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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022050147
(43)【公開日】2022-03-30
(54)【発明の名称】ロボット
(51)【国際特許分類】
   B25J 13/08 20060101AFI20220323BHJP
【FI】
B25J13/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020156579
(22)【出願日】2020-09-17
(71)【出願人】
【識別番号】515130201
【氏名又は名称】株式会社Preferred Networks
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】鍋嶌 厚太
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707AS15
3C707BS10
3C707KS03
3C707KS10
3C707KS36
3C707KT01
3C707KT05
3C707LS15
(57)【要約】
【課題】環境中の作業対象の面を特定でき、特定した面に則した適切なエンドエフェクタの軌道生成が可能なロボットを提供する。
【解決手段】ロボット100は、撮像装置110dと、マニピュレータ110と、マニピュレータ110を制御するコントローラ153と、を備える。コントローラ153は、撮像装置110dから取得されたセンサデータの少なくとも一部に基づいて、マニピュレータ110に設置されるエンドエフェクタ110bを沿わせる箇所を特定し、センサデータの少なくとも一部に基づいて特定された箇所の表面に沿ってエンドエフェクタ110bを動かすようマニピュレータ110を制御する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1以上のセンサと、
多関節アームと、
前記多関節アームを制御するコントローラと、
を備え、
前記コントローラは、
前記1以上のセンサから取得されたセンサデータの少なくとも一部に基づいて、前記多関節アームに設置されるエンドエフェクタを沿わせる箇所を特定し、
前記センサデータの少なくとも一部に基づいて特定された前記箇所の表面に沿って前記エンドエフェクタを動かすよう前記多関節アームを制御する、
ロボット。
【請求項2】
前記コントローラは、
前記1以上のセンサから取得された前記センサデータに含まれる第1情報に基づいて、前記多関節アームに設置される前記エンドエフェクタを沿わせる箇所を特定し、
前記センサデータに含まれる前記第1情報に基づいて特定された前記箇所の前記表面に沿って前記エンドエフェクタを動かすよう、前記センサデータに含まれる第2情報に基づいて前記多関節アームを制御する、
請求項1に記載のロボット。
【請求項3】
前記コントローラは、
前記第1情報に基づいて特定された前記箇所の前記表面を、前記第2情報に基づいて特定し、前記特定された前記表面に沿って前記エンドエフェクタを動かすよう前記多関節アームを制御する、
請求項2に記載のロボット。
【請求項4】
前記第1情報は、前記センサデータに含まれるRGB画像であり、
前記第2情報は、前記センサデータに含まれるデプス画像である、
請求項2または3に記載のロボット。
【請求項5】
前記コントローラは、
前記センサデータの少なくとも一部の情報に基づいて特定された前記箇所の形状を、前記情報に基づいて推定し、前記特定された前記箇所の前記推定された前記形状に基づいて、前記特定された前記箇所の表面に沿って前記エンドエフェクタを動かすよう前記多関節アームを制御する、
請求項1~4のいずれか1項に記載のロボット。
【請求項6】
移動機構を備え、
前記コントローラは、
前記移動機構によって当該ロボットを空間内で移動させながら、前記1以上のセンサから取得された前記センサデータの少なくとも一部に基づいて、前記多関節アームの前記エンドエフェクタを沿わせる前記箇所を探す、
請求項1~5のいずれか1項に記載のロボット。
【請求項7】
移動機構を備え、
前記コントローラは、
前記センサデータに基づいて特定された前記箇所の前記表面に沿って前記エンドエフェクタを動かすよう前記多関節アーム及び前記移動機構を制御する、
請求項1~6のいずれか1項に記載のロボット。
【請求項8】
前記コントローラは、
前記エンドエフェクタを前記箇所の前記表面に接触させた状態を維持しながら、前記表面に沿って前記エンドエフェクタを動かすよう前記多関節アームを制御し、前記エンドエフェクタによって前記表面を清拭させる、
請求項1~7のいずれか1項に記載のロボット。
【請求項9】
前記コントローラは、
