時刻及び目標圧縮強度の入力を受け付ける表示部82と、覆工コンクリートを加温・保温する加温・保温手段と、所定時間毎に覆工コンクリートの内部温度を検出する第1温度センサと、検出した内部温度に基づいて加温・保温手段を制御する制御手段84と、を備える。制御手段84は、目標圧縮強度に基づいて覆工コンクリートの目標積算温度を設定する設定部91と、所定時間毎に第1温度センサが検出した内部温度に基づいて覆工コンクリートの現時点の積算温度を算出し、その積算温度が脱型予定時刻に目標積算温度以上となるように、覆工コンクリートの加温温度を決定する決定部92と、決定した加温温度で加温・保温手段を作動させるように制御する制御部93と、を有する。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルの内壁と型枠との間に打設された覆工コンクリートを加温・保温する加温・保温装置であって、
前記型枠の脱型予定時刻、及び前記覆工コンクリートの目標圧縮強度の入力を受け付ける入力手段と、
前記覆工コンクリートを加温・保温する加温・保温手段と、
所定時間毎に、前記覆工コンクリートの内部温度を検出する第1温度検出手段と、
前記第1温度検出手段が検出した前記内部温度に基づいて前記加温・保温手段を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、
前記目標圧縮強度に基づいて前記覆工コンクリートの目標積算温度を設定する設定部と、
所定時間毎に、前記第1温度検出手段が検出した前記内部温度に基づいて前記覆工コンクリートの現時点の積算温度を算出し、現時点の前記積算温度、前記目標積算温度、及び前記脱型予定時刻に基づいて、前記脱型予定時刻に前記積算温度が前記目標積算温度以上となるように、前記覆工コンクリートの加温温度を決定する決定部と、
決定した前記加温温度で前記加温・保温手段を作動させるように制御する制御部と、を有する、覆工コンクリートの加温・保温装置。
【請求項2】
所定時間毎に、前記トンネルの坑内温度を検出する第2温度検出手段を備え、
前記決定部は、前記目標積算温度に対する現時点の前記積算温度の割合が閾値を超えると、前記第1温度検出手段で検出される前記内部温度が、前記第2温度検出手段で検出される前記坑内温度に近づくように、前記加温温度を決定する、請求項1に記載の覆工コンクリートの加温・保温装置。
【請求項3】
前記覆工コンクリートの周方向に関して分割して設定された複数の加温エリアにおいてそれぞれ前記覆工コンクリートを加温・保温する複数の前記加温・保温手段と、
前記複数の加温エリアにおいてそれぞれ前記覆工コンクリートの温度を検出する複数の前記第1温度検出手段と、を備え、
前記制御手段は、前記加温エリア毎に、当該加温エリアに対応する前記第1温度検出手段が検出した前記内部温度に基づいて、当該加温エリアに対応する前記加温・保温手段を制御する、請求項1又は請求項2に記載の覆工コンクリートの加温・保温装置。
【請求項4】
前記複数の加温エリアにおいてそれぞれ前記覆工コンクリートの打設完了を検出する複数の検出手段を備え、
前記制御手段は、前記加温エリア毎に、当該加温エリアに対応する前記検出手段が前記覆工コンクリートの打設完了を検出すると、当該加温エリアに対応する前記加温・保温手段の制御を開始する、請求項3に記載の覆工コンクリートの加温・保温装置。
【請求項5】
トンネルの内壁と型枠との間に打設された覆工コンクリートを加温する方法であって、
前記型枠の脱型予定時刻、及び前記覆工コンクリートの目標圧縮強度の入力を受け付けるステップと、
前記目標圧縮強度に基づいて前記覆工コンクリートの目標積算温度を設定するステップと、
所定時間毎に、前記覆工コンクリートの内部温度を検出するステップと、
所定時間毎に、検出した前記内部温度に基づいて前記覆工コンクリートの現時点の積算温度を算出し、現時点の前記積算温度、前記目標積算温度、及び前記脱型予定時刻に基づいて、前記脱型予定時刻に前記積算温度が前記目標積算温度以上となるように、前記覆工コンクリートの加温温度を決定するステップと、
決定した前記加温温度で前記覆工コンクリートを加温するステップと、を含む覆工コンクリートの加温方法。
【請求項6】
トンネルの内壁に覆工コンクリートを打設するための型枠と、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の加温・保温装置と、備える移動式セントル。
【請求項7】
前記型枠の坑内側の露出面に断熱塗料が塗布されている、請求項6に記載の移動式セントル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、覆工コンクリートの加温・保温装置及び加温方法、並びに移動式セントルに関する。
【背景技術】
【0002】
トンネルの内面をコンクリートで覆工する場合、トンネル長手方向に移動可能なスライドセントル(移動式セントル)に設けられたアーチ型の型枠を用いて、坑口から切羽側に向かって所定のスパン毎に覆工コンクリートの打設を行う。
この覆工コンクリートは、打設後に一定時間(例えば16時間程度)存置したのち脱型・移動となる工程に進むが、セントル脱型時の初期材齢のコンクリート強度(圧縮強度)が低いと覆工コンクリートのひび割れ等の原因となるため、脱型までの間にコンクリート強度を所定以上に高めることが要求される。
【0003】
そのため、本願出願人は、覆工コンクリートの打設完了から脱型までの間に、覆工コンクリートの温度を所定の圧縮強度を得ることが可能な温度まで加温するヒータユニットを備えた移動式セントルを従前に提案している(下記特許文献1参照)。特許文献1記載の移動式セントルによれば、覆工コンクリートを予め設定された設定温度となるように、ヒータユニットが制御されるようになっている。また、本願出願人は、温度センサで測定した覆工コンクリートの内部温度に基づいて、覆工コンクリートの現時点の圧縮強度を算出して表示する強度推定装置も提案している(下記特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-190594号公報
