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特開2022-50055マグネシウム二次電池用正極活物質及びその製造方法、並びにマグネシウム二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022050055
(43)【公開日】2022-03-30
(54)【発明の名称】マグネシウム二次電池用正極活物質及びその製造方法、並びにマグネシウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/505 20100101AFI20220323BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20220323BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20220323BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20220323BHJP
   H01M 4/46 20060101ALI20220323BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20220323BHJP
【FI】
H01M4/505
H01M4/485
H01M10/054
H01M4/525
H01M4/46
C01G53/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020156427
(22)【出願日】2020-09-17
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、先端的低炭素化技術開発(ALCA)における研究領域「次世代蓄電池」、研究題目「ナノユニットの3D集積による階層的正極構造の構築」委託研究事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】学校法人慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】特許業務法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】今市 祥平
【テーマコード(参考)】
4G048
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AA05
4G048AB02
4G048AB06
4G048AC06
4G048AD03
4G048AD06
4G048AE06
4G048AE08
5H029AJ03
5H029AJ05
5H029AK03
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL11
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM07
5H029AM09
5H029CJ02
5H029CJ08
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ07
5H029HJ14
5H050AA07
5H050AA08
5H050BA15
5H050CA07
5H050CA09
5H050CB08
5H050CB09
5H050CB11
5H050GA02
5H050GA10
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA07
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】 本発明は、室温付近の温度で、かつ、マグネシウム系の負極を用いる実用的な条件でも高容量を達成し、かつサイクル特性も良好なマグネシウム二次電池を実現し得る正極活物質、その製造方法、及びそれを用いたマグネシウム二次電池を提供することを目的とする。
【解決手段】 下記式(1)で示される組成を有し層状岩塩構造を有する複合酸化物を含むマグネシウム二次電池用正極活物質であって、BET比表面積が30m/g以上であることを特徴とするマグネシウム二次電池用正極活物質、その製造方法、及びそれを用いたマグネシウム二次電池を提供する。
αβ ・・・(1)
(式中、Aは1種以上のアルカリ金属であり、Bは1種以上の遷移金属であり、αは1.00≦α≦1.33であり、βは0.67≦β≦1.00である。)
【選択図】 図15
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示される組成を有し層状岩塩構造を有する複合酸化物を含むマグネシウム二次電池用正極活物質であって、BET比表面積が30m/g以上であることを特徴とするマグネシウム二次電池用正極活物質。
αβ ・・・(1)
(式中、Aは1種以上のアルカリ金属であり、Bは1種以上の遷移金属であり、αは1.00≦α≦1.33であり、βは0.67≦β≦1.00である。)
【請求項2】
前記層状岩塩構造が、前記金属Aにより形成された層L(A)と、前記金属B、又は前記金属A及び前記金属Bにより形成された層L(B/(A+B))を有する構造である、請求項1記載のマグネシウム二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記式(1)中のαとβが、0.5≦α/(α+β)≦0.67の関係を満たす、請求項1又は2記載のマグネシウム二次電池用正極活物質。
【請求項4】
前記アルカリ金属Aが、Li、Na、K及びRbからなる群から選ばれる1種以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載のマグネシウム二次電池用正極活物質。
【請求項5】
前記アルカリ金属AがLiである、請求項4記載のマグネシウム二次電池用正極活物質。
【請求項6】
前記遷移金属Bが、第一遷移元素であるSc、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Co、Cu及びZnからなる群から選ばれる1種以上である、請求項1~5のいずれか1項に記載のマグネシウム二次電池用正極活物質。
【請求項7】
前記遷移金属Bが、Mn、Ni及びCoからなる群から選ばれる1種以上である、請求項6記載のマグネシウム二次電池用正極活物質。
【請求項8】
前記複合酸化物が下記式(2)で示される、請求項1~7のいずれか1項に記載のマグネシウム二次電池用正極活物質。
Li(1+x)Mn(x+a(1-x))Nib(1-x)Coc(1-x)(2+x) ・・・(2)
(式(2)中、xは0≦x≦1.0であり、aは0.1≦a≦0.5であり、bは0.3≦b≦0.8であり、cは0≦c≦0.3であり、a+b+c=1.0である。)
