(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022050023
(43)【公開日】2022-03-30
(54)【発明の名称】アマモ場の造成方法及びアマモ場
(51)【国際特許分類】
A01G 33/00 20060101AFI20220323BHJP
A01K 61/75 20170101ALI20220323BHJP
【FI】
A01G33/00
A01K61/75
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020156380
(22)【出願日】2020-09-17
(71)【出願人】
【識別番号】000222668
【氏名又は名称】東洋建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520361874
【氏名又は名称】一般社団法人大阪湾環境再生研究・国際人材育成コンソーシアム・コア
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】特許業務法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】金澤 剛
(72)【発明者】
【氏名】横山 隆司
(72)【発明者】
【氏名】久保 忠義
【テーマコード(参考)】
2B003
2B026
【Fターム(参考)】
2B003AA03
2B003BB06
2B003CC04
2B003EE04
2B026AA05
2B026AB06
(57)【要約】
【課題】海水の透明度に関わらず、生育に適した条件下でアマモを生育させる。
【解決手段】本アマモ場の造成方法は、上面が開口した複数の容器12内に、生育に適した底質14と共にアマモ20の種子、苗、或いは株を敷き詰め、それらの複数の容器12を、海面50に設置した浮体30から海中52へと吊り下げる、或いは、錘34及び浮子36を利用して海底56から海中52に浮上させることで、アマモ20の生育に適した水中光量及び水温の双方が確保されるような所定の水深帯54へと設置し、この所定の水深帯54において生育したアマモ20を利用してアマモ場10を造成する。これにより、現場となる海域の海水の透明度に関わらず、アマモ20の生育に必要な底質14の安定性と水中光量と水温との全ての条件について、アマモ20の生育に適した環境が確保され、その環境下でアマモ20を生育させることが可能となる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アマモ場の造成方法であって、
上面が開口した複数の容器内に、底質と共にアマモの種子、苗、或いは株を敷き詰め、
前記複数の容器を、海面に設置した浮体から海中へと吊り下げる、或いは、錘及び浮子を利用して海底から海中に浮上させることで、海中の所定の水深帯へと設置し、
該所定の水深帯において生育したアマモを利用してアマモ場を造成することを特徴とするアマモ場の造成方法。
【請求項2】
前記複数の容器の設置場所の少なくとも一部を、そのままアマモ場として利用することを特徴とする請求項1記載のアマモ場の造成方法。
【請求項3】
前記複数の容器内で生育した少なくとも一部のアマモの株を、アマモ場を造成するための別の場所へ移植することを特徴とする請求項1又は2記載のアマモ場の造成方法。
【請求項4】
前記複数の容器内で生育した少なくとも一部のアマモを、アマモ場を造成するための別の場所へ容器ごと移動することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載のアマモ場の造成方法。
【請求項5】
前記浮体として養殖筏を利用することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載のアマモ場の造成方法。
【請求項6】
アマモの衰退期の後、前記複数の容器の少なくとも一部を回収して容器内にアマモの種子を播き、回収した容器を前記所定の水深帯に再び設置することで、再設置した容器内のアマモの種子からアマモを新たに生育させることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載のアマモ場の造成方法。
【請求項7】
