(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022050195
(43)【公開日】2022-03-30
(54)【発明の名称】植物の生産方法及び植物栽培装置
(51)【国際特許分類】
A01G 7/04 20060101AFI20220323BHJP
A01G 7/00 20060101ALI20220323BHJP
A01G 22/15 20180101ALI20220323BHJP
A01G 31/00 20180101ALI20220323BHJP
【FI】
A01G7/04 A
A01G7/00 601A
A01G22/15
A01G31/00 612
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020156662
(22)【出願日】2020-09-17
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和1年9月19日、2019年度(第72回)電気・情報関係学会九州支部連合大会ホームページにおけるプログラム及び論文集の公開 令和1年9月27日、2019年度(第72回)電気・情報関係学会九州支部連合大会における公開
(71)【出願人】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(71)【出願人】
【識別番号】000102636
【氏名又は名称】エナジーサポート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 龍
(72)【発明者】
【氏名】王 斗艶
(72)【発明者】
【氏名】浪平 隆男
【テーマコード(参考)】
2B022
2B314
【Fターム(参考)】
2B022AB11
2B022DA01
2B314MA09
2B314MA38
2B314MA70
2B314PD59
(57)【要約】
【課題】植物の生産性に優れた、植物の生産方法及び植物栽培装置を提供する。
【解決手段】植物の地上部にパルス電界を印加することを含む、植物の生産方法。前記パルス電界の電界強度は、0.01~50kV/cmであることが好ましい。前記植物の生産方法は、光源を用いて、前記植物の地上部に光を照射することを含むことが好ましい。前記植物の地上部に照射される光の光強度は、150μmol m-2 s-1未満が好ましい。前記植物は葉物野菜であることが好ましく、例えば、リーフレタス、レタス、ミズナ、ホウレンソウ、コマツナ、ミツバ、ニラ、ネギ等を例示できる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の地上部にパルス電界を印加することを含む、植物の生産方法。
【請求項2】
前記パルス電界の印加時間が1時間以上である、請求項1に記載の植物の生産方法。
【請求項3】
前記パルス電界の繰り返し周波数が2Hz超である、請求項1又は2に記載の植物の生産方法。
【請求項4】
前記パルス電界の電界強度が、0.01~50kV/cmである、請求項1~3のいずれか一項に記載の植物の生産方法。
【請求項5】
対向する一対の電極間に、前記植物の地上部を配置して、前記植物の地上部にパルス電界を印加することを含み、
前記電極間の最小距離が30cm以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の植物の生産方法。
【請求項6】
前記植物の地上部を栽培する気体を介して、前記植物の地上部にパルス電界を印加する、請求項1~5のいずれか一項に記載の植物の生産方法。
【請求項7】
光源を用いて、前記植物の地上部に光を照射することを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の植物の生産方法。
【請求項8】
植物の地上部に照射される光の光強度が、150μmol m-2 s-1未満である、請求項7に記載の植物の生産方法。
【請求項9】
下記の植物栽培装置Aを用いて前記植物を栽培する場合の総電力消費量(A)と、
下記の植物栽培装置Bを用いて前記植物を栽培する場合の総電力消費量(B)と、が
(A)<(B)の関係を満たす、請求項1~8のいずれか一項に記載の植物の生産方法。
植物栽培装置A:
植物の地上部にパルス電界を印加する一対の電極を備え、
前記電極の間に前記パルス電界の印加対象の前記植物の地上部を配置可能な、植物栽培装置。
植物栽培装置B:
前記栽培装置Aにおいて、前記電極を備えない、植物栽培装置。
【請求項10】
前記栽培装置Aが、前記植物の地上部に光を照射する光源を備え、
前記植物栽培装置Aを用いて前記植物を栽培する場合の、前記パルス電界の印加、及び前記光源による前記光の照射に要する電力消費量(A1)と、
前記植物栽培装置Bを用いて前記植物を栽培する場合の、前記光源による前記光の照射に要する電力消費量(B1)と、が
(A1)<(B1)の関係を満たす、請求項9に記載の植物の生産方法。
【請求項11】
前記植物が葉物野菜である、請求項1~10のいずれか一項に記載の植物の生産方法。
【請求項12】
前記植物が、レタス、ミズナ、ホウレンソウ、コマツナ、ミツバ、ニラ、ネギ、バジル、パセリ、マスタードリーフ、シソ、クレソン、サンチュ、コリアンダー、モロヘイヤ、ルッコラ、シュンギク、ミント及びそれらの亜種、変種、品種又は雑種からなる群から選ばれる少なくとも一種である、請求項11に記載の植物の生産方法。
【請求項13】
前記植物の栽培方法が水耕栽培である、請求項1~12のいずれか一項に記載の植物の生産方法。
【請求項14】
植物の地上部にパルス電界を印加する植物栽培装置であって、
一対の電極を備え、
前記電極の間に前記パルス電界の印加対象の前記植物の地上部を配置可能な、植物栽培装置。
【請求項15】
前記パルス電界の繰り返し周波数が2Hz超である、請求項14に記載の植物栽培装置。
【請求項16】
前記対向する一対の電極間の最小距離が30cm以下である、請求項14又は15に記載の植物栽培装置。
【請求項17】