前記エンドエフェクタを前記箇所の前記表面と所定距離を取った状態を維持しながら、前記表面に沿って前記エンドエフェクタを動かすよう前記多関節アームを制御し、前記エンドエフェクタによって前記表面を処理させる、
請求項1~8のいずれか1項に記載のロボット。
【請求項10】
前記箇所にはマーカが付されており、
前記コントローラは、前記センサデータから前記マーカを抽出し、前記マーカが含まれる領域を前記箇所と特定する、
請求項1~9のいずれか1項に記載のロボット。
【請求項11】
前記コントローラは、前記センサデータから面の領域を抽出し、前記面の領域を前記箇所の前記表面と特定する、
請求項1~9のいずれか1項に記載のロボット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
人手で行っていた作業をロボットに行わせることが試みられている。特許文献1は、所定位置に配置される既知形状のワーク表面を塗装する塗装ロボットを開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-315157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、タスクの作業対象の位置あるいは表面の立体形状が未知の環境下において、従来の工業用ロボットの制御手法ではタスク遂行が難しい。
【0005】
本開示は、環境中の作業対象の面を特定でき、特定した面に則した適切なエンドエフェクタの軌道生成が可能なロボットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態の一観点に係るロボットは、1以上のセンサと、多関節アームと、前記多関節アームを制御するコントローラと、を備え、前記コントローラは、前記1以上のセンサから取得されたセンサデータの少なくとも一部に基づいて、前記多関節アームに設置されるエンドエフェクタを沿わせる箇所を特定し、前記センサデータの少なくとも一部に基づいて特定された前記箇所の表面に沿って前記エンドエフェクタを動かすよう前記多関節アームを制御する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、環境中の作業対象の面を特定でき、特定した面に則した適切なエンドエフェクタの軌道生成が可能なロボットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態に係るロボットの概略構成図
図2】実施形態に係るロボットによる清拭作業の概要を説明する図
図3】実施形態に係るコントローラの機能ブロック図
図4】コントローラのハードウェア構成図
図5】実施形態に係るロボットの清拭作業の動作制御のフローチャート
図6】清拭作業におけるエンドエフェクタの動作を説明する図
図7】薬剤噴霧作業におけるエンドエフェクタの動作を説明する図
図8】作業面の全体を撮像できない事例の模式図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0010】
図1は、実施形態に係るロボット100の概略構成図である。図1に示すロボット100は、カメラ画像に基づいて、多関節アーム110に取り付けられたエンドエフェクタ110bを利用して所定の作業を実行する。このエンドエフェクタ110bは、例えば多関節アーム110の先端に取り付けられてもよいし、多関節アーム110の途中に取り付けられてもよい。本実施形態では、ロボット100は具体的には対象物の消毒作業を実行可能であり、その一例として薬品等を含ませた布などで対象物の表面を拭く清拭消毒を行う。ウイルス等の接触感染症及び飛沫感染症の拡大を防止するためには、感染者が高頻度で接触する環境表面(ドアの取っ手、手すり、照明スイッチ等)や、診察室等の環境表面の消毒が定期的に必要となる。消毒にはウイルスや細菌の物理的除去を兼ねた清拭が標準予防策として推奨されている。このような清拭による消毒作業をロボットに行わせることができると、作業員の安全性向上や負荷軽減が期待できる。この場合、必要なタスクとしては、清拭の対象面に沿ってエンドエフェクタを移動させるように多関節アームの軌道(および、必要に応じてロボット本体の移動経路)を生成することが考えられる。
【0011】
図1に示すように、ロボット100は、垂直多関節型のマニピュレータ110(多関節アーム)と、移動機構150とを有する。
【0012】
このうち、移動機構150は、ロボット100を移動させ、ロボット100全体の位置を制御する。移動機構150は、支持部151と、駆動部152と、コントローラ153とを有する。
【0013】
支持部151は、垂直多関節型のマニピュレータ110を支持する基部である。駆動部152は、ロボット100を任意の位置に移動させる。駆動部152は例えば車輪を有し、車輪により地上を走行する。コントローラ153は、垂直多関節型のマニピュレータ110の動作及び駆動部152の動作を制御する。