【特許文献2】特開2012-242346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来は、脱型時において覆工コンクリートを所定の圧縮強度まで高めるために、特許文献2記載の強度推定装置において所定時間毎に表示される現時点の圧縮強度に基づいて、特許文献1記載のヒータユニットの設定温度を、適切な温度になるように作業者によってコントロールする必要がある。しかし、ヒータユニットの設定温度は、坑内温度及びコンクリート打設温度に影響されるので、覆工コンクリートの圧縮強度を促進するための温度コントロールは困難である。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、覆工コンクリートを所定の圧縮強度まで高める作業を容易に行うことができる覆工コンクリートの加温・保温装置及び加温方法、並びに移動式セントルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明は、トンネルの内壁と型枠との間に打設された覆工コンクリートを加温及・保温する加温・保温装置であって、前記型枠の脱型予定時刻、及び前記覆工コンクリートの目標圧縮強度の入力を受け付ける入力手段と、前記覆工コンクリートを加温・保温する加温・保温手段と、所定時間毎に、前記覆工コンクリートの内部温度を検出する第1温度検出手段と、前記第1温度検出手段が検出した前記内部温度に基づいて前記加温・保温手段を制御する制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記目標圧縮強度に基づいて前記覆工コンクリートの目標積算温度を設定する設定部と、所定時間毎に、前記第1温度検出手段が検出した前記内部温度に基づいて前記覆工コンクリートの現時点の積算温度を算出し、現時点の前記積算温度、前記目標積算温度、及び前記脱型予定時刻に基づいて、前記脱型予定時刻に前記積算温度が前記目標積算温度以上となるように、前記覆工コンクリートの加温温度を決定する決定部と、決定した前記加温温度で前記加温・保温手段を作動させるように制御する制御部と、を有する、覆工コンクリートの加温・保温装置である。
【0008】
本発明の加温・保温装置によれば、型枠の脱型予定時刻、及び覆工コンクリートの目標圧縮強度を予め入力すれば、脱型予定時刻に覆工コンクリートの積算温度が目標積算温度以上となるように、所定時間毎に自動的に決定される加温温度で覆工コンクリートを加温することができる。これにより、覆工コンクリートを所定の圧縮強度まで高める作業を容易に行うことができる。
【0009】
(2)前記加温・保温装置は、所定時間毎に、前記トンネルの坑内温度を検出する第2温度検出手段を備え、前記決定部は、前記目標積算温度に対する現時点の前記積算温度の割合が閾値を超えると、前記第1温度検出手段で検出される前記内部温度が、前記第2温度検出手段で検出される前記坑内温度に近づくように、前記加温温度を決定するのが好ましい。
この場合、閾値を適切に設定することで、目標積算温度に対する現時点の積算温度の割合が閾値を超えたときに、覆工コンクリートの加温温度を相対的に低くすることができる。これにより、覆工コンクリートの内部温度をトンネルの坑内温度に近づけることができる。その結果、覆工コンクリートの内部温度とトンネルの坑内温度との温度差が小さくなるので、覆工コンクリートにひび割れが発生するのを抑制することができる。
【0010】
(3)前記加温・保温装置は、前記覆工コンクリートの周方向に関して分割して設定された複数の加温エリアにおいてそれぞれ前記覆工コンクリートを加温する複数の前記加温・保温手段と、前記複数の加温エリアにおいてそれぞれ前記覆工コンクリートの温度を検出する複数の前記第1温度検出手段と、を備え、前記制御手段は、前記加温エリア毎に、当該加温エリアに対応する前記第1温度検出手段が検出した前記内部温度に基づいて、当該加温エリアに対応する前記加温・保温手段を制御するのが好ましい。
【0011】
覆工コンクリートは、トンネルの側部下側から天端部に向けて徐々に時間をかけて覆工コンクリートを打設するため、覆工コンクリートの側部下側の打設が完了してから天端部の打設が完了するまでに数時間の時間差が生じる。これに対して、覆工コンクリートの側部下側と天端部における型枠の脱型は、ほぼ同じタイミングで行われる。このため、覆工コンクリートの側部下側と天端部とでは、打設完了から脱型するまでの時間がそれぞれ異なるので、加温・保温手段による加温時間もそれぞれ異なる。また、加温・保温手段によって温められた空気は坑内の上部に集まるので、覆工コンクリートの側部下側よりも天端部のほうが温まりやすい傾向にある。
【0012】
したがって、覆工コンクリートの周方向に分割された複数の加温エリアでは、それぞれ対応する加温・保温手段の加温時間や温まりやすさが異なるので、各加温エリアの覆工コンクリートを同じ温度で加温すると、覆工コンクリートの側部下側と天端部との間で温度差が生じ、覆工コンクリートの全体で均一の圧縮強度を得ることが困難となる。これに対して、前記(3)の制御手段は、複数の加温エリアにおいて、それぞれ対応する加温・保温手段を個別に制御するので、覆工コンクリートの全体でほぼ均一に圧縮強度を高めることができる。
【0013】
(4)前記加温・保温装置は、前記複数の加温エリアにおいてそれぞれ前記覆工コンクリートの打設完了を検出する複数の検出手段を備え、前記制御手段は、前記加温エリア毎に、当該加温エリアに対応する前記検出手段が前記覆工コンクリートの打設完了を検出すると、当該加温エリアに対応する前記加温・保温手段の制御を開始するのが好ましい。
この場合、複数の加温エリアにおいて、それぞれ覆工コンクリートの打設完了時刻が異なる場合であっても、各加温エリアにおいて覆工コンクリートの打設が完了したときに、加温・保温手段の制御を自動的に開始することができる。これにより、覆工コンクリートを所定の圧縮強度まで高める作業をさらに容易に行うことができる。
【0014】
(5)本発明は、トンネルの内壁と型枠との間に打設された覆工コンクリートを加温する方法であって、前記型枠の脱型予定時刻、及び前記覆工コンクリートの目標圧縮強度の入力を受け付けるステップと、前記目標圧縮強度に基づいて前記覆工コンクリートの目標積算温度を設定するステップと、所定時間毎に、前記覆工コンクリートの内部温度を検出するステップと、所定時間毎に、検出した前記内部温度に基づいて前記覆工コンクリートの現時点の積算温度を算出し、現時点の前記積算温度、前記目標積算温度、及び前記脱型予定時刻に基づいて、前記脱型予定時刻に前記積算温度が前記目標積算温度以上となるように、前記覆工コンクリートの加温温度を決定するステップと、決定した前記加温温度で前記覆工コンクリートを加温するステップと、を含む覆工コンクリートの加温方法である。
本発明の加温方法によれば、前記加温・保温装置と同様の作用効果を奏する。
【0015】
(6)本発明は、トンネルの内壁に覆工コンクリートを打設するための型枠と、前記(1)から(4)のいずれかに記載の加温・保温装置と、備える移動式セントルである。
