(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022050551
(43)【公開日】2022-03-30
(54)【発明の名称】炎症性病変又は領域に局所注射するためのリポソーム化コルチコステロイド
(51)【国際特許分類】
A61K 31/573 20060101AFI20220323BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20220323BHJP
A61K 9/127 20060101ALI20220323BHJP
A61K 47/28 20060101ALI20220323BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20220323BHJP
【FI】
A61K31/573
A61P27/02
A61K9/127
A61K47/28
A61K47/24
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022001388
(22)【出願日】2022-01-07
(62)【分割の表示】P 2018556331の分割
【原出願日】2017-04-28
(31)【優先権主張番号】16167818.0
(32)【優先日】2016-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】514109411
【氏名又は名称】エンセラドゥス ファーマセウティカルス べー.フェー.
(71)【出願人】
【識別番号】516236056
【氏名又は名称】ウニヴェルシテイト ユトレヒト ホールディング ベー.フェー.
(71)【出願人】
【識別番号】508320723
【氏名又は名称】シンガポール ヘルス サービシーズ ピーティーイー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】メトセラール、ヨスベルト マールテン
(72)【発明者】
【氏名】ウォン、チーワイ
(72)【発明者】
【氏名】ツァルニ、ベルトラン マルセル スタニスラ
(72)【発明者】
【氏名】ウォン、ティナ ズィー リン
(72)【発明者】
【氏名】ストルム、ヘリット
(57)【要約】 (修正有)
【課題】炎症性障害に罹患している被験体の炎症性病変又は領域に局所投与する治療のためのリポソームを提供する。
【解決手段】治療頻度が多くて2週間に1回である、結膜下投与による多くて5mgのコルチコステロイドの用量での被験体の前部ブドウ膜炎又は結膜炎の治療方法に使用される、50~90モル%の非荷電小胞形成リン脂質から構成されるリポソームであって、リン脂質は長鎖飽和脂肪酸を含み、リポソームは、5~10モル%のPEG化脂質及び33~50モル%のステロール、並びに任意で、10モル%以下の負に荷電した小胞形成脂質を含み、リポソームは、75~200nmのサイズ範囲から選択された平均粒径を有すると共に、水溶性形態のコルチコステロイドを含み、治療は、リポソームが眼の結膜下腔の炎症細胞に取り込まれ、リソソーム分解経路によって、コルチコステロイドが細胞内において放出される、ことによりなされる、リポソームである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療頻度が多くて2週間に1回である、結膜下投与による多くて5mgのコルチコステロイドの用量での被験体の前部ブドウ膜炎又は結膜炎の治療方法において使用される、50~90モル%の非荷電小胞形成リン脂質から構成されるリポソームであって、
前記リン脂質は長鎖飽和脂肪酸を含み、
前記リポソームは、5~10モル%のPEG化脂質及び33~50モル%のステロール、並びに任意で、10モル%以下の負に荷電した小胞形成脂質を含み、
前記リポソームは、75~200nmのサイズ範囲から選択された平均粒径を有すると共に、水溶性形態のコルチコステロイドを含み、
前記治療は、リポソームが眼の結膜下腔の炎症細胞に取り込まれ、リソソーム分解経路によって、前記コルチコステロイドが細胞内において放出される、ことによりなされる、
ことを特徴とするリポソーム。
【請求項2】
前記非荷電小胞形成リン脂質は、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、水素化大豆ホスファチジルコリン(HSPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、水素化卵ホスファチジルコリン(HEPC)及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、ことを特徴とする請求項1に記載のリポソーム。
【請求項3】
前記負に荷電した小胞形成脂質は、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、ことを特徴とする請求項1に記載のリポソーム。
【請求項4】
前記リポソームが、
DPPC、HSPC、DSPC、HEPC及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択されるリン脂質、並びに、
コレステロール、
から構成される、
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のリポソーム。
【請求項5】
前記治療は、結膜下注射による前記リポソームの単一用量を投与することを含む、ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のリポソーム。
【請求項6】
前記治療の治療頻度が多くて1ヶ月に1回である、請求項1~5のいずれか一項に記載のリポソーム。
【請求項7】
前記被験体がヒトである、請求項1~6のいずれか一項に記載のリポソーム。
【請求項8】
前記コルチコステロイドは、リン酸メチルプレドニゾロン二ナトリウム、コハク酸メチルプレドニゾロンナトリウム、リン酸プレドニゾロンナトリウム、コハク酸プレドニゾロンナトリウム及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、ことを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載のリポソーム。
【請求項9】
前記コルチコステロイドは、リン酸プレドニゾロンナトリウム、リン酸トリアムシノロンアセトニドナトリウム、リン酸デキサメタゾンナトリウム、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、ことを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載のリポソーム。
【請求項10】
前記PEG化脂質は、PEG2000-ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(PEG-DSPE)及びPEG2000-コレステロールからなる群から選択される、ことを特徴とする請求項1~9のいずれか一項に記載のリポソーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医学の分野に関する。より具体的には、本発明は、炎症を起こした関節、炎症を起こした皮膚又は炎症を起こした眼のような、炎症を起こした病変又は領域の局所治療に関する。
【背景技術】
【0002】
非感染性前部ブドウ膜炎(AU)は、目の中心に見られるブドウ膜炎のすべての症例の60%を占める、視力を脅かす炎症の一群である。これらの患者は、大きな臨床負荷の原因となる。ブドウ膜炎の発生率は世界的に14~52.4/100,000であり、年間発生率は100,000人あたり69.0~114.5である。ブドウ膜炎は、合衆国における、法的盲目の原因の10%に及び、あるいは、毎年の失明の新規症例の約30,000例に及ぶ。特定の場所においては、毎週シンガポール国立眼科センターのブドウ膜炎外来診療所にブドウ膜炎の患者100人が見られる。
【0003】
AUは、再発する臨床経過となることも、寛解する臨床経過となることもある。視白内障、緑内障及び中枢網膜の腫脹などの制御不可能な長期間の炎症を伴って、視力を脅かす目の合併症が生じ得る。これらの合併症によって、25%に及ぶ患者が失明している。
【0004】