アマモの衰退期の後、前記複数の容器の少なくとも一部をそのまま前記所定の水深帯に残置することで、残置した容器内のアマモの地下茎を利用してアマモを再び生育させることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項記載のアマモ場の造成方法。
【請求項8】
底質と共にアマモの種子、苗、或いは株が内部に敷き詰められた、複数の容器を利用して形成されるアマモ場であって、
前記複数の容器は、海面に設置された浮体から海中へと吊り下げられる、或いは、錘及び浮子が利用されて海底から海中に浮上させられることで、海中の所定の水深帯へと設置されていることを特徴とするアマモ場。
【請求項9】
前記浮体として養殖筏が利用されていることを特徴とする請求項8記載のアマモ場。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アマモ場の造成方法及びアマモ場に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アマモは、北半球の温帯から亜寒帯にかけて、水深1~数メートルの沿岸砂泥地に生える海中の種子植物である。このようなアマモの大群落であるアマモ場は、従来、既存のアマモ場から株を採取して目的地へ移植する株移植法、既存のアマモ場から採取した種子を種苗生産して目的地へ移植する幼苗移植法、或いは、既存のアマモ場から採取した種子を目的地に蒔く播種法の、いずれかによって造成されている。これらのいずれの方法においても、造成の実施場所は、現地の海底或いは海底に設置された容器内である(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、
図3を参照して、アマモ20の生育には、水中光量、底質14の安定性、水温が特に重要である。このため、アマモ場の造成を実施する場所は、これらの条件がアマモ20の生育に適した海域でなければならない。底質14の安定性が確保されていると仮定した場合、例えば、海水の透明度が悪い海域では、必要な水中光量を得るために、アマモ場を造成する水深を浅くしなければならないが、水深を浅くすると夏場に高水温となり、アマモの生育に適さなくなる虞がある。従って、このような海域でアマモ場を造成したいという要求があっても、造成に適した場がなく、要求に応えることが困難である。
【0005】
又、海水の透明度が良く、夏場の高水温を避けられる条件にはあるが、アマモ20の生育には適さないほど深くに海底56が存在する場合も、水中光量の不足によってアマモ場の造成は困難である。上述した何れの場合にも、アマモ20の生育に適した水深へと海底56の深さを調整するために、土木工事を行うことも考えられるが、アマモ場造成のみのためにこうした工事を行うのは、費用などの面で多くの場合に現実的ではない。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、海水の透明度に関わらず、生育に適した条件下でアマモを生育させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0007】
(1)アマモ場の造成方法であって、上面が開口した複数の容器内に、底質と共にアマモの種子、苗、或いは株を敷き詰め、前記複数の容器を、海面に設置した浮体から海中へと吊り下げる、或いは、錘及び浮子を利用して海底から海中に浮上させることで、海中の所定の水深帯へと設置し、該所定の水深帯において生育したアマモを利用してアマモ場を造成するアマモ場の造成方法(請求項1)。
【0008】
本項に記載のアマモ場の造成方法は、まず、上面が開口した複数の容器内に、アマモの種子、苗、或いは株といった、生育させるアマモの元となる形態のものを、底質と共に敷き詰める。このとき、アマモの生育に適した任意の底質を利用することで、底質の安定性が確保されるものとなる。そして、これらの複数の容器を、海面に設置した浮体から海中へと吊り下げる、或いは、海底に設置した錘から浮子を利用して海中に浮上させることで、海中の所定の水深帯へと設置する。この際の所定の水深帯とは、現場となる海域の海水の透明度などに応じて、アマモの生育に適した水中光量及び水温の双方が確保されるような水深帯である。
【0009】
