(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022050154
(43)【公開日】2022-03-30
(54)【発明の名称】抗酸化剤およびケルセチン配糖体の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7048 20060101AFI20220323BHJP
C07H 17/07 20060101ALI20220323BHJP
A61P 39/06 20060101ALI20220323BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20220323BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20220323BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220323BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20220323BHJP
A61P 3/06 20060101ALI20220323BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20220323BHJP
A61P 25/20 20060101ALI20220323BHJP
A61K 36/28 20060101ALI20220323BHJP
【FI】
A61K31/7048
C07H17/07
A61P39/06
A61P9/10 101
A61P9/10
A61P9/00
A61P35/00
A61P3/10
A61P3/06
A61P25/28
A61P25/20
A61K36/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020156594
(22)【出願日】2020-09-17
(71)【出願人】
【識別番号】593012228
【氏名又は名称】株式会社希松
(71)【出願人】
【識別番号】507219686
【氏名又は名称】静岡県公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100110766
【弁理士】
【氏名又は名称】佐川 慎悟
(74)【代理人】
【識別番号】100165515
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 清子
(74)【代理人】
【識別番号】100169340
【弁理士】
【氏名又は名称】川野 陽輔
(74)【代理人】
【識別番号】100195682
【弁理士】
【氏名又は名称】江部 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100206623
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 智行
(72)【発明者】
【氏名】藤浪 未沙
(72)【発明者】
【氏名】小谷野 豊
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 嘉純
(72)【発明者】
【氏名】小松 令以子
(72)【発明者】
【氏名】門脇 航
(72)【発明者】
【氏名】本田 沙理
(72)【発明者】
【氏名】熊澤 茂則
【テーマコード(参考)】
4C057
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4C057AA06
4C057BB03
4C057DD03
4C057KK08
4C086AA04
4C086EA11
4C086GA17
4C086MA01
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4C086ZA05
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4C086ZC33
4C086ZC35
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(57)【要約】
【課題】 酸化反応の進行を効果的に抑制する抗酸化剤を提供する。
【解決手段】 ケルセチン3-O-(2″-O-α-ラムノシル-6″-O-マロニル)-β-D-グルコシドまたはその塩を有効成分とする、抗酸化剤。本発明の抗酸化剤は、還元能ないしラジカル消去能力に優れ、高い抗酸化作用を発揮する。よって、酸化ストレスによる老化の進行の抑制、酸化ストレスによる疾病の発症や不健康状態の予防ないし改善、あるいは、酸化による製品の品質劣化の抑制に寄与することができる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケルセチン3-O-(2″-O-α-ラムノシル-6″-O-マロニル)-β-D-グルコシドまたはその塩を有効成分とする、抗酸化剤。
【請求項2】
前記ケルセチン3-O-(2″-O-α-ラムノシル-6″-O-マロニル)-β-D-グルコシドまたはその塩が、キンセンカ属から抽出されたものである、請求項1に記載の抗酸化剤。
【請求項3】
キンセンカ属からケルセチン3-O-(2″-O-α-ラムノシル-6″-O-マロニル)-β-D-グルコシドまたはその塩を抽出する工程を有する、ケルセチン3-O-(2″-O-α-ラムノシル-6″-O-マロニル)-β-D-グルコシドまたはその塩を製造する方法。
【請求項4】
キンセンカ属からケルセチン3-O-(6″-O-マロニル)-β-D-グルコシドまたはその塩を抽出する工程を有する、ケルセチン3-O-(6″-O-マロニル)-β-D-グルコシドまたはその塩を製造する方法。
【請求項5】