前記植物の地上部に光を照射する光源を備える、請求項14~16のいずれか一項に記載の植物栽培装置。
【請求項18】
前記植物の地上部に照射される光の光強度が、150μmol m-2 s-1未満に設定される、請求項17に記載の植物栽培装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の生産方法、及び植物栽培装置に関する。
【背景技術】
【0002】
野菜等の植物は、通常、露地栽培で栽培されているが、天候や立地条件等によりその生育が大きく左右されるため、近年では植物工場における栽培が盛んに行われている。植物工場では、温度、湿度、照度、液体培地の成分等を人工的に制御できるため、自然環境に左右されにくく、通年栽培が可能となるという利点がある。その反面、植物工場における栽培では、環境制御に多くのコストがかかるなど、栽培費あたりの生産性に劣るという問題があり、例えば、主要栽培品種であるリーフレタスでは、露地栽培に比べて約2倍の販売価格となってしまう。
【0003】
植物工場においては、照明費が栽培費全体の約3割を占めている。したがって、植物生産のコスト削減のためには、できるだけ照明にかかる費用を低く抑えたい。
【0004】
従来、コスト削減を目指して、様々な研究がなされている。それらのなかでは、LEDを中心とした照明自体に関わる研究例(例えば非特許文献1)がその殆どを占めている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】高辻正基著“完全制御型植物工場の現状”植物環境工学,第22巻1号,2010年,2~7ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、植物生産のコスト削減のための技術には、未だ検討の余地がある。
本発明は、上記のような問題点を解消するためになされたものであり、植物の生産性に優れた、植物の生産方法及び植物栽培装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、植物の地上部にパルス電界(Pulsed Electric Field, PEF)を印加することで、植物の成長状態が良好となることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の態様を有する。
【0008】
(1) 植物の地上部にパルス電界を印加することを含む、植物の生産方法。
(2) 前記パルス電界の印加時間が1時間以上である、前記(1)に記載の植物の生産方法。
(3) 前記パルス電界の繰り返し周波数が2Hz超である、前記(1)又は(2)に記載の植物の生産方法。
(4) 前記パルス電界の電界強度が、0.01~50kV/cmである、前記(1)~(3)のいずれか一つに記載の植物の生産方法。
(5) 対向する一対の電極間に、前記植物の地上部を配置して、前記植物の地上部にパルス電界を印加することを含み、
前記電極間の最小距離が30cm以下である、前記(1)~(4)のいずれか一つに記載の植物の生産方法。
(6) 前記植物の地上部を栽培する気体を介して、前記植物の地上部にパルス電界を印加する、前記(1)~(5)のいずれか一つに記載の植物の生産方法。
(7) 光源を用いて、前記植物の地上部に光を照射することを含む、前記(1)~(6)のいずれか一つに記載の植物の生産方法。
(8) 植物の地上部に照射される光の光強度が、150μmol m-2 s-1未満である、前記(7)に記載の植物の生産方法。
(9) 下記の植物栽培装置Aを用いて前記植物を栽培する場合の総電力消費量(A)と、
下記の植物栽培装置Bを用いて前記植物を栽培する場合の総電力消費量(B)と、が
(A)<(B)の関係を満たす、前記(1)~(8)のいずれか一つに記載の植物の生産方法。
植物栽培装置A:
植物の地上部にパルス電界を印加する一対の電極を備え、
前記電極の間に前記パルス電界の印加対象の前記植物の地上部を配置可能な、植物栽培装置。
植物栽培装置B:
前記栽培装置Aにおいて、前記電極を備えない、植物栽培装置。
(10) 前記栽培装置Aが、前記植物の地上部に光を照射する光源を備え、
前記植物栽培装置Aを用いて前記植物を栽培する場合の、前記パルス電界の印加、及び前記光源による前記光の照射に要する電力消費量(A1)と、
前記植物栽培装置Bを用いて前記植物を栽培する場合の、前記光源による前記光の照射に要する電力消費量(B1)と、が
(A1)<(B1)の関係を満たす、前記(9)に記載の植物の生産方法。
(11) 前記植物が葉物野菜である、前記(1)~(10)のいずれか一つに記載の植物の生産方法。
(12) 前記植物が、レタス、ミズナ、ホウレンソウ、コマツナ、ミツバ、ニラ、ネギ、バジル、パセリ、マスタードリーフ、シソ、クレソン、サンチュ、コリアンダー、モロヘイヤ、ルッコラ、シュンギク、ミント及びそれらの亜種、変種、品種又は雑種からなる群から選ばれる少なくとも一種である、前記(11)に記載の植物の生産方法。
(13) 前記植物の栽培方法が水耕栽培である、前記(1)~(12)のいずれか一つに記載の植物の生産方法。
(14) 植物の地上部にパルス電界を印加する植物栽培装置であって、
一対の電極を備え、
前記電極の間に前記パルス電界の印加対象の前記植物の地上部を配置可能な、植物栽培装置。
(15) 前記パルス電界の繰り返し周波数が2Hz超である、前記(14)に記載の植物栽培装置。
(16) 前記対向する一対の電極間の最小距離が30cm以下である、前記(14)又は(15)に記載の植物栽培装置。
(17) 前記植物の地上部に光を照射する光源を備える、前記(14)~(16)のいずれか一つに記載の植物栽培装置。
(18) 前記植物の地上部に照射される光の光強度が、150μmol m-2 s-1未満に設定される、前記(17)に記載の植物栽培装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、植物の生産性に優れた、植物の生産方法及び植物栽培装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態の植物栽培装置の構成を示す模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態の植物栽培装置の構成を示す模式図である。
