(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022050331
(43)【公開日】2022-03-30
(54)【発明の名称】鋼板の製造方法、トリミング装置及び製造装置
(51)【国際特許分類】
B23D 19/06 20060101AFI20220323BHJP
B21B 15/00 20060101ALI20220323BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20220323BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20220323BHJP
B23Q 11/10 20060101ALI20220323BHJP
【FI】
B23D19/06 A
B21B15/00 B
C22C38/00 301S
C22C38/00 301W
C22C38/60
B23Q11/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021144703
(22)【出願日】2021-09-06
(31)【優先権主張番号】P 2020156621
(32)【優先日】2020-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】平野 祐一郎
(72)【発明者】
【氏名】池田 剛介
(72)【発明者】
【氏名】山本 清志
(72)【発明者】
【氏名】田中 幹夫
【テーマコード(参考)】
3C011
3C039
【Fターム(参考)】
3C011EE00
3C039CB23
(57)【要約】
【課題】更なる刃欠け頻度の改善を行い、鋼板製造の歩留まりを高める。
【解決手段】トリム前の鋼板1に潤滑油を直接塗布することで、油の供給不足を解消し、摩擦を低減することによってトリマーの刃欠けの頻度を抑制する。すなわち、鋼板1のエッジ部を回転刃2で切断する処理を有する鋼板1の製造方法であって、上記鋼板1を上記回転刃2で切断する処理において、切断前の鋼板1の表面1a、1bにおける、上記回転刃2で切断する位置に潤滑油を付着する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板のエッジ部を回転刃で切断する処理を有する鋼板の製造方法であって、
上記鋼板を上記回転刃で切断する処理において、切断前の鋼板表面における、上記回転刃で切断する位置に潤滑油を付着する、
ことを特徴とする鋼板の製造方法。
【請求項2】
上記回転刃は、鋼板を挟んで対向可能な一対の回転刃を有し、その一対の回転刃で鋼板を挟み込んで切断する構成となっており、
上記潤滑油の付着は、上記鋼板の表裏両面のうちの少なくとも一方の面に対し行う、
ことを特徴とする請求項1に記載した鋼板の製造方法。
【請求項3】
上記潤滑油の付着は、鋼板表面に向けて潤滑油を噴霧することで行う、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した鋼板の製造方法。
【請求項4】
上記潤滑油は、噴霧後のミストの平均直径が1μm以上2000μm以下である、ことを特徴とする請求項3に記載した鋼板の製造方法。
【請求項5】
上記潤滑油の付着は、鋼板表面に向けて潤滑油を滴下することで行う、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した鋼板の製造方法。
【請求項6】
上記潤滑油の付着は、鋼板の上側の面に向けて潤滑油を滴下し、鋼板の下側の面に潤滑油を噴霧することで行う、ことを特徴とする請求項1~請求項5のいずれか1項に記載した鋼板の製造方法。
【請求項7】
上記潤滑油の付着量を、30mL/m2未満となるように調整する、ことを特徴とする請求項1~請求項6のいずれか1項に記載した鋼板の製造方法。
【請求項8】
上記潤滑油は、水分含有量が3000ppm以下である、ことを特徴とする請求項1~請求項7のいずれか1項に記載した鋼板の製造方法。
【請求項9】
上記潤滑油は、粘度が3mm2/s以上、130mm2/s以下(40℃)である、ことを特徴とする請求項1~請求項8のいずれか1項に記載した鋼板の製造方法。
【請求項10】
上記回転刃と上記潤滑油の付着位置との間に、上記鋼板表面に付着させた上記潤滑油の膜厚を均一化する膜厚均一化器具を備える、ことを特徴とする請求項1~請求項9のいずれか1項に記載した鋼板の製造方法。
【請求項11】
上記回転刃と上記潤滑油の付着位置との間に上記鋼板を把持する一対の押さえロールを備え、上記一対の押さえロールで把持する鋼板の領域は、少なくとも上記回転刃で切断される鋼板の位置を含む、ことを特徴とする請求項1~請求項10のいずれか1項に記載した鋼板の製造方法。
【請求項12】
上記鋼板を上記回転刃で切断する処理は、鋼板を搬送中に行われ、
上記回転刃は、鋼板の搬送方向に対して順方向に回転して切断を行うことを特徴とする請求項1~請求項11のいずれか1項に記載した鋼板の製造方法。
【請求項13】
上記鋼板は、高張力鋼板であり、且つ、鋼板の板厚が0.4mm以上であることを特徴とする請求項1~請求項12のいずれか1項に記載した鋼板の製造方法。
【請求項14】
上記鋼板の組成成分は、質量%で、C:0.03%以上0.35%以下、Si:0.01%以上3.00%以下、Mn:0.5%以上3.0%以下、Al:0.001%以上1.000%以下、P:0.10%以下、S:0.01%以下、B:0.005%以下、Nb:0.050%以下、Ti:0.080%以下、Cr:1.000%以下、Mo:1.00%以下、Cu:1.00%以下、Ni:1.00%以下、Sb:0.200%以下を含み、残部Fe及び不可避的不純物からなる、ことを特徴とする請求項13に記載した鋼板の製造方法。
【請求項15】
搬送されてきた鋼板のエッジ部を回転刃で切断するトリミング装置であって、
回転刃よりも上流に、上記回転刃で切断する鋼板の位置に潤滑油を付着する潤滑油付着装置を備える、
ことを特徴とする鋼板のトリミング装置。
【請求項16】
