IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 凸版印刷株式会社の特許一覧

特開2022-50116電極触媒層、膜電極接合体および固体高分子形燃料電池
<>
  • 特開-電極触媒層、膜電極接合体および固体高分子形燃料電池 図1
  • 特開-電極触媒層、膜電極接合体および固体高分子形燃料電池 図2
  • 特開-電極触媒層、膜電極接合体および固体高分子形燃料電池 図3
  • 特開-電極触媒層、膜電極接合体および固体高分子形燃料電池 図4
  • 特開-電極触媒層、膜電極接合体および固体高分子形燃料電池 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022050116
(43)【公開日】2022-03-30
(54)【発明の名称】電極触媒層、膜電極接合体および固体高分子形燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20220323BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20220323BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20220323BHJP
【FI】
H01M4/86 B
H01M4/92
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020156525
(22)【出願日】2020-09-17
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】茅根 博之
(72)【発明者】
【氏名】小澤 まどか
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018AS02
5H018AS03
5H018BB06
5H018DD05
5H018EE03
5H018EE05
5H018EE17
5H018EE18
5H018HH01
5H018HH05
5H126BB06
5H126EE03
(57)【要約】
【課題】電極触媒層におけるクラックの発生を抑制することで、膜電極接合体の耐久性の低下を抑制し、かつ、固体高分子形燃料電池の発電性能の低下を抑制することができる電極触媒層、膜電極接合体、および、固体高分子形燃料電池を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の一態様に係る電極触媒層1、2は、触媒物質6と、触媒物質6を担持した炭素粒子5と、高分子電解質の凝集体7と、高分子電解質繊維8と、を少なくとも含む電極触媒層であって、電極触媒層1、2における、エネルギー分散型X線分析(EDX)による元素分析で得られるリン(P)量と白金(Pt)量とは、以下の式(1)を満たす。
0<P/Pt≦3.0 ・・・式(1)
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒と、前記触媒を担持した炭素粒子と、高分子電解質と、繊維状物質と、を少なくとも含む電極触媒層であって、
前記電極触媒層における、エネルギー分散型X線分析(EDX)による元素分析で得られるリン(P)量と白金(Pt)量とは、以下の式(1)を満たすことを特徴とする電極触媒層。
0<P/Pt≦3.0 ・・・式(1)
【請求項2】
前記繊維状物質の平均繊維径は、100nm以上500nm以下の範囲内である請求項1に記載の電極触媒層。
【請求項3】
前記繊維状物質の平均繊維長は、1μm以上150μm以下の範囲内である請求項1または請求項2に記載の電極触媒層。
【請求項4】
炭素繊維をさらに含む請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電極触媒層。
【請求項5】
前記繊維状物質は、高分子電解質から構成されている請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電極触媒層。
【請求項6】
高分子電解質膜と、
前記高分子電解質膜を挟む一対の電極触媒層と、を備え、
前記一対の電極触媒層の少なくとも一方は、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の電極触媒層である膜電極接合体。
【請求項7】
請求項6に記載の膜電極接合体と、前記膜電極接合体を挟む一対のセパレータと、を備える固体高分子形燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に備えられる電極触媒層、電極触媒層を備えた膜電極接合体、および、固体高分子形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題やエネルギー問題の有効な解決策として、燃料電池が注目を浴びている。燃料電池は、水素などの燃料を酸素などの酸化剤を用いて酸化し、これに伴う化学エネルギーを電気エネルギーに変換する。
燃料電池は、電解質の種類によって、アルカリ形、リン酸形、高分子形、溶融炭酸塩形、固体酸化物形などに分類される。高分子形燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)は、低温作動、高出力密度であり、小型化・軽量化が可能であることから、携帯用電源、家庭用電源、車載用動力源としての応用が期待されている。
