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特開2022-50364スチレン系樹脂組成物、押出シート及び成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022050364
(43)【公開日】2022-03-30
(54)【発明の名称】スチレン系樹脂組成物、押出シート及び成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 25/08 20060101AFI20220323BHJP
   C08L 51/04 20060101ALI20220323BHJP
   C08K 5/01 20060101ALI20220323BHJP
   C08K 5/134 20060101ALI20220323BHJP
   C08K 5/05 20060101ALI20220323BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20220323BHJP
【FI】
C08L25/08
C08L51/04
C08K5/01
C08K5/134
C08K5/05
C08J5/18 CET
C08J5/18 CEY
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021151602
(22)【出願日】2021-09-16
(31)【優先権主張番号】P 2020156790
(32)【優先日】2020-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】500199479
【氏名又は名称】PSジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(74)【代理人】
【識別番号】100141601
【弁理士】
【氏名又は名称】貴志 浩充
(72)【発明者】
【氏名】小林 松太郎
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
【Fターム(参考)】
4F071AA12X
4F071AA22X
4F071AA32X
4F071AA76
4F071AA77
4F071AA81
4F071AA85
4F071AA88
4F071AE05
4F071AF01
4F071AF23
4F071AF30
4F071AF34
4F071AF45
4F071AF55
4F071AH05
4F071BA01
4F071BB03
4F071BB06
4F071BB08
4J002BN142
4J002EA017
4J002EA048
4J002EC069
4J002EJ066
4J002FD076
4J002FD329
4J002GG01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明は、耐熱性、外観及び成形性に優れたスチレン系樹脂組成物と、それを用いた押出シート、さらに当該押出シートを2次成形してなる成形品を提供することである。
【解決手段】本発明は、不飽和カルボン酸単量体単位及びスチレン系単量体単位を有するスチレン共重合体(A)と、スチレン系単量体単位を有するスチレンオリゴマー(B)と、ラジカル捕捉剤(C)と、を有するスチレン系樹脂組成物であって、前記スチレン共重合体(A)を100質量部としたときに、前記スチレン共重合体(A)に含まれる不飽和カルボン酸単量体単位の含有量は、2~15質量部であり、前記スチレンオリゴマー(B)の含有量は、0.05~0.4質量部であり、前記ラジカル捕捉剤(C)の含有量は、0.001~0.1質量部であることを特徴とする、スチレン系樹脂組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和カルボン酸単量体単位及びスチレン系単量体単位を有するスチレン共重合体(A)と、スチレン系単量体単位を有するスチレンオリゴマー(B)と、ラジカル捕捉剤(C)と、を有するスチレン系樹脂組成物であって、
前記スチレン共重合体(A)を100質量部としたときに、前記スチレン共重合体(A)に含まれる不飽和カルボン酸単量体単位の含有量は、2~15質量部であり、前記スチレンオリゴマー(B)の含有量は、0.05~0.4質量部であり、前記ラジカル捕捉剤(C)の含有量は、0.001~0.1質量部であることを特徴とする、スチレン系樹脂組成物。
【請求項2】
前記スチレン共重合体(A)100質量部に対して、エチルベンゼンを0.001~0.08質量部さらに含有する、請求項1に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項3】
前記スチレン共重合体(A)は、以下の一般式(1)
【化1】
(上記一般式(1)中、Rは、水素原子又はメチル基を表し、Rはエステル置換基であり、炭素原子数6~12のアルキル基を表す。)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を、前記スチレン共重合体(A)100質量部に対して0.05質量部以上さらに含有する、請求項1又は2に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項4】
前記スチレン共重合体(A)100質量部に対して、炭素原子数16以上の1価アルコールを0.001~1質量部さらに含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項5】
前記ラジカル捕捉剤(C)は、以下の一般式(2)
【化2】
(上記一般式(2)中、X及びXは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子又は置換若しくは非置換の芳香族環を表し、L及びLは、それぞれ独立して、単結合又は炭素原子数1~23個のアルキレン基を表し、当該アルキレン基中の1以上のメチレン基は、互いに隣接しないよう-CH=CH-に置換されてもよい。)で表される、請求項1~4のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項6】
前記スチレン共重合体(A)100質量部に対して、ゴム変性ポリスチレン(D)を0.5~5質量部さらに含有する、請求項1~5のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項7】
前記スチレン共重合体(A)100質量部に対して、共役ジエン単量体単位を0~0.6質量部含有する、請求項1~6のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂組成物。
【請求項8】
前記スチレン共重合体(A)100質量部に対して、流動パラフィン(E)を0.001~0.5質量部さらに含有する、請求項1~7のいずれか1項にスチレン系樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載のスチレン系樹脂組成物を有する、非発泡押出シート。
【請求項10】
請求項1~8のいずれかに記載のスチレン系樹脂組成物を有する、発泡押出シート。
【請求項11】
請求項9に記載の非発泡押出シート又は請求項10に記載の発泡押出しシートを用いて形成されてなる、成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スチレン系樹脂組成物、該スチレン系樹脂組成物を用いて成形される押出シート及び該押出シートを二次成形してなる成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン-メタクリル酸共重合樹脂等に代表されるスチレン-不飽和カルボン酸系樹脂は、耐熱性、透明性、剛性に優れ、且つ安価なことから、弁当、惣菜等の食品容器の包装材料、住宅の断熱材用の発泡ボード、拡散剤を入れた液晶テレビの拡散板等に広く用いられている。特に近年のコンビニエンスストアー等の業務用に使用する高出力電子レンジの普及により、高出力電子レンジでの調理時の温度下でも熱変形しない容器、蓋材として用いられている。一方では、スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂の耐熱性向上に伴い、一般のスチレン系樹脂と同じ成形温度域では粘度が高くなり成形性が悪化するため、成形温度を上げざるを得ない。
【0003】
そして、成形温度の上昇により、スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂重合時の副生成、成形時の熱分解により生じる高沸点のオリゴマー成分の揮発又はブリードアウトが促される。揮発した高沸点のオリゴマー成分は速やかに巻き取りロール上で凝集し、巻き取りロールに高沸点成分による汚れが蓄積する。巻き取りロールに蓄積した汚れが多くなると、透明シートに汚れが転写され、表面白濁を引き起こし透明シートとしての品質低下につながる。したがって特に透明シート生産時には一定周期で巻き取りロールの汚れを除去する必要があることから、スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂の重合及び成形時のオリゴマー生成を抑制する手法が求められてきた。
