(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022050015
(43)【公開日】2022-03-30
(54)【発明の名称】水性ポリウレタン樹脂分散体
(51)【国際特許分類】
C08G 18/00 20060101AFI20220323BHJP
C08G 18/44 20060101ALI20220323BHJP
C08G 18/32 20060101ALI20220323BHJP
C08G 18/34 20060101ALI20220323BHJP
C08G 18/08 20060101ALI20220323BHJP
C09D 175/04 20060101ALI20220323BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20220323BHJP
【FI】
C08G18/00 C
C08G18/44
C08G18/32 071
C08G18/34
C08G18/08 019
C09D175/04
C09D5/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020156367
(22)【出願日】2020-09-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】戒田 裕行
(72)【発明者】
【氏名】森上 敦史
(72)【発明者】
【氏名】金子 暁良
(72)【発明者】
【氏名】山田 健史
【テーマコード(参考)】
4J034
4J038
【Fターム(参考)】
4J034CA02
4J034CA04
4J034CA13
4J034CA15
4J034CA16
4J034CA22
4J034CB02
4J034CB03
4J034CB04
4J034CB08
4J034CC12
4J034CD08
4J034DA01
4J034DB03
4J034DB07
4J034DF02
4J034HA01
4J034HA07
4J034HB03
4J034HB08
4J034HB12
4J034HC03
4J034HC06
4J034HC09
4J034HC12
4J034HC13
4J034HC22
4J034HC45
4J034HC46
4J034HC52
4J034HC54
4J034HC61
4J034HC64
4J034HC65
4J034HC67
4J034HC71
4J034HC73
4J034KA01
4J034KB02
4J034KC17
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4J034KE02
4J034QB17
4J034QC05
4J034RA07
4J038DA152
4J038DG121
4J038DG262
4J038DG271
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4J038JA69
4J038JB18
4J038JB26
4J038MA08
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4J038NA04
4J038PA06
4J038PA19
4J038PC01
4J038PC02
4J038PC06
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】耐アルコール性に優れた塗膜を形成することができる水性ポリウレタン樹脂分散体を提供する。
【解決手段】脂環構造を有するポリカーボネートポリオール(Aa)由来の構造、ポリイソシアネート(Ab)由来の構造と、酸性基含有ポリオール(Ac)由来の構造及び水酸基含有ポリアミン(Ad)由来の構造を有するポリウレタン樹脂(A)を水系媒体中に分散させてなり、前記ポリウレタン樹脂(A)の水酸基価が3.0~15mgKOH/gの範囲である水性ポリウレタン樹脂分散体である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂環構造を有するポリカーボネートポリオール(Aa)由来の構造、ポリイソシアネート(Ab)由来の構造、酸性基含有ポリオール(Ac)由来の構造、及び水酸基含有ポリアミン(Ad)由来の構造を有するポリウレタン樹脂(A)を水系媒体中に分散させてなり、
ポリウレタン樹脂(A)の水酸基価が3.0~15mgKOH/gの範囲である、
水性ポリウレタン樹脂分散体。
【請求項2】
さらに鎖延長剤(Ae)由来の構造を有する、請求項1に記載の水性ポリウレタン樹脂分散体。
【請求項3】
脂環構造を有するポリカーボネートポリオール(Aa)中の脂環構造の含有量が、ポリカーボネートポリオール(Aa)の全量に対して1~50質量%である請求項1又は2に記載の水性ポリウレタン樹脂分散体。
【請求項4】
脂環構造を有するポリカーボネートポリオール(Aa)が、シクロヘキサン環を含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の水性ポリウレタン樹脂分散体。
【請求項5】
ポリイソシアネート(Ab)が、イソホロンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート及び4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1~4のいずれか一項に記載の水性ポリウレタン樹脂分散体。
【請求項6】
水酸基含有ポリアミン(Ad)が、3,5-ジアミノベンジルアルコール、1,3-ジアミノ-2-プロパノール、2,2’-(エチレンビスイミノ)ビスエタノール、N-(2-ヒドロキシエチル)-N’-(2-アミノエチル)エチレンジアミン、N-(3-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン、2-[ビス(2-アミノエチル)アミノ]エタノール、1-[2-[(2-アミノエチル)アミノ]エチル]アミノ-2-プロパノール、N,N-ビス(ヒドロキシエチル)ジエチレントリアミン、N1,N4-ビス(ヒドロキシエチル)ジエチレントリアミン、N1-(2-ヒドロキシプロピル)トリエチレンテトラアミン、N4-(2-ヒドロキシプロピル)トリエチレンテトラアミン、N-(2-ヒドロキシプロピル)トリエチレンテトラアミン、及び2-(2-アミノエチルアミノ)エタノールからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1~5のいずれか一項に記載の水性ポリウレタン樹脂分散体。
【請求項7】
水酸基含有ポリアミン(Ad)が、2-(2-アミノエチルアミノ)エタノールである、請求項6に記載の水性ポリウレタン樹脂分散体。
【請求項8】
ポリウレタン樹脂(A)中に含まれる脂環構造の含有量が、ポリウレタン樹脂(A)全量に対して、固形分基準で30~50質量%である、請求項1~7のいずれか一項に記載の水性ポリウレタン樹脂分散体。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の水性ポリウレタン樹脂分散体を含有する、塗料組成物。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか一項に記載の水性ポリウレタン樹脂分散体を含有する、コーティング剤組成物。
【請求項11】
請求項1~8のいずれか一項に記載の水性ポリウレタン樹脂分散体を乾燥させて得られる、塗膜。
【請求項12】
請求項1~8のいずれか一項に記載の水性ポリウレタン樹脂分散体を20~100℃の温度に付す工程を含む、塗膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐アルコール性に優れた塗膜を形成することができる水性ポリウレタン樹脂分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン樹脂は、塗料、接着剤、繊維加工処理剤、紙処理剤、インキ、コーティング剤等として広く用いられている。従来の溶剤系ポリウレタンと比較して揮発性有機物を減少できることから環境対応材料として溶剤系ポリウレタンからの置き換えが進んでいる材料である。
【0003】
前記溶剤系ウレタンはウレタン樹脂が溶剤に溶解しているため、加熱温度によらず造膜性が良好であるのに対し、水性ポリウレタン樹脂分散体は粒子形状を有しており、粒子同士の融着により造膜するため、溶剤系ウレタンに比べ造膜性が劣ることから、得られる塗膜の耐薬品性、とりわけ耐アルコール性が低下するという問題点があった。
【0004】
上記の性能を向上させるために、様々な種類の水性ポリウレタン樹脂分散体が開発されている。例えば、特許文献1では、ポリウレタン樹脂の原料ポリオールとして、脂環構造を有するポリカーボネートポリオールを使用することにより、得られる塗膜の耐薬品性が向上すると報告されている。
【0005】
また、例えば特許文献2のように、脂肪族ポリカーボネートポリオール由来の構造及び水酸基含有ポリアミン由来の構造を有することを特徴とするポリウレタン樹脂と、アクリル樹脂との複合樹脂水性分散体から得られるフィルムが優れた耐薬品性を示すことが知られている。
また、例えば特許文献3のように、脂肪族ポリカーボネートポリオール由来の構造及び水酸基含有ポリアミン由来の構造を有し、水性樹脂分散体組成物中の水酸基(OH)に対するイソシアネート基(NCO)のモル比(NCO/OH比)が、0.1~10であることを特徴とするポリウレタン樹脂分散体組成物から得られる塗膜が優れた耐薬品性を示すことが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6-248046号公報
【特許文献2】特開2019-172753号公報
【特許文献3】特開2020-083902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では耐酸性及び耐アルカリ性に関して開示されている一方、耐アルコール性に関する開示がされていないため、耐アルコール性に対する影響は不明である。また特許文献2では、複合樹脂水性分散体の製造について、ウレタン樹脂合成工程及びアクリルモノマー重合工程が必須であるため、製造工程の負荷が大きいという問題があった。ウレタンは概してアルコールに侵される傾向があり、コーティング剤としてのウレタンは例えば除菌用に用いられるアルコールと相性が良くない。そのため、ポリウレタン樹脂の水性分散体そのものに耐アルコール性を備えさせることに対する需要が存在する。
特許文献3では、本明細書の参考例に記載の通り、薬液に接触した際の塗膜の外観の変化で耐薬品性を評価しているが、耐アルコール性を評価する方法としては不十分である。特に、近年、要求が高まっているアルコール薬品で拭きとる時の耐薬品性は、薬液に接触させる方法では、評価ができなかった。また、水性ポリウレタン樹脂分散体の構成要素と耐アルコールとの関係が明確では無かった。
【0008】
本発明の課題は、上記の従来技術における問題点を解決し、耐アルコール性に優れた塗膜を形成することができる水性ポリウレタン樹脂分散体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記の従来技術の問題点を克服すべく種々の検討を行った結果、脂環構造を有するポリカーボネートポリオール(Aa)由来の構造、ポリイソシアネート(Ab)由来の構造、酸性基含有ポリオール(Ac)由来の構造及び水酸基含有ポリアミン(Ad)由来の構造を有するポリウレタン樹脂(A)を水系媒体中に分散させてなり、前記ポリウレタン樹脂(A)の水酸基価が3.0~15mgKOH/gである水性ポリウレタン樹脂分散体から形成される塗膜が、良好な耐アルコール性を有するとの知見を得て、本発明に至った。