請求項15に記載した鋼板のトリミング装置を備える鋼板の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板の切断技術及び切断処理を含む鋼板の製造に関する技術である。特に、本発明は、例えば引張強度が590MPa以上の高張力鋼板(ハイテン)であって、板厚が例えば0.4mm以上の鋼板の製造に好適な技術である。
【背景技術】
【0002】
溶融亜鉛鍍金工場や冷延工場では、製品巾に合わせて鋼板のエッジ部をトリムする工程(設備)を有する。近年、自動車や建材等の分野において、高張力鋼板の需要が高まっている。このため、鋼板の製造において、高張力鋼板を回転刃(トリマー刃)で切断する処理を実行する場合もある。
しかし、高張力鋼板を切断する場合、回転刃が鋼板からの荷重に耐えられずに刃欠けし、トリム未実施材(ノートリム材)が発生するおそれがある。特に、引張強度が590MPa以上の高張力鋼板であって、例えば板厚0.4mm以上の鋼板を切断する場合を想定すると、トリム時に刃に掛かる負荷が高く、刃欠けが避けられない状況である。
【0003】
これに対し、例えば特許文献1に記載されているように、回転する回転刃に対し切削油(潤滑油)を塗布することで対応する方法がある。特許文献1では、回転刃に対し直接切削油を吹き付けて塗布することで、刃と鋼板との間に潤滑性を持たせて摩擦の低減を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
切断による回転刃の刃欠けは、刃の角部(刃部)で応力が集中した際に発生すると考えられる。刃に発生する負荷としては、剪断荷重に伴う垂直抗力と、鋼板-刃間の摩擦に起因する側方力との2種類があると推定される。
このうち側方力については、鋼板-刃間の摩擦を低減することで抑制することができると考えられる。
特許文献1のように、回転刃に直接切削油を供給する方法は、刃-鋼板間の潤滑性が向上し、摩擦を低減するという対策として用いられているが、更なる刃欠け頻度の改善が要望されている。
【0006】
本発明は、上記のような点に着目したもので、更なる刃欠け頻度の改善を行い、鋼板製造の歩留まりを高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者は、回転刃に直接切削油を塗布することによる切断時の効果について検討したところ、更なる刃欠け頻度の改善が必要であるとの知見を得た。
すなわち、回転刃に直接切削油を塗布する技術の欠点として、次のような知見を得た。
(1)回転する回転刃に直接切削油をした場合、回転刃の回転の遠心力により油が飛散して、切断部への切削油の供給が不足の状態となる。なお、切断部に近づけた位置で刃に対し油を供給することも考えられるが、他の機器との干渉を考えると困難である。
(2)またこのことは、刃-鋼板間の油の浸透が不足した状況を引き起こす。
本発明は、このような知見に基づき、トリム前の鋼板に潤滑油を直接塗布する(付着させる)ことで、油の供給不足を解消し、摩擦を低減することによってトリマーの刃欠けの頻度を抑制する技術を確立したものである。
【0008】
すなわち、課題解決のために、本発明の一態様は、鋼板のエッジ部を回転刃で切断する処理を有する鋼板の製造方法であって、上記鋼板を上記回転刃で切断する処理において、切断前の鋼板表面における、上記回転刃で切断する位置に潤滑油を付着する、ことを要旨とする。
また、本発明の態様は、搬送されてきた鋼板のエッジ部を回転刃で切断するトリミング装置であって、回転刃よりも上流に、上記回転刃で切断する鋼板の位置に潤滑油を付着する潤滑油付着装置を備える、鋼板の製造装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の態様は、刃-鋼板間への潤滑油の供給をより確実に実行可能となり、更なる刃欠け頻度の改善を行い、鋼板製造の歩留まりを向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に基づく実施形態に係る鋼板のトリミング装置を説明するための側面図である。
【
図2】本発明に基づく実施形態に係る鋼板のトリミング装置を説明するための平面図である。
【
図3】潤滑油付着装置の他の構成例を説明する側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
本実施形態では、鋼板製造における表面処理鋼板製造ラインのトリマー設備(トリミング工程)を例に挙げて説明する。本発明は、冷延鋼板などの鋼板製造工場であっても適用することができる。
【0012】
「処理対象の鋼板について」
本実施形態は、処理対象として高張力鋼板、特に引張強度が590MPa以上の高張力鋼板であって、板厚が0.4mm以上の鋼板であっても適用可能となる。本実施形態は、例えば、板厚が3.0mm以下の高張力鋼板に適用してもよい。
回転刃で切断される鋼板の例としては、GI、GA、EG、CRS、錫めっき鋼板、Zn系めっき鋼板、Al系めっき鋼板等が例示できるが、これに限定されず、任意の鋼鈑で適用可能である。本実施形態は、例えば、GI、GAに固体潤滑皮膜を付与した鋼板や有機被覆を施した鋼板でも適用可能である。
【0013】
さらに、発明者らが調査したところ、引張強度が1180MPa以上の高強度鋼板を切断する場合には、製造コイルの8%程度という極めて高い頻度で刃欠けによるトリム不良材が生じ、不良材のオフラインでの再トリム処理が必要となるという新たな課題も見いだされた。この課題に対し、本発明を適用した場合、従来、刃欠けによるトリム不良の著しい発生を生じていた1180MPa級や1470MPa級の高強度鋼板で且つ板厚が0.4mm以上の鋼板においても、トリム不良の発生率を顕著に低減することができることを確認した。
【0014】
本実施形態が処理対象とする高張力鋼板は、その組成成分が例えば、質量%で、C:0.03%以上0.35%以下、Si:0.01%以上3.00%以下、Mn:0.5%以上3.0%以下、Al:0.001%以上1.000%以下、P:0.10%以下、S:0.01%以下を含み、残部Fe及び不可避的不純物からなる。
なお、本明細書で、成分に関する%表示は、特に断らない限り、質量%を意味するものとする。