【0004】
例えば、特許文献1では、スチレン-メタクリル酸系樹脂を水中懸濁重合で比較的低温条件で製造することにより重合時のオリゴマー生成を抑制する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-12734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の特許文献1の方法では重合時に生成するオリゴマーは抑制されるものの、成形時に生成するオリゴマーが抑制されず、結果として得られる透明シートの白濁を抑えるには不十分であった。また、重合時のオリゴマー成分を抑制しすぎることによりオリゴマーによる可塑効果が低減し、成形温度が高くなってしまう傾向であった。さらには、成形温度が高くなると、食品容器の蓋材などに使用する透明シートが黄変して外観を損なうという問題も生じる。
【0007】
そこで、本発明が解決する課題は、耐熱性、外観及び成形性に優れたスチレン系樹脂組成物と、それを用いた押出シート、さらに当該押出シートを2次成形してなる成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記問題点に鑑みて鋭意研究を進めた結果、スチレン-不飽和カルボン酸系樹脂に特定の比率でラジカル捕捉剤を重合時の後半に添加し、重合時のオリゴマー生成を抑制し、さらに樹脂組成物中における当該ラジカル捕捉剤の含有量を特定範囲にすることにより、成形時のオリゴマー生成も抑制し、耐熱性、外観及び成形性に優れたスチレン樹脂組成物とそれを用いた押出シート、さらにその押出シートを2次成形してなる成形品(例えば、容器)の実現に成功し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0009】
[1]不飽和カルボン酸単量体単位及びスチレン系単量体単位を有するスチレン共重合体(A)と、スチレン系単量体単位を有するスチレンオリゴマー(B)と、ラジカル捕捉剤(C)と、を有するスチレン系樹脂組成物であって、
前記スチレン共重合体(A)100質量部に対して、前記スチレン共重合体(A)に含まれる不飽和カルボン酸単量体単位の含有量は、2~15質量部であり、前記スチレンオリゴマー(B)の含有量は、0.05~0.4質量部であり、前記ラジカル捕捉剤(C)の含有量は、0.001~0.1質量部であることを特徴とする、スチレン系樹脂組成物。
【0010】
[2]前記スチレン共重合体(A)100質量部に対して、エチルベンゼンを0.001~0.08質量部さらに含有する、[1]に記載のスチレン系樹脂組成物。
【0011】
[3]前記スチレン共重合体(A)は、以下の一般式(1)
【化1】
(上記一般式(1)中、Rは、水素原子又はメチル基を表し、Rはエステル置換基であり、炭素原子数6~12のアルキル基を表す。)で表される(メタ)アクリル酸単量体単位を、前記スチレン共重合体(A)100質量部に対して0.05質量部以上さらに有する、[1]又は[2]に記載のスチレン系樹脂組成物。
【0012】
[4]前記スチレン共重合体(A)100質量部に対して、炭素原子数16以上の1価アルコールを0.001~1質量部さらに含有する、[1]~[3]のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂組成物。
【0013】
[5]前記ラジカル捕捉剤(C)は、以下の一般式(2)
【化2】
(上記一般式(2)中、X及びXは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子又は置換若しくは非置換の芳香族環を表し、L及びLは、それぞれ独立して、単結合又は炭素原子数1~23個のアルキレン基を表し、当該アルキレン基中の1以上のメチレン基は、互いに隣接しないよう-CH=CH-に置換されてもよい。)で表される、[1]~[4]のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂組成物。
【0014】
[6]前記スチレン共重合体(A)100質量部に対して、ゴム変性ポリスチレン(D)を0.5~5質量部含有する、[1]~[5]のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂組成物。
【0015】
[7]前記スチレン共重合体(A)100質量部に対して、共役ジエン単量体単位を0~0.6質量部含有する、[1]~[6]のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂組成物。
【0016】
[8]前記スチレン共重合体(A)100質量部に対して、流動パラフィン(E)を0.001~0.5質量部さらに含有する、[1]~[7]のいずれか1項に記載のスチレン系樹脂組成物。
【0017】
[9][1]~[8]のいずれかに記載のスチレン系樹脂組成物を有する、非発泡押出シート。
【0018】
[10][1]~[8]のいずれかに記載のスチレン系樹脂組成物を有する、発泡押出シート。
【0019】
[11][9]に記載の非発泡押出シート又は[10]に記載の発泡押出しシートを用いて形成されてなる、成形品。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、耐熱性、外観及び成形性に優れたスチレン系樹脂組成物を提供することができる。
本発明によれば、耐熱性、外観及び耐衝撃性に優れた押出しシート及び電子レンジ調理可能な弁当容器の蓋材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0022】
[スチレン系樹脂組成物]
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、不飽和カルボン酸単量体単位及びスチレン系単量体単位を有するスチレン共重合体(A)と、スチレン系単量体単位を有するスチレンオリゴマー(B)と、ラジカル捕捉剤(C)とを有するスチレン系樹脂組成物であって、前記スチレン共重合体(A)の総量を100質量部としたときに、前記スチレン共重合体(A)に含まれる不飽和カルボン酸単量体単位の含有量は2~15質量部であり、前記スチレンオリゴマー(B)の含有量は0.05~0.4質量部であり、前記ラジカル捕捉剤(C)の含有量は0.001~0.1質量部であることを特徴とする、スチレン系樹脂組成物(以下、単に樹脂組成物ということもある)を提供することである。
【0023】
<スチレン共重合体(A)>
本実施形態において、スチレン共重合体(A)はスチレン系単量体単位と不飽和カルボン酸単量体単位とを必須成分とし、当該不飽和カルボン酸単量体単位を含有量がスチレン共重合体(A)を構成する全単量体単位の合計含有量(=スチレン共重合体(A)の総量)を100質量部としたときに、2~15質量部である共重合体(以下単に共重合体(A)ともいう)である。スチレン共重合体(A)は、不飽和カルボン酸単量体単位を高分子鎖に導入されていることにより、スチレン単独重合体と比べて耐熱性に優れる。
また、本実施形態におけるスチレン共重合体(A)は、スチレン系単量体単位及び不飽和カルボン酸単量体単位以外に、他の単量体単位を含有してもよい。当該他の単量体単位としては、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位が好ましい。
【0024】
<<スチレン系単量体>>
上記スチレン共重合体(A)において、スチレン共重合体(A)を構成する全単量体単位の合計含有量を100質量部としたときに、前記スチレン系単量体単位の含有量は好ましくは85~98質量部、より好ましくは80~96質量部、より更に好ましくは82~91質量部である。含有量が70質量部より少ないと流動性の低下を招き、98質量%よりも多いと後述の不飽和カルボン酸を所望量含有させにくくなり、不飽和カルボン酸による耐熱性の向上効果が十分に得られない。
【0025】
重合によりスチレン系単量体単位を形成するスチレン系単量体としては、特に限定されないが、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、β-メチルスチレン、パラメチルスチレン、オルトメチルスチレン、メタメチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン等が挙げられる。特に工業的観点からスチレン及びα-メチルスチレンが好ましく、スチレンがより好ましい。スチレン系単量体としては、これらを単独又は2種以上混合して使用できる。
【0026】
<<不飽和カルボン酸単量体>>