【0010】
本発明は、具体的には以下のとおりである。
(1)第1の発明は、脂環構造を有するポリカーボネートポリオール(Aa)由来の構造、ポリイソシアネート(Ab)由来の構造、酸性基含有ポリオール(Ac)由来の構造、及び水酸基含有ポリアミン(Ad)由来の構造を有するポリウレタン樹脂(A)が水系媒体中に分散させてなり、ポリウレタン樹脂(A)の水酸基価が3.0~15mgKOH/gの範囲である、水性ポリウレタン樹脂分散体である。
(2)第2の発明は、さらに鎖延長剤(Ae)由来の構造を有する、前記(1)に記載の水性ポリウレタン樹脂分散体である。
(3)第3の発明は、脂環構造を有するポリカーボネートポリオール(Aa)中の脂環構造の含有量が、ポリカーボネートポリオール(Aa)の全量に対して1~50質量%である前記(1)又は(2)記載の水性ポリウレタン樹脂分散体である。
(4)第4の発明は、脂環構造を有するポリカーボネートポリオール(Aa)が、シクロヘキサン環を含有する、前記(1)~(3)のいずれか記載の水性ポリウレタン樹脂分散体である。
(5)第5の発明は、ポリイソシアネート(Ab)が、イソホロンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート及び4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートからなる群から選ばれる少なくとも1種である、前記(1)~(4)のいずれか記載の水性ポリウレタン樹脂分散体である。
(6)第6の発明は、水酸基含有ポリアミン(Ad)が、3,5-ジアミノベンジルアルコール、1,3-ジアミノ-2-プロパノール、2,2’-(エチレンビスイミノ)ビスエタノール、N-(2-ヒドロキシエチル)-N’-(2-アミノエチル)エチレンジアミン、N-(3-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン、2-[ビス(2-アミノエチル)アミノ]エタノール、1-[2-[(2-アミノエチル)アミノ]エチル]アミノ-2-プロパノール、N,N-ビス(ヒドロキシエチル)ジエチレントリアミン、N1,N4-ビス(ヒドロキシエチル)ジエチレントリアミン、N1-(2-ヒドロキシプロピル)トリエチレンテトラアミン、N4-(2-ヒドロキシプロピル)トリエチレンテトラアミン、N-(2-ヒドロキシプロピル)トリエチレンテトラアミン、及び2-(2-アミノエチルアミノ)エタノールからなる群より選ばれる少なくとも1種である、前記(1)~(5)のいずれか記載の水性ポリウレタン樹脂分散体である。
(7)第7の発明は、水酸基含有ポリアミン(Ad)が、2-(2-アミノエチルアミノ)エタノールである、前記(1)~(6)のいずれか記載の水性ポリウレタン樹脂分散体である。
(8)第8の発明は、ポリウレタン樹脂(A)中に含まれる脂環構造の含有量が、ポリウレタン樹脂(A)全量に対して、固形分基準で30~50質量%である、前記(1)~(7)のいずれか記載の水性ポリウレタン樹脂分散体である。
(9)第9の発明は、前記(1)~(8)のいずれかに記載の水性ポリウレタン樹脂分散体を含有する、塗料組成物である。
(10)第10の発明は、前記(1)~(8)のいずれかに記載の水性ポリウレタン樹脂分散体を含有する、コーティング剤組成物である。
(11)第11の発明は、前記(1)~(8)のいずれかに記載の水性ポリウレタン樹脂分散体を乾燥させて得られる、塗膜である。
(12)第12の発明は、前記(1)~(8)のいずれかに記載の水性ポリウレタン樹脂分散体を20~100℃の温度に付す工程を含む、塗膜の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐アルコール性に優れた塗膜を形成することができる水性ポリウレタン樹脂分散体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の水性ポリウレタン樹脂分散体は、脂環構造を有するポリカーボネートポリオール(Aa)由来の構造、ポリイソシアネート(Ab)由来の構造、酸性基含有ポリオール(Ac)由来の構造及び水酸基含有ポリアミン(Ad)由来の構造を有するポリウレタン樹脂(A)を水系媒体中に分散させてなり、前記ポリウレタン樹脂(A)の水酸基価が3.0~15mgKOH/gである水性ポリウレタン樹脂分散体である。
【0013】
<ポリウレタン樹脂(A)>
本発明で使用するポリウレタン樹脂(A)(以下、「(A)」ということもある。)は、脂環構造を有するポリカーボネートポリオール(Aa)由来の構造、ポリイソシアネート(Ab)由来の構造、酸性基含有ポリオール(Ac)由来の構造及び水酸基含有ポリアミン(Ad)由来の構造を有し、水系媒体に分散されている。このポリウレタン樹脂(A)は、水酸基価が3.0~15mgKOH/gである。ポリウレタン樹脂(A)又はその各構成単位の由来となる成分は、公知のものを使用することができ、その製造方法も限定されない。また、上記ポリウレタン樹脂(A)は、上記以外に、鎖延長剤(Ae)、(Aa)及び(Ac)以外のその他のポリオール(Af)由来の構成単位、又は中和剤(Ag)由来の構成単位を有していてもよい。
【0014】
(脂環構造を有するポリカーボネートポリオール(Aa))
ポリウレタン樹脂(A)は、脂環構造を有するポリカーボネートポリオール(Aa)由来の構成単位を有する。脂環構造を有するポリカーボネートポリオール(Aa)は、脂環構造を有するポリオール成分を少なくとも一種含むポリオールモノマーと、炭酸エステルやホスゲンとを反応させることにより得られる。安全性や試薬の取扱等の観点から製造が容易であること、末端塩素化物の副生成がない点から、脂環構造を有するポリオール成分を少なくとも一種含むポリオールモノマーと、炭酸エステルとを反応させて得られるポリカーボネートポリオールが好ましい。
【0015】
前記脂環構造を有するポリカーボネートポリオール(Aa)を構成するポリオールモノマーの少なくとも一部は脂環構造を有する。その脂環構造の含有量は、ポリカーボネートポリオール(Aa)の全量に対して1~55質量%が好ましく、1~50質量%がより好ましく、5~45質量%がさらに好ましく、10~40質量%がさらにより好ましい。脂環構造の含有量が前記範囲にあると、硬度及び密着性に優れた塗膜を与え、耐アルコール性が向上する点で好ましい。
脂環構造の含有量とは、例えば、構造中にシクロヘキサン環を有する場合は、シクロヘキサン残基の含有量を示し、ジシクロヘキシルメタンの場合も、シクロヘキサン残基の含有割合を示す。シクロヘキサン残基とは、シクロヘキサン環に置換基が結合している場合、置換基を除いたシクロヘキサン環の構造を示す。
【0016】
前記脂環構造を有するポリカーボネートポリオール(Aa)を構成する、脂環構造を有するポリオールモノマーとしては、公知のものを使用することができる。その中でも、脂環構造としてシクロヘキサン環を含有するポリオールモノマーを用いることが、塗膜としたときの硬度や耐アルコール性等の観点から好ましい。脂環構造を有するポリオールモノマーの具体例としては、例えば、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,3-シクロペンタンジオール、1,4-シクロヘプタンジオール、2,5-ビス(ヒドロキシメチル)-1,4-ジオキサン、2,7-ノルボルナンジオール、テトラヒドロフランジメタノール、1,4-ビス(ヒドロキシエトキシ)シクロヘキサン等が挙げられる。
【0017】
前記脂環構造を有するポリカーボネートポリオール(Aa)を構成する、脂環構造を有するポリオールモノマーとしては、耐アルコール性向上の観点から、1,4-シクロヘキサンジメタノールを好適に使用することができる。
【0018】
前記脂環構造を有するポリカーボネートポリオール(Aa)としては、上記脂環構造を有するポリオールモノマー以外に、脂環構造を有さないポリオールを構成成分として含むことができる。脂環構造を有さないポリオールは、特に制限されず、例えば、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール等の直鎖状脂肪族ジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール等の分岐鎖状脂肪族ジオールといった脂肪族ポリオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の3官能以上の多価アルコール;1,4-ベンゼンジメタノール、1,3-ベンゼンジメタノール、1,2-ベンゼンジメタノール、4,4’-ナフタレンジメタノール、3,4’-ナフタレンジメタノール等の芳香族ジオール;6-ヒドロキシカプロン酸とヘキサンジオールとのポリエステルポリオール等のヒドロキシカルボン酸とジオールとのポリエステルポリオール;アジピン酸とヘキサンジオールとのポリエステルポリオール等のジカルボン酸とジオールとのポリエステルポリオール;ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールやポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルポリオールが挙げられ、脂肪族ポリオールが好ましく、直鎖状脂肪族ジオールがより好ましく、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオールがさらに好ましい。
【0019】
脂環構造を有するポリカーボネートポリオール(Aa)のポリオールモノマーは、単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。ただし、少なくとも1種類の脂環構造を有するポリオールは含む。
【0020】
炭酸エステルとしては、特に制限されないが、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の脂肪族炭酸エステル;ジフェニルカーボネート等の芳香族炭酸エステル;エチレンカーボネート等の環状炭酸エステル等が挙げられる。その他に、ポリカーボネートポリオールを生成することができるホスゲン等も使用できる。中でも、脂環構造を有するポリカーボネートポリオール(Aa)の製造のしやすさから、脂肪族炭酸エステルが好ましく、ジメチルカーボネートがより好ましい。
【0021】
脂環構造を有するポリカーボネートポリオール(Aa)は、その分子中に、ポリカーボネートポリオールの特性を損なわない範囲で、1分子中の平均のカーボネート結合の数未満の数のエーテル結合やエステル結合を含有していてもよい。
【0022】
脂環構造を有するポリカーボネートポリオール(Aa)は、数平均分子量(Mn)が400~5,000であることが好ましい。Mnが400以上であると、ソフトセグメントとしての性能が良好で、塗膜を形成した場合に割れが発生し難い。Mnが5,000以下であると、脂環構造を有するポリカーボネートポリオール(Aa)とポリイソシアネート(Ab)との反応性が低下することなく、ウレタンプレポリマーの製造工程に時間がかかったり、反応が充分に進行しなかったりするという問題や、ポリカーボネートポリオールの粘度が高くなり、取り扱いが困難になるという問題が生じない。脂環構造を有するポリカーボネートポリオール(Aa)のMnは、500~3,500であることがより好ましく、600~2,500であることがさらに好ましい。なお、本発明において、Mnは、水酸基価及び1H-NMR若しくはアルカリ加水分解後のガスクロマトグラフィーによる組成物の定量値から算出した値である。
【0023】
