(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022050261
(43)【公開日】2022-03-30
(54)【発明の名称】リチウム金属電池用電解質添加剤、ゲル状高分子電解質及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0567 20100101AFI20220323BHJP
H01M 10/0565 20100101ALI20220323BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20220323BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/0565
H01M10/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2020156771
(22)【出願日】2020-09-17
(71)【出願人】
【識別番号】301029388
【氏名又は名称】時空化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】謝 正坤
(72)【発明者】
【氏名】官 国清
(72)【発明者】
【氏名】武 志俊
(72)【発明者】
【氏名】関 和治
(72)【発明者】
【氏名】阿布 里提
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ02
5H029AJ05
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL12
5H029AM16
5H029CJ08
5H029HJ02
5H029HJ07
(57)【要約】
【課題】リチウム金属電池に優れた高電圧安定性及びサイクル性能をもたらすことができる電解質を形成するために適したリチウム金属電池用電解質添加剤、並びに、この添加剤を含むゲル状高分子電解質及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のリチウム金属電池用電解質添加剤は、下記一般式(1)
CX1X2X3―A―R (1)
(式(1)中、
Rは―(CH2)n―CX4X5X6を表し、
X1、X2、X3、X4、X5及びX6はハロゲン原子又は水素原子を表し、
X1、X2及びX3のうちの少なくとも一つはハロゲン原子であり、
X4、X5及びX6の少なくとも一つはハロゲン原子であり、
Aは―COO―、―C(=O)―、―SO2―、―SO3―、又は、―Si(=O)―を表す。nは1~5の数である。)
で表されるハロゲン含有化合物を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム金属電池用電解質添加剤であって、
下記一般式(1)
CX1X2X3―A―R (1)
(式(1)中、
Rは―(CH2)n―CX4X5X6を表し、
X1、X2、X3、X4、X5及びX6はハロゲン原子又は水素原子を表し、
X1、X2及びX3のうちの少なくとも一つはハロゲン原子であり、
X4、X5及びX6の少なくとも一つはハロゲン原子であり、
Aは―COO―、―C(=O)―、―SO2―、―SO3―、又は、―Si(=O)―を表す。nは1~5の数である。)
で表されるハロゲン含有化合物を含む、電解質添加剤。
【請求項2】
請求項1に記載の電解質添加剤と、電解質塩と、ポリマー成分とを含む、ゲル状高分子電解質。
【請求項3】
前記ポリマー成分が、カーボネート化合物、環状エーテル化合物及び鎖状エーテル化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の重合性化合物の重合体を含む、請求項2に記載のゲル状高分子電解質。
【請求項4】
前記電解質添加剤が前記重合性化合物に対して、0.1~70体積%含まれる、請求項2又は3に記載のゲル状高分子電解質。
【請求項5】
請求項2~4のいずれか1項に記載のゲル状高分子電解質を備える、リチウム金属電池。
【請求項6】
ゲル状高分子電解質の製造方法であって、
請求項1に記載の電解質添加剤と、電解質塩と、溶媒とを用いてゲル状高分子電解質を得る工程を含み、
前記溶媒がカーボネート化合物、環状エーテル化合物及び鎖状エーテル化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の重合性化合物を含む、ゲル状高分子電解質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム金属電池に用いられる電解質添加剤、並びに該電解質添加剤を含むゲル状高分子電解質及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム金属は比容量が非常に大きいため、充電式リチウム金属電池(いわゆるLMB)は魅力的なエネルギー貯蔵デバイスの1つとして認識されている。例えば、充電式リチウム金属電池の代表例であるリチウムイオン電池の分野では、電池性能をより向上させるべく、種々の電解質材料が研究されている。