【0014】
一方、垂直多関節型のマニピュレータ110は、作業の対象物B(図2参照)に対して所定の操作を行う。このマニピュレータ110は、図1中の点線Lより下側に示したメインアーム部110a及びエンドエフェクタ110bと、点線Lより上側に示したサブアーム部110c(分岐アームの一例)及び撮像装置110dと、に大別することができる。すなわち、コントローラ153は、撮像装置110dで撮影された撮影画像中から撮像対象を特定し、メインアーム部110a及びサブアーム部110cの動作を制御する。メインアーム部110a及びサブアーム部110cの動作の制御に、撮像画像を用いたビジュアルフィードバック制御が適用されてもよい。そしてメインアーム部110aを制御することでエンドエフェクタ110bの位置及び姿勢を適切に制御したり、サブアーム部110cを制御することで撮像装置110dの位置及び姿勢を適切に制御したりする。
【0015】
メインアーム部110aは、複数のリンク部(第1のリンク部111a、第2のリンク部112a、第3のリンク部113a、第4のリンク部114a、第5のリンク部115a)を有する。
【0016】
第1のリンク部111aの一方の端部は、移動機構150に対して、回転部121を介して取り付けられる。また、第1のリンク部111aは昇降する直動機構(直動関節)を有し、他端には、回転部122を介して第2のリンク部112aの一方の端部が取り付けられる。
【0017】
本実施形態において、第2のリンク部112aの他方の端部には、分岐部140が形成されており、分岐部140には、サブアーム部110cが取り付けられる。すなわち、サブアーム部110cは、エンドエフェクタ110bが取り付けられるメインアーム部110aの途中から分岐するよう構成されている。また、分岐部140は、回転部123を有し、回転部123を介して、第3のリンク部113aの一方の端部が取り付けられる。つまり、サブアーム部110cは、第3のリンク部113aの根元から分岐する。
【0018】
第3のリンク部113aの他方の端部には、回転部124を介して第4のリンク部114aの一方の端部が取り付けられる。また、第4のリンク部114aの他方の端部には、回転部125を介して、第5のリンク部115aの一方の端部が取り付けられる。更に、第5のリンク部115aの他方の端部には、回転部126を介して、エンドエフェクタ110bが取り付けられる。
【0019】
このように、メインアーム部110aは、6個の回転関節(基部から順に回転部121~126)及び1個の直動関節(昇降機構)と、5個のリンク(基部から順に第1のリンク部111a~第5のリンク部115a)とを有する。メインアーム部110aは、これら回転関節および直動関節の合計7軸を制御することで、エンドエフェクタ110bが物体表面に沿って動くようにエンドエフェクタ110bの位置及び姿勢を制御する。
【0020】
エンドエフェクタ110bは、ロボット100の作業目的に応じて適切な要素を適用することができる。本実施形態では、ロボット100は作業対象の作業面C(図2参照)をエンドエフェクタ110bで清拭して消毒する作業を行うので、エンドエフェクタ110bは作業面Cを清拭可能なモップ状の要素が適用されている。
【0021】
一方、分岐部140に取り付けられたサブアーム部110cは、第1のリンク部111c、第2のリンク部112cを有する。リンク長は、第1のリンク部111cよりも第2のリンク部112cのほうが長く、回転部133と回転部132との間の距離は、回転部132と回転部131との間の距離よりも遠い。
【0022】
第1のリンク部111cの一方の端部は、分岐部140に対して、回転部131を介して取り付けられる。また、第1のリンク部111cの他方の端部には、回転部132を介して第2のリンク部112cの一方の端部が取り付けられる。更に、第2のリンク部112cの他方の端部には、回転部133を介して、撮像装置110dが取り付けられる。
【0023】
このように、サブアーム部110cは、3個の関節(分岐部140から順に回転部131~133)と、2個のリンク(分岐部140から順に第1のリンク部111c~第2のリンク部112c)とを有する。そして、サブアーム部110cは、先端に取り付けられた撮像装置110dが、撮像対象(作業対象物や周辺環境等)を撮影する。
【0024】
つまり、サブアーム部110cは、例えばビジュアルフィードバック制御により、3軸(3個の関節)を制御することで、撮像装置110dの位置及び姿勢を3自由度で制御する。このとき、サブアーム部110cは、メインアーム部110aとの干渉を回避するように3軸を制御する。また、撮像装置110dは、サブアーム部110cにより制御された位置及び姿勢のもとで、撮像対象(作業対象物や周辺環境等)を撮影し、撮影画像を出力する。この撮像装置110dの撮影方向は、回転部131、132、133の回転角度に依存するが、図1の場合には左方向であるとする。