【
図3】植物へのPEF処理の有無で、葉における炭素固定速度を比較した結果を示すグラフである。
【
図4】実施例の実験2における、植物へのPEF印加のタイミングを説明する図である。
【
図5】実施例の実験2において、植物に印加したPEFの出力波形を示す図である。
【
図6】植物へのPEF処理の有無で、葉の新鮮重量及び葉面積の値を比較した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の植物の生産方法、及び植物栽培装置の実施形態を説明する。
【0012】
≪植物栽培装置≫
(第一実施形態)
本実施形態の植物栽培装置は、植物の地上部にパルス電界を印加する植物栽培装置であって、一対の電極を備え、前記電極の間に前記パルス電界の印加対象の前記植物の地上部を配置可能なものである。
【0013】
実施形態の植物栽培装置によれば、植物の地上部にパルス電界を印加可能であるので、良好な成長状態で植物を栽培でき、植物の生産性を優れたものとできる。
【0014】
植物の地上部にパルス電界を印加することで、植物の成長に好影響を与えるメカニズムについては明らかではないが、後述の実施例に示すように、短時間のパルス電界の印加であっても、光合成を促進させることが示唆されている。
植物の成長状態が良好であることを示す指標としては、例えば植物の成長速度が促進される場合を例示でき、その評価項目としては、植物体の重量や、葉面積などが挙げられる。
【0015】
図1は、実施形態の植物栽培装置の構成を示す模式図である。
本実施形態の植物栽培装置1aは、植物の地上部にパルス電界を印加する一対の電極3a,3bを備える。ここでは、電極3a,3bの間に、パルス電界の印加対象の植物Pが配置されている様子を示す。植物栽培装置1aは、植物の地上部に光を照射する光源4を更に備える。
【0016】
植物栽培装置1aの内部は、植物の地上部を育成する空間と、植物の地下部を育成する空間とに仕切られ、該空間を仕切る仕切部材5を備えている。
植物の地下部は、地下部を育成する空間を形成する容器6によって覆われている。容器6には、栽培土や、水耕栽培であれば液体培地等を収容でき、植物の地下部を構成する根を育成できる。
【0017】
植物栽培装置1aは、植物工場での利用に好適であることから、水耕栽培用であることが好ましい。
【0018】
パルス電界は、原理上、電極の間に挟まれた空間にのみ印加される。電極3a,3bは、植物の地上部を育成する空間に設置されている。したがって、ここでは、植物の地上部のみに、パルス電界が印加され、パルス電界は、前記植物の地上部を栽培する気体を介して、植物の地上部に印加される。
上記気体は、例えば大気であってよい。大気の電気抵抗は理論上無限大であるので、植物体に流れる得る電流は、印加される電圧に比べて極めて小さい。
【0019】
なお、本明細書において、植物の地上部とは、植物の根以外の部分を差し、葉及び茎を含むシュートや、胚軸等を含む概念とする。パルス電界の印加対象は、地上部のうちでも、光合成を行う部分であることが好ましく、茎又は葉であることが好ましく、葉がより好ましい。葉には子葉も含まれる。
【0020】
広く且つ均一にパルス電界を印加する観点から、電極3a,3bは板状であることが好ましい。電極が板状である場合、電極3aと電極3bとは、互いに平行に配置されることが好ましい。
【0021】
前記電極3a,3b間の距離(
図1中、電極間距離dで表す)は、適宜定めればよいが、一例として、対向する一対の電極間の最小距離が30cm以下であることが好ましく、25cm以下であることがより好ましく、20cm以下であることがさらに好ましい。電極間距離は、対向する一対の電極の表面の任意の二点を直線で結んだ距離とする。
電極間距離の最小距離を上記上限値以下とすることで、電界強度を出力するために必要な電力を削減できる。また、後述する実施例でも示されるように、植物体のサイズが比較的小さな時期、即ち生育の旺盛な時期にパルス電界を印加して、植物の成長状態を良好とできることからも合理的である。
上記の電極間距離の最小距離の下限値は、栽培対象の植物のサイズに応じて適宜定めればよい。一例として、対向する一対の電極間の最小距離が5cm以上であることが好ましく、7cm以上であることがより好ましく、10cm以上であることがさらに好ましい。
上記で例示した電極間距離の最小距離の上限値と下限値とは、自由に組み合わせることができる。上記の対向する一対の電極間の最小距離の数値範囲の一例としては、5cm以上30cm以下であることが好ましく、7cm以上25cm以下であることがより好ましく、10cm以上20cm以下であることがさらに好ましい。
【0022】
植物栽培装置1aは、パルス電圧発生装置2を備えている。パルス電圧発生装置2は、電圧調整手段11と、パルス電圧発生手段12と、制御手段13と、入力手段14とを備えている。
【0023】
電圧調整手段11は、電源10より供給される電力の電圧を調整するものであり、パルス電圧発生手段12に供給する電圧の昇圧や降圧を行う。
【0024】
パルス電圧発生手段12は、11より供給される電力をパルス状に変換して端子部12a,12bより出力する役割を有する。
【0025】
制御手段13は、前述の電圧調整手段11及びパルス電圧発生手段12に電気的に接続されており、電圧調整手段11及びパルス電圧発生手段12の制御を行う。
【0026】
また、制御手段13にはコントロールパネルやキーボード等よりなる入力手段14が接続されており、使用者が同入力手段14を操作することにより、制御手段13に対して操作信号を入力可能に構成している。
【0027】
このような構成を有するパルス電圧発生装置2では、使用者が制御手段13に対し、入力手段14を用いて所定の電圧や印加時間、パルス波形等について入力すると、制御手段13は、電圧調整手段11に対して電圧を調整する信号を送信するとともに、パルス電圧発生手段12に対してパルス波形を調整する信号を送信する。