上記スチレン共重合体(A)において、不飽和カルボン酸単量体単位は耐熱性を向上させる役割を果たす。スチレン共重合体(A)を構成する全単量体単位の合計含有量を100質量部としたときに、不飽和カルボン酸単量体単位の含有量は2~15質量部であり、好ましくは3~14質量部、より好ましくは4~13質量部、より更に好ましくは5~12質量部、より更に好ましくは6~11質量部の範囲である。この含有量が2質量部未満では耐熱性向上の効果が不十分である。また、不飽和カルボン酸単量体単位の含有量が15質量部を超える場合は、樹脂中のゲル化物が増加、吸水率上昇による成形時の気泡発生、製造時に粘度が高くなりすぎるため好ましくない。
【0027】
本実施形態における不飽和カルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸が挙げられる。特に工業的観点から不飽和カルボン酸単量体としては、これらを単独又は2種以上混合して使用してもよい。不飽和カルボン酸単量体は、耐熱性向上効果の大きいメタクリル酸が特に好ましい。
【0028】
<<(メタ)アクリル酸エステル単量体単位>>
本実施形態の好ましい様態としては、スチレン共重合体(A)は、上述したスチレン系単量体単位及び不飽和カルボン酸単量体単位に加えて、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含んでもよい。当該(メタ)アクリル酸エステル単量体単位は、炭素原子数6以上12以下のエステル置換基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位であることが好ましい。これにより流動性に優れた樹脂組成物を得ることができる。上記炭素原子数6以上12以下のエステル置換基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位としては、具体的には以下の一般式(1)に表される単量体単位であることが好ましい。
【化3】
(上記一般式(1)中、Rは、水素原子又はメチル基を表し、Rはエステル置換基を表し、当該エステル置換基Rは、炭素原子数6~12のアルキル基を表す。*は他の原子との結合を表す。)
【0029】
なお、炭素原子数6以上12以下のエステル置換基とは、Rで表されるアルキル基(炭素原子数6以上12以下であり、直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基)をいう。本実施形態のスチレン共重合体(A)が3元以上の共重合体である場合において、前記スチレン共重合体(A)中における炭素原子数6以上12以下のエステル置換基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有量は、スチレン共重合体(A)に含まれる単量体単位の総量を100質量部としたときに、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.05質量部~5質量部である。0.05質量部を下回ると流動性向上効果が十分に得られず、5質量部を超えると耐熱性を著しく損ねてしまう。
【0030】
<<その他単量体>>
本発明に係るスチレン共重合体(A)は、上述したスチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸単量体単位、及び任意成分である炭素原子数6以上12以下のエステル置換基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位以外の単量体単位を有してもよい。すなわち、本実施形態において、スチレン系単量体及び/又は不飽和カルボン酸単量体と共重合可能であれば発明の効果を損なわない範囲で、特に制限されることなく、上記に示した2つの単量体以外の単量体と共重合してよい。例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸(n-オクチル)、メタクリル酸(2-エチルヘキシル)などのメタクリル酸エステル類、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸(n-ブチル)、アクリル酸(t-ブチル)などのアクリル酸エステル類、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、(メタ)アクリロニトリル、ジメチルマレエート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、エチルフマレート、マレイミド、及び核置換マレイミド等が挙げられる。特にメタクリル酸メチルは共重合することで、樹脂の透明性、強度を向上することから好ましい。
【0031】
本発明に係るスチレン共重合体(A)中の、スチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸単量体単位、任意成分である炭素原子数6以上12以下のエステル置換基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位及びその他単量体単位の含有量は、それぞれ、プロトン核磁気共鳴(H-NMR)測定機で測定したスペクトルの積分比から求めることができる。
【0032】
本発明に係るスチレン共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、10万~40万であることが好ましく、更に好ましくは12万~32万である。重量平均分子量が10万~35万である場合、衝撃強度と流動性とのバランスの実用性に優れる樹脂が得られる。重量平均分子量はゲルパーミエイションクロマトグラフィーによりポリスチレン標準換算で測定できる。
【0033】
本発明に係るスチレン共重合体(A)の数平均分子量(Mn)は、3万~20万であることが好ましく、更に好ましくは4万~17万である。数平均分子量が3万~20万である場合、衝撃強度と流動性とのバランスの実用性に優れる樹脂が得られる。数平均分子量はゲルパーミエイションクロマトグラフィーによりポリスチレン標準換算で測定できる。
【0034】
<スチレン共重合(A)の製造方法>
本実施形態のスチレン共重合体(A)の製造法について以下説明する。本発明のスチレン共重合体(A)の製造法は、スチレン系単量体と、不飽和カルボン酸単量体と、溶媒、必要に応じてその他単量体(炭素原子数6以上12以下のエステル置換基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位など)、開始剤とを混合して混合溶液を調製する工程と、前記混合溶液を重合する重合工程と、後述するラジカル捕捉剤(C)を添加する工程、反応生成物を回収する工程とを含むことが好ましい。
スチレン共重合体(A)の重合方法としては、特に制限はないが、例えばラジカル重合法、その中でも、塊状重合法又は溶液重合法を好ましく採用できる。
具体的には、重合方法は、主に、重合原料(単量体成分)を重合させる重合工程と、重合生成物から未反応の単量体、重合溶媒等の揮発分を除去する脱揮工程と、を備える。
【0035】
以下、本実施形態に係るスチレン共重合体(A)の重合について説明する。
本実施形態において、スチレン共重合体(A)を得るために重合原料を重合させる際には、重合原料組成物中に、典型的には重合開始剤を含有させる。重合開始剤としては、有機過酸化物、例えば、2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)ブタン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルペルオキシ)バレレート等のペルオキシケタール類、ジ-t-ブチルペルオキシド、t-ブチルクミルペルオキシド、ジクミルペルオキシド等のジアルキルペルオキシド類、アセチルペルオキシド、イソブチリルペルオキシド等のジアシルペルオキシド類、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート等のペルオキシジカーボネート類、t-ブチルペルオキシアセテート等のペルオキシエステル類、アセチルアセトンペルオキシド等のケトンペルオキシド類、t-ブチルヒドロペルオキシド等のヒドロペルオキシド類等を挙げることができる。分解速度と重合速度との観点から、なかでも、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサンが好ましい。
【0036】
スチレン共重合体(A)の重合時には必要に応じて連鎖移動剤を使用することもできる。連鎖移動剤の例としては、例えば、αメチルスチレンリニアダイマー、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン等を挙げることができる。
【0037】
スチレン共重合体(A)の重合方法としては、重合溶媒を用いた溶液重合を採用できる。重合溶媒としては、トルエン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、ブチルベンゼン等の芳香族溶媒が好ましく、必要に応じてアルコール類又はケトン類などの極性溶媒を組み合わせてスチレン共重合体(A)の溶解性を調整した溶媒系を用いてもよい。
