(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022049914
(43)【公開日】2022-03-30
(54)【発明の名称】加熱装置
(51)【国際特許分類】
H05B 6/36 20060101AFI20220323BHJP
H05B 6/38 20060101ALI20220323BHJP
F23D 14/56 20060101ALI20220323BHJP
【FI】
H05B6/36
H05B6/38
F23D14/56 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020156209
(22)【出願日】2020-09-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520285880
【氏名又は名称】中部電力ミライズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000213297
【氏名又は名称】中部電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】平光 清人
(72)【発明者】
【氏名】高道 創一
(72)【発明者】
【氏名】赤坂 千春
(72)【発明者】
【氏名】柴田 侑希
(72)【発明者】
【氏名】田中 良
【テーマコード(参考)】
3K017
3K059
【Fターム(参考)】
3K017CD08
3K059AA08
3K059AA10
3K059AB12
3K059AB20
3K059AB28
3K059AC37
3K059AD03
3K059AD05
3K059AD30
3K059CD55
3K059CD74
3K059CD75
(57)【要約】
【課題】被加熱対象物としての金属が比較的複雑な形状を有するものであっても、当該金属の全体を可能な限り短時間で略均一に加熱すると共に、例えば幅狭深底孔の内部についても良好に加熱する。
【解決手段】燃料ガスと燃焼用空気とを燃焼させて火炎面の少なくとも一部を扁平形状とする扁平燃焼部21を有するバーナ20と、導電性がありコイル状に成型されたコイル状導電部36と、当該コイル状導電部36に高周波電力を供給するトランスを含む電源部31とを有するIH式のIHヒータ30とを備え、バーナ20の扁平燃焼部21の一部に開孔Kが設けられ、バーナ20の火炎面KM1を被加熱対象物KG1の被加熱対象面KG1aに対向させた状態において、コイル状導電部36が開孔Kを介して扁平燃焼部21の火炎面KM1の一方側から被加熱対象面KG1aが存在する他方側へ向けて挿通配置可能に構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属から成る金型としての被加熱対象物を加熱する加熱装置であって、
燃料ガスと燃焼用空気とを燃焼させて火炎面の少なくとも一部を扁平形状とする扁平燃焼部を有するバーナと、
導電性がありコイル状に成型されたコイル状導電部と、当該コイル状導電部に高周波電力を供給するトランスを含む電源部とを有するIH式のIHヒータとを備え、
前記バーナの前記扁平燃焼部の一部に開孔が設けられ、前記バーナの前記火炎面を前記被加熱対象物の被加熱対象面に対向させた状態において、前記コイル状導電部が前記開孔を介して前記扁平燃焼部の前記火炎面の一方側から前記被加熱対象面が存在する他方側へ向けて挿通配置可能に構成されている加熱装置。
【請求項2】
前記コイル状導電部は、前記火炎面の法線方向に沿って延びる長尺状導電部位を備える請求項1に記載の加熱装置。
【請求項3】
前記IHヒータは、前記電源部から前記扁平燃焼部の前記火炎面に沿う方向に延設され且つ前記コイル状導電部に前記高周波電力を供給する導電部を備えると共に、当該導電部の形状を維持する支持部材を備える請求項1又は2に記載の加熱装置。
【請求項4】
内部に前記導電部及び前記コイル状導電部を配設する状態で、絶縁性と耐熱性を有する素材を含む筒状の断熱保護部材を備える請求項3に記載の加熱装置。
【請求項5】
