(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022050596
(43)【公開日】2022-03-30
(54)【発明の名称】T細胞又はNK細胞の製造方法、T細胞又はNK細胞の培養用培地、T細胞又はNK細胞の培養方法、未分化T細胞の未分化状態を維持する方法及びT細胞又はNK細胞の増殖促進剤
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0783 20100101AFI20220323BHJP
C07G 5/00 20060101ALI20220323BHJP
C12N 1/00 20060101ALI20220323BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20220323BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220323BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20220323BHJP
A61K 39/395 20060101ALN20220323BHJP
A61K 47/68 20170101ALN20220323BHJP
【FI】
C12N5/0783
C07G5/00
C12N1/00 G
A61P37/04
A61P35/00
A61K35/17 Z
A61K39/395 T
A61K39/395 E
A61K47/68
A61K39/395 C
A61K39/395 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】29
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022003212
(22)【出願日】2022-01-12
(62)【分割の表示】P 2020560042の分割
【原出願日】2019-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2018229478
(32)【優先日】2018-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高柳 晋一郎
(72)【発明者】
【氏名】國里 篤志
(72)【発明者】
【氏名】中願寺 風香
(72)【発明者】
【氏名】福本 健
(72)【発明者】
【氏名】中園 一紀
(72)【発明者】
【氏名】金子 新
(72)【発明者】
【氏名】河合 洋平
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、T細胞又はNK細胞を効率的に増殖させ、且つ該細胞の状態(例えば未分化性)を維持し得る、T細胞又はNK細胞の製造方法、T細胞又はNK細胞の培養用培地、T細胞又はNK細胞の培養方法、未分化T細胞の未分化状態を維持する方法及びT細胞又はNK細胞の増殖促進剤を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、ビスベンジルイソキノリンアルカロイド若しくは1つのエーテル結合が切断した化合物又はその薬学的に許容される塩を含有する培地中でT細胞又はNK細胞を培養することを含むT細胞又はNK細胞の製造方法等に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(X-1)又は式(X-2)で表されるビスベンジルイソキノリンアルカロイド若しくは1つのエーテル結合が切断した化合物又はその薬学的に許容される塩を含有する培地中でT細胞又はNK細胞を培養することを含む、T細胞又はNK細胞の製造方法。
【化1】
【化2】
[式(X-1)及び式(X-2)中、
R
1及びR’
1は、それぞれ独立して、H又は1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキルであり、
R
2、R’
2、R
3、R’
3、R
4、R’
4、R
5及びR’
5は、それぞれ独立に、H、アシル、1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキルであり、前記アルキルは、O、N若しくはSヘテロ原子で中断されていてもよく、又はR
2及びR
3、R
4及びR
5、R’
2及びR’
3、若しくはR’
4及びR’
5は、一緒になってO若しくはSを表し、
R
6、R’
6、R
7及びR’
7は、それぞれ独立に、H、アシル、1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキルであり、前記アルキルは、O、N若しくはSヘテロ原子で中断されていてもよく、又はR
6及びR
7若しくはR’
6及びR’
7は、一緒になってO若しくはSを表し、
X
1、X
2、X
3及びX
4は、同一であっても異なっていてもよく、そのそれぞれが、独立に、H、ヒドロキシ、1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキル、アルコキシ、又はアシルオキシ若しくはスルホニルオキシであり、これらは更に置換基を有していてもよく、n
1及びn
3は、それぞれ独立して、0~3の整数であり、n
2及びn
4は、それぞれ独立して、0~4の整数であり、これらは互いに結合して環を形成してもよい。]
【請求項2】
前記T細胞又はNK細胞が免疫細胞療法用のT細胞又はNK細胞である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記T細胞又はNK細胞が末梢血由来、初代造血幹・前駆細胞由来又は多能性幹細胞由来の細胞である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記T細胞が未分化T細胞である、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記T細胞がCD4及びCD8の少なくとも一方を発現している、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記T細胞が、ヘルパーT細胞、制御性T細胞、細胞傷害性T細胞、ナイーブT細胞、メモリーT細胞及びターミナルエフェクターT細胞からなる群から選ばれる1である請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記制御性T細胞がFoxP3を発現している、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記メモリーT細胞がステムセルメモリーT細胞又は、セントラルメモリーT細胞又はエフェクターメモリーT細胞である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項9】
前記NK細胞が未成熟NK細胞又は成熟NK細胞である、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記ビスベンジルイソキノリンアルカロイド若しくは1つのエーテル結合が切断した化合物又はその薬学的に許容される塩が、ベルバミン、(+)-ベルバミン、E6-ベルバミン、セファランチン及びその薬学的に許容される塩から選ばれる少なくとも1である請求項1~9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記培地中の前記ビスベンジルイソキノリンアルカロイド若しくは1つのエーテル結合が切断した化合物又はその薬学的に許容される塩の濃度が0.1nM~10μMである請求項1~10のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記培地が更にMAPKカスケード阻害剤を含有する、請求項1~11のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記培地中にフィーダー細胞を含有しない、請求項1~12のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項14】
前記培養する期間が50日間以上である、請求項1~13のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載の製造方法により製造されるT細胞又はNK細胞。
【請求項16】
請求項15に記載のT細胞又はNK細胞を含有する免疫細胞療法剤。
【請求項17】
下記式(X-1)又は式(X-2)で表されるビスベンジルイソキノリンアルカロイド若しくは1つのエーテル結合が切断した化合物又はその薬学的に許容される塩を含有する、T細胞又はNK細胞培養用の培地。
【化3】
【化4】
[式(X-1)及び式(X-2)中、
R
1及びR’
1は、それぞれ独立して、H又は1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキルであり、
R
2、R’
2、R
3、R’
3、R
4、R’
4、R
5及びR’
5は、それぞれ独立に、H、アシル、1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキルであり、前記アルキルは、O、N若しくはSヘテロ原子で中断されていてもよく、又はR
2及びR
3、R
4及びR
5、R’
2及びR’
3、若しくはR’
4及びR’
5は、一緒になってO若しくはSを表し、
R
6、R’
6、R
7、及びR’
7は、それぞれ独立に、H、アシル、1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキルであり、前記アルキルは、O、N若しくはSヘテロ原子で中断されていてもよく、又はR
6及びR
7若しくはR’
6及びR’
7は、一緒になってO若しくはSを表し、
X
1、X
2、X
3及びX
4は、同一であっても異なっていてもよく、そのそれぞれが、独立に、H、ヒドロキシ、1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキル、アルコキシ、又はアシルオキシ若しくはスルホニルオキシであり、これらは更に置換基を有していてもよく、n
1及びn
3は、それぞれ独立して、0~3の整数であり、n
2及びn
4は、それぞれ独立して、0~4の整数であり、これらは互いに結合して環を形成してもよい。]
【請求項18】
前記T細胞又はNK細胞が末梢血由来、初代造血幹・前駆細胞由来又は多能性幹細胞由来の細胞である、請求項17に記載の培地。
【請求項19】
前記ビスベンジルイソキノリンアルカロイド若しくは1つのエーテル結合が切断した化合物又はその薬学的に許容される塩が、ベルバミン、(+)-ベルバミン、E6-ベルバミン及びセファランチン及びその薬学的に許容される塩から選ばれる少なくとも1である請求項17又は18に記載の培地。
【請求項20】
前記ビスベンジルイソキノリンアルカロイド若しくは1つのエーテル結合が切断した化合物又はその薬学的に許容される塩の濃度が0.1nM~10μMである請求項17~19のいずれか1項に記載の培地。
【請求項21】
更にMAPKカスケード阻害剤を含有する請求項17~20のいずれか1項に記載の培地。
【請求項22】
下記式(X-1)又は式(X-2)で表されるビスベンジルイソキノリンアルカロイド若しくは1つのエーテル結合が切断した化合物又はその薬学的に許容される塩を含有する培地中でT細胞又はNK細胞を培養する、T細胞又はNK細胞の培養方法。
【化5】
【化6】
[式(X-1)及び式(X-2)中、
R
1及びR’
1は、それぞれ独立して、H又は1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキルであり、
R
2、R’
2、R
3、R’
3、R
4、R’
4、R
5及びR’
5は、それぞれ独立に、H、アシル、1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキルであり、前記アルキルは、O、N若しくはSヘテロ原子で中断されていてもよく、又はR
2及びR
3、R
4及びR
5、R’
2及びR’
3、若しくはR’
4及びR’
5は、一緒になってO若しくはSを表し、
R
6、R’
6、R
7、及びR’
7は、それぞれ独立に、H、アシル、1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキルであり、前記アルキルは、O、N若しくはSヘテロ原子で中断されていてもよく、又はR
6及びR
7若しくはR’
6及びR’
7は、一緒になってO若しくはSを表し、
X
1、X
2、X
3及びX
4は、同一であっても異なっていてもよく、そのそれぞれが、独立に、H、ヒドロキシ、1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキル、アルコキシ、又はアシルオキシ若しくはスルホニルオキシであり、これらは更に置換基を有していてもよく、n
1及びn
3は、それぞれ独立して、0~3の整数であり、n
2及びn
4は、それぞれ独立して、0~4の整数であり、これらは互いに結合して環を形成してもよい。]
【請求項23】
前記T細胞又はNK細胞が末梢血由来、初代造血幹・前駆細胞由来又は多能性幹細胞由来の細胞である、請求項22に記載の培養方法。
【請求項24】
前記ビスベンジルイソキノリンアルカロイド若しくは1つのエーテル結合が切断した化合物又はその薬学的に許容される塩が、ベルバミン、(+)-ベルバミン、E6-ベルバミン及びセファランチン及びその薬学的に許容される塩から選ばれる少なくとも1である、請求項22又は23に記載の培養方法。
【請求項25】
前記培地中の前記ビスベンジルイソキノリンアルカロイド若しくは1つのエーテル結合が切断した化合物又はその薬学的に許容される塩の濃度が0.1nM~10μMである請求項22~24のいずれか1項に記載の培養方法。
【請求項26】
下記式(X-1)又は式(X-2)で表されるビスベンジルイソキノリンアルカロイド若しくは1つのエーテル結合が切断した化合物又はその薬学的に許容される塩を含有する培地中で未分化T細胞を培養することを含む、前記未分化T細胞の未分化状態を維持する方法。
【化7】
【化8】
[式(X-1)及び式(X-2)中、
R
1及びR’
1は、それぞれ独立して、H又は1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキルであり、
R
2、R’
2、R
3、R’
3、R
4、R’
4、R
5及びR’
5は、それぞれ独立に、H、アシル、1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキルであり、前記アルキルは、O、N若しくはSヘテロ原子で中断されていてもよく、又はR
2及びR
3、R
4及びR
5、R’
2及びR’
3、若しくはR’
4及びR’
5は、一緒になってO若しくはSを表し、
R
6、R’
6、R
7、及びR’
7は、それぞれ独立に、H、アシル、1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキルであり、前記アルキルは、O、N若しくはSヘテロ原子で中断されていてもよく、又はR
6及びR
7若しくはR’
6及びR’
7は、一緒になってO若しくはSを表し、
X
1、X
2、X
3及びX
4は、同一であっても異なっていてもよく、そのそれぞれが、独立に、H、ヒドロキシ、1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキル、アルコキシ、又はアシルオキシ若しくはスルホニルオキシであり、これらは更に置換基を有していてもよく、n
1及びn
3は、それぞれ独立して、0~3の整数であり、n
2及びn
4は、それぞれ独立して、0~4の整数であり、これらは互いに結合して環を形成してもよい。]
【請求項27】
下記式(X-1)又は式(X-2)で表されるビスベンジルイソキノリンアルカロイド若しくは1つのエーテル結合が切断した化合物又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する、T細胞又はNK細胞の増殖促進剤。
【化9】
【化10】
[式(X-1)及び式(X-2)中、
R
1及びR’
1は、それぞれ独立して、H又は1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキルであり、
R
2、R’
2、R
3、R’
3、R
4、R’
4、R
5及びR’
5は、それぞれ独立に、H、アシル、1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキルであり、前記アルキルは、O、N若しくはSヘテロ原子で中断されていてもよく、又はR
2及びR
3、R
4及びR
5、R’
2及びR’
3、若しくはR’
4及びR’
5は、一緒になってO若しくはSを表し、
R
6、R’
6、R
7、及びR’
7は、それぞれ独立に、H、アシル、1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキルであり、前記アルキルは、O、N若しくはSヘテロ原子で中断されていてもよく、又はR