本実施形態において、重合溶媒は、スチレン共重合体(A)を構成する全単量体と溶媒の合計100質量部に対して、3~35質量部の範囲で使用するのが好ましく、より好ましくは5~30質量部の範囲である。重合溶媒35質量部を超えると、重合速度が低下し、且つ得られる樹脂分子量も低下するので、樹脂の機械的強度が低下する傾向がある。また、重合溶媒が3質量部未満では重合時に除熱の制御が難しくなる恐れがある。全単量体100質量部に対して3~35質量部の割合で添加しておくことが、品質が均一化し易く、重合温度制御の点でも好ましい。
また、1価アルコールを重合溶媒として使用する場合は、全単量体と溶媒の合計100質量部に対して、1~10質量部の割合で添加することが好ましい。
【0038】
本発明に係るスチレン共重合体(A)を得るための重合工程で用いる装置は、特に制限はなく、一般的なスチレン系樹脂の重合方法に従って適宜選択すればよい。例えば、塊状重合による場合には、完全混合型反応器を1基、又は複数基連結した重合装置を用いることができる。また脱揮工程についても特に制限はなく、塊状重合で行う場合、最終的に未反応モノマーが、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下になるまで重合を進める。
【0039】
十分にモノマーを重合した段階、すなわち未反応モノマーが、50質量%以下の段階で、後述のラジカル捕捉剤(C)を添加することで後述のスチレンオリゴマー量を適切な範囲になるように製造することができる。
【0040】
未反応モノマー等の揮発分を除去するために、既知の方法にて脱揮処理する。例えば、フラッシュドラム、二軸脱揮器、薄膜蒸発器、押出機等の通常の脱揮装置を用いることができるが、滞留部の少ない脱揮装置が好ましい。なお、脱揮処理の温度は、通常、190~280℃程度であり、分解抑制の観点から190~260℃がより好ましい。また脱揮処理の圧力は、通常0.13~4.0kPa程度であり、好ましくは0.13~3.0kPaであり、より好ましくは0.13~2.0kPaである。脱揮方法としては、例えば加熱下で減圧して揮発分を除去する方法、及び揮発分除去の目的に設計された押出機等を通して除去する方法が望ましい。
【0041】
<スチレンオリゴマー(B)>
本実施形態において、スチレンオリゴマー(B)はスチレン共重合体(A)を重合又は溶融加工する際にスチレン系単量体の副反応やポリマーの熱分解により生成するスチレン2量体、3量体からなる化合物群の総称であり、適度に組成物中に含有させることで流動性を向上する可塑効果が期待できる。そして可塑効果が向上すると、成形温度を低減できるため、成形品の黄変を抑制して優れた外観性を担保しうる。そのため、スチレンオリゴマー(B)は、耐熱性を向上させ流動性が低下したスチレン系樹脂組成物において大きな役割を担う。一方でスチレンオリゴマー(B)が存在し過ぎると成形時の揮発量が増え、ダイスや金型の汚れ、透明シート白濁の原因となる。したがって本発明においてスチレンオリゴマー(B)を組成物中に適切な範囲で含有させることが重要である。
【0042】
本明細書中においてスチレンオリゴマー(B)の含有量には、スチレン系単量体から形成される、スチレン2量体及び3量体との含有量の総和を表す。本発明のスチレン系樹脂組成物中におけるスチレンオリゴマー(B)の含有量は、スチレン系樹脂組成物中の前記スチレン共重合体(A)含有量を100質量部としたときに、0.05~0.4質量部であり、好ましくは0.08~0.3質量部、より好ましくは0.09~0.25質量部、より更に好ましくは0.1~0.2質量部である。0.05質量部を下回ると流動性の向上効果に乏しくなることに起因して黄変しやすくなり、0.4質量部を上回ると成形時にダイス、金型、シート巻き取りロールを汚染し、耐熱性の低下も引き起こす。とりわけ透明シート製造時に巻き取りロールを汚染すると、ロール上のスチレンオリゴマー(B)由来の汚れが透明シートに転写され、白濁の原因になる。特にスチレンオリゴマー(B)の含有量を0.1~0.2質量部にすることで流動性、低汚染性、耐熱性のバランスに優れたスチレン系樹脂組成物を得ることができる。
【0043】
上記スチレン2量体及び3量体の具体的な化合物は、2量体として、2,4-ジフェニル-1-ブテン、シス-1,2-ジフェニルシクロブタン、トランス-1,2-ジフェニルシクロブタンなどが挙げられる。また、3量体として、2,4,6-トリフェニル-1-ヘキセン、1,3,5-トリフェニルシクロヘキサン、1e―フェニル-4a-(2-フェニルエチル)テトラリン、1e―フェニル-4e-(1-フェニルエチル)テトラリンなどが挙げられる。
【0044】
本実施形態のスチレン系樹脂組成物中におけるスチレンオリゴマー(B)の定量は後述のガスクロマトグラフィー法によりすることができる。
【0045】
<<ラジカル捕捉剤(C)>>
本実施形態においてラジカル捕捉剤(C)はスチレン系樹脂組成物中の前記スチレンオリゴマー(B)の含有量を適切に調整する役割を担う。
【0046】
スチレン系樹脂組成物中の含有量としては、前記スチレン共重合体(A)含有量を100質量部としたときに、0.001~0.1質量部であり、好ましくは0.003~0.08質量部、より好ましくは0.005~0.06質量部、さらに好ましくは0.007~0.04質量部、よりさらに好ましくは0.010~0.035質量部、最も好ましくは0.013~0.030質量部である。0.001質量部未満とするとスチレンオリゴマー(B)の低減効果が十分に得られず、0.1質量部を超えると添加量に対するオリゴマー低減能力が十分に得られないことに加えてラジカル捕捉剤(C)自体が巻き取りロールの汚染や透明シート白濁の原因となってしまうので注意が必要である。特に、ラジカル捕捉剤(C)の含有量を0.013~0.030質量部にすることで、上述したオリゴマー生成の抑制とラジカル捕捉剤(C)のブリードアウトによる成形品の外観抑制のバランスに優れた樹脂組成物を得ることができる。
【0047】
ラジカル捕捉剤(C)としては具体的にはオクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3,9-ビス[2-〔3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕-1,1-ジメチルエチル]-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、エチレンビス(オキシエチレン)ビス〔3-(5-t-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート〕、4-t-ブチルカテコール、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、4,6-ビス〔(ドデシルチオ)メチル〕-o-クレゾール、2,4-ジメチル-6-(1-メチルペンタデシル)フェノール、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、DL-α-トコフェロール、2-t-ブチル-6-(3-t-ブチル-2-ヒドロキシ-5-メチルベンジル)-4-メチルフェニルアクリレート、2-〔1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ペンチルフェニル)エチル〕-4,6-ジ-t-ペンチルフェニルアクリレート、4,4’-チオビス(6-t-ブチル-3-メチルフェノール)、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)ブタン、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、ビス-[3,3-ビス-(4’-ヒドロキシ-3’-t-ブチルフェニル)-ブタン酸]-グリコールエステル、6-[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロポキシ]-2,4,8,10-テトラ-t-ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]-ジオキサホスフェピン、4-メトキシフェノール、2-メトキシフェノールなどが挙げられる。
【0048】
特に、ラジカル捕捉剤(C)が以下の一般式(2)で表される、エステル型の化学構造を有すると、オリゴマー量の低減効果が高い。特に好ましくは2-〔1-(2-ヒドロキシ-3,5-ジ-t-ペンチルフェニル)エチル〕-4,6-ジ-t-ペンチルフェニルアクリレートである。
【化4】

(上記一般式(2)中、X及びXは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子又は置換若しくは非置換の芳香族環(例えば、1価の芳香族基(フェニル基、ジフェニルアルカン又はジフェニルアルケンから水素原子を1つ取り除いた基))を表し、X及びXは、それぞれ独立して、単結合又は炭素原子数1~23個のアルキレン基を表し、当該アルキレン基中の1以上のメチレン基は、互いに隣接しないよう-CH=CH-に置換されてもよい。)
上記一般式(2)において、X及びXはそれぞれ独立して、水素原子、以下の式(2-1)又は式(2-2)で表される基であることが好ましい。
