(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2022050705
(43)【公開日】2022-03-30
(54)【発明の名称】耐摩耗鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20220323BHJP
C21D 8/02 20060101ALI20220323BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20220323BHJP
【FI】
C22C38/00 301H
C21D8/02 B
C22C38/60
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022011235
(22)【出願日】2022-01-27
(62)【分割の表示】P 2021507722の分割
【原出願日】2020-08-17
(31)【優先権主張番号】P 2019168182
(32)【優先日】2019-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼山 直樹
(72)【発明者】
【氏名】木津谷 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】村上 善明
(57)【要約】
【課題】300~500℃の高温下で高い耐摩耗性を発揮し、かつ低温での靭性を兼ね備えた耐摩耗鋼板を提供する。
【解決手段】C:0.10%以上0.23%以下、Si:0.05%以上1.00%以下、Mn:0.10%以上2.00%以下、P:0.050%以下、S:0.050%以下、Al:0.050%以下、Cr:0.05%以上5.00%以下、N:0.0100%以下およびO:0.0100%以下を含み、かつ1.0≦0.45Cr+Mo≦2.25を満足し、残部がFeおよび不可避的不純物である成分組成と、鋼板の表面から1mmの深さにおけるマルテンサイトの体積率が95%以上である組織とを有し、前記鋼板の表面から1mmの深さにおいて、400℃におけるビッカース硬さを288以上、かつ25℃におけるブリネル硬さを360~490HBW10/3000とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で
C:0.10%以上0.23%以下、
Si:0.05%以上0.29%以下、
Mn:0.10%以上2.00%以下、
P:0.050%以下、
S:0.050%以下、
Al:0.050%以下、
Cr:1.00%以上5.00%以下、
N:0.0100%以下および
O:0.0100%以下
を含み、さらに、
Mo:1.80%以下、
Cu:5.00%以下、
Ni:5.00%以下、
V:1.00%以下、
W:1.00%以下、
Co:1.00%以下
Nb:0.050%以下、
Ti:0.100%以下、
B:0.0100%以下、
Ca:0.0200%以下、
Mg:0.0200%以下および
REM:0.0200%以下
のうちから選ばれた1種以上を含有し、かつ次式(1)を満足し、残部がFeおよび不可避的不純物である成分組成と、鋼板の表面から1mmの深さにおけるマルテンサイトの体積率が95%以上である組織とを有し、
前記鋼板の表面から1mmの深さにおいて、400℃におけるビッカース硬さが288以上、かつ25℃におけるブリネル硬さが360~490HBW10/3000である、耐摩耗鋼板。
1.00≦0.45Cr+Mo≦2.25・・・(1)
ただし、式(1)中の元素記号は各元素の含有量(質量%)であり、含有のない元素の含有量は0とする。
【請求項2】
請求項1に記載の耐摩耗鋼板を製造する方法であって、
鋼素材に熱間圧延を施して熱延鋼板とし、該熱延鋼板に、冷却開始温度がAr3変態点以上かつ冷却停止温度がMs点以下で冷却速度が5℃/s以上である直接焼入れ、または、冷却開始温度がAc3変態点以上かつ冷却停止温度がMf点以下で冷却速度が5℃/s以上である再加熱焼入れを行う、耐摩耗鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械、産業機械、造船、土木、建築等の鋼構造物の各種部材用として好適な、耐摩耗鋼板およびその製造方法に係り、特に、高温下での使途に供する耐摩耗鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の耐摩耗性は、硬度を高くすることで向上できることが知られている。そのため合金元素を大量に添加した合金鋼に焼入等の熱処理を施すことによって得られる高硬度鋼が、耐摩耗鋼として幅広く用いられてきた。
【0003】
例えば、特許文献1および2では、表層部の硬度が、ブリネル硬さ(HB)で360~490である耐摩耗鋼板が提案されている。前記耐摩耗鋼板では、所定の量の合金元素を添加するとともに、焼入れを行ってマルテンサイト主体の組織とすることによって、高い耐摩耗性を実現している。