ポリオールモノマー及び炭酸エステルから脂環構造を有するポリカーボネートポリオール(Aa)を製造する方法としては、例えば、反応器中に炭酸エステルと、この炭酸エステルのモル数に対して過剰のモル数のポリオールとを加え、温度160~200℃、圧力50mmHg程度で5~6時間反応させた後、更に数mmHg以下の圧力において200~220℃で数時間反応させる方法が挙げられる。上記反応においては副生するアルコールを系外に抜き出しながら反応させることが好ましい。その際、炭酸エステルが副生するアルコールと共沸することにより系外へ抜け出る場合には、過剰量の炭酸エステルを加えてもよい。また、上記反応において、チタニウムテトラブトキシド等の触媒を使用してもよい。
【0024】
(ポリイソシアネート(Ab))
ポリウレタン樹脂(A)は、ポリイソシアネート(Ab)由来の構成単位を有する。ポリイソシアネート(Ab)としては、公知のものを使用することができる。例えば、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート(TDI)、2,6-トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、2,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジイソシアナトビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトジフェニルメタン、1,5-ナフチレンジイソシアネート、4,4’,4’’-トリフェニルメタントリイソシアネート、m-イソシアナトフェニルスルホニルイソシアネート、p-イソシアナトフェニルスルホニルイソシアネート等の芳香族イソシアネート化合物;エチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート(PDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ドデカメチレンジイソシアネート、1,6,11-ウンデカントリイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2,6-ジイソシアナトメチルカプロエート、ビス(2-イソシアナトエチル)フマレート、ビス(2-イソシアナトエチル)カーボネート、2-イソシアナトエチル-2,6-ジイソシアナトヘキサノエート等の脂肪族イソシアネート化合物;イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水素添加MDI)、シクロヘキシレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート(水素添加TDI)、ビス(2-イソシアナトエチル)-4-ジクロヘキセン-1,2-ジカルボキシレート、2,5-ノルボルナンジイソシアネート、2,6-ノルボルナンジイソシアネート等の脂環式イソシアネート化合物が挙げられる。ポリイソシアネート(Ab)は、その構造の一部又は全部がイソシアヌレート化、カルボジイミド化、又はビウレット化など誘導化されていてもよい。
【0025】
前記のポリイソシアネート(Ab)の中でも、反応性の制御等の観点から、芳香族イソシアネート化合物、脂環式イソシアネート化合物が好ましく、耐アルコール性向上の観点から、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)及び4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水素添加MDI)がさらに好ましい。ポリイソシアネート(Ab)は、単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
【0026】
ポリイソシアネート(Ab)が、イソホロンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート及び4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0027】
イソシアネート化合物(Ab)の使用量は、ポリイソシアネート(Ab)のイソシアネート基と全ポリオール由来の水酸基との比(イソシアネート基/水酸基(モル比))が、0.5~3.0の範囲となる量であることが好ましく、1.2~2.0の範囲となる量であることがより好ましい。なお、前記全ポリオールとは、脂環構造を有するポリカーボネートポリオール(Aa)と、後述する酸性基含有ポリオール(Ac)と、後述するその他のポリオール(Af)との合計であって、後述する水酸基含有ポリアミン(Ad)由来の構成成分は含まない。
【0028】
(酸性基含有ポリオール(Ac))
ポリウレタン樹脂(A)は、水への分散性を向上させるために酸性基含有ポリオール(Ac)由来の構成単位を有することが好ましい。酸性基含有ポリオール(Ac)とは、一分子中に2個以上の水酸基と、1個以上の酸性基を含有するものである。酸性基含有ポリオール(Ac)は、一種類を単独で用いてもよいし、複数種類を併用してもよい。
【0029】
酸性基含有ポリオール(Ac)としては、公知のものを使用することができる。例えば、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロールブタン酸等のジメチロールアルカン酸;N,N-ビスヒドロキシエチルグリシン、N,N-ビスヒドロキシエチルアラニン、3,4-ジヒドロキシブタンスルホン酸、3,6-ジヒドロキシ-2-トルエンスルホン酸等が挙げられる。中でも入手の容易さの観点から、2個のメチロール基を含む炭素数4~12のジメチルロールアルカン酸が好ましく、ジメチロールアルカン酸の中でも、2,2-ジメチロールプロピオン酸がより好ましい。
【0030】
(水酸基含有ポリアミン(Ad))
ポリウレタン樹脂(A)は、水酸基含有ポリアミン(Ad)由来の構成単位を有する。ポリウレタン樹脂(A)に水酸基含有ポリアミン(Ad)を導入することで、分子量が増大し、さらに水酸基が付与される。
【0031】
水酸基含有ポリアミン(Ad)は、1分子中に1個以上の水酸基(フェノール性水酸基は除く)と、アミノ基及び/又はイミノ基を2個以上含有するものであり、公知の化合物を使用することができる。このような化合物としては、3級アミンを除くアルカノールポリアミン類が好ましく、具体的には、3,5-ジアミノベンジルアルコールなどの芳香族アルカノールジアミン類、1,3-ジアミノ-2-プロパノール、2,2’-(エチレンビスイミノ)ビスエタノール、N-(2-ヒドロキシエチル)-N’-(2-アミノエチル)エチレンジアミン、N-(3-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン、2-[ビス(2-アミノエチル)アミノ]エタノール、1-[2-[(2-アミノエチル)アミノ]エチル]アミノ-2-プロパノール、N、N-ビス(ヒドロキシエチル)ジエチレントリアミン、N1,N4-ビス(ヒドロキシエチル)ジエチレントリアミン、N1-(2-ヒドロキシプロピル)トリエチレンテトラアミン、N4-(2-ヒドロキシプロピル)トリエチレンテトラアミン、N-(2-ヒドロキシプロピル)トリエチレンテトラアミン、2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール等の脂肪族アルカノールポリアミン類が挙げられる。
【0032】
水酸基含有ポリアミン(Ad)としては、ポリウレタン樹脂(A)の合成の容易さ、ポリウレタン樹脂(A)への水酸基付与の容易性及び本発明の塗膜の耐アルコール性向上の観点から、2-(2-アミノエチルアミノ)エタノールを好適に使用することができる。
【0033】
水酸基含有ポリアミン(Ad)は、一種類を単独で用いてもよいし、複数種類を併用してもよい。
【0034】
(鎖延長剤(Ae))
ポリウレタン樹脂(A)は、分子量を増加させるために鎖延長剤(Ae)由来の構成単位を有していてもよい。鎖延長剤(Ae)は、脂環構造を有するポリカーボネートポリオール(Aa)、酸性基含有ポリオール(Ac)、水酸基含有ポリアミン(Ad)、及び後述するその他のポリオール(Af)以外の化合物であって、ポリウレタンプレポリマーのイソシアナト基と反応性を有する化合物である。
【0035】
鎖延長剤(Ae)としては、公知のものを使用することができる。例えば、エチレンジアミン、1,4-テトラメチレンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、1,4-ヘキサメチレンジアミン、3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、キシリレンジアミン、ピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等のアミン化合物、水等が挙げられ、アミン化合物が好ましい。
【0036】
鎖延長剤(Ae)のうち、数平均分子量(Mn)が300以下のポリアミンが好ましい。Mnが300以下であることは、ポリウレタン樹脂の凝集力を高くするために必要であり、1分子内の官能基数が2以上のポリアミンを使用することはポリウレタン樹脂のMnを高くし、耐久性を向上させるために必要である。
【0037】
鎖延長剤(Ae)は、一種類を単独で用いてもよいし、複数種類を併用してもよい。
【0038】
(水酸基含有ポリアミン(Ad)及び鎖延長剤(Ae)の使用量)
水酸基含有ポリアミン(Ad)及び鎖延長剤(Ae)の合計の使用量は、ポリウレタン樹脂(A)の合成中間体であるポリウレタンプレポリマー中の鎖延長起点となるイソシアナト基の当量以下であることが好ましく、ポリウレタンプレポリマー中のイソシアナト基の0.7~0.99当量であることがより好ましい。ポリウレタンプレポリマー中のイソシアナト基の当量以下の量で、水酸基含有ポリアミン(Ad)及び鎖延長剤(Ae)を添加することで、鎖延長されたポリウレタン樹脂(A)の分子量を低下させず、塗膜の強度を高くすることができる傾向がある。
水酸基含有ポリアミン(Ad)は、ポリウレタン樹脂(A)の水酸基価が3.0~15mgKOH/gの範囲となるように使用する。具体的な水酸基含有ポリアミン(Ad)の使用量は、脂環構造を有するポリカーボネートポリオール(Aa)、ポリイソシアネート(Ab)及び酸性基含有ポリオール(Ac)の全固形分に対し、0.1~10質量%であることが好ましく、0.3~7.0質量%であることがより好ましく、0.5~5.0質量%であることがさらに好ましい。
鎖延長剤(Ae)を使用する場合において、鎖延長剤(Ae)の使用量は、脂環構造を有するポリカーボネートポリオール(Aa)、ポリイソシアネート(Ab)及び酸性基含有ポリオール(Ac)の全固形分に対し、0.1~15質量%であることが好ましく、0.1~10質量%であることがより好ましい。
【0039】
((Aa)及び(Ac)以外のその他のポリオール(Af))
ポリウレタン樹脂(A)は上記脂環構造を有するポリカーボネートポリオール(Aa)及び酸性基含有ポリオール(Ac)以外のその他のポリオール(Af)由来の構成単位を有していてもよい。