【0003】
高分子形燃料電池(PEFC)は、電解質膜である高分子電解質膜を燃料極(アノード)と空気極(カソード)とで挟んだ構造となっており、燃料極側に水素を含む燃料ガス、空気極側に酸素を含む酸化剤ガスをそれぞれ供給することで、下記の電気化学反応により発電する。
アノード:H → 2H+ 2e ・・・(反応1)
カソード:1/2O + 2H + 2e → HO ・・・(反応2)
【0004】
アノードおよびカソードは、それぞれ電極触媒層とガス拡散層とを備えた積層構造体である。アノード側電極触媒層に供給された燃料ガスは、電極触媒によりプロトンと電子とを生成する(反応1)。
プロトンは、アノード側電極触媒層内の高分子電解質、高分子電解質膜を通り、カソードに移動する。電子は、外部回路を通り、カソードに移動する。カソード側電極触媒層では、プロトンと電子と外部から供給された酸化剤ガスとが反応して水を生成する(反応2)。
このように、電子が外部回路を通ることにより発電する(特許文献1)。
【0005】
電極触媒層は一般的に、白金担持カーボンと高分子電解質とを含んで構成される。カーボンは発電時における電子伝導に寄与し、高分子電解質はプロトン伝導に寄与する。これらの種類や含有量のバランスは、発電性能に大きく寄与する。
一方で発電時においては、燃料電池への水素と酸素の拡散性(ガス拡散性)や、発電時に生成した水分の排水性能も重要である。これらガス拡散性と排水性の両方が高い燃料電池は、高い発電性能を導出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003-115299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、電極触媒層の形成の際の乾燥による収縮等に起因して、電極触媒層にクラックが生じることがある。
本願発明者らは、電極触媒層にクラックが存在すると、膜電極接合体において、クラックの部分から高分子電解質膜が露出し、こうした高分子電解質膜の露出は、膜電極接合体の耐久性の低下や、固体高分子形燃料電池の発電性能の低下の要因となることを見出した。
本発明は、電極触媒層におけるクラックの発生を抑制することで、膜電極接合体の耐久性の低下を抑制し、かつ、固体高分子形燃料電池の発電性能の低下を抑制することができる電極触媒層、膜電極接合体、および、固体高分子形燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る電極触媒層は、触媒と、前記触媒を担持した炭素粒子と、高分子電解質と、繊維状物質と、を少なくとも含む電極触媒層であって、前記電極触媒層における、エネルギー分散型X線分析(EDX)による元素分析で得られるリン(P)量と白金(Pt)量とは、以下の式(1)を満たすことを特徴とする。
0<P/Pt≦3.0 ・・・式(1)
【0009】
また、本発明の一態様に係る電極触媒層は、繊維状物質の平均繊維径が100nm以上500nm以下の範囲内であってもよい。
また、本発明の一態様に係る電極触媒層は、繊維状物質の平均繊維長が1μm以上150μm以下の範囲内であってもよい。
また、本発明の一態様に係る電極触媒層は、炭素繊維をさらに含んでもよい。
また、本発明の一態様に係る電極触媒層は、繊維状物質が高分子電解質から構成されていてもよい。
【0010】
また、本発明の一態様に係る膜電極接合体は、高分子電解質膜と、前記高分子電解質膜を挟む一対の電極触媒層と、を備え、前記一対の電極触媒層の少なくとも一方は、上述の電極触媒層である。
また、本発明の一態様に係る固体高分子形燃料電池は、上述の膜電極接合体と、前記膜電極接合体を挟む一対のセパレータと、を備えている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、電極触媒層におけるクラックの発生を抑制できる。クラックが少ないことで発電時の湿度変化による電解質膜の変形を抑制できるため、破膜しにくくなる。そのため、膜電極接合体の耐久性低下や固体高分子形燃料電池の発電性能低下を防ぐことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る膜電極接合体の構成例を示す断面図である。
図2】本発明の実施形態に係る電極触媒層の第1の構成例を示す断面図である。
図3】本発明の実施形態に係る電極触媒層の第2の構成例を示す断面図である。
図4】本発明の実施形態に係る膜電極接合体を装着した固体高分子形燃料電池の構成例を示す分解斜視図である。
図5】本発明の実施例および比較例におけるエネルギー分散型X線分析(EDX)による元素分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明は、以下に記載する各実施形態に限定されうるものではなく、当業者の知識に基づいて設計の変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施形態も本発明の範囲に含まれるものである。
【0014】
(全体構成)
