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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022050097
(43)【公開日】2022-03-30
(54)【発明の名称】生ウニの鮮度保持方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 17/00 20160101AFI20220323BHJP
【FI】
A23L17/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020156500
(22)【出願日】2020-09-17
(71)【出願人】
【識別番号】303044712
【氏名又は名称】三井農林株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大谷 修一
(72)【発明者】
【氏名】北條 寛
(72)【発明者】
【氏名】林 智佳
(72)【発明者】
【氏名】本多 麻美
【テーマコード(参考)】
4B042
【Fターム(参考)】
4B042AC06
4B042AD39
4B042AG53
4B042AK02
4B042AK11
4B042AP24
(57)【要約】
【課題】 生ウニ本来の風味に影響を与えることなく、長期にわたって鮮度を効果的に保持する方法を提供すること。
【解決手段】 生ウニを、茶ポリフェノールを含有する塩水に接触させる第一工程の後に、塩水で洗浄する第二工程を備え、好ましくは洗浄後の生ウニを塩水中で保管することにより、生ウニの鮮度を長期にわたって保持することができる。第一工程の処理液は茶ポリフェノールを0.2~4%含有するのが好ましく、茶ポリフェノールは紅茶ポリフェノールであることが特に好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生ウニを、茶ポリフェノールを含有する塩水に接触させる第一工程と、前記第一工程の後に、生ウニを塩水で洗浄する第二工程とを備えることを特徴とする生ウニの鮮度保持方法。
【請求項2】
茶ポリフェノール濃度が0.2~4.0%であることを特徴とする請求項1に記載の生ウニの鮮度保持方法。
【請求項3】
茶ポリフェノールが紅茶ポリフェノールであることを特徴とする請求項1又は2に記載の生ウニの鮮度保持方法。
【請求項4】
第二工程に次いで、生ウニを塩水中に浸漬して保存することを特徴とする請求項1から3いずれか一項に記載の生ウニの鮮度保持方法。
【請求項5】
生ウニを、茶ポリフェノール0.2~4.0%を含有する塩水に接触させる第一工程と、前記第一工程の後に、生ウニを塩水で洗浄する第二工程とを備えることを特徴とする、茶ポリフェノールで表面処理された生ウニの製造方法。
【請求項6】
生ウニの表面が茶ポリフェノールで処理されていることを特徴とする生ウニ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生ウニの鮮度保持方法ならびにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウニの殻から可食部である生殖巣を取り出した後の生ウニは濃厚な風味が人気の食材である。しかしながら、鮮度低下が著しく、時間経過とともに身崩れや変色が生じ、風味が低下する問題がある。そのため、従来から、収穫した生ウニをミョウバン(硫酸アルミニウムカリウム)等で処理して鮮度保持を図ることが一般的に行われてきた。ミョウバンで処理された生ウニは表面組織が引き締まり、身崩れが防止される一方で、苦味を呈することから嗜好性が著しく低下する問題があった。このような背景から、各種の薬剤で生ウニを処理する方法として例えば、トレハロース(特許文献1)、分岐デキストリン(特許文献2)、キトサン(特許文献3)を使用する方法が提案されている。
【0003】
また、特許文献4には茶抽出成分を含有する水溶液に生ウニを浸漬させる方法が開示されており、脱水による身崩れや不自然な味がなく、ウニ特有の甘味が増し、新鮮な状態を長期間維持できることが記載されている。
【0004】
その他、茶抽出物を利用した魚介類の鮮度保持方法として、茶抽出物を含む水溶液に魚介などの食品を接触させる方法(特許文献5)、茶抽出成分、ポリヒドロキシ化合物及び有機酸を含む水溶液で水産品を処理する方法(特許文献6)、緑茶抽出物とトレハロースを含む水溶液で水産加工品を処理する方法(特許文献7)などが提案されている。