【0004】
ここで、耐摩耗鋼の用途の中には、鋼板表面の温度が300~500℃と高温になる場合が少なくない。このような高温下での使用寿命を長くするためには、室温での耐摩耗性のみならず、高温下での高い耐摩耗性を確保することが重要である。
【0005】
この高温下での耐摩耗性を向上させた技術として、例えば、特許文献3では、所定の合金元素を添加し複合析出物を分散させることにより、高温下での高い耐摩耗性を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4645306号公報
【特許文献2】特許第4735191号公報
【特許文献3】特開平10-204575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、一般的に高温下で使用される耐摩耗鋼においても、常に高温下に曝されているわけではなく、使用状況によっては低温下で使用される場合もある。従って高温での高い耐摩耗性と共に低温での靭性も要求される。特許文献3では、耐摩耗性に併せて低温での靭性の向上に関しても検討されているが、所定の合金元素を添加し複合析出物を分散させることにより、高温下での高い耐摩耗性を実現しているため、満足な低温での靭性を得ることは難しかった。
【0008】
本発明は、上記の問題を解決し、300~500℃の高温下で高い耐摩耗性を発揮し、かつ低温での靭性を兼ね備えた耐摩耗鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために、耐摩耗鋼板の高温耐摩耗性に影響する各種要因について、鋭意検討を重ねた。高温下における耐摩耗性は高温硬さに大きく影響を受けること、つまり、高温での耐摩耗性の向上のためには、高温硬さの低下を抑制することが肝心であり、具体的には、試験温度:400℃におけるビッカース硬さHV400を288以上とすることにより、優れた高温耐摩耗性が発揮されることを知見した。
【0010】
そして、更なる研究により、高温硬さの低下を抑制するには、Cr、必要に応じて、さらにMoの所定量以上の添加が有効であり、上記の試験温度:400℃におけるビッカース硬さHV400を288以上とするためには、1.0≦0.45Cr+Moを満足する成分添加が必要であることを見出した。
【0011】
まず、本発明の基礎となった実験結果について説明する。
質量%で、0.14%C-0.25%Si-0.50%Mn-0.005%P-0.002%S-0.015%Ti-0.03%Al-(0~4.5)%Cr-(0~2.25)%Moを含有する組成の鋼素材(スラブ)を、1150℃に加熱した後熱間圧延して、板厚:25mmの熱延板とした。熱間圧延後の鋼板を空冷し、下記の(i)式で示すAc3点以上の加熱温度で再加熱後、室温まで水冷する焼入れ処理を施した。
Ac3(℃)=912.0-230.5×C+31.6×Si-20.4×Mn-39.8×Cu-18.1×Ni-14.8×Cr+16.8×Mo・・・(i)
【0012】
得られた鋼板から板厚方向に1mmの位置が試験片表面(摩耗試験面)となるように、円柱状の試験片(径8mm×長さ20mm)を採取し、高温下での摩耗試験を実施した。摩耗試験は、
図1に模式的に示す摩耗試験装置を用いた。
すなわち、摩耗試験装置を設置した雰囲気炉の温度を400℃に保った状態で、試験機内のロータに接続したディスク状の摩耗材(主成分:アルミナ)の上に試験片を載置し、試験片の上部に接続した錘(おもり)によって98Nの荷重を負荷しながら、摩耗材をロータ回転速度:60m/minで300回転させ、試験を行った。この試験後の摩耗量を測定し、後述の実施例での高温下での耐摩耗性の評価手法に従って、耐摩耗比=(軟鋼板の摩耗量)/(各鋼板の摩耗量)を求めて評価した。そして、この耐摩耗比が1.8以上である場合を「高温下での耐摩耗性に優れる」と判定した。
この摩耗試験の結果を整理して、
図2に示す。
図2の結果から、高温での耐摩耗性を向上させるためには、Cr、必要に応じて含有させるMoを所定量以上で添加すること、具体的には点線を境界とする領域、1.0≦0.45Cr+Moを満足する、含有量にするのが有効であることがわかる。
【0013】
また、300~500℃の温度域では、特に固溶状態のCr、さらにはMoが耐摩耗性に効果を発揮することを知見した。すなわち、上記温度域より高温域で使用される従前の耐熱鋼では、フェライト組織にCrやMoを多量に添加し炭窒化物を析出させて高温硬さを発揮させているのが通例であり、本発明での上記検討結果は、従前の耐熱鋼とは異なる発想を基に知見されたものである。
【0014】
さらに、固溶状態のCr、さらにMoは高温での耐摩耗性に寄与するのに加え、炭窒化物を析出させて低温での靭性を良好にする利点がある。
【0015】
本発明は、かかる知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨は次の通りである。
