(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022050468
(43)【公開日】2022-03-30
(54)【発明の名称】クロロフィルの分解防止剤、およびそれを含む飲食品
(51)【国際特許分類】
A23L 3/3454 20060101AFI20220323BHJP
A23L 5/41 20160101ALI20220323BHJP
A23L 19/00 20160101ALI20220323BHJP
A23B 7/153 20060101ALI20220323BHJP
【FI】
A23L3/3454
A23L5/41
A23L19/00 A
A23B7/153
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】書面
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2021209948
(22)【出願日】2021-12-07
(71)【出願人】
【識別番号】591040557
【氏名又は名称】太平化学産業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】倉本 恭行
(72)【発明者】
【氏名】島田 太一
(72)【発明者】
【氏名】鍛冶 文宏
【テーマコード(参考)】
4B016
4B018
4B021
4B169
【Fターム(参考)】
4B016LC03
4B016LG05
4B016LG10
4B016LK01
4B016LK04
4B016LP06
4B016LP13
4B018LB03
4B018LE05
4B018MB01
4B018MB02
4B018MC04
4B021LA41
4B021LW02
4B021MC07
4B021MK08
4B021MK20
4B021MK26
4B021MP02
4B169AA04
4B169HA09
4B169HA18
4B169KA07
4B169KB03
4B169KC18
4B169KC34
4B169KC36
(57)【要約】
【課題】クロロフィルの分解防止剤および、クロロフィルの分解防止剤を含む飲食品を提供すること。
【解決手段】
マグネシウム含有化合物、有機酸類および/またはその塩、およびpH調整剤を含有し、この溶液のpHが5.0以下に制御されている、クロロフィルの分解防止剤。該クロロフィル分解防止剤を含む飲食品。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム含有化合物を含有することを特徴とするクロロフィルの分解防止剤およびそれを含む飲食品。
【請求項2】
マグネシウム含有化合物がリン酸三マグネシウムである、請求項1記載のクロロフィル分解防止剤およびそれを含む飲食品。
【請求項3】
マグネシウム含有化合物を0.1wt%~33wt%含む請求項1または2に記載のクロロフィル分解防止剤およびそれを含む飲食品。
【請求項4】
有機酸類および/またはその塩を含有する請求項1~3のいずれかに記載のクロロフィル分解防止剤およびそれを含む飲食品。
【請求項5】
前記有機酸類および/またはその塩が、L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム、クエン酸、クエン酸三ナトリウムから選ばれる1種または2種以上を含む、請求項1~4のいずれかに記載のクロロフィル分解防止剤およびそれを含む飲食品。
【請求項6】
有機酸類および/またはその塩を0.1wt%~67wt%含有する請求項1~5のいずれかに記載のクロロフィル分解防止剤およびそれを含む飲食品。
【請求項7】
前記有機酸類および/またはその塩100重量部に対して、リン酸三マグネシウムは1~100重量部含有する請求項1~6のいずれかに記載のクロロフィル分解防止剤およびそれを含む飲食品。
【請求項8】
pHが5.0以下に調整された請求項1~7のいずれかに記載のクロロフィル分解防止剤およびそれを含む飲食品。
【請求項9】
pH調整剤を含有する請求項1~8のいずれかに記載のクロロフィル分解防止剤およびそれを含む飲食品。
【請求項10】
pH調整剤がリン酸水素二ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、ピロリン酸四ナトリウム、クエン酸三ナトリウムからなる群から選択される1種以上である、請求項1~9のいずれかに記載のクロロフィル分解防止剤およびそれを含む飲食品。
【請求項11】
L-アスコルビン酸100重量部に対して、リン酸三マグネシウムを50重量部含有し、pHが5.0以下である請求項1~10のいずれかに記載のクロロフィル分解防止剤およびそれを含む飲食品。
【請求項12】
L-アスコルビン酸100重量部に対して、リン酸三マグネシウムを50重量部含有し、リン酸水素二ナトリウムを添加し、pHが5.0以下である請求項1~11のいずれかに記載のクロロフィル分解防止剤およびそれを含む飲食品。
【請求項13】
溶液中に完全に溶解させることができる請求項1~12のいずれかに記載のクロロフィル分解防止剤およびそれを含む飲食品。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか一項記載のクロロフィル分解防止剤を含む飲食品。
【請求項15】
請求項1~13のいずれか一項記載のクロロフィル分解防止剤の水溶液に浸漬することを特徴とする飲食品。
【請求項16】
L-アスコルビン酸を2.0wt%、リン酸三マグネシウムを1.0wt%を含有し、この溶液のpHが5.0以下である請求項1~15のいずれかに記載のクロロフィル分解防止剤およびそれを含む飲食品。
【請求項17】