【0005】
なお、生ウニの鮮度の指標としては、例えば「塩水ウニ」の5℃保存における経時観察において、塩水のpHの低下に伴い腐敗臭が増すことが報告されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-81136号公報
【特許文献2】特開平02-177853号公報
【特許文献3】特開2008-307039号公報
【特許文献4】特開2000-245336号公報
【特許文献5】特開2001-17074号公報
【特許文献6】特開昭63-291531号公報
【特許文献7】特開2004-180614号公報
【0007】
【非特許文献1】北水試だより62(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記したミョウバン以外の薬剤で処理する方法では、いずれも生ウニ本来の風味に影響を与えずに長期にわたって鮮度を効果的に維持することは難しかった。特に、茶抽出物を使用する方法においては、処理溶液中の茶抽出物が低濃度である場合には鮮度保持作用が不十分であり、高濃度では生ウニに茶色素の添着が生じたり、茶成分の苦味が目立つといった問題があった。そのため、依然として生ウニの処理にはミョウバンを使用する手段が主流であり、これらに代わる方法が求められている。また、生ウニの流通に関しては、従来の「板ウニ」や「冷凍ウニ」に代わり、海水と同程度の濃度の塩水に浸漬した「塩水ウニ」が注目されており、この形態での鮮度保持方法も強く望まれている。というのも、従来の板ウニの賞味期限は5~6日程度であるのに対し、塩水ウニの賞味期限は2~3日とされており、流通により消費者が入手するまでに1~2日程度を要することを考慮すると、消費できる期間はさらに限定されるためである。
【0009】
本発明の課題は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、生ウニ本来の風味に影響を与えることなく、長期にわたって鮮度を効果的に保持しうる処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた過程で、生ウニを茶ポリフェノールを含む塩水に接触させた後に塩水で洗浄し、さらにその後に塩水中で保存することにより、生ウニ本来の風味に影響を与えることなく、長期にわたって鮮度を効果的に保持できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 生ウニを、茶ポリフェノールを含有する塩水に接触させる第一工程と、前記第一工程の後に、生ウニを塩水で洗浄する第二工程を備えることを特徴とする生ウニの鮮度保持方法。
[2] 茶ポリフェノール濃度が0.2~4.0%であることを特徴とする[1]に記載の生ウニの鮮度保持方法。
[3] 茶ポリフェノールが紅茶ポリフェノールであることを特徴とする[1]又は[2]に記載の生ウニの鮮度保持方法。
[4] 第二工程に次いで、生ウニを塩水中に浸漬して保存することを特徴とする[1]から[3]のいずれか一つに記載の生ウニの鮮度保持方法。
[5] 生ウニを、茶ポリフェノール0.2~4.0%を含有する塩水に接触させる第一工程と、前記第一工程の後に、生ウニを塩水で洗浄する第二工程を備えることを特徴とする、茶ポリフェノールで表面処理された生ウニの製造方法。
[6] 生ウニの表面が茶ポリフェノールで処理されていることを特徴とする生ウニ。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、生ウニ本来の風味に影響を与えることなく、長期にわたって鮮度を効果的に保持する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において、特別な記載がない場合、「%」は質量%を示す。また、「下限値~上限値」の数値範囲は、特に他の意味であることを明記しない限り、「下限値以上、上限値以下」の数値範囲を意味する。
【0014】
本発明における「生ウニ」とは収穫したウニの外殻から取り出した可食部である生殖巣部分のことをいう。ウニの種類は特に限定されるものではないが、食用のウニであればよく、例えば、バフンウニ、ムラサキウニ、エゾバフンウニ、キタムラサキウニ、アカウニ、シラヒゲウニなどが挙げられる。