前記扁平燃焼部から排出される燃焼排ガスの前記扁平燃焼部の近傍での排出方向に沿う面を有する一対の燃焼排ガス誘導部を備え、当該一対の前記燃焼排ガス誘導部は、前記扁平燃焼部が前記被加熱対象物に対して移動する際に、前記扁平燃焼部を前記被加熱対象物に対して位置決めする位置決め部として機能する請求項1~4の何れか一項に記載の加熱装置。
【請求項6】
前記バーナの前記扁平燃焼部と前記IHヒータの前記コイル状導電部とが、前記被加熱対象物に対して一体的に移動可能に構成されており、
前記位置決め部としての当該一対の前記燃焼排ガス誘導部は、
前記扁平燃焼部と前記コイル状導電部とが前記被加熱対象物に対して移動する際に、前記扁平燃焼部と前記コイル状導電部とを前記被加熱対象物に対して位置決めする請求項5に記載の加熱装置。
【請求項7】
前記バーナの加熱開始時点は、前記IHヒータの加熱開始時点以前に設定されている請求項1~6の何れか一項に記載の加熱装置。
【請求項8】
前記金型としての前記被加熱対象物は、前記火炎面に対向する面から凹欠して形成される開孔が設けられたものであり、
前記IHヒータによる加熱状態において、前記コイル状導電部が、前記開孔の内部に挿入される請求項1~6の何れか一項に記載の加熱装置。
【請求項9】
前記扁平燃焼部は、前記火炎面として、第1火炎面を有すると共に、当該第1火炎面からの燃焼排ガスの排出方向と逆側に燃焼排ガスを排出する第2火炎面を備え、
第1火炎面からの燃焼排ガスにより前記被加熱対象物としての第1被加熱対象物を加熱可能であると共に、前記第2火炎面からの燃焼排ガスにより前記被加熱対象物としての第2被加熱対象物を加熱可能に構成される請求項1~8の何れか一項に記載の加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属から成る金型としての被加熱対象物を加熱する加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、鍛造に用いる金型等の金属を加熱する加熱装置として、導電性がありコイル状に成型されたコイル状導電部と、当該コイル状導電部に高周波電力を供給する電源とを有するIH式の加熱装置が知られており、当該加熱装置では、高周波電力が供給されるコイル状導電部を金型に近づけることで、コイル状導電部の近傍の金型の表面に渦電流を発生させ、渦電流の発生箇所を局所的に加熱することができる(特許文献1を参照)。
他の鍛造に用いる金属型を加熱する加熱装置としては、扁平形状の火炎面と当該火炎面に形成される複数の火炎ポートとを有し燃料と燃焼用空気とを燃焼させた火炎を複数の火炎ポートにて形成する表面燃焼バーナを備えたものが知られており、当該加熱装置では、火炎面を金型の加熱対象面に対向させて複数の火炎ポートに火炎を形成し金型の加熱対象面を加熱することで、金型を加熱対象面の近傍から徐々に加熱することができる(特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6474263号公報
【特許文献2】特開2018-83233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示の技術によれば、コイル状導電部の近傍にある金属を局所的に加熱して高温にすることができるものの、局所的な加熱に留まるため、当該コイル状導電部へ通電している加熱状態から通電を停止した非加熱状態へ移行した場合、金型への熱伝導や大気への放熱により短時間で降温してしまうという問題があった。
また、加熱状態であっても、コイル状導電部から離れた箇所では渦電流が発生しないため、例えば金型が比較的容積が大きい場合、コイル状導電部の近傍の金型表面から離れた内部箇所は十分に加熱されず、全体を短時間で略均一に加熱し難いという課題があった。
【0005】
一方、特許文献2に開示の表面燃焼バーナでは、金型等に用いる金属の加熱対象面の面積に対応した火炎面を有するものを採用することで、金属の加熱対象面全体を略均一に加熱でき、金属全体を良好に加熱できるから、加熱状態から非加熱状態へ移行したときにも、IHに比べ金型の一部分から他の部分への熱伝導が生じにくく、温度低下が起きにくいというメリットがある。