本発明の移動式セントルによれば、前記加温・保温装置と同様の作用効果を奏する。
【0016】
(7)前記移動式セントルにおいて、前記型枠の坑内側の露出面に断熱塗料が塗布されているのが好ましい。
この場合、断熱塗料により覆工コンクリートの保温効果を高めることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、覆工コンクリートを所定の圧縮強度まで高める作業を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施形態に係る覆工コンクリートの構築システムの全体構成を示す図である。
【
図4】スライドセントルの加温・保温装置を概略的に示す正面説明図である。
【
図5】加温・保温手段を拡大して示す正面断面図である。
【
図8】外面パネル及び保湿養生層を拡大して示す断面図である。
【
図9】覆工コンクリートを構築する際の打設作業及び養生作業の手順を示す図である。
【
図11】制御盤の内部構成を示すブロック図である。
【
図12】制御手段が行う処理を示すフローチャートである。
【
図13】加温・保温装置により覆工コンクリートを加温した場合の経過時間と各種温度・積算温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
[システムの全体構成]
図1は、本発明の実施形態に係る覆工コンクリートの構築システムの全体構成を示す図である。
図1において、この構築システムは、一次覆工されたトンネルTの内周面(内壁)t1に対して、二次覆工コンクリートCを構築するためのシステムであり、二次覆工コンクリートCを打設するためのスライドセントル(移動式セントル)1と、スライドセントル1を用いて打設された二次覆工コンクリート(以下、単に「覆工コンクリート」ともいう)Cの養生を行うための複数の養生装置10とを備えている。
なお、本明細書では、覆工コンクリートを打設し養生するまでを「覆工コンクリートの構築」と呼ぶ。
【0020】
スライドセントル1及び養生装置10は、トンネルT内の床面に敷設されたレールR上を走行可能である。スライドセントル1は、坑口側(
図1の左側)から切羽側(
図1の右側)に向かって所定のスパンに順にセットされ、覆工コンクリートCの打設空間D(
図3参照)を形成する。養生装置10は、スライドセントル1でのコンクリートの打設が完了してから所定時間(例えば、16時間)経過後にスライドセントル1が脱型されたスパンにセットされ、打設後の覆工コンクリートCに対して保温・湿潤養生を行う。
【0021】
[スライドセントルの構成]
図2は、スライドセントル1の正面図であり、
図3は、その側面図である。
図2及び
図3に示されるように、スライドセントル1は、トンネルT内を走行可能な門型台車2と、覆工コンクリートCの内周面を成型するための堰板となる型枠3とを備えている。
【0022】
門型台車2は、基台部2aと、基台部2aを支持する支柱2bとを備えている。支柱2bの下端には、トンネルTの床面に敷設されたレールR上に係合する車輪2cが設けられており、この車輪2cがレールRに沿って転動することで、門型台車2がトンネルT内を走行する。
【0023】
型枠3は、トンネルTの内周面t1にほぼ沿う断面円弧状に形成され、所定のスパンの範囲で内周面t1に対して間隔をあけて覆うようにセットされ、これにより、型枠3の外周面3bとトンネルTの内周面t1との間に覆工コンクリートCが打設される打設空間Dが形成される。
【0024】
型枠3は、覆工コンクリートCの内周面を成型する型枠パネル3fと、この型枠パネル3fの内周側を補強する多数本の補強部材3gとを備えている。
図5にも示されるように、型枠パネル3fは、厚さ数ミリの板材により形成されている。補強部材3gは、溝型鋼等の鋼材により構成され、トンネルTの延長方向に沿って配置されている。多数本の補強部材3gは、覆工コンクリートCの周方向に間隔をあけて配置されている。補強部材3gと型枠パネル3fとの間には、筒状の空間3hが形成されている。なお、補強部材3gは、型枠パネル3fとの間で筒状空間3hを形成するH型鋼等の他の断面形状を有するものであってもよいし、単独で筒状空間3hを形成するパイプ材によって構成されていてもよい。
【0025】
型枠3は、
図2に示されるように、トンネルTの天端部分を成型する天端部3cと、天端部3cの両端に回動可能に連結された側板部3dと、側板部3dの下端に回動可能に連結された下端部3eとを備えている。
天端部3cは、門型台車2の基台部2a上に設けられた複数のジャッキ4により上下方向に昇降可能に支持されている。この天端部3cには、打設空間D(
図3参照)内に生コンクリートを流し込むための打設口(図示せず)が形成されており、この打設口から圧送された生コンクリートが打設空間Dに流し込まれる。
【0026】
側板部3dは、支柱2bの外側面に設けられた複数のジャッキ5によって門型台車2に連結されており、このジャッキ5を伸縮させることによって幅方向への回動が可能となっている。この側板部3dにも、複数の打設口(図示せず)が形成されている。
下端部3eも、側板部3dと同様に、支柱2bの外側面に設けられた複数のジャッキ6によって門型台車2に連結されており、このジャッキ6の伸縮によって内外方向への回動が可能である。
【0027】
このように、型枠3は、基台部2aの上面及び支柱2bの外側面に設けられた複数のジャッキ4,5,6によって門型台車2に連結され支持されており、各ジャッキ4,5,6を伸縮させることにより、型枠3全体を門型台車2に対して昇降可能でかつ幅寸法の調整が可能となっている。
【0028】
本実施形態のスライドセントル1は、型枠3の型枠パネル3fを加温することによって覆工コンクリートCの内周面を加温・保温する加温・保温装置を備えている。
図4は、スライドセントル1の加温・保温装置を概略的に示す正面説明図である。
図5は、加温・保温装置の加温・保温手段を拡大して示す正面断面図である。この加温・保温装置7は、型枠3の各部に配置された複数の加温・保温手段71を備えている。
【0029】
複数の加温・保温手段71は、覆工コンクリートCを周方向に6つに分割して設定された加温エリアA1~A6に対応してそれぞれ設けられている。各加温・保温手段71は、通電されることによって発熱するシート状の面状発熱体71aを備えている。この面状発熱体71aは、
図5に示されるように、補強部材3gによって形成された筒状空間3h内において、一側面が型枠パネル3fの内面に接するように設けられている。この面状発熱体71aは、筒状空間3h全体にわたるトンネル延長方向の長さを有している。