6及びR
7若しくはR’
6及びR’
7は、一緒になってO若しくはSを表し、
X
1、X
2、X
3及びX
4は、同一であっても異なっていてもよく、そのそれぞれが、独立に、H、ヒドロキシ、1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキル、アルコキシ、又はアシルオキシ若しくはスルホニルオキシであり、これらは更に置換基を有していてもよく、n
1及びn
3は、それぞれ独立して、0~3の整数であり、n
2及びn
4は、それぞれ独立して、0~4の整数であり、これらは互いに結合して環を形成してもよい。]
【請求項28】
CaMKII阻害剤を含有する培地でT細胞又はNK細胞を培養することを含む、T細胞又はNK細胞の製造方法。
【請求項29】
CaMKII阻害剤が下記式(X-1)又は式(X-2)で表されるビスベンジルイソキノリンアルカロイド若しくは1つのエーテル結合が切断した化合物又はその薬学的に許容される塩である請求項28に記載の製造方法。
【化11】
【化12】
[式(X-1)及び式(X-2)中、
R
1及びR’
1は、それぞれ独立して、H又は1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキルであり、
R
2、R’
2、R
3、R’
3、R
4、R’
4、R
5及びR’
5は、それぞれ独立に、H、アシル、1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキルであり、前記アルキルは、O、N若しくはSヘテロ原子で中断されていてもよく、又はR
2及びR
3、R
4及びR
5、R’
2及びR’
3、若しくはR’
4及びR’
5は、一緒になってO若しくはSを表し、
R
6、R’
6、R
7、及びR’
7は、それぞれ独立に、H、アシル、1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキルであり、前記アルキルは、O、N若しくはSヘテロ原子で中断されていてもよく、又はR
6及びR
7若しくはR’
6及びR’
7は、一緒になってO若しくはSを表し、
X
1、X
2、X
3及びX
4は、同一であっても異なっていてもよく、そのそれぞれが、独立に、H、ヒドロキシ、1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキル、アルコキシ、又はアシルオキシ若しくはスルホニルオキシであり、これらは更に置換基を有していてもよく、n
1及びn
3は、それぞれ独立して、0~3の整数であり、n
2及びn
4は、それぞれ独立して、0~4の整数であり、これらは互いに結合して環を形成してもよい。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、T細胞又はNK細胞の製造方法、T細胞又はNK細胞の培養用培地、T細胞又はNK細胞の培養方法、未分化T細胞の未分化状態を維持する方法及びT細胞又はNK細胞の増殖促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
T細胞は造血幹細胞に由来する免疫細胞の一つである。T細胞は、細胞表面にT cell receptor(TCR)を発現し、標的細胞上のHLA-ペプチド複合体を特異的に認識する。また、T細胞はTCRを介した増殖シグナルにより、増殖することが出来る。T細胞はヘルパーT細胞(Th細胞)と細胞傷害性T細胞(CTL)に大別され、体内において協調して働いている。
【0003】
腫瘍に対する免疫応答(抗腫瘍免疫応答)は、主に直接的に腫瘍を傷害するCTLと、CTLの機能を増強するTh細胞によって成り立っている。一方、樹状細胞(DC)は、他の免疫細胞の動態を調整する司令塔としての役割を持ち、Th細胞はDCの活性化を介してCTLを活性化し、抗腫瘍効果を発揮していると考えられている。
【0004】
抗腫瘍免疫応答を用いた癌の治療方法において、エフェクター細胞として機能する腫瘍関連抗原に特異的なCTL等を用いた養子免疫療法は、原発癌の退縮、転移又は再発の抑制にも効果を発揮し、且つ正常組織への副作用の少ない治療方法である。
【0005】
養子免疫療法の中でも、人工多能性幹(iPS)細胞等の多能性幹細胞から誘導したT細胞は、これを生体内に投与して強い抗腫瘍免疫応答を惹起する細胞免疫療法につながると考えられ、開発が進められている(特許文献1、非特許文献1)。例えば、特許文献1及び非特許文献1に記載の方法は、抗原特異的なCD8陽性CTLからiPS細胞を作り、再びCD8陽性CTLに分化誘導する方法である。
【0006】
多能性幹細胞から誘導したT細胞は、生体内における持続性の高さとレスポンスとが相関しており(非特許文献3)、T細胞がより未分化状態であるほど高い治療効果を示す(非特許文献4)。
しかし、多能性幹細胞から誘導したT細胞の培養において、通常、健常人ドナー等の由来の細胞がフィーダー細胞として用いられるが、未知成分の未知濃度における混入のおそれ、感染の危険性又はコストの問題があり、臨床応用における課題となっている(非特許文献2)。
【0007】
ナチュラルキラー(NK)細胞は、血球細胞の約10%程度を占めており、免疫反応において重要な役割をするリンパ球系細胞の一つである。NK細胞は、様々な機能を果たすことが出来るが、特に、癌細胞又は外部から侵入した病原菌若しくはウイルスに感染された細胞等を殺す能力を有し、腫瘍化している又は腫瘍化が進んでいる異常細胞を除去する役割をする。
【0008】
また、NK細胞は、抗体医薬品が腫瘍細胞等を認識し、患者体内で抗体依存的細胞傷害活性を発揮する際のエフェクター細胞としても機能する。NK細胞は、T細胞同様に、キメラ抗原受容体(CAR)又はTCRを導入することで特異性を付与し、癌細胞等に特異的な細胞傷害活性を示すことが出来る(非特許文献5)。
【0009】
上記のような癌又は感染性疾患の治療剤としてのNK細胞の可能性にも関わらず、患者体内に存在するNK細胞の数は多くはない。そのため、NK細胞を治療用途に使用出来る程度の十分な効能を保持しながらも、大量に生産することが出来る技術が求められている。
【0010】
しかし、T細胞と比較してNK細胞は、インビトロでの大量増殖及び培養ができず、したがって、NK細胞を治療に有用な水準に増幅及び培養するための技術に対する多くの研究が行われている。
【0011】
例えば、NK細胞の培養に関して、T細胞増殖/活性に用いられていたIL-2だけでなく、IL-21、LPS(非特許文献6)又はCD3を刺激するOKT-3抗体(非特許文献7)を用いる増殖又は活性化方法の研究が行われてきた。しかし、これらは、従来から用いられてきたIL-2の使用の変形及び発展の形態で新たな増殖物質を見出したものにすぎない。
【0012】
更に、IL-12、IL-15又はIL-18を組み合わせたNK細胞の培養方法も開発されている(非特許文献8)。また、NK細胞の培養に自家又は同種のフィーダー細胞を用いる方法も開発されている。
しかし、依然として品質管理、安全性又はコスト等の面で優れた低分子化合物等を用いた画期的なNK細胞の増殖方法は見いだされていない。
【0013】
ビスベンジルイソキノリンアルカロイドは、天然に存在する薬効材料に由来する低分子化合物である。ビスベンジルイソキノリンアルカロイドのうち、例えばベルバミン等が臨床用医薬として用いられている。
【0014】
ベルバミンはセファランチン製剤の成分の一つであり、癌細胞に対する細胞増殖抑制作用を有し、抗腫瘍効果を示すことが知られている(非特許文献9)。また、ベルバミンは、骨髄性細胞増殖の刺激、造血幹細胞コロニー刺激因子(GCSF)のレベルの改善、骨髄造血幹細胞及び骨髄性前駆細胞の増殖並びにその顆粒球への分化の促進及び白血球の増殖の促進効果を有することが知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】国際公開第2011/096482号
【特許文献2】日本国特表2013-537171号公報
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Nishimura T, et al., Cell Stem Cell. 12(1): 114-126, 2013
【非特許文献2】Takayama N, et al., Journal of Experimental Medicine, 207(13): 2817-2830, 2010
【非特許文献3】Porter et al., Science Translational Medicine. 7(303): 303ra139, 2015
【非特許文献4】Nicholas P. Restifo, Blood. 124(4): 476-477, 2014
【非特許文献5】Li Y, et al., Cell Stem Cell, 23(2): 181-192,2018
【非特許文献6】J.Immunol., 165(1): 139-147,2000
【非特許文献7】Experimental Hematol.,29(1): 104-113,2001
【非特許文献8】Front. Immunol., 8(458): 1-18, 2017
【非特許文献9】Ying Gu et al., Blood, 120(24): 4829-4839, 2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上述の通り、T細胞又はNK細胞を治療用途に使用出来る程度の十分な効能を保持しながらも、大量に生産することが出来る技術が求められている。しかし、上記の公知の方法は、従来から用いられてきたIL-2等の使用の変形及び発展の形態にすぎず、未だに治療に適用可能な水準となる画期的な増殖又は活性化方法は見いだされていない。一方、ベルバミン等のビスベンジルイソキノリンアルカロイドによるT細胞又はNK細胞の増殖促進効果及び該細胞の状態(例えば未分化性)の維持効果については、これまで何ら知られていない。
【0018】
本発明は、T細胞又はNK細胞を効率的に増殖させ、且つ該細胞の状態(例えば未分化性)を維持し得る、T細胞又はNK細胞の製造方法、T細胞又はNK細胞の培養用培地、T細胞培養方法、未分化T細胞の未分化状態を維持する方法及びT細胞又はNK細胞の増殖促進剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、式(X-1)又は(X-2)で表されるビスベンジルイソキノリンアルカロイド若しくは1つのエーテル結合が切断した化合物又はその薬学的に許容される塩が、T細胞又はNK細胞に対する優れた増殖促進効果及び該細胞の状態(例えば、未分化性)の維持効果を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0020】
すなわち、本発明は、以下の発明を提供するものである。
1.下記式(X-1)又は式(X-2)で表されるビスベンジルイソキノリンアルカロイド若しくは1つのエーテル結合が切断した化合物又はその薬学的に許容される塩を含有する培地中でT細胞又はNK細胞を培養することを含む、T細胞又はNK細胞の製造方法。
【0021】
【0022】
【0023】
[式(X-1)及び式(X-2)中、
R1及びR’1は、それぞれ独立して、H又は1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキルであり、
R2、R’2、R3、R’3、R4、R’4、R5及びR’5は、それぞれ独立に、H、アシル、1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキルであり、前記アルキルは、O、N若しくはSヘテロ原子で中断されていてもよく、又はR2及びR3、R4及びR5、R’2及びR’3、若しくはR’4及びR’5は、一緒になってO若しくはSを表し、
R6、R’6、R7及びR’7は、それぞれ独立に、H、アシル、1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキルであり、前記アルキルは、O、N若しくはSヘテロ原子で中断されていてもよく、又はR6及びR7若しくはR’6及びR’7は、一緒になってO若しくはSを表し、
X1、X2、X3及びX4は、同一であっても異なっていてもよく、そのそれぞれが、独立に、H、ヒドロキシ、1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキル、アルコキシ、又はアシルオキシ若しくはスルホニルオキシであり、これらは更に置換基を有していてもよく、n1及びn3は、それぞれ独立して、0~3の整数であり、n2及びn4は、それぞれ独立して、0~4の整数であり、これらは互いに結合して環を形成してもよい。]
2.前記T細胞又はNK細胞が免疫細胞療法用のT細胞又はNK細胞である、前記1に記載の製造方法。
3.前記T細胞又はNK細胞が末梢血由来、初代造血幹・前駆細胞由来又は多能性幹細胞由来の細胞である、前記1又は2に記載の製造方法。
4.前記T細胞が未分化T細胞である、前記1~3のいずれか1に記載の製造方法。
5.前記T細胞がCD4及びCD8の少なくとも一方を発現している、前記1~4のいずれか1に記載の製造方法。
6.前記T細胞が、ヘルパーT細胞、制御性T細胞、細胞傷害性T細胞、ナイーブT細胞、メモリーT細胞及びターミナルエフェクターT細胞からなる群から選ばれる1である前記1~5のいずれか1に記載の製造方法。
7.前記制御性T細胞がFoxP3を発現している、前記6に記載の製造方法。
8.前記メモリーT細胞がステムセルメモリーT細胞、セントラルメモリーT細胞又はエフェクターメモリーT細胞である、前記6に記載の製造方法。
9.前記NK細胞が未成熟NK細胞又は成熟NK細胞である、前記1~3のいずれか1に記載の製造方法。
10.前記ビスベンジルイソキノリンアルカロイド若しくは1つのエーテル結合が切断した化合物又はその薬学的に許容される塩が、ベルバミン、(+)-ベルバミン、E6-ベルバミン、セファランチン及びその薬学的に許容される塩から選ばれる少なくとも1である前記1~9のいずれか1に記載の製造方法。
11.前記培地中の前記ビスベンジルイソキノリンアルカロイド若しくは1つのエーテル結合が切断した化合物又はその薬学的に許容される塩の濃度が0.1nM~10μMである前記1~10のいずれか1に記載の製造方法。
12.前記培地が更にMAPKカスケード阻害剤を含有する、前記1~11のいずれか1に記載の製造方法。
13.前記培地中にフィーダー細胞を含有しない、前記1~12のいずれか1に記載の製造方法。
14.前記培養する期間が50日間以上である、前記1~13のいずれか1に記載の製造方法。
15.前記1~14のいずれか1に記載の製造方法により製造されるT細胞又はNK細胞。
16.前記15に記載のT細胞又はNK細胞を含有する免疫細胞療法剤。
17.下記式(X-1)又は式(X-2)で表されるビスベンジルイソキノリンアルカロイド若しくは1つのエーテル結合が切断した化合物又はその薬学的に許容される塩を含有する、T細胞又はNK細胞培養用の培地。
【0024】
【0025】
【0026】
[式(X-1)及び式(X-2)中、
R1及びR’1は、それぞれ独立して、H又は1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキルであり、
R2、R’2、R3、R’3、R4、R’4、R5及びR’5は、それぞれ独立に、H、アシル、1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキルであり、前記アルキルは、O、N若しくはSヘテロ原子で中断されていてもよく、又はR2及びR3、R4及びR5、R’2及びR’3、若しくはR’4及びR’5は、一緒になってO若しくはSを表し、
R6、R’6、R7、及びR’7は、それぞれ独立に、H、アシル、1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキルであり、前記アルキルは、O、N若しくはSヘテロ原子で中断されていてもよく、又はR6及びR7若しくはR’6及びR’7は、一緒になってO若しくはSを表し、
X1、X2、X3及びX4は、同一であっても異なっていてもよく、そのそれぞれが、独立に、H、ヒドロキシ、1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキル、アルコキシ、又はアシルオキシ若しくはスルホニルオキシであり、これらは更に置換基を有していてもよく、n1及びn3は、それぞれ独立して、0~3の整数であり、n2及びn4は、それぞれ独立して、0~4の整数であり、これらは互いに結合して環を形成してもよい。]
18.前記T細胞又はNK細胞が末梢血由来、初代造血幹・前駆細胞由来又は多能性幹細胞由来の細胞である、前記17に記載の培地。
19.前記ビスベンジルイソキノリンアルカロイド若しくは1つのエーテル結合が切断した化合物又はその薬学的に許容される塩が、ベルバミン、(+)-ベルバミン、E6-ベルバミン及びセファランチン及びその薬学的に許容される塩から選ばれる少なくとも1である前記17又は18に記載の培地。