前記キンセンカ属が、トウキンセンカ(Calendula officinalis)である、請求項3または請求項4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗酸化剤およびケルセチン配糖体の製造方法に関する。より詳細には、ケルセチン3-O-(2″-O-α-ラムノシル-6″-O-マロニル)-β-D-グルコシドまたはその塩を有効成分とする抗酸化剤、ケルセチン3-O-(2″-O-α-ラムノシル-6″-O-マロニル)-β-D-グルコシドまたはその塩の製造方法、および、ケルセチン3-O-(6″-O-マロニル)-β-D-グルコシドまたはその塩の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内では、好気呼吸により酸素を利用する過程において、あるいは紫外線や大気汚染物質、放射線、ある種の薬剤、タバコなどの刺激により、種々の活性酸素やフリーラジカルが発生している。活性酸素やフリーラジカルは高い酸化力を持ち、細胞伝達物質として働いたり、殺菌や抗腫瘍など免疫機能を果たす。しかしその一方で、過剰に産生されたものは細胞を傷害し、動脈硬化症、脳梗塞、心疾患、癌、糖尿病、高脂血症、睡眠障害、認知症などの様々な疾患をもたらしたり、老化を亢進する要因となることが報告されている(非特許文献1)。
【0003】
また、生体外においても、例えば、食品や飼料、化粧品、合成樹脂、洗浄剤などでは、空気中の酸素によって含有成分が酸化され、褐変や退色、においや風味の変化、機能低下、栄養価の低下など、品質が劣化することが課題になっている。
【0004】
そこで、酸化力の高い物質を消去したり、対象物における酸化反応の進行を抑制したりする活性(抗酸化活性)を有する物質が求められている。例えば、特許文献1には、ネギ属抽出物やタマネギ抽出物に含まれるS-1-プロペニルシステインを有効成分とする抗酸化剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】吉川敏一、フリーラジカルの医学、京府医大誌、第120号、第6巻、第381~391頁、2011年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、未だ、酸化反応の進行を効果的に抑制する物質は十分に供給されている状況とはいえない。本発明は、係る課題を解決するためになされたものであって、酸化反応の進行を効果的に抑制する抗酸化剤を提供することを目的とする。また、高い抗酸化活性を有するケルセチン配糖体を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、キンセンカ属(Calendula)に、ケルセチン3-O-(2″-O-α-ラムノシル-6″-O-マロニル)-β-D-グルコシド、および、ケルセチン3-O-(6″-O-マロニル)-β-D-グルコシドが多く含まれることを見出した。また、これらのケルセチン配糖体が高い抗酸化活性を有することを見出した。そこで、これらの知見に基づいて下記の各発明を完成した。
【0009】
(1)本発明に係る抗酸化剤は、ケルセチン3-O-(2″-O-α-ラムノシル-6″-O-マロニル)-β-D-グルコシドまたはその塩を有効成分とする。
【0010】
(2)本発明において、ケルセチン3-O-(2″-O-α-ラムノシル-6″-O-マロニル)-β-D-グルコシドまたはその塩は、キンセンカ属から抽出されたものであってもよい。
【0011】
(3)本発明に係るケルセチン3-O-(2″-O-α-ラムノシル-6″-O-マロニル)-β-D-グルコシドまたはその塩の製造方法は、キンセンカ属からケルセチン3-O-(2″-O-α-ラムノシル-6″-O-マロニル)-β-D-グルコシドまたはその塩を抽出する工程を有する。
【0012】
(4)本発明に係るケルセチン3-O-(6″-O-マロニル)-β-D-グルコシドまたはその塩の製造方法は、キンセンカ属からケルセチン3-O-(6″-O-マロニル)-β-D-グルコシドまたはその塩を抽出する工程を有する。
【0013】
(5)本発明において、キンセンカ属の植物は、トウキンセンカ(Calendula officinalis)であってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の抗酸化剤は、還元能ないしラジカル消去能力に優れ、高い抗酸化作用を発揮する。よって、酸化ストレスによる老化の進行の抑制、酸化ストレスによる疾病の発症や不健康状態の予防ないし改善、あるいは、酸化による製品の品質劣化の抑制に寄与することができる。また、本発明によれば、有用な化合物であるケルセチン3-O-(2″-O-α-ラムノシル-6″-O-マロニル)-β-D-グルコシドやケルセチン3-O-(6″-O-マロニル)-β-D-グルコシドまたはそれらの塩を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】トウキンセンカ葉エタノール抽出物のHPLCクロマトグラムを示す図である。
【
図2】FRAP法により測定した、クロロゲン酸(化1)、ケルセチン3-O-ネオヘスペリジン(化2)、ケルセチン3-O-(2″-O-α-ラムノシル-6″-O-マロニル)-β-D-グルコシド(化3)およびケルセチン3-O-(6″-O-マロニル)-β-D-グルコシド(化4)のトロロックス相当量(mol TE/mol)を示す棒グラフである。
【
図3】ABTS法により測定した、クロロゲン酸(化1)およびケルセチン3-O-(2″-O-α-ラムノシル-6″-O-マロニル)-β-D-グルコシド(化3)のトロロックス相当量(mol TE/mol)を示す棒グラフである。
【
図4】DPPH法により測定した、クロロゲン酸(化1)およびケルセチン3-O-(2″-O-α-ラムノシル-6″-O-マロニル)-β-D-グルコシド(化3)のトロロックス相当量(mol TE/mol)を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0017】