図1は、本発明の実施形態に係る膜電極接合体の構成例を模式的に示す断面図である。図1が示すように、膜電極接合体10は、高分子電解質膜3、および、空気極側電極触媒層1と燃料極側電極触媒層2の2つの電極触媒層を備えている。燃料極側電極触媒層2は固体高分子形燃料電池のアノードである燃料極に用いられる電極触媒層であり、空気極側電極触媒層1は固体高分子形燃料電池のカソードである空気極に用いられる電極触媒層である。
【0015】
高分子電解質膜3は、空気極側電極触媒層1と燃料極側電極触媒層2との間に位置している。つまり、高分子電解質膜3は、一対の電極触媒層(空気極側電極触媒層1と燃料極側電極触媒層2)で挟まれている。空気極側電極触媒層1は高分子電解質膜3の有する2つの面の一方(表面)に接触し、燃料極側電極触媒層2は高分子電解質膜3の有する2つの面の他方(裏面)に接触している。
【0016】
高分子電解質膜3の有する一方の面と対向する方向から見たとき、空気極側電極触媒層1の外形と燃料極側電極触媒層2の外形とはほぼ同形であり、高分子電解質膜3の外形はこれらの電極触媒層1、2の外形以上の大きさを有する。つまり、膜電極接合体10をその厚さ方向から見たときに、高分子電解質膜3を介して空気極側電極触媒層1と燃料極側電極触媒層2とは互いに重なり合っており、かつ高分子電解質膜3の外縁部は空気極側電極触媒層1又は燃料極側電極触媒層2と重なり合っておらず露出している。なお、高分子電解質膜3の外形や電極触媒層1、2の外形の形状は特に限定されず、例えば、矩形であればよい。
【0017】
(高分子電解質膜)
高分子電解質膜3は高分子電解質を含んだ膜である。高分子電解質膜3に用いられる高分子電解質は、プロトン伝導性を有する高分子電解質であればよく、例えば、フッ素系高分子電解質や炭化水素系高分子電解質が用いられる。フッ素系高分子電解質としては、例えば、Nafion(登録商標:デュポン社製)が挙げられる。炭化水素系高分子電解質としては、例えば、エンジニアリングプラスチックや、エンジニアリングプラスチックの共重合体にスルホン酸基を導入した化合物等が挙げられる。
【0018】
(電極触媒層)
図2は、本実施形態の電極触媒層の第1の構成を模式的に示す断面図である。図2が示すように、空気極側電極触媒層1と燃料極側電極触媒層2との各々は、触媒物質(以下、単に「触媒」あるいは「触媒粒子」ともいう)6を担持した炭素粒子5である触媒物質担持炭素体11と、高分子電解質の凝集体7と、繊維状の高分子電解質である高分子電解質繊維(繊維状物質)8とを含む。
【0019】
高分子電解質繊維8は、例えば、電解質で構成された繊維状物質等の有機電解質繊維である。電極触媒層1、2においては、分散した触媒物質担持炭素体11の周囲に高分子電解質の凝集体7や高分子電解質繊維8が位置することで、これらの構成物の間に空孔9が形成されている。なお、高分子電解質繊維8が有機電解質繊維であれば、電極触媒層1、2に優れた柔軟性を付与することが可能となる。また、高分子電解質繊維8が電解質で構成された有機電解質繊維であれば、電極触媒層1、2に優れた柔軟性を付与しつつ、電極触媒層1、2に優れたプロトン伝導性を付与することが可能となる。
【0020】
高分子電解質繊維8の含有量は、高分子電解質の凝集体7の含有量に対して、2質量%以上50質量%以下の範囲内であれば好ましく、10質量%以上30質量%以下の範囲内であればより好ましく、10質量%以上20質量%以下の範囲内であればより好ましい。高分子電解質繊維8の含有量が上記数値範囲内であれば、好適な大きさの空孔9を好適な量で形成することができる。
【0021】
触媒物質6としては、白金やパラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、オスミウムの白金族元素の他、鉄、鉛、銅、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウムなどの金属又はこれらの合金、または酸化物、複酸化物等が使用できる。その中でも、白金や白金合金が好ましい。また、これらの触媒物質6の粒径(平均粒径D50)は、大きすぎると触媒の活性が低下し、小さすぎると触媒の安定性が低下するため、0.5nm以上20nm以下の範囲内が好ましく、1nm以上5nm以下の範囲内が更に好ましい。
【0022】
炭素粒子5としては、微粒子状で導電性を有し、触媒物質6に侵されないものであればどのようなものでも構わない。炭素粒子5の粒径(平均粒径D50)は、小さすぎると電子伝導パスが形成されにくくなり、また大きすぎると電極触媒層1、2が厚くなり抵抗が増加することで、出力特性が低下するので、10nm以上1000nm以下の範囲内が好ましく、10nm以上100nm以下の範囲内が更に好ましい。
粒子状の炭素材料である炭素粒子5に触媒物質6を担持させることで、炭素材料における触媒物質6を担持可能な面積の増大が可能であり、高密度に触媒物質6を担持させることができる。このことによって、触媒活性の向上が可能である。
【0023】