L-アスコルビン酸を2.0wt%、リン酸三マグネシウムを1.0wt%含有し、リン酸水素二ナトリウムを添加し、この溶液のpHが5.0以下である請求項1~16のいずれかに記載のクロロフィル分解防止剤およびそれを含む飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロロフィルの分解防止剤、およびそれを含む飲食品に関する。
【背景技術】
【0002】
世界の食料廃棄量は年間約13億トンであり、これは人の消費のために生産された食料のおおよそ1/3にあたる(2011年:国際連合食糧農業機関調べ)。日本国内においても食品廃棄物等は、年間2550万トンであり、うち食品ロス(本来食べることができるにもかかわらず、味や見た目、匂いなどに問題があり、食べずに捨てられてしまう食品)は612万トンとされている(2017年推計:農林水産省・環境省調べ、FAQ、総務省人口推計調べ)。例えば、スーパーやコンビニエンスストアに陳列しているサラダや緑色野菜を含む弁当や惣菜等は、作り立ての鮮やかな緑色をしているものは美味しそうに見えるため購入されやすいが、褐色などに変色したものは賞味期限内であっても美味しくなさそうにみえるので購入されにくく、結果廃棄となってしまう。
【0003】
緑色野菜の変色のメカニズムは、緑色野菜に含まれる緑色色素のクロロフィルの分解により起こる。クロロフィルは不安定な性質を持ち、pH、温度(70℃以上において顕著な分解褪色を示す)、光照射により分解、褪色を引き起こし、特にpHが5.0以下で顕著な分解褪色を示すことが報告されている(非特許文献1)。
【0004】
ところが、調味液やめんつゆのpHは酸性(pH5.0付近)のものが多く(非特許文献2)、また、菌の繁殖の抑制を目的としてpHが酸性になっている場合がある(非特許文献3)。
【0005】
このような状況を踏まえ、クロロフィルの分解を防止する技術は様々提案されている。特許文献1には、フェルラ酸またはそのアルカリ金属塩を有効成分として、クロロフィルを安定化させる技術が開示されている。しかしこの方法では、フェルラ酸の添加により風味への影響がでる等の問題がある。
【0006】
特許文献2には、乾燥茶葉に銅イオン水を混合し、クロロフィル中のマグネシウムを、銅に置換しクロロフィルを維持する技術が開示されている(クロロフィルのテトラピロール環中心に配位したマグネシウムが遊離すると変色するので、マグネシウムと銅イオンを置換する)。しかし、この方法では、銅の過剰摂取による健康面への影響等に問題がある(非特許文献4)。
【0007】
特許文献3には、マグネシウムを供給する方法として、マグネシウム含有化合物、アスコルビン酸類および/またはその塩、およびα―リポ酸および/またはその複合体を含有し、水溶液のpHが7.5~9.5であるクロロフィルを安定させる品質保持剤が開示されている。しかし、この方法ではpHの幅が7.5~9.5であり、pHが酸性(特にpH5.0以下)の飲食品の使用に向いていない。
【0008】
特許文献4には、リン酸二マグネシウムを有効成分としてクロロフィルを安定化させる技術が開示されている。しかしこの方法では、pHが5.0未満で使用する場合は変色防止効果を発揮しない。
【0009】
このような従来の技術では、低いpH(特にpH5.0以下)での使用ができないこと、他の金属塩や有効成分の添加により味質や健康に影響がでること等の問題があった。このような背景から、菌の繁殖が抑制されるpH(特に5.0以下)で使用可能で、味質や健康に影響がでにくく、溶解性が高く、リン酸二マグネシウムより添加量が少なくクロロフィルの分解を防止することができるマグネシウム含有のクロロフィル分解防止剤が所望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3386722号公報
【特許文献2】特開2010-259359号公報
【特許文献3】特開2019-208504号公報
【特許文献4】特開2020-171226号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】守康則、北久美子、宮崎節子、クロロフィルの安定性に関する研究、家政学雑誌、1964年、第15巻、第1号、p2
【非特許文献2】大富あき子、田島真理子、材料配合の異なるめんつゆの食味特性、日本食品科学工学会誌、2009年、第56巻、第1号、p23
【非特許文献3】Lahellec, C. et al. : Growth effect of sorbate and selected antioxidates on toxigenic strains of Staphylococcus aureus.J.Food Prot.Vol.44,pp531-534
【非特許文献4】岡部雅史、蔵崎正明、齋藤健、「銅」研究の最前線、ビタミン、2001年、第75巻、第12号、pp558-559
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、食品の味質への影響が少なく、溶解性も高く、クロロフィルの分解が起こりやすいpH5.0以下でも分解を防止し得る新規なクロロフィルの分解防止剤、およびそれを含む飲食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで、本発明者らは、特定の化合物を混合しpH5.0以下の条件でも、味質への影響が少なく、溶解性の高い、クロロフィルの分解を防止することができるクロロフィル分解防止剤を完成させるに至った。
【0014】