1.質量%で
C:0.10%以上0.23%以下、
Si:0.05%以上1.00%以下、
Mn:0.10%以上2.00%以下、
P:0.050%以下、
S:0.050%以下、
Al:0.050%以下、
Cr:1.00%以上5.00%以下、
N:0.0100%以下および
O:0.0100%以下
を含み、かつ次式(1)を満足し、残部がFeおよび不可避的不純物である成分組成と、鋼板の表面から1mmの深さにおけるマルテンサイトの体積率が95%以上である組織とを有し、
前記鋼板の表面から1mmの深さにおいて、400℃におけるビッカース硬さが288以上、かつ25℃におけるブリネル硬さが360~490HBW10/3000である、耐摩耗鋼板。
1.00≦0.45Cr+Mo≦2.25・・・(1)
ただし、式(1)中の元素記号は各元素の含有量(質量%)であり、含有のない元素の含有量は0とする。
【0016】
2.前記成分組成はさらに、質量%で、
Mo:1.80%以下、
Cu:5.00%以下、
Ni:5.00%以下、
V:1.00%以下、
W:1.00%以下、
Co:1.00%以下
Nb:0.050%以下、
Ti:0.100%以下、
B:0.0100%以下、
Ca:0.0200%以下、
Mg:0.0200%以下および
REM:0.0200%以下
のうちから選ばれた1種以上を含有する前記1に記載の耐摩耗鋼板。
【0017】
3.前記1または2に記載の耐摩耗鋼板を製造する方法であって、
鋼素材に熱間圧延を施して熱延鋼板とし、該熱延鋼板に、冷却開始温度がAr3変態点以上かつ冷却停止温度がMs点以下で冷却速度が5℃/s以上である直接焼入れ、または、冷却開始温度がAc3変態点以上かつ冷却停止温度がMf点以下で冷却速度が5℃/s以上である再加熱焼入れを行う、耐摩耗鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高温下で高い耐摩耗性を発揮する耐摩耗鋼板を提供することができるため、産業上格段の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】CrおよびMoの含有量と摩耗試験結果との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の耐摩耗鋼板について具体的に説明する。本発明において、耐摩耗鋼板およびその製造に供する鋼素材は、上記成分組成を有することが重要である。そこで、まず本発明において鋼の成分組成を上記のように限定する理由を説明する。なお、成分組成に関する「%」は、特に断らない限り「質量%」を意味するものとする。
【0021】
[成分組成]
C:0.10%以上0.23%以下
Cは、鋼板表層の硬さを増加させ、耐摩耗性を向上させる作用を有する元素である。さらに、高温での硬度低下を抑制し、高温となる環境で耐摩耗性を向上させる、本発明において、重要な元素の1つである。前記効果を得るために、C含有量を0.10%以上とする。他の合金元素の含有量を少なくし、より低コストで製造するという観点からは、C含有量は0.12%以上とすることが好ましい。一方、C含有量が0.23%を超えると、炭化物を形成し易くなり、かえって高温時の硬度低下を招く。また、室温での表面硬度が高くなるため靭性が低下する。そのため、C含有量は0.23%以下とする。また、高温時の硬度低下を抑制する、あるいは、靭性の低下を抑制する観点からは、C含有量を0.21%以下とすることが好ましい。
【0022】
Si:0.05%以上1.00%以下
Siは、脱酸剤として作用する元素である。また、Siは、鋼中に固溶し、固溶強化により基地相の硬さを上昇させる作用を有している。これらの効果を得るために、Si含有量を0.05%以上とする。Si含有量は、0.10%以上とすることが好ましく、0.20%以上とすることがより好ましい。一方、Si含有量が1.00%を超えると、靭性が低下し、さらに介在物量が増加するなどの問題が生じる。そのため、Si含有量を1.00%以下とする。Si含有量は0.80%以下とすることが好ましく、0.60%以下とすることがより好ましく、0.40%以下とすることがさらに好ましい。
【0023】
Mn:0.10%以上2.00%以下
Mnは、鋼の焼入れ性を増加させる作用を有する元素であり、鋼板表層の硬さを増加させ、耐摩耗性を向上させる作用を有する元素である。また、固溶状態で存在し高温での硬度低下を抑制させる効果を有する。これら効果を得るために、Mn含有量を0.10%以上とする。Mn含有量は、0.30%以上とすることが好ましく、0.50%以上とすることがより好ましい。一方、Mn含有量が2.00%を超えると、靭性が低下することに加えて、合金コストが過度に高くなってしまう。そのため、Mn含有量は2.00%以下とする。Mn含有量は、1.80%以下とすることが好ましく、1.60%以下とすることがより好ましい。
【0024】