しかしながら、金型に比較的径が小さく深さが深い幅狭深底孔が存在する場合、当該幅狭深底孔へ火炎面から火炎を噴射しても、幅狭深底孔の内部では排気干渉が生じると共に底部では酸素不足による不完全燃焼が発生し、孔内部を十分に加熱することができないという課題があった。
【0006】
ここで、例えば、IH式の加熱装置とバーナとを組み合わせた加熱装置を設ける構成が考えられるが、一方の加熱装置が他方の加熱装置へ与える熱的損傷の影響を考慮した、実現可能な構成についてはこれまで知られていなかった。
【0007】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、被加熱対象物としての金属が比較的複雑な形状を有するものであっても、当該金属の全体を可能な限り短時間で均一に加熱すると共に、例えば幅狭深底孔の内部についても良好に加熱できる加熱装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための加熱装置は、金属から成る金型としての被加熱対象物を加熱する加熱装置であって、その特徴構成は、
燃料ガスと燃焼用空気とを燃焼させて火炎面の少なくとも一部を扁平形状とする扁平燃焼部を有するバーナと、
導電性がありコイル状に成型されたコイル状導電部と、当該コイル状導電部に高周波電力を供給する電源部とを有するIH式のIHヒータとを備え、
前記バーナの前記扁平燃焼部の一部に開孔が設けられ、前記バーナの前記火炎面を前記被加熱対象物の被加熱対象面に対向させた状態において、前記コイル状導電部が前記開孔を介して前記扁平燃焼部の前記火炎面の一方側から前記被加熱対象面が存在する他方側へ向けて挿通配置可能に構成されている点にある。
【0009】
上記特徴構成によれば、まずもって、バーナが、火炎面の少なくとも一部を扁平形状とする扁平燃焼部により、被加熱対象物を加熱できるから、火炎面に対向した被加熱対象物の加熱対象面から順に加熱され、被加熱対象物の加熱対象面の近傍から徐々に昇温できる。
ただし、当該バーナのみでは、例えば、被加熱対象物としての金型が比較的複雑な形状を有しており幅狭深底孔を有する場合、その内部及び底部を良好に加熱し難い。
そこで、被加熱対象物の幅狭深底孔等の複雑な形状に沿わせた形状として、その表面を局所的に加熱できるコイル状導電部をIHヒータとして備えることで、被加熱対象物がヒータによる全体加熱がし難い比較的複雑な形状であっても、その部分も良好に加熱できる。
更に、前記扁平燃焼部の一部には開孔が設けられ、バーナの火炎面を被加熱対象物の被加熱対象面に対向させた状態において、コイル状導電部が開孔を介して扁平燃焼部の火炎面の一方側から被加熱対象面が存在する他方側へ向けて挿通配置できるから、IHヒータのコイル状導電部へ高周波電力を供給する部位が、扁平燃焼部と被加熱対象物の被加熱対象面との間の比較的幅狭で高温となる領域に配設されることを避けることができ、火炎面からの火炎による熱損傷を抑制することができる。
以上より、被加熱対象物としての金属が比較的複雑な形状を有するものであっても、当該金属の全体を可能な限り短時間で均一に加熱すると共に、例えば幅狭深底孔の内部についても良好に加熱できる加熱装置を実現できる。
【0010】
加熱装置の更なる特徴構成は、
前記コイル状導電部は、前記火炎面の法線方向に沿って延びる長尺状導電部位を備える点にある。
【0011】
上記特徴構成によれば、被加熱対象物において、火炎面の法線方向で、火炎面から離れて熱伝導による加熱が行われ難い部分で、且つ火炎面に対向する被加熱対象面に形成された幅狭深底孔等の内部であっても、長尺状導電部位を挿入することで局所的に良好に加熱できる。
【0012】
加熱装置の更なる特徴構成は、
前記IHヒータは、前記電源部から前記扁平燃焼部の前記火炎面に沿う方向に延設され且つ前記コイル状導電部に前記高周波電力を供給する導電部を備えると共に、当該導電部を支持する支持部材を備える点にある。
【0013】
通常、電源部は熱に弱いため、ヒータの扁平燃焼部から離間して設けることが好ましい。しかしながら、電源部とヒータの扁平燃焼部とを離間する場合、電源部からコイル状導電部に高周波電力を供給する導電部は、比較的高温に晒され剛性が低下することもあり、自重により変形する恐れがある。