【0015】
本発明における茶ポリフェノールとは、「日本食品標準成分表2015年度(七訂)分析マニュアル・解説」(文部科学省科学技術・学術政策局政策課資源室監修、建帛社2016年2月)の242~243ページに記載の酒石酸鉄吸光光度法に従って測定される「茶に含まれるポリフェノール」のことであり、タンニンや茶タンニン等の用語と同義に扱う。茶ポリフェノールの具体例としては、カテキン類、フラボノール類、フラボノール配糖体類、没食子酸、テオガリンおよびそれらの重合体であるテアフラビン類、テアフラビン酸類、テアフラガリン類、テオガリニン類、テアフラボニン類、テアナフトキノン類、テアシネンシン類、プロアントシアニジン類、アッサミカイン類、ウーロンホモビスフラバン類、テアルビジンや、加水分解型タンニンであるストリクチニン、β-グルコガリン、1,4,6-トリガロイルグルコース等が挙げられる。
【0016】
前記の茶ポリフェノールは、「チャノキ」(Camellia sinensis var.sinensisやCamellia sinensis var.assamica、またはこれらの雑種)の生葉や生茎、あるいはこれらを一次原料として製造された茶葉(例えば、煎茶、玉露、覆茶、番茶、釜炒り緑茶などの不発酵茶、不発酵茶に花の香りを移したジャスミン茶や桂花茶などの花茶、白茶などの弱発酵茶、烏龍茶などの半発酵茶、紅茶などの発酵茶、プアール茶などの微生物発酵茶)を原料として水、含水有機溶媒、有機溶媒により抽出することで得られ、それらの抽出液やその濃縮物、乾燥物、精製物として使用することができる。これらの市販品としては、例えば、三井農林(株)の商品名「ポリフェノン」シリーズ、(株)伊藤園の商品名「テアフラン」シリーズ、太陽化学(株)の商品名「サンフェノン」シリーズ等が挙げられる。これらのうち、一次原料となる茶葉が紅茶に由来する紅茶ポリフェノールが効果の点で特に好ましく、紅茶ポリフェノールの市販品としては三井農林(株)の商品名「ポリフェノンPF」を例示できる。
【0017】
本発明の生ウニの鮮度保持方法は、第一工程として、生ウニを、茶ポリフェノールを含有する塩水に接触させるものである。この操作によって生ウニが茶ポリフェノールによって表面処理されることで鮮度保持の作用が得られる。第一工程の処理液(塩水)中の茶ポリフェノール含有量は0.2~4.0%であることが好ましく、より好ましくは0.5~3.8%、さらに好ましくは0.7~3.6%である。なお、茶ポリフェノールが紅茶を由来とする紅茶ポリフェノールの場合には、0.2~3.0%が好ましく、0.5~2.8%がより好ましく、1.0~2.6%がさらに好ましい。また、茶ポリフェノールが緑茶を由来とする緑茶ポリフェノールの場合には0.3~4.0%が好ましく、1.0~3.8%がより好ましく、1.5~3.6%がさらに好ましい。茶ポリフェノール量が4.0%を超えると、第二工程の洗浄操作に時間を要することとなって鮮度が低下したり、さらには茶成分の残留によって生ウニ本来の風味や色調に影響を与えたりすることがある。一方、0.2%未満であると、鮮度保持効果があまり期待できない。
【0018】
本発明における塩水とは海水と同程度の浸透圧となる塩分を含む水を意味し、具体的な塩分濃度としては3.0~3.5%である。この塩水は人工的に調製できるほか、海から採取した清浄な海水を精製して用いても構わない。生ウニの処理や保存の過程では細菌やカビなどの繁殖により鮮度低下が起こるため、オートクレーブ処理やUHT殺菌処理、煮沸滅菌した滅菌塩水を用いるのが好ましい。滅菌する装置がない場合は、水道水を用いて調製した塩水でもよい。調製した溶液は第一工程の溶液を調製する際に用いるほか、そのままの状態で第二工程の溶液、及び塩水ウニとして保存する際の保存液として使用する。
【0019】
塩水を調製するために用いる「塩」は塩化ナトリウムを主成分とすること以外には特に限定しないが、例えば試薬として販売されている塩化ナトリウム(富士フイルム和光(株)製)や食塩((財)塩事業センター)、海塩(伯方の塩、伯方塩業株式会社)、天日塩(海の精あらしお、海の精株式会社製)などが挙げられる。さらに海水を用いる場合は、紫外線ろ過殺菌装置処理した海水や紫外線照射した海水を用いることができる。
【0020】
殻から取り出した生ウニの鮮度を保つために、生ウニの取り出し後から第一工程、第二工程、保存に使用する塩水は0~10℃で使用するのが好ましく、0~4℃がより好ましい。