P:0.050%以下
Pは、不可避的不純物として含有される元素であり、粒界に偏析することによって母材の靱性を低下させるなど、悪影響を及ぼす。そのため、できる限りP含有量を低くすることが望ましいが、0.050%以下であれば許容できる。なお、P含有量の下限は特に限定されず、0%であってよいが、通常、Pは不純物として鋼中に不可避的に含有される元素であるため、工業的には0%超であってよい。また、過剰の低減は精錬コストの高騰を招くため、P含有量は0.0005%以上とすることが好ましい。
【0025】
S:0.050%以下
Sは、不可避的不純物として含有される元素であり、MnS等の硫化物系介在物として鋼中に存在し、母材の靱性を低下させるなど、悪影響を及ぼす。そのため、できる限りS含有量を低くすることが望ましいが、0.050%以下であれば許容できる。なお、S含有量の下限は特に限定されず、0%であってよいが、通常、Sは不純物として鋼中に不可避的に含有される元素であるため、工業的には0%超であってよい。また、過剰の低減は精錬コストの高騰を招くため、S含有量は0.0005%以上とすることが好ましい。
【0026】
Al:0.050%以下
Alは、脱酸剤として作用するとともに、結晶粒を微細化する作用を有する元素である。これらの効果を得るためには、Al含有量を0.010%以上とすることが好ましい。一方、Al含有量が0.050%を超えると、酸化物系介在物が増加して清浄度が低下し、靭性が低下する。そのため、Al含有量は0.050%以下とする。なお、Al含有量は0.040%以下とすることが好ましく、0.030%以下とすることがより好ましい。
【0027】
Cr:1.00%以上5.00%以下
Crは、鋼板表層の硬さを増加させ、耐摩耗性を向上させる作用を有する元素である。さらに、固溶状態で存在し高温での硬度低下を抑制し、高温となる環境で耐摩耗性を向上させる本発明において重要な元素の1つである。前記効果を得るために、Cr含有量を1.00%以上とする。Cr含有量は、1.25%以上とすることが好ましく、1.50%以上とすることがより好ましい。
一方、Cr含有量が5.00%を超えるとCr炭化物が析出するため、かえって高温硬度は低下する。また、過剰なCrの添加は靭性の低下を招く。そのため、Cr含有量は5.00%以下とする。Cr含有量は、4.50%以下とすることが好ましく、4.00%以下とすることがより好ましい。
【0028】
N:0.0100%以下
Nは、不可避的不純物として含有される元素であり母材の靱性を低下させるなど、悪影響を及ぼすが、0.0100%以下の含有は許容できる。一方、N含有量の下限は特に限定されず、0%であってよいが、通常、Nは不純物として鋼中に不可避的に含有される元素であるため、工業的には0%超であってよい。
【0029】
O:0.0100%以下
Oは、不可避的不純物として含有される元素であり母材の靱性を低下させるなど、悪影響を及ぼすが、0.0100%以下の含有は許容できる。一方、O含有量の下限は特に限定されず、0%であってよいが、通常、Oは不純物として鋼中に不可避的に含有される元素であるため、工業的には0%超であってよい。
【0030】
さらに、本発明の耐摩耗鋼板では、以上の基本成分において、次式(1)を満足することが肝要である。
1.00≦0.45Cr+Mo≦2.25 ・・・(1)
本発明では、高温での耐摩耗性を向上させるために、Cr、必要に応じて後述のMoを所定の量以上添加することにより、高温での耐摩耗性を向上している。かように、Crの単独添加、さらに必要に応じてMoをCrと共に添加する複合添加において、上式(1)を満足することが、特に400℃における硬度を確保するために重要である。すなわち、0.45Cr+Mo<1.0では、表層から1mmの深さの400℃における硬度が低下し、高温での耐摩耗性が低下する。このため、1.00≦0.45Cr+Moとした。さらに高温での耐摩耗性を向上させるためには、1.10≦0.45Cr+Moとすることが好ましく、1.20≦0.45Cr+Moとすることがより好ましい。
一方、0.45Cr+Mo>2.25になると、靭性が大きく劣化することになる。そのため、0.45Cr+Mo≦2.25とした。
【0031】
以上が本発明における基本の成分組成であるが、任意に、Mo:1.80%以下、Cu:5.00%以下、Ni:5.00%以下、V:1.00%以下、W:1.00%以下、Co:1.00%以下、Nb:0.050%以下、Ti:0.100%以下、B:0.0100%以下、Ca:0.0200%以下、Mg:0.0200%以下およびREM:0.0200%以下からなる群より選択される1以上を、さらに含有することができる。
【0032】
Mo:1.80%以下