本発明において、「抗酸化活性」とは、活性酸素やフリーラジカルといった酸化力の強い物質(酸化物質)を消去する活性、もしくは、酸化物質の酸化力を弱める活性、または、対象物における酸化反応の進行を抑制する活性をいう。また、「抗酸化剤」とは、抗酸化活性を有する物質をいう。
【0018】
キンセンカ属は、キク科キンセンカ属に属する植物をいう。キンセンカ属としては、例えば、トウキンセンカ(Calendula officinalis、ポットマリーゴールド、カレンデュラ)や、ヒメキンセンカ(Calendula arvensis、ホンキンセンカ、フユシラズ、フユザキキンセンカ)などを例示することができる。
【0019】
ケルセチン3-O-(2″-O-α-ラムノシル-6″-O-マロニル)-β-D-グルコシド(quercetin 3-O-(2"-O-α-rhamnosyl-6''-O-malonyl)-β-D-glucoside)は、下記の化3に示す構造の化合物である。
【化3】
【0020】
ケルセチン3-O-(6″-O-マロニル)-β-D-グルコシド(quercetin 3-O-(6''-O-malonyl)-β-D-glucoside)は、下記の化4に示す構造の化合物である。
【化4】
【0021】
ケルセチン3-O-(2″-O-α-ラムノシル-6″-O-マロニル)-β-D-グルコシド(化3)およびその塩、ならびにケルセチン3-O-(6″-O-マロニル)-β-D-グルコシド(化4)およびその塩(以下、化3および化4の化合物ならびにそれらの塩をまとめて、またはいずれかを指して、「本化合物」という場合がある。)は、後述する実施例で示すように高い抗酸化活性を有する。よって、少なくともこの点で有用な物質であり、本化合物は抗酸化剤として用いることができる。
【0022】
化3および化4の化合物はそのマロニル基で塩を形成しうるが、本発明においては、これらの塩を用いてもよい。ここで、塩は、「薬理学的に許容される塩」を含み、広義に解釈される。例えば、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン付加塩、アミノ酸付加塩等、各種の塩であってよい。金属塩の例としてはナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩などのアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩などのアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、亜鉛塩が挙げられる。アンモニウム塩の例としてはアンモニウム、テトラメチルアンモニウムなどの塩が挙げられる。有機アミン付加塩の例としてはモルホリン付加塩、ピペリジン付加塩が挙げられる。アミノ酸付加塩の例としてはグリシン付加塩、フェニルアラニン付加塩、リジン付加塩、アスパラギン酸付加塩、グルタミン酸付加塩が挙げられる。
【0023】
本化合物は、合成品を用いてもよく、市販の試薬を用いてもよい。または、本化合物を含む動植物等の天然物から抽出、精製等して用いることもでき、本化合物を化学的に合成して用いることもできる。
【0024】
本化合物は、キンセンカ属に多く含まれる。よって、キンセンカ属から抽出することにより、本化合物を効率的に得ることができる。キンセンカ属からの本化合物の抽出は、例えば、抽出溶媒にキンセンカ属の植物体を浸漬することにより行うことができる。具体的には、以下の方法を例示することができる。
≪キンセンカ属の植物体≫
キンセンカ属の植物体は、葉、茎、花、根あるいはこれらを含む全部(全草)など、いずれの部位を用いてもよいが、葉部を含むことが好ましい。また、生育地から採集したものをそのまま用いてもよく、乾燥させてから用いてもよい。また、葉、茎、花、根などの形態のものをそのまま用いてもよく、破片状や粉末状に砕いてから用いてもよい。
≪抽出溶媒≫
キンセンカ属から本化合物を抽出することができれば特に制限はなく、製品の最終用途に応じて適宜設定できる。例えば、溶媒は、水や低級アルコール類(エタノール、プロパノールなど)、グリコール類(グリセリン、1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオールなど)、これらの混液などの極性溶媒を例示することができる。
≪抽出条件≫
抽出溶媒に植物体を浸漬し、温度1~30℃あるいは室温で、2~24時間、静置または攪拌しながら置いておく。
【0025】
上記のように抽出操作を行った後の溶媒には、本化合物が含まれるため、これをそのまま用いてもよく、必要に応じて精製や濃縮あるいは希釈、殺菌などを行ってから用いてもよい。精製は、濾過や遠心分離による植物体残渣の除去や、液体クロマトグラフィーによる分画精製などを行うことができる。また、スプレードライや凍結乾燥などの方法により固体化してから用いてもよい。
【0026】
また、化学合成による場合、例えば、化4は、非特許文献2(Riva, S., Danieli, B., Luisetti, M., A two step efficient chemoenzymic synthesis of flavonoid glycoside malonates, J. Nat. Prod, 59, 618-621 (1996))に記載の方法で得ることができる。すなわち、当該方法によれば、まず、Candida antarctica由来のリパーゼの触媒下でイソクェルシトリンとマロン酸ジベンジルとを反応させて、イソクェルシトリンのグルコース残基をアシル化する。次に、パラジウム炭素触媒を用いた水素化還元反応を行ってベンジル基を外す。続いて、濾過により触媒を除去し、溶媒を減圧留去すれば、化4を得ることができる。
【0027】