【0015】
次に、鋼板の組成成分の限定理由について説明する。
・C:0.03%以上0.35%以下
Cは鋼帯の強度を高める効果を有する。そのためには、Cは0.03%以上必要である。一方で、Cが0.35%を超えると自動車や家電の素材として用いる場合に必要である溶接性が劣化する。したがって、C量は0.03%以上0.35%以下としてよい。
・Si:0.01%以上3.00%以下
Siは鋼を強化し、延性を向上させるのに有効な元素であり、そのためにはSiは0.01%以上が必要である。一方で、Siが3.00%を超えると、Siが表面に酸化物を形成し、めっき外観が劣化する。したがって、Si量は0.01%以上3.00%以下としてよい。
【0016】
・Mn:0.5%以上3.0%以下
Mnは、焼入れ性を高め鋼板の強度を高めるために有用な元素である。その効果は、Mnが0.5%未満では得られない。一方、Mnの含有量が3.0%を超えるとMnの偏析が生じ、加工性が低下する。したがって、Mn量は0.5%以上3.0%以下が望ましい。
・Al:0.001~1.000%
Alは溶鋼の脱酸を目的に添加されるが、Alの含有量が0.001%未満の場合、その目的が達成されない。一方、Alが1.000%を超えると、Alが表面に酸化物を形成し、めっき外観(表面外観)が劣化する。したがって、Al量は0.001%以上1.000%以下としてよい。
【0017】
・P:0.10%以下
Pは不可避的に含有される元素のひとつであり、Pを0.005%未満にするためには、コストの増大が懸念されるため、Pは0.005%以上が望ましい。一方、Pの増加に伴いスラブ製造性が劣化する。さらに、Pの含有は合金化反応を抑制し、めっきムラを引き起こす。これらを抑制するためには、Pの含有量を0.10%以下にすることが必要である。したがって、P量は0.10%以下としてよい。好ましくは0.05%以下である。
・S:0.01%以下
Sは製鋼過程で不可避的に含有される元素である。しかしながら、多量に含有すると溶接性が劣化する。そのため、Sは0.01%以下としてよい。
【0018】
その他の添加可能な組成成分について説明する。
本実施形態が処理対象とする鋼板は、下記を目的として、B:0.001%以上0.005%以下、Nb:0.005%以上0.050%以下、Ti:0.005%以上0.080%以下、Cr:0.001%以上1.000%以下、Mo:0.05%以上1.00%以下、Cu:0.05%以上1.00%以下、Ni:0.05%以上1.00%以下、Sb:0.001%以上0.200%以下の中から選ばれる1種以上の元素を必要に応じて含有してもよい。
【0019】
これらの元素を添加する場合における適正含有量、及びその限定理由は以下の通りである。
・B:0.001%以上0.005%以下
Bは0.001%以上で焼き入れ促進効果が得られる。一方、Bの含有量が0.005%を超えると化成処理性が劣化する。よって、Bを含有する場合、B量は0.001%以上0.005%以下としてよい。
・Nb:0.001%以上0.050%以下
Nbは0.001%以上で強度調整(強度向上)の効果が得られる。一方、Nbが0.05%を超えるとコストアップを招く。よって、含有する場合、Nb量は0.001%以上0.05%以下としてよい。
【0020】
・Ti:0.001%以上0.080%以下
Tiは0.001%以上で強度調整(強度向上)の効果が得られる。一方、Tiが0.080%を超えると化成処理性の劣化を招く。よって、Tiを含有する場合、Ti量は0.001%以上0.080%以下としてよい。
・Cr:0.001%以上1.000%以下
Crは0.001%以上で焼き入れ性効果が得られる。一方、Crが1.000%を超えるとCrが表面濃化するため、溶接性が劣化する。よって、含有する場合、Cr量は0.001%以上1.000%以下としてよい。
【0021】
・Mo:0.001%以上1.00%以下
Moは0.001%以上で強度調整(強度向上)の効果が得られる。一方、Moが1.00%を超えるとコストアップを招く。よって、含有する場合、Mo量は0.001%以上1.00%以下としてよい。
・Cu:0.001%以上1.00%以下
Cuは0.001%以上で残留γ相形成促進効果が得られる。一方、Cuが1.00%超えるとコストアップを招く。よって、Cuを含有する場合、Cu量は0.001%以上1.00%以下としてよい。
【0022】
・Ni:0.001%以上1.00%以下
Niは0.001%以上で残留γ相形成促進効果が得られる。一方、Niが1.00%を超えるとコストアップを招く。よって、Niを含有する場合、Ni量は0.001%以上1.00%以下としてよい。
・Sb:0.001%以上0.200%以下
Sbは鋼板表面の窒化、酸化、あるいは酸化により生じる鋼板表面の数十ミクロン領域の脱炭を抑制する観点から含有することができる。窒化や酸化を抑制することで鋼板表面においてマルテンサイトの生成量が減少するのを防止し、疲労特性や表面品質が改善する。このような効果は、Sb:0.001%以上で得られる。一方、Sb:0.200%を超えると靭性が劣化する。よって、Sbを含有する場合、Sb量は0.001%以上0.200%以下としてよい。
【0023】
以上説明してきたような成分組成の鋼板は、公知又は任意の方法で製造することができる。例えば、上記成分組成を有するスラブを加熱し、熱間圧延して熱延鋼板とし、この熱延鋼板を酸洗した後、必要に応じて熱延鋼板に冷間圧延を施して冷延鋼板とすることができる。
【0024】
「第1実施形態」
図1は、トリマー設備に設けられたトリミング装置の構成を説明する図である。
図1に示すように、本実施形態では、めっきその他の表面処理が施された鋼板1が、搬送ラインに沿ってトリマー設備に搬送され、搬送中の鋼板1に対してトリム処理が実行される。
【0025】
(構成)
本実施形態のトリミング装置は、回転刃2と、押さえロール7と、潤滑油付着装置とを備える。また、本実施形態のトリミング装置は、膜厚均一化器具を備える。押さえロール7及び膜厚均一化器具の少なくとも一方を有しなくても良い。なお、本実施形態では、押さえロール7が膜厚均一化器具を兼ねる。