【化5】
【化6】
(上記式(2-1)又は式(2-2)において、R~Rはそれぞれ独立して、炭素原子数1~8の直鎖状又は分岐状のアルキル基を表し、Lは炭素原子数1~5のアルキレン基を表す。)
【0049】
ラジカル捕捉剤(C)の組成物中における定量は後述のガスクロマトグラフィー法によりすることができる。
【0050】
<ゴム変性ポリスチレン(D)>
本実施形態の好ましい態様としては、スチレン系樹脂組成物は、ゴム変性ポリスチレン(D)を含有することが好ましい。本実施形態におけるスチレン系樹脂組成物は耐衝撃性を重視する場合、ゴム変性ポリスチレン(D)をさらに添加してもよい。
【0051】
本明細書中においてゴム変性ポリスチレン(D)はポリブタジエンなどの共役ジエン単量体単位を含むゴム状重合体にスチレン系単量体あるいはその他単量体を攪拌翼などで剪断をかけながらグラフト重合し、グラフト鎖を有するゴム状重合体の粒子として分散させたゴム状重合体の粒子と、マトリックス樹脂からなる樹脂を表す。
【0052】
ゴム変性ポリスチレン(D)はスチレン系樹脂組成物全体の強度を向上し、特にシート成形した時の巻き取り時の割れを防ぎ、また、ゴム状重合体の粒子により適度な表面粗さを付与することでシート同士のブロッキングを防ぐ効果がある。
【0053】
ゴム変性ポリスチレン(D)の樹脂組成物中の含有量としては、スチレン共重合体(A)の含有量を100質量部としたときに、好ましくは0.5~5.0質量部、より好ましくは0.7~4.5質量部、より更に好ましくは1.0質量部~3.5質量部である。0.5質量部以上にすることで、樹脂組成物の強度向上効果が得られ、5.0質量部以上にすると透明性を損なってしまう。
【0054】
ゴム変性ポリスチレン(D)の添加方法としては特に限定されるものではないが、好ましくは押出機での溶融混練であり、溶融混練するのは成形時に前記スチレン共重合体(A)とドライブレンドで混合したものを用いても、あらかじめ前記スチレン共重合体(A)と成形機とは別の押出機で溶融混練しても良い。
【0055】
-ゴム状重合体-
ゴム変性ポリスチレン(D)中のゴム状重合体としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、天然ゴム、ポリクロロプレン、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体などが使用できるが、工業的観点から、ポリブタジエン及びスチレン-ブタジエン共重合体が好ましい。ポリブタジエンには、シス含有率の高いハイシスポリブタジエン、シス含有率の低いローシスポリブタジエン、又はこれらの両方を用いることができる。スチレン-ブタジエン共重合体の構造としては、ランダム構造であってもよく、ブロック構造であってもよく、これらの組合せであってもよい。これらのゴム状重合体は、一種を単独で用いてもよく、又は二種以上を組み合わせて使用してもよい。ブタジエン系ゴムを水素添加した飽和ゴムを使用することもできる。
特に、外観(黄変の抑制)を重視する場合、本発明のスチレン系樹脂組成物における(メタ)アクリロニトリル単量体単位の合計含有量を、スチレン系樹脂組成物の総量(100質量%)に対して、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下、さらに好ましくは0.6質量%以下、よりさらに好ましくは0.5質量%以下、さらにより好ましくは0.4質量%以下でありうる。
【0056】
-共役ジエン単量体単位-
本願明細書において共役ジエン単量体単位は、上記ゴム状重合体を構成する単量体単位のうち、一対の共役二重結合を有するジオレフィンであり、例えば、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン(イソプレン)、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエンなどが挙げられる。ゴム変性ポリスチレン(D)及び樹脂組成物中の共役ジエン単量体単位の含有量は、後述の実施例の項に記載する手順、又はこれと等価な方法で測定することができる。
【0057】
ゴム変性ポリスチレン(D)中における共役ジエン単量体単位の含有量としては、ゴム変性ポリスチレン(D)の総量に対して、好ましくは2~15質量%、より好ましくは3~14質量%、更により好ましくは4~13質量%である。
【0058】
本発明のスチレン系樹脂組成物における共役ジエン単量体単位の合計含有量は、スチレン系樹脂組成物中のスチレン共重合体(A)の含有量を100質量部に対して、好ましくは0~1.0質量部、より好ましくは0超1.0質量部以下、さらに好ましくは0.005~0.8質量部、より更に好ましくは0.010~0.6質量部、最も好ましくは0.030~0.4質量部である。
特に共役ジエン単量体単位の合計含有量を0.01質量部以上にすることでゴム変性ポリスチレン(D)やその他添加剤の添加による強度向上効果やブロッキング防止効果を高く得ることができ、0.6質量部以下にすることで透明性に優れた樹脂組成物を得ることができる。
特に、耐熱性、外観、透明性及び成形性に優れたスチレン系樹脂組成物を提供することを目的とする場合、あるいは、耐熱性、外観、透明性及び耐衝撃性に優れた押出しシート及び電子レンジ調理可能な弁当容器の蓋材を提供することを目的とする場合、本発明のスチレン系樹脂組成物における共役ジエン単量体単位の合計含有量を、スチレン系樹脂組成物中のスチレン共重合体(A)の含有量を100質量部に対して、0.4質量部以下であることが特に好ましい。
上記共役ジエン単量体単位の合計含有量とは、必須成分であるスチレン共重合体(A)及びスチレンオリゴマー(B)中に含有されうる共役ジエン単量体単位だけでなく、任意成分であるゴム変性ポリスチレン(D)及び/又はMBSゴムなどのその他添加剤中に含有されうる共役ジエン単量体単位を全て含めた、共役ジエン単量体単位の総量をいう。
【0059】
-ゴム粒子径-
ゴム変性ポリスチレン(D)中のゴム状重合体は、スチレン系樹脂組成物中にゴム粒子として存在していることが好ましい。この場合のゴム状重合体の粒子の平均粒子径(以下、ゴム粒子径とも称する。)は、好ましくは0.3~9.0μm、より好ましくは0.4~6.0μm、更に好ましくは0.5~3.0μmである。ゴム粒子径が0.3μm以上である場合、樹脂組成物の機械的強度が良好である。また、ゴム粒子径が9.0μm以下である場合、樹脂組成物の透明性、外観が良好である。ゴム変性ポリスチレン系(D)はゴム状重合体の存在下で撹拌機付きの反応器内でスチレン系単量体を重合させて得られるが、ゴム粒子径は、撹拌機の回転数、用いるゴム状重合体の分子量などで調整することが出来る。
明細書中で、ゴム状重合体の平均粒子径は透過型電子顕微鏡による断面観察画像から計測される値である。
【0060】
-膨潤指数-
本発明において、ゴム変性ポリスチレン(D)のトルエン不溶分の膨潤指数が8.0~14.0であることが好ましく、且つトルエン不溶分中のゴム含有量に対するトルエン不溶分の質量比(トルエン不溶分/トルエン不溶分中のゴム含有量)が1.5~4.0であることが好ましい。この膨潤指数は、より好ましくは9.0~13.0、更に好ましくは9.5~12.5であり、トルエン不溶分/トルエン不溶分中のゴム含有量の比はより好ましくは2.0~3.5、更に好ましくは2.5~3.5である。ゴム変性スチレン系樹脂(b)のトルエン不溶分の膨潤指数が8.0~14.0であり、且つトルエン不溶分/トルエン不溶分中のゴム含有量の比が1.5~4.0である場合、機械的強度に優れる樹脂が得られる。本開示で、トルエン不溶分の膨潤指数、及びトルエン不溶分/トルエン不溶分中のゴム含有量の比は、それぞれ実施例の項で説明する手順又はこれと同等であることが当業者に理解されるような手順で測定される値である。
【0061】
ゴム変性ポリスチレン(D)の200℃でのメルトフローレートは、好ましくは0.5~20.0、より好ましくは1.0~18.0、更に好ましくは2.0~16.0であることができる。上記メルトフローレートが0.5~20.0の範囲であれば、スチレン共重合体(A)との混合性が良く、また機械的強度も良好である。本開示で、メルトフローレートは、ISO 1133に準拠して、200℃、荷重49Nにて測定される値である。
【0062】
-ゴム変性ポリスチレン(D)の製造方法-
ゴム変性ポリスチレン(D)の製造方法は特に制限されるものではないが、ゴム状重合体の存在下、スチレン系単量体(及び溶媒)を重合する塊状重合(若しくは溶液重合)、又は反応途中で懸濁重合に移行する塊状-懸濁重合、又はゴム状重合体ラテックスの存在下、スチレン系単量体を重合する乳化グラフト重合にて製造することができる。塊状重合においては、ゴム状重合体、スチレン系単量体、並びに必要に応じて有機溶媒、有機過酸化物、及び/又は連鎖移動剤を添加した混合溶液を、完全混合型反応器又は槽型反応器と、複数の槽型反応器とを直列に連結し構成される重合装置に連続的に供給することにより製造することができる。
【0063】