現在の一般的なブドウ膜炎及びAUの治療には、特に、ステロイド点眼薬の集中的かつ頻繁な点眼が、数週間から数ヶ月にわたってしばしば行われ、より重度の又は根絶しにくい症例では、ステロイドの眼周囲又は眼自体への組織へのステロイドの注入が行われる。ステロイド点眼剤は治療に効果的であるが、眼内への浸透が乏しく、所望の効果を達成するために、最初の治療期間に集中的に、毎時点眼を必要とする。それらの有効性は、視力の弱い患者では稀ではないが、涙液排出及び不十分な点眼滴下技術による、眼からの急速な洗い流しによって、さらに制限される。点眼薬によるこれらの問題は、点眼薬によるこれらの問題は、しばしば、慢性炎症に関係する、治療への遵守の乏しさ、持続性の炎症及び視力の合併症を引き起こす。さらに、非炎症性眼組織へのステロイドの標的化されていない送達は、白内障及び緑内障のようなステロイドに関連する副作用をもたらし得る。
【0005】
しばしば、疾病の標的部位における薬物の保持が不良であるという観点から、及び、頻繁な投与を必要とすることが、患者にとって不快感を伴うという事実の観点から、封入された薬物の徐放を目的とする薬物送達システムが当該分野で研究され、開発されている。そのような徐放性薬物送達システムの例は、ポリマーマトリックス及びデバイスである。さらに、リポソームを含む徐放性ナノ粒子が記載されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、50~90%の遊離治療剤(free therapeutic agent)と、眼の治療のための治療剤の残部をカプセル化するリン脂質ビヒクルとを含む薬物送達システムが記載されている。ビヒクルは、硝子体内、すなわち硝子体内部に投与される。この投与様式は、局所デポ剤を形成することにより、眼内の治療剤の寿命を延ばすのに役立つ。ビヒクルは、不飽和脂肪酸を含有する2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルコリン(DOPC)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルコリン(POPC)及びジオレイルホスファチジルグリセロール(DOPG)などのリン脂質から構成される酸から構成されている。そのような不飽和脂質は、漏出を可能にする流体リン脂質膜を形成し、その結果、治療剤が硝子体内に徐々に放出される。特許文献1の方法の欠点は、眼の炎症細胞が直接的に標的化されないことである。
【0007】
特許文献2は、治療薬、特にジクロフェナクを含有する増強された眼科用薬物送達のためのリポソームに基づく製剤を記載している。リポソーム製剤は、角膜表面を標的にして付着し、眼の中に薬物リザーバをもたらす。リポソームは、治療剤の眼内の滞留時間を増加させ、持続的な細胞外放出を可能にするために、カチオン性薬剤及び/又は粘膜付着性化合物を含む。特許文献2の方法はまた、眼の炎症細胞が直接標的化されないという欠点を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許出願公開第2011/0033468号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2004/0224010号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、本発明のコルチコステロイド含有リポソームを、炎症性障害に罹患している被験体の炎症性病変又は領域に局所投与する治療を提供することによって、上記の1つ以上の制限を克服することである。治療は、好ましくは炎症細胞の直接標的化を含む。
【課題を解決するための手段】
【0010】
従って、本発明は、治療頻度が多くて2週間に1回である、多くて20mgのコルチコステロイド、好ましくは多くて15mgのコルチコステロイド、より好ましくは多くて10mgのコルチコステロイドの用量で、炎症を起こした病変又は領域への局所投与、好ましくは炎症を起こした病変又は領域への局所注入を含む、被験体の炎症性障害の治療方法において使用される非荷電小胞形成脂質から構成されるリポソームであって、任意で10mol%以下の負に荷電した小胞形成脂質及び/又は10mol%以下のPEG化脂質を含み、リポソームは40~200nmのサイズ範囲の選択された平均粒径を有すると共に、水溶性コルチコステロイド誘導体を含む、リポソーム、を提供する。
【0011】
本発明は、多くて2週間に1回治療頻度で、多くて20mgのコルチコステロイド、好ましくは多くて15mgのコルチコステロイド、より好ましくは多くて10mgのコルチコステロイドの用量で、非荷電小胞形成脂質から構成されるリポソームを被験体に投与することを含む、被験体の炎症を起こした病変又は領域への局所投与、好ましくは被験体の炎症を起こした病変又は領域への局所注入を含む、炎症性障害の治療を必要とする被験体の炎症性障害の治療方法であって、リポソームは、任意で10mol%以下の負に荷電した小胞形成脂質及び/又は10mol%以下のPEG化脂質を含み、リポソームは、40~200nmのサイズ範囲の選択された平均粒径を有すると共に、水溶性コルチコステロイド誘導体を含む、方法を、更に提供する。
【0012】
いくつかの好ましい実施形態においては、本発明は、治療頻度が多くて2週間に1回である、多くて5mgのコルチコステロイドの用量での、結膜下投与による、被験体の眼炎症性障害の治療方法において使用される非荷電小胞形成リン脂質にから構成されるリポソームであって、リン脂質は、長鎖飽和脂肪酸を含み、リポソームは、任意で10モル%以下の負に荷電した小胞形成脂質及び/又は10モル%以下のPEG化脂質を含み、リポソームは、40~200nmのサイズ範囲の選択された平均粒径を有すると共に、水溶性形態のコルチコステロイドを含む、リポソーム、を提供する。
【0013】
本発明は、多くて2週間に1回の治療頻度で、多くて5mgのコルチコステロイドの用量で、結膜下投与により、非荷電小胞形成リン脂質から構成されるリポソームを被験体に投与することを含む、眼科炎症性障害の治療を必要とする被験体の眼炎症性障害の治療方法であって、リン脂質が長鎖飽和脂肪酸を含み、リポソームが、任意で10モル%以下の負に荷電した小胞形成脂質及び/又は10モル%以下のPEG化脂質を含み、リポソームが、40~200nmのサイズ範囲の選択された平均粒径を有すると共に、水溶性形態のコルチコステロイドを含む、方法、を更に提供する。
【0014】
以下に、詳細に説明するように、ある実施形態は、本発明の使用のためのリポソームを提供し、
リポソームは、
長鎖飽和脂肪酸を含有する非荷電小胞形成リン脂質、及び、
任意で、10モル%以下の負に荷電した小胞形成脂質、及び、
任意で、10モル%以下のPEG化脂質、から構成される。
リポソームは、水溶性形態のコルチコステロイドを含む。
【0015】
本発明の好ましい実施形態では、徐放性薬物送達システムとして作用しないリポソーム薬物送達媒体が使用される。代わりに、炎症細胞は、長鎖飽和脂肪酸を有する非荷電小胞形成リン脂質を含むリポソームで直接標的化される。これらのリポソームビヒクルは、インビボで安定であり、(コルチコステロイドの漏出がもしあれば)それらが炎症性標的細胞に達する前に、経時的にコルチコステロイドの漏出を最小限に抑える。炎症性標的細胞によるリポソームの取り込み及びその後のコルチコステロイドの細胞内放出は、治療上の利益をもたらす。従って、病理学的病変の近く、又は病理学的病変内での局所投与の際に、炎症性標的細胞による本発明によるリポソームのゆっくりと選択的な取り込みが起こり、コルチコステロイドが細胞内に放出されて有効になる。
【0016】
したがって、本発明の好ましい実施形態は、長鎖飽和脂肪酸を有する非荷電小胞形成リン脂質を含む、本発明のコルチコステロイド担持リポソームの炎症性標的細胞が存在する領域への投与を含む。本発明は、例えば、特許文献1及び特許文献2に開示されているような従来技術の徐放性薬物送達システムの局所投与と比較して、改善された治療結果が得られる、及び/又は、より必要とされる治療頻度が低い、という驚くべき効果を予測させる。
【0017】