また、非特許文献3(Danieli, B., Bertario, A., Carrea, G., Redigolo, B., Secundo, F., Riva, S., Helv. Chim. Acta, 1993, 73, 2981-2991)に記載の方法により化4を得ることもできる。当該方法によれば、まず、タンパク分解酵素サブチリシンの触媒下でイソクェルシトリンと2-クロロエチルメチルマロン酸とを反応させて、イソクェルシトリンのグルコース残基の最初のヒドロキシ基にメチルマロン酸残基を導入する。次に、エステラーゼ触媒による酵素反応を行ってメトキシカルボニル基を選択的に加水分解する。続いて、逆相HPLCにより精製すれば、高純度の化4を得ることができる。
【0028】
本発明において、抗酸化剤は、任意の形態ないし任意の用途で用いることができる。例えば、生体内で抗酸化活性を発揮させる目的で用いることができ、そのような場合には、経口摂取で用いられる医薬品や医薬部外品、健康食品、食品、飲料、飼料の形態、またはこれらに配合して使用される原料ないし添加物とすることができる。また、例えば、皮膚において抗酸化活性を発揮させる目的で用いることができ、そのような場合には、経皮的に用いられる医薬品や医薬部外品(湿布や軟膏など)、化粧品(パックや化粧水、乳液、ジェル、クリーム、リップクリームなど)の形態、またはこれらに配合して使用される原料ないし添加物とすることができる。また、例えば、製品(医薬品や医薬部外品、健康食品、食品、飲料、飼料、化粧品、合成樹脂、洗浄剤など)内において抗酸化活性を発揮させ、当該製品の品質劣化を抑制する目的で用いることができ、そのような場合には、当該製品に配合される原料ないし添加物の形態とすることができる。いずれの形態であっても、本発明の有効成分を配合した上で、常法により製造することができる。製品における有効成分の配合量または生体への投与量も、当該製品の用途や安全性、他の原材料などに応じて適宜設定することができる。
【0029】
以下、本発明について、各実施例に基づいて説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの実施例によって示される特徴に限定されない。本実施例において、単位に用いられるMはmol/Lを表す。
【実施例0030】
<実施例1>化合物の同定
(1)トウキンセンカ葉エタノール抽出物の調製
北海道白老町にて採集したトウキンセンカの全草を風通しのよい室内に72時間置くことにより、または、45℃の乾燥機に28~32時間置くことにより、乾燥させた後に保存した。この乾燥物から葉部を分別回収し、ミキサーを用いて粉末状にした。得られた葉の乾燥粉末20gに70%(v/v)エタノール200mLを加え、スターラーを用いて500回転/分(rpm)、室温にて24時間攪拌し、抽出液を得た。抽出液を吸引濾過して濾液を回収し、エバポレーターを用いて減圧濃縮し、濃縮液を得た。続いて、濃縮液を24時間凍結乾燥し、固体状のトウキンセンカ葉エタノール抽出物5.2gを得た。
【0031】
(2)化合物の単離および同定
トウキンセンカ葉エタノール抽出物5.2gを超純水(MilliQ水)に溶解させて全量を150mLとした。酢酸エチル325mLを添加し、水層と酢酸エチル層とに分画した。水層2.16gを下記条件の中圧分取液体クロマトグラフに供した。保持時間60分の第1画分、同88分の第2画分、同95分の第3画分および同106分の第4画分を分取して、乾燥させ、重量を測定した。
《中圧分取液体クロマトグラフの条件》
カラム:YAMAZEN ULTRAPAK ODS-SM-50D (50μm,φ50×300mm)
溶媒:(A)H2O(0.1%(v/v) TFA) (B)アセトニトリル(MeCN)(0.1%(v/v) TFA)
勾配:(B)10%(v/v)(15分)→(B)40%(v/v)(150分)→(B)100%(155分)
流速:45mL/分
検出:吸光光度検出器(280nm)
【0032】
[2-1]第1画分の化合物の単離・同定
第1画分(保持時間60分、乾燥重量142.5mg)を下記条件の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に供し、保持時間16分の画分を分取した。続いて、当該画分を乾燥させることにより、化合物30.9mg(乾燥重量)を単離した。
《HPLCの条件》
カラム:SHISEIDO CAPCELLPAK UG120 (5μm,φ20×250mm)
溶媒:H2O : MeCN = 88 : 12 (v:v)(0.1%(v/v) TFA)
流速:9.6 mL/分
検出:吸光光度検出器(280nm)
【0033】
核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance:NMR)装置および液体クロマトグラフィー質量分析計(LC-MS)を用いて当該化合物の構造解析を行った結果、化1に示すクロロゲン酸(chrologenic acid)であることが明らかになった。NMRおよびLC-MSのデータを以下に示す。
【化1】
【0034】
<化1のNMRおよびLC-MSデータ>
1H NMR: 400 MHz, 13C NMR:100MHz (測定溶媒CD3OD)
1H NMR: δ(ppm) 2.07 [m, 2H, 2.02 - 2.10], 2.20 [m, 2H, 2.16 - 2.26], 3.73 [dd, 1H, J = 8.5, 3.2 Hz], 4.17 [s, 1H], 5.33[m, 1H, 5.31 - 5.36], 6.26 [d, 1H, J = 15.9 Hz], 6.78[d, 1H, J = 8.2 Hz], 6.95 [dd, 1H, J = 8.2, 2.0 Hz], 7.05 [d, 1H, J = 2.0 Hz], 7.56 [d, 1H, J = 15.9 Hz];
13C NMR: δ(ppm) 38.2 [CH2], 38.78 [CH2], 71.30 [CH], 71.95 [CH], 73.49 [CH], 76.14 [C], 115.21 [CH], 115.26 [CH], 116.48 [CH], 122.97 [CH], 127.80 [C], 146.77 [CH], 147.08 [CH], 149.54 [CH], 168.68 [C], 177.00 [C].