【0028】
電圧調整手段11は、制御手段13より送信された電圧調整信号に基づいてパルス電圧発生手段12へ供給する電力の電圧を調整する。
【0029】
また、パルス電圧発生手段12は、制御手段13より送信されたパルス波形調整信号に基づいて、電圧調整手段11より出力される電力をパルス状に変換し、端子部12a,12bより出力することとなる。
【0030】
実施形態の植物栽培装置1aにおける、パルス電界印加の条件(電界強度、パルス幅、印加時間、繰り返し周波数等)や、その他の光照射等の栽培条件は、後述する植物の生産方法に挙げるものを例示でき、ここでの詳細な説明を省略する。
【0031】
植物栽培装置1aは、植物の地上部に光を照射する光源4を備えている。光源4は、植物の光合成に必要な光を供給可能であって、植物が光合成に利用可能な波長域の光を発することが可能なものが好ましい。光源4としては、人工光源が好ましく、例えば、蛍光灯、発光ダイオード(LED)等を例示でき、消費電力の低減の観点からはLEDが好ましい。
【0032】
植物Pの地上部に照射される光の光強度は、特に制限されるものではない。しかし、本発明者らの研究により、植物の地上部にパルス電界を印加することで、植物の成長状態を良好とすることができるため、植物Pの地上部に照射される光の光強度を、通常よりも低く抑えることが可能なことを見出した。光強度を低下させることで、植物の栽培に必要な消費電力を低減できる。
【0033】
一般的な植物工場において、植物に照射される光の光量子束密度は、150μmol m-2 s-1以上であるが、植物の地上部にパルス電界を印加することで、150μmol m-2 s-1未満の光量子束密度であっても、植物の良好な成長が達成される。
【0034】
植物栽培装置1aでは、植物Pの地上部に照射される光の光強度が、150μmol m-2 s-1未満に設定されることが好ましく、100μmol m-2 s-1以下に設定されることがより好ましく、90μmol m-2 s-1以下に設定されることがさらに好ましく、80μmol m-2 s-1以下に設定されることが特に好ましい。
【0035】
上記の光強度の下限値は、栽培する植物種に応じて適宜定めることができるが、光合成の光補償点以上の光強度とすることが好ましい。なお、後述の実施例でも栽培対象としたレタスの光補償点は、25.2~33.6μmol m-2 s-1とされる。
【0036】
上記で例示した光強度の上限値と下限値とは、自由に組み合わせることができる。植物Pに照射される光の光強度は、例えば、植物Pの光補償点以上150μmol m-2 s-1未満に設定されることが好ましく、30μmol m-2 s-1以上100μmol m-2 s-1以下に設定されることがより好ましく、40μmol m-2 s-1以上90μmol m-2 s-1以下に設定されることがさらに好ましく、50μmol m-2 s-1以上80μmol m-2 s-1以下に設定されることが特に好ましい。
【0037】
なお、植物栽培装置内に外部からの太陽光が照射されるなど、植物に光源4以外からの光が照射されてもよい。即ち、植物Pに照射される光は、光源4に由来するものに限られない。この場合、植物Pの地上部に照射される光の光強度は、光源4に由来する光の他に、光源4以外に由来する光も含めた光の光強度とする。
【0038】
植物Pの地上部に照射される光の光強度は、一般的な光強度計により測定できる。ここでの光強度は、植物体の地上部と地下部の境界部分で(例えば、仕切部材5上に載置して)測定することができる。
【0039】
植物栽培装置1aで栽培される植物としては、後述する≪植物の生産方法≫に例示したものが挙げられる。
【0040】
(第二実施形態)
本実施形態の植物栽培装置1bは、上記の第一実施形態の植物栽培装置1aにおいて、植物に対する電極の設置形態が変更されたものである。なお、上記の第一実施形態の植物栽培装置1aと共通する点については、説明を省略する。
【0041】
上記の第一実施形態の植物栽培装置1aでは、電極3a,3bが、植物の地上部を育成する空間に設置され、植物の地上部のみにパルス電界が印加されよう構成されたものを例示している。
対して、本実施形態の植物栽培装置1bでは、電極3c,3dが、植物の地上部を育成する空間と、地下部を育成する空間との両方に(両方をまたいで)設置されており、植物の地上部及び地下部の両方にパルス電界が印加されよう構成されている。
また、電極3c,3dが、仕切部材5の端部よりも外側に設置されているので、仕切部材5や容器6の洗浄や、液体培地の入れ替えなどを簡便に行える利点がある。
【0042】
また、植物Pと電極3c,3dとの間に、絶縁部材31c,31dが設けられている。絶縁部材31c,31dによれば、植物Pが電極に直接接触する又は接近することなどを防止でき、意図しない放電からの装置故障の防止や、植物体の保護が可能となる。
絶縁部材31c,31dとしては、絶縁性の材料を含有する板を例示でき、防水機能を有するものが好ましい。絶縁部材31c,31dの材料としては、例えば、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂などが好適なものとして例示でき、これらに限定されない。
【0043】
絶縁部材の有無により、電極間の空気層にかかる電界強度に対する影響が小さいことも重要であるとの観点からは、絶縁部材31c,31dの材料は、空気の比誘電率約1に近い値を有することが好ましい。アクリル樹脂の比誘電率はおよそ3であり、上記の観点からも、絶縁部材の材料としてアクリル樹脂が好ましい。
なお、本明細書における「アクリル樹脂」とは、(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位を有する重合体を意味する。
【0044】
以上に説明したように、実施形態の植物栽培装置によれば、植物の地上部にパルス電界を印加可能であるので、良好な成長状態で植物を栽培でき、植物の生産性を優れたものとできる。