ある好ましい実施形態では、本発明のリポソームは、結膜下投与による被験体の眼炎症性障害の治療方法で使用されるものである。理論に拘束されるものではないが、結膜下腔に注入されると、本発明のステロイド含有リポソームは結膜下腔に位置する炎症細胞にゆっくり取り込まれ、続いて、これらの炎症細胞においてコルチコステロイドの持続的な細胞内放出が選択的に達成される。本発明によるリポソームリン酸トリアムシノロンアセトニド(TAP)の単一結膜下注入、又は、本発明によるリポソームリン酸プレドニゾロンリン(PLP)の単一結膜下注入によって、最初の炎症を効果的に抑制することができると共に、再発性のAU由来の炎症反応を1ヶ月間にわたって減弱させることができることが、本発明によって実証されている。本発明によるリポソームTAP又はPLPの単一結膜下注射は、治療の最初の第1週に集中的に3時間毎にステロイド点眼薬を点滴するよりも良好であり、次の3週間にわたって同様の有効性を達成した。実施例に示すように、本発明の結膜下のリポソームTAP又はリポソームPLPの単回投与は、驚くべきことに、遊離形態の酢酸プレドニゾロンを含む点眼剤による集中治療と比較して、ブドウ膜炎の治療においてより良好な急性効果をもたらしたと共に、これらの単回投与は、炎症を抑制する長期治療において、集中的点眼治療と同じくらい有効であった。特に、本発明のリポソーム製剤は、遊離形態のコルチコステロイドを含有する点眼剤と比較してより速く作用する。さらに、リポソーム製剤の単回投与で、効果的な治療にも十分である。これにより、別の方法では複数回薬物投与されなければならないであろう患者の不快感が軽減される。本発明の単回投与リポソーム製剤は、更に驚くべきことに、再発した後でさえ、炎症反応を減弱させる持続的な臨床的利益を提供する。さらに、実施例には、リポソーム製剤の投与が、ステロイド関連副作用の白内障及び緑内障との関連性が低いことも示されている。結論として、長鎖飽和脂肪酸を有する非荷電小胞形成リン脂質を含有する本発明によるコルチコステロイド担持リポソームによる炎症標的細胞(inflammatory target cells)の直接標的化は、先行技術の局所投与プロトコルと比較して、治療成果が改善された、及び/又は、必要な治療頻度がより少ない、及び/又は、有害な副作用が少ない、という結果をもたらす。
【0018】
結膜下投与によって投与される本発明の好ましいコルチコステロイド含有リポソームは、
ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、水素化大豆ホスファチジルコリン(HSPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、水素化卵ホスファチジルコリン(HEPC)及びそれらの組み合わせ、及び、
任意で、10モル%以下の負に荷電した小胞形成脂質及び/又はPEG化脂質、から構成される。
ある実施形態では、リポソームは結膜下注射によって投与される。
【0019】
ブドウ膜炎のような眼炎症性障害において、炎症性細胞は結膜下腔に位置し、結膜下投与は直接的にリポソームを炎症細胞に標的化する。リポソームが長鎖飽和脂肪酸を含むリン脂質から構成されているという事実は、脂質二重層の高い転移温度のために、リポソームが比較的剛直であることを確実にする。その結果、リポソームが標的炎症細胞に取り込まれる前に、リポソームからのコルチコステロイドの漏れが最小限に抑えられる。コルチコステロイドは、一旦リポソームが炎症細胞に取り込まれ、おそらくリソソーム分解経路によって、細胞内分解される。したがって、投与経路及びリポソームの組成の結果として、コルチコステロイドは細胞内、好ましくは眼の結膜下腔内に存在する炎症細胞において、リポソームから放出される。このように、リポソームは、眼の炎症反応を抑制するのに非常に有効である。
【0020】
本明細書で使用される用語「長鎖脂肪酸」(LCFA)は、少なくとも13個の炭素原子の脂肪族テールを有する脂肪酸を指す。好ましくは、そのような長鎖飽和脂肪酸は、少なくとも13個の炭素原子及び多くて21個の炭素原子を有する。LCFAの非限定的な例は、パルミチン酸である。脂肪酸は、炭素原子間に二重結合を有さない場合が、「飽和」である。
【0021】
任意で10mol%以下の負に荷電した小胞形成脂質、及び/又は、10mol%以下のPEG化脂質を含む非荷電小胞形成脂質から構成されるリポソームであって、40~200nmのサイズ範囲の選択された平均粒径を有し、水溶性コルチコステロイド誘導体を含むリポソーム、並びに、
長鎖飽和脂肪酸を含む非荷電小胞形成リン脂質により構成されるリポソームであって、任意で10モル%以下の負に荷電した小胞形成脂質及び/又は10モル%以下のPEG化脂質を含み、40~200nmのサイズ範囲の選択された平均粒径を有し、水溶性形態のコルチコステロイドを含む、リポソームは、本明細書において「本発明の方法において使用されるリポソーム」又は「本発明のリポソーム」又は「本明細書に記載のリポソーム」とも呼ばれる。
【0022】
そのようなリポソームを含む医薬組成物は、本明細書では、「本発明の方法において使用される医薬組成物」又は「本明細書に記載のリポソームを含む医薬組成物」と呼ばれる。
【0023】
本明細書中で使用される場合、用語「被験体」は、ヒト及び動物、好ましくは哺乳動物を包含する。好ましくは、対象は哺乳動物、より好ましくはヒトである。
【0024】
用語「治療」は、障害の抑制、特に炎症の抑制、すなわち、その発達又はその少なくとも1つの臨床症状の停止又は低減、及び/又は障害の少なくとも1つの臨床症状の緩和を指す。
【0025】
本明細書中で使用される場合、「炎症性障害」は、炎症性疾患及び炎症状態も包含することを意味する。
【0026】
本明細書に記載のリポソーム又はそのようなリポソームを含む医薬組成物は、本発明による方法において、それを必要とする被験体、好ましくはヒトの炎症を起こした病変又は領域に局所的に投与される。ある実施形態では、本発明による治療は、被験体の炎症を起こした病変又は領域における局所注射を含む。好ましくは、本発明による治療は、結膜下投与によるものであり、好ましくは結膜下注射によるものである。「局所注射」は、針を用いた局所投与を指す。本発明の方法又は使用において、リポソームは、好ましくは注射によって、炎症を起こした病変又は領域に局所的に投与される。例えば、炎症性疾患が関節炎、好ましくは変形性関節症である場合、リポソームは、好ましくは炎症性関節に注入され、最も好ましくは関節内注射によって注入される。炎症性障害が眼炎症性障害である場合、リポソームは眼に投与される。そのような場合、炎症細胞を直接標的化するために、リポソームを結膜に投与することが好ましい。炎症性障害が炎症性皮膚疾患である場合、リポソームは、好ましくは、炎症を起こした皮膚に注入される。したがって、好ましい炎症領域又は領域は、炎症を起こした関節、炎症を起こした皮膚又は炎症を起こした眼である。好ましい投与様式は、ブドウ膜炎及び結膜炎などの眼炎症性障害の場合、結膜下注射である。結膜下注射は、眼瞼の内側を覆い、強膜を覆う結膜の下の注射を指す。
【0027】
本明細書で使用される「治療頻度」は、本発明の方法に使用されるリポソーム(を含む医薬組成物)の投与頻度を指す。例えば、2週間に1回の治療頻度は、医薬組成物が2週間に1回、患者に投与されることを意味し、2つの異なる用量による投与は、約2週間離れている。臨床診療では、これは2週間プラスマイナス1日又は2日でよい。多くて2週間に1回の治療頻度は、医薬組成物が2週間に1回又はそれより少ない頻度で、例えば、3週間に1回、又は4週間に1回、又は単回投与治療として1回だけ投与されることを示す。従って、多くて2週間に1回の治療頻度では、2回の投与の間の時間は少なくとも2週間であり、又は2回目の投与は全くない。本明細書に記載の、医薬組成物の唯一の単回投与も、「多くて2週間に1回の治療頻度」という用語に包含される。好ましくは、本発明による治療は、多くて1ヶ月に1回の治療頻度での治療であり、これは、2回の投与の間の時間が少なくとも1ヶ月であるか、又は2回目の投与が全くないことを意味する。特に好ましい実施形態では、本発明による治療は、水溶性形態のコルチコステロイドの用量が多くて10mgである、本発明によるリポソームの単回投与による投与を包含する。好ましくは、単回用量は、水溶性形態のコルチコステロイドが多くて5mgである。 ある実施形態では、用量は、水溶性形態のコルチコステロイドが、多くて2.5mg、又は多くて1.5mg、又は多くて1mg、又は多くて0.5mgある。
【0028】