その他のポリオール(Af)としては、公知のものを使用することができる。例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシド、エチレンオキシドとブチレンオキシドとのランダム共重合体やブロック共重合体等のポリエーテルポリオール;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール等の短鎖脂肪族ジオール;1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、水素添加ビスフェノールA等の脂環式ジオール;1,4-ベンゼンジメタノール、1,3-ベンゼンジメタノール、1,2-ベンゼンジメタノール、4,4’-ナフタレンジメタノール、3,4’-ナフタレンジメタノール等の芳香族ジオール;トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の3官能以上の多価アルコール;ビスフェノールA、ハイドロキノン、ビスヒドロキシエトキシベンゼン及びそれらのアルキレンオキシド付加体等のジオール;テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、1,5-ナフタル酸、2,6-ナフタル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、2,2’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’- ジフェニルエーテルジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、4-メチル-1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、ダイマー酸、水添ダイマー酸等のポリカルボン酸と、上記ポリオールとから得られるポリエステルポリオール等が挙げられる。
その他のポリオール化合物(Af)は、ポリオール化合物(Aa)、(Ac)及び(Af)の全量に対し、70質量%未満の量で含まれていることが好ましく、60質量%未満の量で含まれていることがより好ましく、50質量%未満の量で含まれていることがさらに好ましく、40質量%未満の量で含まれていることがさらにより好ましい。水性ポリウレタン樹脂に求める物性に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、その他のポリオール化合物(Af)の種類、量はともに当業者であれば適宜調整することができるが、その他のポリオール化合物(Af)由来の構造は、ポリウレタン樹脂(A)中に含まれていなくてもよい。
【0040】
(中和剤(Ag))
ポリウレタン樹脂(A)は、上記酸性基を中和させるために中和剤(Ag)由来の構成単位を有していてもよい。中和剤(Ag)は、一種類を単独で用いてもよいし、複数種類を併用してもよい。
【0041】
中和剤(Ag)としては、公知のものを使用することができる。例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-フェニルジエタノールアミン、2-ジメチルアミノエタノール、2-(ジメチルアミノ)-2-メチル-1-プロパノール、ジエチルエタノールアミン、N-メチルモルホリン、ピリジン等の有機アミン類;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機アルカリ、アンモニア等を用いることができる。
【0042】
中和剤(Ag)としては、水性ポリウレタン樹脂分散体組成物中の水系媒体を乾燥する際の温度(通常は50~180℃)で揮発してポリウレタン皮膜から消失し、より一層優れた接着強度が得られる点から、その沸点が200℃以下であることが好ましく、-50~180℃の範囲であることがより好ましい。100℃以下の低温下で数秒間~1時間の短時間に乾燥塗膜を得る際には、その沸点が130℃以下であることが好ましく、110℃以下であることがより好ましい。
【0043】
中和剤(Ag)を用いる場合の使用量としては、ポリウレタン樹脂(A)に含まれる上記酸性基のモル数に対して0.8~1.2倍の範囲であることが好ましい。前記中和剤(Ae)の使用量が上記水性ポリウレタン樹脂分散体に含まれる上記酸性基のモル数に対して0.8倍以上であると、得られる分散体の安定性が高く、1.2倍以下であると、100℃以下の低温乾燥下で数秒間~1時間の短時間で基材密着性が高い塗膜を得ることができる。
【0044】
ポリウレタン樹脂(A)において、脂環構造を有するポリカーボネートポリオール(Aa)と、酸性基含有ポリオール(Ac)と、その他のポリオール(Af)との合計の水酸基当量数は、50~4000であることが好ましい。水酸基当量数がこの範囲であれば、得られたポリウレタン樹脂を含む水性ポリウレタン樹脂分散体の製造が容易である。得られる水性ポリウレタン樹脂分散体の貯蔵安定性の観点から、水酸基当量数は、100~3500であることが好ましく、120~3000であることがより好ましく、130~2500であることがさらに好ましい。酸性基含有ポリオール(Ac)及びその他のポリオール(Af)の合計の使用量は、上記範囲を達成することができる範囲で任意の量を用いることができるが、ポリオール化合物(Aa)、(Ac)及び(Af)の全量に対し、80質量%未満の量で含まれていることが好ましい。
【0045】
水酸基当量数は、以下の式(1)及び(2)で算出することができる。
各ポリオール成分の水酸基当量数=各ポリオール成分の分子量/各ポリオール成分の水酸基の数・・・(1)
ポリオール成分の合計の水酸基当量数=M/ポリオール成分の合計モル数・・(2)
式(2)において、Mは、[〔ポリカーボネートポリオール成分の水酸基当量数×ポリカーボネートポリオール成分のモル数〕+〔酸性基含有ポリオールの水酸基当量数×酸性基含有ポリオールのモル数〕+〔その他のポリオールの水酸基当量数×その他のポリオールのモル数〕]を示す。
【0046】
(水性ポリウレタン樹脂分散体の製造方法)
次に、水性ポリウレタン樹脂分散体の製造方法について説明する。水性ポリウレタン樹脂分散体は、ポリウレタン樹脂(A)が水系媒体中に分散されている。水性ポリウレタン樹脂分散体の製造方法は、下記工程が含まれる。
(I)前記脂環構造を有するポリカーボネートポリオール(Aa)、前記ポリイソシアネート(Ab)、酸性基含有ポリオール(Ac)、並びに場合により(Aa)及び(Ac)以外のその他のポリオール(Af)を反応させてポリウレタンプレポリマーを得る工程、
(II)前記ポリウレタンプレポリマーの酸性基を中和剤(Ag)にて中和する工程、
(III)前記ポリウレタンプレポリマーを水系媒体中に分散させる工程、並びに
(IV)前記ポリウレタンプレポリマー、前記ポリウレタンプレポリマーのイソシアナト基と反応性を有する水酸基含有ポリアミン(Ad)、及び鎖延長剤(Ae)を反応させる工程。
さらに、工程(I)で有機溶剤を使用する場合、工程(V)として、有機溶剤を除去する工程が含まれてもよい。
本発明の水性ポリウレタン樹脂分散体は、公知の文献(例えば、国際公開第2016/039396号、国際公開第2016/163394号等)に記載の公知の方法により製造することができる。
【0047】
(ポリウレタンプレポリマー)
前記工程(I)において、ポリウレタンプレポリマーは、脂環構造を有するポリカーボネートポリオール(Aa)、ポリイソシアネート(Ab)、酸性基含有ポリオール(Ac)、(Aa)及び(Ac)以外のその他のポリオール(Af)を反応させて得られる。したがって、ポリウレタンプレポリマーは、(a1)脂環構造を有するポリカーボネートポリオール由来の構造、(a2)ポリイソシアネート由来の構造、(a3)酸性基含有ポリオール由来の構造を少なくとも有し、(a4)その他のポリオール由来の構造を任意に有する。
【0048】
ポリウレタンプレポリマーは、ポリウレタンプレポリマーの固形分基準で、遊離イソシアナト基の含有割合が0.5~5.0質量%となる範囲内で選択されると、水に対する分散性が良好となる点で好ましい。
【0049】
ポリウレタンプレポリマーの酸価(AV)は、4~40mgKOH/gが好ましく、6~32mgKOH/gがより好ましく、8~29mgKOH/gがさらにより好ましい。ポリウレタンプレポリマーの酸価を4mgKOH/g以上とすることで、水系媒体への分散性、貯蔵安定性を良くすることができる傾向がある。また、ポリウレタンプレポリマーの酸価を40mgKOH/g以下とすることで、ポリウレタン樹脂の塗膜の耐水性を高め、得られるフィルムの柔軟性を高くすることができる傾向がある。また、塗膜作製時の乾燥性を上げることができる傾向がある。
【0050】
なお、「ポリウレタンプレポリマーの酸価」とは、ポリウレタンプレポリマーを製造するにあたって用いられる溶媒及びポリウレタンプレポリマーを水系媒体中に分散させるための中和剤を除く、いわゆる固形分の酸価である。
【0051】
具体的には、ポリウレタンプレポリマーの酸価は、下記式(3)によって導き出すことができる。
【0052】
〔ポリウレタンプレポリマーの酸価〕=〔(酸性基含有ポリオールのミリモル数)×(酸性基含有ポリオール1分子中の酸性基の数)+(ヒドロキシアルカン酸のミリモル数)×(ヒドロキシアルカン酸1分子中の酸性基の数)〕×56.1/〔ポリイソシアネート、酸性基含有ポリオール、ヒドロキシアルカン酸、ブロック化剤、脂環構造を有するポリカーボネートポリオール、及びその他のポリオールの合計の質量〕・・・(3)
【0053】
(工程(I)~(V))
工程(I)~(III)及び(V)は、前記公知文献記載の方法により行われる。
【0054】
前記ポリウレタンプレポリマーと、前記ポリウレタンプレポリマーのイソシアナト基と反応性を有する水酸基含有ポリアミン(Ad)、及び鎖延長剤(Ae)とを反応させる工程(IV)は、ポリウレタンプレポリマー同士を架橋し、ポリウレタン樹脂(A)の分子量を目的の範囲に調整する工程である。さらに、前記の通り、水酸基含有ポリアミン(Ad)の種類や使用量を調整することにより、ポリウレタン樹脂(A)の水酸基価が3.0~15mgKOH/gの範囲とすることができる。
前記工程(IV)において、鎖延長剤(Ae)の代わりに、水酸基含有ポリアミンとともに、酸性基を含まないポリオール及び/又は酸性基含有ポリオールを使用することもできる。これらのポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等のジオール化合物、ポリエチレングリコールに代表されるポリアルキレングリコール類が挙げられる。
【0055】
前記工程(IV)は冷却下でゆっくりと行ってもよく、また場合によっては60℃以下の加熱条件下で反応を促進して行ってもよい。冷却下における反応時間は、例えば0.5~24時間とすることができ、60℃以下の加熱条件下における反応時間は、例えば0.1~6時間とすることができる。
【0056】
前記工程(IV)において、水酸基含有ポリアミンは、前記ポリウレタンプレポリマーに対し、60℃以下で反応させることが好ましい。具体的には、ポリウレタンプレポリマーを水に分散させた後、60℃以下で反応させることが好ましい。60℃を超える温度で反応を行った場合、水酸基含有ポリアミンの水酸基がイソシアナト基と反応し、意図した量の水酸基を付与できない場合がある。
【0057】
水性ポリウレタン樹脂分散体の製造において、前記工程(II)と前記工程(IV)とは、どちらを先に行ってもよいし、同時に行うこともできる。前記工程(II)と、前記工程(III)は、同時に行ってもよい。更に、前記工程(II)、前記工程(III)及び前記工程(IV)は、同時に行ってもよい。
【0058】
(水性ポリウレタン樹脂分散体)
水性分散体中におけるポリウレタン樹脂(A)の割合は、5~60質量%、好ましくは20~50質量%である。
【0059】
水性分散体中におけるポリウレタン樹脂(A)の水酸基価は、水性ポリウレタン樹脂分散体から得られる塗膜の耐アルコール性向上の点から3.0~15mgKOH/gであり、貯蔵安定性の点から3.5~13mgKOH/gが好ましく、4.0~11mgKOH/gがより好ましく、5.0~10mgKOH/gがさらに好ましい。水酸基価とは、試料1g中の水酸基と当量の水酸化カリウムのミリグラム(mg)数であり、JIS K 1557のA法によって測定することができる。