<流動パラフィン(E)>
本実施形態の好ましい態様としては、スチレン系樹脂組成物は、流動パラフィン(E)をさらに含有することが好ましい。流動パラフィン(E)を含有したスチレン系樹脂組成物は、流動性向上効果とシート成形物の強度を向上させ、巻き取り時の割れを低減する効果を示す。
【0064】
流動パラフィン(E)のスチレン系樹脂組成物中の含有量としてはスチレン共重合体(A)を100質量部としたときに、好ましくは0.005~0.5質量部、より好ましくは0.010~0.4質量部、更に好ましくは0.015~0.3質量部である。0.005質量以下では流動性向上効果が得られず、0.5質量部以上にすると耐熱性の低下を招来する。
【0065】
本発明で用いられる流動パラフィン(E)は、精製度や商習慣により流動パラフィンのほかに白色鉱油、ミネラルオイル、MO、ホワイトミネラルオイルなどと称される場合がある。
【0066】
流動パラフィン(E)は、好ましくは、n-d-M環分析法によるナフテン成分比率が20%以上、さらに好ましくは30%以上のものがスチレン共重合体(A)との相溶性に優れるため好ましい。n-d-M環分析法とは、高沸点石油留分の組成試験方法であり、屈折率(n)、密度(d)及び分子量(M)を求めることにより、オイル中の芳香環比率(%Ca)、ナフテン環比率(%Cn)、パラフィン鎖比率(%Cp)を求める方法(ASTM D3238)である。製品の色の観点から、白色鉱油中の多環式芳香族成分が3%以下である必要があり、好ましくは0.5%以下である。流動パラフィンでは通常芳香環は0%である。
【0067】
流動パラフィン(E)の低沸点成分は少ないことが押出成形時の揮発分の問題を回避するために有効である。JIS K2254の減圧蒸留法又はガスクロマトグラフ法から常圧換算した値で5%溜出温度が400℃以上であることが好ましい。
【0068】
流動パラフィン(E)の動粘度は、上記低沸点成分が少なく、かつ、効果的にビカット軟化温度を下げ、ハンドリングも容易な粘度範囲が好適である。40℃で40mm2/s~120mm/sの範囲が好ましく、より好ましくは60~80mm2/sである。
【0069】
流動パラフィン(E)を添加する方法は、特に制限は無く、流動パラフィン(E)を重合工程で添加する方法、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー等の公知の混練機を用いて混練する方法などがある。特に分散性が良くなることからスチレン共重体(A)製造時に添加することが好ましい。
本実施形態における流動パラフィン(E)の定量及び同定は、当業者にとって一般的な方法により容易に確認できる。
例えば、スチレン系樹脂組成物又は当該組成物の成形体の断片を、テトラヒドロフランなどマトリックス樹脂を溶解する溶媒に溶解させて溶液を調製する。そして、この溶液をスターラーで攪拌させながら、n-ヘキサンを少量ずつ滴下してマトリックス樹脂及びゴム状重合体を沈殿させる。その後、ガラスフィルターで濾過した濾液を蒸発乾固させた後、n-ヘキサンにて定容し、ポリテトラフルオロエチレン製のメンブランフィルターに通した後、液体クロマトグラフィーにて分離して、組成物又は成形体中の流動パラフィンの含有量を算出する。また、流動パラフィンの分析については、熱分解GC-MS、H-NMR又は13C-NMRなどの各種分析装置によって同定、定量及び分子量の測定を行うことができる。
【0070】
<炭素原子数16以上の1価アルコール類>
本実施形態の好ましい態様として、スチレン系樹脂組成物は、炭素原子数16以上の1価アルコールとを含有することが好ましい。炭素原子数15以下のアルコール類では揮発性が高く、成形等を行う際に当該アルコールによって臭気が生じ作業性が低下する。しかし、炭素原子数を16以上にすることにより、揮発性が低くなり、成形時等の異臭が抑制されることが確認された。
本実施形態において、炭素原子数16以上の1価アルコールを含有することにより、250℃付近での成形時におけるゲル化物の生成を抑制する効果を果たし、外観に優れた成形品が得られる。上記1価アルコールとしては、水酸基を1つ含む炭素原子数16以上のアルコール類であり、炭素鎖中に酸素又は窒素などのヘテロ原子を含んでもよく、炭素鎖中に2重結合、3重結合、エステル結合、アミド結合など、単結合以外の結合を含んでもよい。炭素原子数としては16以上が好ましく、より好ましくは17以上、より更に好ましくは18以上50以下である。上記1価アルコールは、スチレン系樹脂組成物に含有されていればよい。したがって、スチレン共重合体(A)を重合する際に使用する重合溶液中に1価アルコールを存在(又は添加)させることにより、最終生成物であるスチレン系樹脂組成物中に1価アルコールを残留させてもよく、あるいはスチレン共重合体(A)の重合後に押出機又は溶媒中で混合させることで含有させてもよい。
本実施形態において、200℃付近での成形、あるいは混濁抑制の観点を重視する場合は、炭素原子数5~13のアルコールを選択し、250℃付近での成形、あるいは臭気抑制の観点を重視する場合は、炭素原子数16以上のアルコールを選択することが好ましい。
【0071】
炭素原子数16以上の1価アルコールの沸点としては260℃以上が好ましく、更に好ましくは270℃以上よりさらに好ましくは290℃以上である。当該1価アルコールの沸点が260℃未満であると、揮発性が高くなり、成形時等に異臭が発生する傾向がある。
【0072】
本発明に係るスチレン系樹脂組成物における炭素原子数16以上の1価アルコールの含有量としては、スチレン共重合体(A)を100質量部としたときに、0.001~1.0質量部が好ましく、0.03~1.0質量部がより好ましく、さらに好ましくは0.05~0.7質量部、より更に好ましくは0.08~0.4質量部である。含有量が0.001質量部未満だと250℃付近における成形時のゲル抑制効果が低下し、1.0質量部を超えると樹脂中への残存量が多くなり、異臭又は耐熱性を大きく低下させ、メタクリル酸変性による耐熱性増加効果が乏しくなってしまう。
【0073】
炭素原子数16以上の1価アルコールとしては、特に限定されないが、例えば、1-ヘキサデカノール、イソヘキサデカノール、1-オクタデカノール、5,7,7-トリメチル-2-(1,3,3-トリメチルブチル)-1-オクタノール、イソオクタデカノール、1-イソイソエイコサノール、8-メチル-2-(4-メチルヘキシル)-1-デカノール、2-ヘプチル-1-ウンデカノール、2-ヘプチル-4-メチル-1-デカノール、2-(1,5-ジメチルヘキシル)-(5,9-ジメチル)-1-デカノール又はポリオキシエチレンアルキルエーテル類等が挙げられる。
【0074】
上記ポリオキシエチレンアルキルエーテル類は以下の一般式(3)で表される化合物であることが好ましい
R-O-(CH-CH-O)-H ・・・(3)
(上記一般式(3)中、Rは炭素原子数が12~20のアルキル基であり、Xはエチレンオキサイドの平均付加数であり、1~15の整数である。)
ポリオキシエチレンアルキルエーテルの具体例としては、花王社製エマルゲン109Pが特に好ましい。
【0075】
<<エチルベンゼン>>
本実施形態の好ましい態様として、スチレン系樹脂組成物は、エチルベンゼンをさらに含有することが好ましい。エチルベンゼンを適度に含有することにより、さらなる流動性の向上効果が期待される。スチレン系樹脂組成物中のスチレン共重合体(A)の含有量を100質量部としたときに、エチルベンゼンの含有量としては0.001~0.08質量部の範囲とすることが好ましく、0.001質量部以上にすることで流動性向上効果が得られ、0.08質量部以下にすることで臭気を防ぐことができる。エチルベンゼンの添加方法としては各樹脂の重合時に添加する方法が好ましい。
【0076】
<<その他の成分>>
本実施形態のスチレン酸系樹脂組成物は、上記以外に、一般的なスチレン系樹脂又はポリスチレン含有組成物において使用が一般的な各種添加剤を、公知の作用効果を達成するために添加してもよい。当該各種添加剤としては、例えば安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、離型剤、可塑剤、ブロッキング防止剤、帯電防止剤、防曇剤、鉱油等があげられる。また、スチレン-ブタジエンブロック共重合体又はMBS樹脂等の補強材についても物性を損なわない範囲で添加してもよい。配合の方法については特に規定はないが、例えば、重合時に添加して重合する方法、又は重合後溶融混練する前に、ブレンダーであらかじめ添加剤を混合し、その後、押出機又はバンバリーミキサー等にて溶融混錬する方法等が挙げられる。
【0077】
本実施形態において、上述のようスチレン系樹脂組成物には各種添加剤を添加させることができるが、スチレン系樹脂組成物中のスチレン系樹脂の含有量は、特に限定されないが95質量%以上であることが好ましく、より好ましくは97質量%であり、さらに好ましくは99質量%以上である。
【0078】
[スチレン系樹脂組成物の物性]
以下に本実施形態におけるスチレン系組成物の物性について述べる。