すなわち、海水の透明度が悪い海域では、例えば、適切な水中光量が得られると共に、海水の流れなどによって水温が上昇し難い傾向にある、比較的浅い水深帯を選定する。これに対し、海水の透明度が良い海域では、例えば、夏場などでも高水温になり難い深さでありながらも、水中光量が十分に確保されるような水深帯を選定する。そして、そのような所定の水深帯に設置された複数の容器内で生育したアマモを利用して、アマモ場を造成するものである。これにより、現場となる海域の海水の透明度に関わらず、アマモの生育に必要な底質の安定性と水中光量と水温との全ての条件について、アマモの生育に適した環境が確保されるものとなる。このため、例えば泊地や貯木場などから用途が変更された、海底までの水深が深いような場所であっても、生育に適した条件下でアマモが生育するものとなる。
【0010】
(2)上記(1)項において、前記複数の容器の設置場所の少なくとも一部を、そのままアマモ場として利用するアマモ場の造成方法(請求項2)。
本項に記載のアマモ場の造成方法は、海中の所定の水深帯に位置する複数の容器の設置場所の少なくとも一部を、アマモの生育場所としてのみではなく、そのままアマモ場として利用するものである。これにより、従来はアマモ場への利用が困難と考えられていたような海域であっても、アマモの生育場所としてアマモの生育に適した環境が確保され、更にその生育場所からアマモ場が効率よく造成されるものとなる。
【0011】
(3)上記(1)(2)項において、前記複数の容器内で生育した少なくとも一部のアマモの株を、アマモ場を造成するための別の場所へ移植するアマモ場の造成方法(請求項3)。
本項に記載のアマモ場の造成方法は、海中の所定の水深帯に設置された複数の容器内で生育した少なくとも一部のアマモの株を、複数の容器を設置した生育場所と異なる、アマモ場を造成するための別の場所へ移植するものである。これにより、生育に適した環境下で生育したアマモの株が利用されて、様々な場所で容易にアマモ場が造成されるものとなる。
【0012】
(4)上記(1)から(3)項において、前記複数の容器内で生育した少なくとも一部のアマモを、アマモ場を造成するための別の場所へ容器ごと移動するアマモ場の造成方法(請求項4)。
本項に記載のアマモ場の造成方法は、海中の所定の水深帯に設置された複数の容器内で生育した少なくとも一部のアマモを、複数の容器を設置した生育場所と異なる、アマモ場を造成するための別の場所へ容器ごと移動するものである。このとき、移動先の環境に対応してアマモ場が造成されるような、十分な段階まで生育したアマモを移動する。これにより、適切な環境で生育したアマモから、様々な場所で容易にアマモ場が造成されるものとなる。
【0013】
(5)上記(1)から(4)項において、前記浮体として養殖筏を利用するアマモ場の造成方法(請求項5)。
本項に記載のアマモ場の造成方法は、複数の容器を海面から海中へと吊り下げる場合に使用する浮体として、例えば牡蠣や帆立などの海産物を養殖している養殖筏を利用するものである。これにより、専用の浮体を製作及び設置する手間を省きながら、容器内のアマモから養殖海域へ酸素が供給されるといった、アマモの生育と海産物の養殖との相乗効果が期待されるものである。
【0014】
(6)上記(1)から(5)項において、アマモの衰退期の後、前記複数の容器の少なくとも一部を回収して容器内にアマモの種子を播き、回収した容器を前記所定の水深帯に再び設置することで、再設置した容器内のアマモの種子からアマモを新たに生育させるアマモ場の造成方法(請求項6)。
本項に記載のアマモ場の造成方法は、アマモの衰退期が過ぎるまで海中の所定の水深帯に設置されていた複数の容器のうち、少なくとも一部の容器を再利用して、アマモを新たに生育させるものである。すなわち、再利用する容器を海中から回収し、回収した容器内に新たにアマモの種子を播き、その容器を回収前と同様の海中の所定の水深帯に再び設置することで、その容器内のアマモの種子からアマモを新たに生育させるものである。これにより、新たな容器を使用することなくコストを抑制しながら、生育に適した環境下でアマモが繰り返し生育するものとなる。
【0015】
(7)上記(1)から(6)項において、アマモの衰退期の後、前記複数の容器の少なくとも一部をそのまま前記所定の水深帯に残置することで、残置した容器内のアマモの地下茎を利用してアマモを再び生育させるアマモ場の造成方法(請求項7)。
本項に記載のアマモ場の造成方法は、アマモの衰退期が過ぎるまで海中の所定の水深帯に設置されていた複数の容器のうち、少なくとも一部の容器をそのまま残置し、残置した容器内に残っているアマモの地下茎を利用してアマモを再び生育させるものである。これにより、海中の所定の水深帯に残置された容器によって確保される生育に適した環境において、地下茎の枝分かれによってアマモが繁殖するものとなる。