【0026】
<回転刃2>
回転刃2は、
図1及び
図2に示すように、鋼板1を挟んで対向可能な一対の回転刃2A、2B(上刃2A及び下刃2B)を有し、その一対の回転刃2A、2Bで鋼板1を板厚方向から挟み込んで切断する構成となっている。
図2のように、一対の回転刃2A、2Bの刃先同士の接触位置が切断位置となる。
図2における符号Lは、切断位置を通過すると想定される切断前の鋼板1の位置を示す。また、
図1及び
図2における符号10は、潤滑油付着装置にて鋼板1に付着した潤滑油を示す。
一対の回転刃2A、2Bは、
図1に示すように、切断位置での回転方向が搬送方向と同方向となる順方向に設定されている。
回転刃2は、例えば、出側検査前にて、製品巾に合わせて鋼板1のエッジ部(端部)を切断するトリム処理を実行する。
【0027】
<潤滑油付着装置>
潤滑油付着装置は、
図1に示すように、鋼板搬送方向における回転刃2の設置位置よりも上流位置、すなわち切断前の鋼板1の表面1a、1bと対向可能な位置に配置されている。潤滑油付着装置は、
図2に示すように、鋼板1の表面1a、1bにおける、回転刃2で切断される位置(符号Lの位置)を含む領域に対し事前に潤滑油10を付着する装置である。
本実施形態の潤滑油付着装置は、噴霧装置3(噴射ノズル)を有し、噴霧装置3は、鋼板1の表面1a、1bに向けて潤滑油を噴霧することで、鋼板1の表面1a、1bに潤滑油を付着する。噴霧装置3には、潤滑油を貯蔵した油タンク4と、空気を供給するコンプレッサその他のエア供給装置5が接続されている。噴霧装置3は、コントローラ6からの指令に応じて、ノズル先端部で潤滑油に空気を混合して、潤滑油を霧状にし、その霧状の潤滑油を鋼板1の表面1a、1bに向けて噴霧可能に構成されている。
【0028】
[潤滑油の水分含有量]
潤滑油の含有水分量は、3000ppm未満であることが好ましい。
そのままでは、回転刃2で切断後の鋼板の端部には、潤滑油が付着したままとなる。その付着している潤滑油の含有水分量が3000ppm以上と含有水分量が多い場合、回転刃2での切断から、自動車メーカや家電メーカ等で鋼板を製品に加工される迄の間に、潤滑油に含有する水分によって、鋼板の平坦面あるいは切断面に錆が発生するおそれがある。このことは、自動車用途や家電用途の鋼板の製造に、本実施形態が使用し難しくなることに繋がる。
【0029】
一方、潤滑油の含有水分量を3000ppm未満とすることで、鋼板の平坦面あるいは切断面での錆の発生を抑制することができる。
より長期間に渡って錆の発生を抑制する観点を考えると、潤滑油の含有水分量は、2000ppm以下であることがさらに好ましい。
また、潤滑油の含有水分量の下限は0ppmである。脱水に要するコストを考慮すると、潤滑油の含有水分量の下限は、20ppm以上が好ましい。
なお、本明細書のおける「ppm」は、重量ppmを表す。
【0030】
[噴霧量]
噴霧量とは、鋼板表面への付着量と同義である。
自動車製造業等の鋼板を加工する製造メーカでは、例えば、鋼板にプレス加工を施した後、化成処理・電着塗装工程の前に、鋼板に付着した油(プレス油や防錆油)をアルカリ洗浄液で脱脂する洗浄工程を備える。このとき、油の付着量が多くなるほど、脱脂工程での脱脂性が著しく劣化し、化成処理性や塗装性に悪影響を及ぼす。従って、このような用途の鋼板を製造する場合、従来のように、回転刃に直接油を塗布して鋼板を切断する方法では、更に多量の切削油を供給することは困難である。
【0031】
一方で、発明者らが種々検討したところ、トリム前の鋼板に潤滑油を直接塗布して(付着させて)切断する方法を採用した場合、以下のような効果が得られるという新たな知見を得た。
すなわち、発明者らは、鋼板への潤滑油の供給量が同じであっても、トリム用の回転刃に直接油を塗布する場合に比べて、鋼板に直接潤滑油を供給(付着)して切断した方が、刃欠けの頻度が抑制されることを確認した。
この理由は必ずしも明らかではないが、次に示すような、刃先で油を保つ新たな機構が生じる事が理由と考えられる。
【0032】
すなわち、従来のように回転刃に直接塗布する場合、刃が鋼板に接触した後、新たな潤滑油の供給が生じない。このため、刃のコーナ部、つまり刃先が鋼板上を摺動しながら鋼板を変形させて切断に至る過程において、刃先の油切れを抑制できない。このため、この過程で、刃には、鋼板-刃間の摩擦に起因する側方力が強く作用すると推定される。
一方、トリム前の鋼板に直接塗布(付着)した場合、刃が鋼板に接触した後も、刃先が鋼板表面を摺動して切断する過程で、刃先が摺動した先の新たな鋼板表面の領域にも、塗布された(付着した)潤滑油が存在する。このため、潤滑油が供給され続けることになる。この結果、油切れが抑制され、鋼板-刃間の摩擦も低減されることで、鋼板に直接潤滑油を塗布(付着)する場合に刃欠けが著しく抑制されると考えられる。
【0033】
以上のことから、回転刃に直接塗布する場合に比べ、鋼板に直接潤滑油を塗布(付着)させる場合、トリムのために鋼板に供給される潤滑油の量を抑えることが可能となる。
すなわち、本実施形態を適用することで、顕著な刃欠けの抑制効果を得るのに多量の油の塗布(付着)を必要とせず、自動車メーカなどから求められる脱脂性を損なわない範囲の油の付着量で、その効果が得られるという有利な点がある。
このように、本発明によれば、回転刃に直接油を塗布して鋼板を切断する方法に比べて、少ない潤滑油の付着量で、刃欠けの頻度が抑制される。この結果、本発明によれば、自動車骨格・ボディ部品用等の用途に適用できる利点を有し、環境保全の面においても優れている、との知見を得た。また、本発明によれば、飛散することが防止され、鋼板への潤滑油の付着領域も限定的にすることも可能となる。
【0034】
ここで、潤滑油の噴霧量は、鋼板1の表面1a、1bのエッジ部に対し、連続的かつムラなく塗布(付着)できるように、油流量などを調整する。
例えば、噴霧量は、鋼板1の表面1a、1bに対して一定以上の塗油密度を確保するために、下記(1)式のように設定する。
すなわち、噴霧量の下限値は、鋼板の搬送速度に応じて、例えば下記(1)式によって設定する。より好ましくは、噴霧量の下限値は、(2)式によって設定する。