【0025】
撮像装置110dは、清拭作業の作業面Cを撮像する1以上のセンサの一例である。本実施形態の1以上のセンサはセンサデータを取得し、このセンサデータから、性質が互いに異なる第1情報(第1種データ)および第2情報(第2種データ)が取得可能である。撮像装置110dは、例えばRGB-Dカメラであり、作業面CのRGB画像(第1情報、第1種データ)とデプス画像(第2情報、第2種データ)とを撮像できる。デプス画像は、作業面Cまでの奥行き(深度)情報を含む。本実施形態では、「センサ」とは、作業面CのRGB画像やデプス画像を撮像でき、これらの画像情報(センサデータ)を取得できる要素を意味するものであり、RGB―Dカメラや深度カメラなどのカメラ装置全体や、カメラ装置に内蔵されるCMOSセンサや深度センサなどのセンサ類や、単体で用いられるセンサを包含するものである。
【0026】
なお、マニピュレータ110は、多関節のアームであり、先端部に装着されるエンドエフェクタ110bを任意の位置や方向に制御できる構成であればよい。図1に示したマニピュレータ110の構成はあくまで一例であり、図1に示す構成と自由度や関節配置、リンク長が異なるものでもよい。サブアーム部110cを備えない構成でもよい。
【0027】
撮像装置110dは、エンドエフェクタ110bが清拭作業を行う対象の作業面Cを撮像できればよく、図1に示す構成のようにサブアーム部110cの先端に設置される構成とは異なるものでもよい。例えばロボット100のサブアーム部110c以外の要素に設置される構成でもよいし、ロボット100の外部に設置され、ロボット100のコントローラ153に画像情報(センサデータ)を無線通信等で送信する構成でもよい。撮像装置110dは、RGB画像とデプス画像を取得できればよく、例えばRGBカメラと深度カメラを個別に備え、複数の撮像装置を備える構成でもよい。
【0028】
図2は、実施形態に係るロボット100による清拭作業の概要を説明する図である。図2に示すように、ロボット100は、室内などの作業空間Aに進入し、この作業空間A内で対象物Bを特定し、特定した対象物Bの作業面Cの立体形状(3次元形状)を特定し、特定した作業面Cに沿ってエンドエフェクタ110bを用いて清拭作業を行う。図2の例では、対象物Bの一例として机を例示し、作業面Cの一例として机の上面を示している。
【0029】
ロボット100は、撮像装置110dの撮像画像から作業面Cを特定する。作業面Cの特定手法は、例えば図2に示すように、撮像装置110dの撮像画像から検出可能な複数(図2では2つ)のマーカ200が予め作業面Cに付けられており、このマーカ200で囲まれる領域(図2では点線で示す)を作業面Cとして特定する手法が挙げられる。
【0030】
マーカ200としては、例えば周知のARマーカを使用できる。ARマーカは、画像認識型AR(Augmented Reality:拡張現実感)システムにおいて、標識となる決まったパターンの画像をいう。ARマーカは、通常は矩形で、白黒2色の二次元ビットパターンになっており、単純な画像認識でマーカIDを認識出来るものである。ARマーカは平面のものを使用し、カメラに写った時の歪み具合など、その形状からカメラに対する距離、角度などを計算する、また、取得した情報から、ARマーカの位置に3DCGなどを表示するような使い方が一般的である。
【0031】
本実施形態でも、図2に例示するように、マーカ200は矩形状の平面ビットパターンである。作業面Cの周囲に配置される複数のマーカ200は、それぞれ別のビットパターンである。
【0032】
なお、撮像画像から対象物Bや作業面Cを特定する手法は、図2に示すARマーカ200を用いる手法とは別の手法でもよく、例えば深層学習によるセマンティックセグメンテーションを用いる手法でもよい。または、オペレータが例えば撮像画像を用いて、作業領域A内の特定の面に対してアノテーション(注釈として付与)を行う手法でもよい。また、ARマーカ以外の二次元マーカ(例えばQRコード(登録商標))を用いてもよい。
【0033】
また、対象物Bは、机以外にも部屋の壁面や、家具の特定の面、ドアノブなどを任意に選択してよい。作業面Cは、図2に示すような平面に限らず、曲面や、複数の平面や曲面が混在する複合的な面などでもよい。
【0034】
図3は、実施形態に係るロボット100のコントローラ153の機能ブロック図である。コントローラ153は、上述の機能に関して対象物特定部161と、作業面特定部162と、軌道生成部163と、動作制御部164とを備える。
【0035】