【0030】
各加温・保温手段71は、蓄熱部材71bと断熱材71cとを備えている。蓄熱部材71bは、熱伝導率の高いアルミ等の金属材料からなり、面状発熱体71aの他側面に重ねられ、面状発熱体71aが発生した熱を蓄える機能を有している。筒状空間3h内には、補強部材3gのウェブ部に対して仕切り板71dが取り付けられ、この仕切り板71dと蓄熱部材71bとの間に断熱材71cが設けられている。断熱材71cは、面状発熱体71aによって発生した熱、及び蓄熱部材71bによって蓄えられた熱が、筒状空間3hの外側へ逃げてしまうのを防止している。
【0031】
各加温エリアA1~A6に配置された面状発熱体71aは、制御盤72により個別に通電されることで、覆工コンクリートCを加温エリアA1~A6毎に加温・保温する。制御盤72の詳細については後述する。
【0032】
なお、本実施形態の加温・保温手段71は、面状発熱体71aを備えているが、加温したオイルを循環させるオイルヒータ等の他の加温・保温部材を備えていてもよい。また、覆工コンクリートCの周方向における複数の加温エリアの数は、6つに限定されるものではなく、適宜変更することができる。
【0033】
ところで、トンネル施工時は、発破による粉塵及び吹付コンクリート施工に伴う粉塵等で坑内環境が極めて悪化する。このような坑内環境を改善するために、例えば換気設備等を設置することで、常に坑内の切羽側より坑口に向けて粉塵等を排出している。その反面、坑内では常に空気が流れる(スライドセントル1付近の風速は約3m/min~5m/min程度である)ため、その空気によって型枠3が冷やされ、覆工コンクリートC自体の水和反応の促進が阻害される。そこで、本実施形態のスライドセントル1では、覆工コンクリートCの保温効果を高めるために、型枠3の坑内側の露出面に断熱塗料が塗布されている。
【0034】
具体的には、型枠パネル3fの内周面において補強部材3gが配置されていない部分は、坑内側に露出している露出面3f1とされている。また、補強部材3gにおける
図5の左右両側の外側面及び下面は、いずれも坑内側に露出している露出面3g1とされている。これらの露出面3f1,3g1は、坑内を流れる空気によって冷やされやすい。そこで、型枠パネル3fの露出面3f1及び補強部材3gの各露出面3g1には、断熱塗料が塗布されることによって断熱層8が形成されている。この断熱層8により覆工コンクリートCの温度が低下するのを抑制している。
【0035】
[養生装置の構成]
図6は、養生装置10の正面図であり、
図7は、養生装置10の被覆構造体12の側面図である。
図6及び
図7に示されるように、養生装置10は、トンネルT内のレールR上を走行可能な移動架台11と、この移動架台11に搭載された被覆構造体12と、被覆構造体12の外周面に設けられた保湿養生層13と、を備えている。
【0036】
移動架台11は、H型鋼や溝型鋼等からなる複数本の下部柱部材50、上部柱部材51、横梁部材52、縦梁部材53等の長尺部材をトンネル幅方向およびトンネル延長方向に枠組みすることによって構成されている。移動架台11の下端部には、前後左右の4箇所に車輪ユニット54が設けられ、各車輪ユニット54に前後2つの車輪55が備えられている。各車輪ユニット54上には下部柱部材50が立設されている。前後の車輪ユニット54は、連結部材56によって相互に連結されている。下部柱部材50は、入れ子構造によって上下に伸縮可能であり、ジャッキ機構57によって高さ調整することができる。
【0037】
縦梁部材53は、左右方向に3本並設され、その中央の縦梁部材53には、前後方向に複数本の上部柱部材51が立設されている。そして、この上部柱部材51の頂部に被覆構造体12が取り付けられている。
被覆構造体12は、覆工コンクリートCの内周面にほぼ沿う円弧状を呈する、前後方向に並設された複数の外枠部材58と、外枠部材58の内周面に沿って左右方向に並設された、前後方向に延びる複数の連結部材59と、外枠部材58の外周側に取り付けられた外面パネル20とを備えている。
【0038】
複数の外枠部材58及び複数の連結部材59は、その交差部分が相互に連結されることによって、断面円弧状とされた被覆構造体12の骨組みを構成している。
外枠部材58は、可撓性を有する長尺棒材により形成されている。連結部材59は、長尺の円管パイプ材から形成されている。外枠部材58は、無負荷の状態ではほぼ直線状であり、移動架台11に設けられた支持部材60,61によってトンネルTの内周面t1にほぼ沿うようにアーチ状に湾曲(弾性変形)されている。
【0039】
支持部材60は、伸縮可能なロッド部材からなり、ターンバックル式等の調整部60aにより長さを調整することによって、外枠部材58の上部側の湾曲度合いを調整することが可能となっている。支持部材61は、長さ調整可能なワイヤー部材からなり、巻き取り式等の調整部61aによる長さ調整によって外枠部材58の下部側の湾曲度合いを調整可能となっている。なお、支持部材60をワイヤー部材によって構成したり、支持部材61をロッド部材によって構成したりすることも可能である。
【0040】
外枠部材58は、覆工コンクリートCの内周面に沿うように弾性変形させれば足りるため、被覆構造体12を非常に安価に製造することができる。また、支持部材60,61を長さ調整することによって外枠部材58の湾曲度合いを調整することができるので、覆工コンクリートCの内径寸法の誤差に対応することもできる。
また、支持部材60,61の長さ調整を行って外枠部材58の曲率半径を変更すれば、内径寸法が異なる複数種のトンネル施工に対応することが可能となる。
【0041】
被覆構造体12は、移動架台11に設けられた上部柱部材51、支持部材60,61によって、移動架台11に支持されている。
養生装置10は、ジャッキ機構57を伸縮させることで、下部柱部材50を伸縮させ、被覆構造体12の外周面に設けられた保湿養生層13を覆工コンクリートCの内周面に対して接触離反させることができる。
【0042】
図8は、外面パネル20及び保湿養生層13を拡大して示す断面図である。
本実施形態の外面パネル20は、外枠部材58の外周面に沿って多数の凹凸を並べてなるキーストンプレートや波板等によって構成されている。外面パネル20は、トンネル延長方向に並設された複数の外枠部材58に亘ってその外周面全体を覆っている。
【0043】
保湿養生層13は、外面パネル20の外周面に貼り付けられた内側層21と、この内側層21の外周面に積層された保湿マット22と、内側層21と保湿マット22との間に介在して配置されているヒータ部材26とにより構成されている。