噴霧量の下限値=1.00[mL/m2]×0.04(:噴霧領域の幅)[m]
×搬送速度[mpm]×60[min/hr]
・・・・(1)
噴霧量の下限値=7.24[mL/m2]×0.04(:噴霧領域の幅)[m]
×搬送速度[mpm]×60[min/hr]
・・・・(2)
【0035】
噴霧量を(1)式で規定する量以上に設定することで、特に優れた刃欠けの抑制効果が得られる。なお、(1)式で規定される噴霧量の下限値は、1.00mL/m2の塗油密度(単位面積当たりの鋼板表面における潤滑油の付着量)に対応する。更に、噴霧量を(2)式で規定する量以上に設定することで、さらに優れた刃欠けの抑制効果が得られるので、噴霧量の下限値はこの範囲とすることが好ましい。なお、(2)式で規定される噴霧量の下限値は、7.24mL/m2の塗油密度に対応する。
【0036】
ここで、(1)式及び(2)式での規定は、噴霧領域(付着領域)の幅が鋼板エッジ部から0.04mの範囲を前提としたものである。その幅が異なる場合は、0.04mに替えてその値を代入することで噴霧量を求めることができる。[mpm]は、一分間当たりの鋼板の通過距離(m)である。
噴霧領域の幅を0.01m、搬送速度を40mpmとすると、(1)式では0.02L/hr、(2)式はで0.17L/hrとなり、これらの値が、優れた刃欠けを抑制する場合の噴霧量の下限値、およびさらに刃欠けを抑制する場合の噴霧量の下限値と考えることができる。なお、塗油密度に換算した場合の値は、上述の通りである。
【0037】
噴霧量の上限値については、特に規定は無い。
但し、過剰塗油の場合、鋼板1のエッジ部に付着した油10が鋼板から落下し、以降のライン機器に悪影響を及ぼす懸念があるため、噴霧量は極力少量が望ましい。このような観点から噴霧量は60L/hr未満とすることが望ましい。これは、30mL/m2未満の塗油密度に対応する。ここで、噴霧領域の幅は0.15m、鋼板の搬送速度は230mpmとした。これは噴霧領域の幅と鋼板の搬送速度の上限相当の条件である。
【0038】
また、自動車用鋼板で必要とされる優れた脱脂性を確保する観点からは、塗油の噴霧量は20L/hr以下とすることが望ましい。これは、10mL/m2以下の塗油密度に対応する。より優れた脱脂性を確保する観点からは、噴霧量は10L/hr以下とすることがさらに望ましい。これは、5mL/m2以下の塗油密度に対応する。塗油密度をこの範囲に制御することで、自動車メーカ等で実施する脱脂処理に要する時間を削減できる。
なお、この実施形態では、潤滑油をそのまま噴射すること無く、霧状として供給するため、潤滑油の給油が自ずと抑えられる。
ここで、潤滑油の塗布(付着)を滴下で実行した場合、その滴下量の範囲は、上記の噴霧の場合と同様の範囲となる。なお、滴下の場合、(1)式や(2)式において(噴霧領域の幅)を(滴下領域の幅)に置き換えて算定すればよい。
【0039】
[噴霧圧力]
噴霧圧力は、例えば0.09MPa以上0.12MPa以下とする。
噴霧圧力は、規定する噴霧領域に均一塗油可能となるように設定されれば、特に限定は無い。
【0040】
[噴霧領域]
噴霧領域は、切断位置となる位置Lを基準として、鋼板1の巾方向へ±20mmの領域を有することが好ましい。
噴霧領域の巾(噴霧巾)が40mm以下の噴霧巾になると、切断位置において、十分な潤滑領域を確保できず刃欠けのおそれが発生する。
噴霧領域の巾の上限値については特に規定は無い。但し、過剰塗油の場合、鋼板1のエッジ部に付着した油10が鋼板から落下し、以降のライン機器に悪影響を及ぼす懸念があるため、噴霧領域の巾は極力少量が望ましい。
【0041】
[噴霧装置3の噴射部と鋼板1との距離]
噴霧装置3の噴射部と鋼板1との距離は、40mm以上離すことが好ましい。40mm未満の場合、鋼板形状が悪形状の鋼板1が通過する時に、噴霧装置3のノズル部が鋼板1と干渉するおそれがある。
噴霧装置3の噴射部と鋼板1との距離の上限値については、特に規定はない。距離を離すほど、鋼板1の表面1a、1bに付着する潤滑油の密度が低くなると共に、噴霧領域の巾が広くなるが、噴霧密度と噴霧領域とが目的とする範囲に確保できる範囲であれば、距離の上限値に規定はない。
本実施形態では、噴射ノズルは、鋼板1の上面1a及び下面1bに対向させて配置されて、鋼板1の表裏両面における、回転刃2で切断する位置に潤滑油を付着する構成となっている。
噴射ノズルは、鋼板1の表裏表面1a、1bのうちの、一方の面のみに配置されていても良い。
【0042】
[潤滑油の粘度]
潤滑油の粘度は、3mm2/s以上、130mm2/s以下(40℃)であることが望ましい。3mm2/s未満の場合、回転刃の切断面と鋼板が高い面圧で作用するため、油切れにより回転刃と鋼板が直接接触する恐れがある。1180MPa以上の強度の高強度鋼板の切断においては、より高い面圧となっても油切れを抑制する観点からは、潤滑油の粘度は8mm2/s(40℃)以上がさらに好ましい。
【0043】
また、滑油の粘度が130mm2/sより大きい場合、潤滑油が鋼板面に付着した後に鋼板面での拡散・浸透が不足し、局所的に潤滑油が不足する恐れがある。また、回転刃が鋼板を切断する過程で潤滑油の回転刃側面への供給が不足し、回転刃側面と鋼板が直接接触する恐れがある。従って、滑油の粘度は130mm2/s以下とすることが好ましい。更に、付着した油をより均一に分布させる観点からは、潤滑油の粘度は100mm2/s(40℃)以下とすることがさらに好ましい。なお、粘度の測定はJIS Z8803に基づく。粘度の測定は、例えば、回転粘度計で測定できる。
潤滑油の種類は特に規定しない。例えば、潤滑油として、プレス油、防錆油、切削油等が例示できる。高強度鋼板を切断する場合においても安定して刃欠けを抑制する観点から、これらの潤滑油に対し、極圧添加剤を添加したものとすることもできる。
【0044】
[潤滑油の粒径]