対象物特定部161は、撮像装置110dにより撮像されたRGB画像に基づき清拭作業の対象物Bを特定する。
【0036】
作業面特定部162は、撮像装置110dにより撮像されたデプス画像(デプスマップとも呼ばれる)に基づき、対象物特定部161により特性された清拭作業の対象物Bにおいて、エンドエフェクタ110bで清拭を行う作業面Cの立体形状を特定する。
【0037】
軌道生成部163は、作業面特定部162により特定された作業面Cの立体形状に基づき、エンドエフェクタ110bが作業面Cに沿って移動して作業面Cの全体を清拭するように、マニピュレータ110の軌道を生成する。例えば、軌道生成部163は、マニピュレータ110の手先軌道を生成し、この手先軌道を実現する各関節の角度の時系列データを生成する。
【0038】
動作制御部164は、軌道生成部163により生成された軌道に基づいて、マニピュレータ110及び移動機構150を制御する。
【0039】
図4は、コントローラ153のハードウェア構成図である。図4に示すように、コントローラ153は、物理的には、CPU(Central Processing Unit)101、主記憶装置であるRAM(Random Access Memory)102およびROM(Read Only Memory)103、入力デバイスであるキーボード及びマウス等の入力装置104、ディスプレイ等の出力装置105、ネットワークカード等のデータ送受信デバイスである通信モジュール106、補助記憶装置107、などを含むコンピュータシステムとして構成することができる。
【0040】
図3に示すコントローラ153の各機能は、CPU101、RAM102等のハードウェア上に所定のコンピュータソフトウェアを読み込ませることにより、CPU101の制御のもとで通信モジュール106、入力装置104、出力装置105を動作させるとともに、RAM102や補助記憶装置107におけるデータの読み出し及び書き込みを行うことで実現される。すなわち、本実施形態に係るロボット100の清拭作業の制御プログラムをコンピュータ上で実行させることで、コントローラ153は、図3の対象物特定部161と、作業面特定部162と、軌道生成部163と、動作制御部164として機能する。
【0041】
また、コントローラ153の各機能は、アナログ回路、デジタル回路又はアナログ・デジタル混合回路で構成された回路であってもよい。また、各機能の制御を行う制御回路を備えていてもよい。各回路の実装は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等によるものであってもよい。
【0042】
コントローラ153の各機能の少なくとも一部はハードウェアで構成されていてもよいし、ソフトウェアで構成され、ソフトウェアの情報処理によりCPU等が実施をしてもよい。ソフトウェアで構成される場合には、コントローラ153及びその少なくとも一部の機能を実現するプログラムをフレキシブルディスクやCD-ROM等の記憶媒体に収納し、コンピュータに読み込ませて実行させるものであってもよい。記憶媒体は、磁気ディスクや光ディスク等の着脱可能なものに限定されず、ハードディスク装置やメモリなどの固定型の記憶媒体であってもよい。すなわち、ソフトウェアによる情報処理がハードウェア資源を用いて具体的に実装されるものであってもよい。さらに、ソフトウェアによる処理は、FPGA等の回路に実装され、プロセッサ等のハードウェアが実行するものであってもよい。ジョブの実行は、例えば、GPU(Graphics Processing Unit)等のアクセラレータを使用して行ってもよい。
【0043】
例えば、コンピュータが読み取り可能な記憶媒体に記憶された専用のソフトウェアをコンピュータが読み出すことにより、コンピュータを上記の実施形態の装置とすることができる。記憶媒体の種類は特に限定されるものではない。また、通信ネットワークを介してダウンロードされた専用のソフトウェアをコンピュータがインストールすることにより、コンピュータを上記の実施形態の装置とすることができる。こうして、ソフトウェアによる情報処理が、ハードウェア資源を用いて、具体的に実装される。なお、メモリ、プロセッサ、コンピュータ等のハードウェアは、それぞれ1つ、または1つ以上備えられてもよい。
【0044】
コントローラ153は、図1では移動機構150の内部に搭載される構成が例示されているが、あくまで一例であり、ロボット100の他の箇所に搭載される構成でもよいし、ロボット100の外部に設置されてロボット100と有線または無線で通信可能に接続される構成でもよい。
【0045】
図5は、実施形態に係るロボット100の清拭作業の動作制御のフローチャートである。図5に示すフローチャートはコントローラ153により実施される。
【0046】
ステップS01では、ロボット100が作業領域Aに進入する。