【0060】
水性分散体中におけるポリウレタン樹脂(A)の重量平均分子量(Mw)は、200,000~10,000,000であることが好ましく、300,000~5,000,000であることがより好ましく、400,000~2,000,000であることがさらに好ましい。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したものであり、予め作成した標準ポリスチレンの検量線から求めた換算値を使用することができる。重量平均分子量を200,000以上とすることで、良好な塗膜を得ることができる傾向がある。重量平均分子量を10,000,000以下とすることで、水性ポリウレタン樹脂分散体の乾燥性をより高くすることができる傾向がある。
【0061】
水性分散体中におけるポリウレタン樹脂(A)中に含まれる脂環構造の含有量は、ポリウレタン樹脂(A)全量に対して、固形分基準で30~50質量%であることが好ましく、32~48質量%がより好ましく、34~46質量%がさらに好ましい。脂環構造の含有割合が上記範囲にあると、水性ポリウレタン樹脂分散体の分散性の低下、粒子のメジアン径の増大、ゲル化、及び加水分解等を抑制することができる点で好ましい。なお、水性分散体中におけるポリウレタン樹脂(A)中に含まれる脂環構造の含有量における「脂環構造の含有量」は、ポリカーボネートポリオール(Aa)、ポリイソシアネート(Ab)等ポリウレタン樹脂(A)の全構成成分中に存在する脂環構造の、ポリウレタン樹脂(A)中の含有量を指す。
【0062】
水性分散体中におけるポリウレタン樹脂(A)において、ウレタン結合及びウレア結合の含有割合は、固形分基準で7~25質量%であることが好ましく、8~22質量%であることがより好ましい。
【0063】
ウレタン結合及びウレア結合の含有割合は、ポリイソシアネート(Ab)、脂環構造を有するポリカーボネートポリオール(Aa)、酸性基含有ポリオール(Ac)、水酸基含有ポリアミン(Ad)及びその他のポリオール(Af)、並びに場合によってブロック化剤及び鎖延長剤(Ae)の、それぞれの分子量、1分子中における水酸基、イソシアナト基及びアミノ基の数並びに水性ポリウレタン樹脂分散体における固形分基準での各原料の使用割合によって制御することができる。
【0064】
前記ウレタン結合及びウレア結合の含有割合を7質量%以上とすることで、塗膜乾燥後の塗膜表面のベタツキを低減できる場合がある。また、前記ウレタン結合及びウレア結合の含有割合を25質量%以下とすることで、水性ポリウレタン樹脂分散体から形成される塗膜と基材の密着性が高くなる場合がある。
【0065】
ここで、ポリウレタンにおいてカーボネート、ウレタン等それぞれの構造・基がどの原料に由来するものであるかは当業者にとっては明らかなものであること、また、生成するポリウレタン樹脂には原料のほぼ全てが取り込まれること、或いはそのように設計することは容易であるため、ポリウレタン樹脂(A)中の脂環構造、ウレタン結合、ウレア結合等の含有量は、仕込み量、各原料の分子量及び各構造に相当する部分の分子量又はモル数により、凡そ計算することができる。
【0066】
水性分散体中におけるポリウレタン樹脂(A)の酸価は、特に制限されないが、固形分基準で10~40mgKOH/gであることが好ましく、15~32mgKOH/gであることがより好ましく、17~30mgKOH/gであることがさらに好ましい。前記ポリウレタン樹脂(A)の酸価を固形分基準で10~40mgKOH/gの範囲とすることで、貯蔵安定性が向上する傾向がある。酸価は、JIS K 1557の指示薬滴定法に準拠して測定することができる。測定においては、酸性基を中和するために使用した中和剤を取り除いて測定する。例えば、有機アミン類を中和剤として用いた場合には、水性ポリウレタン樹脂分散体をガラス板上に塗布し、温度60℃、20mmHgの減圧下で24時間乾燥して得られた塗膜をN-メチルピロリドン(NMP)に溶解させて、JIS K 1557の指示薬滴定法に準拠して酸価を測定することができる。
【0067】
水性分散体中におけるポリウレタン樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)は、-10℃以上であることが好ましく、-10~100℃であることがより好ましく、10~90℃であることがさらに好ましく、30~80℃であることがさらにより好ましい。ポリウレタン樹脂(A)のTgが-10℃以上であると、耐アルコール性がより優れる。
【0068】
<硬化剤(B)>
本発明で、任意で使用することができる硬化剤(B)(以下、「(B)」ということもある。)は、ポリウレタン樹脂(A)の中の官能基、好ましくは水酸基及び酸性基と反応して、樹脂組成物の硬化に寄与し得る化合物である。本発明の水性ポリウレタン樹脂分散体組成物の一態様は、ポリウレタン樹脂(A)と硬化剤(B)とが水系媒体中に分散している組成物である。
【0069】
硬化剤(B)としては、公知のものを使用することができる。例えば、ポリイソシアネート化合物、ポリカルボジイミド化合物、アミノ樹脂、エポキシ基含有化合物、アジリジン化合物等が挙げられる。
【0070】
硬化剤(B)としては、ポリウレタン樹脂(A)の中の水酸基と反応し得るポリイソシアネート化合物及びポリウレタン樹脂(A)の中の水酸基と反応し得るアミノ樹脂、またポリウレタン樹脂(A)の中の酸性基と反応し得るポリカルボジイミド化合物を好適に使用することができる。
【0071】
硬化剤(B)は、一種類を単独で用いてもよいし、複数種類を併用してもよい。
【0072】
前記ポリイソシアネート化合物は、1分子中に少なくとも2個のイソシアナト基を有する化合物である。例えば、前記ポリイソシアネート(Ab)に記載された化合物と同じ化合物を使用することができる。なかでも、脂肪族イソシアネート化合物、脂環式イソシアネート化合物が好ましい。
【0073】
前記ポリイソシアネート化合物は、イソシアナト基がブロック化剤でブロックされていてもよい。ブロック化剤として例えば、フェノール、クレゾール等のフェノール系、メタノール、エタノール等の脂肪族アルコール系;マロン酸ジメチル、アセチルアセトン等の活性メチレン系;ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン等のメルカプタン系;アセトアニリド、酢酸アミド等の酸アミド系;ε-カプロラクタム、δ-バレロラクタム等のラクタム系;コハク酸イミド、マレイン酸イミド等の酸イミド系;アセトアルドオキシム、アセトンオキシム、メチルエチルケトオキシム等のオキシム系;ジフェニルアニリン、アニリン、エチレンイミン、ジメチルピラゾール等のアミン系、ヒドロキシピバリン酸、ジメチロールプロピオン酸等のヒドロキシカルボン酸等が挙げられる。なかでも、塗膜の平滑性向上の点から、オキシム系ブロック化剤、活性メチレン系ブロック化剤、アミン系のブロック化剤が好ましく、ピラゾールがより好ましい。
【0074】
前記ポリイソシアネート化合物としては、市販品を使用できる。例えば、Vencorex社製のEASAQUA(登録商標)シリーズが挙げられるが、かかる例示にのみ限定されるものではない。
【0075】
前記ポリカルボジイミド化合物としては、例えばN,N’-ジ-o-トルイルカルボジイミド、N,N’-ジフェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-2,6-ジメチルフェニルカルボジイミド、N,N’-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド、N,N’-ジオクチルデシルカルボジイミド、N-トリイル-N’-シクロヘキシルカルボジイミド、N,N’-ジ-2,2-ジ-tert-ブチルフェニルカルボジイミド、N-トリイル-N’-フェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-p-ニトロフェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-p-アミノフェニルカルボジイミド、N,N’-ジ-p-ヒドロキシフェニルカルボジイミド、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド、N,N’-ジ-p-トルイルカルボジイミド等が挙げられる。このようなカルボジイミドとしては日清紡ケミカル株式会社製のカルボジライトシリーズが挙げられるが、かかる例示にのみ限定されるものではない。
【0076】
前記アミノ樹脂としては、アミノ成分とアルデヒド成分との反応によって得られる部分メチロール化アミノ樹脂又は完全メチロール化アミノ樹脂を使用することができる。アミノ成分としては、例えばメラミン、尿素、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、ステログアナミン、スピログアナミン、ジシアンジアミド等が挙げられる。アルデヒド成分としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド等が挙げられる。
【0077】
また、前記メチロール化アミノ樹脂のメチロール基を、適当なアルコールによって、部分的に又は完全にエーテル化したものも使用することができる。エーテル化に用いられるアルコールとしては、例えばメチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、i-プロピルアルコール、n-ブチルアルコール、i-ブチルアルコール、2-エチルブタノール、2―エチルヘキサノール等が挙げられる。
【0078】
前記アミノ樹脂としては、メラミン樹脂が好ましく、部分又は完全メチロール化メラミン樹脂のメチロール基をメチルアルコールで部分的に又は完全にエーテル化したメチルエーテル化メラミン樹脂、部分又は完全メチロール化メラミン樹脂のメチロール基をブチルアルコールで部分的に又は完全にエーテル化したブチルエーテル化メラミン樹脂、部分又は完全メチロール化メラミン樹脂のメチロール基をメチルアルコール及びブチルアルコールで部分的に又は完全にエーテル化したメチル―ブチル混合エーテル化メラミン樹脂がより好ましい。
【0079】
前記アミノ樹脂としては、市販品を使用できる。例えば、三井化学株式会社製のユーバン(登録商標)シリーズが挙げられるが、かかる例示にのみ限定されるものではない。
【0080】
<水性ポリウレタン樹脂分散体組成物の製造>
本発明に係る水性ポリウレタン樹脂分散体組成物は、ポリウレタン樹脂(A)及び水系媒体を含み、硬化剤(B)を含有していてもよい。
水系媒体は、水又は水と親水性有機溶媒との混合媒体である。
水としては、例えば、上水、イオン交換水、蒸留水、超純水などが挙げられる。
親水性有機溶媒としては、例えば、アセトン、エチルメチルケトンなどのケトン類;N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドンなどのピロリドン類;ジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類;メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどのアルコール類;KJケミカル社製「KJCMPA(R)-100」に代表されるβ-アルコキシプロピオンアミドなどのアミド類;2-(ジメチルアミノ)-2-メチル-1-プロパノール(DMAP)などの水酸基含有三級アミンが挙げられる。