【請求項9】
前記複合酸化物が下記式(3)で示される、請求項1~7のいずれか1項に記載のマグネシウム二次電池用正極活物質。
xLiMnO‐(1-x)LiMnNiCo ・・・(3)
(式(3)中、xは0≦x≦1.0であり、aは0.1≦a≦0.5であり、bは0.3≦b≦0.8であり、cは0≦c≦0.3であり、a+b+c=1.0である。)
【請求項10】
前記式(2)又は式(3)中のxが0.5≦x≦0.7である、請求項8又は9記載のマグネシウム二次電池用正極活物質。
【請求項11】
前記BET比表面積が32~120m/gである、請求項1~10のいずれか1項に記載のマグネシウム二次電池用正極活物質。
【請求項12】
前記層状岩塩構造を有する複合酸化物の含有量が、正極活物質の60重量%以上である請求項1~11のいずれか1項に記載のマグネシウム二次電池用正極活物質。
【請求項13】
錯体重合法により前記正極活物質を合成することを含む、請求項1~12のいずれか1項に記載のマグネシウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項14】
前記錯体重合法が、前記金属A及び前記金属Bの塩を含む溶液にキレート剤及び重合剤を混合して得られた錯体を重合させる工程を含む、請求項13記載のマグネシウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項15】
前記金属A及び前記金属Bの塩が、Li、Mn、Ni及びCoの塩である、請求項14記載のマグネシウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項16】
キセロゲル状の前駆体を250~680℃の温度で熱処理する工程を含む、請求項13~15のいずれか1項に記載のマグネシウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項17】
請求項1~12のいずれか1項に記載の正極活物質を含む正極と、負極活物質として金属マグネシウム、又は金属マグネシウムを含む合金を含む負極と、非水電解質とを備える、マグネシウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム二次電池用正極活物質及びその製造方法、並びにマグネシウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、スマートフォン、及びノートパソコン等の携帯型の電子機器が普及し、高機能化が進展している。また、環境問題、及びエネルギー危機の観点からハイブリッド車、及び電気自動車が普及しつつある。それに伴い、電源として使用される二次電池には高いエネルギー密度が要求される。リチウムイオン電池は、現在実用化されている二次電池の中では、最もエネルギー密度が高いものの一つであり、種々の機器に広く使用されている。しかし、リチウムは、資源量、コストの面で問題があり、比較的取扱いが難しく、安全性の面でも問題がある。
【0003】
一方、マグネシウムは、電池の材料としては、還元電位が低く、リチウムに比べ、体積当たりのエネルギー密度が大きく、また、資源的に豊富で低コストで入手可能であり、比較的取扱いが容易な金属である。そのため、マグネシウム二次電池は、次世代の二次電池の一つとして実用化が期待されている。
【0004】
例えば、非特許文献1及び2には、LiMnNiCo系の組成を有し、層状岩塩構造を有する複合酸化物からリチウムイオンを引き抜いて得られた正極活物質が、マグネシウム二次電池の60℃での充放電試験において高容量を示したことが報告されている。
【0005】
また、特許文献1には、スピネル構造を示すマグネシウム複合酸化物MgM(Mは遷移金属)であって、BET比表面積が73~142m/gであり、特定の細孔容積を有する複合酸化物を正極活物質とするマグネシウム二次電池は、100℃での充放電試験において高容量を示し、レート特性が良好となることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開公報第2019/058681号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】N. Ishida, R. Nishigami, N. Kitamura, Y. Idemoto, Chem. Lett. 2017, 46, 1508-1511
【非特許文献2】N. Ishida, S. Ando, N. Kitamura, Y. Idemoto, Solid State Ionics, 343 (2019) 115080
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
二価のマグネシウムイオンは一価のリチウムイオンに比べクーロン力による束縛を強く受けるため、正極活物質内での拡散が起こりにくい。そのため、正極活物質はマグネシウムイオンの拡散距離が小さく、かつ、有効な反応界面の大きい構造を有することが望ましく、比表面積の大きい正極活物質が検討されてきた。
【0009】
しかしながら、非特許文献1及び2により報告された層状岩塩構造を有する正極活物質は、比表面積が1m/g程度であり、60℃での充放電試験では高容量が示されているものの、室温付近ではマグネシウム二次電池の動作は達成されていない。さらに、非特許文献1及び2では、LiMnNiCo系複合酸化物を化学的又は電気化学的に脱リチウム化する工程を必須としており、活物質の構造の不安定化や脱リチウム化試薬の危険性が懸念されていた。
【0010】
また、特許文献1により報告されたスピネル構造を有するマグネシウム複合酸化物は、73~142m/gという比表面積を有してはいるが、室温付近でのマグネシウム二次電池の動作は達成されていない。さらに、スピネル構造を有する正極活物質は、充放電反応を繰り返すにつれて容量が低下し、サイクル特性が低くなるという問題があった。
【0011】
本発明は、室温付近の温度で、かつ、マグネシウム系の負極を用いる実用的な条件でも高容量を達成し、かつサイクル特性も良好なマグネシウム二次電池を実現し得る正極活物質及びその製造方法、並びにマグネシウム二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、マグネシウム二次電池の正極活物質として、1種以上のアルカリ金属と1種以上の遷移金属を含む層状岩塩構造を有する複合酸化物に着目し、その合成法を検討した結果、比表面積が30m/g以上の複合酸化物を合成することに成功した。そして、このような比表面積が30m/g以上の複合酸化物を正極活物質として用いると、マグネシウム二次電池が、室温付近の温度で、かつ、マグネシウムを主体とする合金より成る負極を用いる実用的な条件下でも動作し、脱リチウム化を行わなくても高い容量を示すとともにサイクル特性も良好となることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は以下の発明を提供する。