【0047】
ステップS02では、ロボット100は作業領域A内を移動しながら対象物Bを探索する。対象物特定部161は、撮像装置110dにより撮像されたRGB画像を用いて対象物Bの検出を行う。本実施形態では、対象物特定部161は、図2に示したマーカ200をRGB画像内で検出したときに、マーカ200を含む領域を対象物Bとして特定する。また、複数のマーカ200により区画される領域を大まかな作業面Cの位置としても特定する。動作制御部164は、移動機構150の動作を制御することで、ロボット100を作業領域A内で任意の位置や方向に移動させる。
【0048】
ステップS03では、対象物特定部161が対象物Bを特定したか否かが判定される。対象物特定部161が対象物Bを特定できた場合(ステップS03のYes)にはステップS04に進み、そうでない場合(ステップS03のNo)にはステップS02に戻り、対象物特定部161が対象物Bを特定するまで作業領域A内の移動と探索が継続される。
【0049】
ステップS04では、動作制御部164により移動機構150が制御され、対象物Bの作業面Cがエンドエフェクタ110bの移動範囲内となるまで、ロボット100が作業面Cに接近する。
【0050】
ステップS05では、作業面特定部162により、撮像装置110dにより撮像されたデプス画像を用いて、作業面Cの立体形状が特定される。
【0051】
なお、ステップS05の処理は、ステップS04において作業面Cに接近する前の画像情報に基づいて予め実行しておいてもよい。この場合、例えばロボット100が作業領域A内の任意の位置で取得した画像情報からコントローラ153が作業領域Aの三次元マップを作成する。作業面特定部162はこの三次元マップを利用して作業面Cの立体形状を特定できる。
【0052】
ステップS06では、軌道生成部163により、エンドエフェクタ110bが作業面Cを清拭できる軌道が生成される。
【0053】
ステップS07では、動作制御部164により、ステップS06にて生成された軌道に沿ってマニピュレータ110の動作が制御される。
【0054】
ステップS08では、作業面Cの清拭が完了したか否かが判定される。コントローラ153は、例えば生成軌道に沿ったエンドエフェクタ110bの移動が完了したときに清拭が完了したと判定できる。清拭が完了した場合(ステップS08のYes)にはステップS09に進み、そうでない場合(ステップS08のNo)にはステップS07に戻り生成軌道に沿った動作を継続する。
【0055】
なお、ステップS08の処理は、エンドエフェクタ110bに六軸力センサを設け、六軸力センサの出力に基づく判定でもよい。この場合、コントローラ153は、六軸力センサの出力に基づき作業面Cとエンドエフェクタ110bとの接触有無の情報を取得し、この情報を利用してエンドエフェクタ110bが所定の作業面Cの全域を清拭したか否かを判定できる。また、この手法の場合、エンドエフェクタ110bの位置情報と、作業面Cとの接触有無の情報とを対応づければ、作業面Cの各位置における清拭作業の進捗状況を示す作業レポートも作成できる。このような作業レポートがあればロボット100のユーザは清拭作業の進捗状況を精度良く把握できる。
【0056】
ステップS09では、作業領域A内に清拭作業の他の対象物Bがあるか否かが判定される。他の対象物がある場合(ステップS09のYes)にはステップS02に戻り他の対象物の探索が行われる。一方、他の対象物が無い場合(ステップS09のNo)には、作業領域A内でのすべての対象物Bの清拭作業が完了したので本制御フローを終了する。
【0057】
なお、本実施形態ではロボット100が自動的に行う作業として清拭による消毒作業を例示しているが、清拭消毒作業をロボット100に行わせるメリットは例えば以下のとおりである。
・清拭に関する消毒のエビデンス(消毒方法や消毒液などの医学的な知見)が十分にあるので、作業の教示や評価がしやすい。
・薬剤を対象物に噴霧せず、適量の薬剤で対象物の表面を拭く作業なので安全である。
・感染症予防のための消毒作業の場合、消毒作業者が作業領域に進入することが不要となるので、消毒作業者の感染源への暴露をゼロにできる。
・消毒作業者が着用する感染防護服の消費を抑えられる。
【0058】
また、本実施形態のロボット100による清拭作業の客観的な評価方法としては、例えばカバレッジ(作業面Cのうち清拭できた表面積 ÷ 作業面C全体の表面積)や、清拭速度(清拭できた表面積 ÷ 清拭完了までにかかった時間)などの評価基準を用いることが挙げられる。
【0059】
図6図7を参照して、本実施形態のロボット100が実施する作業のバリエーションについて説明する。図6は、清拭作業におけるエンドエフェクタ110bの動作を説明する図である。図6に示すように、清拭作業では、モップ状のエンドエフェクタ110bが作業面Cとの接触を維持したままの状態で、マニピュレータ110により移動されることで、作業面Cの全体にわたって清拭が行われる。