Moは、Crと同様に高温下での耐摩耗性を向上させる作用を有する元素であり、高温下での耐摩耗性を向上させるために任意に添加することができる。Moを添加する場合、上記効果を得るために、Mo含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Mo含有量が1.80%を超えると、靭性の低下や合金コストの上昇を招く。そのため、Moを添加する場合、Mo含有量を1.80%以下とする。さらに、Moを添加する場合は、上記の式(1)を満足する必要がある。なお、Mo無添加の鋼において、化学分析で微量のMoが検出された場合は、上記の(1)式に分析結果を反映することとする。
【0033】
Cu:5.00%以下
Cuは、高温下での耐摩耗性を向上させる作用を有する元素であり、高温下での耐摩耗性を向上させるために任意に添加することができる。Cuを添加する場合、前記効果を得るためにCu含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Cu含有量が5.00%を超えると、溶接性の劣化や合金コストの上昇を招く。そのため、Cuを添加する場合、Cu含有量を5.00%以下とする。
【0034】
Ni:5.00%以下
Niは、Cuと同様に高温下での耐摩耗性を向上させる作用を有する元素であり、高温下での耐摩耗性を向上させるために任意に添加することができる。Niを添加する場合、前記効果を得るためにNi含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Ni含有量が5.00%を超えると、溶接性の劣化や合金コストの上昇を招く。そのため、Niを添加する場合、Ni含有量を5.00%以下とする。
【0035】
V:1.00%以下
Vは、Cuと同様に高温下での耐摩耗性を向上させる作用を有する元素であり、鋼板内部の硬度を向上させるために任意に添加することができる。Vを添加する場合、前記効果を得るためにV含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、V含有量が1.00%を超えると、溶接性の劣化や合金コストの上昇を招く。そのため、Vを添加する場合、V含有量を1.00%以下とする。
【0036】
W:1.00%以下
Wは、Cuと同様に高温下での耐摩耗性を向上させる作用を有する元素であり、高温下での耐摩耗性を向上させるために任意に添加することができる。Wを添加する場合、前記効果を得るためにW含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、W含有量が1.00%を超えると、溶接性の劣化や合金コストの上昇を招く。そのため、Wを添加する場合、W含有量を1.00%以下とする。
【0037】
Co:1.00%以下
Coは、Cuと同様に高温下での耐摩耗性を向上させる作用を有する元素であり、鋼板内部の硬度を向上させるために任意に添加することができる。Coを添加する場合、前記効果を得るためにCo含有量を0.01%以上とすることが好ましい。一方、Co含有量が1.00%を超えると、溶接性の劣化や合金コストの上昇を招く。そのため、Coを添加する場合、Co含有量を1.00%以下とする。
【0038】
Nb:0.050%以下
Nbは、高温下での耐摩耗性の向上に寄与する元素である。Nbを添加する場合、前記効果を得るためにNb含有量を0.005%以上とすることが好ましく、0.007%以上とすることがより好ましい。一方、Nb含有量が0.050%を超えると、NbCが多量に析出し、加工性が低下する。そのため、Nbを添加する場合、Nb含有量を0.050%以下とする。Nb含有量は0.040%以下とすることが好ましい。0.030%以下とするのがさらに好ましい。
【0039】
Ti:0.100%以下
Tiは、窒化物形成傾向が強く、Nを固定して固溶Nを低減する作用を有する元素である。そのため、Tiの添加により、母材および溶接部の靭性を向上させることができる。また、TiとBの両者が添加される場合、TiがNを固定することによってBNの析出が抑制され、その結果、Bの焼入れ性向上効果が助長される。これらの効果を得るために、Tiを添加する場合、Ti含有量を0.010%以上とすることが好ましく、0.012%以上とすることがより好ましい。一方、Ti含有量が0.100%を超えると、TiCが多量に析出し、加工性を低下させる。そのため、Tiを含有する場合、Ti含有量は0.100%以下とする。Ti含有量は、0.090%以下とすることが好ましい。0.080%以下とするのがさらに好ましい。
【0040】
B:0.0100%以下
Bは、微量の添加でも焼入れ性を著しく向上させる作用を有する元素である。したがって、Bを添加することにより焼入時のマルテンサイトの形成を助長し、耐摩耗性をさらに向上させることができる。前記効果を得るために、Bを添加する場合、B含有量を0.0001%以上とすることが好ましく、0.0005%以上とすることがより好ましく、0.0010%以上とすることがさらにより好ましい。一方、B含有量が0.0100%を超えると溶接性が低下する。そのため、Bを添加する場合、B含有量を0.0100%以下とする。B含有量は0.0050%以下とすることが好ましい。0.0030%以下とすることがさらに好ましい。