20.前記ビスベンジルイソキノリンアルカロイド若しくは1つのエーテル結合が切断した化合物又はその薬学的に許容される塩の濃度が0.1nM~10μMである前記17~19のいずれか1に記載の培地。
21.更にMAPKカスケード阻害剤を含有する前記17~20のいずれか1に記載の培地。
22.下記式(X-1)又は式(X-2)で表されるビスベンジルイソキノリンアルカロイド若しくは1つのエーテル結合が切断した化合物又はその薬学的に許容される塩を含有する培地中でT細胞又はNK細胞を培養する、T細胞又はNK細胞の培養方法。
【0027】
【0028】
【0029】
[式(X-1)及び式(X-2)中、
R1及びR’1は、それぞれ独立して、H又は1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキルであり、
R2、R’2、R3、R’3、R4、R’4、R5及びR’5は、それぞれ独立に、H、アシル、1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキルであり、前記アルキルは、O、N若しくはSヘテロ原子で中断されていてもよく、又はR2及びR3、R4及びR5、R’2及びR’3、若しくはR’4及びR’5は、一緒になってO若しくはSを表し、
R6、R’6、R7、及びR’7は、それぞれ独立に、H、アシル、1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキルであり、前記アルキルは、O、N若しくはSヘテロ原子で中断されていてもよく、又はR6及びR7若しくはR’6及びR’7は、一緒になってO若しくはSを表し、
X1、X2、X3及びX4は、同一であっても異なっていてもよく、そのそれぞれが、独立に、H、ヒドロキシ、1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキル、アルコキシ、又はアシルオキシ若しくはスルホニルオキシであり、これらは更に置換基を有していてもよく、n1及びn3は、それぞれ独立して、0~3の整数であり、n2及びn4は、それぞれ独立して、0~4の整数であり、これらは互いに結合して環を形成してもよい。]
23.前記T細胞又はNK細胞が末梢血由来、初代造血幹・前駆細胞由来又は多能性幹細胞由来の細胞である、前記22に記載の培養方法。
24.前記ビスベンジルイソキノリンアルカロイド若しくは1つのエーテル結合が切断した化合物又はその薬学的に許容される塩が、ベルバミン、(+)-ベルバミン、E6-ベルバミン及びセファランチン及びその薬学的に許容される塩から選ばれる少なくとも1である、前記22又は23に記載の培養方法。
25.前記培地中の前記ビスベンジルイソキノリンアルカロイド若しくは1つのエーテル結合が切断した化合物又はその薬学的に許容される塩の濃度が0.1nM~10μMである前記22~24のいずれか1に記載の培養方法。
26.下記式(X-1)又は式(X-2)で表されるビスベンジルイソキノリンアルカロイド若しくは1つのエーテル結合が切断した化合物又はその薬学的に許容される塩を含有する培地中で未分化T細胞を培養することを含む、前記未分化T細胞の未分化状態を維持する方法。
【0030】
【0031】
【0032】
[式(X-1)及び式(X-2)中、
R1及びR’1は、それぞれ独立して、H又は1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキルであり、
R2、R’2、R3、R’3、R4、R’4、R5及びR’5は、それぞれ独立に、H、アシル、1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキルであり、前記アルキルは、O、N若しくはSヘテロ原子で中断されていてもよく、又はR2及びR3、R4及びR5、R’2及びR’3、若しくはR’4及びR’5は、一緒になってO若しくはSを表し、
R6、R’6、R7、及びR’7は、それぞれ独立に、H、アシル、1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキルであり、前記アルキルは、O、N若しくはSヘテロ原子で中断されていてもよく、又はR6及びR7若しくはR’6及びR’7は、一緒になってO若しくはSを表し、
X1、X2、X3及びX4は、同一であっても異なっていてもよく、そのそれぞれが、独立に、H、ヒドロキシ、1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキル、アルコキシ、又はアシルオキシ若しくはスルホニルオキシであり、これらは更に置換基を有していてもよく、n1及びn3は、それぞれ独立して、0~3の整数であり、n2及びn4は、それぞれ独立して、0~4の整数であり、これらは互いに結合して環を形成してもよい。]
27.下記式(X-1)又は式(X-2)で表されるビスベンジルイソキノリンアルカロイド若しくは1つのエーテル結合が切断した化合物又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含有する、T細胞又はNK細胞の増殖促進剤。
【0033】
【0034】
【0035】
[式(X-1)及び式(X-2)中、
R1及びR’1は、それぞれ独立して、H又は1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキルであり、
R2、R’2、R3、R’3、R4、R’4、R5及びR’5は、それぞれ独立に、H、アシル、1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキルであり、前記アルキルは、O、N若しくはSヘテロ原子で中断されていてもよく、又はR2及びR3、R4及びR5、R’2及びR’3、若しくはR’4及びR’5は、一緒になってO若しくはSを表し、
R6、R’6、R7、及びR’7は、それぞれ独立に、H、アシル、1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキルであり、前記アルキルは、O、N若しくはSヘテロ原子で中断されていてもよく、又はR6及びR7若しくはR’6及びR’7は、一緒になってO若しくはSを表し、
X1、X2、X3及びX4は、同一であっても異なっていてもよく、そのそれぞれが、独立に、H、ヒドロキシ、1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキル、アルコキシ、又はアシルオキシ若しくはスルホニルオキシであり、これらは更に置換基を有していてもよく、n1及びn3は、それぞれ独立して、0~3の整数であり、n2及びn4は、それぞれ独立して、0~4の整数であり、これらは互いに結合して環を形成してもよい。]
28.CaMKII阻害剤を含有する培地でT細胞又はNK細胞を培養することを含む、T細胞又はNK細胞の製造方法。
29.CaMKII阻害剤が下記式(X-1)又は式(X-2)で表されるビスベンジルイソキノリンアルカロイド若しくは1つのエーテル結合が切断した化合物又はその薬学的に許容される塩である前記28に記載の製造方法。
【0036】
【0037】
【0038】
[式(X-1)及び式(X-2)中、
R1及びR’1は、それぞれ独立して、H又は1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキルであり、
R2、R’2、R3、R’3、R4、R’4、R5及びR’5は、それぞれ独立に、H、アシル、1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキルであり、前記アルキルは、O、N若しくはSヘテロ原子で中断されていてもよく、又はR2及びR3、R4及びR5、R’2及びR’3、若しくはR’4及びR’5は、一緒になってO若しくはSを表し、
R6、R’6、R7、及びR’7は、それぞれ独立に、H、アシル、1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキルであり、前記アルキルは、O、N若しくはSヘテロ原子で中断されていてもよく、又はR6及びR7若しくはR’6及びR’7は、一緒になってO若しくはSを表し、
X1、X2、X3及びX4は、同一であっても異なっていてもよく、そのそれぞれが、独立に、H、ヒドロキシ、1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキル、アルコキシ、又はアシルオキシ若しくはスルホニルオキシであり、これらは更に置換基を有していてもよく、n1及びn3は、それぞれ独立して、0~3の整数であり、n2及びn4は、それぞれ独立して、0~4の整数であり、これらは互いに結合して環を形成してもよい。]
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、式(X-1)又は式(X-2)で表されるビスベンジルイソキノリンアルカロイド若しくは1つのエーテル結合が切断した化合物又はその薬学的に許容される塩の存在下でT細胞又はNK細胞を培養することにより、該細胞の状態(例えば未分化性)を維持しながら、効率的に増殖させることが出来る。従って、本発明によれば、より安全且つ低コストで、優れた生体持続性を示すT細胞又はNK細胞を生産することが出来る、T細胞又はNK細胞の製造方法、T細胞又はNK細胞の培養用培地、T細胞又はNK細胞の培養方法、未分化T細胞の未分化状態を維持する方法及びT細胞又はNK細胞の増殖促進剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】
図1は、iPS細胞の分化誘導の手順の模式図を示す。
【
図2】
図2は、iPS-T細胞を増殖させる手順の模式図を示す。
【
図3A】
図3AはT-iPS-T細胞を用いた免疫表現型検査の手順の模式図を示す。
【
図3B】
図3BはT-iPS-T細胞を用いた免疫表現型検査の結果を示す。
【
図4】
図4(A)はT-iPS-T細胞を用いた免疫表現型検査の手順の模式図を示し、
図4(B)はその結果を示す。
【
図5】
図5(A)~(C)は、フィーダーフリー培養条件下において、T-iPS-T細胞の増殖効率を改善させる低分子化合物のスクリーニングのスキームを示す。
【
図6】
図6は、フィーダーフリー培養条件下においてT-iPS-T細胞の増殖を促進する低分子化合物を、生細胞数を指標としてスクリーニングした結果を示す。
【
図7】
図7は、フィーダーフリー培養条件下において未分化なT細胞の未分化性を維持しながら細胞増殖を促進する低分子化合物をスクリーニングした結果を示す。
【
図8】
図8は、フィーダーフリー培養条件下における、ベルバミン及びその誘導体の生細胞数に対する濃度依存性評価の結果を示す。
【
図9】
図9は、フィーダーフリー培養条件下における、ベルバミン及びその誘導体の未分化細胞数に対する濃度依存性評価の結果を示す。
【
図10】
図10(A)及び(B)は、T-iPS-T細胞を用い、PBMCフィーダーを用いた刺激方法、CD3/CD28 Dynabeadsを用いた刺激方法、及びCD3/CD28 Dynabeadsにベルバミン1μMを加えた刺激方法の3方法を比較した結果を示す。
【
図11】
図11は、フィーダーフリー培養条件において、低分子化合物によるT-iPS-T細胞の増殖への影響を、生細胞数を指標として解析した結果を示す。
【
図12】
図12(A)及び(B)は、T-iPS-T細胞の培養における影響を、メモリーT細胞の増殖に寄与する既知化合物とベルバミンとを比較して評価した結果を示す。
【
図13】
図13は、ベルバミンとMAPKカスケード阻害剤との併用によるメモリーT細胞の増殖への効果を検討した結果を示す。
【
図14】
図14(A)は、ベルバミンを用いることによるT-iPS-T細胞のフィーダーフリー長期培養を評価した実験スキームを示し、
図14(B)はその結果を示す。
【
図15】
図15(A)は、ベルバミンを用いることによるT-iPS-T細胞のフィーダー長期培養を評価した実験スキームを示し、
図15(B)はその結果を示す。
【
図16】
図16(A)はベルバミンが初代T細胞(CD4T、CD8T細胞)の増殖に与える影響を評価した実験スキームを示し、
図16(B)及び(C)はその結果を示す。
【
図17】
図17(A)及び(B)は、ベルバミンの制御性T細胞(Treg)の増殖における有用性を検証した結果を示す。
【
図18B】
図18Bは、ベルバミンがT細胞内で作用する分画を検証した結果であり、ソート時のゲーティングを示す。
【
図18C】
図18Cは、ベルバミンがT細胞内で作用する分画を検証した結果であり、セルカウントを示す。
【
図19】
図19(A)はベルバミンと培養した細胞がマウスへの生着に及ぼす影響を検討した実験スキームを示し、
図19(B)はその結果を示す。
【
図20】
図20(A)はNK細胞に対するベルバミンの作用を検討した実験スキームを示し、
図20(B)及び(C)はその結果を示す。
図20(B)はNK細胞精製前後のFACSプロットを示す。
図20(C)は培養後の細胞数を示す。
【発明を実施するための形態】
【0041】
[T細胞又はNK細胞の製造方法]
本発明に係るT細胞又はNK細胞の製造方法は、式(X-1)又は(X-2)で表されるビスベンジルイソキノリンアルカロイド若しくは1つのエーテル結合が切断した化合物又はその薬学的に許容される塩を含有する培地(以下、本発明に係るT細胞又はNK細胞の培養用培地ともいう)中でT細胞又はNK細胞を培養する工程を含む。
【0042】
[式(X-1)又は(X-2)で表されるビスベンジルイソキノリンアルカロイド]
本発明における下記式(X-1)又は(X-2)で表されるビスベンジルイソキノリンアルカロイド若しくは1つのエーテル結合が切断した化合物について説明する。
【0043】
【0044】
【0045】
式(X-1)及び(X-2)中、
R1及びR’1は、それぞれ独立して、H又は1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキルであり、
R2、R’2、R3、R’3、R4、R’4、R5及びR’5は、それぞれ独立に、H、アシル、1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキルであり、前記アルキルは、O、N若しくはSヘテロ原子で中断されていてもよく、又はR2及びR3、R4及びR5、R’2及びR’3、若しくはR’4及びR’5は、一緒になってO若しくはSを表し、
R6、R’6、R7及びR’7は、それぞれ独立に、H、アシル、1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキルであり、前記アルキルは、O、N若しくはSヘテロ原子で中断されていてもよく、又はR6及びR7若しくはR’6及びR’7は、一緒になってO若しくはSを表し、
X1、X2、X3及びX4は、同一であっても異なっていてもよく、そのそれぞれが、独立に、H、ヒドロキシ、1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキル、アルコキシ、又はアシルオキシ若しくはスルホニルオキシであり、これらは更に置換基を有していてもよく、n1及びn3は、それぞれ独立して、0~3の整数であり、n2及びn4は、それぞれ独立して、0~4の整数であり、これらは互いに結合して環を形成してもよい。
【0046】
本発明において、アシルとはRC(=O)-を指し、Rは1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキル、アリール又はヘテロ環のいずれであってもよく、これらは更に置換基を有していてもよい。
【0047】
本発明において、アシルオキシとはRC(=O)O-を指し、Rは上述と同様である。
【0048】
本発明において、スルホニルオキシとはRS(=O)2O-を指し、Rは上述と同様である。
【0049】
本発明において、アシル、アシルオキシ若しくはスルホニルオキシ、又はX1、X2、X3若しくはX4が更に置換基を有する場合の更なる置換基としては、例えば、1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキル、アリール、ヘテロ環、ハロゲン、アミノ、アミン、ニトロ、ヒドロキシ又は下記に示す構造式で表される置換基等が挙げられる。
【0050】
【0051】
Bocとはtert-butoxycarbonylを示す。また、これらのうち、アリール又はヘテロ環は、更に1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキル、ハロゲン、アミノ、アミン、ニトロ又はヒドロキシ等の置換基を有してもよい。
【0052】
上記式(X-1)又は(X-2)における2ヶ所のエーテル結合のうち一方は、切断されていてもよい。
【0053】
また、上記式(X-1)又は(X-2)において、イソキノリン骨格に含まれる1又は2の3級のNに更に1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキル又はアリールが修飾された4級のNイオンの化合物も本発明のビスベンジルイソキノリンアルカロイドに含まれる。4級のNイオンの化合物として、例えば下記式(X-3)又は(X-4)等で示される化合物が挙げられる。