【0060】
清拭作業を実現するためには、エンドエフェクタ110bは、例えば力制御により動作が制御される。この場合、マニピュレータ110にはエンドエフェクタ110bに付与される外力を計測する力センサが設けられる。コントローラ153は、力センサの計測値に基づいて、エンドエフェクタ110bと作業面Cとの接触力を所定値に維持しながら、生成軌道に沿ってエンドエフェクタ110bを移動させる。
【0061】
または、清拭作業を実現するためには、コントローラ153は、位置制御によりエンドエフェクタ110bの動作を制御してもよい。この場合、生成軌道は、作業面Cの位置よりも奥側(図6では下側)の所定深さの位置に設定される。また、この手法ではエンドエフェクタ110bにはばね性を持たせる。これにより、エンドエフェクタ110bは作業面Cを押圧しながら移動することができ、作業面Cを清拭することができる。
【0062】
また、エンドエフェクタは生成軌道を移動中に必ずしも作業面Cに接触しなくてもよい。要は、作業面Cに沿ってエンドエフェクタを動かすようマニピュレータ110を制御する構成であればよい。図7に示す薬剤噴霧作業はその一例である。
【0063】
図7は、薬剤噴霧作業におけるエンドエフェクタ110b1の動作を説明する図である。薬剤噴霧作業の場合、エンドエフェクタ110b1は、作業面Cに薬剤を噴霧するためのスプレー状の要素を適用できる。図7に示すように、薬剤噴霧作業では、コントローラ153は、スプレー状のエンドエフェクタ110b1と作業面Cとの所定距離を取った状態を維持しながら、生成軌道に沿ってエンドエフェクタ110b1を移動させる制御を行う。これにより、エンドエフェクタ110b1は、作業面Cの全体にわたって薬剤の噴霧を行うことができる。
【0064】
図7に示す薬剤噴霧作業と同様に、エンドエフェクタと作業面Cとの距離を一定に維持しながら生成軌道に沿って移動する作業としては、例えば作業面Cに紫外線を照射する作業などが挙げられる。
【0065】
また、コントローラ153の作業面特定部162は、撮像装置110dにより対象物Bの作業面Cの全体を撮像できない状況の場合に、作業面Cを適宜補完することで全体を特定する構成としてもよい。図8は、作業面の全体を撮像できない事例の模式図である。図8に示すように、例えば対象物B1がドアノブであり、このドアノブB1を撮像装置110dが上方から撮像する場合を考える。この場合、ドアノブB1の略円柱形状の外周面(側面)である作業面のうち、上方に面する作業面C1は、撮像装置110dによりデプス画像を撮像することができる。一方、下方に面する作業面C2(図8ではハッチングを付した部分)は、カメラ側から視ると隠れているためデプス画像を撮像することができない。
【0066】
このように、ドアノブ、ハンドル、手すりなど、撮像される表面の裏側の面も清拭すべき対象を画像情報から認識(特定)した後の清拭動作としては、例えば以下の手法で実施できる。なお下記はドアノブを一例として記載しているが、ハンドルや手すりなども同様である。
(1)ドアノブを認識したら画像情報(デプス含む)からドアノブの表面形状を推定し、その推定されたドアノブ形状にしたがって、エンドエフェクタでドアノブ表面をぐるっと一周して清拭するよう、マニピュレータを制御する。
(2)ドアノブをすっぽりと覆うようなエンドエフェクタを使うことで対処する。
【0067】
上記(1)の手法は、図8の例ではデプス画像を取得できる上側の作業面C1の立体形状を特定し、この特定できた作業面C1に基づき作業面全体にわたる手先軌道を推定できる。図8の例では作業面が略円柱形状または略円錐台形状の外周面(側面)であるので、例えば作業面C1の周方向の両端から同一の曲率で曲面を延長することで作業面C2に沿った軌道も生成できる。
【0068】
本実施形態に係るロボット100は、コントローラ153により、撮像装置110dから取得された画像情報の少なくとも一部(RGB画像)に基づいて、マニピュレータ110の先端に設置されるエンドエフェクタ110bを沿わせる箇所である対象物Bを特定する。そして、RGB画像に基づいて特定された対象物Bの表面である作業面Cに沿ってエンドエフェクタ110bを動かすようマニピュレータ110を制御する。
【0069】
この構成により、RGB画像に基づき清拭などの作業の対象物Bを特定できるので、事前に対象物Bの情報を持ち合わせていなくてもロボット100が自力で対象物Bを探索することができ、未知の環境下においても環境中の作業対象の面を特定できる。また、対象物Bの作業面Cに沿ってエンドエフェクタ110bを動かすようマニピュレータ110を制御することで、特定した面に則した適切なエンドエフェクタ110bの軌道生成が可能となる。