【0016】
(8)底質と共にアマモの種子、苗、或いは株が内部に敷き詰められた、複数の容器を利用して形成されるアマモ場であって、前記複数の容器は、海面に設置された浮体から海中へと吊り下げられる、或いは、錘及び浮子が利用されて海底から海中に浮上させられることで、海中の所定の水深帯へと設置されているアマモ場(請求項8)。
(9)上記(8)項において、前記浮体として養殖筏が利用されているアマモ場(請求項9)。
そして、(8)及び(9)項に記載のアマモ場は、各々、上記(2)及び(5)項のアマモ場の造成方法によって造成されることで、上記(2)及び(5)項のアマモ場の造成方法と同等の作用を奏しながら、アマモ場としての様々な機能を発揮するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明は上記のような構成であるため、海水の透明度に関わらず、生育に適した条件下でアマモを生育させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の実施の形態に係るアマモ場の構成の一例を示すイメージ図である。
【
図2】本発明の実施の形態に係るアマモ場の造成方法の手順の一例を示すフロー図である。
【
図3】アマモの生育に適した環境を説明するためのイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面に基づき説明する。ここで、従来技術と同一部分、若しくは相当する部分については、詳しい説明を省略することとし、又、図面の全体にわたって、同一部分若しくは対応する部分は、同一の符号で示している。
図1は、本発明の実施の形態に係るアマモ場10の構成を概略的に示している。図示のように、本発明の実施の形態に係るアマモ場10は、底質14と共にアマモ20が内部に敷き詰められた複数(
図1では2つのみ図示)の容器12が、海中52の所定の水深帯54に設置され、それら複数の容器12内で生育したアマモ20によって形成されてなるものである。なお、
図1に示されているアマモ20は、アマモ場10を形成する途中段階における生育中のものである。
【0020】
複数の容器12には、上面が開口した有底の容器が用いられ、例えば、平面視での縦及び横の長さが10数cm~数m程度の矩形の容器であるが、上面が開口していれば矩形以外の形状であってもよい。容器12の深さは、アマモ20の生育に必要な底質14の深さを満たし、加えて、波などによる水の動きや容器12自体の搖動によって容器12から底質14がこぼれない程度の高さであればよい。容器12の材質は、不透水性或いは底質14が通過しなければ透水性を有していてもよく、任意の材質を使用できるが、海中52に長期間設置されても腐食などが発生しないような材質であることが好ましい。
【0021】
底質14には、アマモ20の生育に適した任意の底質(例えば砂)が利用され、アマモ20は、容器12内で種子から生育したものであってもよく、容器12内に移植された苗や株が生育したものであってもよい。複数の容器12が設置されている海中52の所定の水深帯54は、アマモ場10が位置する海域の海水の透明度などに応じて、アマモ場10毎に設定されるものである。具体的に、所定の水深帯54は、アマモ20の生育に必要な水中光量が海面50から得られ、且つ、夏場であっても高水温にならずにアマモ20の生育に適した水温が保たれる深さに設定される。
【0022】
そして、複数の容器12は、上記のような所定の水深帯54に、二通りの何れかの方法で設置されている。すなわち、一方の設置方法は、
図1の左側の容器12のように、海面50に浮かべられた浮体30から係留ロープ32を介して、海中52の所定の水深帯54に吊り下げる方法である。この方法で用いられる浮体30には、例えば、牡蠣や帆立といった海産物の養殖に使用されている養殖筏や、専用に作成された筏が利用される。しかしながら、海面50に安定して設置されるものであれば、浮体30に任意の形状及び材質のものを利用してよい。係留ロープ32には、容器12を安定して吊り下げられる任意のものが使用される。
【0023】
これに対し、もう一方の設置方法は、