【0045】
実施形態の植物栽培装置は、後述の実施形態の植物の生産方法に好適に用いることができる。
【0046】
≪植物の生産方法≫
<パルス電界印加>
本実施形態の植物の生産方法(以下、「生産方法」と略す。)は、植物の地上部にパルス電界を印加することを含む。
以下、上段で説明した実施形態の植物栽培装置1aを使用した場合を例に、本実施形態の生産方法について説明することがある。ただし、本発明の植物の生産方法は、前記植物栽培装置を使用した方法に限定されない。
【0047】
植物の地上部にパルス電界を印加するため、植物栽培装置1a(
図1参照)の、対向する一対の電極3a,3bの間に、パルス電界の印加対象の植物Pを配置する。
植物Pは、この電極3a,3bの間の空間で予め育成されたものであってよく、まずは別の場所で育成された後、電極3a,3bの間の空間へと配置されてもよい。植物が後から電極間に配置される場合、植物のほうを電極3a,3bの間の空間へと移動させてもよく、電極3a,3bのほうを植物Pがその間に位置する状態となるよう後から設置するのでもよい。
【0048】
そして、電極3a,3bの間に配置された植物Pの地上部にパルス電界を印加する。前記パルス電界は、前記植物の地上部の周囲に存在する気体を介して、植物の地上部に印加される。
【0049】
パルス電界は植物Pの地上部の全部に印加されてもよく、地上部の一部に印加されてもよい。パルス電界の印加対象は、地上部のうちでも、光合成を行う部分であることが好ましく、茎又は葉であることが好ましく、葉がより好ましい。葉には子葉も含まれる。
また、パルス電界は、植物Pの地上部に加えて、地下部にも印加されてよい。
【0050】
実施形態の生産方法によれば、植物の地上部にパルス電界を印加しない場合と、植物の地上部にパルス電界を印加する場合とを、その他の条件を揃えて比較したとき、パルス電界を印加したほうで、植物の成長が促進されるなど、植物の成長状態を良好なものとできる。
本発明の一実施形態として、植物の地上部にパルス電界を印加することを含む、植物の成長促進方法を提供できる。
【0051】
また、本発明者らの研究により、後述の実施例に示すように、植物の地上部にパルス電界を印加することにより、植物の光合成が促進されることが示されている。
本発明の一実施形態として、植物の地上部にパルス電界を印加することを含む、植物の光合成促進方法を提供できる。
【0052】
パルス電界の印加の条件は、パルス電界を印加しない条件と比較して、植物の成長状態を向上可能な程度に、適宜定めることができる。
【0053】
パルス電界の波形は、特に限定されるものではなく、例えば矩形波状、三角波状、正弦波状などのいずれであってもよい。なお、ここでの「波」とは、繰り返しの波のみならず、1回の波や、バースト波も含む概念である。
図5に、実施例で使用したパルス電界の波形を示す。ここでは、正弦波状の波形を示している。
【0054】
植物の地上部に印加するパルス電界の電界強度は、植物の成長状態の向上可能な程度に、適宜定めることができる。植物の地上部に印加するパルス電界の電界強度は、例えば、0.001kV/cm以上が好ましく、0.01kV/cm以上がより好ましく、0.05kV/cm以上がさらに好ましく、0.1kV/cm以上が特に好ましい。
上記パルス電界の電界強度の上限値は、植物に与える電界の影響を考慮し適宜定めることができる。消費電力の低減の観点からは、電界強度の値は低いほうが好ましい。植物の地上部に印加するパルス電界の電界強度は、例えば50kV/cm以下であってよく、10kV/cm以下であってよく、3kV/cm以下であってよく、1kV/cm以下であってもよい。
上記で例示したパルス電界の電界強度の上限値と下限値とは、自由に組み合わせることができる。植物の地上部に印加するパルス電界の電界強度の数値範囲の一例としては、0.001kV/cm以上50kV/cm以下であってよく、0.01kV/cm以上50kV/cm以下であってよく、0.05kV/cm以上10kV/cm以下であってよく、0.1kV/cm以上3kV/cm以下であってよく、0.1kV/cm以上1kV/cm以下であってもよい。
【0055】
上記の電界強度について、実際の電極3a,3bの間、特に植物Pが配置された状態では、電極間の空間内の電界強度が均一ではないことが想定される。したがって、ここでの植物の地上部に印加するパルス電界の電界強度は、電極間の平均電界強度であってよい。平均電界強度は、例えば、パルス電界を発生させる機器の設定値から求めることができる。植物の地上部に印加するパルス電界の電界強度(kV/cm)の値は、例えば、実施形態の植物栽培装置の、電極への印加電圧(kV)÷電極間距離(cm)により算出することができる。
【0056】
対向する一対の電極間に前記植物の地上部を配置して、前記植物の地上部にパルス電界を印加する場合には、前記電極間の最小距離としては、上記の実施形態の植物栽培装置にて、電極間の最小距離として例示した値が挙げられる。
【0057】
植物の地上部に印加するパルス電界のパルス幅(正弦波状の場合は半値幅)は、例えば、2000nsec以下であることが好ましく、300~2000nsecであることが好ましく、500~1500nsecであることがより好ましく、600~1300nsecであることがさらに好ましい。
【0058】
植物の地上部にパルス電界を印加する繰り返し周波数は、2Hz超が好ましく、10Hz超が好ましく、30Hz超が好ましく、40Hz以上がより好ましく、50Hz以上がさらに好ましく、100Hz以上が特に好ましい。
上記の下限値以上の繰り返し周波数にてパルス電界を印加することで、インピーダンスの大きい大気などの気体を介して植物の地上部にパルス電界を印加する場合であっても、効果的にストレスを与えることができ、植物の成長状態が良好となる。
植物の地上部にパルス電界を印加する繰り返し周波数の上限値は、例えば、10000Hz以下が好ましく、7000Hz以下がより好ましく、5000Hz以下がさらに好ましく、1000Hz以下が特に好ましい。