高分子電解質の凝集体7は、例えば、アイオノマーである高分子電解質が凝集力によって凝集した塊である。ここで、「凝集力」とは、アイオノマー間に働くクーロン力やファンデルワールス力を意味する。高分子電解質の凝集体7の粒径(平均粒径D50)は、小さすぎると電子伝導パスが形成されにくくなり、また大きすぎると電極触媒層1、2が厚くなり抵抗が増加することで、出力特性が低下するので、10nm以上1000nm以下の範囲内が好ましく、10nm以上100nm以下の範囲内が更に好ましい。なお、本実施形態において、高分子電解質の凝集体7は、凝集体の形態に限定されるものではなく、例えば、高分子電解質の非凝集体であってもよい。また、高分子電解質の凝集体7の粒径(平均粒径D50)は、炭素粒子5の粒径(平均粒径D50)よりも大きい方が好ましい。高分子電解質の凝集体7の粒径(平均粒径D50)は、炭素粒子5の粒径(平均粒径D50)の1.05倍以上3倍以下の範囲内であれば好ましく、1.5倍以上2倍以下の範囲内であればより好ましい。高分子電解質の凝集体7の粒径(平均粒径D50)が上記数値範囲内であれば、好適な大きさの空孔9を好適な量で形成することができる。
高分子電解質繊維8は、例えば、高分子電解質同士の架橋等によって細長く延びる形状をした高分子電解質である。
【0024】
凝集体7を構成する高分子電解質と、高分子電解質繊維8を構成する高分子電解質とは、それぞれプロトン伝導性を有する高分子電解質であればよく、例えば、フッ素系高分子電解質や炭化水素系高分子電解質が用いられる。フッ素系高分子電解質としては、例えば、Nafion(登録商標:デュポン社製)、旭硝子(株)製のFlemion(登録商標)、旭化成(株)製のAciplex(登録商標)、あるいは、ソルベイ社製のAquivion(登録商標)などを用いることができる。炭化水素系高分子電解質としては、例えば、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン、スルホン化ポリイミド、あるいは、酸ドープ型ポリベンゾアゾール類などの電解質を用いることができる。
【0025】
凝集体7を構成する高分子電解質と、高分子電解質繊維8を構成する高分子電解質とは、互いに同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。また、凝集体7を構成する高分子電解質と、高分子電解質繊維8の構成する高分子電解質と、高分子電解質膜3を構成する高分子電解質とは、互いに同一であってもよいし、互いに異なっていてもよい。電極触媒層1、2と、高分子電解質膜3との密着性を高めるためには、電極触媒層1、2に含まれる高分子電解質と、高分子電解質膜3に含まれる高分子電解質とは、同一の材料であることが好ましい。
【0026】
電極触媒層1、2に高分子電解質繊維8を含めることにより、高分子電解質繊維8同士が絡み合って電極触媒層1、2中で支持体として機能するため、膜電極接合体10の耐久性低下の原因の1要素である、電極触媒層1、2の割れ(クラック)等が抑えられる。それゆえ、従来のように、電極触媒層1、2が触媒物質担持炭素体11と高分子電解質の凝集体7のみから構成される場合と比較して、電極触媒層1、2にクラックが生じることを抑制できる。
【0027】
本願発明者らは、電極触媒層1、2に含まれるP(リン)量とPt(白金)量とに着目し、その量比を調整することで、電極触媒層1、2中における高分子電解質繊維8の適切な添加量を決定することができることを見出した。
以下、この点について説明する。
【0028】
電極触媒層1、2中における高分子電解質繊維8は、電極触媒層1、2の厚さ方向における電極触媒層1、2の断面でのエネルギー分散型X線分析(EDX)による元素分析で得られるP(リン)量とPt(白金)量とが、下記式(1)を満たすように添加することが好ましい。ここで、測定対象であるP(リン)は、プロトン伝導性に寄与すると考えられる元素であって、高分子電解質繊維8に含まれるP(リン)である。つまり、高分子電解質繊維8は、リン(P)含有有機電解質繊維状物質であってもよい。
なお、P(リン)量とPt(白金)量との比(P/Pt)は、上述のエネルギー分散型X線分析(EDX)の分析結果であるEDXスペクトルの各ピーク強度比から決定することができる。
【0029】
0.1≦P/Pt≦3.0 ・・・式(1)
電極触媒層1、2中における高分子電解質繊維8の添加量が上記式(1)を満たす範囲内であれば、電極触媒層1、2におけるプロトン伝導が促進されるため、燃料電池の出力向上が可能である。
なお、本実施形態において、エネルギー分散型X線分析(EDX)による元素分析の測定位置は、電極触媒層1、2の断面に限定されるものではなく、電極触媒層1、2の表面であってもよい。エネルギー分散型X線分析(EDX)による元素分析の測定位置が電極触媒層1、2の断面であれば、元素分析の直前に電極触媒層1、2をその厚さ方向に破断して測定面である断面を露出させる(形成する)ため、電極触媒層1、2の断面に不純物が混入する可能性(測定箇所の汚染)が低減されて測定精度が向上する。また、エネルギー分散型X線分析(EDX)による元素分析の測定位置が電極触媒層1、2の表面であれば、元素分析測定が極めて容易になる。そのため、仮に電極触媒層1、2の表面が不純物等で汚染されていた場合であっても、元素分析の測定回数を容易に増やすことができるため、S/N比(シグナル強度/ノイズ強度の比率)を容易に高めることができる。
【0030】
高分子電解質繊維8の平均繊維径は、2μm以下であれば電極触媒層1、2に含有させる繊維材料として適当な細さが確保される。