【0054】
【0055】
【0056】
式(X-3)又は式(X-4)におけるR1~R7、R’1~R’7、X1~X4及びn1~4は、それぞれ、式(X-1)及び式(X-2)と同義である。また、式(X-3)及び式(X-4)中、R8及びR’8は、それぞれ独立して、H又は1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルキル又はアリールである。
【0057】
式(X-1)~式(X-4)で表されるビスベンジルイソキノリンアルカロイドとしては、例えば、以下の式(I)~式(V)で表される化合物がそれぞれ挙げられる。
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
式(I)~式(V)におけるR1~R8、R’1~R’7、X1~X4及びn1~4は、それぞれ、は式(X-1)~式(X-4)と同義である。
【0064】
式(X-1)~式(X-4)における1つのエーテル結合が切断した化合物としては、例えば、式(III)における1つのエーテル結合が切断した化合物である下記式(VI)で表される化合物が挙げられる。
【0065】
【0066】
式(VI)中、R1~R7、R’1~R’7、X1~X4及びn1~4は、それぞれ、は式(X-1)及び式(X-2)と同義でありR9及びR10は、それぞれ独立に、H、ヒドロキシ又は1~10個の炭素原子を含む直鎖状若しくは分岐状のアルコキシである。
【0067】
本発明における上記式(X-1)又は式(X-2)で表されるビスベンジルイソキノリンアルカロイド若しくは1つのエーテル結合が切断した化合物には、いかなる立体異性体、光学異性体又はこれらの混合物が含まれる。例えば、イソキノリン環上の4級炭素であるC(1)及びC(1’)が、それぞれ、RR、SS、1S1’R又は1R1’Sから選択される立体異性配置を有する化合物が挙げられる。
【0068】
本発明における上記式(X-1)又は式(X-2)で表されるビスベンジルイソキノリンアルカロイド若しくは1つのエーテル結合が切断した化合物は水和物であってもよい。
【0069】
また、本発明における上記式(X-1)又は式(X-2)で表されるビスベンジルイソキノリンアルカロイド若しくは1つのエーテル結合が切断した化合物の薬学的に許容される塩としては、無機塩又は有機酸塩等が挙げられる。無機塩としては、限定されないが、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、重炭酸塩、炭酸塩、リン酸塩、臭化水素酸塩又はヨウ化水素酸塩等が挙げられる。有機酸塩としては、限定されないが、例えば、トシル酸塩、メタンスルホン酸塩、リンゴ酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、マロン酸塩、酒石酸塩、コハク酸塩、安息香酸塩、アスコルビン酸塩、α-ケトグルタル酸塩又はα-グリセロリン酸塩等が挙げられる。
【0070】
式(I)で表されるビスベンジルイソキノリンアルカロイド及びその薬学的に許容される塩としては、具体的には、ベルバミン、(+)-ベルバミン、ベルバミン二塩酸塩、E6-ベルバミン(E6-norberbamine)、ファングキノリン、テトランドリン、イソテトランドリン又はcocsoline等が挙げられる。
【0071】
ベルバミンの構造式を下記に示す。
【0072】
【0073】
(+)-ベルバミンの構造式を下記に示す。
【0074】
【0075】
E6-ベルバミンの構造式を下記に示す。
【0076】
【0077】
ファングキノリンの構造式を下記に示す。
【0078】
【0079】
テトランドリンの構造式を下記に示す。
【0080】
【0081】
イソテトランドリンの構造式を下記に示す。
【0082】
【0083】
Cocsolineの構造式を下記に示す。
【0084】
【0085】
また、式(I)で表されるビスベンジルイソキノリンアルカロイドとしては、具体的には、以下の構造式で表されるベルバミン誘導体であるBBMD1~BBMD13等も挙げられる。
【0086】
BBMD1の構造式を下記に示す。
【0087】
【0088】
BBMD2の構造式を下記に示す。
【0089】
【0090】
【0091】
BBMD4の構造式を下記に示す。
【0092】
【0093】
BBMD5の構造式を下記に示す。
【0094】
【0095】
BBMD6の構造式を下記に示す。
【0096】
【0097】
BBMD7の構造式を下記に示す。
【0098】
【0099】
BBMD8の構造式を下記に示す。
【0100】
【0101】
BBMD9の構造式を下記に示す。
【0102】
【0103】
BBMD10の構造式を下記に示す。
【0104】
【0105】
BBMD11の構造式を下記に示す。
【0106】
【0107】
BBMD12の構造式を下記に示す。
【0108】
【0109】
BBMD13の構造式を下記に示す。
【0110】
【0111】
式(II)で表されるビスベンジルイソキノリンアルカロイドとしては、具体的には、セファランチン、オキシアカンチン、タルルゴサミニン又はCocsoline等が挙げられる。
【0112】
セファランチンの構造式を下記に示す。
【0113】
【0114】
オキシアカンチンの構造式を下記に示す。
【0115】
【0116】
タルルゴサミニンの構造式を下記に示す。
【0117】
【0118】
Cocsolineの構造式を下記に記す。
【0119】
【0120】
式(III)で表されるビスベンジルイソキノリンアルカロイドとしては、具体的には、2-ノルベルバミン(2-norberbamine)等が挙げられる。
【0121】
2-ノルベルバミンの構造式を下記に記す。
【0122】
【0123】
式(IV)で表されるビスベンジルイソキノリンアルカロイドとしては、具体的には、シクレアニン等が挙げられる。
【0124】
シクレアニンの構造式を下記に示す。
【0125】
【0126】
式(V)で表されるビスベンジルイソキノリンアルカロイドとしては、具体的には、ツボクラリン、ツボクラリンクロリド五水和物(クラーレ五水和物)等が挙げられる。ツボクラリンクロリド五水和物の構造式を下記に示す。
【0127】
【0128】
式(VI)で表される化合物としては、具体的には、ダウリシン、マグノリン又はダウリソリン等が挙げられる。
【0129】
ダウリシンの構造式を下記に示す。
【0130】
【0131】
マグノリンの構造式を下記に示す。
【0132】
【0133】
ダウリソリンの構造式を下記に示す。
【0134】
【0135】
また、本発明は、Ca2+/カルモジュリン依存性プロテインキナーゼII(CaMKII)阻害剤を含有する培地でT細胞又はNK細胞を培養することを含むT細胞又はNK細胞の製造方法、CaMKII阻害剤を含有するT細胞又はNK細胞培養用の培地、CaMKII阻害剤を含有する培地でT細胞又はNK細胞を培養することを含む未分化T細胞の未分化状態を維持する方法、CaMKII阻害剤を有効成分として含有するT細胞又はNK細胞の増殖促進剤も提供する。
【0136】
CaMKIIは、Ca2+及びCa2+結合タンパク質であるカルモジュリンによって活性化されるタンパク質リン酸化酵素である。
CaMKII阻害剤としては、上記式(X-1)又は式(X-2)で表されるビスベンジルイソキノリンアルカロイド若しくは1つのエーテル結合が切断した化合物又はその薬学的に許容される塩のほか、その制御ドメインに存在している自己リン酸化部位の配列に由来するペプチドAIP(Autocamtide 2 Related Inhibitory Peptide)、Staurosporine、Fasudil, Monohydrochloride Salt、1-Naphthyl PP1、K-252a、KN-62、Lavendustin C、12(S)-HPETE、K-252b、HA-1077 dihydrochloride、Arcyriaflavin A等が挙げられる。CaMKII阻害剤は、化合物単体でもよく、植物抽出物のような組成物又は混合物でもよい。また、CaMKII阻害剤は、人工的に合成されたものであってもよく、天然物由来であってもよい。
【0137】
また、CaMKII遺伝子ファミリーを標的としたsiRNA等のCaMKII遺伝子ファミリーを阻害する方法も本発明のCaMKII阻害剤に含まれる。CaMKII遺伝子ファミリーを阻害する方法は、幹細胞、T細胞又はNK細胞のゲノムDNAを遺伝子ターゲティング又はゲノム編集等により変化させてもよく、例えば、shRNA等を導入して恒久的に遺伝子発現のレベルを下げてもよい。遺伝子ターゲティングは、例えば、公知の多能性幹細胞にターゲティングベクターを導入して相同性組換えを起こす方法等が挙げられる。遺伝子編集としては、特に制限はなく、例えば、公知のZinc Finger Nuclease、Transcription Activator-like Effector Nuclease(TALEN)又はCRISPR/Cas9等が挙げられる。
【0138】
[T細胞]
本発明におけるT細胞とは、表面にT細胞受容体(T cell receptor、TCR)と称される抗原受容体を発現している細胞を意味する。
【0139】
本発明におけるT細胞としては、特に制限されないが、CD3を発現しており、且つCD4及びCD8の少なくとも一方の分子を発現しているT細胞が好ましい。
【0140】
このようなT細胞としては、例えば、ヘルパーT細胞、細胞傷害性T細胞、制御性T細胞、ナイーブT細胞、ステムセルメモリーT細胞(TSCM)、セントラルメモリーT細胞(TCM)、エフェクターメモリーT細胞又はターミナルエフェクターT細胞等が挙げられる。
【0141】
ヘルパーT細胞はCD4陽性細胞であり、更に発現するサイトカインによりTh1細胞、Th2細胞及びTh17細胞等に分類される(例えば、J Allergy Clin. Immunol., 135(3): 626-635,2012)。
【0142】
Th1細胞としては、例えば、IFN-γ、IL-2又はTNF-α等を発現する細胞等が挙げられる。Th2細胞としては、例えば、IL-4、IL-5、IL-6、IL-10又はIL-13等を発現する細胞等が挙げられる。Th17細胞としては、例えば、IL-17又はIL-6等を発現する細胞等が挙げられる。
【0143】
細胞傷害性T細胞は、CD8陽性細胞であり、ヘルパーT細胞同様に、更に発現するサイトカインによりTc1細胞及びTc2細胞等に分類される。
【0144】
Tc1細胞としては、例えば、IFN-γ、IL-2又はTNF-α等を発現する細胞等が挙げられる。Tc2細胞としては、例えば、IL-4、IL-5、IL-6、IL-10、IL-13等を発現する細胞等が挙げられる。
【0145】
制御性T細胞としては、例えば、CD4(+)CD25(+)FoxP3(+)細胞が好ましく挙げられる。
【0146】
ナイーブT細胞としては、例えば、CD4(+)CD45RA(+)CD62L(+)CCR7(+)細胞、CD8(+)CD45RA(+)CD62L(+)CCR7(+)細胞、CD4(+)CCR7(+)CD45RA(+)CD95(-)CD45RO(-)細胞又はCD8(+)CCR7(+)CD45RA(+)CD95(-)CD45RO(-)細胞等が好ましく挙げられる。
【0147】
ステムセルメモリーT細胞としては、例えば、CD4(+)CD45RA(+)CD62L(+)CCR7(+)CD95(+)細胞、CD8(+)CD45RA(+)CD62L(+)CCR7(+)CD95(+)細胞、CD4(+)CCR7(+)CD45RA(+)CD95(+)CD45RO(+)細胞又はCD8(+)CCR7(+)CD45RA(+)CD95(+)CD45RO(+)細胞等が好ましく挙げられる。
【0148】
セントラルメモリーT細胞としては、例えば、CD4(+)CD45RA(-)CD62L(+)CCR7(+)CD95(+)細胞、CD8(+)CD45RA(-)CD62L(+)CCR7(+)CD95(+)細胞、CD4(+)CCR7(+)CD45RA(-)CD45RO(+)細胞又はCD8(+)CCR7(+)CD45RA(-)CD45RO(+)細胞等が好ましく挙げられる。
【0149】
エフェクターメモリーT細胞としては、例えば、CD4(+)CCR7(-)CD45RA(-)CD45RO(+)細胞又はCD8(+)CCR7(-)CD45RA(-)CD45RO(+)細胞等が好ましく挙げられる。
【0150】
ターミナルエフェクターT細胞としては、例えば、CD4(+)CD45RA(+)CD62L(-)細胞又はCD8(+)CD45RA(+)CD62L(-)細胞等が好ましく挙げられる。
【0151】
本発明におけるT細胞は、未分化T細胞であることが好ましい。未分化T細胞としては、例えば、未分化度の高い順に、ナイーブT細胞、ステムセルメモリーT細胞及びセントラルメモリーT細胞が挙げられる。これらの中でも、細胞の未分化状態を維持して増殖性や生体持続性を向上する点から、ナイーブT細胞及びステムセルメモリーT細胞が特に好ましい。
【0152】
未分化性の高いT細胞は高い治療効果を示すことから、本発明におけるT細胞は、免疫細胞療法用T細胞であることが好ましい。
【0153】
T細胞が未分化状態を維持しているか否かを判定する方法としては、未分化マーカーの発現の検出及び/又は分化マーカーの発現の不検出により判定する方法、その他の各種マーカー(遺伝子やタンパク質)の発現の検出により判定する方法又は細胞の形態学的特徴を観察する方法等が挙げられる。例えば、CCR7は末梢血の未分化マーカーとして用いられている(例えば、Nature Reviews Immunology, 18: 363-373, 2018)。
【0154】
本発明におけるT細胞は、多能性幹細胞由来のT細胞であることが好ましい。
【0155】
多能性幹細胞からT細胞を誘導する方法は、公知の方法を用いて行うことが出来る。具体的には例えば、CD8陽性細胞の製造方法として国際公開第2016/076415号に記載の方法、CD4CD8両陽性T細胞の製造方法として国際公開第2017/221975号に記載の方法が挙げられる。
【0156】
本発明において多能性幹細胞とは、生体に存在する多くの細胞に分化可能である多能性を有し、かつ、増殖能をも併せもつ幹細胞であり、少なくとも本発明で使用される造血前駆細胞に誘導される任意の細胞が包含される。
【0157】
多能性幹細胞は哺乳動物由来であることが好ましく、ヒト由来であることがより好ましい。
【0158】
多能性幹細胞には、特に限定されないが、例えば、胚性幹(ES)細胞、核移植により得られるクローン胚由来の胚性幹(ntES)細胞、精子幹細胞(GS細胞)、胚性生殖細胞(EG細胞)、人工多能性幹(iPS)細胞、培養線維芽細胞若しくは臍帯血由来の多能性幹細胞又は骨髄幹細胞由来の多能性幹細胞(Muse細胞)等が含まれる。本発明において、好ましい多能性幹細胞は、製造工程において胚、卵子等の破壊をしないで入手可能であるという観点から、iPS細胞であり、より好ましくはヒトiPS細胞である。
【0159】
iPS細胞の製造方法は当該分野で公知であり、任意の体細胞へ初期化因子を導入することによって製造され得る。初期化因子としては、例えば、Oct3/4、Sox2、Sox1、Sox3、Sox15、Sox17、Klf4、Klf2、c-Myc、N-Myc、L-Myc、Nanog、Lin28、Fbx15、ERas、ECAT15-2、Tcl1、beta-catenin、Lin28b、Sall1、Sall4、Esrrb、Nr5a2、Tbx3若しくはGlis1等の遺伝子又は遺伝子産物が挙げられる。これらの初期化因子は、単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。
【0160】