【0041】
Ca:0.0200%以下
Caは、Sと結合し、圧延方向に長く伸びるMnS等の形成を抑制する作用を有する元素である。したがって、Caを添加することにより、硫化物系介在物が球状を呈するように形態制御し、溶接部等の靭性を向上させることができる。前記効果を得るために、Caを添加する場合、Ca含有量を0.0005%以上とすることが好ましい。一方、Ca含有量が0.0200%を超えると、鋼の清浄度が低下する。清浄度の低下は、表面疵の増加による表面性状が劣化と、曲げ加工性の低下を招く。そのため、Caを添加する場合、Ca含有量を0.0200%以下とする。
【0042】
Mg:0.0200%以下
Mgは、Caと同様、Sと結合し、圧延方向に長く伸びるMnS等の形成を抑制する作用を有する元素である。したがって、Mgを添加することにより、硫化物系介在物が球状を呈するように形態制御し、溶接部等の靭性を向上させることができる。前記効果を得るために、Mgを添加する場合、Mg含有量を0.0005%以上とすることが好ましい。一方、Mg含有量が0.0200%を超えると、鋼の清浄度が低下する。清浄度の低下は、表面疵の増加による表面性状が劣化と、曲げ加工性の低下を招く。そのため、Mgを添加する場合、Mg含有量を0.0200%以下とする。
【0043】
REM:0.0200%以下
REM(希土類金属)は、Ca、Mgと同様、Sと結合し、圧延方向に長く伸びるMnS等の形成を抑制する作用を有する元素である。したがって、REMを添加することにより、硫化物系介在物が球状を呈するように形態制御し、溶接部等の靭性を向上させることができる。前記効果を得るために、REMを添加する場合、REM含有量を0.0005%以上とすることが好ましい。一方、REM含有量が0.0200%を超えると、鋼の清浄度が低下する。清浄度の低下は、表面疵の増加による表面性状が劣化と、曲げ加工性の低下を招く。そのため、REMを添加する場合、REM含有量を0.0200%以下とする。
【0044】
本発明の耐摩耗鋼板は、上記成分組成を有することに加えて、鋼板の表面から1mmの深さにおけるマルテンサイトの体積率が95%以上である組織を有し、前記鋼板の表面から1mmの深さにおいて、400℃におけるビッカース硬さが288以上、かつ25℃におけるブリネル硬さが360~490HBW10/3000である。鋼の組織および硬度を上記のように限定する理由を、以下に説明する。
【0045】
[組織]
本発明の耐摩耗鋼板の組織について説明する。
[鋼板の表面から1mmの深さにおけるマルテンサイトの体積率が95%以上]
鋼板の表面から1mmの深さにおけるマルテンサイトの体積率が95%未満であると、鋼板の基地組織の硬度が低下するため、耐摩耗性が劣化する。そのため、マルテンサイトの体積率を95%以上とする。マルテンサイト以外の残部組織は特に限定されないが、フェライト、パーライト、オーステナイト、ベイナイトが存在してよい。一方、マルテンサイトの体積率は高いほどよいため、該体積率の上限は特に限定されず、100%であってよい。なお、前記マルテンサイトの体積率は、耐摩耗鋼板の表面から1mmの深さの位置における値とする。また、マルテンサイトの体積率は、後述の実施例に記載した方法で測定することができる。
【0046】
[硬さ]
[400℃におけるビッカース硬さが288以上]
高温下での耐摩耗性についても、該鋼板の表面から1mmの深さ(表層部ともいう)における高温下の硬度を高めることにより向上させることができる。鋼板の表面から1mmの深さの400℃における硬さが288未満では、十分な耐摩耗性を得ることができない。好ましくは、306以上である。なお、上限については特に限定する必要はないが、低合金化および低コスト化の観点からは、490以下とすることが好ましい。
【0047】
なお、400℃における硬さを規定するのは、耐摩耗鋼板の使用環境の中には、鋼板表面の温度が300℃以上と高温になる場合が少なくないことから、硬度の規定を該高温域の下限に対して余裕をもった、400℃において規定した。
【0048】
ここで、前記ビッカース硬さは、ビッカース硬度計(加熱装置付き)を用いて、400℃に試験片(鋼板)の温度を保持し、JIS Z 2252「高温ビッカース硬さ測定方法」の規定に準拠して、荷重:1kgf(試験力:9.8N)で、鋼板表面から1mmの深さの位置で測定した値を用いるものとする。
【0049】
[25℃におけるブリネル硬さが360~490HBW10/3000]