[1]下記式(1)で示される組成を有し層状岩塩構造を有する複合酸化物を含むマグネシウム二次電池用正極活物質であって、BET比表面積が30m/g以上であることを特徴とするマグネシウム二次電池用正極活物質。
αβ ・・・(1)
(式中、Aは1種以上のアルカリ金属であり、Bは1種以上の遷移金属であり、αは1.00≦α≦1.33であり、βは0.67≦β≦1.00である。)
[2]前記層状岩塩構造が、前記金属Aにより形成された層L(A)と、前記金属B、又は前記金属A及び前記金属Bにより形成された層L(B/(A+B))を有する構造である、[1]に記載のマグネシウム二次電池用正極活物質。
[3]前記式(1)中のαとβが、0.5≦α/(α+β)≦0.67の関係を満たす、[1]又は[2]に記載のマグネシウム二次電池用正極活物質。
[4]前記アルカリ金属Aが、Li、Na、K及びRbからなる群から選ばれる1種以上である、[1]~[3]のいずれか1項に記載のマグネシウム二次電池用正極活物質。
[5]前記アルカリ金属AがLiである、[4]のマグネシウム二次電池用正極活物質。
[6]前記遷移金属Bが、第一遷移元素であるSc、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Co、Cu及びZnからなる群から選ばれる1種以上である、[1]~[5]のいずれかに記載のマグネシウム二次電池用正極活物質。
[7]前記遷移金属Bが、Mn、Ni及びCoからなる群から選ばれる1種以上である、[6]に記載のマグネシウム二次電池用正極活物質。
[8]前記複合酸化物が下記式(2)で示される、[1]~[7]のいずれかに記載のマグネシウム二次電池用正極活物質。
Li(1+x)Mn(x+a(1-x))Nib(1-x)Coc(1-x)(2+x) ・・・(2)
(式(2)中、xは0≦x≦1.0であり、aは0.1≦a≦0.5であり、bは0.3≦b≦0.8であり、cは0≦c≦0.3であり、a+b+c=1.0である。)
[9]前記複合酸化物が下記式(3)で示される、[1]~[7]のいずれかに記載のマグネシウム二次電池用正極活物質。
xLiMnO‐(1-x)LiMnNiCo ・・・(3)
(式(1)中、xは0≦x≦1.0であり、aは0.1≦a≦0.5であり、bは0.3≦b≦0.8であり、cは0≦c≦0.3であり、a+b+c=1.0である。)
[10]前記式(2)又は式(3)中のxが0.5≦x≦0.7である、[8]又は[9]に記載のマグネシウム二次電池用正極活物質。
[11]前記BET比表面積が32~120m/gである、[1]~[10]のいずれかに記載のマグネシウム二次電池用正極活物質。
[12]前記層状岩塩構造を有する複合酸化物の含有量が、正極活物質の60重量%以上である[1]~[11]のいずれかに記載のマグネシウム二次電池用正極活物質。
[13]錯体重合法により前記正極活物質を合成することを含む[1]~[12]のいずれかに記載のマグネシウム二次電池用正極活物質の製造方法。
[14]前記錯体重合法が、前記金属A及び前記金属Bの塩を含む溶液にキレート剤及び重合剤を混合して得られた錯体を重合させる工程を含む、[13]に記載のマグネシウム二次電池用正極活物質の製造方法。
[15]前記金属A及び前記金属Bの塩がLi、Mn、Ni及びCoの塩である、[14]に記載のマグネシウム二次電池用正極活物質の製造方法。
[16]キセロゲル状の前駆体を250~680℃の温度で熱処理する工程を含む、[13]~[15]のいずれかに記載のマグネシウム二次電池用正極活物質の製造方法。
[17][1]~[12]のいずれかに記載の正極活物質を含む正極と、負極活物質として金属マグネシウム、又は金属マグネシウムを含む合金を含む負極と、非水電解質とを備える、マグネシウム二次電池。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、活物質の脱リチウム化を行わなくても、室温付近で動作させることができ、高容量を示すとともにサイクル特性にも優れたマグネシウム二次電池を実現し得る、正極活物質及びその製造方法を提供することができる。また、本発明は、室温付近で稼働することができ、高容量を示すとともにサイクル特性にも優れたマグネシウム二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1~4、比較例1及び2で得られた複合酸化物のX線回折図である。
図2】実施例5~10で得られた複合酸化物のX線回折図である。
図3】実施例12~15で得られた複合酸化物のX線回折図である。
図4】実施例1で得られた複合酸化物の外観を示すSEM画像である。
図5】実施例2で得られた複合酸化物の外観を示すSEM画像である。
図6】実施例3で得られた複合酸化物の外観を示すSEM画像である。
図7】実施例4で得られた複合酸化物の外観を示すSEM画像である。
図8】比較例1で得られた複合酸化物の外観を示すSEM画像である。
図9】比較例2で得られた複合酸化物の外観を示すSEM画像である。
図10】実施例及び比較例のサイクリックボルタンメトリー、及び充放電特性の測定に使用した2極セルの構成図である。
図11】実施例2で得られた複合酸化物を正極活物質とした電気化学セルの1及び2サイクル目のサイクリックボルタンメトリーである。
図12】実施例4で得られた複合酸化物を正極活物質とした電気化学セルの1及び2サイクル目のサイクリックボルタンメトリーである。
図13】比較例1で得られた複合酸化物を正極活物質とした電気化学セルの1及び2サイクル目のサイクリックボルタンメトリーである。
図14】実施例1で得られた複合酸化物を正極活物質とした電気化学セルの1~5及び10サイクル目の充放電曲線である。
図15】実施例2で得られた複合酸化物を正極活物質とした電気化学セルの1~5及び10サイクル目の充放電曲線である。
図16】実施例3で得られた複合酸化物を正極活物質とした電気化学セルの1~5及び10サイクル目の充放電曲線である。
図17】実施例4で得られた複合酸化物を正極活物質とした電気化学セルの1~5及び10サイクル目の充放電曲線である。
図18】実施例8で得られた複合酸化物を正極活物質とした電気化学セルの1~5及び10サイクル目の充放電曲線である。
図19】実施例9で得られた複合酸化物を正極活物質とした電気化学セルの1~5及び10サイクル目の充放電曲線である。
図20】比較例1で得られた複合酸化物を正極活物質とした電気化学セルの1~5及び10サイクル目の充放電曲線である。
図21】比較例2で得られた複合酸化物を正極活物質とした電気化学セルの1~4サイクル目の充放電曲線である。