HR-ESIMS : m/z = 353.0876([M-H]-)
【0035】
[2-2]第2画分の化合物の単離・同定
第2画分(保持時間88分、乾燥重量41.6mg)を下記条件のHPLCに供し、保持時間15.5分の画分を分取した。続いて、当該画分を乾燥させることにより、化合物1.8mg(乾燥重量)を単離した。
《HPLCの条件》
カラム:SHISEIDO CAPCELLPAK UG120 (5μm,φ20×250mm)
溶媒:H2O : MeCN = 82 : 18 (v:v)(0.1%(v/v) TFA)
流速:9.6 mL/分
検出:吸光光度検出器(280nm)
【0036】
NMR装置およびLC-MSを用いて当該化合物の構造解析を行った結果、化2に示すケルセチン3-O-ネオヘスペリジン(quercetin 3-O-neohesperidin)であることが明らかになった。NMRおよびLC-MSのデータを以下に示す。
【化2】
【0037】
<化2のNMRおよびLC-MSデータ>
1H NMR: 400 MHz, 13C NMR:100MHz (測定溶媒CD3OD)
1H NMR: δ(ppm) 0.97 [d, 3H, J = 6.2 Hz], 3.23 [m, 1H], 3.35 [m, 2H, 3.34 - 3.36], 3.55 [m, 2H, 3.52 - 3.58], 3.66 [dd, 1H, J = 7.6, 1.4 Hz], 3.76[m, 2H, 3.72 - 3.77], 4.02[m, 2H 3.99 - 4.06], 5.23 [d, 1H, J = 1.4 Hz], 5.75 [d, 1H, J = 7.6 Hz], 6.18 [d, 1H, J = 2.2 Hz], 6.37 [d, 1H, J = 2.1 Hz], 6.87[d, 1H, J = 7.8 Hz], 7.61[m, 2H, 7.60 - 7.63];
13C NMR: δ(ppm) 17.46 [CH3], 62.57 [CH2], 69.96 [CH], 71.71 [CH], 72.31 [CH], 72.41 [CH], 74.06 [CH], 78.35 [CH], 78.96 [CH], 80.11 [CH], 94.48 [CH], 99.65 [CH], 100.33[CH], 102.65 [CH], 105.97 [C], 115.98 [CH], 117.19 [CH], 123.22 [C], 123.48 [CH], 134.57 [C], 146.01 [C], 149.56 [C], 158.39 [C], 158.42 [C], 163.22 [C], 165.63 [C], 179.37 [C].
HR-ESIMS: m/z = 609.1462([M-H]-)
【0038】
[2-3]第3画分の化合物の単離・同定
第3画分(保持時間95分、乾燥重量58.9mg)を下記条件のHPLCに供し、保持時間14.3分の画分を分取した。続いて、当該画分を乾燥させることにより、化合物21.9mg(乾燥重量)を単離した。
《HPLCの条件》
カラム:SHISEIDO CAPCELLPAK UG120 (5μm,φ20×250mm)
溶媒:H2O : MeCN = 80 : 20 (v:v)(0.1%(v/v) TFA)
流速:9.6 mL/分
検出:吸光光度検出器(280nm)
【0039】
NMR装置およびLC-MSを用いて当該化合物の構造解析を行った結果、化3に示すケルセチン3-O-(2″-O-α-ラムノシル-6″-O-マロニル)-β-D-グルコシドであることが明らかになった。NMRおよびLC-MSのデータを以下に示す。
【化3】
【0040】
<化3のNMRおよびLC-MSデータ>
1H NMR: 400 MHz, 13C NMR:100MHz (測定溶媒CD3OD)
1H NMR: δ(ppm) 1.02 [d, 3H, J = 6.2 Hz], 3.14 [s, 2H], 3.35 [m, 3H, 3.31 - 3.39], 3.56 [t, 1H, J = 11.1 Hz], 3.66 [dd, 1H, J = 7.7, 1.4 Hz], 3.80[dd, 1H, J = 9.5, 3.5 Hz], 4.01[m, 1H], 4.11 [m, 2H, 4.06 - 4.16], 4.28 [dd, 2H, J = 1.8, 11.8 Hz], 5.23 [d, 1H, J = 1.4 Hz], 5.59 [d, 1H, J = 7.6 Hz], 6.18[d, 1H, J = 2.1 Hz], 6.37 [d, 1H, J = 2.1 Hz], 6.87 [d, 1H, J = 9.0 Hz], 7.57[m, 2H, 7.56 - 7.59];
13C NMR: δ(ppm) 17.51 [CH3], 41.60 [CH2], 64.57 [CH2], 69.97 [CH], 71.36 [CH], 72.29 [CH], 72.38 [CH], 74.04 [CH], 75.27 [CH], 78.66 [CH], 79.95 [CH], 94.61 [CH], 99.71 [CH], 100.38 [CH], 102.66 [CH], 105.86 [C], 115.91 [CH], 117.28 [CH], 123.29 [C], 123.53 [CH], 134.37 [C], 145.92 [C], 149.46 [C], 158.37 [C], 159.02 [C], 163.13 [C], 165.64 [C], 168.31 [C], 170.15 [C], 179.21 [C].