鋼板の耐摩耗性は、該鋼板の表面から1mmの深さ(表層部)における硬度を高めることにより向上させることができる。鋼板表層部の25℃における硬度がブリネル硬さで360HBW未満では、十分な耐摩耗性を得ることができない。一方、鋼板表層部の25℃における硬度がブリネル硬さで490HBWを超えると、母材の靭性が劣化する。そのため、本発明では、鋼板表層部の25℃における硬度を、ブリネル硬さで360~490HBWとする。なお、ここで前記硬度は、耐摩耗鋼板の表面から1mmの深さの位置におけるブリネル硬さとする。また、前記ブリネル硬さは、直径10mmのタングステン硬球を使用し、荷重3000kgfで測定した値(HBW10/3000)とする。
【0050】
なお、本発明における鋼板の厚みは特に限定されず、例えば板厚が100mmの厚鋼板についても本発明の適用が可能である。
【0051】
次に、本発明耐摩耗鋼板の製造方法について説明する。
上記した成分組成を有する鋼素材を加熱し、熱間圧延を施して熱延鋼板とし、該熱延鋼板に、冷却開始温度がAr3変態点以上かつ冷却停止温度がMf点以下で冷却速度が5℃/s以上である直接焼入れ、または、冷却開始温度がAc3変態点以上かつ冷却停止温度がMf点以下で冷却速度が5℃/s以上である再加熱焼入れを行って耐摩耗鋼板とする。
【0052】
まず、鋼素材の製造方法は、とくに限定する必要はないが、上記した成分組成を有する溶鋼を、転炉等の公知の溶製方法で溶製し、連続鋳造法等の公知の鋳造方法で、所定寸法のスラブ等の鋼素材とすることが好ましい。なお、造塊-分解圧延法により、所定寸法のスラブ等の鋼素材としてもなんら問題はない。
【0053】
得られた鋼素材は、冷却することなく直接、あるいは冷却したのち、好ましくは加熱温度:900℃以上1250℃以下に再加熱して、熱間圧延し、所望板厚(肉厚)の鋼板とする。
【0054】
ここで、鋼素材を再加熱して熱間圧延を行う場合、鋼素材の再加熱温度が900℃未満では、加熱温度が低すぎて、変形抵抗が高くなり、熱間圧延機への負荷が増大し、熱間圧延が困難になる、おそれがある。一方、1250℃を超える高温になると、酸化が著しくなり、酸化ロスが増大し歩留りが低下する、おそれがある。このようなことから、再加熱温度は900℃以上1250℃以下にすることが好ましい。なお、より好ましくは950℃以上1150℃以下である。また、圧延終了温度は、熱間圧延機への負荷の観点から、800℃以上950℃以下とすることが好ましい。
【0055】
次に、熱間圧延後の鋼板は、Ar3変態点以上から直接焼入れ処理する。これはオーステナイト状態からの焼入れによってマルテンサイト組織を得るためである。この焼入れ処理によって、鋼板の表面から1mmの深さにおけるマルテンサイトの体積率が95%以上、かつ25℃におけるブリネル硬さを360~490HBW10/3000および400℃におけるビッカース硬さを288以上とする。かように、Ar3変態点未満からの焼入れでは十分に焼きが入らず、硬さが低下し、耐摩耗性が高いミクロ組織は得られない。
【0056】
Ar3変態点は例えば、
Ar3(℃)=910-273×C-74×Mn-57×Ni-16×Cr-9×Mo-5×Cu(各元素は含有量(質量%))で求めることが可能である。
【0057】
また、熱間圧延の終了後直ちに焼入れることに代えて、熱間圧延終了後放冷したのち、Ac3変態点以上の温度に再加熱し焼入れ処理を行ってもよい。これは、オーステナイト状態からの焼入れによってマルテンサイト組織を得るためである。Ac3変態点未満からの焼入れでは十分に焼きが入らず、硬度が低下し、耐摩耗性が高いミクロ組織は得られない。
【0058】
Ac3変態点は例えば、
Ac3(℃)=912.0-230.5×C+31.6×Si-20.4×Mn-39.8×Cu-18.1×Ni-14.8×Cr+16.8×Mo(各元素は含有量(質量%以下))で求めることが可能である。
【0059】
ここで、直接焼入れ処理時および再加熱焼入れ処理における冷却速度は、マルテンサイト相が形成される冷却速度とする必要があり、具体的には5℃/s以上とする。なお、冷却速度の上限は特に規制する必要はないが、200℃/sを超えると、一般的な設備では鋼板の長手方向あるいは幅方向での組織のバラツキが著しく大きくなるため、冷却速度は200℃/s以下とすることが好ましい。
さらに、冷却の停止温度は、Mf点以下、好ましくは150℃以下とする。なぜなら、停止温度がMf点を超えると、十分な体積率のマルテンサイト組織が得られず、25℃における硬度および400℃での硬度が低下し、高温下での耐摩耗性が低下するためである。
【0060】
Mf点はたとえば、
Mf(℃)=410.5-407.3×C-7.3×Si-37.8×Mn-20.5×Cu-19.5×Ni-19.8×Cr-4.5×Mo(各元素は含有量(質量%))で求めることが可能である。
【実施例0061】
表1に示す成分組成の溶鋼を溶製し、鋼素材(スラブ)とした。これら鋼素材(スラブ)に、表2に示す条件の加熱温度および圧延終了温度での熱間圧延を施し、表2に示す板厚の熱延板とした。一部の熱延板には、熱間圧延終了後、直ちに焼入れる直接焼入れ処理を施した。また、残りの熱延板には、熱間圧延後放冷し、再加熱したのち焼入れる再加熱焼入れ処理を施した。