水系媒体中の親水性有機溶媒の量は、0~20質量%であることが好ましい。
水性ポリウレタン樹脂分散体のpHは、5.0~9.0が好ましい。
【0081】
ポリウレタン樹脂(A)と硬化剤(B)とを混合する場合の固形分重量比は、貯蔵安定性及び塗膜の耐アルコール性向上の点から、ポリウレタン樹脂(A)の固形分重量に対する硬化剤(B)の比が、(B)/(A)=0.10~0.65であることが好ましく、0.13~0.63であることがより好ましい。より詳細には、ポリウレタン樹脂(A)の単位水酸基価(1mgKOH/g)当たりの両者の比率が、0.010~0.065であることが好ましく、0.013~0.063であることが、耐アルコール性をより向上させる観点からより好ましい。
【0082】
水性ポリウレタン樹脂分散体組成物は、上記水性ポリウレタン樹脂分散体を必須成分として含有するが、必要に応じてその他の樹脂及び/又はその他の添加剤を含有してもよい。
【0083】
前記その他の樹脂としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、ポリオレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂等が挙げられる。中でもポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂が好ましく、ポリエステル樹脂エマルジョン、アクリル樹脂エマルジョン及びポリオレフィン樹脂エマルジョン選ばれる少なくとも1種を添加することがより好ましく、アクリル樹脂エマルジョンを添加することがさらに好ましい。これらは単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
なお、エマルジョンとは、水中又は有機溶媒及び水の混合媒体中に樹脂が分散された状態を示す。
【0084】
前記その他の添加剤としては、例えば、表面調整剤、乳化剤、増粘剤、ウレタン化触媒、充填剤、発泡剤、顔料、染料、撥油剤、造膜助剤、中空発泡体、難燃剤、消泡剤、レベリング剤、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、沈降防止剤等を用いることができる。これらの添加剤は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0085】
表面調整剤としては、一般に高分子量化に伴う粘性の変化、表面張力の変化、泡の発生に起因して生じる塗膜の欠陥を解消し得る性能を有する、表面調整剤、レベリング剤、濡れ剤、消泡剤等と称されるものであれば、特に制限なく使用することができ、例えば、アクリル系、ビニル系、シリコーン系、フッ素系、セルロース系、天然ワックス系、水溶性有機溶媒等の各種表面調整剤、レベリング剤、濡れ剤、消泡剤等の他、界面活性剤も好ましく挙げられ、中でも濡れ剤が好ましい。
【0086】
顔料としては、公知の着色顔料や体質顔料、光輝性顔料を使用することができる。着色顔料としては例えば、酸化鉄、酸化チタン、亜鉛華、モリブデンレッド、コバルトブルー、カーボンブラック等の無機顔料や、キナクリドン顔料、キナクリドンキノン顔料、ジオキサジン顔料、フタロシアニン顔料、アントラピリミジン顔料、アンサンスロン顔料、インダンスロン顔料、フラバンスロン顔料、ペリレン顔料、ジケトピロロピロール顔料、ペリノン顔料、キノフタロン顔料、アントラキノン顔料、チオインジゴ顔料、アゾ顔料等の有機顔料等が挙げられる。体質顔料としては例えば、クレー、カオリン、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシウム、タルク、シリカ、アルミナホワイト等が挙げられる。光輝性顔料としては例えば、アルミニウム、銅、亜鉛、真鍮、ニッケル、酸化アルミニウム、雲母、酸化チタンや酸化鉄で被覆された酸化アルミニウム、酸化鉄や酸化チタンで被覆された雲母等が挙げられる。
【0087】
造膜助剤は、一般に水性塗装剤を用いた塗膜を成膜する際、成膜を促進する作用を有する親水性化合物である。造膜助剤としては例えば、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、N-プロピルピロリドン、N-イソプロピルピロリドン、N-ブチルピロリドン、N-シクロヘキシルピロリドン、N-オクチルピロリドン、N-フェニルピロリドン、ビニルピロリドン等のピロリドン系化合物;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、n-ヘキサノール等のアルコール系化合物;プロピレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール等のグリコール系化合物等が挙げられ、中でもピロリドン系化合物が好ましい。
造膜助剤は、ポリウレタン樹脂(A)が分散されている水系媒体を兼ねることもできる。
【0088】
本発明の水性ポリウレタン樹脂分散体組成物の製造方法は、特に制限されないが、公知の製造方法を用いることができる。例えば、前記水性ポリウレタン樹脂分散体を前記硬化剤(B)及び/又は上述した各種添加剤を攪拌混合することにより製造される。
【0089】
<塗料組成物、コーティング剤組成物>
本発明は、水性ポリウレタン樹脂分散体を含有する塗料組成物及びコーティング剤組成物に関する。本発明の塗料組成物及びコーティング剤組成物とは、水性ポリウレタン樹脂分散体を含有する組成物が塗料用途及びコーティング剤用途に用いられるものである。
【0090】
塗料組成物、コーティング剤組成物には、水性ポリウレタン樹脂分散体に含まれる樹脂以外の樹脂の水性分散液及び/又は水溶液を添加することができる。このような他の樹脂としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、ポリオレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。他の樹脂は、1種以上の親水性基を有することが好ましい。親水性基としては、水酸基、カルボキシ基、スルホン酸基、ポリエチレングリコール基等が挙げられる。
【0091】
他の樹脂としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0092】
ポリエステル樹脂は、通常、酸成分とアルコ-ル成分とのエステル化反応又はエステル交換反応によって製造することができる。酸成分としては、ポリエステル樹脂の製造に際して酸成分として通常使用される化合物を使用することができる。酸成分としては、例えば、脂肪族多塩基酸、脂環族多塩基酸、芳香族多塩基酸等を使用することができる。
【0093】
アクリル樹脂は、分子内に、1又は複数種の「(メタ)アクリロイル基」を有する「(メタ)アクリルモノマー」由来の重合単位を有する化合物である。アクリル樹脂は、通常、1種以上の(メタ)アクリルモノマーを重合させることにより得られる。
【0094】
前記(メタ)アクリルモノマーとしては、例えば、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール-テトラメチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、ポリ(プロピレングリコール-テトラメチレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ラウロキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ステアロキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシポリプロピレングリコールポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、フェノキシポリプロピレングリコールポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アリールエステル等が挙げられる。
【0095】
ポリエーテル樹脂としては、エーテル結合を有する重合体又は共重合体が挙げられ、例えばポリオキシエチレン系ポリエーテル、ポリオキシプロピレン系ポリエーテル、ポリオキシブチレン系ポリエーテル、ビスフェノールA又はビスフェノールF等の芳香族ポリヒドロキシ化合物から誘導されるポリエーテル等が挙げられる。
【0096】
ポリカーボネート樹脂としては、ビスフェノール化合物から製造された重合体が挙げられ、例えばビスフェノールA・ポリカーボネート等が挙げられる。
【0097】
ポリウレタン樹脂としては、アクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール等の各種ポリオール成分とポリイソシアネートとの反応によって得られるウレタン結合を有する樹脂が挙げられる。
【0098】
エポキシ樹脂としては、ビスフェノール化合物とエピクロルヒドリンの反応によって得られる樹脂等が挙げられる。ビスフェノール化合物としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールFが挙げられる。
【0099】
アルキド樹脂としては、フタル酸、テレフタル酸、コハク酸等の多塩基酸と多価アルコールに、更に油脂・油脂脂肪酸(大豆油、アマニ油、ヤシ油、ステアリン酸等)、天然樹脂(ロジン、コハク等)等の変性剤を反応させて得られたアルキド樹脂が挙げられる。
【0100】
ポリオレフィン樹脂としては、オレフィン系モノマーを適宜他のモノマーと通常の重合法に従って重合又は共重合することにより得られるポリオレフィン樹脂を、乳化剤を用いて水分散するか、あるいはオレフィン系モノマーを適宜他のモノマーと共に乳化重合することにより得られる樹脂が挙げられる。また、場合により、前記のポリオレフィン樹脂が塩素化されたいわゆる塩素化ポリオレフィン変性樹脂を用いてもよい。
【0101】
オレフィン系モノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-ヘキセン、1-デセン、1-ドデセン等のα-オレフィン;ブタジエン、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,5-ヘキサジエン等の共役ジエン又は非共役ジエンが挙げられ、これらのモノマーは、単独であってもよいし、複数種を併用してもよい。
【0102】
オレフィン系モノマーと共重合可能な他のモノマーとしては、例えば、スチレン、酢酸ビニル、ビニルアルコール、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水イタコン酸が挙げられ、これらのモノマーは、単独であってもよいし、複数種を併用してもよい。
【0103】
塗料組成物及びコーティング剤組成物には、必要に応じて、表面調整剤、乳化剤、硬化剤、増粘剤、ウレタン化触媒、充填剤、発泡剤、顔料、染料、撥油剤、中空発泡体、難燃剤、消泡剤、レベリング剤、ブロッキング防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、沈降防止剤等の通常の添加剤を含有することができる。これらは、複数種を併用してもよい。
【0104】
塗料組成物及びコーティング剤組成物の製造方法は、特に制限されないが、公知の製造方法を用いることができる。一般的には、塗料組成物及びコーティング剤組成物は、前記水性ポリウレタン樹脂分散体組成物と上述した他の樹脂及び/又は各種添加剤を混合し、更に水系媒体を添加し、適用方法に応じた粘度に調整することにより製造される。
【0105】