内側層21は、独立気泡又は連続気泡等の空隙を内部に有するスポンジ等の発泡部材からなり、弾力性を有している。また、内側層21は、被覆構造体12の外周面と覆工コンクリートCの内周面との間隔よりも大きい厚さ寸法を有している。
【0044】
保湿マット22は、水分を吸収可能であるとともに吸収した水分を保持可能であり、従来公知のものを使用することができる。例えば、市販のコンクリート保湿養生用マットである「アクアマット」(早川ゴム株式会社製)や、特開2002-81210号公報に開示されたコンクリート養生シートを使用することができる。
保湿マット22は、不織布等からなる基材23の内部や表面に複数の保水材24を点在させ、基材23の背面側(内側層21側)をポリエチレンフィルム等の不透水フィルム25で覆ったものである。保水材24としては、ウレタン等のポリマーに高分子吸収材を包含させたものを使用することができる。
【0045】
保湿マット22は、コンクリートの材齢3週間においても80%以上の湿度を維持することができる性能を備え、5日程度を要する覆工コンクリートCの養生にも十分な保湿性能を有している。
【0046】
ヒータ部材26は、シート状に形成された面状発熱体からなる。ヒータ部材26は、通電されることにより発熱し、覆工コンクリートCを加温することができる。ヒータ部材26は、内側層21と保湿マット22との間に介在され、保湿養生層13のほぼ全域に亘って配置されている。
【0047】
ヒータ部材26は、その温度制御を行うための制御装置(図示せず)に接続されている。この制御装置は、保湿養生層13の内面の各所に配置された複数の温度センサ(図示せず)と接続されており、これら温度センサの検出温度に基づいて、ヒータ部材26の出力をフィードバック制御する。
【0048】
前記温度センサは、保湿養生層13の現在温度を検出するものであり、制御装置は、この温度センサの検出温度が所定の設定温度となるようにヒータ部材26を制御する。
このように、本実施形態の養生装置10は、ヒータ部材26、温度センサ及び制御装置により、外面パネル20及び保湿養生層13を加温し、スライドセントル1を脱型した後の覆工コンクリートCを所定温度に保持することができる。
【0049】
[覆工コンクリートの打設作業及び養生作業について]
次に、上記覆工コンクリート構築システムを用いた、覆工コンクリートCの構築作業について説明する。
【0050】
図9は、覆工コンクリートCを構築する際の打設作業及び養生作業の手順を示す図である。なお、
図9において、スライドセントル1の次に搬入される養生装置10を第1養生装置10Aといい、第1養生装置10Aの次に搬入される養生装置10を第2養生装置10Bという。
覆工コンクリートCを構築するには、まず、
図9(a)に示されるように、スライドセントル1をレールRに沿って走行させて、一次覆工が完了した所定区間(スパンS1)にスライドセントル1をセットし、このスパンS1に対して覆工コンクリートCの打設を行う。
【0051】
覆工コンクリートCの打設作業は、具体的には、スライドセントル1をスパンS1に設置した後、型枠3を所定高さ及び幅方向位置に調整した後、型枠3の外周側の打設空間Dに生コンクリートを流し込むことによって行われる。
打設空間Dに生コンクリートが十分に充填されて覆工コンクリートCの打設が完了すると、スライドセントル1をそのままの状態にして所定時間が経過するのを待つことで覆工コンクリートCを硬化させる。なお、この所定時間は、生コンクリートの硬化の度合や、後述する養生作業等の後工程の関係等に基づいて、約16~20時間に設定される。
【0052】
所定時間が経過すると、型枠3を降下させて覆工コンクリートCから脱型する。
本実施形態のスライドセントル1では、覆工コンクリートCの打設完了から脱型するまでの所定時間の間、加温・保温装置7によって覆工コンクリートCを所定の加温温度で加温・保温する。この加温温度は、例えば30~60℃に設定される。
【0053】
スパンS1における覆工コンクリートCの初期養生が終わってスライドセントル1を脱型すると、切羽側に隣接する次のスパンS2にスライドセントル1を移動させ、スパンS1の場合と同様に、スパンS2において覆工コンクリートCの打設作業を行う。
【0054】
図9(b)に示されるように、スライドセントル1がスパンS2に移動するのに続いて、第1養生装置10AをスパンS1に配置し、スライドセントル1がスパンS2で打設及び養生作業を行う間に、第1養生装置10Aを用いてスパンS1の覆工コンクリートCに対する養生を行う。
具体的には、第1養生装置10Aのジャッキ機構57を収縮させて被覆構造体12を下降させた状態で、第1養生装置10AをスパンS1に搬入し、その後、ジャッキ機構57を伸長させて被覆構造体12を上昇させることにより、その外周面に設けられた保湿養生層13を覆工コンクリートCの内周面に接触させる。
【0055】
保湿養生層13を覆工コンクリートCの内周面に接触させると、保湿マット22に給水されている水分によって覆工コンクリートCが湿潤状態に保持される。
この際、保湿養生層13の内側層21が、覆工コンクリートCの内周面の形状に応じて弾性変形することにより、保湿マット22全体を覆工コンクリートCの内周面に接触させることができ、覆工コンクリートCの全体を確実に湿潤状態に保持することができる。また、内側層21が弾性変形することで覆工コンクリートCの内周面を痛めることもない。
【0056】
以上のようにして、第1養生装置10AによりスパンS1の覆工コンクリートCが湿潤状態に保持された状態で養生される。
また、第1養生装置10Aでは、被覆構造体12に設けたヒータ部材26によって覆工コンクリートCを加温する。これにより、スライドセントル1において打設完了から脱型までの間の覆工コンクリートCの加温温度と同一又は高い設定温度(例えば、30~60℃)で養生が行われ、覆工コンクリートCの硬化が促進される。
【0057】
覆工コンクリートCの打設から脱型を終えるのに要する期間は、保湿養生に要する期間よりも短く、
図9(b)において、スパンS2の覆工コンクリートCの打設及び脱型が終了した時点でスパンS1の保湿養生は未だ終了していない。そこで、本実施形態では、第1養生装置10Aの後方にさらに第2養生装置10Bを配備して、保湿養生を行うスパン長を延長し、スライドセントル1の打設及び脱型作業をスパンごとに順次進めつつ、保湿養生に必要な期間を確保している。
【0058】
すなわち、
図9(b)において、スパンS2の覆工コンクリートCの脱及び初期養生を終えて、スライドセントル1を次のスパンS3に移動する場合には、