上記特徴構成によれば、当該導電部を支持する支持部材を備えるから、比較的高温に晒され変形の虞のある導電部の形状を良好に維持することができる。
【0014】
加熱装置の更なる特徴構成は、
内部に前記導電部及び前記コイル状導電部を配設する状態で、絶縁性と耐熱性を有する素材を含む筒状の断熱保護部材を備える点にある。
【0015】
上記特徴構成によれば、絶縁性と耐熱性を有する素材を含む筒状の断熱保護部材により、導電部及びコイル状導電部を外囲するから、例えば、ヒータの扁平燃焼部にて形成される火炎の輻射熱による導電部及びコイル状導電部の熱損傷を良好に抑制できる。
一方、コイル状導電部は、自身から熱を輻射する直接加熱方式ではなく、自身の近傍の金属に対して渦電流を発生させて加熱するIH式の加熱方式であるから、断熱保護部材に外囲された構成であっても、コイル状導電部による被加熱対象物の局所加熱は良好に実現することができる。
【0016】
加熱装置の更なる特徴構成は、
前記扁平燃焼部から排出される燃焼排ガスの前記扁平燃焼部の近傍での排出方向に沿う面を有する一対の燃焼排ガス誘導部を備え、当該一対の前記燃焼排ガス誘導部は、前記扁平燃焼部が前記被加熱対象物に対して移動する際に、前記扁平燃焼部を前記被加熱対象物に対して位置決めする位置決め部として機能する点にある。
【0017】
上記特徴構成によれば、当該扁平燃焼部から排出される燃焼排ガスの前記扁平燃焼部の近傍での排出方向に沿う面を有する一対の燃焼排ガス誘導部を備えるから、燃焼排ガスの流動方向を、燃焼排ガス誘導部の火炎軸に沿う面に沿った方向に制限でき、制限しない場合に比べ、燃焼排ガスによる被加熱対象物を加熱する効率を向上できる。
更に、バーナの扁平燃焼部は、被加熱対象物の被加熱対象面を熱効率の高い状態で加熱できる位置に配設されることが好ましい。
上記特徴構成によれば、上述した燃焼排ガス誘導部が、扁平燃焼部の被加熱対象物に対する位置決め機能をも担うから、所定の時間毎に被加熱対象物を交換する必要がある場合であっても、扁平燃焼部の被加熱対象物に対する位置決めを適切且つ迅速に行うことができる。
【0018】
加熱装置の更なる特徴構成は、
前記バーナの前記扁平燃焼部と前記IHヒータの前記コイル状導電部とが、前記被加熱対象物に対して一体的に移動可能に構成されており、
前記位置決め部としての当該一対の前記燃焼排ガス誘導部は、前記扁平燃焼部と前記コイル状導電部とが前記被加熱対象物に対して移動する際に、前記扁平燃焼部及び前記コイル状導電部を前記被加熱対象物に対して位置決めする点にある。
【0019】
上述した扁平燃焼部と同様に、コイル状導電部は、被加熱対象物に形成される幅狭深底孔等に対して良好に挿通され配設されることが好ましい。
上記特徴構成によれば、上述した燃焼排ガス誘導部が、扁平燃焼部とコイル状導電部の双方の被加熱対象物に対する位置決め機能をも担うから、所定の時間毎に被加熱対象物を交換する必要がある場合であっても、扁平燃焼部とコイル状導電部との双方を一体的に移動させて、双方の被加熱対象物に対する位置決めを、適切且つ迅速に行うことができる。
【0020】
加熱装置の更なる特徴構成は、
前記バーナの加熱開始時点は、前記IHヒータの加熱開始時点以前に設定されている点にある。
【0021】
IHヒータのコイル状導電部による加熱では、被加熱対象物を局所的に加熱することができるものの、被加熱対象物の周囲への熱伝導や大気への放熱により、局所加熱部位の加熱停止後の降温速度が大きいという課題がある。
上記特徴構成によれば、まずもって、バーナにより被加熱対象物の全体を略均一に加熱し、それ以降にIHヒータのコイル状導電部による加熱を開始できるから、被加熱対象物の全体を良好に加熱した後に、幅狭深底孔の内部等の局所加熱を行って、特に、幅狭深底孔の内部の降温速度を低減でき、短時間で略均一な予熱を実現できる。
【0022】
加熱装置の更なる特徴構成は、
前記金型としての前記被加熱対象物は、前記火炎面に対向する面から凹欠して形成される開孔が設けられたものであり、
前記IHヒータによる加熱状態において、前記コイル状導電部が、前記開孔の内部に挿入される点にある。
【0023】
上記特徴構成によれば、バーナによる加熱では比較的昇温し難い開孔の内部をも良好に昇温させて予熱することができる。
【0024】