固体高分子形燃料電池の出力の向上のためには、電極触媒層1、2に供給されるガスが、電極触媒層1、2の形成された空孔9を通じて電極触媒層1、2中に適切に拡散されること、および、特に空気極では電極反応により生成される水が空孔9を通じて適切に排出されることが望ましい。また、空孔9の存在により、ガスと触媒物質担持炭素体11と高分子電解質とが接する界面が形成されやすくなり、電極反応が促進されるため、これによっても固体高分子形燃料電池の出力の向上が可能である。
【0031】
以上の観点から、電極触媒層1、2は、適切な大きさおよび適切な量の空孔9を有していることが好ましい。高分子電解質繊維8の平均繊維径が1μm以下であれば、電極触媒層1、2において高分子電解質繊維22が絡まり合う構造のなかに十分な間隙が形成されて十分に空孔9が確保されるため、燃料電池の出力の向上が可能である。さらに、高分子電解質繊維8の平均繊維径が100nm以上500nm以下の範囲内であると、固体高分子形燃料電池の出力が特に高められる。
【0032】
高分子電解質繊維8の平均繊維長は、平均繊維径よりも大きく、1μm以上150μm以下の範囲内であることが好ましく、80μm以上100μm以下の範囲内であることがより好ましい。高分子電解質繊維8の平均繊維長が上記範囲内であれば、電極触媒層1、2中において高分子電解質繊維8の凝集が抑制され、空孔9が形成されやすい。また、高分子電解質繊維8の平均繊維長が上記範囲内であれば、電極触媒層1、2中において高分子電解質繊維8の絡み合う構造が好適に形成されるため、電極触媒層1、2の強度が高められ、クラックの発生を抑える効果が高められる。
【0033】
図3は、本実施形態の電極触媒層の第2の構成を模式的に示す断面図である。図3が示すように、空気極側電極触媒層1と燃料極側電極触媒層2との各々は、触媒物質担持炭素体11、高分子電解質の凝集体7、および、高分子電解質繊維8に加えて、炭素繊維12を含んでいてもよい。
炭素繊維12は、炭素を構成元素とする繊維状の構造体である。炭素繊維12として用いられる炭素材料としては、例えば、カーボンファイバー、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ等からなる繊維状の炭素材料が挙げられる。上述した材料の中でも特に、カーボンナノファイバーもしくはカーボンナノチューブが用いられることが好ましい。
【0034】
炭素繊維12の平均繊維径は、200nm以下であることが好ましく、150nm以下であることがより好ましい。炭素繊維12の平均繊維径が200nm以下であれば、電極触媒層1、2に含有させる繊維材料として適当な細さが確保される。また、炭素繊維12の平均繊維径が10nm以上であれば、適当な太さが確保されて電極触媒層1、2の強度が高められ、クラックの発生を抑える効果が高められる。
炭素繊維12の平均繊維長は1μm以上200μm以下の範囲内であることが好ましく、5μm以上100μm以下の範囲内であることがより好ましい。炭素繊維12の平均繊維長が上記範囲内であれば、電極触媒層1、2中において高分子電解質繊維8および炭素繊維12の絡み合う構造が好適に形成されるため、電極触媒層1、2の強度が高められ、クラックの発生を抑える効果が高められる。
【0035】
第2の構成においては、高分子電解質繊維8および炭素繊維12である繊維材料が絡み合って電極触媒層1、2中で支持体として機能するため、第1の構成と同様に電極触媒層1、2にクラックが生じることが抑えられる。
炭素繊維12の含有量は、高分子電解質の凝集体7の含有量に対して、2質量%以上50質量%以下の範囲内であれば好ましく、10質量%以上40質量%以下の範囲内であればより好ましく、20質量%以上40質量%以下の範囲内であればより好ましい。高分子電解質繊維8の含有量が上記数値範囲内であれば、電極触媒層1、2中に好適な大きさの空孔9を好適な量で形成することができる。
【0036】
また、炭素繊維12の平均繊維径は、高分子電解質繊維8の平均繊維径よりも小さければ好ましく、高分子電解質繊維8の平均繊維径の10%以上70%以下の範囲内であればより好ましく、20%以上50%以下の範囲内であればさらに好ましく、30%以上40%以下の範囲内であれば最も好ましい。
また、炭素繊維12の平均繊維長は、高分子電解質繊維8の平均繊維長よりも短ければ好ましく、高分子電解質繊維8の平均繊維長の10%以上70%以下の範囲内であればより好ましく、20%以上50%以下の範囲内であればさらに好ましく、30%以上40%以下の範囲内であれば最も好ましい。
炭素繊維12の平均繊維径及び平均繊維長が上記数値範囲内であれば、電極触媒層1、2中に好適な大きさの空孔9を好適な量で形成することができる。
【0037】
ここで、電極触媒層1、2が、繊維材料として炭素繊維12のみを含み、高分子電解質繊維8を含まない形態であっても、炭素繊維12の絡み合う構造が形成されることにより、クラックの発生を抑えることは可能である。しかしながら、炭素繊維12は電子伝導にのみ寄与し、プロトン伝導に寄与しないため、電極触媒層1、2の含む繊維材料が炭素繊維12のみから構成される形態では、電極触媒層1、2の含む高分子電解質の割合が小さくなり、電極触媒層1、2におけるプロトン伝導性が低下する傾向がある。その場合には、高分子電解質の凝集体7を増量することでプロトン伝導性を補うことが可能だが、空孔9が減少するためガスの拡散性や排水性等が低下する傾向がある。
【0038】