図9(c)に示されるように、第1養生装置10Aもスライドセントル1に随伴してスパンS2に移動させる。そして、第1養生装置10Aの後方(スパンS1)に更に第2養生装置10Bをセットし、この第2養生装置10Bにより、スパンS1に対する養生を第1養生装置10Aに引き続いて連続して行う。
【0059】
もっとも、第2養生装置10Bをセットする段階では、スパンS1の材齢が少なくとも32時間以上経過しているので、コンクリート強度が十分である場合が多いので、第2養生装置10Bによる養生では、ヒータ部材26の設定温度を第1養生装置10Aの場合よりも下げるか(例えば20~30℃)、或いは、ヒータ部材26による加温を行わずに、加湿のみを行うことにしてもよい。
【0060】
次に、スパンS3の覆工コンクリートCの打設及び初期養生を終えて、スライドセントル1を次のスパンS4に移動する場合には、
図9(d)に示されるように、第1養生装置10A及び第2養生装置10Bもスライドセントル1に随伴してそれぞれ次のスパンS3,S2に移動させる。
以後、スライドセントル1が覆工コンクリートCの打設及び初期養生を終えて次にスパンに移動するごとに、各養生装置10A,10Bがそれに引き続いて次のスパンに移動し、養生装置10A,10Bによる養生作業が継続して行われる。
【0061】
上記のように構成された覆工コンクリートCの構築システムによれば、第1,第2養生装置10A,10Bがスライドセントル1によって打設された覆工コンクリートCの内周面を、保湿養生層13を備えた被覆構造体12の外周面で被覆するので、充分な湿度を保って養生することができる。
【0062】
[加温・保温装置の構成]
図10は、本発明の実施形態に係る加温・保温装置7の全体構成図である。本実施形態の加温・保温装置7は、覆工コンクリートCの内周面を加温する前記複数の加温・保温手段71と、制御盤72と、複数の第1温度センサ(第1温度検出手段)73と、第2温度センサ(第2温度検出手段)74と、複数の検出センサ(検出手段)75とを備えている。
【0063】
複数の加温・保温手段71は、それぞれ電気ケーブル76を介して制御盤72に接続されている。制御盤72は、スライドセントル1の門型台車2に設けられている(
図1参照)。
【0064】
複数の第1温度センサ73は、各加温エリアA1~A6に対応してそれぞれ設けられており(
図4参照)、各加温エリアA1~A6における覆工コンクリートCの内部温度を所定時間毎(例えば30分毎)に検出する。各第1温度センサ73は、覆工コンクリートCの内部に埋め込まれている。各第1温度センサ73は、通信ケーブル77を介して無線送信機78に接続されている。
【0065】
第1温度センサ73は、例えば、覆工コンクリートCの内部温度に応じた電気信号を生成する熱電対により構成されている。第1温度センサ73が生成した電気信号(検出信号)は、通信ケーブル77を通じて無線送信機78に送られる。無線送信機78は、第1温度センサ73の検出信号を外部に送信する。なお、第1温度センサ73は、必ずしも覆工コンクリートCの内部に埋め込まれるタイプでなくてもよく、覆工コンクリートCの内周面に貼り付けるタイプのものであってもよい。また、第1温度センサ73の検出信号は有線で送信してもよい。
【0066】
第2温度センサ74は、トンネルTの坑内温度を所定時間毎(例えば30分毎)に検出するものである。本実施形態の第2温度センサ74は、例えば制御盤72の外面に取り付けられている。第2温度センサ74の検出信号は、例えば有線で制御盤72に送信される。なお、第2温度センサ74は、スライドセントル1の門型台車2に設けられていてもよい。その場合、第2温度センサ74の検出信号は無線で送信してもよい。
【0067】
複数の検出センサ75は、加温エリアA1~A6に対応してそれぞれ設けられており(
図4参照)、各加温エリアA1~A6における覆工コンクリートCの打設完了を検出する。各検出センサ75は、例えば近接センサからなり、その検出面75aを打設空間Dに向けた状態で、型枠パネル3fに貫通して取り付けられている。
【0068】
各検出センサ75は、各加温エリアA1~A6の打設空間Dの上端付近に検出面75aを向けて配置されており、当該打設空間Dにおいて覆工コンクリートCの打設が完了したことを検出できるようになっている。各検出センサ75の検出信号は、通信ケーブル79を通じて無線送信機78に送られる。無線送信機78は、検出センサ75の検出信号を外部に送信する。なお、検出センサ75の検出信号は有線で送信してもよい。
【0069】
図11は、制御盤72の内部構成を示すブロック図である。制御盤72は、通信部81、表示部82、記憶部83、及び制御手段84を内部に搭載している。
【0070】
通信部81は、無線送信機78からの送信信号を受信可能な無線通信機能を有している。通信部81は、無線送信機78が送信した第1温度センサ73及び検出センサ75の各検出信号を受信すると、受信した各検出信号を制御手段84に転送する。
また、通信部81は、第2温度センサ74と図示しない通信ケーブルを介して接続されており、第2温度センサ74の検出信号を受信することができる。通信部81は、受信した第2温度センサ74の検出信号を制御手段84に転送する。
【0071】
表示部82は、制御手段84による所定の出力情報を画面表示するものであり、本実施形態では、タッチパネル式の液晶モニタが採用されている。作業者は、タッチパネル式の表示部82に触れることによって、所定の入力情報を入力することができる。このため、表示部82は、入力情報の入力を受け付ける「入力手段」としても機能する。
【0072】
入力情報は、型枠3の脱型予定時刻、及び覆工コンクリートCの目標圧縮強度である。目標圧縮強度は、型枠3の脱型予定時刻における覆工コンクリートCの圧縮強度(コンクリート強度)である。表示部82は、入力された入力情報(脱型予定時刻と目標圧縮強度)を制御手段84に転送する。
【0073】
記憶部83は、メモリやHDDなどを含む記憶装置よりなり、通信部81及び表示部82が取得したデータを一時的に記憶する。また、記憶部83は、所定のコンピュータプログラムやその処理に必要な関係式などを記憶している。制御手段84は、そのコンピュータプログラムを記憶部83から読み出して同プログラムを実行することにより、後述する加温・保温手段71の制御(
図12)を行う。
【0074】
[制御手段の構成]
制御手段84は、各加温エリアA1~A6に対応する加温・保温手段71(以下、対応加温・保温手段71ともいう)を個別に制御する。対応加温・保温手段71の制御は、制御手段84が各加温エリアA1~A6に対応する検出センサ75の検出信号を通信部81から取得したときに開始される。したがって、制御手段84は、加温エリアA1~A6毎に覆工コンクリートCの打設が完了すると、対応加温・保温手段71の制御を自動的に開始することができる。