図22】実施例1~4及び比較例1で得られた複合酸化物を正極活物質とした電気化学セルの容量対サイクル回数のプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0017】
<マグネシウム二次電池用正極活物質>
本実施の形態に係るマグネシウム二次電池用正極活物質(以下、単に「正極活物質」という。)は、下記式(1)で示される組成を有し層状岩塩構造を有する複合酸化物を含むマグネシウム二次電池用正極活物質であって、BET比表面積が30m/g以上の微粒子であることを特徴とする。
αβ ・・・(1)
【0018】
上記式(1)中、Aは1種以上のアルカリ金属であり、Bは1種以上の遷移金属である。アルカリ金属Aは、Li、Na、K及びRbからなる群から選ばれる1種以上であることが好ましく、中でもLiがより好ましい。遷移金属Bは、第一遷移元素であるSc、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Co、Cu及びZnからなる群から選ばれる1種以上であることが好ましく、中でも、Mn、Ni及びCoからなる群から選ばれる1種以上がより好ましい。αは1.00≦α≦1.33であり、βは0.67≦β≦1.00である。αとβは0.5≦α/(α+β)≦0.67の関係を満たすことが好ましい。
【0019】
本実施の形態において、層状岩塩構造とは、金属Aにより形成された層L(A)と、金属B、又は金属A及び金属Bにより形成された層L(B/(A+B))を有する構造であり、これら2つの層が交互に積層した構造である。このような層状岩塩構造は、複合酸化物の粉末X線回折(XRD)を測定し、回折角2θのピークが20.5~22.0°(020面)に存在する場合に確認することができ、020面のピークの001面のピークに対する高さ強度比が0.15~0.40である場合に確認することができる。
また、複合酸化物の層状岩塩構造は、複合酸化物の粉末X線回折(XRD)を測定した結果についてリートベルト解析を行い、既知の層状岩塩構造のXRDプロファイルと一致する場合に確認することができる。
【0020】
上記式(1)で示される複合酸化物は、下記式(2)で示される組成を有することが好ましい。下記式(2)で示される複合酸化物は、上記式(1)において、金属AがLiであり、金属BがMn、Ni及びCoの場合の複合酸化物である。
Li(1+x)Mn(x+a(1-x))Nib(1-x)Coc(1-x)(2+x) ・・・(2)
(式(2)中、xは0≦x≦1.0であり、aは0.1≦a≦0.5であり、bは0.3≦b≦0.8であり、cは0≦c≦0.3であり、a+b+c=1.0である。)
【0021】
上記式(2)中、xは0≦x≦1.0であり、xの下限値は、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.3以上であり、xの上限値は、好ましくは0.7以下である。また、aは0.1≦a≦0.5であり、aの下限値は、好ましくは0.2以上である。bは0.3≦b≦0.8であり、bの上限値は、好ましくは0.6以下である。cは0≦c≦0.3であり、cの下限値は、好ましくは0.2以上である。a+b+c=1.0である。x、a、b及びcのそれぞれの上記好ましい上限値と下限値は任意に組み合わせることができる。上記式(2)中のx、a、b及びcを最適な範囲とすることにより、高容量を示すとともにサイクル特性にも優れたマグネシウム二次電池用の正極活物質となる。
【0022】
本実施の形態では、上記式(2)で示される組成を有する複合酸化物の中でも、式(2)中のxが0.5の場合のLi1.2Mn0.54Ni0.13Co0.132は、理論容量が非常に高く、結晶構造が安定であるため特に好ましい。
【0023】
上記式(2)で示される組成を有する複合酸化物の層状岩塩構造は、リチウムから構成されるリチウム層L(Li)と、Li、Mn、Ni及び所望によりCoを含む遷移金属層L(Li、Mn、Ni(Co))が繰り返し積層された構造を有する。
【0024】
上記式(2)の組成式は、下記式(3)の組成式で表すことができる。下記式(3)の組成式は、複合酸化物がLiMnO構造部分とLiMnNiCo構造部分を有することを示す組成式である。
xLiMnO‐(1-x)LiMnNiCo ・・・(3)
(式(3)中、x、a、b及びcは、式(2)中の定義と同じである。)
【0025】
例えば、上記式(3)においてxが0.5、aが0.35、b及びcが0.325の場合の複合酸化物は、式(3)にこれらx、a、b及びcの値を挿入し、さらに、式全体の組成比を0.8倍することにより、式(2)の組成式Li1.2Mn0.54Ni0.13Co0.13の複合酸化物として表記することができる。
【0026】
正極活物質には、層状岩塩構造の結晶相に加えてスピネル型等の他の結晶相が含まれていてもよい。他の結晶相の含有量が正極活物質の40重量%以下、好ましくは35重量%以下であれば、室温付近で稼働させることができ、高容量を示すとともにサイクル特性にも優れたマグネシウム二次電池用の正極活物質として機能することができる。すなわち、本実施の態様において、上記式(1)で示される組成を有し層状岩塩構造を有する複合酸化物の含有量は、正極活物質の60重量%以上であることが好ましく、65重量%以上であることがより好ましい。
【0027】
[BET比表面積]
本実施の形態において、正極活物質のBET比表面積は30m/gを超えるものである。BET比表面積の下限値は、好ましくは32m/g以上、より好ましくは34m/g以上、特に好ましくは35m/g以上であり、上限値は、好ましくは120m/g以下、より好ましくは115m/g以下、特に好ましくは110m/g以下である。BET比表面積が30m/g以下であると、非水電解質と正極活物質の一次粒子との接触面積が小さくなり、正極活物質へのマグネシウムイオンの脱挿入界面が小さくなって、充放電容量やサイクル特性が低下する傾向がある。BET比表面積が30m/gを越え120m/g以下であると、正極活物質とマグネシウムイオンとの間で最適な反応界面状態が形成され、最も良好な充放電容量とサイクル特性が達成される。
なお、BET比表面積は、窒素吸着法による比表面積測定装置によって測定することができる。
【0028】
[平均粒径]
正極活物質の一次粒子の平均粒径は、BET比表面積が上記範囲を満たせば、特に限定されない。一次粒子の平均粒径の上限値は、好ましくは75nm以下、より好ましくは65nm以下、さらに好ましくは50nm以下である。一次粒子の平均粒径が過大であると、非水電解質と正極活物質の一次粒子との接触面積が小さくなり、正極活物質へのマグネシウムイオンの脱挿入界面が小さくなって、充放電容量やサイクル特性が低下する傾向がある。また、一次粒子の平均粒径の下限値は、好ましくは10nm以上、より好ましくは15nm以上、さらに好ましくは17nm以上である。一次粒子の平均粒径が小さすぎると、結晶性の低下や凝集により、正極活物質内外のマグネシウムイオンの経路が乱れて、充放電容量やサイクル特性が低下する傾向がある。