これに対し、本実施形態では、電極触媒層1、2の含む繊維材料に高分子電解質繊維8が含まれるため、繊維材料が炭素繊維12のみである形態と比較して、空孔9を確保しつつ、電極触媒層1、2におけるプロトンの伝導を促進することができる。
電極反応で生じた電子の取り出しのためには、電極触媒層1、2には電子の伝導性も必要である。電極触媒層1、2が繊維材料として高分子電解質繊維8と炭素繊維12とを含む形態であれば、電極触媒層1、2におけるプロトン伝導性、電子伝導性、および空孔9の形成状態がそれぞれ好適となることにより、固体高分子形燃料電池の出力の向上が可能である。
【0039】
なお、高分子電解質繊維8および炭素繊維12の平均繊維径および平均繊維長は、例えば、走査型電子顕微鏡を用いて電極触媒層の断面を観察することによって計測可能である。例えば、平均繊維径は、上記断面における30μm×30μmの大きさの3個以上の測定領域に含まれる各繊維についての繊維ごとの最大径の平均値である。また例えば、平均繊維長は、上記断面における30μm×30μmの大きさの3個以上の測定領域に含まれる各繊維についての繊維ごとの最大長の平均値である。
【0040】
図4は、膜電極接合体10を装着した固体高分子形燃料電池の単セル20の構成例を示す分解斜視図である。膜電極接合体10の空気極側電極触媒層1および燃料極側電極触媒層2と対向して、空気極側ガス拡散層17Cおよび燃料極側ガス拡散層17Aがそれぞれ配置されている。さらに、膜電極接合体10、空気極側ガス拡散層17Cおよび燃料極側ガス拡散層17Aで構成された積層体を、空気極側セパレータ18Cおよび燃料極側セパレータ18Aで挟持することで単セル20が構成される。
一組のセパレータ18A、18Cは、導電性を備えた材料であり、かつガス不透過性を備えた材料で形成され、空気極側ガス拡散層17Cに面して配置された反応ガス流通用の空気極側ガス流路19Cと、燃料極側ガス拡散層17Aに面して配置された反応ガス流通用の燃料極側ガス流路19Aとを備える。
【0041】
この単セル20は、空気極側セパレータ18Cの空気極側ガス流路19Cを通って、空気や酸素などの酸化剤が空気極側ガス拡散層17Cを通って膜電極接合体10に供給され、燃料極側セパレータ18Aの燃料極側ガス流路19Aを通って水素を含む燃料ガスもしくは有機物燃料が燃料極側ガス拡散層17Aを通って膜電極接合体10に供給されることによって、膜電極接合体10において前述の(反応1)および(反応2)の電気化学反応が生じ、発電する。
固体高分子形燃料電池の単セル20は、図4に示した単セルの状態で用いられてもよいし、複数の単セル20が積層されて直列接続されることにより1つの燃料電池として用いられてもよい。
【0042】
なお、高分子電解質膜3および電極触媒層1、2に加え、上述のガス拡散層17A、17Cを含めて、膜電極接合体10が構成されてもよい。また、固体高分子形燃料電池20は、電極触媒層1、2に供給されるガス等が燃料電池から漏れることを抑える機能を有するガスケット4を高分子電解質膜3の少なくとも一方の面上に備えた膜電極接合体10を備えていてもよい(図1参照)。ガスケット4は、高分子電解質膜3および電極触媒層1、2からなる積層体の外周を囲むように配置されていてもよい。
【0043】
(電極触媒層の製造方法)
本実施形態の電極触媒層1、2は、電極触媒層用スラリーを作製し、基材などに塗工・乾燥することによって製造できる。
電極触媒層用スラリーは、粉末状の高分子電解質、もしくは、粉末状の高分子電解質が溶解または分散された高分子電解質液と、触媒物質担持炭素体11と、高分子電解質繊維8とを溶媒に加えて混合することによって生成される。高分子電解質繊維8は、例えば、エレクトロスピニング法等の利用によって形成される。第2の構成の電極触媒層1、2を形成する場合には、電極触媒層用スラリーにさらに炭素繊維12が加えられる。
【0044】
電極触媒層用スラリーの溶媒としては、特に限定しないが、高分子電解質を分散または溶解できるものがよい。一般的に用いられる溶媒としては、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイゾブチルケトン、メチルアミルケトン、ペンタノン、へプタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセトニルアセトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトンなどのケトン類、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アニソール、メトキシトルエン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル類、イソプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、シクロヘキシルアミン、ジエチルアミン、アニリンなどのアミン類、蟻酸プロピル、蟻酸イソブチル、蟻酸アミル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチルなどのエステル類、その他酢酸、プロピオン酸、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等を用いてもよい。また、グリコール、グリコールエーテル系溶媒としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジアセトンアルコール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノールなどが挙げられる。