塗料組成物の被塗装材質又はコーティング剤組成物の被コーティング材質の被適用材質としては、金属、プラスチック、無機物、木材等が挙げられ、電着塗装板も好適な被適用材質に挙げることができる。
【0106】
塗料組成物の塗装方法又はコーティング剤組成物のコーティング方法としては、例えば、ベル塗装、スプレー塗装、ロール塗装、シャワー塗装、浸漬塗装が挙げられる。また、塗装又はコーティングした後で、その塗装面又はコーティング面に、さらに他の材料を適用することもできる。そのような中塗り用組成物の適用方法としては、例えば、インクジェット印刷方法、フレキソ印刷方法、グラビア印刷方法、反転オフセット印刷方法、枚葉スクリーン印刷方法、ロータリースクリーン印刷方法、エアスプレイ塗装方式、ベル塗装方式及び静電塗装方式式が挙げられる。
【0107】
<塗膜>
本発明の水性ポリウレタン樹脂分散体を乾燥させることで、塗膜を得ることができる。
水性ポリウレタン樹脂分散体より得られる塗膜の厚さは、特に制限されないが、0.5~200μmに調整することが好ましく、1~100μmに調整することがより好ましく、5~50μmに調整することがさらに好ましく、10~40μmに調整することがさらにより好ましい。
【0108】
本発明の水性ポリウレタン樹脂分散体から得られる塗膜の耐アルコール性は、塗膜が破れるまでのラビング往復回数として、15往復以上が好ましく、17往復以上がより好ましい。耐アルコール性は、実施例記載の方法により測定される。また、本発明の水性ポリウレタン樹脂分散体を使用して得られた塗膜を、アルコールを含むシート等で拭く場合、コーティング剤としての機能を発揮するためには耐アルコール性が必要である。この場合、アルコールに含浸し静置するのみのスポット試験では十分な評価ができず、後述のラビング試験の方がコーティング剤としての性能を評価できる。
【0109】
本発明の水性ポリウレタン樹脂分散体から得られた塗膜の、実施例記載の方法で測定した密着性は、剥離しなかった塗膜の割合として、95%以上が好ましく、98%以上が更に好ましい。
【0110】
<塗膜の製造方法>
本発明の水性ポリウレタン樹脂分散体を塗布後に、乾燥ないし硬化させることで、塗膜を得ることができる。塗料組成物又はコーティング剤組成物を被適用材質に適用した後、加熱により該組成物を乾燥ないし硬化させて塗膜を得ることが好ましい。
前記加熱方法としては、自己の反応熱による加熱方法と、塗料組成物及びコーティング剤組成物と被適用材質とを積極加熱する加熱方法等が挙げられる。積極加熱は、塗料組成物及びコーティング剤組成物と被適用材質を熱風オーブンや電気炉、赤外線誘導加熱炉に入れて加熱する方法が挙げられる。
【0111】
本発明の組成物は、20℃以上、かつ好ましくは100℃以下、より好ましくは80℃以下の温度に加熱することにより、乾燥ないし硬化させることができる。
具体的には、前述のコーティング材料組成物を電着塗面、鋼板、木材、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)樹脂などの各種プラスチック基材に、スプレー、ハケ、アプリケーター、バーコーター等を用いて塗布し、100℃以下、好ましくは80℃のオーブン、加熱槽等に1~120分間、好ましくは、1~60分間、より好ましくは1~45分間保持する方法により乾燥ないし硬化させることができる。
複層塗膜の中のプライマー、ベースコート等として用いる場合には、前述の各種基材に塗布後、例えば、20~80℃で1~30分間、好ましくは、1~10分間、より好ましくは、2~6分間保持して、次いで任意成分として、さらにもう1種のベースコートを塗布して、同様の温度、時間で処理した後に、トップコート(用途によっては、クリアコートという)を塗布して、100℃以下、好ましくは、80℃以下で10~120分間、より好ましくは、20~90分間、さらにより好ましくは、30~60分間加熱することができる。
本発明の一つの態様は、水性ポリウレタン樹脂分散体を20~100℃の温度に付す工程を含む、塗膜を得る方法である。
【実施例0112】
次に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0113】
[水性ポリウレタン樹脂分散体の製造]
[合成例1]
水性ポリウレタン樹脂分散体(U1)
ETERNACOLL(登録商標) UM90(1/3)(宇部興産製;数平均分子量916;水酸基価123mgKOH/g;ポリオール成分が1,4-シクロヘキサンジメタノール:1,6-ヘキサンジオール=1:3のモル比のポリオール混合物と炭酸エステルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール、180g)と、2,2-ジメチロールプロピオン酸(29.5g)と、水素添加MDI(204g)とを、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(DMM、75.2g)中、ジブチル錫ジラウリレート(0.3g)存在下、窒素雰囲気下で、80~95℃で5時間加熱した。反応混合物を80℃まで冷却し、これにトリエチルアミン(22.3g)を添加・混合したもののうち、358gを、強撹拌のもと水(619g)の中に加えた。ついで、35質量%の2-メチル-1,5-ペンタンジアミン水溶液(69.4g)と、35質量%の2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール水溶液(8.41g)とを加えて、水性ポリウレタン樹脂分散体水性ポリウレタン樹脂分散体(U1)を得た。
【0114】
[合成例2]
水性ポリウレタン樹脂分散体(U2)
ETERNACOLL(登録商標) UM90(1/3)(宇部興産製;数平均分子量916;水酸基価123mgKOH/g;ポリオール成分が1,4-シクロヘキサンジメタノール:1,6-ヘキサンジオール=1:3のモル比のポリオール混合物と炭酸エステルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール、180g)と、2,2-ジメチロールプロピオン酸(29.0g)と、水素添加MDI(202g)とを、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(DMM、73.0g)中、ジブチル錫ジラウリレート(0.3g)存在下、窒素雰囲気下で、80~95℃で5時間加熱した。反応混合物を80℃まで冷却し、これにトリエチルアミン(21.9g)を添加・混合したもののうち、354gを、強撹拌のもと水(615g)の中に加えた。ついで、35質量%の2-メチル-1,5-ペンタンジアミン水溶液(59.5g)と、35質量%の2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール水溶液(16.7g)とを加えて、水性ポリウレタン樹脂分散体(U2)を得た。
【0115】
[合成例3]
水性ポリウレタン樹脂分散体(U3)
ETERNACOLL(登録商標) UM90(3/1)(宇部興産製;数平均分子量916;水酸基価123mgKOH/g;ポリオール成分が1,4-シクロヘキサンジメタノール:1,6-ヘキサンジオール=3:1のモル比のポリオール混合物と炭酸エステルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール、190g)と、2,2-ジメチロールプロピオン酸(27.6g)と、水素添加MDI(180g)とを、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(DMM、143g)中、ジブチル錫ジラウリレート(0.3g)存在下、窒素雰囲気下で、80~95℃で5時間加熱した。反応混合物を80℃まで冷却し、これにトリエチルアミン(20.8g)を添加・混合したもののうち、421gを、強撹拌のもと水(585g)の中に加えた。ついで、35質量%の2-メチル-1,5-ペンタンジアミン水溶液(54.6g)と、35質量%の2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール水溶液(8.56g)とを加えて、水性ポリウレタン樹脂分散体(U3)を得た。
【0116】
[合成例4]
水性ポリウレタン樹脂分散体(U4)
ETERNACOLL(登録商標) UC100(宇部興産製;数平均分子量1000;水酸基価110mgKOH/g;1,4-シクロヘキサンジメタノールと炭酸エステルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール、180g)と、2,2-ジメチロールプロピオン酸(28.3g)と、水素添加MDI(191g)とを、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(DMM、145g)中、ジブチル錫ジラウリレート(0.3g)存在下、窒素雰囲気下で、80~95℃で5時間加熱した。反応混合物を80℃まで冷却し、これにトリエチルアミン(21.3g)を添加・混合したもののうち、395gを、強撹拌のもと水(440g)の中に加えた。ついで、35質量%の2-メチル-1,5-ペンタンジアミン水溶液(61.4g)と、35質量%の2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール水溶液(8.00g)とを加えて、水性ポリウレタン樹脂分散体(U4)を得た。
【0117】
[合成例5]
水性ポリウレタン樹脂分散体(U5)
ETERNACOLL(登録商標) UM90(3/1)(宇部興産製;数平均分子量916;水酸基価123mgKOH/g;ポリオール成分が1,4-シクロヘキサンジメタノール:1,6-ヘキサンジオール=3:1のモル比のポリオール混合物と炭酸エステルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール、152g)と、PTMG2000(三菱ケミカル製;数平均分子量1955;水酸基価57.4mgKOH/g;ポリテトラメチレンエーテルグリコール、38.0g)と、2,2-ジメチロールプロピオン酸(26.5g)と、水素添加MDI(167g)を、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(DMM、137g)中、ジブチル錫ジラウリレート(0.3g)存在下、窒素雰囲気下で、80~95℃で5時間加熱した。反応混合物を80℃まで冷却し、これにトリエチルアミン(20.0g)を添加・混合したもののうち、405gを、強撹拌のもと水(563g)の中に加えた。ついで、35質量%の2-メチル-1,5-ペンタンジアミン水溶液(50.0g)と、35質量%の2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール水溶液(8.23g)とを加えて、水性ポリウレタン樹脂分散体(U5)を得た。
【0118】
[合成例6]
水性ポリウレタン樹脂分散体(U6)
ETERNACOLL(登録商標) UH100(宇部興産製;数平均分子量1,000;水酸基価110mgKOH/g;1,6-ヘキサンジオールと炭酸エステルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール、180g)と、2,2-ジメチロールプロピオン酸(27.9g)と、水素添加MDI(188g)とを、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(DMM、72.0g)中、ジブチル錫ジラウリレート(0.3g)存在下、窒素雰囲気下で、80~95℃で5時間加熱した。反応混合物を80℃まで冷却し、これにトリエチルアミン(21.0g)を添加・混合したもののうち、367gを、強撹拌のもと水(637g)の中に加えた。ついで、35質量%の2-メチル-1,5-ペンタンジアミン水溶液(68.4g)と、35質量%の2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール水溶液(8.60g)とを加えて、水性ポリウレタン樹脂分散体(U6)を得た。