【0003】
斯かる電解質材料として、液体電解質が知られているが、液体電解質をリチウム金属電池に適用する場合、リチウムデンドライトの生成及び寄生反応がリチウム金属電極表面で発生しやすくなり、これが原因でLMBのサイクル寿命が短くなりやすいという問題が起こり得る。この問題点を解決すべく、液体電解質を固体電解質で代替した全固体電池が有望視されているが、全固体電池にあっても、例えば、低イオン伝導率性であると共に高界面抵抗であることから、全固体電池の実用化への壁となっている。この観点から、最近、擬固体ゲルポリマー電解質、つまり、ゲル状高分子電解質をリチウム金属電池に適用することが提案されている(例えば、非特許文献1、2等を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Liu et al., Sci. Adv. 2018; 4: eaat5383 5 October 2018
【非特許文献2】Nature Energy、4(2019)365-373
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、近年のリチウム金属電池に対する要求の高まりから、例えば、電解質材料においては、リチウム金属電池に優れた高電圧安定性及びサイクル性能をもたらし得る電解質材料の開発が強く望まれていた。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、リチウム金属電池に優れた高電圧安定性及びサイクル性能をもたらすことができる電解質を形成することができるリチウム金属電池用電解質添加剤、並びに、この添加剤を含むゲル状高分子電解質及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の化学構造を有する化合物をリチウム金属電池用電解質添加剤として使用することにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
項1
リチウム金属電池用電解質添加剤であって、
下記一般式(1)
CX1X2X3―A―R (1)
(式(1)中、
Rは―(CH2)n―CX4X5X6を表し、
X1、X2、X3、X4、X5及びX6はハロゲン原子又は水素原子を表し、
X1、X2及びX3のうちの少なくとも一つはハロゲン原子であり、
X4、X5及びX6の少なくとも一つはハロゲン原子であり、
Aは―COO―、―C(=O)―、―SO2―、―SO3―、又は、―Si(=O)―を表す。nは1~5の数である。)
で表されるハロゲン含有化合物を含む、電解質添加剤。
項2
項1に記載の電解質添加剤と、電解質塩と、ポリマー成分とを含む、ゲル状高分子電解質。
項3
前記ポリマー成分が、カーボネート化合物、環状エーテル化合物及び鎖状エーテル化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の重合性化合物の重合体を含む、項2に記載のゲル状高分子電解質。
項4
前記電解質添加剤が前記重合性化合物に対して、0.1~70体積%含まれる、項2又は3に記載のゲル状高分子電解質。
項5
項2~4のいずれか1項に記載のゲル状高分子電解質を備える、リチウム金属電池。
項6
ゲル状高分子電解質の製造方法であって、
項1に記載の電解質添加剤と、電解質塩と、溶媒とを用いてゲル状高分子電解質を得る工程を含み、
前記溶媒がカーボネート化合物、環状エーテル化合物及び鎖状エーテル化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の重合性化合物を含む、ゲル状高分子電解質の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明のリチウム金属電池用電解質添加剤は、リチウム金属電池に優れた高電圧安定性及びサイクル性能をもたらすことができる電解質を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1で製作した電解質を備える電池の電圧推移を示すグラフである。
【
図2】実施例1で製作した電解質を備える電池のサイクル安定性の評価結果を示すグラフである。
【
図3】実施例2で製作した電解質を備える電池の電圧-電流の関係を示すグラフである。
【
図4】実施例2で製作した電解質を備える電池のサイクル安定性の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0012】
1.リチウム金属電池用電解質添加剤