【0075】
制御手段84は、CPU及びメモリ等を有するコンピュータ装置からなる。制御手段84は、コンピュータプログラムを実行することにより実現される機能部として、設定部91、決定部92、及び制御部93を有する。
【0076】
設定部91は、目標圧縮強度に基づいて覆工コンクリートCの目標積算温度を設定する。目標積算温度は、型枠3の脱型予定時刻における覆工コンクリートCの積算温度である。既知の通り、コンクリートの圧縮強度Fと積算温度Mとの間には、次の関係式(1)が成立する。
F=Finf×exp(α×Mβ) ・・・(1)
ここで、Finfはコンクリートの材齢28日の圧縮強度、α及びβは定数である。Finf、α、βは、いずれも実験によって定まる。
【0077】
式(1)より、コンクリートの積算温度Mは、コンクリートの圧縮強度Fを用いて以下の式(2)で表すことができる。
M=((1/α)×log(F/Finf))^(1/β) ・・・(2)
【0078】
設定部91は、式(2)において、予め現場での実験により定められた値をFinf、α、βに代入するとともに、目標圧縮強度をFに代入することで、積算温度Mを算出する。そして、設定部91は、式(2)で算出した積算温度を目標積算温度として設定する。このように、Finf、α、βは予め現場での実験により定められた値が用いられるので、施工場所や施工時期(季節)等により打設時の生コンクリートの初期温度が異なる場合であっても、目標積算温度を適切な値に設定することができる。
【0079】
決定部92は、所定時間毎に各加温エリアA1~A6の第1温度センサ73が覆工コンクリートCの内部温度を検出すると、そのたびに検出された内部温度に基づいて、対応する加温エリアにおける覆工コンクリートCの現時点の積算温度を算出する。既知の通り、コンクリートの積算温度Mは、次式(3)で定義される。
M=Σ(θ+A)×Δt ・・・(3)
ここで、θはコンクリートの内部温度、Aは定数、Δtはコンクリートの加温時間(加温を開始した時点からの経過時間)である。
【0080】
決定部92は、式(3)において、A及びΔtにそれぞれ定数及び加温時間を代入するとともに、現時点の第1温度センサ73が検出した覆工コンクリートCの内部温度をΔtに代入することで、現時点の積算温度Mを算出する。なお、加温時間Δtとしては、対応加温・保温手段71の制御を開始した時点からタイマで計測した経過時間を用いればよい。
【0081】
決定部92は、各加温エリアA1~A6において、上記のように現時点の積算温度を算出するたびに、その算出した現時点の積算温度、設定部91が設定した目標積算温度、及び表示部82に入力された脱型予定時刻に基づいて、対応する加温エリアの覆工コンクリートCの加温温度を決定する。その際、決定部92は、型枠3の脱型予定時刻に覆工コンクリートCの積算温度が目標積算温度以上となるように加温温度を決定する。
【0082】
本実施形態の決定部92は、目標積算温度に対する現時点の積算温度の割合が閾値(例えば80%)以下であり、かつ、現時点が脱型予定時刻よりも前である場合、対応加温・保温手段71の最大出力温度を加温温度として決定する。
また、決定部92は、目標積算温度に対する現時点の積算温度の割合が閾値を超え、かつ、現時点が脱型予定時刻よりも前である場合、第1温度センサ73及び第2温度センサ74の各検出温度に基づいて加温温度を決定する。
【0083】
具体的には、決定部92は、第1温度センサ73で検出される覆工コンクリートCの内部温度が第2温度センサ74で検出される坑内温度に近づくように、最大出力温度よりも低い温度(0℃も含む)を加温温度として決定する。ただし、決定部92は、最大出力温度よりも低い温度であっても、脱型予定時刻までに覆工コンクリートCの積算温度を目標積算温度以上にすることができる温度を加温温度として決定する。脱型予定時刻までに覆工コンクリートCの積算温度を目標積算温度以上にすることができるか否かは、上記式(3)等を用いておおよそ推定することができる。
決定部92は、現時点が脱型予定時刻を経過した場合、加温温度を0℃に決定する。
【0084】
制御部93は、決定部92で決定された加温温度が0℃以外の場合、その決定された加温温度で対応加温・保温手段71を作動させるように制御する。これにより、対応加温・保温手段71は、決定部92で決定された加温温度で覆工コンクリートCを加温する。一方、制御部93は、決定部92で決定された加温温度が0℃である場合、対応加温・保温手段71を停止させる。
【0085】
[制御手段の処理内容]
図12は、制御手段84が行う処理を示すフローチャートである。以下、
図12を参照しつつ、制御手段84の処理内容を説明する。
まず、制御手段84は、脱枠3の脱型予定時刻、及び覆工コンクリートCの目標圧縮強度が表示部82に入力されたか否かを判定する(ステップST1)。
【0086】
制御手段84は、脱型予定時刻及び目標圧縮強度の入力があった場合、各加温エリアA1~A6において覆工コンクリートCの打設が完了したか否かを判定する(ステップST2)。この判定は、各加温エリアA1~A6に対応する検出センサ75の検出信号を通信部81から取得したか否かによって判定することができる。
【0087】
複数の加温エリアA1~A6のいずれかの加温エリア(以下、対象加温エリアともいう)において覆工コンクリートCの打設が完了した場合、制御手段84は、対象加温エリアの加温・保温手段71の制御を開始する。具体的には、制御手段84は、目標圧縮強度に基づいて対象加温エリアにおける覆工コンクリートCの目標積算温度を設定する(ステップST3)。具体的な設定方法は上述の通りである。なお、目標積算温度の設定は、ステップST2の前に行ってもよい。
【0088】
次に、制御手段84は、対象加温エリアの第1温度センサ73が検出する覆工コンクリートCの最新の内部温度に基づいて、対象加温エリアにおける覆工コンクリートCの現時点の積算温度を算出する(ステップST4)。具体的な算出方法は上述の通りである。
【0089】
次に、制御手段84は、算出した現時点の積算温度が目標積算温度以上であるか否かを判定する(ステップST5)。
算出した現時点の積算温度が目標積算温度以上である場合、制御手段84は、後述するステップST10に移行する。
【0090】