本発明によれば、本発明の方法において使用されるリポソームを含む医薬組成物の用量は、多くて10mgのコルチコステロイドである。「多くてx mgのコルチコステロイドの用量」は、1回につき、すなわちリポソームの単回投与あたり、多くてx mgのコルチコステロイド、を意味する。例えば、「多くて10mgのコルチコステロイドの用量」は、時間当たり、すなわちリポソームの単回投与あたり、多くて10mgのコルチコステロイドを意味する。用量は、好ましくは多くて5mgのコルチコステロイドである。
【0029】
特に、障害が手術後の眼の障害又は眼の炎症である場合、投与され得る容量は、典型的には多くて0.5mlである。コルチコステロイドの最大濃度は典型的に10mg/mlであるので、多くて0.5mlの容量は、概して多くて5mgのコルチコステロイドを含有する。したがって、障害が手術後の眼の障害又は眼の炎症である場合、用量は、好ましくは多くて5mgのコルチコステロイドである。ある実施形態では、コルチコステロイドは、リン酸プレドニゾロン、リン酸デキサメタゾン、リン酸トリアムシノロン及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0030】
さらに、障害が関節炎疾患又は炎症性皮膚疾患である場合、投与され得る容量は、概して多くて2mlである。従って、障害が関節炎疾患又は炎症性皮膚疾患である場合、用量は好ましくは多くて20mgのコルチコステロイドである。ある実施形態においては、用量は、多くて15mgのコルチコステロイドである。ある実施形態においては、用量は多くて10mgのコルチコステロイド、好ましくは多くて7.5mgのコルチコステロイド、より好ましくは多くて5mgのコルチコステロイドである。
【0031】
好ましくは、本発明に従って使用されるリポソームは、医薬組成物中に包含される。医薬組成物は、炎症を起こした病変又は領域への局所適用のために製剤化される。したがって、治療頻度が多くて2週間に1回である、多くて20mgのコルチコステロイド、好ましくは多くて15mgのコルチコステロイド、より好ましくは多くて10mgのコルチコステロイドの用量での、炎症を起こした病変又は領域における局所注射を含む、被験体の炎症性障害の治療のための医薬の製造のための、非荷電小胞形成脂質から構成されるリポソームの使用であって、リポソームは、任意で10mol%以下の負に荷電した小胞形成脂質及び/又は10mol%以下のPEG化脂質を含み、40~200nmのサイズ範囲の選択された平均粒径を有すると共に、水溶性コルチコステロイド誘導体を含む、使用が、さらに提供される。
【0032】
ある好ましい実施形態は、治療頻度が多くて2週間に1回である、多くて5mgのコルチコステロイドの用量での、結膜下投与による、被験体の眼炎症性障害の治療のための医薬の製造のための、非荷電小胞形成リン脂質から構成されるリポソームの使用であって、リン脂質は、長鎖飽和脂肪酸を含み、リポソームは、任意で10モル%以下の負に荷電した小胞形成脂質及び/又は10モル%以下のPEG化脂質を含み、リポソームは、40~200nmのサイズ範囲の選択された平均粒径を有すると共に、水溶性形態のコルチコステロイドを含む、使用を提供する。本発明によるリポソームを含む医薬組成物は、薬学的に許容される担体、希釈剤及び/又は賦形剤をさらに含むことが好ましい。そのような医薬組成物は、水溶液又はヒドロゲル、例えばヒアルロナン中のリポソームを含むことが好ましい。
【0033】
本発明の方法において使用されるリポソームは、マルバーン(Malvern)DLS測定レーザー装置を用いた動的光散乱法による測定で、40~200nmの平均粒径を有する。リポソームは75~150nmの直径を有することが好ましい。リポソームは、多分散度がどちらかと言えば低い、すなわち0.2未満であることが好ましく、これは粒度分布が狭いことを意味する。
【0034】
本発明による使用のためのリポソームは、概して、人工的に合成され得るか、又は、任意で人工的に修飾された天然源に由来する、リン脂質群由来の非荷電小胞形成脂質を含む。非荷電小胞形成脂質は、部分的又は完全に合成されているものであることが好ましい。天然の供給源から得られるもの又は部分的又は完全に合成されたものを含むホスファチジルコリン(PC)は、本発明における使用に適している。本明細書中で使用される場合、「部分的合成又は完全合成小胞形成リン脂質」という用語は、人工的に作製された、又は、人工的に修飾された天然に存在するリン脂質に由来する少なくとも1つの小胞形成リン脂質を意味する。好ましいリン脂質は、比較的高い転移温度を有する二重層を生じるので、長鎖飽和脂肪酸を含む。前に説明したように、これは、リポソームが標的炎症細胞に取り込まれる前に、リポソームからのコルチコステロイドの漏出が最小限であるという利点を有する。標的炎症細胞によるリポソームの取り込み後、コルチコステロイドは細胞内でリポソームから放出され、従来技術の徐放性送達媒体と比較して、治療結果が改善されるようになり、及び/又は、必要な治療頻度がより少なくなる。
【0035】
ある実施形態においては、本発明のリポソームのリン脂質の少なくとも80%は、長鎖飽和脂肪酸を含む。より好ましい実施形態においては、本発明のリポソームのリン脂質の少なくとも85%は、長鎖飽和脂肪酸を含む。より好ましくは、本発明のリポソームのリン脂質の少なくとも90%は、長鎖飽和脂肪酸を含む。より好ましくは、本発明のリポソームのリン脂質の少なくとも95%が長鎖飽和脂肪酸を含む。より好ましくは、本発明のリポソームのリン脂質の少なくとも96%又は少なくとも97%又は少なくとも98%又は少なくとも99%が長鎖飽和脂肪酸を含む。長鎖飽和脂肪酸含有リン脂質の割合が高いほど、脂質二重層の転移温度が高くなり、リポソームがより剛直になる。いくつかの実施形態において、本発明のリポソームのリン脂質の全てが、長鎖飽和脂肪酸を含む。
【0036】
したがって、ある実施形態は、治療頻度が多くて2週間に1回である、多くて5mgのコルチコステロイドの用量での、結膜下投与による、被験体の眼炎症性障害の治療方法において使用される、非荷電小胞形成リン脂質から構成されるリポソームであって、リン脂質の少なくとも80%の脂肪酸は、長鎖飽和脂肪酸であり、リポソームは、任意で10モル%以下の負に荷電した小胞形成脂質及び/又は10モル%以下のPEG化脂質を含み、リポソームは、40~200nmのサイズ範囲の選択された平均粒径を有すると共に、水溶性形態のコルチコステロイドを含む、リポソームを提供する。好ましくは、リン脂質の少なくとも85%の脂肪酸が長鎖飽和脂肪酸である。より好ましくは、リン脂質の少なくとも90%の脂肪酸が長鎖飽和脂肪酸である。より好ましくは、リン脂質の少なくとも95%の脂肪酸が長鎖飽和脂肪酸である。より好ましくは、リン脂質の少なくとも96%の脂肪酸が長鎖飽和脂肪酸である。より好ましくは、リン脂質の少なくとも97%の脂肪酸が長鎖飽和脂肪酸である。より好ましくは、リン脂質の少なくとも98%の脂肪酸が長鎖飽和脂肪酸である。より好ましくは、リン脂質の少なくとも99%の脂肪酸が長鎖飽和脂肪酸である。
【0037】
さらに、治療頻度が多くて2週間に1回である、多くて5mgのコルチコステロイドの用量での、眼炎症性障害の治療を必要とする被験体の眼炎症性障害の治療方法であって、方法は、非荷電小胞形成リン脂質から構成されるリポソームを結膜下投与によって被験体に投与することを含み、リン脂質の少なくとも80%の脂肪酸が長鎖飽和脂肪酸であり、リポソームは任意で10モル%以下の負に荷電した小胞形成脂質及び/又は10モル%以下のPEG化脂質を含み、リポソームは、40~200nmのサイズ範囲の選択された平均粒径を有すると共に、水溶性形態のコルチコステロイドを含む、方法が、提供される。
【0038】
さらに、治療頻度が多くて2週間に1回である、多くて5mgのコルチコステロイドの用量での、結膜下投与による、被験体の眼炎症性障害の治療のための医薬の製造のための、非荷電小胞形成リン脂質から構成されるリポソームの使用であって、リン脂質の少なくとも80%の脂肪酸が長鎖飽和脂肪酸であり、リポソームは任意で10モル%以下の負に荷電した小胞形成脂質及び/又は10モル%以下のPEG化脂質を含み、リポソームは、40~200nmのサイズ範囲の選択された平均粒径を有すると共に、水溶性形態のコルチコステロイドを含む、方法が、提供される。上述のように、好ましくは、リン脂質の少なくとも85%の脂肪酸が長鎖飽和脂肪酸である。より好ましくは、リン脂質の少なくとも90%の脂肪酸が長鎖飽和脂肪酸である。より好ましくは、リン脂質の少なくとも95%の脂肪酸が長鎖飽和脂肪酸である。より好ましくは、リン脂質の少なくとも96%の脂肪酸が長鎖飽和脂肪酸である。より好ましくは、リン脂質の少なくとも97%の脂肪酸が長鎖飽和脂肪酸である。より好ましくは、リン脂質の少なくとも98%の脂肪酸が長鎖飽和脂肪酸である。より好ましくは、リン脂質の少なくとも99%の脂肪酸が長鎖飽和脂肪酸である。