図1の右側の容器12のように、海底56に設置された錘34と、係留ロープ32により錘34に接続されて海中52に浮上している浮子36との間に取り付けて、海中52の所定の水深帯54に浮上させる方法である。この方法で用いられる浮子36及び錘34には、容器12の位置を安定して維持するような浮力と重さとのバランスが取れるものであれば、任意の浮子及び錘を使用してよい。又、係留ロープ32には、浮子36と錘34とを安定して接続する任意のものが使用される。なお、
図1では、複数の容器12として2つの容器12のみが図示されているが、本発明の実施の形態に係るアマモ場10は、上述した何れかの方法で所定の水深帯54に設置される、より多くの容器12が利用されて形成されるものである。
【0024】
続いて、
図2に示すフロー図の流れに沿って、
図1に示したような環境で生育したアマモ20を利用する、本発明の実施の形態に係るアマモ場の造成方法について説明する。アマモ20の生育環境の構成については、適宜、
図1を参照のこと。なお、
図2に示すフロー図は、本発明の実施の形態に係るアマモ場の造成方法を説明するための、手順の流れの一例を示したものである。従って、アマモ場の造成方法は、このフロー図に限定されるものではなく、例えば、アマモ20の生育環境の構成や状況等に応じて、
図2に示したステップの一部が削除、変更、ないし適宜追加されたフローであってもよいものである。
【0025】
S10(容器内へアマモを播種又は移植):陸上や海上で複数の容器12を用意し、各容器12の中に、底質14を十分な厚さ(例えば20cm程度)に敷き詰め、その上にアマモ20の種子を播種し、更に薄く底質14を被せる。或いは、用意した容器12の中に、別の場所で生育したアマモ20の苗や株を移植し、適度な量の底質14を敷き詰める。何れの場合であっても、アマモ20が生育した後の大きさなどを考慮して、隣接するアマモ20間に適度な間隔が確保されるように、播種や移植を行ってもよく、容器12の内面と底質14との間に布などを設置してもよい。又、種子を播種した場合は、底質14の上に金網などの抑えを設置してもよい。
【0026】
S20(容器を海中へ設置):上記S10で準備した複数の容器12を、
図1に示した何れかの設置方法で、海中52の所定の水深帯54に設置する。このとき、全ての容器12を何れか一方の設置方法で設置してもよく、複数の容器12を一方の設置方法のグループともう一方の設置方法のグループとに分けて設置してもよい。
S30(アマモ生育):上記S20で複数の容器12を設置した海中52の所定の水深帯54において、容器12内のアマモ20を生育させる。ここで、アマモ20を生育させる期間は、次ステップのS40で判定するアマモ20の利用方法に応じたものとなる。
【0027】
S40(アマモの利用方法判定):複数の容器12内で生育したアマモ20を利用して、そのままアマモ場10を形成するか、別の場所へアマモ20の株を移植するか、或いは、別の場所へ容器12ごとアマモ20を移動するかを判定する。その結果、そのままアマモ場10を形成すると判定した場合(
図2の「そのまま」のルート)はS50へ移行し、株を移植すると判定した場合(
図2の「株移植」のルート)はS120へ移行し、容器12ごと移動すると判定した場合(
図2の「容器移動」のルート)はS140へ移行する。なお、アマモ20が生育した複数の容器12の全てに対して、上述した3つの利用方法の何れか1つを適用してもよく、複数の容器12を2つ又は3つのグループに分けて、各グループに上述した3つの利用方法の何れか1つを適用してもよい。
【0028】
S50(アマモ場造成):上記S20で複数の容器12を設置した海中52の所定の水深帯54において、容器12内で十分に生育したアマモ20を利用してそのままアマモ場10を造成する。換言すれば、
図1に示したような環境を利用してそのままアマモ場10を造成する。そして、生物の生息場所としての機能、魚介類の産卵場としての機能、魚介類の保育場としての機能、漁場としての機能、及び水質や底質の浄化機能といった、アマモ場10の機能を発揮させる。
【0029】
S60(衰退期後の利用方法判定):上記S50で造成したアマモ場10において、アマモ20が衰退期になった後の利用方法を、新たに播種するか、アマモ20の地下茎を利用するか、或いは特に利用しないの中から判定する。その結果、新たに播種すると判定した場合(
図2の「播種」のルート)はS70へ移行し、地下茎を利用すると判定した場合(
図2の「地下茎利用」のルート)はS100へ移行し、特に利用しないと判定した場合(