上記で例示した繰り返し周波数の上限値と下限値とは、自由に組み合わせることができる。植物の地上部にパルス電界を印加する繰り返し周波数の数値範囲の一例としては、2Hz超10000Hz以下であってもよく、10Hz超10000Hz以下であってもよく、30Hz超10000Hz以下であってもよく、40Hz以上7000Hz以下であってもよく、50Hz以上5000Hz以下であってもよく、100Hz以上1000Hz以下であってもよい。
【0059】
植物の地上部にパルス電界を印加する印加時間は、植物の種類や状態、パルス電界の強度、パルス幅等を考慮して、適宜定めればよいが、一例として、60秒以上であってよく、10分以上であってよく、0.5時間以上であってよい。
【0060】
ただし、植物の栽培は、数日以上の長期間である場合がほとんどであるので、植物の地上部にパルス電界を印加する印加時間の下限値は、上記よりも長めに設定することが好ましい。植物の地上部にパルス電界を印加する印加時間は、例えば、1時間以上であってよく、10時間以上であってよく、20時間以上であってよい。
上記印加時間の上限値は、特に制限されず、植物の栽培時間と同時間であってよく、例えば1000時間以下であってよく、500時間以下であってよく、100時間以下であってよい。
上記で例示した印加時間の上限値と下限値とは、自由に組み合わせることができる。植物の地上部にパルス電界を印加する印加時間の数値範囲の一例としては、1時間以上1000時間以下であってよく、10時間以上500時間以下であってよく、20時間以上100時間以下であってよい。
【0061】
なお、パルス電界の印加を途中で中断して、複数回に分けて行う場合の印加時間とは、その印加の合計の時間とする。また、パルス電界の印加時間には、パルスとパルスの間の休止時間も含める。
【0062】
植物の地上部に、2日以上にわたりパルス電界を印加する場合、1日あたりの印加時間は、例えば、10分以上であってよく、10分以上24時間以下であってよく、30分以上12時間以下であってよく、1時間以上5時間以下であってよい。
【0063】
植物の地上部に、2日以上にわたりパルス電界を印加する場合、その期間は、一例として、2~40日間であってよく、5~30日間であってよく、7~20日間であってよい。
【0064】
なお、パルス電界の印加を途中で中断して、複数日に分けて行う場合の印加日数とは、印加を行った日のみを数えた合計とする。
【0065】
パルス電界の印加対象の植物は、成長段階の比較的早い時期のものであることが好ましい。これは、おそらく早い時期であるほど、植物の細胞分裂の活性などが高いため、パルス電界照射の成長促進の効果がより顕著に発揮されるためと考えられる。
上記の観点から、パルス電界印加期間としては、植物の総栽培期間(発芽後~収穫までの期間)の前半の時期を含むよう行うことが好ましい。
パルス電界印加期間としては、例えば発芽後30日以内の時期であってよく、発芽後25日以内の時期であってよく、発芽後20日以内の時期であってよい。別の側面としては本葉の枚数が5枚以下の時期であってよく、3枚以下の時期であってよい。
また、この時期におけるパルス電界印加期間は、1~30日間としてもよく、3~25日間としてもよく、5~20日間としてもよく、6~15日間としてもよい。上記の日数は連続した日数であってもよく、非連続の日数の合計であってもよい。
【0066】
植物の栽培期間のうち、パルス電界を印加しない“パルス電界非印加期間”と、パルス電界を印加する“パルス電界印加期間”と、の両方を設けてもよい。
例えば、発芽から一定期間の間は、パルス電界を印加しない“パルス電界非印加期間”とし、その後、パルス電界を印加する“パルス電界印加期間”とすることができる。すなわち、パルス電界非印加期間の後に、パルス電界印加期間を設けることができる。このような栽培スケジュールとすることで、発芽直後の小さな植物体に、パルス電界印加による過度なストレスがかかるおそれが防止される。
パルス電界非印加期間としては、例えば、植物の播種後~発芽時点をパルス電界非印加期間として含み、発芽後14日以内の時期であってよく、発芽後10日以内の時期であってよく、発芽後7日以内の時期であってよく、その間の連続した1~14日間としてもよく、2~10日間としてもよく、3~7日間としてもよい。
【0067】
<光照射>
本実施形態の植物の生産方法は、植物の地上部にパルス電界を印加することの他に、植物の地上部に光を照射することを更に含んでもよい。
【0068】
前記光の照射としては、光源を用いて植物の地上部に光を照射することであってもよい。
光源としては、上記の実施形態の植物栽培装置で例示したものが挙げられる。
【0069】
植物の地上部に照射される光の光強度は、特に制限されるものではなく、一例として、上記の実施形態の植物栽培装置で例示した値を例示できる。
【0070】
植物の地上部に照射される光の光強度は、150μmol m-2 s-1未満であることが好ましく、100μmol m-2 s-1以下であることがより好ましく、90μmol m-2 s-1以下であることがさらに好ましく、80μmol m-2 s-1以下であることが特に好ましい。
【0071】
上記の光強度の下限値は、栽培する植物種に応じて適宜定めることができるが、光合成の光補償点以上の光強度とすることが好ましい。
【0072】
上記で例示した光強度の上限値と下限値とは、自由に組み合わせることができる。植物に照射される光の光強度は、例えば、植物の光補償点以上150μmol m-2 s-1未満であることが好ましく、30μmol m-2 s-1以上100μmol m-2 s-1以下であることがより好ましく、40μmol m-2 s-1以上90μmol m-2 s-1以下であることがさらに好ましく、50μmol m-2 s-1以上80μmol m-2 s-1以下であることが特に好ましい。
【0073】
なお、植物の地上部に照射される光は、光源によるものに限られず、かかる場合に植物に照射される光の光強度は、光源以外に由来する光も含めた光の光強度とする。