【0039】
ある実施形態は、治療頻度が多くて2週間に1回である、多くて5mgのコルチコステロイドの用量での、結膜下投与による、被験体の眼炎症性障害の治療方法において使用される、非荷電小胞形成リン脂質から構成されるリポソームであって、リン脂質の脂肪酸が、長鎖飽和脂肪酸であり、リポソームは、任意で10モル%以下の負に荷電した小胞形成脂質、及び/又は、10モル%以下のPEG化脂質を含み、リポソームは、40~200nmのサイズ範囲の選択された平均粒径を有すると共に、水溶性形態のコルチコステロイドを含む、リポソームを提供する。
【0040】
更に、治療頻度が多くて2週間に1回である、多くて5mgのコルチコステロイドの用量での、眼炎症性障害の治療を必要とする被験体における眼炎症性障害の治療方法であって、方法は、非荷電小胞形成リン脂質により構成されるリポソームを結膜下投与によって被験体に投与することを含み、リン脂質の脂肪酸が長鎖飽和脂肪酸であり、リポソームは、任意で10モル%以下の負に荷電した小胞形成脂質及び/又は10モル%以下のPEG化脂質を含み、リポソームは、40~200nmのサイズ範囲の選択された平均粒径を有すると共に、水溶性形態のコルチコステロイドを含む、方法、が提供される。
【0041】
更に、治療頻度が多くて2週間に1回である、多くて5mgのコルチコステロイドの用量での、結膜下投与による、被験体の眼炎症性障害の治療のための医薬の製造のための、非荷電小胞形成リン脂質から構成されるリポソームの使用であって、リン脂質の脂肪酸が長鎖飽和脂肪酸であり、リポソームは、任意で10モル%以下の負に荷電した小胞形成脂質及び/又は10モル%以下のPEG化脂質を含み、リポソームは、40~200nmのサイズ範囲の選択された平均粒径を有すると共に、水溶性形態のコルチコステロイドを含む、使用が、提供される。
【0042】
特に好ましいリン脂質は、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、水素化大豆ホスファチジルコリン(HSPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)及び水素化卵ホスファチジルコリン(HEPC)である。本発明の方法において使用されるリポソームは、多くて10モル%のPEG化脂質及び/又は多くて10モル%の負に荷電した脂質を含む。好ましいPEG化脂質は、一端に200~20,000ダルトンの分子量を有し、他端に親油性アンカー分子を有するPEGポリマーから構成される。アンカー分子は、概して、リン脂質及びステロールの群から選択される。好ましいPEG化脂質は、PEG2000-ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(PEG-DSPE)及びPEG2000-コレステロールである。好ましい負に荷電した脂質は、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)及びジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)である。本発明の方法において使用されるリポソームは、A環の3位にヒドロキシル基を有する合成又は天然起源のステロール又はステロイドアルコールを含むことが、更に好ましい。この群のステロール化合物のうち、コレステロールが好ましい。
【0043】
ポリマー脂質複合体及び負に荷電した脂質の画分は、製剤中の小胞形成脂質の総モル比に基づいて、0-10モル%、好ましくは1~10モル%、より好ましくは2.5~10モル%である。負に荷電した脂質、特にポリマー脂質複合体がリポソーム製剤中に存在する場合、製剤は物理的に安定化される。しかしながら、物理的な仕様で特定の脂質組成を注意深く選択することにより、PEG-脂質複合体又は負に荷電した脂質を使用せずに、物理的安定性を得ることができる。例えば、DSPC及びコレステロール及び/又はスフィンゴミエリンのようなスフィンゴ脂質の50~100nmのリポソームが、本発明の方法における使用に適している。
【0044】
特に好ましい実施形態では、本発明は、本発明の使用のためのリポソーム又は本発明による方法を提供し、リポソームは、
0~50モル%のコレステロール、
好ましくは長鎖飽和脂肪酸を有する非荷電小胞形成リン脂質である、50~90mol%の非荷電部分的合成又は完全合成小胞形成脂質、
ポリエチレングリコールに結合した、0~10モル%の両親媒性小胞形成脂質、及び、
0~10モル%の負に荷電したベシクル形成脂質、
を含む。そのようなリポソームは、例えば国際公開第02/45688号又は国際公開第03/105805号に記載されている方法に従って製造される。しかしながら、本発明による用量及び治療頻度及び実施形態は、その中に記載されていない。本発明の方法において使用されるリポソームは、好ましくは約75~150nmのサイズ範囲の平均粒径を有する。前に述べたように、部分的合成又は完全合成小胞形成脂質は、好ましくは、DSPC、DPPC、HSPC、HEPC及びこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0045】
本発明の方法において使用される特定のリポソームの例は、
・10モルパーセント以下の、ポリエチレングリコールで誘導体化された両親媒性小胞形成脂質を含み、任意で10モルパーセント以下の負に荷電した小胞形成脂質を含む、非荷電小胞形成脂質にから構成されるリポソーム(好ましくは、リン脂質の少なくとも90%の脂肪酸が長鎖飽和脂肪酸である非荷電小胞形成リン脂質)であり、このリポソームは、40~200nmのサイズ範囲の選択された平均粒径を有すると共に、コルチコステロイドを含有し、コルチコステロイドが水溶性形態で存在することを特徴とするリポソーム;
・DSPC、HSPC、HEPC、DPPC及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるコレステロール及び非荷電小胞形成リン脂質により構成されるリポソームであり、40~200nmのサイズ範囲の選択された平均粒径を有し、コルチコステロイドを含み、コルチコステロイドが水溶性形態で存在することを特徴とするリポソーム;
・DSPC、HSPC、HEPC、DPPC及びそれらの組み合わせからなる群から選択される非荷電小胞形成リン脂質により構成されるリポソームであり、40~200nmのサイズ範囲の選択された平均粒径を有し、水溶性形態のコルチコステロイドを含有するリポソーム;
・非荷電小胞形成脂質(好ましくはリン脂質の少なくとも90%の脂肪酸が長鎖飽和脂肪酸である非荷電小胞形成リン脂質)により構成されるリポソームであって、5モル%以下の負に帯電したジパルミトイルホスファチジルグリセロール、40~200nmのサイズ範囲の選択された平均粒径を有すると共に、コルチコステロイドを含有し、コルチコステロイドが水溶性形態で存在することを特徴とするリポソーム。
・コレステロール及び非荷電小胞形成脂質により構成されるリポソームであって、部分的に又は完全に合成されており(好ましくは、リン脂質の少なくとも90%の脂肪酸が長鎖飽和脂肪酸である非荷電小胞形成リン脂質)、任意で5モル%以下の負に荷電した小胞形成脂質を含み、40~200nmのサイズ範囲の選択された平均粒径を有すると共に、コルチコステロイドを含有し、コルチコステロイドが水溶性形態で存在することを特徴とするリポソーム;
である。
【0046】
前述のように、本発明に従って使用されるリポソームは、例えば国際公開第02/45688号又は国際公開第03/105515号に開示されているような従来のリポソーム又はPEG-リポソームの製造に使用される方法に従って製造してもよい。水溶性コルチコステロイドを水相に溶解することによって、活性成分をリポソームに受動的に担持することは、十分なカプセル化に達するために十分であるが、封入効率をさらに高めるために、他の方法も使用することができる。リポソームの形成に使用される脂質成分は、リン脂質、スフィンゴ脂質及びステロールなどの様々な小胞形成脂質から選択することができる。これらの基本構成要素の(完全又は部分的な)置換は、例えば、スフィンゴミエリン及びエルゴステロールが可能である。水溶性コルチコステロイドをリポソームに有効にカプセル化し、それによってリポソームからの薬物の漏出を回避するために、特に、飽和した剛直化アシル鎖を有するリン脂質成分が有用であるようである。