本実施形態において、スチレン系樹脂組成物のビカット軟化温度は、105℃以上であることが好ましく、より好ましくは115℃以上である。105℃以上とすることで、一般の500W前後の電子レンジにおける加熱調理に適用可能なシート、容器が得られ、115℃以上にすることでコンビニエンスストアーなどに置かれる1000W以上の業務用高出力電子レンジでの加熱料理にも耐えることができる。当該ビカット軟化温度は、ISO306に準拠して、荷重50N、昇温速度50℃/hの条件で測定することができる。
【0079】
本実施形態において、スチレン系脂組成物の200℃でのメルトフローレートは0.5~5.0g/10分の範囲であることが好ましく、より好ましくは1.0~3.5g/10分であり、さらに好ましくは1.5~2.5g/10分である。メルトフローレートを0.5g/10分以上にすることにより、良好な成形性が得られ、4.5g/10分以下にすることにより、強度に優れた樹脂を得ることができる。
【0080】
本実施形態において、スチレン系樹脂組成物から形成される曇り度、すなわち2mmプレートにおけるヘイズは、20%以下が好ましく、より好ましくは15%、より更に好ましくは10%以下である。特に10%以下とすることで、シートや容器に成形した際に透明性に非常に優れた成形物を得ることができる。
本実施形態において、ヘイズの測定方法に使用する2mmプレートの作製方法及びヘイズの測定方法は、後述の実施例の欄に記載の条件下でスチレン系樹脂組成物を射出成形にて2mmプレートに成形している。
【0081】
[スチレン系樹脂組成物の製造方法]
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、各成分を任意の方法で溶融混練することによって製造することができる。例えば、ヘンシェルミキサーに代表される高速撹拌機、バンバリーミキサーに代表されるバッチ式混練機、単軸又は二軸の連続混練機、ロールミキサー等を単独で、又は組み合わせて用いる方法が挙げられる。混練の際の加熱温度は、通常、180~260℃の範囲で選択される。また、スチレン共重合体(A)又はゴム変性ポリスチレンの製造の際にラジカル捕捉剤及び/流動パラフィンなどを添加してもよい。
[成形品]
本実施形態のスチレン系樹脂組成物は、上記の溶融混練成形機により、あるいは、得られたスチレン系樹脂組成物のペレットを原料として、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、ブロー成形法、プレス成形法、真空成形法、及び発泡成形法等により、成形品を製造することができる。
【0082】
[押出シート]
本発明の別の態様は、上述した本発明のスチレン系樹脂組成物を用いて形成されてなる押出シートを提供する。押出シートは非発泡及び発泡のいずれでもよい。押出シートの製造方法としては、通常知られている方法を用いることができる。非発泡押出シートの製造方法としては、Tダイを取り付けた短軸又は二軸押出成形機で、一軸延伸機又は二軸延伸機でシートを引き取る装置を用いる方法等を用いることができ、発泡押出シートの製造方法としては、Tダイ又はサーキュラーダイを備え付けた押出発泡成形機を用いる方法等を用いることができる。
【0083】
<発泡押出シート>
発泡押出シートを形成する場合、押出発泡時の発泡剤及び発泡核剤としては通常用いられる物質を使用できる。発泡剤としてはブタン、ペンタン、フロン、二酸化炭素、水等を使用することができ、ブタンが好適である。また発泡核剤としてはタルク等を使用できる。
【0084】
発泡押出シートは、厚み0.5mm~5.0mmであることが好ましく、見かけ密度50g/L~300g/Lであることが好ましく、また坪量80g/m~300g/mであることが好ましい。本発明の発泡押出シートは、例えばフィルムを更にラミネートすること等によって多層化してもよい。使用するフィルムの種類は、一般のポリスチレンに使用されるもので差し支えない。
【0085】
<非発泡押出シート>
非発泡シートの厚みは、例えば、0.1~1.0mm程度であることが剛性及び熱成形サイクルの観点から好ましい。また、一軸シートは、通常の低倍率のロール延伸のみで形成してもよく、二軸延伸シートは、ロールで流れ方向(MD)に1.3倍から7倍程度延伸した後、テンターで垂直方向(TD)に1.3倍から7倍程度延伸することが強度の面で好ましい。また、非発泡シートは、公知のポリスチレン樹脂等のスチレン系樹脂と多層化して用いてもよい。更にスチレン系樹脂以外の樹脂と多層化して用いてもよい。スチレン系樹脂以外の樹脂としては、PET樹脂、ナイロン樹脂等が挙げられる。
【0086】
本発明の別の態様は、上述した本発明の非発泡押出シート又は発泡押出シートを用いて形成されてなる成形品を提供する。発泡押出シート又はこれを含む多層体は、例えば真空成形により成形してトレー等の容器を作製できる。また非発泡押出シートは、例えば真空成形により成形して弁当の蓋材又は惣菜等を入れる容器を作製できる。
【実施例0087】
次に本発明を実施例及び比較例により詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例における樹脂及び押出シート等の分析、評価方法は、下記の通りである。
【0088】
[実施例及び比較例で使用した各樹脂材料及びスチレン系樹脂組成物の特性評価]
(1)重量平均分子量の測定
実施例及び比較例で使用した各樹脂材料及び各樹脂組成物の重量平均分子量(Mw)を、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件で測定した。
測定機器:東ソー製HLC―8220
分別カラム:東ソー製TSK gel Super HZM-H(内径4.6mm)を直列に2本接続
ガードカラム:東ソー製TSK guard column Super HZ-H
測定溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
試料濃度:測定試料5mgを10mLの溶媒に溶解し、0.45μmのフィルターでろ過を行った。
注入量:10μL
測定温度:40℃
流速:0.35mL/分
検出器:紫外吸光検出器(東ソー製UV-8020、波長254nm)
検量線の作成には東ソー製のTSK標準ポリスチレン11種類(F-850、F-450、F-128、F-80、F-40、F-20、F-10、F-4、F-2、F-1、A-5000)を用いた。1次直線の近似式を用いて検量線を作成した。
【0089】
(2)メルトマスフローレート(MFR)の測定
実施例及び比較例で使用した各樹脂組成物のメルトマスフローレート(g/10分)を、ISO1133に準拠して、200℃、49Nの荷重条件にて測定した。
【0090】
(3)ビカット軟化温度の測定
実施例及び比較例で使用した、各樹脂及び樹脂組成物のビカット軟化温度をISO306に準拠して測定した。荷重は50N、昇温速度は50℃/hとした。
【0091】
(4)樹脂組成物中におけるアルコール類の含有量の測定
炭素原子数16以上の1価アルコール類及びエチルベンゼンの含有量を、ガスクロマトグラフィーを用いて以下の条件で測定した。
試料調製:樹脂材料1.0gをメチルエチルケトン5mLに溶解後、更に標準物質(p-ジエチルベンゼン)入りのヘキサン5mLを加えポリマー成分を再沈させ、上澄み液を採取し、測定液とした。
測定機器:Agilent社製 6850 シリーズ GCシステム
検出器:FID
カラム:HP-1(100%ジメチルポリシロキサン)30m、
膜厚0.25μm、0.32mmφ
注入量:1μL(スプリットレス)
カラム温度:40℃で2分保持→20℃/分で320℃まで昇温→
320℃で15分保持
注入口温度:250℃
検出器温度:280℃
キャリアガス:ヘリウム
【0092】
(5)共役ジエン単量体単位の含有量の測定
熱分解GCにて共役ジエン単量体単位の含有量の測定を行った。
試料調整 :スチレン系樹脂組成物をクロロホルムに5質量%で溶解し、20μlパイロホイルに塗布し、80℃で24時間真空乾燥した。
測定条件:
Py-GC
機器 :日本分析工業社製 キュリーポイントインジェクター
パイロホイル温度 :590℃
高周波照射時間 :10秒
GC:
機器 :アジレント・テクノロジー社製 HP-GC-6890
カラム : HP-5MS
30m、膜厚0.25mm、0.25mmφ
カラム温度 :50℃に5分間保持し、10℃/分で昇温させ、100℃からは
70℃/分で昇温させ、300℃で10分間保持した。
注入口温度 :300℃
検出器温度 :300℃
スプリット比 :1/20
キャリアガス :ヘリウム
検出方法 :MSD
【0093】
(6)ゴム変性ポリスチレン中のゴム粒子の平均粒子径
ゴム変性ポリスチレン(以下、HIPS樹脂)中のゴム粒子の平均粒子径(μm)は、透過型電子顕微鏡による断面観察によって観察された200個のゴム状弾性体粒子について、下記式:
平均粒子径=Σ(ni×Di)/Σ(ni×Di
{式中、niは粒子径Diを有するゴム状弾性体粒子の個数であり、Diはゴム状弾性体粒子の長径と短径の平均値である。}
により計算した。
【0094】