初期化因子の組み合わせとしては、国際公開第2007/069666号、国際公開第2008/118820号、国際公開第2009/007852号、国際公開第2009/032194号、国際公開第2009/058413号、国際公開第2009/057831号、国際公開第2009/075119号、国際公開第2009/079007号、国際公開第2009/091659号、国際公開第2009/101084号、国際公開第2009/101407号、国際公開第2009/102983号、国際公開第2009/114949号、国際公開第2009/117439号、国際公開第2009/126250号、国際公開第2009/126251号、国際公開第2009/126655号、国際公開第2009/157593号、国際公開第2010/009015号、国際公開第2010/033906号、国際公開第2010/033920号、国際公開第2010/042800号、国際公開第2010/050626号、国際公開第2010/056831号、国際公開第2010/068955号、国際公開第2010/098419号、国際公開第2010/102267号、国際公開第2010/111409号、国際公開第2010/111422号、国際公開第2010/115050号、国際公開第2010/124290号、国際公開第2010/147395号、国際公開第2010/147612号、Huangfu D, et al., Nat. Biotechnol., 26: 795-797, 2008、Shi Y, et al., Cell Stem Cell, 2: 525-528, 2008、Eminli S, et al., Stem Cells. 26: 2467-2474, 2008、Huangfu D, et al., Nat. Biotechnol. 26: 1269-1275, 2008、Shi Y, et al., Cell Stem Cell, 3, 568-574, 2008、Zhao Y, et al., Cell Stem Cell, 3: 475-479, 2008、Marson A, , Cell Stem Cell, 3, 132-135, 2008、Feng B, et al., Nat. Cell Biol. 11: 197-203, 2009、R.L. Judson et al., Nat. Biotechnol., 27: 459-461, 2009、Lyssiotis CA, et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 106: 8912-8917, 2009、Kim JB, et al., Nature. 461:649-643, 2009、Ichida JK, et al., Cell Stem Cell. 5: 491-503, 2009、Heng JC, et al., Cell Stem Cell. 6: 167-74, 2010、Han J, et al., Nature. 463: 1096-100, 2010、Mali P, et al., Stem Cells. 28: 713-720, 2010又はMaekawa M, et al., Nature. 474: 225-9, 2011等に記載の組み合わせ等が挙げられる。
【0161】
iPS細胞を製造するのに用いられる体細胞としては、特に制限されないが、例えば、胎児(仔)の体細胞、新生児(仔)の体細胞、成熟した健全な若しくは疾患性の体細胞、初代培養細胞、継代細胞又は株化細胞等が挙げられる。
【0162】
前記体細胞としては、例えば、(1)神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞若しくは歯髄幹細胞等の組織幹細胞(例えば、体性幹細胞)、(2)造血前駆細胞等の組織前駆細胞、又は(3)血液細胞(例えば、末梢血細胞若しくは臍帯血細胞等)、骨髄球、リンパ球、上皮細胞、内皮細胞、筋肉細胞、線維芽細胞(例えば、皮膚細胞等)、毛細胞、肝細胞、胃粘膜細胞、腸細胞、脾細胞、膵細胞(例えば、膵外分泌細胞等)、脳細胞、肺細胞、腎細胞若しくは脂肪細胞等の分化した細胞等が挙げられる。前記体細胞としては、T細胞が好ましいが、T細胞以外の体細胞(非T細胞)を用いてもよい。
【0163】
体細胞としては、例えば、TCRの遺伝子再編成が行われたリンパ球(好ましくは、T細胞)が好ましい。体細胞としてリンパ球を用いる場合、初期化の工程に先立ち当該リンパ球をIL-2等のサイトカイン存在下にて抗CD3抗体及び抗CD28抗体によって刺激して活性化することが好ましい。
【0164】
前記刺激は、例えば、培地中に、IL-2等のサイトカイン、抗CD3抗体又は抗CD28抗体を添加して前記リンパ球を一定期間培養することによって行うことが出来る。また、抗CD3抗体及び抗CD28抗体は磁性ビーズ等が結合されているものであってもよく、更にこれらの抗体を培地中に添加する代わりに、抗CD3抗体及び抗CD28抗体を表面に結合させた培養ディッシュ上で前記T細胞を一定期間培養することによって刺激を与えてもよい。更に、ヒトT細胞が認識する抗原ペプチドを培地中に添加することによって刺激を与えてもよい。
【0165】
本発明において、体細胞を採取する由来となる哺乳動物個体は特に制限されないが、好ましくはヒトである。生産されるT細胞を輸血に使用する場合、輸血される患者とヒト白血球型抗原(HLA)の型を適合させ易いという観点から、iPS細胞の元となる体細胞は、輸血される対象から単離されることが好ましい。
【0166】
iPS細胞として既存の細胞株を用いてもよい。例えば、ヒトiPS細胞株として、253G1株(理研セルバンクNo.HPS0002)、201B7株(理研セルバンクNo.HPS0063)、409B2株(理研セルバンクNo.HPS0076)、454E2株(理研セルバンクNo.HPS0077)、HiPS-RIKEN-1A株(理研セルバンクNo.HPS0003)、HiPS-RIKEN-2A株(理研セルバンクNo.HPS0009)、HiPS-RIKEN-12A株(理研セルバンクNo.HPS0029)又はNips-B2株(理研セルバンクNo.HPS0223)等が挙げられる。
【0167】
iPS細胞は、更に予めCAR又は特異的なTCRが導入されたiPS細胞であってもよい。
ここで、CARとは、抗原に結合する細胞外ドメインと、前記細胞外ドメインとは異なるポリペプチドに由来する細胞内ドメインを含む融合タンパク質を意味する。CARとしては、例えば、特定の抗原に対する抗体の抗原認識部位(可変領域のL鎖とH鎖)を、例えば、CD3等のT細胞受容体の細胞内ドメイン及びCD28又は4-1BB等の共刺激分子の細胞内ドメインと結合させた融合タンパク質等が挙げられる(例えば、日本国特表2015-509716号公報)。
【0168】
CARの抗原認識部位は目的とする抗原に応じて選択でき、それにより目的の抗原に対して特異的なT細胞を作製することが可能である。例えば、CD19を抗原とする場合、抗CD19抗体の抗原認識部位をクローニングし、CD3分子の細胞内ドメインと結合させることにより、CARとすることが出来る(例えば、Cancer Res., 66: 10995-11004, 2006)。また、結合させる共刺激分子の種類や数を選択することにより、活性化の強さ又は持続時間をコントロールすることが出来る(例えば、Mol Ther., 17: 1453-1464, 2009)。
【0169】
CARを導入することにより、T細胞を由来とするiPS細胞又はT細胞を由来としないiPS細胞から分化誘導したT細胞のいずれにおいても、目的の抗原に対する特異性を付与することが可能となる。また、CARを導入することにより、抗原分子を直接認識することができ、HLAクラスI遺伝子の発現が低下した腫瘍に対しても高い免疫反応を起こすことが可能である。
【0170】
また、特異的なTCRを導入することにより、T細胞を由来とするiPS細胞又はT細胞を由来としないiPS細胞から分化誘導したT細胞のいずれにおいても、目的の細胞に対する特異性を付与することが可能となる。また、がん特異的にペプチド-HLA複合体を発現する腫瘍に対しても高い免疫反応を起こすことが可能である。
【0171】
本発明におけるT細胞は、特に制限されないが、末梢血由来のT細胞であってもよい。また、上記のCARやTCRを導入するT細胞は、末梢血中のT細胞であってもよい。末梢血の由来は患者自身、血縁ドナーや非血縁ドナー等の健常人由来である。
【0172】
また、本発明におけるT細胞は、初代造血幹・前駆細胞由来のT細胞であってもよい。初代造血幹・前駆細胞は臍帯血又は骨髄若しくは動員末梢血等から採取可能であり、これらの由来は患者自身又は血縁ドナー若しくは非血縁ドナー等の健常人由来である。初代造血幹・前駆細胞からT細胞を誘導する方法は、上述の多能性幹細胞からT細胞を誘導する方法と同一又は類似の方法で行うことが出来る(例えば、Induction of T-cell development from human cord blood hematopoietic stem cells by Delta-like 1 in vitro; Blood, 105(4): 1431-1439, 2005)。
【0173】
本発明におけるT細胞は、所望の抗原特異性を有することが好ましい。従って、上述のiPS細胞の元となるリンパ球は、所望の抗原特異性を有することが好ましい。
当該リンパ球は、所望の抗原を固定化したアフィニティカラム等を用いて精製により特異的に単離されてもよい。この精製では、所望の抗原を結合させた主要組織適合遺伝子複合体(MHC)を4量体化させたもの(いわゆるMHCテトラマー)を用いて、ヒトの組織より所望の抗原特異性を有するリンパ球を精製する方法も採用することが出来る。
【0174】
また、T細胞は、特に精製せずとも、CD3抗体やCD3ビーズによる刺激で選択的に増殖させることで濃縮して得ることも出来る。
【0175】
[NK細胞]
本発明におけるNK細胞は、いかなるNK細胞も利用することが出来る。なお、NK細胞の提供者(ドナー)とNK細胞の被提供者(レシーピエント)は、同種であることが好ましい。例えば、提供者がヒトの場合には、被提供者はヒトである。また、NK細胞の提供者とNK細胞の被提供者は、同一個体であることがより好ましい。例えば、ドナーが提供者Xの場合には、レシーピエントは提供者Xである。
【0176】
本発明におけるNK細胞は、公知の方法(例えば、特許第5016732号公報に記載の方法)で取得することが出来る。NK細胞は、末梢血、リンパ節、胸腺、骨髄、腫瘍、胸水、腹水又は臍帯血から採取された単核球、より好ましくは末梢血単核球から誘導して取得することが出来る。例えば、末梢血から比重遠心法により、NK細胞を含む単核球を回収することが出来る。
【0177】
本発明におけるNK細胞は、多能性幹細胞由来のNK細胞であることが好ましい。多能性幹細胞は哺乳動物由来であることが好ましく、ヒト由来であることがより好ましい。多能性幹細胞からNK細胞を誘導する方法は、公知の方法(例えば、Cell Stem Cell. 23(2): 181-192, 2018に記載の方法)を用いて行うことが出来る。多能性幹細胞については、上述したものと同様である。
【0178】
本発明におけるNK細胞は、初代造血幹・前駆細胞由来のNK細胞であってもよい。初代造血幹・前駆細胞については、上述したものと同様である。
【0179】
本発明におけるNK細胞は、末梢血由来のNK細胞であってもよい。末梢血の由来は患者自身、血縁ドナーや非血縁ドナー等の健常人由来である。また、NK細胞は高い治療効果を示すことから、本発明におけるNK細胞は、免疫細胞療法用NK細胞であることが好ましい。
【0180】
NK細胞としては、例えば、CD3(-)CD56(+)細胞が挙げられる。更にNK細胞としては、CD3(-)CD56(+)に加えてCD2(+/-)、CD5(-)、CD7(+)、CD8(+)、CD1d(-)、CD16a(+)、CD27(+)、CD49a~f(+)CD56(+)、CD57(+)、CD94(+)、CD161(+)又はCD165(+)等の表面マーカーが発現する細胞が挙げられる。
【0181】
本発明におけるNK細胞は、未成熟NK細胞又は成熟NK細胞のいずれでもよく、例えば、CD56 bright CD16(-) 未成熟NK細胞又はCD56 dim CD16(+)成熟NK細胞等が挙げられる。
【0182】
[T細胞又はNK細胞の培養用培地]
本発明に係るT細胞又はNK細胞の培養用培地は、式(X-1)又は式(X-2)で表されるビスベンジルイソキノリンアルカロイド若しくは1つのエーテル結合が切断した化合物又はその薬学的に許容される塩を含有する。
【0183】
本発明に係るT細胞又はNK細胞の培養用培地は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として、式(X-1)又は式(X-2)で表されるビスベンジルイソキノリンアルカロイド若しくは1つのエーテル結合が切断した化合物又はその薬学的に許容される塩を添加して調製することが出来る。
【0184】
本発明に係るT細胞又はNK細胞の培養用培地における式(X-1)又は式(X-2)で表されるビスベンジルイソキノリンアルカロイド若しくは1つのエーテル結合が切断した化合物又はその薬学的に許容される塩の含有量は、T細胞又はNK細胞に対する増殖促進活性を示す限りにおいて特に限定されないが、例えば、通常0.1nM~10μMであり、好ましい範囲としては、0.1nM~3μM、0.1nM~10nM、1nM~3μM、1nM~10nM、10nM~100nM、100nM~1μM又は1nM~1μM等が挙げられる。式(X-1)又は式(X-2)で表されるビスベンジルイソキノリンアルカロイド及びその薬学的に許容される塩がベルバミン、(+)-ベルバミン、ベルバミン二塩酸塩、E6-ベルバミン及びセファランチンから選ばれる少なくとも1である場合は、0.1nM~10μMであることが好ましい。
【0185】
基礎培地としては、例えば、Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium(IMDM)培地、Medium 199培地、Eagle’s Minimum Essential Medium(EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium(DMEM)培地、Ham’s F12培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、Neurobasal Medium(ライフテクノロジーズ)及びこれらの混合培地等が挙げられる。培地には、血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清を使用してもよい。
【0186】
必要に応じて、基礎培地は、例えば、アルブミン、インスリン、トランスフェリン、セレン、脂肪酸、微量元素、2-メルカプトエタノール、チオールグリセロール、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類又はサイトカイン等の1つ以上の物質も含有し得る。
【0187】
本発明に係るT細胞又はNK細胞の培養用培地は、ビタミンC類又はサイトカインを更に含有することが好ましい。
【0188】
ビタミンC類とは、L-アスコルビン酸及びその誘導体を意味し、L-アスコルビン酸誘導体とは、生体内で酵素反応によりビタミンCとなるものを意味する。L-アスコルビン酸の誘導体としては、例えば、リン酸ビタミンC、アスコルビン酸グルコシド、アスコルビルエチル、ビタミンCエステル、テトラヘキシルデカン酸アスコビル、ステアリン酸アスコビル又はアスコルビン酸-2リン酸-6パルミチン酸等が挙げられる。好ましくは、リン酸ビタミンCであり、例えば、リン酸-L-アスコルビン酸Na又はリン酸-L-アスコルビン酸Mg等のリン酸-L-アスコルビン酸塩が挙げられる。ビタミンC類のT細胞又はNK細胞の培養用培地における濃度は、例えば、5μg/ml~500μg/mlである。
【0189】
サイトカインとしては、例えば、IL-2、IL-7、IL-12、IL-15、IL-18、IL-21又はFlt3L等が挙げられる。これらのT細胞又はNK細胞の培養用培地における濃度は、例えば、IL-7は1ng/ml~100ng/mlであり、IL-12は1ng/ml~100ng/ml、IL-15は1ng/ml~100ng/ml、IL-18は1ng/ml~100ng/ml、IL-21は1ng/ml~100ng/ml、Flt3Lは1ng/ml~100ng/mlである。
【0190】
本発明に係るT細胞又はNK細胞の培養用培地は、式(X-1)又は式(X-2)で表されるビスベンジルイソキノリンアルカロイド若しくは1つのエーテル結合が切断した化合物又はその薬学的に許容される塩を含有することにより、該細胞の状態(例えば未分化性)を維持させつつ細胞増殖を促進可能であるため、フィーダー細胞を含有させなくてもよい。フィーダー細胞を培地に含有させないことにより、フィーダー細胞に由来する感染の危険性を低下させることが出来、また製造の安定性が向上し、その結果コストを抑えることが出来る。
【0191】
本発明に係るT細胞又はNK細胞の培養用培地は、式(X-1)又は式(X-2)で表されるビスベンジルイソキノリンアルカロイド若しくは1つのエーテル結合が切断した化合物又はその薬学的に許容される塩に加えて、MAPKカスケード阻害剤を含有してもよい。MAPKカスケード阻害剤を併用することにより、免疫細胞療法における活性に優れた細胞(例えば、メモリーT細胞)の増殖を亢進出来る。
【0192】
MAPKカスケードはMAPKKK、MAPKK、及びMAPKという3種類のキナーゼ(蛋白質リン酸化酵素)分子等から構成されており、ヒト細胞内には機能の異なるMAPKカスケードが少なくとも3種類(ERKカスケード、p38カスケード、JNKカスケード)存在する(例えば、電気泳動、60:7~10ページ、2015年)。このうち、ERK経路が増殖因子等によって活性化され、主に細胞増殖に作用するのに対し、ストレス応答MAPKカスケードであるp38カスケード及びJNKカスケードは、様々な環境ストレス刺激や炎症性サイトカインによって活性化され、アポトーシス誘導や免疫応答の制御に重要な役割を果たしている。
【0193】