【0047】
いくつかの実施形態において、本発明は、非荷電小胞形成リン脂質を主成分として構成されるリポソームの使用を包含し、ここで、リン脂質の脂肪酸は、長鎖飽和脂肪酸であり、また、リポソームは、リポソームが標的炎症細胞に取り込まれる前に、リポソームが、リポソームからのコルチコステロイドの最小限の漏出を確実にするインビボでの安定性を維持する限り、不飽和脂肪酸を有する少量のリン脂質も含む。不飽和脂肪酸を有するリン脂質の(これらのリポソーム中のリン脂質の総量に基づく)割合は、20%以下であり、好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下、より好ましくは8%以下、より好ましくは5%以下、より好ましくは4%以下、より好ましくは3%以下、より好ましくは2%以下、より好ましくは1%以下である。前に述べたように、長鎖飽和脂肪酸の割合が高いほど、脂質二重層の転移温度が高くなり、リポソームがより剛直になる。
【0048】
本発明の方法において使用されるリポソーム組成物は、水溶性形態のコルチコステロイドを含み、本明細書では水溶性コルチコステロイドとも呼ばれる。そのような水溶性コルチコステロイドは、水に自然に可溶なコルチコステロイド、ならびに水溶性コルチコステロイド誘導体を包含する。用語「水溶性」は、本明細書において、25℃の温度で、水又は中性pHに緩衝された水に、少なくとも10g/lの溶解度を有するものとして定義される。本発明に従って有利に使用することができる水溶性コルチコステロイドとしては、遊離ヒドロキシル基を有するコルチコステロイド及び(C2~C12)脂肪族、飽和及び不飽和ジカルボン酸のような有機酸から製造されるアルカリ金属塩及びアンモニウム塩、リン酸、硫酸などの無機酸が挙げられる。アルカリ金属塩としては、カリウム及びナトリウム塩が好ましい。本明細書で使用される「コルチコステロイド誘導体」は、コルチコステロイド又はその誘導体をいう。そのような誘導体とは、化学的に修飾されたコルチコステロイドであり、好ましくはエステル化によるものである。 本発明による好ましいコルチコステロイド誘導体は、コルチコステロイドの水溶性リン酸エステル、コハク酸エステル及び硫酸エステルである。水溶性の、正又は負に荷電した、他のコルチコステロイドの誘導体もまた、使用することができる。本発明に従って適用することができる水溶性コルチコステロイド誘導体の非限定的な例としては、リン酸ベタメタゾンナトリウム、リン酸デソニドナトリウム、リン酸デキサメタゾンナトリウム、リン酸ヒドロコルチゾンナトリウム、コハク酸ヒドロコルチゾンナトリウム、リン酸メチルプレドニゾロン二ナトリウム、コハク酸メチルプレドニゾロンナトリウム、リン酸プレドニゾロンナトリウム、コハク酸プレドニゾロンナトリウム、塩酸プレドニゾラメート、リン酸プレドニゾン二ナトリウム、コハク酸プレドニゾンナトリウム、リン酸トリアムシノロンアセトニドナトリウムが挙げられる。最も好ましいのは、リン酸プレドニゾロンナトリウム、リン酸デキサメタゾンナトリウム及びリン酸トリアムシノロンアセトニドナトリウムである。
【0049】
本発明によるリポソーム組成物で、好適に治療することができる炎症性障害の例としては、局所炎症性病変又は領域の特徴がある炎症性障害が挙げられる。このような障害の例としては、ブドウ膜炎、黄斑浮腫及び結膜炎などの炎症性眼障害、変形性関節症などの関節炎疾患、白内障手術又は網膜剥離手術などの手術後の眼の炎症、並びに乾癬及びアトピー性皮膚炎などの炎症性皮膚障害が挙げられる。したがって、好ましい実施形態における、炎症性障害は、炎症性眼障害、関節炎障害、手術後の眼の炎症、及び炎症性皮膚障害からなる群から選択され、より好ましくは、障害は、ブドウ膜炎、黄斑浮腫、結膜炎、変形性関節症、白内障手術又は網膜剥離手術後の眼の炎症、乾癬及びアトピー性皮膚炎からなる群から選択される。好ましくは、本発明による方法で治療される炎症性障害は、関節炎疾患、好ましくは変形性関節症又は炎症性眼障害、より好ましくはブドウ膜炎又は結膜炎、最も好ましくはブドウ膜炎である。本明細書で使用される「ブドウ膜炎」は、前部ブドウ膜炎、中部ブドウ膜炎及び後部ブドウ膜炎を含む、あらゆるタイプのブドウ膜炎を含む。好ましい実施形態では、ブドウ膜炎は前部ブドウ膜炎である。
【0050】
本明細書では、明確化及び簡潔な説明の目的で、本発明の同一の又は別個の態様又は実施形態の一部として特徴を説明することができる。当業者であれば、本発明の範囲は、同じ又は別個の実施形態の一部として本明細書に記載される特徴のすべて又は一部の組み合わせを有する実施形態を含み得ることが理解される。
【0051】
本発明を以下の実施例により詳細に説明するが、限定はしない。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【
図1】前眼部炎症の統合スコアの平均変化(3日目の最大炎症時を基準に標準化)。3日目に、リポソームリン酸プレドニゾロン(LPP)、対照PBS(C)、遊離リン酸プレドニゾロン(FPP)又はリポソームリン酸トリアムシノロン(LTAP)の1回の結膜下注射により、治療を開始した。3日目に点眼治療(ED)を開始し、1日当たりQ3H/4滴で、16日目まで継続した。
【
図2】11日目のスリットランプ写真及び眼底写真。対照眼は、虹彩鬱血、前房細胞及びフレアが、リポソームTAで治療した眼よりも大きかった。硝子体の曇りは対照眼ではわずかに悪かった。
【
図3】組織構造。対照眼(炎症)と治療された眼との間の差は、HE染色で見え、免疫染色によって確認される。
【
図4】異なる治療群及び対照群における白内障形成。LPP:リポソームリン酸プレドニゾロン、LTAP:リポソームリン酸トリアムシノロン、FPP:遊離リン酸プレドニゾロン、EDN:炎症を起こしていない眼における局所的なプレドフォルテ(Predforte)1%Q3Hによる点眼治療、ED:炎症を起こした眼における局所的なプレドフォルテ1%Q3Hによる点眼治療、対照:PBS。
【
図5】異なる治療群及び対照群における眼内圧(IOP)。LPP:リポソームリン酸プレドニゾロン、LTAP:リポソームリン酸トリアムシノロン、FPP:遊離リン酸プレドニゾロン、EDN:炎症を起こしていない眼における局所的なプレドフォルテ1%Q3Hによる点眼治療、ED:炎症を起こした眼における局所的なプレドフォルテ1%Q3Hによる点眼治療、C:対照PBS。
【発明を実施するための形態】
【0053】
[実施例]
[方法]
[予備免疫]
予備免疫として、鉱油(500μL)に懸濁した結核菌H37Ra抗原(10mg;ディフコ社製、ミシガン州デトロイト)の皮下注射を行った(Ghosnら、2011)。1週間後、同じ量の皮下抗原を別の部位に2回目の注射をした。注射部位に目に見える皮膚結節が存在することにより、1週間後に良好な予備免疫が確認された。
【0054】
[実験的ブドウ膜炎の誘導]
実験的ブドウ膜炎は、予備免疫を受けたウサギ(2回目の予備免疫後7日目)において0日目に片側硝子体注射によって誘発された。ウサギを塩酸ケタミン(35~50mg/kg)及びキシラジル(5-10mg/kg)の腹腔内注射で麻酔した。アメソカイン(Amethocaine)1%による局所麻酔後、各ウサギの右眼を5%ポビドンヨードで消毒した。31ゲージの針を備えたハミルトンシリンジを用いて、滅菌生理食塩水(50ug;1ug/uL)中に懸濁した結核菌H37Ra抗原の硝子体内注射を、輪部から1.5mmの上大腿強膜を介して行った。治療の最後にトブラマイシン(Tobramycin)1滴を滴下した。ブドウ膜炎の再発をシミュレートするために、我々は、上記の手順に従って、8日目に再び実験的ブドウ膜炎を誘導した。眼を30日間臨床的に監視し、2人のマスクされた研究者(investigator)によって眼の炎症のために等級付けされた。
【0055】
[治療介入]