本発明のリチウム金属電池用電解質添加剤(以下、単に「電解質添加剤」という)は、後記するゲル状高分子電解質を形成するための添加剤であって、特に、ゲル状ポリマーを形成することができる役割を果たし得る。したがって、本発明の電解質添加剤は、ゲル状高分子電解質を形成するための、いわゆる「誘導剤」である。
【0013】
本発明の電解質添加剤は、下記一般式(1)
CX1X2X3―A―R (1)
で表されるハロゲン含有化合物を含む。
【0014】
ここで、前記式(1)中、
Rは―(CH2)n―CX4X5X6を表し、
X1、X2、X3、X4、X5及びX6はハロゲン原子又は水素原子を表し、
X1、X2及びX3のうちの少なくとも一つはハロゲン原子であり、
X4、X5及びX6の少なくとも一つはハロゲン原子であり、
Aは、
―COO―、
―C(=O)―、
―SO2―、
―SO3―、又は、
―Si(=O)―
を表す。つまり、AはCX1X2X3基と、R基との間に存在する2価の基である。また、nは1~5の数である。
【0015】
前記式(1)において、ハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子である。ハロゲン原子は、リチウム金属電池に優れた高電圧安定性及びサイクル性能をもたらすことができる電解質を形成しやすいという点で、ハロゲン原子は、フッ素原子であることが好ましい。
【0016】
前記式(1)において、X1、X2及びX3のうちの二以上がロゲン原子であることが好ましく、X1、X2及びX3すべてがハロゲン原子であることがより好ましく、すべてがフッ素原子であることが特に好ましい。つまり、前記式(1)において、CX1X2X3基はCF3基(トリフルオロ基)であることが特に好ましい。この場合、電解質添加剤は、リチウム金属電池に優れた高電圧安定性及びサイクル性能をもたらすことができる電解質を形成しやすい。
【0017】
前記式(1)において、R中(―(CH2)n―CX4X5X6中)のnは1~4であることが好ましく、1~3であることがより好ましく、1又は2であることがさらに好ましく、1であることが特に好ましい。この場合、電解質添加剤は、リチウム金属電池に優れた高電圧安定性及びサイクル性能をもたらすことができる電解質を形成しやすい。
【0018】
前記式(1)において、R中(―(CH2)n―CX4X5X6中)のX4、X5及びX6は、これらのうちの二以上がロゲン原子であることが好ましく、X4、X5及びX6すべてがハロゲン原子であることがより好ましく、すべてがフッ素原子であることが特に好ましい。つまり、前記式(1)において、CX4X5X6基はCF3基(トリフルオロ基)であることが特に好ましい。この場合、電解質添加剤は、リチウム金属電池に優れた高電圧安定性及びサイクル性能をもたらすことができる電解質を形成しやすい。
【0019】
式(1)で表されるハロゲン含有化合物において、Aが―COO―(エステル)である場合、エステルの炭素原子がCX1X2X3の炭素原子と共有結合する。また、式(1)で表される化合物において、Aが―SO3―(スルホ基)である場合、スルホ基の硫黄原子がCX1X2X3の炭素原子と共有結合する。
【0020】
式(1)で表されるハロゲン含有化合物において、Aは―COO―、つまりエステルであることが好ましい。この場合、電解質添加剤は、リチウム金属電池に優れた高電圧安定性及びサイクル性能をもたらすことができる電解質を形成しやすい。
【0021】
式(1)で表されるハロゲン含有化合物のさらなる具体例としては、2,2,2-トリフルオロエチルトリフルオロアセテート(2,2,2-Trifluoroethyl Trifluoroacetate)を挙げることができる。
【0022】
式(1)で表されるハロゲン含有化合物は、例えば、常温で液体であることが好ましい。具体的に、式(1)で表されるハロゲン含有化合物は、大気圧下、15℃において液体であることが好ましい(例えば、式(1)で表されるハロゲン含有化合物の融点は15℃以下である)。この場合、後記するゲル状高分子電解質を作製しやすい。
【0023】
電解質添加剤は、前記式(1)で表されるハロゲン含有化合物を1種又は2種以上含むことができる。
【0024】
電解質添加剤は、本発明の効果が阻害されない限り、他の化合物及び添加剤等の他の成分を含むことができる。電解質添加剤が他の成分を含む場合、その含有割合は、前記ハロゲン含有化合物の全質量に対して5質量%以下、好ましくは1質量%以下、より好ましくは、0.1質量%以下、特に好ましくは0.05質量%以下とすることができる。電解質添加剤は、前記ハロゲン含有化合物のみとすることもできる。
【0025】
電解質添加剤は、前記ハロゲン含有化合物と同様、後記するゲル状高分子電解質を作製しやすいという点で、常温で液体であることが好ましく、具体的に、大気圧下、15℃において液体であることが好ましい。
【0026】