【0074】
植物の地上部に照射される光の光強度は、一般的な光強度計により測定できる。ここでの光強度は、植物体の地上部の少なくとも一部に照射された光の光強度の最大値とする。
【0075】
光の照射は、植物に光合成を行わせるために実施でき、栽培期間中のほぼ毎日(例えば、発芽後~収穫までの栽培期間中の全日数に対して9割以上の日数)実施することができる。
【0076】
植物の地上部への1日あたりの光照射時間は、栽培する植物種や上記光強度、花芽形成等を考慮して適宜定めればよいが、一例として、8時間以上であってよく、8時間以上24時間以下であってよく、10時間以上22時間以下であってよく、14時間以上20時間以下であってよい。
【0077】
植物の地上部に光を照射する総時間に対し、光強度150μmol m-2 s-1未満の光を照射する時間の割合が50~100%であることが好ましく、80~99.5%であることがより好ましく、90~99%であることがさらに好ましい。
【0078】
実施形態の生産方法において、植物の地上部にパルス電界を印加することと、光源を用いて植物の地上部に光を照射すること、の両方を行う場合、以下の各手順を例示できる。
手順1:植物の地上部にパルス電界を印加することと、光源を用いて植物の地上部に光を照射すること、を同時に行う。
手順2:植物の地上部にパルス電界を印加することと、光源を用いて植物の地上部に光を照射すること、を同時に行わない。
【0079】
上記の手順2として、以下の手順2-1及び手順2-2を例示できる。
手順2-1:植物の地上部にパルス電界を印加した後、光源を用いて植物の地上部に光を照射する。
手順2-2:光源を用いて植物の地上部に光を照射した後、植物の地上部にパルス電界を印加する。
【0080】
上記の手順のうちでは、手順1が好ましい。手順1とは、パルス電界の印加と光の照射とが同時となるときがあればよいのであって、パルス電界の印加と光の照射の期間は同一でなくともよい。
【0081】
<消費電力の検討>
上述のとおり、本発明者らは、植物の地上部にパルス電界を印加することで、植物の成長状態を良好とすることができることを見出だした。実施形態のパルス電界の印加に必要な消費電力は、植物栽培に要する設備が消費する電力の全体量に対し、非常に低く設定可能である。そのため、植物の成長促進等のため使用していた消費電力量の総量を低減することができる。
【0082】
本発明の一実施形態として、
下記の植物栽培装置Aを用いて前記植物を栽培する場合の総電力消費量(A)と、
下記の植物栽培装置Bを用いて前記植物を栽培する場合の総電力消費量(B)と、が
(A)<(B)の関係を満たす、植物の生産方法を提供する。
【0083】
植物栽培装置A: 植物の地上部にパルス電界を印加する一対の電極を備え、
前記電極の間に前記パルス電界の印加対象の前記植物の地上部を配置可能な、植物栽培装置。
植物栽培装置B: 前記栽培装置Aにおいて、前記電極を備えない、植物栽培装置。
【0084】
かかる生産方法においては、栽培装置Bによる栽培と栽培装置Aによる栽培とで、前記植物の生育を同等とする、又は栽培装置Bによる栽培よりも栽培装置Aによる栽培のほうで、前記植物の生育を促進させることが好ましい。
【0085】
上記生産方法の一例として、本発明者らは、植物の地上部にパルス電界を印加することで、植物の成長状態を良好とすることができることから、植物に照射される光の光強度を、通常よりも低く抑えることが可能なことを見出だした。光照射に必要な電力量は、植物栽培に要する設備が消費する電力量のうちで大きな割合を占めるので、実施形態のパルス電界の印加に必要な消費電力は、光照射に要する消費電力よりも、容易に低く設定可能である。
【0086】
本発明の一実施形態として、
前記栽培装置Aが、前記植物の地上部に光を照射する光源を備え、
前記植物栽培装置Aを用いて前記植物を栽培する場合の、前記パルス電界の印加、及び前記光源による前記光の照射に要する電力消費量(A1)と、
前記植物栽培装置Bを用いて前記植物を栽培する場合の、前記光源による前記光の照射に要する電力消費量(B1)と、が
(A1)<(B1)の関係を満たす、植物の生産方法を提供する。
【0087】
上記生産方法としては、例えば、パルス電界の印加及び前記光照射を併用し、光源により照射する光の光強度を低下させることで、パルス電界の印加及び光照射に要する総電力量を削減することができる。
上記生産方法としては、例えば、既存の栽培設備にパルス電界の印加手段を新たに導入し、従来よりも光源による光照射の光強度を低減させ、消費電力を低減させた場合等が該当する。
【0088】
前記光強度は、上記の実施形態の植物栽培装置で例示した値にまで低減させることを例示でき、一例として、栽培装置Aにおける前記光照射の光強度を150μmol m-2 s-1未満に低減させることが好ましく、100μmol m-2 s-1以下に低減させることがより好ましく、90μmol m-2 s-1以下に低減させることがさらに好ましく、80μmol m-2 s-1以下に低減させることが特に好ましい。
【0089】
<植物>
パルス電界の印加対象の植物は、特に制限されるものではない。実施形態の生産方法は、植物工場での適用に好適であることから、植物工場で栽培され得る植物が好ましい。
上記の観点から、パルス電界の印加対象の植物は、種子植物であることが好ましく、ヒトが食用とする野菜類又は果物類であることがより好ましく、葉を食用部位とする葉物野菜(葉菜類)であることがより好ましい。葉物野菜としては、レタス、ミズナ、ホウレンソウ、コマツナ、ミツバ、ニラ、ネギ、バジル、パセリ、マスタードリーフ、シソ、クレソン、サンチュ、コリアンダー、モロヘイヤ、ルッコラ、シュンギク、ミント及びそれらの亜種、変種、品種又は雑種からなる群から選ばれる少なくとも一種を例示できる。上記の中では、レタス(Lactuca sativa)が好ましく、リーフレタス(Lactuca sativa var. crispa)が特に好ましい。
【0090】