HR-ESIMS: m/z = 695.1469([M-H]-)
【0041】
[2-4]第4画分の化合物の単離・同定
第4画分(保持時間106分、乾燥重量70.2mg)を下記条件のHPLCに供し、保持時間18.6分の画分を分取した。続いて、当該画分を乾燥させることにより、化合物28.3mg(乾燥重量)を単離した。
《HPLCの条件》
カラム:SHISEIDO CAPCELLPAK UG120 (5μm,φ20×250mm)
溶媒:H2O : MeCN = 80 : 20 (v:v)(0.1%(v/v) TFA)
流速:9.6 mL/分
検出:吸光光度検出器(280nm)
【0042】
NMR装置およびLC-MSを用いて当該化合物の構造解析を行った結果、化4に示すケルセチン3-O-(6″-O-マロニル)-β-D-グルコシドであることが明らかになった。NMRおよびLC-MSのデータを以下に示す。
【化4】
【0043】
<化4のNMRおよびLC-MSデータ>
1H NMR: 400 MHz, 13C NMR:100MHz (測定溶媒CD3OD)
1H NMR: δ(ppm) 3.21 [d, 2H, J = 1.0 Hz], 3.45 [m, 3H, 3.37 - 3.52], 4.12 [dd, 1H, J = 5.2, 12.0 Hz], 4.26[dd, 1H, J = 1.9, 12.0 Hz], 5.12 [d, 1H, J = 7.6 Hz], 6.21[d, 1H, J = 2.1 Hz], 6.40 [d, 1H, J = 2.1 Hz], 6.85 [d, 1H, J = 8.5 Hz], 7.58[dd, 1H, J = 2.2, 8.5 Hz], 7.62[d, 1H, J = 2.2 Hz];
13C NMR: δ(ppm) 41.68 [CH2], 64.95 [CH2], 71.11 [CH], 75.46 [CH], 75.57 [CH], 77.88 [CH], 94.82 [CH], 99.94 [CH], 104.53 [CH], 105.62 [C], 115.92 [CH], 117.52 [CH], 123.10 [C], 123.38 [CH], 135.45 [C], 145.86 [C], 149.78 [C], 158.48 [C], 159.53 [C], 163.01 [C], 166.04 [C], 168.42 [C], 170.25 [C], 179.43 [C].
HR-ESIMS: m/z = 549.0889([M-H]-)
【0044】
<実施例2>化合物の定量
(1)トウキンセンカ葉エタノール抽出物の調製
実施例1(1)のトウキンセンカ葉部乾燥粉末1.0gに70%(v/v)エタノール20mLを加え、攪拌子とスターラーとを用いて900rpm、室温にて2時間攪拌し、抽出液を得た。濾紙と漏斗を用いて抽出液を濾過して濾液を回収し、100mLナスフラスコへ移して、エバポレーターで減圧濃縮し、濃縮物を得た。濃縮物をメタノールに溶解させ、6mLスクリュー管瓶に移してコンビニ・エバポ(バイオクロマト)で再度濃縮し、濃縮物を得た。濃縮物を18時間凍結乾燥し、固体状のトウキンセンカ葉エタノール抽出物を得て、重量を測定した。同様の操作を3回行ったところ、抽出物の重量はそれぞれ195.27mg、189.29mgおよび170.67mgであった。
【0045】
(2)検量線の作成
市販の試薬クロロゲン酸(化1)および実施例1(2)[2-2]~[2-4]で得られた化2~4の化合物を1.0mg/mLとなるようメタノールに溶解した。さらにメタノールを用いて、化1は100、250および1000μg/mL、化2は25、50および100μg/mL、化3および化4は100、250および500μg/mLとなるよう希釈して、測定試料を調製した。これらの測定試料を下記条件のHPLCに供してクロマトグラムを得た。当該クロマトグラムにて検出されたピークの面積と試料の濃度とに基づいて、検量線を作成した。
《HPLCの条件》
カラム:SHISEIDO CAPCELL PAK C18 UG120 (5μm,φ4.6×250mm)
溶媒:(A)H2O(0.1%(v:v) TFA) (B)MeCN(0.1%(v:v) TFA)
勾配:(B)0%(0分)→(B)30%(v:v)(40分)
流速:1.0mL/分
検出:吸光光度検出器(280nm)
注入量:10μL
【0046】
(3)化合物の定量
本実施例2(1)のトウキンセンカ葉エタノール抽出物を10mg/mLとなるようメタノールに溶解した後、孔径0.22μmのフィルターで濾過して測定試料とした。この測定試料を、本実施例2(2)に記載の条件のHPLCに供した。当該HPLCにより得られたクロマトグラムを