電解質添加剤は、後記する電解質塩及び溶媒に共存させることで、ゲル状高分子電解質を形成することができ、前述のように、電解質添加剤は、誘導剤(特に液体誘導剤)としての役割を果たすことができる。電解質添加剤を用いて得られるゲル状高分子電解質は、リチウム金属電池の電解質として使用することで当該リチウム金属電池に優れた高電圧安定性及びサイクル性能をもたらすことができる。従って、電解質添加剤は、リチウム金属電池への使用に適しており、特に、リチウム金属電池の電解質を形成するための添加剤として適している。
【0027】
2.ゲル状高分子電解質
本発明のゲル状高分子電解質は、前述の本発明の電解質添加剤と、電解質塩と、ポリマー成分とを含む。斯かるゲル状高分子電解質は、リチウム金属電池の電解質材料として使用することができる。
【0028】
電解質塩の種類は特に限定されず、例えば、リチウム金属電池の電解質に含まれる公知の電解質塩を広く挙げることができる。電解質塩としては、例えば、アルカリ金属塩(例えば、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等)を挙げることができる。
【0029】
リチウム塩としては、LiPF6(六フッ化リン酸リチウム)、LiClO4、LiBF4、リチウムビスフルオロスルホニルイミド(LiFSI)、リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(LiTFSI)、リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)、リチウムジフルオロ(シュウ酸塩)ホウ酸塩(LiDFOB)等が例示される。ナトリウム塩としては、NaClO4、NaBF4、ナトリウムトリフルオロメタンスルホン酸塩(NaOTf)等が例示される。ナトリウム塩としては、KPF6、カリウムトリフルオロメタンスルホンイミド(KTFSI)等が例示される。その他、電解質塩としては、Mg(TFSI)2、Al(TFSI)3が挙げられる。
【0030】
電解質塩は、リチウム塩であることが好ましい。この場合、ゲル状高分子電解質は、リチウム金属電池に優れた高電圧安定性及びサイクル性能をもたらしやすい。
【0031】
ゲル状高分子電解質は、電解質塩を1種のみ含むことができ、あるいは、異なる2種以上を含むこともできる。
【0032】
ポリマー成分としては、例えば、カーボネート化合物、環状エーテル化合物及び鎖状エーテル化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の重合性化合物の重合体を挙げることができる。
【0033】
前記カーボネート化合物は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等を挙げることができる。前記環状エーテル化合物としては、1,3-ジオキソラン(DOL)等を挙げることができる。前記鎖状エーテル化合物としては、1,2-ジメトキシエタン(DME)等を挙げることができる。
【0034】
ポリマー成分は、環状エーテル化合物の重合体であることが好ましい。この場合、ゲル状高分子電解質の調製が容易であり、また、ゲル状高分子電解質は、リチウム金属電池に優れた高電圧安定性及びサイクル性能をもたらしやすい。中でもポリマー成分は、1,3-ジオキソラン(DOL)の重合体であることが好ましい。
【0035】
ポリマー成分は、後記するように、電解質添加剤が誘導剤して作用することで形成され得る。
【0036】
ゲル状高分子電解質は、ポリマー成分を1種のみ含むことができ、あるいは、異なる2種以上を含むこともできる。ポリマー成分の重合度及び分子量もゲル状になる限りは特に限定されない。
【0037】
ゲル状高分子電解質において、電解質添加剤、電解質塩及びポリマー成分の含有割合は特に限定されない。例えば、電解質添加剤の含有割合は、ポリマー成分を構成するための単量体の全量に対して0.01~99体積%とすることができ、0.1~70体積%であることが好ましく、0.2~40体積%であることがより好ましく、0.5~10体積%であることがさらに好ましく、1~5体積%であることが特に好ましい。言い換えれば、電解質添加剤の含有割合は、前記重合性化合物の全量に対して0.01~99体積%とすることができ、0.1~70体積%であることが好ましく、0.2~40体積%であることがより好ましく、0.5~10体積%であることがさらに好ましく、1~5体積%であることが特に好ましい。
【0038】
電解質塩の含有割合は、ポリマー成分を構成するための単量体の全量に対して0.5~7.0Mであることが好ましく、0.8~4.5Mであることがより好ましく、1.0~3.0Mであることがさらに好ましい。
【0039】