加熱装置の更なる特徴構成は、
前記扁平燃焼部は、前記火炎面として、第1火炎面を有すると共に、当該第1火炎面からの燃焼排ガスの排出方向と逆側に燃焼排ガスを排出する第2火炎面を備え、
第1火炎面からの燃焼排ガスにより前記被加熱対象物としての第1被加熱対象物を加熱可能であると共に、前記第2火炎面からの燃焼排ガスにより前記被加熱対象物としての第2被加熱対象物を加熱可能に構成される点にある。
【0025】
上記特徴構成によれば、一般的に、金型の下型としての第1被加熱対象物と、上型としての第2被加熱対象物を、一の扁平燃焼部により同時に一括して加熱できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】実施形態に係る加熱装置の一部断面図を含む概略構成図である。
【
図2】実施形態に係る扁平燃焼部及びコイル状導電部を金型に対して位置決めする位置決め部の働きを説明する平面図である。
【
図3】金型に対する温度センサの設置位置を示す図である。
【
図4】IHヒータで加熱を行った場合の金型温度の経時変化を示すグラフ図である。
【
図5】表面燃焼バーナで加熱を行った場合の金型温度の経時変化を示すグラフ図である。
【
図6】IHヒータ及び表面燃焼バーナで加熱を行った場合の金型温度の経時変化を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の実施形態に係る加熱装置100は、被加熱対象物としての金属(当該実施形態にあっては、金型)が比較的複雑な形状を有するものであっても、当該金属の全体を短時間で略均一に加熱できると共に、例えば幅狭深底孔の内部についても良好に加熱できるものに関する。
以下、
図1~6に基づいて、加熱装置100の実施形態について説明する。
【0028】
図1、2に示すように、当該実施形態に係る加熱装置100は、鍛造に用いられ金属から成る金型としての第1被加熱対象物KG1(被加熱対象物の一例)を予熱することに好適に用いられる。
当該加熱装置100は、燃料ガスと燃焼用空気とを燃焼させて扁平形状の第1火炎面KM1(火炎面の一例)を形成する扁平燃焼部21を有するバーナ20と、導電性がありコイル状に成型されたコイル状導電部36と、当該コイル状導電部36に高周波電力を供給する電源部31とを有するIH式のIHヒータ30とを備え、バーナ20の扁平燃焼部21の一部に開孔Kが設けられ、バーナ20の第1火炎面KM1を第1被加熱対象物KG1の第1被加熱対象面KG1a(被加熱対象面の一例)に対向させた状態において、コイル状導電部36が開孔Kを介して扁平燃焼部21の第1火炎面KM1の一方側から第1被加熱対象面KM1aが存在する他方側(
図1で矢印Zに沿う方向)へ向けて挿通配置可能に構成されている。
尚、燃焼用空気は、扁平燃焼部21にて形成される火炎の温度を昇温させる場合、酸素を富化した空気としても構わない。
【0029】
バーナ20は、燃料ガスの流量を調整する第1流量調整弁V1と燃料ガスの逆流を防ぐ第1逆止弁GV1とを有する燃料ガス通流路L1と、燃焼用空気の流量を調整する第2流量調整弁V2と燃焼用空気の逆流を防ぐ第2逆止弁GV2とを有する燃焼用空気通流路L2と、燃料ガス通流路L1から導かれる燃料ガスと燃焼用空気通流路L2から導かれる燃焼用空気とを混合するベンチュリーミキサBMと、当該ベンチュリーミキサBMにて混合された混合気を扁平燃焼部21へ導く混合気通流路L3とを有している。
当該バーナ20は、平面燃焼バーナとしての所謂、メタルニットバーナとして構成されており、扁平燃焼部21の第1火炎面KM1及びその外形は、
図2に示すように、平面視で金型としての第1被加熱対象物KG1と大凡同形状の方形状に構成されている。
尚、当該実施形態における扁平燃焼部21は、第1火炎面KM1と反対の面に第2火炎面KM2を有しており、第1火炎面KM1に対向して配設される第1被加熱対象物KG1に加えて、第2火炎面KM2に対向して配設される金型としての第2被加熱対象物KG2をも加熱可能に構成されている。即ち、扁平燃焼部21は、第1火炎面KM1からの燃焼排ガスにより金型としての第1被加熱対象物KG1を加熱可能であると共に、第2火炎面KM2からの燃焼排ガスにより第2被加熱対象物KG2を加熱可能に構成される。