【0119】
[合成例7]
水性ポリウレタン樹脂分散体(U7)
ETERNACOLL(登録商標) UM90(1/3)(宇部興産製;数平均分子量916;水酸基価123mgKOH/g;ポリオール成分が1,4-シクロヘキサンジメタノール:1,6-ヘキサンジオール=1:3のモル比のポリオール混合物と炭酸エステルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール、180g)と、2,2-ジメチロールプロピオン酸(29.1g)と、水素添加MDI(202g)とを、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(DMM、75.2g)中、ジブチル錫ジラウリレート(0.3g)存在下、窒素雰囲気下で、80~95℃で5時間加熱した。反応混合物を80℃まで冷却し、これにトリエチルアミン(22.0g)を添加・混合したもののうち、356gを、強撹拌のもと水(617g)の中に加えた。ついで、35質量%の2-メチル-1,5-ペンタンジアミン水溶液(78.3g)を加えて、水性ポリウレタン樹脂分散体(U7)を得た。
【0120】
[合成例8]
水性ポリウレタン樹脂分散体(U8)
ETERNACOLL(登録商標) UM90(3/1)(宇部興産製;数平均分子量916;水酸基価123mgKOH/g;ポリオール成分が1,4-シクロヘキサンジメタノール:1,6-ヘキサンジオール=3:1のモル比のポリオール混合物と炭酸エステルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール、1500g)と、2,2-ジメチロールプロピオン酸(220g)と、水素添加MDI(1450g)とを、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(DMM、1350g)中、ジブチル錫ジラウリレート(2.6g)存在下、窒素雰囲気下で、80~90℃で6時間加熱した。反応混合物を80℃まで冷却し、これにトリエチルアミン(149g)を添加・混合したもののうち、4360gを、強撹拌のもと水(6900g)の中に加えた。ついで、35質量%の2-メチル-1,5-ペンタンジアミン水溶液(626g)を加えて、水性ポリウレタン樹脂分散体(U8)を得た。
【0121】
[合成例9]
水性ポリウレタン樹脂分散体(U9)
ETERNACOLL(登録商標) UM90(3/1)(宇部興産製;数平均分子量916;水酸基価123mgKOH/g;ポリオール成分が1,4-シクロヘキサンジメタノール:1,6-ヘキサンジオール=3:1のモル比のポリオール混合物と炭酸エステルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール、180g)と、2,2-ジメチロールプロピオン酸(26.8g)と、水素添加MDI(173g)とを、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(DMM、137g)中、ジブチル錫ジラウリレート(0.3g)存在下、窒素雰囲気下で、80~95℃で5時間加熱した。反応混合物を80℃まで冷却し、これにトリエチルアミン(20.2g)を添加・混合したもののうち、430gを、強撹拌のもと水(594g)の中に加えた。ついで、35質量%の2-メチル-1,5-ペンタンジアミン水溶液(30.5g)と、35質量%の2-(2-アミノエチルアミノ)エタノール水溶液(31.5g)とを加えて、水性ポリウレタン樹脂分散体(U9)を得た。
【0122】
[合成例10]
ETERNACOLL(登録商標) UM90(1/3)(宇部興産製;数平均分子量916;水酸基価123mgKOH/g;ポリオール成分が1,4-シクロヘキサンジメタノール:1,6-ヘキサンジオール=1:3のモル比のポリオール混合物と炭酸エステルとを反応させて得られたポリカーボネートジオール、180g)と、2,2-ジメチロールプロピオン酸(29.1g)と、水素添加MDI(202g)とを、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(DMM、75.2g)中、ジブチル錫ジラウリレート(0.3g)存在下、窒素雰囲気下で、80~95℃で5時間加熱した。反応混合物を80℃まで冷却し、これにトリエチルアミン(22.0g)を添加・混合したもののうち、356gを、強撹拌のもと水(617g)の中に加えた。ついで、35質量%の2-メチル-1,5-ペンタンジアミン水溶液(48.6g)と35質量%のジエチレントリアミン水溶液(17.6g)を加えて、水性ポリウレタン樹脂分散体(U10)を得た。該分散体におけるポリウレタン樹脂の水酸基価は、0mgKOH/gであった。
【0123】
[実施例1]
水性ポリウレタン樹脂分散体U1の100質量部に対し、イソシアネート系硬化剤としてVencorex社製 EASAQUA XD870を10質量部、精製水を8.3質量部、N-メチルピロリドンを5.0質量部、赤色顔料(トーヨーカラー株式会社製;EMFピンク2B-1)を4.5質量部、表面調整剤(BYK-Chemie製;BYK-345)を0.6質量部配合し、水性ポリウレタン樹脂分散体組成物を製造した。実施例及び比較例で得られた水性ポリウレタン樹脂分散体組成物について、ポリカーボネートポリオール由来の脂環構造の含有量、水酸基価を表1に纏めて示す。
【0124】
[実施例2]
水性ポリウレタン樹脂分散体U1の代わりに水性ポリウレタン樹脂分散体U2を用いた以外、実施例1と同様にして水性ポリウレタン樹脂分散体組成物を製造した。
【0125】
[実施例3]
水性ポリウレタン樹脂分散体U1の代わりに水性ポリウレタン樹脂分散体U3を用いた以外、実施例1と同様にして水性ポリウレタン樹脂分散体組成物を製造した。
【0126】
[実施例4]
水性ポリウレタン樹脂分散体U1の代わりに水性ポリウレタン樹脂分散体U4を用いた以外、実施例1と同様にして水性ポリウレタン樹脂分散体組成物を製造した。
【0127】
[実施例5]
水性ポリウレタン樹脂分散体U1の代わりに水性ポリウレタン樹脂分散体U5を用いた以外、実施例1と同様にして水性ポリウレタン樹脂分散体組成物を製造した。
【0128】
[比較例1]
水性ポリウレタン樹脂分散体U6の100質量部に対し、イソシアネート系硬化剤としてVencorex社製 EASAQUA XD870を10質量部、精製水を8.3質量部、N-メチルピロリドンを5.0質量部、赤色顔料(トーヨーカラー株式会社製;EMFピンク2B-1)を4.5質量部、表面調整剤(BYK-Chemie製;BYK-345)を0.6質量部配合し、水性ポリウレタン樹脂分散体組成物を製造した。
【0129】
[比較例2]
水性ポリウレタン樹脂分散体U6の代わりに水性ポリウレタン樹脂分散体U7を用いた以外、比較例1と同様にして水性ポリウレタン樹脂分散体組成物を製造した。
【0130】
[比較例3]
水性ポリウレタン樹脂分散体U6の代わりに水性ポリウレタン樹脂分散体U8を用いた以外、比較例1と同様にして水性ポリウレタン樹脂分散体組成物を製造した。
【0131】
[比較例4]
水性ポリウレタン樹脂分散体U6の代わりに水性ポリウレタン樹脂分散体U9を用いた以外、比較例1と同様にして水性ポリウレタン樹脂分散体組成物を製造した。
【0132】
[試験サンプルの製造方法]
後述する各評価試験のために、以下に示される方法で試験片を作成した。前記の実施例1~5及び比較例1~4の各水性ポリウレタン樹脂分散体組成物を、ポリカーボネート板(70mm×150mm、厚さ2.0mm、株式会社エンジニアリングテストサービス製)に#18バーコーターでそれぞれ塗布し、90℃、5分の加熱を行って、ポリカーボネート板に塗膜が形成されてなる試験サンプルを得た。
【0133】
[耐アルコール性の評価]
得られた試験サンプルを用いて溶剤ラビング試験を行い、耐アルコール性を評価した。溶剤ラビング試験は、80質量%エタノールを含浸したウエハースに700gの荷重をかけて各試験サンプルの表面を往復擦過し、塗膜に破れが確認された時点での往復回数を測定することにより行った。往復回数は、数値が大きいほど耐アルコール性が高いことを意味する。
【0134】
[密着性の評価]
得られた試験サンプルを用いて碁盤目剥離試験を行い、密着性を評価した。碁盤目剥離試験は、塗膜に20mm×20mmの面積に縦横2mm間隔で切り目を入れ、粘着テープを貼った後、粘着テープを基材に対し直角上方へ引き剥がした時の、剥離しなかった塗膜の割合を評価した。数値が大きいほど密着性が高いことを意味する。実施例のサンプルはいずれにおいても、本試験で剥離しなかった塗膜の割合は100%であった。このことから、本発明の組成物は塗膜としたときに良好な密着性を有することがわかる。
【0135】
【0136】
表1の結果から、実施例1~5について、溶剤ラビング試験はいずれも15往復以上であることから、良好な耐アルコール性を有することがわかる。具体的には、実施例1~5から、脂環構造を有するポリカーボネートポリオール(Aa)を含むポリウレタン樹脂(A)の塗膜は良好な耐アルコール性を示すことがわかる。一方、比較例1から、ポリウレタン樹脂(A)が、脂環構造を有するポリカーボネートポリオール(Aa)由来の構造を有しない場合、耐アルコール性が低下することがわかる。比較例2、3から、ポリウレタン樹脂(A)が、水酸基含有ポリアミン(Ad)由来の構造を有しない場合、耐アルコール性が低下することがわかる。比較例4から、ポリウレタン樹脂(A)の水酸基価が15mgKOH/gを超える場合、耐アルコール性が低下することがわかる。
【0137】
[参考例1]
水性ポリウレタン樹脂分散体U7の100質量部に対し、表面調整剤(BYK-Chemie製;BYK-345)を0.5質量部配合し、水性ポリウレタン樹脂分散体組成物を製造した。得られた水性ポリウレタン樹脂分散体組成物を、ポリエチレンテレフタレートフィルム(ルミラー、東レ株式会社製)に#20バーコーターでそれぞれ塗布し、80℃、10分の加熱を行って、ポリエチレンテレフタレートフィルム板に塗膜が積層されてなる積層体1を得た。
得られた積層体1を用いて溶剤ラビング試験を行い、耐アルコール性を評価した。溶剤ラビング試験は、40質量%エタノールを含浸したウエハースに1,500gの荷重をかけて試験サンプルの表面を50回往復擦過した。塗膜の外観を観察したところ、白化は見られなかった。
一方、得られた積層体1を用いてスポット試験を行い、耐アルコール性を評価した。積層体の上に、80質量%エタノールを含浸したウエハースを設置し、室温で25時間放置した。塗膜の外観を確認したところ、白化が見られた。
【0138】
[参考例2]
参考例1の水性ポリウレタン樹脂分散体U7の代わりに、水性ポリウレタン樹脂分散体U10を用いた以外は、同様の方法で、積層体サンプル2を得た。
積層体サンプル2を用い、参考例1と同様の方法で、溶剤ラビング試験を行い、耐アルコール性を評価したところ、塗膜に白化が見られた。
積層体サンプル2を用い、参考例1と同様の方法で、スポット試験を行い、耐アルコール性を評価したところ、塗膜に白化は見られなかった。
以上の参考例1及び2の結果から、水性ポリウレタン樹脂分散体を用いてスポット試験とラビング試験を行ったところ、参考例1と参考例2とで、評価結果が逆転することがわかった。