ゲル状高分子電解質は、本発明の効果が阻害されない限りは、電解質添加剤、電解質塩及びポリマー成分以外の他の成分を含むことができる。他の成分としては、例えば、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)等のポリマーベースの電解質が挙げられる。ゲル状高分子電解質が他の成分を含む場合、その含有割合は、電解質添加剤、電解質塩及びポリマー成分の全量に対して5質量%以下、好ましくは1質量%以下、より好ましくは、0.1質量%以下、特に好ましくは0.05質量%以下とすることができる。ゲル状高分子電解質は、電解質添加剤、電解質塩及びポリマー成分のみで形成することもできる。
【0040】
ゲル状高分子電解質は、完全な固体ではなく、高分子が膨潤した状態、つまり、ゲル状体である。従って、本発明のゲル状高分子電解質は、擬固体ゲルポリマー電解質(GPE)である。
【0041】
ゲル状高分子電解質は、リチウム金属電池の電解質材料として使用することで、当該リチウム金属電池に優れた高電圧安定性を付与でき、また、サイクル性能を向上させることができる。特に、ゲル状高分子電解質は、低い界面抵抗を有しやすく、リチウムを均一に析出させやすく、高いLiめっき/ストライピング効率を示し得る。
【0042】
ゲル状高分子電解質の製造方法は特に限定されない。例えば、前述の本発明の電解質添加剤と、電解質塩と、溶媒とを用いてゲル状高分子電解質を得る工程Aを含む製造方法Aによって、本発明のゲル状高分子電解質を得ることができる。
【0043】
製造方法Aにおいて、電解質塩は、前記ゲル状高分子電解質に含まれる電解質塩に対応するものである。
【0044】
製造方法Aにおいて、前記溶媒は、カーボネート化合物、環状エーテル化合物及び鎖状エーテル化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の重合性化合物を含む。つまり、製造方法Aで使用する溶媒は、前記ゲル状高分子電解質に含まれるポリマー成分を形成するための重合性化合物である。従って、カーボネート化合物は、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等を挙げることができ、環状エーテル化合物としては、1,3-ジオキソラン(DOL)等を挙げることができ、鎖状エーテル化合物としては、1,2-ジメトキシエタン(DME)等を挙げることができる。
【0045】
溶媒は重合性化合物のみであってもよいし、重合性化合物以外の溶媒が含まれていてもよい。
【0046】
溶媒は、環状エーテル化合物であることが好ましい。この場合、ゲル状高分子電解質の調製が容易であり、また、ゲル状高分子電解質は、得られるリチウム金属電池に優れた高電圧安定性及びサイクル性能をもたらしやすい。中でも溶媒は、1,3-ジオキソラン(DOL)の重合体であることが好ましい。
【0047】
製造方法Aにおいて、ゲル状高分子電解質は、例えば、電解質添加剤と、電解質塩と、溶媒とを所定の割合で混合することで得ることができる。混合の方法も特に限定されず、例えば、公知の混合機を使用することができる。
【0048】
混合時の温度も特に限定されず、例えば、10~40℃、好ましくは15~35℃とすることができる。混合時間も特に限定されず、例えば、0.5~48時間、好ましくは1~24時間とすることができる。
【0049】
電解質添加剤と、電解質塩と、溶媒とを割合で混合することで、溶媒である重合性化合物の重合反応が起こり、ポリマー成分が生成する。これにより、目的のゲル状高分子電解質が形成される。製造方法Aでは、電解質添加剤がいわゆる誘導剤として作用することで、重合反応が促進され、ポリマー成分が生成する。従って、製造方法Aは、いわゆるin-situ重合プロセスである。得られるゲル状高分子電解質はポリマー成分が膨潤した状態であり、擬固体ゲルポリマー電解質(GPE)である。
【0050】
製造方法Aにおいて、電解質添加剤と、電解質塩と、溶媒との使用割合は特に限定されない。例えば、電解質添加剤の使用割合は、溶媒(重合性化合物)の全量に対して0.01~99体積%とすることができ、0.1~70体積%であることが好ましく、0.2~40体積%であることがより好ましく、0.5~10体積%であることがさらに好ましく、1~5体積%であることが特に好ましい。
【0051】
製造方法Aにおいて、混合後の電解質塩の濃度が、溶媒に対して0.5~7.0Mであることが好ましく、0.8~4.5Mであることがより好ましく、1.0~3.0Mであることがさらに好ましい。
【0052】
製造方法Aによれば、ゲル状高分子電解質を低コストかつ容易に得ることができ、特に本発明の電解質添加剤を誘導剤として使用することで、in-situ重合でゲル状高分子電解質を得ることができるという利点がある。得られたゲル状高分子電解質は、リチウム金属電池の電解質材料として使用することで、当該リチウム金属電池に優れた高電圧安定性を付与でき、また、サイクル性能を向上させることができる。
【0053】
3.リチウム金属電池