噴霧後のミストの平均直径は、例えば1μm以上2000μm以下の範囲とする。ミストの平均直径について、下限の制約は特にない。ただし、粒径が小さすぎると周囲へ飛散し鋼板への付着率が下がる。また、飛散した油が周囲へ飛び散り、防災の観点からリスクが発生する、などの懸念がある。ミストの平均直径について、上限の制約も特にない。ただし、付着量が不均一になり、刃欠けが生じやすくなる懸念がある。刃欠け抑制の観点から、ミストの平均直径のより好ましい範囲は、100μm以下である。
【0045】
[潤滑油の鋼板への付着後、切断が開始されるまでの保持時間]
潤滑油の鋼板への付着後、切断が開始されるまでの保持時間は特に規定しない。ただし、鋼板表面に付着した油の粒子を鋼板表面に分散させて均一な付着状態とする観点から、該保持時間は1秒以上とすることが好ましい。付着した潤滑油の粒子の直径が大きい場合は、鋼板表面に付着した油の粒子が鋼板表面に分散して均一な付着状態となる時間が長くなる。このため、潤滑油の粒径が2000μmを超える場合は、該保持時間は3秒以上とすることが望ましい。
【0046】
[回転刃の構成材]
回転刃の構成材については特に規定しない。回転刃の構成材の例としては、炭素工具鋼、合金工具鋼、高速度工具鋼等を挙げることができる。引張強度が1180MPa以上の高張力鋼板の切断において歯欠けを安定して抑制する観点からは、回転刃の構成材として、合金工具鋼や高速度工具鋼を使用するのが好ましい。また、回転刃の表面に、焼き入れ処理、窒化・浸炭、TD処理等の表面硬化処理や、PVD,CVD、めっき、溶射等の表面被覆処理が施されていることが、更に好ましい。
【0047】
<押さえロール7>
一対の押さえロール7は、鋼板1を挟んで当該鋼板1を把持可能に配置されている。
一対の押さえロール7は、鋼板1の搬送方向における、回転刃2と、潤滑油付着装置による潤滑油の付着位置との間に設定されている。
この一対の押さえロール7で把持する鋼板1の領域は、少なくとも上記回転刃2で切断される鋼板1の位置を含むように設定される。
この一対の押さえロール7は、鋼板1の振動を抑えて、回転刃2による切断をより安定して実行可能とする。
また、鋼板1に付着した潤滑油10を、鋼板1の表面1a、1bに押しつけて引き伸ばして、付着した潤滑油10を均一化すると共に鋼板への密着度を高める役割も有する。
【0048】
[膜厚均一化器具]
膜厚均一化器具は、回転刃と潤滑油の付着位置との間に配置され、鋼板表面に付着させた潤滑油の膜厚を均一化する器具である。すなわち、膜厚均一化器具は、滴下や噴霧により付着させた潤滑油が不均一に分布していた場合に潤滑油の付着領域とりわけ切断箇所近傍(10~100mm幅)の付着量を均一に調整する器具である。
この膜厚均一化器具によって、潤滑油の鋼板への付着後、回転刃で切断されるまでの間に、膜厚を均一化することが好ましい。
本実施形態では、膜厚均一化器具は、潤滑油の噴霧装置または油滴下装置と回転刃との間に設置される。
本実施形態では、膜厚均一化器具の例として、一対の押さえロール7が例示されている。
【0049】
膜厚均一化器具としては、刷毛またはフェルト、ゴム、樹脂、金属の1種または2種以上で構成される平面部材もしくはロール形状の部材を用いることができる。これらの膜厚均一化器具は、固定したもの、または潤滑油の膜厚をより均一化する目的で回転もしくは揺動するものとしてもよい。潤滑油の表面を押圧するもしくは掻くことで鋼板表面の潤滑油の付着量を均一化する構成となっていればよい。
潤滑油が不均一に分布すると刃欠けを誘発する原因となる。これに対し、膜厚均一化器具の利用によって、刃欠けを顕著に抑制する作用があり、安定して刃欠けが抑制することができる。また、潤滑油が不均一に分布すると脱脂性が劣化する原因となるが、膜厚均一化器具の利用によって、それを抑制することができる。
【0050】
<その他の構成>
本実施形態は、潤滑油を含浸させたフェルト9を有する。フェルト9は、回転刃2に直接、潤滑油を供給する。なお、フェルト9には、適宜、潤滑油が供給される。回転刃2に直接、供給した潤滑油は、回転刃2A、2Bの回転の遠心力により飛散してしまうため、フェルト9によって供給される潤滑油の量よりも、噴霧装置3によって供給される量を多くすることが好ましい。
本実施形態では、このフェルト9は、無くても良い。
【0051】
(変形例)
(1)上記説明では、潤滑油付着装置を噴霧装置3で構成する場合を例示した。潤滑油付着装置の他の例を、
図3を参照して説明する。
図3に示す潤滑油付着装置は、油滴下装置20を備え、リザーブタンク21から供給される潤滑油を、コントローラ22からの指令に応じて、鋼板1の上面1aに向けて潤滑油の油滴を連続的に滴下する構成となっている。なお、鋼板1の下面1bに対して潤滑油を滴下させることはできない。したがって、更に鋼板1の下面1bに対向させて噴射装置3を配置し、下面1bへも潤滑油を噴霧することがより好ましい。
鋼板1の表面1bに対し搬送方向に沿って滴下された油滴23は、押さえロール7で引き伸ばされて、鋼板1に付着した油滴が、搬送方向に沿って均一化する。
【0052】
(2)また、潤滑油付着装置を、刷毛から構成し、刷毛によって、鋼板1に潤滑油を付着させる構成でも良い。
但し、刷毛による塗布の場合、非接触で潤滑油10を供給する噴霧装置3などと異なり、鋼板1の表面1a、1bに刷毛を直接接触させるため、鋼板1が高速で搬送されて振動する鋼板製造ラインで刷毛を適用するのは難しい。例えば、塗布時にラインを止める必要があったり、ライン内に作業員が入る必要があったりするなど、適用に対する課題がある。
【0053】
(3)また、潤滑油付着装置を、フェルト、ゴム、樹脂、金属の一種もしくは二種以上から構成される平面部材もしくはロール形状部材としてもよい。そして、これらに潤滑油を付着させたのち、当該潤滑油を鋼板1に付着させる構成でも良い。さらに、これらの潤滑油付着装置は、固定したもの、または油の付着をより均一化する目的で回転もしくは揺動するものとしてもよい。
例えば、潤滑油付着装置をロール形状とする場合は、押さえロール7は、潤滑油付着装置としても利用することができる。押さえロール7の外周面に潤滑油を付着させて鋼板に潤滑油を供給することで、上述の押さえロールの機能と潤滑油付着装置としての機能の両機能を受け持たせることができる。
【0054】