一次粒子の平均粒径は、走査型又は透過型の電子顕微鏡写真を撮影し、任意の一次粒子50個について粒子径を測定し、その平均値として算出することができる。
【0029】
以上のような正極活物質を用いることにより、活物質の脱リチウム化を行わなくても、室温付近で動作させることができ、高容量を示すとともにサイクル特性にも優れたマグネシウム二次電池を作製することができる。
【0030】
<正極活物質の製造方法>
本実施の形態にかかる正極活物質の製造方法は錯体重合法を用いる。
錯体重合法は、エタノール等のアルコール溶媒に金属A及び金属Bの塩、例えば、Li、Mn、Ni及びCoの塩化物、硝酸塩等の塩を加えて溶解させ、次いでクエン酸等のキレート剤を加えることでキレート錯体を形成させる。その後、エポキシド等の重合剤を添加して、キレート剤と重合剤との間で縮合重合反応させることにより、キレーションされたイオンが均一に存在したネットワーク構造を有するゲル化物が形成される。次いで、ゲル化物を洗浄し、溶媒交換を行った後、凍結・真空乾燥させることによりキセロゲル状の前駆体を得る。得られたキセルゲル状の前駆体を焼成することで、ゲル化物のネットワーク構造を引き継いだ層状岩塩構造の複合酸化物を合成することができる。
【0031】
なお、本実施の形態の錯体重合法では、キレート剤としては、クエン酸の他に、酒石酸、リンゴ酸、タルトロン酸、グリセリン酸、オキシ酪酸、ヒドロアクリル酸、乳酸、グリコール酸等のヒドロキシ酸が挙げられるが、クエン酸が好ましい。また、重合剤としては、エポキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等のオキシド類やエチレングリコール等のグリコール類等が挙げられるが、プロピレンオキシドが好ましい。
【0032】
キセロゲル状の前駆体の焼成温度は特に限定されないが、高い比表面積を有する正極活物質を合成するという観点から、250~680℃が好ましく、280~650℃が好ましく、300~620℃がより好ましい。また、キセロゲル状の前駆体の焼成時間は通常1~10時間であり、好ましくは3~8時間である。焼成の雰囲気は、空気、酸素、アルゴン、窒素等から選ばれる1種以上を含むことが好ましい。経済性を考慮すると、空気であることが好ましい。
【0033】
以上のような錯体重合法を用いることにより、上記式(1)で示される組成を有し、層状岩塩構造を有する複合酸化物であって、BET比表面積が30m/g以上の複合酸化物を合成することができる。このような錯体重合法では、共沈法と異なり、複合酸化物中の金属組成が溶解度積に依らないため、全ての金属カチオンが複合酸化物の組成に組み込まれる。そのため、錯体重合法では、仕込み比通りの金属組成を含む複合酸化物となるよう厳密な制御を行うことができる。
【0034】
<マグネシウム二次電池>
本実施の形態のマグネシウム二次電池は、前述した正極活物質を含む正極と、負極と、非水電解質とを有するものである。また、本実施の形態に係るマグネシウム二次電池においては、正極と負極とを離間させるセパレータも用いることができる。
【0035】
[正極]
正極は、正極活物質を含有する正極合剤をフィルム化し、正極集電体上に圧着することにより製造することができる。或いは、正極は、正極合剤に有機溶媒を添加したペーストを正極集電体上に塗布し、乾燥して正極合剤層を形成し、さらに必要に応じて圧延することにより製造することができる。
【0036】
正極集電体としては、特に制限されず、公知の正極集電体を使用することができる。正極集電体としては、アルミニウム、ステンレス、銅、白金、ニッケル等からなる箔、メッシュ、発泡体等が挙げられる。
【0037】
正極合剤は、正極活物質と、必要に応じて結着剤、導電助剤等とを混合することにより調製することができる。結着剤及び導電助剤としては、特に制限されず、それぞれ公知の材料を使用することができる。
【0038】
結着剤としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、ポリ酢酸ビニル、ニトロセルロース、スチレンブタジエンゴム、アクリロニトリルゴム等が挙げられる。結着剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0039】
導電助剤としては、カーボンブラック、黒鉛、炭素繊維、金属繊維等が挙げられる。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等が挙げられる。導電助剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
正極合剤に有機溶媒を添加してペースト化する場合、有機溶媒としては特に制限されず、公知の材料を使用することができる。有機溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド等が挙げられる。有機溶媒は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。正極集電体に対するペーストの塗布量は、マグネシウム二次電池の用途等に応じて適宜決定することが好ましい。
【0041】
[負極]
負極は、マグネシウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極活物質を含む。
負極活物質としては、金属マグネシウム及びマグネシウム合金が挙げられる。マグネシウム合金としては、Mg-Al-Zn合金、Mg-Al合金、Mg-Zn合金、Mg-Mn合金、Mg-Ni合金、Mg-Sb合金、Mg-Sn合金、Mg-In合金、Mg-Bi合金等が挙げられる。
【0042】
また、負極活物質としては、マグネシウムと合金化するアルミニウム、亜鉛、リチウム、シリコン、スズ、ビスマス等の材料を用いることもできる。負極活物質としては、マグネシウムイオンを電気化学的に吸蔵及び放出可能な黒鉛、非晶質炭素等の炭素材料、テレフタル酸等の共役カルボン酸を用いることもできる。
【0043】
負極は、金属マグネシウム、マグネシウム合金等の負極活物質を電極に適した形状(板状等)に成形して作成することができる。
【0044】
また、負極は、上記の負極活物質を含有する負極合剤ペーストを負極集電体上に塗布し、乾燥して負極合剤層を形成し、さらに必要に応じて圧延することにより作製することもできる。負極集電体としては、特に制限されず、公知の負極集電体を使用することができる。負極集電体としては、アルミニウム、ステンレス、銅、白金、ニッケル等からなる箔、メッシュ、発泡体等が挙げられる。
【0045】