すなわち本発明は、マグネシウム含有化合物と有機酸類および/またはその塩とpH調整剤を含有し、pH5.0以下でも食品の味質への影響が少なく、溶解性の高い、クロロフィルの分解を防止することができるクロロフィル分解防止剤およびそれを含む飲食品を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、食品の味質への影響が少なく、溶解性も高く、pH5.0以下でクロロフィルの分解を防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のクロロフィル分解防止剤はマグネシウム含有化合物、有機酸類および/またはその塩、pH調整剤が、調味液および水溶液中に溶解しないと充分な変色防止効果を発揮しにくい。
【0017】
本発明で用いるマグネシウム含有化合物としては、リン酸マグネシウム類が好ましく、このうちリン酸三マグネシウムが最も好ましい。
【0018】
本発明で用いる有機酸類および/またはその塩としては、L-アスコルビン酸、L-アスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸、エリソルビン酸ナトリウム、クエン酸、クエン酸三ナトリウムなどが挙げられ、このうちの1種または2種以上を含むことを特徴とする。変色防止効果に優れる点でL-アスコルビン酸が最も好ましい。
【0019】
本発明のクロロフィル分解防止剤に含まれる有機酸類および/またはその塩の割合は、マグネシウム含有化合物100重量部に対して、100~10000重量部含有することが好ましい。有機酸類および/またはその塩の割合がマグネシウム含有化合物100重量部に対して、100重量部を下回った場合、マグネシウム含有化合物が溶解しきらず、沈殿が発生し変色防止効果を発揮しにくくなる。
【0020】
本発明のクロロフィル分解防止剤溶液にした場合に含まれる有機酸類および/またはその塩の割合は、1.0wt%~10wt%が好ましく、より好ましくは1.0wt%~2.0wt%が最も好ましい。
【0021】
本発明で用いるpH調整剤としては、リン酸水素二ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、ピロリン酸四ナトリウム、クエン酸三ナトリウムなどが挙げられる。これらは1種または2種以上を併用して所定のpHに調整することができる。変色防止効果に優れる点で、リン酸水素二ナトリウムが最も好ましい。さらに、pH調整剤を添加しpHが5.0以下となることが好ましい。pH調整剤の含有量については特に限定されない。
【0022】
本発明が適用されるクロロフィル含有食品は、クロロフィルを含む飲食品あるいは食品素材であれば、いずれも対象とすることができ、例えば緑色野菜(ほうれん草、ブロッコリー、インゲン豆、オクラ等)などが挙げられる。
【0023】
本発明のクロロフィル分解防止剤の使用方法として、本発明のクロロフィル分解防止剤溶液に、緑色野菜などのクロロフィルを含んだ飲食品を浸漬する方法、塗布または噴霧する方法などが挙げられる。
【0024】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例0025】
前記に示した通り、本発明のクロロフィル分解防止剤を調味液に添加したり水溶液にする場合、溶解性を示さないと変色防止効果を発揮しにくくなるため、製剤の溶状確認を行った。
【0026】
[製剤の溶状確認]
L-アスコルビン酸の水溶液に、リン酸三マグネシウムを溶解させたときおよび、クエン酸の水溶液に、リン酸三マグネシウムを溶解させたときのpH、溶解性を確認した。pHはpHメーター(株式会社堀場製作所製)を用いて測定した。溶解性の評価は、マグネティックスターラーで充分に攪拌したのち目視で行った。
【0027】
溶解させたL-アスコルビン酸およびリン酸三マグネシウムの配合比および溶解性の結果は表1、クエン酸およびリン酸三マグネシウムの配合比および溶解性の結果は表2の通り。
【0028】
【0029】
【0030】
これらの結果から明らかなように、L-アスコルビン酸100重量部に対して、リン酸三マグネシウムの添加量が1~50重量部の場合溶解することが分かる。クエン酸100重量部に対して、リン酸三マグネシウムは1~100重量部溶解することが分かる。
【0031】
[実施例1~30、比較例1~12]
上記で得られた条件のうちL-アスコルビン酸水溶液およびクエン酸水溶液にリン酸三マグネシウム、リン酸水素二ナトリウムを下記表3に示す割合で溶解させ、製剤A~Jを得た。
比較のため、L-アスコルビン酸水溶液およびクエン酸水溶液にpH調整剤としてリン酸水素二ナトリウムを用いてpH5.0に調整した、リン酸三マグネシウムを含有していない製剤K、Mを、リン酸三マグネシウムおよびpH調整剤を添加していない製剤L、Nを得た。
【0032】
【0033】
製剤A~Nの水溶液に、ボイルしたほうれん草およびブロッコリー、インゲン豆を2分間浸漬させ、ザルで液を切って室温で静置し、4時間後の表面の色を評価し、変色防止効果を示すか評価を行った(実施例1~30、比較例1~12)。
【0034】
ほうれん草の結果を表3、ブロッコリーの結果を表4、インゲン豆の結果を表5に示す。
<評価基準>
○・・・浸漬前の色と比較して変色が抑制されている
△・・・浸漬前の色と比較して変色がやや抑制されている
×・・・浸漬前の色と比較して変色が起きている
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
本発明のクロロフィル分解防止剤溶液に浸漬したボイルほうれん草(実施例1~10)、ボイルブロッコリー(実施例11~20)、ボイルインゲン豆(実施例21~30)は4時間静置後も浸漬前の緑色を保持しており、変色の進行を抑制していた。アスコルビン酸とクエン酸を比較したところ、アスコルビン酸の方が変色の進行を抑制していた。一方、比較例1~12は、4時間後著しい変色が確認された。