【0062】
得られた鋼板の表面から1mmの深さ(表層部)において、マルテンサイトの体積率および表層部硬さ(25℃におけるブリネル硬さ並びに400℃におけるビッカース硬さ)を測定するとともに、各鋼板の高温下での耐摩耗性について評価を行った。各々の試験方法は次の通りである。
【0063】
[マルテンサイトの体積率]
鋼板の耐摩耗性は、主に鋼板の表層部の硬度によって決まる。そのため、表面から1mmの深さの位置が観察面となるよう、得られた各鋼板からサンプルを採取した。前記サンプルの表面を鏡面研磨し、さらにナイタール腐食した後、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて10mm×10mmの範囲を撮影した。画像解析装置を用いて、撮影された像を解析することによってマルテンサイトの面積分率を求めた。
【0064】
[表層部硬さ]
まず、得られた鋼板から、硬さ測定用試験片を採取し、JIS Z 2243(1998)の規定に準拠して、鋼板の表面から板厚方向に1mm位置のブリネル硬さを25℃において測定した。すなわち、鋼板の表面のスケールおよび脱炭層の影響を除くため、鋼板の表面から1mmを研削除去し、鋼板表面から1mmの面における表面のブリネル硬さを25℃において測定した。なお、測定に際しては、直径10mmのタングステン硬球を使用し、荷重は3000kgfとした。
【0065】
また、400℃におけるビッカース硬さは、ビッカース硬度計(加熱装置付き)を用いて、400℃に試験片(鋼板)の温度を保持し、JIS Z 2252「高温ビッカース硬さ測定方法」の規定に準拠して、荷重:1kgf(試験力:9.8N)で、鋼板表面から1mmの深さの位置で測定した。すなわち、鋼板の表面から1mmを研削除去し、鋼板表面から1mmの面における表面のビッカース硬さを400℃において測定した。
【0066】
[高温下での耐摩耗性]
得られた鋼板の表面から板厚方向に1mmの位置が試験片表面(摩耗試験面)となるように、円柱状の試験片(径8mm×長さ20mm)を採取し、高温下での摩耗試験を実施した。摩耗試験は、
図1に模式的に示した摩耗試験装置を用いた。
すなわち、摩耗試験装置を設置した雰囲気炉の温度を400℃に保った状態で、試験機内のロータに接続したディスク状の摩耗材(主成分:アルミナ)の上に上記の試験片を設置し、試験片の上部に接続した錘によって98Nの荷重を負荷しながら、摩耗材をロータ回転速度:60m/minで300回転させ、試験を行なった。
【0067】
以上の試験終了後に、試験片を取り出し、試験片の質量を測定した。試験前後の試験片の質量差から摩耗量を算出した。各鋼板の高温下での摩耗特性は、鋼板No.31の比較材(鋼種U:軟鋼板)の摩耗量を基準(=1.0)として、耐摩耗比=(軟鋼板の摩耗量)/(各鋼板の摩耗量)で評価した。なお、高温下での耐摩耗比が1.8以上である場合を「高温下での耐摩耗性に優れる」と判定した。
得られた結果を表2に併記する。
【0068】
[シャルピー衝撃試験]
得られた鋼板の板厚の1/4の位置で、圧延方向に垂直な方向(C方向)からVノッチ試験片を採取し、JIS Z 2242(1998)の規定に準拠して、シャルピー衝撃試験を実施した。試験温度は-40℃での吸収エネルギーvE-40(J)を求めた。なお、試験片本数は各3本とし、その算術平均を当該鋼板の吸収エネルギーvE-40とした。vE-40が27J以上である鋼板を「母材の靱性に優れる鋼板」と判定した。
【0069】
【0070】
【0071】
表1および2から分かるように、発明例はいずれも、表面から1mmの深さの25℃における硬度がブリネル硬さで360~490HBW10/3000であり、高温下での耐摩耗比が1.8以上であり、-40℃での吸収エネルギーが27J以上であり、高温下での耐摩耗性と低温での靭性に優れる耐摩耗鋼板が得られている。一方、比較例に相当する鋼板No.4、5、6、10、11、12は、表層部硬さあるいはマルテンサイト組織分率が発明例と異なっており、高温下での耐摩耗性が発明例と比較して劣っている。また、比較例に相当する鋼板No.24では、炭素量が低くマルテンサイト組織分率が発明例と異なっており、高温下での耐摩耗性が発明例と比較して劣っている。鋼板No.25では、炭素量が高く、表層部の硬さが発明例と異なっており、高温下での耐摩耗性や低温での靭性が発明例と比較して劣っている。
【0072】
鋼板No.26、27、28、29、31および32では、種々の元素の添加量が発明例よりも多く、低温での靭性が発明例と比較して劣っている。鋼板No.30では、Crの添加量が発明例よりも少なく、高温での耐摩耗性は発明例と比較して劣っている。0.45Cr+Mo<1.0となっている鋼板No.33では、高温下での耐摩耗性は発明例と比較して劣っている。さらに、2.25<0.45Cr+Moとなっている鋼板No.34では、低温での靭性が発明例と比較して劣っている。