負極合剤ペーストは、負極活物質と、必要に応じて結着剤、導電助剤等とを有機溶媒に添加して混合することにより調製することができる。結着剤、導電助剤、及び有機溶媒としては、正極と同様の材料を用いることができる。
【0046】
[非水電解質]
非水電解質は、非水溶媒と、溶質である支持塩とを含む。非水溶媒及び支持塩としては、特に制限されず、それぞれ公知の材料を使用することができる。
【0047】
非水溶媒としては、イオン液体、非プロトン性の有機溶媒、又はこれらの組み合わせ等が挙げられる。
【0048】
イオン液体に含まれるアニオンとしては、ビストリフルオロメタンスルホニルアミドイオン(TFSA)、トリフルオロメタンスルホン酸イオン(TFS)、塩化物イオン、臭化物イオン、六フッ化リン酸イオン、四フッ化ホウ酸イオン等が挙げられる。イオン液体に含まれるカチオンとしては、N-メチル-N-プロピルピロリジニウム(P13)等のピロリジニウム,N-メチル-N-プロピルピペリジニウム(PP13)等のピペリジニウム、アンモニウム、イミダゾリウム、モルホリニウム、ホスホニウム、ピリジニウム、スルホニウム等が挙げられる。これらのカチオンとアニオンを組み合わせて構成されるイオン液体を用いることができる。
【0049】
有機溶媒としては、トリエチレングリコールジメチルエーテル(G3),テトラエチレングリコールジメチルエーテル(G4)等のグライム類、アセトニトリル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、γ-ブチロラクトン、スルホラン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、3-メチル-1,3-ジオキソラン、プロピオン酸メチル、酪酸メチル等が挙げられ、特に耐酸化性に優れ、マグネシウムの析出、溶解反応を起こす効率が高い点からグライム類、アセトニトリルが好ましい。
【0050】
支持塩としては、Mg(B(HFIP)、Mg(N(SOCF、Mg(SOCF、Mg(ClO、Mg(BF、Mg(PF、MgCl、MgBr等が挙げられる。
【0051】
[セパレータ]
セパレータは、正極と負極との間に介在するように設けられ、正極と負極とを絶縁する。セパレータとしては、特に制限されず、公知のセパレータを使用することができる。セパレータの材料としては、ガラス、セラミックス、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。セパレータの形状としては多孔質体等が挙げられる。
【0052】
本発明のマグネシウム二次電池は、円筒型、角型、コイン型、ボタン型等、その形状については特に限定されることはなく、また、薄型、大型等の種々の大きさにすることができる。
【実施例0053】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
<正極活物質の合成>
[実施例1]
エタノール20mLに、LiOH・HO(10.80mmol)、MnCl・4HO(4.86mmol)、NiCl・6HO(1.17mmol)及びCoCl・6HO(1.17mmol)を加えて溶解させ、次いでクエン酸(18.0mmol)を加えて溶解させた溶液に、プロピレンオキシド(12mL)を加えて撹拌することによりゲル化物を得た。得られたゲル化物を25℃の恒温槽中で24時間静置し、エタノールで3回デカンテーションによりゲル化物を洗浄した後、アセトンで3回細孔液を交換した。その後、アセトンに浸漬したゲル化物を24時間静置し、シクロヘキサンで1日おきに計3回細孔液を交換した。細孔液交換を行ったゲル化物を液体窒素で凍結させて12時間真空乾燥することによりキセロゲル状の前駆体を得た。得られたキセロゲル状の前駆体を600℃で5時間焼成させて正極活物質(式(2)中のx=0.5、a=0.35、b=c=0.325)を得た。
【0054】
[実施例2]
実施例1において、キセロゲル状の前駆体の焼成温度を500℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得た。
【0055】
[実施例3]
実施例1において、キセロゲル状の前駆体の焼成温度を400℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得た。
【0056】
[実施例4]
実施例1において、キセロゲル状の前駆体の焼成温度を300℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得た。
【0057】
[実施例5]
実施例1において、LiOH・HO(9.00mmol)、MnCl・4HO(3.00mmol)、NiCl・6HO(3.00mmol)及びCoCl・6HO(3.00mmol)を使用し、キセロゲル状の前駆体の焼成温度を500℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質(式(1)中のx=0、a=b=c=0.33)を得た。
【0058】
[実施例6]
実施例5において、LiOH・HO(9.45mmol)、MnCl・4HO(3.51mmol)、NiCl・6HO(2.52mmol)及びCoCl・6HO(2.52mmol)を使用したこと以外は、実施例5と同様にして正極活物質(式(1)中のx=0.1、a=b=c=0.33)を得た。
【0059】
[実施例7]
実施例5において、LiOH・HO(9.81mmol)、MnCl・4HO(3.87mmol)、NiCl・6HO(2.16mmol)及びCoCl・6HO(2.16mmol)を使用したこと以外は、実施例5と同様にして正極活物質(式(1)中のx=0.2、a=b=c=0.33)を得た。
【0060】
[実施例8]
実施例5において、LiOH・HO(10.17mmol)、MnCl・4HO(4.23mmol)、NiCl・6HO(1.80mmol)及びCoCl・6HO(1.80mmol)を使用したこと以外は、実施例5と同様にして正極活物質(式(1)中のx=0.3、a=b=c=0.33)を得た。
【0061】
[実施例9]
実施例5において、LiOH・HO(11.34mmol)、MnCl・4HO(5.40mmol)、NiCl・6HO(0.63mmol)及びCoCl・6HO(0.63mmol)を使用したこと以外は、実施例5と同様にして正極活物質(式(1)中のx=0.7、a=b=c=0.33)を得た。
【0062】
[実施例10]
実施例5において、LiOH・HO(11.52mmol)、MnCl・4HO(5.58mmol)、NiCl・6HO(0.45mmol)及びCoCl・6HO(0.45mmol)を使用したこと以外は、実施例5と同様にして正極活物質(式(1)中のx=0.8、a=b=c=0.33)を得た。
【0063】
[実施例11]
実施例5において、LiOH・HO(12.00mmol)及びMnCl・4HO(6.00mmol)を使用したこと以外は、実施例5と同様にして正極活物質(式(1)中のx=1.0、a=b=c=0.33)を得た。