一方、算出した現時点の積算温度が目標積算温度未満である場合、制御手段84は、算出した現時点の積算温度、入力された目標積算温度及び脱型予定時刻に基づいて、対象加温エリアの覆工コンクリートCの加温温度を決定する(ステップST6)。具体的な決定方法は上述の通りである。制御手段84は、決定した加温温度で対象加温エリアの加温・保温手段71を作動させる(ステップST7)。これにより、対象加温エリアの覆工コンクリートCは、制御手段84が決定した加温温度で加温される。
【0091】
制御手段84は、上記ステップST4~ST7までの処理を所定時間(例えば第1温度センサ73の温度検出間隔)おきに繰り返し実行し(ステップST8)、その処理を、現時点の積算温度が目標積算温度以上になるまで(ステップST5)、又は脱型予定時刻が経過するまで実行し続ける(ステップST9)。
制御手段84は、現時点の積算温度が目標積算温度以上になると、又は脱型予定時刻を経過すると、対象加温エリアの加温・保温手段71を停止させる(ステップST10)。
【0092】
図13は、本実施形態の加温・保温装置7により覆工コンクリートCを加温した場合の経過時間と各種温度・積算温度との関係を示すグラフである。このグラフは、制御手段84が以下の条件に基づいて加温・保温手段71を制御した場合の結果を示している。グラフ内の推定圧縮強度は、上記式(1)で算出された覆工コンクリートCの圧縮強度を示している。
目標圧縮強度:3.0N
目標積算温度に対する現時点の積算温度の割合の閾値:80%
対象加温エリアの打設完了から脱型予定時刻までの加温時間:16時間
覆工コンクリートCの内部温度の検出間隔:30分
対象加温エリアの加温・保温手段71の最大出力温度:60℃
【0093】
図13に示すように、制御手段84は、覆工コンクリートCの加温時間が12時間を経過するまで、加温・保温手段71を最大出力温度(60℃)で作動させるように制御している。覆工コンクリートCの加温時間が12時間を経過した後は、目標積算温度に対する現時点の積算温度の割合が閾値(80%)を超えることにより、制御手段84は、加温・保温手段71を最大出力温度よりも徐々に低い温度(55℃~30℃)で作動させるように制御している。
【0094】
以上のように制御手段84により加温・保温手段71を制御することで、覆工コンクリートCの推定圧縮強度は、加温時間が5時間を経過した頃から徐々に増加し、16時間が経過した時点(脱型予定時刻)で目標圧縮強度である3.0Nを超えているのが分かる。また、加温時間が12時間を経過してから覆工コンクリートCの内部温度がトンネルTの坑内温度に近づくように下がっているのが分かる。
【0095】
[本実施形態の作用効果]
本実施形態の加温・保温装置7によれば、型枠3の脱型予定時刻、及び覆工コンクリートCの目標圧縮強度を予め入力すれば、脱型予定時刻に覆工コンクリートCの積算温度が目標積算温度以上となるように、所定時間毎に自動的に決定される加温温度で覆工コンクリートCを加温することができる。これにより、覆工コンクリートCを所定の圧縮強度まで高める作業を容易に行うことができる。
【0096】
また、制御手段84は、目標積算温度に対する現時点の積算温度の割合が閾値を超えたときに、覆工コンクリートCの加温温度を最大出力温度よりも低くするので、覆工コンクリートCの内部温度をトンネルTの坑内温度に近づけることができる。その結果、覆工コンクリートCの内部温度とトンネルTの坑内温度との温度差が小さくなるので、覆工コンクリートCにひび割れが発生するのを抑制することができる。
【0097】
ところで、覆工コンクリートCは、トンネルTの側部下側から天端部に向けて徐々に時間をかけて覆工コンクリートCを打設するため、覆工コンクリートCの下端部3eの打設が完了してから天端部3cの打設が完了するまでに数時間の時間差が生じる。これに対して、覆工コンクリートCの側部下側と天端部における型枠3の脱型は、ほぼ同じタイミングで行われる。このため、覆工コンクリートCの側部下側と天端部とでは、打設完了から脱型するまでの時間がそれぞれ異なるので、加温・保温手段71による加温時間もそれぞれ異なる。また、加温・保温手段71によって温められた空気は坑内の上部に集まるので、覆工コンクリートCの側部下側よりも天端部のほうが温まりやすい傾向にある。
【0098】
したがって、覆工コンクリートCの周方向に分割された複数の加温エリアA1~A6では、それぞれ対応する加温・保温手段71の加温時間や温まりやすさが異なるので、各加温エリアの覆工コンクリートCを同じ温度で加温すると、覆工コンクリートCの側部下側と天端部との間で温度差が生じ、覆工コンクリートCの全体で均一の圧縮強度を得ることが困難となる。これに対して、本実施形態の制御手段84は、加温エリアA1~A6毎に、対象加温エリアの第1温度センサ73が検出した内部温度に基づいて、対象加温エリアの加温・保温手段71を個別に制御するので、覆工コンクリートCの全体でほぼ均一に圧縮強度を高めることができる。
【0099】
また、制御手段84は、加温エリアA1~A6毎に、対象加温エリアの検出センサ75がその対象加温エリアに覆工コンクリートCが打設されたことを検出すると、対象加温エリアの加温・保温手段71の制御を開始する。これにより、複各の加温エリアA1~A6における覆工コンクリートCの打設完了時刻が異なる場合であっても、各加温エリアA1~A6において覆工コンクリートCの打設が完了したときに、加温・保温手段71の制御を自動的に開始することができる。これにより、覆工コンクリートCを所定の圧縮強度まで高める作業をさらに容易に行うことができる。
【0100】
また、型枠3の坑内側の露出面3f1,3g1には、断熱塗料が塗布されているので、坑内を流れる空気によって型枠3が冷やされるのを抑制することができる。これにより、覆工コンクリートCの保温効果を高めることができる。
【0101】
[その他]
本発明は、上記実施形態に限定されることものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の範囲内で適宜変更することができる。例えば、上記実施形態の加温・保温装置7は、複数の加温・保温手段71により各加温エリアA1~A6の覆工コンクリートCを加温しているが、1つの加温・保温手段71で覆工コンクリートCの全体を加温してもよい。
【符号の説明】
【0102】
1 スライドセントル(移動式セントル)
3 型枠
3f1,3g1 露出面
7 加温・保温装置
71 加温・保温手段
73 第1温度センサ(第1温度検出手段)
74 第2温度センサ(第2温度検出手段)
75 検出センサ(検出手段)
82 表示部(入力手段)
84 制御手段
91 設定部
92 決定部
93 制御部
A1~A6 加温エリア
C 覆工コンクリート
T トンネル
t1 内周面(内壁)