【0045】
電極触媒層1、2を形成する際に用いる基材としては、例えば、電極触媒層1、2を高分子電解質膜3に転写した後に剥離される転写基材が用いられる。転写基材としては、例えば、樹脂フィルムが用いられる。また、電極触媒層1、2を形成する際に用いる基材として高分子電解質膜3が用いられてもよいし、ガス拡散層17A、17Cが用いられてもよい。
【0046】
基材への電極触媒層用スラリーの塗工方法としては、例えば、ドクターブレード法、ダイコーティング法、ディッピング法、スクリーン印刷法、ラミネータロールコーティング法、スプレー法などが挙げられるが、特に限定しない。
基材に塗布された電極触媒層用スラリーの乾燥方法としては、例えば、温風乾燥やIR乾燥などが挙げられる。電極触媒層用スラリーの乾燥温度は、40℃以上200℃以下の範囲内であればよく、好ましくは40℃以上120℃以下の範囲内である。電極触媒層用スラリーの乾燥時間は、0.5分以上1時間以内であればよく、好ましくは1分以上30分以内である。
【0047】
電極触媒層1、2を形成する際に用いる基材として転写基材やガス拡散層17A、17Cが用いられる場合、熱圧着によって電極触媒層1、2が高分子電解質膜3に接合される。また、基材として転写基材が用いられる場合、電極触媒層1、2の接合後に転写基材は電極触媒層1、2から剥離される。基材としてガス拡散層17A、17Cが用いられる場合は基材の剥離は不要である。
電極触媒層1、2を形成する際に用いる基材として、高分子電解質膜3を用いる製造方法であれば、電極触媒層1、2が高分子電解質膜3の面上に直接に形成される。そのため、高分子電解質膜3と電極触媒層1、2との密着性が高まり、また、電極触媒層1、2の接合のための加圧が不要であるため、電極触媒層1、2が潰れる(空孔9が潰れる)ことも抑えられる。したがって、電極触媒層1、2を形成するための基材としては、高分子電解質膜3が用いられることが好ましい。
【0048】
ここで、高分子電解質膜3は、一般に膨潤および収縮の各度合が大きいという特性を有するため、高分子電解質膜3を基材として用いると、転写基材やガス拡散層17A、17Cを基材として用いた場合と比較して、電極触媒層1、2となる塗膜の乾燥工程における基材の体積変化が大きい。それゆえ、従来のように電極触媒層が繊維材料を含まない構成であると、電極触媒層にクラックが生じやすい。これに対し、本実施形態の電極触媒層1、2であれば、仮に基材である高分子電解質膜3の体積が電極触媒層1、2の作成工程において大きく変化した場合であっても繊維材料の含有によりクラックの発生が抑えられるため、電極触媒層1、2を形成するための基材として高分子電解質膜3を用いる製造方法を利用することができる。
なお、固体高分子形燃料電池20は、膜電極接合体10に、ガス拡散層17A、17Cおよびセパレータ18A、18Cが組み付けられ、さらに、ガスの供給機構等が設けられることにより製造される。
【0049】
[実施例]
次に、本発明に基づく実施例について説明する。
[実施例1]
白金担持カーボン(TEC10E50E、田中貴金属社製)20gを容器にとり、水を加えて混合後、高分子電解質繊維(酸ドープ型ポリベンゾアゾール類)、1-プロパノール、高分子電解質(Nafion(登録商標)分散液、和光純薬工業)を加えて撹拌して、電極触媒層用スラリーを得た。高分子電解質繊維の平均繊維径は400nmであり、平均繊維長は30μmであった。本実施例において、平均繊維径は一の位を四捨五入した値、平均繊維長は小数第一位を四捨五入した値で示している。なお、高分子電解質の質量は炭素粒子の質量に対して100質量%、高分子電解質繊維の質量は炭素粒子の質量に対して10質量%、分散媒中の水の割合は50質量%、固形分濃度は10質量%となるように調整して、電極触媒層用スラリーを作製した。
【0050】
得られた電極触媒層用スラリーを高分子電解質膜(デュポン社製、Nafion212)にダイコーティング法で塗工し、80℃の炉内で乾燥することによって、一対の電極触媒層と高分子電解質膜とを備える実施例1の膜電極接合体を得た。さらに、この膜電極接合体を2つのガス拡散層(SIGRACET 29BC:SGL社製)で挟み、JARI標準セルを利用して、実施例1の固体高分子形燃料電池を構成した。
【0051】
[実施例2]
高分子電解質繊維の質量は炭素粒子の質量に対して30質量%とした以外は実施例1と同様の手順で、実施例2の固体高分子形燃料電池用の電極触媒層および膜電極接合体を得た。
【0052】
[実施例3]
実施例1で作製した電極触媒層用スラリーに、炭素繊維(繊維径約150nm、繊維長約10μm)を、炭素繊維の質量が炭素粒子の質量に対して10質量%となるように、更に加えて撹拌することによって実施例3で用いる電極触媒層用スラリーを得た以外は、実施例1と同様の手順で、実施例3の固体高分子形燃料電池用の電極触媒層および膜電極接合体を得た。
【0053】
[比較例1]
高分子電解質繊維の質量を炭素粒子の質量に対して50質量%にしたこと以外は実施例1と同様の手順で、比較例1の固体高分子形燃料電池用の電極触媒層および膜電極接合体を得た。