図1に示す。
図1に示すクロマトグラムでは、保持時間9.4分、19.6分、22.5分および25.4分のピークが、それぞれ、化1、化2、化3および化4に該当する。
【0047】
そこで、上記ピークの面積をそれぞれ算出し、本実施例2(2)の検量線を用いて化1~化4の濃度を決定した。決定した濃度に基づいて、トウキンセンカ葉部乾燥物あたり、および、トウキンセンカ葉エタノール抽出物あたりの化1~化4の含有量について、平均値および標準偏差を算出した。その結果を表1に示す。
【表1】
【0048】
表1に示すように、トウキンセンカ葉部には、クロロゲン酸(化1)、ケルセチン3-O-(2″-O-α-ラムノシル-6″-O-マロニル)-β-D-グルコシド(化3)およびケルセチン3-O-(6″-O-マロニル)-β-D-グルコシド(化4)が高い割合で含まれることが明らかになった。
【0049】
<実施例3>化合物の抗酸化能の評価
実施例1に記載の方法により製造した化1~化4の化合物の抗酸化能を、FRAP法、ABTS法およびDPPH法により評価した。評価にあたっては、表2に示すa~dの4つのサンプルを調製した。標準物質は6-hydroxy-2,5,7,8-tetramethylchroman-2-carboxylic acid(トロロックス)を用いた。サンプルa、b、cおよびdの吸光度をそれぞれAa、Ab、AcおよびAdで示す。
【表2】
【0050】
(1)FRAP(Ferric Reducing Antioxidant Power)法:鉄イオンに対する還元能
FRAP試薬は、0.3Mの酢酸緩衝液(pH3.6):10mMの2,4,6-Tris(2-pyridyl)-1,3,5-triazine(TPTZ)水溶液:20mMのFeCl3水溶液=10:1:1で混合されたものを用いた。
【0051】
まず、トロロックスを50%(v/v)エタノールに溶解することにより、濃度12.5、25、50、100および200μMのトロロックス溶液を調製した。96穴プレートにトロロックス溶液(サンプルa、b)または50%(v/v)エタノール(サンプルc、d)を各30μLずつ分注した。続いて、この96穴プレートに、37℃で加温したFRAP試薬(サンプルa、c)または0.3M酢酸緩衝液(pH3.6)(サンプルb、d)を各150μLずつ分注した。室温、暗所で5分間反応させた後、593nmでの吸光度を測定した。続いて、下記の式1によりトロロックス吸光値を算出し、トロロックス溶液の濃度に対してプロットすることにより、検量線を作成した。
式1:トロロックス吸光値= (Aa-Ab) -(Ac-Ad)
【0052】
実施例1に記載の方法により製造した化1~4を濃度10mMになるようにジメチルスルホキシドに溶解し、これをDMSO溶液とした。50%(v/v)エタノールを用いてDMSO溶液を希釈することにより、化合物濃度が30、60および120μMとなるよう調製し、これを化合物溶液とした。トロロックス溶液を化合物溶液に代えて同様の操作を行い、吸光度を測定した。続いて、下記の式2により化合物吸光値を算出し、検量線を用いて化1~4のトロロックス等価活性(トロロックス相当量)を算出した。同様の試験を3回行い、トロロックス相当量の平均値および標準偏差を算出した。その結果を表3および
図2に示す。
式2:化合物吸光値= Aa-Ac
【表3】
【0053】
表3および
図2に示すように、ケルセチン3-O-(2″-O-α-ラムノシル-6″-O-マロニル)-β-D-グルコシド(化3)およびケルセチン3-O-(6″-O-マロニル)-β-D-グルコシド(化4)は、強い抗酸化能を有することで知られるクロロゲン酸よりもトロロックス相当量が顕著に大きかった。特に、ケルセチン3-O-(2″-O-α-ラムノシル-6″-O-マロニル)-β-D-グルコシド(化3)のトロロックス相当量は、クロロゲン酸と比較して1.41倍、ケルセチン3-O-ネオヘスペリジン(化2)と比較して1.5倍、ケルセチン3-O-(6″-O-マロニル)-β-D-グルコシド(化4)と比較して1.26倍であり、顕著に高い鉄イオン還元能を有することが明らかになった。
【0054】
(2)ABTS法:ABTSラジカルに対する還元能
本実施例3(1)において顕著に高い鉄イオン還元能が示されたケルセチン3-O-(2″-O-α-ラムノシル-6″-O-マロニル)-β-D-グルコシド(化3)について、ABTSラジカルの消去能を、広く知られた抗酸化物質であるクロロゲン酸(化1)と比較した。ABTS試薬は、7mMの2,2'-azino-bis(3-ethy1benzothiazo1ine-6-su1fonic acid)(ABTS)水溶液と7.35mMのペルオキソ二硫酸カリウム水溶液とを2:1となるように混和し、常温暗所に12~16時間攪拌放置した後、溶液の735nmにおける吸光度が0.7±0.02となるように99.5%(v/v)エタノールで希釈したものを用いた。