本発明におけるMAPKカスケード阻害剤としては、ERKカスケード阻害剤又はp38カスケード阻害剤が好ましく挙げられる。ERKカスケード阻害剤としては、例えば、ERKカスケードを構成するBRAF、RAF等をターゲットとする阻害剤(例えば、CEP-32496又はZM-336372等)等が挙げられる。p38カスケード阻害剤としては、例えば、p38をターゲットとする阻害剤(例えば、SB-203580又はLosmapimod等)等が挙げられる。
【0194】
[T細胞又はNK細胞の培養]
T細胞又はNK細胞の培養に用いる培養器としては、特に限定されないが、例えば、フラスコ、ディッシュ、シャーレ、マイクロウエルプレート、マイクロスライド、チャンバースライド、チューブ、トレイ又は培養バッグ等が挙げられる。これらの培養器の基材としては、特に限定されず、例えば、ガラス又はポリプロピレイン若しくはポリスチレン等の各種プラスチック等が挙げられる。
【0195】
培養器は、細胞接着性であっても細胞非接着性であってもよく、目的に応じて適宜選ばれる。細胞接着性の培養器は、培養器の表面と細胞との接着性を向上させる目的で、細胞外マトリックス(ECM)等の任意の細胞支持用基質でコーティングされたものであってもよい。
【0196】
細胞支持用基質としては、例えば、コラーゲン、ゼラチン、ポリ-L-リジン、ポリ-D-リジン、ラミニン若しくはラミニンの一部構造体、フィブロネクチン又はそれらの混合物等が挙げられ、具体的には、マトリゲル又は溶解細胞膜調製物等が挙げられる(例えば、Lancet, 365, 9471, 1636-1641, 2005)。
【0197】
培養に用いられるT細胞又はNK細胞は、分散細胞又は非分散細胞であってもよい。分散細胞とは、細胞分散を促進するために処理された細胞をいう。分散細胞としては、例えば、2~50個、2~20個、又は2~10個の細胞からなる小さな細胞塊を形成している細胞が挙げられる。分散細胞は、浮遊(懸濁)細胞又は接着細胞であってもよい。
【0198】
T細胞又はNK細胞の培養密度は、細胞の生存及び増殖を促進する効果を達成し得るような密度である限り特に限定されない。好ましくは1.0×101~1.0×107細胞/ml、より好ましくは1.0×102~1.0×107細胞/ml、更により好ましくは1.0×103~1.0×107細胞/ml、最も好ましくは3.0×104~1.0×107細胞/mlである。
【0199】
温度、CO2濃度、溶存酸素濃度及びpH等の培養条件は、従来公知の技術に基づいて適宜設定出来る。例えば、培養温度は、特に限定されるものではないが、通常30~40℃、好ましくは37℃である。CO2濃度は、通常1~10%、好ましくは2~5%である。酸素分圧は、通常1~10%である。pHは、通常3~10である。
【0200】
T細胞又はNK細胞の培養において、フィーダー細胞の存在下で培養してもよいが、好ましくはフィーダー細胞を用いずに培養を行う。T細胞又はNK細胞を培養する際の温度条件は、特に限定されないが、例えば、通常37~42℃、好ましくは37~39℃である。また、培養期間については、当業者であればT細胞又はNK細胞の数等をモニターしながら、適宜決定することが可能である。日数は特に限定されないが、例えば、少なくとも1日間以上、2日間以上、3日間以上、4日間以上、5日間以上、10日間以上、30日間以上、40日間以上、50日間以上、60日間以上、70日間以上であり、好ましくは3日間以上、より好ましくは10日間以上、更に好ましくは30日間以上、特に好ましくは40日間以上、最も好ましくは50日間以上である。本発明の培養方法により、50日間以上の長期間の培養が可能となる。
【0201】
本発明に係るT細胞又はNK細胞の製造方法は、必要に応じてT細胞又はNK細胞を継代する工程を含む。T細胞の継代及び分化誘導は、従来公知の手法により行うことが出来る。
【0202】
本発明に係るT細胞又はNK細胞の製造方法により得られるT細胞又はNK細胞を含む細胞組成物は、再生医療用の細胞ソース等に利用され得る。前記細胞組成物は、小さな細胞塊のような分散したT細胞又はNK細胞を含む組成物であってもよい。
【0203】
前記細胞組成物は、例えば、凍結保存によるT細胞又はNK細胞の保存、輸送及び継代に用いることが出来る。前記細胞組成物は、血清あるいはその代替物、又はDMSO等の有機溶剤を更に含んでいてもよい。この場合、血清又はその代替物の濃度は、特に限定されるものではないが、例えば1~50%(v/v)、好ましくは5~20%(v/v)である。有機溶剤の濃度は、特に限定されるものではないが、例えば0~50%(v/v)、好ましくは5~20%(v/v)である。前記細胞組成物は、フィーダー細胞を含むものであってもよいが、含まないものであることが好ましい。
【0204】
[免疫細胞療法剤]
本発明の製造方法により得られるT細胞、NK細胞又はその細胞組成物は、免疫細胞療法剤に好適に用いることが出来る。T細胞、NK細胞又はその細胞組成物は、公知の手段にしたがって医薬上許容される担体と混合する等して、経口/非経口製剤、好ましくは、注射剤、懸濁剤又は点滴剤等の非経口製剤として製造される。当該非経口製剤に含まれ得る医薬上許容される担体としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖又はその他の補助薬を含む等張液(例えば、D-ソルビトール、D-マンニトール又は塩化ナトリウム等)等の注射用の水性液を挙げることが出来る。
【0205】
免疫細胞療法剤は、例えば、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液又は酢酸ナトリウム緩衝液等)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム又は塩酸プロカイン等)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン又はポリエチレングリコール等)、保存剤又は酸化防止剤等と配合してもよい。
【0206】
免疫細胞療法剤を水性懸濁液剤として製剤化する場合、上記緩衝液に例えば、約1.0×106~約1.0×107細胞/mLとなるように、T細胞又はNK細胞を懸濁させればよい。
【0207】
このようにして得られる製剤は、安定で低毒性であるので、ヒト等の哺乳動物に対して安全に投与することが出来る。投与方法は特に限定されず、経口又は非経口的に投与することが出来るが、好ましくは注射若しくは点滴投与であり、投与ルートとしては、例えば、静脈内投与、皮下投与、皮内投与、筋肉内投与、腹腔内投与又は患部直接投与等が挙げられる。当該免疫細胞療法剤の投与量は、投与対象、対象臓器、症状又は投与方法等により差異はあるが、通常、成人の患者(体重60kgとして)においては、例えば、非経口投与の場合、1回につき細胞数として約1.0×107~約1.0×109細胞を、約1~2週間隔で、約4~約8回投与することが挙げられる。
【0208】
投与するT細胞又はNK細胞の生体内における活性化を促進するため、本発明の免疫細胞療法剤においては、その有効成分であるT細胞又はNK細胞と、T細胞又はNK細胞の受容体リガンドとを組み合わせてもよい。
【0209】
[未分化状態を維持する方法]
本発明に係る未分化T細胞の未分化状態を維持する方法は、上記したT細胞培養用培地中で、T細胞を培養することを特徴とする。T細胞の培養方法については上記と同様とする。当該培地中で未分化T細胞を培養することにより、式(X-1)又は式(X-2)で表されるビスベンジルイソキノリンアルカロイド若しくは1つのエーテル結合が切断した化合物又はその薬学的に許容される塩の作用により、未分化T細胞の未分化状態を維持することが出来る。
【0210】
T細胞の未分化状態の維持は、例えば、式(X-1)又は式(X-2)で表されるビスベンジルイソキノリンアルカロイド若しくは1つのエーテル結合が切断した化合物又はその薬学的に許容される塩の非存在下で培養したT細胞と比較して、式(X-1)又は式(X-2)で表されるビスベンジルイソキノリンアルカロイド若しくは1つのエーテル結合が切断した化合物又はその薬学的に許容される塩の存在下で培養したT細胞において、T細胞の未分化マーカー遺伝子の発現レベルがmRNAレベル又はタンパク質レベルで培養開始時の発現レベルと同程度のレベルに有意に維持されているか否かで評価出来る。T細胞の未分化マーカー遺伝子としては、例えばCCR7遺伝子等が挙げられる。
【0211】
未分化マーカー遺伝子の発現レベルを測定する方法としては、mRNAレベルでは、例えば、マーカー遺伝子に特異的なプライマー若しくはプローブを用いたRT-PCR、定量PCR又はノーザンブロッティング等の方法が挙げられる。また、タンパク質レベルでは、例えば、マーカー遺伝子によりコードされるタンパク質に特異的な抗体を用いたELISA、フローサイトメトリー又はウエスタンブロッティング等の免疫学的方法が挙げられる。
【0212】
未分化マーカー遺伝子の発現レベルを測定した結果、培養開始時のT細胞における未分化マーカー遺伝子の発現レベルと式(X-1)又は式(X-2)で表されるビスベンジルイソキノリンアルカロイド若しくは1つのエーテル結合が切断した化合物又はその薬学的に許容される塩の存在下で所定時間培養後のT細胞における未分化マーカー遺伝子の発現レベルとの相対比が、式(X-1)又は式(X-2)で表されるビスベンジルイソキノリンアルカロイド若しくは1つのエーテル結合が切断した化合物又はその薬学的に許容される塩の非存在下で培養した場合の同相対比(コントロール)よりも大きい場合にT細胞の未分化状態を維持できたと判定することが出来る。
【0213】
[T細胞又はNK細胞の増殖促進剤]
本発明に係るT細胞又はNK細胞の増殖促進剤(以下、本発明に係る増殖促進剤とも略す)は、式(X-1)又は式(X-2)で表されるビスベンジルイソキノリンアルカロイド若しくは1つのエーテル結合が切断した化合物又はその薬学的に許容される塩を含むことを特徴とする。本発明に係る増殖促進剤を含む培地を用いてT細胞又はNK細胞を培養することにより、フィーダー細胞を用いない場合であっても、T細胞又はNK細胞の増殖効率が顕著に向上し、且つ該細胞の状態(例えば未分化性)を維持することが出来る。
【0214】
本発明に係る増殖促進剤は、更に生理学的に許容される担体〔例えば、生理的な等張液[生理食塩水、上述の基礎培地、ブドウ糖又はその他の補助薬(例えば、D-ソルビトール、D-マンニトール又は塩化ナトリウム等)を含む等張液等]、賦形剤、防腐剤、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン又はポリエチレングリコール等)、結合剤、溶解補助剤、非イオン性界面活性剤、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液又は酢酸ナトリウム緩衝液等)、保存剤、酸化防止剤又は上述の添加物等〕、シグナル伝達阻害剤等を含む組成物として提供することも出来る。
【0215】
本発明に係る増殖促進剤に含まれる式(X-1)又は式(X-2)で表されるビスベンジルイソキノリンアルカロイド若しくは1つのエーテル結合が切断した化合物又はその薬学的に許容される塩の含有量は、例えば、本発明に係る増殖促進剤を培地に添加する場合において、該培地中の該化合物の濃度が、T細胞又はNK細胞の増殖を促進するのに十分な濃度含まれるように構成されていることが好ましい。
【0216】
本発明に係る増殖促進剤は、等張な水溶液又は粉末等の状態で、培地に添加されること等の方法で用いられることが好ましい。
【0217】
T細胞又はNK細胞の増殖促進は、例えば、本発明に係る増殖促進剤の非存在下で培養したT細胞又はNK細胞と比較して、本発明に係る増殖促進剤の存在下で培養した該T細胞又はNK細胞の細胞数が有意に増加されているか否かで評価することが出来る。細胞数の測定は、例えば、公知のMTT法又はWST法等により、市販の細胞数測定キットを用いて行うことが出来る。測定の結果、培養開始時のT細胞又はNK細胞の細胞数と本発明に係る増殖促進剤の存在下とで所定時間培養後のT細胞又はNK細胞の細胞数との相対比が、本発明に係る増殖促進剤の非存在下で培養した場合の同相対比(コントロール)よりも大きい場合にT細胞又はNK細胞の増殖を促進できたと判定することが出来る。
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0218】
[実施例1]iPS細胞の分化誘導
iPS細胞からのT細胞の誘導は、非特許文献1に記載の方法を改変して行った。実施例1においてiPS細胞を分化誘導した手順の模式図を
図1に示す。
【0219】
iPS細胞はマウス胎仔線維芽細胞(MEF)をフィーダー細胞として維持した。培地はiPS細胞用培地[Dulbecco‘s Modified Eagle’s Medium/Nutrient Mixture F-12 Ham (Sigma)、Knokout Serum Replacement(KSR、20%、Life Technologies)、1×Insulin、Transferrin、Selenium Solution(ITS-G、100×、Thermo Fisher Scientific)、1% MEM Non-Essential Amino Acids Solution(NEAA、Life Technologies)、0.1mM 2-Mercaptoethanol(55mM、Gibco)、Fibroblast Growth Factor basic(Sigma)]を用いた。
【0220】
造血前駆細胞(HPCs)はiPS細胞を10T1/2細胞上で培養し、Sacを形成させて誘導した(非特許文献2)。10T1/2細胞は1% FBS、1% L-Glutamine-Penicillin-Streptomycin solution(PSG、Sigma)を加えたBasal Medium Eagle(Life Technologies)を用い、0.1% ゼラチンコートディッシュで維持しフィーダー細胞として用いた。
【0221】
iPS細胞を剥離剤[CaCl2(Nacalai tesque)、KSR(Life Technologies)及びトリプシン(Life Technologies)を添加したD-PBS]を用いて処理し、iPS細胞コロニーを回収した。コロニーを10T1/2細胞上に播種し、Sac培地[IMDM(Sigma)、15% FBS、1% PSG、Insulin、Transferrin、Selenium Solution(ITS-G、1×、GIbco)、モノチオグリセロール(MTG、Nacalai tesque)、L(+)-アスコルビン酸(PAA、50μg/mL、Nacalai tesque、03420-52)、VEGF(R&DSystems、20ng/ml)]を用いて37℃にて5% O2、5% CO2下で培養した(Day0)。Day4でSac培地を交換した。培地は、Day7、10及び12でそれぞれSCF(R&D Systems、30ng/ml)、Flt3(Peprotech、10ng/ml)を添加したSac培地で交換し、37℃にて20% O2、5% CO2下で培養した。
【0222】
T細胞はHPCをOP9-DL1細胞と共培養して誘導した。OP9-DL1細胞は15% FBS及び1% PSGを添加したalpha-MEM培地(Life technologies)で維持した。分化誘導開始後14日のSacをピペットの先端で回収し、ピペッティング後、セルストレーナーに通し、フロースルーを回収した。
【0223】
得られた血液細胞をOP9-DL1細胞に播種し、IL-7(1ng/mL)、Flt3L(10ng/mL)、PAA(50μg/mL)、ITS-G、15% FBS及び1% PSGを添加したalpha-MEM培地(Life technologies)を用いて培養した。
【0224】
3日後、フレッシュなOP9-DL1細胞に血液細胞をトランスファーした。以後3日毎に培地交換と6日毎にフレッシュなOP9-DL1細胞へトランスファーした。OP9-DL1細胞との共培養開始から24日後、IL-7(10ng/mL)、Flt3L(10ng/mL)、PAA(50μg/mL)、ITS-G、15% FBS、PSG及びAnti-CD3抗体OKT3(1μg/mL)を添加したalpha-MEM培地に交換した。
【0225】
3日後、トリプシン処理及びadhesion selectionによるOP9-DL1細胞の除去後、レトロネクチン(登録商標)(TaKaRa、2μg/mLにPBSで希釈)でコートされた24ウェルプレートにトランスファーし、IL-7(10ng/mL)、Flt3L(10ng/mL)、IL-21(10ng/mL)、PAA(50μg/mL)、ITS-G、15% FBS及びPSGを添加したalpha-MEM培地で培養した。
【0226】
OKT3刺激から6日後、細胞をCD8beta-PE(Beckman)、CD5-PECy7(ThermoFischer)、CD1a-FITC(ThermoFisher)及びCD336-APC(Biolegend)で染色し、CD8beta(+)CD5(+)CD1a(-)CD336(-)細胞をソーティングし、CD8(+)T細胞(T-iPS-T細胞)を得た。