扁平燃焼部21は、詳細な図示は省略するが、その内部に第1火炎面KM1及び第2火炎面KM2に沿って延びる一対の整流板が設けられており、当該一対の整流板の間に混合気を導く形態で、第1火炎面KM1と第2火炎面KM2とに略均等に混合気を分散供給する。第1火炎面KM1及び第2火炎面KM2には、所謂メタルニットが配設されており、夫々の面の法線方向へ略均等に輻射熱を放熱可能に構成されている。
【0030】
IHヒータ30は、
図1に示すように、筐体に一端及び他端が連通接続される形態で、コイル状導電部36に電気的に接続される導電部35が設けられている。
導電部35は、電源部31から扁平燃焼部21の第1火炎面KM1に沿う方向に延設されており、屈曲して第1火炎面KM1の法線方向(
図1で矢印Z方向)に沿って延びる長尺状導電部位を有するコイル状導電部36に電気的に接続されている。尚、導電部35及びコイル状導電部36は、銅製の中空筒状部材を好適に用いることができ、その内部には冷却水通流路L4から導かれる冷却用の冷却水CWが連続的に通流可能となっている。
導電部35は、その一端が電源部31の筐体に第6ナットN6にて固定される一対の銅製の支持部材34により支持されている。当該一対の銅製の支持部材34は、他端は導電部35の長手方向に沿って延設されており、導電部35の自重による撓みを抑制するべく公知の構成にて導電部35と接続されている。
導電部35及びコイル状導電部36は、バーナ20の扁平燃焼部21の輻射熱の影響を低減するため、絶縁性と耐熱性を有し且つ誘導加熱によって発熱しにくい素材を含む筒状の断熱保護部材32の内部に配設されている。
説明を追加すると当該断熱保護部材32は、扁平燃焼部21の第1火炎面KM1に沿って延びる水平部位32aと、第1火炎面KM1の法線方向に沿って延びる鉛直部位32cとから構成されている。
【0031】
これまで説明してきたバーナ20及びIHヒータ30は、金型としての第1被加熱対象物KG1を定期的に予熱するべく、当該第1被加熱対象物KG1に対して水平方向で一体的に移動可能に構成されている。
具体的には、加熱装置100は、
図1に示すように、水平方向に移動自在な車輪Tを有する台車19と、当該台車19から垂直方向(
図1で矢印Zに沿う方向)に延びる支柱10と、当該支柱10に支持される形態で水平方向に延びて扁平燃焼部21に連接する第1支持棒11と、同じく支柱10に支持される形態で水平方向に延びてトランス31aを載置可能な載置台13に連接する第2支持棒12とを有する支持移動機構Iを備えている。
説明を加えると、支持移動機構Iは、支柱10に対して第1支持棒11を鉛直方向で位置決めする第1治具G1及び第1ナットN1を備えると共に、支柱10に対して第1支持棒11を水平方向で位置決めする第2治具G2及び第2ナットN2を備える。また、支柱10に対して第2支持棒12を鉛直方向で位置決めする第3治具G3及び第3ナットN3を備えると共に、支柱10に対して第2支持棒12を水平方向で位置決めする第4治具G4及び第4ナットN4を備える。
更に、載置台13と当該載置第13に載置されるトランス31aとの間には、載置台13に対してトランス31aを昇降させる昇降機構37を備える。
以上の構成を有することにより、支持移動機構Iの台車19を地面(図示せず)に沿って移動させることにより、第1被加熱対象物KG1に対してバーナ20及びIHヒータ30を一体的に移動することができる。
また、第1被加熱対象物KG1が、
図1に示すように、鉛直方向に延びる幅狭深底孔HF(開孔の一例)を有するときには、平面視で、第1被加熱対象物KG1に対してバーナ20の扁平燃焼部21が重畳して位置するとき、換言すると、平面視で扁平燃焼部21の開孔Kと第1被加熱対象物KG1の幅狭深底孔HFとが重畳して位置するときに、昇降機構37を働かせることで、コイル状導電部36を、第1被加熱対象物KG1に形成される孔径が幅狭で孔の深さが比較的深い幅狭深底孔HFに対して挿通することができる。
【0032】
尚、支持移動機構Iが、バーナ20及びIHヒータ30を、第1被加熱対象物KG1に対して一体的に移動する場合、両者は第1被加熱対象物KG1に対して適切に位置決めされることが好ましい。また、扁平燃焼部21の第1火炎面KM1からの燃焼排ガスは、水平方向に分散すると熱効率の観点で好ましくない。