【0021】
本発明における生ウニを接触させる第一工程の方法は特に限定しないが、処理液に浸漬する方法や処理液をシャワーする方法が挙げられる。例えば冷却した茶ポリフェノールを含む滅菌塩水が入った桶にザルの上に載せた生ウニをザルのまま投入し、一定時間浸漬後ザルを引き上げる方法や、生ウニを茶ポリフェノールを含む滅菌塩水が入った桶に投入し、一定時間浸漬後、茶こしや網じゃくし等を用いて引き上げる方法を例示できる。このほか、茶ポリフェノールを含む滅菌塩水を生ウニに満遍なく当たるようにシャワーする方法も例示できる。生ウニは傷つくことで鮮度低下が加速するため、生ウニを傷つけずに処理液を接触できる方法であればこれらの方法に限定されるものではない。生ウニと処理液との接触時間は特に限定しないが、通常は30秒間~60分間程度が好ましい。本発明においては、この第一工程によって生ウニの表面が茶ポリフェノールによって処理されることで物性が変化し、内容物の漏出が抑えられることなどによって鮮度保持の作用が得られると考えられる。
【0022】
本発明における第二工程は、茶ポリフェノールを含む第一工程の処理液から引き上げた生ウニを茶ポリフェノールを含まない第二工程の処理液(滅菌塩水)で第一工程後の生ウニを洗浄する工程である。第二工程の方法としては、滅菌塩水をシャワーするか、滅菌塩水に浸漬洗浄して引き上げる操作を繰り返す方法などが挙げられ、最終的に生ウニの香味に影響しない程度に生ウニを洗浄して余剰の茶成分を洗い流すことができればどのような手段でもよい。生ウニを洗浄する時間は特に限定しないが、5秒から5分間程度が好ましい。本発明においては、この第二工程を備えることにより、高濃度の茶ポリフェノールで処理しながらも充分量の滅菌塩水で余剰の茶ポリフェノールを洗い流すことによって、風味や着色への影響を抑制することができる。
【0023】
本発明の生ウニ鮮度保持方法としては、第二工程を行った後に滅菌塩水中に浸漬して保存する所謂「塩水ウニ」の状態とするのが好ましい。生ウニを塩水中に浸漬して保存する際の塩水の量は特に限定しないが、生ウニの重量に対して等量~10倍量の塩水が好ましい。塩水量が少なすぎると生ウニが空気に触れ劣化が促進され、塩水量が多いと保存スペースが大きくなり、好ましくは2倍量から8倍量、より好ましくは3倍量から5倍量である。また保存期間中に細菌やカビなどの繁殖により鮮度低下や異臭が発生するため、オートクレーブ処理(121℃、15~20分)やUHT殺菌処理した滅菌塩水や、一度煮沸し滅菌処理されたものを用いるが好ましいが、水道水で調製した塩水を用いてもよい。本発明では最終的な保存形態として塩水中に浸漬することによって、茶ポリフェノール含有塩水で処理しない場合に比べて鮮度保持期間を延長することが可能となる。なお、塩水ウニの貯蔵中には経過日数に伴って、ウニの内容物が漏出してpHが低下することが知られているため(北水試だより62、2003)、pHの測定により鮮度の変化を確認することができる。
【0024】
「塩水ウニ」以外の保存方法としては、生ウニをむき出しの状態で板の上に並べた「板ウニ」のほか、長期間冷凍保存する場合は「板ウニ」の状態で冷凍した「冷凍ウニ」などが挙げられる。さらに身崩れ防止のため生ウニをごく短時間で蒸気を当てたり、茹でたりすることで表面のみを加熱加工し、その後に冷蔵もしくは冷凍保存する方法などが挙げられる。
【実施例0025】
以下に本発明を実施例によってさらに具体的に説明する。ただし、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0026】
<実施例1>
塩化ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社、和光一級)30gをイオン交換水970gで溶解し、121℃、15分間オートクレーブ処理し、3%の滅菌塩水を作製した。これを水冷後に冷蔵庫内で4℃に冷却した。緑茶抽出物(商品名:ポリフェノンG、メーカー:三井農林(株))を前記3%滅菌塩水に溶解し、茶抽出物の濃度として各々1%、3%、5%、10%の溶液100gを調製した。また、紅茶抽出物(商品名:ポリフェノンPF、メーカー:三井農林(株))を前記3%滅菌塩水に溶解し、茶抽出物の濃度として各々1%、3%、5%、10%の溶液100gを調製し、これらを第一工程での処理液とした。この処理液のポリフェノール濃度は以下に示す方法で測定した。第二工程の処理液及び保存液は茶抽出物を加えずに4℃で保存した3%の滅菌塩水を用いた。