【0227】
[実施例2]iPS-T細胞の拡大培養
実施例1の方法に従い得られるCD8(+)T細胞(T-iPS-T細胞)は数千から数万細胞しかない。この細胞をPhytohemagglutinin-P(PHA)及び健常人ドナー由来PBMCと共培養し、数万倍に増やした。実施例2においてiPS-T細胞をExpansionした手順の模式図を
図2に示す。
【0228】
PBMCを解凍し、15% FBS及びPSGを添加したalpha-MEM培地で一晩培養した。翌日、このPBMCを放射線照射後(40Gy)、IL-7(5ng/mL)、IL-15(5ng/mL)、Pan Caspase Inhibitor Z-VAD-FMK(R&D Systems、10μM)、PAA(50μg/mL)、ITS-G、15% FBS及びPSGを添加したalpha-MEM培地でiPS-T細胞と混合し、PHA(Wako、2μg/mL)を添加した(Day0)。培地交換を3日毎に行い、増殖に合わせて適宜継代し、Day14まで培養した。本実施例では、この工程を必要に応じて1度又は2度実施した。
【0229】
[実施例3]免疫表現型検査
iPS-T細胞におけるT細胞関連分子の発現をフローサイトメトリーにより解析した。解析にはCD8ab(+)iPS-T細胞をPHA及びPBMCにより0~2回expandした細胞を用いた。染色にはCD8β-PE(BECKMAN)、CD5-PECy7(ThermoFisher)、CD27-APC、CD28-BV421、CCR7-APC、CD45RA-BV510、CD45RO-APCCy7及びCD62L-FITC、CD95-PECy7(以上BioLegend)を用いた。解析はBD LSRFORTESSA cytometer(BD Bioscience)を用い、ヨウ化プロピジウム(PI)を用いて死細胞を除外した。
【0230】
一度expandしたT-iPS-T細胞を用いて免疫表現型検査を行った手順の模式図を
図3Aに、その結果を
図3に示す。
図3Bに示すように、CD95及びCD45RAは100%陽性であった。また、CD5、CD27、CCR7、CD45ROの部分的な発現が認められた。CD28及びCD62Lは陽性対照である健常人由来PBMC中のT細胞での発現は認められたが、T-iPS-T細胞での発現は認められなかった。
【0231】
続いて、T細胞の増殖にともなう分化過程でのマーカー分子の発現の変化を評価するため、実施例2のExpansion回数の異なるT-iPS-T細胞を比較検討した。検討の手順についての模式図を
図4(A)に、その結果を
図4(B)に示す。
図4(B)に示すように、Expansionに伴うCCR7の発現レベル及びCCR7陽性細胞率の低下が認められた。
【0232】
PBMC中のT細胞において、CD45RA(+)CCR7(+)Naive T細胞を未分化性の頂点とする階層性が知られている(例えば、Nicholas P. Restifo, Blood, 124: 476-477, 2014)。したがって、iPS-T細胞においてCD45RA(+)CCR7(+)が未分化細胞マーカーである可能性が示された。
【0233】
[実施例4]生細胞数を指標とした低分子化合物のスクリーニング
PBMCフィーダーを用いずにT-iPS-T細胞を培養し、増殖効率を改善させる低分子化合物をスクリーニングした。スクリーニングのスキームを
図5(A)~(C)に示す。
【0234】
1st expansion後のT-iPS-T細胞(1500細胞/ウェル)を播種し、15% FBS(CORNING、35-076-CV、35076104R)、1% PSG(SIGMA、G1146)、PAA(50μg/mL、Nacalaitesque、03420-52)、ITS-G、IL-7(5ng/mL)、IL-12(50ng/mL)、IL-15(5ng/mL)、IL-18(50ng/mL)、IL-21(20ng/mL)及びz-VAD-fmk(10μM)を添加したRPMI-1640培地(SIGMA、R8758)で培養した。CD3/CD28 Dynabeads(gibco、11131D、Dynabeadsは登録商標)(4500ビーズ/ウェル)を加えて刺激し、1080の化合物[MedChemExpress、Apoptosis Compound Library(HY-L003)、Cell Cycle/DNA Damage Compound Library(HY-L004)、JAK/STAT Compound Library(HY-L008)、MAPK Compound Library(HY-L010)、NF-kappaB Compound Library(HY-L014)、PI3K/Akt/mTOR Compound Library(HY-L015)、Wnt/Hedgehog/Notch Compound Library(HY-L020)]を終濃度1μMとなるように各ウェル1種ずつ添加し、37℃にて5%CO2下で培養した。
【0235】
化合物の溶媒であるDMSO(0.1%)を対照とした。6日後、生細胞数測定試薬SF(nacalaitesque、07553)とマイクロプレートリーダー(SoftMaxPro 5.X、Molecular Devices、450nm/650nm)を用いて生細胞数を測定した。その結果、DMSOと同等以上の吸光度を示す266化合物が選抜された。
【0236】
細胞数の検量線については、次の通り設定した。生細胞数測定時には、スクリーニングと同様の細胞を12点段階希釈し、15%FBS、1%PSG、PAA、ITS-G、IL-7(5ng/mL)及びIL-15(5ng/mL)を添加したRPMI-1640培地で播種(0~1536000細胞/ウェル)した。スクリーニングサンプルと共に生細胞数を測定し、WST-8assayの検量線とした。
【0237】
生細胞数において、コントロール(DMSO)及び上位20化合物の結果を
図6に示す。
図6に示すように、本実施例で用いた1080化合物の中でベルバミン(HY-N0714A、Med Chem Express)の存在下で培養した場合に、最も高い生細胞数を示した。この結果から、式(X-1)又は式(X-2)で表されるビスベンジルイソキノリンアルカロイドがフィーダーフリー培養条件において、細胞増殖を著しく促進する作用を有することが示された。
【0238】
[実施例5]
CCR7陽性細胞数を指標とした低分子化合物のスクリーニング
T-iPS-T細胞及び、実施例4で用いた1080化合物から抽出した266化合物を用い、実施例4の培養方法に従い6日間培養し、CCR7及びCD45RAの発現をFACSで解析した。化合物と培養した細胞を96ウェルプレートに移し、染色液(2%FBSを含むPBS)で洗浄後、CCR7-APC(Biolegend、353214)及びCD45RA-BV510(Biolegend、304142)で染色した。
【0239】
洗浄後、PIを含む染色液で再懸濁した。HTSを搭載したBD LSRFortessa cytometer(BD Bioscience)を用いて半量を解析し、すべての細胞を記録した。FlowJo10で解析したPI陰性細胞集団中のCD45RA(+)CCR7(+)細胞のイベント数(#Cells)について、コントロール(DMSO)及び上位20化合物をプロットしたグラフを
図7に示す。
【0240】
図7に示すように、本実施例で用いた266化合物の中で、ベルバミンがもっとも高いCD45RA(+)CCR7(+)細胞数を示した。以上の結果から、式(I)のビスベンジルイソキノリンアルカロイドがフィーダーフリー培養条件において未分化T細胞の未分化性を維持しながら細胞増殖を促進する化合物として抽出された。
【0241】
[実施例6]ビスベンジルイソキノリンアルカロイドの濃度依存性評価
T-iPS-T細胞のフィーダーフリー増殖における式(X-1)又は式(X-2)で表されるビスベンジルイソキノリンアルカロイドの濃度依存性を検討した。T-iPS-T細胞を15% FBS、1% PSG、PAA(50μg/mL)、ITS-G、IL-7(5ng/mL)、IL-12(50ng/mL)、IL-15(5ng/mL)、IL-18(50ng/mL)、IL-21(20ng/mL)及びz-VAD-fmk(10μM)を添加したalpha-MEM培地を用いて培養した。また、培地に、式(I)又は式(II)で示される各種ビスベンジルイソキノリンアルカロイド[ベルバミン(SIGMA、547190)、(+)-ベルバミン(Ark Pharm、AK167975)、E6-ベルバミン(Santa Cruz、SC-221573)又はセファランチン(Cayman、19648)]を、1nM、3nM、10nM、30nM、100nM、300nM、1μM、3μM又は10μMの濃度にて添加した。6日間培養後、実施例5の方法と同様に染色と測定を行った。結果を
図8及び
図9に示す。
【0242】
図8に示すように、式(X-1)又は式(X-2)で表されるビスベンジルイソキノリンアルカロイドの濃度依存的に生細胞数が増加し、1μMで最も増殖作用を認めた。また、
図9に示すように、式(I)のビスベンジルイソキノリンアルカロイドの濃度依存的に未分化細胞数が増加し、1μMで最も増殖作用を認めた。よって、以降の検討は全て、式(X-1)又は式(X-2)で表されるビスベンジルイソキノリンアルカロイドの培地中の濃度を1μMとして、実施することとした。
【0243】
[実施例7]PBMCフィーダーとの比較
T-iPS-T細胞を用い、PBMCフィーダーを用いる実施例2と同様の刺激方法、CD3/CD28 Dynabeadsを用いる実施例4と同様の刺激方法、又はCD3/CD28 Dynabeadsにベルバミン(SIGMA、547190) 1μMを加えた実施例4と同様の刺激方法の3方法を用いて培養し、増殖促進効果を比較した。PBMCフィーダー細胞はT-iPS-T細胞と識別するためにCellTrace CFSE Cell Proliferation Kit-For Flow Cytometry(CFSE、Invitrogen、100nM)で標識し、放射線照射処理を行った。
【0244】
実施例5と同様に染色及び測定を行った結果を
図10(A)及び(B)に示す。
図10(A)及び(B)に示すように、ベルバミンの存在下で培養することにより、フィーダー細胞存在下と比較して、生細胞数の顕著な増加が観察され、未分化細胞数は同等の結果となった。以上のことから、本発明は従来、T細胞の増殖に用いられてきたPBMCを代替出来るものといえる。
【0245】
[実施例8]低分子化合物のスクリーニング
実施例4により得られた結果を更に評価するため、再現性を評価した。方法は、実施例4と同様の方法で培養し、評価した。化合物はベルバミンを含む実施例4で用いた化合物のうち20化合物を選択して用い、化合物の溶媒であるDMSO(0.1%)を対照とした。なお、統計解析にはStudent’s t-testを用いた(*:p<0.05)。結果を
図11に示す。
【0246】
図11に示すように、DMSOと比較してベルバミンを筆頭に複数の化合物で有意な細胞数の増加を認め、ベルバミンがDMSOと比較してiPS-T細胞の増殖を亢進することがわかった。
【0247】
[実施例9]メモリーT細胞の増殖に寄与する既知化合物との比較
T-iPS-T細胞の培養における影響について、メモリーT細胞の増殖に寄与する既知化合物とベルバミンとを比較して評価した。方法は、1st expansion後のT-iPS-T細胞を実施例4と同様の方法でCD3/CD28 Dynabeadsで刺激し、既知化合物として知られるTWS119(Cayman、601514-19-6)(例えば、Gattinoni et al., Nat. Med., 15(7): 808-813, 2009)、(+)―JQ1(abcam、ab146612)(例えば、Gattinoni et al., Nat. Med., 15(7): 808-813, 2009)又はベルバミン(BBM、SIGMA社、547190)のいずれかを1μM添加した。化合物の溶媒であるDMSO(0.1%)を対照とした。
【0248】
実施例6と同様の培地で6日間培養後、実施例5の方法で細胞を染色し、測定した。FlowJo9で解析したPI陰性細胞のイベント数、及びPI陰性細胞中のCD45RA(+)CCR7(+)細胞のイベント数をデータとした。なお、統計解析にはStudent’s t-testを用いた(*:p<0.05)。結果を
図12(A)及び(B)に示す。
【0249】
図12(A)及び(B)に示すようにT-iPS-T細胞において上記既知化合物は増殖に寄与せず、ベルバミンのみ有意な増殖効果を示した。(+)―JQ1(abcam、ab146612)化合物については0.15μMも実施したが1μMと同様の結果であった。
【0250】
以上の結果から、既知化合物と比較してベルバミンがT細胞の培養ならびに製造に有用であることが示された。
【0251】
[実施例10]MAPKカスケード阻害剤との併用によるメモリーT細胞の増殖への効果
ベルバミンとMAPKカスケード阻害剤との併用によるメモリーT細胞の増殖への効果を検討した。方法は、1st expansion後のT-iPS-T細胞を実施例4と同様の方法でCD3/CD28 Dynabeadsで刺激し、ベルバミン(BBM)とCEP-32496(ERKカスケード阻害剤、Cayman、18776)、SB-203580(p38カスケード阻害剤、Cayman、13344)、Losmapimod(p38カスケード阻害剤、Cayman、13614)又はZM-336372(ERKカスケード阻害剤、Cayman、10010367)とを併用して添加した。各化合物の終濃度は1μMとした。化合物の溶媒であるDMSO(0.1%)を対照とした。
【0252】
実施例6と同様の培地で6日間培養後、実施例5の方法で細胞を染色し、測定した。FlowJo9で解析したPI陰性細胞集団中のCD45RA(+)CCR7(+)細胞のイベント数(#Cells)をプロットし、グラフ化した。なお、統計解析にはStudent’s t-testを用いた(*:p<0.05、**P<0.01、***P<0.001、****P<0.0001)。結果を
図13に示す。
【0253】
図13に示すように、ベルバミン単剤に加え、全ての併用条件においてDMSOと比較して有意な細胞増殖を認め、全ての併用条件の方がベルバミン単剤に比べて細胞増殖の亢進が認められた。
【0254】
以上の結果から、ベルバミンはERKカスケード又はp38カスケード等のMAPKカスケード阻害剤と併用することでベルバミン単独よりも更にメモリーT細胞の増殖を亢進出来ることが示された。
【0255】
[実施例11]ベルバミン誘導体のT細胞増殖への影響
ベルバミン誘導体のT細胞増殖への影響を検証した。方法は、1st expansion後のT-iPS-T細胞を実施例4と同様の方法で培養し、ベルバミン(BBM)又は13種類の誘導体[BBM1~13、Hebei Sundia MediTech Company Ltd.]を終濃度0.1nM、1nM、10nM、100nM又は1μMとなるよう各ウェル1種ずつ添加し、37℃にて5%CO2下で培養した。化合物の溶媒であるDMSO(0.1%)を対照とした。
【0256】
培養6日後、生細胞数測定試薬SF(nacalaitesque、07553)とマイクロプレートリーダー(SoftMaxPro 5.X、Molecular Devices、450nm/650nm)を用いて生細胞数を測定し、OD値をデータとした。なお、統計解析にはStudent’s t-testを用いた(*:p<0.05)。結果を表1に示す。
【0257】
表1におけるReference No.は以下の通りである。
1.Xie et al., Eur J Med Chem, 44(8: 3293-8, 2009
2.Tan et al., International Jornal of Mass Spetrometry, 386: 37-41, 2015
3.Nam et al., Mol Oncol, 6(5): 484-93, 2012
【0258】
表1においては、DMSOに対する値を算出し、小数第4位を四捨五入にて示している。表1において、*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、****P<0.0001である。また、実施例6についても同様に統計解析を行なった。結果を表2に示す。
【0259】
【0260】
【0261】
表1及び表2に示すように、16種類全ての誘導体でDMSOと比較して有意な細胞増殖の亢進を認めた。このことから、ベルバミン及びその誘導体がT細胞の製造に有用であることがわかった。
【0262】
[実施例12]T-iPS-T細胞の長期培養
ベルバミンを用いることによるT-iPS-T細胞の長期培養の可能性を評価した。実験スキームを
図14(A)に示す。まず、T-iPS細胞からフィーダーを用いずにT細胞を誘導した。iPS細胞の維持は、フィーダーフリーiPS細胞はStemFit AK02N培地(Ajinomoto)を用いた。iMatrix-511をコートした培養表面にiPS細胞を剥離剤[1×TrypLE Select(Thermo Fisher Scientific)をPBSで1/2に希釈し、0.5mol/l-EDTA溶液(pH8、Nacalai tesque)を添加し、終濃度0.5×TrypLE Select、0.75mM EDTA]を用いて剥離し、StemFit AK02Nに10μM Y-27632を加えた培地に継代、培養した(37℃、5%CO