そこで、当該実施形態に係る加熱装置100にあっては、
図1、2に示すように、扁平燃焼部21から排出される燃焼排ガスの扁平燃焼部21の近傍での排出方向に沿う面(当該実施形態では鉛直方向:火炎面の法線方向)を有する一対の燃焼排ガス誘導部Pを備え、当該一対の燃焼排ガス誘導部Pは、扁平燃焼部21とコイル状導電部36とが第1被加熱対象物KG1に向けて移動する際に、扁平燃焼部21とコイル状導電部36の位置決め部として機能する。
説明を追加すると、当該実施形態にあっては、一対の燃焼排ガス誘導部Pは、
図1、2に示すように、バーナ20及びIHヒータ30が金型としての第1被加熱対象物KG1へ近接するよう移動する移動方向(
図1、2では矢印X方向)に沿う一対の誘導面Pbを有しており、当該誘導面に沿って燃焼排ガスの排出方向を移動方向に規制するから、燃焼排ガスが移動方向やそれに直交する直交方向(
図1、2で矢印Y方向)等の四方へ拡散する場合に比べて熱効率を向上できる。
更には、一対の燃焼排ガス誘導部Pの一対の誘導面は、
図2に示すように、金型としての第1被加熱対象物KG1の側面に沿う間隔で設置されているから、移動方向に沿って移動するバーナ20及びIHヒータH30を、加熱状態をとる位置まで良好に導くことができる。
尚、一対の燃焼排ガス誘導部Pは、バーナ20及びIHヒータ30が金型としての第1被加熱対象物KG1へ近接するよう移動する移動方向(
図1、2では矢印X方向)の基端側に、鍔部Paを設けており、当該鍔部Paが第1被加熱対象物KG1に当接することで、移動方向での位置決めがなされる。当該位置決めの後、上述した昇降機構37を働かせることで、コイル状導電部36を幅狭深底孔HFの外部から内部へ挿入する。
尚、
図1では、紙面の都合上、第2被加熱対象物KG2と第2火炎面KM2との間の距離LH2が比較的狭く図示されているが、バーナ20及びIHヒータ30の移動時には、第2被加熱対象物KG2と第2火炎面KM2との間の距離LH2は、コイル状導電部36の長手方向での長さよりも十分に大きくとっている。
【0033】
ここで、寸法関係に関する説明を追加すると、
図1に示すように、主たる金型である第1被加熱対象物KG1に加え、従たる金型である第2被加熱対象物KG2を予熱する場合、IHヒータ30の第1火炎面KM1及び第2火炎面KM2に沿う導電部35は、第1被加熱対象物KG1と第1火炎面KM1の間、又は第2被加熱対象物KG2と第2火炎面KM2の間に配設することが可能である。
しかしながら、通常、主たる金型である第1被加熱対象物KG1のほうが、従たる金型である第2被加熱対象物KG2よりも、第1火炎面KM1及び第2火炎面KM2の法線方向での厚みがあり体積が大きいため、両者を予熱する必要熱量を考慮すると、第1被加熱対象物KG1と第1火炎面KM1の間の距離LH1よりも、第2被加熱対象物KG2と第2火炎面KM2の間の距離LH2のほうが大きくて良いことになる。
そこで、当該実施形態においては、IHヒータ30の第1火炎面KM1及び第2火炎面KM2に沿う導電部35は、第2被加熱対象物KG2と第2火炎面KM2の間で、且つ第2火炎面KM2から離間した位置に配設することで、バーナ20からの輻射熱の影響を低減する構成を採用している。
【0034】
尚、当該実施形態に係る加熱装置100については、放熱損失及び熱効率の観点から、バーナ20による加熱開始時点を、IHヒータ30による加熱開始時点以前に設定している。これにより、IHヒータ30のみで加熱して、放熱ロスが大きくなり熱効率が低下して加熱時間が延びることを抑制している。
【0035】
次に、当該実施形態に係る加熱装置100を用いて第1被加熱対象物KG1を加熱した場合の実験結果について、
図4~6のグラフ図に基づいて説明する。
第1被加熱対象物KG1の内部の夫々の位置での温度は、
図3に示すように、温度センサCH1~CH11を配設することで計測し、夫々の温度センサCH1~CH11での計測結した温度の経時変化を
図4~6のグラフ図に示している。尚、夫々の実験において、加熱装置100は、0秒から900秒まで加熱状態とした。