(7)HIPS樹脂のトルエン不溶分の膨潤指数の測定
沈殿管にHIPS樹脂1gを精秤し(W1)、トルエン20ミリリットルを加えて23℃で2時間振とうした後、遠心分離機((株)日立製作所製himac、CR-20(ローター:R20A2))にて10℃以下、20000rpmで60分間遠心分離した。沈殿管を約45度にゆっくり傾け、上澄み液をデカンテーションして取り除いた。トルエンを含む不溶分の質量を精秤し(W2)、160℃、3kPa以下の条件で1時間真空乾燥した。乾燥させたトルエン不溶分をデシケータ内で室温まで冷却した後、質量を精秤した(W3)。
下記式により、トルエン不溶分の膨潤指数、及びトルエン不溶分を求めた。
トルエン不溶分(質量%)=((W3)/(W1))×100
トルエン不溶分の膨潤指数=(W2/W3)
【0095】
(8)曇り度(2mmプレートのヘイズ)測定
実施例及び比較例で作製した樹脂組成物を射出成形(東芝機械社製 EC60N)にて以下の条件で2mmプレートに成形し、日本電色工業社製曇り度計(NDH-2000)を用いてヘイズを測定、n3平均を値とした。
2mmプレート成型条件
成形機:東芝機械社製 EC60N
シリンダー温度:220-240-220-200℃
計量:45mm
保圧切換:10mm
射出時間:10秒
冷却時間:15秒
射出速度:23mm/秒
保圧速度:23mm/秒
保圧時間:10秒
金型温度:45℃
なお、本成形条件は一例であり、必要に応じて温度、保圧をはじめとする各条件は微調整してよい。
【0096】
[シート成形物の特性評価]
(8)押出シートの外観判定
実施例及び比較例のスチレン系樹脂組成物を用いて、30mmφ短軸シート押出機で連続3時間シートを押出した後、厚さ0.3mmのシートから10cm×20cmの大きさのシートを5枚切り出し、シート5枚の表面の(長径+短径)/2の平均径が0.5mm以上の異物であるゲル物、気泡の個数を数えると共に、目視での黄色味を評価し、以下の基準で外観判定した。
○:目視での黄色味無しかつゲル物、気泡の個数が2点以下
△:目視での黄色味無しかつゲル物、気泡の個数が3~9点
×:目視での黄色味無しかつゲル物、気泡の個数が10点以上
Y:目視で黄色味が認められるレベル
【0097】
(9)バッチ2軸延伸シートのフィルムインパクト
プレス成形機にて、実施例及び比較例のスチレン系樹脂組成物から厚み1.2~1.6mmのプレス板を作製した。作製した板から10cm×10cmの大きさのシートを切出した。切出したシートを東洋精機製二軸延伸装置(EX6-S1)にて下記条件で同時二軸延伸を行い、厚み約0.2mmの二軸延伸シートを作製した。
延伸温度:樹脂組成物のVicat軟化温度+20~30℃、
延伸速度:170%
延伸倍率:2.5倍
得られたシートを8cm×8cmに切り出し、東洋精機製フィルムインパクトテスター(No.195)を用いてによりフィルムインパクトを測定、n8平均を値とした。
【0098】
(10)バッチ2軸延伸シートの耐熱性
プレス成形機にて、実施例及び比較例のスチレン系樹脂組成物から厚み1.2~1.6mmのプレス板を作製した。作製した板から10cm×10cmの大きさのシートを切出した。切出したシートを東洋精機製二軸延伸装置(EX6-S1)にて下記条件で同時二軸延伸を行い、厚み約0.2mmの二軸延伸シートを作製した。
延伸温度:樹脂組成物のVicat軟化温度+20~30℃、
延伸速度:170%
延伸倍率:2.5倍
上記成形条件で得られた延伸シートを110℃に設定したオーブンに60分間入れた後、容器の変形を目視で観察し、熱変形から耐熱性について以下の評価をした。
○:変形なし
×:寸法変化あり(3%以上)
【0099】
(11)巻き取りロールの汚れ(成形性)
30mmφ単軸シート押出機で連続10時間、約250μmシートを押出した後の巻き取りロールの汚れを目視で確認し、以下の判断基準にてロール汚れを評価した。
○:全く汚れていない。
△:一見汚れていないように見えるが、ロールを布でふき取るとふき取り部が分かる。
×:明らかに汚れている。
本明細書では、成形性の指標の一例として巻き取りロールの汚れを評価している。
【0100】
(12)8時間押出後の250μmシートヘイズ(曇り度)
30mmφ単軸シート押出機で連続8時間、約250μmシートを押出したときの8時間時点での透明シートについて、日本電色工業社製曇り度計(NDH-2000)を用いて上記シートの250μmにおけるヘイズを測定、n3平均を値とした。
【0101】
以下具体的な製造例について実施例、比較例について記述する
本実施例において以下に示す性状のゴム変性ポリスチレンd-1~d-3を用いて組成物を製造した。
【0102】
【表1】
【0103】
[実施例1]
スチレン73.0質量部、メタクリル酸5.8質量部、エチルベンゼン17.2質量部、2-エチル-1-ヘキサノール3.0質量部、日産化学社製ファインオキソコール180(炭素数18の1価アルコール)及び1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン0.05質量部からなる重合原料組成液を調整し、完全混合型の反応器に供給し、重合工程とした。完全混合型の反応器出において住友化学社製スミライザーGSを前記重合反応組成液100質量部に対して0.1質量部になるように添加、攪拌し、次いで未反応モノマー及び重合溶媒等の揮発成分を除去する単軸押出機を連結した脱揮装置へと連続的に供給した。単軸押出機の温度を200~250℃、圧力を10torrに設定して、未反応モノマー及び重合溶媒等の揮発成分を脱揮した。脱揮された揮発成分を-5℃の冷媒を通した凝縮器で凝縮し、未反応液として回収し、スチレン系樹脂組成物を樹脂ペレット物1として回収した。上述の分析法によって得られた樹脂組成物の物性を以下の表2-1に示す。
次に得られた樹脂ペレット物1とゴム変性ポリスチレン(D)として上記表1の組成のd-1のペレットを用いて、樹脂ペレット物1/d-1が、100/1.5の質量比になるようドライブレンドし、短軸シート押出機にて連続10時間シート成形して、押出シート(A)を作製した。そして、当該押出シート(A)について、上記の評価方法に従って外観判定、巻き取りロールの汚れ、8時間押出後の250μmシートヘイズの各評価に供した。その結果を、以下の表2-1に示す。
また、前記同様に樹脂ペレット物1/ゴム変性ポリスチレン(D)(d-1)が100/1.5の質量比になるようドライブレンドしたのち2軸押出機にて溶融混練後、プレス成形したものをバッチ2軸延伸し、押出シート(B)を作製した。そして、当該押出シート(B)について、上記の評価方法に従ってフィルムインパクト、耐熱性について評価した。
【0104】
[実施例2~19]
下記表2-1のように条件変更した以外は実施例1と同様にしてスチレン系樹脂組成物、及び押出シート(A),(B)を得た。
【0105】
[比較例1]
重合条件を下記表2-2のように変更した以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。スチレン共重体(A)の代わりにスチレン単独重合体を用いると、押出シートの耐熱性が低くなった。
【0106】
[比較例2]
重合条件を下記表2-2のように変更した以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。ラジカル捕捉剤(C)としてスミライザーGSを過剰量加えると、10時間押出後の巻き取りロールの汚れ及びシートのヘイズが悪化した。
【0107】
[比較例3]
重合条件を下記表2-2のように変更した以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。ラジカル捕捉剤(C)無添加だと、オリゴマー量が増加し、10時間押出後の巻き取りロールの汚れ及びシートのヘイズが悪化した。
【0108】
[比較例4]
重合条件を下記表2-2のように変更した以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を得た。実施例2と比較して、オリゴマー量が減少したことで流動性が低下した。組成物全体の流動性低下により、押出シート(A)の成形温度を高くなり、目視にて認識できるレベルでシートに黄色味が出た。
【0109】
【表2-1】
【0110】
【表2-2】
【0111】
なお、表2-1及び表2-2中の「ラジカル捕捉剤添加のタイミング」の「反応器出」とは、スチレン共重合体(A)の重合工程を終え、反応器から出たのち、重合工程と脱揮工程の間にラジカル捕捉剤を添加したことを意味し、「反応器前」とは、スチレン共重合体(A)の重合前に、ラジカル捕捉剤を添加したことを意味する。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本開示のスチレン系樹脂は、耐熱性、外観及び成形性に優れる。そのため本発明のスチレン系樹脂組成物は、押出成形による非発泡シート若しくは発泡シート、それらを用いた食品包装容器、又は射出成形による成形品(電気製品部品、玩具、日用品、各種工業部品、容器)などに幅広く使用可能で、産業界に果たす役割は大きい。