2)。翌日、Stemfit AK02Nで培地交換を行った。この操作を週に一度繰り返し、iPS細胞を維持した。
【0263】
iPS細胞をEmbryoid Body形成法で分化誘導することにより、造血前駆細胞(HPCs)を作製した。フィーダーフリーiPS細胞を0.5×TrypLE Select、0.75mM EDTAで剥離した後、超低接着処理された6well plate(CORNING)に2~3×105cells/wellで播種した。10μM Y-27632(Nacalai tesque)及び10μM CHIR99021(Tocris Bioscience)を添加したStemfit AK02N培地を用い、低酸素条件下(5% 02)にて培養した(Day0)。
【0264】
翌日、1×Insulin、Transferrin、Selenium Solution(Thermo Fisher Scientific)、1×Glutamax(Thermo Fisher Scientific)、0.2×PSG、45mMモノチオグリセ口一ル(Wako)および50μg/ml PAA(Wako)を添加したStemPro34(Thermo Fisher Scientific)培地(EB培地)に50ng/ml BMP-4(Miltenyi Biotec)、50ng/ml VEGF-165A(Wako)及び50ng/ml bFGF(Wako)を加えて培養した(Day1、5% 02)。
【0265】
翌日、6μM SB431542(Wako)を添加して培養した(Day2、5% 02)。2日後、50ng/ml VEGF-165A、50ng/ml bFGF及び50ng/ml SCFを添加したEB培地で培養した(Day4、5% 02)。
【0266】
2日後、50ng/ml VEGF-165A、50ng/ml bFGF、50ng/ml SCF、30ng/ml TPO(Wako)及び10ng/ml FLT3L(Wako)を添加したEB培地で培養した(Day6)。その後、Day8まで細胞を5%CO2下で培養した。
【0267】
得られたHPCsを用いてCD4(+)CD8(+)T細胞を分化誘導した。Fc-DLL4(5μg/ml、Sino Biological Inc.)及びRetronectin(5μg/ml、タカラバイオ)によりコーティングした48well plateにHPCsを2000~3000細胞/ウェルで播種した。
【0268】
50ng/ml SCF(Wako)、50ng/ml IL-7(Wako)、50ng/ml Flt3L(Wako)、100ng/ml TPO(Wako)、30μM SDF-1α(Wako)、15μM SB203580(Tocris Bioscience)、55μM 2-メルカプトエタノール(Wako)、50μg/ml PAA、15% FBS及び1% PSGを添加したalpha-MEM培地を用いて21日間培養した。一週間ごとに新たなFc-DLL4とRetronectinをコートしたプレートを作製し、細胞を撒きなおした。2~3日毎に培地交換をおこなった。
【0269】
続いて、CD8beta(+)CD8alpha(+)T細胞を誘導した。詳細には、上記CD4(+)CD8(+)T細胞を含む細胞を48well plateに播種し、500ng/ml Anti-CD3抗体OKT3(eBioscience)、10nM Dexamthasone(デキサートR、Fuji Pharma)、10ng/ml IL-7(Wako)、50μg/mL PAA、15% FBS及び1% PSGを添加したalpha-MEM培地で培養した。
【0270】
3日後、10ng/ml IL-7(Wako)、50μg/mL PAA、15% FBS及び1% PSGに培地交換を行い培養した。7日後、細胞をCD8beta-PE(Beckman)、CD8alpha-FITC(BD Bioscience)で染色し、CD8beta(+)CD8alpha(+)T細胞をソーティングした。
【0271】
フィーダーフリー分化誘導したCD8beta(+)CD8alpha(+)T細胞(1500細胞/ウェル)を播種し、実施例4と同様の方法でCD3/CD28 Dynabeadsで刺激し、ベルバミン(BBM)1μM又は化合物の溶媒であるMilliQを対照として添加し、実施例6と同様の培地で培養した。14日目、28日目及び42日目にそれぞれ細胞を回収し、トリパンブルー法で生細胞数をカウントし、再刺激し培養した。56日目に細胞を回収し、生細胞数のカウントを行った。結果を
図14(B)に示す。
【0272】
図14(B)に示すように、MilliQを加えて培養した細胞は刺激毎にviabilityの低下が認められ、42日目以降の培養は不可能であった。一方で、ベルバミンを加えて培養した細胞は56日間の培養が可能であり、更にT-iPS-T細胞の増殖亢進も認められた。
【0273】
また、フィーダーを用いて分化誘導したT-iPS-T細胞の評価を行った。実験スキームを
図15(A)に示す。実施例1で分化誘導したT-iPS-T細胞(1500細胞/ウェル)を播種し、実施例4と同様の方法でCD3/CD28 Dynabeadsで刺激し、ベルバミン(BBM)1μM又は化合物の溶媒であるMilliQを対照として添加し、実施例6と同様の培地で培養した。14日目、28日目及び42日目にそれぞれ細胞を回収し、トリパンブルー法で生細胞数をカウントし、再刺激し培養した。56日目に細胞を回収し、生細胞数のカウントを行った。結果を
図15(B)に示す。
【0274】
図15(B)に示すように、MilliQを加えて培養した細胞は刺激毎にviabilityの低下が認められ、28日目以降の培養は不可能であった。一方で、ベルバミンを加えて培養した細胞は56日間の培養が可能であり、更に細胞の増殖亢進も認められた。
【0275】
従来、T細胞の増殖は実施例2及び実施例7で示したヒト健常人由来PBMCをフィーダーとして用いた方法が用いられている(非特許文献1)。本実施例の結果、ベルバミンを添加することでPBMCを用いずにT細胞の増殖を長期にわたって可能にし、更に細胞増殖の亢進が認められた。
【0276】
以上の結果から、ベルバミンを用いた細胞増殖はT細胞の増殖に用いられてきたヒトPBMCを代替出来るだけでなく、長期に渡る細胞増殖の結果、より多くの細胞を製造出来ることが示された。
【0277】
[実施例13]初代T細胞の増殖に与える影響
ベルバミンが初代T細胞(CD4T、CD8T細胞)の増殖に与える影響を検討した。実験スキームを
図16(A)に示す。方法は、PBMC(CTL社)からPan T Cell Isolation Kit,human(Miltenyi、130-096-535)を用いてCD3T細胞を精製した。精製したCD3T細胞(20000細胞/ウェル)を播種し、ベルバミン(BBM)1μM又は化合物の溶媒であるMilliQを対照として添加し、CD3/CD28 Dynabeads(60000ビーズ/ウェル)で刺激した。
【0278】
実施例6と同様の培地で6日間培養し、再度刺激を加えた。更に4日間培養後、トリパンブルー法で生細胞数をカウントするとともにCD4陽性細胞及びCD8陽性細胞の割合をFACSで解析した。FACSは化合物と培養した細胞を96ウェルプレートに移し、染色液(2%FBSを含むPBS)で洗浄後、CD4-BV421(Biolegend、305622)及びCD8β-PE(Beckman、IM2217U)で染色した。
【0279】
洗浄後、200μL/wellのPIを含む染色液で再懸濁した。HTSを搭載したBD LSRFortessa cytometer(BD Bioscience)を用いて100μL/wellを解析し、すべての細胞を記録した。
【0280】
FlowJo9で解析したPI陰性細胞集団中のCD8(+)又はCD4(+)細胞の陽性率に生細胞数を乗じた値をCD8陽性細胞数又はCD4陽性細胞数とした。なお、統計解析にはStudent’s t-testを用いた(*:p<0.05)。結果を
図16(B)及び(C)に示す。
【0281】
図16(B)及び(C)に示すように、初代T細胞をベルバミンと培養することでCD4T、CD8T細胞ともにMilliQと比較して有意な細胞増殖の亢進を認めた。CD4T細胞の中にはTh0、Th1、Th2、Th9、Th17、Th22、Tfh又はTreg等が含まれる。CD8T細胞の中にはTc、Tc1、Tc2又はTc17等が含まれる。
以上の結果から、ベルバミンがMilliQと比較してCD4T及びCD8T細胞の増殖を亢進することが示された。
【0282】
[実施例14]制御性T細胞の増殖における有用性
ベルバミン(BBM)の制御性T細胞(Treg)の増殖における有用性を検証した。方法は、3ドナーの健常人由来PBMC(CTL社)から追加実施例6と同様の方法でCD3T細胞を精製し、6日間培養した。6日間培養後、トリパンブルー法で生細胞数をカウントするとともにCD25(+)FoxP3(+)細胞の割合をFACSで解析した。
【0283】
FACSは培養細胞をfacs tubeに分取し、染色液(2%FBSを含むPBS)で洗浄後、CD3-APC(Biolegend、300412)、CD4-BV510(Biolegend、317444)、CD8-Pacific Blue(BD、558207)及びCD25-FITC(Biolegend、302604)で染色した。
【0284】
更に洗浄後、FoxP3/Transcription Factor Staining Buffer Set(eBioscience、00-5523)とFoxP3-PE(eBioscience、12-4776-41)を用いて細胞内染色を行ない、BD LSRFortessa cytometer(BD Bioscience)を用いて測定した。
【0285】
FlowJo9で解析したCD4(+)細胞中のFoxP3(+)細胞の陽性率に生細胞数を乗じた値をFoxP3陽性細胞数とした。結果を
図17(A)及び(B)に示す。
【0286】
図17(A)及び(B)に示すように、ベルバミンにより3ドナー全てでMilliQと比較してFoxP3陽性細胞数の増加を認めた。
以上の結果、ベルバミンがMilliQと比較してTregの増殖を亢進することが示された。
【0287】
[実施例15]ベルバミンが特に作用するT細胞の分析
非特許文献4には、T細胞には階層性が存在することが報告されている(
図18A)。本実施例ではベルバミンがT細胞内で作用する分画を検証した。方法は、健常人由来PBMC(CTL社)を染色液(2%FBSを含むPBS)で洗浄後、CCR7-APC(Biolegend、353214)、CD45RA-BV510(Biolegend、304142)、CD45RO-APC―Cy7(Biolegend、307228)、CD95-PC―Cy7(Biolegend、305622)及びCD8β-PE(Beckman、IM2217U)、CD4-BV421(Biolegend、317434)で染色した。
【0288】
洗浄後、PIを含む染色液で再懸濁し、BD AriaII Cell Sorter(BD Bioscience)を用いてCD8β(+)細胞中のCCR7(+)CD45RA(+)CD95(-)CD45RO(-)をナイーブT細胞、CCR7(+)CD45RA(+)CD95(+)CD45RO(+)をステムセルメモリーT細胞、CCR7(+)CD45RA(-)CD45RO(+)をセントラルメモリーT細胞、CCR7(-)CD45RA(-)CD45RO(+)をエフェクターメモリーT細胞としてソートした。
【0289】
各細胞(およそ3000細胞/ウェル)を播種し、ベルバミン(BBM)1μM又は化合物の溶媒であるMilliQを対照として添加し、CD3/CD28 Dynabeads(およそ9000ビーズ/ウェル)で刺激した。実施例6と同様の培地を用いて培養した。
【0290】
培養6、9、12及び14日後にそれぞれトリパンブルー法で生細胞数をカウントした。統計解析にはStudent’s t-testを用いた(*:p<0.05)。ソート時のゲーティングを
図18Bに、またセルカウントの結果を
図18Cに示す。
【0291】
図18B及びCに示すように、ナイーブT細胞、ステムセルメモリーT細胞でベルバミンによる有意な細胞増殖の亢進を認めた。
以上の結果、ベルバミンはナイーブT細胞やステムセルメモリーT細胞を含むT細胞に作用することが示された。
【0292】
[実施例16]細胞のマウスへの生着に及ぼす影響
ベルバミンと培養した細胞がマウスへの生着に及ぼす影響を検討した。実験スキームを
図19(A)に示す。方法は、健常人由来PBMC(CTL社)からCD8 T Cell Isolation Kit,human(Miltenyi、130-096-495)を用いてCD8T細胞を精製した。
【0293】
精製したCD8T細胞(20000細胞/ウェル)を播種し、ベルバミン(BBM)1μM又は化合物の溶媒であるMilliQを対照として添加し、追加実施例6と同様の培地と刺激方法で培養し、10日間培養した細胞を移植細胞とした。
【0294】
実験動物には6~11週齢オスのNSGマウス(日本チャールス・リバー)を用い、尾静脈より移植した(およそ4x106細胞)。移植から2週間後に脾臓、末梢血、骨髄を採取しCD8β及びCD45の陽性率をFACSで解析した。
【0295】
FACSは脾臓と骨髄はホモジナイズ処理後、末梢血は溶血処理後に96ウェルプレートに移し、染色液(2%FBSを含むPBS)で洗浄後、CD8β-PEーcy7(eBioscience、25-5273-42)及びCD45-APC-Cy7(Biolegend、304014)で染色した。
【0296】
洗浄後、PIを含む染色液で再懸濁した。BD LSRFortessa cytometer(BD Bioscience)を用いて解析した。FlowJo9で解析したPI陰性細胞集団中のCD8β(+)CD45(+)細胞の陽性率を測定した。なお、統計解析にはStudent’s t-testを用いた(*:p<0.05)。結果を
図19(B)に示す。
【0297】
図19(B)に示すように、脾臓、末梢血、骨髄の全てにおいてベルバミンと培養した細胞はMilliQと培養した細胞と比較して有意な生着を認めた。
以上の結果、ベルバミンと培養した細胞を移植すると、MilliQと培養した細胞と比較して生体内での生着が亢進し、その後の増殖と治療効果を向上させる可能性が示唆された。
【0298】
[実施例17]NK細胞の増殖亢進への影響
NK細胞に対するベルバミンの作用を検討した。実験スキームを
図20(A)に示す。方法は、3ドナーの健常人由来PBMC(CTL社)からNK Cell Isolation Kit, human(Miltenyi、130-092-657)を用いてNK細胞を精製した。
【0299】
精製前後のNK細胞を染色液(2%FBSを含むPBS)で洗浄後、CD56-FITC(Biolegend、362546)及びCD3-APC-Cy7(Biolegend、300318)で染色した。
【0300】
洗浄後、ヨウ化プロピジウムを含む染色液で再懸濁し、BD FACSCantoII Flow Cytometer(BD Bioscience)を用いて測定した。FlowJo10で解析したPI陰性細胞集団中のCD3(-)、CD56(+)細胞の割合を確認した。NK細胞精製前後のFACSプロットを
図20(B)に示す。
【0301】
図20(B)に示すように、NK細胞を示すCD3(-)、CD56(+)細胞の割合は9割以上と十分であった。この精製したNK細胞(37000細胞/ウェル)を播種し、15% FBS(Biological Industries、04-001-1A)、L-Ascorbic Acid 2-Phosphate Sesquimagnesium Salt Hydrate(L―asc―2P、50μg/mL、nacalai tesque、13570-66)、ITS-G、IL-7(10ng/mL)及びIL-15(5ng/mL)を添加したMEM Alpha培地(gibco、12571-063)を用いて培養した。
【0302】
培地にはベルバミン(BBM)1μM又は化合物の溶媒であるMilliQを対照として添加し、14日間培養後にトリパンブルー法で生細胞数をカウントした。培養後の細胞数の結果を
図20(C)に示す。
【0303】
図20(C)に示すように、ベルバミンにより3ドナー全てでMilliQと比較してNK細胞数の増加を認めた。
以上の結果、ベルバミンがMilliQと比較してNK細胞の増殖を亢進させることが示された。
【0304】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更及び変形が可能であることは、当業者にとって明らかである。なお、本出願は、2018年12月6日付けで出願された日本特許出願(特願2018-229478)に基づいており、その全体が引用により援用される。