【0064】
[実施例12]
実施例5において、LiOH・HO(10.80mmol)、MnCl・4HO(4.68mmol)、NiCl・6HO(1.80mmol)及びCoCl・6HO(0.72mmol)を使用したこと以外は、実施例5と同様にして正極活物質(式(1)中のx=0.5、a=0.3、b=0.5、c=0.2)を得た。
【0065】
[実施例13]
実施例5において、LiOH・HO(10.80mmol)、MnCl・4HO(4.32mmol)、NiCl・6HO(2.16mmol)及びCoCl・6HO(0.72mmol)を使用したこと以外は、実施例5と同様にして正極活物質(式(1)中のx=0.5、a=0.2、b=0.6、c=0.2)を得た。
【0066】
[実施例14]
実施例5において、LiOH・HO(10.80mmol)、MnCl・4HO(3.96mmol)、NiCl・6HO(2.88mmol)及びCoCl・6HO(0.36mmol)を使用したこと以外は、実施例5と同様にして正極活物質(式(1)中のx=0.5、a=0.1、b=0.8、c=0.1)を得た。
【0067】
[実施例15]
実施例5において、LiOH・HO(10.80mmol)、MnCl・4HO(5.40mmol)及びNiCl・6HO(1.80mmol)を使用したこと以外は、実施例5と同様にして正極活物質(式(1)中のx=0.5、a=0.5、b=0.5、c=0)を得た。
【0068】
[比較例1]
イオン交換水100mLに、Mn(NO・6HO(9.0mmol)、Ni(NO・6HO(2.17mmol)及びCo(NO・6HO(2.17mmol)を加えて溶解させた。得られた水溶液に0.5mol/LのLiOH・HOを滴下することにより沈殿物を得た。得られた沈殿物をろ過して洗浄した後に、100℃の恒温槽中で一晩乾燥させた。乾燥して得られた粉末にLiOH・HO(20.0mmol)を加え、得られた前駆体を空気中において600℃で15時間焼成し、さらに950℃で15時間焼成して、正極活物質を得た。
【0069】
[比較例2]
実施例1において、キセロゲル状の前駆体の焼成温度を700℃に変更したこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得た。
【0070】
<正極活物質の評価>
(誘導結合プラズマ発光分光分析(Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometry;ICP-AES))
正極活物質の誘導結合プラズマ発光分光分析は次のようにして行った。
1000mg/Lのリチウム、マグネシウム、マンガン、マンガン、ニッケル標準液をそれぞれ100倍、500倍、1000倍に希釈して、標準液の希釈溶液を調製した。また、塩酸3mLに試料1~2mgを加え、3~5時間超音波処理して溶解させた後に、約500mLに希釈して試料溶液を調製した。誘導結合プラズマ発光分光分析装置(株式会社島津製作所製、ICPE-9000)を用い、露光時間を15秒として元素分析を行い、3回の測定値の平均値を用いた。標準液の希釈溶液及びイオン交換水の測定結果から検量線を作成し、検量線法により試料中の元素の定量分析を行った。
【0071】
実施例1~4、比較例1及び2で得られた正極活物質について、上記方法により分析した元素分析結果を下記表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
表1の結果から、実施例1~4、比較例1及び2で得られた正極活物質には、いずれも仕込み比とほぼ同じ比率でLi、Mn、Ni、Coが存在することが分かった。また、実施例1~4、比較例1及び2で得られた正極活物質には、Mgは存在していないことを確認した。
【0074】
実施例5~15で得られた正極活物質について、上記方法により分析した元素分析結果を下記表2に示す。
【0075】
【表2】
【0076】
(粉末X線回折:XRD)
正極活物質の粉末X線回折(X-Ray Diffraction)は次のようにして測定した。
正極活物質を粉砕して試料ホルダーにのせ、上からガラス基板を押し当てて試料を圧着させて試料表面を平滑にした。CuKα線のX線回折装置(BRUCKER社製、D8 ADVANCE ECO)を用いて、連続スキャン法により測定を行った。測定条件は、管電圧40kV、管電流25mA、サンプリング幅0.04degree、スキャンスピード6.0degree/min、回折角は2θ=5-80degreeとした。
【0077】
上記方法により測定した実施例1~4、比較例1及び2で得られた正極活物質のXRDパターンを図1に示し、5~11で得られた正極活物質のXRDパターンを図2に示し、実施例12~15で得られた正極活物質のXRDパターンを図3に示す。
【0078】
実施例1~4、比較例1及び2で得られた正極活物質の結晶相をより詳しく調べるために、図1のXRDパターンについてリートベルト解析によって推測される結晶相の定量を行った。結晶相の定量は層状岩塩型Li1.2Mn0.54Ni0.13Co0.13O2、スピネル型LiNi0.5Mn1.5O4、スピネル型LiCoMnO4の3つで行った。結果を下記表3に示す。
【0079】
【表3】
【0080】
また、実施例1~15で得られた正極活物質のXRDパターン(図2及び図3)について測定されたピークの結果を下記表4に示す。
【0081】
【表4】
【0082】
表3、表4及び図1~3の結果から、実施例1~15、比較例1及び2で得られた全ての正極活物質が、層状岩塩型の結晶相を有する複合酸化物を主要成分として含むことが確認された。
【0083】
(SEM像(Field Emission-Scanning Electron Microscope:FE-SEM))
正極活物質の走査型電子顕微鏡写真(SEM像)を次のようにして観察した。
専用のアルミニウム試料台に貼りつけた導電性両面テープ上に試料を載せて固定した。チャージアップ防止のため、オスミウムコーター(株式会社真空デバイス製、HPC-1S)を用いオスミウムを8秒間蒸着した後、電界放出形走査電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM-7600F)により形態を観察した。加速電圧は10kVとした。
【0084】
実施例1~15、比較例1及び2で得られた正極活物質について、上記方法によりSEM像観察した。実施例1~4、比較例1及び2で得られた正極活物質SEM像を図2図7に示す。
【0085】
(比表面積及び粒径)
正極活物質の比表面積及び一次粒子の平均粒径は次のようにして測定した。