実施形態の生産方法は、植物工場での適用に好適であることから、植物の栽培方法は、水耕栽培であることが好ましい。
【0091】
以上に説明したように、実施形態の生産方法によれば、植物の地上部にパルス電界を印加することを含むので、植物の生産性に優れる。
【0092】
実施形態の生産方法は、上述の実施形態の植物栽培装置を使用して実施することができる。
【実施例0093】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0094】
[実験1]
リーフレタス(Lactuca sativa L.)の一種であるフリルアイス(登録商標)(Frillice, Snow Brand Seed Co.,Ltd.,Japan)を対象とし、このリーフレタスの葉部にPEFを印加し、その光合成への影響を調査した。
【0095】
・実験方法
播種・発芽後に水耕栽培したリーフレタスを、播種後20日前後(播種後19~22日)まで栽培した。
PEF印加は、播種後20日前後のリーフレタス(4株)に対して行った。
【0096】
リーフレタスの栽培には、市販の水耕栽培器(Green Farm,株式会社ユーイング製)を使用し、その装置内にPEFを発生させる電極を設置した。
PEFの発生には、SIサイリスタを開放スイッチに用いた誘導性エネルギー貯蓄方式を採用している自作の誘導性エネルギー蓄積方式パルスパワー電源(IES電源)を用いた。
リーフレタスの地上部へのPEF印加(一部地下部への印加む含む)を行うために、ステンレス製の平板対平板電極を平行に設置した(
図2)。
【0097】
リーフレタスに照射する光の光源には、上記水耕栽培器付属の白色LED照明を用い、連続明期16時間/連続暗期8時間の条件で、光強度75μmol m-2 s-1に設定した。なお、光強度は、照度計(AR813A)を用い、水耕栽培液を仕切る仕切板の上に設置して測定した。
【0098】
PEFの印加条件は以下である。
出力パルス幅:1μs
繰り返し周波数:0.1kHz又は0.5kHz
印加電圧:3.0kV
電極間隔:15cm
電界強度:0.2kV/cm
印加時間:5分(明期の間に印加)
【0099】
比較対象となるcontrolサンプルは、電界強度0kV/cmでPEF処理サンプルと同様の処理を施した。
【0100】
光合成への影響の測定に関しては、植物光合成総合解析システム(LI-6800,LI-COR Ltd.,USA)を用い、測定チャンバーに葉を挟み込むことで、光合成におけるカルビン回路内の炭素固定速度を測定した。この際、PEF処理後の経時変化による影響を最小限に抑えるために、レタス1株につき1枚の葉を測定した。
【0101】
・結果および考察
Controlと、各繰り返し周波数条件下でPEF処理を施した植物の葉とにおける炭素固定速度の結果を
図3に示す。
図3より、PEF処理サンプルで、controlサンプルと比較して炭素固定速度の増加が確認された。
炭素固定速度の増加は、植物の栄養となる糖生成に必要なADPやNADP+といった化学エネルギーの生成活性化を示唆している。したがって、PEF処理を施すことで、光合成の活性化を引き起こし、糖生成を盛んにする可能性が考えられる。
【0102】
[実験2]
上記実験1と同様に、リーフレタス(Lactuca sativa L.)の一種であるフリルアイス(Frillice, Snow Brand Seed Co.,Ltd.,Japan、以下単にリーフレタスと呼ぶ。)を対象とし、このリーフレタスの地上部にPEFを印加し、その生育への影響を調査した。
【0103】
・実験方法
PEF印加は、播種・発芽後に水耕栽培した播種後10~20日(発芽後7~17日目)のリーフレタス(6株)に対して行った(
図4参照)。
【0104】
リーフレタスの栽培には、市販の水耕栽培器(Green Farm,株式会社ユーイング製)を使用し、その装置内にPEFを発生させる電極を設置した。
PEFの発生には、SIサイリスタを開放スイッチに用いた誘導性エネルギー貯蓄方式を採用している自作の誘導性エネルギー蓄積方式パルスパワー電源(IES電源)を用いた。
リーフレタスの地上部へのPEF印加を行うために、ステンレス製の平板対平板電極を平行に設置した(
図1)。
【0105】
リーフレタスへの光照射は、上記実験1と同様に、連続明期16時間/連続暗期8時間の条件で、光強度75μmol m-2 s-1に設定した。
【0106】
PEFの印加条件は以下である。PEFの出力波形を
図5に示す。
出力パルス幅:1μs
繰り返し周波数:1kHz
印加電圧:4.0kV
電極間隔:20cm
電界強度:0.2kV/cm
印加時間:播種後10~20日の11日間のうち、1日当たり3時間で計33時間(明期の間に印加)
【0107】
比較対象となるcontrolサンプルは、電界強度0kV/cmでPEF処理サンプルと同様の処理を施した。
【0108】
PEF印加後の播種後20日目の植物体を収穫し、葉の新鮮重の総重量(fresh weight)及び葉面積を計測した。葉面積は、1個体あたりの全ての葉の葉面積の総和であり、値は6株の平均値である。
【0109】
・結果
Controlと、PEF処理を施した植物の葉とにおける、葉の新鮮重の総重量(fresh weight)及び葉面積の結果を
図6に示す。
図6中の**は、有意水準を表すp値が「p<0.01」であることを示す。
図6に示される結果より、パルス電界を植物体の地上部へ1日あたり3時間印加することで、印加しない未処理区よりも成長促進(葉重量70%増、葉面積63%増)効果が得られた。
このことは、通常の栽培環境である150 μmol m
-2 s
-1の半値の75 μmol m
-2 s
-1という、比較的低い光強度の栽培環境であっても、良好な栽培を実現できることを示すものであり、植物生産の照明費等の抑制に資するものである。
【0110】
各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。また、本発明は各実施形態によって限定されることはなく、請求項(クレーム)の範囲によってのみ限定される。