本発明のリチウム金属電池は、前記ゲル状高分子電解質を備える、リチウム金属電池は本発明のゲル状高分子電解質を備える限りは、その他の構成は特に限定されず、例えば、公知と同様の構成とすることができる。リチウム金属電池は、カソード、アノード及びセパレータを備えることができる。電池の大きさ及び形状は、その用途に応じて適宜決定することができる。リチウム金属電池は、1次電池及び2次電池のいずれであってもよい。
【0054】
カソードは、例えば、金属箔に活物質が担持された構造を有することができる。金属箔としては、アルミニウム、チタン、白金、モリブデン、ステンレス、銅等が挙げられる。金属箔の形状は、例えば、多孔質体、箔、板、繊維からなるメッシュ等が挙げられる。カソードの活物質としては、公知の活物質を広く適用することができ、例えば、LiFePO4、LiCoO2、LiNixMnyCozO2(0.3≦x≦0.95、0.025≦y≦0.4、0.025≦y≦0.4)、LiNi1-y-zCoyAlzO2(0.05≦y≦0.15、0<z≦0.05)、LiMn2O4、LiMPO4(M=Co、Ni)、Li2FePO4F、V2O5、LiXV3O8(1.5≦x≦5.5)、Li1-XVOPO4(0.5≦x≦0.92)、Li4Ti5O12、LiFeMO4(M=Mn、Si)、S、Se、SeS2、Na3V2(PO4)3、Na2MnP2O7、NaFePO4、Na3MnZr(PO4)3等を挙げることができる。
【0055】
アノードは、例えば、金属箔に活物質が担持された構造を有することができる。金属箔としては、アルミニウム、チタン、白金、モリブデン、ステンレス、銅等が挙げられる。金属箔の形状は、例えば、多孔質体、箔、板、繊維からなるメッシュ等が挙げられる。アノードの活物質としては、Li、Na、K、Mg、Al、Zn等の金属;グラファイトおよび他の炭素材料;Si(C)ベース、Si(O)ベース又はSnベースの合金あるいは金属酸化物;Li4Ti5O12;等を挙げることができる。
【0056】
セパレータとしては、リチウム金属電池に適用されている公知のセパレータを使用することができ、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂;ポリイミド;ポリビニルアルコール;末端アミノ化ポリエチレンオキシドポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂;アクリル樹脂;ナイロン;芳香族アラミド;無機ガラス;セラミックス等の材質からなり、多孔質膜、不織布、織布等の形態の材料を用いることができる。セパレータとしては、その他、各種の高分子膜、および無機電解質を挙げることができる。無機電解質としては、例えば、LiLaTiO3、Li7La3Zr2O12(LLZO)、Na3Zr2Si2PO12、Na11Sn2PS12、Na3PSe4等が挙げられる。
【実施例0057】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0058】
(実施例1)
1.0mmolのリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(LiTFSI)と、10μLの2,2,2-トリフルオロエチルトリフルオロアセテート(電解質添加剤、つまり誘導剤)とを、1mLの1,3-ジオキソラン(DOL、重合性化合物)に溶解し、室温(25℃)で10時間保持することで、ゲル状高分子電解質を得た。得られたゲル状高分子電解質中の電解質添加剤(誘導剤)の含有割合は1体積%とした。
【0059】
(実施例2)
1.0mmolのLiTFSIと、50μLの2,2,2-トリフルオロエチルトリフルオロアセテートとを、1mLのDOLに溶解し、室温(25℃)で10時間保持することで、ゲル状高分子電解質を得た。得られたゲル状高分子電解質中の電解質添加剤(誘導剤)の含有割合は5体積%とした。
【0060】
(実施例3)
1.0mmolのLiTFSIと、100μLの2,2,2-トリフルオロエチルトリフルオロアセテートとを、1mLのDOLに溶解し、室温(25℃)で10時間保持することで、ゲル状高分子電解質を得た。得られたゲル状高分子電解質中の電解質添加剤(誘導剤)の含有割合は10体積%とした。
【0061】
(比較例1)
2,2,2-トリフルオロエチルトリフルオロアセテートを使用しなかったこと以外は実施例1と同様の方法でゲル状高分子電解質を得ようとしたが、ゲル状高分子電解質は得られず、液体状態(液体電解質)であった。
【0062】
(試験例1-1)