(4)さらに、鋼板の進行方向における回転刃の設置位置の前もしくは後の位置に、余分な潤滑油を除去する潤滑油除去装置を有していてもよい。この場合、回転刃での切断の前もしくは後において、鋼板に付着した潤滑油の一部を除去することで、潤滑油の付着量を調整可能となる。
例えば、製造した鋼板を自動車用等の優れた脱脂性が求められる用途で使用する場合、トリム刃欠け抑制の観点から潤滑油を10mL/m2以上付着させた後、潤滑油除去装置により潤滑油の付着量を10mL/m2以下に調整することが好ましい。ただし、この場合、潤滑油除去装置を備える必要があるので、コスト増となる問題が生じる。
(5)さらに、除去した潤滑油を潤滑油付着装置に循環させ、再利用してもよい。
【0055】
(作用)
本実施形態では、トリム前の鋼板1に潤滑油を直接塗布する(付着させる)ことで、切断位置での油の供給不足を解消する。これによって、本実施形態では、摩擦を低減することによってトリマーの刃欠けの頻度を抑制して、仮に回転刃を高速回転させて切断を行う必要があっても、鋼板製造の歩留まりが向上する。
例えば、鋼板1の表裏両面1a、1bに対し連続的に塗油できるような噴霧装置3をトリマーの前に設置する。そして、この噴霧装置3を用いて切断前の鋼板1の切断される位置に塗油することで、切断位置での油浸透不足を解消できる。このため、切断対象の鋼板1を高張力鋼板1としても、一対の回転刃2A、2Bを構成する上刃及び下刃共に連続的にかつムラなく十分に塗油できた。このため、油の浸透不足は解消され、刃欠けは抑制される。
また、本実施形態では、回転刃に潤滑油を供給する場合に比べて、鋼板に付与する潤滑油の量を抑えることが出来る。このため、製造した鋼板での錆発生を、回転する回転刃に潤滑油を供給する場合に比べて抑えることができる。
更に、押さえロール7で油を押さえることで、より安定して切断位置に対し油を供給可能となる。
【0056】
同様に、
図3に示すような、油滴下装置20によってトリム前鋼板1の端部に塗油することでも、切断位置での油浸透不足を解消できる。このため、切断対象の鋼板1を高張力鋼板1としても、一対の回転刃2A、2Bを構成する上刃及び下刃共に連続的にかつムラなく十分に塗油できたため、油の浸透不足は解消され、刃欠けは抑制された。
ここで、潤滑油の噴霧量や滴下量は、鋼板の搬送速度に応じて、鋼板1の表裏両面とも潤滑油が連続的にかつムラなく塗布(付着)できるように、供給エア圧や油流量、油消費量を設定することが好ましい。
【0057】
(実施例)
次に、本実施形態に基づく実施例について説明する。
ここで、切断対象の鋼板1を、溶融亜鉛鍍金鋼板1(引張強度1180MPaの板厚1.2mm)として、トリマー設備でのノートリム材(トリム未実施材)の発生状況について実験を行った。
トリムの条件として、次の条件で実行した。
・鋼板1の搬送速度:最大230[mpm]
・板端部のトリム代:10~20[mm]
【0058】
<実施例1>
実施例1では、潤滑油付着装置として上記の噴霧装置3を用いた(
図1参照)。
噴霧装置3の条件は次のように設定した。
・鋼板の搬送速度:230[mpm]
・噴霧装置3による塗油範囲:鋼板巾方向の端面から40[mm]
・油使用量:4.0 [L/hr](塗油密度:7.25[mL/m
2])
・供給エア圧:0.4~0.6 [MPa]
【0059】
<実施例2>
実施例2では、潤滑油付着装置として上記の油滴下装置20を用いた(
図3参照)。
油滴下装置20の条件は次のように設定した。
・鋼板の搬送速度:80[mpm]
・塗油範囲:鋼板巾方向の端面から40mm
・油使用量:0.8 [L/hr](塗油密度:4.15[mL/m
2])
・供給エア圧:0.4~0.6 [MPa]
【0060】
<実施例3>
実施例3では、潤滑油付着装置として上記の噴霧装置3を用いた(
図1参照)。
噴霧装置3の条件は次のように設定した。
・鋼板の搬送速度:60[mpm]
・噴霧装置3による塗油範囲:鋼板巾方向の端面から40[mm]
・油使用量:4.0 [L/hr](塗油密度:14.0[mL/m
2])
・供給エア圧:0.4~0.6 [MPa]
・油の水分含有量:700ppm
ここで、実施例3の方法で製造した鋼板をコイル材とし、100日間倉庫に保管した後、潤滑油付着領域での錆発生の有無を確認したが、錆は認められなかった。
100日間としたのは、コイル材を自動車メーカなどのメーカにおいて、鋼板をプレス成形するまでの保管期間を想定したものである。
【0061】
<実施例4>
実施例4では、潤滑油付着装置として上記の噴霧装置3を用いた(
図1参照)。
噴霧装置3の条件は次のように設定した。
・鋼板の搬送速度:40[mpm]
・噴霧装置3による塗油範囲:鋼板巾方向の端面から11[mm]
・油使用量:0.05 [L/hr](塗油密度:1.88[mL/m
2])
・供給エア圧:0.4~0.6 [MPa]
・油の水分含有量:700ppm
ここで、実施例4の方法で製造した鋼板をコイル材とし、100日間倉庫に保管した後、潤滑油付着領域での錆発生の有無を確認したが、錆は認められなかった。
【0062】
<実施例5>
実施例5では、潤滑油付着装置として上記の噴霧装置3を用いた(
図1参照)。
噴霧装置3の条件は次のように設定した。
・鋼板の搬送速度:80[mpm]
・噴霧装置3による塗油範囲:鋼板巾方向の端面から80[mm]
・油使用量:11.1 [L/hr](塗油密度:29.0[mL/m
2])
・供給エア圧:0.4~0.6 [MPa]
・油種:NOX-RUST550(日本パーカライジング株式会社製)
・油の粘度:17.0mm
2/s
【0063】
<実施例6>
実施例5では、潤滑油付着装置として上記の噴霧装置3を用いた(
図1参照)。
噴霧装置3の条件は次のように設定した。
・鋼板の搬送速度:80[mpm]
・噴霧装置3による塗油範囲:鋼板巾方向の端面から15[mm]
・油使用量:0.58 [L/hr](塗油密度:8.00[mL/m
2])
・供給エア圧:0.4~0.6 [MPa]
・油種:NOX-RUST550(日本パーカライジング株式会社製)
・油の粘度:17.0mm
2/s(40℃)