図2の「特になし」のルート)はS110へ移行する。なお、アマモ20が衰退した後の複数の容器12の全てに対して、上述した3つの利用方法の何れか1つを適用してもよく、複数の容器12を2つ又は3つのグループに分けて、各グループに上述した3つの利用方法の何れか1つを適用してもよい。
【0030】
S70(容器回収):上記S60で播種に利用すると判定した容器12を、海中52の所定の水深帯54から陸上や海上へ回収する。
S80(容器内へアマモを播種):回収した容器12内へ、上記S10で説明した方法と同じようにしてアマモ20の種子を播く。このとき、容器12内に残っていた底質14を再利用してもよく、新たな底質14を使用してもよい。
S90(容器を海中へ再設置):アマモ20を播種した容器12を、回収前に設置されていた海中52の所定の水深帯54へ再設置する。このときの設置方法は、上記S20で説明したものと同様である。そして、上記S30へ移行することで、所定の水深帯54において、翌シーズンにアマモ20を種子から生育させる。
【0031】
S100(容器残置):上記S60で地下茎を利用すると判定した容器12を、そのまま海中52の所定の水深帯54へ残置する。そして、底質14内のアマモ20の地下茎が枝分かれして繁殖し、容器12内で再び生育するように、上記S30へ移行して所定の水深帯54においてアマモ20を生育させる。
S110(容器回収):上記S60で特に利用しないと判定した容器12を、海中52の所定の水深帯54から陸上へ回収する。このとき、容器12を所定の水深帯54に設置するために使用していた、浮体30、係留ロープ32、錘34、及び浮子36なども同時に回収する。これにより、当該ルートのアマモ場の造成方法の説明は終了となる。
【0032】
S120(アマモの株を移植):上記S30で株まで生育したアマモ20を、アマモ場10を造成するための別の場所へ移植する。このときの移植先は、海底56であってもよく、海底56に設置された容器内でもよく、移植場所で
図1のように海中52の所定の水深帯54に設置された容器12内であってもよい。
S130(移植先にアマモ場造成):上記S120でアマモ20の株を移植した移植先の場所において、アマモ20を株から十分に生育させてアマモ場10を造成し、アマモ場10の機能を発揮させる。これにより、当該ルートのアマモ場の造成方法の説明は終了となる。
【0033】
S140(アマモを容器ごと移動):上記S30で生育したアマモ20を、アマモ場10を造成するための別の場所へ容器12ごと移動する。移動するタイミングは、移動先の環境などを考慮して決定すればよい。又、移動時には、移動先の海底56に容器12を設置してもよく、移動先で
図1のように海中52の所定の水深帯54に容器12を設置してもよい。
S150(移動先にアマモ場造成):上記S140で容器12ごとアマモ20を移動した移動先の場所において、移動時のアマモ20の生育状態に応じて、移動したアマモ20によりアマモ場10を造成する、或いは、アマモ20を十分に生育させてアマモ場10を造成し、アマモ場10の機能を発揮させる。これにより、当該ルートのアマモ場の造成方法の説明は終了となる。
【0034】
さて、上記構成をなす本発明の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能である。すなわち、本発明の実施の形態に係るアマモ場の造成方法は、
図1及び
図2に示すように、まず、上面が開口した複数の容器12内に、アマモ20の種子、苗、或いは株といった、生育させるアマモ20の元となる形態のものを、底質14と共に敷き詰める(
図2のS10)。このとき、アマモ20の生育に適した任意の底質14を利用することで、底質14の安定性を確保することができる。そして、これらの複数の容器12を、海面50に設置した浮体30から海中52へと吊り下げる、或いは、海底56に設置した錘34から浮子36を利用して海中52に浮上させることで、海中52の所定の水深帯54へと設置する(
図2のS20)。この際の所定の水深帯54とは、現場となる海域の海水の透明度などに応じて、アマモ20の生育に適した水中光量及び水温の双方が確保されるような水深帯である。
【0035】
すなわち、海水の透明度が悪い海域では、例えば、適切な水中光量が得られると共に、海水の流れなどによって水温が上昇し難い傾向にある、比較的浅い水深帯を選定する。これに対し、海水の透明度が良い海域では、例えば、夏場などでも高水温になり難い深さでありながらも、水中光量が十分に確保されるような水深帯を選定する。そして、そのような所定の水深帯54に設置された複数の容器12内で生育したアマモ20を利用して(