ウサギを無作為に4つの治療介入群に分け、ブドウ膜炎誘導から3日後に、1つの群は、0.1mlの結膜下注射したリポソームリン酸トリアムシノロンアセトニドナトリウム(LTAP)(4mg/ml)(n=6)の単回投与を受け、1つの群は、0.1mlの結膜下注射したリポソームリン酸プレドニゾロンナトリウム(LPP)(4mg/ml)(n=5)の単回投与を受け、1つの群は、0.1mlの結膜下注射したリン酸プレドニゾロン(FPP)(4mg/ml)の単回投与を受け、1つの群は、局所的プレドフォルテ1%Q3Hで点眼治療を受け、1日当たり4滴を2週間投与した(ED)(n=5)。第5番目の群は、結膜下注射したPBS(対照群(C);治療なし)(n=5)の単回投与を受けた。
【0056】
リポソームナノ粒子は、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、コレステロール、及び、PEG2000ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(PEG-DSPE)から、62%、33%、及び5%のモル比で構成した(リポソームナノ粒子調製について:2015年Lobatto等、1134頁参照)。
【0057】
注射前に、ウサギを塩酸ケタミン(35~50mg/kg)及びキシラジル(5~10mg/kg)の腹腔内注射で麻酔した。1%アメソカインによる局所麻酔後、各ウサギの右眼を5%ポビドンヨードで消毒した。31ゲージの針を備えたハミルトンシリンジを使用して、0.1mlの単回注射による治療を行った。局所トブラマイシンは、結膜下ステロイドの注射後5日間、1日4回投与された。
【0058】
[臨床試験]
臨床検査は、2人のマスクされた独立した研究者によって行われた。スリットランプ生体顕微鏡、トノペンによる眼内圧の測定、前眼部の撮影、及び、20Dレンズを用いた両眼間接検眼鏡検査による拡張基礎検査を、ブドウ膜炎誘導の前及び誘導後の8つの規定時点(0,1,3,4,8,9,11,16,24及び31日目)に行った。ブドウ膜炎の臨床的重症度は、前房の細胞/炎症、硝子体の曇り、及び虹彩の血管を評価することによってスコア付けした。これらの臨床スコアリングシステムは、以前の文献(Nussenblatt等、1985;Bloch-Michel&Nussenblatt、1987)に記載されている。前眼部炎症の統合スコアは、虹彩血管、前房細胞及び前房炎症についてのスコアの合計として定義した。白内障の存在は、31日目のスリットランプ生体顕微鏡で測定し、LOCSスケールに基づいて評価した。
【0059】
【0060】
[除核、安楽死及び病理学的治療]
すべてのウサギを30日間の試験期間の終わりに安楽死させた。安楽死は、腹腔内ペントバルビトーン(60-150mg/kg)で行い、その後、手術した眼を摘出した。
【0061】
[組織病理及び免疫組織化学]
蛍光性リポソームの場合には、眼をパラフィンに包埋するか、又は、直接凍結させた。
【0062】
パラフィンについては、全ウサギの眼を摘出し、10%中性緩衝化ホルマリン溶液(ライカサージパス(Leica-Surgipath)、ライカバイオシステムズリッチモンド社製)中で24時間固定した。次に、ウサギの眼全体を前部及び後部切片に切開し、エタノール濃度を増加させながら脱水し、キシレン中で不用物を除去し、パラフィン(Leica-Surgipath、ライカバイオシステムズリッチモンド社製)中へ包埋した。回転式ミクロトーム(RM2255、ドイツ国ライカバイオシステムズヌスロッホ社製)で5ミクロン切片に切断し、POLYSINE(商標)顕微鏡スライドグラス(Gerhard Menzel、ニューイントン、コネチカット州、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)上に回収した。切片を37℃のオーブンで少なくとも24時間乾燥させた。組織病理学的及び免疫組織化学的検査のための切片を調製するために、切片を60℃の熱プレート上で加熱し、キシレン中で脱パラフィンし、エタノールの濃度を減少させて再水和させた。
【0063】
凍結した眼を得るため、全ウサギの眼を-20℃のOCT化合物(Optimal Cutting Temperature Compound)に1時間包埋した。クライオスタット(HM550、ドイツ国、サーモフィッシャーサイエンティフィックミクロムインターナショナル社製)を用いて6ミクロン切片に切断し、POLYSINE(商標)顕微鏡スライドグラス(Gerhard Menzel、ニューイントン、コネチカット州、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)上に回収した。切片を室温(RT)で1時間空気乾燥させた。
【0064】
ヘマトキシリン及びエオシン(H&E)の標準手順を実施した。光学顕微鏡(Axioplan 2、ドイツ国オーバーコッヘン、カールツァイスメディテック社製)を用いてスライドを検査し、画像を捕捉した。
【0065】
並行して、免疫蛍光染色を行った。パラフィンについては、クエン酸ナトリウム緩衝液(10mMクエン酸ナトリウム、0.05%Tween20、pH6.0)中で切片を95~100℃で20分間インキュベートすることにより、熱誘導抗原回収を行った。次に、室温下で切片をクエン酸ナトリウム緩衝液中で20分間冷却し、1XPBSで、それぞれ5分間、3回洗浄した。凍結サンプルについては、切片を1Xリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中の4%パラホルムアルデヒド(PFA)で10分間固定し、1X PBSでそれぞれ5分間3回洗浄した。
【0066】
非特異的部位を、0.1%Triton X-100及び1XPBS中の5%ウシ血清アルブミン(BSA)のブロッキング溶液で、加湿チャンバー内で、室温で1時間ブロックした。次いで、スライドを1X PBSで短時間すすいだ。表1に示す特異的一次抗体を適用し、ブロッキング溶液で調製した状態で、加湿チャンバー内で4℃で一晩インキュベートした。1X PBSで2回、0.1%Tweenを含む1X PBSで1回10分間それぞれ洗浄した後、Alexa Fluro (登録商標)488/594結合フルオレセイン標識ヤギ抗ウサギIgG二次抗体(オレゴン州ユージーン、インビトロジェン社製Molecular Probes)をブロッキング溶液中に、1:1000の濃度で適用し、室温(RT)で90分間インキュベートした。
【0067】
次いで、スライドを1X PBSで2回、0.1%Tweenを含む1X PBSで1回それぞれ5分間洗浄し、スライドをProlong Diamond Anti-fade DAPI5マウントメディア(オレゴン州ユージーン、インビトロジェン社製Molecular Probes)と共にスライドにマウントして、細胞核を可視化した。陰性の対照については、一次抗体は省略した。共焦点顕微鏡システム(Nikon A1R + si共焦点顕微鏡)を用いて、高解像度画像を取得した。4つの抗体について実験を2回繰り返した。
【0068】
【0069】
[評価基準]
・ 虹彩鬱血(0-3)、前室細胞(0-4)、フレア(0-3)、硝子体曇り(0-4)。
・ 合併した前眼部炎症スコア=虹彩鬱血、前房細胞及び炎症の合計。
・ 組織構造及び免疫組織化学染色:H&E、CD3、CD4、CD45。
【0070】
[結果]
[炎症性スコア]
表2に平均の前眼部炎症統合スコアを示す。結膜下注射の1日後、対照群においてよりも、リポソームリン酸プレドニゾロン(PP)において、前眼部炎症統合スコアが著しく低く(5.4±1.5対8.4±1.7、p = 0.049)、点眼群より著しく低かった(p=0.033)。この差は、最初の介入後5日まで持続し、両方のリポソーム群(2.6±2.1、p=0.019及び3.3±2.5、リポソームPP及びリポソームリン酸トリアムシノロン(TA)群でp=0.024)は、対照(7.2±2.2)より著しく低い前側部分炎症スコアを示した。リポソームPPは、硝子体内TB抗原の再投与の3日後の11日目に対照よりも、リバウンド炎症のより大きな減弱を達成した(4.7±2.6対8.5±1.3、p=0.041)。2週間にわたり1日に4回毎日注入されたプレドフォルテ点眼と同様に、結膜下リポソームPP又はTAの単回投与は、治療後2週間、抗炎症剤を持続的に送達した(点眼PP及びTAではそれぞれ5.0±2.8及び5.0±1.0、これに対して、点眼剤については4.6±1.3、p>0.05)。
図2に11日目のスリットランプと眼底写真を示す。
【0071】
炎症性スコア
【表2】
† p値を一元配置ANOVAから決定し、群間の平均前眼部炎症統合スコアを比較した。