【0055】
まず、トロロックスを50%(v/v)エタノールに溶解することにより、濃度37.5、75、150および300μMのトロロックス溶液を調製した。96穴プレートにトロロックス溶液(サンプルa、b)または50%(v/v)エタノール(サンプルc、d)を各30μLずつ分注した。続いて、この96穴プレートに、ABTS試薬(サンプルa、c)または超純水(MilliQ水)(サンプルb、d)を各150μLずつ分注した。室温、暗所で5分間反応させた後、735nmでの吸光度を測定した。続いて、下記の式3によりトロロックス吸光値を算出し、トロロックス溶液の濃度に対してプロットすることにより、検量線を作成した。
式3:トロロックス吸光値= (Ac-Ad) -(Aa-Ab)
【0056】
実施例1に記載の方法により製造した化1および化3を濃度10mMになるようにジメチルスルホキシドに溶解し、これをDMSO溶液とした。50%(v/v)エタノールを用いてDMSO溶液を希釈することにより、化合物濃度が37.5、75、150および300μMとなるよう調製し、これを化合物溶液とした。トロロックス溶液を化合物溶液に代えて同様の操作を行い、吸光度を測定した。続いて、下記の式4により化合物吸光値を算出し、検量線を用いて化1および化3のトロロックス相当量を算出した。同様の試験を3回行い、トロロックス相当量の平均値および標準偏差を算出した。その結果を表4および
図3に示す。
式4:化合物吸光値= Ac-Aa
【表4】
【0057】
表4および
図3に示すように、ケルセチン3-O-(2″-O-α-ラムノシル-6″-O-マロニル)-β-D-グルコシド(化3)のトロロックス相当量は、クロロゲン酸(化1)と比較して顕著に大きかった。すなわち、ケルセチン3-O-(2″-O-α-ラムノシル-6″-O-マロニル)-β-D-グルコシド(化3)は、顕著に高いABTSラジカルの消去能を有することが明らかになった。
【0058】
(3)DPPH法:DPPHラジカルに対する還元能
本実施例3(1)において顕著に高い鉄イオン還元能が示されたケルセチン3-O-(2″-O-α-ラムノシル-6″-O-マロニル)-β-D-グルコシド(化3)について、DPPHラジカルの消去能を、広く知られた抗酸化物質であるクロロゲン酸(化1)と比較した。DPPH試薬は、2,2-diphenyl-1-picrylhydrazyl(DPPH)を99.5%(v/v)エタノールに0.20mMとなるよう溶解した後、使用時まで4℃の暗所に保管したものを用いた。
【0059】
まず、トロロックスを50%(v/v)エタノールに溶解することにより、濃度12.5、25、50および100μMのトロロックス溶液を調製した。96穴プレートにトロロックス溶液(サンプルa、b)または50%(v/v)エタノール(サンプルc、d)を各100μLずつ分注した。続いて、この96穴プレートに、DPPH試薬(サンプルa、c)または99.5%(v/v)エタノール(サンプルb、d)を各100μLずつ分注した。室温、暗所で30分間反応させた後、517nmでの吸光度を測定した。続いて、上記の式3によりトロロックス吸光値を算出し、トロロックス溶液の濃度に対してプロットすることにより、検量線を作成した。
【0060】
実施例1に記載の方法により製造した化1および化3を濃度10mMになるようにジメチルスルホキシドに溶解し、これをDMSO溶液とした。50%(v/v)エタノールを用いてDMSO溶液を希釈することにより、化合物濃度が12.5、25、50および100μMとなるよう調製し、これを化合物溶液とした。トロロックス溶液を化合物溶液に代えて同様の操作を行い、吸光度を測定した。続いて、上記の式4により化合物吸光値を算出し、検量線を用いて化1および化3のトロロックス相当量を算出した。同様の試験を3回行い、トロロックス相当量の平均値および標準偏差を算出した。その結果を表5および
図4に示す。
【表5】
【0061】
表5および
図4に示すように、ケルセチン3-O-(2″-O-α-ラムノシル-6″-O-マロニル)-β-D-グルコシド(化3)のトロロックス相当量は、クロロゲン酸(化1)と比較して顕著に大きかった。すなわち、ケルセチン3-O-(2″-O-α-ラムノシル-6″-O-マロニル)-β-D-グルコシド(化3)は、顕著に高いDPPHラジカルの消去能を有することが明らかになった。