【0070】
また、本実施形態に係るロボット100は、コントローラ153により、RGB画像に基づいて特定された対象物Bの作業面Cを、撮像装置110dから取得された画像情報の少なくとも一部(デプス画像)に基づいて特定し、特定された表面に沿ってエンドエフェクタ110bを動かすようマニピュレータ110を制御する。
【0071】
この構成により、デプス画像を用いて作業面Cの凹凸形状を高精度に特定できるので、作業面Cに沿ってエンドエフェクタ110bを動かす軌道をより高精度に作成することが可能となる。これにより、エンドエフェクタ110bにより精細な作業を行わせることが可能となる。
【0072】
また、本実施形態に係るロボット100は、移動機構150によって当該ロボット100を空間内で移動させながら、撮像装置110dから取得された画像情報の少なくとも一部(RGB画像)に基づいて、マニピュレータ110のエンドエフェクタ110bを沿わせる箇所(対象物B)を探索する。
【0073】
この構成により、より広範囲にわたって対象物Bを探索することが可能となり、様々な広さの作業領域Aで清拭などの作業が可能となるので、ロボット100を適用できる作業領域Aの選択肢が広がり、ロボット100の汎用性を向上できる。また、従来のように作業者がロボット100を遠隔操作する場合には、消毒作業の精度や信頼度が作業者の消毒作業やロボット操作の習熟度に依存する傾向が考えられるが、本実施形態ではロボット100が移動機構150により自律移動して自動的に探索を行う。これにより、消毒作業に関わる作業者の拘束を軽減でき、また、作業者の習熟度に依存せずに消毒作業の精度や信頼度を安定化できる。
【0074】
また、本実施形態に係るロボット100は、コントローラ153により、対象物Bに付されているマーカ200を撮像装置110dの画像情報から抽出し、マーカ200が含まれる領域を対象物Bと特定する。この構成により、対象物Bの特定をより高速かつ高精度に行わせることが可能となり、清拭などの作業の効率を向上できる。
【0075】
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【0076】
上記実施形態では、ロボット100のマニピュレータ110の関節は、回転関節あるいは直動関節のいずれでもよい。
【0077】
上記実施形態では、ロボット100が実施する作業として清拭、薬剤噴霧、紫外線照射などの消毒作業を例示したが、これらの消毒作業に限られない。例えば、拭き掃除などの清掃作業、非破壊検査、研磨や塗装などの表面処理、などにも適用できる。
【0078】
上記実施形態では、ロボット100が移動機構150を備え、自律的に移動可能な構成であり、ロボット100が作業の対象物Bに接近するタスクを例示したが、これに限られない。例えばロボット100が所定位置に固設され、コンベヤ等の搬送手段によって作業の対象物Bがロボット100のエンドエフェクタ110bの作業範囲内に誘導される構成でもよい。
【0079】
撮像装置110dが取得する画像情報は、RGB画像とデプス画像の組み合わせ以外でもよい。例えばRGB画像の代わりに輝度情報を取得する構成でもよいし、立体視の画像情報を取得する構成でもよい。
【0080】
また、デプス画像から作業面Cの立体形状を特定する構成を例示したが、これに限られない。例えば、作業面Cを近似的に特定する構成でもよい。具体的には、RGB画像で特定された箇所の範囲内を数点サンプルしたデプス情報から、ベジェ曲面やBスプライン曲面などでその箇所の表面を近似する近似曲面を算出し、その近似曲面をもとにマニピュレータ制御を行うこともできる。
【0081】
また、作業面Cの特定にデプス画像を用いずにRGB画像を用いる構成でもよい。この場合、例えばコントローラ153は2つのディープニューラルネットワークを有する。1つはRGB画像を入力するとセマンティックセグメンテーションやインスタンスセグメンテーションなど物体検出を行う第1モデルである。もう一方は対象物体のRGB画像を入力すると対象物体のRGB画像の各画素のデプス情報(すなわちデプス画像)を推定する第2モデルである。第1モデルにRGB画像を入力することでテーブルやドアノブなど消毒清拭対象を検出し、その検出された対象のRGB画像を第2モデルに入力することで対象のデプス画像を推定し、その推定されたデプス画像を基にマニピュレータ制御を行うことができる。
【符号の説明】
【0082】
100 ロボット
110 マニピュレータ(多関節アーム)
110b エンドエフェクタ
110d 撮像装置(センサ)
150 移動機構
153 コントローラ
200 マーカ
A 作業領域
B 対象物(箇所)
C 作業面(表面)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8