* 対照とのリポソームPP間の一対比較、p=0.049、及び複数の比較のためのボンフェローニ補正後の点眼薬、p=0.033。
** 対照とのリポソームPP(p=0.007)と対照とのリポソームTA間の一対比較(p=0.019、多重比較のためのボンフェローニ補正後)。
*** 複数の比較のためのボンフェローニ矯正後、対照とのリポソームPP間の一対比較(p=0.041)。
【0072】
[白内障形成及び眼内圧(IOP)に及ぼすリポソームステロイドの影響]
[白内障形成]
全体的にみると、後嚢下白内障が11匹のウサギで発生した。他の亜型の白内障は観察されなかった。治療群間で白内障形成率に有意差はなかったが(p=0.185)、対照、点眼薬及び結膜下遊離リン酸プレドニゾロン群では、より高い比率に向かう傾向があった。群間における白内障の重症度に、有意な差はなかった。酢酸プレドニゾロン1%点眼薬(EDN)を投与したウサギの他眼には白内障は認められなかった。結果を
図4に示す。
【0073】
[眼内圧(IOP)]
治療群間でIOPに有意な差はなかった。実験中のいずれの時点でも、どのウサギもIOP>21を引き上げなかった。結果を
図5に示す。
【0074】
[組織学構造]
対照眼(炎症)と治療された眼との間の差は、HE染色で見られ、免疫染色によって確認される(
図3)。
【0075】
[結果の要約]
実験的前部ブドウ膜炎の治療のために、結膜下注射したリポソームステロイドの有効性を評価するためのこの研究では、我々の重要な臨床所見は以下のとおりであった。
1.これらのリポソームステロイドは、点眼剤と比較して強力な初期抗炎症作用及びリバウンド炎症の減弱を示す。
2.これらのリポソームステロイドの単回投与は、2週間の毎日の点眼投与と同様に持続的な抗炎症効果を達成した。
3.これらのリポソームステロイドは、遊離ステロイドと比較して持続的な抗炎症作用を示す。同時に、臨床的有効性は組織学的分析とよく一致し、リポソームの毛様体への共局在が観察され、標的化されたリポソームの炎症細胞への送達が示唆された。最後に、IOP又は白内障形成に対するリポソームステロイドの有害作用は観察されなかった。
【0076】
[参照]
Bloch-Michel E, Nussenblatt RB. International Uveitis Study Group recommendations for the evaluation of intraocular inflammatory disease. Am J Ophthalmol. 1987;103(2):234-235.
Ghosn CR, Li Y, Orilla WC, et al. Treatment of experimental anterior and intermediate uveitis by a dexamethasone intravitreal implant. Investigative ophthalmology & visual science. 2011;52(6):2917-2923.
Lobatto ME, Calcagno C, et al. Pharmaceutical development and preclinical evaluation of a GMP-grade anti-inflammatory nanotherapy. Nanomedicine: Nanotechnology, Biology, and Medicine. 2015; 11: 1133-1140
Nussenblatt RB, Palestine AG, Chan CC, Roberge F. Standardization of vitreal inflammatory activity in intermediate and posterior uveitis. Ophthalmology. 1985;92(4):467-471.
【0077】
(付記)
(付記1)
治療頻度が多くて2週間に1回である、結膜下投与による多くて5mgのコルチコステロイドの用量での被験体の眼炎症性障害の治療方法において使用される非荷電小胞形成リン脂質から構成されるリポソームであって、
前記リン脂質が長鎖飽和脂肪酸を含み、
前記リポソームは、任意で、10モル%以下の負に荷電した小胞形成脂質及び/又は10モル%以下のPEG化脂質を含み、
前記リポソームは、40~200nmのサイズ範囲から選択された平均粒径を有すると共に、水溶性形態のコルチコステロイドを含む、
ことを特徴とするリポソーム。
【0078】
(付記2)
多くて2週間に1回の治療頻度で、結膜下投与により多くて5mgのコルチコステロイドの用量で、非荷電小胞形成リン脂質から構成されるリポソームを、眼炎症性障害の治療を必要とする被験体に投与することを含む、眼炎症性障害の治療方法であって、
前記リン脂質が長鎖飽和脂肪酸を含み、
前記リポソームは、任意で、10モル%以下の負に荷電した小胞形成脂質及び/又は10モル%以下のPEG化脂質を含み、
前記リポソームは、40~200nmのサイズ範囲から選択された平均粒径を有すると共に、水溶性形態のコルチコステロイドを含む、
ことを特徴とする方法。
【0079】
(付記3)
前記非荷電小胞形成リン脂質が、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、水素化大豆ホスファチジルコリン(HSPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、水素化卵ホスファチジルコリン(HEPC)及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、ことを特徴とする付記1又は2に記載の使用されるリポソーム又は方法。
【0080】
(付記4)
前記負に荷電した小胞形成脂質は、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、ジステアロイルホスファチジルグリセロール(DSPG)及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、ことを特徴とする付記1~3のいずれか一つに記載の使用されるリポソーム又は方法。
【0081】
(付記5)
前記リポソームは、DPPC、HSPC、DSPC、HEPC及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択されるリン脂質から構成される、ことを特徴とする付記1~3のいずれか一つに記載の使用されるリポソーム又は方法。
【0082】
(付記6)
前記リポソームが、
DPPC、HSPC、DSPC、HEPC及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択されるリン脂質、並びに、
コレステロール、
から構成される、
ことを特徴とする付記1~3のいずれか一つに記載の使用されるリポソーム又は方法。
【0083】
(付記7)
前記治療は、結膜下注射による前記リポソームの単一用量を投与することを含む、ことを特徴とする付記1~6のいずれか一つに記載の使用されるリポソーム又は方法。
【0084】
(付記8)
前記眼炎症性障害がブドウ膜炎又は結膜炎である、ことを特徴とする付記1~7のいずれか一つに記載の使用されるリポソーム又は方法。
【0085】
(付記9)
前記治療の治療頻度が多くて1ヶ月に1回である、付記1~8のいずれか一つに記載の使用されるリポソーム又は方法。
【0086】
(付記10)
前記被験体がヒトである、付記1~9のいずれか一つに記載の使用されるリポソーム又は方法。
【0087】
(付記11)
前記コルチコステロイドは、リン酸メチルプレドニゾロン二ナトリウム、コハク酸メチルプレドニゾロンナトリウム、リン酸プレドニゾロンナトリウム、コハク酸プレドニゾロンナトリウム及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、ことを特徴とする付記1~10のいずれか一つに記載の使用されるリポソーム又は方法。
【0088】
(付記12)
前記コルチコステロイドが、リン酸プレドニゾロンナトリウム、リン酸トリアムシノロンアセトニドナトリウム、リン酸デキサメタゾンナトリウム、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選択される、ことを特徴とする付記1~11のいずれか一つに記載の使用されるリポソーム又は方法。