図2のS30)、アマモ場10を造成するものである。これにより、現場となる海域の海水の透明度に関わらず、アマモ20の生育に必要な底質14の安定性と水中光量と水温との全ての条件について、アマモ20の生育に適した環境を確保することができる。このため、例えば泊地や貯木場などから用途が変更された、海底56までの水深が深いような場所であっても、生育に適した条件下でアマモ20を生育させることが可能となる。
【0036】
又、本発明の実施の形態に係るアマモ場の造成方法は、海中52の所定の水深帯54に位置する複数の容器12の設置場所の少なくとも一部を、アマモ20の生育場所としてのみではなく、そのままアマモ場10として利用してもよいものである(
図2のS50)。これにより、従来はアマモ場10への利用が困難と考えられていたような海域であっても、アマモ20の生育場所としてアマモ20の生育に適した環境を確保することができ、更にその生育場所からアマモ場10を効率よく造成することが可能となる。
【0037】
又、本発明の実施の形態に係るアマモ場の造成方法は、海中52の所定の水深帯54に設置した複数の容器12内で生育した少なくとも一部のアマモ20の株を、複数の容器12を設置した生育場所と異なる、アマモ場10を造成するための別の場所へ移植してもよい(
図2のS120)。これにより、生育に適した環境下で生育したアマモ20の株を利用して、様々な場所で容易にアマモ場10を造成することができる(
図2のS130)。
更に、本発明の実施の形態に係るアマモ場の造成方法は、海中52の所定の水深帯54に設置した複数の容器12内で生育した少なくとも一部のアマモ20を、複数の容器12を設置した生育場所と異なる、アマモ場10を造成するための別の場所へ容器12ごと移動してもよい(
図2のS140)。これによっても、適切な環境で生育したアマモ20から、様々な場所で容易にアマモ場10を造成することが可能となる(
図2のS150)。
【0038】
又、本発明の実施の形態に係るアマモ場の造成方法は、アマモ20の衰退期が過ぎるまで海中52の所定の水深帯54に設置されていた複数の容器12のうち、少なくとも一部の容器12を再利用して、アマモ20を新たに生育させてもよいものである。すなわち、再利用する容器12を海中52から回収し(
図2のS70)、回収した容器12内に新たにアマモ20の種子を播き(
図2のS80)、その容器12を回収前と同様の海中52の所定の水深帯54に再び設置することで(
図2のS90)、その容器12内のアマモ20の種子からアマモ20を新たに生育させることができる。これにより、新たな容器12を使用することなくコストを抑制しながら、生育に適した環境下でアマモ20を繰り返し生育させることが可能となる。
【0039】
更に、本発明の実施の形態に係るアマモ場の造成方法は、アマモ20の衰退期が過ぎるまで海中52の所定の水深帯54に設置されていた複数の容器12のうち、少なくとも一部の容器12をそのまま残置し、残置した容器12内に残っているアマモ20の地下茎を利用して、アマモ20を再び生育させてもよいものである(
図2のS100)。これにより、海中52の所定の水深帯54に残置された容器12によって確保される生育に適した環境において、地下茎の枝分かれによってアマモ20を繁殖させることができる。
【0040】
加えて、本発明の実施の形態に係るアマモ場の造成方法は、複数の容器12を海面50から海中52へと吊り下げる場合に使用する浮体30として、例えば牡蠣や帆立などの海産物を養殖している養殖筏を利用することができる。これにより、専用の浮体30を製作及び設置する手間を省きながら、容器12内のアマモ20から養殖海域へ酸素を供給することができるといった、アマモ20の生育と海産物の養殖との相乗効果を期待することができる。
他方、本発明の実施の形態に係るアマモ場10は、上述した本発明の実施の形態に係るアマモ場の造成方法によって造成されることで、本発明の実施の形態に係るアマモ場の造成方法と同等の作用効果を奏しながら、アマモ場10としての様々な機能を発揮することができる。
【符号の説明】
【0041】
10:アマモ場、12:複数の容器、14:底質、20:アマモ、30:浮体、34:錘、36:浮子、50:海面、52:海中、54:所定の水深帯、56:海底