ポリプロピレン製セパレータ(厚み0.025mm、直径16mm)の両面を、実施例1で得られたゲル状高分子電解質で挟み込みようにして形成した電解質を用いて、CR2025タイプのコイン電池を組み立てた。具体的には、カソードとしてLiNi1/3Mn1/3Co1/3O2(宝泉社製、厚み0.05mm、1.5mAhcm-2)が形成されたアルミニウム箔(厚み0.05mm)を、アノードとして金属リチウム(宝泉社製、厚み0.1mm、1.5mAhcm-2)が形成された銅箔(厚み0.01mm)を使用し、これらの電極で前記セパレータを挟むことでコイン電池を形成した。このコイン電池を、LANDバッテリー試験システム「CT2001A」(Wuhan LAND electronics Co., Ltd. China)を使用して電気化学的性能(電池性能)を測定した。ここで、測定温度は30℃、カットオフ電圧は1.7~2.8Vとした。コイン電池は、Arを充填したグローブボックス内(H2O及びO2濃度がいずれも0.1ppm以下)で構築した。
【0063】
(試験例1-2)
LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2の代わりに硫黄を使用してCR2025タイプのコイン電池を組み立てたこと以外は試験例1-1と同様の方法で、電気化学的性能(電池性能)を測定した。
【0064】
(試験例2-1)
ポリプロピレン製セパレータ(厚み0.025mm、直径16mm)の両面を、実施例2で得られたゲル状高分子電解質で挟み込みようにして形成した電解質を用いて、CR2025タイプのコイン電池を組み立てた。作用電極としてステンレス鋼プレートを、参照電極と対極としてLi金属(厚み0.1mm)を使用し、作用電極及び対極で電解質を挟んだ。このコイン電池を、米国VersaSTAT4 ポテンションスタットガルバノスタット電気化学ワークステーションを用いて、電気化学的ウインドウを評価した。具体的には、30℃にて、スキャンレート0.1mVs-1で、2.0~5.0Vの電位範囲の線形スイープボルタンメトリーで電気化学的ウインドウを評価した。コイン電池は、Arを充填したグローブボックス内(H2O及びO2濃度がいずれも0.1ppm以下)で構築した。
【0065】
(試験例2-2)
実施例1で得られたゲル状高分子電解質の代わりに実施例2で得られたゲル状高分子電解質に変更したこと以外は試験例1-1と同様の方法でコイン電池を作製し、また、カットオフ電圧は2.7~4.3Vに変更したこと以外試験例1-1と同様の方法で電気化学的性能(電池性能)を測定した。
【0066】
(評価結果)
図1は、試験例1-1の結果を示し、実施例1で製作した電解質を備える電池の電圧推移を示すグラフである。なお、
図1には対照として、比較例1で得られた液体電解質を用いて作製した電池の測定結果(試験方法は試験例1-1と同様)もあわせて示している。
【0067】
図1の結果から、実施例1で製作した電解質を備える電池は、分極がはるかに低く、より滑らかなサイクル曲線を示すことがわかった。これは、このゲルポリマー電解質(GPE)が、金属Liと電解質の間の寄生反応を抑制し、Liデンドライトの成長を抑制していることを示している。よって、実施例1で製作した電解質を備える電池は、優れたサイクル寿命を有していることがわかった。
【0068】
図2は、試験例1-2の結果を示し、実施例1で製作した電解質を備える電池のサイクル安定性の評価結果を示すグラフである。
【0069】
図2の結果から、実施例1で製作した電解質を備える電池は、0.5C(30℃)で50サイクルの充放電をしてもほぼ100%の容量保持を示すことがわかった。従来の液体電解質と比較して、実施例1で得られた電解質は、Liデンドライト成長が抑制され、堅牢な電極/電解質界面を形成しやすいだけでなく、ポリスルフィドのシャトルを防ぎやすいものであると考えられる。よって、実施例1で製作した電解質を備える電池は、高エネルギー密度であって、優れたサイクル寿命を有していることがわかった。
【0070】
図3は、試験例2-1の結果を示し、実施例2で製作した電解質を備える電池の電圧-電流の関係を示すグラフである。なお、
図3には、対照として、比較例1で得られた液体電解質を用いて作製した電池の測定結果(試験方法は試験例2-1と同様)もあわせて示している。
【0071】
図3の結果から、実施例2で得られたゲル状高分子電解質の酸化開始しきい(oxidation onset threshold)値は4.2V以上に引き上げられ、比較例1よりもはるかに高いことがわかった。よって、実施例2で製作した電解質を備える電池は、優れた高電圧安定性及び高エネルギー密度を有していることがわかった。
【0072】
図4は、試験例2-2の結果を示し、実施例2で製作した電解質を備える電池のサイクル安定性の評価結果を示すグラフである。
【0073】
図4の結果から、実施例2で製作した電解質を備える電池は、4.3Vでも高い放電容量を示すことがわかり、優れたエネルギー密度を有しているといえる。
【0074】
以上から、特定構造の化合物を含む電解質添加剤を用いて形成されたゲル状高分子電解質は、リチウム金属電池に優れた高電圧安定性及びサイクル性能をもたらすことができるといえる。