【0027】
<茶ポリフェノールの測定方法>
茶ポリフェノール含有量は、「日本食品標準成分表2015年度(七訂)分析マニュアル・解説」(文部科学省科学技術・学術政策局政策課資源室監修、建帛社2016年2月)の242~243ページに記載の酒石酸鉄吸光光度法に従って行った。定量用標準物質には没食子酸エチル(東京化成工業(株)製)を用いた。
【0028】
殻付きの状態で入手したウニ(宮城県産 ムラサキウニ、Okawari楽天市場店より購入)5壷からそれぞれ生ウニ(生殖巣)を取り出し、冷却した滅菌塩水の入った桶に移した。生ウニを傷つけないように生ウニに付着している消化管等をピンセットや箸を用いて除去し、洗浄を行った。取り出した生ウニをザルに2房ずつ移し軽く水を切った後、前記第一工程処理溶液の入ったボウルにザルにウニを乗せたまま30分間浸漬し、ザルを引き上げて水切りした。次いで第二工程として、茶ポリフェノールを含まない滅菌塩水(第二工程の処理液)中で軽くゆすりながら洗浄し、塩水を取り換えながら、塩水の濁りがなくなるまでよく洗浄した後に水切りした。次いで、100mL容ガラス製メジウム瓶に生ウニ2房ずつ移し、生ウニの重量を測定した。生ウニ2房の重量の5倍重量の新たな3%滅菌塩水を入れて塩水ウニの状態として冷蔵保存(4℃)を開始した。保存開始日のpHの測定は冷蔵保存開始2時間後にサンプリングした滅菌塩水を用いた。その後、1,4,6,8,12日後にそれぞれ塩水(保存液)をサンプリングし、以下に示す方法で鮮度の指標としてpHを測定した。また、サンプリングした塩水(保存液)について以下に示す方法で官能評価を行った。
【0029】
さらに、上記と同様に処理・保存した生ウニを保存開始直後と保存開始から4日後に試食し、茶ポリフェノールで表面処理したことによる外観と風味への影響について確認した。
【0030】
<pHの測定方法>
塩水保存液のpHの測定は、コンパクト型水質系 LAQUAtwin-pH-22B((株)堀場製作所製)を用いた。
【0031】
<官能評価方法>
官能における評価は、香味や異臭についての識別やそれらの濃度識別についてトレーニングされた専門パネラー4名で実施した。評価は、サンプリングした塩水(保存液)の臭いを嗅ぎ、異臭や腐敗臭の存在を以下の表1に示した基準で評点させ、パネラー4名の評価点を平均化した。
【0032】
【表1】
【0033】
これらについて得られた結果は、pHの測定結果を表2に、官能評価の結果を表3に示した。また、pH測定では鮮度の限界点とするpH5.4以下に到達した日数、官能評価では明確な異臭として認知できる評価スコア3.0以上に到達した日数を抽出し、これらの結果を総合的に評価した結果と合わせて表4に示した。
【0034】
【表2】
【0035】
【表3】
【0036】
【表4】
【0037】
<結果>
上記の結果より、全体的な評価として、茶ポリフェノール濃度が0.2~4.0%の範囲で第一工程を行った場合に鮮度保持作用が得られること、茶ポリフェノール濃度が0.5~4.0%の範囲でさらに強い作用が得られることが確認された。鮮度低下の指標であるpHの低下を抑制する作用に注目すると、第一工程処理液の茶ポリフェノール量が0.5%以下の場合には一定の効果は得られるものの、この領域では長期の鮮度保持としてはやや弱いものであったが、茶ポリフェノール量を0.7%以上含む条件では、pHの低下を著しく抑制されていた。また官能評価の結果では、第一工程処理液で使用した茶ポリフェノールの由来によって若干の差が認められ、緑茶ポリフェノールの場合では茶ポリフェノール量が1.0%以上、また紅茶ポリフェノールの場合では茶ポリフェノール量が0.25%以上となる条件において、保存時に発生する強い異臭を抑えることが確認されたことから、茶ポリフェノールの由来が紅茶である場合に、生ウニの鮮度保持に特に高い効果を示すことが分かった。
【0038】
また、保存開始直後と保存開始から4日後の試食において、茶ポリフェノールを含まない塩水で処理したコントロールでは海産物特有の「磯臭さ」や「生臭さ」が増していたのに対し、茶ポリフェノールで処理した実施品では処理濃度に応じて異臭が軽減されており、特に紅茶ポリフェノールで処理した実施品においては保存開始直後の食感や風味を保っていた。また、茶ポリフェノールに由来する渋みや苦味も特に感じられず、色調についても違和感を感じない程度のものであった。