・油噴霧後のミストの平均粒径:5.0μm
・油が鋼板に付着してから切断までの保持時間:1秒
【0064】
<比較例>
比較例では、潤滑油付着装置を使用しなかった。代わりに、一対の回転刃2の両方に対し、フェルト9によって潤滑油を給油した(フェルト9の配置位置は、
図1を参照)
比較例では、鋼板の搬送速度を60mpm、回転刃に対する潤滑油の供給量を4.0L/hrとした。塗布幅を上下の刃それぞれに対して12mm(塗油密度:46.3[mL/m
2])
【0065】
<評価>
評価は、ノートリム材によるアップ落ち発生確率の改善で評価した。
アップ落ち発生確率は、適用材のトリム材装入量(製造したコイル5~10本の全重量)のうち、刃欠けによりノートリム材となりアップ落ち(不良材と判定)した量(不良コイルの全重量)の割合である。
評価結果は、次の通りである。
比較例(フェルト9のみでの塗油時)…8.2%
実施例1(油噴霧時)…0.0%
実施例2(油滴下時)…7.1%
実施例3(油噴霧時)…0.0%
実施例4(油噴霧時)…0.0%
実施例5(油噴霧時)…0.0%
実施例6(油噴霧時)…0.0%
【0066】
この評価から分かるように、本発明に基づく実施例1~6では、比較例に比べ、トリマーの刃欠けの頻度を抑制できた。この結果、本発明では、鋼板製造の歩留まりが向上できることが分かった。
ここで、実施例2が、実施例1、3~6に比べ、アップ落ち発生確率が悪かった原因としては、以下2点が考えられる。
すなわち、(1)油滴下装置20は滴下であるため表面1a、1bのみしか塗油できず、裏面(下刃)での刃欠けは減らなかった。(2)また、滴下であるため連続的に塗布(付着)ができていなかったため未塗油部分で刃に負荷が掛かり、表面1a、1b(上刃)での刃欠け頻度は著しく減ったがゼロにはならなかった。
【0067】
(その他)
本開示は、以下のような構成も取ることができる。
(1)本実施形態は、鋼板1のエッジ部を回転刃2で切断する処理を有する鋼板1の製造方法であって、上記鋼板1を上記回転刃2で切断する処理において、切断前の鋼板1の表面1a、1bにおける、上記回転刃2で切断する位置に潤滑油を付着する。
この構成によれば、回転刃2の遠心力で、仮に回転刃2に付着した潤滑油が飛んでしまっても、鋼板1の表面1a、1bに潤滑油を付着することで、切断位置における油の供給不足を解消し、摩擦を低減することによってトリマーの刃欠けの頻度を抑制して、鋼板製造の歩留まりが向上する。
【0068】
(2)本実施形態では、上記回転刃2は、鋼板1を挟んで対向可能な一対の回転刃2A、2Bを有し、その一対の回転刃2A、2Bで鋼板1を挟み込んで切断する構成となっており、上記潤滑油の付着は、上記鋼板1の表裏両面のうちの、少なくとも一方の面に対して付着を行う。潤滑油の付着は、上記鋼板1の表裏両面ともに実行することが好ましい。
この構成によれば、一対の回転刃2A、2Bを用いることで、より安定して鋼板1の切断が可能となる。
【0069】
(3)上記潤滑油の付着は、例えば、鋼板1の表面に向けて潤滑油を噴霧することで行う。
この構成によれば、鋼板1の表面に対し、より均一に潤滑油を付着させることが可能となる。
上記潤滑油は、噴霧後のミストの平均直径が1μm以上2000μm以下であることが好ましい。
【0070】
(4)上記潤滑油の付着は、例えば、鋼板1の表面に向けて潤滑油を滴下することで行う。
この構成によれば、鋼板1の表面に対し潤滑油を付着させることが可能となる。
ここで、鋼板1の上面側に潤滑油の付着を付着する付着方法と、鋼板1の下面側に潤滑油の付着を付着する付着方法とは異なっていても良い。
例えば、上記潤滑油の付着は、鋼板の上側の面に向けて潤滑油を滴下し、鋼板の下側の面に潤滑油を噴霧することで行う、構成でも良い。
【0071】
(5)上記潤滑油の付着量を、30mL/m2未満となるように調整する。
(6)上記潤滑油は、水分含有量が3000ppm以下である。
(7)上記潤滑油は、粘度が3mm2/s以上、130mm2/s以下(40℃)である。
(8)上記回転刃と上記潤滑油の付着位置との間に、上記鋼板表面に付着させた上記潤滑油の膜厚を均一化する膜厚均一化器具を備える。
【0072】
(9)本実施形態では、上記回転刃2と上記潤滑油の付着位置との間に上記鋼板1を把持する一対の押さえロール7を備え、上記一対の押さえロール7で把持する鋼板1の領域は、少なくとも上記回転刃2で切断される鋼板1の位置を含む。
この構成によれば、鋼板1に付着させた潤滑油が押さえロール7で引き伸ばされる。この結果、付着した潤滑油が、鋼板搬送方向に沿ってより均一化する。
【0073】
(10)本実施形態では、上記鋼板1を上記回転刃2で切断する処理は、鋼板1を搬送中に行われ、上記回転刃2は、鋼板1の搬送方向に対して順方向に回転して切断を行う。
この構成によれば、回転刃2を逆方向に回転させる場合に比べて、回転刃2に対する負荷を小さく抑えられる。
(11)切断対象の鋼板1は、高張力鋼板であり、且つ、例えば鋼板1の板厚が0.4mm以上であってもよい。
本実施形態の鋼板1の製造方法によれば、切断対象の鋼板1は、高張力鋼板1であり、且つ、鋼板1の板厚が0.4mm以上であっても、歩留まり良く連続して切断が可能となる。
【0074】
(12)本実施形態は、搬送されてきた鋼板1のエッジ部を回転刃2で切断するトリミング装置であって、回転刃2よりも上流に、上記回転刃2で切断する鋼板1の位置に潤滑油を付着する潤滑油付着装置を備える。
この構成によれば、回転刃2の遠心力で、仮に回転刃2に付着した潤滑油が飛んでしまっても、鋼板1の表面に潤滑油を付着することで、切断位置における油の供給不足を解消し、摩擦を低減することによってトリマーの刃欠けの頻度を抑制可能となる。
(13)本実施形態は、上記のトリミング装置を備える鋼板1の製造装置である。
この構成によれば、トリマーの刃欠けの頻度を抑制されて、鋼板製造の歩留まりが向上する。
【符号の説明】
【0075】
1 鋼板
1a、1b 表面
2 回転刃
2A、2B 一対の回転刃
3 噴霧装置(潤滑油付着装置)
7 押さえロール
9 フェルト
20 油滴下装置(潤滑油付着装置)