図4はIHヒータ30のみで加熱を行った場合、
図5はバーナ20のみで加熱を行った場合、
図6はIHヒータ30及びバーナ20で加熱を行った場合の金型温度の経時変化を示すグラフ図である。
【0036】
図4、5のグラフ図の比較から判明するように、IHヒータ30のみで加熱した場合の実験結果では、温度センサCH1~5の測定結果から、特に、幅狭深底孔HFの入口近傍で大気との接触面積が大きく、コイル状導電部36から第1被加熱対象物KG1までの距離が遠い箇所ほど、昇温し難いことがわかる。一方で、温度センサCH6~CH11の測定結果から、幅狭深底孔HFの底部に近いほど昇温し易いことがわかる。
これに対し、バーナ20のみで加熱した場合の実験結果では、温度センサCH1~5の測定結果から、特に、幅狭深底孔HFの入口近傍で、扁平燃焼部21の第1火炎面KM1に近いほど、昇温し易いことがわかる。一方で、温度センサCH6~CH11の測定結果から、幅狭深底孔HFの底部に近いほど昇温し難いことがわかる。
最後に、
図6に示すように、バーナ20及びIHヒータ30で加熱した場合の実験結果では、幅狭深底孔HFの入口近傍で大気との接触面積が大きい箇所、及び幅狭深底孔HFの底部の近傍箇所の何れにおいても、900秒経過後の加熱終了時点においては、大凡150℃
以上に昇温できていることがわかる。
【0037】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態に係る加熱装置100は、鍛造に用いられる金型を加熱するものとして説明したが、他の加熱用途であっても利用可能である。
【0038】
(2)上記実施形態におけるバーナ20における扁平燃焼部21は、平面視で方形状に構成されている例を示したが、例えば、金型の形状に合わせて、平面視で円形等の種々の形状を採用することができる。
また、上記実施形態におけるバーナ20は、表面燃焼バーナとしてのメタルニットバーナを一例として説明した。他のバーナ20としては、環状の混合気流路に対して混合気流路の環が形成される面に対して一方側と他方側とに向けて火炎を噴射する複数の噴孔が設けられる環状バーナであっても構わない。当該構成の場合、環状バーナの混合気流路の環の中央をIHヒータ30のコイル状導電部36が挿通することとなる。
【0039】
(3)上記実施形態において、第1火炎面KM1及び第2火炎面KM2は、水平方向(
図1で矢印X,Yに沿う方向)に沿って設けられる構成例を示したが、これに限定されるものではない。
また、第1支持棒11及び第2支持棒12は、水平方向に支持されていなくても良く、支柱10に対して任意の角度を有する形態で支持されていても構わない。
【0040】
(4)上記実施形態において、支持部材34及び断熱保護部材32は、必ずしも設ける必要はない。
【0041】
(5)上述した実施形態においては、扁平燃焼部21とコイル状導電部36とが一体的に移動可能に構成されている構成例を示したが、両者は、互いに各別に独立して移動可能に構成されていても構わない。
【0042】
尚、上記実施形態(別実施形態を含む、以下同じ)で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することが可能であり、また、本明細書において開示された実施形態は例示であって、本発明の実施形態はこれに限定されず、本発明の目的を逸脱しない範囲内で適宜改変することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の加熱装置は、被加熱対象物としての金属が比較的複雑な形状を有するものであっても、当該金属の全体を短時間で略均一に加熱できると共に、例えば幅狭深底孔の内部についても良好に加熱できる加熱装置として、有効に利用可能である。
【符号の説明】
【0044】
20 :バーナ
21 :扁平燃焼部
30 :IHヒータ
31 :電源部
31a :トランス
34 :支持部材
35 :導電部
36 :コイル状導電部
100 :加熱装置
H30 :IHヒータ
HF :幅狭深底孔
K :開孔
KG1 :第1被加熱対象物
KG2 :第2被加熱対象物
KM1 :第1火炎面
KM2 :第2火炎面
P :燃焼排ガス誘導部
Pa :鍔部