【0054】
[比較例2]
高分子電解質繊維を添加しないこと以外は実施例1と同様の手順で、比較例2の固体高分子形燃料電池用の電極触媒層および膜電極接合体を得た。
【0055】
[比較例3]
高分子電解質繊維を添加しないこと以外は実施例3と同様の手順で、比較例3の固体高分子形燃料電池用の電極触媒層および膜電極接合体を得た。
【0056】
[発電性能評価]
発電性能の測定には、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の刊行物である「セル評価解析プロトコル」に準拠し、膜電極接合体の両面にガス拡散層およびガスケット、セパレータを配置し、所定の面圧となるように締め付けたJARI標準セルを評価用単セルとして用いた。そして、「セル評価解析プロトコル」に記載のIV測定(「標準」条件とする)を実施した。
実施例1~3および比較例1~3の各電極触媒層を用いた評価用単セルの発電性能の測定結果を表1に示す。発電性能については、電圧が0.6Vのときの電流が30A以上である場合を「○」、30A未満である場合を「×」とした。評価結果が「○」であれば、発電性能に関しては使用する上で何ら問題はない。
【0057】
[電極触媒層の元素分析評価]
また、上述した発電性能評価を実施した後、実施例1~3および比較例1~3の各電極触媒層について、エネルギー分散型X線分析(EDX)による元素分析を実施した。評価結果を図5に示す。図5は、実施例1~3および比較例1~3の各電極触媒層について、その断面におけるエネルギー分散型X線分析(EDX)による元素分析で得られるP(リン)量とPt(白金)量との比率(P/Pt)を縦軸に記載したグラフである。
【0058】
[クラック発生評価]
各実施例および各比較例の膜電極接合体について、電極触媒層の表面を顕微鏡(倍率:200倍)で観察して、膜電極接合体の耐久性低下の1要素であるクラックの発生状態を確認した。本評価では、10μm以上の長さのクラックが生じていた場合を「×」とし、10μm以上の長さのクラックが生じていない場合を「○」とした。評価結果を表1に示す。
【0059】
[耐久性評価]
耐久性の測定には、発電性能の測定に用いた評価用単セルと同一の単セルを評価用単セルとして用いた。そして、上述した「セル評価解析プロトコル」に記載の湿度サイクル試験によって耐久性を測定した。
耐久性においては、10000サイクル試験後の発電性能が前記サイクル試験前の発電性能の70%以上の性能を示す場合を「○」、70%よりも低下した場合を「×」とした。
評価結果を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
表1に示すように、発電性能については実施例1~3で「○」となった。すなわち、実施例1~3においては、発電性能に優れた燃料電池が構成可能な膜電極接合体が得られた。
【0062】
比較例1においては、高分子電解質繊維を添加することでクラックの発生を抑えられている。一方で発電性能は「×」となった。これは、高分子電解質繊維の添加量が多いことによって電極触媒層に空孔が好適に形成されていないことを示唆する。このときのP/Pt量は3.5であり、P/Pt量が2.8である実施例2の発電性能と比較すると、P/Pt量はおよそ3.0以下のときに高い発電性能が得られることが示唆される。
比較例2においては、電極触媒層中に高分子電解質繊維(繊維状物質)が含まれていないことでクラックが発生した。
比較例3においては、電極触媒層中に炭素繊維が含まれているためクラックの発生は抑えられている。一方で、発電性能は「×」となった。これは、電極触媒層中に高分子電解質繊維が含まれないため、実施例1、2と比較して十分なプロトン伝導性が得られなかったことを示唆する。
【0063】
以上説明したように、本実施形態によれば、触媒を担持した炭素粒子と、高分子電解質と、高分子電解質繊維とを少なくとも含み、好ましくは炭素繊維を含む高分子形燃料電池用の電極触媒層において、電極触媒層の断面におけるエネルギー分散型X線分析(EDX)による元素分析で得られるP量とPt量が下記式(1)を満たす場合に、電極触媒層内でプロトン伝導性が向上すること、および、空孔が好適に形成されること、の両方を満たすため、膜電極接合体の耐久性低下の原因の1要素であるクラックの発生がなく(極めて少なく)、且つ高い発電性能を示す。
0<P/Pt≦3.0 ・・・式(1)
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、燃料電池の発電時における出力向上に顕著な効果を奏するものであるため、産業上の利用価値が高い。例えば、固体高分子形燃料電池への適用に極めて好適である。
【符号の説明】
【0065】
1 空気極側電極触媒層
2 燃料極側電極触媒層
3 高分子電解質膜
4 ガスケット
5 炭素粒子
6 触媒物質(触媒粒子、触媒)
7 凝集体
8 高分子電解質繊維
9 空孔
10 膜電極接合体
11 触媒物質担持炭素体
12 炭素繊維
20 単セル(固体高分子形燃料電池)
17A 燃料極側ガス拡散層
17C 空気極側ガス拡散層
18A 燃料極側セパレータ
18C 空気極側セパレータ
19A 燃料極側ガス流路
19C 空気極側ガス流路
図1
図2
図3
図4
図5