正極活物質を粉砕し160℃で5時間以上真空脱気した後に、窒素吸脱着測定装置(株式会社島津製作所製、3Flex-3MP)を用いて-196℃において測定を行った。得られた窒素吸着等温線からBrunauer-Emmett-Teller(BET)法により比表面積を求めた。また、一次粒子の平均粒径は、上記で撮影したSEM像において、任意の一次粒子50個について粒子径を測定し、その平均値として算出した。
【0086】
実施例1~15、比較例1及び2で得られた正極活物質について、上記方法により求めたBET比表面積及び一次粒子の平均粒径を下記表5に示す。
【0087】
【表5】
【0088】
表5の結果から、共沈法により合成した比較例1の複合酸化物は約1m/gという非常に小さい比表面積を有するのに対し、錯体重合法により合成した複合酸化物は2桁以上の高い比表面積を有することが示された。特に、実施例4(錯体重合法:焼成温度300℃)で得られた複合酸化物は106m/gという非常に大きい比表面積を示した。また、表5及び図3図9より、共沈法で合成した比較例1の複合酸化物は一次粒子の平均粒径が1μmを超えているが、錯体重合法で合成した実施例1~15の複合酸化物は一次粒子の平均粒径が10~50nmの一次粒子で構成されていることが確認された。
【0089】
<マグネシウム二次電池の作製>
実施例及び比較例で得られた正極活物質を用いて、以下に記載する方法で2極セルを作製した。2極セルの構成図を図10に示す。
正極活物質の粉末試料30mgとアセチレンブラック(AB:導電助材)15mgを混錬したものに、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE:結着材)5mgを加え、さらに10分間混錬して均一化しペースト状にした(正極活物質:AB:PTFE=6:3:1(重量比))。これを質量約3mg、直径8mmの円形に成形し、直径9.375mmの円形アルミニウムメッシュ上にのせ、プレス機で30秒間4MPaにて圧着した。これを正極(作用極)として用いた。
マグネシウム合金(Mg:Al:Zn=96:3:1(重量%))をスライドガラスで研磨した後、直径9.375mmの円形に成形し、これを負極(対極および参照極)として用いた。
電解液としては、Mg[B(HFIP)・3DMEをG3に溶解させて0.3Mとしたものを用いた。
セルの組み立ては全てアルゴン雰囲気下のグローブボックス内で行った。
【0090】
<充放電特性の評価>
実施例2(錯体重合法:焼成500℃)、実施例4(錯体重合法:焼成300℃)及び比較例1(共沈法)で得られた正極活物質を用いて作製した2極セルについて、サイクリックボルタンメトリー(CV)を行った。CVの測定条件は以下の通りである。また、得られたサイクリックボルタモグラム(CV曲線)を図11図13に示す。
(CV法条件)
掃引速度:0.04mV/s
測定電位;0.2-3.8V(vs.Mg/Mg2+
測定温度:25℃
【0091】
比較例1(共沈法)で合成した正極活物質のCV曲線(図13)と、実施例2及び実施例4(錯体重合法)で合成した正極活物質のCV曲線(図11及び図12)とを比較すると、前者では酸化還元反応が起きていないのに対して、後者では酸化電流および還元電流のピークを観察することができる。このことから、小粒径で高比表面積を有する、錯体重合法で合成した正極活物質は、25℃という低温の測定条件でも電池として作動することが確認された。
【0092】
次に以下の条件を用いて、実施例1~15、比較例1及び2で得られた正極活物質を用いて充放電測定を行った。実施例1~4、実施例8及び9、比較例1及び2で得られた正極活物質の充放電曲線を図14図21に示す。また、実施例1~15、比較例1及び2で得られた正極活物質の比表面積と放電容量を下記表6に示す。
(充放電測定条件)
電流値:1/25C(8mA/g)
測定電位:0.2-4.0V
測定温度:25℃
【0093】
【表6】
【0094】
比較例1(共沈法)で合成した正極活物質を用いた場合(図20)と、実施例1~4(錯体重合法:焼成温度300~600℃)で合成した正極活物質を用いた場合(図14図17)の1サイクル目の放電容量を比較すると、前者では23mAh/g(図20)であったのに対し、後者では145mAh/g(図14、実施例1:焼成600℃)、196mAh/g(図15、実施例2:焼成500℃)、143mAh/g(図16、2nd放電容量、実施例3:焼成400℃)、168mAh/g(図17、実施例4:焼成300℃)と非常に大きい値を示した。また、式(1)のx、a、b及びcを変化させて合成した実施例5~15(錯体重合法)の正極活物質を用いた場合も、1サイクル目の放電容量が78~159mAh/gと非常に大きい値を示した。
【0095】
錯体重合法で合成した複合酸化物(実施例1~15、比較例2)のうち、600℃以下で焼成した実施例1~15の電池は10サイクル目の後も作動し続けたが、比較例2(焼成700℃)の電池は5サイクル目で作動しなくなった。
【0096】
上記で測定した充放電測定の結果に基づいて、実施例1~4及び比較例1で得られた複合酸化物を正極活物質とした電気化学セルの容量対サイクル回数をプロットした図を図22に示す。
【0097】
比較例1(共沈法)で合成した正極活物質の場合には、2サイクル目で容量が低下し電池としてほとんど作動しなかった。これに対し、実施例1~4(錯体重合法:焼成300~600℃)で合成した複合酸化物の場合には、1サイクル目から2サイクル目にかけて容量が減少するものの、3サイクル目以降では8サイクル目まで約60mAh/gを維持し続けた。中でも、実施例4(焼成300℃)は15サイクル目でも約70mAh/gを示した。このように、錯体重合法における焼成温度が電池の容量とサイクル特性に影響を与えることが確認された。高い初期容量(1サイクル目又は2サイクル目)を達成する観点からは焼成温度500℃が最も好ましく、高いサイクル特性を達成する観点からは焼成温度300℃が最も好ましいことが確認された。
【0098】
以上の結果から、実施例1~15で構成された正極活物質を用いることにより、活物質の脱リチウム化を行わなくても、室温付近の温度で、かつ、マグネシウム系の負極を用いる実用的な条件下でマグネシウム二次電池を稼働させることができ、高容量を示すとともにサイクル特性にも優れたマグネシウム二次電池を提供できることが確認された。
【0099】
上記の実施例では、LiMnNiCo系の複合酸化物を合成して正極活物質として用いた場合を例を示したが、LiMnNiCo系以外の他の金属成分を組み合わせた組成を有する複合酸化物の場合でも、同様の方法によりBET比表面積が30m/g以上の複合酸化物を合成することができ、優れた特性を有するマグネシウム二次電池を作製することができる。
【符号の説明】
【0100】
1 正極
2 負極
3 セパレータ
図1
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図22